サッカーをする子を持つ保護者の皆さんが「こんな記事があったらいいのに」と思っているのはどんなことでしょうか。5月某日、数人のサカイク読者とオンラインにてサカイク編集会議と称したミーティングを設けました。今回ご協力いただいたのは、関東、関西のお母さん数名。母親としての視点からお話を伺いました。その中からいくつかご紹介いたします。サッカーをしている子を持つ親ならだれもが「うちも!」と共感いただけるリアルな悩みや要望なので、ぜひご覧ください。<<関連記事:サッカーをする子の保護者たちに聞いた「親向けのこんな記事が欲しい」その内容は?■その1.子どもの「褒めどころ」がわかるように、親向けサッカー講座親御さん自身が学生時代にサッカー経験があったり、観戦が好きという方でない場合、どうしても「点を取った」「シュートを防いだ」など、分かりやすいプレーしか評価できないものすよね。得点に絡む場面以外で良いプレーをしていたのに、うちの子活躍しなかったな......。と思っていませんか?今回ご参加いただいた皆さんも、サッカー経験がなく最初はわかりやすいプレーでしかプレーの良し悪しを判断できなかったそうで、「親向けに、試合の映像や解説を使ったサッカーを理解するコンテンツが欲しい」という声がありました。親がサッカーというスポーツをもっと理解することで、これまでは試合で活躍しなかったと思っていたわが子に「目立つプレーではないからこれまではわからなかったけど、いい判断だったんだね」と褒めるポイントを見つけることで、いい親子関係が築けそうだということでした。帰りの車で反省会をするより、ずっと前向きで子どもも嬉しい気持ちになりますね。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!■その2.子どもが「じぶんごと」として意識するような熱中症対策近年、ゴールデンウイークごろから学校での集団熱中症などがニュースになります。熱中症への啓もうは何年も前から行われており、ご家庭でも学校でも子ども達に伝え、予防対策をしているにもかかわらず、肝心の子ども達自信に響いていない。と今回お集りいただいたお母さん方は嘆いていました。「水筒の中身をほとんど飲まずに帰ってくるので心配」との声も。のどの渇きを感じない、学校で頻繁にトイレに行きたくないなど子どもならではの理由はあるかと思いますが、春先から熱中症になる人が出る近年の気温の中、親御さんとしては本当に心配ですよね。実際に目の当たりにするまでは中々「じぶんごと」としてそのツラさや命の危険があることまでイメージできない、ということもあるかもしれませんが、今回お話を聞いたご家庭の中には、「うちは学校での集団熱中症などでクラスメイトが倒れた経験をしてもなお、じぶんごとになってないみたいです......」という声もありました。サカイクでも毎年のように最新の熱中症対策についてお送りしているので、親御さんが読んで、お子さんにその大変さを理解させ、予防対策に意識が向くような記事を配信していく予定です。■その3.子どものモチベーションが下がらないようにする方法高学年になってくると、トレセンやセレクションなど、選ばれることや合否判定に直面することが増えてきます。成長期を迎えて一気にうまくなる子に差をつけられているように感じたり、早い子では5年生の段階でクラブチームのジュニアユース(中学年代)にスカウトされているため、6年生でセレクションを受ける際に募集人員が少なく狭き門になっていることもあるそう。結果は気にしないようにしていても、セレクションに受からなかったわが子にどう声をかければいいか、普段の練習やほかのセレクションに向けてモチベーションが下がらないようにする接し方を知りたい親は多いのでは、という切実な要望をいただきました。最近では5年生ぐらいから部活の体験会に参加させる中学もあるそうで、高学年になると子どもの進路について悩むことが増えたり、ほかのご家庭がどのタイミングで進路を意識し動き始めたのか知りたいという意見がありました。ほかには、子どものモチベーションが下がるような応援の仕方についても、サカイクから啓蒙があると良いという声も。試合中ピッチの外からわが子だけに大声で支持を出したり、試合後わが子を読んでダメ出しする保護者の存在はよく聞かれますが、中には試合の審判をしながらベンチの子どもに罵声を浴びせるお父さんもいるのだそうで、試合での応援マナーやポジティブな声かけについて改めて紹介したら、チームから共有されるので良いかもしれないというアイデアをいただきました。今回、色々親としての心配や知りたいことを語りながらも、「親はプロになってほしいとか、なるべく高いレベルを目指してほしいとか理想を言うけど、結局のところ決めるのは本人だし、親は応援するだけなんですけどね」と締めくくるお母さん方。親として「こうなったらいいな~」という理想は描いてしまうものだけれど、最終的に子どもの人生を決めるのは子ども自身だから、それを見守るしかない。と、まさにサカイクの理念を体現されている方たちでした。次回は、サッカー少年少女を支える親として多くの人が抱える悩みについて、それぞれのご家庭での対応などをご紹介します。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!
2023年06月05日子どもが高学年になると気になりだす「トレセン」。同じチームでも「あの子は選ばれたけど、うちは......」、「小さいから無理かな」、「選ばないってことは才能ないからサッカー以外に転向した方いい?」など親御さんを悩ますこともあります。サカイクの読者であるジュニア年代のお父さん、お母さんが気になりがちなトレセン活動について、前回は東京都サッカー協会で技術委員長を務める中田康人さんに、選考基準について話を聞きました。後編では、トレセンに選ばれなかった選手や親御さんへのメッセージを貰いました。(取材・文:森田将義)写真は少年サッカーのイメージ<<前編:小さい子は不利って本当?気になるトレセン事情。東京都サッカー協会がトレセンで重視する「12歳までに必要なテクニック」とは■中学、高校で順調に伸び続けるかはわからないもの中田さんは東京都の技術委員長に就任するまでの12年間、日本サッカーを先頭に立って引っ張っていくエリートの育成を目標にするJFAアカデミーに所属していました。所属するのは、3次まである選考を進んだ10数名の選手のみ。合格した親御さんの中には、「将来はプロになれる」と期待を抱かれる方もいましたが、中学、高校年代で伸びていくかは本人と指導者をはじめ周囲のサポート次第です。「優秀な選手が多かったですが、誰が順調に伸び続けるか、いつ伸びるのかは指導者も分からない。私たち指導者含め、お父さん、お母さん皆さんでサポートし続けましょう!と伝えていました」と中田さんは振り返ります。「保護者が期待するのは当然ですが、親御さんは見守ったり、励ましたりするのが大事。年齢が下がれば下がるほど、みんながプロになれるチャンスがある。だからと言って、そのまま順調にいくかは全く分からない。指導者と保護者と我々がタッグと組んで子どもたちの成長を見守ることが大切です」。サカイクの最新イベントやお得な情報をLINEで配信中!■トレセンは将来が約束されるものではない。いずれ立場が逆転することもトレセン活動も同じで、U-12年代で選ばれたからと言っても、将来が約束されるわけではありません。JFAアカデミー福島では、U-12年代に県トレセンに入っていない選手もいました。反対にU-12年代で輝かしい経歴を持ち、中学からJリーグのアカデミーに入ったとしても、プロになれるのはほんの一握り。高卒でプロになったとしても、大学経由でプロに進んだ選手と立場が逆転する可能性もあります。「12歳での評価が13歳の立ち位置を決めているだけで、答えはありません。答えがないから諦めるのではなく、いろんな道を探れる。それが日本の仕組みであり、強み」と中田さんは口にします。■内田篤人さん、伊藤純也選手もトレセンに縁がなかったがプロになった20年以上前に日本でトレセン制度が整備されてからも、拾い切れなかった才能が数多くいます。過去の代表的な選手は、元日本代表の内田篤人さん。小中学生の頃は静岡の県トレセンにも選ばれない選手でしたが、日本サッカー協会が遅咲きの選手を発掘するために行った、早生まれの高校1年生が対象のU-16日本代表候補の選考会を機に、飛躍を遂げました。近年では、小学校時代に横浜F・マリノスアカデミーのセレクションに落ち、街クラブ、公立高校、大学経由でプロとなり、日本代表にまでなった伊東純也選手が代表例。