ディズニープラス「スター」にて、昨年12月より独占配信がスタートし、毎週1話ごとの更新(水曜配信/全7話)でいま、まさにクライマックスを迎えようとしているのが、二宮正明の人気コミックを原作としたヴィレッジサイコスリラー「ガンニバル」である。プロデュースを手がけたのは、アカデミー賞国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』のプロデューサーを務め、現在はウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社にて、日本オリジナルのコンテンツの企画・制作に従事している山本晃久氏。「人が喰われているらしい」という噂のある山奥の村に赴任した警察官が、愛する家族を守り、村に隠された秘密を明らかにするべく戦う姿を描く本作。“ディズニー”というブランドのイメージとはかけ離れた感のあるサイコスリラーである本作がなぜディズニープラス「スター」で配信されることになったのか?映画の仕事に携わる人々に話を伺う【映画お仕事図鑑】。19回目となる今回は、山本プロデューサーに本作の企画の成り立ちから配信にいたるまでのプロセスについて話を聞いた。――“映像化不可能”という枕詞のついた「ガンニバル」というコミックをディズニープラスが映像化することになった経緯について、そもそもの企画の成り立ちから教えてください。今回のプロダクションに入っていただいているSDPの岩倉達哉プロデューサーが、我々ディズニーのローカルコンテンツ制作チームに企画の提案をしていただいたのがそもそもの始まりです。我々も「ガンニバル」という原作の存在を知ってはいたんですが、それまでしっかりと読んでおらず、拝読したところ、本当に面白く、単純に原作の力が素晴らしいというのが一番の感想でした。みなさんに驚いていただいているんですがこれを「ディズニープラス」というプラットフォームで映像化するというインパクトの強さに我々全員がワクワクしました。ディズニープラスの中でも、「スター(STAR)」ブランド(※)というゼネラルエンタテインメントを掲げるブランドの特性を最大限に活かせるコンテンツになるのではないかという声も上がりました。確かに「ガンニバル」の実写化は大変難しいものではありましたが、挑戦しがいのある、我々のローカルコンテンツのオリジナル作品にふさわしい一本になるのではないかということで採択に至りました。※ディズニー・テレビジョン・スタジオや20世紀スタジオをなどが制作する映画やドラマや、世界中のスタジオが生み出すローカルコンテンツを配信。なお、ディズニープラスには「スター」以外に「ディズニー」、「ピクサー」、「マーベル」、「スター・ウォーズ」、「ナショナル ジオグラフィック」というブランドがある。――「難しい」という言葉がありましたが、カニバリズム(食人)をテーマのひとつとして扱い、凄惨なシーンも多いという点で、反対意見は出なかったのでしょうか? 映像化決定にいたるまでにどのような議論があったのでしょうか?当たり前のことですが我々は、何かを変に誇張したり、倫理的に許されざることを肯定するような意図は全くありません。ただ、この「ガンニバル」という原作にある“カニバリズム”というものが、社会の中の別の価値観を持った集団の存在を浮き彫りにする上で、非常に強いテーマ性を持っている事象であることは明らかです。だからこそ、避けたり、濁したりすることなく、このことを正面からしっかりと描くことが重要ではないかという議論はありました。避けたり、濁したりすることは、原作の味わいをなくしてしまうことになる。人間ドラマを描く上で、非常に重く、強過ぎる――ある意味で究極の表現だと思いますが、そこから逃げるのではなく、そのことによって起きる人間のドラマにちゃんとフォーカスを向けるためにも、きちんと正面から取り組もうという話し合いはしました。――約2時間の劇場映画でも地上波のドラマでもなく、ディズニープラスという配信プラットフォームだからこそ可能になった部分はありますか?当たり前ですが、原作はそもそも2時間という枠に収めるような前提で描かれているわけでもなく、連綿と物語が紡がれていきます(全120話)。配信ドラマで映像化する利点として、やはり尺にとらわれないというのは大きいところだと思います。2時間にギュッと押し込むのではなく、この物語を見せる上で、最も適した形にすることができるという利点は、脚本の大江崇允さんも感じてくださったと思います。実際、第1話は51分で、第2話は34分、最終話である第7話は1時間を超える作品になっていたりしますが、尺の制約がないということが、物語をより豊かにしていると思います。――大江さんの名前が出ましたが、『ドライブ・マイ・カー』でもご一緒された大江崇允さんに脚本を、そして『岬の兄妹』でセンセーションを巻き起こした片山慎三監督を起用された意図と経緯を教えてください。まず、片山慎三さんにこの作品をお任せしたいということ、大江さんに脚本をお願いしたいということは私から提案させていただきました。意図としては『岬の兄妹』で片山さんが見せてくれた、作家性と娯楽性の絶妙なバランス感覚が本当に秀逸だと感じたこと。なかなかこの感覚を持っている人はいないと思います。もちろん、日本の映画監督で優れた方は多いですが、バランス感覚ってなかなか難しい部分だと思うんです。片山さんのことは前から知っていまして、人柄やどういった演出をされるかということは理解していましたし、この「ガンニバル」という題材にも興味を持ってくれるだろうとは思っていました。大江さんに関しては、原作の有無にかかわらず、物語の世界観を構築する際の“分析能力”が非常に高い人なんですよね。物語の世界観を細分化した上で、何が必要で何が必要じゃないか? あるいは何を加えるべきか? といったことを精緻に分析してくれるんです。「これはこういう物語なのではないか?」と言語化する能力に優れていて、それはものをつくっていく上での指針にもなるので非常に助けられます。また、非常に柔軟な頭の持ち主でもあるので、ディスカッションを重ねていく中で「そうか、自分はこう思っていたけど、こういうことだったんですね」と再構築する力にもたけています。さらに、それ等を脚本に落とし込んでいく際の“構成力”も素晴らしく、今回で言うと、長い物語を全7話に振り分けたり、1話ごとの物語の運びという部分での“柱”の立て方でも非常に優れているんです。この「ガンニバル」という入れ子構造の難しい物語を大江さんならまとめ上げてくれるだろうと思っていましたし、もしかしたら、我々が思ってもいないような新たな発想や視点を加えてくださるのではないかと期待してお願いしました。――原作の脚本化を進める中で、大切にした部分、大江さんや片山監督と話し合ったことについてお聞かせください。まず何より、原作の味わいというものを余すところなく伝えようということ。原作を読まれた方ならおわかりになると思いますが、本当にどうなっていくのかわからないし、展開もテンポも早いんですよね。読み始めると、全巻を一気に読んじゃうような原作が持っている“熱量”は大切にしたいということは話しました。一番大切にしたのは、第3話の構成ですね。ここで大悟の過去のエピソードと、現在の後藤家の襲撃によるカーアクションが交差して描かれます。エモーショナルな過去と、いま起きているアクション&サスペンスが“入れ子構造”となって、クライマックスに向けて加速していきます。当初はこういう構造ではなく、過去と現在がセパレートされていて、過去のエピソードから始まり、それが終わってから現在のパートという流れだったんです。ここに関して僕のほうから「見たことのない映像体験にしたい」という話を大江さん、片山さんにしました。主人公の阿川大悟の過去がめくれていく部分と、現在軸で起きている後藤家の襲撃に対処する大悟の“狂気”みたいなものが、重なる瞬間があるんじゃないか? 過去に娘を守るために彼が取った行動と、現在、後藤家の襲撃に対して見せる狂気が重なる――それは、その後、ある人物が発する「お前も同じじゃろ? 俺は家族を守るためなら何でもする。お前もそうじゃろ?」というセリフともシンクロするんですね。それを見たら視聴者はきっとゾクゾクするだろうし、大悟という主人公は何をしでかすかわからない! と彼から目が離せなくなるんじゃないかと思いました。片山さんは、そこでの僕の提案を僕以上に深く理解して、あの映像シークエンスで結実させてくださいました。――主人公の警察官・阿川大悟を柳楽優弥さんが演じていますが、いまのお話にあったように、赴任先の村で遭遇する奇妙な事件に巻き込まれていくだけでなく、途中で妻から「楽しんでいるでしょ?」と指摘されるような、どこか狂気を帯びた男を見事に演じられています。柳楽さんの起用に関しては満場一致でしたね。本当にすごい俳優さんで、現場であれほど強い影響力を持てる俳優さんはなかなかいません。カメラの前に柳楽さんが立っているだけで、物語の世界がこちら側に流れ込んでくる錯覚を覚えるような――レンズを通して視聴者に届けるだけでなく、現場にいる我々に対してまでも没入感を与えて、その場を掌握するような強い存在感を持った俳優さんですね。阿川大悟という男を柳楽さんでしか演じられないようなやり方で演じてくださったと思います。柳楽さんが持っている――例えば過去の作品で言うと『ディストラクション・ベイビーズ』で見せたような狂気のかがやきみたいなものが、「ガンニバル」でも見られます。何を軸にお客さんにこの作品を興奮してもらうか? という指針、何を見せるべきか? という編集の方向性などが、柳楽さんの芝居で定まっていったと思います。柳楽さんに出演をお願いし、快諾していただいた瞬間に、この作品の“核”が定まったんだなと思いますね。――お話にもあった第3話のカーアクション然り、映像の質の高さも目を引きます。きちんと予算と時間をかけて、クオリティの高い作品をつくろうという意思が伝わってきますが、プロデューサーとしてこの作品を成功に導く“勝算”はあったのでしょうか?映像のクオリティに関しては、まず片山慎三さんにこの作品をお願いしたということ。そもそも、片山さんと知り合ったのは、何本かお仕事をさせていただいているカメラマンの池田直矢さんのご紹介なんです。今回も池田さんに撮影監督をお願いしているんですが、池田さんのセンスが本当にすごいことはわかっています。映像の質の高さという点に関しては、片山さんと池田さんのコンビによる部分が大きいですし、そこに照明、美術、録音などの素晴らしいスタッフ陣が加わってくれました。何よりもまずスタッフへの信頼がありました。これだけのスタッフを揃えた上で、“力点”をどこにするかを選ぶ必要はありました。全てのシーンに100%の予算と時間を注いでつくりあげていくというのは現実的になかなか難しいですし、様々な制約はあります。スケジュールが決まった時点で、「この作品は、ここに賭けるんだ」という力点を選んでいかないといけないのですが、その選択肢の豊かさは今回、確実にあったと思います。実際の撮影に関していうと、ロケ現場があちこちに点在してしまったことで、現場のスタッフやキャスト陣は本当に大変だったろうと思います。――12月に配信が開始されて以降、反響はいかがですか?非常にありがたいことに「面白い」「一気に見てしまいます」「続きが気になる」「早く水曜日にならないかな」といった声を数多くいただいています。海外でも非常に見られているということで、ありがたいです。先ほどの話にも出たような、柳楽さんの“狂気”を楽しんでいる視聴者の方が数多くいるみたいで(笑)、それは僕自身、編集の段階でも強く感じたことだったので嬉しいですね。本当にすごい“ヒーロー”なんだなと思います。もちろん、暴力そのものは恐ろしいんですけど、あの男の戦い方は、見入ってしまうような魅力があるんですよね。それが多くのお客さんに届いているのは嬉しいです。――改めて本作の企画から配信までをふり返って、プロデューサーとして大切にされたこと、苦労されたことはどんなことですか?長丁場でスタッフ、キャストの負担がどうしても大きくなってしまったということ。加えて各話ごとに大きな見せ場があるので、その準備の部分でも現場のみなさんは本当に大変だったと思います。これだけの長丁場の中で、みなさんのモチベーションをどう維持していくか? そのためにも「いま、我々は面白い作品をつくっているんだ」ということを常に確認しながらやっていく必要がありました。その共通認識を深めていくということが、非常に重要なことだったと思います。それは、私というよりも、片山慎三監督が力強く旗を振ってくださったおかげだなと思います。その手助けが少しでもできていたならプロデューサーとして嬉しいです。「ガンニバル」山本晃久プロデューサー――最後に、映像業界を志している人たちに向けて、メッセージをお願いします。僕自身の経験則に基づいてでしか、何かを言うことはできないですが、僕自身、これまでに素晴らしい映画やドラマに救われて、何度も人生の後押しをしてもらいました。だからこそ、いま、こうして映画やドラマづくりを仕事にさせてもらえているということは、本当にありがたい日々だなと感じています。僕は常にワクワクしています。まだ見ぬ物語、映像、新しい語り口がこの世界にはたくさんあって、それを探す旅は本当に面白いです。なので、本当にドラマや映画のことを本当に好きでいてくださるなら、ぜひまだ見ぬものを探す旅に乗り出してほしいなと願っています。(text:Naoki Kurozu)
2023年02月01日【音楽通信】第129回目に登場するのは、一度聴いたら忘れられない艶やかなハスキーボイスでわたしたちを魅了する、デビュー25周年を迎えたシンガーソングライターのスガ シカオさん!「いまでもデビューの頃と同じ新鮮な気持ち」【音楽通信】vol.1291997年のメジャーデビュー以降、一度聴いたら忘れられないハスキーで艶やかな歌声と、ポップだけれどファンキーなサウンド、幅広い世代の心をとらえるソングライティングで、数多くのヒット曲を世に送り出してきたシンガーソングライターのスガ シカオさん。スガさんご自身の楽曲はもとより、スガさんと武部聡志さんらトップミュージシャンで結成されたバンド「kokua」によるNHK総合テレビ『プロフェッショナル 仕事の流儀』主題歌「Progress」や、SMAPへの「夜空ノムコウ」、KAT-TUNへの「Real Face」や嵐への「アオゾラペダル」などの楽曲提供者としても、その優れたセンスを世に知らしめています。そんなスガさんは、2022年2月にデビュー25周年を迎えました。2023年2月1日には、3年の歳月をかけて完成した25周年を締めくくるニューアルバム『イノセント』をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――あらためてスガさんが学生時代によく聴いていた音楽や、影響を受けたアーティストから教えてください。学生時代からデビューまでは、ほとんどブラックミュージックしか聴いてこなかったです。70年代から2000年代までのソウル全般、ファンク、ニュージャックスイング、ディスコ、ブラックコンテンポラリー、R&B、ネオソウル、ジャズフュージョン、ヒップホップ……と寝ても覚めても、そういった音楽ばかりを聴きあさっていました。当時はレンタルCDが全盛の時代だったんですが、いろいろな音楽が聴きたくて、レンタルショップにあるCDとレコードを全部借りて聴き終えてしまったほど。日本のポップスも、あげたらキリがないくらいたくさん聴いていました。当時聴いていたレジェンドアーティストたちに、いまはかわいがってもらっています。――学生時代はたくさんの音楽に触れていたのですね。その後、スガさんは社会人生活を経て、1997年2月26日にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビューされましたが、音楽の道を選んだきっかけはなんだったのですか。大学を卒業してからは会社員をしていたのですが、4年半勤めてアラサーに差し掛かる頃、アーティストになる夢を諦めきれず、27歳のときに退社を決意しました。当時メジャーデビューの限界は“30歳”だと言われていたので、「30歳までがんばってダメだったら潔く諦めよう」と思って、勝負をかけました。――昨年、デビュー25周年を迎え、今年は26年目に入りますね。当時と現在での内外での変化や、振り返ってみてのお気持ちはいかがでしょうか。いまでもデビューの頃と同じ新鮮な気持ちで音楽に向かえています。音楽業界は大きく変わってしまいましたが、パソコンの前でギターを持って集中してイメージを広げて曲を作る、自分の内面に潜って歌詞を削り出してくるといったスタイルは、当時とまったく一緒です。ただ、25年を経て、自分の武器になる声や歌詞やリズムなどには、あの頃より自覚的になったと思います。「これ以上はもうできないと思える」新作が完成――2023年2月1日に、ニューアルバム『イノセント』をリリースされますが、スガさんの楽曲は揺れ動く心情や強い言葉もスガさんの歌声を通すとすんなりと耳に馴染んで生々しくリアルに響きますね。まずは今作が完成した手応えからお聞かせください。デビューして25年も経って、こんなにも新鮮で初々しいアルバムを作れたことを素直に喜びたいです。出来上がっていくときのドキドキ感、思い通りにいかないときの焦燥感も含め、完成したときのやり切った感はすごかったですね。手応えというか、これ以上はもうできないと思える作品になりました。――昨年開催された全国10公演のツアー「大感謝祭 2022」でも披露された、セクシーな歌詞の新曲「バニラ」が1曲目に収録されています。1月18日に先行配信もされましたが、どのようなイメージから、この曲が生まれたのでしょうか。昔から性的なテーマの曲が大好物で、ほかの誰も触らないテーマなので、ぼくが一人でその歴史をどんどん開拓していこうと勝手に思っています(笑)。「バニラ」はSM的な内面感情を、自分なりに深く掘り下げた曲。メロディやアレンジを作っていく段階で、頭の中のそういった性的なイメージに火がついた感じです。ーー9曲目「灯火(ともしび)」は、関東電気保安協会「安全のプロ編」CMソングとしても流れていたあたたかいナンバーです。どのようなメッセージを込めて歌っていますか。関東電気保安協会のCM曲なので、なにか「光」をテーマにした曲を作りたかったんです。まだプロにもなれていなかったデビュー前の時代、はるか遠くのほうにある成功を光に例えて、届かないけれどがんばる景色を描きました。若い友人のアーティストたちも、いままさにそういう状況にいるので、彼らや彼女らに向けて作った曲でもあります。――切ないラブソングがストリングスとも相まって届く11曲目「国道4号線」は、どのように生まれた曲ですか。自分でも抑えられないくらいイメージや映像、言葉がどんどん頭の中にあふれてきてしまった曲です。本当はもっと長く歌詞やメロディを足して、壮大な映画のようなストーリーにしたかったんですが、さすがにそうもいかないので、このサイズで打ち切りました(笑)。渋谷で待ち合わせをしているシーンから始まる、映画みたいな切なくも苦しい曲です。――ヒャダインさんと組まれた13曲目「モンスターディスコ」は、フジテレビ系TVアニメ『デジモンゴーストゲーム』エンディング主題歌としても親しまれたキャッチーなダンスナンバーで、お子さんたちにも響いた曲ですね。アニメを観ているお子さんに向けて作ったホラーソングなんです。ヒャダインに、「スガ シカオのイメージをぶち壊してくれ」って頼んだら、やれラップやれだの、ここにメロディを作ってだの、無茶振りの応酬を受けて、この曲が出来上がりました(笑)。その結果、歌詞もメロディもいままでやったことのない感じになっていて、ヒャダインに感謝です。――そうだったのですね(笑)。今作には、25周年を機に立ち上げたファンク集団「ファンクザウルス」の楽曲も4曲収録されています。ファンクザウルスでは、インパクトのある歌詞を陽気に聴かせてくださいますが、ソロと違う点として、ファンクザウルスで意識されている点はどこですか。ファンクザウルスは、とにかく大真面目にアホなことをやり尽くすバンドなんです。お客さんも一緒になって“ファンクバカ”になってもらって、泣くまで笑ってもらうというコンセプトで始めました。このタイプのバカバカしい歌詞を書かせたら、ぼくの右に出るものは日本にはいません、天才としか言いようがないかも(笑)。ちなみに次のファンクザウルスの新曲のタイトルは『スガ シカオで領収書ください』というバラードです!――わー、早く聴きたいです! デビュー記念日となる2023年2月26日には、中野サンプラザ公演を開催され、ファンクザウルスの初お披露目もあるようですね。そしてアルバム『イノセント』のツアーも行うご予定は?ファンクザウルスのステージは参加型ステージなので、お客さんもコーラスやペンライトでガンガンにステージを盛り上げてもらいます。いままでのような聴くライブではなく、騒ぐライブと位置付けているんですよ。そして『イノセント』のツアーもやりたいですが、まだ予定はないですね。「海外や踏み込んだことのないジャンルに進出したい」――少し普段のご様子もお聞かせください。音楽活動以外では、おやすみの日はどんなふうにお過ごしですか。趣味や現在ハマっているものもあれば教えてください。最近、休日に船釣りに行きました。朝5時集合で、東京湾のアジを大量に釣ってきたんです。自分で捌いて、刺身やなめろう、アジフライにして食べたんですが、最高でしたね。あと習い事が好きで、いまも英会話、ギター、たまにボイストレーニングと、いろいろやっています。できなかった何かができるようになると、すごく得した気になるんですよね。食べ歩きも好きで、70人くらいいる食べ歩き同好会みたいなものに入っているので、日本全国の美味しいものを探して、食べ歩いています。――多趣味で多彩でいらっしゃるんですね。ではライフスタイルにおいて、普段気をつけていることはありますか。体型がだらしなくならないように気をつけていますね。トレーニングはもとより、週に2回、10kmは歩いていますし、食べ物もかなり気をつけています。――いろいろなお話をありがとうございました。最後に、今後の抱負を教えてください。今年は、活動の幅を少し広げていきたいと思っています。たとえば、海外とか踏み込んだことのないジャンルとかに、どんどん進出していきたいですね。取材後記ファンクな要素をポップミュージックにちりばめて、多くの人たちを惹きつけ、何度も聴きたくなる楽曲にして届けてくださる、スガ シカオさん。デビュー25周年というアニバーサリーイヤーを迎えてもなお新鮮さを持ち続けて、また新しい楽曲を聴かせてくれるのはうれしい限りですよね。そんなスガさんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりスガ シカオPROFILE1997年2月、シングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビュー。同年9月発売の1stアルバム『Clover』以降、これまですべてのオリジナルアルバムがオリコンTOP10 入りを記録している。2011年、所属事務所から独立。メジャーとインディーズの枠組みに捉われない独自の活動を行ったのち、2014年に両A面シングル「アストライド/LIFE」でメジャーシーンに完全復帰。2017 年にはデビュー20 周年を迎え、自身が主催する「スガフェス!」をさいたまスーパーアリーナと大阪城ホールで開催した。2021年12 月、デビュー25周年のキックオフ作品としてアルバム『SugarlessIII』をリリース。同年6月には、オリンピックや世界選手権で活躍する一流スケーターたちが繰り広げる「Fantasy on Ice 2022」にて、フィギュアスケーターの羽生結弦とコラボレーションしたことが大きな話題に。2022年2月、デビュー25周年を迎え、全国10公演をまわったホールツアー「大感謝祭 2022」は大盛況のうちに幕を閉じた。2023年2月1日、25周年を締めくくるニューアルバム『イノセント』をリリース。InformationNew Release『イノセント』(収録曲)01.バニラ02.さよならサンセット03.叩けばホコリばっかし(Short Mix)by ファンクザウルス04.痛いよ05.獣ノニオイ06.バカがFUNKでやってくる(Short Mix)by ファンクザウルス07.覚醒08.東京ゼロメートル地帯09.灯火10.メルカリFUNK(Short Mix)by ファンクザウルス11.国道4号線12.おれのせい by ファンクザウルス13.モンスターディスコ2023年2月1日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)VICL-65749(CD)¥3,300(税込)(初回限定版A)VIZL-2132(2CD)¥4,950(税込)*内容:『イノセント』+CD「ファンクザウルス」デビューEP(初回限定版B)VIZL-2133(CD+DVD)¥5,500(税込)*内容:『イノセント』+DVD「25周年ツアー 大感謝祭2022 東京国際フォーラム ホールA(2022.10.14)」/「バニラ」ミュージックビデオ完全版取材、文・かわむらあみり
2023年01月29日自由すぎて、型破りにもほどがあり、超迷惑。それでいて、こんな人になりたい、こんな生き方をしたいと思わされる。入間みちおはそんな人だ。そのことは彼の被害者(?)であり、彼の信奉者とも言える井出伊織が一番よく知っている。そして、“みちお旋風”ならぬ“みちお暴風”はスクリーンへ。裁判官・入間みちおと検事・井出伊織として連続ドラマ「イチケイのカラス」を共に駆け抜けた竹野内豊と山崎育三郎が、映画『イチケイのカラス』と一連のシリーズについて語る。「竹野内豊と入間みちおの境界線がよく分からない」──映画『イチケイのカラス』でも、みちおと井出の関係は相変わらずですね。山崎:井出がみちおさんを追いかける構図は、連ドラのころから変わりないんですよね。初めこそ敵対するポジションにいましたが、どこか惹かれていって。みちおさんの生き方や行動を見ながら、井出自身が変わっていく。「自分にとっての正義とは何か?」を考えるような瞬間もありましたし。そのあげく、今ではみちおさんのお目付け役のような立場になって。みちおさんのことになると結局、井出はコントロールできないんです(笑)。竹野内:私を含め、入間みちおという破天荒な裁判官には誰しも違和感を持っていると思います(笑)。ですが、みちおと出会うことで、井出くんも坂間さん(黒木華)もそれぞれ自分自身や自分なりの正義と向き合うことになっていくんですよね。たとえ反発していても心の中の塊みたいなものが少しずつ溶かされていき、内心では認めざるを得なくなっていく。それが「イチケイのカラス」の魅力にもなっているんじゃないでしょうか。──ある意味、井出はみちおに最も溶かされる登場人物の1人です。山崎:特に連ドラでは猛スピードで溶かされていました(笑)。でも、僕自身も竹野内さん演じるみちおさんが大好きなので、気持ちは分かります。──山崎さんから見て、“竹野内さんが演じるみちお”の魅力はどんなところにありますか?山崎:まずは何より、僕は竹野内さんの声が大好きで。喋り出すだけで全体を包み込むような、柔らかくて優しい低音の声をずっと聴いていたい。竹野内:ありがとうございます(笑)。山崎:僕、声フェチなんです(笑)。そんな竹野内さんだからこそ、みちおさんを演じるうえでの絶妙な説得力があって。正直、竹野内さんとみちおさんの境界線ってよく分からないんです。なんて言うか、佇まいと存在感に説得力があるんですよね。台本を読んだときに僕がイメージしたのとは全然違う角度で演じられることも多いんですが、それこそが竹野内さんならではのみちおさん。芯の強さも感じますし、「次はどうするのかな?」とずっと見ていたい。井出としても山崎育三郎としても憧れの目で見ています。回を追うごとに山崎育三郎“井出伊織”のキャラクターが構築──逆に、竹野内さんから見た“山崎さんが演じる井出”の魅力は?竹野内:まずは、冒頭陳述のスピードですね。ものすごい速さで読み上げますから。しかも、なんてこともないようにさらっと。なかなかできるものじゃないですよね。山崎:いやいや、いつも緊張しています(笑)。竹野内:NGを出すこともなく、本当に素晴らしいなと思います。それに加え、回を追うごとに井出伊織のキャラクターが構築されていき…。気づいたら、独自の世界観が確立されていました(笑)。今や「イチケイのカラス」になくてはならない存在ですからね。みちおとはまた違うキャラの濃さがあって。山崎:連ドラのときは大抵、事件の説明をしているか、全速力で走っているかでしたけどね(笑)。それが、スピンオフ(「イチケイのカラス-井出伊織、愛の記録-」)でネジが外れちゃって…。竹野内:ほんとだねえ。ちょっとネジが外れてた(笑)。山崎:恋愛になるとそういうタイプなんだなって。すごく危険な人だと改めて感じました(笑)。──スピンオフドラマにはみちおも登場していましたね。ふたりの距離感が今まで以上に縮まっているのを感じました。竹野内:顔が近かったですよね(笑)。ああいったシーンはすべて田中(亮)監督の指示です。「もっと(近くに)行って」とおっしゃるので…。山崎:竹野内さんはコミカルなシーンの瞬発力がすごいんです。ぱっと予測不可能なことをなさる(笑)。竹野内:その言葉はそのままお返しします(笑)。山崎:僕はもう、ふざけているだけなので(笑)。でも、竹野内さんはこの素敵な感じのまま瞬時にアドリブをなさるから。──優しい低音の声で面白いことをなさるんですね。ずるいです。山崎:そうそう。そうなんですよ!(笑)約7年前「グッドパートナー」での共演秘話──おふたりは「グッドパートナー 無敵の弁護士」でも共演なさっていますね。竹野内:もう7年ほど前になりますね。クランクアップの直後に、育三郎くんのミュージカルを拝見しに行ったことも覚えています。山崎:帝国劇場まで観に来てくださいましたよね!竹野内:あえて前情報を入れずに観に行ったら、最初に髭の男性が出てきて。それが育三郎くんだったんですが、しばらく分かりませんでした。低くて野太い声の別人で…。山崎:(「エリザベート」の)ルキーニだったので…(照れ)。竹野内:10分ほど経ってから、もしかして…育三郎くん?と。山崎:(笑)。「グッドパートナー」のイメージもあったでしょうしね。竹野内:そうそう。直後だったから、本当に分からなくて。ものすごい才能を持たれているんだなと思いました。役柄による変化はもちろん、カメラの前と舞台の上の違いもありましたし。台詞を言う声に圧があり、圧倒されました。山崎:そうおっしゃってくださって、すごく嬉しかったです。竹野内さんも「グッドパートナー」(の咲坂健人)とみちおさんでは全然違いますけど(笑)。でも、現場での居方は変わらないですよね。変わらず魅力的で、安心感があって、優しいです。何をしても何が起きても絶対に受け止めてくれますし。どうして常にフラットにいられるんですか?竹野内:いやいやいや(笑)。主演として皆さんを引っ張りたい気持ちはすごくあるし、かっこいいところを見せたいんですけど、気づくと自分のほうが受け止められていて…。山崎:そんなことないです!竹野内:育三郎くんを含め、皆さんから教わることのほうが多いです。山崎:竹野内さんのおかげで、明るく開放的な撮影現場になっていましたから。“入間みちお”から学ぶ、今の時代に求められる人物像──現場の空気づくりをなさる竹野内さんと空気の読めないみちおは、ある意味対照的ですね。その一方、目的に向かう信念の強さは共通していて。おふたりは入間みちおのような生き方をどう思いますか?竹野内:ぶれることなく、自分の信念を貫く。それがみちおの何よりもの強さですし、見習いたいとは思います。映画の彼みたいに、国と戦うほどの勇気はなかなか出ないかもしれませんけど。不可能と言われているような壁すら突破していく。そんなエネルギーを持つ人が、今の時代には必要なんじゃないかなとも思います。あまりやりすぎると身の危険を感じることになるかもしれないし、難しいことではありますけど。でも、彼のような生き方と強い心に憧れる気持ちはあります。山崎:僕がいいなと思うのは、みちおさんの子供っぽさですね。できれば僕も大人になんてならず、子供でいたい(笑)。大人っていろいろな場面で空気を読み、人の視線も感じ、「こうしなきゃ」と思いながら生きていくものじゃないですか。そういったものから解放され、思うままに生きてみたいですね。それが、みちおさんにとっては真実にとことん向き合うことであって。そのためにあえて空気を読まず、ありのままの自分で突き抜けていくみちおさんみたいに生きられたらかっこいいと思います。(text:Hikaru Watanabe/photo:Maho Korogi)■関連作品:イチケイのカラス 2023年1月13日より全国にて公開©︎浅見理都/講談社 ©︎2023映画「イチケイのカラス」製作委員会
2023年01月26日満島ひかりと佐藤健が共演し、宇多田ヒカルの「First Love」「初恋」からインスパイアされたラブストーリーを紡ぐNetfixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」。配信開始されるや否や、日本のみならず各国でヒットを記録している本作、その立役者の一員が八木莉可子と木戸大聖だ。本作は、也英と晴道という高校生が恋に落ちるも予期せぬ試練に遭い離ればなれになり、時が経って運命的に再会する姿を約20年というスパンで描いた作品。也英を満島さんと八木さん、晴道を佐藤さんと木戸さんがそれぞれ2人一役で演じている。一大ブームの渦中で自身に起こった“変化”を皮切りに、ふたりが本作とどのように歩んできたのか――。その軌跡を語っていただいた。国内外の声からも反響の大きさを実感――11月24日の配信からちょうど1か月が経過しましたが、おふたりのもとにはどのような反響が届きましたか?八木:私は、本当にたくさんの国の方からInstagramのコメントをいただくようになりました。あとは、この間渋谷で撮影をしていたら台湾出身の方が英語で話しかけてきてくださったんです。ご本人も向こうで役者をされているそうで、観ていただけたことも嬉しかったですし、これまではそんな風に声をかけていただけることもなかったのでびっくりして嬉しかったです。大学の友達も観てくれましたし、学内の知らない子からも声をかけられて反響の大きさを実感しています。木戸:僕も莉可子ちゃんと一緒で、日本だけでなく海外の人からも反響をいただけたことがすごく嬉しかったです。あとは、具体的な数字になってしまうのですがInstagramのフォロワーが配信前は1.3万人くらいだったのですが、一気に19万人くらいまで増えました。これも莉可子ちゃんと一緒だとは思うのですが、海外の方がたくさんフォローしてくださいました。――10倍以上!すごいですね…。木戸:あまりに増えすぎて、その数字を見たときは「バグかな?」と思ったくらいでした(笑)。こうやって、日本のラブストーリーが国を超えて海外の方にもたくさん支持いただけていると実感できて嬉しかったです。――ここからは作品の舞台裏含めて伺えればと思います。まずはオーディションについて。木戸さんはオーディション後、タクシーで移動中に合格の連絡が来たそうですね。ちなみに、オーディション時はどんなシーンを演じたのでしょう?八木:也英と晴道がリスの話をしているシーンがあって、「10年後に何をしているんだろうね」と会話するところです。大聖くんもそうだったよね?木戸:そうだね。僕は2回オーディションを受けたのですが、2回目は先に莉可子ちゃんの出演が決まっていて相手役をしてくれたんです。その時に演じたのがいま言ってくれたシーンでした。八木:私が受けたオーディションは1回だったのですが、実際に具体的なシーンを演じていた時間は2分くらいで、ほぼほぼ1時間くらい寒竹ゆり監督やプロデューサーさんとお話ししていました。「普段はどういう人か」といったように私自身のことを聞かれたり、宇多田ヒカルさんの音楽を聴きますか?とご質問いただきました。実は私が初めて受けたオーディションがポカリスエットのCMなのですが、その時の課題曲が宇多田さんの「traveling」だったんです。そのことを話したら「じゃあ歌ってみて」という話になってその場で歌ったり…。「プロットを読んでどう感じた?」というお話もしましたし、自分の内面や考え、気持ちをたくさん話すオーディションでした。木戸:僕が受けた1回目のオーディションも同じ内容でした。ただ僕は、1回目のオーディションであえて渡されたプロットを読まずに挑んだんです。そのときは審査して下さる方の中で「えっ読んでないんだ」という反応もありましたが、現場に入る前に寒竹監督からいただいた手紙に「プロットを読まずにオーディションに挑んだあなたは誰よりも晴道でした」と書かれていて、ホッとしました。莉可子ちゃんと一緒にやった2回目のオーディションも、ずっとお芝居していたというより話していた時間が多かったよね。八木:そうだね。ふたりで並んでみて!みたいなのもあったね(笑)。木戸:あったあった(笑)。あと、僕は作品の中で坊主にするシーンがあるのですが、プロデューサーの方に頭をたくさん触られました(笑)。――頭の形のチェックが…(笑)。木戸:そうなんです(笑)。でもそのときはなんのこっちゃわからず、後からそういうことか!となりました(笑)。役作りのため様々な“90年代”を体験――撮影に入る前には、満島ひかりさんによるワークショップも開催されたと伺いました。木戸:也英と晴道が『タイタニック』のポーズを真似してはしゃぐシーンをピックアップしてやりしました。台本にはジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)のセリフがあって「笑い合う」くらいしか書いていないんですが、ワークショップの前に監督と3人で読み合わせをやったときに僕と莉可子ちゃんが恥ずかしくなっちゃって(笑)。八木:私も「I’m flying, Jack!」のセリフが全然うまく言えなくて、何回も回数を重ねてしまいました…(苦笑)。あとは晴道との電話を切った後に「キャー!」って喜びを爆発させるシーンも何回もやったことを覚えています。木戸:ワークショップではひかりさんが莉可子ちゃんの部分をやってくださって、そこに書いてあるセリフに関係なくアドリブで「やだやだやだやだ!やりたくない!」みたいに演じてらっしゃって、新鮮でした。お芝居というよりもひかりさんが素で楽しんでらっしゃるような感じがあって、ご本人も「とにかく楽しんだ方がいいよ」とおっしゃってくださいました。――八木さんは役作りの一環で「90年代当時のことを調べた」とおっしゃっていましたが、『タイタニック』のシーン然り、世代的に当時の盛り上がりを体感していないなか演じる状況でもありました。八木:おっしゃる通り当時の盛り上がりだったり、そういった当時流行ったものがその人にとってどれくらい大切なものなのかわかっていなくて、監督に現場で指摘いただいて「自分はちゃんとわかっていなかったんだな」「違ったんだな」と感じることはありました。木戸:いまのお話に通じますが、90年代当時はいまみたいにスマホで簡単に連絡を取り合えなかっただろうから、と思い、僕から提案して莉可子ちゃんと連絡先を交換しなかったんです。そのぶん、会える時間に色々な話をするはずと思って現場入りしたのですが、お芝居をやりながら「もっと普通に連絡を取っておけばよかった…」と思い直して(苦笑)。僕が監督から晴道を演じるうえで色々言っていただけたことを処理しきれずに悩んでしまったときに、ホテルのロビーで莉可子ちゃんと話をさせてもらったのですが、そのタイミングで「やっぱ連絡先交換していい?」とお願いしました。八木:お互いに「こうした方がいいよ」みたいにシーンの悩み相談をするだけじゃなくて、普通に会話する時間を増やしました。「明日は仲のいいシーンの撮影だし1回会って話そうか」みたいにホテルのロビーで待ち合わせて話したり、1回だけじゃなくて何回もお互いに話す機会を作りました。木戸:ふたりでNetfixの宇多田ヒカルさんのライブツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」を観たりもしましたね。それこそ、劇中の也英と晴道の屋上のシーンみたいに。八木:でも私たちはAirPodsだったから(有線式の)イヤフォンを片耳ずつ、ではなかったです(笑)。木戸:(笑)。あとは撮休のときに、莉可子ちゃんが飛行機のお守りを買ってきてくれたんです。八木:パイロットの方やCAさんが買うお守りがあるんです。――素敵ですね。劇中とリンクしていますね。木戸:そうなんです。僕が空いている日はお守りを買ってきて、お守り交換もしました。八木:札幌の中島公園に行って話したりもしたよね。木戸:そうだね。出演を経てからの変化と成長――本作ですと順撮り(※脚本の順番通り、ないし時系列順に撮影すること)ではないぶん日によって也英と晴道の距離感も変わりますし、満島ひかりさん・佐藤健さんと2人一役という難しさもあります。八木さんは手の使い方・木戸さんはタバコを吸うときの角度などを参考にされたと伺いました。八木:最初にプロデューサーさんから「ひかりちゃんと莉可子が通じるのは、野性的なところ」と言っていただけたのが大きかったですね。手に関しては最初からそこを考えていたというより、むしろ意識できていなくて監督から教えていただいたんです。私は「仕草を真似しようかな」と考えていたのですが、撮影時に監督から「ひかりちゃんはすごく丁寧にものを持つんだよ」と言われて、「確かに!」と気を付けるようになりました。――なるほど、そういう順番だったのですね。最初に「ひかりさんと通じる」と言ってもらえたことで、自分らしくいられる部分もあったのではないでしょうか。八木:そう思います。最初は「ひかりさんと同じ役を演じさせてもらえるなんて、どうしよう」と思っていましたから。ひかりさんも「莉可子ちゃんの自然体のキラキラしたところが映るといいね」と言ってくださって、お陰でリラックスしてお芝居に臨めました。木戸:僕も初めは健さんのいままでに出ていらっしゃる作品を観たうえでの芝居のイメージはもちろんあったのですが、そこに近づこうとしていくのは違うのではないかとどこかのタイミングで思うようになりました。健さんも晴道に近づこうとしているなかで、僕も同じようにしなければベクトルが違ってしまうと感じたんです。本作は也英の事故を境に健さんのブロックになりますが、それまでは僕が演じないといけない。晴道自身も大きく変わるわけで、同じものを演じるというより僕がやる部分では純愛のキラキラした部分をしっかり演じようと思いました。そういった意味では芝居面で寄せていこうというアプローチではなく、ただ先ほど挙げてくださった所作については人間が子どものころからやっているものが大人になっても出ちゃうものだから、晴道が1本の線でつながっていると見せるためにも沿わせていきたいと考えていました。――いま木戸さんがお話した部分は、「身体が憶えている」という本作のテーマにも通じますね。木戸:そうなんです。そのうえで今回、「タバコを吸う」という共通項があるのであれば…と先に撮っていた健さんの喫煙シーンを見せていただき、「指のこの位置で挟んでいるな」等を研究して、意識して演じましたね。――本日は貴重なお話、ありがとうございました。最後に、「First Love 初恋」を経験したことでおふたりの「演じる」に生じた変化があれば、ぜひ教えて下さい。八木:本作の出演が決まったのは高校生のときで、まだお芝居の経験もあまりないタイミングでした。それからコロナなどで撮影が延びてしまい、何回も読み合わせをしたりワークショップを開いていただいたりと、本当に一から手取り足取り教えていただいた感覚があります。だから「ここが変わった」というより、この作品で役との向き合い方を教えてもらった気持ちです。まだまだ未熟なので全然わかっていないのですが、「こうしたら綺麗に見える」みたいなものではなく、役に対して俳優としてどう向き合うかの姿勢や意識ができてきたように感じます。たとえば私は自分に引き寄せて考えないと苦手なタイプだな、自分事として捉えるのがいいんだなとわかりました。木戸:僕がすごく覚えているのは、去年の7月くらいに自衛隊の基地で撮影していたときのことです。炎天下のなか自衛隊員の方たちに混ざってほふく前進をしないといけないシーンでしたが、無我夢中でやっている僕の芝居を観た寒竹監督が「それまで撮ってきた中で、初めて大聖が周りの目や人が気にならなくなって、ガッとそこしか見えていない状態になっていた」とおっしゃっていて。ひかりさんがそういう状態のことを「水中に潜っている状態」とおっしゃっていて、ひょっとしてこれかもしれないと気づきました。――ゾーンに入るといいますか。木戸:そうですね。芝居の最中は必死でしたが、周りの音が聞こえなくなって目の前のことだけに集中する瞬間は初めてかもしれないと感じました。寒竹監督は五感や身体の人間的な反応をすごく大事にしている方なので、そう思っていないまま表面的な芝居をするとすぐカットをかけられて「違う」と言われてしまうんです。でも、そういった部分に気づけずに役者を続けていたら、いつか絶対に壁にぶち当たっていました。寒竹監督や、莉可子ちゃんはじめ色々な方と芝居していくなかでこの“水中に潜った感覚”に出会えたこと――この経験は、今後も大事にしていきたいです。(text:SYO/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-
2023年01月04日ソン・ガンホ、イ・ビョンホンに、チョン・ドヨン、キム・ナムギルらが豪華共演し、ハワイ行きの航空機が謎のウイルスによって恐怖と混乱の渦に巻き込まれていく航空パニック映画『非常宣言』。Withコロナの時代に極限のリアリティーが描かれる本作で、「すごいことを起こす、飛行機テロだ」と言い放つ謎の男を演じたのは、ドラマ「ミセン -未生-」や映画『弁護人』『名もなき野良犬の輪舞』などで知られる人気実力派俳優イム・シワン。登場した瞬間から異様な雰囲気を纏い、冷たい眼差しで観る者を戦慄させるテロリストを演じた彼が、初めて挑んだ悪役の役作りや、共演者についてシネマカフェに語ってくれた。「引き受けた役をしっかりと演じなければ」メガホンをとったハン・ジェリム監督が脚本を執筆し、キャスティングを行い、撮影開始の準備をしていたのはもちろんコロナ禍以前のこと。「自分が頭の中で思い描いていた出来事が現実になるのを見て、衝撃を受けずにはいられなかった」とコメントしているとおり、クランクインは 2020年5月30日、クランクアップは同年10月24日と、まさに世界中がウイルスパニック真っ只中での撮影となった。そんな本作への出演を決めた理由をイム・シワンは、「僕自身が作品を選択したというよりも、“選択していただいた”という表現が適切かと思います」と謙虚に語る。「素晴らしい先輩、素晴らしい監督、何よりも作品が素晴らしいので、僕自身を選択していただいたのは大きな機会になると思いましたし、光栄だと思って作品に臨みました。引き受けた役をしっかりと演じなければ作品に対して失礼になってしまう、そんな責任感を持って臨みました」と明かす。2019年に兵役を終えた彼は、ドラマ「他人は地獄だ」「それでも僕らは走り続ける」ほか、現在は最新ドラマ「なにもしたくない」(原題)など精力的に活躍を続けている。そこには、役者という仕事への激しい渇望があったようだ。「若い年齢で入隊すると、何かの仕事をしていたら一定期間、その仕事を中断せざるを得ないという状況になります。それが兵役の特徴なんですけれども、そんなふうにやってきた仕事を中断すると、やはりその仕事に対する“喉の渇き”のような、その仕事に対する気持ちがどんどん強まっていくものなんです」と言う。「ですから、その気持ちを解消できるような作品と出会えるというのは、“恵みの雨”ともいえるような心境になりました。(復帰作の)『他人は地獄だ』を撮っていたときも本当にワクワクしていましたし、共演した俳優や監督とおしゃべりするときもそうでしたし、食事をするときも本当に楽しくてワクワクしていました」とふり返る。イ・ビョンホンとの共演は「不思議な、スゴい日だった」本作においても、錚々たる顔ぶれと共演することになった。演じたのは、謎のウイルスを仁川発ハワイ行きKI501便に持ち込み、拡散させた張本人リュ・ジンソクという男。空港から、イ・ビョンホン演じる飛行機が苦手なジェヒョクとその娘スミンに執拗につきまとい、不審がられるというキャラクターだ。イ・ビョンホンについてイム・シワンは、「世界的にも演技が認められている先輩ですから、先輩の演技は常に正解だと思っています。そんな先輩と共演できて、また、息を合わせて一緒に演技できたのは、僕にとって不思議な経験でした」と語る。「撮影初日のことは日付も記憶にあるくらい、本当に自分にとってイ・ビョンホンさんと共演できた日というのは不思議な、スゴい日だったと、いまでも思っています」と当時の心境を打ち明ける。また、副操縦士ヒョンス役のキム・ナムギルと対峙するシーンもあった。「キム・ナムギルさんは僕のことを弟のようにかわいがってくださったんです。撮影しているときにも、(緊迫したシーンが続く)僕が心理的に大変な思いをしないように一緒にふざけてくれたり、いたずらをしてくれたりして、いい雰囲気を作ってくださいました」と言う。「そのおかげで気持ちを楽にして撮影ができたんです。映画の中で乱気流が発生するシーンがあったんですが、そのときにも気遣ってくださって気楽な気持ちで演技ができました。僕たちがふざけていたのを見て、監督はそれが演技だと思ったらしく、『いまのがいいですね』と言ってくださって、それが演技に反映されたところもありました」とも明かした。航空バイオテロを引き起こす張本人役「僕なりに彼の個人史を考えました」イム・シワンが演じたリュ・ジンソクは、副操縦士のヒョンスらに追及されても傲岸不遜で、その人物背景も多くは語られない。「監督としては、リュ・ジンソクの背景や動機は推測に留めておこうという考えだったようなんですね。つまり、リュ・ジンソクの細かい個人史を(劇中では)説明しないという方向で監督は考えていたようです」と語る。「なぜかと言いますと、(米国史上最悪といわれた2017年の)ラスベガス銃乱射事件が起きたとき、誰にとっても悲劇であり、恐怖だったわけですが、その事件の恐怖が大きかったのは犯人に特定の動機がなかったという点だったんです。動機がないという不透明さ。明確な理由がないまま、あのような事件を起こした。それがむしろ大きな恐怖に感じられた、と監督はおっしゃっていました。そのお話を聞いて、僕も共感できたんですね」。「ですから僕は、演技をするために必要になるので、リュ・ジンソクがどんな人間だったのかという個人史を、キャラクターの正当性を作るために自分なりに考えてみました。それはあくまでも僕が演技をする上で必要なものであって、監督とも共有する必要がないと思ったので、『僕なりに彼の個人史を考えます』と監督にお伝えしたところ、監督も快く認めてくださいました」と言い、「僕なりに考えたリュ・ジンソクの個人史を根幹にして演技に臨みました」と、未曾有のバイオテロを引き起こした人物の秘かな役作りを打ち明けた。また、「リュ・ジンソク本人は自分がしている行動をテロとは思っていなかったと思うんです」とも言う。「本人にとっては、神聖な浄化作業のようなもの、と頭の中でセッティングをして行動に及んだと思います。ですから、スミンという少女は自分にとって邪魔になる存在だと思ったはずなんです。これから神聖なことをするけれども、スミンが知ってしまったら失敗する恐れがある。だから彼にとっては邪魔者になるわけで、だからこそ、スミンが乗る飛行機のチケットを買うことになったと思います」と分析。「それについてはおそらく、罪悪感は感じていなかったと思うんですね」と続け、「罪悪感があったら、あのような行動はできなかったと思いますし、スミンについてはそのときにすでに犠牲者の1人だと思っていたはず。リュ・ジンソクには、もとから罪悪感などなかったのです」と話す。その穏やかな語り口とは打って変わって、これまでのイメージを覆すようなキャラクターを怪演したイム・シワンは、第31回釜日映画賞で助演男優賞を受賞、第43回青龍映画賞でも助演男優賞ノミネートなど、大きな反響を得ている。彼の新境地といえる役どころを、スクリーンで確かめてみてほしい。『非常宣言』は2023年1月6日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:非常宣言 2023年1月6日より全国にて公開© 2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.
