ところが─。『どん底』で話を切り出した2人は、どんどんと目を輝かせ始める。「これだけ生きたんだからいいじゃない。怖くないわよ」なんて和子っぺが言ったかと思えば、「私はマジョルカ島に行きたいわぁ」と、今日子ちゃんはまるでウシガエルみたいなトーンで、青写真を描き始める。「マジョルカ島のインク壺が欲しいの」と。なんでも父親である岸田國士先生の愛用品だったそう。
テレビ東京でまさかの番組化
「冗談じゃないわよ」。そう頑なに拒んでいた私だったけれど、最終的に「1年後に行きましょう」と手打ちをすることで、2人に納得してもらった。腹の中では、「どうせ1年後なんてうやむやになって忘れているはず」なんて高をくくっていたわけだけど、立ち消えになるといった雰囲気は一切なく、私はズルズルと旅行へと引きずり込まれ、2人はワクワクと計画を練り始める。約束から1年後。私は、あれだけ拒んでいた機上の人になっていた。
だけど、行ってみると、これが楽しいのなんのって。気がつくと私たちは、スペインの風に吹かれながら「また行こう」と、次の旅先をあれこれと妄想し始めていた。恐怖に打ち勝つために、楽しさってあるんだろうな。
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