2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『優しき山バア』をご紹介します。今から三十年以上前のこと。私が通っていた小学校から、少し坂を下った途中に一軒の駄菓子店があった。無口なお婆さんが一人で切り盛りしている店だった。「オバちゃん、コレちょうだい」「…二十円」小学生相手に、至って愛想は悪く、いつも店の奥に鎮座して、駄菓子の値段だけを呟き続けていた。動かざること山の如し。当時、そんな言葉はもちろん知らなかったが、私たちは密かに「山バア」と呼んでいた。ある日のこと。私は友達四人と、いつものように駄菓子を物色していた。すると、一人の子が、「このガム、お揃いで買おう」と言い出した。価格、五十円也。他の子が同調する中、私は手の平にある全財産を見つめ、勇気を出して言った。「三十円しかないねん」とワタシ。「ほな、家戻って取ってくる?」とトモダチ。女手一つで働く母に、二十円の「追加融資」を言い出す気にはなれず、私は、その場で立ちすくんでいた。気まずく思ったのか、友達も次々と店の外に出て、おしゃべりを始めた。私はただ一人、店の天井に飾られた風船を無意味に眺めていた。すると、山が動いた。いや、正確には、山バアの口が動いた。「裏にあるラムネ瓶の箱、持ってきて」どう見ても、店には私しかいない。山バアが、駄菓子の値段以外の日本語を発していることに驚きつつ、私は頷いて、店の裏へ行った。訝しげな友達を横目に、十数本の空のラムネ瓶が入った箱を、やっとの思いで店の中へ運び込んだ。「ココ、置いときます」こわごわ報告した私に、手招きをする山バア。「これで手ぇ拭き」そう言って、山バアから渡されたタオルの上には、十円玉が二枚、のっていた。戸惑う私の顔を見ながら、「手伝い賃や」と短く呟く山バア。「でも…」と言いかけると、彼女は、そっと私のポケットに、その二十円を入れた。結局、戻ってきた友達の話題は、「お揃いのガムを買う話」から、「明日の給食」へと変わっていた。帰りがけ、ふと店のほうを振り返った私は、思わず、「あっ」と声を上げた。さっき私が店に運んだラムネ瓶の箱を、腰を屈めた山バアが、店の裏へ戻していたのだ。申し訳なさと有難さが心の中でぐるぐると交差する中、私は帰り道の坂を下りて行った。最近、こんなことを教わった。「優しいという字はニンベンに『憂う』と書く。人の憂いに気付く人を優しい人と言うのではないか」と。三十数年前のあの日、小学生の小さな憂いに気付いてくれた山バアは、本当の優しさを教えてくれた、最初の大人かもしれない。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『優しき山バア』作者名:安部 飯駄(アベ パンダ)エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月07日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『神様なんて、いないのに』をご紹介します。「ああ、早く外に出たいわあ」表紙に『京都の神社・仏閣巡り』と書かれた本を片手に母がため息交じりに言う。テレビではどのチャンネルに変えても「マスク売り切れ」「自粛要請」「一人一人の行動にかかっている」等、同じ言葉の繰り返しばかりで息が詰まりそうになる。この息苦しい感じ…あのときもそうだったな。今から4年前、私は大学受験を控えた受験生だった。第一志望だった某国立大学は推薦入試、前期入試ともに不合格。周りは次々に進路が決まっていく。先生からもつい数か月前まで「あなたの成績なら大丈夫」と太鼓判を押されていた私は、いつの間にか取り残された。ある日、学校から帰宅すると、リビングの上に白い小さな袋が置かれていた。私の存在に気づいた母が「あ、おかえり!」とキラキラした表情で私に言った。「その袋開けてみてよ!」中に入っていたのは、白いフェルト生地の真ん中に紫色で大きく「守り」と刺繍された手作りのお守りだった。文字の周りにも刺繍やビーズで装飾されていて、なかなかの大作だ。明らかに手の込んだお守りに思わず見入っていた私に、母はすっぱりと言った。「みーちゃんの進路、神様は見てくれてるから大丈夫!」ああ、まただ、と私は思った。何の根拠もない「大丈夫」。どこに行っても突き放されるかのような「大丈夫」…。重い。苦しい。これまでの失敗が蘇る。でも、母の屈託のない表情を見ると弱音なんて吐けなかった。不安な気持ちを飲み込み、お守りを握って自分に言い聞かせた。神様が見てくれているのなら今回は違うはず…。そして挑んだ最後のチャンス、後期入試。結果は-【不合格】私は確信した。「神様なんていないんだ」と。その後、私は結局すべり止めで受験していた私立の大学に入学した。大学では友達や先生にも恵まれ、忙しいながらも充実した日々を送っていた。あっという間に時は過ぎ、この日は成人式。雲一つない穏やかな晴天だった。成人式から帰っても何となく振袖を脱ぐのが惜しかった私は、母の提案で近所の神社に参拝しに行くことに。着くなり懐かしそうに母は言った。「ここはよく来たなあ。神様に20年分の感謝を伝えないと!受験の時もお世…」「受験」という言葉を聞いて、当時無理やり押し込めていた感情が急に膨れ上がってきた。脳裏に浮かぶのは、不安に押しつぶされそうな自分、どんどん届かないところまで進んでいく同級生たち、そしてすがるような思いで手にしたあのお守り…それなのに…。「神様なんて、いないのに!」もう限界だった。あの日から何も信じられなくなっていた。母の影が静かに私のほうを向く。「神様はちゃんと見ててくれたよ」顔も上げられない私に、母の声が優しく響く。「母さんは合格祈願なんてしたこと無い。願ってたのはみーちゃんが幸せやって思える道に進めますようにっていうことだけ。だから毎日遅くに帰ってきて、友達にも先生にも良くしてもらって、課題に追われながらも楽しそうに大学に行ってる姿を見る度に、受験で明けても暮れても机にかじりついてたあなたのことやっぱり神様は見ててくれたんやなあって…」当時、周りの目ばかり気にして、失敗するたびにかっこ悪くなっていくような自分が情けなくて、一人ぼっちになるのが怖くて、誰かに認められたいがために頑張っていた自分。その時は自分のことで必死になって気づいていなかったけれど、そんな私のことをずっと母は見守ってくれていた。こんなにも近くで…。そして現在。本から顔を上げて『疫病退散』と書かれたページをこちらに向けて満面の笑みで母が言う。「自粛期間が明けたらここに行こっか!」母のキラキラした表情には、つい頷いてしまう。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『神様なんて、いないのに』作者名:山下みのりエッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年09月06日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。小さな感謝が明日を作る電車の中でお年寄りに席を譲るとき、私は父や母のことを思ったものでした。父も母もこうして席を譲ってもらえるように。祈るような気持ちで、座席を立ちました。母は4年前に亡くなり、父も89歳。父も滅多に電車に乗ることはなくなりましたが、必要としている人に必要としているものが届きますように、という思いで席を立ちます。車を運転しているとき、車線変更をしようとしてもなかなか入れてもらえないことがあります。そんなときに車間を開けてくれる車をサイドミラーに見つけると、感謝が湧き上がります。少々大げさに聞こえるかもしれませんが、我先にとばかりにスピードを上げて追い抜いていくドライバーの中にあって、譲ってくれる人には心の大きさを感じてしまうのです。(譲ってくれた人に、今日いいことがありますように)ハザードランプを点滅されて「ありがとう」を伝えながら、小さく祈ります。先日、友人が交番で道を尋ねたときのこと。彼女はマスクを忘れたために、交番の中に入らずに外から尋ねたそうです。すると中にいた警官から「マスクをしなさい!」と怒鳴られたそうです。この出来事に現れているように、多くの人の中に感染への不安が広がり、ピリピリとした雰囲気があります。マスクをしていないことで暴力を受けたり、排除される。これは、明らかに行き過ぎた傾向だと思います。マスク警察、社会不安によって人を裁く方向へ向かうのは、決して好ましいとは言えません。いま、この閉塞感のある時期、大切なのは本当にささやかな幸せに気づくことであり、ささやかなありがたさを感じること、小さな感謝を伝えることではないでしょうか。言葉で伝えられなくても、心の中でちゃんと伝える。人と人をつなぐのは批判ではなく、あたたかい心の通い合いです。自由に人の行き来ができない分断されたときだからこそ、目に見えても見えなくても、言葉にしてもしなくても心で伝えていくことだと思うのです。それは確実に、次の社会を作る小さな礎になるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年09月06日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。母は幸せで、せつなくて〜空港にて思うこと8月半ば、娘が留学先のニューヨークに戻りました。コロナ禍の中、ほとんどのフライトは欠航で、羽田空港の国際線ターミナルは閑散としていました。午前9時から11時の間にある27便のうち、飛んでいたのは、パリ、ヘルシンキ、バンコク、ダラス、ニューヨーク行きの5便。人々のざわめきはなく、レストラン、お店は全部閉まっています。世界が分断されていることを、肌身で感じました。空港は、出会いと別れの場です。そこには、一人ひとりのドラマがあります。旅立つ人、見送る人。出発ロビーにも到着ロビーにも、それぞれの人の思いがあります。年に2回、見送り、出迎えをするようになって8年が経ちました。保安検査場に入っていく娘の背中を何度見送っても、慣れることはありません。体の一部を持っていかれるような痛みに、毎回、少し泣いてしまいます。8月の終わり、お正月明けの出発ロビーには、留学生らしい学生たちとその家族を多く見かけます。子どもが保安検査場に入り、その姿が見えなくなってもその場を離れずに立っている母親たち。私もそんな親の一人なのですが、(さあ、帰りましょう)と切り替えることができません。子どもがまた手の届かないところに行ってしまったことを噛み締める…そして、次の日常にリセットするための時間なのかもしれないなあと思うのです。お盆とお正月に故郷に帰る。子どもが帰ってくるときには、お母さんはきっとご馳走をたくさん作って待っていることでしょう。