2022年5月22日 06:00
75歳、人生の繁忙期 歌人・永田和宏「天の妻はきっと褒めてくれる」
《あなたが居なくなってしまったら到底ひとりではたっていられそうにもありません》(1月7日 裕子)
いざ日記の封を解いてみれば、まっすぐに愛そうとしていた裕子さんの、けなげな表情ばかりが浮かんできて……。永田さんは、裕子さん亡き後、こんな一首を詠んでいた。
《わたくしは死んではいけないわたくしが死ぬときあなたがほんたうに死ぬ》(『たとへば君』より)
「死者がまだこの世で生きる方法があるのだとすれば、それは生者の記憶のなかにしかない。つまり河野を最も知る者として、僕は長く生きなければならない。それが、彼女を生かしておく唯一の方法だと気づいたんです」
その境地が、日記をめくる作業へとつながったのである。
「そこから河野と対話するように、精読しながら書き進めました」
新著『あの胸が岬のように遠かった 河野裕子との青春』(新潮社)は、裕子さんとの「青春の逸話」の結実だ。
コロナ禍で、自宅に単身住まう時間が増えたことも、結果的に功を奏したといえる。裕子さんが遺した日記、言葉と向き合う時間を存分に持つことができたのだから。
「いまは、なんだか誇らしい気持ちもあります。一切の妥協なく、相手にすべてぶつけて返歌を待つ。