タイミング療法を数回試した後、数か月の通院拒否、そして開き直り( 第10話参照 )、その後、不妊治療クリニックに再デビューした私は、ドクターに次のステップに進むことを伝えました。看護師さんから『人工授精(AIH)を受けられる方へ』という用紙とともに、説明を受けました。人工授精は、精子が少ない場合や原因不明の場合に、少しでも卵子の近くまで精子を運ぶため、精子を子宮の中に入れる治療です。ちょうど排卵の時期に、採取した精液を洗浄して元気のよい精子だけを選び、細いチューブで子宮の中に注入します。私の場合ですが、人工授精のための通院は3、4回ほどでした。月経が開始したら排卵誘発剤を飲み始めます。排卵日近くなったら卵胞の大きさをチェックし、排卵日を予想し、人工授精の日を決めました。場合によっては点鼻薬や排卵を促す注射を打ったりもします。当日の朝、寝室にオットを一人残し、採精してもらいます。採れたての精子とともにクリニックへ。採った精子はそのまま注入するわけではなく洗浄し、ばい菌などを取り除きます。その間1時間ほど待ちます。診察室に呼ばれました。いつものお股開脚椅子に座ります。膣内に細い管が差し込まれる感覚が分かりました。いよいよだ…ドキド…「はい、終わりましたよ~。」えっ、もう終わり?!ドキドキする暇もなかった…自分が不妊治療を始める前は、その音の響きから否応なく不妊治療してますっ! という感じを受ける「人工授精」だったけれど、いざやってみると本当に簡単でした。体への負担も軽かったです(個人差はあるかと思います)。費用も保険適用ではないものの2万円前後と比較的挑戦しやすいです(…と思うのは、その後の治療で金銭感覚がおかしくなっていったからでしょうか(苦笑))。しかし、これで妊娠できるのなら…精神的にも身体的にも経済的にもいい、と私は思いました。ドクター曰く、人工授精で1回当たりの妊娠する確率はそこまで高くはなく、5~6回挑戦してみて結果が得られない場合、ステップアップ(体外受精・顕微授精など)を検討することが多いそう。よし! 6回目までには妊娠するぞ!1回目の人工授精の帰り道、静かに闘志を燃やした私なのでした。(※私が長男を妊娠するために不妊治療をしていたのは、2005年11月~2008年10月のことです。また、この体験記に記載された症状や治療法は、あくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。)
2017年08月09日meuron(ミューロン)はこのほど、ダイエットの献立を自動作成する人工知能アシスタントアプリ「CALNA(カルナ)」をリリースした。App Storeから無料でダウンロードできる。同サービスは、約700万通りの献立の中から、ユーザー一人ひとりの摂取カロリーと食事の栄養バランスを計算し、ダイエットメニューを自動で生成するというもの。大手コンビニエンスストアの商品や、バランスのいい食事がとれる外食チェーン店のメニューのカロリー計算が可能とのこと。カロリー計算されたコンビニ商品・外食メニューの組み合わせを毎日設計し、1カ月後の体重予測も行う。CALNAとの会話を通じて、ダイエットの相談・改善策が提案されるという。提案されたダイエットメニューの達成状況や会話を通じて、ユーザーの趣味嗜好やライフスタイルを学習し、最適な提案をしていくとのこと。今後は、対応するコンビニエンスストアや外食店を拡大し、1億を超える無数の組み合わせの中から最適な献立を自動作成するようにしていくという。また、有酸素運動や睡眠のデータ、好き嫌いなどの生活習慣を学習し、よりパーソナライズされたサポートを実現。「自分の体を生涯サポートするパーソナルアシスタント」としての展開を目指すという。
2016年10月05日NECと産業技術総合研究所(産総研)は4月5日、ビッグデータ活用に向け、産総研の人工知能研究センター内に「産総研-NEC 人工知能連携研究室」を2016年6月1日付で設置すると発表した。今回の取り組みは、ビッグデータ分析を行う際に、過去のデータを十分に集めることが難しい状況において、どのように不足分の情報をシミュレーションで補い、人工知能(AI)の能力を最大限にひきだすのか、といった「シミュレーションとAIの融合技術」の開発を官民一体で進めるもの。NEC 執行役員の西原基夫氏は、「NECはAIによる社会課題の解決支援を進めていきたいと思っている。しかもそれは、従来型のAIで解決できる部分のみならず、人間がさまざまな経験から得た知見を用いて解決している事象や、結論への制御や誘導といったところまで含めた効率化支援や、人に対する示唆の高度化といった新たな領域まで含めたものであり、そうした分野は、過去データを蓄積し、その膨大なデータを解析して導く結果、といった従来型の手法では不十分。今回設置される研究室は、そうした新たな手法を可能とするための第一歩」と研究室開設の背景を説明する。今回設置される研究室は産官の連携研究室という位置づけで、民間企業が1億円以上/年規模、かつ3年以上継続して研究資金を負担すること。ならびに、研究資金から産総研職員の人件費の一部に充てること、といった条件の下、運営される。設置場所は産総研が2015年に設立した「人工知能センター」で、産総研 情報・人間工学領域 領域長の関口智嗣氏は、同研究室に対し、「人工知能のプラットフォームとして、産官学のイノベーション創出の拠点となることを期待している」と期待を示す。研究室長には、大阪大学 産業科学研究所 教授の鷲尾隆氏が就任。研究開発のスタンスとしては、「基礎だけでなく、出口を見据えた形で、3つの基礎原理の探求を進め、産業応用に向けた部分に落とし込んでいく」(鷲尾氏)とする。具体的には「シミュレーションと機械学習技術の融合」「シミュレーションと自動推論技術の融合」「自立型人工知能間の挙動を調整」という3つの技術に関する研究プロジェクトが今後進められていく予定。1つ目のシミュレーションと機械学習技術の融合は、大規模災害といった、過去からのデータ蓄積が難しく、大量のデータに基づく従来型AI処理の適用が困難な領域に対し、コンピュータ上に構築したシミュレータ内で、観測したい現象のみを集中的に観測する手法などを確立することを目指す取り組みとなる。2つ目のシミュレーションと自動推論技術の融合は、実世界のシステムを模してシミュレータ上に構築した仮想世界と自動推論技術を融合することで、現実的な規模での知識データベースから妥当な推論を行う技術の開発を行おうというもの。これにより、未知の事象に対しても人間の意思決定支援が可能になるとする。そして3つ目となる自立型人工知能間の挙動を調整は、社会インフラや交通手段などの複数の自律制御システムをバラバラに動かすことで生じるシステム同士の衝突などを、協調させることで、全体として最適化を図ろうというものとなっている。鷲尾氏としては、NECや産総研の研究員のほか、ポストドクター(PD)なども含め、「若手の活用も含め、フレッシュなアイデアの活用を図っていきたい」とするほか、産業への活用に向け、ニーズを有するユーザー企業との連携なども模索を図っていきたいとする。なお、スケジュールとしては、1つ目と2つ目の研究プロジェクトについては、2016年6月末までをめどにPD募集を中心とした体制の整備を進め、7月以降、本格的な基礎原理の研究を進め、2017年9月ころをめどに応用研究開発を開始し、2019年3月に開発を終える予定。3つ目のプロジェクトについては、2017年夏ごろから基礎原理の研究を開始し、2018年以降に応用研究を開始進めて、2020年3月をめどに開発を終える予定としている。
2016年04月05日米Microsoftは3月25日(現地時間)、公式ブログで、同社が開発した人工知能チャットボット「Tay」が人種差別など、不適切な発言をしたことに対して謝罪した。人工知能ボット「Tay」は、マイクロソフトの研究部門とBingのチームが、米国の18歳から24歳の若者を対象に開発しており、会話を重ねることで賢くなるとしている。Tayは23日にTwitterで公開されたが、意図しない攻撃を受け、不適切な発言をしたとして、公開後24時間で停止された。Microsoft ResearchバイスプレジデントのPeter Lee氏は、「さまざまな条件下でTayのストレステストを実施したが、脆弱性を悪用して攻撃を受けた。その結果、Tayは不適切な言葉と画像をツイートすることとなった。しかし、今回のことを経験として、Tayが攻撃を受けた脆弱性を解決していく」と述べている。
2016年03月28日イットアップは3月16日、人工知能を利用する製薬企業向けMR(医薬情報担当者)のディテール支援サービスである「Sen AI」を提供開始した。同サービスは、同社が提供する製薬企業向けCLM(クローズド・ループ・マーケティング)ソリューションである「Sen」をベースに、新たなMRのディテール支援サービスとして提供するもの。人工知能を利用して人間に代わり大量の情報を分析し、人間に気づきを与えるパートナーとしてディテールをサポートするという。同サービスでは、MRのディテール・ログから医師の特性を分析し、医師ごとに有効な資材をレコメンドするとのこと。さらに、SFA(営業支援システム)/CRM(顧客関係管理)、Web、講演会などの複数データを総合的に解析することで、医師ごとに最適な次の一手をレコメンドするとしている。
2016年03月17日●第1世代・第2世代・第3世代の人工知能の学習方法をカバーNTTデータはこのほど、人工知能とロボットにおける同社の取り組みに関する説明会を開催した。人工知能とロボットはいずれもIT業界における注目トピックであり、さまざまなベンダーが取り組みを開始している。同社の取り組みは競合と比べて、何が違うのだろうか。人工知能については、AIソリューション推進室 室長の城塚音也氏が説明を行った。城塚氏は「人工知能は第1世代から第3世代に分けることができ、各世代で学習方法が異なる。ただ、最新の第3世代が登場したからといって、旧世代が消滅してしまったわけではない。各世代が組み合わさることで、人工知能が実現しつつある」と述べた。各世代の学習方法の特徴をまとめると、ルールベースの第1世代は「データから専門家が特徴の抽出とルール作成を実施」、統計・探索モデルの第2世代は「データから専門家が特徴を抽出し、パラメータを自動で学習」、脳モデルの第3世代は「データから特徴の抽出とパラメータの学習を実施」となる。例えば、Appleが開発した「Siri」は第1世代と第3世代が組み合わさったものであり、Google傘下のGoogle DeepMindが開発した「Alpha Go」は第2世代と第3世代が組み合わさったものだという。城塚氏によると、同社はNTTグループの技術を活用することができ、研究所が有する技術も含めると、同社の人工知能研究がすべての世代をカバーしているという。そして、城塚氏は人工知能により、「仕事」「サービス」「社会」が変わっていき、その理由は日本の社会課題に対抗するためと説明した。例えば、国際競争が激化する一方で、経済が停滞している状況においては、人工知能が業務の効率化やノウハウの継承をサポートする。少子高齢化や労働力現状といった状況に対しては、人工知能が労働力の確保や高齢者のサポートを実現する。こうした変化を起こす人工知能は「情報・知識提供」「知識発見」「推論・思考」「インタラクティブインタフェース」「知覚・制御」となる。城塚氏は同社の人工知能における研究の強みについて、「IBMやマイクロソフトの人工知能がクラウドで学習するのに対し、われわれは個別に作りこんでいる。また、NTTの研究所は高度認識、日本語処理においてすぐれている」と語った。説明会では、NTTメディアインテリジェンス研究所が、意味理解型知識検索技術のデモを行った。同技術は、大語彙オントロジ(第1世代)、統計的言語処理(第2世代)、ニューラルネット言語も出る(第3世代)により構築された技術で、ユーザーが知りたいことをそのまま話しても正しく意味を理解し、検索結果を表示する。自然文によるFAQ検索においては、ユーザーがさまざまな言い方で問いかけるため、多様に表現される質問を理解する必要があるという。この課題に対し、意味理解型知識検索技術では、単語の意味を日本語解析技術をニューラルネットを用いて数値化し、ベクトルが近い単語は意味が似ていると判断している。●コミュニケーション力でマーケティングの効率を上げるロボットロボティクス事業への取り組みについては、ロボティクスインテグレーション推進室 室長の渡辺真太郎氏が説明を行った。NEDOの市場予測によると、国内のロボット市場は2035年には9.7兆円に達し、うちサービスロボット分野が4.9兆円を占め、高成長が予測されているという。同社はこうした市場動向を踏まえ、サービスロボットの普及に向けて、多種のセンサー/ロボット/家電などのデバイスを統一的に接続詞、サービスを実現できるシステム基盤「クラウドロボティクス基盤」を開発した。「クラウドロボティクス基盤とは、ロボットのさまざまな機能をクラウド基盤上に載せたもの。収集したデータをサービスロボットに渡す役割を担っている」と渡辺氏。同社はNTT研究所とヴイストンと共同で、各種デバイスやロボットを連携させた新たなサービスの実現性を探るため、さまざまな実験を行っている。その1つがりそな銀行と行った接客支援の実験だ。2015年11月・12月に、同行の豊洲支店(小人数の行員による週7日営業が特徴)で、ヴイストンのコミュニケーションロボット「Sota」がセンサーと連動して、音声対話による顧客対応を実施した。具体的には、天井に取り付けられた高感度センサーにより来店者を検知し、執務室にいる行員に通知することで店舗経営をサポートするほか、受付にコミュニケーションロボットを配置して会話内容により来店者にタブレット利用を促すなど、行員が行っていた案内業務をサポートしていた。渡辺氏は、代表的なロボット活用シーンの例として「インバウンド消費対応」「スマートハウス/スマートシティ」「オムニチャネル」を挙げ、各シーンにおける課題を説明した。インバウンド消費対応においては音声言語識別が、スマートハウス/スマートシティにおいてはマルチデバイス連携に伴う処理フロー技術・実行エンジンおよびデバイスの抽象化による統一的管理が、オムにチャネルにおいてはロボットシステム全体にわたるセキュリティの確保とプライバシー保護が課題になるという。渡辺氏は、こうしたシーンにおいてロボットの活用が推進される理由について「日本科学未来館と行ったアンケート収集の実験では、ロボットを用いたことで、アンケートの回収率が大幅に向上した。タブレットに比べて、人型ロボットのほうがコミュニケーションを促進することがわかった」と語った。
