2022年6月13日 19:10
芥川賞作家・上田岳弘「寂しさはもう役割を終えたと感じています」新作のテーマは“穴”
芥川賞受賞作『ニムロッド』などで、塔というモチーフを描いてきた上田岳弘さん。その集大成的大作が『キュー』であり、そして新作『引力の欠落』は、彼が新しいフェーズに入ったといえる一作だ。
空虚に生きる女性が体験する、奇妙な一夜と人類の真実とは。
「次は何をテーマに書くか考えた時、“穴”というものが浮かびました」
主人公は財務責任者としていくつもの企業の上場に携わり、一生困らない大金を稼いだ女性・行先馨(ゆきさきかおる)。しかし彼女は虚無感を抱えている。
「今は何をして人生の成功とするか分かりにくい。それはこの時代の資本主義の行き詰まりに似ている。そうした状況を活写しつつ自分が最後に何を書くのか興味がありました」
ある夜、馨は謎めいた弁護士マミヤに、高級ペントハウスに招待される。
そこにいたのは始皇帝と名乗る男や、水からガソリンを精製した本多維富(これとみ)と名乗る男など奇妙な人々。彼らは世界を支える9つの柱がそれぞれ肉体を持った存在だという。一体どういうことなのか。
「僕の小説はデビュー作の『太陽』の頃から、真面目にとらえれば壮大なSFになるし、そうでなければ単なるホラ話になるんですよね(笑)。