くらし情報『三島由紀夫『白蟻の巣』の“寛容”がもたらす静かな地獄』

2017年2月24日 16:45

三島由紀夫『白蟻の巣』の“寛容”がもたらす静かな地獄

刈屋は、妻と若き運転手の過ちを、彼特有の“寛大さ”で許しており、まるで何事もなかったかの様に、妙子と百島、啓子らとテーブルを囲む。妙子はどこか定まらない視点とじっとりとした口調が特徴的で、自らを「もう死んだ女」と語り、生ける屍のようにただ、そこにいる。妙子は夫の赦しを「寛大さの牢獄」と表現するが、谷は「優しさ、許し、寛大さがもたらす息苦しさ、辛さ、呪縛は、個人主義的に現代を生きる我々に響くテーマになる」と語る。

そんなこの家の空気に唯一、まともに刃向かっている存在であり、刈屋をして「あんたは生きているよ」と言われるのが、百島の若き妻・啓子だ。彼女は百島と妙子の間の過去にもがき苦しみ、それを何でもない事の様に笑い話として話す刈屋に激しく詰め寄り、ある“策”を弄する。彼女の激情が、止まっていた時を動かし、少しずつそれぞれの心情、本音が蠢き、“牢獄”を飛び出していくが……。

全編を通して印象的なのは俳優陣の声!刈屋の無関心と同義の諦念、妙子の死人の様な口調、啓子の激情、夫・百島の迷い、いつか再び日本の地を踏む事を叶わぬ“夢”として語る大杉…。それぞれの感情が見事なまでに彼らの声に乗せられて、“美しき不協和音”とも言えるような奇妙な音色を奏でる。

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