突然の訃報から早くも1年。7月18日に三浦春馬さん(享年30)が一周忌を迎える。真摯な人柄と、役に対して誠実な演技で視聴者を魅了してきた三浦さんの輝きは多くの人々の胸に刻まれていることだろう。そこでそんな彼の人生観を、本誌に語っていた言葉から振り返っていく。【理想の大人の男性像?仕事に対して誠実な人かな】(2011年2月1日号より)ドラマ『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系)で、実年齢より5歳年上の教師を演じるにあたり、理想の男性像について、こう語っていた三浦さん。さらに、「仕事だけじゃなくて、同時にプライベートな時間も自分らしく楽しめる人が、僕の憧れる“大人の男”ですね」ともいい、理想の男性として同じ事務所の先輩である福山雅治(52)を挙げている。また、プライベートについては「いつか自分の子供たちと笑顔で食卓を囲むような、そんな温かい家庭を築けたらいいなって思っています」と理想の家庭像も語っていた。【今は、自分の仕事をたくさんの人に観てもらうことが、すごく気持ちいい】(2012年12月25日号より)22歳を迎え、念願だった「劇団☆新感線」の舞台『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』への出演が決まった取材では、こんな言葉が。11歳から15歳ごろまで、養成所でダンスを特訓していたものの、当時は苦手だったという三浦さん。しかしその結果、“動ける役者”が求められる舞台への出演につながったこともあり、「頑張っておいてよかった!(中略)次の舞台でいいものを作れたら、またひとつ、いい景色が見られるんだと思います」とさらなる成長にむけて意気込んでいた。【目標があるとモチベーションが全然違います】(2015年9月1日号より)映画『進撃の巨人ATTACK ON TITAN』で主演を務めた際には、「今までぶつかってきた壁」というテーマに、語学の習得や、役者としてのキャパシティの“壁”を挙げていた。「映画のために中国語を学びましたけど、語学に限らず、目標があるとモチベーションが全然違います」と壁を越える原動力について熱弁。また「19歳のとき、仕事で悩んだ時期がありました。それからまた、役者を頑張ろうと思えたのは20歳になってからです。役の幅が広がり、いろんな挑戦ができるようになったんです」とかつての悩みを明かす姿も。【計画性と努力を継続的に続けられる忍耐力と探求心を持っている人でありたいと思いますね】(2017年11月28日号より)いつもの三浦春馬のイケメンぶりとは一変、残念すぎる男子を体当たりで演じる姿が話題になった、ドラマ『オトナ高校』(テレビ朝日系)。“オトナ”ってどんな人?というインタビューには、「スケジュール帳に記したものに忠実に生きるってことかな」「自分が設定したビジョンに対して妥協せずに頑張れる人、きちんと目標を決めて毎日努力して目標の達成に近づいていける人」と、2011年の取材時とはまた違った““オトナ観”を教えてくれた。【役者としての人生を振り返ると、生意気な時期もあったように思います】(2019年3月26日号より)亡くなる1年前、本誌では最後となったインタビューで、「生意気な時期」があったと明かしていた三浦さん。「たぶん当時は気が大きくなっていたんだと思います。いまの自分だったら、“そんなことをしても得るものなどなかったよ”と言ってあげますよ」と若いころの自分へアドバイスを送っている。また、「僕も今年で29歳。人間の苦悩や後悔、嘆きを表現する機会が重なって。そういう芝居に挑戦させてもらえる年齢になったということかな」と、役の幅が広がっていくことを喜んでいた。実直で誠実な彼の言葉は、今も私たちの胸に残り続けている――。
2021年07月18日俳優の三浦翔平が、ライフスタイルマガジン『GOODA(グーダ)』Vol.60(ブランジスタメディア)の表紙&巻頭グラビアに登場している。三浦は今回、色気のあるスクエアプリントのシャツ、脱力感漂うレトロなワイドパンツと白シャツなど“男の色気”をテーマにしたアーバンリゾートファッションを披露。インタビューでは、趣味のサーフィンについて「基本的には毎日でも海に行きたいんです」「仕事が早く終わった日には、そのまま海に直行することもありますよ」と明かし、「もう少し子どもが大きくなったら、一緒にサーフィンやツーリングにも連れて行きたいですね」と語っている。また、もともとゴルフやキャンプとアウトドアの趣味が多いが、キャンプでの釣りにも挑戦してみたいという三浦。キャンプに至っては「外出自粛の期間にはキャンプもできなかったので、気分だけでも浸ろうと、ベランダにアウトドア用のイスを出して、iPadで焚き火の映像を流しながら、ビールを飲んだりしていました」と話すほどの没頭ぶりだ。
2021年07月15日岡田将生が主演、共演に峯田和伸、寺島しのぶらを迎えた、三浦大輔3年ぶりの新作舞台「物語なき、この世界。」が開幕。三浦さんと、岡田さんらキャスト陣からコメントが到着した。誰もが物語の“主人公”であり“脇役”で、人生に物語を求めがちな現代。なにか起きそうで、起こらなそうな危うい街、新宿・歌舞伎町で、「ドラマ」の主人公に憧れる売れない俳優と、人生に「ドラマ」を求める売れないミュージシャンが10年ぶりに邂逅する。映画監督としてのキャリアを積み上げた三浦さん作・演出の本作は、観客を演劇と映画の狭間にいざなう。売れない俳優で、同棲している彼女の稼ぎでヒモ生活をおくる菅原裕一役には、岡田将生。売れないミュージシャンで菅原の田舎の高校の同級生、今井伸二役にはロックバンド「銀杏BOYZ」の峯田和伸。売れない俳優と売れないミュージシャンという現実とは真逆の役柄を、初共演の2人が演じる。そして、今井のバイト先の後輩でフリーターの田村修役には柄本時生。菅原の彼女でOLの鈴木里美役に内田理央。事件のキーパーソンとなる橋本浩二役に星田英利、本作品の鍵を握る歌舞伎町のスナックのママ・橋本智子役に寺島しのぶ。さらに、宮崎吐夢、米村亮太朗と個性豊かな俳優陣が脇を固めた。三浦大輔コメント稽古中はマスク着用で何とかやってきました。難しいテーマでしたので、舞台として成立するのか手探りでしたが、良いものをお届けしたいと皆で一緒に意見交換しながら協力しあってこの世界感を作り上げました。(キャスト・スタッフの皆さんには)感謝しています。いよいよお客様にお見せ出来るので、反応が楽しみです。岡田将生コメント感染対策を徹底的に行いながら稽古をやってきました。この作品は疲れれば疲れるほど良くなってプラスになっていき疲労感イコール気持ちよくなってきて、とても充実した稽古ができました。やっとお客様の前で最高の芝居を届けられるのが嬉しいです。一つ一つのシーンを大切に演じていきます。峯田和伸コメント稽古場ではマスク着用でしたので目だけの情報だけで稽古をしていましたが、劇場に入ってマスクを外してお芝居ができるのでやっと一緒にお芝居ができているな、と実感がつかめた感じがしました。本場が楽しみです。舞台は同じ設定で同じセリフを話しますがそこに楽しみを見出したいと思っています。これが最期になってもよいという覚悟で、自分がやらなくてはいけない事をやるだけです。頑張ります。寺島しのぶコメント三浦さんの舞台は「禁断の裸体」以来で、その時も子供が生まれて2年経った時で煙草の火がつけられない程緊張したのを覚えています。今回も2年振りに舞台へ引き戻してもらい縁を感じています。三浦さんのグサッと刺さるセリフを理屈っぽくなくいかにサラッとメッセンジャーとして伝えるためにどう身体に入れるのか戦っています。COCOON PRODUCTION 2021「物語なき、この世界。」は【東京公演】~8月3日(火)Bunkamuraシアターコクーンにて公演中、【京都公演】8月7日(土)~8月11日(水)京都劇場にて公演。(text:cinemacafe.net)
2021年07月12日日常のスケッチの中にいまどきの気分がさりげなく表現されていて、共感を誘うオカヤイヅミさん。今年でデビュー10周年を迎え、その記念碑的作品2冊を同時刊行。『いいとしを』と『白木蓮はきれいに散らない』は、ミッドライフ・クライシスを感じ始める男性と女性、それぞれから見た世界が描かれ、首肯する場面や言葉が随所に出てくる。揺れる世界とお年頃…諸行無常を男女それぞれの目線で描いた2冊。「どちらも、死に近づいている人たちの話ですよね。男性、女性と分かれたのは、連載媒体に合わせてだったのですが、コミュニケーションのしかたや心理的・社会的な性差についての感覚…結果的にその違いも出せたかなと思います。たとえば、『いいとしを』で描いたように、男性は踏み込み方が違うのかな。雑談が苦手な人が多いですよね。そういうのは女の人の方が得意で、『白木蓮~』でもわかりますが、お互いそれほど踏み込まなくても、話すことがいっぱいありますよね」『白木蓮~』に登場するのは、専業主婦のマリ、離婚調停中のサヨ、キャリアウーマンのサトエ。高校時代はいつもつるんでいたが、大人になったいま、境遇は三者三様だ。高校卒業後40年間会ったこともなく、親しかった記憶もないヒロミが、なぜ自分たちに遺言を遺したのか。その意味を掴みかねながら、それぞれが目の前の悩みやこれまでの来し方に思いを馳せていく。「ヒロミは家族もいなくて孤独死してしまったけれど、背景が見えてくるにつれ、幸せってそんな単純な話ではないとわかるというか。そんなことを描きたかったんです」一方、『いいとしを』では、息子と父という、女性にとっては興味深い関係性を眺めるのが楽しい。灰田俊夫が父と同居してからあらためて〈親についてなんて、知らないことの方が多いんじゃないか〉と独りごちたりするリアリティが見事。「私の家族は父が2年前に他界していて、灰田家のように“聞けば/聞かれれば答える”くらいの距離感でした。生んで育てた/育てられたわけだから密な感じはするけれど、家族は親密で感情を共有するものだという空気には違和感がありますね」また、両作品ともフェミニズムと関わるテーマにも触れられていて、その手さばきにも心を掴まれる。「女性同士ならとっくにがしっと手を取り合うくらいの話も、男性たちには“そんなにわかり合えていなかったんだ”と思うことがあります(笑)。ただ指摘しても響かないと思うので、日常の中でだんだんわかってくれればいいなと思います」オカヤさんのマンガを読んでいて何よりも心地いいのは、さまざまな人間の生き方や価値観を柔らかく受け止めて描いてくれるところ。「長年積み重ねていけば、いいものも悪いものも増えていく。どうしようもなさがからんで“しょうがないな”と思いながらやっていかなくてはいけない部分もあるし、いい思い出で気持ちが楽になったりもする。