3人の孫や清一郎の妻・妙子(坂口理恵)らは、いつの間にかサポート側に転じているのが微笑ましい。家族に向けた成井豊(脚本・演出)の温かい目線、さらに宮沢賢治へのリスペクトが作品を普遍的なものにしている。
一方泥臭いぐらい熱いのが役者チーム。頼もしい筋トレを披露する釜石(三浦剛)、元タカラヅカ男役だと言う水沢(前田綾)、ジャッキー・チェーンに憧れる久慈(畑中智行)ら演技スタイルも様々な5人が、エチュードで芝居を作り上げるから支離滅裂でオカシイ。5人は宮沢賢治が生きた時代の若者を演じるうちに絆を深めていく。さらにキーパーソンとなるのが、清吉がつれてきた24歳の看護師・ミハル。彼女は清吉にとっての“ミューズ”なのだが、渡邊安理演じるミハルは現代的で明るくちょっと勝気な女性。だからこそ終盤、彼女が着物で演じ切ったもうひとりのミハルの意外な行動と台詞が心に響く。
舞台は劇場という空間のみ。無造作に置かれた大道具を役者自らの手で動かし、命が吹き込まれる。物語は特に後半、ZABADAKの音楽と共に時空の壁を一気に超えるような爽快感と緊張感で加速していく。学生服を着た90歳の清吉じいさん。頑固な中にあるくもりなき純粋さ、死生観にまでたどり着くような台詞を、西川は強い目力で伝え切った。