ゲイの男子高生エディと、レズビアンの女子高生アンバーが、偏見が根強くある田舎町で“ニセモノの恋人”を演じるアイルランドの青春映画『恋人はアンバー』から、場面写真が一挙解禁となった。アイルランド映画というと、『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)のジョン・カーニー監督を思い起こす人が多いだろう。アイルランドの都市・ダブリンを舞台に、地元の男とチェコからの移民の女が音楽を通して心を通わせていくラブストーリー『ONCE ダブリンの街角で』(2007)がアカデミー賞受賞をはじめ、サンダンス映画祭、ダブリン国際映画祭など世界各国で称賛を浴びた。同じダブリンを舞台に、ひと目惚れした女の子の気を引くためバンドを結成した男子高校生の心の成長を描いた『シング・ストリート 未来へのうた』も大ヒットを記録した。また、シアーシャ・ローナン主演、ジョン・クローリー監督の『ブルックリン』(2015)は、アイルランドの地方にある小さな町に住む女性が、渡米したニューヨークで出会った男性との恋によって自身の人生を大きく変え、アイルランドに帰郷すると運命的な再会が待ち受けているストーリー。こちらもアカデミー賞など名だたる賞にノミネートされ、絶賛された。ケルト文化のイベント「ケルト市」を主催する音楽プロデューサーの野崎洋子氏が「最後にポジティブなメッセージを受け取れる」と評し、名作揃いのアイルランド映画の流れを汲んだ最新作が本作『恋人はアンバー』。本作もアイルランドを舞台にし、ジョン・カーニー監督作品のように作中で流れる音楽がまた雰囲気を盛り上げるが、カーニー監督作品と大きく違うのは舞台が地方の小さな町であること。同性愛者への差別や偏見が根強く残る町で、“ニセモノの恋人”を演じることにした“男性に恋するエディ”と“女性を愛するアンバー”は、ぶつかり合いながらも、悩みや夢、秘密を打ち明けるうちに、唯一ありのままの自分で胸の内を語れる、かけがえのない存在になっていく。しかし、一緒に訪れた都会・ダブリンで、運命的な出会いによって新たな世界に触れた2人は、“理想的”だったこの関係にも終わりが近づいていることに気づくのだ。国内でもすでに、EUフィルムデーズなど3つの映画祭で上映され、観客たちから絶賛されている本作。本作をアイルランド代表としてEUフィルムデーズに提供した駐日アイルランド大使館からも、以下メッセージが到着。「本作品にはアイルランドの俳優や監督のすばらしい才能が余すところなく発揮されており、元気でユーモアあふれるアイルランドの若者たちの姿が描かれている。また、今年のEUフィルムデーズのテーマであるソーシャル・インクルージョン(※)にぴったりで、友情、他者を受け入れること、平等、多様性、周囲から浮いてしまうことを恐れず自分らしさを追求することの大切さ、といった普遍的な問題に焦点を当てている」。「アイルランドは、国民投票によって同性婚が合法化された世界初の国。アイルランドの価値観を海外に広める重要な要素として、ここ日本をはじめとする世界中でLGBTQの人々の平等な権利の支援にアイルランドが尽力していることを知ってもらいたい」。「また、日本の皆様がこの作品を楽しんでくれて、アイルランドやアイルランド人により親しみをおぼえてくれたらうれしい。作品を見ていただければ、世界中どこの国でも若い人たちが似たような問題を抱えていること、より平等で包括的(インクルーシブ)な世界を築いていく努力がいかに重要であるかということを感じていただけると思う」。『恋人はアンバー』は11月3日(木・祝)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開。※ソーシャル・インクルージョン:社会的に弱い立場にある人を排除・孤立させることなく、共に支え合う社会。社会的包摂。(text:cinemacafe.net)■関連作品:恋人はアンバー 2022年11月3日よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて公開© Atomic 80 Productions Limited/ Wrong Men North 2020, All rights reserved.