自分の中に、何に対しても『どっちがいいというものでもない』というのがある気がします」『いいとしを』42歳のバツイチ男性が、かくしゃくとしたマイペースな父と同居し始めて気づくさまざまな変化を描いた。KADOKAWA1320円©オカヤイヅミ/KADOKAWA『白木蓮はきれいに散らない』孤独死した元同級生ヒロミの謎の遺言によって、集まることになった3人の女性たちが、自らが向き合っている現実を見つめ直す。小学館1320円オカヤイヅミ1978 年、東京都生まれ。マンガ家、イラストレーター。2011年に『いろちがい』でデビュー。『ものするひと』『すきまめし』など著書多数。※『anan』2021年6月9日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年06月07日意味深なタイトル、巧みな文体、センスのいいエピソードやモチーフ…。そのすべてに痺れる、十市社さんの『亜シンメトリー』。なかでも表題作は、十市さんが初めて短編に挑戦した作品だそうで、魅惑的ないくつもの謎に陶然とする。執筆に1年以上かけたという野心的な一作だ。謎解きの難易度高め、読む快感強め。魅力的な仕掛けで惑わせる短編集。「物語を面白くするにはどうすればいいかと考えていくうちにこうなった、というのが正直なところです。ただ、ヒントはすべて書いてあるつもりなので『読み終わっても、よくわからない』という反応になるとまでは思っていなかったです(笑)」大学講師の亜樹は、通勤に利用している循環バスで〈六十の境はまだ越えていない〉くらいの年齢の花田早由里と乗り合わせる。ふたりはやがて奇妙なゲームに興じるようになるのだが、その流れで、亜樹は早由里の初恋物語を知ることになり…。「自分にいろいろ縛りを設けた作品で、シンメトリーにこだわりを持つ女性というのもその一つですね。さらに、宇治の巨椋池や、和辻哲郎さんの随筆、その辺りを走る循環バスなど、作中に織り込める実在の場所やものがつながって、物語の世界を広げてくれました」他に3つの短編が収録されている。1話めと3話めは、大学のジャズサークルで先輩後輩の関係にある中熊美緒と千日顕、美緒の高校の後輩の紫子が登場。紫子の叔父のジャズ喫茶〈ポーギー〉で顔を合わせて交わす、緊迫した会話が秀逸だ。「『枯葉に始まり』では、高校の美術部での事件について書き起こされたテキストを、謎としてどう活かすかから着想しました。その9年後を描いたのが『三和音』。3人の関係性が持つインパクトはいまだからこそ強いかも。設定が決まると場にふさわしい人物が現れるので、彼らを観察するように書いています」2話めの「薄月の夜に」は一人称視点で語られるいびつな恋愛劇なのだが、「私」など自分を指す言葉が一切出てこないために、物語と不思議な体感で向き合えるのが面白い。「意図的に人称を使わないことで、得体の知れない男という印象を持ってもらえたらいいなと考えました」実は本書は、登場する男女の関係がどう転ぶかわからない、サスペンスフルな恋愛短編集としても一級品。何度も読み返したくなる。『亜シンメトリー』十市さん自身も「読み返してみたら、すべて三角関係の話だと気づきました」と言うように、ハラハラさせられる危うい恋愛譚揃い。新潮社1815円とおちの・やしろ作家。1978年、愛知県生まれ。Amazon Kindleストアにて発売した『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』が、のちに東京創元社で刊行。他の著書に『滑らかな虹』。※『anan』2021年6月9日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年06月05日2021年5月20日、漫画『ベルセルク』などで知られる、漫画家の三浦建太郎さんが亡くなったことが分かりました。54歳でした。株式会社白泉社によると、死因は急性大動脈解離とのこと。同月6日に亡くなったそうです。『ベルセルク』を掲載してきた白泉社は、三浦さんの訃報についてウェブサイトでこのようにコメントをつづっています。漫画家の三浦建太郎先生が、2021年5月6日14時48分、急性大動脈解離のため、ご逝去されました。享年54歳でした。三浦先生の画業に最大の敬意と感謝を表しますとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。なお告別式はご家族にて執り行われました。三浦先生には、永年にわたり白泉社で『ベルセルク』をはじめとする人気作品の数々をご執筆いただきました。現在もヤングアニマルにて同作を、一昨年からはヤングアニマルZEROで『ドゥルアンキ』を連載中でした。読者の皆様には、三浦先生の作品をご愛読いただきましたことを深謝いたしますとともに、謹んでご逝去のご報告をお知らせ申し上げます。白泉社ーより引用また、同作品が掲載されていた『ヤングアニマル』の編集部も、コメントを掲載しました。三浦建太郎先生の突然の訃報に接し、ヤングアニマル編集部は深い悲しみに包まれています。この受けいれがたい事実をどのように捉えたらいいのか。正直、言葉が見つかりません。思い出されるのは、編集部の人間に会うと、いつも朗らかにご自分の好きな漫画やアニメ、映画の話などを楽しく語っていた時の笑顔ばかりです。我々は三浦先生の怒った顔を見たことがありません。いつも楽しそうな少年のような方でした。どうかファンの皆様、関係者の皆様、三浦先生の楽しそうな笑顔を想像していただき、ヤングアニマル編集部と共に静かにご冥福を祈っていただければと存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。白泉社ーより引用【三浦建太郎先生 ご逝去の報】『ベルセルク』の作者である三浦建太郎先生が、2021年5月6日、急性大動脈解離のため、ご逝去されました。三浦先生の画業に最大の敬意と感謝を表しますとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。2021年5月20日 株式会社白泉社 ヤングアニマル編集部 pic.twitter.com/baBBo4J2kL — ベルセルク公式ツイッター (@berserk_project) May 20, 2021 三浦さんの訃報に多くの人が驚き、「あまりにも早すぎる」「素晴らしい作品を描く漫画家だった」といった声が上がっています。1989年に連載開始した『ベルセルク』は、最新刊である40巻が2018年に発売。アニメも放送され、大人気作品となりました。連載途中で三浦さんが亡くなったため、ネットからは「未完結作品になるのではないか」と惜しむ声が上がっています。三浦さんの作品は、今後も多くの人に感動を与えることでしょう。ご冥福をお祈りいたします。[文・構成/grape編集部]
2021年05月20日時代の空気とそこに生きる人々の秘めたる本音を、絶妙な比喩を交えて表現してきた朝井リョウさん。そんな朝井さんが作家生活10周年記念作品として、昨年に『スター』(朝日新聞出版)を、そしてこの3月に『正欲』(新潮社)を刊行した。「『スター』は初めての週刊連載だったので、次々に展開するグルーヴ感のある作品を目指していました。一方、人間の欲望をテーマにした『正欲』は書き下ろしだったので、衝動のままに書くというか、読み手にとって咀嚼しにくい作品になるかもと思っていました。それで前者を〈白版〉、後者を〈黒版〉と名づけたんです。でも、完成してみれば、『スター』は閉所で誰かと誰かがずっと対話をしている話で、逆に『正欲』は、私の本の中で“生きる”ということにいちばん前向きな本になったと感じています。本当に小説って計画通りにいかないんです。ただ、『正欲』を書きながら、この数年で明確化してきた、“生と死のうち生を選ぶとして、その理由になり得るものとは”というテーマに少し向き合うことができた気がしていて、それはよかったなと感じています」朝井さんの言葉は強い。デビュー作のタイトルは、10年経ったいまもさまざまにもじられる言葉として定着している。また本書では、性欲と重なる音に「正」の字を当てはめたタイトルにしたことで、性的欲求だけではなく、生きる上でおろそかにできない承認欲求や生存欲求のような欲も俎上に乗せた。たった2文字で、正しい欲とは何か、それを誰がジャッジするのか、と突きつけられているかのようだ。「〈正欲〉という題名は執筆前から決まっていました。欲はすごく個人的なことで、正はすごくパブリックなイメージの文字。そのアンバランスさが居心地の悪さを醸し出してくれるかなと。性欲はずっと書きたいテーマだったのですが、それをテーマに据えたとして説得力が出る自分なのかと、ずっと躊躇していました」不登校児の息子を持て余している検事の寺井啓喜、自分は〈正しい命の循環〉から外れていると感じている寝具店勤務の桐生夏月、学祭の実行委員として〈ダイバーシティフェス〉を仕切る大学生の神戸八重子が、代わる代わる語り手を務め、物語は進む。冒頭に置かれているのは、ある手記と衝撃的な事件の記事だ。語り手を含め、それらに何かしらの形で関わる人々が、自らが直面している問題を語っていく。作中には、性的指向をひた隠しにしている人物も出てくる。それは決して、多様性を認めようという建前だけでは解決しない苦悩も孕んでいる。多様性という言葉にしても、〈清々しいほどのおめでたさでキラキラしている言葉〉〈話者が想像しうる“自分と違う”にしか向けられていない言葉〉と評し、安易に是としないところが朝井さんらしい。「好きな顔のタイプとかはよく聞く話ですが、他のパーツ、たとえば膝とかの好みってなかなか聞かない。同じ体でも人を興奮させる部位とそうでない部位があるということがずっと不思議でした。『正欲』には、そういうレベルのものを筆頭に、ずっと頭の中に流れていたさまざまな回路が集合しています。どんな話題にも、それっぽい答えみたいな言葉はあると思うんです。たとえばコロナ禍でのステイホーム。私も色々と準備をして家にいられる状況を整えました。家庭ごみの清掃業者の方々の大変さに気付いたのはかなり後のことでした。それっぽい答えに安住しているときほど視野は狭まる。全員の暮らしやすさや生きやすさが実現するまでには、どうしても順番が生まれてしまう――色々と実感しました。もっと言えば、最後まで順番が回ってこない人もいるような世界で、それでも生きるほうを選ぶきっかけになり得る言葉に巡り合いたい。これは今後の課題でもあります」装幀にも一瞬で掴まれる。「メインテーマである“欲”を彷彿とさせるので、人間を含めた動物を表紙にしたかったんです。