くらし情報『《MADE IN JAPANー伝統工芸》進化する “曲げわっぱ” 誕生は「お母さんの声から」』

《MADE IN JAPANー伝統工芸》進化する “曲げわっぱ” 誕生は「お母さんの声から」

2018年3月10日 11:00
 

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《MADE IN JAPANー伝統工芸》進化する “曲げわっぱ” 誕生は「お母さんの声から」
居酒屋で飲んでいるときに着想を得たおしゃれ皿(2枚入り4320円)と、ぐい呑(2160円)
一般的に曲げわっぱと聞いて思い浮かべるのは、おひつや弁当箱のような円形や小判型。しかし、秋田県大館市の一角に佇む『栗久』6代目を継承する栗盛俊二さんは、世界で初めて、円錐形の曲げわっぱ製作に成功した名工だ。

円錐形は逆三角形と言い換えたほうがわかりやすいかもしれないが、コーヒードリッパーのように、上部から底に向けてすぼんでいく形。類似品がほとんど存在しないことからも、その技術の価値がうかがい知れるだろう。

■“現代の名工”は陽気な発明家!?

……と、この前置きだけでは、いかにも気難しい寡黙な職人を想像してしまいそうになるが、商品片手に説明を始める栗盛さんは、底抜けに明るく人生と仕事を楽しむアイデアマンだ。

「例えば端をくるっと曲げたこのおしゃれ小皿。常々、商品を作ったあとにできる端材がもったいないなと思ってたのよ。そんなとき、居酒屋で飲みながら、割り箸の袋で箸置きを作ってたら“これ使える!”ってひらめいちゃった。

おまけに、“はみ出た皿の部分をカットすればぐい呑みになるじゃん!”ってね。栗さん(栗盛さんの自称、以下同)は呑んべぇなんです。酒税いっぱい払ってるから、どっかで返してもらわないと(笑)」

また、一般的に伝統工芸=手作業のイメージだが、栗久では昔ながらの製法は守りつつ、その工程すべてに便利な道具や機械が導入されているのも特徴だ。

「伝統工芸っていうのは昔から受け継がれてきた“作り方の技術”であって、栗さんには機械を使っちゃダメって考えはないの。手でやっていたことを機械に置き換えてるだけ。

うちも社員がいるんだけど、完全手作業だとどうしてもAさんとBさんで仕上がりが違ってくるんだよね。だけど精密な工程を機械に委ねたり、わっぱのひな型を作ったりすれば、品質の高いモノが正確にできあがるわけ。要は、お客さんにとってどっちが大切かってことよ。同じお金を払って商品を買ってもらうんだから、そこに出来不出来があっちゃいけねぇよな」

ひと口に道具、機械といっても当然、曲げわっぱ専用のものは存在しない。既存の機械やパーツを組み合わせたり、ほかのことに使われている素材を応用したりと、それらはすべて、栗盛さんの創意工夫によって作り上げられている。例えば現在、栗久の多くの商品で使われているひな型は、入院中の友人を見舞いに行ったときに思いついたという。

「クリスマスのダンスパーティーに出ようと練習してたら、転んで足が折れちゃったの。病室でギプスをはめてる友人に、“石膏だし、重くて大変だろう”って声をかけたら、“栗さん、これメッシュだしすごく軽いよ”って言うんですよ。なに?固くて、軽くて、自在に変形するなら、これはひな型の素材にぴったりじゃないかと、“早く元気になれよ”って、とっとと病室を出て、そのまま医者のところにギプス分けてもらいに行ったの。これがホントの『怪我の功名』ってな(笑)」

いまでこそ、こうして道具や機械の発明そのものを楽しみのひとつとしている栗盛さんだが、もともとは、やむにやまれぬ事情があった。

「俺が20歳のときに、腕のいい樺(かば)細工職人として尊敬していた親父が脳出血で倒れて、右半身不随の言語障害になっちゃってさ。高校を出て1年で栗久の6代目を継いだ。恥ずかしい話なんだけど、借金もないかわりに預金もほぼゼロでさ。なんとか生産性を上げていかなきゃならない、でも設備に投資する余裕はない。金がないなら、頭をひねるしかなかったのよ」