中田さんはこう話します。「色んなトレセンの仕組みがしっかりしだした今でも、取りこぼしがある。同時に、見てはいたけど、突然伸びてきた子たちがいる。入れなかったからダメではないし、入ったから安心でもないので、親御さんは選考結果に一喜一憂しない方が良い。選手自身も選考結果にとらわれる事なく"まだまだ"、"もっともっと"と思い続けるのが大事」。サッカー少年の親が知っておくべき「サカイク10か条」とは■月一回のトレセンは「きっかけ」に過ぎない。大事なのはチームに帰ったあと育成年代で大事なのはトレセンで選ばれる事ではなく、将来活躍できるかどうか。月に1回のトレセン活動は選手が変わるきっかけに過ぎず、自チームに帰り、日々のトレーニングで成長できる選手でなければいけません。また、出た課題に気付けない選手は、選ばれただけ、少し活動しただけで満足して終わります。プレーだけでなく、パーソナリティーも大事な要素と言えるでしょう。「JFAアカデミー時代は代表に選ばれてもシュンとして帰ってくる子がいれば、『どれだけ良い経験してきたんだろう?』と思うぐらい伸びてきた子もいた。人は本当にきっかけが大事。思春期の難しい時期には、色んな事を感じると思う。ダメだ俺はと思ってしまう子もいれば、上手い選手を追い越したいと思う子もいる。そうした所が分岐点になる。選ばれた事を良いきっかけに出来る選手であって欲しい」(中田さん)。■チャンスはみんな平等にある中田さんが選手によく伝えるのは、「チャンスはみんな平等にある」という言葉です。「チャンスが来ている事さえ分かっていない子がいれば、来たチャンスを掴み取ってしまう子もいる。代表監督が目当ての選手を見に来たら、別の選手が目に留まり、次の代表キャンプに呼ばれた事もにありました。自チームと地域の指導者では見る目が違うかもしれませんが、今の日本サッカーの仕組みでは良い選手なら、上に推薦されていきます。推薦されるには、何か理由があるはず。されない選手は推薦されない理由もきっとあるはずです」。■トレセン以上に日々の取り組みが重要チャンスはどこに転がっているか分からないからこそ、トレセン以上に日々の取り組みが重要と言えるでしょう。「昔の人が言っていた、『毎日を全力で生きよう、全力で取り組もう』という言葉は正しい。テスト勉強のような一夜漬けではなく、毎日少しずつ積み重ねることでハイレベルな選手になって欲しい」と中田さんは話します。自チームで攻撃のトレーニングをやっていても、良い守備が出来る選手がいれば、指導者の自然と目に留まります。技術では目立てなくても、誰よりもチームのために走れば、「この子はテクニックがまだ足りないけど、これだけ走るとボールをプレーする回数も増えるから、テクニックが上がるかもしれない」と考える人も出てきます。そうした人たちの中に"今度、トレセンに推薦してみよう"と思う人がいるかもしれません。トレセンを意識するのも大事ですが、それ以上にそうした日常のトレーニングに目を向けることが大事と言えるでしょう。多くの国では、プロのクラブチームのアカデミーに所属していないとプロになることが難しいですが、日本ではJクラブのアカデミーだけでなく、高校部活や大学からもプロになる道が用意されており、他の国々よりもプロになるルートが多いともいえます。小学生年代でトレセンに選ばれなくても、サッカーが好きで打ち込んでいれば大きく成長するタイミングが訪れることもあります。親御さんもどうか、そういった事を踏まえて「選ばれた」「選ばれなかった」と一喜一憂せず、毎日の練習に楽しんで参加できるようなサポートを意識してください。サッカー少年の親が知っておくべき「サカイク10か条」とは
2022年07月26日高学年になると「トレセン」という言葉を聞く機会がありますよね。サカイクの読者であるジュニア年代のお父さん、お母さんがどうしても気になるのがトレセン活動。選ばれたことを子どもたちがサッカーを頑張ってきた成果の証だと喜ぶ親御さんがいる一方、選ばれなかった事を悲しむ親御さんもいるでしょう。中には「うちは早生まれで小さいから」など最初から無理だと諦めてしまうケースや、「トレセンに選ばれなかったから、うちの子にはサッカーが向いていない」と判断してしまう親御さんがいると耳にします。今回はそうしたトレセンに関する正しい情報を聞くため、東京都サッカー協会で技術委員長を務める中田康人さんに話を聞きました。(取材・文:森田将義)写真は少年サッカーのイメージ■12歳までの選手を見るときに重要な要素とは東京都の場合は7つの地域に分かれた地区トレセンから選ばれた選手が、東京都トレセンの選考会へと進みます。そこで選ばれた選手が、都のトレセンメンバーとして月1回活動するのが仕組みです。U-12年代では7地域の前に、16ブロックに分かれた活動を実施し、可能性がある選手の見落としがないよう励んでいます。以前は選考基準を地域ごとに共有するものの、トレセンコーチ全員に選考の考えの徹底がしきれていませんでしたが、今年に入ってからはトレセンに関わる全スタッフが集まり、トレセンの考え方、選手選考の基準を提示。同じ目線で全員が選手選考できるよう今後は、文章としても提示していきます。「100人のトレセンコーチがいて、100通りの基準があれば、誰が良い選手か分からなくなるので、目(=基準)を合わせたい。大人のサッカー=子どものサッカーではなく、年代によって基準や獲得すべき要素が違います。12歳まではテクニック(※定義を後述)が凄く重要で、それ以降はテクニックがなかなか身に付きにくい年代に入ってくる。逆にフィジカルが強いからと言って、14歳や15歳になっても通用するかは分からない。フィジカルにウエイトを置いてしまうと、選手のためにならない選考になってしまう」(中田さん)。最新ニュースをLINEで配信中!■身体能力だけを基準にすると、トレセン本来の目的とズレてしまう成長が早い小学生だと12歳で170cm近くある選手がいれば、140cmぐらいの選手もいます。2人が一斉に走り出せば、大きい子の方が速くゴールする確率が高く、サッカーでもジュニア年代ではそうした選手が活躍しがちです。テクニックがなくても、やっていける年代でもあると言えるでしょう。身体能力だけを基準に選考すると、トレセンの目的である将来、日本代表で活躍できる選手の発掘、育成が出来なくなるため、ジュニア年代の選考はテクニックの割合が高くなります。身体能力に頼ったプレーをしている選手に対して、将来活躍できるテクニックを身に付けるよう声を掛けるのも、大事な役目です。■「テクニック」とは単純な止める・蹴るを指すのではない選考の基準となるテクニックも、現在は人によって定義が変わるため、中田さんが東京都の技術委員長に就任してからは、定義の明確化を進めています。「リフティングや対面パスなど止まった状態での上手さではなく、相手がいる中で様々な認知をして判断と実行が出来てこそテクニックと言います。キーワードは『前』です。前を向けるのか、前にパスを出せるのかが大事。相手が守備をしてくる中で前にコントールしたり、パスを出せる技術こそがテクニック。横にドリブルする選手は相手にとって怖くないけど、相手を抜きにかかる仕掛けは怖い。前に前進できるテクニックを持っているかが大事です」。サッカー少年少女の親の心得「サカイク10か条」■ポジションに応じて必要な「テクニック」がある8人制から11人制へと変わる中学生年代では、より大人のサッカーに近づくため、ポジションに応じたテクニックも身につけなければいけません。「CBの吉田麻也選手が自陣ゴール前でに堂安律選手のようなドリブルプレーをしたらチームメイトは困ります。テクニックと言っても吉田選手や板倉滉選手に求めるテクニックは、中盤の選手とは違うのです。反対に堂安選手も自陣でプレーするなら、エリアに応じたテクニックを発揮しないといけません。一概にテクニックと言っても、ゾーンや状況に応じて発揮できるかが大事です」と中田さんは話します。■今は身体が小さくても、日々の積み重ねしだいで急成長するタイミングがある身体が小さく、ジュニア年代ではフィジカルの差で活躍するのが難しくても、テクニックを日々の練習で磨き続ければ、必ずどこかで急成長するタイミングが訪れます。中田さんが、代表例として挙げるのは、JFAアカデミー福島のチーフコーチ監督時代に携わったU-21日本代表のMF三戸舜介選手です。小学6年生でセレクションを受けた際は、163cmの今より小柄で「ずば抜けた選手ではなかった。現在の活躍は想像しづらい選手でした」中田さんは振り返ります。