2023年1月公開の話題作『ピンク・クラウド』のDVDが8月2日(水)に発売されることが決定した。本作は、ブラジルの新鋭イウリ・ジェルバーゼ監督の長編デビュー作。2017年に脚本が書かれ、2019年に撮影された本作は、2021年のサンダンス映画祭でお披露目されるや、「パンデミックで一変した現実と重なる」として思わぬ脚光を浴びることとなった。致死性の“ピンク色”の雲に覆われ、外には一歩も出られなくなったディストピアの世界を描いていく本作。ジェルバーゼ監督が目指したのは、ルイス・ブニュエル『皆殺しの天使』やジャン=ポール・サルトル「出口なし」のように、制限された状況下における生存競争ではなく、人間の感情を描くことだったという。慣れ親しんだ日常を剥奪され、望まぬ非日常が日常になりかわろうとするとき、人間は何を求めて何を選択するのか…。日本でも公開当時、大きな話題となった衝撃作だ。『ピンク・クラウド』DVDは8月2日(水)発売。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ピンク・クラウド 2023年1月27日より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開©︎ 2020 Prana Filmes
2023年04月22日パンデミックが起きる前に制作されていたにもかかわらず、「まるで映画が現実になったようだ」と世界に衝撃を与えている話題作がいよいよ日本でも公開。今回は、ブラジルから届いた驚きの映画をご紹介します。『ピンク・クラウド』【映画、ときどき私】 vol. 551ジョヴァナとヤーゴは一夜の関係のつもりで過ごしていると、けたたましい警報に襲われる。その原因は、突如として世界中に発生した正体不明のピンクの雲。それは「ピンク・クラウド」と呼ばれ、10秒間で人を死に至らしめる毒性の雲だという。緊急事態によって外出制限が設けられ、人々の生活は一変する。家族や友人とオンラインで連絡は取れるものの、いつ終わるかわからない“監禁生活”によって状況は悪いほうへと傾き始めていた。そんななか、ジョヴァナとヤーゴも現実的な役割を果たすことを迫られ、子どもを持つことになる。しかし、ジョヴァナのなかで生じた歪みが徐々に大きくなろうとしていた……。2017年に脚本が執筆され、パンデミック以前の2019年に撮影したという本作。そうとは思えないほど私たちが経験してきた出来事が数多く描かれていると大きな反響を呼んでいますが、今回はこちらの方にお話をうかがってきました。イウリ・ジェルバーゼ監督本作で念願の長編デビューを果たし、ブラジルの新鋭として注目を集めているジェルバーゼ監督。そこで、物語が誕生した背景や映画と現実が重なったときの心境、そしてキャラクターを通して女性たちに伝えたい思いなどについて語っていただきました。―非現実的なロックダウン下で共同生活をする2人のキャラクターを描きたかったということですが、その理由から教えてください。監督まずは、「作品のなかに制限を設けたい」というのが最初にありました。それを実現させるために考えたのは、登場人物の数を少なくし、舞台はずっと同じ場所にすること。さらに“強制された結婚”にすることを思いつきました。「現代的かつシュールな状況での強制的な結婚とは何か?」と考えたときに、一夜限りの関係だった相手と予期せぬ出来事によって一緒にいなければいけなくなるという設定が浮かんできたのです。―“強制された結婚”というテーマに興味を持ったのはなぜですか?監督それは、自由について考えたかったからだと思います。自由といっても、人によってさまざまなカタチや意味がありますよね。たとえば、ジョヴァナはこの男性と結婚したかったわけではないし、子どももほしくはなかったのにピンク・クラウドが出てきたことによって、社会が女性に求めるステップを踏まざるを得なくなってしまいます。特に、結婚や出産、キャリアということに関しては本人の意思が尊重されるべきなのに、周囲が「しなさい」と言うのは女性にとっては社会的圧力になるのではないかなと。そんなふうに、女性は多くのプレッシャーを与えられている傾向にあるように感じています。女性たちは社会的な女性の規範に囚われている―それはありますね。劇中では、その圧力を意味するものとして描かれているのが雲ですが、通常だと脅威の対象は人に恐怖を感じさせるようなもので描かれることが多いなか、それとは真逆のイメージがある雲を選ぶというのは珍しいのではないかなと。監督まずは、「科学的に解決できそうなリアルな設定にしたくなかった」というのも理由の一つ。そのために、雲が10秒で人を殺してしまうというシュールでよくわからない要素が必要だったのです。そうすることによって、観客は「なぜ雲があるのか?」ということを意識しなくなり、キャラクターにフォーカスできると思ったからです。あと、ブラジルは夕焼けが有名なので、本作に登場するような色の雲はよくあるんですよ。そういったことも理由だったのか、初めから私の頭の中にはずっとピンク色の雲があったように思います。