2023年01月03日竹田優哉監督『暮れる』は、“真実の映画”だ。映画監督への登竜門と呼ばれる自主映画のコンペティション、ぴあフィルムフェスティバルの「PFFアワード」は、1977年から続く歴史の中で、黒沢清監督や諏訪敦彦監督など日本映画界を牽引する映画監督を数多く輩出してきた。今年開催されたPFFアワード2022で京都会場のグランプリ「京都観客賞」を受賞したのが『暮れる』だ。主人公は祖母と愛犬と暮らす無職の青年。将来への不安を抱えながら静かな日常をおくっている。ある日彼は犬の散歩中に原因不明の腹痛に襲われ、犬のリードを離してしまう。迷子になってしまった犬を探して辿り着いた自然の中で、彼はキャンプ中の男性と出会い、そこで一夜を過ごすことになる。痛みは、湖の水面や火の音と同じように、全てリズムなのだ。少し掴みづらいリズムもあるというだけだ。世界に隠された優しい真実を見せてくれた竹田監督は、どのような眼差しで世界を見つめ、映画にしたのだろうか。竹田監督が本作に込めた思いを伺った。――『暮れる』を製作した経緯を教えてください。大学院で長期間留学に行く予定だったんですが、コロナで中止になってしまって1年間ほど空き時間ができたというのが大きな理由です。どうせなら何かやろうと思って、友達と2人でアイディアを発表する会を立ち上げました。そのとき僕の頭の中にあったのが『暮れる』のような映画をつくることでした。その会を開いていた場所が友達の家族が所有していた山の近くにある空き家だったんですが、そこの環境がすごく良くて、この場所で友達と一緒に映画をつくりたいという思いが徐々に湧き、プロットを書き始めました。そのとき一緒に会をやっていた友達が『暮れる』の主演の子です。スタッフも大学の後輩や先輩や友達などを集めて撮りました。――『暮れる』は少し俯瞰的な視点から日常を描いているように感じました。そこは意識されていますか?映画の視点というのは常に意識しています。ある映画監督から、「監督の重要な仕事のひとつは、カメラポジションを最良の位置に持ってくることだ」という言葉をいただいたことがあります。それから「最良のカメラポジション」ってなんだろう…とずっと考えていました。僕は登場人物の主観やモノの肌触りを感じるような作品が好きだったので、当初は人間の目線に近い画角を意識して撮ろうと考えていました。だけど同時に、必要以上に物語に入り込みたくないという気持ちもありました。だから、手持ちカメラなどとは別のやり方で、普段感じていることを映画で表現してみようと思いました。脚本を書いたのは僕ですが、それに必要以上に縛られるとわざとらしくなってしまいます。そうならないために今回使った手法は、リハーサルを繰り返して、セリフを役者が言いやすいように変えたり、役者の普段の立ち振る舞いをもとに脚本を考えたりすることでした。撮影もどこからか眺めているような映像を目指してつくりました。――葛藤の末に生まれた視点だったのですね。PFFアワードで入選したことはやはり嬉しかったですか?めっちゃ嬉しかったです(笑)。自分が考えていることを自分なりに映画にしたら、10人中9人はつまらないと言うけど、1人くらいの心には届くんじゃないかなという期待はありました。PFFアワードの審査員の中にそういう方が1人くらいいたら、もしかしたら…と思っていたら、そのもしかしたら起きました(笑)。積極的に賞をとりにいった作品ではなかったのですが、せっかく本気でつくった映画なので、誰かに届いてほしいという思いはありました。だから入選したときは本当に嬉しかったです。――主人公が月に一度襲われる原因不明の腹痛や迷子になってしまう犬など、印象的な描写がありますが、これは竹田監督の経験に基づいたものでしょうか?腹痛は僕自身の経験です。人はコントロールできない何かとどういう風に折り合いをつけていくのかということにずっと興味がありました。それを考えているときに映画づくりでピックアップしたのが、まず自分にとって身近な腹痛、つまり身体です。犬や自然というのも、人間のコントロールから外れてしまう存在として入れました。――どうしてコントロールできない存在との関係性に興味を持ったのですか?僕はコントロールできないものとうまく折り合いをつけることができないから、興味を持ったんです。うまく生きていくことができないなとずっと思っていました。たぶんそういう人はたくさんいると思うんですけど、そういう人たちの中でもすごく楽しそうに生きている人はいるじゃないですか。彼らはどうやって楽しく生きているんだろうというのを探っていくと、やっぱり彼らなりの工夫がたくさんあることがわかりました。僕も折り合いをつけて楽しく暮らしていきたいので、そのためにまず人の生き方を観察したいという思いがありました。大学院ではそういうことを研究していました。――主人公の青年が歌う開放的なシーンがありましたが、あれは折り合いのつけ方のひとつでしょうか?あれは単純に、自己主張が苦手な青年がきっかけを与えられたことで自分を表出するというシーンを撮りたかったんです。でも、言われてみれば折り合いのひとつかもしれませんね。主演の子は歌がすごくうまかったので、これを活かさない手はない、と思っていました。もし彼が走るのが得意だったら、走らせていたかもしれないですね(笑)。――竹田監督の映画観についてお聞きしたいのですが、竹田監督にとって映画はどのような存在ですか?映画は僕にとって一番馴染みのあるメディアですし、元気をもらえたり、自分の人生を見つめ直すきっかけになったりもします。でも映像をつくる一番の理由は、考えていることを言葉でうまく伝えられないからだと思います。言葉をうまく操ることができなくても、映像だったらできそうだなと思うんです。僕はどこか自分の気持ちを隠してしまう癖を持っているので、それと向き合うためにも映画づくりが必要でした。――最後に、『暮れる』を通してどのようなメッセージを伝えたいですか?あえて言うとすれば、「みんないろいろ背負っていると思うけど、大丈夫。そのまま生きていけばいい」ということかもしれません。でも僕は、何かメッセージを伝えたいというよりは、ひとつの自律した世界のような映画を生み出したいという気持ちの方が強いです。映画を観終わったあとも、映画の世界や人物が動いているのではないかと思えるような映画をつくりたいです。そんな映画を観ると、たぶん自分を見つめ直すきっかけになるんじゃないかなと思います。僕自身、そうやって今まで映画に救われてきました。『暮れる』も、別の誰かの人生を見ることで自分の人生を考えなおす鏡のような存在になればいいなという思いでつくりました。今後もそのような映画はつくっていきたいです。そして、何かで悩んでいる人たちの考えるきっかけになってくれたら嬉しいです。「PFFアワード2022」は2023年1月13日(金)まで「スカパー!番組配信」にて配信中。※視聴には、スカパー!のいずれかの有料チャンネル、プラン・セット(一部有料PPS放送を除く)のご契約が必要です。(text:cinemacafe.net)■関連作品:【映画祭】ぴあフィルムフェスティバル 2013年9月14日〜20日、渋谷シネクイントにて開催
2022年12月27日名は体を表すというが、俳優・三浦透子はそのことわざをまさに地でいくようだった。落ち着きを払いながらも、朗らかに受け答えする表情は透明感にあふれており、その思考はクリアで潔く深い。2002年、5歳でデビューを飾ってから芸能生活は今年で20年となる。2021年に公開され、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』で、三浦さんの名前は全国ばかりか世界に知れ渡り、さらに注目を集めるようになった。現在、出演中のドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」では物語のキーとなる大山さくらを演じており、かと思えば、ドラマ「すべて忘れてしまうから」ではエンディング曲を歌うアーティストのひとりとして参加したりと、我々は気付けば三浦さんを目にしている。12月16日には初主演映画『そばかす』も公開され、彼女のキャリアは、ひとつのピークとなるであろうフェーズを迎えている。この2022年は、三浦さんにとってどんな1年だったのか。躍進を続ける今の心境、気になる現在地を聞いた。「まず、1回はやってみよう」新しいことに触れた1年――これまでたくさんの作品に出演されていますが、2022年はさらに様々なところで三浦さんを目にする機会が多かった印象です。ご自身にとって、2022年はどんな年でしたか?本当に「よく見るね」と言っていただく機会が増えた年、という感覚です。自分としてはお休みもありましたし、特別ぐんとお仕事が増えたとか、忙しくなったという感じでもなかったんです。ただ、新しいことに触れる機会のあった年だったな、とは思います。――新しいこととは、どのような内容ですか?これまでは割と映画メインにやってきていて、『ドライブ・マイ・カー』以降、今年はドラマを続けてやらせてもらったり、ミュージカルに挑戦してみたりということをしました。違うフィールドとの人との出会いを含めて、新しいことに触れた1年だったように思います。――今後ますますその幅を広げていきたいのか、もしくはその中から突き詰めていきたいのか、どのような気持ちでいますか?幅を広げたい欲はそんなにないんですが、「まず、1回はやってみよう」と思っているんですよね、やったことがないことは。そういう機会の多かった1年だとは思うんですけど、その上で自分がやりたいことはなんなのか、できないなと諦められることなのか、できるようになろうと頑張りたいことなのか…みたいなことも含めて、この1年を振り返って整理して次の年を始められたらいいのかなと思っています。――「1回はやってみよう」的なことは何に置いてもそうですか?そうですね、はい。「1回は食べてみよう」というのはあります(笑)。――毎日スケジュールもびっしりだと思うのですが、どのように気分転換をしていますか?気分転換しなきゃいけないような瞬間を、なるべく仕事の中に作らないようにしようと思っているんです。こちら(現場)がオン・家に帰るとオフ、みたいな感覚を持たなくて済むようにしたいな、という考え方でやっています。もちろん完璧にできるわけではないですし、難しいんですけど…。どこかでちゃんと他人の評価と距離を取ろうとしているんです。周りの価値基準とは別にちゃんと自分で自分の価値を決めることは、こういう仕事をしているとどこか難しさもあると思うんですね。やっぱり見られる人がいる仕事ですし、誰かに求められて生まれる需要なので。だからこそ、より強く自分が何者か、自分の幸せは何かを考えることは意識しないといけないな、と。そうしたら、人前に出る自分、その価値基準の中で生きる自分のオンみたいな部分を作ることからちょっと開放されるのかな、とは思いますね。――キャリアも長いですが、デビューしてどれくらいのタイミングから今のような考えになったんでしょうか?徐々に、徐々に、だと思います。子供の頃は役者としての自意識みたいなものはそんなになかったですし、とにかく行った現場で相手の方に求められることに応えることを頑張ってきました。でも、あるときそれに矛盾が生じてくるわけですよね。この前の現場では「いいね」と言われたことを次の現場でもやってみると、「いや、今回はそれじゃない」と言われる。それに応えていくのも当然この仕事のひとつではあると思うんですけど、それを繰り返しているときに、自分というものがなくなっていくような感覚も同時にあって…。自分は誰に求められたいのか、自分はどういうものを提示したいのかも、同時に考える必要があるんだなということは、やりながら徐々に感じていたところです。――自分がなくなっていくような、わからなくなっていくような感覚は、俳優業でない仕事でも、どんな仕事をしている人でも共通してわかる気持ちかもしれません。もちろん求められることに応えるということだって、ひとつのプロフェッショナルなあり方だと思いますし、誰にでもできることではないので、それが間違いだということではないんです。ただ、私はそれだと自分がなくなっていっちゃうんじゃないかと葛藤したので、やっぱりそこは何か考えなくちゃいけないなと思ったんですよね。――お話を伺っていて、三浦さんは感覚と言語がきちんと結びついていて驚いています。考えを整理してお話することが上手なんですね。いえいえ、全然!まだまだですが、それも日々こうやって言語化する機会をいただいているから鍛えられてきたことだと思うんです。本当に自分と向き合う時間になります、こうやってしゃべるときって。「彼女の一番の理解者になりたい」作品に出会えた喜び――2022年のフィナーレを飾る映画『そばかす』は、恋愛をしたことがなく、恋愛感情を持ったことがない蘇畑佳純の物語です。主人公の佳純を演じる三浦さんは、どんなところに惹かれてお引き受けになったんですか?『そばかす』の成り立ちとして、作品を作る際「アロマンティック・アセクシャル(※)を主人公にしよう」ということで制作は始まりました。今、多様化が進んでいったり、そういうことに対していろいろな扉を開こうとしている人たちがいる中で、こうして“映画”という芸術を通しても、アロマンティック・アセクシャルというセクシャリティを知ってもらうきっかけにもなると思いました。でも、そうしたセクシャリティの人ということだけじゃない、いろいろと「マイノリティなんじゃないか」と感じたことのある人の心の葛藤を受け入れてくれる温かさや、そういうものに触れるような機会になる作品なんです。今作ることにすごく意味があることなんじゃないかなと純粋に思ったところが、一番大きいですかね。――本作は佳純の妹が「レズビアン」という言い方をしたり、佳純の同僚が「ゲイ」という言葉を口にしたりしますが、「アセクシャル」という言葉自体は出てこないですよね。そうですよね、はい。――明言しないが、だからこそ分かったり感じられるところがあり、そうした良さみたいなものがにじみ出ている気がしました。そのワードを映画の中で使うかどうかは、原案のアサダさん含め、玉田さん(監督)もすごく考えたと思うんです。難しいものなんですよね、自認するということも。明言しないリアリティというか、佳純自身も自分がそうなのかどうかが断定できなかったり、葛藤の中にいることも含めて、リアルに表現できますし。おっしゃっていただいた妹が「レズビアンなんでしょ」と佳純に言うシーン、それは「言ってくれたら、私たちはちゃんとあなたのことをわかってあげられるのに」という、ある種、妹からの優しさゆえの言葉なんですよね。けど、それ自体、相手がわかる形で自分の何かを提示しなくちゃいけないのか、という問題も含んでいるといいますか。複雑で自分の中でもやもやしているものを、相手のために明確にしてやる必要は別にないんじゃないかなとも思うんですよね。説明しなくてはいけないものではないし、定まらないものはそのままにしておいてもいいんじゃないかな、ということも同時にすごく感じていて。明言しないというところには、そういう意味もあると思います。――『そばかす』が三浦さんにとっての初主演作になります。どのような思いを持ちましたか?自分自身も今まで世間の常識や、当たり前とのギャップというかズレを感じたこと、悩んだことがあったりしたんです。「何でみんなができることが、自分はできないんだろう?」と、自分ではそういうことを感じてきた側の人間だと思っています。この脚本を読んだとき、ありのままの自分を自分自身で大切にできて、そういう自分のことをわかってくれる人が当たり前のようにいるんだって信じられる、そういう社会みたいなものを求めている自分がいたと気づいたんです。自分自身が、すごくこの脚本を読んで救われる部分があったというか…。こういう物語を求めている人は、きっといるんじゃないかと自分も思ったし、それを伝える側になれることも、私としては「ああ、私のもとにこの脚本が届いてくれてありがとう」という気持ちにすごくなったんです。不思議な感覚なんですけど、私が彼女の一番の理解者になりたいとすごく思ったというか。そういう気持ちで臨める、向き合える役に出会える、そういう作品に出会えること自体がとても幸せなことですし、それが皆さんの目に触れる最初の私の主演作として残ることがすごく恵まれているなと思います。――本当に、そうですね。ありがとうございました。最後に、佳純はタバコを一服する海岸沿いというお気に入りの場所がありましたが、三浦さんにとっても心安らげるお気に入り場所はありますか?えっと…家、ですね(笑)。ひとりでベッドにいるときが一番幸せです。(※)アロマンティック…恋愛的指向の一つで他者に恋愛感情を抱かないこと/アセクシャル…性的指向の一つで他者に性的に惹かれないこと(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)■関連作品:そばかす 2022年12月16日より新宿武蔵野館ほか全国にて公開©2022「そばかす」製作委員会
2022年12月16日静寂の夜につんざく鳥の啼き声。その音に反応し、虚空を見つめるひとりの女。彼女を少し遠くから見つめる男――映画『夜、鳥たちが啼く』においての印象的な1シーンだ。言葉はない。たたずまいと表情だけで、雄弁なほどに心情を訴えてくる。役に身を投じた山田裕貴と松本まりかによる渾身の表現は、観客の心を何度も揺さぶり続けた。物語は、同棲していた彼女に出て行かれ、作家業もふるわず人生を諦めかけた慎一(山田さん)のもとに、シングルマザーの裕子(松本さん)がやってくるところから始まる。定住先が決まるまで、息子アキラ(森優理斗)と仮住まいをさせてもらう裕子は母屋に、家主の慎一は仕事部屋として使っている離れで生活する。恋人でも家族でもない、友人と呼ぶにはいささか複雑な関係性の3人。傷を抱えた彼らが不器用にコミュニケーションを取り、ともに時間を過ごすことで癒やしを得て、少しだけ自分をゆるせるようになっていく。現場で長い時間を過ごした山田さん・松本さんにとって、当時のタイミングでふたりが共演し撮影することは“救いの時間”だったという。というのも、ここ数年の彼らと言えば爆発的に知名度が上がり、多忙やプレッシャーのあまり自分を追い込むことも多かったはずだ。同じような経験を同じ時期にして感じていたふたりだったからこそ、互いを通して、役を通して、自分を見つめるような時間が助けになっていった。山田さんと松本さんへの単独インタビューでは、当時の心境や互いへの思について、じっくり聞かせてもらった。言葉がなくても理解し合える関係――『夜、鳥たちが啼く』を観ると、山田さんと松本さん以外に慎一と裕子は考えられないと思ってしまいます。共演経験も多くもともと信頼関係もあったでしょうが、「山田さんだったらから」「松本さんだったから」ここまでできた、という気持ちはベースにあったんでしょうか?山田:僕はめちゃくちゃありました。まりかさんが、僕のことを本当に理解してくださっていました。それは決して表面的なものではなく、マインド的な面においてのものです。僕が考えに対して「あっそれわかる!そうだよね」と共感をしてくださって、5段階で言えば多分5ないし4くらいに達しているんじゃないかと思います。松本:アハハ。――それは何か言葉で確かめ合ったりしなくても、わかるものというか。山田:そんな多くを話したわけではなく…たぶん感じてきたこと、思っていること、いろいろなことが一緒なんだろうなと思うんです。そういうことが、今回、1対1でがーっとやる中での安心感としてありました。松本:そうだよね。『夜鳥』の現場に入る頃、私はとにかくいろいろな仕事をしすぎて何も考えられないような状態でした。「何が楽しかったんだっけ?」、「何のためにやってたんだっけ?」となっていて、今思えば極限状態だったというか。プライベートで誰かに言うこともできなかったときに、初日、山田くんと会って、「えっ…!自分がいた…!」とびっくりしたんです。――極限状態の松本さんと同じような感じだと、すぐにわかったと?松本:もう、(自分と)同じ目をしていたので。喋ったわけでもない。けど同じ境遇にいたのがすぐわかりました。すごく悩んでいたし、フラストレーションも抱えていたし、ものすごく忙しいし、隙間ないし…という。これはタイミングだと思うんですけど、「ホリデイラブ」の撮影では、お互い違ったんですよ。あのあと、いきなり忙しくなったでしょ?山田:うん、うん。松本:その感じもすごく似ていて。境遇、タイミング、目が同じ。山田くんを見て、自分がいた感じがしたんです。それは「仲間だよね?同士だよね?」ということじゃなくて。山田くんが言った「理解する」というか、彼のことを理解するというよりは自分のことを見ているようで、なんか理解できる感覚でした。山田:本当にそうです。まりかさんに「大丈夫?」と言われるんですけど、本当に心配されている音と顔をしているんですよ。友達に「ねぇ、裕貴大丈夫?」と言われるのとは、違う意味を持つというか。――同じような経験を同じ時期にしている方の「大丈夫?」は、心に沁みる度合いが違うんですね。山田:分かってくれているからこその「大丈夫?」なんです。松本:私、普段「大丈夫?」とあまり声を掛けないんです。でも、山田くんは見る度に「大丈夫?」って。生存確認じゃないけど、自分にも言っているような感じなんです。何もできないけど、しないけど、彼にかける「大丈夫?」だけは人と違う。山田:うんうん。経験した人の「大丈夫」というのが伝わってくる感じでした。――慎一と裕子が似た者同士のように、おふたりも。松本:そうですね。やっぱり山田くんだったからこそ、本当に慎一と裕子みたいな似た者同士(になれた)。足りないかけらをものすごく欲している、でもどうすればいいか分からない、みたいな状況がふたりともリンクしていました。山田:例えば、この作品にはラブシーンもあるじゃないですか。本来、すごく気を遣うはずなんですけど、リラックスして臨むことができる不思議さがあったんです。普段はカットがかかったら、準備するまで1回離れたりしますけど、ずっとその場にいて空気感を保つことができました。まりかさんは本当に「すげえな」と。安心感があって、とても助けられました。松本:ラブシーンのときも触れていないと不安というか、どうしていいかわからない、触っている安心感が本能的に出てきた感じがありました。その感覚が作品に映っていたと思うので、それがなんか良かったな~って。コミュニケーションは「受け入れてやってみよう」――同じような境遇の中、再会して作品をやるタイミングは、すごく稀な経験だと感じます。撮影現場でのその時間は、おふたりにとってある種、救いというか癒やしの時間にもなっていたんでしょうか?山田:まりかさん、どうですか?松本:私はめちゃくちゃありました。“山田裕貴”という存在がいてくれたことに、すごい救われた感じがしたんです。やっと息が吸えたというか。…こんなことを言っていいのかな、言いますけど(笑)、自分の本当の言葉をSNSにぶちまけたくても、ニュースになってしまう。有難いことではあるのですが。けど、そうした理解できないことを彼には全部言えたというか、言わなくても「ああ、分かってるなあ」という感覚があって、私はすごく救われましたね。山田:そうだったんですね。僕はこれが「すげぇタイミングだな」と思ったのは後からだったんですよ。松本:そうなんだ!山田:何なら今改めて話すことで、すごく感じています。僕は、自然にその時間が大変という感情や思いを一切感じずに作品ができていたのが、すごく不思議だったんです。だからこそ、「あぁ、まりかさんだったからだ」、「まりかさんのそのタイミングだったからだ」と思いました。だから、本当に僕も救われていたと今思い返してみてすごく感じます。大変だと感じなかった分、あのときは救われてるとすら感じずに、その時間を楽しくいることができました。――慎一は「君が俺を好きなんだからわかってほしい」、「愛しているんだからわかってほしい」という強い思いを前の恋人に持ちぶつけていました。裕子に関しては、詳細の描写はないものの、元夫へ言いたいことを伝えないまま離れた印象です。近しい人だから「わかってくれるだろう」と思ってしまうことはままあることですが、おふたりは特に親しい人とのコミュニケーションにおいて、意識していることはありますか?松本:あの、、、実は、この数年自分のプライベートはないものと割り切っていて、プライベートで誰かに会おうなんて思わないというか(笑)なので、友達とも家族ともほとんど会わない。そんな中で、私のプライベートと言ったら現場の女性マネージャーさんなんです。365日中、360日ぐらいずーっと一緒にいるような感覚で(笑)。最初、彼女は新人さんで入ってきて私のマネージャーになった人。そうしたらそのうちふたりが急に忙しくなって、忙しい状況は私も新人&彼女も新人。訳が分からない中でやってきました。ずっと一緒にいると、細かいことですれ違うときもあるじゃないですか。それをどう許容したり、理解してやっていくかで、諦めたり逃げたりせずに受け入れてやってみようと思ったんです。そうしていくうちに、彼女のことをすごく好きになって、今は本当に信頼している存在になりました。私はそのマネージャーさんとの関係性で日々学んだんですよね。今では本当に阿吽の呼吸で、ああ大好きだなあって。…大好きとか初めて言いました。やだ、恥ずかしい(笑)。山田:今の話、聞き入っちゃいました。現場で一緒だったとき、傍から見ていても、おふたりの連携がそう見えるなと感じていたんですよね。――はじめから100%の関係性はなくて、お互いに歩み寄ったり理解し合う努力をすることで信頼関係も築いていくものだと、松本さんが実感されているんですね。山田さんはいかがですか?コミュニケーション。山田:まりかさんの話をすごく聞き入っちゃってたから、あまり自分について考えてなかった(笑)。うーん…何だろう。…親だろうが、どれだけ長いこといる友達だろうが、「良いんじゃない」と言うことですかね。――受け入れるということでしょうか?山田:はい。決断や生き方や考えについて、僕の「いやいや、それはこうだろ?」と押し付けてしまうようなことは言わないし、思わないです。基本的には「そうだよね」と受け入れて、「困ったときは言ってね」という感じです。僕はたぶん、どんな人でもそうかもしれない。頼られたら返しますし、頼られない、頼られるまでは何も言わない感じです。…それはたぶん僕も放っておいてもらいたいからだな、きっと(笑)。(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)■関連作品:夜、鳥たちが啼く 2022年12月9日より新宿ピカデリーほかにて公開© 2022 クロックワークス
2022年12月06日ベビーカレンダーは、新型コロナウイルス感染拡大の影響により各地で立ち会い出産や面会が制限されているなか、これから出産を迎える方の心の準備としてご覧いただくための出産ドキュメンタリー動画を公開中です! 「感動した」「勇気をもらった」というコメントが続々と届いています! 出産の奇跡を目の当たりにした方から、感動の声が続々!ベビーカレンダーでは、公式YouTubeチャンネルにて33歳ママの通常分娩での出産に密着したドキュメンタリー動画を公開中です。新型コロナウイルス感染の影響から、立ち会いでの出産が制限され、現在でもひとりで分娩に臨む産婦さんが多くいます。今回は、厳しい感染対策を実施するレディースクリニックで、小さな命が生まれた瞬間を動画におさめました。 コロナ禍のひとりきりで臨むリアルな出産シーンを見た視聴者さんから、「これから出産予定なので勇気をもらった!」「母ってすごい。感動しました!」という声が続々と届いています。 立ち会いなしでひとりきりで臨んだ初の出産…今回、茨城県「なないろレディースクリニック」協力のもと、1人のママの出産に密着させていただきました。 コロナ禍での妊娠、ひとりきりで臨む出産への不安、恐怖心など、さまざまな思いを抱えながらの出産当日。 LDR(陣痛・分娩・回復室)に入室してから、ひとり陣痛に耐えます。あまりの痛みに度々「痛い!」という声が漏れます。 「私の病院も立ち会い面会禁止で心細すぎるけど、この動画見てひとりぼっちでも頑張ろうと思った」「私も立ち会いできないので、不安だったんですが、この動画で勇気もらいました!」と、同じようにひとりきりでの出産を控える妊婦さんからのコメントが相次ぎました。 孤独な痛みと闘う産婦さんを助産師さんが全力サポート 初めて経験する痛みに不安なときも、助産師さんの存在が産婦さんを支えます。 助産師さんに腰をさすってもらい、呼吸を整えながら子宮口が全開大になるのを待ちます。 偶然、同じ病院で出産したという方からは、「助産師さんたちが素敵な方ばかりで、思い出に残るお産にしていただけました」「メインで介助してもらった助産師さんがいらっしゃって感動!助産師さん、神でした」というコメントも! 掛け声に合わせていきみスタート 子宮口が全開になり、本格的ないきみがスタート。助産師さんたちが声をかけながらお産が進んでいきます。 これから出産予定の方からは、「赤ちゃんの頭が見えて、産まれて来るシーンを見た瞬間、涙が溢れてきました!」「本当に出産は神秘的で奇跡だと思いました」という感動の声が集まりました。 経産婦さんの中には、「本当に出産は命懸け。いきみ逃がしの呼吸やいきみ中とか、まるで自分を見ているようでした」「わが子もこんな風に産まれてきたのかと感動して、涙が止まらなくなりました」と、ご自身の出産シーンを振り返る方たちも! ようやく会えた愛娘…「出てきた瞬間、すごく感動しました」 「想像以上にしんどかったけど、無事に生まれてきてくれて本当に良かった」と話すママ。立ち会えなかったパパには、テレビ電話で報告しました。離れていても気持ちはつながったまま。生まれたばかりの愛娘をスマホ越しに見たパパは、「本当にお疲れさま」とママに優しく労いの言葉をかけていました。 コメント欄には、温かいメッセージで埋め尽くされていました! 「コロナ禍で何かと不安が多く気持ちも落ち込みがちでしたが、お母さんと赤ちゃんの頑張りに感動して号泣……私も頑張ろう‼️と勇気をもらいました」 「出産が終わったママの優しい顔を見て、涙が出ました」 「産まれてきてくれた娘さんに感謝の気持ちで痛みも吹っ飛びますよね。本当におめでとうございます!」 コロナ禍での妊娠、立ち会いなしでの出産は、特に不安や恐怖心を感じてしまいますよね。そんな方たちからの「勇気をもらった」「赤ちゃんに会うために自分も頑張ろう!」といった、前向きなコメントが多かったのが印象的でした! これからママになる方たちへ、この動画を通じてたくさんのエールが届きますように。 本編はぜひ動画からチェックしてみてくださいね! <茨城県 なないろレディースクリニック 黒田院長>夕方に陣痛が始まってLDRに入室し、日が変わったころからスムーズにお産が進行しました。初産の方ですが、経過は順調で、お一人でよく頑張ったと思います。当院にかかっている産婦さんで30人ほどコロナウイルスに感染された方がいましたが、そのうち2人は分娩直前だったので他施設での帝王切開になりました。その他の産婦さんたちは無事に回復し、全員元気に当院で出産されています。コロナ禍で不安に思われている妊婦さんはいっぱいおられると思いますけれど、「赤ちゃんに会うために頑張るんだ」という気持ちで出産をポジティブに捉えてほしいですね。スタッフがそばに寄り添って旦那さんの分までサポートしますので、一緒に乗り切っていただければと思います。 <ベビーカレンダー編集長 二階堂美和>新型コロナウイルスの感染症対策のため両親学級や立ち会い出産などが依然として制限されている病院も多く、妊婦さんにとっては物理的・精神的な負担が大きくなっています。私たち編集部も出産を控えているママたちから不安の声をよく耳にしています。実際にパパや家族と離れてひとりきりで産むというのはどのような心算が必要なのでしょうか?これから出産を控えているママやパパたちのために、コロナ禍での出産のリアルをお届けしたい! そんな想いから、今回、ひとりで出産に臨む妊婦さんの陣痛から出産までの一部始終に密着させていただきました。出産はやはり大変なものではありましたが、妊婦さんが心細くならないようにと、心を配って寄り添い励ます助産師さん、赤ちゃんに少しでも早く会うためにひとりでも気丈に頑張る妊婦さん、テレビ電話越しに喜びを分かち合いママを労うパパ……。私が今回の出産で得られたものは、「どんな状況でも人は強い!」「私たちはコロナなんかに負けない!」という希望でした。立ち会いができないことは、寂しい、つらいことなんかじゃない!この感動を、そして小さな命の誕生の素晴らしさをぜひ皆さんも感じてもらえたら幸いですベビーカレンダーでは、さまざまな出産にフォーカスを当て、一部始終を収めた動画「出産ドキュメンタリーシリーズ」も公開中!
