「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)■Cさん(38歳・外資系会社勤務・3歳の男の子)の場合復職して2年目のワーキングマザーCさんは、旦那さんといい感じで子育てを分担している。働きながら子育てをすると、夫との関係ってどうなるのだろう。「産後クライシス」という言葉もよく目にするし、実際「その期間は夫が大っ嫌いになった」という話もよく聞いている。廊下ですれ違う時に身体が触れるのも嫌で、横歩きをしていたという夫嫌い過激派の人もいたっけ……(そして、その前情報を受けてつるちゃんは怯えている)。でもCさん夫婦は、そんなことはなさそう。お互いに協力し合って、結婚前とあまり変わらない生活を送っているみたい。う、羨ましい。その秘訣が知りたい!そして、1人産んだ後って2人目を産むかはどう考えるんだろう。セックス自体ハ ードルが高そうだと思うのだけど……。そのへんの本音を、Cさんに聞かせてもらった。旦那とは予定を共有してる「子どもが生まれてもライフスタイルを変えたくなかった。だから旦那とは予定を共有していて、どちらかに飲み会や遊びの予定が入ったら、どちらかが家で息子と過ごすようにしてる。子どもがいても、飲み屋でもご飯屋さんでも、入れる店なら一緒に連れてもいくよ。最近は子ども連れてくる人、多い気がする。区の保健センターの健診で集まる時も、お店の情報交換してるしね(笑)」母親が吞みに行っても怒らない、お互い外出したい時には協力し合う。これって当たり前であるべきなんだけど、まだまだ女と男で役割が分かれている日本では、父親のほうが優先されている気がする。夫の予定ばかりが尊重されたら、「私は我慢しているのに……」なんて不満を感じて、どんどん愛が薄れそう。Cさんの家庭は、お互いのプライベートな時間を大事にしてるんだろうな。 ちなみに、どんなお店が子連れに適しているか教えてもらった。「適度にほうっておいてくれて、子どもがいても過剰なサービスをしないお店は居心地がいいかな。パッと食べて出られるような、近所の居酒屋とか焼き鳥屋とかがけっこう多い。焼き肉は座敷があるのがいいんだよね。街の中華屋さんも、おすすめ。あと重要なのは時間帯で、オープンすぐとか、20時前までに帰るとか。平日は混んでても週末は家族連れが多くて使いやすかったりもするんだよね。もちろんバーや完全に大人向けの店には最初から行かないけど。……本当は家で食べるほうが疲れないけど、それだと私が一緒に食べられない。それを旦那さんはあんまり好きじゃないみたいで、土日はちょっと外に出ようかってことになるの」私も甥っ子や姪っ子と一緒に外食することがあるのだけど、子連れの外食は周りに気を使うし、出かける支度も疲れる。でも、献立を考えて買い物をして料理をして食べさせて……という流れを考えると、かなリフレッシュになるはず。それに、家だと他の家事もあるし、なかなか夫婦でゆっくり会話するっていうのも難しそうだし。Cさんの家みたいに夫から誘ってくれるのもいいな。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月04日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)最後に一つ、疑問が生まれた。これだけのサービスをいろいろ使いながら、職場にフル復帰して、2歳の男の子を育てるというのは、「忙しくて死ぬ……」なのか、「けっこう余裕ある!」なのか、どっちなんだろう。「自分の時間はけっこう作れるんですが、実は仕事が、暇すぎて死ぬ……なんです。会社が古い体質で、自分たちの上司も奥さんが専業主婦という人が多いから、結婚や妊娠を報告すると、まずは『仕事、どうするの?』みたいな感じで。独身時代は仕事が好きで働くことにやりがいを感じて、毎日23時くらいまで働いてました。これからって時に思いがけず妊娠しちゃったんですが、それでも仕事が形になっていたので、復帰しても戻る場所があるとは思ってたんです……。でも、結局、同じ部署に戻ってみたら、仕事が何もなくなって……。それが一番辛いです。なんの担当も振られなくて……。そうなるとだんだん働くことへの意欲もなくなってきそうで。ここでどう踏みとどまるかって、本当に悩みます」そんな……、そんな落とし穴があったのか。仕事にやりがいを持てないって、Kさんのように働きたい女性にとって一番辛いことだと思う。私もまったく興味のないバイトをしていた時は、どれだけ楽でも時間が永遠に続くように感じられて地獄のようだった。逆にやりたかった編集者の仕事の時は、ぜんぜん睡眠が取れなくても、給料が安くても、毎日がすごく楽しかった。「もちろん職場を追われるってことはなくて、『子どもが小さいうちは家庭を優先して、また成長したらバリバリやれる時期がくるんだから』って言われるんですけど。そのバリバリ働きたい時期っていうのが、私にとってはまさにいまなんです。それが急に初期化されたというか、いきなり新入社員になったみたいな感じで、本当にもがいています」もし私に子どもができたとして、やりたい仕事ができなかったり、相手が遠慮して仕事を振ってくれなくなったらと思うと、悔しくて辛くて発狂しそうだ。 「くう〜私がやりたかったあの仕事、子どもを産んだことによって、あの子がやってるっ!」なんて嫉妬に狂うかもしれない。子育てしながら働くというのは、予想以上に険しい道なのかもしれない。でもKさんが、いろいろなサービスを効率よく使えば、「自分の時間は持てる」と言ってくれたのは大きな勇気になった。私が予想していたよりもたくさんの子育て・家事のサービスが充実して進化していた。子どもを育てているからといって、自分の人生を生きてはいけないわけじゃない。自分がどうしても辛くなったり、日々悶々として過ごすくらいなら、私はこれらのサービスをどんどん頼みたいし、広めていきたい。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月03日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)まずは「ファミリーサポート」について。これは、「子育てを経験してる近所のおばちゃんとかが、子どものお迎えに行ったり預かってくれたりする有償ボランティアみたいなもので、1時間800〜900円です。いまは週1でお願いしています」と言う。初めて聞くサービスだけど、使いやすい値段! でも担当の方との相性もあるだろうし、もし家庭の事情に踏み込まれたら、私はけっこう嫌だなあ……。「それが、遠くの親戚より近くの他人って感じで、かなり分かってくれるんです。区のサービスなので研修がしっかりしてたりと安心もできますね。忙しい時は、保育園の延長保育をマックス19時15分まで使って、おばちゃんに保育園にお迎えに行ってもらって、ご飯は彼女の家で手料理を食べさせてもらって、私が20時15分にお迎えに行きます。ちなみに食事代は300円の実費です」食事代300円とはありがたい……! でもでも仕事が遅くなったり、たまには飲み会だったり、その時間にも帰れないこともありそう。そんな時に活用するのが、「ベビーシッター」さんだと言う。「もっと遅くなる時は、シッターさんにファミサポのおばちゃんの家まで迎えに行ってもらって、シャワーと寝かしつけをお願いしています。非常時に備えて、鍵は常に保育園の鞄に入れてあるんです」Kさんが登録しているシッター会社は、 『キッズライン』 と 『スマートシッター』 の2社。金額は1時間1500円程度だそうで、Webを見て自分でどのシッターさんにお願いするのか選べるらしい。「シッターサービスには、女子学生さんや保育士を辞めた方が登録しています。登録してる人のプロフィール画面には、顔写真や評価も載っていて、住んでる場所や時間など条件に当てはまる人を選べます。私は医学部の学生さんにお願いすることが多いです」実際にサイトを見てみたら、「明日来られる!」、「保育士などの資格あり」という条件で選べたり、自己紹介の動画があったり、値段も1500円以下の人もいた。想像より、自分にとってどういう人がいいのかを選びやすいし、顔が見られるからすご く安心だと思った。「シッターさんには基本は23時ぐらいまでいてもらうのですが、遅くなりそうな時は終電までお願いしたり、終電をすぎたらタクシー代を負担してもっと遅くまでお願いすることもあります」ということは、 時間ご飯を食べに行くのに、シッター料金が4500円。自分のご飯代が5000円とすると、結局1万円になるのか……。「そう! だから子どもを産む前と大きく変わったのが、お金を使ってでも会いたい人とか行きたい場所。職場の流れで吞みに行くことは、もうなくなりました」そりゃ、そうだよなあ。いま、私が自由に人と好きな時に遊べているのって、とても贅沢なことなんだと実感。子どもができたら、自分の時間を作るためには、お金を使う必要があるんだ。「あとは 『タスカジ』 っていう家事代行サービスも使っています。週に1度、3時間来てもらって、1回6000円もしてないかな。私がお願いしてるのは、仕事に行ってる間に、掃除洗濯と料理の作りおき。19時に帰ってきて、ご飯作って、お風呂に入れて、寝かしつけまで私にはできないんですよ! その作りおきの料理を小分けに冷凍して、毎日食べてます(笑)」 ええっ、このサービスも知らなかった。なんて便利なんだろう。いますぐにでも使いたいよ! 週1でそれだけやってもらえたら、生活はぐっと楽になるだろうし、気持ちも楽になるだろうな。シッターさんや家事代行は、夫の理解が得られなかったり、家に知らない人が来るのが嫌で躊躇する人も多いと思うけど、いざという時にはきっと助かるから、頭の片隅に入れておいてもらいたいなあ。もちろん、私は赤字が出ても絶対使いますけど!つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月02日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)■Kさん(29歳・大手企業勤務・2歳の男の子)の場合私は、子どもができたとしても、仕事はしたいし、生きるためにしなければならない。でも、親は東京にいないし、夫以外でパッと頼れる人もいない。その夫と協力するにしても、彼にも仕事がある……。それに無事に保育園が決まったとしても、子どもを保育園に預けている間にフルで働いて、そのまま子どもを迎えに行って、家事と子育てもして。う〜ん、自分が休める時間がほぼなさそうなんだけど……。 使っているのは、保育園、ファミリーサポート、ベビーシッター、家事代行 Kさんは2013年の冬に出産し、2015年4月に職場復帰した。2歳年上の旦那さんは結婚して数か月後に海外へ単身赴任、そのため妊娠中からずっと一人暮らし。 双方のご両親も地方在住のため、子育ては自分だけでなんとかしないといけないという、私だったらとても一人じゃ抱えられなさそうな状況だ。それなのに現在は時短勤務もせずに、様々なサービスを駆使して、フルタイムで働いているという。しかもKさんの肌は、疲れ知らずのピチピチである(それはKさんの遺伝子のせいかもしれないけど)。 「子どもが11月生まれなので、1歳半になってから次の4月に区立園に入りました。 認可園ですが区が運営しているので、ややお役所的で設備も古め。でもうちは夫婦共 働きっていう基礎点だけだったので、人気の少ない区立園でも入れるかどうか難しかったんです」エーッ! 夫が海外に単身赴任って加算されないの! これは制度としておかしいんじゃなかろうか。男女共に協力して子育てする方向に進んでる世の中で、夫が離れ ていることが考慮されないなんて......。ちなみに区立園の保育料は夫婦の年収で決まるそうだが、Kさんの場合は夫婦共に 若いので、月に2〜3万ほどですむという。認可外保育園の半分以下だ。やはり、認可なのか認可外かで、負担は相当違ってくるんだな。そんなKさんを支えるのが、保育園のほかに利用している複数のサービスだ。でもそれって、高すぎない? 予約は取れるの? 安心して任せられる? ぶっちゃけた本音を聞かせてもらった。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月01日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)■産後うつで、とてつもない反抗期がやってきた「産後は母親が田舎から2か月くらい来てくれた。でも中学の頃以上の反抗期がやってきて、すごいけんかしたんだよね(笑)。それこそ取り戻せないぐらい酷いことも言っちゃって。たぶん産後うつみたいな感じになっていたんだと思う」出産後の身体って、大怪我をしたのと同じような状態だと思う。その身体で、これ までとガラッと変わった生活を送らないといけないというのは、想像するだけで身震いしてしまう。「でも、やっぱり産後うつにならないためには、人に手伝ってもらうのが、すごく大事だと思う。私はもともと誰かが家に来るのがすごく苦手だったけど、一人の友達がしょっちゅう遊びに来てくれて、その間ずっと子どもを抱っこしてくれたの。その子は子どもを二人育てているから、本当に任せられて、気分もリフレッシュできて。お昼ごはんも買ってきてくれるから、それがすごく助かった。やっぱ人に頼らないとダメなんだなって、甘えられるようになった」人に頼るのって、本当に大切。私も生きていく上で痛感していることだ。でも、やっぱり一番頼りにしたいのは夫だと思うんだけど、夫にはどういうふうに接してもらうのがいいのだろう。「イエスマンになれ! 夫も頑張ってるのは分かるんだけど、この時期はとにかく『ありがとう』の気持ちで接してほしいかなあ。でも夫とは、妊娠中がいままでで一番仲良かったな。すっごく優しくなって(笑)。出産したら行けなくなるからって、高級 なお店に食べに行ったり。でも産んだらケンカばっか!」