幸せのきっかけはここにもvol.1 アフリカンドラムのリズムにも『扉をたたく人』
亡き妻がクラシックのピアニストだったこともあり、音楽が好きだった主人公は、アフリカのリズムに興味を持ちます。ここで少し心の強張りを緩めたことで、原始的で生命力に溢れたリズムが、次第に主人公の心に染み入ってくるのです。太鼓はかつて、コミュニケーションの手段として使われていたもの。確かに、トントントンと繰り返される音は、まるで扉をたたく音のよう。ジャンベの響きが、孤独な男の心の扉を叩いたということなのでしょう。
ジャンベを通した交流を機に、主人公は人と関わることを徐々に恐れなくなり、やがて、笑い、焦り、怒り、悲しみなどが見え始めます。これらの感情こそ、人を人たらしめているもの。物語はその後、9.11後のアメリカが持つ理不尽な側面を象徴するかのような、決して喜びばかりではない展開へと進んでいくのですが、それでも鑑賞後はどこか優しい気持ちになります。
一人の“閉じた”男性が、幸せになるための足がかりを見つけて、“開いていく”様を目撃したことで心が温かくなるのでしょうか。英語の原題は『visitor』。始めはちょっとSFっぽいなと思いましたが(笑=確か、以前こんなタイトルの宇宙人地球侵略ドラマがあった)