2022年11月30日2009年に公開され、世界興行収入歴代1位(当時)を記録した『アバター』。あれから13年の時を経て、続編となる『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』がいよいよ公開を迎える。前作で、その驚くべき映像技術により映画史に“革命”を起こしたジェームズ・キャメロン監督だが、今回はいったいどんな驚きを観客にもたらしてくれるのか? キャメロン監督を支えるプロデューサーとして活躍するジョン・ランドー氏に話を聞いた。「家族」をテーマに「海の世界」を描く――前作『アバター』は惑星パンドラの“森”を舞台に物語が進んでいきました。今回はタイトルにもあるように“水”が重要な要素となっており、海を舞台に、ジェイクとネイティリ、その子どもたちの“家族”の物語となっているそうですが、このストーリーはどのようなプロセスで作り上げていったのでしょうか?私たちがストーリーについて考え始めたのは2012年以降のことでした。というのも、ジムはいろんな作品に取り掛かっていましたし、休む時間も必要でした。そして充電期間を経て、ジムから出てきたのが1,500ページにもおよぶストーリー、キャラクターに関するメモでした。この時点で、続編はひとつの物語では終わらないなと思ったので、脚本家による3つのチームを組んで、脚本づくりに取り掛かりました。脚本家を集めると、みんな、いろんなアイディアを持ってきてくれるのですが、私たちは「いまの時点ではキミたちのアイディアはいらない。第1作の『アバター』がなぜあんなに成功したのか?それがわかれば、その成功を続編で再現することができる。第1作を見直して、なぜあの作品があんなに成功したかを考えるように」と言いました。そうして、彼らが提出してくれたレポートに目を通したんですが、彼らに1,500ページのジムによるメモを見せて「キミたちが考えてくれたことは、全てこのメモの中にある」と伝えました。その後、脚本家たちとジムは、集まっていろんなアイディアを出し合い、脚本づくりを始めました。脚本家のなかには映画の脚本家だけでなく、小説家、それから「パンドラペディア(=惑星パンドラに関するWikipedia)」のライターもいました。脚本家とジムが集まって5か月で4作分のストーリーができました。それから、それぞれのストーリーに脚本家を割り当てて、各脚本家がジムと一緒に物語の詳細を考えていきました。それが執筆のプロセスです。――“水”をテーマにするというアイディアはどの段階で生まれたのでしょう?「海の世界」を舞台にし「家族」をテーマにすることは、もともとジムのメモにあったものです。自然の存在、そしてそれを大切に守っていこうということは、ジムにとっても私にとっても非常に大切なことです。1作目で「森」について人々の目を開かせました。今回は、なかなか目にすることのできない「水の中の世界」について、人々の目を開かせることができればと考えたんです。――『アバター』と言えば、“青”が非常に印象的です。パンドラに住む人々の皮膚も青ですし、今回も海が舞台ということで、青を使った描写が多く出てきますが、それぞれ青の色味や濃さが異なります。1作目のとき、当初は森林も全て青にしようと思ったんですけど、それでは観客の目にあまりにも“異物”として映りすぎてしまうんじゃないか?ということで、そこから少し色を引いて、リアルに近づけつつ、色をアクセント的に使っていました。パンドラの森の人々は青い皮膚を持っていますが、今回の水の中にすんでいる人々の持つ青い皮膚はまた違う色です。そしてもちろん、海の青も描かれています。ジャック=イヴ・クストー(海洋学者)をはじめ、いろいろな人々が海について書いていますが、ジェームズ・キャメロンも水の中で長い時間を過ごしてきて、海の中で見える色についてよく知っています。その体験をなるべくリアルに再現したいと思いました。深く潜れば潜るほど、太陽の光が届かなくなることで色がなくなっていきます。そういう部分も描きたいと思っていました。進化する「映像表現」と変わらない「劇場での映画体験」――インタビューに先立って行われた、特別映像を交えたプレゼンテーションでも「ぜひ映画館で体験してほしい」と強調されていました。2009年に第1作が公開された頃と比べ、スマホの普及、配信サービスの勃興など映画・映像コンテンツの視聴環境がガラリと変わりました。この変化をどう受け止めていますか?「ニューヨーク・タイムズ」にこんな記事が出ました。「今日、我々が置かれているエンターテインメントの状況を鑑みるに、映画を家で見ることができるようになったことで、映画ビジネスは死ぬだろう」と。ちなみにこれは1983年3月の記事です(笑)。同じことをいまも言えると思います。私たちが取り組んでいることは非常にユニークなことです。配信サービスがあっていいと思いますし、そこから何かを奪おうとは思いません。モバイルで映画を鑑賞するということも同様に何の問題もありません。だけども、劇場で映画を観るという体験は独特のものであり、永遠に存在し続けるものだと思います。音楽ビジネスに置き換えて考えると、「劇場で映画を観る」というのは「ライヴに行く」というのと同じだと思います。ヘッドフォンで音楽を聴くこともできるけど、それはライヴに行くという体験にとって代わるものではありません。「映画づくりには情熱の炎が必要。そのパッションがないならば、映画を作るべきではない」と語るランドー氏。世界的ヒットメーカーが十数年もの間、情熱を注ぎ込み、作り上げた『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はどんな体験をもたらしてくれるのか?楽しみに待ちたい。(photo / text:Naoki Kurozu)■関連作品:アバター 2009年12月23日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国にて公開© 2009 Twentieth Century Fox. All rights reservedアバター:ウェイ・オブ・ウォーター 2022年12月16日より全国にて公開© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2022年11月25日フローレンス・ピューとハリー・スタイルズが夫婦役を演じたオリヴィア・ワイルド監督の最新作『ドント・ウォーリー・ダーリン』が11月11日(金)より日本公開。この度、物語の舞台となる不穏なユートピア、完璧な街<ビクトリー>に絶対的支配者として君臨するフランク(クリス・パイン)の妻シェリーを演じた、マーベル作品でもお馴染みのジェンマ・チャンのインタビューがシネマカフェに到着した。『ブックスマート卒業前夜のパーティーデビュー』のオリヴィア監督の第2作目となる本作。フローレンス演じるアリスとハリー演じるジャックが暮らす、完璧な生活が保証されたはずの街<ビクトリー>では、“夫は働き、妻は専業主婦でなければならない”、“パーティーには夫婦で参加しなければならない”、“夫の仕事内容を聞いてはいけない”、“街から勝手に出てはいけない”というルールがあった…。「脚本で書かれているテーマが面白く、今の時勢を考えると共感できるものでもありました。とにかく面白いサイコスリラーだと思ったんです。最後どうなるのかが気になって、ページをめくり続けました」とジェンマは語る。オリヴィア監督はもちろん、フローレンスにハリーら「才能豊かな方々と一緒に仕事ができることにやりがいを感じた」ことが出演を決めた一番の理由で、「キャストだけでなく、スタッフの各部門のリーダーも優秀な人たちが集結しているので、一緒に何が創造できるかを見てみたかったんです。撮影はパンデミックの初期に敢行されたので、とても厄介な時期でしたが、みんなで力を合わせて素晴らしいものを作り上げることができました」と自信を込めて語る。「美しいが何か邪悪なものが潜んでいる世界」が見事に作り上げられた「オリヴィアは、この映画に対して独特のビジョンを持っていました。そして徹底的に準備をした上で製作にあたったんです。わたしたちに対しても、美術史についてなど、聴いておいたほうがいいものや読んでおいたほうがいい資料をパッケージにして送ってきました。私はその資料を見ながら、この映画で表現しようとしている世界、そこで描かれている家父長制、その中の女性の役割について考えさせられ、そういうところに一番興味が湧きました」と言う。「また、オリヴィアが撮影監督のマシュー・リバティーク、衣装デザイナーのアリアンヌ・フィリップス、ヘア・メイクのハイメ・リー・マッキントッシュとヘバ・スラスドーターなど、有能なスタッフと一緒に仕事を進める様子も素晴らしかった。舞台裏で活躍するどの部門も力をしっかり集結させることができ、一見したら美しいが何か邪悪なものが潜んでいる世界を作り上げることができました」。「家父長制の中で女性がどのようにして力を発揮するのか」そんな本作で演じているのは、シェリーという一見、従順な妻だ。「シェリーは実はかなり恐ろしい女性だと思います。彼女はフランクの右腕となる女性なのですが、不可解なところもあります。つまり、彼女がどこまで真相を知っていて、フランクがやっていることにどの程度加担しているのかがはっきりしません。そこは私なりの結論を出しつつ演じましたが、映画のなかでは曖昧にしておきたかった。シェリーは力強く、パワフルな女性なんです」と、ジェンマはキャラクターに寄り添う。「そして先ほども触れたように、私は、家父長制の中で女性がどのようにして自らの力を発揮しようとするのかというテーマに惹かれたんです。シェリーは、その抑制の効いた泰然としたところに力強さが宿ります。おもてなしをするときのチャーミングな一面も持ち合わせているんです」。さらに、シェリーというキャラクターを深掘りしていったそうで、「バレエ教室で先生を担当しているところが一つのポイントだと思っていて、そこはすごく気に入っていました」と言い、「バレエは身体を極限までコントロールするダンスですから、シェリーが周りの女性の動きをコントロールする様や、あの抑制された動きとリンクするところがある」とも語る。「シェリーのような立場の女性、そしてその芯を探求するのはとても楽しいことでした。また、権威主義的で独裁的な男性の右腕として活躍した歴史上の女性たちについても調べてみました。誰か一人をモデルにしたわけではないけれど、歴史からインスピレーションを得ているのは確かです」。衝撃的なラスト…「シェリーなりの確固たる意志がある」シェリーたちが暮らす、1950年代を舞台にした“完璧な街”の世界観は、衣装やヘアスタイル、メイクなどからも表現された。「あの時代に飛び込み、アイデアを出しあい、ヘア・メイクのチームとコラボレーションできたのはとても楽しかった。衣装はアリアンヌが担当しましたが、美しいヴィンテージものを着せてくれ、これが役作りにとても効果的でした」と語るジェンマ。「ヘア・メイクは、ハイメが担当で、彼女はカツラをデザインするのがとても上手。今回はソフィア・ローレンなど、往年のハリウッド女優の写真を参考にし、官能的なルックスを狙いました。ルックスはこの映画に登場するキャラクターたちの重要な要素になっています」と明かす。だが、そんなシェリーはとても衝撃的な結末を迎えることになる…。「ラストはかなりショッキングですね。シェリーは、一見クールなようで、実は表面下ではいろいろな欲があったり、いろいろなものを抑圧しているのだろうと解釈しました。そういう意味では、フランクとは釣り合いが取れています。そしてフランクは彼女の行動に不意を突かれるんです。シェリーにはシェリーなりの確固たる意志があるので」とジェンマ。「シェリーの最後のセリフについてはオリヴィアとケイティ(・シルバーマン:脚本)と話し合いました。何パターンか試しながら楽しく試行錯誤しましたが、カタルシス的な瞬間になるように意識しました」と打ち明けた。“夫”クリス・パインは「恐ろしい存在感」本作では、豪華キャスト陣との共演も気になるところ。フローレンスはMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)シリーズ『ブラック・ウィドウ』で知られ、『ダンケルク』以来、久々の本格演技で、ジェンマが出演した『エターナルズ』にサプライズ出演を果たしたハリーにも今後の活躍に期待が高まっている。「ハリーとはすでに『エターナルズ』で共演しているので知り合いでした。今回もいい仕事ぶりを見ることができました。とても直感の冴えた俳優で、フローレンスとのコンビが素晴らしかった。今回の撮影中にさらに仲良くなれたのは嬉しかったですね。フローレンスと共演できたのも楽しかった」とジェンマ。また、夫婦役を演じたクリス・パインについても、「クリスは素晴らしい。彼とも数年前に別の作品で共演していますが、再会できて嬉しかった。素晴らしい才能の持ち主ですし、この役の演技も素晴らしい。とても魅惑的だし、恐ろしい存在感を放っていました!」と語る。最後に日本公開を楽しみにするファンに向け、「日本に行きたくて仕方がないです! まだ訪れたことがなく、いつか行ってみたいとずっと思っていました。桜を見たり、日本食を食べてみたりしたい。日本の文化にはとても親しみを感じるので、チャンスがあれば行きたいと思っています」と日本愛を明かし、「皆様の幸せを祈っています。いつか日本でお会いできることを楽しみにしています」とメッセージを贈ってくれた。『ドント・ウォーリー・ダーリン』は11月11日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ドント・ウォーリー・ダーリン 2022年11月11日より全国にて公開© 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
2022年11月08日超豪華キャストが集結したデヴィッド・O・ラッセル監督最新作『アムステルダム』が現在公開中。ラッセル監督と3度目のタッグとなったクリスチャン・ベイルが、コロナ禍に一緒に作りあげた今作と主人公のバートというキャラクターや監督との仕事について語った。「僕が演じた医者のバートは、本当に魅力的な男です」とクリスチャン。「彼はとても楽観的です。人生に打ちのめされるはずなのに、惨めな野郎どもの中にあっても喜びを持ち続ける、素晴らしい反抗心を持っている人なんです。そして友情を大切にし、誰もが望むような最高の友人を持っている人物です」と言う。その最高の友人を演じたのは、マーゴット・ロビー(ヴァレリー役)とジョン・デヴィッド・ワシントン(ハロルド役)だ。「2人は素晴らしい才能の持ち主でした。僕たちは、素晴らしいキャストたちにとても恵まれていました。最初はデヴィッド(監督)と僕だけがダイナーに座っているところから始まりました。そして、ボブ(ロバート・デ・ニーロ)が再びデヴィッドと僕に加わってくれたんですが、それは明らかに素晴らしいことでしたね」とふり返る。「僕たちは『アメリカン・ハッスル』で一緒に仕事をしたから。それから、なんということか、素晴らしい俳優たちが続々と集まってきました。中心となる3人の親友だけど、本当に素晴らしいマーゴットに来てもらえました。それからジョン・デヴィッド・ワシントン。デヴィッドはとても独特な仕事の仕方をするんです。彼はとてもユニークで、それが本当に素晴らしかった」と絶賛を贈る。デヴィッド・O・ラッセル監督の「ものすごくユニークなアプローチ」今作は、1930年代にアメリカで実際に起こった出来事をベースにした“ほぼ実話”。この歴史を「もちろん知っていました」とクリスチャン。「完全に衝撃的でした。ロバート・デ・ニーロが演じた元軍人のギルは、権力に対して真実を語り、権力はそれを好まず、そのためすべてが抑圧され葬り去られたのです」と言う。また、脚本が「組み立てられていくのを見た」と明かすクリスチャン。「私とデヴィッド(監督)は、デヴィッドが取り組んでいるさまざまなキャラクターについて話しました。話しているとデヴィッドの頭の中で、それぞれのシーンが出来上がっていくんです。その話を聞いて、彼が影響を受けたものを見て、彼が何を選択するかを見てきました。だから、実際に脚本が書き上がるのを見ましたよ。たぶん、家に14もの脚本があると思うから、まったく違う経験になりました。それは、私たちが経験したすべてのプロセスなのです」。これほどまでに厚い信頼を寄せるラッセル監督とは『ザ・ファイター』(2010)、『アメリカン・ハッスル』(2013)に続いて3度目のタッグだ。「彼は、映画を作り続けられること、そして監督であることにとても感謝しています。そして、彼は物語を語ることができることに喜びを感じています。ものすごくユニークなアプローチで、脚本を撮影するのですが、その後で脚本から完全に離れて、カメラの後ろのテーブルクロスの下や足元、どこかの棚に座り、時には撮影に入り込んでセットの至る所にいます」と撮影秘話が飛び出す。「でも、彼は映画の中のもう一人のキャラクターのようなもので、しゃべりながらセリフを言ったり、人のセリフを変えたりして、生き生きとして誠実でハートフルで、本当に美しくエネルギッシュな環境を作り出しているんです」と、監督自身も楽しんでいる撮影現場の魅力を語った。「骨の髄まで完全にバートが染み込んでいた」「今作を作るのに何年もかかりました。デヴィッドと僕は、この映画を一緒に作り始めたんです。そして僕はアダム・マッケイと『バイス』を作り、それからジェームズ・マンゴールドと『フォードvsフェラーリ』を作りました。その間もデヴィッドと僕はまだこの映画を作っていました。それは本当に素晴らしいことでしたね」とクリスチャン。「なぜなら、バートのことを完全に自分のものにしないといけなかったからです。僕の頭の中には常にバートの存在がありました」と続け、「これだけ長い間一緒にいると、デヴィッドは僕に自由を与えてくれて、『これがキャラクターのアイデアだ。しばらくどこかへ行って(考えて)、それから僕に話してほしい。バートならどうするだろうか?』と相談してくれました。そして僕にさまざまな状況を与えて、『バートはこれにどう反応するだろう?』と聞くんです。映画の撮影を始める時までには、もう骨の髄まで完全にバートが染み込んでいました」と言う。観客は『アムステルダム』から「楽しい時間、うらやましいほどの友情、逆境に立ち向かう喜びと楽観主義、そして素晴らしい歌とダンス」を享受できるとクリスチャンは語る。彼自身にとっても今作は「とても意味のある映画になっている」と言い、「パンデミックの最中に撮影を行いました。仕事に行くのがおかしいと思われるような時も撮影しましたが、それは楽観的な喜びでした」と語る様子はまるでバートのよう。「この映画は、立ち上げから完成まで、私が最も関わった映画です。そして、その旅に私を誘ってくれたデヴィッドに心から感謝しています。そして、今まで出会った中で最も魅力的で、そして愛すべきキャラクターが登場する作品だとも思っています」と愛を込めて語ってくれた。『アムステルダム』は全国にて公開中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:アムステルダム 2022年10月28日より全国にて公開©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2022年11月08日【音楽通信】第127回目に登場するのは、数々の傑作を世に送り出し、結成34年のいまもなおライブや楽曲制作にと活躍しているバイタリティあふれるロックバンド、真心ブラザーズ!大学の音楽サークルで出会って結成【音楽通信】vol.1271989年に結成された、YO-KINGさんと桜井秀俊さんからなるロックバンド、真心ブラザーズ。高校野球の応援歌としても知られる「どか〜ん」や夏の名曲「サマー・ヌード」、インパクトのある「拝啓、ジョン・レノン」といった数々の傑作を世に送り出しています。デビュー34年目となるいまもなお、ライブや楽曲制作など、精力的な活動を展開している真心ブラザーズが、2022年10月26日にニューアルバム『TODAY』をリリース。音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――おふたりが小さい頃や学生時代は、どんな音楽を聴いていましたか。YO-KING小さい頃は、フォークソングを聴いていました。ニューミュージックやフォークソングと言われる音楽が、当時はまだテレビの歌番組『ザ・ベストテン』などから耳に入ってきたんですよね。歌番組から音楽を好きになっていって、その後、自分でも吉田拓郎さんやボブ・ディラン、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズといった洋楽も聴くようになりました。桜井僕もやっぱり『ザ・ベストテン』をよく観ていて、日本のヒット曲を聴いていて。実家が神奈川県にあるんですが、テレビ神奈川がアメリカのビルボードチャートの音楽を紹介する番組をやっていて、その頃はまだ珍しかったミュージックビデオを流し始めて、洋楽のヒット曲を知るようになりました。――1989年には、大学の音楽サークルで真心ブラザーズを結成されましたね。桜井そうです。YO-KING先輩は一歳年上の先輩でした。音楽サークルに入ったときは、すでにYO-KINGさんは同じ学年の人たちとロックンロールバンドをやっていて、僕も同い年同士でニューウェーブサウンドを主体としたバンドをやっていて。全然毛色の違う音楽をやっていたんですが、ある番組に出演するためにYO-KING先輩を誘いました。――大学生のときに、おふたりでフジテレビ系バラエティ番組『パラダイスGoGo!!』(1989〜1990年放送)のコーナー「勝ち抜きフォーク合戦」で10週連続勝ち抜き、同年9月にシングル「うみ」でメジャーデビューされました。桜井当時はフォークをやっているのは古い人という印象で、いまどきフォークをやっている人たち同士を対戦させるなんて、と思われるぐらいちょっと珍しい企画でしたね。でも、勝ち抜けばデビューできるというこの番組の企画はおもしろい。僕は音楽サークルの幹事長をやっていて、ある日、自宅にこの番組の担当者から電話がかかってきて、企画出演のオファーを受けたんです。サークルではYO-KING先輩がフォークに詳しかったので誘って。実際、10周勝ち抜けるぐらい強かったんですよ。審査員の先生方がフォーク界の大御所の方々だったので、ビシビシと心に刺さるものがあったんでしょうね。YO-KING 確かに。かまやつひろしさんも審査員でしたが、かまやつさんはロックもフォークもお好きな方で、最高の方です。あの番組でかまやつさんにお会いできたのは大きかったです。全然偉そうにしない方。いまも尊敬しています。――番組出演をした学生時代からデビュー34年となった現在まで、マインドは変わっていらっしゃらないように見受けられますが、変わったこと、変わらないことはありますか。YO-KINGシロウトっぽいところは変わっていないかもしれない。自分なりにあるにはあるんですが、プロ意識はそんなにないというか。けっこう、自分が変人なんだな、ということを最近ようやく認めるようになってきました(笑)。変、というか個性が強いほうが、芸術の世界は楽ですよね。変な人って、自分で普通だと思わないから、まさに俺のことかも。桜井僕もアマチュア感覚を失わないところは、変わっていないですね。要するに、「バンドをやるのが楽しい!」というような気持ち。いろいろな遊びがありますが、ギターにアンプをつなげて「おお!」と燃える気持ちはびっくりするぐらい昔もいまも変わらないです。年月を経ても、音楽をやっている楽しみやモチベーションはそのままですから。変わったことといえば、昔は、バンドメンバーやその仲間だけにウケる音楽を届けようと思っていたところがありました。でもいまは、もうちょっと向こう側に、世の中と自分の間にある窓のようなものに音楽が鳴っているようなイメージがあって。「これだともっとみんなとコミュニケーションがとれるかな?」という気持ちで音楽を届けているので、それをプロ意識と呼ぶとしたら、やっとプロになりました。ただ、そこに音楽作りにマーケティングが必要だとか数字がどうこうとか言われてしまうと、「それはできません、無理です」となります(笑)。「明るく、楽しく生きようね」という新作YO-KING(ヨーキング/Vocal, Guitar)。1967年7月14日生まれ。――2022年10月26日、18枚目のアルバム『TODAY』をリリースされました。YO-KING 『TODAY』は、「明るく、楽しく生きようね」というアルバム。コロナ禍になって、いろいろと大変な2、3年でしたが、「これからはどんどんよくなるぞ!」という思いを込めた作品です。桜井前作は2年前にリリースした『Cheer』というアルバムで、そのときはコロナ禍が始まってどうなるんだ? という空気の中で、意識して気分を上げていこうという気持ちで作ったもので、満足いく作品ができました。そこから2年を経て、ごく当たり前に「愛」や「自由」を言いたくなって。自分が自由でいたいほど、人の自由も思いやらないと嘘になります。それこそ、愛がすべてじゃないかなと。バブルの頃にはまったく思わなかったような世界の動きだと、こういった心情に気づくこともあるから。そういったことを音楽に込めて、みんながちょっとでも、楽しくなるきっかけになればと作りました。――アルバムのリード曲でもある1曲目はロックサウンドの「一触即発」ですが、YO-KINGさんはどのようなイメージで作られましたか。YO-KING これは最後に作った曲で、アルバムのリード曲になるようなポップでキャッチーなロックンロールです。自分の中からひねり出した曲。できてよかったです。――桜井さんが作った3曲目「群衆」はジャズのようで大人っぽい曲です。桜井この曲は、梅雨時にやっていられない気持ちと、どこに着地していいかわからない気持ちを表しています。歌詞には天気のことを書いていますが、天気に限らず、世の中も下げ止まりはあるのか。正しいか正しくないかはわからないけれど、そこに抗うのではなく、流れるか逃げるかという、弱音を吐いている曲ですね。――ピースフルな4曲目「LOVE IS FREE」は、YO-KINGさんが高らかに愛を歌っていますね。YO-KING愛って、やっぱりあるとお得なんです。得というのは、愛を感じて生きると楽ですから、それを歌いたいと思ったんですよね。愛の量と、幸福の量は、比例するんじゃないかと歌った実験作です。――この曲はシンガーソングライターの江沼郁弥さんが、トラックメイクからミキシングまでを担っていますね。YO-KING江沼くんは音楽先行でなく、同じサウナ好きという、プライベートでのつながりから、この曲を一緒にやることにしました(笑)。桜井これだけ長くやっていると、プライベートで出会う人も、仕事にもつながりやすいというか。大人になってから、先入観なしに相手をリスペクトできるようになりましたね。20代の頃は、世代もあるかもしれないですが、僕らの頃はバンド同士があまり仲が良くなかったんですよね。「音を憎んで人を憎まず」という言葉をレピッシュというバンドも言っていましたが、他のバンドの音楽は嫌いだけど、居酒屋とかで遭遇したらワイワイ飲むというような時代だったんです。2000年頃からはフェスというものが行われるようになって、リハもできないですし裸の状態でさらけだしていくような感じで。だからこそバックヤードでは、いろいろなバンドと交流するようになって「おもしろいな」と仲良くなって。それ以前と以降では、意識も少し違ってきました。――いまは近い距離の方々との制作が心地いいのですね。桜井勝手知ったる仲間たちもそうですし、何十年も前から知っているけれど、じっくり話したのは初めてでいまになって意気投合した人もいて。大人になると、そういったことも楽しいです。――しっとりと染みる7曲目「雨」は、WONK、millennium paradeのキーボーディストであり、King Gnuのサポートなどでも活躍中の江﨑文武さんによるピアノ伴奏一発録りだそうですね。YO-KINGそう。江崎くんも、一緒にご飯を食べていたときに「いつかなんか一緒に作ろうよ」という話をしていて、今回こういう形になりました。「雨」が仕上がって聴いてみると、素敵な曲だと思いましたね。歌も一緒に録ったんですが、歌っていて、気持ちよかった。いままでずっと音楽をやってきて、これまで組んだいろいろな鍵盤弾きの方も素晴らしかったですが、また素晴らしい人と出会えたなって。一人ひとり、弾き方も違って、みんな個性があります。桜井ピアノは、ギター以上に「同じ楽器なのに弾く人でこんなに違うんだな」と感じますね。桜井秀俊。(サクライヒデトシ/Vocal, Guitar)。1968年6月6日生まれ。――桜井さんが作った6曲目「Boy」は、おふたりのツインボーカルに惹きつけられますが、最初からふたりで歌う曲として作ったのでしょうか。桜井いえいえ、まったく。YO-KINGさん単独の歌でお願いしようと思っていたんですが、入り口のメロディが複雑だから、僕が仮歌を録音して聴いてもらっていて。すると、ボーカル録りの日に「この曲は桜井の歌から始めたほうがおもしろいんじゃないか?」という提案をされて、考えてもいなかったのでびっくりしましたが(笑)、こうなりました。――ラストを飾る10曲目は、『種から植えるTV』(テレビ東京系 毎週日曜 11:55)のテーマソングにもなっている「白い紙飛行機」です。桜井アルバムを作る前にオファーをいただいて、書き下ろしました。番組は、アンジャッシュの児嶋一哉さんがパーソナリティで、毎週農家さんから種をもらって、自分の畑を作っていこうという内容の企画なので、そういう曲にしようと思って。だから、この曲だけ、けっこう明るい。でも、アルバムのラストを飾ったことで、それまであった憂いを踏まえながら、ちょっと遠くまで連れていってくれるような明るさが出せました。こういうことがあるから、バンドを長くやっているとおもしろいです。YO-KINGこの曲が最後にきて、アルバムが明るく終わっているのが、すごくよかったですね。――おふたりでいつもどのように選曲されているのですか。桜井おたがいに曲を持ち寄っています。今回の場合、2月ぐらいから曲を出し合って。たとえば「Boy」は初期の段階でできていて、「これいい曲だから本番もレコーディングしようか」という話になったり。完成したアルバムは少し憂いのある感じで、この2年の影や移り変わる感じもあって、全体のテーマが浮かび上がってくると、録音予定だったけれどその要素がないものはテーマが濁るからよけたり、他の合う曲を入れたり。最終的に、1曲目「一触即発」のような曲ができて、「だるまに目が入ったぜ!」とうれしくて(笑)。完成できるかというスリルもあったんですが、ぎりぎりで目玉が入るというような流れがいつにも増してありました。今回は、さらに江﨑さんなど人との出会いやタイミングも合致して、人智を超えた流れができた、いいものができました。そこが、共同作業でやる芸術、創作物の楽しいところですね。YO-KINGこうして完成したアルバムを聴いてくれた人の心が、少しでも軽くなればいいなって思っています。――2022年11月から2023年1月まで『真心ブラザーズ ライブ・ツアー「FRONTIER」』と題した全国ツアーを開催されます。どのようなステージになりますか。桜井バンドメンバーが、サンコンJr(ウルフルズ)ら旧知の仲の、何も言わずともいいサウンドを出してくれる仲間です。昨年は「ORDINARY」というツアーをやって、世の中“ORDINARY=通常”じゃないところをあえてそう題して、自分たちのギアを上げました。そして今回の「FRONTIER」は、より昨年にも増して、ライブで味わう音楽時間は楽しいよね、という気持ちを取り戻そうという意味があって。トリッキーなことをやるというよりは、久しぶりに友達と会ってお酒を飲んで盛り上がるような、「やっぱりこうだよね!」という楽しさを取り戻す時間になったらいいなと思っています。これからも元気に音楽をやっていきたい――普段のご様子もうかがいます。最近ハマっていることや趣味はありますか。YO-KING公園に行ったり、自転車に乗ったりしていますね。電動付きの自転車、最高ですよ。自転車で東京の街を走っていると、いろいろと気づくこともあって。ある建物の前を通ったら、自転車のレーンがあって、車の駐車スペースがあって、車道があってと道路が整備されていて、ついに日本もここまで来たんだと。桜井ああ、自転車に配慮されていない場所だと、自転車レーンに車を駐車されることもあるから、ほんと怖いもんね?YO-KINGうん。そうやって今後も東京が自転車乗りにやさしい街になったらうれしいですね。――自転車で一番遠いところはどこまで行かれましたか?YO-KING家から10キロまでの距離を目安にしています。今日はこの取材のあと移動があるから自転車には乗ってきませんでしたが、10キロ以内なら、いつも自転車ですね。自転車とランニングは、有酸素運動でもあるから脳にいいです。桜井僕は以前から料理をするのが好きなんですが、コロナ禍のこの2年でさらに好きになりました。僕は左利きなので、和包丁だと使えないんですよ、片刃だから。でも2年半前ぐらいに京都へ行ったときに、「有次(ありつぐ)」という京都錦市場商店街にある刃物屋さんに、左利き用の三寸ぐらいの出刃包丁があって。さっそく買って、名前も入れてもらいました。そして魚が充実している「ビッグヨーサン」という素晴らしいスーパーで魚を買ってきて、その包丁で魚をさばくのが、趣味になってきました。僕が料理したものは家族に出しています。魚があまったら、刺身はヅケにして、酒飲みなのでつまみにしていますね。――おふたりともに健康面において、普段から意識されていることはありますか。YO-KINGたとえば「早寝早起き」と言いますが、あれはウソで、「早起き早寝」なんですよ。早起きするから、早く深く寝られる(笑)。次の日何をするのかによって変わりますが、一度明け方に起きてしまうと、僕は寝ませんね(笑)。今日も朝の5時15分に起きました。朝、いいですよ〜、気持ちいい。暗いうちから起きて、日の出の時間を過ごすこともすごく好きです。早起きすると、午前中は自分の能力が高くなるのもいいところ。午後に30分かかる作業が、午前中だと15分でできるというデータもあるらしくて。となると、午後で何かをやる2時間は、午前中の1時間なわけで、人生でいうと時間の価値がすごく高くなりますよね。朝活って、理にかなっている。ただ、仕事柄、いつも早く起きられないときもあるんですが、そんないろいろな毎日があるほうが、僕は好きです。今日の集合場所はここです、明日はここです、というような変化があって。性格的にひとつのことに決められているよりも、そういった臨機応変な毎日が心地いい。桜井僕はよく歩くようにしています。毎日歩いていて、以前は1日平均7キロ歩いていたんですが、そうすると1日の中で歩く割合がかなり高くなってきて(笑)、それはちょっと多いかなあと。早歩きして歩く時間を狭めるべきなのか、といまはいろいろと考えながら歩いています。――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負をお聞かせください。YO-KINGオシャレになりたいですね(笑)。あと、スターになりたい。もっと、モテたいですね。――真心ブラザーズとしてですか?YO-KINGいや、個人的に(笑)。まあ、真心でもモテるに越したことはないですけど。モテたほうが楽しいじゃないですか、人生。嫌われるよりね。桜井ananwebに出たといえば、モテ要素になるんじゃないですか!?YO-KINGそうだね。『anan』といえば、「抱かれたい男」だ(笑)!桜井これからも元気に音楽をやっていければ、それだけでいいですね(笑)。ライブなどの音楽の現場もコロナ禍前の状態に戻りつつありますが、まだ制約は続いているので、今年はなんとか乗り切って、来年はもうちょっとのびのびとやらせてよという願いはあります。自分たちよりも、お客さんに楽しんでもらえたらいいなと。YO-KING最後に、真心としての抱負は……モテたほうがいいですよね(笑)? モテて、人気者になって、「楽しそうだな」って思われる人になりたいですね。取材後記日本のロックシーンになくてはならない存在のYO-KINGさん、桜井秀俊さんからなる、真心ブラザーズ。ananwebの取材では、和やかな雰囲気のなか、おふたりとも真摯にインタビューに応えてくださいました。これからのご活躍も楽しみです。そんな真心ブラザーズのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり真心ブラザーズPROFILE1989年、大学在学中に音楽サークルの先輩YO-KINGと後輩桜井秀俊で結成。バラエティ番組内のフォークソング合戦企画にて見事10週連続を勝ち抜き、同年9月にメジャー・デビュー。2014年、真心ブラザーズのレーベル「Do Thing Recordings」を設立。また、自身のバンドのほか、YO-KINGはメンバー全員フロントマンのドリームバンド「カーリングシトーンズ」のメンバーとして、 桜井はアーティストへの楽曲提供やサウンドプロデュース、サポートギタリストとして、それぞれのフィールドでも活躍中。2022年10月26日、ニューアルバム『TODAY』をリリース。11月から2023年1月までは、『真心ブラザーズ ライブ・ツアー「FRONTIER」』で全国をまわる。InformationNew Release『TODAY』(収録曲)01. 一触即発02. 君がすべてだったよ03. 群衆04. LOVE IS FREE05. 破壊06. Boy07. 雨08. ブレブレ09. うたたね10. 白い紙飛行機2022年10月26日発売COCP-41887(CD)¥3,300(税込)取材、文・かわむらあみり