写真家の友人に相談したら、菱沼勇夫さんの作品を教えてもらいまして、内容にとても惹かれました。鑑賞者を集中させる力がすごいんです。菱沼さんの作品からは、私たちにはきっと理解ができないレベルの、被写体への執着のようなものを感じます。鴨の写真を表紙に選んだ理由は幾つもありますが、せっかく読者の方が考察してくださっているので、変に限定せずにおこうかなと思います」小説家として10年が経ち、何か変化はあったのだろうか。「私はこれまで、小説を書くときに社会を反映した広い視野を持たなければという強迫観念みたいなものがありました。やはり若いときに直木賞という大きな賞をいただいたことで自縄自縛しがちだったのですが、今回思ったのが、広い視野を持つ努力よりも狭い視野の人をたくさん書く努力のほうが向いているかも、ということです。そうすれば、極狭な私自身の視野でも小説を書ける気がする。こういう感じで、自分の中にある、できないことやわからないことへの恐怖心が少し減ったのも変化かもしれません。それは、先ほど少し触れた今後の課題に関わってくることでもあります。『死にがいを求めて生きているの』あたりから、もう生きている理由はないからと終わりを選ぼうとする自分、または誰かがいるとして、そのとき機能しうる言葉を私は見つけられているのだろうかとずっと考えているんです。その言葉を見つけ出す作業は、小説や読者のためというより自分のために、今後も続けていくと思います」変化する時代の中で、作品の質や価値はどう変わっていくのかを考察した『スター』に続く最新刊『正欲』。あらゆる欲望は、多様性という美辞麗句ですべて肯定できるのかと問いかける。新潮社1870円あさい・りょう作家。1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。’13年、『何者』で直木賞を、’14年、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。※『anan』2021年5月19日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年05月18日俳優の仲里依紗さんが、2021年5月15日に放送されたバラエティ番組『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系)に出演。同じく俳優で夫の、中尾明慶さんとの結婚秘話を明かしました。仲さんは、同年4月18日に中尾さんと結婚8周年を記念して食事に行ったことをInstagramで報告しています。※画像は複数あります。左右にスライドしてご確認ください。 この投稿をInstagramで見る 仲里依紗 RIISA NAKA(@riisa1018naka)がシェアした投稿 ケンカをしながらも、仲むつまじい姿は「理想の夫婦」と呼ばれることも。しかし、そんな仲さんですが「好きな人はできたことがない」といいます。中尾さんと結婚した経緯をこのように明かしました。なんか好きとか「ウェー…」みたいな感じで。「ウケるんだけど~」っていっちゃって、延長で結婚してますね。あざとくて何が悪いの?ーより引用好きという恋愛感情ではなく、中尾さんとは波長があうため、結婚を決めたという仲さん。自分自身でも「なんでだろう」と、コメントしていました。また、出演者の田中みな実さんから「好きっていわないんですか」と問われた仲さん。中尾さんに「好きなの?」と聞くと、返答は…。「なーに!好きだよ!?」みたいな感じで、「ウケる!」みたいな感じ。あざとくて何が悪いの?ーより引用照れながらも、「好き」と答えてくれるという中尾さん。それでも、すぐに「ウケる!」と、2人ならではの軽い雰囲気に包まれるようです。ネット上では、仲さんと中尾さんの関係に憧れる声も寄せられていました。・仲さんたちみたいな結婚が、一番理想的なのかも。・『仲のいい友達』という感覚で結婚できるのは、いいな。毎日が楽しそう!・結婚するのに『好き』という感情だけではなくて、仲さんみたいな考え方も必要だと思う!結婚の決め手は人それぞれ。恋愛感情だけではなく、波長や価値観が合う人と結婚するのも1つの選択肢です。仲さんと中尾さんの結婚の考え方やとらえ方も、「理想の夫婦」と呼ばれる理由なのでしょうね。[文・構成/grape編集部]
2021年05月16日亡き祖母から受け継いだ大切な着物を着てお出かけするのを休日の楽しみにしている、野々村もも。『恋せよキモノ乙女』は、ももが着る着物のコーディネートが毎回可愛いと話題のコミックだ。その著者が、普段から着物に親しんでいるという山崎零さん。描く着物はどんなふうに決めているのだろう。「読者から『こんなコーディネートをしてみたい』と思ってもらえるようなものを目指して、物語や春夏秋冬、出かける場所のことも意識して選んでいます。自分でも好きで着ていたとはいえ、実際に着物のマンガを描かないかと編集さんから提案されたときは、うれしさ半分、緊張もしていました。袖部分の形状やシワの寄り方、着たときの柄の合わせなど、いわゆる玄人の人が読んでも違和感がないようにと、いまでも調べたり勉強したりしながらです。ただ、もともと日本画からマンガの世界に入ったので、着物の柄の花鳥風月などを描くのはとても楽しいです」ももがお出かけする先にも、わくわくさせられる。京都の老舗喫茶店や大阪の歴史ある図書館など関西エリアから、7巻より舞台は東京へ。「物語の出発点は、男性が普段のぞけない女の子のお支度を描く、でした。なので、どこへ行くかなどを考えるようになったのは連載が決まってからです。関西編では、他府県の方が見てもすぐわかるような有名な観光名所ではなく、関西の人が見ても『あそこいいよね』『よくわかってるね』と盛り上がってくれそうな絶妙なセンを狙いました。東京編でも踏襲していきます」本書はまた、恋にも仕事にも一生懸命なももの成長マンガでもある。「会社の受付嬢から転職し、現在は着物屋『猫の目』のスタッフとして、さらに着物の魅力にのめりこんでいるところです。着物業界は格式張っている印象もありますが、『私もこんなところで働いてみたい』と憧れてもらえるような、ときめき要素を大切にしていきたいです。店長で先輩のリンコちゃんとも、お互いがお互いを知って高め合えるような関係性として描いていきたいですね」恋愛は、ももの想い人である椎名さんとの関係が、紆余曲折がありつつ進行中。7巻からは「ももが大阪、椎名さんが東京」と遠距離状態に。「ロマンスに関しては私自身がドライでちょっとズレている部分もあるので(笑)、周囲に取材しまくってエピソードに活かしています」7巻のラストでは、控えめだった椎名さんも意外な一面を発揮。恋の行方はますます楽しみだ。やまざき・ぜろマンガ家、日本画家。京都精華大学芸術学部日本画コース卒。同人活動を経て2013年商業誌デビュー。本作を「くらげバンチ」で連載中。『恋せよキモノ乙女』7各話の最後に、着物スタイリスト・コバヤシクミさんによる柄やコーディネート、歴史などの解説がついていて、着物初心者でも楽しめる。8巻は今秋刊行予定。新潮社704円©山崎零/新潮社※『anan』2021年5月19日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年05月15日あなたには、人より秀でた「才能」ってありますか?どうかな、わからないな……という人も多いはず。そこで今回は、星座別にあなたが天から授けられた才能をご紹介します!前編に引き続き、後編のみなさん!……ぜひ、お楽しみくださいね。■ てんびん座(9/23〜10/23)……人付き合いがうまく、世渡り上手やや八方美人で平和主義なてんびん座女性。その性格ゆえ、人付き合いがうまく世渡り上手。また物ごとを多面的に見られるので、偏った考えになりにくいのも、てんびん座女性の良い点。■ さそり座(10/24〜11/22)……大事な人を愛し抜く情熱的で集中力がすごいさそり座女性。身内をとても大事にし、恋愛においてはひとりの人を愛し抜く力を持っています。ただ悪く言えば、その人を地獄の果てまで追いかける執念深さも……。■ いて座(11/23〜12/21)……遊びの達人自由奔放で遊ぶことが大好きな、いて座女性。楽しいことへのアンテナをいつも張っていて、友人や恋人には自分のハマっている遊びを教えて、一緒にはしゃぐ遊びの達人。■ やぎ座(12/22〜1/20)……審美眼があり、お金もうけの素質アリ志が高く頑張り屋で、成功を目指すやぎ座女性。じつは本物を見抜く力があり、その審美眼はもちろんビジネスにも有利に働いていて、お金もうけが上手だったりします。■ みずがめ座(1/21〜2/18)……斬新なアイディアを生み出す個性的で常識にとらわれない、みずがめ座女性。普通の人なら思い浮かばないような斬新なアイディアをどんどん生み出したりと、かなりクリエイティブな才能があります。■ うお座(2/19〜3/20)……みんなの心を癒やすヒーラー共感能力が高く、癒やし系なうお座女性。みんなの悩みごとを「うんうん。わかるよ」と真剣に聞いて、相手の心を軽くしやさしく癒やすヒーラーのような能力があります。■ 魅力的な才能を活かして才能を自覚している人は、ごくわずかでしょう。「自分には何も才能がない」と思っていたあなた!あなたにも魅力的な才能が、ちゃんとありますよ。(美佳/ライター)(愛カツ編集部)presented by愛カツ ()
2021年05月12日紗栄子が菌ケアサービスをスタート2021年5月2日、紗栄子は、気になっていたという菌ケアを始めたことを、SNSを通じて報告。体の内側から菌ケアができるサブスクリプションサービス『KINS BOX』の利用を開始したことを明らかにした。紗栄子は同セットの検査キットを試した結果、TYPE3の「腸内環境 デリケートタイプ」に該当し、心当たり大ありとしている。インスタグラムのフォロワーからは、「素敵なお話!」「効果教えて欲しいです」などのコメントが寄せられている。菌を適切なバランスに維持する『KINS BOX』菌をケアする定期コース『KINS BOX』は、株式会社KINSが提供。全身の菌を適切な状態に維持するトータルサービスで、サプリメントやLINEでの対話を通じて、菌の働きをコントロールしていく。検査キット、サプリメント(約30日分)、「菌コンシェルジュ」によるLINEでのサポートが付いて、1ヵ月当たりの利用料は6,578円(税込み)。「菌コンシェルジュ」には肌の悩みや食生活などについて、いつでも相談することができる。初回に限り、トライアルの『10日間KINS BOX』を980円(税込み)で利用可能。『10日間KINS BOX』は購入日から14日間以内に無料で解約することでき、16日後には『KINS BOX』が自動継続される。(画像は紗栄子オフィシャルブログより)【参考】※紗栄子オフィシャルブログ※紗栄子オフィシャルインスタグラム※KINS公式サイト