これも他の人から聞いたことがある。出産後、とにかく夫にイラつくと。私も、「もし妊娠・出産したらそうなるかも」ということをつるちゃんに伝えたら、だいぶおびえていたな……。それでなくても怖い私が更に怖くなるって、彼にとったら恐怖だろう。「でもいまはもう元通り。ケンカも少なくなって普通に戻ったんだよね。というか、とにかく子どもがかわいくてしゃーないから、子どもを通じて会話が生まれるんだよ」最終的にFさん、めっちゃニコニコしていた。私が尊敬していたFさんは、相変わらず尊敬できる人で、さらに強くなった感じがした。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月31日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)■お金の不安はきりがない問題Fさんの家庭は、Fさんの収入の占める割合も大きいと思う。お金の不安はなかったのだろうか。「実は不安はなかったんだよね。貯金もぜんぜんしてなかったし、使いたい時に使ってきた人生だったけど、なんとかなるって思ってて。もちろんいまは子どものために必死で貯金してるよ。でもお金のこと言って先延ばしにしてたら、2年後、3年後、4年後って、どんどん妊娠しにくくなるし、お金の心配はずっとつきまとうんだよね。いまより重要な仕事についてたらもっと悩むし、結局きりがない問題だと思うよ」犬山、このFさんの言葉で、不安ですくんでいた足がすっと伸びた感じがした。いつまでたっても仕事やお金の不安はつきものなんだよね。Fさんみたいにキャリアを積んでいる人だって、仕事がなくなる恐怖を感じていた。 子どもを欲しいと思っているのに、もうちょっと仕事ができるようになってから……、 なんて理由でその場に踏みとどまるのは、私の場合、とりあえず現実から逃げる行為だったのか……。いままで子どものことになると、不安だ不安だとネガティブなことしか考えてこなかった私にとって、Fさんの話は「当たり前だけどポジティブな面がたくさんあるんだ!」と思わせてくれた。■保育園、どうでした?続いて、私が子どものいる人に会うと必ず聞いている「保育園、どうでした?」を聞いてみた。この、「どうでした?」は、「入った保育園、どんな感じ?」ではなく、「ど うやって入った? 入れなかった?」の意味である。都内で保育園に入る難易度について聞くと、皆青ざめた顔で口を揃えて「大変だった」と言い、私は「出産の痛みやばすぎ死ねる」と同じレベルで恐れおののいている。「保育園は、まだ結果待ち。11月に申し込みがあるんだけど(区によって違う)、フリーはすごく不利なの。うちは旦那もフリーだから、もう一番ダメなパターン(笑)。点数が超低いわけ。この点数ってのが、本当に奥深くて。点数を稼ぐために、すでに子どもを無認可やシッターさんに預けて復職してるんですっていう証拠が必要で。正直まだ預けたくなかったけど、とりあえず1か月無認可に預けて復職の証拠書類を揃えたよ。ちなみにフルで預けたら月に15万円ちょっと……。だったら仕事しないで子どもといるわ! ってくらいの金額」15万って、都内のOLさんの月収手取りからと考えるとほんと働くのがアホらしくなる金額……。認可に受からなかったら……年間180万以上か……、あっ、死にたくなってきた……。「ちなみに私がこれだけ必死なのは、0歳児のうちに預けないと、1歳児では認可保育園にまず預けられないからなんだよね、東京は。 歳児で一つの園に対して10人くらいしか枠がないのに、1歳児の枠も11〜12人。そのうち10人は0歳児が進級するから、実際の枠は一つ二つくらいしかなくなる」東京に住む限り0歳のうちは預けないで一緒にいるという選択すら難しいのか……。 妊娠したら、待機児童の少ない区に引越しをするという話もよく聞く。想像はしていたけど、現実はもっと厳しそうだ。そして保育園問題と同じように気になるのが、産後うつのことだ。 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月30日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)■Fさん(39歳・フリー編集者・0歳の女の子)の場合子どもを産むことで不安なのは、出産後の仕事復帰、仕事と子育ての両立について。フリーの私は産休をとると収入がゼロになるから、貯金を切り崩す日々が待っている……。それで、仕事に復帰できたとして、私の居場所はあるのだろうか。うーん、不安……。子どもがいなくたって、不安なのに……! そんなぶっちゃけた質問を、抜群のセンスで数々の書籍のヒットを飛ばしてきた、フリーランスの編集者Fさんにぶつけてみた。私は大学生の頃から彼女に憧れていてずっと尊敬している。Fさんは2016年6月に女の子を出産、SNSを見ていると仕事に復帰しているようだけど、どんな感じなのだろう。妊娠してることで仕事を減らしたくない「フリーだと急に『ここから休みます』ができないんだよね。だから徐々に仕事を減らしてた。復帰のことを考えるといろいろ怖くて、本当に近い人以外にはギリギリまで言えなかった。それに私は年齢も上になってきて、若い子たちとチェンジする時期でもあったの。だから、すごい不安だった。『子どもいるみたいだから』って遠慮されるのが本当に嫌で、取材も妊娠していることが分からないように、ダボダボした服で行ってた(笑)」以前、他の女性からも妊娠を言い出せなかったという話を聞いたことがある。みんな、ものすごく不安なんだ。私だけじゃないんだ。「妊娠中は頭がぼーっとしてきて、集中力がなくなってぜんぜん書けなくなった。アイデアとか求められてもなんにも浮かばなくて……。バリバリやってる人が周りにいるから、すごく焦ってドキドキしてくるし、あの時は孤独だったな……。身体が完全に戻ってきたなって感じがしたのは、子どもを産んで半年くらいたってからかな。いまは昼間は子どもを預けて、事務所を借りて仕事を再開したの。0歳児がそばにいると、横で寝てるだけで気になるし、電話もままならないし、相手にも気を使うし、集中力が切れるから、私は預けないと仕事は絶対に無理」うーーーん、妊娠中も出産後も仕事はかなり制限されるのだろう。仕事の内容や人によって違うと思うけど、これって精神的に辛くはないのかな。 「ただね、出産したら育児が本当に楽しい。楽しすぎて仕事したくないもん(笑)。こんなにかわいい時期に、仕事にすぐ戻るのもなあって思ったぐらい!」私は復帰のことを考えると不安に頭が支配されすぎていて、子どもといる時間の幸せや楽しさをまったく想像できていなかった。仕事だけが楽しいんじゃないんだ。いろんな楽しさがあるんだ。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月29日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)■「当たり前のように子どもが欲しい」Cちゃん(独身・38歳)の場合出版社勤務のCちゃんは、激務に追われながらも、ふんわりと人を包み込む優しさを持つ。友人思いで、私のこともよく気にかけては励ましてくれたり、会うたびに手土産を渡してくれたり、その気遣いにいつも癒されている。そんな彼女は「理由なんて考えたことないくらい当たり前のように子どもが欲しい」 と言う、かなり“子どもが欲しい”派。 私は昔から、「子どもが自然と欲しかった」という人に出会うたび、その気持ちが分からなくて、自分には母性みたいなものが欠如しているのだろうかとずっと悩んでいた。人と話していて、「子ども欲しいよね?」前提で話が進むたびに戸惑ったっけ。人間いろんな考え方があって当たり前だよなーと、むやみに悩まなくなったのは最近のことだ。「生命の最大の神秘、命を授かって産む、という体験をしてみたいのかもしれない。 好きな人の遺伝子も残したいし、子育てもしたい。子どもがいないと参加できない人生のイベントにも参加したいし、家族を増やしたい。好きな人ができると自然とその人の子どもが欲しいって思うよ」と、Cちゃんは言う。うーん、やはり私とは違うんだな。私は「子どもの面倒を見ることが苦手」だから、子育てには正直「辛そう」というイメージばかり。でも彼女は「子育てをしてみたい」と、かなりポジティブな感じ。その理由の一つが、「自分のための欲望みたいなものが年々少なくなってきてるから、 この先は誰かのために頑張りたい」からだと言う。誰かのために何かをしてあげたいなんて、私のような自分大好き、自分優先人間には、想像ができない。なぜこんなに、趣味や仕事の優先順位が一番になってしまったのか考えると、それはやっぱり、母の介護を20歳からずっとやっていることに繫がっていると思う。あの頃は、自分の時間がまったくない強烈な辛さがあった。いまはそのリバウンド中だから、好きな時にだらけて、遊んで、思いっきり仕事したいと思ってしまう。子育てにネガティブなイメージがあるのも、まだヘルパーさんがそんなに来なかった時代のかなり重労働な介護を思い出すからなのかもしれない(何度も腰を痛める、 夜中に何度も起きなければいけない、ちょっとでも遊んだら罪悪感が生まれるなどなど書ききれないほど)。もともと自己中という性格(昔から人によく言われる)なのも、 もちろん関係しているとは思うが……。Cちゃんにも、子どもを持つ友人のことをどう思うか聞いてみたら、「5年前なら『大変そ〜』と思っていただろうことも、いまはただただ、全てが羨ましく感じる」と言う。これがけっこうぐさりと刺さった。Cちゃんの5年前といえば33歳、ほぼいまの私の年齢だ。いま、私は子どもを持つ友人を見ると、「きっと幸せなんだろうな……。でも私に、あんな大変なことできるのかな〜」と、当時のCちゃんのような心境になる。でも、このまま5年たったら、 今度はその風景を羨ましく思うかもしれない。私はいま、子どもを欲しいという方向に心が傾いている。その理由の一つに、子どもを作らなかったらすごく後悔するんじゃないかという怖さがある。Cちゃんは、「私の場合は本当に子どもを諦めたら、初めて産まない人生の楽しみが見えてくるのかもしれないなあ。産んでも産まなくても、パートナーと一緒に決めたことなら、これが私たちの生き方、と思えるんだろうな」と言う。きっと人生どんな選択をしても、後悔や、人を羨ましく思う気持ちはずっとあるはずだ。でもどんな選択をしても、考えて悩んで決めて行動していけば、ちゃんと肯定できるようになると思うし、思いたい。母の介護に悩み苦しみながらも、ちゃんと介護をしたと胸を張って言えるいま、あの時代を素直に受け入れられているのと同じように。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月28日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)■「子どもは欲しいと思わない」Bちゃん(既婚・35歳)の場合ヘアメイクのBちゃんは、「子どもは欲しいと思わない。でも、絶対いらない! と キッパリ言える感じでもない」と言う。いつも攻めたファッションをしていて、年に6回は海外旅行に行ってるBちゃん。 趣味に生きていて、その姿が非常に魅力的な女性だ。そんな彼女が子どもを欲しくないと思う理由は、「そもそも子どもがそんなに好きではないし、自分の生活レベルやリズムが狂うのが嫌。経済的、体力的にも自信がない」だそう。「もし、子どもを産んでも働くと思う。きっと自分の時間が欲しくなるし、経済的にも働かなくてはいけない。『産んだらなんとかなるさ〜』って言ってる友人もいるけど、 彼女たちの子どもってまだそんなにお金のかからない小学生くらいだから、鵜吞みにできないしね」ああ、これ、これです。私も、子どもにかかる費用が3000万とかよく聞いて、 めちゃめちゃ不安に思ってる! 自分1人が生きるだけでも精一杯なのに。じゃあ「子どもを産んだ友人を見てどう思う?」と聞くと、「大人だけの時間がなかなか持てなくなるのか……って思ってしまう。自分が本当に行きたいところや食べたいものではなく、子どもの好きそうなほうを選ぶようになるのが、私の場合ストレスになりそう。ただ、みんな子どもはかわいいと言ってるので、産んだら変わるのかも、とも思うけど、試しに産んでみよっかな、とはできない」。ううーん、このBちゃんの気持ちは、かなり私にリンクするものがある。趣味が大事で、子どもがそもそもそんなに好じゃなくて、お金に不安があって……。でも自分の子どもはやっぱりかわいいんだよね? 子どもを産んだ友人は大変そうだけど、 すごく幸せそうに見えるしなあ、と気になっている感じ。私はいま、大好きな趣味があって、趣味に浸かっているその時間が最高に幸せ。 子育てに追われたら、この時間がなくなるかもと思うと、「やっぱり産まない人生の方が、自分には合っているのでは?」と思ってしまう。でも、子どもと趣味を両立させることだってできるかもしれない。子育てしながら、自分の趣味があってもいいんだもんね。どうしたら時間をうまく振り分けられるのか、自分の時間が作れるのか、その方法も考える意味がありそうだ。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月27日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)「そういえば、私の友達で子どもがいる人って少ないなあ」。子どもを欲しいかもと思ってから、ふとそんなことに気づいた。ええと……ここ5年間で仲良くしている女性が30人くらいいて、そのほとんどが子どものいない人(子どもがいる人は3人ぐらい)。飲み会や仕事で集まった時に、何度か子どもについて話したことはあるけど、そういえばお互いに本音はなかなか話せ なかった。彼女たちは、本当はどう思っているんだろう。思い切って、「子どもについて考えていることを良かったら聞かせてほしい。