とてもデートで行くような店ではない。
夏花は、なんだか彼女が哀れに思えて、ふっと鼻で笑ってしまった。
「彼女、元気だった?まだ会いたいって?」
夏花がそう尋ねると、祐二は、あわてて、「だから、そういうんじゃないって。もうただの友達として会ってるだけだよ。別に、大した話はしていないんだ」
そう言うと、ぎゅうっと夏花を抱きしめた。
「もう、俺には、夏花だけなんだから。信じてよ」
夏花は、祐二を抱きしめ返した。この男は、もう私のもの。
誰にも渡さない。いつになく、執着心が涌くのを感じる。そう、向こう側の彼女の影が、うっすらと見えるからだ。
でもそれを認めたくなくて、夏花は目を閉じた。
■彼女の影
「ねえ、またなの?おかしくない?」
夏花は、イライラとした気持ちを隠せずに、思わず声を荒げた。
祐二は、嫌そうに、目を伏せる。このやりとりが、ここ数回会うたびに続いている。いつの間にか、余裕がなくなっている。
夏花はそれが一番腹立たしい。
別に、祐二がそれほど魅力的で、惚れ込んでいるからでは断じてない。そうではないのに、イライラが止まらないのだ。
「夏花、そんなに怒るなよ。彼女との約束だって、言ったじゃないか」