『落下の解剖学』事故か、自殺か、他殺か? ぐいぐい心の深淵に入り込んでいく傑作ミステリー【おとなの映画ガイド】
あの会場になったアルプスの麓、グルノーブルが舞台だ。
雪に覆われた山荘から男が転落、死亡する。
現場の様子、検視の結果からは、殺人も含め、いくつかの死因が考えられた。第一発見者は、視覚障がいのある11歳の息子。捜査が進むにつれ、さまざまな事実が明るみにでてくる。そして、居合わせた妻に容疑がかかり……。
妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)はベストセラー作家。死亡した夫のサミュエル(サミュエル・タイス)は作家志望なのだが芽が出ず、教師の仕事をしている。
そんな夫婦の隠された真相を、次々とあばいていく法廷シーンがこの映画の最大の見せ場。脚本は、ジュスティーヌ・トリエ監督と、私的にもパートナーのアルチュール・アラリによるオリジナルだ。
サンドラの弁護を引き受けるのは、古くからの友人である弁護士ヴァンサン(スワン・アルロー)。夫に雰囲気が似たロングヘアのやさ男。語り口も柔らかい。対する検事(アントワーヌ・レナルツ)は短髪で、若いが切れ者、サディスティックな感じを漂わせ、有無も言わさぬ口調で追求する。この対照的なふたりによる緊迫の審理は、まるで、陪審員席にいるような気持ちになる迫力である。
そして冷徹な検事が繰り出す証拠のなかで、ふつうの裁判では考えられない重要な物証がとびだす。