2018年4月21日 11:00
芥川賞作家・若竹千佐子 最愛の夫の死の裏に見出した”自由の喜び”
「夫は図書館に本を返しに行く、と家を出たんです。でも『肝心の、返す本を忘れてしまったよ』と戻ってきて。それで『もう、忘れんぼなんだから』とかなんとか、冗談言って、2人で笑って、改めて送り出しました。それが最後の会話。その直後、あの人は脳梗塞で倒れてしまって……」
和美さんの生前、2人は近所でも評判のおしどり夫婦だった。現在は会社員の若竹さんの長男(35)は、当時をこう振り返る。
「父の死後、母は放心状態でした。葬儀は私が手配し、なんとか乗り切りましたけど、父が死んでからもかなり長いこと取り乱していましたね。
私がいつ実家に帰っても、ずっと泣いてました」(長男)
長男や長女(29)が母を心配するたび、若竹さんは涙をこぼし、こう問いかけた。「ねえ、お父さんは、幸せだったよね?」。そう確かめずにいられなかったのには、理由がある。
「夫が亡くなる直前、小説を本格的に書き始めた私がつねづね思っていたのが……自分のすべての時間を、この小説を完成させるために使いたいということだったんです」