ananで連載中の堀潤&五月女ケイ子「社会のじかん」の特別編。欧米の先進国が世界を牽引する時代は終わりを告げ、中東やアフリカが勢いをつけ、世界は2つのアライアンスに分かれていく!?アメリカと中国の枠組みの真ん中で、世界を繋ぐ。2022年に起きたロシアとウクライナの戦争が今なお続いています。これにより明らかになったのは、国連の弱体化です。国連安全保障理事会は、そもそも自分たちが戦争当事国になるイメージを持ち合わせていませんでした。ロシアがウクライナに侵攻したときに、歯止めをかける機能を安保理が持っていないことに世界中が気づいてしまいました。国際秩序は乱れ始め、あちこちで武装勢力の活動が活発化しています。最たるものがガザで起きているイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘です。国連は’23年10月に人道的休戦を求める決議案を圧倒的多数で採択。ところがイスラエルは「テロリストを擁護するのか」と明確に拒否。さらに、グテーレス事務総長の辞任を要求しました。先進的な国が国連総長を非難するような事態が起こることを誰も想像していませんでした。そのイスラエルをG7が支援しています。国連の常任理事国は第二次世界大戦での戦勝国。かつて欧州諸国に植民地支配されてきた国々は、「もはや国連を中心とする国際秩序を守る必要はない」と思うようになってしまいました。9月にニューデリーで開催されたG20サミットに、中国とロシアの首脳は参加しませんでした。国連同様、G20も実質的には機能しなくなり、欧米の先進諸国で構成されるG7と、中露ら新興5か国を基軸とするBRICSに分かれることになると思います。BRICSは枠組みが拡大され、中東諸国なども加盟して将来的には20か国以上の規模になり、共通通貨を発行する案も出ています。’24年以降世界は、欧米を中心としたアライアンスと、中国・ロシアを中心としたアライアンスに二分され、国連に代わり、それぞれの地域で国際秩序を作ることになりそうです。日本はその真ん中で、それぞれを繋ぐ役回りを求められるでしょう。その一例が、IPEF(インド太平洋経済枠組み)です。’22年5月にアメリカ主導で発足。インド太平洋地域の経済枠組みには中国や日本で作るRCEP(地域的な包括的経済連携)と、アメリカが抜けたTPP(環太平洋パートナーシップ)があり、IPEFは、その両方にまたがる大きな枠組みになります。中国は入っていませんが、中国との関係を念頭に緩やかな貿易枠組みを作ることが目的。IPEF基金を作り、環境対策や新しい産業の創出に役立てようとしています。日本はこの基金に約14億円を拠出予定です。これまで日本は全てアメリカに倣うイメージがありましたが、ガザの問題では違うスタンスを示しました。G7がイスラエル擁護を訴えるなか、他の6か国が作った共同声明に日本は参加しなかったのです。安保理の11月の一時的な休戦決議案にアメリカは棄権しましたが、日本は賛成を表明。アメリカと違う意見を明示したことは、これまでの日本とは違うというメッセージ性があります。日本にとって中国は重要な貿易相手国ですし、地政学的にはロシアとも近い距離にあり、エネルギーの多くはアラブ諸国に頼っています。経済的にも安全保障の側面からも、どの国とも良い関係を保ち、経済交流をしなければ日本は生き残れません。5月には広島でG7サミットが開かれ、世界に平和のメッセージを発信しました。G7の首長が広島平和記念資料館を訪れ、花を手向けました。諸外国に日本が被爆国であることが強く刻まれた。これを機に平和的人道支援国家として、中間的な立場を取りやすくなると思います。世界が二分される今、声高に分断を煽るのではなく、それぞれをそっと繋ぎ続けるというのが、日本の安定にも繋がります。五月女ケイ子解読員から一言被爆国、戦争をしない国として、物言えるようになった日本が戦争を止めることができるとしたら、こんなにうれしいことはありません。’24年は、日本人として自信を持って堂々と「戦争をやめよう」と言っていきたいと思います。KEYWORD:G7広島サミット2023被爆地である広島で平和について議論される。このサミットでは核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」の発表など、世界平和をテーマにしたさまざまな取り組みが注目を集めた。核を保有する米英仏を含むG7首脳がそろって広島平和記念資料館(原爆資料館)を訪問。先進国の指導者が被爆の悲惨な現実を知るサミットとなった。KEYWORD:IPEF/RCEP/TPPアジアと環太平洋の経済圏でも米中の綱引きが!TPPの当初の目的は、環太平洋地域で中国抜きの通商ルールを作ることだった。その後、アジア主導の枠組みとしてRCEPができ、中国も含めた巨大な自由貿易圏が誕生。最後に影響力を増す中国に対抗するためアメリカが主導してIPEFが発足。ただし関税の引き下げや撤廃は協議しない。※はASEAN加盟国ほり・じゅんジャーナリスト。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)などに出演中。スーダンを取材した写真展「#BlueForSudan」が2024年1月14日まで宮城県・多賀城市立図書館(9:00~21:30TEL:022・368・6226)にて開催中。そおとめ・けいこイラストレーター。雑誌や書籍、広告で活躍。オンラインストア「五月女百貨店」では、楽しいオリジナルグッズを多数販売。カレンダーやポチ袋も好評発売中。使える面白LINEスタンプも各種展開している。※『anan』2024年1月3日‐10日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2024年01月02日ananで連載中の堀潤&五月女ケイ子「社会のじかん」の特別編。少子高齢化が進む日本。人手不足や地方の過疎化など日本社会が抱える問題にも次第に変化の兆しが…。2024年は、変わりゆく未来の起点となるような年に!?政治と経済はローカルに注目。「お金と人材が地方に集まる!」政治に関しては、しばらく混乱が続くかもしれません。2024年は自民党総裁選がありますが、岸田さんが続投する可能性は薄いでしょう。中央政府があまり盤石ではないなか、実は最近、地方の政治が元気で新しい風が吹いています。例えば広島県安芸高田(あきたかた)市長の石丸伸二さんは、元銀行員。37歳で市長になり、古い体質の議会と積極的に議論し、市政の改革を行おうとしています。会見の場で、老舗メディアの中国新聞が旧体制の議会に近いと記者に抗議したり、SNSを駆使し、透明性のある市議会を目指して人気を博しています。’23年の地方選挙では定員割れする自治体が多くありました。今後もそういう地域は増えていくと思います。一見ネガティブな現象ですが、例えば長野県岡谷市議会では、4月の選挙で定員割れになり、元演劇誌編集長だった候補者が無投票で市議会議員になりました。異色の経歴の議員が加わることにより、岡谷市では、学校教育の現場で演劇のワークショップが行われたり、独自の人脈を活かし、芸術関連など多様な人たちが集まってきています。これまでの日本の選挙では、地域の産業や古い地盤に支えられた人しかなかなか当選できず、優秀な人こそ地方政治に関われませんでした。これからはスタープレイヤーたちが育つ可能性が高くなり、硬直しがちな地域政治が生まれ変わりやすくなるかもしれません。さらに、今、地方移住者が増えています。内閣官房の’20年1月の調査では、東京圏在住の20~59歳の49.8%が、「地方暮らしに関心を持っている」という結果が出ました。特に若年層の関心が高いことがわかっています。コロナ禍を経て、リモートワークの広がった今では、さらに地方に移住することが現実的な選択になっていると思います。政府も地方創生に力を入れているので、地域のスタートアップが盛り上がっています。地域のベンチャーキャピタル(VC)も勢いを増しています。そのうちの一つが「瀬戸内VC」です。地域には起業したい人が大勢いるのに、投資する人がいない。地域に投資するVCを作ろうと、岡山県出身の酒店の3代目店主と弁護士の二人が立ち上げました。そのような動きに地方銀行が敏感に反応しました。スタートアップに投資するための専門部門を作るなど、地域でのお金の回り方に変化が起き始めています。地域に根付いた事業者の中には、家業を継いだ2代目3代目も多くいます。最近は「アトツギベンチャー」という、後継者でありながら新規事業を始める動きも盛んになっています。中小企業庁が主催する「アトツギ甲子園」というピッチイベントでは、全国のアトツギたちが参加し、新規事業のアイデアを競い合っています。’24年は地域VCが各地で立ち上がり、地域生まれの企業がグローバルに飛び立っていく。本当の意味での体温のある地方創生が花開くでしょう。瀬戸内VCが投資している、あるVRゲーム企業は、アメリカのVR市場向けのサービスをリリース予定です。地域発信で、最初からグローバルに展開するという広がりが、自然に根付いていきます。これからはもはや地方が世界の中心になっていくのではないでしょうか。五月女ケイ子解読員から一言昔、地方の若者が抱いていた東京への憧れや、東京に行かないと何者にもなれない焦燥感は、もうなくなっているんですね。むしろ、東京を飛び越え、地方から一直線に世界へ向かうことができるのか。すごいなあ(元田舎の若者)。KEYWORD:地方移住者の増加東京圏在住者の約半数が、地方暮らしに関心あり。グラフの「意向あり」層とは、地方暮らしに「関心があるが何も行動していない関心層」36.1%、「情報収集をしている検討層」11.5%、「条件が整えば移住を考えている計画層」2.2%の合計。平均年齢の分布では「計画層」が最も若く(35.7歳)、若者ほど地方暮らしへの関心が高い。出典/内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局KEYWORD:アトツギベンチャーアトツギが、新規事業に挑戦するベンチャーに。商売や事業などの家業を継ぐ人(アトツギ)が、世代交代を機に、新規事業や業態転換、新市場への参入などに挑戦する(ベンチャー)こと。起業家と違うのは、親から受け継いだ会社や経営資源を活用してスタートするところ。社会に新たな価値を生み出す存在として注目されている。ほり・じゅんジャーナリスト。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)などに出演中。スーダンを取材した写真展「#BlueForSudan」が2024年1月14日まで宮城県・多賀城市立図書館(9:00~21:30TEL:022・368・6226)にて開催中。そおとめ・けいこイラストレーター。雑誌や書籍、広告で活躍。オンラインストア「五月女百貨店」では、楽しいオリジナルグッズを多数販売。カレンダーやポチ袋も好評発売中。使える面白LINEスタンプも各種展開している。※『anan』2024年1月3日‐10日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2024年01月01日ananで連載中の堀潤&五月女ケイ子「社会のじかん」の特別編。いよいよ本格的に始まる、「移民との共生社会」について、堀潤さんが解説します。いよいよ本格的に始まる、移民との共生社会コロナ禍が一段落して、人の移動が激しくなりました。2024年は街の景色として「海外の人が増えたな」というのを実感し始める年になると思います。日本人の人口は14年連続で減少しており、’23年1月時点で前年に比べ約80万人減、1968年以降最大の減少数、減少率です。47都道府県全てで減少に転じたのは初めてのことでした。この流れはこれからも続き、日本の総人口が1億人を切る未来も考えなければなりません。少子高齢化が進み、社会保障費の増大は避けられません。’23年夏に発表された’21年度の社会保障給付費は過去最高の138.7兆円。国の年間予算が106.6兆円でしたから、驚く金額です。財政赤字を膨らませながら、社会保障も回していかなければならないことになります。そんななか、海外から日本に転入する外国人の数が急増しています。3か月以上日本に滞在する外国人住民は約300万人、コロナ禍で一時減りましたが、3年ぶりに増加しました。政府は、生産年齢人口の減少と労働力不足を外国人労働者を受け入れることで解決しようとしています。これは、実質的には移民政策です。そのための在留資格として、’18年に「特定技能」を創設。特定技能外国人を受け入れる深刻な人手不足が認められた分野は、介護、ビルクリーニング、建設、造船、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業など多岐にわたります。さらに、スタートアップへの投資も強化しており、今後も一層、海外からチャンスを求めて、技術者など大勢の人が転入してきます。国立社会保障・人口問題研究所によると、2067年には人口の約10%が外国人になると推計されており、東京都に次いで、大阪府や愛知県で外国人の数が増えています。これまでは、特に外国人労働者を多く雇用する“工場のある街”に外国人住民が集まっていましたが、これからは大都市近郊の街でも、当たり前のように目にするようになるでしょう。外国人住民は、国籍も肌の色もさまざま。文化も生活スタイルも異なる人々を同じ街の住民として、きちんとコミュニケーションをとる努力をしなければ、疑心暗鬼を生み、やがては暴力に発展しかねません。9月には埼玉県川口市でトルコの少数民族クルド人と住民のトラブルがありました。ただ、一部の乱暴な外国人がいたとしても、それが全てではありません。SNS上のデマを信じ、偏見を持っていては分断が深まるだけです。日本は、本当の意味での“内なるグローバル化”を進めなくてはいけないと思います。ごみの捨て方から、公民館の使い方、自治会の再編成なども必要になるでしょう。