2022年10月07日「LGBT」という言葉を聞くことが増えたり、ジェンダーレスな人たちの活躍を目にしたりする機会が増えていませんか?「性の多様性」とはいうけれど、子どもたちにどうやって教えてあげればいいのか、悩んでいる人は多いのではないでしょうか?今回は、長崎県人権・同和対策課が発行する「多様な性への理解と対応 ハンドブック」を元に、親だからこそ知っておきたい性の多様性について、考えてみたいと思います。■性の多様性って?一般的に「性別」とは生まれ持っての性差を指します。「性別」では、男性か女性の2択だけですが、現代には、「性のあり方」を理解するために必須な3つの要素をご紹介します。<性のあり方を理解するための3つの要素>からだの性別:からだ(出生届・戸籍)の性性的指向:どういった対象を好きになるか?性自認:自分の性別をどう捉えているのか?これらの要素の組み合わせによって、さまざまなセクシュアリティが存在します。その他にも、性自認や性的指向がはっきりしない人、決めたくない人、女性とも男性とも認識していない人など、さまざまな性のあり方が存在します。この3つの要素を元に考えてみると、自分の性に違和感がない人や異性を好きになる人といった多数派の人もまた、多様な性の当事者であることがわかります。「多数派か少数派か」という2択ではなく、みなが多様な性の当事者だという事実を一人ひとりが受け止めていくことから「多様性」について考えてみるといいかもしれません。■性的少数者はどんな悩みを抱えているの?2020年に電通が行った調査(※1)によると、性的少数者は日本のなかでは8.9%という結果に。その他の調査でもおおむね10%程度の結果が多く(※)、およそ10人に1人が性的少数者であることがわかります。※国や民間の研究機関などによる統計データは、その数にばらつきがあり、はっきりしていません。2019年に長崎県が実施したアンケートから、人数の少なさや偏見、理解のなさから、生きづらさを抱えている人の実態が明らかになりました。アンケートに回答いただいたのは、トランスジェンダー85名(*1)、非異性愛者168名(*2)、性別違和感のない異性愛者435名、性的少数者 253名で、回答者は688名になります。*1トランスジェンダーの中には、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル等の性的指向の方もいますが、この調査では、そのような方も含めてトランスジェンダーに分類しています。*2本アンケートにおいて、性別違和感がなく、異性愛者以外の性別指向を選択された方このアンケートの結果によると、トランスジェンダーで43.5%、非異性愛者では45.8%の方が、「性的少数者であることが要因で暴力などを受けた経験がない」と答えています。逆をいえば半数以上の回答者は暴力などのつらい経験をしていることになり、その割合の高さには驚かされます。また、6割以上の方が、「学校の同級生・先輩・後輩など」から暴力などを受けたとしています。そして一番の理解者であってほしい家族である「父母」からの暴力などが3番目に高く、つらい現状がうかがえます。さらに、「死んでしまいたいと思ったことがある」と回答した人が、トランスジェンダーで61.2%、非異性愛者で51.8%にも上り、続いて多かったのは、「将来に希望を持つことができない」という回答でした。性的少数者であるという事実だけが影響したかどうかははっきりしませんが、この数値は非常に高く感じられます。性的少数者の人たちが抱える苦悩の一端が読み取れます。■覚えておきたい心構え3つ親としては、子どもにそうした様子が見られた場合も想定した対応の仕方として、リーフレットでは3つのアドバイスが送られています。【大切にしたいこと】●肯定的な言葉を使う●カミングアウトを肯定的に受け止める●アウティング(他言)しない具体的にどのようにすればいいのでしょうか?▼肯定的な言葉を使う性自認や性的指向を表現する言葉が多くある中で、中には性的少数者が不快に感じてしまう否定的な言葉もあります。<差別用語の代表例>「普通の人」や「ホモ」、「オカマ」、「オネエ」、「レズ」、「オナベ」、「ニューハーフ」<肯定的な言葉>「レズビアン」、「ゲイ」、「バイセクシャル」、「トランスジェンダー」これまで意識せずに使ってきた言葉には、その気がなくても相手を傷つけてしまう可能性があります。こういった情報をきちんと自分の中で取り入れていくことの必要性がわかります。▼カミングアウトを肯定的に受け止める自身の性自認や性的指向を他の人に打ち明けることを「カミングアウト」といいます。カミングアウトは大変勇気がいるため、信頼している相手だからできる場合が多いようです。だからこそ、もしカミングアウトされたら、肯定的に受け止めてあげましょう。▼アウティング(他言)しない「アウティング」とは、他人の性自認や性的指向を本人の許可を取らずに他の人に話すことをいいます。当事者が意図しないところで、個人のセクシュアリティが知られてしまうと、当事者が傷つき、精神的に追い込まれてしまう可能性もあります。SNSなどでの発信にも十分に注意したいですね。ここまで、性の多様性について、長崎県が発行したリーフレットを元に学んできました。性的少数者の中には、幼少期に学校や家庭の中で理解してもらえず、つらい思いをした人が多くいることもわかりました。性的少数者が自分の性別に違和感を自覚しはじめる時期については、56.6%が「小学校入学以前」だというデータ(※2)もあり、幼い頃から自らの性について思い悩んでいる子どもが多いことがわかります。