2012年5月13日 08:46
読む鉄道、観る鉄道 (8) 『東京駅物語』 - 明治、大正、昭和…、小説に息づく東京駅と人々の生活感
読み進めながら、この人物は別の話の誰かだな、などと縁を追っていく楽しさもある。
立花の下宿の主人である左官職人が塗った東京駅待合室の壁を、別の話で同業者が見物に来るなど、緻密で遊び心のあるしかけも楽しい。
このように、ある場所に居合わせた登場人物それぞれにスポットを当てるスタイルを「グランドホテル形式」という。
1932年のアメリカ映画『グランドホテル』がその名の由来だ。
近年の日本映画では、『THE 有頂天ホテル』『ハッピーフライト』がグランドホテル形式の作品。
小説では北方謙三氏の『ブラディ・ドール』も該当するだろう。
『東京駅物語』のおもしろさは、グランドホテル形式に時間の経過を加えたところ。
各話の主人公の後日談が、以降の話で描かれる。
出会い、別れ、恋愛、友情、裏切り、憧れ、親子の情愛などが東京駅で繰り返される。
別々の人生を歩んでいるようで、じつはつながっている。
登場人物たちはお互いに気づかないまま、物語は終わる。すべてを知るのは読者と、丸の内駅舎のドームだけ。
いまも、そしてこれからも、東京駅を訪れる誰もがそれぞれのドラマを持っている。
他人だと思ったら、じつは縁があるかもしれない。