2020年11月26日 21:00
円満に見えるけど…離婚も修復もできない「仮面夫婦のシビアな現実」
史彦が高性能カメラを買って、写真に凝りだした頃。自然を撮りたいと、休日になると奥多摩や房総半島にカメラ抱えて出かけてしまう。最初のうちは華江も同行したものの、なんだか退屈。やがて史彦はひとりで自由気ままに出かけるように。
趣味の話は通じない、仕事の話も共通項がない。華江の好きなロックを史彦は嫌がる。史彦はチクリと嫌味を言うようになったのが不便な、寂しい生活の始まりだ。
「ロックなんて聴いてると心が荒れるぞ」
「僕の計画ではきみも僕と同じくらいの給料になって財布を別にする時期なんだけど」
「アメリカの政治の仕組みがわかってないの? 日本の制度はわかってんのか」
反論できない嫌味なので、黙っているうちに史彦は声をかけてこなくなった。
夫婦喧嘩にもならない。圧倒的に史彦に分がある。給与、知識、実家の家柄。優勢な史彦に楯突いても無駄だと、華江は気持ちを閉じてしまった。
つまり夫婦喧嘩はまったくない。
それなのに、会社の同僚が遊びに来たり、マンションの自治会に参加するときの史彦の態度は別人だ。「いやあ、華ちゃんが家事得意なんで、頭があがりませんよう」
「今度、華ちゃんをモデルに蓼科で写真撮ろうかと思ってます」