JFAアカデミー福島に入ってからも、身体が大きい選手に競り合いで負けるなどテクニックを生かしきれない時期もありましたが、中学3年生になったタイミングで急成長を遂げ、年代別代表でも欠かせない選手となっていきました。「舜介には身長を気にする必要がないぐらいテクニックがあった。15歳になってからは、そこにプラスして瞬間的なスピードが出せるようになった。それ程ハードワークをする選手ではなかったけど、代表から帰ってくる度に献身的なプレーが出来るようになっていった。こういう子がこうやって変わるんだと指導者ながら学ばせてもらった選手でした。大きく成長する瞬間を引き寄せるためにも日々の積み上げが大事。積み上げのベースとなったのは間違いなくテクニックでした」。■相手がいる中での認知と判断は、中高で成長するために欠かせない要素トレセンに選ばれるために上述した「テクニック」=相手がいる中での状況に応じた認知と判断の向上は重要です。もし、小学生年代で選ばれなかったとしても中学年代以降で大きく成長するために欠かせない要素です。三戸選手の急成長を間近で見てきた中田さんは東京都のトレセンコーチに、こんな言葉を伝えているそうです。「選手としての総合ランキングは、中学と高校の6年間で変わる。でも、テクニックが高い子がテクニックだけを見ると誰かに抜かれる事はなかった。もちろんテクニックを活かすためのスピードやハードワークも必要ですが、それぐらい幼少期から積み上げるテクニックが大事」。東京都トレセンの考えは、選手の育成に携わる人たちにとっての大事な指針と言えそうです。サッカー少年少女の親の心得「サカイク10か条」
2022年07月12日Jクラブのスクールと学校のチームに所属しているけど、チームで試合に出られない。伸びる時期だから試合に出られないのはもったいないとJクラブのコーチがチームを紹介してくれた。体験は楽しかったようだし移籍も良いと思うけど、移籍すると県のトレセンに選ばれない可能性が。中学以降は通っているJクラブのジュニアユースに行きたいし、どんな選択をすればいいのか悩む......。とのご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの知見をもとにお子さんにとって一番いい環境をどうやって決めるかアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<楽しいチームがいい?厳しいチームがいい?6歳児二択問題<サッカーママからのご相談>こんにちは。10歳の息子は現在、学校のサッカーチームと、Jクラブのスクールに入って活動しています。学校のサッカーチームは人数が少なく、試合に出場できません。Jクラブのコーチに、今伸びる時期だから試合に出られないのはもったいないと言われ、他の学校サッカーで試合に出られるチームを紹介されました。体験に行ってみてとても楽しかったようです。移籍もいいかな?と思ったのですが、今加入している学校サッカーの方で小4でのトレセンに選んでもらっています。U-10の県トレセンももしかしたら可能性があります。しかしながら移籍するとそのトレセンがなくなります。来年には所属しているJクラブのジュニアユースセレクションを受ける予定です。受かれば絶対にそちらに加入したいのですが、落ちた場合どっちを選んだらいいのか悩んでます。このような場合、試合を諦め今のままのほうがよいでしょうか?<島沢さんからの回答>ご相談ありがとうございます。子どもが、進路なり、サッカーを続ける環境を選択する岐路に立たされたとき、親は一体どうふるまえばいいのか。まずは、ここを考えましょう。■悩むのは子どもであって親ではない私は、まずは子どもの意思を尊重すべきだと考えます。息子さんの年齢は10歳で、来年ジュニアユースのセレクションを受けると書かれていることから、現在は5年生でしょう。高学年ですから自分がどんな環境でサッカーをしたいのか。もしくは、どんな環境が自分のためになるのかも、親御さんと一緒に考えることができるはずです。ご相談文を読む限りは、お子さんがどういった環境を希望しているのかがわかりません。お母さんは、セレクションを落ちた場合、試合のできるクラブに移籍するか、トレセンを重視して試合ができない学校のサッカーチームの二択で悩んでいると書かれています。が、悩むのは息子さんであって、お母さんではありません。そこを忘れないでください。■小学生にふさわしいサッカー環境とはでは、お母さんは、小学生の息子さんがサッカーをするにあたって、どのような環境がふさわしいと思われますか?私の意見を言わせていただくと、以下のような条件が考えられます。1)指導者に暴力や暴言がなく、楽しくサッカーができるところ。2)指導者に威圧的な態度がなく、主体的に取り組むよう子どもに求めているところ。3)勝利至上主義ではなく、サッカーを好きになることが最優先されているところ。4)全員が試合を経験できるよう配慮されているところ。これらが保証されていて、なおかつ試合を経験できれば移籍を考えてもよいかと思います。ぜひこの4つのことを考えながら、息子さんと「じゃあ、どんなチームだと楽しくサッカーができるかな?」と一度話し合ってほしいと思います。■どんなスポーツでも試合が一番楽しいものそのうえで親として助言するとしたら、どんなことがあるでしょうか。お母さんがひとつ悩まれているのが、トレセンに選ばれることと、試合に出ることのどちらが息子さんにとって重要なのかということです。私の個人的な意見になりますが、サッカーに限らずどんなスポーツでも試合が一番楽しいものです。そして、試合をしたほうが上達するはずです。これはJクラブのコーチがおっしゃる通りだと思います。もし、息子さん本人がほかのクラブに移籍してもよいというならば、今すぐそうしてあげたほうがよいでしょう。■子ども自身が最優先したいのは何なのか、を聞いてみようじゃあ、県トレセンに入れなくなっていいのか。それについては、都道府県ごとにトレセンの内容や活動の頻度は異なるため、その価値について明確なことは言えません。それこそ、Jクラブのそのコーチの方に尋ねてはいかがでしょうか。加えて、息子さんに、トレセンの活動を最優先して考えたいかどうかを聞いてみましょう。それと、Jのジュニアユースを落ちた場合、「どっちを選んだら?」と悩まれているようですが、これは中学で学校部活のサッカー部に入るのかを悩まれているということでしょうか。Jのクラブ以外にジュニアユースクラブはないのでしょうか。■小学生年代でトレセンに選ばれることがその後のキャリアに大きく影響することはないただ、私はトレセンに入れる環境か、そうでないかは、あまり優先すべきファクターではないように思います。小学生時代にトレセンに選ばれることが、その子のサッカーキャリアに大きな影響を及ぼすようには思えません。トレセンに選ばれることを単なる勲章とはとらえず、そのトレセンのなかで何が学べるのか、どんな成長があるのかに注目してほしいと思います。そもそも、トレセンに選ぶ基準は、指導者によってまちまちです。多くの指導者は、体が強く大きい子、スピードがあり、足元のテクニックのある子を選ぶようです。多くの指導者が「トレセンの選考でピックアップされるのは、今すぐ試合で勝つために戦える選手が多い」と言います。なぜならば、トレセンでも、市区町村対抗といった試合があるからです。例えばドリブルが上手くて、スピードがあって、同学年の子どもを抜いて行ける子がいると、トレセンの地区大会で有利になると考えられています。私が尊敬するあるコーチは、Jリーグクラブで育成に携わった時期にさまざまなセレクションに立ち会ったそうです。そのコーチが「この子、いいね」と指摘しても、ほかのコーチとはことごとく意見が合わなかったと聞きます。■今の時点でトレセンにはそれほどこだわらなくていい(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)息子さんがどんな選手なのかは知るよしもありませんが、上述したことを考えると、そんなにトレセンにこだわらなくてもよいかと思います。例えば統計的にみても、小学生でトレセンに選ばれ、そのまま日本代表で活躍する選手はほとんどいません。周囲の評価に一喜一憂せず、息子さん自身の意思を尊重し、人間的な成長を手助けするのが親御さんの役目だと私は思います。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)。