2022年11月04日フランスに実在するゲイの水球チーム「シャイニー・シュリンプス」をモデルに、アマチュア水球チームの奮闘を描き、本国フランスで大ヒットを記録し、日本でも話題を呼んだ『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』。その続編となる『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』が先日より公開されているが、本作の制作スタッフに“共同プロデューサー”として名を連ねているのが小田寛子氏だ。映画の宣伝・配給などを手がける「株式会社フラッグ」に新たに設立されたグローバルコンテンツ部で働く小田さんだが、学生時代はカナダで映画制作を学び、帰国後は複数の配給会社で主に海外作品の買い付けや配給業務を担当してきた。そんな彼女がなぜフランス映画の共同プロデューサーに…? 映画界の様々な仕事について紹介していく【映画お仕事図鑑】。映画を“作る仕事”と完成した映画を“観客に届ける仕事”という、従来は別々のものだった業務の垣根を飛び越えた、新たな時代の映画のお仕事について話を聞いた。カナダへの映画留学、帰国後の映画業界への就職――学生時代はカナダに留学されて映画制作を学ばれていたそうですね?私は福岡県の北九州の出身なんですが、もともと映画が好きだったものの、周りに映画を仕事にしている人が誰もいなかったんですね。父の影響で洋画が好きだったこともあってか「東京で映画の仕事をしたい」というよりも「海外に行きたい」という思いが強かったんです。ただ、父からは「大学受験から逃げるな」と言われまして…(苦笑)。いったん、地元の大学に入学したんです。たまたま大学の友人で「カナダに留学する」という子がいたんですけど、私が高3の時に「9.11」が起きたこともあって「アメリカに行きたい」と言いづらいこともあったし、当時はカナダドルも安くて、カナダは“ノースハリウッド”と言われてハリウッド映画の撮影が多く行われるようになっていて、留学先としてカナダに注目が集まっていたんです。それで、いったん、ワーキングホリデーでカナダに渡り、気になっていた大学の映画科の夜間コースの試験を受けて、その後その大学の映画科に入学しました。私が入学したのは「Capilano University(キャピラノ大学)」という学校の映画制作学科で、実践的に映画づくりについて勉強をするという感じで、講師も最近まで現役バリバリでしたという撮影監督や助監督の方が多かったです。周りの生徒も「映画理論を学びたい」というより、「映画の現場で働きたい」という人間が多かったですね。ワーホリの期間も含めると、カナダには4年ほどいました。当時、映画の撮影がカナダで行われることが本当に多くて、インターンという形で現場に入らせてもらってアシスタントをやったり、エキストラをやりながら現場を見る機会も多くありました。あとは、学校で短編映画を作る際も、ヒマな時期であれば、講師のツテでプロの方たちが参加してくださったりして「X-ファイル」に入られていたスタッフさんが、私たちの短編のサウンドミックスを担当してくれたりすることもありました。講師の方を含めて“THE 現場”の人たちと触れ合う機会が持てて、留学先として選んで正解だったなと思います。――当時はその後の進路、就職などについてはどのように考えていらしたんでしょうか?映画留学している人間って、みんな「とにかく映画に関わる仕事がしたい」と思ってるし、特に最初は「監督になりたい」って思っている方が多いと思います。1年目に「監督になりたい人?」と聞くと9割くらいの手が上がるけど、3年目くらいになると監督志望者は減ってきて「俺は照明がやりたい」とか「衣装がやりたい」ということで専門の学科に行く人も増えていくんですね。私も途中で「プロデュースをやりたいな」と思うようになりました。脚本に書いてあることを映像にする才能が監督に必要だとすると、それは自分にはないんじゃないか? どちらかと言うと才能がある人を集めて、進める製作のほうが向いてるんじゃないかと思ったんですね。映画学校ってどうしても自分たちで「作る」だけで終わってしまいがちなんです。せいぜい映画祭に出品して…という感じで、カナダ、特にバンクーバーには配給会社が多いわけでもなかったので、作った後にどうしたらいいのか? という部分でフラストレーションがありました。同時に映画学科の留学生の中で唯一の日本人ということもあって、日本の映画業界について周りにすごく質問されることが多かったんですけど、なんせ“北九州→カナダ”なので何もわからない…(苦笑)。加えて、カナダ人であればもらえる助成金システムなどもあるんですが、私はそこにはアクセスできないので、私の“強み”と言えるものを活かせるようにならないといけないと思い、日本に帰ることを決めました。――帰国後、どのように映画業界で働き始めたんでしょうか?東京に出てきたものの、時期的にも一般的な就職活動の時期とはズレていたので、いわゆる就活みたいなことはできず、外配協(外国映画輸入配給協会)に載っている配給会社に片っ端から履歴書を送ったり、電話をしたりして、プレシディオという配給会社にバイトで入社しました。最初は洋画の買い付けをしているチームのアシスタントとして資料を整理したり、作ったりしていました。その後、自分でも買い付けをやらせていただけるようになって、洋画を買ってくるという仕事に加えて、買った後の二次使用権(ビデオグラム権や配信権)をメーカーさんに営業して売るということもやっていました。その後、TSUTAYAでおなじみのCCCグループの会社で、TSUTAYA独占レンタルの映画の買い付け業務などをやって、それから日活に移り、そこでも基本的に買い付けと配給宣伝の進行管理、二次使用権の営業などをやっていました。帰国して働き始めた当初は、いわゆる社会人としての常識や教養が全くない状態で(苦笑)、請求書の書き方や資料を作るのに必死だったんですけど、20代後半になるにつれて、いろいろ変化もありまして。面白いことに、カナダで映画を“作る“ことを学んでいた頃は、作品を“世に出す”ことを勉強したいと思ったんですが、逆に作品を世に送り出すことを仕事でずっとやっていると、今度は「もっと作る側に関わりたい」という思いがまた芽生えてくるんですね。日活に入社する際も、日活は映画を「作る」仕事もしている会社なので、その部分に魅力を感じて入社を決めました。その後、広告代理店の配給レーベル立ち上げの手伝いをしたり、フリーランスで映像制作などにも関わっていたのですが、2018年に現在のフラッグに入社しました。フラッグはずっと映画の宣伝事業をやってきた会社ですが、配給事業への進出や制作事業のグローバル化を考えていて、私も配給だけでなく海外との共同製作に取り組みたいという思いがあり、入社しました。最初はこれまでのような買い付けの仕事や配給、それから共同事業のためのパートナーさんの営業などをメインでやっていましたが、その後、バイリンガルの映像制作スタッフを採用し、現在は買い付け、配給、それから映画だけでなく、海外向けのCMなどを含めた映像制作の仕事をやっています。これまで携わってきた仕事と現在の取り組み――ここまでお話を伺ってきた中で、主にやられてきた海外作品の買い付け、配給・宣伝の仕事で、携わって印象深かった作品や海外とのやり取りでの苦労などがあれば教えてください。私、背が低くて、20代の頃はいまよりも顔立ちが幼いこともあって、海外との打ち合わせの場に行っても「なんでお前が来たんだ?」という扱いを受けることが多かったんですね(苦笑)。無理して高いヒールを履いて、少しでも威圧感を出そうとしたり…(笑)。ただ、私がアシスタントだった当時、同じように向こうでアシスタントをしていた人間が、徐々に決定権を持つ立場になったりとか、年齢を重ねていく中で業界のコミュニティみたいなものが形成されていて、そういう意味で、何かあったら相談できる人間が常にいましたし、働いていて「つらい…」という経験はそこまでないですね。(買い付け予定作品を)取り逃がして、怒られてつらかったりしたことはありましたけど…(笑)。これまで関わった映画で、思い出深い作品はプレシディオ時代に配給に関わった『パラノーマル・アクティビティ』ですね。買い付けたのは当時の上司だったんですけど、急にポスタービジュアルに使用されている写真1枚が送られてきて、ストーリーもほぼわからない状況だったんですけど「これを検討しているから、パートナーを探すための資料を作って」と言われまして…。当時は参照になる作品も(同じようにモキュメンタリー手法を採用した)『ブレアウィッチ・プロジェクト』くらいしかなかったんですよね。最初は「何これ?」という感じだったんですが、公開されて最終的には興行収入が6億円くらいまでいったんですね(※ちなみに制作費はたった135万円!)。買い付けた頃は、まだスピルバーグが絶賛して話題になる前のタイミングだったと思うのですが、当時、会社内での「この映画、絶対に当ててやろう!」という熱気がすごかったんですよね。仕事を始めて、わりと早い時期にあの作品に携わったこともあって、映画をヒットさせようと思ったら、あれくらいの熱量が必要なんだということを教えられましたし、ひとつのトレンドを作ることに関わることができたという経験もすごく大きかったですね。宣伝もいろんなことを試して、社員が全員、常に大量のチラシをカバンに忍ばせていました。休みの日にプライベートで買い物に行ったりして「お仕事は何されてるんですか?」と聞かれたら、よくぞ聞いてくれました! って感じでチラシを渡したり(笑)。熱かったです。あれを買い付けた上司がすごいと思いますし、プレシディオはあの作品の「続編権」を獲得していたんですよね。それでプレシディオの製作・配給による日本版続編として『パラノーマル・アクティビティ 第2章 TOKYO NIGHT』が公開されたんですけど、そういうビジネスセンスに関しても、勉強させてもらいました。もうひとつ、日活時代に関わったインド映画で『きっとうまくいく』のラージクマール・ヒラニ監督の『PK』という作品も思い出深いです。それまでインド映画については全然詳しくなかったんですけど、映画の内容の素晴らしさはもちろん、ヒラニ監督がプロモーションのために来日されたことも、すごく心に残っています。関われたことが誇らしく思える作品です。それまでホラー映画を担当することが多くて、両親に「観に行って」と言っても「疲れる…」とか言われてたんですけど(笑)、あの作品に関しては母が友人から「この映画を配給してくれてありがとう」というお手紙をいただいたり、個人的にも嬉しかったです。ヒラニ監督とは、いまもやりとりをさせていただいていて、一生の友達を得ることができた作品だったなと思います。――ここからさらに、フラッグでの小田さんの現在のお仕事――海外との共同制作作品などについて、詳しくお伺いしていきます。フラッグで新たな部署の設立にも関わられたとのことですが、そのあたりの経緯についても教えてください。ちょうど10月1日から「グローバルコンテンツ部」という部署として始動して、コンテンツを作る過程と世に出す過程をひとつの部署で担うことになりました。映画に関する具体的な業務としては、「日本で撮影をしたい」という企画について、ラインプロデュース(制作進行)のお手伝いをする制作受託の仕事がひとつ。加えて、こちらで企画を立てて、海外のパートナーを探して一緒に映画コンテンツやTV、配信向けのコンテンツを開発するというもの。それから、今回の『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』がまさにそうですが、「こういう企画があるんだけど、日本を舞台にするから一緒にやらないか?」など、既に海外で始動している企画に関して、共同で入らせてもらい、制作の一部や配給を担うというもの。以上の3パターンがメインになります。最初に挙げたラインプロデュース事業に関しては、映画祭などを通じてお話をいただくので、映画は私が窓口になることも多いのですが、実際の制作進行は制作経験が豊富にある社内のバイリンガルスタッフにほぼ任せています。実際に現在、進んでいる企画があるのですが、半分を海外で撮影し、半分を日本で撮影するということで、日本での撮影に関してはスタッフのハイアリング(雇用)から制作まで、こちらで全て手配を行ない、撮影監督とプロデューサーが海外から来るという形になっています。私が今特に力を入れ始めているのは、先ほど挙げた3つのうちの2つ目と3つ目、企画開発の部分や、海外との共同製作作品の配給という部分です。――企画開発を行なった上で、海外のパートナーを探して共同で制作するという業務について詳しく教えてください。いま、やっているのは、フラッグでアイディアを考えて企画を立てた上で、海外の制作会社に「こういう配信向けのドキュメンタリーシリーズを作りたいと考えています」と話を持っていき、そのキャスティングや内容について一緒に企画開発を進めて、配信プラットフォームやTV局などに売り込んでいます。あとは、アイディアベースの映画の企画に関して、海外の脚本家の方を紹介していただいて、脚本開発の段階から一緒に進めていったりするということも少しずつですが、やり始めています。――もともと、カナダで映画制作を学ばれているとはいえ、帰国後に携わっていた「買い付け」や「配給・宣伝」とは全く異なる「企画」「製作」にガッチリと関わられているんですね。そうですね。ただ、海外の映画祭に顔を出して買い付けを行なったり、配給・宣伝をやってきたという点で、いま、どういうクリエイターが話題になっているのか? 社会問題などを含めての映画のトレンドやトーンが世界的にどうなっているのか? ということを吸収しやすいポジションにはいるのかなと思います。実際、海外でもコンテンツの売り買いに関わっていた同世代の人間が、配信プラットフォームに転職したり、プロデューサーとして製作に関わるようになっている例が結構多いんですけど、そういう知識や経験を必要とされているのかなと思います。意外と自然流れでそうなっているのかなというのは感じますね。ただ、そうした試みが許される環境があるというのが非常に大きなことだし、ラッキーだったと思います。企画・製作から配給までを行なう会社というのは、大手以外では決して多くはないですし、会社の規模が大きくなると、どうしても部署ごとのタテ割りの意識が強くなってしまうこともあるのかなと思います。その意味で、いま私たちがやろうとしていることは、すごく大きなチャレンジだなと感じています。――企画開発を進めていく上で、大切にしているのはどんなことですか?英語でも「Trust your gut.」という言い方がありますけど、「自分の直感を信じること」ですかね。日本を扱ったコンテンツで海外の方とやりとりしていると、いまだにステレオタイプな日本をイメージして、推してくる方もいるんですよね。そこに関して、きちんと意見交換をできるパートナーでなければ、組んではいけないなと感じてます。どんなに企画のコンセプトが良くて、キャッチーで面白かったとしても、“価値観”の部分できちんと共通認識を持てるか――「いまの時代にそういう日本を描くべきか?」ということを意見交換できて、リスペクトしてくれるパートナーでなくては一緒に仕事はできないなと思います。逆にこちらが指摘をしたら、意外とあっさりと理解してくださることも多いんです。だからこそ、きちんと意見交換し、価値観のすり合わせをすることが大事だなと思っています。それからもうひとつ、私ひとりでやっているわけではないので、「会社」としていま、どういうアジェンダを持っていて、どういうメッセージを発信していこうと考えているのか? ということは、チームで話し合うことは大事にしています。――そして、グローバルコンテンツ部として、先ほど挙げていただいた業務の3つ目、海外から持ち込まれた企画の共同製作についてもお聞きします。今回、小田さんが共同プロデューサーを務めた『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』がまさにそうした仕事だとのことですが、この作品に参加されることになった経緯について教えてください。この作品は『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』の続編なんですが、1作目はフラッグが初めて買い付けを行なった作品なんですね。この作品を売ってくれたセールスエージェントは、以前から日本との仕事をしている方で、私が「共同製作で一緒に何か作りたい」と思っていることもずっと前から伝えていたんです。1作目がフランスで大ヒットして続編を作るという話になった時、当初は劇中の「ゲイゲームズ」(※主人公たちが参加する実際に開催されているLGBTQ+のスポーツ&文化の祭典)は香港で開催されるという設定だったんです。でもそのセールスエージェントが「日本での開催に変えるから、ヒロコたち、一緒にやらない?」と声をかけてくれたんですね。そこで「やる!」と答えたら、少ししたら脚本が届きました。私も彼にはずっと「一緒に合作をやりたい」と言い続けていたんですけど、彼のほうも、私たちとやりたいと思ってくれたのには理由がありまして。まず“日仏合作”の作品で、ここまで商業的な“ザ・エンタメ!”というタイプの作品やコメディってこれまであまりなかったんですよね。それをやってみたら面白いんじゃないか? と。私たちにとっても、1本目の合作ですから、それなりの規模で公開される海外でインパクトのある面白いことをやりたいという思いもありました。もうひとつ、あちらの製作会社がフラッグと似ていて、普段はCMや映像制作をやったり、広告代理店が主業務で、年に1本だけ映画を作っているという会社なんです。そういう部分、会社の事業内容やスピリットの部分でリンクするところが多いということで、一緒にやりやすいんじゃないかということもありました。――そこで共同製作することになって、どのように進められていったんでしょうか?脚本にも意見がほしいという声をいただいて、脚本内容に関しても、こちらから提案させていただいた部分はありました。もともと、コロナ禍以前にいただいたお話だったので、撮影も当初は日本で行う予定で、実際に脚本の最初と最後は日本が舞台になっていたんです。なので、日本での撮影を含めたファイナンスを組んでいたんですね。その後、コロナ禍となり、それでもギリギリまで粘って、去年の東京オリンピックの開催時期を避ける形で何とか日本で撮影できないか? と奔走していました。それこそ(水球シーンを撮影するために)全国のプールを探し回ったり…。日本以外の配給権をライセンスしてくれたユニバーサルもできれば日本で撮りたいよね、とかなり待ってくれて、去年のアタマの段階で、日本で撮影予定のシーン以外はフランスとウクライナで撮り終えていたんです。でもやはり、海外からの入国制限が緩和されなかったこともあって、8月くらいの段階で難しいということで、10月末にフランスのストラスブールで東京で開催されるゲイゲームスのシーンを撮影することになり、私ともう一人のスタッフがフランスに渡りました。ただ、美術に関しては、こちらでデザイン・制作したものを現地に持っていきました。もともと、日本で撮影する予定だったので、デザインなどに関しては日本でやるつもりでしたし、監督も日本へのリスペクトを大事にしてくださって「日本の美術スタッフとやりたい」とおっしゃってくれたんです。――実際に現地に赴いて、撮影はいかがでしたか?監督が大事にされていたのが、フランスで撮影する客席の様子が「ちゃんと東京ゲイゲームスに見えるか?」という部分でした。「東京ゲイゲームス」が開催されていないので、誰も実際の「東京ゲイゲームス」の客席の様子を想像することはできなかったんですけど(笑)。ただ、2019年に日本でラグビーワールドカップが開催されたので、その時の客席の様子や雰囲気について、監督に写真などを送りました。ちょうど東京オリンピックのおかげで日の丸のハチマキだったり、観戦グッズがたくさん出回っていたので、それをいっぱい買い込んで、現地に持っていきました(笑)。オリンピックにせよワールドカップにしろ、祭典の時って、日本の良さを少し「盛る」部分があるじゃないですか? そういう部分も含めて、日本のスタッフにすごく良いデザインをしていただけて、それをフランスのスタッフもすごく喜んでくれて、良い形でのコラボレーションができたと思います。あと、監督は日本で撮影する予定だった当初からずっと「日本でやるなら、日本のLGBTQ+コミュニティを巻き込んで一緒にやりたい」ということをおっしゃっていたんです。フランスで日本人のドラァグクィーンとして活躍されているMadame WASABI(マダム ワサビ)さんという方がいらっしゃるんですが、その方にDMを送り「こういう映画があるんですが、出ていただけませんか?」とお願いしたところ、作品の内容に共感して下さり、なんとか日程を調整して撮影に参加してくださいました。今、ロシアの反LGBT法のニュースが話題になっていますが、こういう形でタイムリーな作品になってしまったことはとても悔しいです。同時に今この映画を世に出す意義、監督たちの想いを再認識しています。エンタメには自分には関係ないと思いがちなことを自分ごととして捉えるのを手助けする力があると信じています。今後見据える展開と映画業界を志す人へメッセージ――本作以降の今後のお仕事についても教えてください。現在ポストプロダクション中の海外との合作がありまして、エストニアの気鋭の監督の作品です。この作品に関しては、製作出資と配給を担当させていただきます。あとは現在、ヨーロッパとの合作で企画開発中の案件がいくつかあります。――小田さん自身は、今後、どのように映画に携わっていきたいと考えていますか? 将来的な目標などを含めて教えてください。洋画好きとして育ってきたからかもしれませんが、どうしても「洋画」と「邦画」がジャンルとして分けられていて、その壁を感じてしまうことが多いんですね。日本と海外の合作となると、日本が舞台になっていて、日本で撮影をするということだったり、日本人の俳優が出演するということだったりに限られてしまう部分が多いですが、それだけじゃなく、もう少し自然な形で日本と海外が絡んで、物語を伝えるということができないかな? と思っています。これまでとはまた違った形で(海外と)コラボレーションできるんじゃないか? わかりやすく「海外から見た日本」を描くものだけじゃない作品ができないか? そこはチャレンジしていきたいなと思います。地理的な近さや環境も大きいと思いますが、イギリス人とフランス人がコラボすることなんて、ごく当たり前にあるじゃないですか? ストーリーテリングの部分で、もう少し日本と海外でそれができないか? そこは突き詰めていきたいなと思っています。日本人だから日本のストーリーしか伝えちゃいけないということもないし、私が日本人だからって、日本に関わりのあるコンテンツしか作っちゃいけないわけでもないので、そのハードルを下げていきたいなと思います。――最後になりますが、映画業界を志している人に向けて、メッセージをお願いいたします。最近、強く思うことがあって、コロナ禍以前は、映画というものが、社会に絶対的に必要なもか? といったら、あくまでも“プラスアルファ”のものとして捉えていた部分があったと思うんです。特に私の母が看護師として働いていて、わかりやすく社会のためになる仕事をしていたこともあって、エンタメの仕事に対し、ある種の“うしろめたさ”みたいなものを抱いている部分もあったんですよね。でもコロナ禍になって、逆にエンタメって人々の生活に絶対に必要なものなんだなと思えるようになって、いまやっている仕事を誇らしく思う気持ちが強くなりました。日本の環境のせいもあるかもしれないですけど、エンタメ系の仕事に就くって、周りから「え? そっちの仕事行くの?」と思われがちな部分もあるじゃないですか(笑)? でも、いまやエンタメって社会に必要不可欠な存在だと思うし、だからこそ、こういう仕事を志してくださる人がいるのは嬉しいです。もうひとつ感じるのが、この連載インタビューのような、映画の世界の“中”を教えてくれるものが、自分が若い頃にもあったらよかったになぁ…ということ。映画の世界に入ってみて、本当にいろんな仕事があるんだなというのを初めて知りました。私たちが若い頃って、俳優さんや監督、プロデューサーに関する記事はあっても、それ以外の仕事に関する記事って限られたものしかなかったですよね。映画界の中にどういう仕事があるのか? というのを知ることってすごく大事だと思います。買い付けの仕事について知らない方もたくさんいらっしゃると思いますし、配給会社の中にも劇場営業をしている人間もいれば、宣伝を担当する人間もいたり、本当にいろんな仕事があるんですよね。どれだけの仕事があるのかというのを知っておいたほうが、自分にハマる仕事を見つけるきっかけにはなるんじゃないかと思います。――お仕事は楽しいですか?楽しいですね(笑)。いろんなアイディアを持っている才能豊かな監督だったり、自分にはない発想や経験値を持っている人たちと組んで作品を作っていくというのが楽しいですね。今回、フランスチームと一緒に仕事していると、あちらの方たちって本当にケンカするんですよ(笑)。「ケンカが国技だ」みたいなことを言いますけど、みんなでワーッと激しく言い合って、でも終わると「じゃあ、お疲れ!」って感じで、誰も引きずらないんですね(笑)。みんな、良い映画にするために言い合っているし、“ゴール”はきちんと共有できていたので、どんなに激しく言い合っても平気だったし、言いたいことを言って全て出し切るから、ストレスなしで仕事ができたんですよね。なかなかハードではあるんですけど、そういう部分も含めて楽しいですね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ 2022年10月28日より新宿武蔵野間、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国にて公開© 2022 LES IMPRODUCTIBLES - KALY PRODUCTIONS - FLAG - MIRAI PICTURES - LE GALLO FILMS
2022年11月04日クリスチャン・ベイル、ジョン・デヴィッド・ワシントン、マーゴット・ロビーらが豪華共演、デヴィッド・O・ラッセル監督が贈る、ありえないけど“ほぼ実話”の物語『アムステルダム』。異国の地で2人の兵士と出会う看護師にして、戦争の残留品を使った作品を作りあげるアーティストのヴァレリーを演じたマーゴットが、共演者や監督、そして愛すべきヴァレリーというキャラクターについて語った。出番はみんな一緒!「アンサンブルキャストでは珍しいこと」「これほど多くのアンサンブルキャストがいる中でも素晴らしかったことは、みんながほとんどいつも同時に仕事をしていたことです」とマーゴットは話す。「自分の演じるキャラクターの出番がなければたくさんオフの時間がありますが、私たちの多くが、この映画でみんな一緒にすべてのシーンに出ていました。それってアンサンブルキャストでは珍しいことです。いつも誰かと一緒にいることが出来てとても素晴らしかった」という。確かにクリスチャンやジョン・デヴィッドに、ラミ・マレック、アニャ・テイラー=ジョイ、ロバート・デ・ニーロら豪華俳優たちが、多くのシーンで同じ画面に収まっているのは奇跡的ともいえ、本作の大きな魅力となっている。中でもロバート・デ・ニーロや、クリスチャン・ベイルとの共演は「夢が叶ったといえます」とマーゴット。「まさにバケットリスト(死ぬ前にやっておきたいことを書き出したリスト)にいる俳優たち。彼らのどちらかと一緒に仕事を出来る幸運に恵まれることがあるなんて、思ってもみませんでした。ましてや、2人と一緒に同じ映画で共演できるなんて。だから、本当に素晴らしかった」と明かす。特にクリスチャンについては、「私は、彼が非常に真面目な俳優であるというイメージを持っていました。撮影中、決してキャラクターから抜け出すことがないと思っていたんです。だから、彼の演技を見て学ぼうと思っていました」と言う。「私たちがおしゃべりをすることはないだろうと思っていたんです。なぜなら、彼はずっと役になりきっていますから。でも、実はそうじゃありませんでした。撮影の合間、まったくくだらないことについておしゃべりしたりしたんです。彼はとてもフレンドリーでした。明らかな才能があるうえ、とても気さくな人なんです」。そして、デ・ニーロについても「いつも犬を連れていました」と話し、「犬のおかげで、少し親近感が湧きました」と名優との共演を恐縮しながらふり返った。「ヘアメイク、衣装のデザインを通して、自分のキャラクターを見つける」マーゴットが演じたヴァレリーは、1930年代を生きる、戦争のトラウマや家族との確執をアートによって昇華している女性だ。「ヴァレリーにとって衣装は、彼女のアートのもう一つの表現で、彼女の反抗心の表れでもありました。だから、衣装は私にとってとても重要なものでした」とマーゴットは語る。「私は帽子が大好きだから、帽子をかぶりたいと言いました。そして、パイプを吸いたいとも言いました。こういうアイデアがあると、みんな、特にデヴィッド(・O・ラッセル監督)はいつでもコラボレーションを歓迎してくれました。ヘアやメイク、衣装のデザインを通して、自分のキャラクターを見つけることもとても重要なんです」。さらにマーゴットは、ヴァレリーというキャラクターについて「幸運にも、準備をする時間がたっぷりありました」と明かす。「これほど時間をかけてキャラクターの準備をしたことはありません。監督はコラボレーションを好む人で、撮影が始まるずっと前から、このキャラクターや映画について私と話し合いをしてくれました。そこへパンデミックが起きたので、私はヴァレリーにじっくり時間をかけることができたのです。正直言って、時間がありすぎた感じ」だという。「ほかのキャストの代弁をするつもりはないけれど、(時間があったからこそ)私たちはみんな自分たちの一部をキャラクターに入れ込んだと思います。だからカメラを通じてもリアルに見えるんです。そこには個人的な歴史があるから」と、それぞれのキャラクターには俳優たちの一部が投影されていると話す。クリスチャンが演じるバート、ジョン・デヴィッドが演じるハロルドも、おそらくそうなのだ。『アムステルダム』とは「美しくて自由なもの」「バートとハロルドとヴァレリーは、知り合ってから本当に美しい友情を築いています。友だちというのは、自分で選べる家族みたいな存在と私は昔からずっと思っていますが、あの3人の友情はまさしくそういうタイプのものですね」とマーゴットは言う。「ヴァレリーはトラウマに美しさを見い出し、それを使って芸術を作る情熱に人生をかけています。バートやハロルドと彼女は戦争というものすごくトラウマ的な状況下で出会ったけれど、彼女にはそこに美しさを見い出せます。そんな独創的な能力を持っているのです。3人がアムステルダムで過ごしたあの日々は、戦争の恐怖を目の当たりにした彼らが、生きる意味を再び見つけ出すためのものだったんですね。そして不思議なことに、3人とも自分の母国ではないあの街に暮らすことに大きな自由を感じていたんですよ」。『アムステルダム』というタイトルには、深い意味が込められていそうだ。「タイトルはいろいろなことを表していますが、主に登場人物たちの人生の中で、“本当に美しくて自由なものがあった時代”を表しています。私の中で、この映画を作るのもそういった感じだったんです。そして今、私たちはそれを世界と共有しています。それは本当に不思議でエキサイティングなことです」とマーゴットは続ける。「この映画もまた、とても不思議でエキサイティングです。信じられないようなキャストに囲まれて、とてもラッキーだと感じています。それに、みんな本当に素晴らしい人たちばかりでした。撮影現場にはエゴがなかったんです。誰と一緒に仕事をするのが怖いとか、今日出勤してくるのは誰なんだ?とか。『よし、今日も来てくれるぞ』とワクワクするだけ。みんなとても協力的で本当に楽しかったです」と、生き生きとふり返る。「この映画には、大きな陰謀や政治的なもの、いろいろなものがあると思います。しかし、観客の心に最も響くのは、友情だと思います」とマーゴット。「愛と友情は、この映画の中で登場人物たちが経験した他のすべてと比べても優先されるものだと思います」。「コラボしようと監督から持ちかけられたのは初めて」ラッセル監督とのタッグも、厚い友情を育みながら生まれていったようだ。「監督は、このストーリーや私のキャラクターを徹底的に掘り下げようとしてました。監督が早い段階からあそこまで深く役者にかかわろうとすることって、とても稀なことです。これほど早い段階から、あそこまで一緒にコラボしようと監督から持ちかけられたのは、私にとって今回が初めてでしたし、そのプロセスは本当に最高でした」とマーゴットは話す。「何年もかけて、彼が脚本の中で組み上げた陰謀やアメリカの歴史について話し合いましたし、アートについても、彼や私自身の経験についても、ヴァレリーの人物像についても、彼女の家族についても、色んなことを話し合いました。それはとても独創的で魅力的な体験でしたし、本当に最高でした」と自信を込めて繰り返した。マーゴットは、そんなラッセル監督を「本能的な人で、自分の好みをしっかりと心得ていて、当然だけどとても可笑しい人」と表現する。「この映画がとても可笑しいと知って、きっと皆さんは驚くでしょうね。彼の最大の才能は、とても具体的で愛らしいキャラクターを作り上げることですが、それが出来るのは彼自身がとても具体的で風変わりで愛らしい人だから。彼自身がとても可笑しくて賢いからこそ、このキャラクターたちにもそういう要素がたくさん染み込んでいるんですね」。さらに、本作の撮影監督は「何年も前から一緒に仕事をしたい撮影監督リストに入っていた」というエマニュエル・ルベツキ。「この映画は史上最も美しく撮影された映画のひとつだと思います」と言い、「とてもワクワクしたし、とにかく信じられないほど素晴らしい人でした。まったくの恐れ知らずなのに、とても優しくて謙虚。彼はものすごくマジカルなものを捉えてみせます。とにかく驚異的なアーティストで、撮影現場ではとても自由に仕事を進めていましたね」とふり返っていた。『アムステルダム』は全国にて公開中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:アムステルダム 2022年10月28日より全国にて公開©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2022年11月03日【音楽通信】第126回目に登場するのは、唯一無二の存在として、デビュー31年目を迎えてもなお輝き続ける、ミュージシャンのCharaさん!音楽との出会いは、幼稚園での伴奏体験【音楽通信】vol.1261991年のデビュー以降、オリジナリティあふれる楽曲や一度聴いたら忘れられないスウィートなウィスパーボイスで、圧倒的な存在感を放ち続けている、Charaさん。1996年には、女優として出演した岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』が公開され、日本アカデミー賞の主演女優優秀賞を受賞。劇中のバンドYEN TOWN BANDのボーカルとして参加した主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」、翌年に発表したアルバム『Junior Sweet』は連続してオリコン1位のミリオンセラーを記録し大ヒットしました。この頃からファッション、ライフスタイルを含めた新しい女性像としての人気も獲得し、音楽活動においてはデビューより一貫した音楽的探求を続け、各時代を担う気鋭のアーティスト、クリエーターとのコラボレーション作品や活動が数多いことでも知られています。ずっと“愛”をテーマに曲を作り、わたしたちに素敵な歌声を届けてくれるCharaさん。2021年にデビュー30周年を迎え、2022年11月1日にシングル「A・O・U」をリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――Charaさんが音楽に出会ったきっかけから教えてください。わたしが「これは音楽に出会った」と明確に記憶している出来事があって、それは幼稚園のときのことでした。その頃はまだ音楽を習っていなかったですし、家にも楽器が無かったんですが、幼稚園のうさぎ組さんの教室に足踏みオルガンがあって。担任の先生が演奏してくださって、みんなでお歌を歌うんです。毎日歌う曲があって、帰る前に行う、さよならの会のときに「今日はこ〜れ〜でおわかれし〜ま〜しょ さよなら〜さよなら〜」(と実際に歌ってくださるCharaさん)という少しバロック調の歌があるんですが、毎日聴いているから耳で覚えていました。あるとき、休み時間にふと先生に「これ弾いていいですか?」と聞いた記憶があって。その後「先生の代わりに伴奏してくれる?」と言われたんです。いきなり先生に言われてドキドキしましたが、やってみました。毎日歌っている曲だから、いつも通りに大きなお口を開けてみんなで歌ってくれて。その伴奏をしたのが、わたしの音楽との出会いですね。そのときから、楽器ができると人の役にも立つし、コミュニケーションツールとして役に立ってくれたと感じて、いまでも楽しかったなあと思い出します。――幼稚園でみんなの伴奏をしたのは、楽器を習う前ですものね?全然前です。それまでは家にも紙の鍵盤しかなかったぐらいですから、要はイメージトレーニングですよ(笑)。それが役に立って、楽器を習っていないのに、耳で聴いた感覚だけでピアノが弾けたのかな。小さいときは音楽的に恵まれた環境じゃなかったからこそ、自分なりに独特な発想で何かを作り出そうとするようになったのかもしれませんね。――その後、実際に楽器を習うようになったのですね。幼稚園に付いているヤマハの音楽教室があったんです。仲良しのかすみちゃんが習っていて、一緒にいたいから、初めてお母さんに「わたしも行きたい」と頼んで音楽教室に通うようになって。そこは「先生が最初のフレーズを出すから続きを作っておいで」と、作曲の宿題が出る専門的な教室でした。――では、いつ頃から音楽の道を目指されましたか。最初に目指したのは、作家なんです。もともと作曲することが好きだから。高校生の頃からバンドをやっていましたが、歌ではなく、キーボードを担当していました。19歳ぐらいのときに、ソニーで新人を発掘する部署の方から、「ソロでやらない?」と歌うことを勧められてやってみたんです。――もともと歌の才能もあったからこそのデビューですね。この話を聞くとそう思いますよね?でも、そのときにできることを一生懸命やっていたら、未来につながるよと言いたい。まず才能は、自分を信じる力だと思うんですよね。わたしのデビューが決まったのは、レコード会社の偉い人が来て、その人のOKが出るとデビューできるらしいという「プレゼンライブ」でした。歌が下手で、うまく歌うことはもう諦めて、ライブではすごく踊っていたんです。「歌はだめだけど、全身でがんばる!」みたいな(笑)。ステージに立ったら、頭からつま先まで、全身で見せられるから。客席には白髪頭のおじさまが一番前にいらっしゃって、すごく踊っていて、その方の前に行ってグイグイわたしも踊って。あとでわかったのは、そのおじさまがレコード会社の一番偉い方で、言われた言葉が「歌はまだまだだけど、踊りがいいから」って。そのときは歌ではなく踊りをがんばったわけなんですが、それでデビューが決まったから、なんでもできることを最大限やるといいかなと。わかる人は、原石の状態でも見抜くんだと思うんですよね。――すごいお話です。そうして1991年9月にシングル「Heaven」でメジャーデビューされてから30周年を超え、現在31年目となりました。小さいときから何事もがんばりたいタイプなので、31年目にしてそういう積み重ねてきた「あきらめないでやってみる」という筋肉がしっかりとついているんです。その部分はずっと変わらず、そしてイメージすることも大事にしてきていて。たとえば子どものお誕生日会でも「おいしいって言ってくれるかな?」と、お母さんたちが子どもが喜んでくれるメニューを考えることにも似ているというか。「どうやっておもてなししようかな」という、サプライズを考える繰り返しが生活だから。わたしたちの音楽の仕事も、ステージでおもてなしをする要素がとても多いです。いまはコロナ禍でライブをすること自体が貴重なこともあって、より一層、毎回ライブでそういうことを考えるのが好きになりました。でもそれは日常生活でも好きなことなので、普段から、おもてなし筋肉がついてきているから、それがどんなことか知りたい方がいたらぜひ一度、ライブに来てください(笑)。ニューシングルも恋と愛にまつわるお話――2022年11月1日に、レコード会社を日本コロムビアに移籍しての第1弾シングル「A・O・U(エーオーユー)」をリリースされますね。そうなんです。これまで恋の歌や愛の歌しか歌っていないですが、わたしの中にないものは歌えないので、今回も恋と愛にまつわるお話。わたしが日常的に植物からパワーをもらっていることもあって、永久凍土の中に眠っていた約3万年前の植物の種から花が咲いたというニュースに興味を持って、「その花、うちでも咲かないかな?」って。それにインスパイアされて、わたしも不思議と突然お花が蘇って咲いたような気持ちにリンクして、勝手に涙が出た日があったんです。わたしの個人的な愛にまつわるお話と、そのインスパイアされたお花に合わせて、歌詞も書きました。タイトル「A・O・U」は、歌詞にもある“all of you”の訳です。あなた方すべてに、というような意味ですが、デモ曲ができたときすでに「all of you」と口ずさんでいて、いいなあって仮でタイトルをつけていたぐらい。最終的に「A・O・U」にしました。――今作は以前から制作でご一緒されることもある、ドラマーでもありシンガーでもあるmabanua(マバヌア)さんがサウンドプロデュースされていますね。mabanuaさんとは付き合いが長くて。彼がいまのように名プロデューサーになる以前のインディーズの頃からで、自分のアルバムを持ってスタジオに挨拶に来てくれたこともあって。彼のアルバムを聴いたら素晴らしくて、すぐ連絡をとりました。2010年ぐらいからの知り合いで、2011年にはわたしのアルバム『Dark Candy』を一緒に作っています。もうわたしの独特の曲作りの仕方にも慣れてきたんじゃないかな。Charaの作ったデモ曲の良いところをサウンドプロデューサーとして遠慮せずに出してくれるミュージシャンなので、やりやすいですね。――信頼されている感じが音からも伝わります。mabanuaさんは良き理解者なんです。知り合ったときから、素晴らしく成長していますね。――「A・O・U」は現在放送中のドラマ『最果てから、徒歩5分』(BSテレ東 毎週土曜 午後9時)の主題歌にもなっていますが、書き下ろしではなかったそうですね。曲ができたあとから、選んでいただきました。もしも主題歌にと意識していたら、また違った曲になったはず。でも、それで使ってもらえるのが美しいかたちかなって。実際、ドラマにも合っていたので良かったです。――カップリング曲「面影」は、しっとりと心地よいミディアムナンバーですね。Charaさんのライブでコーラスも担当されることのあるシンガーの竹本健一さんとの共作で、大橋トリオさんが演奏とサウンドプロデュースを担当されています。最近のライブステージでは、ほぼ竹本さんがコーラスとして、わたしの声に寄り添ってくださることが多いです。良き理解者になると、一緒に曲を作りたいんですよ。曲を作ってこそ、ミュージシャン同士の親友になれるというタイプなので、わたし。この曲は、最初から「面影」というタイトルをつけたくて、ピアノで作りました。そこでピアノに関して、アコースティックさにもエレクトリックピアノにもソウルにも理解があって、高度なアレンジが得意な人って誰だといったら、大橋さんしかいない。大橋さんも、mabanuaさんも、楽器を演奏されるので、ご自身のグルーヴもあって。もともと「A・O・U」も「面影」も春ぐらいに出したいと思っていたんです。でも、コロナ禍の制限もありますし、おふたりとも忙しいからスケジュール待ちもあって、いまのタイミングに。どちらも、昨年、レーベル移籍用に作ったデモの中に入っていた曲です。――「面影」で、Charaさんが「積み積み積みあげて」と歌われるところも好きです。とぅみ、とぅみ〜と聴こえるところでしょ(笑)? そういう、詞をリズムに乗せるやり方が、わたしらしさ。オノマトペもすごく好きですし、同じ言葉を繰り返したり、印象的になったりする歌詞が好き。フラットだけど、メロディに抑揚をつけていくのがけっこう好きで、ああなっちゃうんですよね。――いつも曲作りはどのようにされているのですか。どんな状況でも作ります。ただ、オンオフがあって、作るモードに入るかどうか、何を意識するかどうか。お題が出たらそれを意識したりもします。音楽に嫌われないよう何歳になっても勉強したい――最近は、阿部寛さん主演のディズニープラス「スター」日本初オリジナルドラマシリーズ『すべて忘れてしまうから』に、映像作品としては映画『スワロウテイル』以来26年ぶりにご出演されていますね。以前そのドラマインタビューもさせていただきましたが、配信後の反響はありましたか。ドラマのプロモーションでイベントを開催したときは、インスタやCharaのモバイルファンサイトに、ファンの方が書き込みや生チャットで感想を言ってくれましたね。基本的には、SNSでもエゴサーチとかしないからわからないんですが、気にしていたら生きていけないかもしれないから気にしない(笑)。ドラマでは、毎話別のアーティストがそれぞれ異なる曲をライブで披露しますが、わたしも5話では役の「カオル」として歌って、今後Charaとしても歌います。――ドラマも楽しみです! では普段のご様子もお聞かせください。おうちではどのようにお過ごしですか。家にいるとすごく忙しいです。主婦って、掃除とか、やろうと思えば限りなくやることがありますよね。この時期、寒くなったから、衣替えも大変。昨日は秋の風をベッドルームにいても感じられるようにと、風の流れを考えてベッドの位置をずらすうちに、部屋の模様替えになって(笑)。わりと内側から整理しようとするタイプなんです。家の掃除に限らず、なんでも表面的なところよりも、内側から整える。最近はキッチンに新しい調理道具をそろえて、包丁も錆びないようにと磨いたり。昔は全然そんなこと気にしませんでしたが(笑)、錆びを拭くのは自分の成長ですね。毎日、花もいけています。――Instagramにときどきワンちゃんが登場しますね。「モジョ」という犬とふたり暮らしをしています。2014年に我が家にやってきまして、もう9歳。おじさん犬です。――とても小さいので、見るとまだ赤ちゃんのような愛くるしさですよね!?だから、ちっちゃいおじさんをいつも抱っこしているんですよ(笑)。――ちっちゃいおじさん、可愛いですね(笑)。以前は娘さん(女優のSUMIREさん)と息子さん(俳優の佐藤緋美さん)も一緒に暮らしていたときは、育児や家事、仕事との両立で大変ではなかったですか。子どもが小さいときは、まだ体力あったから、なんとかやっていました。アーティストって、ひらめいたときに曲作りをやりたいんですが、時間的にはそうもいかない時期もあって。子どもが泣いていると子ども優先になるから、何時から何時はChara、帰ってきたらメインは子どものママって、仕事の時間の使い方を分けましたね。でも、音楽が好きだし楽器が好きだから、子どもと遊ぶのに楽器を使うこともあって。一緒に音楽を聴くときはお母さんのCharaの選曲で、本を読むテンポやリズム感もCharaっぽいかも。まあ、普通のお母さんですよ。――ファッションアイコンとしても輝くCharaさんですが、ファッションのこだわりはありますか。チクチクする素材が苦手なんですよね、かゆくなっちゃうから。買いに行くときは触って確かめますし、仕事でスタイリストさんがいるときは、一緒に洋服を見て最新のものを買います。アップデートするのはきらいじゃないので、ストリートカジュアルも取り入れて。若い人が着るブランドだからおばちゃんは着ちゃいけないとかは、わたしの中にまったくなくて。それは着たら恥ずかしいという、似合わないわたしになる前に、好きな洋服を着られる自分でいるように、多少は体型にも気をつけますけどね。洋服が好きだから。ヴィンテージクローズがけっこう好きです。60年代や70年代のデザインはやっぱり好きですね。新しいものにも、古いものにインスパイアされて作っているデザイナーさんもいますしね。――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負をお聞かせください。好きでたまらない音楽から嫌われないように、何歳になっても、勉強したいです。もっと知りたいという気持ちがあるのは、ありがたいこと。だから抱負もたくさんあるんですが、あまりいろいろな街へコンサートに行けていないので、小編成やひとりでやるといったさまざまなスタイルでやってみたいですね。人生でやっていないこともまだあるので、着実にできることに向かって、いまリサーチ中です。あとは、みんなが「Chara、良かったねー!」って言ってもらえるような恋とか、結婚とかがあるのかも(笑)!? 『anan』にもときどき載っている占い師のルーシー・グリーンさんに、この間、友達と一緒にタロットで占ってもらう機会がありました。みんな「11月以降に出会いがある」って。「3月以降もまたいい感じです」って言われたから、今後が楽しみです(笑)。取材後記ひとりのミュージシャンとしても、女性としても、母としても、多くの女性が憧れる存在のCharaさん。ananwebの取材では、今回リモートインタビューをさせていただきましたが、画面に映るCharaさんがユラユラ揺れるときがあって「ごめんね、椅子がすごい揺れて(笑)。体幹を鍛える揺れる椅子で、テーブルは卓球台なんだよね(笑)」と、おしゃれな椅子と家具を画面で見せてくれるCharaさんがとっても可愛くて、楽しい時間を過ごさせていただきました。そんなCharaさんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね!取材、文・かわむらあみりChara PROFILE1991年9月、シングル「Heaven」でデビュー。1992年の2nd アルバム『SOUL KISS』では、日本レコード大賞ポップ、ロック部門のアルバム・ニューアーティスト賞を受賞。1996年には、女優として出演した岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』が公開され、「第20回日本アカデミー賞」主演女優優秀賞を受賞。劇中のバンドYEN TOWN BANDのボーカルとして参加した主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」、1997年のアルバム『Junior Sweet』と連続してオリコン1位のミリオンセラーを記録し大ヒットする。2019年、THE MILLENNIUM PARADEのシングル「Stay!!!」ではボーカルを担当。2018年12月、オリジナルアルバム『Baby Bump』をリリース。2020年2月にはYUKIとのユニット「Chara +YUKI(チャラユキ)」名義でミニアルバム『echo』をリリース。2021年9月にはデビュー30周年を迎えた。2022年11月、シングル「A・O・U」をリリース。InformationNew Release「A・O・U」(収録曲)01. A・O・U02. 面影03. A・O・U(Instrumental)04. 面影(Instrumental)2022年11月1日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)COCA-18047(CD)¥1,650(税込)(初回限定盤)COZA-1954-5(CD+Blu-ray Disc)¥4,950 (税込)【Blu-ray Disc収録予定曲】Chara’s Time Machine:30th Anniversary Liveせつないもの/初恋/FANTASY/才能の杖/Tiny Dancer/悲しみと美/タイムマシーン/ミルク/大切をきずくもの/hug/恋をした/しましまのバンビ/70%-夕暮れのうた/Swallowtail Butterfly ~あいのうた~/Time After Time/月と甘い涙/Duca/スカート/世界(JEWEL ver.)/Break These Chain/あたしなんで抱きしめたいんだろう? /やさしい気持ち/Happy Toy(7inchアナログ)※2022年12月3日発売COKA-92¥2,200(税込)(7inchアナログ収録曲)Side-A. A・O・USide-B. 面影取材、文・かわむらあみり