自分の発想ひとつで歩んできたという自信の表れだろう。驚くことに栗久には“企業秘密”がない。

道具や機械を含めて工場のどこを撮影しても、何を記事にしてもいいという。

「だって、新しい作戦や次の面白いことがいっぱい詰まった栗さんの頭の中だけは、誰にも覗けないでしょ?」

■お母さんたちが欲しいモノを作る

現代の名工に選出される職人であり、栗久を束ねる社長でありながら、栗盛さんは月の半分ほどを使って全国を飛び回り、店先でお客さんに商品を販売している。

「商売っていうのは、お客さんの前に立って声を聞かないと絶対に成長しない。だから俺も、新しいモノを作ったら、まずうちのおっかさん(奥さん)に見せるのよ。女性って感覚でモノを判断できるじゃない。なんぼ自分がよくできたと思っていても、“これ女には使えない”って一刀両断。いやいや、こっちは玄人なんだからって反論しても“玄人だろうがなんだろうが、使えないものは使えない”って。強烈よ~(笑)」

実際、栗盛さんが円錐形の曲げわっぱを生み出した背景には、何気なく出た奥さんのひと言があった。
「うちにお客さんを招いてご飯を食べていたら、“曲げわっぱは使ってないんですか?”って聞かれたの。そしたら、おっかさんが“あんなもの使えないわよ。重ねられないから場所とるし”って。栗さん真っ青よ(笑)。こりゃ片づけるときに重ねられるものを作らなきゃって思って、円錐形につながっていくわけ」

栗久が誇る看板商品のひとつに「おひつ」がある。分厚い秋田杉が余分な湿気を吸収してくれるため、これに移しておけば真夏で2日、冬場なら3日間ご飯が傷まないそう。最大の特徴は内側の底に角がなく、なめらかになっているという点だ。

「昔は角があったんですよ。だけど購入したお客さんから、その部分にご飯が詰まってカビが生えてきたって言われて、こりゃいかんとアレコレ考えて改良したんです」

また、現在では洗ったあとの手入れに関して、「3合なら50秒、5合なら1分、電子レンジにかけて乾かすだけ」と説明しているが、実はこれも、お客さんのひとりから教えてもらった方法だった。

「こっちはおひつのつもりでしか作ってないのに、“夏に氷水とそうめん入れたら具合がよかったよ”とか、四国のお客さんだったら“釜揚げうどんにぴったりだった”とか、やんなっちゃうよね。つくづく思うよ。いちばんのアイデアマンは、実際に使っているお母さんたちだって」

今年で70歳になる栗盛さんが、次に目論んでいるのはなんと海外進出。「ニューヨーク向けの曲げわっぱを作ってやろうと思ってな」と、心底ワクワクした顔で語る。

「昔は外部に委託して海外の展示会に出展してたんだけど、あまりにフィードバックがお粗末で、お客さんの顔が全然見えてこない。だから英語なんてできやしないけど、ここ数年は自費でニューヨークに行って展示会を開いてるの。そしたらいろいろ見えてきたよ。例えばコーヒーなら、こっちのLサイズが向こうのS。そんなところに日本サイズのカップ持ってっても、そりゃあ欲しがらないわな」

「ユーザー目線のモノ作り」とまとめてしまうことは簡単だ。しかし栗盛さんは「ユーザーの視点に立った“つもり”」で考えるのではなく、常に商売の最前線で「現代を生きるユーザーから“教わる”」という姿勢を貫いている。

それを支えているのは、父から受け取った「ないモノを作れ」という言葉だ。

「伝統工芸っていうのはね、その時代その時代のお母さんたちが“使いやすい”って思って、お財布の口を開いてくれたからこそ、ここまでつながってきたわけ。そうでなければ、伝統工芸とすら呼ばれることなく、とっくに滅んでる。だから栗さんは、いつでもお母さんたちの声に耳を傾けているの。小さな不満や要望を拾い集めて、これまでになかったもっといい商品を作っていく。飾りモノじゃないのよ、伝統工芸は」

<プロフィール>
盛俊二さん◎栗久6代目。伝統工芸士、現代の名工にそれぞれ認定。曲げわっぱの概念を覆す商品を次々と発表し、うち18点がグッドデザイン賞、9点がロングライフデザイン賞を受賞

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