2021年05月04日『日々是(ひびこれ)ファブ郎(ろう)』というヒット作は持っているが恋愛には縁がなく、胸キュンな少女漫画を描きたいという夢は遠のくばかり…。いくえみ綾さんの『ローズ ローズィ ローズフル バッド』の主人公は、そんな40歳の女性漫画家・神原薔子(しょうこ)こと神原正子。これといった不満はないけれど、「ときめきが足りない」「毎日が燃焼不足」と感じている女性たちに、ずーんと刺さるストーリーだ。「なんとなくノリで40という年齢にしてしまったんですが、もう少し上でもよかったかなと思っています。ただ、アラフォーで漫画家を生業にしているようなキャラであれば、生活や生き方についてのちょっとぼんやりした甘い考えもまだ許されるかなという気持ちもありましたね。そのあたりは彼女の個性なので見逃してください」変化のファーストステップは、正子と19歳の鷹野廉(れん)との出会いだ。エンガディナーというお菓子をきっかけに交わした会話で、一瞬だけときめきを思い出した正子だったが、すぐ忘れてしまうあっさり感もリアルで、共感ポイントかも。「自分も食べることや飲むことが好きなので、それに鈍感だったり正直だったりの愛すべき面…愛されるといいのですけれど…をプラスしてちょっと変な人にしてみました」また本作では、〈ファブ郎〉という作中作のキャラクターがナレーター兼ツッコミを入れる係として存在している。それによって読者は、正子の恋や悩みをある種の第三者的な視線からも知ることになる。「モノローグや描写にないところも説明できて便利な上に、読者さんにもわかりやすく伝わると思うので、やってみたかった手法でした。ファブ郎の造形は、『こんな小さいキャラだし、いちいち服描くのめんどいな、裸でいんじゃね?なら相撲じゃね?』みたいな思考だったかと。ひどいですね!(笑)」1巻では、これから正子の恋路を複雑にしそうな人物が続々登場。ドラマ制作会社で働く廉の父・鷹野怜は正子に興味津々。正子の初の女性担当・堂垣や、廉と仲のいい女友達の存在も、ひと波乱起きそうな予感がある。さらにそれは正子の仕事の展開とも関わっていきそうで、ハラハラどきどきしっぱなしだ。「正子は人より遅れているところがあるけれどゆっくり成長すればいいなと思っています。が、正直、成長しなくてもいいのかもなとも思っています。正子は何やっても割と勝手に動いてくれるので、描いていてとても楽しいです」『ローズ ローズィローズフル バッド』1本作で描かれる魅力的ないくえみ男子は、オトナな鷹野怜と爽やか大学生の廉という父子対決。正子のみならず、読者も翻弄されそう。『クッキー』で連載中。集英社660円©いくえみ綾/集英社いくえみ・りょう北海道出身。著書多数。集英社『ココハナ』で「1日2回」、小学館『月刊!スピリッツ』で「おやすみカラスまた来てね。」を連載中。※『anan』2021年4月28日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年04月22日夫であり俳優の中尾明慶さんとともに、第1子を育てている、俳優の仲里依紗さん。YouTubeを通して赤裸々に語られる、飾らないスタンスの子育て話は、多くの人を勇気付けています。2021年4月14日に配信された動画では、さまざまな女性から寄せられた質問に回答。その様子が「等身大で元気が出る」と話題になりました。「子育てに自信がない」という相談に、仲里依紗が…仲さんの元に集まった、子育て中の母親たちからの悩みや質問。その中で、子育てに関心はあるものの、まだ出産の経験がない女性から、次のようなコメントが寄せられます。悩みというよりは、将来、子育てできる自信がない。経験のない人にとって、子育ては未知の領域です。興味はあっても「いざ自分がするとなると、想像ができない」という人もいるでしょう。子育ての不安を明かした女性に対し、仲さんは目を見開いて、共感の言葉をもらしました。分かりますよ!直前…本当に、妊娠中だよ。もうすぐ臨月で「ああ、子供産まれてくるのか」って、そんな時まで、自信なかったから。全然実感なくて。私が妊婦だった時は7年、8年前だからさ。子育てできる自信が本当になかったの。本当に不安だったわけ。だけど、(子供が)出てきて、顔を見た瞬間、まじで変わるから。仲里依紗です。ーより引用出産する直前まで、子育てに自信がなかった仲さんは、実際に産まれてきた子供と対面した時に、母親としての自覚が芽生えたといいます。当時の心境について「私の場合は、そこでやる気のスイッチが入って、気持ちを切り替えることができた」と振り返りました。やっぱり子育てに自信がなかったり、産んでも大変な日々が続くから、「はあ、なんだろう」ってすごく思うのは当たり前よ。だって大変なんだもん。妊婦の時も大変なのにさ、子供を産んでからもおっぱいも痛いし痔みたいになるしさ、痛いわけ。でもさ、本当に母親にしか味わえない幸せなことだったり、楽しいことだったり、絶対あると思いますので、ぜひ怖がらないで。仲里依紗です。ーより引用仲さんは「子供は本当に幸せを運んできてくれるから、自信がなくても自分なりに楽しんでほしい」とメッセージを送ります。動画を見た人からは「自分も子供が苦手だったけど、産まれた瞬間に変わった」「ポジティブな言葉に救われる」といった声が集まりました。また「子育ての経験がないので、仲さんの動画はすごく参考になる」というコメントも。実際に体験していないことに対して不安を抱くことは、誰にでもあるでしょう。仲さんのメッセージは、漠然とした悩みを抱える人の背中を押しました。[文・構成/grape編集部]
2021年04月15日ジェンダーギャップや結婚、高齢化など今日的な問題を題材に、問題提起していく作品を多く手がけている垣谷美雨さん。最新刊『代理母、はじめました』では、自然災害によりスラム化した2040年の東京を舞台に、少子化や不妊治療、代理出産などに焦点を当てて物語が進む。「もしも」の世界から見つめる、子を抱くことの願いと痛みと希望。「私はよく『if(イフ)の物語を書く』と言われます。この作品でも舞台としたのは地震や台風など災害が多い日本です。その上、原発の問題もすでに『もしも』とは言えないところまで来ています。今後も災害によって格差が広がり、自己責任の名のもとに人々の心が荒廃していくこともありえます。そうならないために今どうすればいいかを考えてみたかったのです。極端な設定で描くと、頭の中にある想像力を思う存分使えるので挑戦しがいがありました」24の章からなり、ふたつの視点で描かれる。奇数章の語り手は、義父の奸計で16歳で代理母をさせられ、その経験から代理母ビジネスに切り込んでいくユキ。偶数章は、社会の矛盾を許さないと奮起する役割でもあり、女性が抱えるいろいろな悩みを聞く役割も持つ倉持芽衣子医師。「世間知らずの少女と、人生経験豊富で教養のある大人の女性を対比させ、女性同士で互いに助け合う思いやりや優しさ、年齢差に関係ない友情などを表現したかったんですよね。『女の敵は女』などという家父長制的価値観にどっぷり浸かった昔ながらの男たちの戦略を、撃退したかったという気持ちもあります」本作では子どもを欲しがる人々の思惑が絡んでいるため、ジェンダー問題や経済格差など、社会の課題がリアリティをもって迫ってくる。「若いころから産婦人科医療が置き去りにされていると痛切に感じてきました。がんなどに比べ、妊娠出産、中絶、更年期に伴う様々な体調不良などの研究は進まず、欧米では100年も前から取り入れている処方や薬さえ日本の医療現場では使っていません。後々の世代まで引きずらないよう、すぐにでも解決してほしいという切なる願いを込めています」作中に〈この国は、考えると虚しくなる「もしも」がいっぱいだ〉とあるが、登場する女性たちのように、女性がいつか政治や組織の決定の場で力を持ち、社会を変えるかもしれない。そんな希望を感じる小説だ。『代理母、はじめました』家父長制社会の価値観から呪いのように投げかけられてきた言葉への違和感。それに気づき、抵抗するユキや芽衣子の存在が頼もしい。中央公論新社1760円かきや・みう作家。兵庫県生まれ。会社勤務を経て2005年「竜巻ガール」で小説推理新人賞を受賞しデビュー。今秋、熟年離婚小説『もう別れてもいいですか』を中央公論新社より刊行予定。※『anan』2021年4月14日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年04月13日現代を生きる等身大の女性たちの悲喜こもごもをリアルに描いてきた東村アキコさん。『私のことを憶えていますか』で選んだテーマは、初恋だ。誰しもが甘酸っぱく、あるいはほろ苦く思い出すその記憶が、いまの自分の人生とつながったら…。主人公の遥はそんな偶然に直面する。遥は、ゴシップサイト編集部のライターとして仕事三昧な日々を送っている30歳のシングル女性。ある日、人気俳優SORAが初恋相手の少年〈こうちゃん〉に似ていることに気づくのだが……。「作中の設定は、ほとんど私の実体験を重ねています。たとえば、私はアイドルグループ『2PM』のチャンソンの大ファンなんですが、K‐POP好きな友人たちからも『あなたが好きだって言うアイドルはいつも同じ系統の顔をしているよね。パフォーマンスとか関係ないよね』と指摘されてすごく納得しました。私自身の初恋も小学6年生で、相手はよく遊んでいた3歳年下の男の子。記憶では、『ターミネーター2』に出ていた少年時代のエドワード・ファーロングみたいでした!臆して好きだと言い出せなかったことや、バレてはいけないとひた隠しにしていたことも同じ。『初恋の相手こそがその人の恋愛のベースになる』というのが私の恋愛持論のひとつで、実際、周囲に聞いてみても共感してくれる人が結構いたんです。ならば、そうした気持ちを織り込んで描いてみようと思いました」〈こうちゃん〉は家庭の事情で引っ越してしまい、その後の消息がわからない。遥にすれば、初恋相手が芸能人になって目の前に現れたのかもしれないわけだ。SORAは〈こうちゃん〉なのか否か。もしそうだとしても、自分はどうしようというのか。遥の気持ちは揺れる。「イケメン俳優さんたちの小中学生時代には、きっと彼らに恋していた女の子たちがたくさんいたはずで、自分の初恋相手がいま芸能界にいる女性って1万人くらいはいそうだなと(笑)。わりと現実味のあるストーリーではないかと思うんです」一方、遥には猫作という腐れ縁の幼なじみがいる。恋愛の機微に乏しい遥は、猫作が密かに遥のことを思っていることにも気づいていない。この奇妙な三角関係の行方も物語の牽引力。