「自分のために家具を作ってもらうことは自分の物語を描くこと。それには自分はどう生きるのかを決める力が必要でした」。
エッセイストの寿木けいさんはテーブルやキッチン、照明を家具職人やアーティストの方に一から依頼して作ってもらった。大変だけど、豊かで、おもしろくて、楽しい。その制作と思考の過程を聞きました。寿木さん書き下ろしのエッセイも。
special essay 「職人が作る美しさとともに生活する」文・寿木けい

古い家を買ってすぐに、寿木さんが描きはじめたスケッチ。
山梨の里山に、古い家を買いました。釘を一本も使わず、総栗材で仕上げられた、百三十年以上の歴史がある家です。
農業と養蚕を営む一家が暮らしたそうですが、ここ数年は誰も住んでおらず、私が手に入れたときには、老朽化が進んでいました。
古民家にもリノベーションにも興味がなかった私が、では、なぜこの家を買ったかといと、建物がもつ力に背中を押されてのことでした。長い年月を経て、黒く光る大黒柱や梁に、興奮と安心の両方を感じました。
昨年末にリノベーション工事がはじまり、この特集が発売になる頃には、仮住まいからの引越し準備で忙しくしているはずです。