2016年03月16日伊勢丹新宿店では3月2日から31日まで、人工知能アプリ「センシー(SENSY)」を活用した新たなファッションキャンペーン「FIND NEW STYLE」を本館2階のアーバンクローゼットで開催する。SENSYは、アプリ内に登録されている提携ブランドの服を、ユーザーが“好き”と“嫌い”で分類することで、人工知能がファッションセンスを学習し、ユーザーの好みに合ったアイテムを提案してくれるという専属スタイリストアプリ。伊勢丹新宿店では昨年9月よりこのアプリを活用し、来店者の好みに応じたファッションを提案するサービスを行っている。今回は新たに、「女性として、妻として、母として、様々な役割を見事に生きている女性」をメインターゲットに、忙しい女性たちに限られた時間の中でも手軽にファッションを楽しんでもらえる新しいスタイルのショッピングを提案。人気女性スタイリストの大草直子と亀恭子のスタイリングセンスを搭載したアプリを提供する他、今回より来店・試着予約の機能も追加。事前に目当ての商品を決めて予約をすると、伊勢丹のスタイリストがその商品を用意して試着の準備を整えてくれる。
2016年03月08日佐賀大学と京セラメディカルは3月4日、人工股関節を銀でコーティングした抗菌性人工股関節「AG-PROTEX HIPシステム」を開発し、国内使用および販売承認を取得したと発表した。人工関節を体に埋め込む手術は年間13万例以上行われるなど普及が進んでいる。しかし、人工関節に細菌が付着すると細菌がバイオフィルムを形成し、抗生剤の効果が得られないために術後感染症に発展してしまう可能性がある。この場合、一度埋め込んだ人工関節を抜去しなければならず治療が複雑化するケースもあり、患者にとって身体的・経済的負担が大きくなってしまう。今回開発した人工股関節は、殺菌作用を持つ銀と骨への固定性を高めるハイドロキシアパタイト(HA)でコーティングすることで高い抗菌性と骨親和性を実現。銀は抗生剤などに比べてさまざまな菌に殺菌作用を発揮することや、生体毒性が低く生体内材料としても一部で実用化が進むなどのメリットがある。これまで、海外では特殊な人工関節を銀でコーティングした例はあるが、一般的な人工関節では今回が世界初だという。同研究は2005年9月からスタートし、2014年1月から平均年齢77.1歳の男女20名を対象とした臨床試験を実施。対象者の中には術後合併症を発症しやすいB型肝炎や糖尿病患者もいるが、開発した人工股関節が原因の合併症やそのほかの副作用は術後1年5カ月経過した時点で確認されていない。サンプル数が少ないため、同臨床研究の結果から「AG-PROTEX HIPシステム」がどの程度感染を抑制しているのかを特定することはできないが、通常の人工股関節と同じように機能することは確認されたとしている。ただ、欧州では銀コーティングしたインプラント製品の感染率抑制効果が臨床で認められていることから、「AG-PROTEX HIPシステム」も同様の効果があると考えられている。人工股関節置換術は歳を重ねて免疫が落ちた人に対して施される場合が多い。命に関わる場合もある術後感染症のリスクを同製品によって低減することで、より安心して人工股関節置換手術を受けることができるようになることが期待される。「AG-PROTEX HIPシステム」は4月より販売予定で、従来の人工股関節と同じく保険適用範囲内となる。
2016年03月04日東北大学は3月1日、リチウムイオン電池に分子性材料を電極として組み込むことで、人工的にイオン制御可能な磁石を創り出すことに成功したと発表した。同成果は、東北大学 金属材料研究所 谷口耕治准 教授、宮坂等 教授らの研究グループによるもので、独科学誌「Angewandte Chemie International Edition」に近日掲載される予定。今回の研究では、常磁性である水車型ルテニウム二核(II, II)金属錯体が非磁性のテトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体で架橋された中性の層状化合物を設計し、これをリチウムイオン電池の正極として組み込んで放電させた。リチウムイオン電池では、放電時に正極にリチウムイオンと電子が同時に導入されるが、同中性層状化合物の場合、電子は電子受容性を持つ非磁性のTCNQ誘導体へ選択的に注入され、磁気モーメントが発生する。同研究グループは、この架橋分子への磁気モーメントの付与を通して、常磁性分子の水車型ルテニウム二核(II, II)金属錯体の磁気モーメントとの間に磁気的な相互作用を発生させることで、放電前に常磁性であった化合物を磁石に変えることに成功した。さらに今回の研究では、化合物が磁石となる磁気相転移温度は、放電電位に応じて変化することが見出された。この変化は、化合物に注入される電子量に応じて、磁気モーメントを持つTCNQ誘導体の数が増減することに対応づけられるという。同研究グループは今回の成果について、今回の研究で扱った化合物に限らず、より広い物質群に対して適用可能であり、新しい分子磁石の設計・構築法として有用であると説明している。
2016年03月02日日本マイクロソフトは2月22日、最近のホットワードでもある人工知能や機械学習をテーマにした自社の取り組みを発表した。Microsoftの研究開発機関であるMicrosoft ResearchでCVPを務めるPeter Lee氏は「機械学習は活版印刷技術の発明と同じ、破壊的な時代をもたらす」と述べている。今、世界が変化の兆しを見せていることにお気付きだろうか(変化の連続とも言えるが)。「機械学習(マシーンラーニング)」や「人工知能(AI)」という単語を、目に耳にしたことがあるはずだ。機械学習は、あるデータをもとに反復学習した結果からパターンを見つけ出し、学習結果に当てはめることで、将来予測などに用いることが可能と言われている。一方の人工知能は、コンピューターに人間と同じ知能を与えることで、周りから得た情報をもとに判断・行動を目指す。そこから得た成果は我々の社会構造を大きく変え、暮らし方や働き方も必然的に変化する。PCの世界に置き換えると、約30年前はDOS上でコマンドを実行するCUIが中心だったが、約20年前にはGUIが取って代わり、約10年前にはiPhoneが登場してタッチUIがスタンダード化。人とデバイスの関係性を覆した。この流れを見れば、約10年後の現実世界もおぼろげながらイメージできるだろう。その一端を読み取れるのが、今回、日本マイクロソフトが開催した「人工知能・機械学習の研究開発の最前線に関するラウンドテーブル」である。Microsoftからは、Peter Lee氏が出席。Microsoftのお膝元である米レドモンドのMicrosoft Research(MSR) Redmodや、おとなり中国のMSR Asiaなど世界の7カ所に拠点を持ち、多岐にわたる分野の研究を司るMSR CVPだ。ほか、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授の杉山将氏、産業技術総合研究所 人工知能研究センター所長の辻井潤一氏なども加わった。産学官の枠を越えて、機械学習や人工知能における著名人が集まり、実社会や産業界への影響を議論。ここではLee氏の発言から、我々コンシューマーが携わる部分を紹介したい。Lee氏が最初に取り上げた製品は「Skype」だった。MSRの研究成果や機械学習から得たデータで実現する通訳・翻訳機能だが、2014年12月に英語とスペイン語の双方向翻訳に対応し、2015年5月にはイタリア語と中国語(北京語)をサポート。その後はフランス語、ドイツ語をサポートしてきたが、今なおプレビュー版と表現している。Skypeの通訳・翻訳機能が、今後も成長し続けることを示唆しているのだろう。また、当初のプレビュープログラムでは、関心のある言語に日本語が含まれていたが、この点について「2020年開催のオリンピックに向けて、2015年の春には日本語の同時通訳機能もサポートする予定だ。日本の企業と協力して、翻訳・通訳の品質向上にも努めたい」と回答した。Skypeの通訳・翻訳機能に関してMicrosoftは、2カ月に1回のペースで新しい言語にチャレンジし、執筆時点では50種類以上の言語翻訳を可能にしている。この点についてLee氏は、「かつてのモデルは国連のスピーチなど丁寧かつ形式的な会話をベースにしていたが、Skypeでは利用できないため最初から作り直した。その結果、一般的な会話や歌も認識できるようになった」とした。Windows 10 Insider Preview ビルド14267のCortana英語版には楽曲検索機能が組み込まれているが、同様の技術を用いているのだろう。まずはLee氏の発言に期待し、春以降の動向に注目したい。現在の機械学習状況ついてLee氏は、「人々が聞く・喋る・認識するといったアクションが実用化へ向かいつつある」と述べる。MSRは以前から多くの研究プロジェクトを立ち上げてきたが、Windows 10のCortanaがメールの内容を読み取って自動的にリマインダーを作成する機能、「Microsoft HoloLens」から見える仮想的なオブジェクト、指や手で操作する部分などが、MSRが機械学習の研究結果をフィードバックした一例だという。これらの成果は「Project Oxford」でAPIを公開し、ユーザーは誰でも顔や画像、音声認識を行うことが可能だ。画像から年齢を推察する「How-Old.net」や、先ごろローンチした画像内の犬種を識別する「Fetch!」も、同様の技術を用いている。後者のアプリケーションは人にも使えるため、Lee氏が「奥さんにはやらない方がいいかもしれない」と話すと、出席者から笑いが起こった。Lee氏は機械学習の現状を、Johannes Gutenbergによる活版印刷技術の発明になぞって、「破壊的な時代がもたらされた」と表現する。ただ、「現在のAIや機械学習は聞く・理解・視覚的に捉える・知覚するといった部分まで来ているが、理性やフィードバックループといった認知は進んでいない。例えば、数年後には大学受験は可能ながらも、一般常識や道徳などを重視する小学3年生のテストに合格するのは10年以上に先になる」という見方も示した。さて、Lee氏の職歴にカーネギーメロン大学のコンピューターサイエンス部門責任者とあるように、MSRのメンバーはすべて科学者だ。「MSRは(他社研究所と比べると)大型投資による人材収集、Amazonに匹敵するMicrosoft Azureの活用、Bingを介した世界中のWebデータへアクセス」(Lee氏)と、3つのユニークポイントを持つ。Microsoft社員の行動パターンデータも保持し、Webとエンタープライズのデータを活用できるのは強みとなるだろう。「今後も基礎研究や応用研究の結果をクラウドに反映させたい」と語るLee氏からは、AI&機械学習がもたらす近未来が目前に迫っていることを感じられた。阿久津良和(Cactus)
