恋愛情報『【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(3)』

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(3)

2018年3月25日 19:00
 

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…第一話を読む…第二話を読む「こんばんは。あら、今日子、いたの」香川真由美がコートのまま、今日子の隣に座った。「泣いているの?」と心配する真由美に「私の毒舌に、笑いこけてしまったのよ」と、ノブミツが真由美におしぼりを出した。「外は寒いわ。今夜も雪になるかしら」息を吐きながら、手袋をしたまま手をこすり合わせる2歳年下の真由美はホットワインを頼んだ。普段はロングヘアをアップしているが、寒さのせいか今夜の真由美は背中まであるロングヘアだった。ほつれた髪を無操作に手で整えるしぐさが色っぽい。「そうだ、今日子、ネットに出ていたよね」スマホを取り出した真由美が今日子のインタビューが掲載されている画面を差し出した。先月受けたビジネスサイトの取材インタビューを真由美が目ざとく見つけたのだ。「写真も素敵よ」真由美がノブミツに画面を見せていると、鈴の音と共に扉が開き楠本百合が「ご無沙汰しています」と二人に声をかけた。離婚調停中の百合を『カフェソサエティ』で見かけたのは、久しぶりだった。連絡を控えていたが、百合の明るい表情にほっとした。真由美も弾むような声で百合に声をかけた。「ちょうどよかった。今日子のインタビュー記事がネットに公開されているの」「どれどれ」と真由美のスマホで記事を読む百合が、「『キャット』のことも書いてある!」と興奮しながら、スクロールしていく。

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『キャット』は麻布十番にあった老舗のカフェだ。サブカル雑誌の取材がきっかけで『キャット』に頻繁に通うようになると、今日子より前から常連の百合と真由美という気の合う友達ができた。その後『キャット』のママからノブミツを紹介された三人は、ママが田舎暮らしを決意して店を閉店してからノブミツのバーの常連客になったのだ。「『いきなり女性サイトの編集長に抜擢されるなんて人生には想像が及ばないサプライズの瞬間があるとわかりました』。これって、今日子らしいよね」「らしい、らしい」と真由美も賛同する。「私らしいって、どういうこと?」首を傾げながら、今日子は空になったグラスをノブミツに渡した。「今日子はね、チャレンジジャーなのよ」と百合。「チャレンジャー?」「そう。挑戦しているから、サプライズな出来事が起こるの。新人アーティストの発掘のためにコンテストを推進したり、主婦の在宅ライター育成講座を設けたり、人生育成にも力を入れるなんて、すごいわ。今の時代は自分のことでいっぱい、いっぱいの人が多いし、企業は売上至上主義だから、育てるという発想が乏しくなりがちよ。でも今日子は風穴をあけたのよ」真由美の絶賛をうのみにできなかった。サブカルライター時代に育ててくれる先輩が周囲にいなかったため、手探りの取材や執筆に苦労をしてきた。あの頃の自分が必要としていたことを、実現しただけだと今日子は思っている。「サブカルライター時代のことも載っているわ」百合が記事を読み上げていくと、ノブミツも「ほ~」と珍しく感嘆した。「何だかとても恥ずかしいわ」まるで自分の人生がたった10行ぐらいで語られるような気がした。でも人生には人に言えない秘密も多い。だから過去は膨大な記憶の連続なのだと今日子は思う。

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店を出ると、雪からみぞれに変わっていた。傘に積もっていくみぞれの重さを感じながら駅に続く坂道を下っていくと、カバンの中で転送された手紙がまるで息をしている生き物として潜んでいるような気がした。今日子の足は日比谷線ではなく、JRの改札へと向かっていった。健太に会いたい。雪のためか、午後10時過ぎのJRは普段よりも乗客が少なかった。溶けた雪が、滴となってぽたぽたと傘から落ちている。西荻窪駅に着くと、粉雪が迎えてくれた。健太にラインしたが、返信がない。個展まで工房に籠って最後の仕上げをする予定のはずだから、ラインに気がつかないくらい集中しているのだろう。顔だけ見たら帰ろうと、ロータリーを渡って商店街から路地に入った時だった。レンガ造りの小さなカフェの前で、足が止まった。窓際の席に、健太とロングヘアの女性が向き合いながら、お茶を飲んでいたのだ。「あの人は確かジュエリースクールの健太の生徒……」切れ長の目に漆黒の髪はまるで日本人形のように美しかった。窓からの雪あかりに照らされた健太から、こぼれるような笑顔が広がっていった。まるで恋人同士のような光景に、今日子は愕然とした。このまま立ち去るか、それとも窓の外から健太に合図をしようかと迷っていると、ラインの着信音が鳴った。ノブミツだった。
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「手紙のこと、気になるね」ノブミツの思いやりに胸が熱くなる。「開店少し前に来てよ。一緒に開封してみよう」年中無休の『カフェソサエティ』は午後7時ごろにノブミツが開店準備を始めるという。「ありがとう。週末に行けると思う」ほっとしながら返信をすると、ノブミツが即座に「大丈夫?それまで大丈夫?」とたたみかけてきた。「年下の彼もいいけど、年上とも付き合ってみたら。独身だから恋は自由よ。今日子が気を使うよりも、気遣ってくれてしかも包容力のある男を見逃さないようにね」独身だから恋は自由。ノブミツのアドバイスを口ずさみながら、空を仰ぐと、粉雪がどんどん降りてきた。まるで宇宙に散らばっている星が次々と舞い降りてくるような錯覚にとらわれると、寂しさが急に募っていく。夜空には果てしない孤独が満ちているような気がして、今日子はぶるっと震えた。ノブミツに「おやすみ」と返信してから、健太にコールしたが、健太はスマホを手に取ることはなかった。カフェの窓から手を振ってみたが、目の前の女性をまっすぐに見ながらお喋りを続け、しかも楽しそうに笑っている。不思議なことに想像していたような激しい嫉妬はなかった。ただ眠りたかった、泥のように眠れたら、雪が解けた世界のように、新しい光を浴びることができるような気がした。踵を返して西荻窪駅に向かう。雪道に新しい足跡が続いていった。

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夜のうちに雪がやんで、朝から小春日和のような陽気になった。早朝の会議が終わると、編集部の向井葵が小走りに駆け寄ってくる。「編集長、今夜の氷室先生の受賞パーティーには必ず参加してくださいね」今日子ははっとしてスマホを開くと、カレンダーに予定はなかった。「しまった」忘れたことが氷室に知られると、きっと叱られるだろうと慌てたが、ぼさぼさの長髪であくびをする氷室の眠そうな顔を思い出すと、笑いがこみ上げてきた。氷室恭介は時代劇からミステリー、恋愛小説までと才能豊かな作家で、女性サイトでも連載を持っている。一年に及ぶ連載が一か月前に終了して、次の新しい連載の構想中だった。「どうしよう」グレーのセーターにブラウン色の幅が広いパンツスタイルでパーティーに参加するわけにはいかなかった。だが夕方までぎっちりアポが入っている。着替えのために自宅に戻る時間もない。「こんな時は百合が頼りね」百合が勤務するアパレル会社に電話をかけると、すぐに百合に繋がった。事情を説明して「ワンピースを貸して」とお願いすると、会社の製品を貸し出すとコストがかかるからと気を使ってくれた百合が、自分のロッカーに予備で置いているワンピースを貸してくれるという。「助かるわ。今度ご馳走するね」すると意外な答えが返ってきた。「それより、私もパーティーに連れて行って」以前の百合からは想像できないような弾んだ声だった。(つづく)作家夏目かをる

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