2022年11月01日1930年代ニューヨーク。壮絶な戦争を経験した親友3人組が、アムステルダムで愛と友情と自由をかみしめた後、アメリカ史上最も衝撃的な陰謀に巻き込まれていくデヴィッド・O・ラッセル監督最新作『アムステルダム』。親友3人組、帰還兵の医師バートを演じたクリスチャン・ベイル、同じく弁護士のハロルドを演じたジョン・デヴィッド・ワシントン、看護師でアーティストのヴァレリーを演じたマーゴット・ロビーに加え、ラッセル監督と数々の作品で組んできたロバート・デ・ニーロ、初参加のラミ・マレック、ゾーイ・サルダナ、アニャ・テイラー=ジョイほか、さらに世界的人気シンガーのテイラー・スウィフトまで競演し、話題を呼んでいる。今回は、『TENET テネット』でも注目を集めたジョン・デヴィッド・ワシントンからインタビューが到着。豪華キャストとの共演や、ラッセル監督とのタッグについて語ってくれた。デ・ニーロとの共演は「生涯の教訓」に「撮影はまるでお祭りのようでした。映画を作るには長い時間がかかります。そして、その始まりから終わり、今に至るまで、たくさんの人が関わります。撮影現場では毎日が刺激的で、長年尊敬してきた俳優たちのさまざまなプロセスを見ることができ、とても幸せでした」とジョン・デヴィッド。「愛、仲間、友情、それらがいかに大切か、どんな時代であれ、わかるはず。人間のつながりというのは、とてもパワフルなものなんです」と、本作のテーマを撮影現場でも実感した様子だ。とりわけ、デ・ニーロとの共演は大いに刺激となったらしい。「ミスター・デ・ニーロは本当に素晴らしい。シンプルだったんです」とジョン・デヴィッドは言う。撮影中のラッセル監督は、ある動きやあるセリフの言い方に対して、とても情熱的にこだわりを見せるが、その中でもデ・ニーロは「『わからないよ、デヴィッド。やってみよう。僕は立ち上がるかもしれないし、座るかもしれない。こういうふうにこのセリフを言うかもしれない。わからないよ』と言うんです。僕たちの目の前にいるこの並はずれた伝説の俳優は、すべてを知り尽くしているかのように振る舞ったり、そういうフリをしたりしないんです」。「『僕たちで一緒にそれを見つけよう』と言うんです。彼は、僕たちがチームメイトであるかのように感じさせてくれました。そして、そのプロセスに僕たちを入れてくれました。シンプルなことですが、僕がずっと持ち続ける生涯の教訓となったんです」。ジョン・デヴィッドはそう続け、「彼はこれまですべてのことを見てきたのに、それでもなおプロセスをごまかしたりしないんです。最も信憑性があるパフォーマンスを引き出すために、必要な手順を早めることもしません。それは素晴らしいことでした」と深く感銘を受けたことを打ち明けた。「クリスチャン・ベイルは最高のリーダー」「この撮影現場ではみんなが謙虚でした。それが現場の基盤だったんです。だから、安心して弱い部分を見せることができました。自分が失敗しても、共演者が助けてくれるとわかっていたから」とも語る。「その意味において、クリスチャン・ベイルは最高のリーダーでした。現場での2日目、彼は僕のいるところにやって来て、『ようこそ。1日目を乗り切ったね』と言ったんです。それはすばらしかった。彼は僕にそんなことを言わずに、真っ直ぐ自分の控室に行くこともできたんです。だけど、彼は僕に『君はもうデヴィッド(監督)の言語を喋っているよ』と言ってくれたんです。『ここで泥まみれになろうね』と」とふり返る。こうした関わり合いは「無意識のうちに演技に影響を与えます」とジョン・デヴィッド。「パートナーにどう耳を傾けるべきなのか、彼らの言うことをどう受け止めるべきなのか、監督から言われることをどう受け止めるのかを、教えてくれます。ここではみんながお互いを応援しているとわかっていたから、自分のキャラクターや、キャラクターのモチベーションについての質問への答えを探すのが、簡単で、楽しいことになるんです」。ジョン・デヴィッドが演じたハロルドは、第一次世界大戦に従軍し、負傷して帰還したアフリカ系アメリカ人の1兵士だ。「僕はまず当時のアフリカ系アメリカ人はどんな感じだのだろうと考え始めたんです。第二次世界大戦ほどには第一次世界大戦のことを知らなかったし、復員軍人であるというのはどういうことなのかを調べること、人種的分析は一旦脇において、1918年に母国のために戦うアメリカ人について調べること、そして他国からアメリカ人がどう見られていたのか、アメリカと他国との関係はどうだったのかというグローバルな感覚を学ぶことは、とてもエキサイティングでした」と、本作の背景から役作りを考えていったと明かす。監督は「キャラクターたちの温かさと真実味を伝えようとしている」そんなジョン・デヴィッドに対し、監督は「僕が演じようとしている役柄とか他の登場人物との関係性について、とても具体的に示してくれました」という。「彼はものすごく情熱的で、特にこういう物語の解釈に関しては、彼の世界が広く開かれていること、選択肢が無限にあるということを僕らに理解させてくれるんです。脚本に書かれていることだけがすべてではなく、もっと大切なのは登場人物たちがどういう人間なのかというところ。彼は断固として観客にこのキャラクターたちの温かさと真実味を伝えようとしているんです」と力を込める。「彼の作品に出演する全ての俳優が彼のことを暗黙のうちに信頼しています。そして、監督はそんな俳優たちのことを家族のように思っている。彼は撮影現場にいることが大好きですし、俳優たちのことが大好きなんです。彼が作り出すキャラクターも彼が紡ぎ出すセリフも、彼は大好き。だけど、その中からどれかひとつを選ばなければならないとしたら、きっと彼は俳優たちを選ぶでしょうね。彼の言葉や物語を解釈する演者たちを選ぶに違いないですよ」と話し、ラッセル監督が描き出す世界を体現する俳優たちへの愛に言及する。さらに今回、『レヴェナント:蘇えりし者』などでアカデミー賞に3度輝く撮影監督エマニュエル・ルベツキとのタッグも実現した。「チヴォ(ルベツキの愛称)はいつも動き回っていて、常にその場にいると同時に、なぜか消えているんです。本当にすごい。彼の作業の進め方はすごくて、たとえすごく俳優に近寄った撮影でさえも、彼の気配は消えていなくなり、まったくこちらの邪魔にならないようにしているんです…。まるで本当にその場から姿を消したかのように。だけどいつだってそこにいるんです」と、映像の魔術師の“秘術”についても称えている。『アムステルダム』は全国にて公開中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:アムステルダム 2022年10月28日より全国にて公開©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2022年10月31日あの関口メンディーが教師にしてプロレスラーの主人公を演じ、しかも「覆面D」というダジャレのようなタイトル。先日、ABEMAで放送が始まったオリジナルドラマ「覆面D」について「これはコメディドラマでしょ?」と思った(というか、いまも思っている)人も多いのではないだろうか?関口メンディー本人でさえ、最初に企画を聞いた時は「コメディかと思った」とのこと。だが、鈴木おさむの手による脚本を読んでビックリ! ヤングケアラーや現代の貧困、イジメや10代の妊娠といった問題に真正面から切り込んだ、見事な社会派ドラマに仕上がっているのだ。「GENERATIONS」および「EXILE」の一員として活動し、最近はバラエティ番組などでも活躍する姿を見せているメンディーさん。ドラマ初主演となる本作にどのように挑み、ここで描かれる様々な社会問題に対してどのような思いを抱いたのか?――高校教師であると同時に、プロレスラーという裏の顔を持つ大地大輔が、赴任先の教育困難校と言われる高校で、様々な問題を抱える生徒たちに向き合う姿を描いた本作ですが、最初に企画について聞いた時の印象は?最初はコメディかなと思ってました(笑)。僕というキャラクターとプロレスを掛け合わせた作品ということで、勝手にそう思っていたんですけど、脚本が上がってきて、読んでみたら全く違う角度でいまの世の中の問題を切り取った社会派の作品に仕上がっていて驚きました。自宅で脚本を読みながら泣いてしまったのは初めてのことで、「これは絶対に自分がやりたい」と思いましたし、魂を削って良い作品を作り上げたいなと思いました。――メンディーさん自身、以前は教師を志していたそうですね?教師になろうと思ったのは、母が「あなた、教師向いているんじゃない?」と軽く言ったからなんです。それで自分も「教師もいいかも…」と軽い気持ちで体育大学への進学を決めたんです。なので、何か強烈な出来事がきっかけとしてあったわけでもないんです。ただ、僕自身も小学校の頃に担任の先生の言葉に救われた経験があって、周りの人や生徒たちに寄り添える先生になりたいなと思っていました。――先生の言葉に救われた経験というのは?僕はハーフで、見た目が周りと違うということもあって、小学校1~2年生の頃、高学年の子たちからイジられたり、容姿のことを遠目からからかわれたりすることがあって、それがすごく悔しかったんですよね。それで落ち込んでいる時に、その先生が「あなたには黒人の血が入っているけど、それは特別なことなのよ」と言ってくれたんです。その先生はマイケル・ジャクソンの大ファンで、そこで僕にマイケルのカッコよさを熱く語ってくれて「あなたは、世界のポップスターと同じ黒人の血が流れてるんだよ」と。その言葉で「僕はこのままでいいんだ」と認められた気がして、胸がすーっと軽くなって学校生活が楽しくなったんです。――ドラマでは第1話からハードなイジメの様子が描かれたり、10代にして、自分の時間を犠牲にして近親者の介護に従事しなくてはならないヤングケアラーの姿が描かれました。本作で描かれるこうした社会問題をどのように受け止めましたか?大きな社会問題のひとつであり、実際につらい思いを抱えている子たちがたくさんいると思うし、そういう子たちって自分から「つらい」とか「苦しい」と言い出せなかったり、助けを求めたくてもどうにもできない苦しさを抱えている側面もあると思うんです。このドラマを通じて、周囲に助けを求めてもいいし、周りが協力できることもたくさんあるんだということを広く理解してもらえたら嬉しいなと思いました。その意味でも、いま届ける意味のある作品だなと感じています。――ドラマの中で特に印象的なエピソードや心に残ったことはありますか?この作品って、大地大輔が何かを解決するわけじゃないんですよね。最終的には生徒たちが自分たちで問題に向き合っていくので、大地大輔がしていることってシンプルに「寄り添う」ってことだけなんです。ヤングケアラーの問題もそうですが、解決できなくても、誰かが寄り添ってあげるだけで救われる部分があるというのをこの作品を通してすごく感じました。もちろん、具体的な解決策で世の中が良くなっていくことはすごく大事なことですが、まず苦しんでいる人に寄り添ってあげるだけで変わるものってあるんですよね。「自分には何もできないから」なんて考える必要はなくて、自分にもできること、救えることがあるんだというのが、わかりました。――いまのお話にもありましたが、大輔は問題そのものを自分で解決するわけでもないですし、ひと昔前の「俺についてこい!」というタイプの教師でもないですよね? 彼自身、前任校での事件による心の傷も抱えていて、生徒との距離感という部分でも繊細さを持っています。演じる上でこの役柄をどのように捉えましたか?そういう意味で、僕自身と近いなと感じる部分が多かったんですよね。それこそ、少し前の学園ドラマだと「俺についてこい!」というタイプの先生像が多かったかもしれません。世の中の流れもあると思いますが、いま世間で“リーダー”と呼ばれる人たちって「俺についてこい」タイプの人たちは少なくなっていて、どちらかと言うと、頼るべきところは周りに頼るし、「仲間に助けを求めることができる“完璧ではない”リーダーが増えてるんじゃないかなと。僕自身、もしリーダーという立場に置かれても「ついてこい!」とは言えなくて(笑)、どちらかと言うと「この部分、僕はできないから助けてね」とか「ここは頑張るから、その代わりこっちは頼むわ」とお願いするタイプだなと思うんです。いまの世の中の流れを反映した先生像なのかなと思いましたね。――メンディーさん自身は、このドラマの生徒たちと同じ17歳の頃はどんな若者でしたか?ずっと野球をやっていて、高校球児として「甲子園に出たい」という思いはありつつ、「でも自分は甲子園には出れないんじゃないか…?」と気づき始めてもいて、でもやっぱり野球が好きで、うまくなりたいし、試合に勝ちたいという思いで野球に打ち込んでいました。――青春時代をふり返って「こうしておけば」と後悔していることはありますか?後悔とはちょっと違ってくるかもしれませんが、僕らが最上級生になったタイミングで、後輩たちが不祥事を起こして、大会に出られなくなったことがあったんです。その時に思ったのが、こうなってしまった原因や責任は後輩たちだけにあるんだろうか? ということ。もちろん、彼らも悪いんですが、そうなる前に、先輩である僕らができることはあったんじゃないか? と思ったんですね。この事件をきっかけに「何かを他人のせいにするのはやめよう」と強く思いましたし、そこから何かが起きた時「自分に何かできたんじゃないか?」と考える思考法が身につきました。後悔もありつつ、それはいまでも自分が生きていく上で、すごく大切にしている価値観になっていますね。――年齢を重ねて、仕事などで若い世代と接することも増えてきたかと思います。いわゆる“イマドキの若者”に対して、どのような印象を抱いていますか?僕が接している人たちに限りますけど、みんなコミュニケーション能力が高い印象ですね。SNSがこれだけ発達していることも大きいんでしょうけど、「見られている」という意識がすごく高い気がしますね。自分を発信することに慣れていて、そういう部分を僕は後天的に学習したけど、いまの子たちは早い段階でSNSやスマホに触れていたので、自然とできてすごいなと思いますね。――若い世代に接する中で、何かアドバイスしたり、彼らの能力を引っ張り上げてあげようと思うことはありますか?正直、若い子たちにアドバイスすることが果たして良いことなのか? と疑問に感じるところがありまして…。求められればアドバイスはしますけど、そもそも、若い人たちが新しいものを次々と作っていくものだと思っているので、極端な言い方ですけど「若い人たちの考えは正義だ」と思っているんです。「最近の若いやつは…」みたいなことを感じる人もいるかもしれませんが、逆に若者の価値観に僕らが合わせていかないと、世の中がアップデートされていかないなと思います。なので、求められれば相談に乗りますが、基本的には「思うように好き勝手やればいいじゃん!」という思いが強いですね。その周りに頑張っている大人もいるというのを自分が体現できればいいのかなと。――逆に若い人たちの才能に触発されたり、「そんな考え方をしているのか!」と驚かされることは?それはメッチャありますね! みんな才能がすごくて。そこは本当に「どんどんやりなよ!」と応援したくなります。ダンスもそうだし、俳優さん、音楽、ゲームでも新しい価値観を持った若い子たちが次々と新しいものを生み出しているなというのを感じるので、そこに刺激を受けつつ、マネするところはマネしたいです。――メンディーさん自身は今年31歳ですが、いまのご自身の立場や立ち位置について、どのように感じていますか? 30代はどうありたいか? というイメージはお持ちですか?30代は自分の中では、ステップアップの時期なのかなと思っていて、ここまでアーティストとして10年ほど活動してきて、少しずつ余裕も生まれてきているので、それを“新しいメンディー”のために投資する時間にできたらと思っています。いろいろチャレンジしたいし、ここからが本番だと思っています。いまの自分の立場や多少なりともある影響力を駆使して、どれだけ世の中に価値を提供できるか?というチャレンジをしたいし、その輪を広げていけたらと思っています。――そういう意味では、20代で良い積み重ねをすることができたという手応えも感じていらっしゃいますか?手応えはよくわからないですが、ありがたいことに多くの方に自分の存在を知っていただけて、ライブでもアリーナツアーができるようになったり、経験の量という意味では、なかなかできないことをさせてもらえたと思うし、良い20代を過ごせ……いや、うーん…、でも世界は広いんでね…(笑)。まだまだかなぁ? こうやって「まだまだだなぁ」と思いながらやっていくというのはこの先も変わらないのかな? 上には上がいますからね。「もっとできたんじゃないか?」と常に思うし「もっと高く羽ばたける!」といまも信じています。メンディー、まだ序の口です。ここからのメンディーのほうが面白くなります!(photo / text:Naoki Kurozu)
2022年10月28日【音楽通信】第125回目に登場するのは、数々のドラマやアニメの主題歌を担当し、あらゆるパフォーマンススタイルで日本だけでなく海外でもライブ活動を行っている伊江島出身のシンガーソングライター、Anly(アンリィ)さん!ロックが好きな父の隣で歌やギターに親しむ【音楽通信】vol.125沖縄本島からフェリーで約30分、北西に浮かぶ人口約4,000人という、風光明媚な伊江島出身のシンガーソングライター、Anlyさん。英語と日本語で綴られる歌詞や、さまざまなジャンルの音を楽曲の随所に感じさせるミックスサウンドが特徴。ループペダルを駆使したライブ、バンド編成ライブ、アコースティックギターでの弾き語りなど、イベントや会場にあわせてパフォーマンススタイルを変え、日本国内だけでなく、香港、台湾、ドイツなど海外でもライブを行っています。2017年リリースのテレビ東京系アニメ『NARUTO-ナルト- 疾風伝』の主題歌「カラノココロ」は現在、ストリーミングで4,000万再生を超える異例のヒットを記録。以降も数々のタイアップ作品があるなかで、人気アニメの主題歌もリリースされ、アニメファンからも高い支持を得ています。そんなAnlyさんが、2022年10月12日にニューアルバム『QUARTER(クォーター)』をリリースされたということで、お話をうかがいました。――幼少時に音楽にふれたきっかけから教えてください。わたしは沖縄県の離島の伊江島出身で、小さい頃から、父が夕暮れになると家の縁側に座って、夕ご飯になるまでギターを弾く時間がありました。その時間に父の隣に座って、歌を歌ったり、ギターを弾いたり。音楽の一番古い記憶はそこですね。その4、5歳ぐらいのときから、ギターをおもちゃがわりに遊んで弾いていました。――お父さまは音楽がお好きだったんですね?そうですね、父は60年代や70年代のロックが好きで、母は民謡が好きで。いろいろな音楽が家で流れている環境でした。父はプロではありませんが、趣味でときどき友人たちとバンドをやって、ライブ活動もしていましたね。――ギターもお父さまから教わったのでしょうか。ギターに関しては、いくつかコードを教わったあとに、父と一緒に弾くよりは自分で好きな曲をひたすら聴いて「コードは何を弾いているのかな?」と耳コピしていました。――では、音楽の道を志したのはいつ頃になりますか。小さい頃から歌うことは好きでしたね。職業として歌手やシンガーソングライターを意識し始めたのは、中学校2年生のときです。歌手になるにはどうしたらいいのかと、それであれば自分で曲も作れたほうがいいということで、まず歌詞を書き溜めて。ノートの端々に思いついたことを書いて、そのノートがいっぱいになるまでやっていました。伊江島にいるときは、カバー曲を歌って、知り合いのライブに参加することも。自分のオリジナル曲を歌い出したのは、高校2年生のときです。最初に書いた曲は「虹」という曲で、「EMERGENCY」(2016年発売)というシングルのカップリングに入っています。この曲が、中学時代からノートに書き溜めていた歌詞をあわせて完成させた曲ですね。――2015年にメジャーデビューされてからは、日本以外にも香港、台湾、ドイツなど海外でもライブを行っていますね。ずっと海外でライブをしてみたいと思っていました。最近は、ループペダルというエフェクトを使いながら演奏するスタイルが多いので、その場で音楽を作っていく工程が海外の方も楽しんでくれている様子が、とくに台湾に行ったときに感じられて。2018年には、アジア各国を代表して選出された新人アーティストが競って、パフォーマンスをする大会「香港アジア・ポップミュージックフェスティバル」に出演し、優勝させていただきました。よりいっそう、また海外にもライブへ行きたいと思いましたね。――海外のライブは日本とは違う感じもありますか。盛り上がり方が、日本より一段階高めといいますか。歌を聴いても言葉はわからないことも多いと思うんです。でも、グルーヴやリズム感、メロディで楽しんでくださっているというシンプルなところを体感できますね。――そういった海外活動を経て、デビューから変わった点、変わらなかった点はありますか。変わった点で言うと、沖縄から上京してきて、東京を拠点に活動しているので、制作している楽曲が作り方も生まれ方も変わってきましたね。東京に来てからはスピード感のある楽曲も作れるようになりましたし、言葉がたくさん詰まったような、メロラップのような楽曲も増えました。変わらない点は、最近、伊江島のなまりが戻ってきました(笑)。ちょこちょこ自分のなかで、伊江島のなまりは好きなところで、「伊江島の人ということは変わってないな」って。コロナ禍で、前よりも両親と電話をすることが多くなったからだと思いますが、それは自分自身でもうれしかったです。あたためていた曲も収録した4thアルバム――2022年10月12日に、4枚目のアルバム『QUARTER』をリリースされました。いつ頃からか制作していたのですか。今年、4月から7月にかけて47都道府県をまわるツアーをやっていたので、それが終わってから追い込みで仕上げていきました。でもけっこう、数年前からできていた曲もあって、あたためていた曲を仕上げていったという感じですね。――タイトルの意味はなんでしょうか。『QUARTER』というタイトルは、わたしが日本とアメリカのクォーターというところ、25歳というところ、100歳まで生きるとして4分の1を過ごしたというところという複数の意味があって。さらにアルファベットでクォーターの「Q」は、最近キーアイテムにしているふうせんの形に似ていて、そういったいろいろな理由から、このタイトルをつけました。――ハードな印象の曲からゆったりと聴かせる曲まで、多彩な楽曲が収録されていますが、5曲目「Angel voice」はAnlyさんのシルキーボイスが堪能できるバラードですね。わたしの楽曲をよくアレンジしてくれているアリーザというアレンジャーさんが、ロサンゼルスにいて。コロナ禍が始まるよりだいぶ前に、L.A.に行ったときに、わたしが元ネタを持っていってアレンジしてもらうのではなく、一緒にアリーザと「曲を作ろう」となってできた楽曲です。その後、NHK『見たことのない文化財』(BS8K)のテーマ曲を書き下ろすことになって、歌詞を書き上げました。――9曲目「VOLTAGE」は、テレビ東京系アニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』(テレビ東京系 毎週日曜 午後5:30)の1月クールのエンディングテーマでしたし、10曲目「カラノココロ – Matt Cab & MATZ Remix」は、2017年発売の『NARUTO-ナルト-疾風伝』オープニングテーマのリミックスと、NARUTOシリーズとご縁がありますね。今回収録している「カラノココロ」は、5年前にリリースした楽曲をリミックスしています。『NARUTO-ナルト-疾風伝』のオープニング曲として書き下ろした後、主人公ナルトの息子ボルトが主人公になった『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のために、「ボルトとVOLTAGEって言葉が似てる」ところから始まって、ボルトたちのキャラクターたちに向けての応援歌として、アニメの世界観にあわせて書き下ろしました。それまでは自分の生活にあるものを曲に組み込みたい、という気持ちが強かったのですが、「VOLTAGE」は真正面からアニメのためだけに書き下ろして、作っていくうちに自分にもどんどん曲がなじんできました。自然に「わかるな、この気持ち」「この言葉、元気出るな」って。良い作り方だったんじゃないかなと思っています。――アニメといえば、アルバムのラストを飾る13曲目「星瞬〜Star Wink〜」は、歌もストリングスも優しく染みる楽曲で、2021年公開のアニメ映画『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』の主題歌でしたね。夏目友人帳の世界観に向けて書いたところもあるのですが、2021年にシングルとしてもリリースしていた曲で、でも「星瞬〜Star Wink〜」はもともとあった楽曲なんです。沖縄で楽曲制作をしているすきまに散歩に行ったら、飛行機雲が空にあって、そこから歌詞が降りてきて。「あ、歌詞できそう。歌ができそう」と思い、「空には君の足跡」というワードが頭に浮かんで、そのまま歌詞を書きました。――6曲目「Homesick」は切ない恋心を歌った曲ですし、7曲目「KAKKOII」はリアルな心情のような歌詞が面白く、それぞれ曲調も異なり聴き手を楽しませてくれる印象です。いつも曲作りはどのようにしているのですか。先ほどお話ししたように降りてくるときもあれば、自分でトラックメイキングをして、「これすごく良いな、メロディつけておこう」とつけて置いておくこともあります。でも結果的には、自然に作ったものから曲を組み立てていくことが多いですね。――2022年10月から12月まで全国をまわるアルバムツアー「Anly “Loop Around the World”〜Track4/QUARTER TOUR〜」を開催されます。どのようなステージになりそうでしょうか。今回、ループペダルを使って、全国をまわっていくスタイルになります。ステージ上でギターを叩いた音とか、コーラスを録音してリピート再生させながら、それにあわせて曲を演奏する“ループペダルセット”として披露しています。だから、アルバムに収録している音源とは、またちょっと違ったアレンジでお届けすることになるかなあと。初めてライブに来る方は、「あの曲がこんなふうになるんだ」と、最初はもしかしたらびっくりするかもしれないですが(笑)。逆にそれは楽しみにもなってくると思うので、わたしもそういう気持ちでループペダルセットをやって“純度100パーセントAnly”というライブになっています。一緒に音楽を作っていく空間を楽しんでもらえたらうれしいですね。目標は故郷の伊江島で音楽フェスを開催すること――普段、日課になっていることやハマっているものがあれば教えてください。最近は、チョコレートプラネットさんとか、レインボーさんとか、お笑い芸人さんのYouTubeをよく観ます。発想豊かな人たちのものを観るのが好きで、日常で見過ごしているこういう人いるねとか、普通の言葉をゲームにできるんだという発明ぽいものを観ることができるので、よく観ていますね。――お気に入りのコスメやメイクがあれば教えてください。わたしの肌に合うんだろうなと、気づいたら『ケイト』のコスメばかり使っています。血色が良く見えるので、アイシャドウやチークは、オレンジ系にすることが多いですね。スキンケアは『イソップ(Aesop)』のスクラブ洗顔やクレンジングがお気に入りです。――食事やダイエットなど、美容面で気をつけていることはありますか。実は数年前まで、自分の体型を気にしすぎて、あまりご飯が食べられなくなったことがありました。その後、拒食からの過食になって。ご飯を食べること自体の意識をちょっと変えたんです。太るから食べないんじゃなくて、逆にいっぱい食べてみて感じたんですが、人間はそんなにすぐには太らないと知りました。それはわたしのなかで画期的な発見。ご飯を食べる量が、そこからは普通になったんですよ。おいしくご飯を食べたら、生活するうえでポジティブにもなるし、食べたいものを食べたいぶん食べることを肯定すると、いきすぎた量にならないんです。だから、いま体型を気にしすぎている女の子がいたら、心が苦しい気持ちがすごくよくわかるから、一緒にご飯を食べてあげたいって思います。好きなものを食べてほしいですし、体質にもよるかもしれませんが、「そんなすぐ太らないから大丈夫だよ」と女の子たちに言いたいですね。――では最後に、今後の抱負をお聞かせください。いままで通り、ジャンルにとらわれずに、自分の中で生まれた音楽をしっかりみなさんに届けられたらいいなと思っています。あとは、故郷の伊江島で、音楽フェスができたらいいなという目標があるので、これからも頑張ります。取材後記ドラマウォッチャーとして釘付けになって観ていたドラマの主題歌が、力強いボーカルとサウンドが印象的なAnlyさんのデビュー曲「太陽に笑え」でした。ananwebの取材では、音楽との出会いから今後の目標まで、いろいろなお気持ちを聞かせてくださいました。そんなAnlyさんの4枚目のアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりAnly PROFILE1997年1月、沖縄県伊江島生まれ。2015年11月、シングル「太陽に笑え」でメジャーデビュー。以降、コンスタントに作品を発表し、国内だけではなく海外でもライブ活動を行う。2022年、初の47都道府県ツアー「Anly“いめんしょり”-Imensholy Tour 47- 」を完遂。10月12日、ニューアルバム『QUARTER』をリリース。10月から12月まで全国をまわるアルバムツアー「Anly“Loop Around the World”〜Track4/QUARTER TOUR〜」を開催。InformationNew Release『QUARTER』(収録曲)01.Alive02.Welcome to my island03.Do Do Do04.IDENTITY05.Angel voice06.Homesick07.KAKKOII08.CRAZY WORLD09.VOLTAGE10.カラノココロ – Matt Cab & MATZ Remix11.KOMOREBI12.Saturday Kiss13.星瞬〜Star Wink〜2022年10月12日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)SRCL-12265(CD)¥3,300(税込)(初回生産限定盤)SRCL-12263~4(CD+DVD)¥6,500(税込)【DVD収録内容】Anly “いめんしょり”〜Imensholy〜Tour 47 SECRET FINAL LIVE at 伊江島 (2022/7/10)Anly “いめんしょり”〜Imensholy〜Tour 47 -Behind the scenes-“Loop Around the World ~Track3~”東京公演 @渋谷 duo MUSIC EXCHANGE(2021/11/28)取材、文・かわむらあみり
2022年10月19日ベビーカレンダーは、新型コロナウイルス感染拡大の影響により各地で立ち会い出産や面会が制限されているなか、これから出産を迎える方の心の準備としてご覧いただくための出産ドキュメンタリー動画を10月14日(金)に公開しました。 孤独な痛みに耐える産婦さんを全力サポート!初産・通常分娩の出産シーンに密着10月14日(金)、ベビーカレンダーは公式YouTubeチャンネルにて、33歳ママの通常分娩での出産に密着したドキュメンタリー動画を公開しました。新型コロナウイルス感染の影響から、立ち会いでの出産が制限され、現在でもひとりで分娩に臨む産婦さんが多くいます。今回は、厳しい感染対策を実施するレディースクリニックで、小さな命が生まれた瞬間を動画におさめました。コロナ禍のひとりきりで臨むリアルな出産シーンを共有することで、これから出産を控える方々の励みとなり、そして不安が少しでも解消するきっかけになれば幸いです。 今回、茨城県「なないろレディースクリニック」協力のもと、新型コロナウイルス感染症対策を講じたうえで、1人のママの出産に密着させていただきました。コロナ禍での妊娠、ひとりきりで臨む出産への不安、恐怖心など、さまざまな思いを抱えながらの出産当日。ママとパパ、離れていても気持ちは一緒。2人の夫婦のもとにやってきた奇跡のような命の誕生の瞬間を、ぜひ動画でご覧ください。 ▲出産当日、陣痛が始まり、ひとり痛みに耐えます。あまりの痛みに度々「痛い!」という声が漏れます ▲助産師さんに腰をさすってもらい、呼吸を整えながら子宮口が全開大になるのを待ちます 今回密着したのは、コロナ禍で立ち会いなしの出産に挑んだご夫婦。出産当日は立ち会えないものの、入院準備をしてくれたり、お使いに走ってくれたりと、パパが全力でサポートしてくれたと言います。「初産で妊娠中はつわりもひどく、体重が7キロも落ちてしまいました。出産は想像以上にしんどくて大変でしたが、自分のおなかにいた子が出てきた瞬間は、やっぱり感動しましたね」。「テレビ電話越しだったけれど、泣き声が聞けてほっとしました。お疲れさま」とママを労うパパ。そこには、離れていても心はつながったまま、強い絆で結ばれたご夫婦の姿がありました。 ▲本格的ないきみがスタート。助産師さんたちが声をかけながらお産が進んでいきます ▲ようやく会えた愛娘。立ち会えなかったパパにテレビ電話報告。「頑張ったね」とパパの笑顔が迎えてくれます <茨城県 なないろレディースクリニック 黒田院長>夕方に陣痛が始まってLDRに入室し、日が変わったころからスムーズにお産が進行しました。初産の方ですが、経過は順調で、お一人でよく頑張ったと思います。当院にかかっている産婦さんで30人ほどコロナウイルスに感染された方がいましたが、そのうち2人は分娩直前だったので他施設での帝王切開になりました。その他の産婦さんたちは無事に回復し、全員元気に当院で出産されています。コロナ禍で不安に思われている妊婦さんはいっぱいおられると思いますけれど、「赤ちゃんに会うために頑張るんだ」という気持ちで出産をポジティブに捉えてほしいですね。スタッフがそばに寄り添って旦那さんの分までサポートしますので、一緒に乗り切っていただければと思います。 <ベビーカレンダー編集長 二階堂美和>新型コロナウイルスの感染症対策のため両親学級や立ち会い出産などが依然として制限されている病院も多く、妊婦さんにとっては物理的・精神的な負担が大きくなっています。私たち編集部も出産を控えているママたちから不安の声をよく耳にしています。実際にパパや家族と離れてひとりきりで産むというのはどのような心算が必要なのでしょうか?これから出産を控えているママやパパたちのために、コロナ禍での出産のリアルをお届けしたい! そんな想いから、今回、ひとりで出産に臨む妊婦さんの陣痛から出産までの一部始終に密着させていただきました。出産はやはり大変なものではありましたが、妊婦さんが心細くならないようにと、心を配って寄り添い励ます助産師さん、赤ちゃんに少しでも早く会うためにひとりでも気丈に頑張る妊婦さん、テレビ電話越しに喜びを分かち合いママを労うパパ……。私が今回の出産で得られたものは、「どんな状況でも人は強い!」「私たちはコロナなんかに負けない!」という希望でした。立ち会いができないことは、寂しい、つらいことなんかじゃない!この感動を、そして小さな命の誕生の素晴らしさをぜひ皆さんも感じてもらえたら幸いです 「コロナ禍での妊娠は不安……」「立ち会いなしの出産が怖い……」など、初めての妊娠・出産への不安や恐怖心を抱えている方も多いでしょう。そんな方たちが、この動画を見て「赤ちゃんに会うために頑張ろう」と思っていただけるきっかけになりますように。これからもベビーカレンダーでは、赤ちゃんがいることの幸せを感じてもらえるような、さまざまな情報を発信していきます
