本誌巻頭エッセイ、寿木けいさんの「ひんぴんさんになりたくて」。ひんぴんさんとは、「文質彬彬(ぶんしつひんぴん)」=教養や美しさなどの外側と、飾らない本質が見事に調和した、その人のありのままを指す、という言葉から、寿木さんが生み出した人物像。日々の生活の中で、彼女が出逢った、ひんぴんさんたちの物語。
ペンネームで文章を書くようになって七年になる。会社員時代に本を出して(広まりつつあった副業に、少しだけ早く乗り出した)、退職してからも、筆名と本名を使い分けて仕事をしてきた。
本名のほうでは、ある企業で三年前に化粧品ブランドを立ち上げた。商品開発からコピーライティング、SNSの中の人まで、チームの一員として働いている。
先月、私たちのブランドが都内で期間限定のポップアップを開くことになり、私も店頭に立った。
売る側に立つと、景色が一変する。
無数にある化粧品の中から、存在に気がついて足を止めてもらえることが、まず、ありがたい。さらに、商品を手に取って肌にのせてもらえるだけでも奇跡のような確率なのに、それを気に入って買ってくださる人がいる。うれしいなんてもんじゃない。感動する。
だからこそ、納得して買ってもらいたいと思う。