林光の《花の図鑑・前奏曲集》(2005)は、花の名前のついた8楽章すべてに、古今の詩人たちのテキストが添えられている。
「中野重治、すずきみちこ、与謝野晶子……。多くは反戦の詩です。左手の作品なのに、高音域(右手側)ばかり、身体をねじって弾かなければならなくて(笑)。難しいですが音楽のメッセージがはっきりしていて興味深いです」
京都出身の平野一郎の《鬼の生活》も委嘱初演。
「すごくアイディアがある面白い作曲家。全国の伝承文学にも詳しい人です。鬼の〝生活〟って変わってますよね。
鬼が大暴れしたり恋をしたり。弾くほうも七転八倒する、でもとても綿密にできている作品です。彼も予定よりずっと早く書いてくれて、鬼シリーズの続編の構想まで出来上がった。次作はシューベルト《ます》の編成の五重奏。来年弾く予定です」
11月で85歳。「若い頃に比べたら長時間はできない」というものの、毎日、ときには4時間も集中したままピアノに向かう。
「一年一年、自分を見つめながら、できることだけを一生懸命。進んでいくと、またその先が見えてくる。
音楽をすることは生きていることの証ですから」
音楽への愛と情熱はいささかも衰えることはない。
(文・宮本明)
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