それを作っているときの母親の気持ち。久しぶりの再会を楽しみに、静かにわくわくし、子どもの好きなものをたくさんこしらえるでしょう。その同じ気持ちを私も味わっています。楽しみで仕方がないのですが、同時に母親とはせつないものだとも思うのです。私はいつも、展望ロビーから機影が見えなくなるまで見送ります。これも、私のリセット法のひとつなのかもしれません。飛行機に乗っているすべての人が無事にそれぞれの目的の場所に着くように、激しく祈ります。猛暑、じりじりと肌を刺すような炎天下の展望ロビーには、ニューヨーク便を見送る人がたくさんいました。ずっと動画を撮っている女性、孫を見送るおじいさんとおばあさんもいました。しがみつくように金網につかまり、じっと見送っている女性もいました。みんな、愛する人を見送っている。それぞれのドラマを生きているのです。夏空に小さくなっていく機影を追いながら、母親である幸せとせつなさを深く味わったのでした。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年08月30日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。匂いマツタケ、味しめじ。味覚の秋ですが、日本ならではのマツタケの味がかなり遠のいています。以前は 故郷岡山(津山)の松林を持っている友人が、毎年数本送ってくれていたのですが、10年程前からバッタリ途絶えてしまいました。元気な松林が減って来ているという話でした。数年前 形の良いおおぶりのマツタケが、1本1万円という話を聞き、度肝(どぎも)を抜かれたことを思い出します。そのマツタケが 更に遠のくようです。先日 マツタケが絶滅危惧種として指定された という新聞記事を読みました。かつて若かりし頃、竹籠(かご)を腰にぶら下げて、松茸狩りに出掛けたこともありますし、大き目のものを焼いて食べ、どびん蒸しや、マツタケごはんで舌鼓(したつづみ)を打ったことなどは、もう遠い記憶となりました。昭和も遠くなりにけり…。ところで 今回の絶滅危惧種の発表では、太平洋のクロマグロもニホンウナギも、絶滅危惧種に指定されており、日本人が馴染んだ美味しい食材が、ドンドン遠のいています。秋を迎え色づく山に、そろそろ マツタケやしめじが出る頃だな…と思いを馳せたことでしたが、今は夢のまた夢…。でもこのマツタケの味を 次の世代に贈るためには、松林を管理し、マツタケが生える環境を作ることも必要ではないかと思いますね。これも漁獲量が減りつつある秋刀魚(さんま)は、まだ何とか庶民の味として残っていますので、マツタケも日本ならではの、とって置きの秋の味覚として 守って欲しいと願います。匂いマツタケ味しめじ というものの、マツタケの味は格別です。負け惜しみで、味はしめじの方が上だと庶民が言う表現ですが、どうやら今年も、その表現の秋になるような気がしております。<2020年8月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2020年現在、アナウンサー生活62年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年08月27日インスタグラムなどで、そのライフスタイルが幅広い層の支持を受けている女優の石田ゆり子さん。エッセイストとしても人気の彼女が、本書『LILY’S CLOSET』では愛してやまないファッションへの思いを丁寧に綴っている。本人のワードローブからチョイスされたのは、透けるブラウス、ジャンプスーツ、大判ストール、デニム、スリップドレス、バレエシューズなどなど。大切な場所に着ていく服やコーディネートをじっくり考えるように、44のアイテムを選んでいることが愛情のこもった文章から伝わってくる。さらにそこからは、独特のファッション哲学だけでなく、生きるうえで大切にしていることも見えてくる。やっぱり服は外側を飾るだけでなく、内面を映し出すものなのだと思わせてくれるのだ。石田さんは気になるアイテムに出合うと、デザイナーがどんな人で、どんなことを大事にしているのかという点に興味を持つ。そして自分がなぜ惹かれるのか、その理由を読み解いていく。こうしてワードローブに収まったモノたちと石田さんの間には、相思相愛の幸せな関係が存在する。たとえば25歳のときに、パリで圧倒されながらオーダーした、エルメスのケリーバッグ。当時の自分には不釣り合いだと感じ、クローゼットで愛でるだけで時が過ぎていたが、ようやく本格デビューをさせようと思っていること。キャミソールのような肌に一番近い服こそ、納得したものを着ることで、健全な自信と自己肯定感が育つように思えること。あるいは、お気に入りの服が急に似合わなくなってきたことに気づき、自分の体に活を入れ、女性であることを楽しむために、ときには体のラインが出るドレスを着ること。あとがきの言葉が印象的だ。「今日、身につけている服たちによって今日の自分は作られ、今日の気分は作られる。それが積もり積もって、私自身が作り上げられていく」。背伸びして着る服がときに自分を高めてくれたり、身につけるだけで癒されたり。着る人と服の理想的なあり方を教えてくれる。『LILY’S CLOSET』ワードローブとともに、それぞれのアイテムに対する思いを綴ったフォトエッセイ。お手本にしたいエッセンスが詰まってます!マガジンハウス1800円※『anan』2020年8月26日号より。写真・中島慶子文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年08月25日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『茶封筒の中身』をご紹介します。茶封筒の中身とある日曜日の夕方、私は父から封筒を受けとった。孫に会いにやってきていた父を、玄関先まで見送りにでた時のことだ。父は突然思い出したように、「そうだ、これをお前に渡そうと思っていたんだ。」と言って、鞄から茶封筒を取り出すと、私に手渡した。中には、お札が入っていた。結構な厚みである。何のお金やら見当のつかない私に、「〇〇(娘の名前)が入園したから、お前へのお祝いだ。何かお前のものを買いなさい。」と言い残して、父は帰って行った。私の母は、私が幼い頃に亡くなっており、父は、私と妹を一人で育ててきた。母の直球の愛情とは違う、寡黙な父の不器用な優しさに、私は長い間気がついていなかった。思春期の私は、自分だけが母親のいない可哀想な子供だと思い込み、何を考えているのかわからない父とは距離を感じていた。正直、父と私はあまり上手くいっていなかった。お互い会話を避けるような時期もあった。私は社会人になり、ようやく働きながら家のこと、まして2人の子供たちのことまで考えてきた父の大変さを知ることとなった。自分勝手で未熟な私も、父なりの、口には出さないが、子供たちへの大きな愛情に、やっと気がついたのだ。父が帰ったその日の晩、娘を寝かせつけてひと息ついた私は、よくわからない理由で渡された封筒を眺めながら、中に入っているお金の使い道を考えていた。娘には、入園祝いとして、既に自転車を買ってもらっていた。やっぱりこんなにはもらえない、今度会った時に返そうと思った時、携帯電話に父からメールが届いた。恐らく一杯やった後なのだろう、父にしては珍しく長文で感情的なメールだった。私と妹に宛てたメールには、封筒の中身に込められた父の思いが書かれていた。「お母さんが逝ってしまって、今年で四半世紀になります。ここで一区切り、渡したお金はお前たちが自分のために使いなさい。」と始まるメールには、次のような事が書かれていた。私も妹も、今ではそれぞれ母親となり、よく頑張っていると思うこと。そして、それを嬉しく、頼もしく思っているということ。亡くなった母が見ることの出来なかった景色を、私たちにはこれからもずっと見ることができるよう祈っているということ。私も妹も、もうすぐ亡くなった母の歳を越えようとしている。いつの間に、こんなに年月が経っていたのだろう。振り返れば、父にも妹にも感謝ばかりだ。私は思い直した。茶封筒の中身は、大切に、有意義に使わせて頂こう。「おじいちゃんには、三百歳くらいまで生きていて欲しいんだよね。」とは娘の言葉だが、私も心からこう思う。「いつまでも元気で長生きしてね、お父さん!」grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『茶封筒の中身』作者名:伊藤 点子エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員は…2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員は、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉先生が決定しています。ほかの審査員についても、今後発表予定です。続報をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年08月25日2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『子育て応援バス』をご紹介します。息子が2歳の時のことだ。私は、初めての子育てに戸惑いながら、イヤイヤ期の息子と過ごす一日は長く、どうすれば親子ともに機嫌よくいられるのかを毎日必死で考えていた。息子は例に漏れず、乗り物が大好き。特に都営バスに乗ることが大好きだった。言葉の遅かった息子は、「バッ」と言って都営バスに乗りたいとアピールする。家の近くのバス停から新宿駅西口行きの都営バスに乗れば、往復で2時間は時間が流れていってくれる。だから、私たち親子は毎日都営バスに乗って過ごした。目的地は特に無い。息子が望むままに一日中バスを乗り継いで過ごしたこともある。その日は、よく晴れていた。平日の昼前、いつも通り息子を抱きかかえて、ICカードをタッチさせてやり、都営バスに乗り込む。息子のお気に入りは一番前の、普通乗用車で言えば助手席に当たる席だ。乗客や運転手、すれ違う様々な車にバイク、景色も良く見えるその席は、座れると私もわくわくした気持ちになる。だが、その日いつものバス停にやって来たのは新型のフルフラットバス。乗車口に一番近い席は、エンジンが収納されており座席が無い。あいにく、運転手の真後ろの席も埋まっている。「一番前の席は無いから座れないね。今日は後ろに座ろうね。」息子がぐずる前に、私は必死でなだめる。息子は、一瞬残念そうな顔をしたが、初めて乗るフルフラットバスを見渡していつもの違うバスだということを理解したようだった。