2022年10月19日驚異的な速度で成長していくさまを示した「筍(たけのこ)の親まさり」ということわざがあるが、清原果耶はまさにそれを地で行く存在だ。『3月のライオン』「透明なゆりかご」『宇宙でいちばんあかるい屋根』「おかえりモネ」と、ここ数年で急成長。『ジョゼと虎と魚たち』ではボイスキャストとしても実力を見せつけ、『護られなかった者たちへ』では数々の賞を受賞。演技派俳優として、確かな地位を築いた。その清原さんが『ちはやふる 結び』の小泉徳宏監督、『愛唄 約束のナクヒト』の横浜流星と再びコラボレーション。水墨画の世界を描いた『線は、僕を描く』(10月21日公開)だ。彼女が扮した篠田千瑛は、水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)の孫であり将来を嘱望された存在でありながら、自身の描く線にためらいが生じる複雑なキャラクター。もがきながらオリジナリティを探す表現者を演じ切った清原さんに、ものづくりの信念を語ってもらった。――劇中で千瑛は「いままで通りに描けない」という壁にぶつかります。長く続ける表現者の多くが経験する苦悩ともいえますが、清原さんご自身はこれまでの道のりでそんな状態に陥ったことはありますか?スランプという言葉にすると大層なものになってしまうのですが、どの作品の現場に入っても毎回悩むことはありますし、毎回「その壁をどう乗り越えるか」の闘いではあります。そういうときは監督に聞きに行ったり、監督がどう思っているかの意識をなんとか汲めないか試行錯誤します。――「自分から聞きに行く」という行動理念は、清原さんの芝居に対するアプローチの根幹かと思いますが、スタイルに組み込むきっかけはあったのでしょうか。きっと単純に「わからないことをわからないままにしておくのが怖い」という想いからですね。「聞いたら何かしら答えに近づけるかもしれない、作品がもっと良くなるかもしれない」と思ったら、聞きに行かない理由はない。特別な理由はなく、「聞いてみて、考える」という選択肢でしかない気がします。――「聞く」怖さを、向上心が勝るというか。私自身は、聞きに行くことに躊躇してしまって、行動に起こせない方が悲しいと思うタイプです。そういった話し合いをできる人たちと一緒に作品を作っていきたいです。――流石です。今回は小泉監督・横浜さんと再タッグの方々が並んでいますね。『ちはやふる』のときは現場の雰囲気に合わせる感じだったので、今回も青春映画ではありますがちゃんと心の浮き沈みを表現したいなと思い、監督ともっとちゃんと話そうと心がけて現場に入りました。撮影中もかなり話しながら作っていきました。たとえば、千瑛と霜介(横浜流星)の関係性について。流星くんとも「千瑛と霜介は距離が近くなるけど、絶対恋仲にはならない」と話して、その信頼関係をどう見せていくかは都度「これくらいの距離感でいいですか」「ここは友達みたいな感じでいいですか」「いまのような雰囲気で大丈夫ですか」と確認していました。また、「千瑛がとっつきにくすぎると怖いかも」という話になり、強気すぎずちょっとガードを張っているくらいに調整していきました。あとは流星くんと並んだときに私が幼く見えないようにしたいなと思っていて、幼さはあまり入れ込まないようにしていました。声も少し低くして、でも低すぎると怖く見えるから微調整して…という感じでした。いまだからこそ明かす撮影エピソード――撮影に入る前、キャラクターのすり合わせで重要な対話の機会となるのが衣装合わせかと思います。印象的なエピソードはありましたか?終盤で着る着物の候補が2つあって、「どっちもとんでもないお値段なんだよ」と聞かされながら着て、とにかくひやひやしていました(笑)。こっちが「傷つけないように着なきゃ」と思っているそばで、みんな「墨を飛ばしちゃったらどうなるんだろうね」みたいなことを言ってて…(笑)。――清原さんでもひやひやされるのですね!それはもう(笑)。千瑛は水墨画を記号的に描きすぎてしまう役だったので、ちゃんと描けないといけない。ひやひやしながら練習していましたし、現場でも毎回ひやひやしていました。――教室で霜介や大学生たちに水墨画を教えるシーンなど、堂々とされていましたが…。あのシーンも余裕そうに見えたらいいなと思っていましたが、内心めちゃくちゃ緊張していて(笑)。みんなの前で説明しながら描かないといけないのが大変で、セリフが走ったり速くなってしまって小泉監督に「もうちょっとゆっくり、ゆとりのある感じで」と言われちゃいました。しっかりプロに見えないといけないので、緊張でプルプルしていたら全然説得力がない(笑)。頑張りましたが、余裕があるように見えていたならよかったです。根本にあるのは「演じることが楽しい」ということ――演技におけるオリジナリティについても伺いたいのですが、たとえば清原さんが幼少期から経験されてきたクラシックバレエは師匠やコーチから教わっていくなかで個性が発芽するものかなと。水墨画もそうかなと思いつつ、演技はまた違うベクトルのように感じます。お芝居も人によっては師匠がいる方もいらっしゃるかと思いますが、私に関してはおそらく今まで出会った監督やキャストの皆さんを見てきてこうなったという感じがあります。改めて、芝居におけるオリジナルってなんだろう?と考えるとわからなくなりますね(笑)。私の場合は様々な人の意見やスタイルが混ざったうえでの今なので、それは果たして真の意味でのオリジナルなのか?とは思います。――先ほどお話しいただいたように、演出やリクエストも入ってきますもんね。ただ、「清原さんが演じるから役が立ち上がる」と考えると、それはオリジナリティかなと。演じる際の、一個人としての感情――楽しさについてはいかがですか?やっぱり、「演じることが楽しい」というのは根本にあります。自分が演じる役に対して理解を深めきれるのは演じる人だけだと思いますし、役のことを考え続けたらその人が言いそうな言葉が自然に出てきたり、行動を起こしたりする。私自身の感覚が役にリンクして「お芝居って面白いな」と思うタイミングもありますし、そこまで完璧にリンクしなくても「この人のことを考えるだけですごく楽しい」という役もあります。私にとって役に向き合うことが、お芝居を面白い・楽しいと思う理由だと感じています。――最後に、インプットについてお聞かせください。清原さんは詩集をよく読まれている印象がありますが、そういったところからも感性を吸い上げているのでしょうか。そうですね。言葉をすごく信頼していた時期があって、詩集ってそれ以上でもそれ以下でもないんです。紙の上に言葉が載っているだけなのに、読む側はそこからイメージが広がって想いを馳せる。そういう瞬間がすごく好きなんです。音楽もよく聴きますが、メロディはもちろん歌詞も重視しているので、そういう意味では言葉への興味はずっとあるのかもしれません。最近だと宇多田ヒカルさんのアルバム「BADモード」をよく聴いています。(text:SYO/photo:You Ishii)■関連作品:線は、僕を描く 2022年10月21日より全国にて公開©砥上裕將/講談社©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
2022年10月19日ニューヨーク・タイムズ紙のコラム「Modern Love」に投稿されたエッセーに基づき、1話完結ドラマとしてスタートした「モダンラブ」。ニューヨークを舞台に、様々な愛にまつわる物語を展開してきた同作は、シーズン1、2を経て舞台を日本・東京に移した。全7話のエピソードからなる「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」は、東京という世界の中でも有数の大都市のリアルを映し出すような、華やかな街に住まう人々の裸の心をそっと覗ける物語だ。各話には、マッチングサイトでの出会い、シニアラブ、セックスレス、リモートで芽生えた恋など、バラエティ豊かなテーマを持ち、2022年・今の東京の空気を感じられる仕上がりとなっている。このアンソロジー・シリーズのはじまりであるエピソード1「息子の授乳、そしていくつかの不満」では、仕事と子育てを両立し完璧を追求する高田真莉と、彼女のパートナーである河野彩の日常、その変化が描かれる。演じた水川あさみ&前田敦子は、ドラマ初共演にして心地よい協和を生み出した。インタビューでは、作品への意気込みから「もうできない!」と思った演技の苦労まで、和気あいあいと語ってもらった。――最初に、「息子の授乳、そしていくつかの不満」の脚本を読んだ感想から教えていただけますか?水川:何か大きな事件が起きるとかいうようなお話ではないのですが、私が演じる真莉とあっちゃん演じるパートナーの彩という女性のことに関しても、とりわけ説明をすることもなく、当たり前にストーリーの中に組み込まれていたんです。そうしたナチュラルな展開の仕方も、すごく素敵だなと惹かれたポイントでした。あとは、言葉で説明するようなことも少なかったので、すごく余白のある脚本だなと思いました。説明が少ないからこそ、空気感や相手との温度が作品に反映されるんだろうなと感じました。前田:私も、家族愛がとても素敵だなと思いました。女性同士の恋愛も受け入れている(真莉の)母親がいて、みんなで協力し合って生活をしていて。その中で、ちょっとした感情のやりとりがあり、ぶつかり合ったりするんですよね。それってすごい愛だなとも思うんです。家族の愛は深いなと、脚本を読んでいてすごく感じました。――水川さんは真莉を、前田さんは彩を演じるにあたって、大事にしていたことなどは何でしょうか?水川:真莉は子育ても仕事もどちらも大切にしたい、とにかく自分の理想に近づけることに必死で…。だから、一番そばで支えてくれる彩や、お母さんという身近な愛に気づけていないというか、少し見失っている状態でした。仕事も家庭も一生懸命やっている誰しもに当てはまるような出来事かもしれない、と考えながら演じていましたね。前田:私の役は、どちらかと言うと俯瞰で家族を見守る立場だったので、言葉も少なくて。いる雰囲気や空気感みたいなものはちょっと意識したほうがいいな、と思いながら淡々とやっていました。役柄と普段の私は全然違うとは思っています。でも彩は誰に対しても平等な感じがありましたし、こうやっていられたらいいなという憧れを持ちながら演じていました。水川:彩、裏表がないよね。前田:そう。淡々と、飄々としている感じで。彩が家にいると安心しますよね。水川:そうだよね。――水川さんはお料理も上手で完璧なイメージもあるので、こだわりがあるという面で、ご自身と真莉に共通点があるようには思わなかったですか?水川:私は好きなものが多いというだけで、別にこだわりではないんですよね。料理も難しいことそんなにやらないですし(笑)。だから好きなことをやっているだけで、完璧にやらなくちゃいけないという考えではないから、真莉とはわりと真逆かなと思っていました。前田:向き合い方がちょっと違うかもしれないですよね。水川:そうね、ことがらの向き合い方が違うかもしれないかな。――好きでやっているから完璧主義とは違うということですね。水川:全然完璧じゃないですし、できなきゃできないでいいと思っているんです。自分ができる範囲の中で自分が楽しめて面白くできないと続かないから。監督に「芝居するな」と言われて――水川さん&前田さんの芝居の変化とは――演じていて、特に心に残った場面やセリフはありましたか?水川:お話の中で真莉が今まで我慢していた気持ちや自分がとらわれていたもの、感情がわーっとあふれ出してしまう場面があって。そういうことって何気ないきっかけであったりしますよね。ポンってコルクが抜けてあふれ出すみたいな、そういう感情になるときがあるなと思いました。一見ちょっとしたできごとなんだけど、真莉にとってはすごく大きな変化で。そういうのは、すごく愛にあふれた生活だからこそありえることなので、素敵な場面だなと感じました。前田:私も水川さんのお話したシーンが、すごく素敵だなと思いました。「あ、安心できる場所がある!」と思ったので、すごくいいなあと。あと、私は真莉たち親子のやりとりをそばで見させてもらっていたんですけれど、すごいリアルだなあと思いました。こういう母娘の感じ、あるよなーって。感情論のぶつけ合いは、自分にも思うところはありましたね(笑)。水川:そっか(笑)!前田:母親には甘えたい気持ちもあるからこそ「わかって!」となっちゃうんですよね。「わかって!」が出過ぎてすごい感情論になっちゃうので、真莉ちゃんの気持ちは痛いぐらいわかりました。――監督ならびに脚本を務めた平柳敦子さんは、ロスなど海外で活動されていますが、普段のお芝居や演出とやり方が違うなどと感じたところはありましたか?水川:全然違いました。私はもうとにかく「芝居するな、芝居するな」と言われていたので大変でした(笑)。監督は“そこに存在する"ということを言いたかったんだと思うんですけど、表現するとなると、どうしてもプラスの要素が働いてしまうんです。つけ加えてしまうというか。それをなくしてほしいという演出方法は、私にとっては新しくて。悩んだけれど、とてもいい経験でした。前田:私は、ただただ水川さんを「さすがだな」と見守っているだけでした。監督が本当に空気感から作るのを大事にしてくれている方だったんですよね。水川:うん、うん。前田:私たちの家の中がそういう感じで。…なんか撮影という感じじゃなかったですね。水川:本当にそうだよね。――監督のいう「芝居するな」を体現するため、水川さんはどう工夫していったんですか?非常に自然な演技だと思い観ていました。水川:うーん、そうですね…。現場の雰囲気に助けてもらうことももちろんありました。あと監督に言われたのは「もう顔を動かさないで」って。前田:あー!言われましたね。水川:「もう能面だと思って芝居しろ」と言われたんです。最初は何のこっちゃわからなかったんですけど、私は自分が思っているよりも表情が豊かだから、ひとつひとつのセリフに気持ちを込めすぎている、ということを言われたんです。そんなことを言われたのが初めてだったから、それを0にする作業はすごく大変でしたね。くたくたになって家に帰ってくるという玄関先でのシーンは、何回も何回も撮り直したんです。「もうできない!」と言うと、「がんばれ!!」と助監督や監督に励まされて(笑)。前田:確かに、監督はあきらめないですもんね!「よし、もう1回」「もう1回」って。「何がなんだろうー?」みたいな。水川:わかんないよー!と思いながらやっていました(笑)。“凛とした人代表”の水川さん&“肝の据わった人”の前田さん――おふたりは過去にCMで共演されていますが、ドラマでは初共演となります。印象の変化はありましたか?水川:私はとても印象が変わりました。共演してみて、本当に肝の据わった人だなと思って、彼女の格好良さというものを知りました。その感じは、あっちゃんの役にもすごく反映されているんです。彩のどーんと構えてくれる感じは、あっちゃんの内から出てくるものもすごくあったと思ったから。すごく安心できて、ご一緒できてよかったなと本当に思っています。…横にいるから、こういう話はなんか照れくさいよね(笑)。前田:はい、褒めていただいてすみませんって思います(笑)。――CMで共演していたとき、前田さんは今回のような印象ではなかったんですか?水川:CMでは現場で少しご一緒したぐらいだったんです。だから印象というよりも、どういう人なのかをあまりわかっていなくて。あのときはかわいい印象が強かったけど、すごく覚悟の決まっているというか、肝の据わった人という印象になりました。何でも自分でやるし、ひとりでどこにでも行くし。そういう姿をそばで見ていて、めちゃくちゃ格好いいなと思いました。前田:嬉しいです、やったー!…いや、でも女性からしてみると、水川さんは本当に凛としている方代表だなと、私はずっと思っているんです。みんなに分け隔てないですし、現場でも本当にずっとそういう風にいてくれたので。そんな水川さんにそうやって言ってもらえて、すごい嬉しいです。Amazon Original「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」は10月21日(金)よりPrime Videoにて独占配信開始。【水川あさみ】ヘアメイク:星野加奈子/スタイリスト:番場直美【前田敦子】ヘアメイク:高橋里帆(HappyStar)/スタイリスト:有本祐輔(7回の裏)(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)
2022年10月17日2020年3月6日、シム・ウンギョンは第43回日本アカデミー賞にて、『新聞記者』での演技で最優秀主演女優賞を受賞。ステージ上で、トロフィーを握りしめながら涙ながらに受賞の喜びを口にした。そして、その年の10月に放送が始まったのが、彼女にとっては初の日本の連続ドラマ出演となる「七人の秘書」。約半年前に美しい涙でお茶の間を感動に包んだ彼女が、同作では6人の仲間たちと共に、巨悪をぶった斬り、その痛快な姿に多くの視聴者が快哉を叫んだ。そんな同作が満を持して映画化。『七人の秘書 THE MOVIE』として10月7日(金)に公開を迎えた。シム・ウンギョンさん演じる“頭脳明晰なハッカー秘書”パク・サランは、アクションも見せるなど、映画でも大活躍! 公開を前にシム・ウンギョンさんに話を聞いた。初の日本の連続ドラマ出演を経て――ドラマ版の「七人の秘書」はシム・ウンギョンさんにとっては初の日本の連続ドラマ出演となりましたが、同作への参加はご自身にとってどのような経験になりましたか?このドラマを通じて、日本の多くのみなさんに私のことを知っていただくことができましたし、とても貴重な経験でした。木村文乃さんをはじめ、いろんな方たちと共演をさせていただいて、様々な経験を重ねることができましたし、自分にとっては“宝物”のような存在です。――ドラマが放送されて、反響はありましたか?私が演じたサランもそうですが、何よりも作品そのものがものすごくみなさんに愛されているのを感じました。こういう言い方は失礼かもしれませんが(苦笑)、私が予想していた以上に、みなさんに愛していただけたんだなと。だからこそ今回、こうして映画化も実現できたんだと思います。映画のチラシにも「悪いヤツら、ぶっ潰させて頂きます。」というコピーがありますけど、悪を懲らしめるという部分、そして一人でじゃなくて、みんなで力を合わせてというのが、みなさんの心を掴んだんだろうなと思います。――ドラマの放送から2年を経て、映画が公開となりますが、最初に映画化の話を聞いた時の気持ちは?先日から、みんなで取材を受けることがあったんですけど、私以外のみんなは「また次、あるでしょ」と予想してたみたいで、私だけが「やるのかなぁ…? もしやるなら、またみなさんとお会いできるなぁ」くらいの気持ちで待っていたんですよね(笑)。なので、またやるということ、しかも映画を作ると聞いた時は、すごく嬉しかったです!アクションが見どころ「すごくカッコいいです!」――映画の撮影はいかがでしたか?2年ぶりにみなさんとお会いして、最初は「お久しぶりです!」「元気ですか?」みたいな感じだったんですけど、それも一瞬で、すぐに「いや、私たちって昨日もずっと一緒の現場だったっけ?」と思うくらい、ドラマの時と同じ空気感でした。ずっと楽しくおしゃべりしてて、そのまま終わった感が強いです(笑)。「え? もう今日でクランクアップ?」と思うくらい、いつの間にか映画を撮り終えていました。今回はアクションも見どころなんですけど、みなさん、すごくお上手なんですよ。私が演じたサランもアクションに挑んでいますが、キャラクターの設定としてサランは怖がりなので、そこまでカッコいい感じのアクションではなく、ちょっとコミカルなんです。でも他のみなさんはすごくカッコいいです!――改めて、シム・ウンギョンさんから秘書軍団のメンバーを演じたみなさん(木村文乃、広瀬アリス、菜々緒、大島優子、室井滋、江口洋介)の印象についてひと言ずついただけますか。木村さんは、お会いする前は(木村さんが演じた)千代と似てるんじゃないかな? と思ってました。でも、すごくイタズラ好きなところがあったり、私のこともすごくかわいがってくれて「お姉ちゃん」というイメージです。広瀬さんは、あまりにも現場で面白過ぎて「私がいままで出会った日本人で一番面白い人だ」といつも言ってます。本人もそれが気に入ったみたいです(笑)。ボーっとしてる姿もしゃべっている時も、全てが面白いんですよ(笑)。今回の映画で広瀬さんのことがさらに大好きになりました!菜々緒さんは、クールなイメージがありましたけど、すごくさっぱりした人ですね。私にはずっと韓国のことを質問してくださって、すごくかわいがってくれました。大島さんは韓国語を話したいということで、時々私に「こういう言い方、韓国語で何て言うの?」と質問してくれました。現場でも韓国語教室みたいな(不思議な)場面もありましたが、面白くなりすぎてどんどんわけのわからない韓国語を聞いてくるんですよ。「なんでそんな言葉を知りたいんだ?」「それを知って、どこで使うんだ?」と思ってました。一応、教えましたけど…(笑)楽しかったです。室井さんも、韓国のドラマや映画が大好きでハマっていて、私の出演作までご覧になってくださって「あの作品の撮影の時はどうだったの?」というお話をしてましたね。江口さんは(演じた)萬さんそのままの存在感で、カッコよすぎて正直、私からなかなか話しかけられなかったんですけど、すごく優しくて、「あの映画、観た」とかいつもオススメの作品を教えてくださいました。経験を積み重ねてきたからこその不安「もっとちゃんとしなきゃ」――お話を伺っていると、シム・ウンギョンさんが現場でみなさんに愛されている様子が伝わってきます。日本でも活動されるようになって数年になりますが、生まれ育った国を出て、外国語で演技をするというのは、本当に大変なことだと思います。当初、日本で活動することに恐怖や不安はなかったんでしょうか?むしろ最初の頃のほうが恐怖感とかはなかったと思いますね。何も知らなかったからこそ「とにかくやってみます!」という感じで(笑)、勢いでどんどんいろんなことを経験させてもらいました。逆にいまのほうが、言葉も覚えて経験を積み重ねてきたからこそ「もっとちゃんとしなきゃ」と思ったり、「私はしっかりやれているんだろうか?」と悩んで不安になったりしますね。でも、そういう気持ちがあるからこそ、やり続けていくしかないんだとも思っています。――本作のサランだけでなく、これまでもいろんな作品を通じて、強い女性、戦う女性など様々な女性像を見せてきましたが、シム・ウンギョンさん自身がカッコいいと感じる女性、理想の女性像について教えてください。誰か特定の人に憧れたり、「この人みたいになりたい」というのはないんですけど、ありのままの自分でいたいという思いはあります。そうあるためにも、誰かに寄り掛かることなく、芯の強さを持った自分でいたいなといつも思っています。さっきの話とも重なるんですけど、この仕事をしている中で、悩んだり、怖くなったりすることもありますが、ありのままの自分であるために、続けていくしかないんだなと思っています。◆ヘアメイク:伏屋陽子(ESPER)◆スタイリスト:島津由行(text:Naoki Kurozu/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:七人の秘書 THE MOVIE 2022年10月7日より全国東宝系にて公開©2022「七人の秘書 THE MOVIE」製作委員会
2022年10月11日【音楽通信】第124回目に登場するのは、ボカロP「バルーン」としても活躍しながら、現在は自分の声で歌うシンガーソングライターとしても活動し、とくに若い世代から絶大な人気を誇る、須田景凪(すだけいな)さん!ドラムに魅せられたのちボーカロイドの世界へ【音楽通信】vol.1242013年から「バルーン」名義でボカロPとして活躍、代表曲「シャルル」はセルフカバーと合わせて1億4000万回の再生回数を記録、3年連続で10代カラオケランキング1位になるなど若い世代の方を中心に絶大なる支持を獲得するなか、2017年からは自身の声で歌う「須田景凪」として活動を開始された須田景凪さん。バルーンとしても、須田景凪としても、注目を集めているなか、2022年10月7日に公開のアニメーション映画『僕が愛したすべての君へ』の主題歌と挿入歌となる両A面シングル「雲を恋う(くもをこう)/落花流水(らっかりゅうすい)」を配信リリース。さらに、声優としてもゲスト参加されたということで、お話をうかがいました。――そもそも須田さんの音楽との出会いから教えてください。ずっと音楽が流れている家庭で育ちました。両親ともに洋楽をよく聴いていた気がします。小学生のときに、幼馴染みから「かっこいい人たちがいる」とポルノグラフィティさんの曲「アポロ」を聴かせてもらって、その存在を知って。当時、アニメ『鋼の錬金術師』(MBS・TBS系ほか 2003〜04年)をよく観ていたんですが、ポルノグラフィティさんがオープニング曲を担当していた「メリッサ」という曲があって、そこで「音楽ってめちゃくちゃかっこいいな」と感じました。その後、中学2年生のときに同じ幼馴染みから、ポルノグラフィティさんのライブDVDを観せてもらって。サポートのドラマーの方がめちゃくちゃかっこよくて、その影響で自分でもドラムを習うようになりました。ドラムって全身を使ってダイナミックに動くじゃないですか。そこにすごく惹かれて、自分で楽器をやるようになったのは、それが入り口です。中学2年生から、高校、大学と長くドラムをやっていましたね。――ドラムをされていたら、バンドを組みたいという方向にはいかなかったのでしょうか。高校1年生から、組んだバンドがあって。そのバンドで売れたいから音大に行くというぐらい、本気でやっていましたね。大学は音大に行きましたが、そのぐらいの熱量を持って、ずっとドラムをやっていました。――では作詞作曲はいつ頃から?大学2年生ぐらいからですね。先ほどお話ししたバンドは、自分と高校の先輩とのツーピースバンドで、先輩が曲を作っていました。その当時はまだ自分自身では作曲のイロハも何もわからないときだったので、「ここをもっとこうしたらかっこいいんじゃないか?」というアイデアをわからないなりに先輩に話していたのですが、先輩と後輩という上下関係もあって、作曲する人は全員こだわりがあるのでことごとくアイデアが通らなくて。そんな状態が2年ぐらい続いて、ふと、そのアイデアだけで何曲か作れるんじゃないか?と思ったんです。その当時、自分はニコニコ動画というプラットフォームでゲーム実況の動画をよく観ていて。だから、ボーカロイドの存在も、もちろん知っていました。ボーカロイドカルチャーにはいろんな方がいらっしゃいますが、1週間前に作曲を始めました、というような人もいて。間口がとても広い環境なんです。しかも、ボーカロイドだったら、自分の音楽におけるワガママを100パーセント歌ってくれるというところから、「ボカロを用いて作曲したい」と思うようになりました。その頃はドラムしかしたことがなく、コーラスさえもしたことがなかったので、そもそも歌うという選択肢がなかったんですよね。作曲と同時にギターやピアノも始めたんですが、鼻歌で歌いながら曲作りをしていくなかで、それを続けていくと歌うことも好きになって、いまにつながるという感じです。――もともと音楽の才能をお持ちだったんですね。才能というものをあまり信じていないんですが、もともと一人っ子ということもあって。昔から、一人遊びをするのが好きなんです。淡々とした作業を黙々とやるのが好きで、自然と没入していったんだと思います。――ボカロPのバルーン名義で発表された代表曲「シャルル」は大ヒットされましたが、活動においてターニングポイントになった曲ですよね。そうですね、あの曲があったから、その後いろいろな可能性が広がっていきました。それと同時に、良い意味でボーカロイドカルチャーも変わった、と言っていただけることもあるので、「シャルル」という曲を書くことができて良かったです。――2017年10月には、ご自身で歌う「須田景凪」での活動を開始されました。「バルーン」から「須田景凪」へ活動スタイルを切り替えたきっかけは何だったんでしょうか。「シャルル」のセルフカバーは多くの方に聴いていただいていますが、ほかのバルーン名義の曲も、実は以前からときどきセルフカバーをしていました。例えば「朝を呑む」という曲とか。歌いたいから歌ってみたら、考えていたよりも何十倍もの方々に聴いていただいて、ありがたかったと同時に、考えるようにもなって。自分のなかで、バルーンというボカロPの楽曲は、誰が歌ってもカッコいいものを目指しているんです。でも「シャルル」は、8割くらい、自分が歌うために書いた曲だったので、それだと伝え方も変わってくると思いました。最初に曲を作るときに、ボーカロイド名義で歌うもの、自分で歌う名義のもの、と分けるようにして。それを決めないと、自分自身が混乱してしまう時期があったから。もうひとつの理由は、これはあくまで自分個人の考えなんですけど「ボカロPとしてのバルーンという人間を好きでいてくれる方がいたとして、ずっと追っていったら気づくともう自分の肉声でしか歌わない時期が生まれたら、それはもうボカロPじゃないよね」と自分では思ってしまって。僕は同時にいろいろなことをするのが苦手なので。それならしっかり名義を分けたほうが自分的にもリスナーの方的にも健全なのかな、と思い名義を分けました。どちらの名義でも、「良いものを書く」ことは、変わらない。ただ、須田景凪としての活動のほうがよりいっそう、自分の気持ちをのせやすいものを書いています。アニメーション映画の主題歌と挿入歌を配信リリース――2022年10月7日に両A面シングル「雲を恋う/落花流水」を配信リリースされました。「雲を恋う」は、映画『僕が愛したすべての君へ』の主題歌のオファーをいただいてから、そのときは映画を作る前の段階だったので、原作の小説を読ませていただいてから書き下ろしました。その後、主題歌を書き終わってから、絵コンテを見せていただく機会があって。挿入歌となった「落花流水」も作らせていただきました。この“僕愛”と同時に公開される、もうひとつの映画『君を愛したひとりの僕へ』では、“僕愛”で主題歌だった「雲を恋う」が挿入歌になっています。――2曲とも映画にぴったりで、とても物語の世界観を大事に、曲を描かれていますね。“僕愛”と“君愛”のどちらの作品を読んだときも、どちらも「自分」という核が強くあったうえでその後のストーリーの展開が起きていて。あえて「雲を恋う」では一人称、完全に自分目線で、青く未熟なさまを書きたいという気持ちが強くありました。このタイトルは、ことわざの「籠鳥雲を恋う(ろうちょうくもをこう)」からきています。とらわれている存在が自由な境遇に憧れているさまという意味なんですが、映画の主人公が感情を吐露できないもどかしさとリンクする部分があり、そこからつけましたね。そして仮に同じ人と何百年一緒にいたとしても、100パーセントわかりあうことは絶対にできないと思っていて。あくまで、ひとりとひとり、という部分は変わらない。でも、深い関係になるほど、ふたりだけにしか伝わらない空気感、密度だけでしか成り立たないものが増えてくるので、そういう部分にフォーカスして書きました。――では、「落花流水」はどのように曲作りされましたか。「雲を恋う」が一人称だとしたら、「落花流水」は三人称、俯瞰で見ている曲です。曲調は、挿入歌を初めて担当させていただくので、「雲を恋う」のミディアムスローな曲調よりもちょっとギャップがあったほうがいいなというところから、ストレートなJ-ROCK、J-POPを目指してできあがりました。――今回、映画にはゲスト声優としても参加されたことのみが発表されていますが、須田さんのせりふがどこなのか、観ていて最後までわかりませんでした(笑)。ということは、作品に馴染んでいたんでしょうか…。そういう意味では良かったです(笑)、初めてアフレコをさせていただいて、めちゃくちゃ難しかったです。歌も演技的要素はあるとは思うのですが、声優さんは100パーセント演技なわけじゃないですか。そこを振り切ってやるのって、当たり前ですが、すごい作業だなあと思いました。あと、担当させていただいたのは、本当につぶやくようなひとことだけのせりふなんですが、実際につぶやくだけだと映画で観たときに何を言っているか聞こえないし…。その空気感を推し量るのも難しくて、新鮮な作業でした。アニメーションと合わせてしゃべる、というのもすごく難しかったですね。――須田さんのファンの方には歌以外にも、映画のどの場面で声優としての声が聴けるのか、探すのも楽しみのひとつになりますね。では続いて、今回のシングルのジャケ写についても、お聞かせください。以前から好きな映像作家のtoubou.さんに描いていただきました。今年の3月に、toubou.さんが自主制作で出された『さざなみの少女たち』という、声や音楽以外、すべておひとりで作られて完結されている作品があって。それがめちゃくちゃ素敵で、単純にいちファンとして観ていて、今回のお話をしたら快く引き受けてくださいました。――“僕愛”と“君愛”の映画のトークショーに、主人公の暦の声優をされた宮沢氷魚さんと、“君愛”の主題歌を担当したSaucy Dogさんとともにご出演されていましたね。ライブ以外で人前に出るというのは非常に珍しいのではないですか。そうなんですよ。基本的に人前に出るときは歌うときなので、まさかトークだけで出るなんて(笑)。――宮沢さんとはもともと面識はあったのですか。宮沢さんは、「昼想夜夢」という僕のワンマンライブに来てくださったことがあって、ご挨拶させていただいて。そのときはライブが終わって5分後ぐらいだったので、記憶がだいぶ曖昧なんですが(笑)、とても親しみやすい方だなと思った印象があります。トークショーで久しぶりにお会いできて良かったです。誰が聴いても「いいよね」というポップスを追求――お話は変わりますが、最近ハマっているものはありますか。ダメージ加工のファッションが好きで、穴があいているデニムやスウェットも好きなんです。でも穴があいていなくても、「このパンツに穴があいていたらいいのにな」と思って、最近は自分で穴をあけていて(笑)。加工するときは、諸説あるんですがいろいろと調べまして、段ボールカッターで切ると、ダメージ加工ぽくなるかなあと試しています。――スタイリッシュな印象のある須田さんですが、今日もピアスがたくさんついていて、アクセサリーにもこだわりがありますか。今日は全部の穴にピアスをつけていませんが、全部で10個、耳に穴があいていますね。身につけているアクセサリーなどは、すべて私物です。ファッションは、そのときに着たいものを着て、アクセサリーもそのときにつけたいものを選んでいて。指輪はもっとつけたいですが、ギターを弾くときに邪魔になるので、必要最小限だけにしています。とくに左手はコードを押さえなくてはいけないので、多くはつけられません(笑)。でも、指輪をつけると気持ちが切り替わって、オンモードになれます。――シルバーアクセサリーがお好きなんですか?アイテムとしての色味だと、本当はピンクゴールドが一番好きなんですが、自分には似合わないので。結果的に、自分でもつけて好きなのは、くすんだシルバー系ですね。――ときどきInstagramなどで猫ちゃんの写真をアップされていますね。もう3〜4年前から飼っている、サイベリアンという種類の猫です。「ふとん」という名前です。小学1年生ぐらいから、ずっと実家で猫を飼っていました。たとえば、街に一軒、猫屋敷ってあるじゃないですか?僕の家がそうだったんです(笑)。家の外には常に5、6匹猫がいて、家の中にも5、6匹いて、だから猫がいるのが当たり前で、いないほうがソワソワしてしまいますね。でも猫は、ただ家にいて別の生活をしている存在、という認識なので、飼っているという認識もあんまりないところが楽ですし、好きですね。――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負をお聞かせください。5月にワンマンライブがあったり、夏はフェスにも初めて出演させていただいたり、そこで来てくださった方々が、「シャルル」をはじめとして曲を知っていて反応してくれたことがすごくうれしかったんです。自分のやっている音楽はポップスだと思っているんですが、ポップスって誰が聴いても「いいよね」と思える力があるものだと感じているので、そういうものを自分でももっと突き詰めていきたいです。それが結果的に、自分の活動にプラスにつながっていったらいいなと思います。取材後記ボーカロイドカルチャーが変わるほどのヒット曲を生み出すボカロP「バルーン」としても、ご自身の声で歌う「須田景凪」さんとしても、数々の多彩な楽曲を聴かせてくださる須田さん。ananwebの取材時、撮影ではミステリアスな魅力を放ちながらも、インタビューでは柔和な物腰でひとつずつ丁寧に応えてくださいました。そんな須田さんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・山本嵩取材、文・かわむらあみりヘアメイク・牛玖文哉スタイリング・荒木大輔ジャケット¥68,200(税込)、スウェット¥85,800(税込、ともにstein)問合先:ENKEL tel.03-6812-9897須田景凪PROFILE2013年より「バルーン」名義でニコニコ動画にてボカロPとしての活動を開始。2016年に発表された代表曲「シャルル」はセルフカバーバージョンと合わせ、YouTube での再生数は現在までに1億4000万回の再生を記録。JOYSOUNDの2017年発売曲年間カラオケ総合ランキングは1位、年代別カラオケランキングの10代部門では3年連続1位を獲得し、現代の若者にとって時代を象徴するヒットソングとなった。2017年10月、自身の声で描いた楽曲を歌う「須田景凪」として活動を開始。2021年2月、メジャー1stフルアルバム『Billow』をリリースし、オリコンウィークリーチャート7位にランクイン。作詞作曲編曲のすべてを手掛け、ベットルームで音源制作からレコーディング、音源発表まで行い、多くの若者から支持を集めている。2022年10月7日、ニューシングル「雲を恋う/落花流水」配信リリース。InformationNew Release「雲を恋う/落花流水」(収録曲)01. 雲を恋う02. 落花流水2022年10月7日発売写真・山本嵩 取材、文・かわむらあみり ヘアメイク・牛玖文哉 スタイリング・荒木大輔
2022年10月09日シンガーソングライター・Charaの軽やかなたたずまいは、いつの時代もどの世代にも人々の憧れの存在として映る。現在、Charaさんはディズニー公式動画配信サービス・ディズニープラス「スター」の日本発オリジナルドラマシリーズとして制作された『すべて忘れてしまうから』に出演中。主人公のミステリー作家“M(阿部寛)”が通う「Bar 灯台」オーナー・カオルを演じ、キャリア初のドラマ出演を飾った。「新しいことに挑戦することが好き」と『すべて忘れてしまうから』への出演参加について話すCharaさん。輝き続ける活動の源泉は、新たなことへ飛び込む気持ちにもあったようだ。単独インタビューでは、26年ぶりとなった演技の仕事から始まり、年齢を重ねて変わったこと・変わらないことなど、Charaさんの内面についても伺った。毎日をハッピーに過ごす、ハッピーを見過ごさずに見つけられるCharaさんのマインドは、我々がより良い明日を過ごすため、幸せに生きるためのヒントが得られるはずだ。――『すべて忘れてしまうから』では初めてのドラマ出演となりました。これまでもたくさんオファーはあったと思うんですが、出演の決め手は何でしたか?今回は音楽を愛するカオルさんという役だったので、音楽つながりということもあったし、監督たちも「そのまま(のCharaさん)で」とおっしゃってくださったので、「できるかなあ~」みたいな感じで、お引き受けしました。例えば、役柄が主役とか重荷のものだったらちょっとできないけどね。あとは、燃え殻さんのこのエッセイでやると聞いたとき、「ええ、これ!?難しくない?」と思ったんです。淡々としていてミステリー要素もあって、割と地味と言ったらあれだけど…でも映像になったらじわじわとくる、新しい感じなんじゃないかなと思って。それは挑戦だと感じたから、素敵だなと思ったんです。挑戦することって、私、好きなので。――新しいことに踏み込む、やったことのないことに挑戦することは、日頃よりCharaさんの原動力のひとつだったりするんですか?チャンスがあったら、やれたら面白そうってなります。何だろうな…自分が知ってると思う以外のことって、たくさんあるじゃない。今回は「新しいことをやろう」と思っている人やチームに参加できたら面白いかも、と感じたので。そうやって違う筋肉を使ってみると「あれっ…」と気づくきっかけにもなりますし。例えば、お散歩でも意識しないと、道路の端っこ、コンクリートの間に咲いてるお花とかも見過ごしちゃうじゃん。そういうのと同じように「見過ごさないで気がつけることができる」ことが、何かあると思うんです。――今回のお芝居や現場での経験で感じたものが、Charaさんの創作の血肉になっていったりもするんですね?なってると思いますね。いろいろな人とコミュニケーションを取るほうが、自分で気がつかないうちに他人と接する筋肉、コミュニケーション能力の筋肉は活性化されるはずなので。だから違う現場、このチームに入ることで活性化されてるはずですけどね。もともと割と活動的なタイプですけど。――作品内では、とても自然な感じの演技に惹かれました。Bar 灯台では流れるような会話劇が続きますが、大変ではなかったですか?撮影前、友達の女優が心配して「Chara、本読みやってあげるよ~」と来てくれたりしたんです。娘も「やってあげるよ」と言って本読みをやってくれて、…台本はその2回ぐらいかな。今回はセットが本当に素晴らしかったから、「Bar 灯台に行けば、カオルさんになれる」みたいな状況があったんだと思います。美術さん、メイクさん、衣装さんもすごくこだわっていたんです。特にカオルさんは衣装がすごーく凝っていて、ほかの役者さんは毎回似たような服なのに(笑)、カオルさんだけ毎回違っていて。それは監督たちの希望でした。――監督からは、そのほかにオーダーもありましたか?監督が、現場で「やっぱり、それはなし」とか「こっちにしたい」と変えていくのはよくあることで、それは普通にあったかな。映像は監督のものだと思っているから、「言うことを聞いてやったらいい」と思っていました。だからむちゃぶりも結構あったんだけど、「やりたいな」と思って努力しました。自分にちょっとでも余裕がないと、人を愛する余裕は出てこない――先ほどお話された新しいことに挑戦する以外に、Charaさんが日々の生活などでも指針にしていることはありますか?魅力的に生きるヒントを知りたいです。私は普段から音楽的に生きてると思うけど、このインタビューを読まれている方と同じように、普通に人間です…(笑)。なので、「人生を楽しみたいな」と思っているから、自分が楽しい・ハッピーなことが何かを知ることがいいじゃないですか。年を重ねていくと、何がハッピーでこれが好きというのがたくさん分かってくると思うので、私もそれを大切にしてるんじゃないかな。家族も大好きで、友達も大好きだし。自分にちょっとでも余裕がないと、人を愛する余裕は出てこないと思うので、リラックスして生きていたいですね。そういうのに気をつけてるかも。あと、言葉に出してしまうと出したものは引っ込まないから、それも気をつけてますね。――ハッピーに感じることについては、年齢を重ねるにつれて変わっていきましたか?変わってますね。詞も書いているんだけど、言葉を紡ぐのがすごい好きなんです。若いときは、その辺に落ちてるような普通の言葉、要は「人がやってる使っている言葉を使いたくない!」みたいなのがあったんですよね。自分のオリジナリティーを理解してほしいのもあったのかな、新人さんは人と比較されちゃうじゃんそういう時を経て、27歳くらいのときに長女のSUMIREを妊娠したんです。妊娠して子供が生まれてくるとなると、すごい責任感があって。小さな子供も理解する言葉を改めて勉強し始めて、そこで「普通の言葉はなんて素敵なんだ!」と意識がとても変わりました。子供がいなかったときといるときで分けるとするならば、やっぱり全然違いましたね。前は、もうちょっと身勝手だったと思います。なんか心が豊かになって、いろいろ気がつける、気づきがすごいたくさんあるから、すごい優しくなったかな?――今、何をやっているときが一番ハッピーですか?私、大体何でもハッピーなんだけどね(笑)。「ああ、なんかうれしいな」と思うのが、子供たちが大きくなったので、ちょっと昔の母ちゃんとの出来事や思い出を、今の彼らと話して「ワハハ!」となるとき。何とも言えない楽しい雰囲気になりますね。「2回目の楽しみ」みたいなね。昔楽しかった出来事が、また今思い出せて話せて「すてき」と思うから、そういうのが楽しいです。――今はSUMIREさんも佐藤緋美さんも俳優業をやられていますが、作品を観て感想を言い合ったりもしますか?そうですね。娘のも息子のも観てチェックしてますね。感想を言うときもあるね。「意外と声が出ててびっくりしたよ」とか(笑)。作品を観ていて、「私の好きなこの俳優さんと一緒に出てるね!ママが好きだって言っといて!」とか(笑)。普通では考えられないけど、芸能一家だとそういう会話がありますね。――もしかしたらちょっとしたことかもしれないけれども、幸せを見つけたりハッピーに変換するのが、Charaさんは上手なのかもしれないですね。なんかそうですね。私、今ひとり暮らしなんですよ。子育てが終わって、みんな独立して。もともと家族と暮らしていたときから、アーティストでも、お母さんでも、1日のうちにどんなに子育てで忙しくても、ひとりでいる時間は本当に大切だと思ったんです。本当に忙しくて時間がなくても、寝る前のお手入れの少しの時間でも、みんなが寝た後に1杯飲んだりする時間とかでも、何でもいいんだけど…そういうルーティーンみたいなのが(自分を)支えるじゃん。そういうの、いいですよね。そういうのがうまいんじゃないかな。だから、意外とひとりでも、なんかやってるんじゃない(笑)。『すべて忘れてしまうから』は毎週水曜日、ディズニープラス「スター」にて独占配信中(全10話)。(C) Moegara, FUSOSHA 2020◆ヘアメイク:杉田和人(POOL)◆スタイリスト:小川夢乃(text:赤山恭子/photo:You Ishii)
