一方、脚本賞を受賞した『彼の見つめる先に』はブラジルのダニエル・ヒベイロ監督が10代の高校生の初々しい恋を見事なストーリーテリングで描き出す。「自分が目指すのは世界の人々の心に響く普遍的な作品」と語る彼は過去に発表した短編2作が国際映画祭で100以上の受賞を重ねた才人。今後の動向が注目される。
また、『ラブ・ミー』は今混迷の中にあるウクライナから届いた。トルコの男性とウクライナ人の女性の愛の物語は、トルコとウクライナとロシアという国同士の力関係までが見えるほど深い。オリーナ・ヤーショバプロデューサーは「ソ連邦の崩壊後、ウクライナではほぼ映画製作がストップした。自国を語る映画がないことほど不幸なことはない。厳しい状況は続くが、あきらめずにウクライナでの映画製作を模索していきたい」と語る。
ここに上げた作品の国の映画製作状況は決して恵まれていない。その中にあって監督たちは世界の人々に届く普遍性のある作品へと仕上げている。この彼らの確かなビジョンとクリエイター力を見た審査委員長の新藤次郎氏は、日本の3作品に対して敢えて苦言を呈した。今年の本映画祭が、映画大国以外にも存在する世界の新たな才能に出会う機会になったことは間違いない。
取材・文・写真:水上賢治
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