私たち親子は、目的地も無いのでいつも終点の新宿駅西口まで行く。バスが10分ほど走ったところで途中のバス停に着いた。降車口は開くが、一番前の乗車口は開かない。いつもなら同時に開くのにどうしたのだろうかと思っていると運転手さんがアナウンスをした。まずは、バス停で待つお客さんに「少々お待ちください」と。そして次は車内に。「お母さん、一番前が空きましたからどうぞ」私はその意味を理解するに少々の時間を要した。けれど、運転手さんの真後ろの席のお客さんが降りたことに気づき、有り難いような申し訳ないような気持ちでいっぱいになった。「どうもありがとうございます」と言って、息子を抱きかかえたまま一番前の席に移動した。そして、もう一度運転手さんに御礼を述べて、息子にも「一番前に座れて良かったね」と言うと息子は笑った。しばらく行くと「次は歌舞伎町です」と車内アナウンスが流れた。私は、「もうすぐガオーさんが見えるよ」とTOHOシネマズ新宿のゴジラを楽しみにしている息子に耳打ちした。少し走り、信号待ち。いつもより少し前に停車しているようだ。すると、運転手さんが小さな声で「どう?ゴジラ見えた?」と話しかけてくれた。どうやら息子の為に、見えやすいように停車してくれたようだ。私は胸がいっぱいになった。バスが大好きな息子が、バスの中で泣いたことは一度も無かったけれど、それでもいつ大声で泣き叫んでしまうだろうか、と不安な気持ちでいた。周りに迷惑をかけないようにとドキドキしながら都会で子育てをしていた私に、その運転手さんの優しさが、鐘を打ったかのように心の中にじわんじわんと響いた。一緒に子育てをしてもらっているような、そんな気持ちにさえなった。終点の新宿駅西口で降りる時、私はもう一度運転手さんに御礼を言ったが、涙がこぼれそうで声が震えた。あれから時は経ち、幼稚園の年中組になった息子。将来の夢はもちろん「バスの運転手さんになること」。息子が大きくなった時、あの日の運転手さんの心遣いが、母である私を応援してくれたような気持ちになったことを話してやろうと思う。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『子育て応援バス』作者名:鵠 更紗エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員は…2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員は、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉先生が決定しています。ほかの審査員についても、今後発表予定です。続報をお楽しみに!『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年08月24日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。オンライン御供養というリアルZOOMでの盂蘭盆法要。おそらく今年初登場の法要スタイルかと思われます。『密』を避ける一つの対策、そしてこの猛暑の中に外出せずに御供養できるという利点もありますね。夫の両親の法要をお願いしているお寺さんからお知らせをいただき、旧暦お盆のZOOM法要をお願いしてみました。本来なら、たとえZOOMであっても法要のときはお寺での作法を守ることが肝要でしょう。ところが、午後1時からの法要…うっかりお昼ごはんを食べながら…という…。もちろん仏壇にお燈を灯し、お線香を上げていたのですが、とんでもなく礼を欠いた法要になってしまいました。新型コロナウイルスは、私たちのライフスタイルに多大な影響を与えています。この不自由さに、ストレスを感じない人はいないでしょう。重ねてこの暑さ。でも、今はどうしようもないこと、腹を括って新しい方法を創造的に、前向きに作っていくしかありません。さまざまなことを制限された中、最新のテクノロジーを使って何ができるか。これまでにないサービスの創造、生きやすさを大切にした働き方など。新しい価値を作り出す好機と捉え、前に進んでいくのみです。オンラインお墓参りに続き、タクシーの運転手さんによるお墓参り代行サービスも登場しました。運転手さんがお墓の掃除をし、供花をし、お参りをする。県を越えて移動するのが難しい中、これもありがたいサービスに違いありません。私の実家のお墓は、都内から車で1時間ちょっとの都下にあります。小高い丘の上にあり、遠く相模湾が見える気持ちのいい場所です。年2回のお彼岸には欠かさずお参りに行きますが、ただ儀礼、先祖供養のためだけはなく、自分自身のためにあるように感じます。墓石の掃除をし、雑草を取りながら、心を磨いているような…。掃除し終わった後の清々しさは、目に見えるきれいさだけではないのです。ただただ墓石の汚れを落とし、磨く。無心になることで心が清められていくような感があります。大切なのは先祖供養そのものだけでなく、こうした心にこうした小さな変化がもたらすことが大切なのだと思います。それが果たしてオンライン法要で成されるのかどうか。仏壇をきれいにし、部屋を掃除し、それから臨みましょうか。オンラインという二次元の空間にどれだけ『リアル』という価値を見いだせるか。私たちの感性と御供養ということに対する心の持ち方が試されるところです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年08月23日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。勝手口が判らない…お盆の8月です。夏のご挨拶の時季でもあります。長年の生活習慣のお気持ちが、宅配便で届けられる月でもあります。ところで、拙宅には正面玄関と勝手口(かってぐち)があります。昭和時代までは新築の際、敷地に余裕があると、お客様を迎える正面玄関と、郵便受けが付き、日常買物などで出入りする勝手口を別々に設けたものです。拙宅は東南の角地(かどち)で、南に正面玄関、その南の角を曲ってすぐの東に、勝手口があります。さて、きょうのお話ですが、先日正面玄関のブザーが鳴りました。お客様と思い「誰方(どなた)でしょうか?」と尋ねると「宅配便で~す」という若者の声…。「悪いけど、先の角を曲って勝手口に来て下さ~い」「えっ、かってぐちですか?」「そうです!」「かってぐちって判りません」「え?判らない? 左の角を曲った所に別の出入口があるから、そこへお願いしま~す」「ハ?ハイ!?」家の主(あるじ)は、先廻りをして勝手口に廻り、その若者を待ち受けました。22〜23歳位の青年でした。荷物を受け取り、「ハイ、ご苦労さん、勝手口って判らなかった?」「え~、知りませんでした」「留学生ですか?」「いえ、日本人です」「何年ぐらい勤めてるの?」「半年ぐらいかな?」「一戸建ての家では、勝手口といって別の小さめの出入口があるので、覚えて置くといいね…」「ハ、ハイ、… どうもです…」てなことで、玄関と勝手口が対(つい)となっている家もまだまだあり、『勝手口』の表現も若い人達に覚えて置いて欲しいと思い、世間話として、敢えて書かせて頂きました。<2020年8月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2020年現在、アナウンサー生活62年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年08月19日2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『アルトボイスのファミリーマート』をご紹介します。「いらっしゃいませ」快活ではきはきとした大きな声が耳朶(じだ)に響く。アルトボイスの心地良い声のコンビニの女性の店員。つい、「いらっしゃいました」なんて返してしまいそうになる。僕は駅前に幾つものコンビニが点在する中、決まってそこのコンビニに足を運ぶ。理由は簡単。その女性の接客がアルバイトにも関わらず、際立って光っているからだ。お馴染みの店内BGMに招かれ、菓子パンをレジに持っていく。品出しをしていた彼女は気付くと小走りでレジに向かい、誰もが心を許すような綺麗な笑顔を見せる。どうせ、バイトだからなんて適当な笑みではない。「ありあしたー」なんて何を言っているのか分からない挨拶をする人もいるが、彼女は「ありがとうございました」と聞き取りやすい言葉で一言一句しっかりと発言する。自分自身ムラが目立つタイプではないが、プロとして最初から最後まで表情を崩すことなく、接客をするのは凄い。人間最初から最後まで全力を出すのは難しい。素直に感服する。それほどまでに洗練された接客だ。ある日、店内では昼時ということもあり、長蛇の列が出来ていた。しかし彼女のアルトボイスの声が響き渡る。「お待たせして申し訳ない」と後ろのお客さんに対する配慮も忘れていない。最強で最高の接客だ。結果として、彼女の列だけが一番並んでいたのは皮肉なことかもしれないが、時間が掛かっても彼女のレジの一番顧客満足度が高く、お客さんも望んでいたのだろう。かくいう自分だってそうなのだから。支払った代金以上に心に残るものがあるのは彼女だけなのだから。ある時、コンビニでは親御さんからおつかいを頼まれて品物がどれか分からずに泣き崩れている男の子がいた。昔の自分に重ねて懐かしさを感じていたくらいで、自分は何も声を掛けられずにいた。大抵の人は誰かに声を掛けられない限り、対応はしないだろう。そんな時もアルトボイスの彼女は自ら男の子に声を掛け、懇切丁寧に男の子に対応していた。あんなに涙一杯だった男の子。退店する頃には目的の品物をレジ袋に入れ、笑顔一杯で「ありがとうお姉さん」と手を振っていた。通い慣れて気付いた事がある。きっと彼女は接客という枠を飛び越えて自分自身と他人を高め合うために働いているのだ。だからこそ僕は彼女に心を打たれ尊敬した訳で。自分もそういう人間になれたらいいなあ。ううん、ならなきゃいけないよなと鞭を叩かれている気分にさせられる。だから僕はまたあのアルトボイスの声を聞きに行く。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『アルトボイスのファミリーマート』作者名:おおちゃんエッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年08月18日2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『差し出された傘』をご紹介します。「あ、雨。ついてないな。」その日の天気予報は夜から雨。