2022年05月25日中学時代にトレセン歴のような輝かしい経歴がない選手がほとんどなのに、高校時代に個性を磨きあげ、セレッソ大阪のDF松田陸選手、松田力選手を筆頭にこれまで28人ものJリーガーを輩出している立正大学淞南高校の南健司監督。前回は現在発売中の南監督の著書「常に自分に問え! チームの為に何が出来るか 立正大淞南高校の個とチームの磨き方」から一部を抜粋し、前向きな志向の重要性について紹介しました。後編となる今回は、立正大淞南がサッカーで大事にしている要素について紹介します。(構成・文:森田将義)立正大淞南高校サッカー部(C)森田将義<<前編:「トレセン歴なし」がほとんどなのに約30人がJリーガーに!全国常連の強豪サッカー部監督に聞く「個とチームの磨き方」■誰にも負けない武器が一つでもあれば、選手は成長できる淞南に来る選手の多くは欠点が多くても、何か一つ誰にも負けない武器を持った選手ばかりです。長所が一つでもあれば選手は成長できると考えています。突出した武器があるから、他の部分も伸びていくのです。多くの人が、「満遍なく卒なく無難にこなせる」のも才能だと気付いていません。過去にいた選手に、中学の指導者が「ストロングポイントがないから淞南には向いていない。身体能力や体格に優れておらず、パスが正確なだけ」と評する選手がいましたが、確実にパスが繋げるのも武器なのです。日本は足が速い選手や身長の高い選手を、長所を持った選手として持て囃しますが、私の定義は違います。ピッチに立つ11分の1として、チームが勝つためのプレーができる選手が、長所を持った選手なのです。いくら足が速くても、試合で有効でなければ、長所ではありません。横パスしかできなくても、どんな状況でも落ち着いて正確にパスができるのなら、立派な長所です。■長所があれば弱点を「ごまかす」こともできる長所さえ持っていれば、短所もカバーできます。選手には、ごまかす力も大事だと常に伝えています。私は大学時代、技術がない選手でしたが、チームメイトはサッカーが私に下手なイメージを持っていないそうです。とにかくヘディングが強くて、スライディングで突破を止めまくれるのに、左足でインサイドキックができなかった。相手に寄せられると慌ててパスができなくなるため、ボールを奪ったらすぐロングボールを蹴って、自ら「ナイスボール!」と叫ぶような選手でした。プレッシャーに負ける姿を見せたら、相手に狙われるとも考えていました。私はロングキックが長所だったため、公式戦の緊張感のある舞台でも、弱点を誤魔化せたので、チームメイトに下手な印象を持たれていないのです。ロングボールという武器を持っていれば、ロングキックを蹴るふりをして蹴らないというキックフェイントもできます。武器が一つあれば、二つの武器を手にしているのと同じと言えるでしょう。■不平不満しか言わない指導者は選手の良い部分を見つけられない私は良い所探しの天才だと自負しています。学校に対しての不満を一切言わないのも、良い所をたくさん知っているからです。淞南が実施しているサッカースクールでは、選手が子どもに指導するのですが、子どもへの説明が上手い選手がいます。プレーが下手であっても、指導力という良い所を持った選手なので、私は認めています。不平不満しか言わない指導者は良い部分が見つけられない性格であるため、きっと選手の良い部分も見つけられず凄い選手を育てられません。良い所探しができる性格なのかは、良い指導者と言えるかどうかの条件でしょう。他の仕事でも同じで、「最近の若い奴は」と不満を口にする年配の人は、入社したての頃は会社の上層部の批判をしていたはずです。■サッカーは全てのプレーに本質があるサッカーは攻守の切り替えが速く考える時間がなさすぎるスポーツですが、野球は次のプレーでどうすれば良いかを考える時間があるため、分析が好きな日本人に合ったスポーツだと思います。それなのに多くの指導者はサッカーの分析をたくさんするうちに難しく考えすぎてしまい、本質を見失った練習メニューや指導法が溢れている気がします。淞南のグラウンド横の掲示板には、私が就任した当初に記したサッカーの基本をまとめて張り出しています。淞南サッカー部ではAチームの選手として不可欠な10の絶対条件を掲げています。掲示板に張り出されているサッカーの基本10か条(C)森田将義1.攻守の切り替えが速く、予測を持って連続で激しく動ける(基本動作)2.ヘディングが強い(技術)3.ロングキックができる(技術)4.トラップの前にステップフェイントがあり、キックフェイントで突破できる(技術)5.攻守に渡りゴール前で頭から飛び込める(基本)6.ロングスローが投げられる(技術)7.精神的に戦える(精神面)8.全国で勝てる自主練習ができる(想像力)9.基本練習を実践的に自ら難しくできる(想像力+責任感)10.素直である(一流選手たる条件)こうした掲示物を見ると、サッカーの基本は大きく変わっていないのだと思います。サッカーは進化していると口にする指導者がいますが、ボールを出したら周りを見る意識や、チャレンジ&カバー、ラインの押し上げは大昔から変わらないサッカーの本質です。サッカーの本質が大事と表現しますが、全てが本質なのです。本質を強調しなければいけないのは、本質を抑えていない指導者が増えているからではないでしょうか。■1つの技術だけでなくサッカーに必要な要素をすべて教えることドリブルスクールのように一つの技術を切り取って教えるのも間違っているように思います。他のスポーツでは一つの技術に特化したスクールがあるなんて話は聞きません。同じ野球でも野手とは別種目に近いピッチャーですら、専門のスクールはないのにサッカーにだけ存在するのは不思議です。ラーメン屋に例えるなら、スープにこだわりながらも麺はスーパーで売られているのを使っているような店は繁盛しないのと同じだと言えるでしょう。チャーシューなどの具材だけではなく、器までこだわる店には敵いません。1つの技術だけでなく、サッカーに必要な要素を全て教えなければ、良い選手に育たないのです。テクニカルなチームが、なぜドリブルの練習をたくさんしているのか意図すらも理解できず、型だけを真似している指導者が多いように思います。■必要な技術はどの年代でも同じ野球の練習法は日本全国どこに行っても大きく変わりません。それ以上の練習方法がないと行きついているから、30年前も今も同じ練習をしているのです。日本サッカーはまだ行きついていないから違いや流行り廃りがあると考えています。ジュニア年代に応じた練習メニューが提唱されたりもしますが、必要な技術はどの年代でも同じです。教えるべき技術を幼少の頃から、きちんと徹底して指導すべきです。※この記事は「常に自分に問え! チームの為に何が出来るか 立正大淞南高校の個とチームの磨き方」(竹書房・刊)より抜粋したものです。南健司監督
2021年05月19日ジュニアユースのチームを探していると「セレクション」という言葉を耳にする機会が多くなります。この記事ではサッカーチームのセレクションについてその概要を解説します。また、トレセンのセレクションとの違いについても取り上げているため、ジュニアユースのチームを探している方は参考にしてみてください。セレクションとはセレクション(selection)とは、「選出」「選択」「選抜」といった意味を持つ英語です。サッカーにおいては、チームに所属するメンバーの選出やトレセンメンバーの選出などを行う際の試験のことを指して使用されます。セレクションは大きく分けて2種類セレクションは大きく分けて以下の2種類に分けることができます。チームに入るためのセレクショントレセンに参加するためのセレクションここでは、それぞれのセレクションの概要について解説します。チームに入るためのセレクションジュニアユースやユースなどのチームの中には、セレクションを行い、チームに入団できる選手を選考するケースが少なくありません。選考を突破した選手は、合格後そのチームに所属して日々のトレーニングや公式戦などに参加することになります。ジュニアユースやユースのチームはたくさん存在しますが、中でも強豪街クラブやJリーグの育成組織は多くの選手がセレクションに集まります。そのため、難易度は高く、合格率も非常に低くなるでしょう。チームに入るためのセレクションの場合、チーム内でどのような選手を獲得したいのか、具体的なイメージを持っているケースもあります。そのため、高いスキルを備えている選手であっても、チームのニーズと合致していなかったため不合格になることも珍しくありません。また、ジュニアユースのチームの場合、ジュニアユースとユースの6年間をかけて育成することもできるため、セレクションの時点ではイマイチの選手でも伸び代に期待して合格とすることもあります。トレセンに参加するためのセレクション地区や市、都道府県など、トレセンに参加する選手を選ぶためにセレクションを実施するケースもあります。