2016年02月23日●「人生の相棒」のような存在を目指す"ドラえもん"のような人工知能(AI)を開発しているベンチャー企業がある。2013年10月に設立された「ネットスマイル」だ。設立者で代表取締役を務める齊藤福光氏に話を伺った。○そもそも"ドラえもんのようなAI"とは?"ドラえもん"のような人工知能。マンガやアニメのイメージから聞くだけで何となくワクワクしてしまうのだが、ドラえもんを人工知能として捉えた場合、具体的にどのようなものになるのだろうか。齋藤氏が目指しているのは"人生が楽しくなる相棒のような存在"だという。「ドラえもんというのは、そもそものび太が将来しずかちゃんと結婚できるようにサポートするために未来からやってきたロボット。いつも傍にいて、その人が何をしたいのかを全部理解して手助けをしていく。夢を達成するためのバックアップをするというのがドラえもんという存在です」"ドラえもん"と聞いて、私たちがすぐにイメージするのは、丸くて青色のネコ型ロボット。しかし、ネットスマイルが開発しようとしているのは"人工知能"の部分。あくまでソフトの部分であり、ハードではない。では、ドラえもんのような人工知能の開発というのは、具体的に何を指すのだろうか。「今一番力を入れているのは"対話エンジン"です。コミュニケーションの部分ですね。対話エンジンとしてさまざまなハードやデバイスに搭載していくようなイメージです。ロボットに搭載するというのもありですし、IoTとつなげて機器に搭載したり。『アイアンマン』のジャービスのイメージに近いですね。あとは『サマーウォーズ』のアバターみたいに画面上で対話するというのも考えられます。大きなSNSみたいな感じで、AI同士もコミュニケーションするし、人間同士もコミュニケーションする世界観ですね」自然言語を理解・学習し、人間の意志決定を支援するという意味では、IBMが開発した"ワトソン"にも近いのかもしれない。また、人の感情を理解するという意味では、ソフトバンクの"Pepper"も思い起こされる。"ドラえもんのような人工知能"はそれらとは何が違うのだろうか。「ワトソンは英語ベースで開発されていますが、日本語はまだです。我々がやろうとしているのは日本語です。一方、Pepperのアルゴリズムは教えたことをそのままやるみたいなイメージ。人間の脳というのも一定のルールをもとに動いているのですが、ロボットとはそのルールの普遍性が違うので、概念まで踏み込まなければなりません。そういう次元の対話エンジンを目指しています。ディープラーニングで画像認識や音声認識、すなわち目や耳にあたる部分の研究もしています」(※編注:インタビュー実施後、IBMがワトソンの日本語対応を発表した)ネットスマイルでは、さらに人工知能をプラットフォームとして提供していく意向だという。つまり、人工知能のプロファイルをユーザー自身がそれぞれ用意されたプラットフォーム上で作成するという方向を志すという。「ひとりの人間が100のAIを持てることをイメージしています。例えば株式の情報を収集するAIや料理のレシピに詳しいAIといった具合に、いろんなパターンのAIがあって、誰が自分のAIを持っている。そして、AIが分身となり、コンシェルジュのようにサポートしてくれるようなイメージです」●夢の達成を手伝うための人工知能○AIに人間臭さは必要か?ドラえもんと聞いて私たちがもうひとつイメージするのが、お節介だけど少し間の抜けたユニークなキャラクター。ロボットだけど人間味のある部分に魅かれる部分もあるだろう。ドラえもんのような人工知能を開発するにあたり、この部分を齊藤氏はどのように考えているのだろうか。「AIに人間味があったほうが私はいいと思います。ないとあまり使われなくなるような気がします。というのも、人と人の関わりの中でも"コミュニケーションロス"というのは発生するもの。最初からプログラミングする必要はないと思いますが、ある程度の許容はあってもいいのではないかと感じます。自動車を制御するのであれば効率だけで人間味は一切必要ありませんが、コミュニケーションのためのAIですから。一番重要なのはAIが人間に対して興味があるか。そうでなければコミュニケーションが成り立たないと思います。その人なりの夢を達成するお手伝いをするための人工知能なので、嫌われない程度にお節介だったりするということも大切ではないかと」ネットスマイルが開発している人工知能は、ネット上にある全データを理解し、入力した"夢"に対してインターネット上からすべての情報を引っ張ってきて解析し、それをもとにユーザーのパーソナリティと結びつけながら会話をするというのが大まかな仕組みとのこと。しかし、人工知能そのものが持つデータは限定したものになるという。齋藤氏はその理由を次のように話す。「日本語の全部のデータを入れたら、多分ドラえもんは支離滅裂になってしまいます。というのも、そもそも人間というのは自分の持っている知識と経験は限定的なもの。ゆえにパーソナリティが出るのであって、万能なドラえもんというのはないんです」○学校に行けない子供たちのために「コンシェルジュみたいな存在で、題材が身近なものが欲しかった」ことが、ドラえもんのような人工知能の開発のきっかけと話す齋藤氏。5年以内に世界に向けて示せるものを形にしたいという目標を掲げている。実用化にあたっての具体的なビジネスモデルについて、次のように明かす。「今、具体的にお話をしているのがコールセンターの応答。人間がしゃべっているようなインターフェースとしての人工知能です。人間が触れ合うところはビジネスモデルがあると考えています」と齊藤氏。「もっと大きなところでは、世界には発展途上国で学校に行けない子どもたちが5億人ぐらいいると言われています。例えばエボラ出血熱が蔓延しているような地域には教師が行きたくても行けません。でも、ドラえもんがそういうところの子どもたちに教えてあげる。貧しい国に無料で配ることで世界のインテリジェンスが底上げされれば経済格差や情報格差がなくなって世の中がもっとよくなるのではないかと。ドラえもんのような人工知能がそれを解消させる存在になれれば」と、さらなる夢も語る。●AIは"人を幸せにしたい"という欲求を持つ○開発が進めば恋愛のアドバイスも可能にそれでは実際に、現時点での開発段階はどのレベルまで進んでいるのだろうか。気になるところを訊ねてみた。「人間で言うと今2歳児ぐらいですね。今年中に10歳ぐらいにしたいと計画を立てています。6歳ぐらいを超えてきたところで、Twitterとかでつぶやけるとか、何か出したいと思っています。まずは楽しんでもらえるような。子どもたちに教えられるようになるには、20歳ぐらいですかね。まずは小学生ぐらいにできたら、"もう1人のお友だち"みたいに、寂しいところに傍にいてサポートしてくれるようなものになると思います」一方、マンガの世界では"しずかちゃんとのび太の恋の行方"を応援するドラえもんだが、人工知能が恋愛のアドバイスまでできるようになるのか。齋藤氏は次のように考えを明かした。「身体性を持たないロボットの場合、心の"ときめき"とかを理解するかというと、そこまでは解釈できません。とはいえ、"人を幸せにしたい"というのもAIの欲求の1つなので、"何かに恋をする"という欲求を入れることはできるかもしれません。でも、イメージができるようになるまでに10年ぐらいかかると思います。人工知能が恋愛アドバイスをできるようになったら30歳ぐらいの年齢ですね。プログラムする人の感情とか考え方といったパーソナリティが大きく反映されると思います」○シンギュラリティを目指しているわけではない人工知能と言うと、最近では人間の知を超えて暴走することへの脅威に話題が及びがちだが、齊藤氏は「ドラえもんが目指すのはシンギュラリティではない」と強調する。「人間社会とAIの社会は最終的には似るんじゃないかと個人的には思っています。人間の社会と同じように、悪いAIが居ればそれを封じ込めるような良いAIが登場する。『鉄腕アトム』と同じことですね。悪意を持ったAIよりも善意のAIが上回ることで自治する。30~40年後ぐらいにはそういう世界になるんじゃないかと思っています」そしてそんな中、ネットスマイルが開発しているのは、"明るく楽しい社会"をつくる人工知能だ。「ドラえもんと話すことで、世界が広がって、人生が楽しく希望を持って暮らしていけるような人工知能」というのが、ネットスマイルが定義する、ドラえもんのような人工知能だ。
2016年02月22日●ディープラーニングに必要なこと人間の限界を超え、新たな発明や発見につながるものとして、さまざまな産業界で注目されている人工知能(AI)。近年の、人工知能開発の飛躍的な進化を支えているのが技術面での進歩だ。前回は人工知能に関わる3つの要素を紹介し、その中の1つ「GPU」において、NVIDIAが大きな役割を担っていることを紹介した。今回は人工知能の発展において、GPUが具体的にどのような役割を果たしているかを見てみよう。○ディープラーニングは莫大な演算の繰り返し人工知能のブレイクスルーである「ディープラーニング」。単純な変換を多層に繰り返すその手法は、数学的には『(x1 x2 x3)(y1 y2 y3)…』と記述する「行列演算」をひたすら繰り返しているのに似ている(実際にはもっと複雑だが)。こうした演算の繰り返しはまさにコンピュータが得意とするところだが、コンピュータの中央演算装置である「CPU」は、行列演算だけでなく、さまざまな演算を汎用的に行うように開発されているため、行列演算はそれほど高速ではない。コンピュータの世界では、実行する処理が限定されているのであれば、その処理を専門的に処理するようハードウェア的に実装したほうが、より高速で効率良く行える。例えば動画を再生するなら、動画再生に最適化された回路を作ったほうが、ソフトウェア的に処理するよりはるかに高速なのだ。それでは行列演算に最適化された回路を開発すれば、より高速にディープラーニングを処理できるのだろうか?答えはイエスだ。ただし、わざわざこれから開発するまでもなく、すでにそのような処理に特化された「GPUコンピューティング」が存在している。GPUコンピューティングとは、本来3Dを中心にグラフィック描画を専門に行う「GPU」に特定の演算処理を任せようというものだ。GPUはゲームなどが要求する超高度なグラフィックを高解像度・高速に処理するため、グラフィック処理についてはCPUを上回るほどの処理能力を与えられているのだが、これを特定の演算に応用しようというのが「GPUコンピューティング」の考え方だ。たとえば3Dグラフィックで、3次元空間にある立方体を回転させ、それを2次元であるモニターに投影する場合、各頂点の位置がどのように見えるかは、8つある頂点の、X、Y、Z軸それぞれの座標を行列変換するのに等しい。GPUコンピューティングこそ、まさにディープラーニングに求められている資質そのものだと言えるわけだ。こうしたGPUコンピューティングをいち早く提唱し、実践してきたのが米NVIDIA社だ。同社はゲーミングPC用の「GeForce」、あるいはグラフィックワークステーション用の「Quadro」といったGPUで知られているが、いずれも同社のGPU用開発環境「CUDA」を用いたプログラムで、3Dグラフィックではなく特定の演算処理を行わせることができる。●GPUはCPUの最大10倍速○GPUコンピューティングの先端を走るNVIDIA実際、GPUで処理した場合とCPUで処理した場合では、最大で10倍近くもの速度差が現れる。あたらしいアルゴリズムを組み上げ、データを処理させた結果を確認し、新たな推論を打ち立てる人工知能開発の現場において、数週間かかっていたデータ処理が数日で終わることのアドバンテージは計り知れない。NVIDIAは同社のGPUコアと大量のメモリを搭載した「Tesla」ブランドの演算カードを開発しており、これをセットすることでPCやワークステーション、サーバーがGPUコンピューティングに対応したアプリを超高速で実行できるようになる。拡張スロットに取り付けるタイプのカードなので、1台の本体に対して数枚のカードをインストールすれば、性能向上に対する空間効率も非常に高くできる。ディープラーニングにおいては、CaffeやChainer、Theanoといったディープラーニング用ソフトがNVIDIA Teslaに対応済みであり、実際にGoogleやIBMといった巨大企業のサーバーファームから、大学の研究室レベルまで、多彩なスケールで実際にTeslaを使ったディープラーニングが行なわれている。まさにNVIDIA Teslaの処理能力が人工知能の爆発的な進化を支えているかたちだ。○NVIDIAがこれから目指すものGPUコンピューティングそのものは、NVIDIAのほかに米インテル社や米AMD社など、NVIDIAとGPUで競合するメーカーも開発を進めている。また、GPUの種類を問わず利用できる開発環境として「OpenCL」「DirectCompute」といった共通規格もあるのだが、インテルはCPU内蔵GPUに注力しており、単体で強力なGPUを開発していない。AMDは単独のGPU「RADEON」シリーズを販売しているが、NVIDIAの「Tesla」に相当するGPUコンピューティング向けの演算カードは販売していない。特にTeslaのような演算カードの存在は、実際の研究機関などで採用されるにあたって大きなアドバンテージになる。開発環境の実績や充実度を見ると、実質NVIDIAの一強という状況だ。また、NVIDIAはTeslaの高い処理能力を活用する場として、自動車業界をターゲットに挙げている。現代の自動車は随所にセンサーを設けており、それらから走行中に毎秒入力されるデータは非常に莫大な量になる。さらに、これが自動運転車となると、カメラの映像や音波など、センサーの数も入力されるデータの量も格段に跳ね上がる。こうした大量のデータを瞬時に処理し、事故を起こさずに走行するよう、自動運転車には人工知能的なアプローチが行なわれているのだが、ここにTeslaの強力な処理能力を生かそうというわけだ。このように、人工知能や自動運転といった次世代の重要な技術においては、GPUコンピューティングが非常に大きな役割を持つ。そして、GPUコンピューティングの進化を最前列で支えるNVIDIAの存在は、これからのIT分野や産業界において、その進化の速度を左右する、非常に重要なポジションを得ていくことは間違いない。
