2020年11月8日 13:00
「死んでほしい」とまで願った、薬物依存症の母の涙が導いた“刑務所の医師”という道

総合内科専門医、法務省矯正局医師おおたわ史絵さん撮影/齋藤周造
身体中、注射痕だらけの母親と何十年も必死で向き合ってきた。だが、限界を迎えたとき「死んでほしい」と願う自分がいた。それでも、母親が孤独死した後、自身のクリニックを閉めてまで選んだのは、刑務所で「依存症」と向き合う仕事。母親が1度だけ流した涙の意味を悟った今なら、「救える」と信じて──。
■怖いと思ったことは1度もない
情報番組のコメンテーターとしてもおなじみの、内科医・おおたわ史絵さん(56)には、週に2~3日、朝早くから向かう場所がある。
「以前は電車を使っていたけど、今はコロナの影響で、感染予防のために自分の車で通勤してます。刑務所は集団行動が基本なので、クラスターを出さないように」
おおたわさんが勤務するのは、東京近郊の刑務所と少年院。2018年6月から、非常勤医師として、刑務所などの矯正施設で受刑者の診察・健康管理を行う矯正医療に従事している。
「入ります!」
午前9時、刑務所内の診察室の入り口。男性受刑者が直立不動で宣言し、おおたわさんの前に座る。
壁には『交談禁止』の文字が貼られ、受刑者の足元には、ここから出ないよう、黄色の線が引かれている。
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