めちゃくちゃプライベートなことを聞くので、もちろん答えなくてもいいからね」と何人かにメールしてみた。■「子どもが欲しい」Aちゃん(独身・30歳)の場合フリーのスタイリストのAちゃんは、「子どもが欲しい」と言う。Aちゃんは海外に渡り、超厳しい有名スタイリストの弟子を6年間やって、日本に戻ってから活躍しまくっている。そんな彼女は「子どもが好きで、家族が欲しい。友人が子どもを産んだ姿を見ると素直に羨ましいし、母親の顔になって子どものために人生を送るって素敵なことと思う」と、はっきりしている。私は自分の仕事に自信がないから、「子どもが生まれたら仕事をセーブしないといけないし、もしかしたらなくなるかもしれない」なんて思ってしまうけど、彼女は何年もかけて自分の仕事を確立させている。その自信が、「仕事がなくなる」という不安を吹き飛ばすのかもしれない。だから、こんなにはっきりと「子どもが欲しい」と言えるのかな。子どもができても働きたい? と聞くと、「もちろん」とのこと。 うーん。Aちゃんのおかげで、自分がいかに仕事に不安があるのか浮き彫りになったな。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月26日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)私が自分の未来について心配性になってしまうのには、理由があります。私の母親は40代で病に倒れ、私は20歳からずっと介護し続けてきました。母の家系は脳の病気が多く、母に一番似ている自分も急に難病にかかってしまうかもしれないと、半分くらい思っています。母が脳出血になった時に家族で唯一隣にいて、泣きながら救急車を呼んだ経験もきっとこの不安に深く繫がっているかもしれません。人生もいまがピークだと思ってて、良い未来があるかもしれないけどなんか想像の範囲内で、これから起こるかもしれない不調や嫌なことのほうがリアリティがあって、 身体が元気なうちに死んだほうが性格的にあってるなーなんて、バカな考えをすることもあったり。そんな私にとって姉の言葉は、かなりの衝撃でした。私の想像している未来はどんどん暗くなっていくイメージだったから、「え? 大好きな子どもといるために長生きしたい、それが幸せ、そんな未来があるの?」って。それは私が想像していた自分 の未来と真逆で。生きていることの1秒1秒が大切で、愛おしくて、過ぎ去るのが切なくなるなんて。 いまの私にはありえない。子どもって、そこまでなのか。そこまでの存在と暮らすのって、どんな感じなんだろう。……子ども、欲しいかもしれない.……。姉の発言を聞いて、初めて自分から子どもを欲しいと思ったのでした。まだ「かもしれない」という漠然な気持ちではあるけど、この気持ちとちゃんと向き合うことにしました。そうと決めたら、いろんな人の話を聞いてみたい。悩んでいる人、専業主婦の人、仕事をしながら子どもを育てている人、シングルマザーの人、子どもを持たない選択をした人.……。人生に正解なんかないと思うから、いろんな人の話を聞いて聞いて聞きまくって、 いま抱えてる不安をちょっとでも肯定できたらいいな。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月25日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)犬山紙子、 34歳。2014年8月32歳の時に同世代の夫・つるちゃんと結婚した。それからずーーーっと悩んでいることがある。いまは、非常に楽しい。私は小学生の頃から、「一生働きたいな。私が働いて、旦那さんが家事をやってくれるのがいいな」と夢見ていて、ラッキーなことにつるちゃんは、家事をするのを楽しいと、なんでもやってくれている。うん。この生活には心の底から満足しているんです。でもずっと、「子どもを持つかどうか」ってことをめちゃくちゃ悩んでいる。周りから「子どもはどうするの」なんて言われることも増えてきて、焦りもある。でも、自分の本当の気持ちが分からない。だって私、「うおーーー子どもが欲しい 」って思った瞬間が……、一度もないんです。いままでの人生、「漫画読みたい」「彼氏が欲しい」「美味しいご飯が食べたい」「お金が欲しい」「ちやほやされたい」みたいな欲求があって、そのために行動してきた。もともとニートだった私が、4年前、ブログをきっかけに『負け美女』という本を出すことになって、ありがたいことに執筆のお仕事も増えて、いまではテレビのコメンテーターもやらせてもらっている。なんとかいままで、自分のことは、辛くて逃げ出したいこともあるけど、とにかく必死に向かい合ってきました。けど、子どもに関してはそういう感じじゃない。「あれ? 年も年だし産むのならもう産んだほうがいいんじゃないの?」「いま、仕事もプライベートもめっちゃ楽しいから変わりたくない、いまのままでいたい」「でも、健康で仕事が充実してるいまが楽しいのは当たり前で、人生ずっとこのままという保障はない」「フリーだから、産休で仕事を休むとダイレクトに収入がなくなりそう、不安」「友達からは保育園に入れるのもすごく大変って言われる……」「でも、将来子ども産んどきゃ良かったって後悔するのも怖い」「でもでも、子ども産んだら自分の時間、なくなるんでしょ?」「でもでもでも、自分が将来、病気になっても、子どもがいてくれたらどれだけ心強いだろう」「でもでもでもでも、子どもが面倒見てくれるって考え方って、どうなの?」楽しいことよりも、ネガティブな考えがフワフワと現れてはどこかへ行っての繰り返し。目を閉じて老後を想像しても、孫に囲まれてニコニコしている自分は想像つかない。むしろじーさんばーさんで集まって、茶を飲みながら、めっちゃモンハンやってる場面ばっかり思い浮かぶ(これは老後の夢の一つ)。将来のことを考えるのは、実は、ものすごく不安です。だから、分かりもしない未来を想像して、自分勝手な意見で逃げてるだけなのかもしれない。適当な御託並べて、逃げて、逃げて、逃げて、酒吞んで、寝て、忘れて。そんなふうに毎日を過ごしていたある日、地元に帰った時に二人の子どもを持つ姉がこんなことをボソッと言った。「もっと早く産めば良かったなあ。そしたらこの子と一緒に過ごせる時間がもっと長 かったのになあ。自分が死ぬまでしかおられへんねんで。短すぎる」もしかしたらこの姉のセリフは、ドラマや小説なんかで言われていたりして、皆さんは聞いたことがある言葉かもしれない。でも、私にはすごく響いたのです。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月24日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト犬山紙子が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載)私は33歳の時に「子ども欲しいかもしれない、でもやっぱり子どもいな くてもいいかもしれない、どうしよう」と思い悩みはじめ、 歳で妊娠して「妊娠しながら仕事大変、どうしよう」とまた思い悩み、 35歳で子どもを産み「子ども産んだけど、どうしよう」とまだまだ思い悩みながら、たくさんの方にお話を聞きまくったり、アンケートをとったりしました。いろんな人の人生の話を聞いてそのことについて考えるのって、結局自分の人生に ついて考えることにつながって、自分の気づいてなかった感情や気持ちがどんどん整理されてゆくんですね。最初は参考になるといいな、偏りたくないなと思いながら聞いていたけど、自分のこれまでの人生や、いまの自分の気持ちと深く深く向き合うことになりました。だからといって、「子どもは産んだほうがいいよ!」とか、そういう答えがあるわけではありません。まあ、当たり前ですよね、子どもを持つか持たないかなんて人それぞれです。良い悪いなんてないものです。私自身、「ああ、この人の話を聞いたから子どもを産むぞ!」とはなっていないです。 子どもができるまでは「やっぱり子ども欲しくないかもしれない、だってお金も不安定だし、自分の時間が本当に大切だもの」って思ったり、「いや、でも子どもがかわいいってどれくらいかわいいのか知りたい」って思ったり、いったりきたりしていました。でも、たくさんの人のお話が「どうしよう」って立ち止まって悩んでいる気持ち を優しくほぐし、人生を一歩踏み出すのに必要な勇気をくれたのです。そして私は、「私は子どもを産むべきか、産まないべきか?」では なく、もっともっと大切なことが分かったのです。それは当たり前のようなことでいて、確信に変わった時に人生がパッと明るくなる ようなこと。なのでいまとってもホクホクしています。良ければ皆さんもぜひ最後までご覧ください。その大切なことは、どんな立場の人にも優しく平等に寄り添って、勇気をくれるものですから。つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月23日子どもから大人まで幅広い人々を魅了する、当代一流の絵本作家のひとり、ヨシタケシンスケさん。ゆるかわな絵のタッチも、思いがけない角度から切り込む発想も、親近感が湧いて愛でずにはいられないヨシタケさんの絵本たち。このたび、著者初となるイラストエッセイ集『思わず考えちゃう』が刊行された。ゆるかわスケッチとエッセイの中に、新感覚のヨシタケ流哲学が見え隠れ。「講演会などで、“常日頃から手帳に描いているスケッチを、手元カメラでスクリーンに映し出してもらい、そのイラストに対してコメントする”というようなことをよくやっていたんです。それをテーマごとにまとめてみたのがこの本です」だが、イラストのほっこり加減とは裏腹に、コペルニクス的転回が起きそうな鋭い名アドバイスが並んでいる。やる気を出す方法として〈もう明日やるよ。すごくやるよ。っていう言葉を三回唱えてから寝る〉。仕事に対して〈できないことをそのままにするっていう覚悟の決め方(略)もあるんじゃないか〉等々、目からウロコ。「いまの社会でメジャーな前向きな考え方やものの言い方にこそ、やる気を鼓舞される方もいると思うんです。ただ、7~8割の人がそう考えていても、2~3割の人はきっとそう思えなくて、世の中の隅っこで悶々としている。じゃあ、陽が当たらない意見側の僕みたいな人間は、どんな言葉ならほっとするのだろう。やる気が出るのだろう。そんな自分に対する言い訳や負け惜しみを集めた本でもあって(笑)。もしこれを読んで救われたとか共感したと思う誰かがいるのならそれはうれしいし、何よりそう描くことで、僕自身が救われたいんだと思いますね」日常のスケッチを始めたのは大学時代。社会人1年目に、ノートを手のひらサイズのシステム手帳に変更して以来、こつこつ描き溜めたものがすでに約80冊ある。コピックというサインペンの0.3mmを愛用。できあがりの絵のサイズは数cm四方と、驚くほど小さい。「“描いておかないと忘れてしまいそうなくらいどうでもいいこと”が、何を描くかの基準のひとつです。自分の気分を盛り上げるためだけに描いていたものが、他の人にも喜んでもらえるというのは不思議な感覚。人生何があるかわからないものだなあと、我ながら面白いです」『思わず考えちゃう』どうでもいいことの中にその人らしさは宿り、ときに哲学も生まれる。イラスト100点以上収録、描き下ろしのスケッチ解説エッセイ付き。新潮社1000円1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で一躍注目を集め、話題に。MOE絵本屋さん大賞第1位をはじめ、受賞歴多数。※『anan』2019年5月15日号より。写真・土佐麻理子(ヨシタケさん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年05月12日この春、コミックエッセイ『母ハハハ!』を出版したお笑い芸人で夫婦コンビ「夫婦のじかん」(相方は元・トンファー 山西章博)兼イラストレーターとして活動している大貫さん。相方であり夫でもある山西さんと付き合って10年で結婚、偶然が重なり夫婦でお笑いコンビを組むことになり、妊娠、出産、ドタバタの育児……。『母ハハハ!』に掲載されているエピソードはすべて、大貫さんのインスタグラムにアップされていた漫画がベース。現在、1歳の男の子のママである大貫さんに、子どもができて夫婦関係の変化と、“妻が稼いで夫は主夫” という夫婦の形についてお話を伺ってきました。PROFILE夫婦のじかん 大貫さん1981年栃木県生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。夫婦コンビ「夫婦のじかん」として活動中。大貫ミキエ名義でイラストレーター、漫画家としても活動中。Instagram:@ohnuki_fufutimeTwitter:@takada_ohnuki貧乏2人暮らし、リアル夫婦コンビを組んだ矢先に妊娠、出産…編集部:『母ハハハ!』の出版おめでとうございます。つわりで絶不調だった妊娠中から出産、産後……と、タスクが山積みになる怒涛の生活の中で、毎日漫画を更新されていたことに驚きました。大貫さん/以下、大:ありがとうございます。漫画は、元々、お笑いコンビを夫婦でやることになったときに、一人でも多くの人に知ってもらえるきっかけになれば!と、コンビ結成の日から更新を始めて、わたしたち夫婦の日常についてアップしていたんです。その時は書籍化は全く考えていなくて、純粋に宣伝のためにやっていただけなんです。それまでは私と旦那が結婚したことを知らない吉本の先輩も多く、SNSをきっかけに「え、おまえら結婚したの!おめでとう」と声をかけられることもあったので、よかったですけど。毎日漫画を描いてアップするのは正直大変ですが、コンビ結成から1年後に妊娠するまで毎日更新していたので、ここで流れを止めない方がいいなって。育児は未知のできごとだし、大変だと耳にしていたので漫画を描くのはしんどいかな?