2022年7月4日 21:30
既視感がありすぎて恐ろしい!? 『生皮』が描き出す、性暴力のリアル
柴田咲歩は、かつて通っていた小説講座の人気講師・月島光一から性暴力を受けた。7年経ってその被害を週刊誌に告発。記事をきっかけに、当時者はもちろん、その配偶者や家族、仕事関係者、元/現講座生などが、事件をめぐり、さまざまな感情や価値観を吐露していく。さらに、世間の反応なども噴出して…。
井上荒野さんが『生皮』で描き出すのは、性暴力をめぐるリアルだ。
あるセクハラ告発が立てたさざなみ。心を、関係を、社会を動かしていく。
「着想を得たのは数年前、著名な国際ジャーナリストが性暴力で告発されたときですね。
人権問題のプロフェッショナルとして知られていたのに、長年にわたって、女性たちの人権を踏みにじる行為を続けていた。その極端さに、『この人はどんなふうに自分で整合性をとっていたのか』と不思議でした。本作でも、月島が見せる小説愛や教え子を育てる熱意に嘘はないと思います。ただ意図的にか無意識的にか、そこに性欲や支配欲みたいなものを混同させてしまい、自分自身でもわからなくなっていくんですよね」
セクハラ被害に遭うのは咲歩だけではない。本当はイヤだったと後から気づく者、大したことではないと思い込む者、自分もかつて被害者だったのに、性接待のような状況を進んで作り出してしまう者…。