外国の人と話すときには、易しい日本語を使うことも心がけたいですね。もしも自分が海外に移住したら、その街の人にどう接してもらえたら安心して暮らせるのか。外国人というだけで、疎まれたり差別をされたら、憎しみの気持ちが湧いてしまいます。逆の立場をぜひ、想像して接してみてください。外国人住民にないのは選挙権だけ、私たちと同じように税金や社会保障費を支払います。日本の暮らしを底支えする隣人であるということを忘れないようにしましょう。五月女ケイ子解読員から一言NYではどんな職業にも外国人がいるイメージ。仏料理に日本人シェフがいるように、寿司職人に外国人が普通にいるようになったら、“ローカルグローバル”が進んだと感じられそう。みんな同じ人間として見ることが大事ですね。KEY WORD:人口減少と外国人の流入増人口減少に歯止めがかからない状況が続く日本。’23年1/1時点の住民基本台帳をもとに総務省がまとめた国内に住む日本人は、1億2242万3038人。前年に比べ80万523人、2009(平成21)年をピークに14年連続、調査を始めた1968(昭和43)年以降で最も減った。一方、外国人住民は前年の270万4341人に比べ、28万9498人増加。出典/総務省ほり・じゅんジャーナリスト。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)などに出演中。スーダンを取材した写真展「#BlueForSudan」が2024年1月14日まで宮城県・多賀城市立図書館(9:00~21:30TEL:022・368・6226)にて開催中。そおとめ・けいこイラストレーター。雑誌や書籍、広告で活躍。オンラインストア「五月女百貨店」では、楽しいオリジナルグッズを多数販売。カレンダーやポチ袋も好評発売中。使える面白LINEスタンプも各種展開している。※『anan』2024年1月3日‐10日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年12月31日9月9日(土) より東京・国立映画アーカイブで開催される映画祭『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』のコンペティション部門『PFFアワード 2023』の最終審査員が発表された。映画祭のメインプログラムである『PFFアワード』は、1977年にスタートした世界最大の自主映画のコンペティション。これまでに黒沢清、塚本晋也、佐藤信介、李相日、荻上直子など、180名を超えるプロの映画監督を送り出してきた。今年は557本の応募から入選を果たした22作品が、映画祭でグランプリ他各賞を競う。その賞を決定する今年の最終審査員は、PFFと縁の深い映画監督の石井裕也をはじめ、石川慶(映画監督)、岸田奈美(作家)、國實瑞惠(プロデューサー)、五月女ケイ子(イラストレーター)といった各ジャンルの第一線で活躍するクリエイター5名が務める。賞は数時間にわたる討議の末に決定し、9月22日(金) の表彰式で最終審査員により、グランプリ(1作品)、準グランプリ(1作品)、審査員特別賞(3作品)が発表される予定だ。<イベント情報>『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』9月9日(土)~23日(土) 東京・国立映画アーカイブ10月14日(土)~22日(日) 京都文化博物館※月曜休館公式サイト:
2023年08月22日住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう!わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、憧れていたアスリートの話。各界で活躍する同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。「今でもスカッとしたいときには、アルベールビル五輪での伊藤みどりさんの演技を見るんです。フィギュアスケートが好きで、浅田真央ちゃんのファンでもありますが、伊藤さんのトリプルアクセルの高さは別格で、見返すたびに記憶の中のジャンプより高く跳んでいるので驚きます」そう語るのは、イラストレーターの五月女ケイ子さん(48)。伊藤の演技に魅せられた’90年代は、故郷の山口県から横浜市に引っ越した時期だった。「山口の実家は田舎の中の田舎のような場所。田んぼに囲まれていて、市街地では受信できる民放の電波も実家には届かず、見られるテレビ番組はNHKと限られた民放のものだけでした。『笑っていいとも!』(’82~’14年・フジテレビ系)は夕方からの放送だったし、見ることができない月9のトレンディドラマは、新聞のラテ欄に書かれているあらすじを見ながら内容を想像していました。だから、東京に近い横浜に引っ越すことが決まったときは“都会暮らしができる!”という期待感でいっぱいに。私にとってはメモリアルな出来事でした」横浜での新生活をスタートさせ、無事に高校受験を終えた後、原宿の竹下通りに遊びに行ったという。「テレビで見ていた憧れの街。路面にものすごい数のジーパンを陳列している店があって、“せっかく来たのだから”と思って、2000円ほどの安いジーパンを買いました。原宿に行くこと自体が特別なことだったから、それだけでうれしくて」進学した高校は、厳しい校則も制服もない自由な校風だった。「中学までは靴ひもを通す穴が4つ以上ないとダメだったり、スカートの長さにもうるさかったりしたのですが、高校では縛られるものがなくてのびのび」故郷では見ることができなかったトレンディドラマも楽しめた。「『東京ラブストーリー』(’91年・フジテレビ系)などの月9ドラマを見ては“大人になったら、こんな恋愛ができるんだ” “都会では部屋の中に自転車が置いてあるんだ”と想像を膨らませていました」高校3年生で受験勉強をしながら、よく聴いていたのは槇原敬之の曲だった。「『どんなときも。』(’91年)がはやっていたのですが、都会にも慣れて“みんなにはやっているものに飛びつきたくない”と、ちょっとトンガリ始めていたころ。でも、友達からファーストアルバムはすごくいいよと聞いて、『君が笑うとき君の胸が痛まないように』(’90年)のテープをダビングしてもらいました。1曲目の『ANSWER』は失恋の歌。自由な学校生活を思いっきり謳歌した後、久しぶりに一人になったときに自分を見つめ直したくなる曲でした。受験の孤独に浸り、かつ、楽しめたのは槇原さんの音楽のおかげです」■想像の上を行く伊藤みどりのジャンプ大学受験で芸術学科を選んだのは、もともと表現することが好きだったから。高校時代はダンス部に所属していたほど。表現を楽しむうえで夢中になったのがフィギュアスケートだった。「ロス五輪のころから家族でスポーツ番組を見る機会が増え、フィギュアスケートのNHK杯も欠かさず見るように。伊藤みどりさんが10代のときからファンでした」その魅力はやはりジャンプ。「当時、伊藤さんのライバルだった旧東ドイツのカタリナ・ビットは、ジャンプはそれほどでもないけれど、スタイルがよく芸術面がすぐれていて、大会でも優勝していました。反対に、伊藤さんは芸術点が低く、技術点で勝負するスタイル。でも、当時の採点方法では、芸術点がすぐれているほうが上位にいく感じだったんです」そのため、カタリナは伊藤のようなジャンプで勝負する選手に対し「ゴムまりのようにぴょんぴょん跳ねている」といった辛辣な発言をしていた。「たしかにカタリナの演技は美しいのですが、伊藤さんのジャンプの美しさは負けていませんでした」カタリナの引退後、そのジャンプを武器に’89年の世界選手権でアジア人初のチャンピオンとなった伊藤。だが、期待されていた’92年のアルベールビル五輪では練習で失敗が続き、予定していたトリプルアクセルよりも難易度が低いトリプルルッツにプログラムを切り替えた。「ところがそれも失敗してしまい転倒。フリープログラムでも前半、トリプルアクセルに失敗してしまって……。それでも演技の後半、伊藤さんは果敢に再チャレンジ!銀メダルを引き寄せる躍動的なジャンプは忘れられません。現在のフィギュアスケートはダンスや音楽、衣装などを含めた総合芸術でありながら、ジャンプなどの技術を競うスポーツでもあります。そのスポーツの要素を大きく取り入れる流れを作った演技だったと思います」伊藤の演技によって“表現”することへの思いを触発された五月女さんは、イラストレーターの道を歩み始めた。「大学時代は就職氷河期で、私が企業の面接を受けてもうまくいくとは思えませんでした。それで就活の代わりにイラストを描きため、出版社へ持ち込んだんです」イラストレーターとして活躍する今でも、トリプルアクセルという技を極めた伊藤の存在が、大きく影響しているという。「イラスト道も、勝手にスポーツに通じると思っているんです。フィジカル、メンタルがともに充実して、初めて人を笑わせる作品が描けます。だから、“まっさらな紙を前にするときはお菓子を食べて糖分を補給する” “描く前にバイク便を手配して、ウチに来るまでの30分間で集中して仕上げる”など、若いころからアスリート的な心持ちで仕事に向き合ってきました」独自の“五月女ワールド”はスポーツ選手のようなゾーンに入ることで生み出されているのだ。【PROFILE】五月女ケイ子’74年、山口県生まれ。大学卒業後、独学でイラストレーターに。’02年、挿絵を担当した『新しい単位』(扶桑社)30万部を超えるベストセラーとなった。放送作家・演出家で夫でもある細川徹さんとの共著『桃太郎、エステへ行く』(東京ニュース通信社)が好評発売中!
2023年04月02日ananで連載中、意外と知らない社会的な問題についてジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」の拡大版をお届け。円安や物価高、気候変動…私たちの暮らしに密接に繋がっている、社会の問題たち。2023年は、どうなっていくのでしょう?ここでは、環境問題について堀さんが解説し、五月女ケイ子さんが独自の視点から読み砕きます。Q. 災害、気候変動、海面上昇…環境問題はこれからどうなる?A. 目標達成のリミット間近。コロナ禍や戦争でエネルギー不足。シフトチェンジが求められそう。2023年は、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、気温上昇を1.5~2°C未満におさえることを目標に掲げた、150の国と地域がその進展状況を検証する年です。その後5年ごとに検証されます。日本は原発の多くがストップしており、石炭、石油、天然ガス依存が続いて、目標達成には厳しい状況です。’23年は、日本のエネルギー問題において、原発をどうするのかという話に決着をつけられるかどうかが大きなポイントになるでしょう。欧州もやむなく原発回帰の流れ。CO2削減、目標達成に日本はどうする?ロシアのウクライナ侵攻により、欧州はロシアからの石油や天然ガスの輸入がストップし、深刻なエネルギー不足になっています。脱原発を掲げてきたドイツも、代替エネルギーが必要になり、方向転換をせざるを得なくなってきました。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんも、火力エネルギーに立ち戻るならば、原発を容認するという立場に変わり、流れを大きく変えるきっかけの一つになりました。政府は今、原子力発電所の最長耐用年数60年をさらに延ばし、古い原発を使い続けようとしています。しかし、それでは安全面の不安も残りますし、1か所で大量の原子力エネルギーを作るため、無駄も出てきます。安全性も高い最新の技術を使った小型の原発を使い、必要なところに最小限投入するなど、今に適した選択肢もあるのではないかと思います。我慢、節電だけでなく、持続可能な環境対策を改めて考える一年に。日本は、エネルギー消費を4割減らし、再生可能エネルギーでの電力の50%を賄えば、「2030年度までにCO2の排出量を2010年度比で50~60%削減」という目標が達成できます。しかし、これは簡単に実現できる数字ではありません。気候変動はまったなしの問題ですが、電気料金が値上がりし、経済成長も先行き不透明ななか、「節電してください」と我慢を強いられると、環境対応疲れも出てきて、反発心が芽生えてしまいます。環境よりも足元の暮らしをまず優先してほしいという気持ちになるのもやむを得ないのではないでしょうか。暖房を使うのを我慢して体調を崩してしまうというような、本末転倒なことも起きかねません。’23年は、止めている原発や再生可能エネルギーへの展望など、もう一度私たちで環境対策、エネルギーの問題を考える年にしないといけないのだと思います。気候変動により増える自然災害。災害に強い地域を作ることも肝要。台風や豪雨災害など、日本では毎年のように災害が深刻化しています。東京都大島町は9年前に大規模な土砂災害に見舞われ、40人近い方が亡くなられ、まだ行方不明の方もいらっしゃいます。町では10年かけて予算を組み、復興計画を立てたのですが、この間にも災害が何度も起きて、財政的にも非常に困難な状況に陥りました。また、気候変動により、漁場や藻場が荒れて稼ぐこともできません。この大島町は一例にすぎず、各地で同様のことが起こっています。気候変動により生業さえも失いかねない。災害に強い地域作り、また、暮らしの基盤を確保することも必要になってくると思います。持続可能な環境対策にスーパーシティ構想が再定義されそう。’23年以降は、“スマートグリッド”と呼ばれる電力の一体運用や、人々の消費・流通・移動などがトータルに設計管理される“スーパーシティ構想”の議論が、国会でも再開されそうです。スマートシティ化の構想は10年ほど前から政府によって掲げられていたのですが、この数年は棚上げ状態になっていました。しかし地域でどのくらい電力が消費されているのかが可視化されれば、その地域の発電によって、無駄なく電力を賄うことができます。