と少し不安だったんですけど……結果的に出産数ヵ月で書籍化の話がいただけたのはラッキーでした。編集部:それでも毎日更新するのは大変だと思います。「夫婦のじかん」を組む前、インスタグラムはされていなかったんですか?山西/以下、山:はい、僕はSNS自体やっていませんでした。大:私は……実は、アカウントを持ってました(笑)。ただ大好きなBIGBANG関連の投稿に「いいね!」をするためだけに、仕事は無関係のアカウントを(笑)。山:そうだったの?今知りました(笑)。大:でも、芸人として公に始めたのは旦那とコンビを組んでからです。漫画で日常を描くのはしんどそうだなと思ったんですけど、モノマネでブレイクしたガリットチュウの福島さんを始め、周りの芸人が褒めてくれたことが大きかったですね。福島さんはアカウントを開設した当初からフォローしてくれていて。「毎日描くのは大変だけど絶対にやった方がいいぞ。フォロワーが全然いなくても、意外とテレビ業界の人は見ていたりするから仕事に繋がるかもしれないし、とりあえず続けろ」とアドバイスしてくれて。最初はフォロワー数もなかなか増えなくて、大変な思いをしてまでなんのためにやっているんだろうと思うこともあったんですが、いいタイミングで、ムーディ勝山さんやハリセンボンの(近藤)春菜さんが「漫画めっちゃ面白かったよ!」と褒めてくれて。自分が面白いと思っている人が面白かったよ、と言ってくれたことが、励みになりました。編集部:大貫さんが漫画を描いている間、山西さんはどのようにサポートされていたんですか?山:コーヒーをいれたり肩をもんだり。彼女が仕事に集中できる環境を整えていました。編集部:漫画について独学で学んだと聞いて驚きました。大:漫画を描くのは大好きで、昔は芸人になるか漫画家になるか本気で悩んだこともあったんです。漫画は自己流なんです。プロの漫画家の元でアシスタント経験があるわけではないので必死に勉強して。美大で学ぶようなパースをとったり構図を考えるのは独学で、イラストは描くことによって上達するのでとにかく経験を積むようにしました。ハリセンボンの単独ライブ用に、春菜さんを『NANA』(矢沢あい作)風に描いたりと、吉本はイラストを描く仕事も沢山あったんです。気がつくとほぼほぼ吉本専属イラストレーターみたいになってました(笑)。編集部:その後、プロになろう!と奮起して「ちびまる子ちゃんファンコミック大賞」や「小学館漫画賞」を始めとする各漫画賞にも入選され、CMの絵コンテやゲームアプリなどのイラストも手がけられたんですよね。大:イラストも描ける芸人のままだと悲しいほどギャラが安いので、受ける仕事の幅を広げるためにもプロになってやろう!と思ったんですよね(笑)。たまに、芸人もイラストもやっているので、「どっちかに絞った方がいい」と言われることもあるけど、自分の中で「息子のことは一番にする!」と決めてさえいれば、あとは楽しんでやればいいなと。流れに身を流せて。楽しんで生きる方がいいやって。編集部:大貫さんがイラストで稼ぎ、山西さんが主夫として家事を担当と、いわゆる一般的とされている男女の役割とは正反対な点も興味深かったです。大:私は家事が苦手で。それよりもイラストを描いたり、何をどう描いてどうPRすれば営業利益が上がるのか、という経営の視点で考えることも含めて、仕事をする方が向いてるし、得意(笑)。といっても、付き合い始めた頃は今のように考えていたわけじゃなくて。自分は料理だってできる方だと思っていたんです。といっても実際は料理を作るといってもインスタントラーメンを作ったり、レトルトカレーを温めることぐらいしかやったことがなくて。ある日、ぶり大根を作ろうとしてボヤ騒ぎを起こしたことをきっかけに、料理から完全に手を引き、家事は旦那に担当してもらうことにしました(笑)。編集部:漫画でも、山西さんが常に携帯で近所のスーパーの安売り情報をチェックしていたり、そんな山西さんのために大貫さんが新しいフライパンを買ってあげたり、といったエピソードがあって微笑ましいです。大:私達、性格が正反対なんです。私は感情的で、なにかあると言わずにいられないタイプ。でも夫は達観しているというか。穏やかなんですよね。つわりで吐いてしまった時も、「吐瀉物を見たらまた気持ち悪くなっちゃうでしょ?俺が片付けておくからゆっくり寝ていて」と言ってくれて。本当に優しいんです。だから、子どもを生むことに関して小さな不安はあったけれど、「旦那がこういう人なので絶対大丈夫!」と確信がしていました。夫には天才って言って!とピンポイントでオーダーしています(笑)編集部:優しいですね。ちなみに、お子さんが生まれて大きく変わったことはありますか?大:私も旦那もあまり変わっていないんですけど、夫が感情を出すようになりましたね!それまではずっとフラットというか起伏がない人だったんですけど、子どもをあやすために歌を歌っていたり。山:音痴ということもあり、それまでは鼻歌すら歌ったことがなかったんですけど、赤ちゃんって歌が大好きじゃないですか?だからあやしたり寝かしつけたり、年がら年中歌っていますね。大:子どものこと好きなんだ!って新しい発見でしたね。山:自分の子どもが生まれて一気に変わりましたね。生まれた瞬間から可愛くて仕方がなくって。他人の子もめちゃくちゃ可愛く感じるし、ホンマ人生観が変わりました。大:旦那が息子をものすごく可愛がるので、つい「私のことも同じぐらい丁重に扱って欲しいんだけど」と言ったことも。普通は奥さんが子ども一直線になるっていうじゃないですか?でもうちは反対で、しかもここまで子ども命!になるとは思わなくて。だから思わず「ちょっとまってよ、産んだのは私なんだから、まず私のことをねぎらってよ」と(笑)。編集部:子どもが生まれると夫婦喧嘩が増えることが多いと言われますが、お二人はどうでしたか?大:一方的に私が怒ることはあるけれど、旦那はそこで反論してこないので大喧嘩には発展しないんです。山:僕は常に奥さんと子どもの機嫌をとっていますから(笑)。というのも、そこさえおさえていたら家庭がまわりますから。夫婦喧嘩って、だいたいがきっかけは些細なことなのに、お互い主張をしているうちにヒートアップするじゃないですか?それってもったいない。「なんでこんなことになってんねん。こんなにもめてるねん!」て思うんですよね。編集部:夫婦でバランスがとれているんですね。大:自覚はあるんですが……私はそれでも言わないと気がすまない(笑)。ある日、いつもは優しく受け止めてくれる夫が、珍しく言い返してきたときに「ちょっと、刃向かわないでよ!」と言ったことがあって(笑)。それは自分でもさすがに横暴だなと思いました(笑)。まぁでも結局、10年付き合ってお互いの性格は理解しあえているので喧嘩の引きどころも心得ているんですよね。そもそもなんで夫婦喧嘩をするかというと、女の人は別に小言を言いたいわけじゃないんです。共感したり話を聞いてほしくて話しているのに、それが伝わらないから口うるさくなっているだけなんですよね。だからとりあえず聞いてもらって。でもリアクションがないのは嫌なので、コメントや謝罪は欲しい。だから男の人が優しければ家庭はまわると思います!編集部:1歳の息子さんを育てる中で大変だったこと、忘れられないことはありますか?山:一番大変だったのは、僕がぎっくり背中になった時。ウチの息子は抱っこでしか寝ない時期があり、基本ぼくが寝かしつけをしていたんですが、物理的にできなくなってしまって。で、奥さんにスイッチしたいと思っても彼女は漫画を描く作業があるし。そのときに「ウチの家は奥さんが動けなくなるよりオレが動けなくなる方がやばいな。家庭が回らなくなるんやな、と思いましたね(笑)」大:そうなんです!旦那が倒れたらご飯作ってくれる人がいないんで困る(笑)。ウーバーイーツを頼むにしても高いし。山:ウチの場合経済を回してるのは妻だけど、家庭を回してるのは夫。夫がダウンしてしまったら息子に専念することになるので、家事も仕事もできなくなるし。山:だから俺が健康に気をつけないとな、と再確認しましたね。編集部:お互い、今後こうしてほしいという希望はありますか?山:『母ハハハ!』の出版をきっかけに大先生になってもらって、お金をじゃんじゃん稼いで潤していただきたいです!大:私は特にこれといって旦那に変わってほしいところはないんですが……。あ、でも、たまに旦那が若手の仲間たちの「バイトは大変だ、辛い」という話を聞いて、アルバイトしようとするのはやめて欲しい。うちはそんなに余裕がない生活はしてないでしょ?苦労はしてないでしょ?って。単刀直入に言っちゃうと、旦那が働きに出るより、その時間私が仕事した方が稼げるからって(笑)。山:若手のみんなが苦労している話を聞くと、おれだけ全然やってないんじゃないかと思っちゃうんですよね。大:いやいや。だってあなたは家事をやってるから。家事と仕事って同じぐらい大変じゃないですか?あなたが家事育児を一生懸命やってくれているから私は漫画に集中できるんだし。だから、仕事をしている方が偉いとかいう世の中の風潮は変わっていくべきだなと思いますね。『母ハハハ!』絶賛発売中!『母ハハハ!』 著/夫婦のじかん 大貫さん税別1200円PARCO出版:Shiho Kodama
2019年04月09日『テルマエ・ロマエ』の大ヒットで、一躍人気マンガ家となったヤマザキマリさん。名が知られるにつれ、ヤマザキさんの破天荒な半生も話題になった。美術の勉強のため、17歳にして単身イタリアに渡ったことや、イタリア人の詩人と恋に落ち、シングルマザーとなったこと…。まるで“朝ドラ”規格外で心優しき母リョウコの生き方とは。ヤマザキさんのボーダーレスな生き方は、「この母にしてこの娘あり」を地で行く世界。そんなヤマザキさんの目を通して綴られた、母リョウコさんの一代記的な読み物『ヴィオラ母さん』が滅法面白い。「インタビューや講演などで自分の話が出てくると、『なぜそんな若さで、単身イタリアに行ったのですか』と尋ねられるんですね。きっかけは、母に行ってこいと提案され、14歳のときにヨーロッパを1か月くらい一人旅したことだと説明すると、今度は必ず『ヤマザキさんのお母さんてどういう人なんですか』と驚かれるんです。私の自伝的なマンガやエッセイなどにも登場するリョウコという女性のことを、一度まとめてみてもいいのかなと思いました」実際、リョウコさんは仰天のエピソードに事欠かない。やっと戦争の痛手から立ち上がりかけた昭和20~30年代に、女性が音楽の道で食べていこうというのも無謀なら、知り合いがひとりもいない札幌へ乗り込んで、交響楽団の演奏家になろうというのも無謀。子育てしながら、北海道各地へバンを運転して、子どもにバイオリンを教えに行くというのも向こう見ずすぎる。大自然が好きで、泳げないのに川に入っていって流され、ペット禁止の団地住まいなのに、拾ってきた犬を堂々と許可を求めて飼い始める。「母は、祖父母の影響もあって、小さな世界のルールなんて何ほどのものかという人。友達のお母さんとあまりに違うので、友達の家で“お母さんらしいお母さん”を観察するのが楽しみでした。リョウコさんには、母親とは、子育てとは、『こうあらねば』がなかった…というか、忙しくて考える暇もなかったのかもしれません(笑)」本書では少し触れられているだけだが、リョウコさんは、サウジアラビアに海外赴任していた再婚相手の母親と同居し、その夫と離婚後も義母と一緒に暮らす道を選ぶ。並外れて情に厚いのだ。「バイオリンを習いたいという子がいれば、バンを飛ばし、ほぼ無償で北海道中に教えに行っていました。その代わりに、季節の野菜だの海産物だのがしょっちゅう送られてくるので、『物々交換だ』なんて悦に入ってる。母はお金が必要だという概念が薄かったんですよね。生きている、それだけでうれしくてしかたがないという人なんです」そんな〈規格外〉の母の背中を見て育ったヤマザキさん。「私はたぶん母よりひどいですよ。『ここから先は行くな』と学校で注意をされたら、必ず行く。規則やルールがあるのは知っていても、その先にもっと面白いものがあるかもと思うと、自分を抑えられない」自らの生き方はもちろん、成人した息子さんの子育てについても、どこか母譲りな部分があったようだ。「海外へ引っ越した直後、息子は言葉もわからないと悩んでいたけれど、私は一緒に深刻にはならない。『それが楽しいんだって』と笑い飛ばしていました。生きていればみな絶対につらいことに直面するけれど、どんなときも笑っている母親は慰めになると思う。7歳にして花輪和一さんのマンガ『刑務所の中』を愛読していた息子ですから、好きなように生きてほしい、それだけですね」ヤマザキマリ1984年に渡伊。フィレンツェの美術学校で油絵と美術史を学ぶ。’97年にマンガ家デビュー、2010年に『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞など多数の賞に輝く。現在は日伊を行き来。『ヴィオラ母さん』御年86歳というリョウコさんの生い立ちや、夫と死別したのち、女手一つで2人の娘を育てていたころを、エッセイとコミックで振り返る。文藝春秋1300円※『anan』2019年3月13日号より。写真・土佐麻理子(ヤマザキさん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年03月08日心に残る、「詩」があります。会話となる言葉とも違う、手紙とも、物語とも違う、「詩」に使われる言葉について、詩人・最果タヒさんがエッセイを書き下ろします。言葉という「暴力」と、付き合う。自分の気持ちを言葉にする、という行為は、自分への「暴力」でもあると思っています。言葉はそこまで、柔軟なものではない。いろんな人が、いろんな人生を生きて、見つけてきた感情がどれも同じはずはないのに、「好き」「嫌い」「ムカつく」「うれしい」、言葉にすればまるですべてが同じ形をしているみたい。本当は、その人の言葉でしか、その人の感情は表せない。