トレセンはチームではないため、将来的な伸び代やチームのニーズを考慮した選考ではなく、セレクション時点でのスキルを参考に選考されるケースが少なくありません。そのため、トレセン参加者の所属チームを見ると、その地域の上位チームの選手が多いといったケースもよくあります。セレクションを受けるメリットセレクションを受ける場合、合格を目指すのはもちろんですが、合格できなかったとしても参加することによって多くのメリットが享受できます。例えば、セレクションに参加する選手はサッカーに本気で取り組んでいる選手が多いため、高いレベルや緊張感のある雰囲気を経験することができるでしょう。また、自分の実力を測る機会にもなります。もしセレクション時点で差があったとしても、何ができて何ができないのかがわかるため、さらなる成長のきっかけになるかもしれません。セレクションを受ける際の注意点チームに入るためのセレクションの場合、合格できるかどうかは、チームの状況によります。前述の通り、チームのニーズや方針などに沿って選考されるため、合格した選手の方が優れているわけでも、不合格の選手が下手なわけでもありません。あくまでも、そのチームのニーズや状況と合致していなかったというだけです。Aというチームに入れなかった選手がBというチームに入り活躍する可能性は大いにあります。セレクションの合否に一喜一憂することのないように注意してください。まとめ今回は、セレクションについて、その概要からセレクションの種類、セレクションを受けるメリットや注意点などについて解説しました。チームに入るためのセレクションはチームの事情が選考にも影響するため、不合格=サッカーが下手・サッカー選手になれない、といったわけではありません。縁がなかったと捉え、気にし過ぎないようにしましょう。
2021年05月12日全国選手権出場18回、インターハイ出場13回。今や全国屈指のサッカー強豪校として知られる島根県の立正大学淞南高校です。在籍する選手は中学時代にトレセン歴のような輝かしい経歴がない選手がほとんどですが、個性を磨きあげ、セレッソ大阪のDF松田陸選手、松田力選手を筆頭にこれまで28人ものJリーガーを輩出しています。チームを率いる南健司監督の独自の哲学には高校サッカーだけでなく、サカイクの読者であるジュニア年代の親御さんや指導者にも役立つヒントがたくさんあります。今回は現在発売中の南監督の著書「常に自分に問え! チームの為に何が出来るか 立正大淞南高校の個とチームの磨き方」から一部を抜粋し、紹介していきます。(構成・文:森田将義)立正大淞南高校サッカー部(C)森田将義■ハーフタイムは、チームメイトへの指摘は禁止ようにしています。育成年代では、自分にとって都合の良い話ばかりをして、チームがネガティブな雰囲気になる話し合いが珍しくありません。例えば、FWがチームメイトに対し、「俺がパスコースを制限しているんだから、もっとインターセプトを狙ってよ」と不満混じりに要求するケースです。こうした場合、淞南では「俺は前から奪いに行く」と自分のやりたいことしか話さないようにしています。周りの選手に対しての指摘は、禁止です。そうすれば、中盤の選手は「俺はこぼれ球を狙う」、DFの選手は「絶対に空中戦で競り勝つ」とポジティブな発言が続き、チームの雰囲気は良くなるでしょう。■チームの雰囲気は勝つ力につながる試合中でも、前線の選手がボールを失った際に「もっとフォローを速くして」と周りの選手に伝えると、周りの選手は「すぐに奪われるからフォローに行けない」と考え、チームの雰囲気が悪くなります。しかし、「次はもっとキープできるように頑張る!」と話せば、周りの選手は助けるために素早くフォローに走ろうと前向きに次のプレーを頑張れるでしょう。高校生は放っておくと、そこまで考えて発言しないので、最初のきっかけとして大人がきちんと声掛けの方向性を示すべきだと考えています。野球で例えるなら二回も三振した、エラーをしたなど反省は自分一人ですべきです。チームメイトに対しては「次は必ずホームランを打つから!」と前向きな言葉を発し、チームの雰囲気を良くすれば、試合で勝つ力になるのです。特に、インターハイや選手権のような短期決戦には大切な考えで、大会期間中はチームを良くするための行動、発言、表情をすべきで、負のオーラは一切出さないよう伝えています。■発想のきっかけは中山雅史選手の姿勢こうした発想の原点は元日本代表の中山雅史選手(現・アスルクラロ沼津)のダイビングヘッドとスライディングです。身体を投げ出しても届かないクロスに対しても、中山選手は必ず「ナイスボール!」と伝えます。ダイビングヘッドやスライディングでも届かないボールはパスミスですが、それでも前向きな言葉を掛けられたチームメイトは「次は必ず良いボールを出します!」と次のプレーの活力になるのです。■前向きな思考は社会に出てからの人付き合いを豊かにする梅木翼(レノファ山口FC)は高校時代から、常にそうした前向きなプレーができる選手でした。チームが上手く行かない時に守備から試合に入ろうと考え、届きもしないスライディングを繰り返し、チームを盛り上げていました。ボールに届かず、セカンドボールが拾われても、「こぼれ球に反応しろよ」とチームメイトに愚痴を零すのではなく、「悪い!俺が寄せきれなかった」と口にしていました。そうした前向きな言動を続けるから周りが発奮し、チームの雰囲気が良くなるのです。前向きな思考は高校を卒業して社会に出てから求められる要素だと考えています。同級生だから、同じ部に所属しているからとの理由でなんとなく人付き合いをする高校生までとは違い、大学生や社会人になる19歳以降は違和感を覚えれば人付きをする必要はなくなります。自分が上手く行かない時に不貞腐れていても、周りが「元気出せよ」と励ましてくれていた18歳までとは違い、無視されるようになるのです。年を重ねるごとに自分と合わない人に合わせる時間は勿体ないと考えるようになり、気の合う人、心が通じ合える人との時間を大事にするようになります。一緒にいて、暗い気持ちになる人だと人付き合いがなくなってしまうのです。■苦しい状況が続いても人前では前向きに振舞うのも一流の条件プロスポーツ選手にも当てはまる考えです。Jクラブの収入は、ファンやサポーターの方からの入場料が多くを占めています。チームを応援する人だけでなく、"あの選手を応援したい"と思う人たちが足を運んでくださるから、選手はサッカーで生活ができるのです。ネガティブな言動する選手であっては、応援する人が増えません。チームが勝てず苦しい状況が続いたとしても、人前では常に明るく前向きに振舞えるのが、一流のプロスポーツ選手の条件だと考えています。<後編へ続く>※この記事は「常に自分に問え! チームの為に何が出来るか 立正大淞南高校の個とチームの磨き方」(竹書房・刊)より抜粋したものです。南健司監督
2021年05月10日派手なプレーは好まず、スペースを見つけてパスを捌く、狙えたらシュートを打つような連係プレーが得意で判断力が高い子。単騎でドリブル突破したり対人プレーをどんどん仕掛けるタイプじゃなく、スペースを見つけて動ける「目立たないけどいい選手」。なのに、力試しで受けてみたトレセンでは「素人が混じっているレベル」と酷評。上の年代のトレセンに携わっているチームの代表は、「このまま成長すればトレセンメンバーでやれる」と言うけど、これまでの自分の育成方法が失敗だったのか悩む、というご相談をいただきました。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが今回もコーチにアドバイスを送ります。(取材・文島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<下級生との練習は上の子たちにメリットがないのでは。という上級者の親たちに年齢ミックスの良さを分かってもらうには?<お父さんコーチからの質問>いつも参考にさせていただいています。 U‐9、U‐10を指導していますが、どう育成したら良いのか悩んでいる3年生の選手がいます。私は日頃の指導の中で、試合で使える技術を大切にした練習などを行ってきました。例えば、昔からある対面での基礎練習やリフティング、1対1などには時間をかけず、1対2、2対1、4対4、ゲーム形式など、複数を意識したメニューを多めに実践しています。スター選手はいませんが、平均より少し上の選手が集まっていて、 個で勝負するよりもチームの連動性が良いチームです。その中で1人、この子は上のレベルでも十分やれるだろうなという子がいるのですが、 その子についての相談です。