色にもこだわっていたので、VFXアーティストの方には、「まったく危険を感じないような美しくてソフトなピンクにしてほしい」とお願いしました。―ピンクという色にも監督なりの思いが込められているとか。監督ほかの国もそうかもしれませんが、ブラジルでは男の子がブルーで、女の子がピンクとされているので、ジョヴァナは社会的な女性の規範に囚われていることを意味しています。特に、「完璧な女性とはこういうものですよ」と見せられると、ついそれが魅力的に感じてしまいますよね?でも、その裏にある大変な部分や恐ろしいところは見せていない場合が多いだけですから。そういったこともあり、私たち女性はジョヴァナと同じように、気がつかないうちに自分の意志に反したことを“社会のピンク・クラウド”によってさせられてしまっていることもあるのです。つまり、私たちは“女性に対するプロパガンダ”につねに囲まれているとも言えるのではないでしょうか。ブラジル映画界でも、女性監督の意見が通るのは難しい―なるほど。ちなみに、ブラジルの映画界でも女性監督ならではの苦労などを感じていることもありますか?監督そうですね。素晴らしい女性監督もどんどん出始めていますが、まだまだ男性監督のほうが多いので、自分の意見を聞いてもらうことが難しいという場面はよくあります。実は、今回の映画を作る過程でも、監督である私の声に男性たちが耳を傾けてくれないことがあったくらいです。―自身の監督作でさえも起きているとは……。そういった状況に陥ったとき、意識していることがあれば教えてください。監督すでに何名かの男性には伝えましたが、「あなたは私の話をいつも遮っていることに気がついていますか?」と言うようにしています。とはいえ、これはお互いに良い関係にある状態であれば問題ないですが、敵対関係にある人や目上の人であれば言い方に気をつけないと大変なことになります。ただ、そういう状況に追い込まれてしまっているのであれば、相手に気を遣いながら「私の話を聞いてください」と伝えることは大切なことです。ほかの女性たちも、そういうことが言えるようになったらいいなと思っています。―その通りですね。また、劇中では同じ状況下でもジョヴァナとヤーゴは正反対の反応を見せています。2人のキャラクターを作り上げるうえで意識したことはありましたか?監督すべての男性とすべての女性が2人と同じようになるという意味ではなく、あくまでも自分の経験から分析して作りました。私からすると、女性のほうが求めることが多く、男性のほうがその場の状況になんとなく適応してしまうような気がしています。そういったことを踏まえて、ジョヴァナが息苦しさを感じているいっぽうで、ヤーゴは「むしろ雲があってハッピー」みたいな感じにしました。実際、カップルのケンカでも「まあいいんじゃない?」と言う男性に対して、「きちんと解決しなければいけない」と考える女性のほうが多いのではないかなと。全員とは言いませんが、そういう傾向にあるように感じていたので、それを基にキャラクターを設定していきました。SFとして作ったものが現実となり、奇妙な感覚だった―そのあたりは、鑑賞後に男女で話し合ってみるのもおもしろいかもしれませんね。本作は現在のコロナ禍を予期していた作品としても話題になっていますが、観客の反応はいかがでしたか?監督実は、私はみなさんがどんな反応をするのかに関して、上映前はすごく神経質になっていました。特に、私がこの状況を利用して利益を得ているように思われたくなかったからです。そんななか、初めてお披露目したのは2021年のサンダンス映画祭のとき。上映後には多くの人が「最初はどう感じるかわからなかったけど、自分でも理解できなかったパンデミック中の気持ちがわかるようになった」といったポジティブな反響があったので、すごくうれしかったです。―とはいえ、自分が書いた映画がどんどん現実とリンクしていく様子を目の当たりにしたときはどのような心境だったのでしょうか。監督すごく心配しました。もちろん、世界中の方が心配したと思いますが、私にとってはもう一つレイヤーがかかっているような感覚だったかなと。というのも、私は自分の作った映画のなかに生きているような気がしていたというか、SFとして作った物語が現実になってしまってすごく奇妙な気分でした。それは私だけでなく、本作に関わる俳優たちやスタッフたちも同じで、みんな信じられない気持ちだったと思います。初めは1か月くらいでパンデミックが収まると考えていたので、「私たちはこの作品でリハーサルしたようなもんだよね」と冗談を言っていましたが、そんな状況ではないとわかって本気で心配になったほどです。誰もが自分らしく生きたいともがいている―編集中にパンデミックを経験したということですが、実際に映画と同じような状況になってからご自身や作品に影響を与えたことはありましたか?監督以前から撮影以外は自宅で脚本を書く生活をしているのであまり変化はありませんでしたが、とはいえ「人生は本当に予期できないものだ」と感じました。そしてこういった奇妙な状況でさえも、人は適応していかなければいけないのだなと。あとは、友達に会ったり、パーティをしたりといった当たり前のことに対して感謝するようにもなりました。