本当は、新しい感情を語るためには、新しい言葉を探していかなくちゃいけない。けれど、そしたら伝わらなくなるから。「わからない」「意味不明」「わかるように喋って?」だから私は、「言葉にしてこそ、相手に伝わってこそ、自分の感情に意味があるんだ」と思い始めていた。学生時代。誰かと気持ちをシェアしたい、一緒に喜んだり、悲しんだりしたいって、時もあるし、だから必死で共感を求めた。けれど、それって本当に、思いのすべてを理解してもらわなくちゃ、できないことなんだろうか?何一つ伝わってないな、と思うことは多かった。話し方が下手なのか、コミュニケーション能力の問題か、教室で友達と話していても、私の言いたいことはほとんど伝わっていない、と思うことが多かった。友達の言いたいことも、たぶん私は理解できていない。でも、その場のノリとか、勢いとか、そういうものによって会話は流されて、一言一言を精査することなんてない。いや、そんなの誰ももう求めていないのだ。「あ、それいいよね」「わかる」「まじそう」そう繰り返していくことで、時間も一緒に流れていく。一緒に話していれば、一緒にいれば、それだけで湧く親しみというのがあって、たとえ友達の言いたいことがわかっていなくても、友達はそれでも私と一緒にいたいと思ってくれるし、私もそれでいいと思っていた。その場が盛り上がればいい、という会話の仕方は、中学から高校にかけて激しく、流行のもの、テレビ、音楽について話していれば大体のことはやりすごせていた。それぞれが違うことを言っていても、テーマがそこにあれば、まあなんとかなってしまう。部活動とか、先生とか授業のこともそう。何かを褒めたいとか、何かを貶けなしたいとか、大きな方向性が定まっていれば、それに従いつつ、みんな意外と好き勝手に話して、そうしてそのほとんどがスルーされていくんだ。「わかる」とか。そういう言葉が受け流していく。小説やドラマみたいに、セリフすべてに存在意義があるわけではない、と当時の私はよく考えていた。早口で言えば誰もが聞きもらすし(それでいて聞き返すようなこと誰もしないし)、ぱっと聞いておもしろくなかったら「ていうかさ」って違う話になったりする。言葉は使い捨てられていく。たぶん、ドラマとか漫画では、省略されてしまうやりとりだろう。きっと、物語など何もない私たち。そんな私たちの会話では、言葉がおざなりにされていく。「何を言うか」より「誰と話すか」のほうが大事で、「どう話すか」「どんなテンションで話すか」が大事で、だから相手の言葉を正確に拾おうとはしなくなる。親しい相手になればなるほど、そうだった。言葉は、そばにいることを知らせる、定時連絡みたいなものだ。それでも一つだけルールがある。「わけのわからないことを言って、場を凍らせるな」一緒にいるだけで、なんか話しているだけでOKの場。それを壊すな。だってこれこそが平穏だから。場のために、私たちは言葉を選ぶ。わかりやすいように、伝わりやすいように言葉を選ぶけれど、相手に自分を理解してほしいからそうしているのではないのかもしれない。誰ももう、理解しようとしてなくて、だからこそ、「なにそれ?」ってなるようなこと、言ってはいけない。「わかる」っていうのは、流してしまってOKってこと。そうやってさらさら通りのいい会話をして、時間をやりすごしたい。別に、悪いことではなくて、そういう退屈だってあっていいとは思うのだ。けれど、私は耐えられなかった。自分の気持ちをそぎ落として、わかりやすい言葉に無理やり、あてはめて、そうしてだんだん、私は何かを捨ててきてしまっているのでは、と思い始めた。「わかる」と言われたらほっとする。みんなも自分もくつろいでいる空間は、私だって、壊したくない。けれど、語る言葉が「建前」であろうとも、声にするたび、そっちのほうが「本当」であったように感じてしまう。自分が本当はどう思っていたのか。誰とも話さず、言葉にせずにいたら、だんだん忘れてしまうんだ。最適化されていく。みんなにわかるように話すことで、みんなの知っている言葉を使うことで、その言葉に合わせるように自分という人間も、最適化されていく。みんなに「わかりやすい」人間になる。場を壊さない人間になる。でも、それだけだ。場の要素でしかない私。ここに自分がいたっていなくたって、同じだと思った。誰にだって共感される人間なんて、すべてが「わかって」もらえる人間なんて、そこにいる意味がないとも思った。全く別の家で、全く別の人生を生きてきて、わかるはずなんてないのに。「わからなさ」にこそ自分があると、思うのに。それなのにそれらすべてを捨ててしまっている気がした。「わかる」と言ってもらいたいがために。でも私は、やっぱり人は、「わからないけれど、でも、なんか好きだよ」「なんか嫌いだよ」、そういう感情でつながっていくものだと思った。だから、きっと、話し言葉以外の「言葉」を探し始めたのだろう。中学生だった頃、私はインターネットで日記を書き始めていた。友達にはまだネットに詳しい子がそんなにはいなかったけれど、でも、ネットにはすでにたくさんのWEB日記が存在していて、そこでは現実の人付き合いなんて、全く関係ないみたいだった。また、個人の書いた言葉、というものは、耳で聞く言葉と大きく違って見えたのだ。言葉より優先される「場」がないから、言葉が、話し言葉よりもずっと、ごろっと目の前に現れている。ノリで流すことができない。スルーができない。わからない言葉は、わからない言葉のまま存在感を発揮し、私はそれが羨ましかった。「わからなくてもいい」と思って言葉を書けることが魅力的だった。とりとめもない思考回路。それを、ただ言葉にしてぶつけていった。友達に話しても「は?意味不明」と言われるようなもの。だけれど言葉と体が結びついて、言葉を書くことが、体をぎゅっと丸めたり、思いっきり走ったりすることと同じように感じられた。次の瞬間に自分が何を書こうとしているのか、わからない。理性とか、そんなものを置き去りにして、私の感情が言葉を選び、そのうち、感情すら置き去りにして言葉が暴走していく。感情というより、反射神経で言葉を書いている感じだった。わかりやすい言葉ではなかったけれど、その言葉の手触りにこそ、自分というものが存在している気がしていた。次第にそれを読みたがる人が現れて、「書く言葉」だからこそ、受け入れられる「わからなさ」があるのかな、なんてことを思った。話す間はどうしても、相手の顔が目の前にあり、周りには空間があり、空気があり、それまでの雰囲気を崩さないように、言葉を選ぶ。言葉より場が優先されてしまうのは、「コミュニケーション」としては当たり前のことなのかもしれない。けれど、書いた言葉は、ネットの海にある言葉は、どうだったのだろう。当時の、個人サイトが点在しているようなインターネットでは、まだ言葉はどれもがひとりごとで、コミュニケーションを前提とはしていなかった。「わかってもらう」なんてこと、考えなくてよかったんだ。だって、相手の顔は見えないし、互いがどういう環境でそれを書いているのか、読んでいるのかも知ることができない。言葉の手触りだけが生々しく、やってくる。そこにしか、「人」の気配がなかったんじゃないだろうか。よく知らない相手なのに、同じ言葉を話している。けれど、あきらかに、自分とは違う言葉選びを相手はしていて、相手の背景にあるものは何一つ見えないのに、その「異物感」に相手の生きてきた痕跡を感じる。言葉のすべてがわからなくても、言いたいことがなんなのかわからなくても、その「異物感」にときどき、ぐっときたり、むしろ嫌悪感を抱いたりする。言葉が「人」を伝える瞬間だと思った。「わからなさ」に「人」が宿る瞬間だと思った。そういう言葉を、私はずっと書きたいと、思っていたんだ。ネットに書いていた言葉には、次第に読者が現れて、そうしてそれを「詩みたい」と言う人がいたことで、私は「詩」を発表するようになった。これが、私が詩人になったきっかけだったと思う。詩は、私にとって、「わからなさ」に宿るものです。わかってもらいたい、という感情を抱いた途端、その言葉は詩ではなくなる、と思っています。読んで、その詩を「好きだ」と言ってくれる人も、それぞれが違う解釈をしていたりする。彼らがどう読むかなんて私にはコントロールできないし、それでも、届くものがある、ということが私にとっては大切だった。読み手と書き手が、完全にわかりあう必要などないのだろう。わからないけれど、でも、だからこそ強く残る手触りがあり、それこそが「詩」なのかもしれなかった。それぞれが、自分自身の中にあるものを、そこから思い出すのではないか。共感や、わかってもらう、ということを追いかけて、忘れ始めていた自分の「本当」が、奥にまだ眠っていることを思い起こすのではないか。もしかしたら。そんなことを、最近は、考えています。実際のところはわからない。わからなくて、いいと思う。ただ、私が書いた「わからなさ」が作品として、誰かに届いていくとき、私は、書いていてよかった、と思う。こんなことがあるんだ、といつも驚かされている。こんな瞬間があるなら、いつまでも、いくらでも、書いていけると、そのたびに、思う。さいはて・たひ詩人。中原中也賞・現代詩花椿賞などを受賞。著書に詩集『天国と、とてつもない暇』(小学館)、エッセイ『百人一首という感情』(リトル・モア)ほか。※『anan』2019年2月13日号より。文・最果タヒ©mheim3011(by anan編集部)
2019年02月12日シンガーソングライター、映像作家、コミック作家、エッセイストとして、多才さを発揮するソウル出身のイ・ラン(Lang Lee)が、エッセイ集『悲しくてかっこいい人』を発売した。音楽のみならず、詞やエッセイが人々の心をつかみ、日本のカルチャーシーンからもオファー殺到中のイ・ラン。 2017年には、韓国のグラミーともいわれる、韓国大衆音楽賞最優秀フォーク賞を受賞した。同書は、2016年冬に韓国で発売し、7刷のヒット作となった待望の日本語版となる。ままならない日々の葛藤や疑問。生きることにつきものの、労働、孤独、恋愛、退屈、自意識との戦い…。アーティストとしての創作、社会との接点を通して、「いったい何者なのか? 」と自分をみつめる。日常を悲しみながら、あははと笑い飛ばすイ・ランの洒脱なユーモアあふれるひとりごとエッセイとなっている。撮影:熊谷直子すべてが過ぎ去ったあとに ようやく君は泣くのかい? 境界もピラミッドもない世界を願い、イ・ランが今日もまた問う。 「ほんとうにそうすべき?」「何をしたら面白い?」「わたしは何になれるだろうか?」【プロフィール】イ・ラン(이랑 Lang Lee)1986 年ソウル生まれ。シンガーソングライター、映像作家、コミック作家、エッセイスト。16 歳で高校中退、家出、独立後、イラストレーター、漫画家として仕事を始める。その後、国立の芸術大学に入り、映画の演出を専攻。日記代わりに録りためた自作曲が話題となり、歌手デビュー。短編映画『変わらなくてはいけない』、『ゆとり』、コミック『イ・ラン 4 コマ漫画』、『私が 30 代になった』、アルバム『ヨンヨンスン』、『神様ごっこ』を発表(2016 年、スウィート・ドリームス・プレスより日本盤リリース)。『神様ごっこ』で、2017 年の第 14 回韓国大衆音楽賞最優秀フォーク楽曲賞を受賞。授賞式では、スピーチの最中にトロフィーをオークションにかけ、50 万ウォンで売ったことが話題となった(その顛末を『早稲田文学女性号』に本人が寄稿している)。【書籍情報】『悲しくてかっこいい人』著者:イ・ラン出版社:リトルモアソフトカバー/280ページ/四六判翻訳:呉永雅(オ・ヨンア)装幀:名久井直子価格:1,800円
2019年02月04日『ゲイだけど質問ある?』の著者・鈴掛真さんにお話を伺いました。歌人の著者が明るく丁寧に回答、LGBTがぐっと身近になる一冊。「なんで男なのに男を好きになるの?」「ゲイの友情と恋愛の境目はどこ?」「ゲイの息子を持つ親として大切なことは?」……ぶしつけな質問の数々に、明るく分かりやすく回答する話題の書、『ゲイだけど質問ある?』。著者は歌人としても活動する鈴掛真さん。「いつもは硬めの文章を書くんですけれど、普段本を読まない人にも手にとってもらいたくて、あえて軽い文体で書きました」もともとは2年半ほど前からWEBの2つの媒体で連載していたもの。「それまで短歌の中で同性愛をさりげなく表現することはありましたが、そろそろしっかり書いてもいいという社会の風潮を感じたんです。同性愛者と話してみたいけれど身近にいない人に向けて書きましたが、自分がゲイであることに悩んでいる子にも、こんなふうにオープンにできる人間もいるんだよと伝えたかった。本来、アンタッチャブルなものではなく明るく話せるものなんだ、ということを表現できた気がします」“絶対に手の届かないあの星にあなたと同じ名前を付けた”などぐっとくる短歌も多数掲載、昔の片思いを振り返ったりSexy Zoneについて熱く語ったり、胸襟を開いていて親しみがもてる。「同性愛者でもいろんな考えの人がいるので、僕がゲイを代表して書いているわけでないです。これは“僕みたいなゲイもいるんですよ”という本だと思ってもらえたら」時には、知人から「何のためにそんなこと書いているの」と冷たく言われたこともあるという。「やはり、これまで差別に対して頑張ってきた人がいて今があるのだから、自分も何か未来を作るきっかけを生み出せたら、と思いました」また、連載中に気づいたことも。「“ゲイは女の気持ちが分かる”と言われるなど、男性を好きになる男性はフェミニンだという固定観念ってありますよね。僕自身も自分は中性的だと思っていたんです。でも連載中に女性編集者に『鈴掛さんってすごく“男”ですよね』と言われて、はっとしました。同性愛のことに限らず、周りの影響で自分自身にも暗示をかけていることっていろいろあるんでしょうね」先入観を解かすこの一冊から、あなたの中で始まることがきっとある。鈴掛真『ゲイだけど質問ある?』同性愛者であることをオープンにしている歌人の著者が、さまざまな素朴な質問に丁寧に回答する入門書。