また、デジタル技術を使い、移動手段も無人のEV車が地域をめぐり、送迎してくれる。農業や畜産業もデータ管理により無駄な生産をせず、食品ロスを防ぐなど、様々な問題が同時に解決できるようになります。岸田内閣が掲げている「デジタル田園都市国家構想」にもそういった一体運用が盛り込まれています。北海道の上士幌町では、観光と畜産と暮らしと移動をデジタルで共有するような仕組み作りがなされているのです。牛の受精卵をドローン輸送と陸送を組み合わせて効率よく運び、環境負荷を軽減させる工夫も。また、岩手県八幡平市では、ベンチャー企業が入り、地熱発電の仕組みを使ったスマート農業が始まっています。これからは単体の環境対応というよりは、持続可能で、様々な業種がイノベーションを起こしながら、皆が豊かさを手に入れられる環境対策が花開いていくでしょう。五月女解読員のひと言「節電」って、全然いまっぽくないし、全然持続可能じゃないですよね。「省エネ」が叫ばれた昭和より進化したネットワークを、賢く駆使できたら、やみくもに厚着して寒さを我慢しなくても、スマートに令和っぽく乗り切れそうです。ほり・じゅんジャーナリスト。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)、『ABEMA Prime』(ABEMA)などに出演中。監督作に『わたしは分断を許さない』など。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、面白楽しいオリジナルグッズを多数、販売中。LINEスタンプも各種展開。近著に細川徹との共著『桃太郎、エステヘ行く』(東京ニュース通信社)がある。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年01月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」の拡大版をお届け。堀潤さんがニュースを解説、五月女ケイ子さんが等身大の視点から読み砕きます。Q. 最近よく聞くスーパーアプリって?A. 一つのアプリケーションのなかに、コミュニケーションツールやショッピング、決済など、様々なコンテンツが集約されたアプリのこと。みんなが平等に、共通で使えるデジタルプラットフォームを作ることが求められています。デジタルの分野は2023年以降も著しく成長するでしょう。現在たくさんのサービスがアプリになっていますが、それらが一つのアプリに集約される「スーパーアプリ化」が進むと思います。ショッピングもコミュニケーションも決済も、一つのアプリに。たとえば、今は決済サービスだけでも、PayPay、LINEPay、楽天Pay、au PAY、iDなど多数ありますが、いずれ淘汰されるでしょう。日本では、PayPayやLINEがスーパーアプリ化しています。ただ、国のほうでは、民間企業のスーパーアプリ化が進み、国民の個人情報が海外のサービスに吸収されることを大変警戒しています。デジタルの分野でさらに広がりそうなのが、「PHR(パーソナルヘルスレコード)」です。健康に関する個人のデータがデジタルによって共有され、医療サービスに繋げたり、商業的に活用することも可能になるでしょう。同じような健康状態の人たちのコミュニティが作られて、一緒に運動を頑張る、個々の体に必要な栄養素の入った食材が示されて、それらの食料セットがレシピとともに家に届けられるというようなサービスも夢ではなくなりそうです。PHRの利点は、データの可視化によって、病気を未然に防げる、健康な状態を保つ機会に繋がりやすくなる点です。たとえば、体に悪いと知りながらも、つい甘いものや揚げ物を食べすぎてしまうというようなよくない生活習慣も、日常的に体の数値を目にすることで、改善しやすくなるでしょう。コロナ禍を経て、非接触で体温を測るなど、体に触れたり針を刺したりせずとも計測できる技術が進歩しました。カメラの前に立つだけでコレステロール値が測れる技術まで開発され、’23年以降はこういう技術が一般向けのサービスとして広がっていくと思います。PHRによって、健康寿命が延び、高齢者が働けるように。日本は深刻な人口減少に悩まされていますから、国民の健康寿命を延ばし、働ける人の数を増やしたいという国の思惑もあります。PHRは、経済産業省や厚生労働省が一般企業とともに、どうしたら普及させられるか、課題は何かということを現在協議しています。マイナンバーカードを普及させたいというのも、国としては、皆が共通して使えるデジタル基盤を広げたいという意向があるんですね。将来マイナンバーカードはマイナンバーアプリとして利用することが主流となります。それがスーパーアプリ化されれば、マイナンバーのシステムを使い、国民の大切な個人情報を守りながら、サービスは民間に開放し自由にビジネスを展開するという理想が叶えられると国は考えているようです。ここで注意をしなければいけないのはサイバー攻撃です。最近でも国税庁を騙った迷惑メールが多数ばらまかれました。民間の病院や水道会社がサイバー攻撃の標的になっています。これらは、個人ではなく、国家レベルの犯行関与も疑われています。VPNのサーバーが古かったりすると、そこが狙われる可能性も。国家として、対策をとる必要があると思います。五月女解読員のひと言カメラの前に立つだけで健康状態がわかったらすごいですね。疲れてるので、サプリや漢方情報も同時に教えてほしいです。今も、アンチエイジングの広告が勝手にやってくるけど、信頼できる情報を選べる機能もできたら嬉しいです。ほり・じゅんジャーナリスト。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)、『ABEMA Prime』(ABEMA)などに出演中。監督作に『わたしは分断を許さない』など。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、面白楽しいオリジナルグッズを多数、販売中。LINEスタンプも各種展開。近著に細川徹との共著『桃太郎、エステヘ行く』(東京ニュース通信社)がある。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月31日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」の拡大版をお届け。堀潤さんがニュースを解説、五月女ケイ子さんが等身大の視点から読み砕きます。Q. 物価が上がる一方、賃金は上がらない。何が起こっているの?A. 日本が乗り遅れてしまった世界の出口戦略。スタグフレーションに陥っています。今、日本は物価高、燃料高に悩まされています。物価は高騰しているのに、先進国のなかでも日本だけ賃金が上がらず、さらに円はどんどん安くなっています。アメリカやヨーロッパに比べると、実感値として、2~3倍、モノの値段が開いている状況です。コロナ禍でなんとか持ち堪えていた日本経済もいよいよコロナ対策の補助金対応が弱くなり、2022年7‐9月期のGDPは4期ぶりにマイナス成長になりました。さらに社会保障費が増額され、2023年秋からはインボイス制度の導入も始まり、締め付けが厳しくなるので、税金の負担が多くなり、将来の展望が描きづらいというのが現状です。稼ぐ力がないので、金融緩和を終わらせることができない日本。2008年のリーマン・ショック以降、金利を低く抑え、貨幣の発行量を増やして、人々がお金を借りやすい状況にして、不景気を支えてきました。世界各国がこのような金融緩和政策をとってきたのですが、これをやり続けると貨幣の価値が暴落し、「多額のお金を出してもモノが買えない」というインフレが進んでしまいます。ある程度稼ぐ力がついてきたので、そろそろ終わらせていいだろうと、’22年の3月にアメリカが出口戦略(金融緩和の終了)を導入。ヨーロッパもそれに続きました。ところが日本だけ追随することができなかったのです。なぜなら、賃金が上がっていないから。この状態のまま金利を上げたら、途端にローンが支払えないなどの事態に陥り、日本経済は混乱します。また、日本企業の衰退も影響しています。自動車産業はガソリン車からEV車に取って代わろうとしていますし、世界に誇っていた大手家電メーカーも他国に追い抜かれ、半導体産業は台湾や中国、韓国に持っていかれ、日本はこれから何で食べていけばいいのか、先ゆきが見えません。日本の成長が見られず、円が買われなくなった。世界経済が不穏になったときには、リスク回避として安定した円が買われていたのですが、日本が成長しない国となれば円を持っていても仕方がないので、投資家たちは皆、手放すようになります。するとますます円の価値は下がってしまいます。これまでは、モノの値段が下がる企業の収益が下がる賃金が下がる(売れないので)さらにモノの値段を下げる、といったデフレスパイラルが起きていました。それを改善しようと、いまモノの値段を上げています。しかし、賃金は上がらないままなので、スタグフレーションという最も警戒しなければならない局面にさらされてしまいました。暮らしを立て直すには、投資、あるいは副業。新しく稼ぐ道を!賃金を上げるためには、需要、仕事を作らなければいけません。これまでは、公共事業を増やし、仕事を作って金回りをよくしました。しかし、オリンピックを招致しても、それはうまくいきませんでした。岸田政権では、デジタル田園都市国家構想といい、地方のデジタル化を進めて、一次産業や観光に付加価値をつけようとしています。ただ、それがどれほどの恩恵をもたらすのかはまだ見えていません。今後も賃金が上がる見込みはなかなかないので、国は個人に向けて、NISAやiDeCoのルールを緩和方向へ。限られた資産をうまく運用して将来に備えてほしいと呼びかけています。また、副業解禁の波は2023年以降も広がるでしょう。自分の専門的な技術を持って、業を起こしていく人たちがより増えていくと思います。金融機関も新しいベンチャー企業に融資しようという姿勢になっているので、アイデアと意欲がある人は、すぐに起業したほうがいいでしょう。働きながら、学び直しをして新たな技術を身につける、リスキリングの支援も国では始めています。AmazonやTwitter社での大量解雇がニュースになりましたが、それらの会社で技術を身につけた優秀な人材はほかの分野で新たな仕事を生みます。人材の流動性があるから、アメリカは成長できているのだと思います。日本の企業も学びと働く環境をセットに、新たなことを生み出そうとする人を優遇していこうというふうに変わっていくと思います。五月女解読員のひと言リスキリング。仕事を軸に持ちつつなら、「生まれ変わる」ほど大ごとじゃなく、自分をバージョンアップできる感じがしていいですね。私もイラストを軸に、職人に弟子入りしたり、エクセルで、事務処理も自分でできるようになりたいです。ほり・じゅんジャーナリスト。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)、『ABEMA Prime』(ABEMA)などに出演中。監督作に『わたしは分断を許さない』など。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、面白楽しいオリジナルグッズを多数、販売中。LINEスタンプも各種展開。近著に細川徹との共著『桃太郎、エステヘ行く』(東京ニュース通信社)がある。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月30日桃太郎の人生の行き先は鬼ヶ島だけではないはず!エステやテレビのロケ、宇宙に行ったり、オンラインで鬼退治をしちゃったり。五月女ケイ子さん・細川徹さんが妄想を爆発させて作った『桃太郎、エステへ行く』。気が抜けて平和に笑えること必至。脱力の名手のご夫妻に本作の創作の裏側を語ってもらいました。楽しくて平和。思わず笑みが溢れる脱力の、妄想桃太郎ストーリー。五月女ケイ子:連載していた「テレビ昔ばなし」を書籍化することになり、桃太郎をモチーフにバカっぽい昔話を加えようということになって。細川徹:最初、「続・桃太郎」みたいなのを少し書いたんだよね。五月女:まず細川さんが文章を書いて、物語に合わせて私が絵を描くんですけど、『ロッキー2』みたいな真面目な熱いお話になって、私の描きたいテイストじゃなかった(笑)。細川:すごく堅くなっちゃって。そうしたら、「桃太郎がエステに行くとかさー、そんなんでいいんじゃん」と五月女さんが思いつきで言って、「それいいじゃん!」ということになりました。五月女:施術を受けて、うっとりしている桃太郎の絵が浮かんだんです。細川:あの時点で浮かんでたの?すごいね。この絵いいよね。受付の犬もかわいいし。五月女:猿がマッサージをして、雉が桃太郎のすね毛を優しく抜いていて、愛に満ちあふれている(笑)。細川:基本的に夫婦の仕事は「自由にやってください」とオファーされることが多くて、「やりたいことやらなきゃ」と僕は逆に力が入っちゃうんです。休みの日に、寝てればいいのに、はりきって予定を詰め込んで疲れちゃうみたいな(笑)。そういうとき、(五月女さんが)いつも力を抜いてくれるので、助かってます。五月女:私の好きな細川さんの作る世界というのが明確にあるんですよね。大学時代に見せてもらった脚本が衝撃的に面白くて、あれを追い求めている気がします。力が抜けていて、のどかで暢気で、いい人しか出てこないみたいな世界。細川:最初の俺の原稿では、桃太郎たちがバリバリに戦っていたもんね。五月女:戦いはハリウッドでやればいいことで、夫婦で作るものは平和がいいと思う。1話の「エステへ行く」では、桃太郎の美しさに惹かれて、鬼が自分もキレイになりたいと言い出すところが好きです。細川:絵にするのは難しいだろうなと思いながら書いた話もけっこうありました。「オンライン鬼退治」とか、絵的に地味になるだろうなと思ったら、すごくダイナミックな絵が上がってきてびっくりしました。