「まだ産める状態」である私たちの葛藤。モヤモヤの先にあるいくつかの人生とは『私、産まなくていいですか』書評
『私、産まなくていいですか(甘糖りりこ著・講談社文庫)』を手に取った時、完全に産まないことを選択している人の話なのだろうと思った。悟りを開いて道を決めている人の意見を聞くと変わることもあるかと思い読み始めたが、そこには予想とは全く違う方向の共感の海が広がっていた。
第一話・独身夫婦では、絵に描いたようにおしゃれな独身夫婦の生活が描かれる。子どもを産まないことを決めていた二人だけど、ある時ふと夫が「子どもがいる人生」に後ろ髪を引かれるようになり、二人の暮らしは一変してしまう。
まず、このストーリーには私たちがモヤモヤする理由が詰まっていた。そう、今は欲しくないと思っても、今後欲しくなるかもしれない。子持ちの友人からは「子どもを産めば変わるよ」と言われ、そう聞くとたしかに、先のことなど誰にも分からないので、その可能性はあるよなとも思える。
だからこそ難しいのだ。
いつ欲しくなるかは分からないけれど、身体にはタイムリミットがある。なんて不便な話なんだとも思うが、こればかりは仕方がない。
■「産む、産まない」は女性だけのテーマではない
第一話に描かれていたのは、このジレンマにモヤモヤするのは女性だけとは限らないこと。