三菱一号館美術館「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」レポート 「不在」というテーマのもと二人の作品世界が響きあう
そしてその人物たちが「不在」となった今も、その存在はロートレックの作品の中に生き続けている。

展示風景

展示風景アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック版画集『イヴェット・ギルベール』1894年表紙黒手袋だけでギルベールを象徴させている。

展示風景アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ディヴァン・ジャポネ》1893年手前の女性はジャヌ・アヴリルだが、奥の舞台上の顔の見えない歌手は、黒手袋からギルベールだとわかる。作品内の「不在」なものに注目することで、かえってよく見えてくるものもあるようだ。例えば、単色刷りの版画集『カフェ・コンセール』は、いわば色彩が不在の作品だが、だからこそロートレックの簡潔な線描がもつ巧みな表現力が際だって見えてくる。一方、体の周りで旋回させた白いヴェールに照明を巧みにあてることで、衣装に映る色を変化させる幻想的な舞台で人気を博したダンサーのロイ・フラーの描写では、人物の表情も形態も失われている。だがこちらは、画家自身が1点1点に絵の具を吹き付ける手彩色の手法をとったことで、色彩の微妙な違いを楽しめる作品となっている。そして、娼館の娼婦たちの何気ない日常を切り取った『彼女たち』は、本来存在すべき客の男性の姿がほぼ不在だが、そこにロートレックと女性たちとの間の親密な関係が感じとれるだろうか。