恋心の滲む短歌の数々も魅力的。講談社1500円すずかけ・しん歌人。1986年生まれ。大学時代から短歌を始め、広告会社でコピーライターとして3年勤務ののち、本格的に作家活動を開始。著書に『好きと言えたらよかったのに。』ほか。※『anan』2019年2月6日号より。写真・土佐麻理子(鈴掛さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年02月02日作家・柴崎友香さんがチョコレートにまつわるエッセイを書き下ろしました。以下、『チョコレートのある世界』の全文です。なぜ、チョコレートだけが特別なのだろう。甘くておいしいものはたくさんあって、そのたくさんの中で、チョコレートはいつも特別だ。わたしには、チョコレートをとっておく癖がある。箱の中に、一つだけ。最後の一つを、食べてしまうのには、勇気がいる。深みのある褐色の、あの小さな一粒がいつまでもそこにあったらこのしあわせが続くのに、と思ってしまう。ところでわたしは、甘いものはそんなに得意ではない。「そんなに」というところが重要で、きらいではない。「好き」と言ってしまうと、とっても甘いのをたくさん食べられることになるが、そうではなくて、ちょっと甘いくらいのを、少し食べる。それが幸福を感じる時間だ。それもできれば、苦みや渋みのあるものといっしょに。お茶とかお酒とか。チョコレートは、甘いけど、苦い。その甘さと苦さの合わさったところ、同時に味わえるところに、限りない豊かさがある。チョコレートは融けるから、メインの季節は冬だということになっていて、空気がだんだん冷えて夜が長くなってくると、いつもと違うよそゆきのチョコレートにたくさん会える。気取って装飾品みたいに並んでいたり、ちょっとユーモアのある動物や身近なものをかたどっていたり、それが工夫を凝らした夢みたいな箱に入って届けられる。いろんな種類が詰められた箱をいただいたりすると、わたしはまず解説の小さな紙を熟読する。最初はまずシンプルなの、次は少し変わったフレーバーの、それから、と食べる順番に迷いに迷う時間さえ楽しい。好きなお茶を濃いめに淹れて、一粒一粒、それぞれの苦さと甘さに、驚いたりうっとりしたり。自分で辞書を作るなら「贅沢」の項目にこの時間のことを書こう、と思うくらいだ。宝石なみにきらきらしたチョコレートの一方で、毎日の時間に染み込んだ、地元の友だちみたいに気楽に付き合えるのもやっぱりチョコレートだったりする。スーパーやコンビニで売っている、定番の板チョコ、駄菓子的なチョコバー、毎シーズン出現する新商品。銀紙をわざと無造作に剥いて、ぱきっときれいに割れるとうれしい。いちご味にも弱くて、パステルピンクと焦茶色の組み合わせは何回食べても子供のころのもっとも無邪気な楽しい時間をすぐによみがえらせてくれる。パフェやパンケーキにかけるチョコレートソースになると、悪友的な存在感さえある。子供みたいに手や顔をべたべたにして食べたい誘惑にかられたりもする。ずっしり重みがあるチョコレートケーキも忘れてはならない。さんざんおいしいごはんを食べて満腹なのに食後のデザートを選ぶとき、よりによってあのほとんど黒に近い密度の高い一切れを選んでしまうのはなぜなのか。しかし運ばれて来たそれは、選択が正しかったことを毎回必ず実感させてくれるのだ。家にいるときは甘いものはたまにしか食べないのだけど、仕事をしているあいだは違う。特に小説が佳境にさしかかって、ここでがんばろう、というときに、いちばん「効く」のはチョコレートだ。ひとかけら口に入れると、充電という言葉がふさわしいくらい、そのほろ苦い甘い塊が融けて体内に入っていくのが感じられる。普段ならほんの二、三かけでじゅうぶんなのに、仕事をしているときはついつい、食べてしまう。脳がエネルギーを欲してるのだなあ、と思う。その疲労感も、チョコレートのためにある気もする。チョコレートだけが。ゆったりした憧れも、懐かしさも、ちょっとうしろめたい快楽も、繰り返しの毎日の中の小さな楽しみも、みんな味わわせてくれる。チョコレートだけがいつも特別だから、わたしは箱の中に一粒、そのしあわせを取っておきたくなる。しばさき・ともか作家。1973年、大阪府生まれ。2000年『きょうのできごと』でデビュー。近著に『つかのまのこと』(KADOKAWA)、『公園へ行かないか?火曜日に』(新潮社)など。’18年は、著書『寝ても覚めても』の映画化も話題となった。※『anan』2019年1月23日号より。写真・枦木 功(nomadica)スタイリスト・岡尾美代子撮影協力・AWABEES(by anan編集部)
2019年01月16日平成が終わりを迎える今、本の力を借りて知識や思考のブラッシュアップと、心身の浄化を。書店員の方々に分析していただいた2018年のベストセラーの傾向から、来る新時代、幸せに生きる手がかりを探ります。新時代を生きるヒント:好きなものに“狂う”その熱量が道を拓く。『死ぬこと以外かすり傷』箕輪厚介売り上げ:10万部NewsPicks Bookの編集長としてベストセラーを連発する著者が革命的な仕事術や生き方を語る。「まず、タイトルがセンセーショナルで、思わず手に取らされます。そして『無知こそ武器だ。バカになって飛べ!』『こっちの世界に来て、革命を起こそう』など、既存の価値観をぶち壊して新しい道を切り拓こうという熱量、熱狂ぶりが読者に伝播した、そんな印象です。20~30代の男性を中心に、今も売れ続けています」(紀伊國屋書店・吉野裕司さん)マガジンハウス1400円新時代を生きるヒント:誰かと一緒にいるから人は幸せになれる。『大家さんと僕』矢部太郎売り上げ:76万部お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんが80代の大家さんと過ごした日々を綴ったエッセイ漫画。くすっと笑えてほろりと沁みる。「時代は一巡していて、今、懐かしいが新しい。隣人の顔が見えなくなったからこそ、この作品で描かれる“昭和の人情”が身に沁みて、読者の支持を集めたのでしょう。『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子著小学館)の大ヒットの流れも受けて、親、子、孫の3世代から反応がありました」(三省堂書店・内田剛さん)新潮社1000円新時代を生きるヒント:甘えない強い女性のしなやかさと美しさ。『Lily ―日々のカケラ―』石田ゆり子売り上げ:20万部大好きなものや衣食住にまつわるエッセイから、仕事や恋愛について語ったインタビュー、お気に入りレシピ、愛猫の成長記録まで。著者流の暮らしと哲学がぎっしり。「石田ゆり子さんの好感度の高さを実証した作品。SNSで発信するライフスタイルが女性たちの憧れの的になり、それが書籍の大ヒットに直結しました。立ち読みできない内容の濃さで、紹介されるファッションのブランドなど、細かい部分にも反響が」(内田さん)文藝春秋1800円新時代を生きるヒント:多岐にわたる教養が自分を高める武器に。『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』デイヴィッド・S・キダー 、ノア・D・オッペンハイム翻訳 小林朋則売り上げ:30万部アメリカのベストセラーを邦訳。芸術、科学、哲学など7つの分野から、教養を高める知識を1年分収録。「2017年あたりから“教養”がヒットのキーワードに。“世界”と渡り合っていくために、あらゆる教養を広く身につけなければという意識を感じます。1日1ページで無理なく読み進められるのも人気の理由でしょう。爆発的に、というよりは長く売れ続けている印象で、美しい装丁ゆえか、女性もよく手に取っています」(吉野さん)文響社2380円新時代を生きるヒント:体を整えれば自分らしさがより輝く。『ゼロトレ』石村友見売り上げ:80万部舞台女優でもある著者が、縮んだ体の各部位を本来の位置(ゼロポジション)に戻すことで、体型と体調を整える「ゼロトレーニング」を考案。「ゼロトレ呼吸」を使ったエクササイズや心をゼロにする方法を紹介する。「ニューヨークで開発された画期的なダイエット法が初上陸という触れ込みで話題に。1日5分、寝ながらできる、取り組みやすいところも支持を集めたポイントです。テレビで取り上げられてさらにヒットしました」(丸善・丸の内本店・高頭佐和子さん)サンマーク出版1200円新時代を生きるヒント:誰かを傷つけた後悔でまた一歩、大人になる。『青くて痛くて脆い』住野よる売り上げ:23万部大学に入ったばかりの楓は、自分と同じように周囲となじめない秋好と出会い、「モアイ」という秘密結社を始めるが…。『君の膵臓をたべたい』の著者が青春のきらめきと残酷さを痛切に描く。「デビュー作“キミスイ”が小説投稿サイトから書籍化され大ヒット。それ以降、新作が期待される作家となっただけにこの作品のヒットも想定内です。10~20代の若い世代から圧倒的な支持を集め、ネット発の作家の出世頭に」(内田さん)KADOKAWA1400円紀伊國屋書店・吉野裕司さん新宿本店で文庫、新書を担当。司馬遼太郎が好き。読者に読んでほしい本は『仕事にしばられない生き方』(ヤマザキマリ著小学館新書)。三省堂書店・内田 剛さん有楽町店で文芸書、文庫を担当。吉田修一や薬丸岳ら同世代作家を熱烈に支持。通を唸らせビギナーを立ち止まらせる棚作りを目指している。丸善・丸の内本店・高頭佐和子さん丸の内本店で文芸書を担当。読者に読んでほしい本は『これからの私をつくる29の美しいこと』(光野桃著講談社)。おすすめの作家は中山可穂。※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・中島慶子取材、文・熊坂麻美(by anan編集部)
2018年12月30日ウェブマガジン「VOGUE GIRL」の「しいたけ占い」でおなじみの占い師・しいたけ.さん。先月アンアンで特集した「ソウルカラー心理学」も好評と、大人気のそのワケは、占いの内容はもとより、読後になんだかほっと心が和らぐような独特の語り口。そんな“しいたけワールド”が堪能できる初のエッセイ集『しいたけ.の部屋ドアの外から幸せな予感を呼び込もう』が、このたび発売に。「ブログとかではちょこちょこ書いていたんですけど、いつかは本にできたらいいな、と思っていたんです。というのも、占いもソウルカラー心理学も、読んでもらえるのは、その人に関係のある項目が中心になりますよね。12星座とか18カラーとか、膨大な量の文章を書くのに、必要とされるのは一部だけ…。でも、エッセイなら、そういう枠組みをとっぱらって、これまで僕がいろんな星座や人を見てきた中で感じたことを、なんと全員に読んでもらえる!僕にとっては、そんなお得感というか、“おやつ感”のある一冊です」本書は、運を味方につける方法や、逆境からの回復法、恋愛問題との向き合い方など、いわば幸せになるためのヒント集。とはいえ、そこはしいたけ.さん。マニュアルではなく、読者に寄り添い、そっと背中を押してくれるような言葉が心に染み入る。「それはたぶん、僕が占いの個人鑑定をしていた時の体験が、もとになっていると思うんです。そこに来る人たちってほぼ疲れていたので、たとえば『早起きしましょうね』って言っても、99%通用しない。そんな正論より、『とりあえず、あったかいものを食べてください』って声をかけたい。自分の経験からしても、そのほうが嬉しいと思うんです」かく言うしいたけ.さん、実は以前は筋金入りの“コミュ障”だったとのこと。それが22歳の時に、「女の子にモテたい!」と一念発起。「まずは、飲み会へのスタンスを改めました。僕はお酒が飲めないので、飲み会に行く人を『翌朝眠いのに、なんで行くんだ』っていう目で見ていたんです。でも、視点を変えると、初対面の人を盛り上げるとか、みんなすごいことをしている。本のサブタイトルで表しているのも、まさにそれ。ドアを開けるって風が入って寒い行為ですが、一方で、閉め切ると何も入ってこなくなってしまう。ドアを開けることは、怖くないかもしれない。この本から、そんなことを感じてもらえたら、と思います」本書には、好きな子の前での失敗談や、飾らないホンネも、ユーモラスにちりばめられている。「占い師さんって、僕も含めて、どこか謎に包まれているじゃないですか。そのぶん、どの立場でアドバイスをしているのか、お伝えしたほうがいいと思ったんです。たとえば、『宿題をやりなさい』って言うにしても、宿題を完璧にこなしてきた人が言うのと、苦労して宿題をしてきた人が言うのとでは、響き方が違う。もちろん僕は後者ですが(笑)」それにしても膝を打つのが、例え話の豊かさと妙。本書は「歯科医院の待合室に置かれるのが野望」とのことだけど、その心は?「ちょっと緊張する場面で、手に取る」とほっとする。そんな一冊になってくれたらいいなって思います」『しいたけ.の部屋ドアの外から幸せな予感を呼び込もう』恋愛、仕事、人間関係など、しいたけ.さん流の開運アドバイスが一冊に。それぞれの具体的なお悩み解決法や、“五感タイプ”も必読。KADOKAWA1300円占い師、作家。2014年より、「VOGUE GIRL」で連載を開始。「note」で、月間占いなどを発表。『有田哲平の夢なら醒めないで』(TBS系)ではリーディングを担当。※『anan』2018年12月26日号より。インタビュー、文・保手濱奈美(by anan編集部)