午後から降るとは梅雨の天気は本当にあてにならない。愛知から東京まで移動するのに、ただでさえ荷物が重かったので雨は降らない、と高を括って傘を置いてきた私への天罰だ。二十年前のその日、私は就職活動で東京の会社を受けに来ていた。折しも世間では大氷河期と言われた時代。四大文学部卒業の女子はどこを受けてもお荷物扱い、説明会にすら呼んでもらえないような時代だった。十人並みの大学生生活しか送ってこなかった私は、例にもれず就職活動に難航。そんな中ようやく面接までたどり着けた会社へ向かう途中であった。梅雨の天気はあてにならない。うまくいかない就職活動に天も見放したか、とどん底に突き落とされた気持ちになった。駅を出てとりあえず建物の軒下に逃げ込む。駅から面接場所までは徒歩五分。しかし見た目より雨が強い。途中逃げ込めるような軒下もない。この雨では会社に到着する前にリクルートスーツが水浸しになる。近くに傘を買うところもない、どうしよう。降りしきる雨と空を見上げながら、予報を外したお天気キャスターの顔を思い出して、恨めしく思う。お天気キャスターは全く関係ないのに、弱り目に祟り目とばかり、大氷河期の就職活動の辛さが改めて感じられ、泣きたくなる。しかし泣いている時間はない、面接まで時間がないのだ。とりあえず走るか。と意を決して軒先から出ようとすると、「傘、持ってないの?」よほど私が困った様子だったのだろう、スーツ姿の男性がこちらを見ていた。「その様子だと就職活動だよね。どこまで行くの?」今なら見知らぬ人から声をかけられたら、とにかく逃げるのが正解なのだが、二十年前の当時は渡りに船とばかりに正直に行先を告げた。「あ、僕の勤務先だよ。傘に入れてあげるよ。」なんと偶然にもその方は私が今から面接を受ける先の社員であった。地獄に仏とばかりにご厚意に甘え、傘に入れていただきつつ、道中、会社の様子などいろいろ貴重な話を聞くことができた。「じゃ、面接頑張ってね。」オフィスのあるビルの入り口で、傘を閉じるとその方はさっと行ってしまった。「ありがとうございました。」今なら名刺の一枚ももらうところだが、当時は気の利かない学生で、御礼を述べるのに精いっぱい。名も知れない方のご厚意で、私はスーツを濡らすこともなく面接に臨めた。こんな心遣いのできる方がいる会社なら絶対働きたい!しかし思いとは反対に、私の力不足で不採用、結局その方とは二度と会うことができなかった。しかしながら今思い出しても、まったく見知らぬ学生が傘を持たずに困っているところに声をかけてくださったあの男性のやさしさは、本当にありがたかった。見知らぬ土地、人、心細い思いをしていた私に光をさしてくださった。あいにくご縁がなく、一緒に働くことはできなかったが、今も私にとってその男性が働く会社は世界で一番素敵な会社だ。あの方のおかげで否定的だった就職活動を前向きに取り組めるようになった。社会人になることが楽しみになった。結局私は某企業の人事として社会人スタートを切った。今も新卒のリクルートスーツの学生を見ると当時のことを思い出す。そして学生に言うのだ。「明日の面接は十時です。天気予報は雨なので、傘を忘れないでくださいね。」grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『差し出された傘』作者名:吉田 安代エッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年08月17日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。癒しは自分の内側から空間を感じる。何もない空間を味わう。『「何もない」がある』という空間を体験してきました。東京、世田谷美術館で開催されている『作品のない展示室』は、この世界的なコロナ禍で海外からの作品の借用が困難になっただけでなく、国内作品の企画展も開催できなくなった状況の中にあって原点回帰とも言える『アート展』です。世田谷美術館は、緑豊かな砧公園の中にあり、この自然環境の中に溶け込むように建っています。公園を散歩している流れで美術館に。自然とアートが違和感なく一体となっているのを感じます。展示室に入ると大きな窓、そして公園の緑の光景。窓がフレームとなり、絵画のようです。実は、この展示室のこと、そこで感じたことについて多くを語るのは控えたい。人それぞれの感性の世界で遊んでほしいなと思うのです。誰とも話をせず、情報を知ろうとせず、ただただその場の静寂に身を沈め、大きな窓の向こうに立つヒマラヤ杉をぼーっと眺めてみて下さい。頭の中のおしゃべりをやめて、ただただ、その場にいることを感じる。心を空っぽにする時間です。唯一展示されているのは、建築デザインをした内井昭蔵氏の言葉です。「私は、宇宙そのものが非常に装飾的だと思う。つまり、宇宙の構造に美を感じる。地球の回りに月があり、地球が太陽系の中で回っているという、一つの大自然の秩序は物理学と同じで、その秩序感に美を見出すことができる」「今日の建築に魅力がないのは建築から自然のメッセージが消えてしまったからである」今、世界はこれまでの日常を送れない状況になっています。来年、再来年、この日常がどうなっているかはわかりません。私たちは今、エアポケットのような時間の中にいるように感じます。自然を感じる場所に身を寄せる。自然とつながることは、自分自身とつながること。なぜなら、私たちも『自然』の一部だからです。『作品のない展示室』は8月27日までの開催ですが、何もないことの豊かさを意識する時間、遠出をせず自然を感じられる場所で静けさを味わう時間を持ってみて下さい。誰かに癒されるのではなく、自分の内側から癒されるのを感じるでしょう。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年08月16日2017年2月、漫画家の松本ひで吉さんが愛犬についての漫画をTwitterで公開し、またたく間に話題になりました。多くの反響を受け、その後『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』という作品としてシリーズ化!天然でいつも元気な犬と、クールだけど時にデレる猫と、松本さん一家の日常が面白おかしく描かれています。松本ひで吉『犬と猫どっちも飼ってると』シリーズgrapeでも大人気の『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』。2018年には、松本さんのサイン会の様子をお伝えしました。「犬と猫の代理で来ました!」笑顔あふれる『犬と猫どっちも飼ってると』サイン会レポート審査員として『犬と猫どっちも飼ってると』松本ひで吉先生が参加決定!grapeでは、2017年から一般公募による記事コンテスト『grape Award』を開催しています。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由にエッセイを募集。今回、エッセイ漫画として人気を博す『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』の作者である、松本ひで吉さんが審査員として参加が決定しました!【松本ひで吉さんプロフィール】2008年、『ほんとにあった!霊媒先生』(講談社)で連載デビュー。2011年から月刊誌『なかよし』で連載開始したサバイバルゲームが題材の『さばげぶっ!』がヒットし、2014年にはアニメ化。Twitterで『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』を定期的に掲載中。同作は2020年秋にアニメ化が決定している。松本ひで吉さんのTwitterアカウントはこちら『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』で、エッセイ漫画家としても人気を博している松本さん。明るい日常の話からしんみりとしたエピソードなど、幅広い方向性の漫画を描く松本さんは、どんなエッセイに心をつかまれるのでしょうか。松本さんには『grape Award 2020』最終選考の審査員の1人として参加していただきます。エッセイの応募締め切りは2020年8月18日の23時59分までです。テーマや賞金などの詳細は以下の『grape Award 2020』ウェブサイトをご覧ください。エッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら[文・構成/grape編集部]
2020年08月13日2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『光の国からの使者はいるんだ』をご紹介します。光の国からの使者はいるんだもう30年近く前の、ある爽やかな光景が忘れられない。その日私は、いつもの3時間残業を1時間で切り上げて会社を出た。ターミナル駅から私鉄に乗り、コンビニで缶ビールでも買って帰ろうなどと思ううち、うとうとし出した。するとどこか遠くで男の怒鳴り声がする。そう思ったのは私が居眠りをしていたせいで、それは目の前で繰り広げられていた。「なんや、お前。高校生やろ?」「だから何なんですか?」50年配の男と男子高校生がもめている。事情の発端がよくわからず、しばらく聞いていたが、どう見ても高校生が酔っ払いに絡まれているようだ。ーこんな時間から相当飲んでるな。席はちらほら空いているが二人はドアの前で立ったままだ。酔っ払い男はますますヒートアップし、いまにも高校生に掴みかからんばかりだ。見るとどの乗客も体を硬くし、薄目を開けて見て見ぬ振りをしている。なかには寝ているふりをしているような者もいる。かくいう私も、はっきり目覚めるにつれ体がこわばってきた。ー助けてやりたいが、下手に口を出して怪我をさせられてもなあ……。そんな自己弁護をしている時だ。酔っ払い男が高校生の胸を拳で突いた。ーやばい。これは大ごとになるぞ。そう思った時、それまで寝たふりをしていると思っていた30歳くらいの男性が、突然、席を立った。「そんなことをしたらダメでしょ!」男性は躊躇せずに酔っ払い男の腕を掴んだ。男は「せやかて、こいつが悪いんですねんで」などと言いながら、なおも高校生に暴力を振るおうとする。ちょうどその時、列車が停車しドアが開いた。その駅が彼の降りる駅だったのか、高校生は出口へと向かう。そして男性に一礼して降りていった。ーやれやれ。私を含めみながそう思っただろう。ところが今度はその酔っ払い、止めに入った男性に絡み始めたのである。しかも、男性が席に着くとその隣に座って「あれはあいつが悪い」と言い訳がましいことを言う。ー彼、どうするんだろう?