2022年10月05日【音楽通信】第123回目に登場するのは、エンターテインメント精神にあふれる魅力が光る、ハロプロの個性派グループ、BEYOOOOONDS(ビヨーンズ)!3つのユニットが合体した現在12名のグループ写真左から、西田汐里、里吉うたの、前田こころ。【音楽通信】vol.1232018年に結成され、2019年にメジャーデビューした、BEYOOOOONDS。個性の違う「CHICA#TETSU」「雨ノ森 川海」「SeasoningS」という3つのユニットの合体グループでもあり、現在12名のメンバーからなるBEYOOOOONDSは、多くの楽曲に寸劇を取り入れるなど、ユニークさも加味したエンターテインメント精神にあふれる魅力が光ります。2019年には日本レコード大賞の最優秀新人賞、2020年には日本ゴールドディスク大賞のベスト5ニュー・アーティストを受賞。まだまだこれから大きく伸びていくに違いない、ハロー!プロジェクトの注目グループです。そんなBEYOOOOONDSが、2022年9月28日に2ndアルバム『BEYOOOOO2NDS(ビヨーンズ セカンド)』をリリースされるということで、グループを代表して西田汐里(にしだしおり)さん、前田こころさん、里吉うたのさんにお話をうかがいました。――おひとりずつ、所属ユニットとともに、自己紹介からお願いします。西田西田汐里、19歳です。私が所属する「CHICA#TETSU」は、スペイン語で女の子という意味の「CHICA」と、哲学の「TETSU」を表していて「物事を深く考える女の子」という意味が込められています。リーダーの一岡伶奈(いちおかれいな)ちゃんは鉄道が好きというのもあり、楽曲は駅や電車がモチーフになっていて、その駅、その路線ならではのちょっと切ない恋心を歌っていて。みなさんもよく通る駅を歌ったときは、共感してもらえる歌詞もあるかもしれません。BEYOOOOONDSのなかで「CHICA#TETSU」は、可愛い担当なんですよ(笑)。毎回ユニット4人全員で「一番可愛く見せよう!」と、気合を入れて歌っています。前田前田こころ、20歳です。私の所属する「雨ノ森 川海」は、一人ひとりの個性がとても強い5人組のユニットです。ユニット名は、人々の心に潤いを与えるグループになってほしいという思いから付けていただきました。普段はよくしゃべりよく笑う賑やかな私たちですが、楽曲を歌うときはガラッと雰囲気を変えるので、そのギャップが魅力かなと。「雨ノ森 川海」の楽曲は、女の子の複雑な感情を力強く表現していて、BEYOOOOONDSのときとは全然違う一面を見せていると思います。これからも私たちの成長に期待していただきたいです。里吉里吉うたの、21歳です。私の所属する「SeasoningS」はBEYOOOOONDS内で唯一のオーディション合格者3人のみで構成されたユニットなんです。特技を持ったメンバーを募集するオーディション「ハロー!プロジェクトONLY YOUオーディション」の合格者で、平井美葉(ひらいみよ)ちゃんと私がダンス、小林萌花(こばやしほのか)ちゃんがピアノを得意としています。「SeasoningS」では、メンバーそれぞれの特技を活かしたミュージカル調の楽曲が特徴。平均年齢22歳とBEYOOOOONDS内のユニットではもっとも年齢が高いので、ほかのメンバーからは、よく「お姉さんたち〜」と呼ばれています(笑)。――みなさんがハロプロに入ったきっかけを教えてください。西田まず「アイドルって楽しそうだな」と思い始めたのはアニメの『ラブライブ!』(TOKYO MXほか 第1期:2013年、第2期:2014年)を観たときです。当時小学生で、歌うことも踊ることも大好きだったので、よく姉とアニメの歌の振り付けをまねして歌っていました。小学校4年生の終わり頃、母がモーニング娘。’14さんのオーディションを見つけて、勧められたことがハロプロに入ったきっかけです。実はハロー!プロジェクトもモーニング娘。さんもほとんど知らなくて、何も知識がない状態で母に言われるがまま書類を送って。すると、なんと書類審査は通り、2次審査で落ちました!負けず嫌いだったので、オーディションに落ちたことが本当に悔しくて、毎日モーニング娘。さんの動画を見漁り、知っていくうちに好きになって「絶対ハロプロに入る!」と気持ちに火がつきました。そこからモーニング娘。′16さんのオーディションに応募し、メンバーにはなれなかったですが、ハロプロ研修生として活動していくことになりました。前田ハロプロに入るきっかけは、(モーニング娘。の元メンバー)工藤遥さんです。兄と工藤さんが幼なじみで、私も2歳の頃から仲良くしてもらっていて、工藤さんがハロプロエッグ(研修生)になったときに、ハロプロの存在を知りました。そして工藤さんがモーニング娘。さんに加入し、私もコンサートやイベントを観に行かせていただくようになり、どんどん大好きなりました。その頃私も「キラキラ輝くみなさんと一緒にステージに立ちたい」と思うようになり、何度かオーディションを受けた結果、ハロプロ研修生に加入することができました。約3年間研修生としてたくさんのことを学び、いまはBEYOOOOONDSとして活動させていただいています。小学生の頃からアイドルになるのが夢で、小学校の卒業アルバムにも「夢はハロー!プロジェクトのメンバー」と書いていました。ハロプロの一員として活動していることがいまでも夢のようです。里吉「ステージに立つ人間になりたい」と思ったのは、小さい頃にテーマパークダンサーの方のパフォーマンスを見たときです。小学校高学年の頃、ハロプロを知って、同世代の女の子がマイクを持って全力で歌って踊ってかっこいいライブをしている姿に夢中になりました。その後、ハロプロに入りたいと思ったのは、高校生のときです。進路に迷って自分の本当にやりたいことがなんなのか考えたときに、「ダンスとお芝居がしたい!」「大好きなハロプロのアイドルになりたい!」という結論に行き着いて。ちょうどそのタイミングでハロプロのグループであり、お芝居にも挑戦する新グループのオーディションが開催されることを知り、「これだ!」と直感的に感じて、オーディションを受けました。――2019年8月のメジャーデビューから3周年となりますが、当時と現在での心境の変化や違いはありますか。西田確実に違うのは、メンバーみんなのパフォーマンスのスキルです。3年間で思うように活動できない期間もありましたが、いろいろなステージを経験して、成長していったと思います。信頼感も3年間でかなり大きくなりました。メンバーの仲の良さも日々アップデートしています。みんな優しいから、私もみんなに優しくしたくて、優しいの相乗効果ができているなと(笑)。BEYOOOOONDSのためにたくさん考えてくださるスタッフさんと、優しいメンバーがいるので「みんなのためにも必ずいいステージにしたい」という気持ちが強くなりました。3年前は、がむしゃらにただ歌って踊って、時間がすぐに過ぎていってしまう感覚。でもいまは、応援してくださるみなさんの期待に応えるために、常にベストのものを届ける意識で活動しています。成長したBEYOOOOONDSがギュッと詰まったアルバム西田汐里。2003年6月7日、京都府生まれ。B型。座右の銘は「感謝の気持ちを忘れずに」。――2022年9月28日に、2ndアルバム『BEYOOOOO2NDS』をリリースされます。まずタイトルの意味や今作ができた手応えからお聞かせください。前田1stアルバムは『BEYOOOOOND1St』というタイトルで、今回2ndアルバムということで、シンプルに『BEYOOOOO2NDS』となっています(笑)。約2年10か月ぶりのアルバムということで、成長したBEYOOOOONDSがギュッと詰まった盛りだくさんなアルバムになりました。可愛い曲やかっこいい曲など、いろいろなジャンルに挑戦していたり、Interlude寸劇も収録されていたり。歌やダンスの成長だけではなく、演技力、表現力の成長も感じていただけるはず。私が初めて完成した音源を聴いたときに、改めてメンバーの成長を感じて、尊敬の気持ちがより高まりました。たくさんの方に聴いてほしいと自信を持って言える作品になっています。このアルバムを通して、より多くの方にBEYOOOOONDSのパワーが届くことを願っています。――今作は既発曲や新曲、初音源化作品を加えた13曲に、新曲にまつわる寸劇などが収録された全18曲の「DISC1」、グループ内3ユニットによる既発曲や新曲が収録された全6曲の「DISC2」という2枚組で構成されています。まずユニット曲が収録された「DISC2」からおたずねしますが、「CHICA#TETSU」の新曲は「待ち合わせは JR 梅田駅で」ですね。西田いままでは六本木、高輪ゲートウェイ、横浜と、関東の駅の楽曲を歌わせていただいていたのですが、今回は初めて関西に進出することができました(笑)! 今回も「CHICA#TETSU」の特徴である「可愛い×電車」の曲。大阪の梅田駅はとても迷いやすいと有名で、「JR梅田駅」は存在しない駅というのは、大阪に住んでいる方はみんな知っていることなのですが、今回はその架空名でのJR梅田駅で待ち合わせをするという曲になっています。少し聴くと続きも気になるストーリー性のある楽曲なので、無事に会うことはできたのか、楽しみにしながら聴いてもらいたいな(笑)。大阪ならではの歌詞や振り付けもたくさん出てくるので、大阪に住んでいる方もそうでない方にも、楽しんでもらえたらうれしいです。前田こころ。2002年6月23日、埼玉県生まれ。A型。座右の銘は「真剣勝負」。――「雨ノ森 川海」の新曲「循環」は、ユニット名にもまつわるような内容の歌詞となっていますね。前田歌詞の中に雨、森、川、海と出てきて、ついに「雨ノ森 川海」というグループ名の伏線回収をするような楽曲が来ました(笑)! 壮大かつ切ない恋物語を描いた、繊細で美しい歌詞がとても素敵なので、歌に乗せて大切に届けたいです。いままでの私たちユニットの楽曲とはまた違った雰囲気で、今回初めてミディアムバラードに挑戦しているので、新たな一面や成長を感じていただけるかなと。ほかのユニットのメンバーからも、歌もダンスもかっこいいとお墨付きをいただきました! いままでよりも少し大人のしっとりとした雰囲気も味わっていただけると思います。――「SeasoningS」の新曲「Get Back !ビニール傘の大冒険」は、ビニール傘の気持ちになれる歌詞のようですね。里吉歌詞は、人間の見ていない瞬間に自我を持って話し出すオモチャや動物のように、電車や駅に置き去りにされた傘たちが、いかにしてまた人間の元に戻れるか駅構内を大冒険するというストーリーです。とにかくコミカルで壮大なミュージカルのような1曲。曲の起承転結をしっかり演じられるように頑張っていますし、ビニール傘を使ったダンスにも注目していただきたいですね。――「DISC1」には、Interlude 寸劇「ノービヨンダ!ノーライフ」、Interlude 寸劇「こころとりかのドリームマッチ」、Interlude 寸劇「迷走委員会」と、寸劇ナンバーが収録されています。西田 「ノービヨンダ!ノーライフ」は、テレビショッピングのようなBGMから始まる、AIロボットビヨンダを中心とした寸劇です(笑)。清野桃々姫(きよのももひめ)ちゃんが、トークボックスで担当しているビヨンダに注目してください。「こころとりかのドリームマッチ」は、米派とパン派の主張が面白い寸劇。島倉りかちゃん演じる米派の女性は、こころ君に毎朝どんな朝食を用意しているのか、どんな争いになるのかも聴きどころです。里吉うたの。2000年9月22日、東京都生まれ。A型。座右の銘は「夢見ることができれば、それは実現できる」。里吉私は「迷走委員会」に参加しています。江口紗耶ちゃん演じる「幸せ笑っとけGOGO推進庁」の大臣の秘書役をしているのですが、大臣と秘書のなぜか息のあった掛け合いと、平井美葉ちゃん演じる議長、岡村美波ちゃん演じる野党党員のキャラクターの濃さにも注目してほしいですね。クスッと笑えるポイントがたくさんある寸劇になっています。――夏の全国ツアーを終え、秋からは「Hello! Project 2022 Autumn CITY CIRCUIT」が始まります。春、夏のツアーの手応えと、秋のツアーはどんなステージになるかをお聞かせください。前田これまで春、夏ツアーと初めて単独ホールツアーをやらせていただき、さらに単独日本武道館公演という大きな目標も達成し、夢がたくさん叶いました。毎公演ステージに立ち、きれいなペンライトが見えるたびに、多くの方々が来てくださっている現状にとてもビックリ。これだけ多くの方々がBEYOOOOONDSだけを観に来てくださっているということが、とてもうれしかったです。そういう一瞬ごとに改めて「BEYOOOOONDSは愛されているんだな」と感じられた幸せあふれるツアーでした。大きな夢を叶えた私たちですが、みんなもっと上を目指すぞという熱い気持ちは変わらず、その気持ちはより大きく膨らんでいて、そういう熱いところもBEYOOOOONDSの素敵なところだなと感じていて。秋ツアーでは、タイトルも「天高く、ビヨ燃ゆる秋」ということで、より熱く、パワーアップした、BEYOOOOONDSらしさ全開のショーをお見せします。どんなときもBEYOOOOONDSはみなさんの味方――お話は変わりますが、みなさんが最近ハマったものはありますか。また、休日はどのようにお過ごしですか。西田最近はマニキュアにハマっています。いままであまり興味がなかったのですが、マニキュアを塗り始めると、すごくきれいに塗れたときはうれしくて、そこから細かい作業をするのが好きかもと気づきました。休みの日は、好きなゲーム実況を見ながらのんびりパズルをして過ごしています。インドア派なのであまり外には出ないですね。前田最近は“1人〇〇”にハマっています。いままでは1人でどこかに行くことはなかったのですが、最近は1人映画、1人焼肉、1人ラーメンによく行きます(笑)。夜の人が少ない時間の映画館の雰囲気が特に好きで、とても落ち着く空間。1人なので、感想を共有できないのは少し寂しいですが、メンバーと会ったときに「この映画観たー?」などと情報交換する時間が楽しいですね。自分のペースでできるのが良いところなのですが、ご飯は誰かと一緒に食べるとより楽しいなとも思うので、メンバーとも行きたいです(笑)。休日は、お家でゆっくり録り溜めていたドラマを見たり、映画を観たり、YouTubeを見たり、愛犬とわちゃわちゃ遊んだりすることが多いですね。お家でゴロゴロしているとやっぱり眠くなってしまうのですが、お昼寝があまり好きではなく、睡魔と格闘しているときも……。里吉最近のマイブームは、ネイルです。もともとポリッシュを集めるのが好きだったのですが、今年に入ってついにセルフでジェルネイルに挑戦していて、それがすごく楽しい。細かい作業やアクセサリーなどのものづくりが好きなので、その延長線みたいな気持ちです。メンバーがネイルを褒めてくれたり、ブログに載せるとファンの方にも好評だったりするので、もっと上達できるようになりたいですね。――美容やダイエットなどで、普段から気をつけていることはありますか。西田 私はダイエットするのが苦手なので、なるべく太らないように、食べすぎた次の日は食事を控えめにするようにしています。また、リハーサルなどでずっと踊っていると太ももに筋肉がついてしまうので、それを防ぐためにストレッチ、マッサージをして着圧レギンスを履いて寝るように心がけていますね。あとはお肌のためにもきちんと睡眠をとること、ストレスをためないことを意識しています。前田まつ毛美容液を毎日欠かさず塗るようにしています。日々の積み重ねだと思うので、地道に頑張っていて、最近ちょっとまつ毛が伸びたような気がして。母に「伸びたよねー?」と言ったら、「わからない」と……めげずに地道に頑張ります(笑)。そして私は食べることを毎日の楽しみに生きているタイプで、無理な食事制限をするとストレスが溜まってしまうので、適度に食べ過ぎないよう気をつけつつも食を楽しむようにしています。食べちゃった罪悪感を抱くより、「おいしかった!」と幸せを感じて食べたほうが、吸収しにくいという話を聞いたことがあるので、それを信じています(笑)。里吉ヘアケアと美白ケアを大切にしています。トリートメントをしたり、ドライヤーにこだわったり、枕カバーをシルクに変えたり……。サラサラの長い髪はトレードマークでもあるので、いつもサラツヤでいられるように頑張っています。この夏は絶対日焼けしたくなくて、少し良い日傘を使ったり、日焼け止めはもう何本消費したかわからないくらい(笑)、暇さえあれば塗っていました。まだ日差しが強い日もあるので、継続していきます。――お気に入りのファッションやこだわりのコスメなどはありますか。西田こだわりのコスメは「オペラ リップティントN 06 PINKRED」です。メジャーデビューしたときからずっと愛用しているコスメなのですが、このリップをつけているときだけメンバーにもファンの方にも「リップ可愛いね」と褒めてもらえるんです! 色持ちもいいし、なにより褒めてもらえるのがうれしくてずっと使っています。前田もうすぐ秋ということで、大好きなジャケットの季節でとてもうれしいです(笑)。お洋服を買いに行くとついジャケットを買ってしまうので、家に帰ってからいつも「あ〜またジャケット買ってしまったぁ」となって。でもそのくらい好きで、年中無休でジャケットやジレを着ています。こだわりのコスメは、深めのカラーのリップ。こちらも1年中つけています。とくにお気に入りなのは「KATEのLIP MONSTER 05(ダークフィグ)」。使いすぎてもう3本目に。いつもコスメについての情報は、BEYOOOOONDSの美容番長、里吉うたのちゃんに聞くことが多くて、おすすめを教えてくれるので助かっています。里吉あまりお洋服のスタイルを限定しないようにと、今までガーリーなお洋服が多かったところ、最近はカジュアルなお洋服にも挑戦しています。みんなすごくオシャレなので、メンバーのファッションを参考にすることも。コスメの最近のお気に入りは、青みすぎず黄みすぎないニュートラルなカラーを選ぶことが多いですね。ずっと青みピンクが好きだったのが、苦手意識のあったブラウン等を選ぶことも増えて、またさらにメイクが楽しいです。――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負を教えてください。前田BEYOOOOONDSは優しさや愛にあふれるグループで、私はその空間がとても大好きなので、BEYOOOOONDSの輪をもっと広げていき、より多くの方々に私たちから幸せをお届けすることが目標です。日常の中で辛いこと、悲しいこと、苦しいこと、たくさんあるかもしれません。どんなときもBEYOOOOONDSはみなさんの味方なので、少しでも生きる支えになれたらうれしいですね。取材後記BEYOOOOONDSのユニット「CHICA#TETSU」から西田汐里さん、「雨ノ森 川海」から前田こころさん、「SeasoningS」から里吉うたのさんがananwebに登場してくださいました。BEYOOOOONDSというひとつのグループでありながら、キュートさもあり、ユニークさもあり、多面的にカラフルに輝いているみなさんです。そんなBEYOOOOONDSのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりBEYOOOONDSPROFILE2018年10月に結成され、2019年8月、1stシングル「眼鏡の男の子/ニッポンノD・N・A!/Go Waist」でメジャーデビュー。「BEYOOOOONDS」は、「CHICA#TETSU」「雨ノ森 川海」「SeasoningS」という3つのユニットの合体グループとなっている。グループ名の語源は、英語のBeyond(ビヨンド)で、「〜を超えて」「〜の向こう側へ」という意味。既成の枠組みなどを超えて、自由に未来へ大きくビヨーンと伸びていってほしいという思いが込められている。2019年9月、1stシングルが日本レコード協会からゴールドディスク認定。12月、第61回日本レコード大賞「最優秀新人賞」受賞。2020年2月、第34回日本ゴールドディスク大賞「ベスト5ニュー・アーティスト」受賞。2021年3月、2ndシングル「激辛LOVE/Now Now Ningen/こんなハズジャナカッター!」をリリースし、 デビュー曲から2作連続オリコン週間ランキング初登場1位を獲得した。2022年9月28日、2ndアルバム『BEYOOOOO2NDS』をリリース。InformationNew Release『BEYOOOOO2NDS』<Disc1>BEYO盤(収録曲)01.虎視タンタ・ターン02.英雄~笑って!ショパン先輩~03.Interlude寸劇「ノービヨンダ!ノーライフ」04.Hey!ビヨンダ05.Interlude寸劇「ノービヨンダ!ノーライフ」後編06.Now Now Ningen07.涙のカスタネット08.激辛LOVE09.ハムカツ黙示録10.Interlude寸劇「こころとりかのドリームマッチ」11.Never Never know~コメ派とパン派のラブウォーズ~12.Interlude寸劇「こころとりかのドリームマッチ」後編13.ビタミンME14.フレフレ・エブリデイ15.Interlude寸劇「迷走委員会」16.GOGO大臣17.こんなハズジャナカッター!18.オンリーロンリー<Disc2>UNIT盤EPCE-770601. 待ち合わせは JR 梅田駅で(CHICA#TETSU)02. 循環(雨ノ森川海)03. Get Back !ビニール傘の大冒険(SeasoningS)04. 二年前の横浜駅西口(CHICA#TETSU)05. ヤバイ恋の刃(雨ノ森川海)06. ワタシと踊りなさい!(SeasoningS)2022年9月28日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)EPCE-7705〜6(2CD)¥3,300(税込)(初回生産限定盤)EPCE-7702〜4(2CD+Blu-ray Disc+ブックレット)¥6,600(税込)※Blu-ray Discの内容は、「虎視タンタ・ターン」を含むMV集・各ユニット曲Dance Practice Movie・メイキング映像。取材、文・かわむらあみり
2022年09月27日【音楽通信】第122回目に登場するのは、圧倒的な歌声が幅広い世代に支持されている、日本を代表するシンガー、Toshlさん!小学校の全校生徒の前で歌ったことが歌の原風景【音楽通信】vol. 122その卓越した表現力や一瞬で心をつかむハイトーンボイスなど、圧倒的な歌声が多くの人たちに支持されている、日本を代表するシンガーのToshlさん。音楽活動はもちろんのこと、絵画展を開催するなど、クリエイティブな才能を発揮し続けています。近年は多くのバラエティ番組への出演によって、お茶の間でも注目が集まり、世代を超えてファンが増加しています。そんなToshlさんが、2018年から発表している名曲カバーアルバム“IM A SINGER”シリーズの第3弾となる『IM A SINGER VOL.3』を9月28日にリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――あらためてToshlさんの幼い頃の音楽環境から教えてください。母親がピアノ講師で、自宅でピアノ教室を開いていたものですから、小さい頃から家ではピアノの音が鳴っていました。ですが、ピアノを習ったことはなく、歌いたいがために独学でコードを練習するという環境。兄はフォークギターを弾いていたので、10歳ぐらいのときには、自分でも必然的にギターを弾きはじめるようになって。当時は、テレビの音楽番組やラジオの歌謡番組が好きで、よく観て聴いていた子どもでした。楽器を弾いたり、歌を歌いたいときは、当時はまだカラオケがない時代で、自分で伴奏をするしかなかったんです。その頃はアイドルが出ている雑誌『平凡』などを買うと、付録に歌本といわれるヒット曲の歌詞やコードが書いてあったので、知っている曲も知らない曲も、勝手に弾いて歌い始めた、というのが“自分で歌うことの始まり”だったと思います。――歌うことが楽しいと思った理由はなんだったのでしょうか。当時、バスに乗って下水処理場などを社会見学するような「学習旅行」というものがありまして、バスの中でみんなで歌うので、マイクがまわってくるんです。そのときに二葉百合子さんという、浪曲の歌手の方が発表した当時大ヒットしていた曲「岸壁の母」を歌ったんです。すると、大喝采を浴びまして。僕が女性の高い声でこぶしで歌うような曲を歌ったものですから、担任の先生がいたく感激をされて「あなたは今度、全校朝会で歌いなさい」と言われて、当時は全校生徒が1,500人ぐらいいたのですが、全校生徒の前で歌って1,500人から拍手喝采を浴びました。それから何度か、そういった機会を先生が設けてくださったので、何度も歌を歌って。「気持ちいいもんだな」「人前で歌うと拍手をもらえるんだ、歓声を受けるんだ」ということが、子ども心にすごくうれしかった。それが歌うということの原風景になっていると思います。――歌番組はもちろん、近年ではバラエティ番組にも参加されていますが、もともとバラエティ番組へ出演するきっかけはあったのでしょうか。歌を歌うことや人間関係について、行き詰まりを感じていた時期に、「新しいことにチャレンジしてみたい」と思ったことがきっかけですね。とはいえ、新しいことにチャレンジするときは不安もありましたが、まわりの信頼できるスタッフが後押しをしてくれたので、重い腰を上げて。そうすると「こういうオファーが来ています、こんな企画も」と、スタッフがバラエティへのチャレンジに誘ってくれたんです。最初は、僕がスイーツ好きだということを調べてくださった番組の方からの企画で、スイーツのロケをする番組でした。「スイーツのロケ?」と、最初はイヤイヤ参加していて(苦笑)。ですが、現場に行ったときに、スタッフのみなさんが一生懸命番組を作っていらっしゃる姿を目にして、考えが変わりました。その現場では、僕がテレビに出始めた頃と違って、カメラマンもアシスタントの方も、音声さんも音響さんも、ディレクターもプロデューサーも女性の方が多くて。スタッフの半数くらいの方が、女性という現場だったんです。その女性のスタッフの方々が汗をびっしょりかきながら、重い荷物を持って、一生懸命やってくださっているのを感じて、自分がイヤイヤそこにやらされる感いっぱいで参加しているのが恥ずかしくなって。みんなこうやっていい番組を作ろうと汗水たらしているのに、自分はなんなんだと。参加するには、みんなでいい番組を作らなくてはと反省しました。そこからですね。いまでも葛藤があるときもありますが、やると決めたら、音楽でもバラエティ番組でもなんでも、どんな仕事にしてもみんな真剣にやっているんだから、自分もそれ以上の気持ちでやらないとダメだと思って取り組んでいます。そこから始まったことが、いまの活動につながっています。――わが家の小学生の子どもも、バラエティ番組のToshlさんの歌を聴いて「あの歌のすごい人だ」と言っていますし、幅広い年代の方から反響があるのではないでしょうか。本当にうれしいですね。長い間歌ってきたなかで、いまが一番ポピュラリティーがあるとありがたく感じています。おっしゃってくださったように、子どもたちが応援してくれたり、「歌がうまいおじちゃん」と言ってくれたり(笑)、老若男女世代を超えたさまざまな方々の声はSNS等でメッセージを拝読することもあります。それが推進力にもなりますし、自分の殻を破って楽しくチャレンジしていくと、その先に必ず新しい感動があるんだな、と肌で感じていて。少しずつでも前に進んでいくこと、チャレンジすることは尊いことだなと思っています。ディズニー3部作が原点となったカバーアルバム――2022年9月28日に、カバーアルバムの大ヒット企画「IM A SINGER」シリーズの第3弾『IM A SINGER VOL.3』をリリースされます。前作から3年ぶりのタイミングとなりますね。いままで1年に1枚カバーアルバムを出してきたのですが、コロナ禍になりまして、全世界的に閉塞して萎縮する事態に直面して、一度アルバムの制作を延期にしていて。やっと第3弾が完成しました。歌いたいのに歌えない、届けたいのに届けられない、声を出したいのに出せないとなると、気持ちがヒリヒリしましたが、逆に、歌を歌うようになって以来一番「歌いたいんだ」という思いが湧き上がってきました。じゃあ、この状況のなかで歌うようにするには、どうしたらいいかとなったときに、今しかできないこと、今だからこそやりたいことを考えました。まず、最初に、キャンセルで空きが出ていた大きなコンサートホールをお借りして、たったひとりだけのお客さまの前で歌を歌うコンサートを開催する企画をしました。僕がお客さまになったら、たったひとりでコンサートホールを独り占めにして、推しのアーティストの歌をじっくり聴いてみたいですから。こんなこと、今しかできないな、と思いつきました。また、自粛ムードであらゆる仕事などもキャンセルとなり外出も憚れるような時期はひたすら絵を描いて、金沢21世紀美術館で美術展を、人数を制限させていただきながら開催させていただきました。どんな逆境でも匍匐前進して、運命を切り開いてやると決め、「プロジェクト運命」と名づけて、関係者の方々のご協力やファンのみなさんの心強い応援もいただきながら表現活動を続けることができました。深く感謝しています。そして今回、『IM A SINGER VOL.3』を届けることができてうれしいです。――今作には、ディズニー3部作が収録されていますね。音楽番組『題名のない音楽会』(テレビ朝日系 土曜午前10時)で披露され、同番組の司会者で俳優の石丸幹二さんとのデュエット曲「美女と野獣」、「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」、新たにカバーされた「スピーチレス~心の声」。ディズニーの名曲を歌いたいお気持ちが強かったそうですね。今回のアルバムに収録したい曲、歌いたい曲はたくさんあって当初悩みましたが、まずはやっぱりディズニーの曲が歌いたいと強く思いました。レコード会社の方がディズニーさんに打診してくださって、3曲歌ってもいいですよ、と言っていただいて。「3曲も歌っていいの!?」となって(笑)、厳選したのが今回の3曲です。今作は、ディズニーの音楽が、最初のスタート地点。世界中で多くの方が知っている楽曲であるということと、自分が感動した音楽であること、映画ももちろん素晴らしいということ。一番思い出深い曲は、「美女と野獣」なんです。24歳の時に、アメリカのロサンゼルスに渡って暮らしていたことがありました。その頃、ロサンゼルスのダウンタウンというエリアで、「ビューティー・アンド・ザ・ビースト」というミュージカルが公開されて。さっそく観劇したところ、ものすごく感激しまして、その後も何度も劇場に通いました。その帰り道に、ロサンゼルスのハリウッドにあるタワーレコードでミュージカルのサントラのCDも買って。その舞台で披露される英語が聞き取れるようになり、歌えるようになりたい、ということろから、自分の挑戦が始まりました。サントラを聴き込んでいましたね。さまざまな困難や葛藤の中でも、一生懸命やっていた青春の思い出もあり、ストーリーからは勇気や感動をもらって、背中を押してくれたあるいはなぐさめてくれた曲でもあって。ディズニーの中で一番好きな曲ですし、ディズニーのプリンセスの中では、(美女と野獣のヒロイン)ベルが一番憧れの女性でもあります。――石丸幹二さんとの「美女と野獣」のデュエットはいかがでしたか。石丸さんは日本でのミュージカル『美女と野獣』で、当時劇団四季にいらして、実際にビースト役を演じられた方。今回も楽しくデュエットさせていただきました。前作「VOL.2」のときに、キャッツの「メモリー」という曲を歌っていて、NHKの番組で披露するときに初めて石丸さんと出会ってデュエットさせていただいたことがありました。同年代で同郷ということでも盛り上がって、その際石丸さんが司会をなさっている「『題名のない音楽会』に出させてください」と自分からアピールしたところ、番組に何度も呼んでくださいました。また、石丸さんのラジオ番組に1か月間にわたりゲストとして招いていただき、ご縁が深くなって。石丸さんはアドバイスや心のうちを語ってくださるなど、プライベートなお話をさせていただくなかで、とても共鳴し、ともに高め合えるような関係となりました。今回デュエットで歌うときに、やはり石丸さんに歌っていただきたいと心よりお願いさせていただきました。――VOL.1と2では、男性曲と女性曲のカバーでしたが、今回VOL.3ではすべて女性シンガーのカバー曲です。選曲の決め手はどのようなものでしたか。選曲するときに、歌いたい曲ばかりで収集がつかなくなるんですよね。ただ、今回は最初に選んだディズニーの3曲が全部女性アーティストの曲だったので、まず女性の楽曲であることをカテゴリーにしようと選んでいきました。歌ってみたい曲、感銘を受けた曲などを自分で厳選していきまして、今回のラインナップになりました。絞るのが大変だったんですが、素敵な曲をみなさん歌ってもいいよ、と許可くださったので、ありがたかったですね。――カバー曲の一方で、今回はToshlさんの美しく切ないオリジナル楽曲「葉ざくら」も収録されていますが、どのようなシチュエーションで生まれた曲ですか。レコーディングを半年ほど、長い期間をかけて進めてきた間に、アレンジャーやレコード会社のスタッフの方など、みんなとコミュニケーションを取る時間を大事にしていて。僕が必ずスイーツを買っていって、レコーディング中に「モグモグタイム」と名付けて、いろいろな会話をするようにしました。そこでインスピレーションを受けて書こうと思ったのが、「葉ざくら」ともうひとつのオリジナル曲「しあわせになるんだよ」です。「葉ざくら」は、アレンジを担当してくれた川口大輔さんのプライベートスタジオでのモグモグタイムの際、遺影が飾られていたことに気づきました。「お父さまですか?」というお話から「そうなんです、こういう父でこうだった」という思い出のお話を拝聴した際、レコード会社のスタッフの方も加わって、他界した自分の父のことも思い出しながら切なくなりながら話して。一緒にいま作ってくれている大切なスタッフの思いも込めた楽曲を書きたい、そうすれば僕だけではなく、みんなの曲になるからという思いから作った曲です。「にゃんたろう」というワンちゃんを飼っているんですが、桜並木を一緒に散歩するのが好きで。その頃はちょうど桜の花が蕾から徐々に咲いて、やがて満開になり、そして散っていく桜の季節でした。葉ざくらになった頃、太い樹の幹からも、可憐な花が咲いていて、その周囲に新しい小さな芽が出ているのを見つけたんです。時の流れとともに、親から子へ、そして孫へ、さらにその先へ、連綿と続いてく命の連鎖を感じて、にゃんたろうを抱きながら何か「じ〜ん」とする感覚がありました。そこから「葉ざくら」のアイデアが生まれました。――オリジナル曲「しあわせになるんだよ」は、以前、ニンゲン観察バラエティ『モニタリング』(TBS系 毎週木曜午後8時)の企画で林家たい平さんとのコラボレーション曲としても披露されたウエディングソングですよね。そうなんです、番組のオーディション企画でたい平さんを選ばせていただきました。ふたりで歌わせていただく場合、どういうシチュエーションがいいかなと考えると、自分が好きなモニタリングはサプライズで結婚式をするとか、プロポーズするとか、新曲を披露するなら感動的なものがいいなと。たい平さんは娘さんがいらっしゃることも知り、そこで、娘さんへの思いをスタッフ複数人からもうかがって、父親になるとこういう気持ちになるんだなという思いと、自分の想いも重ね合わせ、親子の想いを書きました。――今回、カバー曲とオリジナル曲の両方を収録されていますが、歌唱する際はカバー曲よりもオリジナル曲のほうが歌いやすいなどの違いは感じるものでしょうか。歌いやすい曲というのはありません。カバーをさせていただくというのは、とてもプレッシャーがあります。本番のボーカルレコーディングの前に自分のスタジオでも練習レコーディングして、プリレコーディングを重ねています。カバー曲は、その楽曲自体や、その楽曲を歌われている歌手の方や、その楽曲のファンのみなさまになるべく失礼のないように準備をする、というのが礼儀だと思っています。楽曲を研究し、探求し、練習し、リスペクトを持って歌わせていただくために、しっかり準備をしてからレコーディングに臨みます。楽曲に対して心身を削るように深く取り組めば取り組むほど、自分へ返ってくるものも深くなるような気がしていて、それが自分の表現を進化、深化させてくれる大切なエレメントとなっているのかなとも思っています。挑戦を続け、日々何かを感じる心を大切に育む――お話は変わりますが、普段のご様子も教えてください。曲作りのお話の際もお名前が出ておりましたが、愛犬のにゃんたろうちゃんはインスタグラムにもときどき登場しますね。縁があって僕のところに来てくれて4年ぐらい経ちますが、にゃんたろうには、いつも救われています。――ワンちゃんですが、「にゃんたろう」というお名前なのですね?ニャンちゃんも好きなんですが、ワンちゃんなので(笑)。それから、にゃんたろうは「ワン」とは鳴かなくて、たまに鳴くときは「ぶ〜」と鳴きます。背中の模様だけ見ていると、ニャンちゃんにも見えるときがあります。「なんかどっちつかずだな、おまえ、犬なのか猫なのかはっきりせい!」というところからも「にゃんたろう」と名付けました(笑)。歌を歌ったり、絵を描いたり、日々クリエイティブなことをすると精神的にも肉体的にも疲弊することが多くて。そんなときに、にゃんたろうとの時間は、僕にとっての癒しであり、「にゃんくんのためにも頑張ろう!」と思えるかけがえのないパートナーです。――オリジナル曲「しあわせになるんだよ」に、「チワワの刺繍」という歌詞も出てきますよね。そうなんです、入れておきました(笑)。――音楽活動以外では、絵画展を開催されるほど絵を極めていらっしゃいますが、ご趣味というと絵のほかには、スイーツ作りでしょうか。最近はなかなかスイーツ作りができないんです。やるとすれば、料理は餃子を焼くぐらいはしますね(笑)。趣味とは言えないかもですが、絵をずっと描き続けています。先日も、何か月もかけて100号のキャンバス10枚を使用した大作の絵を完成させました。実は、数年前から山形県内に新しく建造する音楽ホールのプロデュースをさせていただいて、その会場の入り口正面に飾る絵を描かせていただきました。音楽ホールを作るという大きなプロジェクトに関わらせていただいたので、音響や音楽ホールの建築の勉強もして、プロデュースもさせていただきました。これも僕の新たな挑戦でもありました。自分でプロデュースしたコンサートホールでコンサートができることも夢のような話で、今からワクワクしています。ananwebの読者の方は女性が多いと思うので、みなさんもご興味があるかもしれませんが、実は僕、化粧品の研究をしています(笑)。これも趣味と言えるかわかりませんが、お肌のトラブルで悩んでいた時期もあり、とても興味があって。たとえばコンサートグッズなども、デザインなども含めなるべく全部自分で作るようにしています。音楽も絵もグッズなども創作作品という意味で同じだと思っていて、すべて自分でやれるところはやりたい。祖父が畳職人だったせいか、職人気質が好きで、何事にも自分の心を宿したいという気持ちがあって、それはお肌に対しても同じ。――すごくお肌がきれいですね。ありがとうございます。数年前から、「どういうものがどうお肌にきくのかな?」と、いろいろと試行錯誤しています。自分でいいものを作れないかな? と、化粧水や乳液、美容液について専門家の方にもお話をうかがったり、調べたりしています。歌でもアートでもグッズでも化粧品でも、なんでも、結局、みなさんが喜んでくださるようなものを創り出すことが楽しくて嬉しいし、それが自分の喜びなんです。――襟元のカメオも素敵ですが、こだわりがあるんでしょうか。8年ほど前に茶道を始めて、人に対するおもてなしの心や所作を学ばせていただいています。人になるべく嫌な思いをさせないよう、相手に対しての敬意が大事。身なりや立ち居振る舞いなどはできる限り、失礼のないように心掛けています。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。今回、ひとつのアルバムという作品が生まれました。たとえば『題名のない音楽会』で石丸さんと一緒に歌わせていただいた様子が先日オンエアされましたが、アルバムのレコーディングを経て、また新たに歌った「美女と野獣」は、自分の中でなんとなく成長しているようにも感じます。そうやって経験するたびに日々アップデートしてくのは、音楽も絵も、また、人との関わりもそう。ですから、常に挑戦を続けていくことにはゴールがないんですよね。日々、新しい何かに気づけたり出会えたりすることがあるので、そういう新鮮な感動を感じる心をこれからも大切に丁寧に育んでいきたいです。ananさんに出るのは30年ぶりぐらいなので、また出していただけるようにもっともっと張り切ってがんばります。取材後記ロックからポップスまで、多彩な楽曲で表情豊かに歌声を聴かせてくださるToshlさん。撮影では白いスーツを華麗に着こなし、さまざまなポーズをとってくださり、インタビューではひとつずつ真摯にお応えくださいました。圧巻の歌声は、新作でもたっぷり堪能することができます。そんなToshlさんのカバーアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・山本嵩取材、文・かわむらあみりToshlPROFILE2010年より本格的に「Toshl」名義での活動をスタート。聴き手の心をとらえて話さない圧倒的なボーカルで、名実ともに日本を代表するシンガーとして不動の地位を確立。2018年には20年ぶりのメジャーレーベル作品となる初のカバーアルバム『IM A SINGER』を全世界リリース。続編に期待する多くのファンの声に応えてリリースした、2019年のカバーアルバム第2弾『IM A SINGER VOL.2』は瞬く間にヒット。2020年には日本テレビ系ドラマ『ギルティ~この恋は罪ですか?~』主題歌「BE ALL RIGHT」を配信限定でリリースした。2022年9月、人気のカバーアルバム第3弾『IM A SINGER VOL.3』をリリース。また、2018年からは「龍玄とし」名義により表現活動において絵を描くことにも注力し、全国各地での個展を成功させた。音楽活動はもとより、バラエティ番組などへの出演により、マルチな才能を発揮。老若男女、世代を超えた新たなファン層が増え続けている。InformationNew Release『IM A SINGER VOL.3』(収録曲)01.タマシイレボリューション(Superfly)02.イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに03.美女と野獣※石丸幹二とデュエット04.三日月(絢香)05.難破船(中森明菜)06.葉ざくら(オリジナル曲)07.Hero(安室奈美恵)08.桃色吐息(高橋真梨子)09.スピーチレス~心の声10.You raise me up(ケルティックウーマン)11.しあわせになるんだよ(オリジナル曲)2022年9月28日発売*収録曲は全形態共通。*全形態ともに初回プレス分のみ封入特典あり。先着で特製トレカ(5種のうち1枚ランダム封入)付き、無くなり次第終了。(通常盤)TYCT-69244(CD)¥3,300(税込)(初回限定盤)TYCT-69243(CD+DVD)¥5,500 (税込)【DVD収録内容】「葉ざくら」MUSIC VIDEO /「葉ざくら」MUSIC VIDEO Making & Short Interview / Toshl SELF LINER NOTES OF “IM A SINGER VOL.3”/「葉ざくら」(弾き語り Live) /「桃色吐息」(弾き語り Live)/「しあわせになるんだよ」(弾き語り Live)写真・山本嵩 取材、文・かわむらあみり