2018年12月19日ミランダ・ジュライの処女短編集『いちばんここに似合う人』が、岸本佐知子さん訳で話題をさらったのが8年前。最新作にしてミランダ初の長編となる『最初の悪い男』も、期待以上の、美しき出会いの物語だ。シェリルは、護身術エクササイズのDVDを販売するNPOの古参職員。43歳のイケてない独身女性だが、自分流の暮らし方ルール〈システム〉に則った日々はそれなりに快適らしい。だが、その自己完結した世界に、突如終わりがやって来る。上司夫妻の娘で20歳のクリーが、シェリルの家に転がり込んできたのだ。「シェリルは、ストレスがたまると喉に〈ヒステリー球〉ができるような凝り固まった人で、クリーは衛生観念ゼロで傍若無人な、絵に描いたようなビッチ。水と油のふたりは、最初は女性版『ファイト・クラブ』よろしく激しくぶつかり合います。しかし、フィジカルの権化ともいうべきクリーと同居するうちに、肉体や感情が自己と切り離されていたようなシェリルはそうした“生”の実感を取り戻す。それにつれて、ふたりの関係性もどんどん変わっていくんです」一見、クリーの強烈さに面食らうが、シェリルも妄想癖において負けてはいない。20以上年上のフィリップへの恋慕、運命の赤ん坊クベルコ ・ボンディとのテレパシーの会話、やがてクリーに対しても妄想の暴走が始まって…。「妄想って誰でもすると思うんですが、常軌を逸しすぎて人に言えないようなシェリルの妄想の数々にはとりわけ親近感を持ちました(笑)」シェリルの脳内世界の部分は、訳していてとても楽しかったそう。「赤の他人同士がつながる、というのは昔からミランダのアートの大きなテーマなんです。小説にせよ、映画にせよ、パフォーマンスにせよ、彼女の作品はつねに『人って、つながるって、生きるって、なんだろう』というところに向かっている気がするんですね。本書でも出会うはずのなかった人たちが出会い、何かが起きる。その先に、残ったものや残らなかったもの、変わったものや変わらなかったものが生まれて、それらを含めて人生は続いていく。そう語りかけられている気がするし、だからこそ最後に大きな感動を呼ぶのだと思います」『最初の悪い男』庭仕事が得意なリック、クリーの風変わりな両親カールとスーザン…。シェリルやクリーを取り巻く人々も、それぞれかなりクセが強い!新潮社2200円きしもと・さちこ翻訳家。ミランダ・ジュライ、リディア・デイヴィスらの作品の邦訳を手がける。エッセイストとしても評価が高く、2007年、『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞を受賞。※『anan』2018年11月7日号より。写真・土佐麻理子(岸本さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年11月05日先週、占いのことについて書いたエッセイが大反響だったので、もうひとつとっておきのお話をさせていただきます。30代後半のある日のこと。芥川賞を受賞し、『冷静と情熱のあいだ』が累計300万部も売れ、私が歌った『ZOO』がゴールドディスクを獲得、武道館ライブもやって、破竹の勢いの頃のお話です。私は弟が運転する車で仕事先のラジオ局を後にしました。当時は弟がマネージャーだったのです。ラジオ局から出た瞬間、不意に頭の中にある人物の顔が浮かびました。高名な占星術師が外苑並木通りのカフェのテラス席にいるから会いなさい、というお告げのようなものを受けたのです。弟に「悪いけど外苑に向かって。セランというカフェがあるはずだから」と言いました。自分で発していながらとっても奇妙な感じがしたのを覚えています。果たしてセランに到着するとその人がテラス席にいてタロットカードをやっていたのです。私は一度面識があったので彼の前に行き、ご挨拶をし、ごく自然に腰を落ち着けました。不思議でしょ?当然のように、タロットが始まりました。不思議なことに彼がめくるカードがすべて自分に対して反対側を向いていったのです。ところが中心に置かれた最後の1枚だけが私の方を向いていました。「さて」と占星術師が口にしました。私はそれを遮るように「これから私に最悪な時代が待ち受けているということですね?でも、この真ん中のカードが私の方を向いているからこのカードが私を救ってくれる、のでしょ?」。すると暗い顔をしていた占星術師の顔がぱっと明るくなり「辻さん、そうです。私はいつも皆さんに言うんです。悪い判断がすべてそのまま悪いことだと思わないでほしい。それをどう自分の教訓として受け止めるかでその人生は違うものになるのですよ」と。その時、のんきな私は笑っていました。でも、笑えなくなるような、それまでとはまるで違う時代が私を待ち受けていたのです。何もかもが思い通りにならない時代のはじまりでした。でも、私の脳裏にはずっと1枚のカードの絵が明滅していたのです。このカードが私を救い続けることになるのは事実でした。え?そのカードは何のカードだったのか?はい、それはクリエーション(創作の意)のカードでした。絵柄は、想像力の女神。「じゃあ、僕は困難な時代が来ても創作と向き合うことでなんとか救われていくのですね?」。そう告げると、占星術師は小さく頷きました。希望というものは闇の中にあるものです。皆さん、占いを信じますか?さて、今日は、お酒のお供としても最高、ご飯にもばっちり合う白身魚のエスカベッシュ(地中海風の南蛮漬け)のレシピをご紹介したいと思います。材料:白身魚250g、赤パプリカ4分の1個、紫玉ねぎ2分の1個、きゅうり2分の1本、にんじん3分の1本、塩・こしょう適量、小麦粉・揚げ油適量。つけだれ材料:にんにく(みじん切りにしたもの)1片分、醤油大さじ2、ナンプラー大さじ1、酢大さじ2、ライムの搾り汁大さじ1、砂糖大さじ2。まず、一口大に切った白身魚に塩・こしょうをし、小麦粉を薄くつけます。野菜は全て千切りにしておきましょう。小鍋につけだれの材料を全て入れ、一度煮立たせます。粗熱が取れたら野菜をそこにつけておいてください。180度に熱した油で白身魚をカリッと揚げ、熱々のうちにつけだれの中へ。野菜と馴染ませます。タッパーに入れて冷蔵庫で半日から一晩冷やし、味が染み込んだら完成です。器に盛り、お好みでパクチー(分量外)などを添えてください。ボナペティ!
2018年07月31日コミックエッセイ『離婚してもいいですか?翔子の場合』を描いたイラストレーター、野原広子さんにお話を伺いました。「離婚」の2文字を胸に秘めて結婚を続けている妻は、きっと多い。夫への不満は募るばかり。でも子どものことを思えば、離婚も簡単ではない。結婚生活の堂々巡りを描いて反響を呼んだ、野原広子さんの『離婚してもいいですか?』。その続編に当たる本書もまた、「結婚って、幸福って、何だろう」と考えさせる、共感必至のコミックエッセイだ。シリーズの始まりは、雑誌『レタスクラブ』の編集長からの「離婚をテーマにした、モヤモヤと答えのないものを描いてみませんか」という提案だったそう。「周囲を見渡しても、話を聞いてみても、多くの奥さんたちが『離婚したい』と思っていることを知りました。けれど、踏み出しているかといえばそうでもない。『3組に1組が離婚する』といわれる時代ですが、実際には翔子のように、離婚を考えても踏み出さない、踏み出せない人は、離婚した人よりずっと多いのではないかと思ったんですね」妻に作ってもらったごはんに、能天気に点数を付け、家では何もしない夫。専業主婦の翔子に対し、「翔子さんなんてラクしてるじゃない」と言う共働きの義姉。無神経な物言いで翔子を追い詰めていく、そんな無自覚さがリアルだ。「『聞いて聞いて』という人が本当に多くて、ネタには困りませんでしたね。むしろ、翔子に使ったネタはもっと闇が深くて、少し柔らかくしたくらいです」離婚に後ろ向きだった翔子だが、心療内科の医師の言葉で力を得たことが、その後の翔子を変えていく。「翔子のパート先の同僚が、『怒っていいんですよ』という弁護士さんの言葉に背中を押されたエピソードは実話。同僚は怒ることすらしなくなってしまっている状態で、その自覚さえ失ってました。第三者からの冷静な言葉に背中を押されるのは、大きな意味があると感じました」翔子の最後の選択。このラストには賛否両論あるかもしれないが、「結果として翔子が自分自身で決めたことなので、不幸な選択ではないと思っているんです。この本を読んでくれた読者が、自分の心を見つめて『あれっ、もしや私も?』と気づいてくれたらうれしいです」『離婚してもいいですか?翔子の場合』 専業主婦の翔子は、夫が大嫌い。けれど毎日夫の好物を献立に入れる。不満を押し込め続ける結婚生活の行方は?雑誌連載に描き下ろしを加え書籍化。KADOKAWA1000円©野原広子/KADOKAWAのはら・ひろこイラストレーター。神奈川県生まれ。出産を機にフリーのイラストレーターになり、『娘が学校に行きません』(KADOKAWA)で、コミックエッセイデビューを飾る。※『anan』2018年8月1日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年07月28日『40歳までにオシャレになりたい!』を発売したトミヤマユキコさんにお話を伺いました。いまよりちょっとおしゃれな私。センスよく変身できるコツが満載。<おもしろい服なら得意なのだ>おしゃれかどうか判断しづらい、個性的な<圏外ファッション>で通してきたトミヤマユキコさん。しかし、ある気づきを得る体験があった。「グレーのパーカを着て、ニコ生の放送に出ていたんです。すると『トミヤマさん、テレビ局のADみたい』と視聴者からのテロップが。私の着こなしがどうというより、好きな服を好きなように着ていてもダメな年齢なのではないかと悟ったんです。けれど、一日中、気の張るファッションでいるとか、ヒールを履いてるとかはつらいなぁという年齢でもあります。そのちょうどいい塩梅の参考書が何もなかった。となれば、自分を実験台にしてやるしかないのかな。それを必要としてくれる人のところに届けばいいな、と。おもしろく読んでくれる人がいたら実験台になった甲斐があります」かつて無難すぎてつまらないと敬遠していたコンサバ服<圏内ファッション>を取り入れながら、自分らしい大人の装いができる自分になれないものか。そう考えたトミヤマさん自身が、おしゃれの大改革に取り組み、導き出した法則をまとめたのが本書だ。ベースにあるのは、おしゃれになりたいけれど、いまひとつ自信のない女性たちが普段から抱いている切実な悩み。雑誌に出てくるモデル並みのおしゃれ感を目標にしているわけではないので、ちょっと背伸びするだけというのが好もしい。扱うトピックは、トップスからアウター、アクセサリーやメイクなど、上から下まで網羅。骨格レベルで体型が変化していき、若いときから好きだった服が似合わなくなるのが40歳前後だろう。「それを自覚するといま着るべき服も見えてくるのですが、実はその年齢までに『こういう色は似合わない。こういう服は着ない』というヘンな自分ルールができている人も多いと思う。そういう思い込みは外したほうがいい。私の場合はカラー診断に行ったのがとても良かったです」好きな服を否定したいわけではない。ただ、おしゃれのチャンネルをもう一つ増やそうというような気持ち、とトミヤマさん。「私が体を張って試行錯誤をしておきましたので、読者のみなさんは、その迷路をショートカットしていただければ幸いです(笑)」『40歳までにオシャレになりたい!』 グラビアやイラストも多数。また、何がおしゃれなのか似合うのかがなかなかわからないメガネや腕時計などにまで踏み込んでいて重宝する。扶桑社1200円ライター、早稲田大学文化構想学部助教。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(左右社、清田隆之氏との共著)がある。※『anan』2018年8月1日号より。写真・土佐麻理子(トミヤマさん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年07月26日これまでに30か国以上を訪れた田辺誠一さんが手がける、初の旅エッセイ集『欧州旅日記』が発売された。でも、旅行をしたときの記録は、ほとんど残していないのだそう。読んだ後に“旅をしたい”と思ってもらえたら嬉しいです。「全部、頭の中で思い返しながら書きました。どうやら記憶力がいいようで、幼稚園くらいからのほとんどのことを覚えています。芝居のロケ地を通ったときには“あの役者さんとこんな話をした”とか、そのときの気持ちが蘇ってくるんです。写真もあまり撮らないのが理想。それよりも記憶に残したり、状況を堪能することに集中したいですね。でも、エッセイにも書いている、デンマークの『ノーマ』とスペインの『カン・ロカ』という2つのガストロノミーを訪れる旅では、料理を記録に収めるために、いいカメラを持っていきました。人のブログを見たり、“このアングルで、光は横か後ろから入れるようにして…”などと、撮り方の研究もしましたね」そんなふうに、最近では、食が旅のきっかけになることが多いそう。「昔は観光地に行きたいとか、ショッピングを楽しみたいという気持ちが強かったんですが、スペインにある『ムガリッツ』というガストロノミーで食事をしてから変わりました。マリモみたいな見た目のものや、自分でゴマをすって食べるもの、液体をかけると泡になるような料理をいただき、これはアートだと思いました。素晴らしい空間のなかで、信じられないようなアイデアと美しさとシンプルさがある料理をいただく。ほかの芸術は観るというアプローチが多いなかで、体の中に入れて体感することができる。そんな芸術として素晴らしいジャンルがあったことを気づかされ、いろいろなところに行ってみたいという気持ちが芽生えました。今、気になっているのは、ベストレストラン50の上位が集まっているといわれるペルー。日本食とペルーの郷土料理をマッチングさせた『MAIDO』というお店の料理が食べたいです」デンマークにある『ノーマ』へ行くことを決めたのは、出発の10日前だったという田辺さん。「ホームページを見ていて、10日後に空きが出たことを知り決意しました。フットワークは子供の頃から軽いです。軽さしかないです(笑)。小学生のとき、杉並区にある学校の窓から新宿のビルが見えて、行きたくなって。行ってみたら『藤子スタジオ』と書いてあったので、トントンと扉を叩いて『藤子先生はいますか?何か描いてください!』と。すべてがそういう感じです。やってダメでも地球がひっくり返るわけじゃないし、後悔するほうが嫌なんです。それに、自分が知らない場所に行ったり、新しいことをする経験って楽しいじゃないですか。旅も予定どおりにいかないことが多いですけど、そこが醍醐味のひとつだと思っています。そう、最近、伊丹十三さんの『ヨーロッパ退屈日記』という本を読んで、何十年も前の作品なんですが、すごく面白いと感じました。欲を言えば、僕のこの本も、何十年も後に読んだ人にも楽しんでもらえるとありがたいですよね。そして、“旅がしたいな”“新しい体験をしてみたいな”と思っていただけたら、そんな嬉しいことはないです」『欧州旅日記』一流レストランを目指してヨーロッパを訪れたときの記録や旅先でのハプニング、荷物や文化にまつわる役立つ小技などが綴られたエッセイ集。田辺さんが描いた、かわいいイラストも満載です。産業編集センター1300円たなべ・せいいち1969年4月3日生まれ。俳優、映画監督として活躍する一方、「かっこいい犬」のイラストで画伯としても人気。『にっぽん!歴史鑑定』(BS-TBS)ではMCを担当中。※『anan』2018年5月16日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・重信 綾(by anan編集部)