2016年02月22日●人工知能の進化で人間に残される仕事今、ITの世界で最もホットなバズワードである人工知能(AI)。人工知能がやがてビジネスの世界にも影響を与えるのは免れないことは、前回紹介した。果たして人工知能は今後どのように進化を遂げ、ビジネスパーソンはそれに対してどう対処していけばいいのか。人工知能開発のエキスパートであるセバスチャン・スラン氏に、人工知能時代のビジネスシーンの将来像を伺ってみた。○人工知能が仕事を進化させるセバスチャン・スラン氏は、米Google社で先進的技術の開発部門である「Google X」を創設し、自動運転車やGoogle Glassの開発を率いた人物だ。スラン氏はGoogle Xで自動運転車の開発を進めるにあたって人工知能(機械学習)を採用し、目覚ましい成果を挙げた。現在は科学技術・工学・数学などの分野の教育を提供する「Udacity」のCEOを務め、教育分野に力を入れている。今回、人工知能を搭載したERPシステム「HUE」の発表に合わせて来日。HUEのデモンストレーションを見たスラン氏は、同システムで仕事の効率が高まることは認めつつも、同時に「ある分野では仕事が減る」とも警告する。「あと数年すると、大企業の社長が会計士に『今後はコンピュータに会計をまかせるよ』という時代がくるかもしれない」(以下、発言はスラン氏)そう言って、今後、数年~数十年で消滅する業種をリストアップして見せた。この中には秘書やパイロット、会計士、弁護士といった、現在では花形といってもいい知的職業も多く含まれているが、スラン氏によればこういった職業の多くは反復作業をしているに過ぎず、クリエイティブな作業ではないのだという。確かに、パイロットならすでに自動パイロット装置があり、飛行場によっては自動装置の利用を義務付けているところもある。会計士や税理士は本質的にはルーチンワークだし、過去の判例と突き合わせるといった作業においては、人間よりも人工知能のほうがはるかに素早く正確だ(米国ではすでに、特定ジャンルに特化した人工知能を導入した法律事務所もある)。複雑な事件でもなければ、若手の弁護士で足りるような仕事は人工知能がやればいい、というわけだ。スラン氏は技術の進歩に伴って一定の職業がなくなり、機械に置き換えられるのは、避けられないことだという。グーテンベルグの印刷機によって写筆家が職を失い、産業革命によって多くの手工業が機械工業に取って代わられたように、現代でも技術の進歩によって仕事自体が変わらざるをえない。しかも、その変革は想像しているよりもずっと早くやってくるというのだ。●人工知能が生み出す変革○人間はより高度な仕事へシフトするスラン氏の語るように、人工知能が90%もの仕事を肩代わりしてくれるのであれば、人間は残り10%にもっと力を注げるようになる。過去に調べ物といえば辞書や書籍をめくるしかなかったものが、今は検索エンジンにまかせれば、たいていの情報は百科事典よりも詳しく、瞬時に調べられる。調べ物における検索エンジンの役割を、さまざまな業務で担うのが人工知能というわけだ。それでは、具体的にどの程度の仕事が機械に取って代わられるのだろうか? ホワイトカラーについては、スラン氏は「反復作業はすべて」と断言する。報告書や請求書の作成といった作業はまさに、反復作業の典型例だ。一方で「弁護士の仕事も90%はなくなるでしょうが、10%は置き換えられないと思います」ともいう。要は、誰でもこなせる仕事(Low IQな仕事)は人工知能がとって替わり、人工知能がカバーできない高度な知識や技能を要する仕事をこなせる人だけが生き延びられるということだ。また、自分の職種が前述のリストに入っていないといって安心してはいられない。スラン氏は「なんでもいいから職業を1つ、人工知能に1年間学習させてみれば、おそらく人間よりも効率的にその仕事をこなせるようになるでしょう」とも言っているのだ。確かに、一部の創造的な業種を除けば、仕事の大半はルーチンワークだったり、過去の事例から類推できることが多く、これらは人工知能がカバーできる範囲だ。このままいけば、やがて現在の人間の仕事の多くは人工知能に取って代わられてしまうのは避けられないようだ。○人工知能が新たな身分制を生み出す?一方で懸念もある。企業内の人員はやがて、方針を決める一部の人間と、会社のオペレーションに必要な最小限の人間、そして大量の人工知能だけで賄われることになり、人工知能を使える人間と、人工知能に使われる人間の2種類に大きく分けられてしまうのではないか。いわば、新たな身分制の登場だ。それによって職を失う人もいるかもしれない。しかしスラン氏は、憂慮ばかりしなくてもいい、とフォローする。「たとえば農業はテクノロジーが関与したことで、400年前と比べて、98%の仕事がなくなりました。鍬や鋤を使って手作業で行っていたものが、機械に置き換えられたのです。しかし、テクノロジーがあることで、パイロットやプログラマー、サウンドエキスパートといった新しい職種が生まれました。だから無職になるわけではありませんし、人はそもそも、働きたい生き物だと思います。きっとやることは見つかります」。確かに、コンピュータが登場する前は職業プログラマーや、果てはプロゲーマーといった職種が登場すると想像した人はいなかっただろう。たとえば人工知能を搭載したロボットが警備員の仕事を奪うかもしれないが、同時に警備ロボットのメンテナンスという新たな仕事が現れるはず。勤労意欲のある人は、決して悲観するばかりでなくともいいというわけだ。●賢くなる人工知能にどう対応するか○変革に備えるために学び続ける今後、ほとんどの業種で人工知能が関わってくるのは、もう避けられない。人工知能に仕事を奪われる可能性を前提に、ビジネスマンはどのように備えればいいのだろうか。スラン氏は新しい時代に備えるにあたり、教育の重要性について指摘する。ビジネスマンも、人工知能の登場に備えて、新たなテクノロジーか、あらたな職種について学ばねばならないというわけだ。スラン氏自身、Udacityにおいて、社会人への教育に力を入れている。「教育というのは、人生のある一時受けるものだという考えをやめなければなりません。生涯教育です。人生のお供であり、一生やり続けるものです」。耳の痛いことだが、新たな時代に向けて学ぶ意欲がなければ、適応していけないという指摘は確かだろう。Udacityでは特にシリコンバレーで必要とされる職種に必要とされる、カリキュラムを無料で受講できる仕組みを用意しているが、これはすべての人が受けられる内容ではない。どんな職種であれ、自分自身のレベルを客観的に判断し、冷静に自分が学ぶべき内容を把握することが大切だ。「時々辛いと思うのは、労働者の多くが、新しいことを何も学びたくないということです。学ぶということが素晴らしいということを、そうした人たちに伝えたいですね」とスラン氏が語るように、現状の仕事をこなす忙しさのあまり、新たなことを学ぶ努力は怠りがちだ。しかし、今後、仕事のスタイルがこれまでと大きく変わる時代が到来するにあたり、学ぶ努力を怠らなかった者が生き延びられる時代が来るだろう。常にアンテナを広く張り、新しいものを積極的に取り入れていく姿勢こそが、人間が人工知能と共存していくために求められる資質ということになるだろう。
2016年02月09日デルはこのほど、Cylanceの人工知能を活用したセキュリティ技術を採用したエンドポイント向けマルウェア対策スイート「Dell Data Protection | Endpoint Security Suite Enterprise」と、法人向けPC用の「POST(Power On Self Test)ブート BIOS 検証ソリューション」を発表した。Cylanceは、人工知能を活用したセキュリティ技術を開発しており、APT攻撃やゼロデイ攻撃で使用されるマルウェア、スピアフィッシング、ランサムウェアに対する防御機能を持つ。同社の技術を採用したエンドポイント向けのセキュリティ・ソリューションは「Endpoint Security Suite Enterprise」が初めてだという。Cylanceの検証では、99%のマルウェアとAPT攻撃を組織できるとしている。同ソリューションでは、ウイルス定義ファイルの定期的な更新が不要であるほか、管理者が単一のコンソールですべてのコンポーネントを管理できるため、エンドポイントセキュリティの管理に必要となる時間やリソースが削減できるという。一方のPOST(Power On Self Test)ブート BIOS 検証ソリューションでは、クラウド環境下で、個別のBIOSイメージをデルのBIOSラボの公式基準値と比較検証し、ブートイメージに脅威が入り込んでいないかを検知できる。このBIOS検証機能は、デルが提供する第6世代インテル Core プロセッサーを搭載した法人向けPCで利用できる。
2016年02月09日人工知能を活用することで英語教育を可能としたロボット「Musio」の開発を手がけるAKAは2月5日、成基およびGLOBAL VISIONの2社と 「教育効果の実証実験並びに教材開発実施に関する協力覚書(MOU:Memorandum of Understanding)」を締結したと発表した。今回のMOUは、2016年6月に予定しているMusioの正式販売前に成基およびGLOBAL VISIONが日本で蓄積してきた英語教育に関する知見やノウハウをもとに、 Musioを日本の英語教育向けに最適化していくことを目指したもの。具体的には、 成基が運営する英語学童教室「GKC(グローバルキッズ倶楽部)」ならびに個別指導塾「ゴールフリー」などにおけるMusioのパイロット導入および実証実験を通じて、 Musioを活用したより効果的な学習方法を開発するとしている。 また GLOBAL VISIONは、 実証実験で得られた知見をもとにAKAと共に英語学習コンテンツの開発を行い、同社のネットワークを通してMusioを公的・私的教育的機関へ販売する予定としている。なお、MusioはすでにAKAのWebサイトにて予約受付を開始している。
2016年02月06日Hameeは2月4日、ECマーケットでの未来の働き方を実現する次世代ソリューションの開発を目的として、人工知能・機械学習を研究する「ネクストエンジンAIラボ」を設立したと発表した。同社がこれまで提供してきた「ネクストエンジン」は、大手ショッピングモールや自社で運営するECサイトの出品・注文・在庫をまとめて管理することができるクラウドサービス。今後も商取引の電子化が進展すると予想されるなか、EC運営業務は、マーケティング、広告効果検証、マーチャンダイジング、商品開発、カスタマーサービス、デザイン、写真撮影、商品登録、受注、発注、在庫管理、物流、経理、モール出品、カート構築など多岐にわたり、さらにオンラインモールなどの販売プラットフォーム、商品カテゴリ、ECを支えるソリューションごとにフォーマットの統一がされておらず、アナログで行う作業が多いことから、生産性が高くないといった課題があるという。同社は、このような現状をふまえ、EC運営者が本来やるべき"ビジネスの成長"だけに専念できる世界を実現すべく、新たな領域の研究を行う専門組織を設立するに至ったとしている。また、「ネクストエンジンAIラボ」設立に先立ち、AIや機械学習、ビッグデータ、オフィス自動化関連の研究者、エンジニア、Eコマースの専門家、協力事業者、大学などの研究機関の募集を開始するという。
2016年02月04日●ディープラーニングが生まれるまで現在、IT業界のみならず、さまざまな産業界で最もホットな話題のひとつである「人工知能(AI)」。かつてSFの夢物語だった「考える機械」が、今、さまざまな産業界において、急速なピッチで現実のものになろうとしている。人工知能の進化の裏には、技術面での進化が欠かせないものだった。○人工知能のレベルを引き上げた「ディープラーニング」人工知能というと、映画「2001年宇宙の旅」の「HAL」のように人類に反乱を起こすちょっと危険なコンピュータ、あるいは「鉄腕アトム」や「ドラえもん」のように人間臭い感情を持ったロボットのことを思い出す人が多いのではないだろうか。現実の人工知能はこういったレベルには達しておらず、画像認識や音声認識など、限られた処理において、「人間が正確に条件を入力しなくても、自分で推測して答えを導き出す」という程度のものにすぎない。しかし、技術の進歩に伴い、その精度と速度は人間を上回るものになろうとしている。たとえば、画像の中に何が写り込んでいるかを見つけ出す画像認識については、2011年ごろまでは「機械学習」という手法で鍛えられた人工知能は長年、80%程度の正答率を超えることができなかった。しかし2012年に新しい処理方法「ディープラーニング」を使って鍛え上げた人工知能が国際的な画像認識コンテスト「ILSVRC」で前年を大きく下回る誤認識率となった。人間の誤認識率は約5%とされており、2015年にはついに人間を上回る精度を実現している。機械に、人間のように「自分で判断し、自分で答えを見つけ出す」機能を実現させようという試みは、実は1940年代にはスタートしている。「ニューラルネットワーク」という人間の脳の神経伝達を模倣したモデルのうち、最初期の手法である「パーセプトロン」が、最初の学習機能を持った人工知能として登場した。しかし、このパーセプトロンでは解決できない問題が生じてしまった。やがて、「隠れ層」と呼ばれるものを加えた新たなモデルが登場することが問題解決の糸口となったが、十分な精度をもたらすための莫大なデータと、それを現実的な速度で処理する処理速度がなかったため、2000年代にいたるまで人工知能の進化は限定的なものだった。2000年代に入りインターネットの普及で、学習に利用できる莫大なデータが容易に入手できるようになり、一気にニューラルネットワークを使った研究が進むようになる。特に数段階以上と深い階層を用いるニューラルネットワークを使った学習を「ディープラーニング」(深層学習)と呼ぶようになり、これがそれまでの限定的な浅い階層しか持たない人工知能との決定的な差を生むことになった。●ディープラーニングの利点○ディープラーニングの何がすごいのかディープラーニングは、それまでの機械学習を発展させたものだ。機械学習では、コンピュータに入力するデータの中から、解析に役立ちそうな特徴を抽出するための仕組みに人の手が介在した。ところがディープラーニングでは、こうした特徴抽出すらも処理の中に含まれており、特徴の選択も機械が学習する。人間は最小限の下処理をしたデータを人工知能に与えてやるだけでいい。