ドリブルや1対1など派手なプレーや対人プレーは好まず、スペースを見つけて動き、パスを捌いて、狙えたらシュートを打つような「あまり目立たないけどとてもいい選手」というタイプで、相手チームにスター選手がいても全然引けを取らないレベルではあります。本人は海外でサッカーをやりたいという夢をずっと持っていて、意識も非常に高いです。しかし、その子の父親が力試しを兼ねて強豪チームやスクールのセレクションを色々受けさせてみたところ、合格どころか「素人が混じっているレベルだ」と評価されたというのです。不合格の理由としては「基礎練習が他の受験生と同じように出来ない。ゲームでも、周りは1対1やドリブルで仕掛ける子ばかりで、どう動いていいか分からず終始あたふたした状態だった」という内容だったそうです。その父親からは「ドリブルや1対1に特化したスクールに通った方がいいかな?」と相談をうけていますが、個人技に傾倒していくと今の良さが消えてしまうのではないかとも危惧しています。正直、これまでの自分の育成方法が失敗だったのではないか、もっと違うやり方があったのではないかと悩んでいます。U-12地区トレセンの監督も務めているうちのチームの代表は「彼は目立たないけど、このまま成長すればトレセンメンバーでやれる」と認めてくれていますが、それは身内で特色を知っているからで......。知らない人が見たときに彼の良さに気づいてくれるのか、もっと分かりやすい特色を付けていくために練習を変えた方が良いのか、彼の大切な時間を潰してしまったのではないか、など葛藤している状態です。このような問題に正解はないと思いますが、指導者としてどのように考えたら良いのかアドバイスいただけると幸いです。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。いただいたメール文を読む限り、やろうとしている育成にまったく問題ないと思いました。対面での基礎練習やリフティングといったクローズドスキルに時間をかけず、1対2、2対1、4対4やゲームなどのオープンスキル、対人練習をたくさんやっているとのこと。まさしく私がみなさんにこうあってほしいと伝えている指導です。恐らくそのような練習によって、上のレベルでやれそうな子どもが育っているのでしょう。ドリブルや1対1など派手なプレーや対人プレーは好まず、スペースを見つけて動き、パスをさばき、狙えたらシュートを打つ。ご相談文に書かれているような選手をたくさん育ててほしいと願っています。■昨今のトレセンでは「今すぐ試合に勝つ」ための選手が選ばれることも少なくないが、強豪チームの中心選手やトレセンの選考でピックアップされるのは、私が見る限り「今すぐ試合で勝つために戦える選手」が多いようです。例えばドリブルが上手くて、スピードがあって、同学年の子どもを抜いて行ける子に、大人たちは「勝負、勝負」と声がけをしてドリブル突破を勧めがちです。その子が点を取ってくれれば、全国大会に行けたり、トレセンの地区大会で一番になったりできます。その一方で、サッカーを賢く考えられ将来性のある子どもが、ベンチに置かれたり、後回しにされてしまっているのが、強豪チームの現実だと感じます。Jリーグクラブで育成に携わった時期は、さまざまなセレクションに立ち会ってきました。そのときに、私が「この子、いいね」と指摘するのが、ご相談者様が育てている選手のようなタイプです。ところが、担当コーチは「うーん」と首をひねります。彼らが欲しいのは「今すぐ使える選手」なので、いいと思う選手像には常にギャップがありました。統計的にみても、トレセンに選ばれて、そのまま選ばれ続けて日本代表に上がっていく選手はゼロです。ひとりもいません。この結果を、私たち指導者は受け止めなければいけないと思います。トレセンに入っていたけれど、途中で落ちて、Jクラブに入った、育成期はまったく注目されなかったけれど海外でプレーした結果代表に選ばれた。それが今の選手たちの、日本代表までの通り道です。そう考えると、育成方法が変われば、日本の選手たちにはまだまだ成長できる余白がたくさんあると私は見ています。もっとうまくなる。もっとサッカーを熟知した、どのクラブでもどこの国でも通用するプレーヤーになれます。■トレセンに選ばれた子が必ずしも順調に伸びるワケではない逆に言えば、育成方法が古いままの指導者に出会ってしまうと、サッカーを学べません。コーチが育成の本質を知らないまま、海外のコーチたちがどんなところに注目し、どう育てているかを知らなければ、選手自身も「今勝負できる子」を選ぶトレセンに入ったり、チームが全国大会に出たりすることがいいと思ってしまいます。さらにいえば、そのようなやり方がいいと言われてしまいます。全国大会に出た全員が上手く伸びてプロに行くかといえば、それはあり得ません。無論ですが、ご相談者様が書かれているように、正解はないのかもしれません。しかしながら、全員がどこのステージに行っても楽しめるようなサッカーの学びかたがあるはずです。上のステージでもできる学びを経験させてあげたいと私は考えています。■今の指導を変えたり、思い悩む必要はないしたがって、今実践している練習を変えたり、この選手の「大切な時間を潰してしまったのではないか」などと思い悩む必要はありません。この指導をぜひ続けてください。まずは賢い選手を育てることに軸足を置きましょう。それが私の指導の大前提でもあります。自分で考えられる子どもに育てていけば、カテゴリーが進むにつれて次々とハードルが現れても「チャレンジしよう。どんなふうにやればいいかな」と自分で考えられます。指導者の要求にも応えられる思考や創造力を発揮できるはずです。例えば、ここはドリブルで抜くよりもパスを選択しよう、と考えられる。その時々で最も選択すべきプレーを選べるようになります。ドリブルで抜いたり、ゴールを決めることよりも、その力を磨くことのほうが重要です。■個人の特長を伸ばすだけでなく、頭脳を育てるのが指導者の役目現在Jリーグにいる選手で今後も生き残っていける選手は「僕のスタイルはこれしかない」ではなく、監督の要求に応えられるうえで、自分のやりたいこともできる。そんなタイプです。海外でプレーする選手は言わずもがなでしょう。例えば「これしかできない」という選手は、そのチームに自分と同じ武器で、より高性能でかつプレーの幅が広い選手が入ってくれば負けてしまいます。「一対一が強い」「ドリブルが上手い」は、個人の特長です。特長はあって然るべきですが、それがすべてでは困るのです。攻守においてチームとして連動するときに、イメージを分かち合える頭脳をもたなくてはいけません。その頭脳を育てるのが、私たち指導者の役目なのです。■トレセンに迎合する必要はない(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談者様が教えていらっしゃる子どもは、まだ9~10歳です。この先、高学年になればどの子も体が少しずつ大きくなって、パワーも増してきます。そこに「賢さ」を足せるようになれば、その後はどこに行ってもステップアップできるでしょう。トレセンに迎合する必要はありません。ここまで私が説明したことが世界基準だと自負しています。今の指導をぜひ続けてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年12月11日サッカーをする子どもたちや保護者にとって、興味の対象である「トレセン」について、日本サッカー協会(JFA)ユース育成ダイレクターの池内豊さんに話をうがかいました。インタビュー後編では、トレセンの意義やオフ・ザ・ピッチでの取り組みなどをお伝えします。(取材・文:鈴木智之)日本独自の制度「トレセン」の意義とは(写真は少年サッカーのイメージ)<<前編:トレセンは日本代表への切符?どんなスキルを重視しているの?日本サッカー協会に聞いた最新トレセン事情■トレセンは日本独自の活動なぜ海外にはトレセンがないのか池内さんはトレセンの意義について、まずはこう話します。「トレセン活動の意義として、拮抗したレベルで練習や試合ができることがあります。子どもたちに『お山の大将』で満足しないように刺激を与え、勝ちか負けかどちらに転ぶかわからない相手と試合をする中で、『どうすれば、相手を上回ることができるか?』を考えるようになります。その環境を用意するのが、トレセン活動の意義のひとつです」上達のためには、レベルの拮抗した相手と試合やトレーニングをすることが必要です。その環境があれば、子どもたちは自ら考え、成長するための努力に視線を向けていきます。