戦争への怒り、家族への思いがシンプルに湧き上がる上質の会話劇
東京公演より撮影:岡千里
『ジャングル・ブック』の物語はアニメーション映画などでご存じの方も多いはず。この舞台はその原作となる児童小説の作者であり、ノーベル文学賞を受賞したイギリス人作家、ラドヤード・キプリングの一編の詩『My Boy Jack』から創作された家族の物語だ。第一次世界大戦を背景に、国家のためと固い信念のもとに息子を戦地に送り出した父ラドヤード、まだ幼い息子を危険な目にあわせたくない母キャリー、父親の期待を背負って軍人となる息子ジャック、そして弟ジャックの決断に心を痛める姉エルシー。演出の上村聡史は、家族愛のもとに引き出される衝突、怒り、悲しみ、悔恨といった激情を緻密にすくい上げ、深い余韻をもたらす上質の会話劇に仕立て上げた。
「My Boy Jack」チケット情報
父の力によって入隊を果たし、戦線へと送られるジャック。不安に苛まれながら彼の帰還を待つキャリーとエルシー、そしてラドヤードは、突撃命令が下った後のジャックの消息を追い求めていく。何より感銘を受けたのは、劇世界への集中を途切らせない俳優陣の確かな表現力だ。ラドヤード役の眞島秀和は、紳士的でソフトな物腰に作家らしき品性が漂い、自己中心的で横暴な振る舞いにも、時代に操られた虚しさが滲む。