すると次の駅でその男性が降りて行った。しかし酔っ払い男は降りずに、反対側に座っていた若い女性に絡み始めたのだ。ーああ、勇敢な彼。降りて行かないで。心の中で情けないことを考えながら窓から外を見ると、さっきの男性が走って駅員のところに行き、なにやら告げている。駅員はさっと敬礼をして、駅舎に駆け込むのが目に入った。次の駅に着くと駅員が2名乗り込んできて、酔っ払い男はそのまま御用となったのである。絡まれていた女性はもちろん、乗客はみな笑顔だった。あの勇敢な男性ももう還暦を迎え、高校生はいい中年のおじさんになっているはず。乗り合わせた私たちはもちろん、高校生だった彼には「この国もまだ捨てたもんじゃない」と思う記憶になったことだろう。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『光の国からの使者はいるんだ』ペンネーム:かず爺エッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年08月13日2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『魔法の言葉』をご紹介します。魔法の言葉私にとって心に響く出来事は、小学校の担任の先生とのエピソードです。私は小学校入学からメガネが必要で、当時周りにはメガネをかけている同級生はいませんでした。周りの人と違うそれだけでからかわれ、メガネザル!と言われる、顔が変と笑われた思い出があります。小学校一年生の出来事ながら30歳を過ぎた今でも思い出す事があります。そんな時何気なく母に、「私小さい頃からメガネだったよねー、大変だったなぁ」と話した時に、母が言ってくれた事があります。「そうだね。入学式から眼鏡だったね。周りにはそんな子珍しいから大変だったよね。だけど担任のS先生が、人の特徴で笑ったり、からかってはいけないってクラスで言ってくれてたんだよね」初めて聞いた話しでした。目頭が熱くなり泣きそうになりました。その時は、へぇーそうなんだと平静をたもっていましたが、心の中でS先生への感謝の言葉と、自分は守られていたとあらためて感じました。S先生は、とても厳しい先生という印象がありました。授業で「道」という漢字の書き方を間違えてしまい、どこが間違えているのか分からず、居残りをした事があります。私だけが最後まで分からず、分かるまで帰れませんでした。あの時は土曜日授業がまだあった頃で、クラスのみんなは下校しているのに私だけ先生と残り、ひたすら「道」という漢字を書き続け、どこが間違えているのか本当にわからず最終的には先生の前で大泣きしてしまった事があります。それでやっと答えを教えてもらい帰る事ができました。今思うとなぜ、間違いに気が付かなかったのか謎ですが、その時の私は、無言で先生と2人きりで教室にいる恐怖が耐えられなかったのだと思います。帰り道も1人泣きながら、先生なんて嫌いだ、先生も私の事を嫌いなんだと思いながら帰りました。そんな苦い思い出があったので、S先生がクラスで私の事を言ってくれたのを聞いて、驚きと感謝と感動がいっきに押し寄せました。S先生は、厳しい先生だったけど、優しく、一人一人に向き合い、寄り添ってくれる素敵な先生だったんだと改めて思いました。からかわれ、傷ついた事は確かに残ります。でも、守ってくれている、守られている事が分かれば思い出と共に小さい頃の自分の事も好きになれるのだと思いました。S先生!先生の生徒でよかったです!「道」もう、間違わないよ!そして、1人泣いて帰っている小学生の私にも、大丈夫だよと言ってあげたいです。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『魔法の言葉』ペンネーム:わんさんエッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年08月12日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「まあ、いいか」―言葉が心を変えていく「まあ、いいか」「まっ、いっか」声に出してみて下さい。それぞれの言葉に、どんな感じがするでしょうか。「まあ、いいか」と言葉には、どこか投げやり的な、諦めがあるような、スルーしない方がいいことをスルーするようなニュアンスがあります。「まっ、いっか」と言葉にしてみると、どこかカラッとした、諦め、切り替えの早さを感じます。いいかげん…という感もありますが、さっぱりしたものです。同じ意味でも、ちょっとした言い方で『ニュアンス』が違ってきます。『ニュアンス』には、『色彩、音色の微妙な違い』『言葉にしていない意図』という二つの面があります。日本語には、それを現実にするエネルギー、『言霊』が宿っていると言われます。この観点で言うと、言葉の持つ『ニュアンス』には、話し手のエネルギーが宿っていると考えられます。実際、このような言葉は口にすることもあるし、心の中でつぶやくこともあります。(まあ、いいか)と流したら、そのような結果になる。少し後悔が残りそうです。そのときの自分の気持ち、感覚を味わってみることで、「まあ、いいか」ではないリセット法が見つかるかもしれません。例えば、友達にラッキーな出来事が起こったとします。そのとき、「いいね!」という言い方と、「いいわねぇ」という言い方ではどうでしょうか。若干言い方は違いますが、そこには本音の大きな違いがあります。同じうらやましい気持ちだったら「いいなあ!」と言ったほうが、からっとしています。たとえ(うらやましい…)と嫉妬が垣間見えたとしても、あえてからっと伝える。そうすることで、気持ちもリセットされます。思わず発した言葉に、意識していなかった自分の本音が現れる。発した言葉を取り戻すことはできません。(あ!)と思った瞬間、胸の奥から湧き上がった恥ずかしさでいっぱいになるのです。しばしば、SNS上での誹謗中傷の言葉が話題になります。どんなルールを課しても、責任を持たない言葉があふれているのを抑えることはできないでしょう。そのような言葉は相手を傷つける以上に自分を卑しめていることに一人ひとりが気づくしかないのでしょう。よく「人は言葉でできている」と言われます。心の表れが言葉となり、言葉が心を育てる。(まあ、いいや)のニュアンスを意識してみると、(まあ、いいや)と思うことがなくなりました。難しいことはひとつもない、ささやかな意識を。日頃使っている何気ない言葉こそ、私たちの心を高める礎となるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年08月09日2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『ネット上の話と私』をご紹介します。ネット上の話と私産休に入りネットサーフィンが増えた私は、育児に関する実録話をよく見るようになりました。インターネットには赤ちゃん連れの母親に攻撃的な人や暴言を吐くような人に出会った話がたくさん載っており、同じようなことが自分にも起こるのだろうかと怯え、抱っこ紐もいたずら防止のついたものを買いました。乳幼児期であまり出掛けない方がいいという意見もあるのは分かっている中、赤ちゃんを抱いて出掛けた時の話です。午前中のまだ涼しい時間帯の晩春のことです。赤ちゃんを抱き、アパートから出たところで下に住んでいるおばあちゃんから「お母さんの服握りしめてよく寝てる。起こさなくていいからね。いい子ね、お鼻が高くてかわいいわ。また見せてね、ありがとう」と声をかけられました。通りに出て坂を下ると、また別の女性から「小さい赤ちゃん。何ヵ月?まつげが長くて髪もふさふさでかわいい」と言われました。話しているとおもむろに女性が位置を変えたので私もそれに続いて移動しました。その横を禁止されてるにもかかわらずタバコを吸いながら男性が歩いてきたのを見て、煙が当たらないように動いたことに気付きました。女性と話を終え道路を渡ったところで男性から「寝てるの?起こさなくていいから。かわいいなぁ」と言われ、目的地である役所でも案内の方から「ママに抱っこされてお散歩いいねぇ。かわいいねぇ」、献血広場のお兄さんからも「産まれたばかりですか。かわいいですね」等々その後も帰路まで続くかわいいね祭り。季節がらと涼しい時間帯だったためかたくさんの人が外で活動しており、思わぬことで不快感を与えて、何か起きるとも限らない中でした。この子がいなかったら会話することがない人がほとんどで、赤ちゃんを抱いていなかったら出会うことのない優しさをたくさん感じました。身長165センチを越え恰幅もよく、真っ青な服で肩を出し、産後のハイで髪の毛の半分が金髪になっている私はとても話しかけやすい人とは我ながら思いません。文句を言いたくなるようか風貌と言われればそれまでとも思います。ですが、みんなそんな私に声をかけてくれ、我が子をほめてくれました。みんな一様に笑顔であたたかい空気を感じ、不眠気味の産後の育児疲れを感じていた私も我が子をほめられ幸せを実感しました。この日だけでなく道を歩けば同様に声を掛けられることは今も続いています。インターネットに載ってる体験談よりも自分の体験したことを大事にしようと思うことが出来ました。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『ネット上の話と私』ペンネーム:ひろぽんエッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年08月08日2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『先生の涙』をご紹介します。先生の涙もう四十年も前のことです。上の娘・お姉ちゃんが幼稚園の年中さんのときの出来事でした。その頃の園の昼食は、白い御飯だけお弁当箱に入れて持って行き、おかずは園で用意してくれました。幼稚園も夏休みに入り、担任の先生が家庭訪問にやってきました。お姉ちゃんは二歳下の妹と近所の家へ遊びに行っています。何軒か園児の家を回ったというのに、先生は疲れた様子もなく、挨拶もそこそこに話を切り出されました。「コロッケが二こ出たんですが、どうしてももう一こ食べないんですよ。コロッケが嫌い?って訊いたら、そうでもなくて。できるだけ残さずに食べようね、ほかのみんなは二こ食べちゃったよ、って言っても、強情なんですね、とうとう残しちゃいました」このことが先生の最大の関心事だったようです。私は思い当たったことがあったので、すかさず言いました。「あっ、先生、あのー、実は、うちの子……コロッケがあまりおいしかったから……妹や私に残してきてくれたんです。