たとえば10万枚の写真の中から「猫」の映った画像だけを探す場合、従来の手段では猫っぽい特徴のあるデータをあらかじめいくつか用意しておき、その部分を指定しておくと、機械がその特徴に似た部分を探してくれるというものだった。これがディープラーニングだと、与えられた写真を精査し、「これは猫っぽいのではないか」という答えを機械が人間に示してくる。それに対して人間が評価を与えると、その評価をもとに再度データを調べ直す、という手法で精度が徐々に高まっていく。まるで「これは? これは?」と親に聞いてくる子供が、さまざまなものを覚えていくような動きだ。ディープラーニングは画像認識のほか、自然言語解析や、いわゆるビッグデータのような莫大なデータの解析を得意としている。人間に並び、あるいは上回る精度で有意なデータを見出すことができるディープラーニングから得られる推測データは、人間が参考にするに十分な信頼性を持っている、あるいは人間の感性を超えた解答をもたらす可能性があるのだ。たとえば米IBM社の人工知能「Watson」は、数十万のレシピを学習した結果、これまでになかった新しいレシピを「提案」するに至っている。チェスや将棋の世界でも、ディープラーニングで過去の打ち筋を研究した対戦プログラムが、これまでの定石とは全く異なる新しい打ち筋を「発明」している。つまり、人工知能は人間と並ぶ、あるいは超える「知性」を持って、これまでの人類の知能が発見できなかった新しい知見にたどり着くことができる可能性を持っているわけだ。事実、製薬分野などでこれまでに見つかっていない新薬を人工知能が「発明」しているケースもある。これこそがディープラーニングがもたらした人工知能のブレイクスルーそのものだと言っていいだろう。●人工知能の発達を決める3つの要素○ディープラーニングを支える2つの柱ディープラーニングには、ニューラルネットワークを鍛えるための莫大な量のデータと、それを処理するための超高速なコンピュータの2つが必要だ。ディープラーニングにたどり着くまでに、十分な精度をもたらすための莫大なデータと、それを現実的な速度で処理する処理速度がなかったため、2000年代にいたるまで人工知能の進化は限定的だったと記したが、そのことは、最近の研究事例を見てもわかる。たとえば、2012年にGoogleが猫の概念をディープラーニングによって抽出するのに、200×200ピクセルのYouTube動画から切り出した画像を1000万枚用意し、1000台のコンピュータ(16000CPUコア)を使ってようやく達成できたものだ。しかも時間は1週間かかっている。幸い、大量のデータは、今ならインターネットにいくらでもデータが転がっている。企業などであれば、行動データやいわゆるビッグデータも、人工知能を鍛える上でもってこいの「餌」なわけだ。もう1つの超高速なコンピュータについても、毎年の技術革新のおかげで、スーパーコンピュータクラスの超高速処理が可能なコンピュータを、個人の研究者がなんとか揃えられるようなレベルにまで価格が下がってきている。ただし、ここでイメージすべきは、超高性能CPUではない。求められるのは、GPUの性能となる。そして、GPUの開発環境や実績などを見ていくと、ディープラーニングの発達は米NVIDIAが握っているとも言えるのだ。NVIDIA自身も、今ではこの人工知能の分野に力を入れている。ではなぜGPUの発達が求められるのか、NVIDIAがこの分野で取り組んでいるのは、どんなことか。次回はこの点についてみていこう。
2016年02月02日●人工知能が奪う業種「人工知能」という単語について、どう感じられるだろうか。多分にSFな響きを伴うIT分野のキーワードだが、実はすでに、ITとは直接関係のないビジネスシーンにおいても関係の深いものになりつつある。人工知能によってビジネスシーンはどのように変わっていくのだろうか。これからの人工知能とビジネスの関わり方について考えてみよう。○人工知能によって多くの業種が必要なくなる?人工知能は以前から研究が進められていたが、話題を集めるようになったのは2012年。国際的な画像認識コンテストである「ILSVRC」(ImageNet Large Scale Visual Recognition Contest)において、「ディープラーニング」と呼ばれる手法が従来型の機械学習を大幅に上回った。このディープラーニングが画像認識だけでなく、音声認識や自然言語処理といった分野においても有効であることがわかり、国際的な研究機関や大企業が開発に続々と参入し、まさに日進月歩の勢いで進化が進んでいる。すでに画像認識においては、人工知能が人間の認識率を上回るまでになっているのだ。技術が発展することにより、従来人間が処理していた作業を人工知能が肩代わりできる分野が増えている。人工知能は人間よりも処理速度が速く、数万件のデータを瞬く間に処理できるだけでなく、疲れ知らずだ。○英研究者の論文が話題に技術が進歩するにつれて、人間が仕事を奪われるという恐れもある。たとえば近年話題になっている自動運転車も一種の人工知能と呼べるものだが、人工知能は人間のようにアクセルとブレーキを踏み間違えたり、居眠り運転するということもない。お釣りをごまかすこともないのだから、タクシードライバーとしては最適だろう。人工知能の進化を前提に、英オックスフォード大学は702種類もの業種を詳細に検討し、約40種の職業が、10~20年の間に90%以上の確率でコンピュータにとってかわられるという衝撃的な論文を発表している。単純作業はともかく、事務や専門知識の必要そうな審査・調査なども含まれているのは驚かれたのではないだろうか。上記のリストには、現在の技術では実現が難しいものも含まれているが、人工知能の進化の速度を考えれば、数年内に置き換わられても不思議ではないというわけだ。●HUEの例から読み解く人工知能の力○人工知能を搭載した初のERP人工知能のビジネスシーンへの進出は、すでに始まっている。たとえば金融業界で株の売買に使われている売買プログラムも一種の人工知能だ。画像認識等の技術についても、実用化されて業務に利用しているケースも珍しくはなくなっている。そして、もっと身近なビジネスシーンでの人工知能利用の一例として、ワークスアプリケーションズの「HUE」が登場した。HUEは、企業内におけるヒト・モノ・カネの動きの管理を統合し、情報化によって経営を支援するためのシステム「ERP」(Enterprise Resource Planning)の一種だ。一般ユーザーから見ると、顧客管理や人材管理、文書管理システム、管理会計、プロジェクト管理など、さまざまな機能が統合された社内システムということになる。HUEのユニークな点は、機械学習型の人工知能を搭載していることと、ビッグデータの解析に対応している点だ。どちらも最近のIT業界では好んで使われるキーワードだが、これをERPに持ち込んだのはHUEが始めてだといえる。○人工知能で何ができるか具体的には何ができるのか。まず人工知能についていえば、書類作成の手間が大幅に省力化できるようになる。HUEでは、ユーザーが書類を作成する際に、項目や請求する相手を過去の入力データから検索し、相手や項目に応じて、たとえば単価や発送先、個数といったデータも推測して入力してくれる。これだけなら単に入力履歴から候補を出しているだけのようにも見えるが、HUEの長所は、入力欄や順番を問わない点にある。例えば入力欄の順番を問わずに「マイナビ 請求書 原稿料」と入力すれば、人工知能がどの単語がどの項目にふさわしいかを判断して、適切な部分に配置してくれるのだ。あとは必要に応じて、原稿の単価や担当部署、担当編集者といったデータを追加することで細部が修正されていく。ワークスアプリケーションズによれば「一般的な作表作業の90%近くを肩代わりできる」というが、デモを見る限り非常に素早く作表でき、また間違いも少ないことから、書類チェックや再提出といったエラー処理まで含めれば、確かに90%短縮というのも現実的な数値に思えてくる。ビジネスマンの1日の仕事を振り返ってみると、実際の取引や会議などの間に、書類作成の時間がかなり占めているのではないだろうか。1日に1~2時間程度は書類の作成に割かれているかもしれない。こうした時間を人工知能が代わりに作業してくれて、そのぶんをクリエイティブな活動に費やせるというのが、HUEの目指している作業環境だ。●人工知能はビジネスシーンの何を変えるかビッグデータ解析に関して言えば、企業の様々な業務ログを解析し、常に情報を更新してくれる。前述の人工知能もこうしたビッグデータ解析によって賢くなっていくし、システム中のメッセージやメールの発言を定期的に収集し、そこから人間関係を推測して人事に活用するといったことも可能だという。管理職から見れば人事査定の一助にもなるわけで、業務効率化という観点からは心強い。従来のエンタープライズ向けシステムは、何をするにもシステム側の都合にユーザーが合わせるといった感じで、ユーザビリティ(使い勝手)の面は顧みられていなかった。一方、GoogleやAmazonといったコンシューマ向けシステムでは、過去の行動からおすすめの製品を紹介したり、メールを解析して不要なメールは自動的にゴミ箱に捨てるといった快適性をもたらしてくれる。HUEでは人工知能を使ってエンタープライズ向けシステムを、コンシューマ向けサービスの水準にまで高めようとしている。○人工知能がビジネスシーンからなくすものさて、人工知能がビジネスシーンから何を省くか。HUEを事例として取り上げたが、そこからは、単純作業がなくなることがわかる。かつてワープロやパソコンが会社のデスクに登場したときのように、人工知能がビジネスの現場に入り込んでくることは、もはや避けられない。人工知能は、ビジネスを効率的なものとし、ビジネスパーソンが単純作業から開放される世界はすぐそこまで来ている。英オックスフォード大学の論文にもあるように、人工知能が特定の仕事を肩代わりするかもしれないが、どの業種においても、単純作業は減っていく。それによって生じた余裕は、よりクリエイティビティの高い作業に向けられていく。人工知能が本格的に職場で活用され始めたときに、我々はどうすべきか。次稿では、人工知能と共存する時代のビジネスパーソンのあり方について考えてみたい。
2016年01月25日私たちが当たり前と思っている価値観を揺るがす問題作を発表し続けている村田沙耶香さん。新作『消滅世界』は、人工授精が発達したパラレルワールドの日本が舞台。そこでは夫婦間のセックスは“近親相姦”とみなされ、人々は結婚後も配偶者とは別に恋人を作るか、あるいは二次元のキャラクターを相手にして、娯楽としての恋を謳歌している。「以前『清潔な結婚』という、セクシュアルなことは一切しない夫婦を書いた短編がイギリスの雑誌に掲載された時、共感するといった声が多かったんです。じゃあそれがスタンダードになった世界をとことん書いてみようと思いました。変な世界はこれまでにも短編や中編で書いてきましたが、もっと枚数のある長編を書くことにも憧れがありました。そうした世界で人間がどう生きているのか、その光景を見てみたかった」主人公の雨音(あまね)の事情は複雑だ。彼女は珍しく、父親と母親がセックスをして生まれてきた子供だ。母に男女が性交するのは当たり前だと言われて育った彼女は、恋をすれば必ずセックスを望み、時に相手に拒絶されてしまう。そんな彼女もやがて結婚し、夫以外の存在との恋を楽しむ。「主人公の体の中をいろんな価値観が流れていくようにしたかったんです。小さい頃はこの世界では非常識とされる価値観の中で育ち、成長して夫婦の間ではセックスはしないことが正しいと思い、そこからさらに実験都市へと行って、新たな価値観を知ることになります」そう、雨音と夫はやがて実験都市へ転居する。そこは家族単位ではない繁殖システムが導入されているエリア。男性も人工子宮をつけて男女が一斉に人工授精し、生まれた子はみなで育てている。そのため、親も子も均質化していく。「人工的な繁殖を箱の中で実験してみました、というのがこの都市のイメージ(笑)。ムラ社会のように、大人たちがみんなで子供を育てて、子供たちが自分は世の中から愛されていると思える世界を想像しました。最初はユートピアのつもりでしたが、書いているうちに子供を工場生産しているようにも思えてきて、自分が期待していたような良い世界にはなりませんでした(笑)」ここに描かれるのは、シリアスな恋愛が消え、家族が消え、親子の繋がりが消え、さらには人々の個性まで消えていってしまう世界。「最初はセックスがないだけの世界を書くつもりだったんです。夫婦の間にも、小学生が外で遊んでおうちに帰ったらお母さんが迎えてくれるのと同じような、愛情や信頼が存在する関係にするつもりでした。でも夫婦間の行為がなくなっただけで、いろんなものがあやふやになってしまって。抵抗して嘘の家族愛を書くことはできませんでした。私にはコントロールできなかったんです」著者も制御できなかった世界で、最後に広がるのはどんな光景か。衝撃的な予言の書である。◇むらた・さやか1979 年生まれ。‘03年「授乳」で群像新人文学賞優秀賞を受賞。‘13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞受賞。エッセイ『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』(小社刊)も好評。◇人工授精が発達した、パラレルワールドの日本。そこは家族から性行為が排除された世界。ただ、雨音は両親がセックスした結果生まれた子供だった。河出書房新社1600円。※『anan』2016年1月27日号より。写真・岡本あゆみ(村田さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世