意外かもしれませんが、作品に関して変更したのは1点のみ。雲が発生しているのはブラジルだけという設定を世界中で起きていることにしたという部分です。それ以外は変えていないので、これだけ似ていることはクレイジーなことだなと思いました。―確かに驚きですね。では、日本についておうかがいしますが、どういった印象をお持ちですか?監督日本は行きたい国リストのトップに入れているのですが、ブラジルからあまりにも遠いので、残念ながらまだ行ったことはありません。日本に興味を持っている理由としては、いろんなことがブラジルとはあまりにも違うから。ブラジル人はうるさくて大げさですけど、日本の方はデリケートな印象です。あとは、静かな田舎とテクノロジーが発展している都会がどのようにミックスされ、バランスを取っているのかも見てみたいなと。食べ物やアートワークも魅力的なので、そういったものも気になっています。―それでは最後に、ジョヴァナのように仕事や恋愛に悩む日本の女性たちにもメッセージをお願いします。監督周りの人たちを喜ばせなきゃいけないとか、完璧な女性に見られたいとか、いろんなプレッシャーがあるかもしれません。でも、ジョヴァナという女性を通して、「自分らしく生きようともがいているのは自分だけじゃない」というのを感じてもらえたらうれしいです。他人を満足させるためではなく、自分なりの幸せや自由について考えるきっかけにこの作品がなったらいいなと思っています。抑えていた欲望が込み上げる!コロナ禍で女性たちが抱いてきた生きづらさや葛藤を描き、まるで自分の姿を見ているかのような錯覚に陥る本作。この状況のなかでどう生きていくべきか、自身のこれからを考え直す意味でもいま観ておきたい1本です。取材、文・志村昌美胸がざわつく予告編はこちら!作品情報『ピンク・クラウド』1月27日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開配給:サンリスフィルム️© 2020 Prana Filmes
2023年01月26日ブラジルの新鋭イウリ・ジェルバーゼのデビュー長編監督作品『THE PINK CLOUD』が邦題『ピンク・クラウド』として2023年1月27日(金)より公開されることが決定し、場面写真と監督のコメントが解禁された。一夜の関係をともにしているジョヴァナ(ヘナタ・ジ・レリス)とヤーゴ(エドゥアルド・メンドンサ)を襲ったけたたましい警報。突如として発生した毒性を持った正体不明のピンクの雲が現れ、それに触れると10秒間で死に至るとニュースが報じている。2人は窓を閉め切って高層アパートに引きこもり、長くて数週間で終わるであろうロックダウン生活に入る。しかし、月日が流れ、この生活が終わらないことを誰もが悟り始めたころ、見知らぬ他人であったジョヴァナとヤーゴは現実的な役割を果たすことを迫られる。父親になることを望むヤーゴに反対するジョヴァナだったが、やがて男の子・リノが生まれる。パンデミック以前の生活を知らないリノは、家の中という狭い世界で何不自由なく暮らしており、父となったヤーゴも新しい生活に適応している。しかし、ジョヴァナの中で生じた歪みは次第に大きくなっていく…。2017年に脚本が書かれ、2019年に撮影された本作は、当初SFとして構想されていたにもかかわらず、世界的なパンデミックで一変した現実と重なるという、思いもよらぬ形で世界の脚光を浴びた作品だ。監督のイウリ・ジェルバーゼは、これまで6本の短編の脚本・監督を手掛け、数々の映画祭に出品。本作が自身初の長編映画となる。外には一歩も出られず、部屋の中でしか生きられないディストピアで、ジェルバーゼ監督が目指していたのは、ルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』やジャン=ポール・サルトル『出口なし』のように、制限された状況下における生存競争ではなく人間の感情を描くことだった。イウリ・ジェルバーゼ監督<イウリ・ジェルバーゼ監督コメント>本作の脚本を書いたのは2017年。執筆当時やりたかったのは、一向に終わらない非現実的なロックダウン下で共同生活をする2人のキャラクターが、異なる感情の変化を見せるのを描くことでした。自由とは何か、幸福とは何か、ジョヴァナとヤーゴはそれぞれの考えを持っていて、正反対のやり方でピンクの雲の世界に適応しようとします。ロックダウン下で暮らす中、人生哲学の違いが際立っていきます。この映画を見ることは、パンデミックの期間中に味わったさまざまな感情を振り返る機会になると思っています。その一方で、ウイルスやパンデミックが話題になるずっと前に脚本を書いたことを念頭に見てもらうと、この映画はさまざまなメタファーや多義性に満ちており、さまざまな感情を喚起するはずです。今回、誰もがロックダウンの体験をしたことで、1人1人がこの映画に対してそれぞれの思いを抱くと思います。『ピンク・クラウド』は選択、欲望、自由についての映画です。『ピンク・クラウド』は2023年1月27日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2022年10月06日