「ヨーロッパには、シーズンを通したリーグ戦があり1部、2部、3部とカテゴリーに分かれていることで選手のレベルに応じたリーグに参加できる環境が整っています。そして、一番上のカテゴリーである1部のクラブに、質の高い選手がいます。日本も育成年代にリーグ戦を導入し始めましたが、クラブのカテゴリー分けも含めて、整備している途中です。そのため、色々なチームに良い選手がいます。そこでトレセンを活用し、選手の発掘や刺激を与える場としています」池内さんは「ドイツには、日本のトレセンを参考にした活動がありますが、それ以外の国には存在しないと思います」と話し、その理由を「育成はクラブでするものという考えがあるからではないでしょうか」と言います。日本のジュニア年代では、リーグ戦を最優先ととらえないクラブも多く、ヨーロッパのように、リーグ戦を中心シーズンが進んでいく文化が浸透していないのが現状です。シーズンを通して、レベルが拮抗した相手との試合ができれば、一番の強化になるのですが、トーナメント形式をベースとした大会が多く、リーグ戦がカレンダーの中心になっていない以上、トレセンという日本独自の活動が広まってきたことも合点がいきます。■トレセンで実力を存分に発揮するための準備日本サッカー協会としても、トレセンをさらに有効活用できるように、リーグ戦の導入と平行して、トレセンの整備にも取り組んでいるようです。「これまで、トレセンの指導はボランティアの方々に支えられてきました。その環境を少しでも良くするために、47FA(都道府県サッカー協会)に技術の専任者を置いて、地域のトレセンのリーダーになってほしいと思っています。そこにJFAが補助金を出す形で進めていて、47FAのうち20ほどの地域で実施しています」静岡県では、すでにその制度が導入されていて、JFAのサポートを受けた専任者が指導しています。池内さんは「指導の質が上がり、選手のレベルも上がってきました。その成果が、(2019年の)国体(U‐16)での優勝にもつながっていると思います」と手応えを口にします。トレセンやセレクションなどの「選ばれる舞台」でプレーするのは緊張するもの。なかでも、経験の少ない子どもたちは、緊張して普段の力が出せないといったこともあるでしょう。そんな子どもたちに対し、池内さんは「前日や当日に何かをしたとしても、大きく変わることはありません。だからこそ、そこまでに何ができたか、いい準備ができたかが大切になります」とエールを送ります。「トレセンやセレクションで力が発揮できなかった、メンバーに入れなかったとしても『自分はこれだけやってきたのだから、後悔はない』という心理状態になれるかどうかです。プレー会場で不安を感じるのは、やり残したことがあるということ。次はそうならないように、頑張るしかありません。12歳のときにトレセンに選ばれなくても、コツコツやってきた子が追い越していく例は、たくさんあります。次のチャンスは絶対にあるし、それが報われる環境が日本サッカーにはあります」■サッカーがうまくなるために必要なことは日常生活にも関わっているトレセンではオン・ザ・ピッチのプレーに加えて、日常生活での取り組みや姿勢も大切にしているそうです。JFAのトレセン活動では、「トレセンの選手として」と題し、生活習慣の5か条を制定しています。それが、次の5つです。1:自分の物の管理に責任を持とう2:ルールを守ろう3:あいさつをしよう4:サッカー選手として、何をすべきかをいつも考えよう5:何事も積極的に!前向きに!池内さんは「自分で判断して実行することなど、サッカーがうまくなるためにすることは、実際の生活にも関わってきます」と言います。「ただし、大人が『あいさつしろ』『片付けしろ』『準備しろ』と言って、子ども自身に理解させず、形だけやらせても意味がありません。指導者に言われたから、チームのルールだからカバンをきれいに並べるのではなく、なぜカバンを並べたほうがいいのかを考え、そのために行動することが大切なのです。それができたら、ピッチの中で自分で判断して、実行したことが力になり、サッカー自体も伸びていくと思います」ピッチ内外で自分で判断し、行動すること。レベルの高い仲間と切磋琢磨すること。そのような日々の積み重ねこそが、サッカー選手としての成長につながります。トレセンはその一助になりますが、12歳の時点で選ばれなかったといって、悲観する必要はありません。子どもも保護者もそれを念頭に入れて、一喜一憂せず、自らの課題に向き合って、地道にトレーニングしていくことこそが、成長のためにもっとも大切なことではないでしょうか。池内豊(いけうち・ゆたか)現役時代はフジタ工業クラブサッカー部などに所属、1981年には日本サッカーリーグ1部で新人王を獲得。日本代表としてワールドカップ予選にも出場。引退後は名古屋グランパスエイトユースで指導者の道に進む。2007年にU-15日本代表監督に就任、2009年のFIFA U-17ワールドカップでも指揮を執った。現在はJFAユース育成ダイレクターを務める。
2020年10月12日サッカーをしている子どもたち、高学年になると「トレセン」の存在を知りますよね。チーム内で上手いと思っていた上級生がトレセンに呼ばれて行ってきた、というのを間近で見ることも増えます。プロになった選手たちも少年時代からトレセンに参加している経験を持つ選手も多く、上手くなりたい子どもたち、さらには保護者にとって「トレセンに選ばれるかどうか」は重大な関心事です。そこでサカイクでは、日本サッカー協会(JFA)のユース育成ダイレクターの池内豊さんに、トレセンの目的や選ばれる選手の特徴などをうかがいました。(取材・文:鈴木智之)トレセンでは何を見ているのか日本サッカー協会に聞きました(写真は少年サッカーのイメージ)■トレセンの目的はタイムリーに刺激を与えることトレセンとは、クラブを主とした選手育成と平行して、日本サッカー協会や都道府県協会、地区協会などが選手を選抜し、「個の育成」を目的に行う活動のことを言います。トレセンには、下から地区トレセン、47都道府県トレセン、9地域トレセン、ナショナルトレセンというカテゴリーがあり、U‐12年代から活動しています。トレセンの意義や目的について、池内氏は次のように言います。「トレセン活動自体は、30年以上前から始まっていて、12歳頃から選手をセレクトして、上を目指している子たちに、タイムリーに刺激を与えることを目的としています。(トレセン活動の最上位カテゴリーである)ナショナルトレセンでは、サッカーについての考え方などを、ナショナルトレセンコーチが選手たちにしっかりと伝え、最終的にはA代表につなげていきたいと思っています」トレセン活動の手応えについては「各地域から幅広く選手を見ることができるのは、ひとつの成果だと思います」と話します。「U‐12のナショナルトレセンから、U‐13/U‐14のエリートプログラムへの橋渡しができるようになり、エリートプログラムから、U‐15代表につながる選手が非常に多くなってきました。選手発掘の流れができてきたのは成果だと思います」■トレセンは将来を保証するものではない一方で、課題も感じているようです。それは、U‐15代表を経験した選手から、A代表へと上り詰める選手があまり見られないこと。「U‐12からU‐15までのつながりはできてきましたが、そこから上(A代表)への流れはまだまだです。私も監督をしていましたが、U‐17代表からA代表に進む選手は10%程度しかありません」これは言い換えると、12歳、15歳、17歳の時点で高い評価を受けていたとしても、将来どうなるかはわからないということです。池内氏もそこは認めていて、「U‐12のトレセンであれば、12歳の時点で良い子に刺激を与える場がトレセンであって、選ばれたからといって、将来につながる保証はどこにもありません。それは毎回のトレーニングで伝えるようにしています」と話します。「トレセンに選ばれたことで、選手や保護者が天狗になってしまうのは、我々が一番危惧することです。トレセンに選ばれなくても、悔しさをバネに頑張れば、絶対に次につながります」■「テクニック」とは判断力を伴うもの池内氏自身も、高校時代、自分以外のチームメイトのほとんどが国体メンバーに選ばれる中、選抜から漏れたことがありました。その悔しさをバネに「普段の3倍練習した」ことで、国体選抜を飛び越えて、年代別の日本代表に入った経験があるそうです。とくに12歳前後の年代は、成長による個人差が大きい時期です。身体の大きさ、パワー、スピードといった部分では、成長速度や生まれ月による影響など、様々なことが関係してきます。「私自身、育成年代に何十年と携わっていますが、子どもの頃は成長に個人差があるので、見極めが難しいです。