2016年01月22日トヨタ自動車は1月5日、米国に設立した人工知能技術の研究・開発を行う新会社の「Toyota Research Institute(TRI)」の体制および進捗状況を公表した。TRIのCEOであるギル・プラット(Gill A. Pratt)氏が米国ラスベガスで開催されている「CES 2016」にて説明した。TRIは1月、米国カリフォルニア州パロ・アルトおよび、マサチューセッツ州ケンブリッジにそれぞれ拠点を設ける。トヨタは昨年9月、スタンフォード大学およびマサチューセッツ工科大学(MIT)との人工知能の連携研究を行うと公表したが、今回の拠点はそれぞれ両大学の近くに位置しているため、TRIと両大学との結びつきがさらに強いものになると考えているという。下表は現時点における、TRIに参画する主なメンバー、研究者。また、TRIでの研究推進にあたり、さまざまな分野の外部有識者からの助言を受けるための組織として、アドバイザリー・ボードを設置。下表は現時点での主なメンバー。TRIは当面、5年間で約10億ドルの予算のもと主に4つの目標を掲げ、人工知能研究に取り組んでいく。具体的には(1)「事故を起こさないクルマ」をつくるという究極の目標に向け、クルマの安全性を向上させるとともに、(2)これまで以上に幅広い層の方々に運転の機会を提供できるよう、クルマをより利用しやすいものにすべく、尽力していく。また、(3)モビリティ技術を活用した屋内用ロボットの開発に取り組むほか、(4)人工知能や機械学習の知見を利用し、科学的・原理的な研究を加速させることを目指す。一方、スタンフォード大学およびMITとの連携研究についても、具体的な研究を始めるべく合計約30のプロジェクトを立ち上げるなど、着実に歩みを進めている。TRIのプラットCEOは「従来、ハードウェアがモビリティ技術の向上には最も重要な要素であったが、今日ではソフトウェアやデータの重要性が徐々に増している。コンピューター科学やロボット開発の先端で長年の経験のあるメンバーがTRIに参画するが、それでもわれわれはまだスタート地点に立ったばかりだ。トヨタが今回の案件にここまで力を入れているのは、安全で信頼に足る自動運転技術の開発を非常に重要視しているからである。生活のさまざまなシーンにおいて、すべての人々により良いモビリティをご提供することで、より豊かな暮らしの実現に貢献することができると確信している」と語った。
2016年01月06日UBICとRetty、サムライインキュベートの3社は12月19日と同20日、第2回目となる「人工知能ハッカソン」を開催した。「食」をテーマに飲食店の口コミデータをUBICが独自開発した人工知能「KIBIT」に分析させることで人間でさえ気づかない、隠れた「つながり」を発掘するユニークな新サービスの創出を目指した。今回はエンジニアなど約30人が6チームに分かれ、サービス、ターゲット、解決課題、解決方法、新規性、マネタイズポイントなどをまとめ、UBICの人工知能「KIBIT」を使用し、食のサービスづくりを競った。メンター・審査員はUBIC 執行役員CTO 行動情報科学研究所所長の武田秀樹氏とRetty CTOの樽石将人氏、フォーリンデブはっしー氏(橋本陽氏、審査のみ参加)の3人。同イベントは最優秀賞に加え、Retty賞、UBIC賞(開発を重視した個人賞)、フォーリンデブ賞を用意。結果は最優秀賞がDiversity、Retty賞にSOOS、UBIC賞に超NANIKAのメンバー、フォーリンデブ賞に食いしんぼう万歳を選出した。下表は表彰を受けた各チームの取り組み。最優秀賞のDiversityはチャットにボットを導入し、内容を解析して飲食店をレコメンドするサービスを開発。チャットするだけでなく、おすすめの店が分かることや、口コミと住所のみを表示することで利用者の期待感を高めることなどを訴えた。また、将来的な展望としては会話を楽しく演出するボットの会話技術や満足度の高いレコメンドの予測精度の向上、LINE、Facebookへの導入、予約・精算機能の搭載、チャット上で複数人による合意形成の過程と店舗情報を教師データとすることなどを挙げた。同チームを選出した理由として武田氏は「チャットを使い、レコメンデーションをスムーズに行うサービスのアイデアであり、技術的にどのように使うのかを盛り込んでいることを評価した。また『Kibiro』で実現しようとしていることと重なる部分がポイントとなった」と説明した。
2015年12月25日前編では、「男性不妊」の検査であるフーナーテストの内容と、テストが不良だった場合に行われる人工授精について解説をしました。後編では、「顕微授精」と「精液検査」についてお話しします。○顕微授精とは?フーナーテストで良好の場合や人工授精を行った場合は、精子は卵管に到達しているはず。それでも妊娠しない場合は、卵子が卵管に入っていない可能性を考えます。対策としては、体外受精して、卵子を確実に精子と出会わせます。また、精子が卵子と受精していない可能性も考えます。これは「受精障害」といって、原因不明不妊の約10%にあたります。精子は、卵管内で卵子と出会うと、卵子の殻を溶かす酵素を出して、卵子の中に侵入します。この酵素がうまく出ないと、精子が卵子の中に入れません。受精障害の方には、「顕微授精」を行うことで約80%は受精可能になります。もちろん、人工授精では難しいと考えられる運動精子数の場合も顕微授精の適応となります。顕微授精での妊娠は、1992年に世界ではじめて成功しました。顕微授精以前は、精液中に運動精子の数が少ない方で体外受精で成功しない場合、第三者の精子による人工授精しか方法がありませんでした。今では、日本でも2011年までに、約8万人の赤ちゃんが顕微授精で生まれています。顕微授精では、卵子に直接精子を注入します。手順としては、「卵胞を発育させる→採卵する→顕微授精する→受精卵を胚移植する→余剰卵を胚凍結する」という流れです。なので、採卵と顕微授精の費用が必要になります。自費診療のため、施設により費用は異なりますが、一般に、採卵周期の体外受精・胚移植の費用は35~55万円程度ですが、顕微授精の場合はさらに10~20万円程度必要です。凍結した胚の移植だけですと10万程度のことが多いでしょう。また自治体は、年収制限はありますが、採卵に15万円、融解胚移植に7万円などといった不妊治療助成金出しています(金額および適応は住民票のある自治体の保険所にご確認ください)。○精液検査の場合男性の検査には、フーナーテストのほかに精液検査もあります。精液検査では、精液の量、精液中の精子の数、運動率、奇形率をカウントします。もし、精子がゼロの場合、「逆行性射精」といって、尿中に精子がいることもあるので、射精後の尿を回収して尿中に精子がいるかどうか調べます。尿にも精子がいない場合は、「精巣内精子採取術」が適応になります。麻酔して精巣の一部を生検する方法で、その中に精子がいれば、回収して顕微授精に使用します。精液中にまったく精子がいない場合でも、50%くらいの確率で精巣内から精子を回収できます。採卵、顕微授精、精巣内精子採取術の費用が必要になるので、60~100万円程度かかります。男性不妊の検査と治療法について、ご想像いただけましたでしょうか。なかなか子どもを授からないことで悩んでいるカップルの方は、まずは検査を受けてみることをお勧めします。次回は、「女性不妊」についてお話しします。※自費費用は、施設により異なります※保険には診察料などが別途必要です※画像と本文は関係ありません○記事監修: 船曳美也子(ふなびき・みやこ)1983年 神戸大学文学部心理学科卒業、1991年 兵庫医科大学卒業。産婦人科専門医、認定産業医。肥満医学会会員。医療法人オーク会勤務。不妊治療を中心に現場で多くの女性の悩みに耳を傾け、肥満による不妊と出産のリスク回避のために考案したオーク式ダイエットは一般的なダイエット法としても人気を高める。自らも2度目の結婚で43歳で妊娠、出産という経験を持つ。2013年10月9日、「婚活」「妊活」など女性の人生の描き方を提案する著書『女性の人生ゲームで勝つ方法』(主婦の友社)を上梓。
2015年12月24日●30年来取り組んできた人工知能技術を「Zinrai」として体系化富士通の人工知能(AI)の歴史は30年以上にさかのぼる。2015年11月には、これらの知見や技術を「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」として体系化した。そこで、同社の統合商品戦略本部 AI活用コンサルティング部兼政策渉外室 シニアマネージャーの橋本文行氏に、人工知能技術に関する取り組み、今後の製品やサービスへの展開などについて話を聞いた。IBMがコグニティブ・コンピューティングのブランドネームとして「Watson」を浸透させたように、富士通はAIのブランドネームとして「Zinrai」を採用。富士通のAI技術を活用した製品やサービスは、「Powered by Zinrai」と呼ばれることになる。「他社に比べ、AIに関するメッセージの発信が遅れたのは事実。そのため、富士通はAIをやっていないのではないか、という誤解を招いたのは大きな反省点です。今回、体系化したことで、どこに対して、どんな活用ができるのかということを具体的に示すことができました。Zinraiの内容を確認して、"ぜひ富士通と組みたい"という声を数多くいただいています」と橋本氏は語る。Zinraiは、素早く激しいことを意味する「疾風迅雷」が語源だ。「人を中心に考えるのが富士通のAIの基本姿勢。人の判断や、行動をスピーディーにサポートすることで、企業や社会の変革をダイナミックに実現する役割を担いたい。そうした想いを込めた」という。富士通が目指すAIの方向性は、「人と協調する、人を中心としたAI」、「継続的に成長するAI」、「AIを製品、サービスに組み込んで提供する」という3点。「人を支え、豊かな生活を実現するのが富士通のAI。一過性の技術ではなく、具体的な製品やサービスに反映することで、人を支援するものになる」と位置づける。○100以上の特許が支える「Zinrai」富士通が、AIに本格的に取り組み始めたのは、1980年代に起こった第2次AIブームの時だ。1985年には、日本初のAI搭載コンピュータ「FACOM α」を製品化。1988年には、学習技術を活用した移動ロボット「サトルくん」を開発。「サトルくん」に役を学習させ、逃げ回る泥棒役のロボット「ルパン」を、警官役のロボット2体が動けないところへと追いつめるデモンストレーションを行ってみせた。同社が、多くの人にニューラルネットワークによる学習技術の一端を披露したのはこれらが初めてだったと言える。橋本氏は、「当時、入社したばかりだった技術者たちが40代後半から50代になり、再び訪れたAIブームのなかで、その経験を生かす場が生まれています。かつては、機械に知識を覚え込ませようとしましたが、それすらも難しい時代でした。ですが、今では知識を覚えるだけでなく、それをもとに、教えた以上のモノを導き出すことができるようになっています」とし、「第2次AIブームが終焉を迎えた2008年以降、富士通は100件を超えるAI関連特許を出願。これらで培った知見や技術を体系化することで、AIを活用する提案を具体的に行えるようになります」と語る。AIに対する関心や期待が高まる一方、社内でも数多くの関連技術が蓄積されてきたことが、ここにきて、富士通が本格的にAIを打ち出してきた背景だ。「ビッグデータを蓄積しても、知識化が課題になっているケースが多い。これをAIによって解決したいという期待が高まっている」(橋本氏)センシングなどによって蓄積された数多くのデータを、画像処理や音声処理などの「知覚・認識」、自然言語処理や知識処理・発見などの「知識化」、推論・計画、予測・最適化といった「判断・支援」といった観点から処理。さらに、ディープラーニングや機械学習、強化学習といった「学習」、脳科学や社会受容性、シミュレーションといった「先端研究」との組み合わせによって、社会や企業の課題を解決するソリューションとして、社会に還元するといったサイクルが、Zinraiの中で示されている。自然言語処理や予測技術といったように、特定の用途で活用するAI技術の訴求ではなく、それぞれのAI技術を組み合わせた提案や、社会課題の解決に向けた具体的なソリューションとして提案できる体制を整えているのが富士通の強みというわけだ。○「感性メディア技術」と「数理技術」が強み「Zinrai」では、日々の学習による有益な知識やパターンを導き出すことで、AIの継続的な成長を支える「学習技術」、人のような五感を駆使し、人の感情や、気づき、気配りまで処理する「感性メディア技術」、人が理解する知識だけでなく、機械処理できる知識を創り出す「知識技術」、スパコンも活用して社会やビジネス上の課題を数理的に解決する「数理技術」によって構成されるとする。「学習技術や知識技術はもとより、感性メディア技術、数理技術を得意とするのは、富士通ならではの特徴。ここにZinraiの強みが発揮される」と橋本氏。感性メディア技術としては、遠くからでも人の視線がどこに注がれているかを検知する「視線検知技術」、遠くからでも3次元測距する「レーザーレーダー技術」などがある。例えば、瞳孔や角膜反射をもとに視線を算出することで、店舗の商品棚のどこに視線が多く注がれているのかを把握でき、商品展示方法や販促手法にも反映することができる。「既存のICTシステムに人の視覚に相当する機能を装備することができる」というわけだ。