おみやげ、おみやげって言いながら帰ってきて……」私は話しながら、何日も前のおいしいコロッケを思い出していました。そしてなぜか遠慮がちに言っているもう一人の自分に気づきました。先生の直球に、直球で返すのはなぜか抵抗があったからでした。先生の目は一瞬宙を漂いましたが、突然、大粒の涙がはらはらと落ち、先生の白いブラウスを濡らしました。先生は取り出したハンケチで何度も何度も目頭や頬をぬぐいましたが、涙はとめどなく流れてきました。私はお姉ちゃんがコロッケを残してしまったことを詫びようとしましたが、言葉をはさむ余地もなく、とうとう言いそびれてしまいました。私が先生の心の内に分け入る必要はありませんでした。思い違いだったと気づいた若い先生の言葉の代わりに迸った涙の豊かさが、先生の心の内を物語っていました。涙の豊かさは気持ちの深さでもありました。先生の温かい涙は、それだけで、お姉ちゃんをぎゅっと抱きしめていました。あの日、先生は思いがけないことを告げられ、私は目の前で予期しない光景に息を呑みました。ひと回り以上離れている年齢の私には先生の涙がただただ初々しく、清新な光景に出くわしたように、ただただ見とれるばかりでした。あの頃、私は友達と出かけた際に、自分だけ食べるのはもったいなくて、子どもたちにクッキーやお菓子をよくお土産に持ち帰ったものでした。お姉ちゃんはそれがとても嬉しかったのでしょう。クリームコロッケを見るたびに、担任の先生と小さい頃のお姉ちゃんが甦ります。先生は今頃は何人かのお子さんのお母さんになっていらっしゃることと想像します。私の娘たちも、何があっても温かい涙を絶やさないように、と願ってやみません。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響くエッセイ』タイトル:『先生の涙』作者名:風花特別協賛企業のご紹介株式会社タカラレーベン株式会社タカラレーベンは全国で展開する総合不動産デベロッパーです。「幸せを考える。幸せをつくる。」を企業ビジョンとして掲げ、幸せをかたちにする住まいづくり、街づくりを実現しています。本コンテストでは、『心に響く』をテーマとした全応募作品の中から特に「幸せ」が感じられる作品に、『タカラレーベン賞』が贈られます。皆さんのご応募をお待ちしています。『grape Award 2020』募集ページ[構成/grape編集部]
2020年08月04日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。世界はサインにあふれている(転ばないようにしよう)3ヶ月ぶりの友人たちとの会食、プラットフォームのサンダルを履きながらそう思いました。厚底のそのサンダルは、爪先の返りもあり歩きやすく、お気に入りの一足です。いつも以上に気をつけて、レストランに向かいました。そのレストランはJR山手線の駅から歩いて10分、その途中に私が医療保険を契約している保険会社の本社ビルがありました。最近、営業担当の人と話すことがあったので、(ああ、ここにオフィスがあるんだ)などと考えながら歩いていました。川沿いの道をいくのですが、川の手前をいくか、渡った側をいくか、一瞬迷いました。そして私は橋を渡り、右に曲がりました。ほんの少し、そう、20メートルほど、レストランに近かったからです。そこには路上喫煙所があり、煙草の匂いが漂っていました。息を止めて通り過ぎようとしたとき、体が斜めになっていることに気づきました。そう、転んだのです。右手を見ると、手首が見たこともない曲がり方をしていました。親切なおじさまに助けられ、救急車で病院へ。翌日から入院、手術となりました。その前日、家の近くで松葉杖の大学生を見かけました。さぞ痛くて、不自由だろうなあと思い、横断歩道を渡るとき、少し離れたところから見守りました。まさか翌日に、こんなことになるとは…思うわけもなく。実は、骨折は2回目です。15年前に娘をスケートに連れて行ったとき、軽く手をついてしまったときに、右肘の骨をやってしまいました。その日、何かあったときのために保険証を持っていったことをよく覚えています。入院中、思考力も気力もダウンしたのですが、ただひとつ、胆で決めたことがあります。「野性の勘を取り戻す!」転ぶ前にいくつもあったサイン。そこにもっと注意を向けていたら、避けることができたかもしれません。サインを見逃してしまうのは、(まあ、いいか)という慢心であったり、我であったり、過度な情報が邪魔しているのです。ふとよぎる予感、目の前に現れる現象の中に、ヒントがある。その勘を研ぎ澄ますためには、予感やサインが現れたときに、受け止める、そして自分に確認、問うてみることです。これからの時代、私たちに備わっている本能を発揮していくことが、身を守る助けになると思います。野性の勘を取り戻す。そんな私の決意をよそに、家族によりヒールの高い靴禁止令が出ました。…はい、それが即効性のある対処であります…。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年08月02日2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『銀のスプーン』をご紹介します。銀のスプーン私は両腕と指に障がいがある。左腕は欠損していて、右手は指が2本しかない。学生時代、大学近くにワンコインでランチを提供しているアットホームな食堂があった。学生の街ではあるが、ランチの価格が高い土地に大学があったこともあり、その食堂は学生たちに重宝されていた。おまけにサラダもスープもついているのだから、体にも優しかった。マスターは髭を生やしていて、いつもタオルを鉢巻きのように巻いている人だった。決して愛想の良いひとではなかったが、いつもいただくオムライスのランチはとても美味しく、お金のない学生のお腹を満たしてくれていた。私はすぐこの食堂のファンになった。ある日、いつものようにランチに行くと、銀のスプーンから木製のスプーンに替わっていた。おそらく、店のリニューアルに伴って食器類が替わったのだと思う。私は手があまりうまく動かせないので、スープを掬う時や、サラダにかかったドレッシングを最後まで掬う時は、銀のスプーンを使えば上手く掬うことができていた。しかし、木製のスプーンは厚みがあるため、掬うことが難しくなってしまって最後の一滴を残すようになってしまった。そのうちに、私はそのお店からは足が遠のいていってしまった。それから数か月過ぎたある日、久々に食堂に足を運んだ。久しぶりに食堂の味を食べたくなったのだ。お店に入ると、いつものマスターが迎えてくれた。注文を済ませ、お冷をグイっと飲みほすと料理が到着した。しかし、その時、私は料理の風景に違和感を覚えた。周囲の人は木製のお皿に木製のスプーンで食事をしているのに、私の目の前にあるのは木製のお皿に銀のスプーンだ。あたりを見回しても、銀のスプーンを持っているのは私だけだった。銀のスプーンを添えてくれたおかげで、いつものランチのスープもドレッシングもすべて掬って食べることができた。もうスプーンの心配をせずにランチを思いきり楽しめる―。そう思ってほっとしたことを覚えている。おそらくマスターは、私が今まで食事する姿を見て「食べにくそうだな」と感じたのかもしれない。本当のことは、マスターの口から聞いていないので知ることはできない。でも、少なくともマスターの観察力と無言の気遣いに、私は心が温かくなった。マスターは何も言わなかった。いつも通りの髭を生やした顔で「ありがとうございました」と一言言っただけだった。大学を卒業して4年経つが、卒業以来あの食堂に行けていない。あの食堂はまだ営業しているだろうか。マスターもあの人のままだろうか。今度、有給休暇を取って、久しぶりに行ってみよう。その時には、マスターにお礼を言いたい。そして、「また食べに来ます」と伝えたいと思う。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『銀のスプーン』作者名:白石 真寿美エッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら[構成/grape編集部]
2020年07月31日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。熱闘甲子園再び今年も高校球児の甲子園での英姿が見られることになりました。真夏の目玉とも言えるスポーツの祭典は、甲子園球場の高校野球だと思っています。今年は新型コロナウイルスの感染で、春の選抜と夏の甲子園選手権大会が、いち早く中止となりました。この春の選抜で32校の代表となった高校球児は、憧れの甲子園の夢が消え、絶望と喪失感に見舞われていたのです。ところが、日本高校野球連盟の熱意と阪神球団と甲子園球場の協力により、この春の選抜の代表32校が、各校1試合ずつの交流戦ではありますが、8月の中旬に『甲子園の土』を踏(ふ)めることになったのです。良かったです。嬉しいニュースです。交流戦は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、組合わせは、各校主将によるオンライン抽選会で決められることになりました。甲子園は高校球児の『聖地』です。出場の決まったセンバツ32校の選手達は、天空に飛び上ったり、声高らかに万歳をしたり、感涙に顔を濡らしたりして、その喜びを最大限に全身で表していました。あの夏の甲子園球場が『無観客試合』というのは実感としてまだ湧いて来ませんが、プロ野球も無観客で始まっていますし、ウィズコロナの日常生活である以上、止むを得ません。一方で選手の健康管理や感染リスクの問題もあり、交流試合は1日3試合以内とし、宿泊も最大2泊を原則とし、近隣校には日帰りを打診するとの事です。色々制約のある中で、今年も甲子園での高校野球が観られることになりました。熱中症に気配りし、冷感マスクをつけ、32校の『熱闘甲子園』をテレビ桟敷で心から声援を送りたいと思っております。<2020年7月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2020年現在、アナウンサー生活62年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年07月30日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。小さなプレゼントのしあわせいつの頃からか、友人たちと食事をするときに、小さなプレゼントを持っていくことが多くなりました。友人たちもそれぞれに小さなものを。1000円から2000円くらいのお菓子や、何か美味しいもの。