天秤座生まれのあなたへ贈る詩「風吹く理由」【文月悠光 12星座の恋愛詩】
18歳という若さで中原中也賞を受賞した詩人の文月悠光さん。詩のみならず、今の世を生きる女性として、誰もが感じる“生きづらさ”や“孤独”を綴ったエッセイ集も話題です。
このたび、そんな文月さんによる、12星座別「恋愛詩」の連載がスタート。毎月、月ごとの星座を主人公とした一篇を執筆していただきます。
さらに、その詩をモチーフとしたコイズミリカさんの美しいイラストもお届け!
切なくて愛おしくて胸がキュンとする…詩とイラストのコラボレーションをお楽しみください。
■天秤座生まれのあなたへ
//// 風吹く理由 ////
街は季節のクローゼット。
はやりの洋服たちへ次々に袖を通す。
(どこへ行き着くつもり?)
問いかける声を振り切りながら、
風は無傷でありたくて吹く。
どんな景色も着こなしてしまう、
透明なわたしを見透かさないで。
風にひとすじの色をください。
「わたしから去らないのね?」
一本の木に見惚れて、立ちすくむ。
しなやかに振れる枝々よ、
わたしが何者であるのか
きみの手だけが教えてくれる。
この胸の鼓動ごと、
幹は抱きとめて揺れはじめた。
ゆるせずにいた文字の一粒一粒を
きみとわたしを洗う雨にかえよう。