五月女:細川さんとの仕事は必ずと言っていいほど、現実にはありえない状況を絵にしなきゃいけなくなるんですよ。見本がないんです。動物園の動物が全部、家に来ちゃうとか。細川:たしかに、資料はどこにもないね(笑)。妄想で描くしかない。五月女:毎回、新しい扉を開けてもらっています。私も昔からおかしなことは考えていたけれど、人を笑わせるなんて畏れ多いと思っていたから、面白の作り方は細川さんの背中を見て学びました。どうやって考えているのか何回も聞いたけれど、言葉では説明できないらしいんです。細川:理屈はわからない。キミは面白い理由を翻訳できるよね?五月女:うん。私は言葉を探したいほう。「脱力」って、自分をよく見せようとするとできないと思うんですよね。これはそういうのが詰まった本じゃない?細川:そうだね。全然背伸びしてない(笑)。桃太郎っていろんな話を考えやすいと思うんです。もし、会社に桃太郎がいたら?とか、『anan』の取材を受けたら…とか。五月女:それ、楽しいね!描いてみたい。これを読んで、気楽に力を抜いてもらえたらいいなと思います。絵/五月女ケイ子作/細川 徹『桃太郎、エステへ行く』書き下ろし11作とテレビ番組と昔話を掛け合わせた「テレビ昔ばなし」を収録。松平健の読み聞かせ動画がYouTubeのTV Bros.公式チャンネルで配信中。そおとめ・けいこイラストレーター。2002年、細川徹と組んだ『新しい単位』(扶桑社)で独自の世界観を獲得。LINEスタンプは海外でも人気に。ほそかわ・とおる映画監督、脚本家、演出家。2023年3月4日~、明治座創業150周年記念前月祭『大逆転!大江戸桜誉賑』の脚本と演出を担当。※『anan』2022年12月14日号より。写真・小笠原真紀中島慶子(本)取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月13日本誌連載「社会のじかん」で、堀潤さんのニュース解説に、読者目線の素直なコメントと、ひねりの利いたイラストでページを盛り上げている五月女ケイ子さん。現在、2年ぶりの個展が開催されている。タイトルはずばり「野望」!「野望」を夢想していると、毎日がきっと楽しくなってくる。「『天下取りたい!』というような大きな野望もあるけれど、ケーキをお腹いっぱい食べたいとか、小さな野望もたくさんあるなと思って。身の回りにあふれている野望を絵におとしこめたら、と考えたんです」メディアで大活躍の五月女さんだが、キュートでクスリと笑っちゃう、一目で“五月女ケイ子作品”とわかる独自の世界観がある。「私の描く絵は、どれも野望が隠れているなと思ったんですね。夢を見ていたり、希望を目指したり。目のなかの星や、膨らみ気味の鼻の穴に表れているなって(笑)」コロナ禍によりいろいろと日常が制限されている、いまの時代性も反映されているよう。「コロナ禍前に普通にしていたことも、やり方を忘れてしまったというか、うまく元に戻れないところがある気がします。『屋外ではマスクを外していい』と言われても、なかなかできなかったり。人通りの少ない夜に、自転車で帰る途中、マスクをパッと外したときに『野望達成!』と勇ましい気持ちになりました」五月女さんは、自分のできないことを絵にしていることが多いと感じている。「フットワークの軽いタイプではないので、家にこもって描きながら、私の代わりに私の絵が外に出て、みんなとコミュニケーションをとってくれているような感じです」個展の絵はデジタルを使わずアナログな手法で描く。印刷物と違い、重ね塗りや筆遣いがすべて残るので、いつも以上に緊張するらしい。「眉毛1本の違いでも、表情が変わっちゃうんです。描きかけのものをしばらく寝かせて、悩みながら描いてます。ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』が未完成だったというのがすごくわかる。ずっと手を入れたくなっちゃうんですよね」アイデアを考えるときがいちばんの至福。ノートにはたくさんの野望スケッチが鉛筆で描かれていた。「夢というと真面目に語らなきゃいけない感じがするけれど、野望は無責任に言える気がします。汗だくで家に帰って『冷たい麦茶を飲み干すぞ!』と思うのも野望。いまや夜ふかしすら野望(笑)。野望を妄想していると楽しい気持ちになります。絵は私にとって夢を叶える道具。まずは自分を元気にさせているのかな」メインカットは、決意に満ちた女の子のアップ。頭には松!天下統一を目指して、みんなでGO!大好きなものを手に、ソファに埋もれて。髭は、野望の象徴なり。楽しい妄想が満載、気持ちアップ間違いなし!五月女ケイ子個展「野望」ギャラリーハウスMAYA東京都港区北青山2‐10‐26開催中~10月15日(土)11:30~19:00(土曜、最終日は~17:00)日曜休無料TEL:03・3402・9849 個展では2023年のカレンダーも発売される。そおとめ・けいこイラストレーター。山口県生まれ。雑誌、テレビ、広告で大活躍。近著に『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)。「淑女のご挨拶スタンプ」「わりと動く!五月女ケイ子スタンプ」などLINEスタンプも人気。※『anan』2022年10月12日号より。写真・土佐麻理子インタビュー、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年10月09日2015年の国連サミットで採択され、2030年のゴールまでちょうど折り返し地点の今、SDGsは本当に正しく浸透してる?本誌連載「社会のじかん」の堀潤&五月女ケイ子が、持続可能で、課題のない未来実現のために大切なことを考えます!国連サミットで「誰ひとり取り残さない」ことを誓い、SDGsが採択されたのが2015年。17の持続可能な開発目標を掲げて、2030年までに達成することを目指しています。しかし、残り8年となった今、実際はどこまで実現できているのか。「SDGsという言葉は世の中に着実に浸透して、“何かしなければ”という意識は広まったと思いますが、実際に行動や社会に変化が起きているかというと、そこにはまだ至っていないですね」と、堀潤さん。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんら若い世代は、大人たちは言い訳ばかりで何も行動に移していない。今すぐ行動を、と強い口調で訴え続けています。堀さんは、SDGsの一部の目標に注意するだけにとどまり、全体を見渡すことや本来の目的にまで思いが届いてないのではないかと心配しています。日本の現状は?いま私たちが知るべきこと、やらなければいけないことは?五月女ケイ子さんを聞き手に、2022年、SDGsの今を堀さんに解説していただきました。番号はあくまで入り口。そこに囚われないで。――SDGsの目標期限は2030年です。あと8年で達成できるのでしょうか?17の目標(ゴール)には、さらに169の細かな指標(ターゲット)があるんですよ。――えー!宿題が多すぎます。夏休み最終日の小学生みたいな気持ち。間に合うのか心配になっちゃいます…。皆さんが、すべての目標を達成しようとする必要はないんです。17の番号はあくまでも“入り口”。気になった項目を見つけて、そこから考えてみませんか?という提案なんですね。平和に関心があるから16の「平和と公正」から始めてみようとか、LGBTQの友達がいるから5の「ジェンダー平等」から考えてみようとか。ただ、企業を見ていると、「私たちは環境にコミットしています。ただし、人権問題に関しては政治問題に絡むのでノーコメントです」とか、「飢餓をなくそう」というキャンペーンに賛同しているのに、社員の賃金を上げることには及び腰だったり…というのが気になります。――ある項目を頑張って解決しようとすると、別の項目が解決できなくなるってことですか?いえ、その逆です。社会問題は、根本の原因を探っていくと、環境も人権も平和もジェンダーも皆絡み合っているんです。たとえば、貧困問題を例に挙げると、原因はいくつも考えられます。お金を稼ぐための知識や技術がない4「教育をみんなに」。男女で賃金差がある5「ジェンダー平等」。災害に見舞われて食糧が生産できない13「気候変動」。戦争が続いていて働けない16「平和と公正」。搾取される側にいる17「パートナーシップで目標を達成」。このように、ある問題は他の多岐にわたる項目とつながっているので、それらを解決することでようやく改善できます。SDGsの目標は、そんな巧みな設計になっているんですね。――なるほど!どこから始めてもいい理由が、よくわかりました。SDGsという言葉は広まりましたし、掲げる企業も増えました。でも、SDGsを知っているだけでは問題解決にはなりません。グレタさんが大人たちのお尻を叩いているように、実際に行動を変えていかなければなりません。国連はSDGsのゴール達成を呼びかけていますが、皮肉なことに戦争や紛争、環境汚染に歯止めがかからない状態。飢餓人口の増加も深刻になっています。ここで諦めたら世界は破綻してしまいます。諦めずに問題解決に向かえば、未来に希望はあるかもしれない。その瀬戸際に立たされています。――SDGsというと、どうしても“=環境問題”というイメージが強いです。そうですね。企業などではそのテーマが一番謳いやすいのだと思います。環境問題の解決法は、石炭火力をやめてCO2を減らすことと思われるかもしれません。もちろんそれは大切なことですが、環境を汚染しているのは石炭だけではありません。戦争によって、モノが破壊されて土壌が汚染されたり、原発事故により放射線物質で汚染されることも。経済成長のために過剰な開発を進めて、汚染水が排出されるというケースもあります。SDGsは「森を再生させよう」「CO2を削減」「ペットボトルをやめてマイボトルに」ということにとどまりがちですが、本を正せば、戦争を起こす政治の対立や民族紛争、人権侵害や貧困格差も原因にある。そこにも目を向けて解決していかないといけないと思います。でも、中国の新疆ウイグル自治区の人権侵害問題があっても日本の企業は、政治的な問題に関わるからと触れないようにしているところが多いですね…。――企業が政治的な発言を避けるのはどうしてですか?問題になっている国とのビジネスができなくなるかもしれないとか、政治色がつくと商品を買ってもらえなくなるのではないか、という心配があるのかもしれません。ただ、欧米では、ウイグル問題が明らかになったときに、いち早くアディダスが「(ウイグル自治区の強制労働に関わっていないか)うちのサプライチェーンを見直します」と発表し、それに多くの企業が続きました。一方、テスラは「中国の市場は大事なので、ウイグル自治区にショールームを作ります」と対抗。このように、欧米では企業のスタンスを明確にすることが、信頼や価値を得ると考えられていますね。――SDGsが目標達成から遅れている理由は何ですか?いくつか考えられますが、日本の場合、企業がまだこれをビジネスチャンスと思えていないことが大きい気がします。ただ、ESG投資といって、環境や人権に感度の高い企業にしか投資をしないという潮流ができてきているので、欧米諸国にならい、日本の企業も次第に関心が向くようになりました。Appleが「環境に負荷をかけている企業とは取引を見直す」と発表したことで、その動きは加速しています。たとえば、日本の電力は火力発電がベースになっていますが、「再生可能エネルギーを増やしてほしい」と企業が政府に陳情し始めているんですね。――日本は、課題のなかでもジェンダー問題が遅れていると聞きますが、どうでしょう?ジェンダー関連では、国会議員に占める女性議員の比率が世界平均は25.5%、日本はいまだ9.9%です。参議院は22.6%ですが、衆議院は圧倒的に少ない。世界経済フォーラムでのジェンダー・ギャップ指数ランキングで、日本は2021年では156か国中120位です。政治分野では、“各政党はジェンダーに配慮する目標を作る”という法律が作られて、選挙のときに、男女の候補者数ができるだけ均等になるよう目指す、という合意をとりつけました。罰則規定はないので、すぐには実現しないかもしれませんが、大きな変化ではありますね。堀 潤さん1977年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。NHKアナウンサーを経て2013年独立。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)に出演中。著書に『わたしは分断を許さない』(実業之日本社)。五月女ケイ子さん1974年生まれ、山口県出身。イラストレーター。『親バカ本』(マガジンハウス)、『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)ほか著書多数。2018年には台湾にて展覧会「五月女桂子的逆襲」を開催。LINEスタンプ「淑女のご挨拶」も大好評。※『anan』2022年3月30日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年03月26日引き続きコロナ禍にあった2021年。2022年はいったいどうなるの?読者を代表してイラストレーター・五月女ケイ子さんが堀潤さんに“世界の課題”について聞きました!テーマは「バランスが変化する世界情勢。いまこそ国際協調を!」です。コロナ禍で加速した飢餓問題。SNSを使い私たちにもできる支援を!堀潤(以下、堀):世界情勢は、2022年も深刻になるでしょう。世界的に飢餓が進んで歯止めがかからなくなっています。国連WFPによると2019年には約2700万人だった餓死寸前の飢饉に陥っている人が、直近で4500万人まで跳ね上がってしまいました。五月女ケイ子(以下、五月女):そんなに急激に!?新型コロナの影響ですか?堀:コロナと紛争ですね。コロナ禍によって生産活動が続けられなくなったり、紛争やテロにより、その土地に安心して暮らせないことも重なって、すごい勢いで増えています。