ちょっとめずらしいもの、旅行したときのお土産など。価格だけでなく、大きさも小さな手つきの紙袋に入るくらいのもの…相手に負担をかけない程度のものを選びます。プレゼントをもらうことはもちろんうれしい。でもプレゼントを贈ることもうれしい。どちらの場合も「うれしい」ということでは同じですが、そのタイプは違います。言い方を変えると、愛を受け取ったうれしさと、愛を与えたうれしさ。「与える」こと、giveすることで、脳内で快感ホルモンが分泌されるように、人間はできているそうです。与えるということは、言い方をかえると「役に立つ」ということです。プレゼントに限らず、力になること、助けること…誰かのために、見返りなど考えずに役に立つ何かをすること。「与える」「役に立つことをする」「人を喜ばせる」ということは、実は自分の運を強くすることにもつながるのです。中国から伝わった占術である算命学では、12年間に2年、天の守りがなくなる『天中殺』という期間があります。この時期には引っ越し、新築、会社の設立、結婚など、自らの意志で新しいことを始めるのは避けた方が良いとされています。大難を小難に、小難を無難に。天中殺は怖い…と恐れる人が多いのですが、天中殺の影響を和らげる方法があります。それが「与える」ということなのです。算命学の宗家高尾義政先生の著書によると、「人にごちそうしなさい」と。金銭的に『損』をすることで、災難を前もって買ったことになる。そうすると影響が薄まるというのです。もちろん、これはひとつの例えで、プレゼントも、誰かに力を貸すことも含まれます。一見、現実的な方法に見えますが、要は「徳を積む」ということなのです。少しずつでも徳を積むことで、運を強くする。そしてその積み方も、さりげなく、目立たぬように。これが陰徳です。そしてさらに言うなら、陰徳を積むなどと意識せず、運を強くするなど考えず、人を喜ばせることをしあわせに思う自分でありたいものです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年07月19日2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『夏の映画館』をご紹介します。夏の映画館夏休み、子供を連れて神奈川の実家へ遊びに行った時の事です。滞在最後の日に、従姉弟達と子供達だけで映画を観せようと、一番近い映画館でアニメ映画をネットで予約しました。夏休みのイベントに、子供達は、とても喜んで、楽しみにしていました。当日は、早めに映画館に着いて、「さあ子供達でいってらっしゃい!」と、映画館内の入り口で見送りました。子供達は嬉しそうに「いってきます!」と、中に入って行きました。ところが少しして、映画も始まらないうちに、子供達が残念そうに戻って来たのです。「すみません、お席にもう人が座っているという事で、チケットを確認したところ、お日にちが明日になっていまして、、。」連れて来て下さった女性のスタッフの方が、申し訳なさそうに子供達を見ると、みんながっかりとした顔をしていました。「そうでしたか、、キャンセル変更出来ない案内があったので、気を付けて入力したつもりでしたが、うっかりしてしまいました。」「もしこの後に、お時間あれば、次の回で空席があればご案内出来るのですが、今日はこの回が最後なので、、明日来て頂ければ、大丈夫ですよ。」スタッフの方が、そう言って下さったのですが、「この後は大丈夫なのですが。今、夏休みで実家へ来ていて、明日は千葉に帰る予定なんです。」と私が伝えると、子供達は残念そうな顔をしました。それを見たスタッフの方は、「では、少しお待ち下さい!」と、映画館の事務室の方へ行かれました。悲しそうな子供達を見て、「せっかく最後の日だったのに、ごめんね。」と、言うと、「大丈夫だよ、また来ようね!」と言ってくれる子供達に、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。スタッフの女性が戻られると、「お待たせ致しました!今確認して来ました。もしよろしければ、次に別のアニメではありますが、上映があり、空席もあったのでご案内出来ます。よろしければ、そちらをご覧になりますか?」と、提案して頂きました。その映画は、当初観る予定だったものと、迷っていた映画だったので、子供達も喜んで「大丈夫!そっちも観たかったよ!」と、言ってくれました。「ぜひお願いします、でも良いんですか?」と、私が聞くと、「私も、子供がいるのでお気持ち良く分かります。今上司に了承も得ました、上司もぜひにと申しております。せっかくの夏休み、映画で良い思い出を作って下さい。」と、言って下さいました。私のミスなのに、こちらの立場に立って、最後迄対応して下さったスタッフの方、了承して頂いた上司の方に感謝の気持ちでいっぱいでした。映画が終わり、スタッフの皆さんにお礼を伝えた、帰り道、「面白かったよ〜今日の事は、ずっと忘れないね!」「忘れられない夏休みになったね。」そんな事を話しながら、みんなで笑顔で帰りました。映画館の方の素晴らしい対応のおかげで、夏の失敗談が、素敵な夏休みの思い出が変わりました。また、映画館に行きたいと思いたくなるような、人の優しさの力、素晴らしさを感じた接客でした。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客』タイトル:『夏の映画館』作者名:あきひろきほエッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。[構成/grape編集部]
2020年07月17日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。会話による感染!?先日、28年間担当させていただいているFMラジオの当方のレギュラー『ワンポイント・フィットネス』の収録で、1か月ぶりにラジオ局に行きました。局の入口で消毒と体温の測定があり、OKが出てからの入局です。エレベーターもスタジオへの通路も すれ違う人は皆マスク姿、どこかの病院へ来た感じさえもします。さて、いつものスタジオは、マイクの前に透明のアクリルボードが置かれ、ディレクターとの軽い打合せも、お互いにマスクのままアクリル板越しです。テレビドラマの刑事物での拘置所の面会シーンにやや似ています。当方の番組はワンマントークですので、マスクをはずして収録しましたが、他のスタジオでの収録番組では、マスクをしたまま話しているゲストの顔も見えました。放送局といえども、病院と同じくらいの感染リスクがあるのかもしれませんね。ところで、アメリカの実験では「Stay healthy」(健康でいてね)を、大声で25秒間言わせた所、発声の『th』の時に、一番多くの『しぶき』が飛んだ事が判ったそうです。日本語ですと『サシスセソ』の『ス』の音でしょうか…。1分間の大声の会話では、少なくとも1000個のウイルスを含む微粒子が8分間以上、空気中を浮遊していると推定され、「密閉空間では、通常の会話が感染の原因になる」と発表されました。新型コロナウイルス感染のリスクは、何と『会話』にもあるのです。日頃の会話にもマスクと換気を心がけ、談笑の折には『フ』とか『ス』の吐く息の発音を時には気をつけるようにしたいものです。(カラオケでは特にですね)<2020年7月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2020年現在、アナウンサー生活62年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年07月15日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「犬は無償の愛を教えてくれる天使」「犬は無償の愛を教えてくれる天使よ」10年前、我が家のトイプードルのラニが肺炎で緊急入院をし、弱気になった私にジュディ・オングさんがかけてくださった言葉です。ジュディさんは大変な愛犬家で、当時、子どもようにホワイト・テリアのパールちゃんに愛を注いでいました。その姿を、誌面などを通して知っていたので、つい泣き言のメールを送ってしまったのです。無償の愛を教えてくれる天使…飼い主を信じて、何も疑わない、ただただ慕ってくれる。愛しかない…ということを、わんこたちは命いっぱいで表している…。ラニが私たち家族に何の疑いも持たず、100パーセントの信頼を寄せる姿そのものに無償の愛を感じます。愛するとは?信じるとは?人は一点のエゴもなく誰かを愛し、信頼することができるだろうか。親との関係ですらギクシャクすることが多いというのに。無償の愛だなんて大袈裟な…と思う人もいるかもしれません。私たちが学ぶのは、教師や本からだけではありません。私たちの心を育てるのは、偉い人の名言でも、最先端のテクノロジーでもありません。まわりにいるすべての人から、あらゆる出来事から、私たちは学ぶのです。世界のありよう、自分の感情の『感じ方』に、自分自身の心のありようが鏡のように映し出されます。そこで自分を振り返り、成長することができるのです。ラニはもうすぐ14歳になります。人間の年齢にすると75歳くらいでしょうか、老犬と呼ばれる年齢です。2.53の小さな愛らしい姿に、どうしても老犬という印象はありません。でも、この自粛期間のある時から、急に弱くなってしまいました。つい前日まで喜んで散歩に出ていたのに、行きたがらなくなり、喜んで食べていたごはんを食べなくなりました。検査してみると初期の心臓弁膜症と腎臓が弱っていることがわかりました。いつか弱る時が来ると思ってはいたものの、いざこのような状況になると不安で仕方がない私がいたのです。失いたくないという気持ち、少しの変化にぐらぐらとしてしまう…そんな私の不安をラニが受けてしまうことをわかっていても、覚悟のできない自分がいます。ラニは、そんな弱虫な私を鏡のように見せてくれているのです。犬は無償の愛を教えてくれる天使。老いて弱くなっても、犬が飼い主に寄せる信頼に変わりはありません。限られた時間を生きる。それは命あるものの宿命です。これからの時間がどれだけ尊いものになるか。愛することは不安や悲しみを超えていくことなのだと、これから私の大きな学びが始まります。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年07月12日2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『母ちゃんと作業着』をご紹介します。母ちゃんと作業着私は山形で生まれた。実家は焼き鳥の店だった。幼い頃は、それでよくからかわれた。