蠍座生まれのあなたへ贈る詩「手を染める」【文月悠光 12星座の恋愛詩】vol.3
18歳という若さで中原中也賞を受賞した詩人の文月悠光さん。詩のみならず、今の世を生きる女性として、誰もが感じる“生きづらさ”や“孤独”を綴ったエッセイ集も話題です。
このたび、そんな文月さんによる、12星座別「恋愛詩」の連載がスタート。毎月、月ごとの星座を主人公とした一篇を執筆していただきます。さらに、その詩をモチーフとしたコイズミリカさんの美しいイラストもお届け!
切なくて愛おしくて胸がキュンとする…詩とイラストのコラボレーションをお楽しみください。
■蠍座座生まれのあなたへ
手を染める
落ち葉とまちがえて拾ってしまった。
片方だけの革の手袋。
しなやかに伏し、背を丸くして
わたしの知らなかったわたしが
こうしてひととき眠っていたのだ。
ヒールに響く痛みはいつしか
わたしを鈍く酔わせている。
枯れないと信じた愛も
信じ抜くままに終わっていくから、
あなたにわたしを変えさせてあげる。
まるで鏡ね。
あなたを映すために生まれた。
そうよ、わたしの前に立ち止まって。
願いに色づいていく横顔を
バーカウンターが艶やかに反射した。
隠し扉の奥にたたずむワインボトルから
一滴一滴を、この爪に落とす。