飢餓が増えれば、不満はあふれます。スーダンでは再び軍事クーデターが起こり、アフガニスタンではタリバンが息を吹き返し、エチオピア、ナイジェリア、イエメン、イスラエル、パレスチナ、ミャンマーなどで混乱が起きています。さらに多くの国々で拡大すれば世界が分断しかねない状態です。五月女:どうしたらいいんでしょう?堀:先進国が経済的支援や、国と利害が対立してしまった勢力との橋渡しをするなど積極的に関わることだと思います。いまこそ国際協調。余力のある国々が世界の飢饉に目を向けて、手当てすることをやっていかないといけないと思います。五月女:2021年はアメリカがアフガニスタンから撤退して、また混乱しちゃいましたよね?堀:支援の仕方を考えなければいけないんですよね。いままでの資本主義の支援は、開発した国や企業から利益を吸い上げて、その土地には申し訳程度に分配していました。持続可能な経済にするために、その土地で業を起こして、地域の人たちにちゃんと利益が分配できるようにしないといけないんです。アフガニスタンでは医師の故・中村哲さんがそういう活動をされていました。タリバン政権も、NGOなどソーシャルセクターの活動は大事だと認識し始めています。五月女:でも、日本で生活をしていると、NGOの方々の活躍ってあまり耳に入ってきません。私たちにできることはありますか?その土地のものを買うとか?堀:それもいいですが、やはりSNSで発信することだと思います。タリバンが好き放題できないのはSNSの時代だから。タリバンに女性教育を止めさせないよう、アフガニスタンの女性たちが抗議する姿をSNSで世界中に拡散することで、権力を監視し、抑制することができます。NGOの活動を知り、それを広く知らしめることも支援の一つ。私たちはその一役を担うことができるんですね。ほり・じゅんジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングFLAG』(TOKYO MX)、「ABEMA Prime」(ABEMA)ほか、レギュラー多数。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年の商品も取り揃えている。LINEスタンプも展開。『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)が発売中。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月28日『anan』で連載中の「社会のじかん」スペシャルバージョンをお届け!読者を代表してイラストレーターの五月女ケイ子さんが堀潤さんに2022年の日本や世界について質問します。ここでは「地方創生」と「宇宙」に注目!デジタルの力で地方から日本を元気に。堀潤(以下、堀):2021年はデジタル庁が立ち上がりました。岸田政権では「デジタル田園都市国家構想」を掲げています。デジタルを使い、都市部と地方の格差をなくして、地方を活性化させようという構想です。日本経済を復活させるには、地方が元気にならないといけないんですね。五月女ケイ子(以下、五月女):私は山口県出身なんですが、先日娘に、「田舎は東京と全然違うんだよ」って話をしたんです。テレビ番組でも映画やお芝居、ライブでも、触れられるものが限られていました。文化的にすごく差があったんです。でも、今はTVerでどこでも同じ番組が見られて、Amazonを使えば珍しい本も手に入る。配信ライブもあるし、私の子供のころとだいぶ違うぞ?と気づきました。堀:これからは「地方創生×デジタル」がキーワードになって、ますます地方との距離はなくなると思います。地方で寝たきりのおばあちゃんの、毎日の体温を東京のお孫さんがウォッチできるようになるとか。地域から直接世界に向けて、SNSを使って地元の魅力を発信するようなことも増えてきていますよね。五月女:そういう動きに国は補助をしているんですか?堀:デジタル庁は、地域の細かな仕掛け作りをしている最中ですね。5Gなどのインフラ整備、遠隔医療や教育、スマート農業、交付金を出したりデジタル活用支援員を全国に展開しています。また、少し先の話をすると、政府はムーンショット目標というのを掲げているんです。五月女:初めて聞く言葉です。堀:2050年までに、人が体や脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するというものなんですね。五月女:え?どういうことですか?堀:たとえば、五月女さんのアバターたちが、仮想空間のなかでお仕事を受けて、五月女さんの技術を使ってイラストを勝手に描いてくれるとか。五月女:私が2人いるということ?堀:何人でも使えます。五月女:それいい!PTAやママ友とのやりとりにも使えて便利ですね(笑)。堀:いいですね(笑)。ムーンショット目標に向けて、アバターやBMIといった世界がこれから様々な分野で裾野を広げていくと思います。2022年は「宇宙」がキーワード。新しい事業に投資も盛り上がるかも。堀:2022年は、「宇宙」に関するニュースが目白押しなんです。五月女:宇宙ですか!堀:まず、大分空港がアジアで初めて水平型宇宙港の準備をスタートさせます。ロケットを搭載した飛行機の離着陸をする場所に選ばれたんですね。アメリカの民間ロケット企業のヴァージン・オービットと提携して、2022年には人工衛星を打ち上げる計画があるそうです。五月女:大分から宇宙ですか。すごい!堀:また、海外に話を広げると、2022年には中国の宇宙ステーション「天宮」が完成します。そして、インドが有人宇宙船を打ち上げる計画もあります。ロシア、アメリカ、中国につぎ、4番目の飛行になります。五月女:世界的に宇宙イヤーなんですね。堀:アメリカは2019年に宇宙軍を創設しましたが、日本では’20年に自衛隊府中基地に「宇宙作戦隊」を発足しました。’22年度には、山口県防府市に第2宇宙作戦隊を新設します。五月女:なんだかSF映画のような世界が現実になっていっているんですね。堀:民間発の月面探査チームHAKUTOは、HAKUTO‐Rという新たなプロジェクトを立ち上げて、2022年にロケット打ち上げ、月面に着陸してサンプルを採集する予定。ですから、宇宙に対する投資も加速していくでしょうし、宇宙がより近く感じられる年になるんじゃないかと思います。五月女:宇宙って、いくらくらいで行けるんですか?堀:いまなら何千万円単位でしょうね。五月女:小学生の娘が大人になるころは、もう少しリーズナブルになりますか?堀:そうですね。国費で海外留学みたいなイメージで、いつか子供たちを宇宙に連れていってほしいですね。五月女:修学旅行先が宇宙とか?(笑)そんな子供たちが大人になったらきっと世界は変わりますね!ほり・じゅんジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングFLAG』(TOKYO MX)、「ABEMA Prime」(ABEMA)ほか、レギュラー多数。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年の商品も取り揃えている。LINE スタンプも展開。『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)が発売中。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月27日『anan』で連載中の「社会のじかん」がスペシャルバージョンに!読者を代表してイラストレーターの五月女ケイ子さんが堀潤さんに質問しました。テーマは「新政権になり、日本の政治や経済はどうなる?」です。“新しい資本主義”を掲げる岸田政権。再分配をテーマに、暮らしは良くなる?堀潤(以下、堀):この2年、コロナ禍で国民は弱りきってしまいました。そこで岸田政権は「新しい資本主義」を掲げました。五月女ケイ子(以下、五月女):それはどういうものですか?堀:いままでの資本主義は、市場の自由競争に委ねて、勝ち上がる人は勝つ仕組みだったんですね。ところが競争が進みすぎて、お金持ちや大企業は成長するけれど、そうじゃない人は吸い上げられてしまう、格差が広がってしまいました。世界的にそういう事態は起きており、岸田政権は、市民が安心して物が買えて、暮らせるように再分配をする「成長と分配の好循環」というのを目指すと謳ったんです。これが実現できるかどうかが今後の大きなポイントになります。五月女:ぜひ、分配してほしいです!これから景気は良くなりますか?堀:暮らしのレベルでは良くなる可能性はあると思います。コロナ禍が落ち着いて人の流れが戻ってくるでしょうし、再分配策をしっかりやりましょうと言っているので、2022年の参議院選挙の前には、与党も選挙に勝つために、大盤振る舞いするんじゃないかと思います。五月女:給付金みたいなことですか?堀:給付金だけでなく、住居費の負担軽減、学費の補助や省エネ家電のサブスク化、企業にとっても活動しやすい税の仕組みの導入など、国民の納得することをして、はずみの年にすることは間違いないでしょう。五月女:最近、お金の価値が変わってきているのを感じるんです。前は買えていたものが買えなくなってしまった。子供の遠足のおやつの300円で買える範囲がかなり限られてきたなあと(笑)。堀:政府のインフレ誘導が効いているんでしょうね。日本は、価格が安いほうへと競争が進んで、利益を得られないからお給料も減る、さらに物が売れなくなってまた値段を下げる…というデフレの悪循環が続いて抜けられなかったんです。国はもっとお金を刷ってたくさん市場に供給してお金の価値を下げ、インフレに持っていこうとしています。そうすると所得も上げられるようになるだろうと。五月女:でも、所得はそんなに増えてないですよね?なぜなんでしょう?堀:企業の賃上げが足りていないのも要因の一つです。こういう状況を「スタグフレーション」といいます。企業としてはリーマンショックのようなことがいつ起きるかわからないので、従業員に還元せず、お金を貯めておきたいんですよね。五月女:もっとみんなのお給料に回してほしいです。あ、もしかして、私のイラストの稿料も上げてくださいって言ってもいいのかしら?実は仕事を始めたころから、イラストレーターのギャラってたぶんほとんど変わってないんです。お菓子の値段は上がっているのに(笑)。堀:そういうことは日本の各地で起きているようですね。経営者にとってもSDGs、持続可能な発展は大事なキーワードなんです。従業員のみなさんや取引先のみなさんから搾取するような現状はいけませんよ、という旗振りですね。大企業には課税を強化する形で、大きな利益を上げた企業から税金を集め、それを従業員の暮らしを支えることに回す、社員の雇用を守った会社には税金で優遇するというようなことで進みそうです。五月女:税金を払ってよかったなと思えるような分配策をやってほしいですよね。ほり・じゅんジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングFLAG』(TOKYO MX)、「ABEMA Prime」(ABEMA)ほか、レギュラー多数。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年の商品も取り揃えている。LINEスタンプも展開。『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)が発売中。※『anan』2021年12月29日‐2022年1月5日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「選挙イヤー」です。よりよい暮らしのために、政治に判断を下せる好機。今年は選挙イヤー。前政権を受け継ぐ形で誕生した菅内閣は10月21日に任期満了します。ですから、それまでに必ず衆議院議員選挙が行われます。コロナ対策やワクチン、東京オリパラ、経済政策など、菅政権の是非を選挙によって総合的に判断を下すことができるのです。4月に広島再選挙、長野、北海道で補欠選挙が行われましたが、政治とカネの問題をめぐり与党に厳しい審判が下されました。2009年には政権選択選挙と謳われ、民主党政権が誕生しました。再び政権交代があるのか、注目が集まっています。その前哨戦になるのが7月の東京都議会議員選挙。前回は小池百合子さん率いる都民ファーストの会が圧勝しました。選挙について、選挙期間中に考え始めても遅いと思います。期間中は、コロナ対策や消費税など、わかりやすい一つのテーマに公約は絞られがちです。解決しなければいけない問題が山積していても、政治家たちが議論したいテーマに有権者は誘導されてしまいます。そうならないために、普段から自分がどんなことに不安を抱え、どんな未来を描きたいのか。それに対して候補者がどんな考えを持ち、対処しているのかをウォッチしておかなければなりません。まずは自分の選挙区が何区なのかを把握しましょう。出馬する候補者の大半は現職の政治家ですから、彼らが公約を守ったのか調べてみる。SNSでどんな発信をしているかも有効なチェックポイントになります。人々の関心が薄いと、あっという間に強い権限の法律が通ってしまいます。この春に成立した、まん延防止等重点措置の「酒類禁止」の項目はプレス発表もなくさらりと加えられました。なんとなく受け入れてしまっていますが、飲食店にとっては死活問題です。ワクチン接種も、首長や議会の手腕次第で、スムーズに進む自治体、進まない自治体に分かれます。政治は特別なものではなく、私たちの暮らしに密着しているのです。もしも投票したい候補者が見つからない場合には、あなたが出馬するという方法もあります。衆院選や都議、県議は25歳以上に被選挙権があります。政界も若い風を強く求めていますから、チャンスです!堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年6月23日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年06月18日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「温室効果ガス46%削減」です。環境の問題だけではなく、経済の生き残り策 。4月に気候変動サミットが開かれ、各国が温室効果ガスの削減目標を表明しました。日本は2030年度までに2013年度比で46%削減するという新たな目標を掲げ、「50%の高みに向けて挑戦を続ける」と発表。それまでの目標値は26%削減でしたから、一気に引き上げた形になります。ところが、環境問題に熱心に取り組む若い人たちが、その数字では足りないと、経産省前でハンガーストライキを行いました。パリ協定では、世界の気温上昇を産業革命前と比べて1.5°Cに抑えることを目標に定めています。そこまで効果を出すには日本は62%の削減が必要だと訴えたのです。ちなみに他国の目標値は、アメリカは2005年比で50~52%削減。EUは1990年比で55%以上減。イギリスは1990年比で78%以上減です。アメリカのバイデン大統領は、オバマ政権で謳われた、温暖化防止と経済格差是正の両方を行う経済刺激策「グリーン・ニューディール」をさらに強化し、「クリーンエネルギー/持続可能インフラ計画」に4年間で総額2兆ドルを投入すると公約で掲げました。中国は、公害により健康被害が多く出たことを機に、環境対策に積極的になり、2030年までの温室効果ガス削減目標は2005年比で65%以上削減。また、2035年の新車販売でガソリン車をゼロに。電気自動車を中心に省エネ・新エネルギー車の割合を5割にし、残りの5割もすべてハイブリッド車にすると昨年秋に発表しました。欧米や中国の削減目標値が高いのは、環境対策がこれからの経済の主戦場になると踏んでいるからです。欧米の大手企業は、石炭や火力による電力に依存する企業とは取引しないと公言していますから、日本も再生可能エネルギーの比率を上げるなどの対処をしないと、このままでは世界の経済市場から日本の企業は排除されてしまいます。環境対策は、地球を守るというイデオロギー的なものから、産業の生き残り策に大きく変わったんですね。AIや再生可能エネルギーなど、あらゆるテクノロジーを駆使し、環境に負荷をかけない産業政策を、国が本格的にとる必要があるのではないかと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年6月16日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年06月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「出入国管理法改正案」です。難民は犯罪者ではない。廃案後も対応是正を求める。日本の入国管理のあり方が国際的に問題視されています。まず、難民認定率が1.2%(2020年)と、とても低い。さらに、難民申請を却下された外国人が、入国管理の施設に長期間収容されていることも問題になっています。家族と引き離され、無期限勾留のような状況で、体調を崩してもきちんとした手当てが受けられません。扱いが非人道的ではないかと、国連からも再三勧告を受けていました。今国会では出入国管理法の改正が審議されました。改正案には、難民認定手続き中は強制送還が停止されるという規定を3回目以降の申請には適用せず、本国に送還できるという変更が含まれていました。しかし、内戦や封建的な軍政から命からがら逃れてきた人を母国に送り返せば、その人は殺されてしまうかもしれません。改悪案だと、多くの人が反対の声をあげ、3月に名古屋入管施設に収容中だったスリランカ人女性が死亡し、その管理状況が問題視されたことも受け、与党は今国会での審議を断念しました。難民申請をしている人が本当に難民なのかを判定するのは確かに難しいです。パスポートはもとより、その人を証明するものがないからです。けれども、難民=犯罪者ではありません。ただ、入管庁は麻薬カルテルの一味や武装集団を入国させないよう水際を守るのが仕事ですから、入管庁の中で難民審査を行うこと自体に無理があると思います。たとえば、難民局を作り、難民なのか、虚偽の申請をする偽装難民なのかを審査できる体制を整える必要があるのではないでしょうか。日本は難民申請を厳しくする一方で、特定技能制度など、外国人労働者を受け入れる規制緩和はしてきています。労働力のためには門を開き、助けを求める人には閉ざすというのは矛盾しています。欧米には多民族、多文化の土壌があり、移民を国力に反映させる術を持っています。その点、日本は多様性を受け入れるのが不得意なんですね。廃案になっても難民に対する日本の対応は問題が残っています。もしも日本が戦争状態になり、自分が国を逃れ難民になったとしたら?と想像力を働かせて考えてみてほしいです。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年6月9日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年06月05日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「総力戦研究所の教訓」です。空気に流されず、科学的根拠に基づいた政策を。80年前の12月に太平洋戦争は始まりました。ところが開戦の年の4月に当時の帝国政府は「総力戦研究所」を立ち上げ、日米開戦となった場合にどのような戦況になるのか、様々な観点から検証するよう指示を出していました。研究所に集められたのは30代前半の精鋭たち。大蔵省や商工省など省庁のエリート官僚や、陸軍省の大尉、海軍省の少佐、日本製鐵、日本郵船、日銀、同盟通信社(のちの共同通信社)の記者ら30数名で、模擬内閣を作り、徹底検証されたのです。当時の証言や資料をもとに猪瀬直樹さんがまとめたルポルタージュが、1983年に出版された『昭和16年夏の敗戦』です。総力戦研究所が引き出した結果は、序盤は日本優位に進み、中盤は産業力、物量の差が明らかになり戦況は悪化、ソ連の参戦で開戦から3~4年で負けるというものでした。ところが、すでに世の中は開戦の機運が高まっており、メディアもそれを煽るようにしており、引くに引けない状況に陥っていました。天皇はこの空気を諌めようと、東條英機に託し、日米交渉の姿勢を見せたところ、「東條弱腰」と多数の批判の投書が寄せられた。結局、東條は「日露(戦争)がそうだったように、戦争はやってみないとわからない」とエリートたちの試算を反故にし、予想通りの敗戦になってしまったのです。実は昨年、この本が再びヒットしました。それは新型コロナウイルスの対策をめぐり、同じようなことが起きたからです。科学者や医療関係者が、人々の行動規制案を提出しましたが、専門家会議は解体され、ひとつの分科会に格下げとなり、データ活用のために立ち上げた接触確認アプリCOCOAは、数か月にわたり機能していなかった事態が明らかに。人々の行動の追跡も、PCR検査もままならない状況では何も判断できません。科学的根拠のないまま、Go Toや東京オリパラなど、まあなんとかなるだろうと正常性バイアスがかかり、精神論で乗り越えようとする節がある。80年前と変わっていない体質があることを認識しなければいけません。これは僕ら一人一人に刷り込まれた感性かもしれないと、自分を疑う目線を持っていたいですね。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年6月2日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年05月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「データ安全保障」です。大事な国民の情報。外資の民間企業に預けて大丈夫?3月、LINEがシステム開発を中国の関連会社に委託しており、現地スタッフが個人情報にアクセスできる状態だったことが判明し、問題になりました。総務省内ではLINEの使用は禁止され、自治体や行政機関は一時サービスを停止する事態に陥りました。個人情報が漏洩したのではなく、スタッフがアクセス可能だったというだけで大騒ぎになったのは、相手が中国だったからです。自由と民主の価値観を共有できる、法のもとに平等な国ではないため、危機感を抱いたのです。しかし、私たちは普段、AmazonやGoogleにも個人情報を差し出しています。相手がアメリカならば安全と言い切れるのでしょうか?いま、公的機関が私たちのデータを、民間のデータセンターのサーバーに預けるということが加速しています。Amazonは公共部門のグローバル展開に力を入れており、日本政府は昨年、政府共通プラットフォームをAmazonのクラウド・コンピューターサービス「Amazon Web Service(AWS)」に移すことに決めました。Amazonの公共部門のパートナープログラムに参加している企業は2020年で前年比45%増。FBIもAWSで情報管理しているとAmazonは安全性をアピールしています。日本では、テレビ局もコスト削減のため、取材映像をGoogleのデータサーバーに保管しています。取材源の秘匿の問題がありますし、そもそも日本の放送資源を外資系企業のサーバーに預けてよいものか?データの安全保障に関して、日本はとても認識が甘いと言わざるを得ません。現在、日米関係は良好ですが、永続的なものとは限りません。有事にはデータが削除されたり、日本国内でアクセスできなくなる、あるいは政治交渉の切り札に使われる可能性もあります。EUはその点、強い危機意識を持っており、データをEU圏外に持ち出すことを法律で規制しています。便利で低コストで管理できることは大きな魅力ですが、国家100年を考えたとき、データ主権を持ち、データ安全保障を考えた上で、自分たちの情報は自国で守ることが必要なのではないかと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。新しい朝の報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~8:00)が放送中。※『anan』2021年5月19日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年05月15日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「Quad(クアッド)」です。インド太平洋地域の平和のため連携し中国に対抗。「Quad」とは、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国が軍事的、経済的に連携をしていこうという枠組みです。インド太平洋地域で強引な海洋進出を繰り返している中国に対して、包囲網を作りたいという思惑があります。それぞれ中国との間には難しい課題を抱えているのです。日本は尖閣諸島問題。中国は「海警法」を施行し、日本の海上保安庁にあたる中国海警局が武器を持てることになりました。そして、しばしば日本の領海に侵入し、プレッシャーをかけています。アメリカは中国との経済対立が鮮明。厳しい貿易折衝を続けています。また、自由主義と中国共産党のイデオロギーの対立も激しさを増してきました。オーストラリアも中国との貿易摩擦が激しく、中国の買い手市場になっており、対等な関係を築くことを望んでいます。中国と国境を接しているインドは常に緊張関係にあり、国境付近では小さな衝突が続いています。Quadのもとになったのは、2006年に当時の安倍首相が提唱した、「日米豪印による戦略対話」でした。日本もアメリカも後任の政権がその意思を引き継ぎ、バイデン大統領の呼びかけで、3月12日にQuad初の首脳会合が開かれました。自由や民主、法の支配を共通の価値として共有することを大きな目的にしています。Quadの規模を数字で見てみると、人口は中国の14億人に対して、Quad4か国の合計は18億人。GDPは中国が14兆ドルなのに対して、Quadは30兆ドル。軍事費は年間2600億ドルの中国に対して、Quadは8700億ドルになります。対抗といっても、戦争をして領土を奪うという話ではありません。あくまで経済的な覇権争いです。中国の経済パワーは強大ですから、完全に敵に回すことなく、うまく商売をしたいという思いもあるため、複雑なんです。しかし、いかなる理由であれ、人権や人道を逸脱する行為は認められませんし、ルールに基づいた貿易をするということは大前提であるべきです。自由主義国がまとまって、中国やそれに追随する諸国に対して、自由と民主の価値を見せ続けることが大事だと思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。新しい朝の報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~8:00)が放送中。※『anan』2021年5月5日-12日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年05月10日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「米中外交」です。体制の違いにより対立が顕著に。注視が必要です。アメリカの外交政策を、国際協調から「アメリカ第一主義」に大きく方向転換したトランプ前大統領。バイデン大統領は2月の演説で、「アメリカは戻ってきた」と世界に向けてメッセージを発し、再び協調体制に戻すこと、失われた同盟関係を修復することを宣言しました。問題は対中国です。就任前には「弱腰になるのでは?」と推測する声がありましたが、それを覆すかのようにバイデン政権は中国に強い姿勢を示しています。人種や宗教によって差別することは許さないと、新疆ウイグル自治区や香港、東南アジアに対する中国の挑発的な支配姿勢を批判。