2014年11月21日 12:55
女の節目~人生の選択 (6) vol.6「初めての、犯罪」【11歳】
今なら「完全犯罪」が可能なのだと気づいて、つい実践してみたくなったのだ。
下着の中に隠そうと、試しにパンツのゴムに挟んでみると、プラスチックの肌触りはひんやり冷たく、立ち上がって歩く前につるつると動いた。こんな不安定なものを身につけて、親の迎えが来るまで素知らぬ顔で過ごすのは難しそうだ。諦めかけたところへ友達が戻ってきた。もう服の下からオモチャを取り出せない。口から心臓が飛び出しそうになった。それから、おそろしく不自然な体勢でトイレに立ち、鍵のかかった個室でオモチャをスカートのポケットへしまいなおし、どうにか元あった場所へ戻すまでの数十分間、生きた心地がしなかった。
あれは9歳か10歳の頃だろうか。
一度でいいから自分も「盗み」をしてみたかったのだ。怪人二十面相にアルセーヌ・ルパン、あるいは『キャッツ・アイ』に『怪盗ルビイ』。スリル満点の大仕事をやり遂げる大泥棒は、いつだって子供のヒーローである。衆人環視の前でボールを消し去ったり、ハンカチを抜き取って花束に変えてみせたりするマジシャンにも憧れた。他者を出し抜くあざやかな手口。私だけが知る秘密のカラクリ。そんなものが欲しかった。水色のオモチャを掌中にすることで、手に入る気がしていた。