2022年09月27日【音楽通信】第121回目に登場するのは、でんぱ組.incやももいろクローバーZへの楽曲提供や、ほかのアーティストとのコラボでも話題の弾き語りトラックメイカーアイドル、眉村ちあきさん!ライブの対バン相手により音楽に興味が湧く【音楽通信】vol.1212019年より“弾き語りトラックメイカーアイドル”として活動している、眉村ちあきさん。自身の音楽活動はもちろんのこと、でんぱ組.incやももいろクローバーZへの楽曲提供や、他アーティストとのコラボレーション曲を発表するなど、多彩な才能を発揮しています。そんな眉村さんが、2022年7月7日に初のEPをリリース。さらに、10月30日には、東京・LINE CUBE SHIBUYAでのワンマンライブを控えているということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――幼少時に音楽にふれたきっかけから教えてください。父が沖縄出身なので、家ではいつも沖縄民謡や沖縄のラジオが流れていました。でも、小さい頃に音楽に興味を持つことはなく、気になるようになったのは高校3年生から。K-POPが流行りだして、クラスのみんなで聴いたり踊ったりしていた普通のJKとして過ごしていました(笑)。そんななかで、テレビに出ているアーティストの方の歌を聴いて「これぐらいだったらわたしも歌えそう」と、なぜか自分でも歌える気がして。高校を卒業してから、縁あってアイドルグループに入ってライブ活動をするようになりました。ライブをするうちに対バン相手の音楽を細かく聴くようになっていって、「こういうジャンルがあるんだな」といろいろな音楽に興味を持ちはじめたので、ちゃんと音楽を聴きはじめたのは高校を卒業してからだといえますね。――いまは弾き語りトラックメイカーアイドルとしてご活躍中ですが、もともとご自身で楽器を始めたのはいつ頃だったのでしょうか。アイドルのときは歌だけに集中していたので、ギターを始めたのは20歳ぐらいからです。ソロになって最初の頃は、打ち込みのトラックメイクから始めて、遊ぶように音楽を作っていました。曲ができるとひとりでライブをするようになって、グループと違ってひとりだと何をしたらいいのかわからないから、楽器でも始めようかと。――もともと人前に出ることがお好きだったのでしょうか。そうですね、目立つことが好きかもしれないですね。保育園のときのお遊戯会では、客席にいる保護者たちの前に登場して、ひとりで歌う役をやって「なんて気持ちいいんだろう」と思っていました。親の会社の忘年会で、小学生のときからマイクを持って「みんな聞いてー!」とMCをしたことも(笑)。学校で合唱するときは、他の子のパートにつられて音程がはずれてしまう子もたまにいましたが、「なんでつられてるの?」と内心思っていましたね。大勢よりも、ひとりで歌ったほうが楽だなって。でも、高校生時代の自分のカラオケ動画を観ると、いまよりすごく下手なんです。だから、自分で歌がうまいと思って歌っているイタい人なんですが(笑)、自信だけはずっとありました。――2019年にデビューされましたが、節目の3年を超え、現在4年目を迎えられて心境はいかがですか。曲を作るうえで、気持ちいいものをひたすら求める、というスタンスはデビュー当時から何も変わっていません。でも、パフォーマンス面においては、まったく意識が違いますね。ブレスをマイクに入れるか入れないか、ひと息にも集中するようになりましたし、ライブの本番前に何を飲むか気をつけるようにもなりました。ひとつのライブに対しての意識が全然違いますね。事前に対バン相手にまつわるものを調べて、イントロで音に組み込んだら向こうのお客さんがうれしいんじゃないかとか、おもてなしの心が芽生えて。どうやったらもっと楽しんでもらえるかを以前の百倍ぐらい考えるようになりました。わたしの歌は1年前より百倍うまくなった――2022年7月7日にEP『マルコッパ達』を配信されました。現在放送中のTVアニメ『ちみも』(テレビ東京系 毎週木曜 深夜1時30分)の主題歌「マルコッパ」も収録されていますね。お話をいただいてから、初めてアニメのオープニング曲を書き下ろしました。アニメの曲といえば、有名な「おどるポンポコリン」が思い浮かぶんですが、0歳から100歳まで歌えるような、一度聴いたら忘れられないようなこの曲を超えたいなと。キャッチーな曲を作るのは得意なので、自分のなかのキャッチーさを全部「マルコッパ」に込めました。――2曲目の「レイニーデイ」は、ご自身でも歌うのが難しかったそうですね。ピッチを当てるのが難しいメロディを作ってしまったんです(笑)。たとえば「イエーーーイ!」と大きい声を伸ばし続けるのは、わたしとしては簡単なんですが、小さい声で細かく歌うのは音がズレやすいから難しくて、集中しないと歌えない。でも一見、小さい声より、大きい声で「イエーーーイ!」と歌う人のほうが声が出ていてうまいと思われやすいんですよね。本当はわたしもそっち派なんですが(笑)、それは簡単にできるから、今回は難しいメロディを歌うというのが新鮮でした。――EPの収録曲として、急きょ作った楽曲なんですか?いえ、EP用に作ったわけではなかったんですが、偶然EPの制作時期にできました。曲はいつも作りたくなったら作る感じなんです。この曲は、雨の日に聴けるような、気分が上がるような曲がほしいなと思って作って。それも友人の(歌手の)南波志帆ちゃんとご飯を食べているときに、ふと曲のイメージが浮かびました。彼女に「どんな顔がタイプなの?」と聞かれて、「目がギョロギョロしている人がスキ」と答えたら、「ああ〜後ろから後頭部をポンって叩いたら、ポロって落ちちゃうくらいに目が出てる人ね」と言われて。もしも本当にポンと叩いて両目が落ちて、その目玉がふたりで旅をしたらどうなるんだろう……ということを考えていたら、そこからこの曲ができたので、実はこの曲は目玉の旅の歌なんです(笑)。――目玉らしき言葉は歌詞に出てきませんが(笑)、お友達と食事中にフッと湧き出たイメージから曲ができたんですね。はい。だから、南波志帆ちゃんに、ありがとうって思っています。――ご本人もうれしいんじゃないですか、ふたりの会話から曲ができたこと。いえ、まだリリースしたことも言っていません(笑)。自分でも「そんなところから?」というところからイメージが湧くので、そんなときはすぐ「曲を作らなきゃ!」という気持ちになります。――3曲目は旧友という、音楽プロデューサーのTACOS BEATSさんと共作された「浜で聴くチューン」ですね。この曲は、TACOS BEATSさんのスタジオに遊びに行ったときにできた曲です。お茶やお菓子を持ってパーティをするつもりで行ったら、「ちょうどいま作ってるビート」と曲を聴かせてくれて、「じゃあメロディ入れていい?」と返してすぐ作りました。TACOS BEATSさんは、わたしが全然作らないベクトルの音楽を作っているので、新鮮です。わたしは歌詞とメロディをすぐ作ってしまうんですが、「あとはここの部分作ってね」と言うと「ちょっと時間ちょうだい」と言われて。翌週、スタジオに遊びに行ったら、曲が完成していました。――アーティストの方によって、曲作りのペースは違うこともありますよね。TACOS BEATSさんは、ビートはすぐに作ることができる方なんですが、わたしはビート作りに時間がかかるんです。人には人のやり方があるなと思いつつ、共作はすごく楽しかったですね。TACOS BEATSさんは、わたしがアイドルグループをやめてからやった、1回目か2回目のソロライブのときのPAさんだったんです。そこで仲良くなって、「眉村ちゃんはもっと曲をたくさん作ったら売れるよ」と言ってくれていて。まだ持ち曲が4曲ぐらいしかなく、お客さんもゼロのときでしたが、その言葉をモチベーションにして家に帰って曲を作る日々でした。トラックメイカーでもあるTACOS BEATSさんがプロデュースしていたアイドルグループと対バンしたのですが、彼の作った曲を彼女たちは歌っていて。いつかTACOS BEATSさんのようなトラックメイカーになりたい、いつか共演できるようにがんばると言っていたので、まさか一緒に曲を作る日がくるとは。いまは友達のように遊んでくれていますが、共作がリリースされることは、お父さんのように喜んでくれています(笑)。――ほかの方とのタッグという意味では、今年2月に発売されたアルバム『ima』ではシンガーソングライター堂島孝平さんとのコラボ曲がありましたし、堂島さんの8月発売のアルバムにも新コラボ曲「てんてん」が収録されていますよね。はい。堂島さんは、びっくりするぐらい考え方もすべてが似ていて、まるで自分としゃべっている感覚になるぐらいです(笑)。同じというのも恐縮ですが、メロディラインの作り方やライブのパフォーマンスにおいても、共感できるといいますか。もし同世代だったら、絶対負けないぞと火花がバチバチだったかもしれません。だから、実際には世代も違ってちょうどいいところが、仲良しの秘訣かも(笑)。でも、ステージの堂島さんしか知らないんです。プライベートの話は一度も聞いたことがないので、もしも一緒にご飯に行って、「あれ? 違うんだけど」となるのも怖いので、これ以上は深堀りしません(笑)。――いまが絶妙な距離感なんですね。コラボといえば、日米ロックユニットのザ・リーサルウェポンズと眉村さんのコラボ曲「サムライディスコ feat.眉村ちあき」も9月28日にリリースされます。この曲は演歌なんですよ。レコーディング当日に「演歌っぽく歌ってみて」と突然言われて、「え?演歌は聴いてきてない」と(笑)。ふたりの理想の形になるよう苦労しましたが、新しいジャンルを作ろうとしているその姿勢に刺激を受けました。――コラボ以外にも、でんぱ組.incとももクロのニューアルバムに楽曲提供されていますね。もともと相手の要望を聞くということができないタイプだったんですが(笑)、この2年ぐらいで映画の挿入歌や番組のテーマ曲を担当させていただく機会があって、相手の求めているものを作りながら自分の色を出す、というやり方を覚えて。今回、その経験をでんぱちゃんとももクロちゃんの2組に生かすことができました。2組とも女の子グループですし、わたしにしかできない歌詞に仕上げてもわかってくれるかなと。2組とも、取材などで歌詞について「すごくわかる」と言ってくれているので、こちらの気持ちが伝わっていてうれしいです。――2022年10月30日には、東京・LINE CUBE SHIBUYAでバンド形態のワンマンライブ「眉村ちあきの音楽隊 – Episode 2 -」を開催されますね。昨年2021年9月の東京・中野サンプラザの「- Episode 1 -」公演を経ての今回となります、どのようなステージになりそうですか。今回も音楽隊のメンバーは同じで、この1年で増えた新曲をこのバンドで披露します。わたしがレベルアップしたぶんだけ、レベルアップした曲をみなさんに聴いていただけますし、リハーサルで細かい部分まで指摘できるのも楽しみですし。音のひとつひとつにまで耳を研ぎ澄ませられるようになっていて、1年前よりも鋭い音を目指せる気がします。なんといっても、フロントマンとしてのわたしの歌が1年前より百倍うまくなっていますし、見せ方の意識も全然違うので、ぜひ期待して観に来てほしいですね。ライブを観たら悩みがなくなったと思わせたい――オフの日はどんなふうに過ごしていますか。最近“ひとりではしご酒”にハマっています。ひとりでお店に行っても、コロナ禍だから全然しゃべらないですし、隣の人もしゃべりかけてこないからちょうどいいんですよ。「ひとりはしご酒女」とキーワードで検索してYouTubeを見て、「この子が行っているこの店おいしそう」とそのお店に行ったり。もともとお酒に強くないですが、ひとり酒は楽しいです。――もともとのご趣味はなんですか。宝塚が好きで舞台をよく観に行きました。家でも真似してセリフを言っていたんですが、最近好きな子が辞めてしまって……。宝塚のほかにも、『鬼滅の刃』などの2.5次元ミュージカルや、劇団四季の『バケモノの子』も観ました。ステージの端から端まで観て、「この役者さんはすごく歌がいいな」と思ったら、帰ってから調べるという楽しみ方もあります。もともとパーティといいますか、みんなで歌って踊ってという状況が好きなんです。わたしもいつかステージでは、コーラスや楽器隊を後ろにたくさん従えて、グルグル回転する舞台装置も使ってみたいですね。――美容面は普段どうされていますか。とくにライブ前にはよく走ります。ステージの体力作りという面と、血行がよくなることで代謝がよくなり肌もキレイになるから。さらに、最近は配信もあるので、アップになったときになるべくみなさんに、肌がキレイでカワイイと思ってもらいたいんですよね。普段の食事内容もなんとなく気をつけてはいますが、ananwebを読んでいる美容に詳しい方からすると、たいしてタメになるようなことはないかも(笑)。朝ごはんはもりもり食べて、夜ごはんは少なめです。コロナ禍から自炊を始めましたが、朝ごはんは定食ぐらい品数をたくさん作って、自炊を楽しんでいますね。夜にお酒を飲むときは、おつまみをちょっと食べるだけにして、なるべく食べないようにがんばっています。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。いつか矢沢永吉さんのように、ドンと構えて、何を言っても人の心に響くような説得力がある人間になりたいですね。そのためにも、時には傷つくことや、人を憎むようなことがあってもいいと思いますし、いろいろな経験がしたいなと。歌詞に説得力をもたらすような人生を送りたいですし、説得力のある歌を歌えるようになりたい。「眉村ちあきのライブを観たら悩みなんてどっかいっちゃった」と思わせるぐらい、海のような大きな人間になりたいです。取材後記トラックメイカーアイドルとして表舞台で活動しながら、自身のオフィスである「(株)会社じゃないもん」の代表取締役社長を務め、ほかのアイドルの方への楽曲提供も手がけるなど、マルチな才能を持つ眉村ちあきさん。ananwebの取材では、ニコニコとほがらかな笑顔と不思議な世界観で、惹きつけてくださいました。そんな眉村さんのEPとワンマンライブをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・北尾渉取材、文・かわむらあみり眉村ちあきPROFILE東京都出身。弾き語りトラックメイカーアイドル。アイドルであり、作詞、作曲、編曲、トラックメイクまでを自ら行う。アイドルグループとして活動後、2016年2月より、眉村ちあき名義でソロ活動をスタート。2019年1月、インディーズでのベストアルバム『ぎっしり歯ぐき』をリリース。2019年5月、メジャー1stアルバム『めじゃめじゃもんじゃ』でデビュー。2022年2月、4thアルバム『ima』をリリース。7月、EP『マルコッパ達』をリリース。10月30日、東京・LINE CUBE SHIBUYAにてバンド形態のワンマンライブ「眉村ちあきの音 楽隊 – Episode 2 -」を開催する。InformationNew Release『マルコッパ達』(収録曲)01.マルコッパ02.レイニーデイ03.浜で聴くチューン(眉村ちあき&TACOS BEATS)2022年7月7日発売写真・北尾渉 取材、文・かわむらあみり
2022年09月19日画面の向こうにいる満島ひかりを見ていると、言葉にならない感情がこみ上げてくるのはなぜだろう?説明的演技でも感情演技でもなく、ただただその人物にしか見えない“生きた”演技を披露し続ける満島さん。『かもめ食堂』や『彼らが本気で編むときは、』、ドラマ「珈琲いかがでしょう」で知られる荻上直子監督の新作『川っぺりムコリッタ』(9月16日公開)で満島さんは、様々な事情を抱えた人々が集うアパートの大家・南に扮している。松山ケンイチ、ムロツヨシ、吉岡秀隆扮する住人を見守りながら、自身も夫を亡くした哀しみを抱えるシングルマザーの実像――その人間味すらも豊かに体現した満島さん。シネマカフェでは、彼女の高い感受性に裏打ちされた演技について、単独インタビューでじっくり語っていただいた。魅力的な“南さん”の役作りは"感じる"を意識――満島さんが演じられた南さん、自己紹介するシーンから非常に魅力的でした。出ずっぱりではないキャラクターですが、それを全く感じない密度で。ある種“スポット出演”的なポジションに臨むにあたって、荻上直子監督との話し合い含めてどのような準備をなさったのでしょう?ありがたいことに、どちらかというと出ずっぱりの役のほうが増えているので、少ししか出てこないけど気になる人というか、気楽だからこそ"さじ加減"の難しい役どころも、サラッとできたらいいなって気持ちもありました。当て書きされていない脚本でお芝居をするのも楽しそうで。荻上監督は、初めて会ったときから佇まいが独特で、お話しの口調にも選ぶ言葉にも妙なおもしろさが漂っていて…どんな現場になるんだろう、いったいどうやって映画を撮るんだろうと興味が湧いちゃったんです。役のヒントをたくさんくれたのは、伝説のスタイリスト・堀越絹衣さんの衣装たちです。荻上組常連の堀越さんは、日本のファッション界では知らない人はいないってくらいの方なのですが、衣装合わせのときにどんどん提案して下さって。「女だけの生活だから、男の方と何かがある感じに見えないためにも、ステテコを履いているのって良くないかしら?スカートの下がスースーしているより気持ちいいわよね」なんて、監督も交えて服から役を考えるいい時間でした。あと、実の妹が“みなみ”という名前でして、すごく紛らわしいなと思いながらお芝居をしていました(笑)。そんな感じで、がんばって準備をしたというより、一緒にいてゆったりな気持ちになれる俳優さんばかりの現場だったので、環境に身を任せて、"感じる"を意識していたように思います。頭を使いすぎて、呼吸が浅くならないように。役者の醍醐味は"その土地で暮らしているごっこ"!?――本作に限らず、満島さんの演技を拝見していると豊かな感受性を感じます。「そう思わないとできない」から作品によっては事前に下調べもされると伺ったのですが、今回のように現場で吸い上げる形も多いのでしょうか。本当に作品によりますね。準備に関しては、自分のスタイルは持っていません。私自身がすごくふざけた部分やダメな部分も持っている人で、常に「どうやって抜こうかな?」と考えてしまうくらい(笑)。映画の中とはいえ、演じる人物それぞれに呼吸が通っているとすてきだなと思っていますが。撮影までの準備の期間は短いことも多くって、時間のない中で脚本で描かれていることにまっすぐ向き合うと、妙な力が入っちゃうこともあります。だから発想を変えて、意味がないことをいっぱいしたりします。連想ゲームみたいな感じで、脚本を読んでただ連想したことをやってみたり見てみたり…。今回は富山ロケだったので、新米の香りに誘われて3軒くらい米農家さんに行って、おいしいお米を作る方々とお話をしました。撮影をする土地で、そこにただ生きてたら「いいな」と思うところに顔を出してみるんです。"その土地で暮らしているごっこ"は、役者さんの醍醐味かもしれませんね。――とても面白いお話です。そういった部分から、役の人間味が生まれてくるのですね。景色とか気候の持つ力には影響されます。影響を受けていたのか何なのか、映画を観て、南さんのしゃべり方が早くてびっくりしました。「なんでこんなに喋るの速いんだろう、南さんをどういう風に捉えていたんだろう」って。自分で分かりながら演じているわけではなかったので、新鮮に感じました。南さんはギリギリまでは気持ちを話すけど、つかまれたくない人なのかな?とか、観ていて感じました。重くなりそうになったら去るとか、一緒に感動しそうになったらどこかに行くとか、人と共感・共有する時間が苦手な人なのかなとか。落ち着いて振る舞っているけど、大切な人を亡くしてまだ時間が経っていないから、本当の自分の気持ちがあふれかえる前に相殺するような感じがあって、女の人ってなんて健気なんだろうと思って観ていました。――完成した作品をご覧になって、役の人となりに“気づく”という感覚なのですね!これまでもそっちの方が多いですね。多分、無意識で演じている部分が多いんだと思います。ただ、フィジカルの意識はすごく持っています。身体のクセは、自分の日常の習慣からなかなか離れられないじゃないですか。だから役柄によって、ちょっと違う体の動きをできるようには考えています。例えば同じ距離を歩くのでも、「この人は4歩だけどこの人は2歩でいけるな」だったり、「この人は普段から草履をはいているから足が地面から離れにくい歩き方だろうな」といったことは意識していて。今回本当にラッキーだったのは、子ども役のふたりが地元の小学生だったことです。実際にその地で生きている子たちだから、目の前にお手本がいるんですよね。現場で子どもたちのお母さんとも話せたし、自由な子どもたちだったので、勝手についてくるのが面白くて。北村光授くん(吉岡秀隆さん演じる溝口の息子役)のほうがちょっと私のことを意識し始めて「俺あっち行くけど満島さんも行く?」って言ってきて、「私はまだここにいるかな」と返したら「じゃあ俺もいようかな」って残ったりすることもありました(笑)。それを見た吉岡さんが「懐かしいな。俺のときは田中裕子さんだった」と話していました。――現場のいい雰囲気が伝わってきます(笑)。しかし、いまおっしゃった通り現地の方がいてくれるのは大きいですね。僕たちが映画で観るのはあくまでその人物の一部であって、描かれないだけで人生はそれぞれにある。ただ演技ではその描かれない過去だったり生活も匂わせないといけないと考えると、その土地の風土や空気感を知っている人たちの存在は心強いなと感じます。撮影した場所には実際に住んでいる方もいるのですが、家賃が1万円もしないようなすごいところなんです。なかなかに特殊な場所に住んでいる方々だから、皆さん個性豊かでした。家賃が高い家に住む才能もあるけど、低すぎる家に住むにも才能がいると思うんです。「人生をどう面白がれるか」を体現している住人の方たちがいたので、余計に感じやすかったですね。なんだか私の演技の在り方って、植物っぽいんですね(笑)。土地の光を浴びて光合成して、地面から水を吸い上げるみたいにその場所の空気を感じて、人とふれあって…。確かにそうやってお芝居しています…。映画のパワーを再確認「“形に残らない芸術”はやっぱりいいな」――満島さんが以前『奇蹟がくれた数式』を観て過呼吸になるくらい感動した、というお話を聞きました。心を使うお仕事のぶん、役者さんによっては感情が引っ張られすぎてしまうから“閉じて”映画を観る方もいらっしゃるかと思いますが、満島さんはいかがですか?作品もそうなのですが、演者さんによって変わると思います。私にとってはデヴ・パテルさんで、観ているうちにどこかの部分がつながる感覚がするというか、シンパシーを感じすぎてしまうんでしょうね(『スラムドッグ$ミリオネア』『LION/ライオン ~25年目のただいま~』ほか。最新主演作『グリーン・ナイト』が11月25日公開)。自分がその状況になっている気持ちだったり、近親になった気がして。そういった風に、持っていかれやすい俳優さんがいますね。監督だと、ジュゼッペ・トルナトーレさんの映画を観るとすごい泣いちゃいます(『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』等で知られる)。懐かしいんだか何なんだか、波長がそろっちゃって感動しすぎちゃうんですよね。『奇蹟がくれた数式』もそうですが、観たいのに気持ちが溢れてきて最後まで観られないから、映画館では難しくて。家で観て、何回も止めて、また観てを繰り返してようやくエンドロールにたどり着きました(笑)。――感受性が豊かすぎるから…。限られた作品だけなので、普通に見られるものも多いですが、それくらいの気持ちにさせてくれる映画ってやっぱりすさまじいパワーだなと感じます。『川っぺりムコリッタ』はどんな映画になるのか想像できていなくて…でも、想像以上に好きでした。荻上さんの監督作品はこれまでも好きで観ていたのですが、これまで以上に人間と自然が同等に映っていて、人の感情すら風景の一部に見えて。その感じがすごく好きでした。――すごくわかります。ナメクジやイカの目玉だったり、自然が持つある種のグロテスクさ、生命みたいなものが映し出されていました。撮影監督の安藤広樹さんは、これまでにCMやMVを中心に活躍されている方で、商業映画の長編は2本目くらいと聞きました。良い画を撮られますよね(『いなくなれ、群青』、本作を経て『線は、僕を描く』の撮影監督を務める)。私の撮影最終日は小さなハイツムコリッタの庭に、ホースで水をかけて虹を出す場面だったのですが、撮影が終わって安藤さんに「お疲れ様でした」って言うと「満島さんって何を考えているんですか」と聞かれまして。「他の役者さんたちはこういう思想でいまこういう場面になっているというのがわかるから、段取りやリハーサルを見て『こういう風に撮っていこう』を考えられるんだけど、何を考えて何を見ているのか全然わからなかった。もしかして僕たちに見えないものとか見てますか?」と言われました(笑)。――きっとそれは、満島さんが南さんを生きていたからでしょうね。カメラを意識しない境地まで到達されているというか。どうなのか分かりませんが(笑)、そう言っていただけて嬉しいです。ただ私、本当にカメラを無視しちゃうときが多々ありまして…若かりし頃はお芝居中にカメラに何回もお尻を向けちゃって、よく怒られていました(苦笑)。自分がそっちのほうを好んでいるからこそそうなってしまうのだと思いますが、やっぱり意識がその場所に集中してしまうんですよね。――それもまた感受性の高さと紐づくように感じますが、同時に負荷を背負いすぎてしまうのではないかとも心配になります。何かしらでバランスはとっているんだと思います。自分でも、負荷を他人よりかけちゃっているところと、信じられないくらい抜いているところの両方があるような気がしています。でも、おっしゃっていただいたように心を配ってもいるんでしょうね。今回『川っぺりムコリッタ』を観て改めて「映画の中っていいな」と思えました。上手い下手じゃなくて、意味が分からないからいい。映画って、意味が分からないことを栄養にしてくれるじゃないですか。わかり良いことのほうがどんどん増えているなかで、映画に生きている“形に残らない芸術”はやっぱりいいなと再確認してしまいました。◆ヘアメイク:星野加奈子(KanakoHoshino)◆スタイリスト:安野とも子(Tomoko Yasuno)◆衣装クレジット:ワンピース 私物/ジュエリー CASUCA/靴安野商店(text:SYO/photo:Masumi Ishida)■関連作品:川っぺりムコリッタ 2022年9月16日より全国にて公開© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会
2022年09月16日【音楽通信】第120回目に登場するのは、高らかに愛を歌う「魔法の絨毯」でも知られる、シンガーソングライターの川崎鷹也さん!高校3年生の文化祭がきっかけで音楽の道を志す【音楽通信】vol.1202018年から、シンガーソングライターとして本格的に音楽活動をスタートさせた、川崎鷹也さん。2020年には、TikTokから楽曲「魔法の絨毯」が大ヒットして人気に火がつき、テレビ出演なども増加しました。2021年には、作詞家の松本隆さんのトリビュートアルバム『風街に連れてって!』に参加し、松本さんからは「君は最高だね、君は一生大丈夫だよ」と川崎さんの歌声を絶賛。そんな川崎さんが、2022年9月14日に、カバーEP『白』をリリースされたということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――幼少時に音楽にふれたきっかけからお聞かせください。地元の栃木で、父親がライブバーを経営していたので、幼い頃からいつも身近に音楽がありました。ただ、親父はプレイヤーではないので、音楽をするようにすすめてくることもなく、とくに幼少期から音楽が大好きで歌手になりたかったわけではなかったですね。――では、いつ頃から音楽の道を志すようになりましたか。高校3年生の文化祭で、同級生でいまはマネージャーとなった親友と一緒に、歌を歌ったんです。そのとき大きいステージで歌を披露して、「もっとたくさんの人たちに歌を届けたい」と感じたことがきっかけで、音楽の道を目指すことになりました。それから上京して、音楽の専門学校に入学し、ギターで曲作りを始めて。上京するまでの10代の思春期の頃は、玉置浩二さん、清水翔太さん、高橋優さん、秦基博さん、ゆずさん……と、J-POPの第一線を走っている男性アーティストの方々の曲や、女性アーティストだとSuperflyさん、AIさんの曲を聴いていましたね。――2020年に「魔法の絨毯」がTikTokを起点にバイラルヒットし注目を集めました。音楽活動のターニングポイントとなった曲でもあると思うのですが、この曲のリリース前と後、そして現在と心境の変化はありましたか。やっぱり「魔法の絨毯」を聴いていただくようになる前と後では、聴いてくださる方の数も環境も変わりました。ただ、作りたい音楽やステージに向かう気持ちという面では、昔から何も変わっていないです。いつも第一に書きたいのは、何気ない日々やなんでもない毎日をいかに愛せるか、というところですね。――川崎さんは楽曲提供もされていて、韓国の5人組男性アイドルグループ「TOMORROW X TOGETHER」の8月にリリースされた日本3rdシングル「GOOD BOY GONE BAD」の収録曲「ひとりの夜(Hitori no Yoru)」を書き下ろされたそうですね。たまたまお声をかけていただいて、楽曲提供をさせていただきました。「TOMORROW X TOGETHERさんに歌っていただくなら、どんな曲がいいかな?」と向き合って書き上げた曲。愛することの切なさや深みを歌っていただければ、と作ったバラードになっています。想い出をつなぐ5曲を厳選したカバーEP――2022年9月14日に、カバーEP『白』をリリースされました。音楽プロデューサーの武部聡志さんがアルバム全曲のアレンジを担当されていますが、今回のEPのコンセプトやタイトルに込めた想いから教えてください。『白』というタイトルは、自分だけのパレットに色をつけていこう、という意味合いをこめています。これまで出会った方々から、そしてステージに立って勉強になったことや得られるものがあるなかで、「自分の色はいろいろな人との出会いで成り立っているな」ということを自負していて。このカバーEPに収録している5曲は、僕の思い出をつなぐ5曲を選ばせていただいているのですが、きっと聴いてくださる方々にもそれぞれの曲に想い出があるはず。だから、聴いた方々がそれぞれに色をつけていただいたらいいな、ということから『白』というタイトルにしました。武部さんは、これまでも番組出演やライブのステージでご一緒させていただく機会がとても多くて。今回、アレンジャーを入れて、僕はシンガーに徹して楽曲を表現したいという思いがありました。武部さんと音楽を作るということは、背筋を伸ばして襟を正しながら、真摯にあらためて音楽に向き合えることでもあります。今回のカバーEPを武部さんにアレンジしていただいたらうれしいな、とダメ元でお願いさせていただくと、快く受け入れていただきました。武部さんと一緒に制作させていただけて、すごく楽しかったです。――1曲目「愛燦燦」は、美空ひばりさんの名曲です。川崎さんのおばあさまがお好きな曲だそうですね。自分が家族を持って、子どもも生まれて、でもコロナ禍になってなかなか実家に帰ることができない日々が続きました。そんなときに、おじいちゃんやおばあちゃんと、あと何回一緒にご飯を食べられるだろうかとふと思うことがあって。それは僕だけでなく、みなさんも感じることがあるかもしれませんが、このカバーEPを作るとなったときに、「おばあちゃんに向けて作りたい」という気持ちが大前提として芽生えていました。幼少期の記憶として、おばあちゃんが美空ひばりさんの「愛燦燦」が好きだったことを覚えていたので、おばあちゃんに向けて、歌いました。――すでにおばあさまは川崎さんの「愛燦燦」を聴かれましたか?聴いたようです、僕の家族は聴いたかどうかはわかりませんが(笑)。あんまり自分の音楽のことを家族に言わないので……照れくさいのもありますが、とくに言わなくても伝わるものがあると思うので、音楽については言葉にしなくても大丈夫だと思っていますね。――2曲目「悲しみの果て」はエレファントカシマシの名曲ですし、4曲目「366日」はHYの人気曲です。両曲とも、親友であり現在のマネージャーさんとの想い出の曲だそうですね。そうです。「悲しみの果て」は、栃木から上京するときに、何もわからず不安でいたのですが、でも変な自信だけがある、という状態でした。そんな時期によくこの曲を聴いていて。いまはマネージャーとなった親友も、お笑い芸人を目指して東京へ出てくるタイミングで、おたがいに共通点がいっぱいあったんですよ。この曲は、悲しみの果てに何があるかわからないけれど突き進んでいく、というメッセージが強い楽曲なので、僕らはそこに背中を押されて。だから、親友に向けてでもあったり、原曲を歌う宮本浩次さんに向けてでもあったり、これから夢を追う若者たちに向けてでもあったり。宮本さんの力強い思いを僕がさらにみんなにつなげられたらいいなと思って、選びました。「366日」は、高校3年生の文化祭で歌った、音楽を始めるきっかけになったとお話ししていた曲です。当時カラオケでよく歌っていました。この曲を文化祭で歌っていなかったら、いまの僕はないと思いますし、数年の時を経て、カバーさせていただいてよかったです。――3曲目「元気を出して」は竹内まりやさんの名曲です。事務所の社長が好きな曲なんですが、これまで二人三脚で社長と一緒にやってきました。ライブのお客さんがゼロのときもありましたし、2人でたくさん悔しい思いをして。たくさん苦しいこともあって。苦楽をともにしてきたので、社長に恩返しをしたい気持ちで歌っています。――5曲目「メロディー」は、川崎さんが尊敬する玉置浩二さんの名曲ですね。もっとも背中を追い続けているのが、玉置浩二さんです。仮に玉置さんに、カバーした曲を聴いていただけたときに「ああ、川崎鷹也にカバーしてもらってよかったな」と思ってもらえるかどうか、見合えるように歌いました。プロ同士、同じミュージシャンとして、歌にどう向き合っていくかが重要なところだと思っています。その覚悟という点では、当初、玉置さんの曲を歌うということに対してあまり前向きではありませんでした。でも、武部さんは僕の玉置さんへの想いをご存知なので「今回歌わないのか?」と言われて、「歌わないです」とお答えして(笑)。「でも、大切な人との想い出の歌を5曲選ぶなら、自分自身へ向けた大切な曲、玉置の曲を入れないと。僕が玉置に言っておいてあげる」と武部さんに強く背中を押していただき、収録することを決意しました。僕が初めて弾き語りをした曲がこの「メロディー」です。玉置さんへの憧れも含めて、本当に思い入れの強い曲です。――実際に玉置さんにお会いしたことは?ないです。もしもプライベートでお会いしたら緊張してしゃべれないと思います(笑)。ただ、もし今後、一緒のステージに立たせていただける機会が来るとしたら、そんな光栄なことはないですね。そのときは全力で玉置さんにぶつかっていきたいと思います。――今回はカバーEPですが、オリジナル曲を歌うときと意識の違いなどはあるのでしょうか。カバーの難しいところは、すでに正解があること。カバー曲では歌のバランスだったり、自分の色をどのぐらい入れるのかだったり、調整して歌っていくことを意識しました。――聴き手にはどんなふうに聴いてほしいでしょうか。今回は弾き語りではなく、歌一本に集中して、歌の力を届けられたらと思っています。カバーさせていただいた曲は、僕がずっと聴いてきた音楽。本当にいい音楽は10年経っても20年経っても、ずっと誰かの心に残り続ける楽曲なんですよね。そういった曲を僕のファンのみなさんは若い世代の方が多いので、恐縮ながらいい楽曲との架け橋になって、「いい曲はずっと残り続けるんだよ」ということが伝わればいいなと思っているので、みなさんにも聴いてほしいですね。――カバー曲を披露するライブのご予定はありますか。10月にビルボードライブを行う予定があります。武部さんとともにステージを作らせていただくので、普段のライブではカバー曲はやらないのですが今回はEPの曲を中心に、候補としてあがっていたけれど入れられなかった曲、オリジナル曲も含めて披露する、ボリューミーなステージになると思います。全国のみなさんに恩返しや感謝を伝えたい――お話は変わりますが、おやすみの日はどんなふうに過ごしていますか。家族と過ごす日もあれば、ひとりでボーッとするときもあれば、映画を観るときもあれば、日によってさまざまですね。――おうちではどんなパパでいらっしゃいますか。最近のエピソードを教えてください。子どもを保育園に送ったり、お風呂に入れたりするのは、基本的に僕がやっています。お風呂の中では、僕と子どもの2人の時間。お風呂上がりにボタンを押して、ママを呼び出すんですが、僕と子どものルーティーンとして、迎えにきたママを笑わせるという一幕があります(笑)。――率先して育児をしてくれると、奥さまもうれしいですよね?どうなんでしょうね(笑)。でも子育ては一緒にするものだと思っているので、自然とやっています。ただ、僕は料理が作れないですし、仕事で遅いときは奥さんが寝かしつけまでひとりでやっているので、できることをやるのはごく当たり前な気がしますね。――お子さんはパパの曲を聴くことはありますか。聴くこともありますし、どこかで流れていてもパパの歌だとわかってくれていますね。もうすぐ3歳になるので、テレビに出ている僕の顔もわかりますし、僕の仲のいいミュージシャンがテレビに出ていてもわかったりしますよ。――子守唄を歌ってみようとは?子どもが生まれたての頃は、ギターを弾いてあげたりもしましたが、いまはもう3歳になるのでそろそろ「ウルサイ」と言われそうだから(笑)、やらないです。――川崎さんは素敵なラブソングを歌われていますし、実際にあたたかいご家庭を築いていらっしゃいますが、運命の人を見つける秘訣はありますか?僕は女心をわかっているわけではないんですが、相手に対する愛や思いは口に出して行動していますね。口にしないと、気持ちは3割しか相手には伝わらないといわれてもいるので、「ごめんね」や「ありがとう」もしかり、「ネイル変えた?」や「髪切った?」もしかり(笑)。男性って、心の中では思ってはいるけれど、言わないだけなんですよね。出会って7年、結婚4年ですが、奥さんにもカワイイなと思ったら「カワイイね」と言いますし(笑)。それは昔から変わらず、毎日言いますし、そういうところを大事にしています。だから、気になる人には思っていることを伝えたり、言ってくれる人を見つけたりするといいのかもしれませんね。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。僕がいろいろな方に楽曲を聴いていただけるようになったのは、コロナ禍になってからなんですね。だからあらためて、僕の曲に出会ってくださった、全国のみなさんに、聴いていただいている恩返しや感謝を直接伝えていきたい。まだライブに来られない人もいますが、今年、来年と全国に行って、さまざまな思いを届けられたらいいなと。そして、いろいろなことにチャレンジし続ける人生を歩んでいけたらと思います。取材後記当時は彼女、現在奥さまへの愛を歌った「魔法の絨毯」など、女性の心をとらえるラブソングを数多く歌う、川崎鷹也さん。シンガーソングライターとしても才能を発揮されているなか、新作ではシンガーとして、思い入れのある楽曲を聴かせてくださいます。そんな川崎さんのカバーEPで、名曲がどのように変身しているかみなさんもチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり川崎鷹也PROFILE1995年、栃木県生まれ。2018年、アルバム『I believe in you』でシンガーソングライターとして本的に音楽活動を開始。2020年8月、TikTokで「魔法の絨毯」が人気となり、同曲を使った動画が27,000本以上アップされ、Spotifyのバイラルチャートでは1位を獲得した。2021年7月、松本隆のトリビュートアルバム『風街に連れてって!』に参加し、大瀧詠一「君は天然色」をカバー。12月、初のメジャーアルバム『カレンダー』をリリース。2022年9月14日、カバーEP『白』をリリースする。InformationNew Release『白』(収録曲)01.「愛燦燦」(美空ひばり)02.「悲しみの果て」(エレファントカシマシ)03.「元気を出して」(竹内まりや)04.「366日」(HY)05.「メロディー」(玉置浩二)2022年9月14日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)WPCL-13399(CD)¥2,200(税込)(初回限定盤)WPZL-31994/5(CD+Blu-ray)¥2,750(税込)※7インチサイズ特殊パッケージ仕様。【Blu-ray収録内容】『白』LIVE STYLE MOVIES取材、文・かわむらあみり
2022年09月15日