そうした子どもたちに対して、周囲の大人がどのように受け止めるかは、その子どもの将来にも大きく影響してくるといえそうです。また、子どもに正しい知識と対応方法を教えてあげることで、子ども自身にも差別意識がなくなり、多様な性を柔軟に受け止められることにつながります。まずは親が知識を身につけ、子どもたちにも伝えていくことで、多様な性が当たり前の社会を、軽やかに進んでいってくれることでしょう。【多様な性への理解と対応 ハンドブックとは】長崎県では、多様な性のあり方への理解を深める一環として、県内の性的少数者支援団体「Take it! 虹」(ていく いっと にぃじぃ)と協働して、性の多様性に関する正しい知識や対応などについて、わかりやすく解説したハンドブックを作成。このハンドブックは「令和2年度人権啓発資料法務大臣表彰」の「出版物部門」において「優秀賞」を受賞。長崎県: 「LGBT等(性的少数者)について正しい理解をしましょう」 ※1.データ参照元:電通ウェブサイト 「電通、「LGBTQ+調査2020」を実施」 ※2.データ参照元:公益社団法人 日本小児保健協会 「性同一性障害と思春期」/中塚幹也
2021年11月05日新宿二丁目のレズビアン・バーがつなぐ、ひと、思い出、運命。李 琴峰さんによる小説『ポラリスが降り注ぐ夜』。「新宿二丁目は、わずか1km四方ほどの面積に、セクシュアル・マイノリティのための店が約400軒も立ち並ぶ、世界でも稀有な繁華街です。台湾から来た私から見たら、いろいろな属性の人が立ち寄ったり、つながりを持ったりするちょっとしたコミュニティという印象でした」李琴峰さんの『ポラリスが降り注ぐ夜』で、物語のハブとなるのは、その二丁目にあるレズビアン・バー〈ポラリス〉。章ごとに主人公は入れ替わり、ある章でモブだった人物が別の章では大きな役割を果たす。北斗七星にちなんだ7つの連作で女性たちの人生の断章が描かれる。既存の小説では、二丁目といえば、ゲイタウンや男性同士の関係ばかりがフォーカスされてきたが、「かつて花街や赤線地帯だった興味深い背景もあります。なので私はいつかそうした歴史も重ねながら、この街に集う女性たちの物語として書いてみたいと思っていました」バイセクに警戒心を持つレズビアンの日本人女性〈ゆー〉、誰に対しても恋愛感情や性的欲求を持たないAセクシュアルゆえに理不尽な攻撃を受ける中国人女性〈蘇雪〉、自身の性と社会の差別に苦しみながらトランジション(性別移行)をしていく台湾人女性〈蔡曉虹〉…さまざまな性的指向と性自認を持つ女性たちの想いが吐露されていく。ひと口にセクシュアル・マイノリティと言っても、それぞれの認識はもっと複雑でデリケートなものだと改めて思う。「ある人は自分で決めたいし、ある人は決めたくない。絶えず揺らぎながら生きている人もいます。言葉は不思議で、ありように名前をつけることで定義できる面もあるけれど、一方ではその言葉に縛られてしまう苦しさも。諸刃の剣なんです。そうした切実さを避けず、リアリティをもって書きたいと思いました」台湾はアジアで最初に同性婚を認めたが、その法制化や社会の価値観にも大きな影響を与えたという〈ひまわり学生運動〉など、史実を踏まえた作品もあり、生々しく重い。だが李さんが何より危惧するのは、わかった気で他者をくくることだ。「マイノリティ同士でもすんなりわかりあえたりしない。必ずしも連帯できない。それは私が大事にしている問題意識で、これまで、あまり書かれてこなかったものだと思います」り・ことみ1989年、台湾生まれ。早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。2017年、「独舞」で群像新人文学賞優秀作を受賞。’19年、「五つ数えれば三日月が」が芥川賞候補に。『ポラリスが降り注ぐ夜』著者の意向により本書の電子書籍の印税の一部が、新宿二丁目の足湯cafe&bar『どん浴』に寄付される。筑摩書房1600円※『anan』2020年5月20日号より。写真・中村ナリコ(李さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2020年05月18日話題のスポットやエンタメに本誌記者が“おでかけ”し、その魅力を紹介するこの企画。今回は、同性愛がタブー視されているアフリカ・ケニアを舞台に、レズビアンの恋を描いた映画『ラフィキ:ふたりの夢』を紹介します。■『ラフィキ:ふたりの夢』シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開中実は今回、ケニア映画を初めて鑑賞した記者。まずはティーンエージャーのポップでカラフルなファッションやメークの大胆な色使いに目を奪われました。いっぽう大人の社会はそれとは真逆。女性の社会進出がいまだ発展途上。同性愛にいたっては法律で禁じられ、刑務所に送られることもあるという、今の日本では考えられないもの。同性愛者に対しての人々の嫌悪の強さには正直、驚かされました。ゴシップ好きのおばさんは万国共通なのに(笑)。さて、物語の主人公は、看護師になるのが目標のケナと、そんな彼女に「医師にもなれるのに」と大学進学をすすめるジキ。古いしきたりに縛られて生きたくないと意気投合した2人は、自由な価値観を持つ「本物になろう」と誓い合うのです。ところが、2人の父親は国会議員に立候補する、いわば敵同士。2人の仲を裂こうと躍起になりますが、若者たちの恋心は燃え上がるいっぽう。さながらロミオとジュリエットのようでもあります。本物の自分か、社会に受け入れられる自分か、2人はどちらを選択するのでしょうか。ケニア国内では上映禁止。世界が注目する話題作は必見です!
2019年11月18日