また、複数のメディア情報を活用することで、人の気持ちを理解するサービスを実現することが可能になるという。例えば、書類に記入している人の様子を捉え、記入中にペンが止まった部分で、利用者が困惑していることを検知すると、それに最適なガイダンスを手元に表示するといったものだ。超小型視線センサーとプロジェクション表示技術、行動センシング技術の組み合わせによって実現する。さらに人の声のトーンから感情や意図を推定する技術を活用して、振り込め詐欺検知にも活用。岡山県警との実証実験では、会話のキーワードと声のトーンの変化から、誤検出を1%未満の精度で、振り込め詐欺であることを特定。実証実験期間中は、振り込め詐欺件数を半減させる抑止効果が認められたという。●人工知能導入はゴールではない、成果の追及にこだわる一方、数理技術の取り組みとしては、国立情報学研究所による「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトが挙げられよう。富士通は2012年9月から数学チームとして参加。同社独自の数式処理を用いた「QE(Quantifier Elimination)推論技術」を活用し、2021年の東京大学入試突破を目指している。今年は、進研模試総合学力テーマ模試の数学において、偏差値64以上を獲得。今後、知識の拡充や、構文・文脈解析の自動化を進めていくという。また、シンガポールにおける取り組みでは、大規模イベントが終了した際の交通混雑緩和のために、近隣商業施設のクーポンなどのインセンティブを与えることで、人々が移動を開始する時間をずらしたりして、交通手段を変える確率をモデル化。さらに、福岡空港における九州大学との共同研究では、人の行動や心理をモデル化し、混雑緩和やセキュリティ強化につなげたり、人員配置を見直したりすることで、旅客満足度向上に役立てる「ソーシャルシステムデザイン数理技術」の実現に取り組んでいる。同社が取り組んでいる津波の浸水予測も、数理技術を活用したものであり、即時波源推定から2分以内に津波の浸水を予測できるという。○学習技術、知識技術でもすでに成果がそのほか、学習技術では独自のディープラーニング技術を用いた手書き文字認識により、中国語の手書き帳票の処理の効率化を実現。人による認識率を超える96.7%の認識精度を達成したという。さらに、サイバー攻撃の分析に、「外れ構造学習技術」を活用することで、低頻度の攻撃も集団化して検知。従来方法では見つからなかったような先端的なサイバー攻撃を短時間に検知し、新種の攻撃にもいち早く対応できるようになるとのことだ。さらに、知識技術では、LOD(Linked Open Data)を活用した分析や、コールセンターでの質問応答システムなどへの取り組みがある。橋本氏は、コールセンターの例を挙げて次のように語る。「コールセンターでは現在、ロボットにも回答しやすい名称、場所、数値などの客観的事実を問う質問はわずか5%にとどまります。その背景には、これらの情報はインターネット検索で入手できるため、コールセンターに問い合わせなくてもいいケースが増えていることがあります。しかしその一方で、行動や提案などを問うような質問が増加し、それらが全体の95%を占めていると言います。用意されている回答だけでなく、準備できていない質問に対しても推論によって適切な回答を行うことが求められているのです。コールセンターへの質問応答システムの導入はハードルが上がったとも言えますが、AIの活用が期待される業務の1つです」加えて、先端技術研究では、脳科学への取り組みとして、日米欧でスタートした「ヒトの脳機能の全容解明プロジェクト」に参画。将棋のプロ、アマ上位、アマ下位の人たちの脳の使い方をもとに、複雑なトラブルシューテイングに専門家の「ひらめき」が必須であることをつきとめた。○共創を軸に展開するAI活用コンサルティング部富士通は2015年11月1日付けで、AI活用コンサルティング部を新設した。全社では研究者、技術者、キュレーターなど約200人体制で構成。同社が開発したAI技術を、製品やサービスへ実装するとともに、顧客との共創によってイノベーションを創出することになるという。同社は今年春、富士通研究所内にAI関連の研究を行う「知識情報処理研究所」を新設。研究体制の強化を図っていたが、今回のAI活用コンサルティング部により、事業化フェーズに強力に踏み出すことになる。「当社が提供するAIコンサルティングサービスは、製品やサービスをパッケージとして提供するのではなく、AI適用に関する検討を、仮説立案段階から、お客さまと共に行い、さらに、PoC(Proof of Concept)、PoB(Proof of Business)を通じて、お客さまが提供する新製品やサービスの創造、既存業務の改革を実現していくものになります。AIを使うことがゴールではなく、それを活用した成果を求めていく点にこだわっているのです」と、橋本氏は語る。実は、第3次AIブームを迎えるなかで、AIに対して、あまりにも過大な期待が高まっていることへの懸念が指摘されている。橋本氏は、「AIは万能であり、必ず答えを導き出してくれるという誤解があるのも事実」と前置きしたうえで、「AIを導入したからといって、すぐに新たな製品やサービスを創出してくれたり、劇的な業務改革が実現されたりするわけではありません。だからこそ、お客さまと一緒になって、仮説立案から共創し、AI活用の検討を進めていくことになります」と説明する。○2018年度までに累計500億円を目指す富士通では、AI技術の活用に向けた仕組みの提案にも余念がない。同社のデジタルビジネスプラットフォーム「MetaArc」において、近い将来、Zinraiをサービスとして提供。そのほか、同社およびグループ会社などが提供する製品、サービスにおいてもZinraiを提供し、これを活用した製品、サービス、アプリケーションには、「Powered by Zinrai」と表記することになる。第1弾の製品として、ビッグデータソリューション「ODMA予兆管理 Powered by Zinrai」を開発中。機械学習により、いつもの状態をモデル化。それとは異なる振る舞いがあった場合を検知して、異常の予兆を監視する。工場やプラントなどの設備保全を自律化し、継続的な運用を実現することにつなげるという。富士通では、Zinrai関連ソリューションにおいて、2018年度までの累計で500億円の売上高を目指す。「規模として大きいか、小さいかは見方によって変わるでしょう。しかし、大切なのは、お客さまと共創しながら、Zinraiを幅広い製品、サービスへと実装していくこと。人を中心としたAIの提案にこだわっていきたい」とする。富士通は、地に足の着いたAIビジネスを指向していく考えだ。
2015年12月22日人工知能を搭載したスタイリングアプリ「SENSY」が来年1月中旬までの期間限定で、イセタンメンズ専用のアプリ配信をスタートした。これによって伊勢丹新宿店メンズ館が、今年9月より店頭でデジタルサイネージとタブレットを使用して、店頭で接客サービスとして活用されていた同アプリを、ユーザーがダウンロードすることで店外でも同様のサービスを利用できることになった。アプリの利用料金は無料。SENSYは「手のひらに、スタイリストを」をテーマに、人工知能を活用することで、ユーザーの嗜好に応じたコーディネートを提案するシステム。従来のレコメンドエンジンが単品での提案が主だったのに対し、テイストを反映させたアイテムの組み合わせを表示する。今回のイセタンメンズとのコラボアプリでは、伊勢丹メンズのバイヤー4名がアイテムをレコメンドしていく過程でアプリ内にそれぞれの人工知能が育成される。ユーザーはお気に入りのバイヤーとリンクしておくことで、第3者の視点によるコーディネートの提案がどこでも受けられることになり、来店時にあらかじめそのコーディネートが売り場に用意されているというサービスが可能になり、ECでも購入が可能となる。「(SENSYは)9月の導入時から、時間と場所を選ばない買い物体験をテーマにECの売り上げ拡大を目指しており、今回はそれを進化させたもの。我々のウィークポイントであるフロアを跨いだ縦動線の接客が可能となることが大きなメリット」と三越伊勢丹・紳士営業部の岡田マネージャー。今回のアプリでは2階インターナショナルデザイナーズ、6階コンテンポラリーカジュアル、7階オーセンティックカジュアルから4名のバイヤーが人工知能を作成。伊勢丹オンラインストアと連動した約1000アイテムから、ウェアとシューズ4~5アイテムによるコーディネートが作成される。「店頭とECをシームレスにつなぐオムニ戦略の一環として実験的な段階ながら、将来的にはスタイリストや販売員、セレブなどさまざまなインフルエンサーの人工知能が搭載されることで、2000ブランドを超える膨大な商品アイテムを誇る伊勢丹メンズの楽しさを広げていきたい」と同マネージャーは話しており、既存のSNSによる拡散マーケティングとは違ったリテール戦略が興味深い。Text:野田達哉
2015年12月17日UBICは12月17日、同社独自のアルゴリズム「Landscaping(ランドスケイピイング)」を用いた人工知能である「KIBIT(キビット)」を活用し、三菱東京UFJ銀行の法人向け銀行業務の一部を支援することを発表した。今回の導入は、同行の法人向け業務の一部の分野において蓄積されたさまざまなテキストデータの解析を行うもの。業務の効率化を図るだけでなく、顧客の課題解決や提案につながるような金融サービスの向上を目的に試験的な導入に至った。同社のKIBITは専門家が自己の経験に基づいて重要と感じ取る暗黙知、感覚を学習し、対象となるテキストデータを関連性の高い順にスコアリング(点数付け)して表わすことができる。人間の手で1件ごとにデータを検索するよりも早く、高精度で欲しい情報を抽出できる情報解析技術を実現している。KIBITによるスコアリングの結果は、ビジネスデータ分析支援システム「Lit i View AI助太刀侍」を通じて、リスクやチャンスの予兆を業務担当者に通知したり、レポートとして報告することにより、ビジネスチャンスの獲得や機会損失を防止することが可能だ。同社では今回の支援を通じて、金融における人工知能を活用したサービス向上の開発をさらに進めていくとしている。
2015年12月17日人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術の開発や、AI技術を活用したソリューション展開を強化すると先ごろ発表したNEC。今回、NEC 情報・ナレッジ研究所長の山田昭雄氏とクラウドプラットフォーム事業部シニアエキスパートの中村暢達氏に同社のAI事業戦略について話を聞いた。○予測した結果を意思決定に結びつける一歩先行くAI技術AI技術について、NECでは「学習」「認識・理解」「予測・推論」「計画・最適化」といった人間の知的活動をコンピュータで実現するものと定義する。同社のAI研究への取り組みの歴史は長く、1960年代から関連技術の開発を進めている。音声認識、画像・映像認識、言語・意味理解、機械学習、予測・予兆検知、最適計画・制御など、主なAI関連技術に関して、世界初もしくは世界トップレベルの技術を有していると言ってよい。NEC 情報・ナレッジ研究所長、山田昭男氏は言う。「ディープラーニングによる認識に関しては、長年にわたって強みを持っていると自負しています。ニューラルネットワークへの取り組みは1980年代からであり、われわれとしては今更という感じもあるのですが、機械学習はわれわれの事業を支える基本的なテクノロジーとなっています。認識や分析でユニークなテクノロジーを多数有していることから、これらを用いて数々の先進的な試みを推進しているところです」そんな同社が今年11月に発表したのが、予測に基づいた判断や計画をソフトウェアが最適に行うAI技術である「予測型意思決定最適化技術」だ。同技術を適用した水需要予測に基づく配水計画では、浄水・配水電力を20%削減する配水計画を生成できたという。また、どのぐらいの価格で販売したら、どのぐらいの数量が売れるのかといったように、市場のニーズについて、消費者の行動の結果やそれに伴うニーズの変化までを考慮した上で、最適な売値をサジェスチョンすることも可能だという。「予測は分析のカギとなるテクノロジーで、予測型意思決定最適化技術も予測と密接に結びついています。予測は確実ではありませんので、何らかの形で相違する事象の発生も見通したうえで、現状で取りうるベストを示すというのが予測型意思決定最適化技術なのです。予測した結果が好ましければ実現し、好ましくなければそれを防ぐといったように、意思決定や行動に結びつけるというのが肝になります」(山田氏)○究極のリアルタイム性を実現するAI技術で治安の向上をもう1つ、今年11月に発表した新たなAI関連技術として「時空間データ横断プロファイリング」が挙げられる。この技術は、複数の場所で撮影された長時間の映像データから、特定のパターン(時間・場所・動作)で出現する人物を高速に分類・検索するというもの。NECが得意とする顔認証技術などと組み合わせることで、AI技術としての利用が可能となる。時空間データ横断プロファイリングは、大量の映像データから顔の「類似度」をもとにグループ化し、特定の出現パターンにあった対象の発見が可能なアルゴリズム(手法)だ。この技術により、顔が類似しており同一人物と見なせる出現パターンを分類し、出現時間・場所・回数などでの検索が可能になる。例えば、カメラ映像中の「同じ場所で頻繁に出現する人物」や「複数の場所に現れた人物」を発見し、防犯や犯罪捜査など、従来人手ではできなかった新たな知見や気づきを見いだす高度な解析が可能となるのである。