なにせ、猫作はイケメンでワイナリーの跡取りという高スペック男子なのだ。「猫作がマンガ用語でいうところの『スパダリ』、つまりパーフェクトな男の人ではあるんですが、まだ完璧なスパダリになるためのエピソードが見えていなくて思案中です。リアルな恋愛で考えれば、SORAは芸能人なので、遥とくっつくのはなかなか難しい。猫作とハッピーになるという展開も可能性としてはあるけれど、実際、マンガは描いてみないとわからない部分が多くて。寡黙で魅力的なハンサムと、憎まれ口を叩く気心の知れたハンサムに挟まれて悩む感じが、オーソドックスな少女マンガのようでもあり、懐かしくないですか?」ちなみに、本作は日本と韓国で同時連載。マンガ界初の試みも話題だ。「なので、たとえば町の風景や看板の文字などは日本版・韓国版で変えているんですね。身近な物語として感じてもらいたいし、と同時に、どこの国の人が読んでも違和感なく読んでもらいたいので、細部まで工夫しています」3巻では、いよいよSORAの正体を遥が知ることになるのか…。首を長くして続刊を待ちたい!『私のことを憶えていますか』3仕事でSORAにインタビューする機会がめぐってきた遥。しかし、問い詰めることもできず、もやもやした気持ちは高まるばかり…。電子マンガサービス「ピッコマ」にて連載中。4/7発売。文藝春秋1045円©2021,Higashimura Akiko,neostory,All rights reserved.ひがしむら・あきこ1975年、宮崎県生まれ。’99年『ぶ~けデラックス』増刊にてデビュー。『海月姫』で講談社漫画賞少女部門を、『かくかくしかじか』でマンガ大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。「東京タラレバ娘」シリーズ、『雪花の虎』など著書多数。衣装協力(ジャケット)・LOVELESS(LOVELESS青山 TEL:03・3401・2301)※『anan』2021年4月7日号より。写真・土佐麻理子(東村さん)スタイリスト・藤原わこヘア&メイク・後藤るみインタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年04月05日思いがけない人間関係やエピソードが交錯していくリーダビリティの高さが、村木美涼さんの小説の魅力だ。『商店街のジャンクション』もまた、着ぐるみが媒介となって物語は意外な方向へ転がっていく。商店街で、着ぐるみでチラシ配りのアルバイトをする、男女3人の物語。主な登場人物は、IT系会社員の滝田徹、インフォメーションセンターで働く水谷佳菜、追われる身の兵頭健太という3人の男女。「『着ぐるみの中にいる時間を何よりも大事にしている男』『すべての物事を右からしか始められなくなった女』『ただひたすら面倒から逃げている男』。この先もこのままでいいのかとうっすらとした不安を抱いている彼らがどう変わっていくかが読みどころかなと。着ぐるみの名前を〈チョッキー〉にしたのは、着ぐるみの中でVサインをしているからという単純な発想からです(笑)」村木さんの作品では、「この人物には何か人に言えない秘密や悩みがあるんだな」と思わせる場面が早い段階から明示されるのだが、その具体的な中身はなかなか明かされない。だが、作中に出てきた〈偶然こそが生きている証しだ〉という意味深な言葉が、テーマをよく表している。「10年くらい前から“偶然”というものについて考えるようになりました。よく“単なる偶然”などと言いますが、思いつきでしたこと、あるいはしなかったこと。それらが巡り巡って誰かのもとに偶然として届いたときに、もしかしたら、その人の人生を大きく変えるかもしれない。そんな考えはいまもずっと続いています。それを私なりにいろいろ考えた結果が、バラバラに見える4人の男女のエピソードがつながる『窓から見える最初のもの』で、あれは言ってみれば、偶然が主人公の作品だと思うんですね。本作ではラストに置いた『00』部分で、そんな思いをよりはっきりとした言葉にすることができたかなと思っています」過去作がいずれもミステリーの文学賞を受賞していることからもわかるように、作中に謎は入っているものの着地は奇妙。だがそこが痛快だ。「作品を出すたびに『これってミステリー?』と言われます。本人はあまり気にしていなくて、どうしてもこうなってしまうからしかたがないと、最近は開き直っている部分も。これからもそうした作品をマイペースで書いていきたいです」村木美涼『商店街のジャンクション』「登場人物を自分で理解するために表には出さない短編を書くということをよくします」。「00」という章も、そんな気持ちで加えたそう。早川書房1870円むらき・みすず作家。宮城県生まれ。2017年『窓から見える最初のもの』でアガサ・クリスティー賞大賞を受賞しデビュー。‘19年『箱とキツネと、パイナップル』で新潮ミステリー大賞優秀賞。※『anan』2021年4月7日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年04月05日女優の仲里依紗が4日、都内で行われた『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』(公開中)の完成披露舞台あいさつに、タレントのフワちゃん、お笑いコンビ・チョコレートプラネットの長田庄平、松尾駿、メガホンをとった高橋渉監督とともに登壇した。人気アニメ『クレヨンしんちゃん』の映画シリーズ29作目で、シリーズ初の本格(風)学園ミステリーとなる同作。フワちゃんは、しんのすけたちカスカベ防衛隊が体験入学する天カス学園で天才YouTuberだが素行の悪さからカス組に在籍している本人役を、仲はエリートクラス・テン組に在籍するギャル・アゲハを演じる。子どもの頃からしんちゃんのファンという仲は「声で出させていただいてすごく嬉しくて、夢が叶った感じがします」と出演を喜び、本作のみどころを尋ねられると「しんちゃんが制服を着ているところがファンとしては激レアなんです。しかも、しんちゃんが家族の元を離れてお泊まりをする、野原家で起きていない事件、そこが初のことだから、新しいしんちゃんワールドがこの映画で垣間見えるんじゃないかなと思います」と熱く語った。また、しんちゃんから「オラが理想の男性と耳にした」と声をかけられた仲は「本当にタイプで、いつも楽しそうにしてるでしょ。それが大好き」とラブコールを送り、「本当にファンだから、お尻を出すところだったり、(母の)みさえ怒らせるところだったり、理想の男性というか、私、息子がいるんだけど、しんちゃんみたいになってほしいなってすごく思っているよ」と吐露。しんちゃんから「要するに、オラと相思が相愛。そう言いたいわけだ」と声をかけられると、「そうだね。相思相愛ね」と声を弾ませた。さらに、しんちゃんから芸を伝授してほしいとお願いされたチョコレートプラネットがTT兄弟のネタであるダンスを披露すると、しんちゃんは本作のタイトルにちなんでTを天に変化させて『天!て・天!天・天・て・天!』と踊ると、登壇者全員も一緒に同ダンスを踊って大盛り上がり。最後にしんちゃんから「里依紗お姉さん、変なことやらせてごめんね」と謝罪された仲は、「全然大丈夫だよ。やれる女優だから」と笑顔を見せた。そして、本作の内容にちなみ、身の回りで起きた謎な出来事を尋ねられると、仲は"ホラー映画でれない"と答え「ホラー映画が大好きで、特にゾンビ映画がすごく好きなんですけど、公開されたものを片っ端から見ているのに1度もオファーがきたことがなくて…。事務所の若手の女の子ばかりにオファーがきて、先輩には来ないのかなって謎があるなって最近、気付きました」と嘆き、「Instagramでも発信してはいるんですけど、まだ連絡はない状態です。ネットニュースに載れば1件くらいは声がかかるかなと思うので、カシャカシャお願いします」と語り、カメラマンにアピールした。
2021年04月05日アンリアレイジ(ANREALAGE)の2021年秋冬コレクションが発表された。“天と地”がひっくり返ったら、洋服はどうなる?シーズンテーマは「グラウンド(GROUND)」。人が依って立つ足元=地面から連想し、“天と地”をひっくり返すというひらめきを得た。パリファッションウィークにてデジタル形式で発表したコレクションでは、このアイデアを遺憾なく発揮し、重力と質量までもが消えたような天地逆転のファッションショーを繰り広げている。ファーストルックは、等間隔に並ぶドット柄のコート。モデルはいつも通り、地面にしっかりと足をついて歩みを進める。続いて現れる2体目を一目見れば、視聴者はデザイナー森永邦彦の意図を直感的に理解するはずだ。モデルは天井のランウェイに足を支えられており、“天と地”がひっくり返った世界を生きているのだから。彼女の纏うコートの水玉模様は、コートのショルダー部分に雪崩のように寄せあつまり、襟は逆立っている。重力に逆らって生きる彼女たちの洋服にあしらわれたダイスチェックや千鳥柄、アーガイルは、どれも原型をとどめていない。洋服の裾は無地になり、柄が首もとによって、見慣れない模様を成している。洋服のディテールも本来あるべき場所から解放されていて、トレンチコートのベルトは偏り、ドレスのフリルは逆立っている。デニムやミリタリージャケットの裾はめくれ上がり、裏地があらわになった。非日常が日常に、日常が非日常になりつつある現代。フィジカルショーを開催するのが難しい状況の中で、デジタルでしかできないショーをみせてくれた森永の姿勢は、天が地になり、地が天になろうとも、ポジティブに歩みを進めることの大切さを教えてくれた気がする。サカナクション山口らが音楽を担当なお、今シーズンも音楽はサカナクション・NFの山口一郎と、同じくNFの青山翔太郎が参加。ジャック・オルフェンバックによる「天国と地獄」にサウンドエフェクトやビートを加え、クラシック音楽をアレンジすることで、今季のムードを表現した。
