2021年7月5日 11:00
かつて結核の治療に携わり今はコロナと闘う 島で唯一の94歳医師
卒業後は大学の医局に勤務し、翌年、医師免許を取得して、当時、日本人の死因第1位だった結核の治療に携わった。
妻・圭子さん(92)と出会ったのは、医大を卒業した年だ。お見合いだった。出会った2人はお互いに一目ぼれだったようだ。
「お見合いのあと、よく手紙をくれたんです。うれしかったですよ。主人、格好よかったですから」
圭子さんは少女のような笑みを浮かべた。
1951(昭和26)年12月5日、圭子さんの実家・佐藤家に婿養子に入った先生は、戸馳島に渡った。
佐藤家は明治時代から代々、戸馳村村長を務めてきた家だ。それまで熊本在住だった義父・鶴亀人さんが、戸馳村の村長に選ばれ、戸馳島に戻ることになったのだ。
「並河家は長兄が継ぎましたし、私は末っ子ですからね。それに、お義父さんがすごくよくしてくれたんです。まぁ、そのころの私は無給の医局員でしたから、妻の実家にはずいぶん頼っていました」
戸馳島は、有明海と八代海に挟まれた宇土半島の先端にある三角町の南の海に浮かんでいる。1973(昭和48)年に戸馳大橋が架かるまでは、渡し船で行き来していた。佐藤先生も結婚後、しばらくは渡し船で熊本大の医局に通ったが、26歳のとき、島にある結核専門のサナトリウム「国立戸馳療養所」