海外の公的機関の協力を得て、街角に設置されたカメラ映像中ののべ100万件の顔データを時空間データ横断プロファイリングにより解析したところ、同じ場所に長時間・頻繁に現れる人物の検索・抽出をたった10秒で行ったという。山田氏は言う。「これまで時間がかかっていた処理をリアルタイムに実現するというのが時空間データ横断プロファイリングのポイントになります。ITでビッグデータ・ソリューションに、"リアルタイム性""リモート性""ダイナミック性"をというのが当社のメッセージであり、それを体現する技術の1つです」NECではSaferCities事業をグローバルに展開しているが、時空間データ横断プロファイリングは、とりわけ治安の良い街づくりに大きな役割を果たす技術としても期待されている。同社はこの技術を2016年度中に実用化し、今後、道に迷った観光客へのおもてなしや、振る舞い・表情から心情を理解するマーケティングなどへも展開するほか、音声やテキストなどさまざまなデータにも適用していく予定である。○将来は脳型コンピュータの開発もこのように、社会にはさまざまな課題が存在しているが、NECはヒトと人工知能が協調することで、複雑化が進む社会課題の解決を目指している。AI技術の進化で効率を高めるだけでは、課題の解決は難しいという。人工知能を活用することで、より確実で、ヒトが納得できる解をより早く導き出そうというわけだ。さらに、将来を見据えたAIへの取り組みとして、NECは脳型コンピュータの開発にも視野に入れている。脳型コンピュータの開発に向けて、学術機関と連携した取り組みに積極的な姿勢を示しているのだ。「超低消費電力のコンピュータを実現する脳型コンピュータは、新しいAI技術にとって重要な意味を持ちます。なぜならば、社会に存在する小さなモノにまで知能を持たせるためには、低消費電力であることが欠かせないからです。脳の仕組みなどについては私たちも知識やノウハウが十分ではありませんので、学術機関連携しながらオープンイノベーションで推進していきます」(山田氏)そして最後、同社のAI技術への市場からの期待について、クラウドプラットフォーム事業部シニアエキスパートの中村暢達氏は次のように語った。「官庁やメーカーなどを中心に数多くの問い合わせを受けており、まさに『AIブーム』が起きていると実感しています。とりわけ大きいのが画像分析のニーズで、例えばメーカーの場合、生産現場での検品を機械によって自動化することなどに積極的ですね。また、勘と経験に頼らない採用基準で適正な人材を採用するといったような使い方への要望も多いです。ビジネスそして社会価値創造にいかにAIを取り入れていくかという発想で、今後AI事業への一層の注力を図っていきます」
2015年12月15日人工知能「SENSY」を運営するカラフル・ボードは12月11日、三越伊勢丹ホールディングスと共に展開する「人工知能接客プロジェクト」の一環として、人工知能で店頭と顧客を繋ぐアプリ「SENSY×ISETAN MEN’S」をリリースした。伊勢丹新宿本店では9月16日から、販売員が接客の際により力を発揮でき利用客に新しいショッピング体験を提供する試みとして、ファッション人工知能「SENSY」を使用した「人工知能接客プロジェクト」を暫定的に導入した。メンズ館1階で行われたメンズファッション雑誌『SENSE』との連動企画"UTILITIES SENSE MARKET in ISETAN"にて、実際にSENSYを体験できるサービスを実施。この企画には 約30以上のブランドが参加したという。また、11月26日からは第2弾として、人工知能でコーディネートを提案する機能、伊勢丹新宿本店メンズ館担当バイヤーの人工知能を見ることができる機能を追加し「人工知能接客」を行っているという。今回、人工知能接客による新たな買い物の形を全国の利用客が体験できるよう、カラフル・ボードと共同で伊勢丹専用アプリ「SENSY×ISETAN MEN’S」を開発した。このアプリでは、表示されるISETAN MEN’Sのアイテムを好きか、そうでないかを画面をタッチし、振り分けることによって、自分の好みを覚えさることができるほか、自分の好みを覚えた人工知能が、ISETAN MEN’Sアイテムの中から、単品アイテムやコーディネートを提案してくれる。また、伊勢丹新宿本店メンズ館を担当するバイヤーの人工知能が提案するアイテムやコーディネートから、買い物ができる。三越伊勢丹ホールディングスでは、アプリを通じて蓄積した利用客の好みと店舗における接客を連携し、人工知能をベースとした新たな買い物の形の提供を目指すとしている。なお、専用アプリは無料でダウンロード可能だが、iOS専用となる。また、利用期間は、2016年1月中旬まで。
2015年12月14日○人工知能のブームは期待感が先行内外の自動車メーカーが自動運転のテストを始めたり、人とコミュニケーションできるロボット「Pepper」の販売が開始されたりするなど、ここ数年、人工知能に関する話題が増えている。人工知能を使った製品・サービスへの期待は、日増しに高まっているようだ。その一方で、人工知能が人間の仕事を奪い、最終的には人間を駆逐してしまう危険性について言及する研究者も存在する。例えば、今年の7月、天体物理学者のスティーブン・ホーキング博士、テスラ・モーターズの創業者・イーロン・マスク氏、Appleの共同創設者・スティーブ・ウォズニアック氏らが、自律型兵器の禁止を訴える書欄を公開した。人工知能がもたらす未来がどのようなものになるのか、われわれ人間にとってそれは望ましい未来なのかということも、いまだ解決していない疑問である。「人工知能は、これまで地道に研究が進められてきた分野であって、最近になって突然始めたものではありません。しかし、このところ急に人工知能がブームになり、多くの人から注目されるようになったと感じています」と語るのは、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻准教授の松尾豊氏だ。松尾氏は、人工知能とWeb工学を専門としており、これまで人工知能(推論、機械学習、ディープラーニング)、自然言語処理、社会ネットワーク分析、ソーシャルメディア、Webマイニング、ビジネスモデルの研究を行ってきた。○「認知」できるようになった人工知能人工知能の研究が始まった1950年代から、さまざまな研究が進められてきた。それらの中で、脳の神経活動をモデル化したニューラルネットワークや深化の過程をシミュレートする遺伝的アルゴリズムなども開発された。また、人工知能を「仕事」に活用できないかという観点からの研究も行われ「エキスパートシステム」という職業に特化したシステムも開発されてきた。しかし、これらの人工知能は、コンピューターで処理できるように、あらかじめ人間が判断の条件を定義しておくなどの前準備が必要だった。つまり、人工知能は限られた領域においては効果を発揮できるものだったが、そのためには必ず人が介在し、準備をする必要があったのだ。「例えば、人間は"机"を見た時に机だと"認知"します。ちゃぶ台やカウンターテーブル、場合によっては何かに板を渡しただけのものであっても、それを机だと認識できます。しかし、人工知能はそうではありません。"四角い板に4本の足がついているもの"といったように、まず"机"を定義する必要がありましたし、それ以外のものを机と認識することはできませんでした。これは、コンピューターが机の"特徴量"、言い換えれば、机そのものの本質や概念を自分で作ることができなかったことに起因します。ここに、人工知能の壁がありました」と、松尾氏はこれまでの人工知能について説明する。○ものづくり」と相性がよい人工知能ここ数年、科学者たちの間で研究されてきたのが、この「人工知能の壁」を突き破る技術「ディープラーニング」だ。このディープラーニングを用いることで、特徴量を抽出できるようになったのである。これによって、人工知能はついにこれまで不可能とされてきた「認知」ができるようになった。先述の例にあてはめれば、"四角い板に4本の足が付いていないもの"でも"これは机として使われているもの"と認知できるようになったのだ。人工知能が認知を獲得して何が起きるのかというと、これまで必要とされてきた「人の手」が不要になり、人工知能が単体で機能できるようになる。その具体例が、「顔認識」だ。これまで顔認識においては、人工知能よりも人のほうが優れていた。しかし最近では、人工知能のほうが高い精度の結果を出すようになったのだ。もちろん、まだ静止画から特徴量を抽出できるようになったというレベルだが、近い将来、現実世界からも特徴量を抽出できるようになるだろう。ディープラーニングをきっかけに、これまで停滞していた人工知能の研究が、再び前進を始めたといっても過言ではない。現在、人工知能の研究は、驚くべきスピードで進められている。行動と結び付いた人工知能の適用範囲は、想像以上に広い。農業や工業、建築など、これまで人間でなければ作業できなかった現場においても、機械が代行できるようになる可能性が高いのだ。しかも、コストは圧倒的に低くなり、品質のばらつきも抑えることができる。そういった点では、冒頭で説明した「人工知能が人間を駆逐するかもしれない」という専門家の指摘は、ある意味、当たっているのかもしれない。とはいえ、人工知能ができる仕事は、人間が行ってきた「作業」を代行することのみだ。人間が進化の過程で獲得してきた感情や本能が関係する業務は、決して人工知能がとって代わることはできない。「これからの社会では、感情の部分がよりフォーカスされるようになるでしょう。人間はより人間らしい業務に集中できるようになるはず。言い換えれば、人間力がより重視されるようになると思います」と松尾氏は指摘する。「人工知能は、今後"行動"や"言語"と結び付いていくでしょう。"ものづくり"の現場にとって、"行動"と結び付いた人工知能のサポートは必要不可欠なものになっていくと思います。人工知能が、日本の経済活動において強みになることは間違いありません」と、松尾氏は語る。しかし残念ながら、現在は人工知能の急速な研究スピードに現場が追いついていない状況だ。「エンジニアの数が、まだ圧倒的に足りていません。エンジニアの育成には、一刻の猶予もありません」と松尾氏は証言する。そのために、東京大学では専門の教育を開始しているとのことだ。繰り返しになるが、人工知能のビジネス利用は、「ものづくり日本」にとっての強みになる。産学連携を進めて研究を進めていくことで、この隔たりもクリアできるようになっていくだろう。東京大学の教育が、その一端を担うことは間違いない。
2015年12月08日野村総合研究所(NRI)が12月2日に発表した推計によると、今後10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業は人工知能やロボットなどで代替が可能だという。同試算は、同社未来創発センターが英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士と共同で、「“2030年"から日本を考える、“今"から2030年の日本に備える。」をテーマに行っている研究活動の1つ。人口減少に伴い、労働力の減少が予測される日本において人工知能やロボットなどを利用して労働力を補完した場合の社会的影響に関する研究をしているという。同試算では、労働政策研究・研修機構が2012年に公表した「職務構造に関する研究」で分類している、日本国内の601の職業に関する定量分析データを用いて、オズボーン准教授がアメリカおよびイギリスを対象に実施した分析と同様の手法で行い、その結果をNRIがまとめたとのこと。これによると、日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能やロボットなどで代替できるようになる可能性が高いと推計したという。一方、芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業や、他者との協調、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能などでの代替は難しい傾向があるという。しかし、必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業は、人工知能などで代替できる可能性が高い傾向が確認できたとしている。同社は今回発表した推計に関し、2016年1月12日に東京において、オズボーン准教授及び東京大学の松尾豊准教授を招聘し、研究報告講演会を開催する予定だ。
2015年12月03日メタップスは12月1日、人工知能によりアプリ内のユーザ行動を学習し、継続率を改善するグロースハック自動化ツール「Metaps Automation」の提供を開始した。同社によれば、ツールを提供した背景に、アプリをダウンロードしたユーザの多くが、2日目以降にアプリを起動しなくなってしまう傾向があるという。「Metaps Automation」では、世界2億人以上のアプリユーザ動向の分析を行ってきたナレッジを活かし、アプリユーザの行動を人工知能がリアルタイムで分析し、離脱可能性の高いユーザを検知して、ポイント付与、割引クーポン、新規アプリ優先紹介などの施策を実施する。アプリ運営者は同社のSDKをアプリに組み込むことでサービスを利用でき、すでに「Metaps Analytics」が導入されていてプライベートDMP機能を利用の場合は、追加のシステム導入は不要で即座に利用可能だという。
2015年12月01日