2021年03月21日ジェンダーがからむ心ないノリに違和感を覚え、自分も無自覚に加害者になっていないかと心を痛める男性主人公を描いた、大前粟生さんの「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」。それを表題作とした短編集は、繊細で生きにくさを感じている読者のもとに届き、一躍注目作家に。待望の新刊『おもろい以外いらんねん』は、お笑い好きな男子3人の、高校時代と10年後を追う青春小説だ。お笑いに向き合う3人を介して、“既存の当たり前”に風穴をあける。「僕は、お笑いが好きで、劇場や配信でよく見ているのですが、いわゆるいじり笑いも多いんです。僕自身もイヤだなと感じたし、演者たちも本当に楽しんでやっているのかなとよく思っていました。学校という集団の中でのお笑いを描くことで、お笑いを取り巻く社会全体の空気感までグラデーションで描けるかなと」みんなを笑わせてクラスの中心にいる滝場、滝場の幼なじみで語り手の〈僕〉こと咲太、そんなふたりと仲良くなった転校生のユウキ。文化祭で漫才をやろうと滝場とユウキは〈馬場リッチバルコニー〉というコンビを組んだ。そんな高校時代から10年後、精力的にライブに出演していた〈馬場リッチバルコニー〉が、動画配信がきっかけで人気と知名度が上がり始めていた矢先に…。売れることと、面白いということ。お金のためなのか、生きがいのためなのか。両極端な価値観に翻弄される彼らの衝突や苦悩は、実は私たち読者の日常とも地続きだ。「自分ではふつうのつもりでも、時代の価値観に合わなくなっている危なげな人物。そんな人間に批判の目を向ける人物。さらに、いまはお笑い界と社会との境目にいて、距離を置きながらもよく見ている人物もいたらいいなと。人によっておもろいは違うし、正解を絞らないことで、面白いということの多様性、多面性を損なわずに書きたかったですね」本作でもジェンダー差別の問題に切り込んでいる。「男社会や男性性に起因する問題解決を、イヤな目に遭っている被害者たちに求めてしまうのはグロテスク。引き受けさせすぎ、背負わせすぎだったことが心苦しすぎます。せめて作中では女性たちに甘えずに、男たち3人の中で解決させてみました」咲太ら男性自身が問題に気づき、自主的に変えていこうとする展開は、読者にとっても間違いなく希望だ。『おもろい以外いらんねん』作中に登場するネタ台本も、大前さんの作。「小説なので省略することは可能でしたが、笑いのバラエティも出したかったので」。河出書房新社1400円おおまえ・あお作家。1992年、兵庫県生まれ。2016年、「彼女をバスタブに入れて燃やす」が「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」公募プロジェクト最優秀作となり、デビュー。※『anan』2021年3月24日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年03月17日野球部の練習を眺めていたオニくん。部を辞めたばかりのみのるのあとをついてきて、グラビアモデルのお母さんと3人で暮らすことに。ながしまひろみさんの『鬼の子』は、そんなユニークな設定で始まる。勇気を持って踏み出す大切さを教えてくれる、オニくんの物語。「節分にちなんで“鬼の子が訪ねてきて鍋を囲む”というイラストをSNSに上げたら、わりと反響があって。そこから、もし『桃太郎』のような昔話の中の鬼に子どもがいたら…とキャラクターから連想しました。前作で描いた主人公が小学生の女の子だったので、その子の友だちみたいなイメージがまず浮かびました」鬼の子であるオニくんは、最初、異端児扱いされる。自分だけにツノがあるのもコンプレックス。小学校でも浮いてしまう。「私自身も、社会でうまく折り合えている気がしないので、鬼の子どもならなお大変だろうなと」だが、〈ひとりじゃできないこと、ぼく(略)やりたいです〉と、野球を介して壁を壊し、仲間になっていく。「野球をさせる、試合はしようくらいは決めていたのですが、展開や結末など深く考えずに始めてしまい、『こうなったら面白いかもしれない』という思いつきの連続でした」描く上で大切にしたのは、そのときどきの感情をどう描くかだという。特に、登場人物の多くが言葉をめぐって抱えている「葛藤」を、巧みに掬い上げている。「どうしても言えなかった言葉があったり、言いたかったのとは逆の言葉を投げつけてしまったり。そういう経験って、誰もがあるんじゃないかなと思うんですよね」本作には、みのるの家族をめぐるサイドストーリーがある。みのるの父親は有名な元野球選手。妻子を置いて出奔していて、そのことがみのるやお母さん、いまや家族の一員でもあるオニくんをもモヤモヤさせている。そんな亀裂を変えるきっかけをくれるのも、オニくんだ。野球や仲間や家族を通して、子どもたちはもちろん、大人たちも成長していく。ひとコマひとコマに見惚れるほど繊細な画も、本作の大きな魅力。「鉛筆で描いたアウトラインをスキャンして、デジタルで着色。さらにアナログで水彩だけのレイヤーを足してテクスチャーをプラスし、デジタルで合成させています。ショートショートで描いていた前作では大丈夫だったんですけど、長いマンガでやってみたら、我ながらこんなに大変だったのか、と(笑)」愛らしいオニくんの優しさや勇気に否応なく励まされる、宝物のようなコミックだ。『鬼の子』「cakes」連載の書籍化。登場人物の目はほぼ「点」だけで描かれているのにそのときどきの喜びや悲しみがしっかり伝わるのもマジック。小学館各1500円なかじまひろみ1983年、北海道生まれ。マンガ家、イラストレーター。著書に『やさしく、つよく、おもしろく』(ほぼ日ブックス)、絵本『そらいろのてがみ』(岩崎書店)が。※『anan』2021年3月17日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年03月15日ある女の子が過酷な少女期から青春期を振り返る形で進む、木崎みつ子さんの『コンジュジ』。胸が痛む場面も多いが、少女が生きるよすがになるものを見つけ、やがて地に足をつけて踏み出す決意をするさまに、光が差す思いがする。過酷な現実を支えたのは空想の恋人。夢物語を踏み台にした、再生を描く。「最初の1行を書いたのは2015年。性虐待の報道などに触れたことが書く動機のひとつですが、どうやれば当事者の方や作品を読んでくださる方を必要以上に傷つけずに小説にできるのか迷って…。書き上がるまでに5年かかりました」逡巡を重ねながら書いた力作だ。主人公のせれなは、身勝手な母親が出奔し、残された弱い父親と暮らす。母親代わりになろうとしてくれた異国の女性ベラさんもいるが、父との関係は安定せず、家庭は壊れたままだ。そんなせれなの孤独を救ったのが、すでにこの世にいない往年のロックスター、リアンだった。「身近なアイドルよりも、時代も国も違う遠い存在の方がリアルタイムでの情報が入ってこないので、夢を見やすいかなと思ったんですね」作中で描かれるリアンや彼の所属するバンドのエピソードを読んでいると、実在していたのではないかと思わせるほどリアリティたっぷり。「せれなの熱狂を描く上で、私自身の体験も反映させています。ただ私の場合はミュージシャンではなくて、ウサイン・ボルトでしたが(笑)」だが、せれながリアンに夢中になるのは、現実から逃れたい気持ちの裏返し。父親はどんどんせれなに妻的な役割を強いるようになっていく。「ふだんから暴力的で社会から逸脱しているような父親なら『そういう人間だから』と例外的に思われてしまう。仕事もしていて、見ていられないほど頼りない父親でもこんなことを起こす人がいるのだと。身近な問題として書きたかったんです」父親に降りかかった出来事で、せれなの人生はひとつの転機を迎える。「倒れている父親を〈元気いっぱいのサボテンのよう〉と描写したのは、最大限の軽蔑を込めてのことです。フィクションでしかできないことをしようと思っていました」その後、リアンとの幻想の蜜月にも変化が生まれ、それに呼応するように、せれなは現実に立ち向かい始める。そんな再生と希望の物語だ。「この書き方が適切だったかわかりませんが、性被害の問題に関心を持つきっかけになればうれしいです」きざき・みつこ作家。1990年、大阪府生まれ。大学を卒業し、現在は校正業に携わる。本作で、2020年、第44回すばる文学賞を受賞。同作は、2020年下半期の芥川賞候補にもなった。写真・冨永智子『コンジュジ』せれなが15年もの間、恋していた相手は「The Cups」というバンドのイギリス人ボーカリストのリアン。彼の存在が、彼女の生きるすべだった。集英社1400円※『anan』2021年3月17日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年03月15日2021年3月13日、俳優の仲里依紗さんが、自身のYouTubeチャンネルで投稿数100本目となる動画を更新。記念すべき100本目の動画では、ファンからの100項目の質問に回答しました。夫の中尾明慶と結婚してよかったと思う瞬間は?仲さんの夫は、俳優の中尾明慶さん。仲さんは夫のことを『キツネさん』という愛称で呼んでいます。仲さんは「中尾さんと結婚してよかったと思うことは?」という質問に対し、「連絡がマメで不安なことがない」と回答しました。キツネさんね、すごい連絡がマメなわけ。聞いてないこともすぐ連絡してくるから、本当に心配事がないのね。そういうところが本当によかったなと思うし。あと、ご飯をたくさん奢ってくれるところがよかったなと思います!仲里依紗です。ーより引用また、「面倒くさい家事ランキングを教えて」という質問に対しては、このように回答しています。第1位は洗濯物をたたむことで、第2位は洗濯物を基地に戻すことで、第3位はスーパーで買ってきた物を冷蔵庫しまう時。第4位は詰め替えボトルに詰め替える時。第5位は、ママチャリのカギのガチャってするところがタイヤのジリジリジリってするところに当たって全然カギを閉めれないところです!仲里依紗です。ーより引用さらに、動画の途中からは、7歳の息子さんも動画に参加。「どうしたら自分を好きになれますか」という質問に、息子さんは「自分を愛そうと思えば好きになれるんじゃないの?」と回答。息子さんの回答に、仲さんは「すごい感動的な言葉が飛び出しました!」と称賛しています。その後、息子さんとともに、100の質問に答えきった仲さん。ファンからはさまざまな声が寄せられました。・息子さんの回答がかっこよすぎた!子供なのに、大人の私よりも達観している…。・動画から息子さんと里依紗さんの仲のよさが感じられてすごく癒されました。ずっと見ていられます!・『100の質問』、母親としていろいろと共感しました!元気をもらいました!仲さんは動画の最後で、「これからもたくさんの動画を投稿していきたい」と意気込みを語っています。仲さんの今後の活躍からも、目が離せませんね![文・構成/grape編集部]