「中国の経済的虐待に立ち向かう」「人権や知的財産、グローバルガバナンスに対する中国の攻撃を押し返す」などと表現しました。中国への強硬姿勢は、トランプ時代と変わりませんが、バイデン大統領は「アメリカの国益となる場合は、中国政府と協力する用意がある」と付け加えることも忘れませんでした。しかし、米中関係は日に日に緊張感を増しています。3月に行われた米中外交トップ会談では、人権に反する中国の行為を非難したアメリカに対し、「内政に干渉する行為には断固として反対」と、中国側は強く反発しました。中国は自らを民主国家と謳いますが、民主主義の定義が私たち自由主義国とは異なり、最終決定権はすべて中国共産党にあります。バイデン大統領は、中国が民主国家に変わることを期待していたのですが、体制の違いは露わになるばかり。3月末の記者会見でバイデン大統領は「21世紀における民主主義と専制主義のどちらが機能するかの闘い」と発言し、対立を極めました。習近平国家主席は、オバマ政権のころには「G2」として、中国とアメリカで世界の秩序を作ることを呼びかけていました。ところがトランプ政権になり対立関係に。本音ではビジネス上で繋がっておきたい両国ですが、不当逮捕や弾圧が日常的に行われる国相手では安心して投資はできません。今後、たとえば台湾をめぐり、米中関係がさらに悪化した場合には、日本の米軍基地から中国にプレッシャーをかける可能性も。他人事ではいられないのです。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。新しい朝の報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~8:00)が放送中。※『anan』2021年4月21日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年04月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「孤独・孤立対策担当室」です。孤独は社会問題。官民協力体制で根本的解決を。長引くコロナ禍で、大学では休講やオンライン授業が続き、アルバイト先の休業や閉店で経済的に困窮。休学・退学する学生が多く出ているというニュースがありますが、実は前年同期比でいえば、中途退学者は2割減。休学者は1割減です。学校側が授業料の納付期限を猶予したり、困っている生徒の授業料の減額や免除を行ったため、この1年は持ちこたえました。ところが今後はどうなるかわかりません。注視しなければいけないのは、学生たちのメンタルヘルスです。日本では新型コロナウイルスによる死者数よりも自殺者数の増加率が高く、とくに若い世代や女性の自殺が増えています。2020年1月~11月の統計では、増減率では20代が最も高く17%増、19歳以下の未成年は14%増。小中高生は479人と1980年以降で最多となりました。人に会えないこと、将来の不安、経済的困窮などが要因になっていると考えられます。コロナ禍で、世代を超え孤立している人が増えている現実を踏まえ、政府は内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を新設。省庁横断で本格的な対策に動きだすことにしました。参考にしたのはイギリスです。イギリスでは、孤独が身体に及ぼす影響を科学的に証明。死亡リスクは26%、脳卒中を発症する率は32%アップ、認知症発症率にも影響があるという数字が。これを機に2018年、孤独担当大臣を設置。約28億円規模の予算を組み、どういう人が孤独を感じ、支援の対象になるかの指標を算出し、相談体制の強化、職の支援や低所得対策を行いました。以前より孤独担当相の創設を訴えていた国民民主党の昨年11月の資料によると、東京23区の単身高齢者の孤独死は10年間で1.7倍に。全国の単身世帯数は34.5%、生涯未婚率は男性23.37%、女性14.09%でどちらも増加中。高齢者の親と無職の子供の“8050”世帯は2013年時点で推計約60万世帯、引きこもりは推計約61万人、シングルマザーは約123万世帯、うち半数が相対的貧困というように、日本には孤独があふれています。これらに対処することが、経済、医療福祉、少子化対策の一助になると思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~8:00)が4/1スタート。※『anan』2021年4月14日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年04月10日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「核兵器禁止条約」です。被爆国だからこそ核の脅威を皆で共有するべきでは。核兵器の開発、製造、保有、使用等を禁じる国際法「核兵器禁止条約」が1月22日に発効しました。2017年に122の国と地域が賛成し、国連で採択され、2月末現在54の国と地域が批准しています。第一次世界大戦時に化学兵器で多くの悲惨な犠牲が出たことから、毒ガスなど、非人道的な兵器は国際法で禁止することになりました。ところが、第二次世界大戦では原子爆弾が広島と長崎に落とされ、甚大な被害をもたらしました。核兵器は、米ソ冷戦時代には一度使ったら人類破滅になるほどの脅威となり、核を持つことが、戦争勃発の抑止になると考えられてきました。しかし、核を持つ国と持たない国の格差は増すばかり。そんななかで、核兵器禁止条約が生まれたのです。実はこの条約に核保有国は参加していません。日本も、アメリカの核の傘に守られているという立場から、採択の場に参加しませんでした。当初、「核保有国の参加しない条約なんて意味がない」と、賛同を得るのに非常に苦労したそうですが、日本の被爆者の方々や反核団体が核の被害を丁寧に発信し続け、草の根的にその壮絶な悲惨さが伝わり、条約の発効にこぎつけることができました。しかし、肝心の日本国内では、核の怖さが人々に伝わっていないのではないかと危惧しています。日本は世界唯一の被爆国なのに、核について語ることがタブー視されがちです。広島や長崎で育った人たちは平和教育を受けますが、その他の自治体ではどうでしょうか。被爆体験を描いた漫画『はだしのゲン』も図書館から追いやられそうになりました。いまでは小型の核兵器が開発され、使える核として脅威になっています。もしも東京に撃ち込まれたら、アメリカは迎撃するかもしれませんが、それが離島だった場合はどうなるのか。「核の傘」という概念も時代によって変化することに、私たちは意識を向けなければいけません。核兵器禁止条約の締約国会議には条約を批准していない国も参加できるので、核保有国のオブザーバー参加が求められています。核保有国と非保有国の橋渡し役として日本にできることが、きっとあるのではないかと思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『モーニングCROSS』(TOKYO MX 平日7:00~8:00)にメインキャスターとして出演中。※『anan』2021年3月24日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年03月20日世の中にあるさまざまな“まっとう”を、ちょっとクスッとしてしまう視点で観察し、レトロでチャーミングな絵と言葉で表現するのが得意な、五月女ケイ子さん。今回久しぶりに、その得意技をふんだんに使った“ネタ本”『乙女のサバイバル手帖』を上梓。この不安定な世の中を明るく楽しく乗り切るための、女性たちの心強いバイブルになる一冊です。全部冗談に見えるかもしれませんが、実は結構“本当”が詰まっています。「実は、16年前…自分で言ってて怖いですが(笑)、に出した、女性が世の中を渡るためのエチケットをまとめた“ネタ本”『淑女のエチケット』があり、それを小学生時代に読んでいたという20代の編集者さんからご連絡をいただき、今回の本を作りました。日常に潜むいろんな問題を、華麗におもしろく乗り越えるエチケットを、真実と冗談を交えて書いた内容だったんですが、今の世の中の感覚で、またそういう本を作りたいとおっしゃっていただいて…」五月女さんがおっしゃるネタ本とは、世の中のさまざまなことを冗談で斬っていく、虚実ないまぜの笑える本のこと。読むとニヤニヤやクスクスが止まらないのが特徴で、’90年代後半から’00年代中頃くらいまで、多数出版されていたのだそう。「そういう本を読んで育った世代なので、個人的に今でもそういう感覚は大好きなのですが、でも社会の雰囲気も時間とともに変わってきて、昔は通じた冗談が、今は通じなくなっているということも、理解しています。なので、最初にお話をもらったときは、『え、今!?大丈夫?』と思ったのは事実です(笑)。でも、そもそも私の絵自体が冗談みたいな作風だし、個展に来てくださった方などの反応を見ていると、温かく受け止めてくださる印象があるので、あえて今、やってみようかと。ただ、出す以上は、内容にも責任を持たなければならない自覚はあるので、冗談のような視点は昔のままで、表現方法はちゃんとアップデートさせたいと思いながら、描き上げました」悩む乙女からの質問に、人生の酸いも甘いも味わい尽くした乙女の先輩であるミロ子さんが答えてくれる、お悩み相談スタイルで展開されるこの本。恋、仕事、暮らし、そして自分に対して、愛と冗談が溢れる回答が満載です。「昔は、同世代の女性に向けて描いていたところがありますが、私自身、娘を育てる母親でもあるので、今は20~30代の女の子たちを応援したい気持ちがどんどん強くなっています。なので今回は、自分より若い女の子を中心に、男性も含め、乙女心を持つ全人類の人生に役立ててもらいたい、と思って描きました。と言いつつ、内容はかなりくだらないんですけどね(笑)。サバイバル手帖と言ってますが、本当にサバイバルに使えるかどうかは…。ただ、悩んだりつらい思いをしたとき、冗談で考えてみると、バカバカしいと思いながらも結構軽やかに乗り越えられたりするんです。40代も半ばを過ぎた今、改めてそう思います」つまらない合コンから逃げ出すための、壁や赤ちょうちんに擬態をする方法や、ゆとりっぽく見られるのを避けるために、首を太くする筋トレを、などなど…。どこまでが本当でどこまでが冗談なのか、玉虫色の世界をニヤニヤ楽しむのが乙な一冊。「全部まやかしだと思うかもしれませんが、例えば首を太くする筋トレの方法は本当ですし、花言葉なんかも実際にあるものなんです。おそらく6割くらいは本当のことが書いてあると思うので(笑)、いざとなっても、結構本当に使えると思います(笑)。コロナが終息し外に出られる日まで、おうちでこれを読み、胆力をつけてください(笑)」『乙女のサバイバル手帖』「部屋が片付けられないときは…」というお悩みへのミロ子先輩からの回答は、“浮袋にできるか”と“再利用できるか”の2つを軸に、断捨離せよというもの。「乙女の豆知識」に記されているズボンを浮袋にする方法は、実際に使えるそう。豆知識のコーナーは、リアルに役立つ内容多し。平凡社1300円そおとめ・けいこイラストレーター、エッセイスト、漫画家。広告や雑誌をはじめ、さまざまなジャンルで活躍中。小誌では、ジャーナリストの堀潤さんと共に、コラム「社会のじかん」を連載中。※『anan』2021年3月17日号より。写真・小笠原真紀(五月女さん)中島慶子(本)インタビュー、文・河野友紀(by anan編集部)
2021年03月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「東日本大震災から10年」です。震災に終わりなし。この先も風化させてはならない。東日本大震災から10年が経ちます。福島第一原発事故により帰宅困難区域に指定されていたところも、2023年までに全面解除・帰還を目指すことになりました。大きな被害にあった南相馬市と浪江町では、ロボット開発をする企業が誘致されたり、浪江町では民間の新しい電力会社も太陽光エネルギーの拠点として立ち上がるなど、新しい街づくりが進んでいます。復興の明るいニュースがある一方で、故郷を追われ、いまなお避難生活を強いられている方が東北だけで3600人おられます。石巻では復興計画が進まないまま、移動困難な地域に住む高齢者が孤独死するケースが増えています。長引く避難生活でコミュニティを再生できず、日常を取り戻せないまま亡くなってしまう。共同通信によると、避難を余儀なくされた福島県の7町村で、震災関連死と認定された人は、1月現在、それぞれ人口の1%以上にのぼることが判明しました。災害で亡くなった直接死よりも、震災関連死のほうが多く、これまでに2313人が亡くなり、その9割が南相馬市など避難指示区域に設定された市町村でした。原発事故で故郷を失い、住まいを転々とする避難生活が心身にダメージを与えたことが顕著になっています。自殺者数も被災3県(岩手、宮城、福島)のなかで福島県が最も多く118人。なかでも男性が多く、働く場や生活を根こそぎ奪われてしまったことが要因と考えられます。生業を奪われた人々が、国と東電相手に訴訟(生業訴訟)を起こし、昨年9月に仙台高裁では勝訴しました。しかし、この10年の間に100人以上の方が亡くなり、原告の数は年々減ってしまっています。震災から10年。復興庁は継続しますが、様々な支援は次第に打ち切られます。世間的に忘れられていくなかで、いまだに十分な補償ももらえず国とも争わなければならない。地域のコミュニティは分断され、疎外感を抱きながら暮らす人々。一概に「東北では」「福島では」と大きな主語では語れません。今年2月、福島県沖で再び大きな地震が起きました。読者の方々には、現地を訪れるなど、ぜひ今後も東北と関わり続けてほしいなと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『モーニングCROSS』(TOKYO MX 平日7:00~8:00)にメインキャスターとして出演中。