美しき男たちvol.2 『シングルマン』から見えてくる“時代”
ひとり嗚咽するジョージ。この作品で唯一、ジョージが感情を激しく露わにするこのシーンには、愛する者のそばに居られない深い悲しみと共に、虐げられる者たちの深い苦悩が切なく表現されているのです。いま以上に差別が激しかった60年代の時代背景も、ここで手に取るように見えてくるというわけです。
そんなジョージとは違い、そんな苦悩を激しい怒りとしてアウトプットしている人物を描いているのが、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。1960年代後半から始まるこの作品は、同性愛者ではなく、性転換手術を受けた元少年ヘドウィグの半生を描いています。手術後も股間に残ってしまった手術痕“アングリーインチ(怒りの1インチ)”のせいもあり、求めていた愛を失ったり、裏切られたり。それでも、どこかにいるはずの自分の片割れを探し求めるのです。彼が手術痕を“アングリーインチ”と呼ぶのは、手術の失敗に対する怒りだけではないはず。
心は女性なのに性別は男として生まれてきてしまった悲しさ、それによって差別されることの無念さもあるのでしょう。マイノリティゆえの悲しみを静かに飲み込む『シングルマン』のジョージと、様々な怒りを歌へのエネルギーに変えていくヘドウィグとは、同じ60年代といえども全く違うメンタリティを感じます。