いけちゃんと恋愛小説家 vol.3 角田光代 幸福な繭に包まれた子ども時代が蘇る
もう父も母も、おばも亡くなり、私の子ども時代を知る人はいないのですが、『いけちゃん』を(原作でも映画でも)読んだり観たりすると、その幸福に触れられるように思うんです」。
そして、この物語から思い起こされる、自らの少女時代のこんなエピソードを明かしてくれた。
「私は家からバスと徒歩で一時間かかる小学校に通っていたのですが、入学して数か月は、仕事を休めない母親に頼まれて、無事に学校にいけるか、また帰ってこられるか、変装しておばがあとをつけていたそうです(変装していたのは私が見つけるとおばにたよるようになってしまうため、だそうです)。私はそのことを三十歳近くなるまでずーっと知らなかったんです」。
映画を、角田さんは“いけちゃん”の視点で追っていったという。
「私には子どもはいませんが、子どもがおっきくなっていってしまうときの親の孤独というものがわかった気がしました。あとは、やっぱり好きな男の人が子どものころに抱えていたはずの、孤独や根拠のないかなしみを思って、『だいじょうぶ』と言いにいきたくなる気持ちとか、至極よくわかりました」。
また原作には描かれない、子どもの成長をそっと見守る“母”の姿も心に残ったようだ。