2021年03月14日『地図にない場所』は、『町田くんの世界』で爆発的な人気を博した、安藤ゆきさんの最新刊。〈俺の人生、終わってるのかも……〉という、中学1年生・土屋悠人(ゆうと)のぼやきから、物語の幕は開く。兄は優等生で弟はイケメン。学校でも家庭でも居場所がないと感じている悠人の孤独を埋めてくれるのが、隣人のコハクさんこと宮本琥珀だ。世界的バレエダンサーだった琥珀だが、ケガにより引退と報道される。実は琥珀は母親とも死別したばかり。挫折を抱えているはずなのに、存外に明るい表情を見せる彼女に、悠人は最初とまどうが…。「自分にとって何が日常なのか、人はわりと認識できないもので、失って初めて気づくような部分があると思います。と同時に、失ったその状態が日常になっていくということもありますね。そのもろさや不思議さについて考えてみたかったんです」バレエ一筋できた琥珀は、いわゆる生活能力が皆無。そこで悠人は、倍も年上の彼女の部屋を訪ね、何くれとなく世話を焼く。琥珀の本心をつかみかねながらも、そんなひとときに悠人自身の寂しさも慰められる。「大人から見ると、悠人の悩みは絶望するほどではないと感じるかもしれませんが、中学生の閉じられた世界ではとても深刻な問題になります。そういった部分を繊細に描いていけたらいいですね。一方、琥珀は、天才ゆえに当たり前のことが何もできない人というところからキャラを肉付けしていきました。元天才は一種の使命を終えた人、という見方もできる。そんな天才を降りた人のその後を描きたいなと思ったんですね。琥珀がいつか当たり前の生活ができるようになればいいなと思います」ある日、琥珀は悠人に〈“地図にない場所”って知ってる?〉と問いかける。ふたりの住む地域の子どもたちの間で、かつて〈イズコ〉と呼ばれる地図に載っていない場所の都市伝説が流行ったのだ。「悠人と琥珀のキャラを作ってから、世代や性別を超えた特殊な共通認識があれば面白いなと考えました」かくて、ふたりは〈イズコ探し〉の小さな冒険を始める。まずは資料を求めて出向いた図書館で、悠人は幼なじみのすずと遭遇。バレエを習い、琥珀のファンでもあるすずが、悠人と琥珀の関係にさざ波を起こしそうで…。気になる2巻は、夏頃発売予定。『地図にない場所』1中間子の悠人が兄や弟、両親とどう関わっていくのか、家族関係が変化していくのも楽しみ。『ビッグコミックスペリオール』にて連載中。小学館591円©安藤ゆき/小学館あんどう・ゆきマンガ家。『町田くんの世界』(集英社)で第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第20回手塚治虫文化賞・新生賞を受賞。※『anan』2021年3月3日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年03月02日人気絵本作家のヨシタケシンスケさんがファン宣言をした、クリハラタカシさん。絵本作家としても、注目度急上昇中だ。タッチは癒し系、物語は非凡。一度読んだらクセになる無二の世界。2015年に出版されたクリハラさんの『冬のUFO・夏の怪獣』が、このたび新版になって登場。表題作のひとつ「冬のUFO」は、親子3人で宇宙博物館に出かける話だ。収蔵されているレトロさが漂う宇宙船や建物。よく見かける、ふつうの親子の様子や会話。そんな光景に、オトナ女子の心をくすぐる愛らしさとユーモアがある。「作中で描いたように、親が何かを見てふいに笑いだしたとき、子どもは意味がわからなくてしつこく『なぜ?』と聞いたりしますね。でも大人のほうは、子どもに説明してもどうせわからないと放っておく。よくある場面だと思うんです。『こんなことを考えたことがあるかも』『言われてみればそうだ』など、ひとつひとつでは形にならなそうな、小さな“あるある”を掬い上げたいなと」子どもの頃からいままでの、自身が見たり経験したりした断片。すぐに消えていってしまいそうな感情。名前のない感覚。それらを集めて描いているという。基本的に読み切りスタイルだが、同じ登場人物が活躍する「ひろしとみどり」や「私立探偵大町駿作の事件簿以外」などシリーズになっているものもある。読んでいるうちに、各編にちりばめられた小ネタのつながりや人物相関図が見えてきて、それを発見するのも楽しみのひとつだ。ストーリーの軸は、うそばなし。「うそとわかりきってしゃべっている、どうでもいいうそが好きなんです。『こうだったら面白いよね』といううそに、さらに他愛のないうそをかぶせていくとか。昔、同人用語に“やおい”というのがあって、いまはBL(ボーイズラブ。もとは男性同士の恋愛を描いたマンガや小説を指す)という言葉に変わりましたが、その語源である“ヤマなし、オチなし、意味なし”の世界が僕自身は理想。それで面白いなら最高という気持ちなんです」色使いの独特のセンスも、クリハラさんの画の大きな魅力だ。「完璧な湿度や心地いい風がシャツの中を通り過ぎる夏の空気感みたいなのは描きたいことのひとつです。ひなびた場所と海が好きで、自分なりのユートピアを描きたい欲もあるので、それをひろしとみどりの旅先に組み込んだりしています(笑)」未読の人は、書店へ走れ!『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』巻頭、巻末漫画を含む27編を所収。収録作「ひろしとみどり」のスピンオフ作品「日曜日のはじめちゃん」が『母の友』(福音館書店)で連載中。ナナロク社1200円©TAKASHI KURIHARAクリハラタカシマンガ、イラスト、アニメーションなどを制作。著書に『ツノ病』(青林工藝舎)、『ゲナポッポ』(白泉社)など。くりはらたかし名義で、絵本を手がける。※『anan』2021年2月24日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月20日世界的なイリュージョニスト・プリンセス天功(引田天功)の最新ショー「プリンセス天功 ザ・イリュージョン2021」が3月6日(土)、有楽町よみうりホールにて開催される。今回のショーは「withコロナの日々に、魔法の瞬間(とき)を」と題し、コロナ感染症対策の観点から2部構成でイリュージョンをお届け。第1部は、世界中で上演をされている、プリンセス天功の“てっぱん”とも言うべき、スピーディー且つ華麗な構成演出となっている。第2部は、THE SYAMISENIST、東京魔術団、Mr.KAZUKI、ジェームズ小野田といった今まで個々に共演をしてきた音楽系アーティストを一堂に会し、音楽とイリュージョンの新しい融合を、世界初演出で上演。他照明、音響、特殊効果等も、一般的なマジックの世界観ではない、挑戦的な内容でプリンセス天功のイリュージョンを披露する。【公演概要】「プリンセス天功 ザ・イリュージョン2021 〜withコロナの日々に、魔法の瞬間を~」開催日時:3月6日(土)13:30開演(ロビー開場12:30 / 客席開場13:00)会場:有楽町よみうりホール(東京都)<出演>プリンセス天功東京魔術団 / Mr.KAZUKI / THE SYAMISENSIT特別出演:ジェームス小野田(米米CLUB)
2021年02月16日応募数が史上最多だったという第57回文藝賞。受賞作『水と礫(れき)』の著者が藤原無雨さん。物語世界を屹立させるディテール豊かな描写にも圧倒されるが、なんといっても構成の妙が光る。ある男の半生を反復させることで時空を押し広げ、一族のサーガとして描き出してみせた。筆力の高さを、これ一作で証明した。体内に溜まった水を乾かす旅は、時空を広げ一族のバトンを語り出す。「核となる物語に過去と未来をどんどん足していき、さらに圧縮していったらどうなるのか。そんな興味から出発したんです」核となる物語というのはこうだ。東京でドブ浚いの仕事をしていた青年クザーノ。取り返しのつかないミスで職場にいられなくなった彼は、やむなく故郷に戻ってくる。しかし、故郷にも居場所はなく、〈東京から運んできた悲しい水分を全部蒸発させ〉たいと願うように。クザーノは、先に砂漠へ旅立った弟分・甲一の後を追い、やがて砂漠の向こうの町にたどり着く。「1」「2」「3」と続いてきた物語は、再び「1」にループするが、見えてくるクザーノたちの生活は、ループするたびに少しずつ違うエピソードが足され、一族の来歴が具体的になっていく。「クザーノの息子がコイーバで、父親はラモンで、さらに孫や祖父も登場してくる。誰にフォーカスされるかは運動性に任せているところがあります。繰り返しといっても、書き始めが違えばプロセスは変わっていき、内容も変わっていくのが自然。指がキーボードを何度も往復し、僕自身も知らない物語を紡ごうとしているような感覚で書いていました」クザーノをはじめ、一族の男性の名前は葉巻から取った。「クザーノ ドミニカン コネチカット チャーチルとか、ロメオ イ フリエタとか。この作品を執筆中、葉巻に凝っていたので(笑)」タイトルにある礫は、石の砂漠=礫砂漠を意味する。「東京の水が体内に溜まって…という感覚は僕自身の実感なんです。小説を書くにあたって、いろんな湿度のようなものと闘っていかなくてはいけないと思っています。最初に水があれば、礫は最終地点にならざるを得ない。砂の砂漠は憧れなんですが、礫砂漠は憧れを超越している。そんな物語が書けたかなと」次回作も、固定観念を覆すような実験的な作品になるらしい。『水と礫』ラクダのカサンドルと出た砂漠への旅路。砂漠の向こうにある、生まれ故郷とニアリーイコールな町に居着いたクザーノは…。河出書房新社1400円ふじわら・むう作家。1987年、兵庫県生まれ。他の作品に、マライヤ・ムー名義の共著『裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する』(一迅社)がある。ふだんはシガリロ(小型版の葉巻)を愛煙。※『anan』2021年2月17日号より。写真・橘 蓮二(藤原さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月14日宝石やアクセサリーが大好きな女子高生の谷川瑠璃(ルリ)。無謀にもひとりで水晶ハントに出かけた先で、鉱物学を研究中の大学院生・荒砥凪(ナギ)に出会う。かくて、ナギさんの手ほどきもあり、ルリもまた、鉱物採集の世界に足を踏み入れることに…。水晶、砂金、ガーネットなど、小さな鉱物が見せる大きな宇宙。『瑠璃の宝石』は、自然の中にある鉱物とのふれあいを楽しめるユニークなコミックだ。著者の渋谷圭一郎さんは、大学の研究室で学術的に鉱物を学んだそう。「水晶やその他の鉱物を採集しに行くというと、『私も行きたい』という女子学生もわりといるのですが、社会に出ると離れてしまう。やはり鉱物採集の現場には、年季の入ったおじさま方が多いです。実態を言えば、岩石ハンマーを手にして岩と格闘している泥くさい世界なんですが、そこはマンガ。女性キャラに活躍してもらい、広い読者に案外身近な世界なのだなと、楽しんでもらえたらと思いました」ルリは石は好きだが、いかんせん初心者。だが、ナギさんの解説を聞くうちにどんどん興味を深めていく。