くらし情報『63歳で芥川賞受賞の若竹千佐子さん「年をとるのって、思っている以上にらくですよ」』

63歳で芥川賞受賞の若竹千佐子さん「年をとるのって、思っている以上にらくですよ」

2018年4月16日 17:00
 

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若竹千佐子さん撮影/齋藤周造
主人公は、夫に先立たれ子どもとは疎遠でひとり暮らしを送る74歳の桃子さん。彼女の内なる声を通し、新たなる老いの境地を描いた話題作が若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』。63歳で第54回文藝賞と第158回芥川賞を受賞した本作は、若竹さんのデビュー作でもある。

■悲しみを客観視する視点によって描いた

「ひとりのおばあさんの経験を通して、その人が考えたり感じたりした“おばあさんの哲学”を書こうと思ったんです。1964年の東京オリンピックのころから何らかのきっかけで人生が動き出すような人を描いてみたい。そう考えていたこともあり、1940年生まれで現在は74歳の桃子さんという女性像が自然とできあがりました」

主人公の桃子さんの生活は自宅でお茶を飲んだり、病院やお墓参りに出かけたりとごくごく普通。にもかかわらず、物語からは濃厚な人間像が伝わってくる。

「例えば、他人に居丈高にふるまっている人が実は小心者だったりとか、人間はいろいろな矛盾を抱えながらできあがっている存在だと思うんです。この物語の桃子さんは、はたからみればお茶を飲んでいるだけなのですが、脳内ではいろいろな桃子さんによって豊かな会話が繰り広げられているんです」

また、桃子さんの内面から湧き上がる東北弁も印象深い。

「私は岩手県の遠野で生まれ育ったので、東北弁はいちばん自分に正直な言葉なんです。心の底にある肉声を伝えるには、標準語よりも東北弁のほうが適していると思いました」

幼いころから小説家になりたかったという若竹さんだが、2009年にご主人が急逝したことをきっかけに、本格的に小説を書きはじめた。

「当初は、悲しいという感情を悲しいままで書いていました。でも、この小説を書くときには、悲しんでいる私を慰める気持ちになったり、かと思うと前のめりになっている自分をくすっと笑ったりする、もうひとりの私がいました。自分を客観視できる視点ができあがったからこそ、この小説を書けたのだと思っています。この作品はすごく楽しく筆を進めることができました」

振り返ってみると、小説に向かうことが自身のリハビリにもなっていたという。

「悲しみのあまり家に閉じこもってばかりいたら、回復するまでにかなり時間がかかっていたと思います。でも、小説を書くことで新たな目標や仲間ができました。思い切って新しい世界に飛び込んで本当によかったです」

若竹さんは、桃子さんに自分の思いや感情を仮託しながらこの作品を書き上げたという。物語の中には桃子さんと“ばっちゃ”との思い出が随所に盛り込まれているが、それらは自身の記憶とつながっている。

「桃子さんのばっちゃと同じく、私の祖母もお裁縫が得意でした。目が見えにくくなった祖母に『安寿と厨子王』といったお話を朗読して聞かせると、“さかしい(賢い)”と褒めてくれまして。そのたびにさかしいような気になっていましたね(笑)」

物語の行間からは桃子さんの幸せな子ども時代がにじみ出ている。では、若竹さんはどんな子ども時代を過ごしたのだろうか。

「私は三人きょうだいの末っ子なんです。姉とは5歳、兄とは7歳と年が離れていることもあり、祖母はもちろん、祖父にも両親にもすごく可愛がられて育ちました。そのおかげで、自己肯定感が強い人間になれたように思います」

部屋の中でストリップもどきの行動をしたり、かと思うと脳内でノリツッコミのような展開が繰り広げられたり。本書を読み進めるほどに桃子さんから目が離せなくなる。

「子どものころから、自分がわかったことを面白おかしく書きたいという気持ちがありました。世間では、悲しみのほうが上で笑いは下等とされていますよね。

でも、自分を笑いのめすってすごく難しいことだと思うんです。自分を客観的に見ているからこそ、自分の中の面白さとか憐(あわ)れさを表現して笑いをとれる。笑いというのは意外と深い感情なんですよね。自分の殻を脱ぎ捨てることで、初めて笑いが生まれるんです」

■自分の殻を破るともっとらくになれる

若竹さん自身、自分の殻を破ることでらくになったという。

「“こういう自分でありたい”という思考から解放されると、気負いがなくなるんです。特に女性は、男の子よりもきちんとしていないとダメだとか、娘時代から縛りがきついですよね。でも、年齢を重ねるうちに、“このままでいいじゃん”って、自分のありのままを認められるようになれたような気がします。年をとるのって、思っている以上にらくですよ(笑)」

いま日本は超高齢社会の到来や年金問題といった現実に直面しているものの、本書からは未来への希望が感じられる。
「年をとるとあまりいいことがないと考えるような風潮がありますが、でも、自分の未来を悲観しなくてもいいような気がするんです。自分を制限することなく、もっと自由に思いどおりに生きていけばいい。この小説ではそのことをいちばん、伝えたかったのかもしれないですね」

■ライターは見た! 著者の素顔

自身のことを「のんびりした楽天家で、桃子さんよりはお友達がいっぱいいます(笑)」と自己分析する若竹さん。自宅から車で10分ほどのところにある山に登ることが日ごろの楽しみのひとつなのだそう。「その山を一周すると、ふもとの案内所でスタンプを1個、押してもらえるんです。毎年、100個以上、スタンプをもらっていたのですが、今年はまだ3回しか登ってなくて……。生活が落ち着いたら、またコツコツと登ってスタンプを集めたいです」

<プロフィール>
わかたけ・ちさこ◎1954年、岩手県遠野市生まれ。岩手大学教育学部卒業後、臨時採用教員を経て結婚、上京。55歳から小説講座に通いはじめ、8年の時を経て本作を執筆。2017年、第54回文藝賞を史上最年長となる63歳で受賞。2018年、第158回芥川賞受賞。

(取材・文/熊谷あづさ

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