
安楽死を選択した母をみとるために家族が集まった週末の出来事を描いた映画『ブラックバード家族が家族であるうちに』(ロジャー・ミッシェル監督)が6月11日(金)に公開されました。アカデミー女優のスーザン・サランドンとケイト・ウィンスレットの初共演も話題の同作について、作家の鈴木涼美(すずき・すずみ)さんに寄稿いただきました。
曖昧で不気味な母と娘の境界
「もうあなただけの身体じゃないんだから」という映画や漫画に頻出する退屈なクリシェを、結婚もしていない、扶養家族もいない私は残念ながら言われたことがない。だからといって私の身体が首尾一貫して私のものだったかというと、生まれてすぐの頃の私に実質的な自分の所有権などなかったわけだし、思春期に私が私自身を乱暴に扱うようなことをして傷ついたり怒ったりするのは私ではなくて母だったわけだし、自分の輪郭というのは曖昧で、皮膚の一部はどこかと繋がっていたり、傷口のように外に開かれていたりするものなのだとは思う。
特に、かつて乳飲児だった自分を所有していた母と自分との境界は、多くの娘たちにとってとても曖昧かつ不気味に変わり続けるもので、だからこそ痛みを伴って繋がりを引きちぎるような反抗や、監督権争いのような確執が頻繁に起こる。
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