一方、ナギさんは自然を理解しようとするキャラクターとして描かれる。「もともと科学は、自然現象を理解しようというところから始まっているんです。雷は電気なのかとか虹はどうしてできるのかとか。そういうスタンスを持っている人物として、ナギは描きたいと思いました。現代では科学はお金になるかどうかが優先されがちですが、純粋にロマンを追いたいという思いもある。鉱物学や天文学など“地学”は科学が本来持っているそんな魂をいまも備えていると思うんです」作中では、鉱物がいかに生み出され、壮大な自然を見せてくれるかが随所で力説される。〈この景色を作るために自然はどれだけのエネルギーと時間と偶然を必要としたんだろうな〉〈人間の時間感覚とは全く違う(略)スケールで動いているからだ〉など、ナギさんの名言に心が揺さぶられずにはいられない。白黒の線で鉱石の輝きを表現するのは難易度が高そうだが、「むしろ、そういう宝石などの見せ場を描いているときがいちばん楽しいですね。山の中など自然を描くのも、自分がここにどんな樹や岩を置こうかと自由にデザインできるので、楽しいです」鉱物採集の魅力をルリやナギさんと一緒に楽しんでいる気分になれる。『瑠璃の宝石』1火山国で4枚ものプレートがひしめき合う日本は、種類が世界有数の鉱物産出国だそう。2巻は、サファイア採集を軸にしたストーリーになるらしい。KADOKAWA680円©渋谷圭一郎/KADOKAWAしぶや・けいいちろう群馬県出身。理科教員などを経て、リケジョの部活マンガ『大科学少女』(双葉社)で連載デビュー。現在、本作を『ハルタ』で連載中。※『anan』2021年2月17日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月13日江戸随一の大きさを誇る芝居小屋、中村座。ここで起きた怪異に、日本橋で鳥屋を営む藤九郎(ふじくろう)と元女形の魚之助(ととのすけ)がある謎に挑む『化け者心中』。その著者が、蝉谷めぐ実さん。芸に生きる役者たちが覗いた深い闇。お江戸のバディが挑む、鬼の正体とは。「中学、高校と演劇部だったんです。演劇でも、どこまで役になりきれるかというのが作品や役者の評価にもかかわりますよね。大学で受けた児玉竜一教授の講義をきっかけに、性別をも乗り越えて役になりきっていくという女形に強く惹かれるように。『女形という存在をぜひ知って!』という推しみたいな気持ちが、書く出発点にはありました」中村屋の小屋で、6人の役者が次の芝居の本読みをしていたときのこと。薄暗闇の中、車座の真ん中に転がり落ちてきたのは人の頭。ところが再び行灯が灯ったときには誰一人欠けていないのに、血だまりと肉片が遺されていて…。藤九郎と魚之助は鬼退治を請け負い、鬼に取って代わられたのは誰なのかを探り始める。本書は怪異をモチーフにした歌舞伎ミステリーでもあるが、物語が進むにつれ、芸事に生きる人々の心情を掘り下げる芸道小説にもなっていく。その奥行きがすばらしい。「役者たちはそれぞれ『若さがあれば』『華があれば』とないものねだりをします。私自身が『私の何を差し出せば作家になれるんだろう』くらいに思い詰めていたので、デビューする前までのさまざまな恨み辛みを役者たちに代弁してもらいました」ちなみに、魚之助には、ヒントになった実在の人物がいる。「歌舞伎好きには知られているのですが、三代目澤村田之助という伝説の女形。芝居中のケガがもとで壊疽になり、魚之助のように足を失っても舞台には立ち続けた。芸にすべてを奪われ、若くして死ぬ田之助のような悲しい結末から救いたいと思い、藤九郎という相方を配置しました」応募時には、ふたりの関係はもう少しBLっぽさがあったのだという。「名前のつく関係性にすると、物語の枠組みも狭まる。個人で認め合える関係性の方がこの作品にもふさわしいと思い、会話などに手を入れました。男と女、人間と化け物…その境目はどこにあるのか。そういう問いも、投げかけたいことでした」それは謎めいたタイトルにも投影されており、その意味がラストで腑に落ちる。外連味あふれる意欲作だ。『化け者心中』江戸の暮らしや舞台の様子を描写する躍動感のある文体や、心地いい活きのいい会話は、著者が落語や洒落本に親しんできた賜物らしい。KADOKAWA1650円せみたに・めぐみ作家。1992年、大阪府生まれ。早稲田大学文学部卒。卒論は、化政期の歌舞伎がテーマ。2020年、本作は「小説 野性時代 新人賞」選考委員の満場一致を受けて、受賞となる。※『anan』2021年2月10日号より。写真・土佐麻理子(蝉谷さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月09日SNSやカルチャーシーンを介して身近になってきたフェミニズム。現在は第4波といわれ、性暴力に抗議する「フラワーデモ」のような社会運動にもつながっている。その立役者のひとりが、松尾亜紀子さん。フェミニズムの歴史を俯瞰してみたい人のための3冊。「黙っていても良くならない。声を上げなければと感じる10年でした」出版社勤務時代からフェミニズムに通じる本を手がけ、2018年に専門出版社「エトセトラブックス」を立ち上げた。『エトセトラ』と名付けた雑誌は、VOL.1で「コンビニからエロ本がなくなる日」を特集。大いに話題となった。編集長を毎号替えるスタイル。最新号VOL.4の特集はバックラッシュだ。編集長を、#KuTooを提唱した石川優実さんが務める。「フェミニズムが盛り上がる一方で、バックラッシュと呼ばれる揺り戻し、反フェミニズムも強くなっています。石川さんとの打ち合わせを重ねる中で、日本では、欧米や韓国ほど#MeTooの熱気が高まらなかったのはなぜかが見えてきた。実は日本でも女性運動は連綿と引き継がれていたのですが、2000年代に起きたバックラッシュで世代が分断されてしまったことが大きい。また、石川さん自身がバックラッシュに遭っていたので、女性運動の歴史を知るとともにそれについて学んでみようと考えました」石川さんへのヘイトスピーチの悪質さはご存じの読者もいるだろう。「心身ともに傷ついていた石川さんが、先輩たちの体験を聞く取材を重ねるにつれ、みな仲間で連帯して苦境をはね返してきたとわかり、元気を取り戻してきたんです」松尾さんはシスターフッド(女性同士の連帯)の大切さを強調する。1月に専門書店もオープンさせた松尾さんからのおすすめ本は下記。刊行から15年、いままた本国フランスで熱い支持を集める22万部超の『キングコング・セオリー』は、性暴力の問題やポルノグラフィー、身体の尊厳について語り尽くす。「著者自身が性被害当事者で、被害事実を受け入れる過程を自らの言葉で語っています。母性の過大評価にしても、『その言葉は誰に言わされているのだろうか』『男性が権力の道具にしているのではないか』などと常に問いかける。過激ともいわれるけれど、真摯なフェミニズム書です」。『ウーマン・イン・バトル』は、女性運動の歴史を俯瞰するのには格好のバンド・デシネ。「世界の女性たちの闘いを知れば、その連なりに自分たちがいるのだと感じることもできます」女性の数だけフェミニズムの形がある。「伝えられていない声を伝えたい。『専門の出版社や書店なんてあるんだ』という驚きをきっかけにフェミニズムの枠が拡がっていくのを願っています」『ウーマン・イン・バトル自由・平等・シスターフッド!』マルタ・ブレーン著 イェニー・ヨルダル絵枇谷玲子訳1600円(合同出版)『エトセトラ VOL.4』1300円(エトセトラブックス)『キングコング・セオリー』ヴィルジニー・デパント著相川千尋訳1700円(柏書房)『エトセトラブックス BOOKSHOP』東京都世田谷区代田4-10-18ダイタビル1F木・金・土曜12:00~20:00(週に3日のみ)※『anan』2021年2月10日号より。写真・土佐麻理子取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月06日音楽と動く隊列で作られる“8分間の総合芸術”――それがマーチングだ。高校生の姫川美月は、母から強いられる勉強だけの毎日に倦み、思いあまって秋田の叔母の家へ。そこで偶然目にした光景に魅せられ、入部。美月がトランペットやマーチングに、部の仲間たちと共に情熱を注いでいくさまが描かれる『みかづきマーチ』は、胸を震わせる青春マンガだ。マーチングバンドに青春を懸ける高校生たちのまぶしく切ない日々。その著者が山田はまちさん。実は山田さんもマーチング経験者だ。「私とマーチングとの出合いも高校でした。美月のように、入部して1か月で大会に出たんです。楽譜以外にも覚えることがたくさんあって大変でしたが、みんなとひとつのものを作り上げるのはなんて気持ちがいいんだろうと。その分、達成感もすごいんです。マーチングバンドの強豪校に取材したり、ドキュメンタリーも参考にしていますが、基本的には自分自身や仲間が感じていたリアルな感情を軸に、熱い思いを伝えていきたいと思っています」士気の高い部員たちゆえ、和気あいあいとしているだけではない。3巻では、野球部応援や県大会などのハレの場で、誰がトランペットのソロパートを演奏するかのオーディションが行われ、それぞれが葛藤と向き合うことに。「3年生にとって最後の年なのだからという年功序列も、いちばん上手い人に任せるという実力主義も、どちらも正しいから悩ましいですよね。ただ部活も仕事も、勝ち続けられるものではないので、うまくいかないときにみなどうやって乗り越えていくのかも描きたいですね」デビュー前からマーチングのマンガが描きたかったという山田さん。「競技の面白さを描きたいけれど、どうしたら表現できるのか、キャラクターも含めなかなかうまくいかなくて。考える時間だけで2年くらいはあったので(笑)、美月たちに何が起きるか、吹奏楽のどんなイベントがあるかなどを一通り年表にして、それを参考に、展開を決めています」マーチングは一種の団体競技だという山田さん。「楽器も多いし、フラッグ(旗)を扱うカラーガードというパートもある。いろんな人のドラマがあるわけで、いわゆるモブみたいな人たちにも少しでもスポットが当たるような群像劇にしていきたい。読んだ人が元気になれる作品にしたいです」『みかづきマーチ』3生まれて初めて熱中するものを見つけた美月。1月28日発売の3巻では、トランペットのソロパートをオーディションで選ぶことになり部内がざわめく。双葉社620円©山田はまち/双葉社やまだ・はまち秋田県出身。会社員を経て、上京。独学でマンガ制作を始める。アシスタントの傍ら描き続け、2017 年に読み切り作品でデビュー。※『anan』2021年2月3日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月02日