12歳の時点では、プラスマイナス5歳ほど、成長に個人差があると言われています。指導者はそれを頭に入れて、評価することが大切だと思います」サッカーには、身体の大きさや成長スピードに関わらず、高めることができるものがあります。それがテクニック(技術)です。池内氏は「成長の個人差に関わらず、テクニックを身につけることは必要です。そこに早熟、晩熟は関係ありません」と、言葉に力を込めます。「テクニックとは、技術に加えて判断を伴うものです。状況を観て、判断して、一番良いと思うプレーを選択し、そのための技術を発揮する。そのすべてを『テクニック』という言葉に込めています。ボールを止めて、蹴る動作の質を高めるのは当然のことで、サッカーは動きながら、ゴールに向かいながら、どういうテクニックを発揮することができるかが大切になります。ぜひ、動きながらのテクニックを身につけてほしいと思います」サッカーの試合中、ボールに触っている時間はほんのわずかです。テクニックに加えて「オフ・ザ・ボールの動き」も同時に身につけていくことで、試合の中で消えることなく、攻守に関わることができるようになります。「テクニックの他に大切なのは、ボールを持っていない場面(オフ・ザ・ボール)での動きの質を上げることです。具体的には、ボールに近い所での攻守に渡るサポートです。攻撃ではボールを失わないためのサポートや、相手の守備を突破するためのサポート。守備では味方が抜かれた時のサポート、ボールを奪うためのサポート。ボールから遠いところでも、ポジションをしっかりととることを含めて、ボール周辺のオフ・ザ・ボールの動きは身につけてほしいと思います」■相手との駆け引きや判断を伴う中でのシュート練習をそして何より、「シュートのテクニック」を高めることにも、目を向けてほしいそうです。「サッカーの目的はゴールを決めることなので、子どもたち全般に言えることですが、シュートのテクニックはもっと練習してほしいですね。どこにボールを蹴るかというコントロールもそうですし、相手との駆け引きや判断を伴う中でのシュートは、もっとトレーニングした方がいいと思います」技術だけでなく、判断をともなう「テクニック」を身につけること。それが将来、良い選手になるために必要なことと言えるでしょう。トレセンでは、レベルの高い仲間と切磋琢磨することで、より精度の高いプレーをするためにはどうすればいいかを考えたり、コーチのアドバイスから刺激を受けられる場になっているようです。後編では、トレセンに向けた準備やリーグ戦の意義などについて、話は進んでいきます。池内豊(いけうち・ゆたか)現役時代はフジタ工業クラブサッカー部などに所属、1981年には日本サッカーリーグ1部で新人王を獲得。日本代表としてワールドカップにも出場。引退後は名古屋グランパスエイトユースで指導者の道に進む。2007年にU-15日本代表監督に就任、2009年のFIFA U-17ワールドカップでも指揮を執った。現在はJFAユース育成ダイレクターを務める。
2020年10月08日大阪府・茨木市を拠点に活動するレオSC。U-15の監督を務める安楽竜二さんは、47FAのチーフインストラクターを務め、昨年度まで長期に渡って関西トレセン、大阪府トレセンのスタッフを兼任するなど、育成年代の指導経験が豊富で、名古屋グランパス加入内定の児玉駿斗(東海学園大学)などのJリーガーを輩出しています。自身もサッカーをする子を持つパパでも安楽さんは、お子さんとの関わり方をどのようにしているのでしょうか?お話をうかがいました。(取材・文:鈴木智之)頑張ることを促すのは必要だけど、親が先走ったり、逆に無関心になるのもダメ■子ども以上に親の気持ちが先走ってない?安楽さんに「小学生年代の子どもを持つ親として、気をつけていることはありますか?」と尋ねると、次のような言葉が返ってきました。「先日、小学生の息子をJクラブのセレクションに連れて行ったのですが、保護者の方が子ども以上に熱が入ってるんちゃうかなという光景を目にしました。子どもたちがコートを移動するたびに声をかけて、『もうちょっとワンタッチでプレーした方がええんとちゃうか』とか『なんでサイドのポジションやねん』とか。気持ちはわかりますけど、サッカー面は口出ししないほうがいいんじゃないかと思いましたね」ひょっとしたら、Jクラブに入りたい子ども以上に、親の「Jクラブに入れたい!」という気持ちが先走っているのかもしれません。「僕の子どももサッカーをしているので、親の気持ちはめっちゃわかるんです。ですが、セレクションを受けると決めたのが本人なのであれば、そこでのプレーには口を出さないほうがいいと思います」■サッカーとしつけをごっちゃにしてしまう親がいるさらに、こう続けます。「僕も子どもができるまでは、全部コーチに任せておいたらええやん、子どもと距離が近い親はしんどいなと思っていたんですが、いざ親になってみると、人に迷惑をかけたらあかん、失礼な態度はあかんとなると、口出ししたくなるんですよね。しつけは大事ですから。ただ、サッカー面としつけは分けなければいけません。そこをごっちゃにしている親が多いのかなと感じます」サッカーとしつけは分ける。それがキーワードのようです。「サッカー面で子どものプレーを見たら、気になることはたくさんあります(笑)。でも、うちの子は僕が指導者であるがゆえに、自分からは聞いてこないですね。小学5年生からゴールキーパーをしているのですが、最初はフィールドプレイヤーだったんです。でも、自分で決断してGKをやろうと決めたので、尊重したいじゃないですか。セレクションで見た保護者のように、ポジションがどうやとかは言えないですよね」「サッカーの部分はコーチに任せた方がいい」と言う安楽さん。子どもにどうやったら上手くなるの?と聞かれたときは「わからんけど、両足で蹴れた方がいいんちゃうか?ぐらいしか言いません」と笑顔を見せます。「そしたら、両足で蹴れるように練習してますね。頑張ることをうながすような声かけは必要やと思うんです。無関心でいるのも違うと思うし。僕らの頃と違って、今の子の親は難しいと思いますよ」■食事中にネガティブな話はしない家庭で気をつけることは「食事中はサッカーのネガティブな話はしないこと」だと言います。「食事は親子のコミュニケーションの大切な時間だと思います。その時間に大好きなサッカーのネガティブな話をされると、子どもにとってはしんどい時間になると思います。食事中に嫌なことを言われたら、ご飯の味も変わりますよね(笑)。それなのにアスリートは食事が大事やというのは、本末転倒やと思うんです」食事とグラウンドへの送迎。この2つは親子が密接に関わる時間でもあります。「送迎の時も、子どもの話は聞いた方がいいと思いますが、評価はしない方がいいですよね。『今日どうやった?』『あんまり調子よくなかった』と言うたら『そうか。また頑張ろうな』ぐらいでいいと思うんですよ。プレーの細かな評価やダメ出しには、ならない方がいいです。今は昔と違って、サッカーの知識のある保護者の人もいると思うんですけど、我が子のプレーを応援こそすれ、ジャッジはしない方がいいですね」サッカーの指導者として、たくさんの家庭と関わってきた安楽さん。「お父さんの関わり方が上手な家庭は、不思議と良い選手になっていきます」と振り返ります。■「察しの悪い大人」になるのも子どもの成長に必要子どものプレーをジャッジして、ああだこうだと言い過ぎないこと「多くの場合、両親のどちらかというとお母さんがお弁当を作ったり送迎したりと、絶対に関わらなきゃいけないじゃないですか。そこでお父さんが子どものプレーをジャッジするというか、ああだこうだ言い過ぎると、両方から言われる感じになってしまいますよね。できる子の親は、試合は見に来て応援はするけど、言いたいことはあっても言わない人が多いように思います」さらに安楽さんは「察しの悪い大人になってみてはどうですか?」と提案します。「例えば、こうした方がいいとわかっていても、答えを言わずにわかってないふりをする。親が先回りせず、子どもに判断、決断をさせる。そのスタンスが大切だと思います。チャレンジして失敗して、それを克服する過程で子どもは成長していくので、失敗はつきもの。『失敗しそうだな』と思っても、許容できる範囲のミスであれば、先回りをして障害を取り除かない。察しの悪い大人になるのも、子どもの成長には必要なのだと思います」次回の記事では、中学年代を指導する立場から、小学生から中学生に進むときの親子の心構えや進路の選び方などをうかがいます。安楽さんが指導をするレオSCのHPはこちら>>
2019年11月07日