2018年05月13日掃除や洗濯、ご飯の支度など、ママは365日家族のために頑張っています。掃除や洗濯は、たまに休むことはできても、ご飯の支度はそうはいきません。待ったなしで朝昼夜のご飯作りがやってきます。とはいえ、疲れて何も作る気がしない、献立のレパートリーが尽きて毎日考えるのもしんどい…なんてこともありますよね。毎日のことだからこそ、少しでも楽しくご飯作りができたらいいですよね。そこで今回は、料理のモチベーションを上げてくれるエッセイを紹介します。少しでもラクにおいしく作る知恵や料理をする意欲を湧き立たせてくれるものなど、さまざまなシーンに合った4冊をピックアップ。優しさやパワーに満ちた言葉に触れることで、いつもとは違った気持ちで食事作りができるかもしれませんよ。子どもや自身の悩みを抱えているママに「佐藤初女さんの心をかける子育て」佐藤初女小学館[概要]心に苦しみを抱えている人を迎えて、話を聞きながら一緒に食事をするという活動を行ってきた佐藤初女さん(94歳)。“食”で子どもも大人も変わることをさまざまな体験を通して語ったエッセイです。[おすすめポイント]不登校やいじめ、ママのイライラなど、さまざまな悩みを抱えた人が、一緒に食事をしたり料理をすることで変わっていく…そんな経験から得た初女さんの育児論がつづられています。人が生きる基本である「食べる」ということは何よりも大切で、おざなりにしてはいけないということが、読むほどにストンと心に入ってきます。食材を物ではなく命と捉え、その命を生かすように心をかけて調理することや、親子で料理をする意義など、具体的な例を挙げながら、母のように優しく語りかけてくれます。素直にありのままに、初女さんの言うことも自分のことも受け止められる…そんなエッセイだからこそ、食に向き合う気持ちが穏やかに、そして確実に変わっていきます。頑張りすぎて疲れ気味なときに「小林カツ代の日常茶飯食の思想」小林カツ代河出書房新社[概要]NHKの料理番組などで活躍した料理研究家の小林カツ代さん。仕事と家庭の両立に奮闘した経験を活かし、より早くおいしく作ることや無駄なものを削ぎ落とすことなど、料理の固定概念を覆した斬新かつユニークな発想が満載のエッセイ。[おすすめポイント]料理本にはたいてい「フライパンをよく熱してから食材を入れる」「根のものは水から、葉ものは湯から茹でる」と書いてありますが、小林さんは違います。絶対にこうじゃなくちゃいけないなんてことは少ない、便利で無駄が少なく味のいい方法を選べばいいと言います。栄養やカロリーにこだわることよりおいしく食べること、手をかけるのではなく気をかけることなど、読めば読むほど、どんどん心が軽くなっていくのは私だけではないはず。中でもおもしろいのが、無駄を削ぎ落としたい人におすすめの料理法「ひと皿盛り」。お子さまランチのように、ひと皿に彩り良く盛り付けることで、見た目がおいしそうなうえに自然と栄養バランスが取れて、盛り付けの勉強にもなる。洗い物が少ないのでエコだし、時間短縮にもなる。1人遅く帰ってきた人にもお年寄りにも、おもてなしにもぴったりの料理法なのだとか。年子と格闘しながら生まれた料理や、仕事と育児の奮闘ぶりを小気味よく語った講演トークも掲載。笑って学べて元気にもなる一石三鳥のエッセイです。もっとパワーがほしい!カツを入れたいと思うときに「食といのち」辰巳芳子文春文庫[概要]半年先まで予約でいっぱいの「スープの会」主催者であり、現役料理研究家・随筆家の辰巳芳子さん(93歳)。看護師や小児科医など、各界の第一人者と「食といのち」をテーマに語った対談集。[おすすめポイント]料理するのが面倒だなぁ、やる気が出ないなぁ…なんてときに、襟を正してくれるのが「食といのち」です。私は自分にカツを入れたいときに手に取るのですが、見事に気合いが入ります。この本は、震災後の日本で何を根幹に命を養うべきかについて、看護師や小児科医などの各界の第一人者との対談をまとめたもの。育児のほかに介護や病人食、日本の食文化、辰巳さん発案の料理法「展開法」についてなど、食にまつわる哲学や知恵、学ぶべきことがふんだんに書かれています。当たり前だけど当たり前のように365日食事の支度をするには、克己心が求められる…と語る辰巳さん。その言葉は、私の日々の食事作りを支え続けています。台所仕事を讃え、価値を見いだす哲学は辰巳さんならでは。読めば誰もが気づきと学びを得られる1冊です。とにかく忙しい!知恵がほしいママに「元気がでるふだんのごはん」山本ふみこ講談社文庫[概要]疲れたときも落ち込んだときも、活力の源であるご飯をおいしく食べたい。著者自身が経験した母子家庭ならではのやりくりや知恵が詰まった1冊。イラスト付きの簡単レシピも。[おすすめポイント]忙しくてバタバタの毎日。少しでも簡単でおいしく家計にも優しい料理の知恵がほしい…そんなときには、この本がおすすめです。著者自身が2人の娘を抱えて離婚した経験から得た、生活に役立つ知恵がぎっしり詰まった1冊です。1日1人600円の食費でやり繰りした家計簿を公開したり、何の支度もしていないときに使える「フルコース作戦」、手薄な料理をカバーするために考えた「お膳立て」、栄養バランスを1日ではなくを1週間単位で振り返るなど、誰もが手軽に実践できるアイデアが満載。また、作っておくと便利なドレッシングやソース類、スープ、おもてなしサラダなど、イラスト付きの簡単レシピも掲載されています。著者がバタバタ奮闘しながら仕事家事育児をする姿も、子育て真っ最中の人にとって励みになる1冊です。今の自分にぴったりな1冊を読むことで、キッチンに立つときの気持ちが少しでも楽しくなるといいですね。(文:フリーランス記者岩本亜実)
2018年04月21日不妊治療を2005~8年に受けた中村こてつさんが当時を振り返って綴る治療の体験談です。いよいよ移植となると注射やお薬、とさらに準備が進められるようです。移植日が決まる卵胞ホルモン剤(プレマリン)を服用しだして12日目、診察のためクリニックへ。子宮内膜が8mm以上あれば黄体ホルモンの投与を開始して、排卵後の状態に戻すそう。プレマリンは子宮内膜を厚くしていって着床可能な状態にする働きと、勝手に排卵しないようにする役割もあるとのこと。ジャスト8mm。合格です。4日後の移植が決定しました。初回はグレードが一番よかった凍結胚を一つ移植予定です。移植日のスケジュールとしては朝、凍結胚盤胞を融かし、昼過ぎに回復と生存確認をします(凍結・融解によってダメージを受ける場合があるため)。私の通っているクリニックでは生存率90%、10個に1個の割合でダメージを受けるデータとのことでした。融解に関しては同意書が必要になります。生存が確認できたら、午後に移植となります。移植後もプレマリン、黄体ホルモンは継続して投与します。黄体ホルモンは基本注射だけれども、希望すれば膣座薬に変更可能とのこと。1日4個、まあまあ多い…。しかし、クリニックに通う大変さ(片道1時間半)を考えると座薬のほうがよさそうです。移植後10日で血液検査によって妊娠判定を行います。そんなに早く分かるものなのねぇ。妊娠していれば更に黄体ホルモンとプレマリンは継続します。黄体ホルモンは妊娠8週まで、プレマリンは妊娠12週までとのこと。これは、自然妊娠の場合は、排卵した後の卵巣の黄体からホルモンが補充されるのだけど、わたしはプレマリンを使っているため排卵が抑えられており、その状態では黄体が作られないため、胎盤からホルモンが作られるようになるまで外的に黄体ホルモンを投与する必要があるとのことでした。ドクターにちゃんと聞けばよかったと後悔移植日が決まり、ドクターから「戻す卵は1個でいいよね?」と念を押されました。診察が終わり立ち上がっている途中だったので「あ、はい…!」と慌てて即答してしまいました。たしか前の診察でも確認をされたのでした。1個移植と2個移植とどういうメリットデメリットがあるか聞けばよかった…とあとで後悔しました。私のドクターは寡黙な方で、さらに方針なのか、治療に対しての説明は質問しないと詳しく話してもらえません。説明を聞いたうえで、それはどういう意味? とかじゃあこういう場合は…などの質問も生まれてくると思うのですが。最近はネットで情報が氾濫しているから余計な混乱は避けようという考えでしょうか。毎回、診察までに質問することを考えておかないと、あっという間に診察が終わってしまい、聞けばよかったぁ…と後悔したことがよくありました。私は頭がパパッと回らないほうなので余計にそうなのかもしれません。治療仲間は、毎回提出する基礎体温表に質問を書いたメモを挟んでいました。口頭でうまく伝えられない人にはよい方法かもしれません。また、ドクターには聞けないけれど、看護師さんには気軽に聞けるという人もいました。子宮内膜の厚みが基準に達したので、黄体ホルモンの投与が開始されました。その日は注射(プロゲストン50mg)でした。排卵誘発の注射ほど痛くはないけれど、よく揉まないと翌日にコリコリに硬くなりました。その後3日は膣座薬(朝夕2個ずつ)で、移植前日だけ地元の産婦人科クリニックで注射することになりました。注射&座薬以外に、錠剤のお薬(デュファストン)も毎食後、飲みます。プレマリンとバファリンもあるし、薬だらけです。飲み忘れないか不安になります。準備は整いました。次はいよいよ移植となります。とうとう、ここまで来たか…ここに辿り着くまでに、上がったり下がったり、自分の中の様々な感情を味わってきました。もう「頑張ろう」などそういう次元ではなく、来るべき未来がどんなものであろうと丸ごとそのままを受け入れようという心持ちです。心の中には凪いだ海がどこまでも続いています。※私が長男を妊娠するために不妊治療をしていたのは、2005年11月~2008年10月のことです。また、この体験記に記載された症状や治療法は、あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。
2018年04月11日産後うつを経て気がついた、自分を許すことの大切さ。およそ10人に1人が経験するといわれる、産後うつ。2013年に女の子を出産した藤田あみいさんは、自分がうつ状態になったことを最初は受け入れがたかったようだ。「子どもを産むまでふわふわ生きてきたというか、地に足がついていなかったと思うんです。目の前にか弱い生き物が出てきた瞬間に、母になったのだから変わらなきゃいけないと思ってしまったんでしょうね」はじまりは、娘が発達障害かもしれないという不安が生じたことだった。インターネットを検索しては不安になり、周りの人や医師に「問題ない」と言われてもほっとするのは一瞬で、強迫性障害を発症してしまう。娘を愛する気持ちは、変わらないどころか日々強くなるのに、治りたいという意志とは裏腹に症状が悪化。本書は入院中に1週間ほどで書き上げたそうで、「懺悔」という言葉にはこんな思いが込められていた。「私にとって、懺悔は3段階ありました。娘の障害を疑うようになったとき、まず世間体を気にしてしまったのがひとつ目。その後も不安が拭えなくて、懺悔の対象が娘と夫に変わってきて、最終的には自分自身に許してもらえなければ、抜け出せないような状況でした」散々迷惑をかけて、周りの人を不幸にしている自分や、当たり前の生活を送れなくなった自分を許せなかったのだが、その気持ちこそが藤田さんを苦しませていたのだ。「そのことにずっと気づけなかったんですよね。自己犠牲なんて、最初からいらなかったんです」藤田さんの場合は母になったことでこうした状況に陥ってしまったわけだが、仕事や人間関係などにおいても、理想とかけ離れていることに自己嫌悪を抱いてしまう人は、意外に多いのではないだろうか。そして「こうでなければならない」と本来望んでいないような世間的ルールを、自分自身に強いてみたり…。「娘がどうしたら幸せになれるんだろうって考えたら、不安要素がどんどん出てきてしまったのですが、娘にとっては私がそばにいてあげるだけでよかったんです。変わらなくていいということに気づいたら、すごく自由な気持ちになれました」自分自身を受け入れる。現代社会を健やかに生きるうえで大切なことに、この本は気づかせてくれる。ふじた・あみいイラストレーター。女性誌やウェブにてコミックエッセイを連載。ウェブで「ぜんぶ、無印良品で暮らしています。〜三鷹の家大使の住まいレポート〜」を執筆、2016年に書籍化。産後うつの状態から心を取り戻すまでの葛藤を綴った、「Hanakoママweb」連載の書籍化。今を生き抜くための学びが多い一冊だ。マガジンハウス1500円※『anan』2018年4月4日号より。写真・土佐麻理子(藤田さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年03月29日