2022年5月22日 06:00
75歳、人生の繁忙期 歌人・永田和宏「天の妻はきっと褒めてくれる」
「否応なくありましたね、河野が『すごいわね』『よかったわね』と言ってくれることが、僕の生きる張り合いになっていた。もうそれを受け止めてくれる人がいないというのは、半分自分がいなくなったんですから……」
だが幸い、永田さんには仕事があった。11年に夫婦の40年の相聞歌と、裕子さんのエッセイを編集した『たとへば君 四十年の恋歌』(文藝春秋)を出版。12年には闘病記『歌に私は泣くだらう ー妻・河野裕子 闘病の十年ー』(新潮社)も。
「河野の生前の言葉と、歌を残す作業でした。日々それに忙殺されたことが救いだった」
このとき手紙とともに遺品から見つけていたのが、10冊以上にもなる裕子さんの日記帳だったのだ。
『いくら夫婦とはいえ、他人の心をのぞき見るようなことはできない』と、永田さんは裕子さんが亡くなってから10年近く日記を読めずにいた。しかし、いまから3年前の19年のこと、意を決して手を伸ばしたのだという。
「先立った河野は、本当に僕が夫でよかったのか?ほかにふさわしい選択はなかったのか?そんな疑問が頭をもたげたんです」
すると日記には、裕子さんの胸の内が赤裸々につづられていた。
当時、裕子さんの心には永田さんとN青年という二人の男性がいたという。