まだ周りにはそういった店はなく、街で初めての酒を提供する店だった。毎日お客さんがやってくる。学校の先生や警察官、農家、工場勤務のサラリーマン、いろいろな人がやってきた。隣のパーマ店の息子さんやその友人達もやってきた。息子さんの切ない恋模様なんかも店の中で繰り広げられた。夏は近所の方や業者さんを招待し、店の前の敷地でビアガーデンをやっていた。お店と住居が繋がっているため、お客さんのカラオケや会話が良く聞こえた。宿題をしながら聞こえてくる歌や話し声のおかげで、私は寂しくなかった。むしろ賑やかな毎日だった。店を切り盛りするのはママ、私の母だ。日中は店の仕込みで忙しく、夜は焼き鳥の店を開いているため、かまってはもらえなかった。家族で食卓を囲んだ記憶はなく、夕飯はお皿にラップがしてあり、各自が勝手に食べるルールだった。夜の12時前にのれんを下ろす。やっと母と話せる時間がきた。私はお店のカウンターに行く。帳簿とお金を数える母を見ながら、今日のお客さんのことや、学校のこと、たわいもない話しをするのが楽しみだった。唯一、母とゆっくり話せる時間だ。山形は雪が深く、冬は私服に長靴の方や、農家や工場の方は作業着でやってくる。都会の人のように洒落た服や洗練されたスーツなど見たことない。「ママやー、こんなカッコで飲みさ来てしまった。恥ずかしちゃー、悪いのー」仕事帰りの作業着で晩酌しにきたようだ。照れながら謝るお客さんに、母は微笑み、おしぼりを渡す。「どげだ立派だスーツや服よりもの、私は作業着が好きだー。なぁにも恥ずかしくね。その作業着で汗水流して稼いで、家族を養ってるんだがら、どげだ格好より最高にカッコイイ姿だ」母の生まれた家は、宴会場の舞台やお祭りの舞台でショーをする家業だった。高校を休んで泊まり込みで、一座を引き連れてどさ回りをしたこともあると話す。だから学も無ければ、なんの資格もない。お客さんに言った言葉は、きっと母自身にも言い聞かせていた言葉だったのかもしれない。どんな仕事でどんな格好であろうと、一生懸命働き家族を養うことに誇りを持っていたのだろう。子供三人を育てあげ、私は看護学校まで行かせてもらった。病気がちな父を看取り安心したのか、最近は母が旅立った。母と過ごせた時間は少なかったが、大切なことを教えてもらった。母の言葉は私の心に染みついて、思い出として輝いている。焼き鳥の匂いが染みついた母のエプロン、母の服、水仕事で荒れた手、最高にカッコイイ姿だと思う。ありがとう、母ちゃん。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『母ちゃんと作業着』作者名:よもぎ特別協賛企業のご紹介株式会社タカラレーベン株式会社タカラレーベンは全国で展開する総合不動産デベロッパーです。「幸せを考える。幸せをつくる。」を企業ビジョンとして掲げ、幸せをかたちにする住まいづくり、街づくりを実現しています。本コンテストでは、『心に響く』をテーマとした全応募作品の中から特に「幸せ」が感じられる作品に、『タカラレーベン賞』が贈られます。皆さんのご応募をお待ちしています。『grape Award 2020』募集ページ[構成/grape編集部]
2020年07月07日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『自分だけの応援歌』を!久しぶりにNHKの朝ドラ『エール』を観ています。昭和を代表する作曲家、古関裕而氏の物語。戦前から戦後へ、日本人を励まし続けた歌とともに辿る物語は、純粋に音楽を生み出していくことの大切さを教えてくれます。古関裕而氏は早稲田大学の応援歌『紺碧の空』、プロ野球の応援歌、高校野球の『栄冠は君に輝く』、そして1964年の東京オリンピックの『オリンピックマーチ』など、多くの応援歌を作曲されました。改めてこれらの応援歌を聴いてみると、雲ひとつない青空のような真摯なさわやかさを感じます。その当時の日本人の、希望を見出しながら生きていく澄んだ精神を感じるのです。そう、私たちの人生にも応援歌があるといいです。大好きで聴いている音楽が、その人の応援歌になるのでしょう。元気を出したいとき、背中を押してもらいたいときの歌、いろいろあると思いますが、「これ!」という歌を決めるのです。10年前、手術を受けました。命に別状のない手術でしたが、やはりお腹を開けるのには少し怖さもありました。看護師さんが迎えに来る直前までヘッドフォンをして、大音量で繰り返し聴いていた歌があります。チャカ・カーンの『I‘m Every Woman』。「私はすべてを持っている女よ!」と、自分に叩き込むように何度も何度も聴きました。胸の奥から、わあーっとやる気を起こさせるように。怖さを蹴散らすように。そして気持ちが整い、盛り上がったところで「よっしゃ!」という気合いで手術室に向かいました。もう一曲、「落ち込んでいる場合じゃないぞー」と引っ張り上げてくれる歌があります。アンドレア・ボッチェリの歌う『大いなる世界』です。前半のオリエンタルなコード進行のメロディーが胸に響き、それからサビの大きな展開で一気に視界が開けていくような感があるのです。音楽は空気の震えです。その震えは私たちの体に響きます。この音楽が好き、元気が出る、と感じるのは、私たちが発している何かとその音楽が発している何かが合致した瞬間なのではないかと思います。単に、好みだけの問題ではなく。自分の体と心にフィットした音楽、モチベーションを上げてくれる音楽、泣ける音楽など、『持ち歌』のように持っているのはどうでしょう?歌の力をもっと活用できたらと思うのです。最近では、ストリーミングで気軽に多くの音楽を手に入れることができます。これは著作権で生活をしている私たちからすると困った時代になったのですが、それでも多くの人が音楽を楽しめるようになるのは素晴らしいこと。一人ひとりの元気が社会全体の元気につながるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年07月05日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。今年の梅雨に思うこと…日本には、春夏秋冬の素晴らしい四季がありますが、これに加えて春と夏の間に、『梅雨(つゆ)』というもう『一季』がある、と気象に詳しい方から教えて頂いたことを、覚えております。そんな季節がやって参りましたね。梅の実が熟す頃の長雨を『梅雨(つゆ)』と言われていますが、最近の梅雨は「しとしとぴっちゃん」ではなく、ゴ~ッと襲って来る集中豪雨となって、毎年のように甚大な被害の爪痕を残すことが多くなりました。ですから今年の梅雨は、農作物や日常生活用水に必要な雨量を残す程度の、穏やかな梅雨になって欲しいと心から願っています。ところで、暑い季節には『節水協力』が声高に呼びかけられます。節水は当然の『合言葉』ですよね。ところが今年の夏は、新型コロナウイルスの感染防止のために、手洗い、顔洗い、水洗いが日常生活の必要条件となっています。政府の専門者会議の『新しい生活様式』の中でも、帰宅すれば 手や顔を洗いシャワーを浴びる…などと積極的に水を使うことを要望しています。学校では、子供達のプールの水泳は中止して、先ず、手を洗う方針へ切り替えました。恐怖の新コロナウイルスから命を守る為の提言ですから、積極的に水を使わざるを得ません。となると、この夏場、空梅雨(からつゆ)の渇水状態が続き、私達の日常市民生活を守るダムや貯水池の水ガメが、底をつくようなことがあっては 絶対に困るのです。稲作や農作物のこともありますが、先ずは、新コロナウイルス感染から命を守る必要な水だけは、たっぷり降って欲しい。水は天からの貰い水 といいますが、今年の梅雨はしっかり降って欲しい と 今、神頼みの心境で この梅雨空を眺め、祈っております。<2020年6月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年06月29日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。ピンチが新しい日常を作る家にいる時間が長くなり、多くの人が家でできる楽しみを見出すようになりました。大掃除、『断捨離』に精を出し、お料理、レストランからのお取り寄せなどのお楽しみもありました。通常、テイクアウトなどしていないレストランが、お店と同じメニュー、また特別にお弁当などを提供しています。それも経営を存続させるひとつの方策、私たちにとっても楽しみなことです。食べることが唯一の楽しみになった3ヶ月、私も料理ばかりしていました。しまいこんでいた器を出しました。亡くなった母が集めた器、もったいなくて箱に入れたままにしていたのですが、使ってこそ器、楽しむのがいちばん。ぎゅうぎゅう詰めの食器棚を整理して、なんとか納めました。普通の焼き魚も、少しいいお皿にのせるだけで気持ちが上がります。若芽と胡瓜の酢の物も、古伊万里の小鉢にいれるだけでちょっと特別に見えました。インターネットでお料理屋さんの盛り付け方など参考にしながら、毎日の夕食がなんとなくごちそうに。いま、ここにあるものを使い、創意工夫次第で楽しみを見出せる。限られた中で、どれだけクリエイティブに日々を過ごせるかということが試されました。制限されたからこそ、知恵を出せたと言えるでしょう。家の中の楽しみということだけでなく、仕事の仕方、子どものこと、保育のことなど、これまでのやり方を変えなければならないとき、困った困ったと言っているだけではたち行かない現実があります。ピンチのときに活路を見出していく、ここは自身の底力が試されているところです。私も、大学の授業がオンラインになりました。まず、オンラインの仕組みを学び、クラスルームを作り、55人の学生の登録を手作業で。テキストを作り直し、パワーポイントでスライドを作るなど、通常の授業よりも何倍もの手間がかかりました。ところが実際にオンライン授業をしてみると、学生たちの学びが進んでいるような感じがします。少し考えさせる課題を出しているのですが、ほぼ全員がしっかりとした作品を書いてきます。クラス全体の雰囲気がどうなのかわからないのですが、少なくともひとりひとりのモチベーションは高くなっているのは確かです。これから、世の中がどのように変化していくかわからない中、この状況の中でどのように進化していくか考え、実践していくこと。創意工夫と、もっと楽しいことをできないかな、という気持ちが、新しい社会を作っていくきっかけになる。それはきっと、ひとりひとりの創造性と実行力という底力と、この日常から始まるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年06月28日