2021年8月2日 11:00
ヒマラヤへ通う美容師 リウマチの激痛を乗り越え見えたもの
いまでこそ、明るく振り返る稲葉さんだが、当時は「手首を切り落としてしまいたいぐらい」の痛みだったという。
「どんどん痛みはひどくなって。痛み止めの薬を大量に飲んでました。それでも痛みがマックスのときは効かない。『もういやや、こんな痛いの』って、毎日、泣いてました」
2つの店で4年ほど働いたが、激痛を抱えながらの仕事は無理と判断し辞めた。いずれ歩けなくなるかも知れないという恐怖心も常にあった。「動けるいまのうちに」、その思いが稲葉さんを旅へと突き動かす。ベトナム、タイ、カンボジア、インド、ネパール……、休みのたびに海を渡った。
「旅は学びの場」と話す。なかでも、ベトナムで目にしたシーンに、稲葉さんは胸を衝かれた。24歳だった。
「戦争で手足を失くした人が大勢いて。なかでも、下半身を失った少年がスケボーに上半身だけを乗せ、それでも堂々と大通りを渡っていく姿には言葉も出ないほどの衝撃を受けました。『すごい!それに比べて私には手も足もあるのに、なにしてんのやろ』って。そのときですね、病に正面から向き合う覚悟ができたのは」
■植村さんの足跡を追いかけた末、痛みを忘れた
25歳からは、独立した先輩の厚意で美容室を間借りする“シェアサロン”のスタイルで仕事を再開。