2016年1月16日 07:00
「若手にはあえて指示をしない」 - 映画監督・行定勲さんの仕事術
たとえば建築家だったら100点じゃないとだめでしょう。でも、映画ではちょっと建て付けの悪い戸の方が味になったりするんです。完璧に冷暖房が効いた部屋だと、のんびりのほほんとぽかぽか幸せ、という感じになるでしょう。それよりも、建て付けが悪くてガタガタ震えるような部屋の中で、カップルが毛布にくるまっている方が面白い。演技におけるTAKEというのもそれと同じで、見やすいカットなだけではなく、ハプニングですごくカメラが揺れたけど、逆に面白い、新しいカットが生まれたね、ということもあるわけです。それは人によっては50点かもしれないけど、ものすごく興味深いリアリティが生まれたなら、成功と言えるでしょう。
『ピンクとグレー』では、菅田が台所で中島と夏帆に背を向けて「俺寝るわ」と言うシーンがあるんですよ。たぶん、どうしてもくしゃみがしたかったんでしょうね。
背中を向けた瞬間にクシュってやって、「寝るわ」って言ったんです(笑)。OKがかかった瞬間に大笑いになって、でも結局そのテイクを映画に使いました。他のテイクを使うことも、くしゃみの音を消すこともできたんですが、この完璧じゃない建て付けの悪さが味になって、映画に影響を及ぼすと思ったんですね。