2021年12月5日 12:00
「一」に安蘭、「二」に石丸、「三」に日澤。演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『蜘蛛女のキス』 【ネタバレあり】
撮影:渡部孝弘
「愛」と「死」の物語。それが『蜘蛛女のキス』。日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)が初めてミュージカルを演出した。
登場する役の蜘蛛女は「死」の象徴で、キスをされた者は死に到る。囚人である政治犯バレンティンが求めるのは自由と「愛」。市民のために闘い、恋人マルタとの再会を果たしたい。映画が大好きな同性愛者モリーナは服役して3年目。自由の身となり母の愛に抱かれたい。
1幕の冒頭、立ち姿の2人が舞台に並んだ。下手に蜘蛛女、上手にモリーナ。その全身に照明のピンスポットが当たる。交差する二筋の光。「死」と「愛」が一点で混じる、象徴的で胸を打つシーンだった。
安蘭けいが蜘蛛女と、モリーナの幻想に出てくる女優オーロラを演じた。オーロラはモリーナの夢、そして美の象徴だという。黒いドレスの蜘蛛女、白の燕尾服で歌うオーロラ。
多彩な方法で操る日澤の演出によって安蘭は魅力的。色気というより、キュート。こんな蜘蛛女に唇を重ねられたら男冥利―とさえ惑わされた。
安蘭けい
中央)安蘭けい
差別の中で生きてきたモリーナを石丸幹二は発声を替え、怒り、孤独といった感情を細かく表現する。バレンティンとのベッドシーン、命を懸けた約束を守って頭を撃ち抜かれる最期。