※『anan』2021年3月17日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年03月13日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新型コロナ改正特措法」です。政府のコロナ対策、長期的視点での支援も求めたい。新型インフルエンザ等対策特別措置法や感染症法、検疫法の改正案が国会で可決され、2月13日に施行されました。1月に国会が開会してから、スピード審議・可決となりました。これまでは緊急事態宣言下で「営業自粛をお願いします」という「要請」だったのが、「勧告」や「命令」など、より強い措置がとれるようになります。また、感染対策の立ち入り検査や、従わなかった事業者の公表も政府ができるように。さらに「まん延防止等重点措置」が新設され、緊急事態宣言の発令前にも、感染拡大が想定される地域には、集中的に命令を出すことができるようになりました。命令に従わない事業者にはペナルティが科せられます。緊急事態宣言下では30万円以下、発令前は20万円以下の過料。また、改正感染症法により、コロナ感染者で入院を拒否した場合は50万円以下、保健所による感染経路調査を拒否した人には30万円以下の過料が科せられることになりました。当初は刑事罰を設けて、違反者には懲役刑や罰金を科すという厳しい案が出ていたのですが、野党から強い反発が出て、刑事罰はなしになりました。罰則を設けるからには、それに見合う補償も必要です。緊急事態宣言が出されている都道府県には、時短営業に協力した飲食店に対し、地域ごとに異なる協力金が支払われることになりました。厳しい罰則を設けているスペインのマドリードでは、補償金をもらい続けて店を開けられなくなってしまった飲食店と、緊急事態宣言下でも摘発を逃れて営業を続けている店と二極化しているのだそうです。日本政府は基本的に事業の継続をもとに支援策を出しています。ところが、諸外国では、業態が変化した場合にかかる職業訓練や開店資金の補充というサポートも行っています。アメリカの研究チームによると、新型コロナウイルス感染症が、普通の風邪と同程度に弱毒化されるにはあと10年かかるのだとか。長引くコロナ禍では、同じ事業形態を続けること自体が困難な業種もあります。長期的に見れば、新事業を始めるための支援という大胆なサポートも必要なのではないでしょうか。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『モーニングCROSS』(TOKYO MX 平日7:00~8:00)にメインキャスターとして出演中。※『anan』2021年3月10日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年03月07日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「技能五輪」です。今後は技能の時代。明るい未来を担う若者に期待。「技能五輪全国大会」は、23歳以下の技能者を対象に、技能を競い合う大会です。競技課題は機械系、金属系、建設・建築系、電子技術系、情報通信系、サービス・ファッション系に分かれており、機械組立て、機械製図、自動車工、時計修理、車体塗装、配管、建築大工、造園、電子機器組立て、ウェブデザイン、美容、理容、洋裁、洋菓子製造、レストランサービスなど多岐にわたり、全部で42職種あります。技能五輪を主催しているのは、厚生労働省の傘下にある中央職業能力開発協会。技能者に努力目標を与え、一般に技能の大切さを伝え、技能を尊重する機運を作ることを目的にしています。1963年から毎年開催されていて、偶数年は技能五輪国際大会の出場選手の選考も兼ねています。2019年に行われた技能五輪国際大会では、「情報ネットワーク施工」と「産業機械組立て」部門で日本は金賞を受賞、ほか銀賞3つ、敢闘賞を6つ獲得するなど、世界のなかでも奮闘しているんですね。日本は戦後、技能の力で成長してきました。ところが金融などの産業が次第に成長するにつれ、ホワイトカラーのほうがもてはやされていきました。技能五輪の参加者も1973年の808人をピークに、‘90年には319人まで減ってしまいました。ところがバブル崩壊以降、ホワイトカラーが大量リストラされるようになると、再びブルーカラーの職種に注目が集まり、ものづくりへの関心が高まっていきました。平成は、大切な技能者を「コスト」とみなし、痛めつけてきた時代でもありました。それが日本の成長を低下させた一因になっていたと思います。最近は製造業や金融業の業績が振るわず、エンジニアが市場に流出しています。そんななか、IT業界では10~20代の、フリーランスのITエンジニアが増えています。企業に属さず、個人事業主やフリーという働き方が認知され、プロジェクトごとに雇われる形態が支持されているのです。技能があれば国内外を問わず、どこでも働けます。いまこそ技能者。これからは確かな技能が学べる場が必要になるでしょう。教育現場も、一般教養から技能重視に変わっていくかもしれません。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『モーニングCROSS』(TOKYO MX 平日7:00~8:00)にメインキャスターとして出演中。※『anan』2021年2月24日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年02月18日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「AI婚活支援」です。政府の目的は労働人口を増やすこと。対策は十分か?政府は、2021年度から自治体が行う人工知能(AI)を使った婚活支援事業に補助金を出すことにしました。現在日本は晩婚、非婚が増え、少子化が加速しています。2019年の出生数は86万5239人と史上最少。コロナ禍の影響もあり、2020年は82万~84万人に減少することが見込まれ、今年は80万人を割るといわれています。近年、AI婚活やマッチングサービスアプリの利用は当たり前となりました。業界1位のペアーズの累計会員数は1000万人を超え、年間300万人ずつ増加。ビッグデータをベースにしたマッチングは、生活が多様化し、同じ嗜好の人と出会う機会が限られる中、相手の信用も保証される安心も伴い、需要が急増しているのです。国や行政がAI婚活を支援するのは、労働、生産人口を維持するという大きな目的があるからです。自治体の生き残り策として、街コンを主催したり、市内で結婚する夫婦に住宅費用を免除するなど、婚活を支援するようになりました。「結婚したいけれどできない」という悩みは若い世代によく見られ、男性のほうが深刻です。「収入がない」「コミュニケーションが苦手」などの理由で、恋愛経験のない10代~20代前半の男性が実は増えているのです。子供・若者白書によると、15~39歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない若年無業者数は2019年時点で74万人。病気や怪我に次いで「仕事をする自信がない」「探したがない」が、働かない理由として挙がっています。低賃金や非正規化が進み、自分の生活が安定しないことには恋愛や結婚しようという気になれない、という現実も見過ごしてはならないでしょう。菅政権は、AI婚活支援のほかにも不妊治療の保険適用など、少子化対応策を掲げています。しかし、少子化対応策の予算は防衛費よりも抑えられています。成婚し、子供ができても、経済的な問題で第二子、第三子を諦める夫婦も少なくありません。これでは人口は減り続けてしまいます。政府はまず、生業を確保できる環境整備、安定した雇用、新しい産業の育成など、若者の生活基盤を積極的に支える必要があるのではないでしょうか。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『モーニングCROSS』(TOKYO MX 平日7:00~8:00)にメインキャスターで出演中。※『anan』2021年2月17日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年02月14日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「パリ協定から5年」です。各国、目標値を上げているなか、日本は大丈夫?昨年12月、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の採択から5年を記念し、首脳級の会合がオンラインで開催されました。ここで70か国以上の国と地域の首脳が気候変動への取り組みの強化を表明しました。COP(国連気候変動枠組条約締約国会議) 21でパリ協定が採択される前は、先進国と新興国の間で環境対策に溝がありました。それが両者を含めた70か国以上の首脳が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロに」「世界の平均気温の上昇を、産業革命前に比べて2度未満に抑える」という目標を掲げて合意したのです。気温は年々上昇し、目標まで残り30年となり待ったをかけられない状況となりました。早く目標を達成したほうが企業価値も上がりますから、各国で対策競争が始まっています。EUは、温室効果ガスの排出を1990年に比べて55%削減に合意したと表明。中国は2030年までに温室効果ガスの排出量のピークを迎え、それ以降は減らす努力を、二酸化炭素の排出量は2030年までに2005年に比べて65%以上削減する方針を明らかにしました。アメリカは、トランプ前大統領時代にパリ協定から離脱しましたが、バイデン大統領は復帰の文書に署名しました。そんななか、菅政権は脱炭素を謳い、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする方針を示しました。しかし、日本では2011年の福島第一原発事故以降、石炭火力に頼っています。原発を動かさないかぎり目標は達成できないのではないかと懸念されています。各自動車メーカーでは大急ぎで電気自動車化を進めており、トヨタでは電力に頼らない“からくり”で動く工場を導入。パナソニックは太陽光発電や風力、バイオマスを使った、CO2ゼロ工場を推進しています。全日空は食品廃棄物で作られた燃料で飛行機を飛ばす取り組みを行い、日本航空はアメリカの企業に出資し、家庭ゴミを原料とするバイオジェット燃料の調達を目指しています。原発の安全性の問題はまだ未解決です。地元が抱える課題がクリアにされないまま、再稼働を進めることはないようにしていただきたいと思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。映画『わたしは分断を許さない』が、2/5までポレポレ東中野でアンコール上映中。※『anan』2021年2月10日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年02月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「自由で開かれたインド太平洋」です。中国に配慮し、姿勢に変化の兆し。説明を求む!「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」とは、2016年のアフリカ開発会議で当時の安倍総理が提唱した構想です。法の支配のもと、航行の自由、自由貿易の普及・定着。質の高いインフラ整備を通じて、連結をもって経済的繁栄を追求する。海上法執行能力の向上支援、防災などを含む、平和と安定のための取り組み。これらを構想の実現に向けた三本柱にしています。そもそもこの構想が生まれた背景には中国の台頭がありました。中国は2013年に国家戦略として「一帯一路」構想を掲げました。陸路と海路の両方で、ヨーロッパやアフリカまで貿易圏を広げようとする中国にとって、太平洋はアジア・アフリカに抜けていくための大事な航路。しかし、そこには沖縄(日本)、台湾、韓国があります。そこで日本に対しては尖閣諸島問題でプレッシャーをかけ、南シナ海には人工島を作り、中国の領土であると主張。これに対して、安倍前総理はオーストラリアやアメリカなどの国々と、「自由で開かれた海にしましょう」「特定の国が強力な武力で圧力をかけるようなことは許しません」ということを暗に示したんです。2017年にはトランプ政権が発足し、アメリカもこれに賛同。米中の対立が高まるなか、FOIPは存在感を増していきました。ところが昨年11月、菅総理は公式の場で「平和で繁栄したインド太平洋」という表現を用いました。「自由で開かれた」が、「平和で繁栄した」に変わっていた。これは中国に配慮した発言ではないかと物議を醸しました。中国はカンボジア、スリランカ、パキスタン、ミャンマーでも港の開発を進めています。一見、民間企業の開発に見えますが、中国軍が利用する可能性もある。昨年9月、アメリカ政府は、カンボジア南部で開発を進めた中国企業に対して、人権侵害を犯していると経済制裁を行いました。日本は中国の強権に対して、欧米諸国のように強い抗議を示していません。日本にとって中国は大事な市場ですが、もしも中国との間で何らかの約束を交わし、スタンスを変えなければいけなくなったのなら、政府はきちんと説明をする必要があると思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。映画『わたしは分断を許さない』が、2/5までポレポレ東中野でアンコール上映中。※『anan』2021年2月3日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年01月30日