「医師監修」について知りたいことや今話題の「医師監修」についての記事をチェック! (4/6)
肥満の女性が妊娠した場合、どのような影響が出てくるのでしょうか。この記事では、肥満の女性が妊娠した場合の影響を解説します。 「肥満」とはどういう状態?肥満とは、体脂肪が過剰に蓄積した状態のことで、標準より体重が多い状態のことをさします。BMI(Body Mass Index:肥満指数)が指標として一般的に用いられています。BMIは、体重(kg)を身長(m)で2回割った値で簡単に計算できます。 肥満の定義は国や団体によって多少異なりますが、WHOによる肥満の判定基準はBMI30以上、日本ではBMI25以上が肥満とされることが多いです。米国ではBMI25から30を「overweight:過体重」、30以上を「obese:肥満」と呼んでおり、肥満の多い米国では、BMI25から30までを病気として考えるかどうかについて、日本とは若干ニュアンスが異なります。 ただ単に「体重が重い」というだけでは肥満とはいえません。例えば同じBMI25の人については、身長160㎝なら体重64㎏(64÷1.6÷1.6=25)、身長150㎝なら体重56㎏、身長170㎝なら72㎏ということになります。仮に150㎝、160㎝、170㎝の人が3人いたとして、体重56㎏、64㎏、72㎏だったら、3人とも同じ「肥満度」になります。ここではBMI25 以上の人を「肥満」としてお話ししていきます。 肥満女性が妊娠したときの母体や赤ちゃんへの影響は?肥満女性が妊娠した場合、妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病になるリスクが高いとされています。 妊娠高血圧症候群は妊娠中に血圧が上昇しタンパク尿を伴う状態のことをいいます。血圧が異常に上昇することによって、母体のけいれん発作(子癇/しかん)を誘発し母体死亡率が上昇するとともに、胎児発育不全・早産のリスクが高まります。発症のしくみはまだ不明の点もあるのですが、肥満の人に発症者が多いことが指摘されています。また、常位胎盤早期剥離という病気は妊娠中に胎盤が子宮からはがれて胎児死亡の原因にもなる重症妊娠合併症の一つですが、これも妊娠高血圧の発症者に多いとされます。 妊娠前から糖尿病と診断されている人は妊娠・出産に関してリスクが上昇するのは周知のところですが、妊娠前に血糖値が正常で、妊娠中の検査で初めて糖の代謝異常を指摘された人は妊娠糖尿病と呼ばれます。肥満は糖尿病や妊娠糖尿病と関連が深く、日本人約14万人の統計データによると、妊娠前のBMIが18.5未満、25未満、25以上の場合別で糖代謝異常の割合は、それぞれ1.0%、1.8%、10.4%です。 妊娠糖尿病を持っている人には巨大児(赤ちゃんの出生体重が4,000g以上)の出産が増えたり、また陣痛が微弱になることが多く、難産にともなう吸引・鉗子分娩の増加、帝王切開率の増加が認められています。産後の子宮収縮も悪くなり、分娩前後での出血量が有意に増加し出血多量となり、輸血をしなければ命が助からない状態になるリスクも増加します。 また一方で、妊娠中に胎児死亡を起こすリスクも肥満や糖尿病、妊娠糖尿病で増加することが知られています。胎児期の神経の形成に異常(神経管閉鎖障害)をきたすリスクも糖代謝異常がなくても肥満の妊婦で上昇します。糖尿病や妊娠糖尿病など糖代謝異常の母体から生まれた子は将来、肥満、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧になるリスクが高いことも近年明らかになってきました。 肥満女性が妊娠したときは何に注意したらいいの?・食事について厚生労働省が策定した日本人の食事摂取基準(2015年版)によると、妊娠前のBMIが18.5以上25未満の妊婦の場合、妊娠40週で3kgの赤ちゃんを出産するのに必要な体重増加量は11kgです。標準体重(BMI25まで)の人では、妊娠中の体重増加は7~12㎏が理想とされていますが、ここで取り上げる肥満の妊婦については「個別対応」となっています。妊娠中は体重は増えることはあっても減らすことはほぼ不可能ですから、肥満の人が妊娠した場合はこれ以上増やさないよう努めるより他ありません。 妊娠中は赤ちゃんのために必要な栄養をしっかり摂ることは大事です。肥満の方は食事のカロリーが多いケースもあるので、まず自分の食生活を見直して、一日の摂取カロリーを見直しましょう。あまり食事の栄養を気にしない人で肥満になっている人ほど、糖質過多の食事になっていることがあります。カロリーは控えながら、胎児の正常な発育に欠かせないたんぱく質、脂質、ビタミン類を適量摂ることが望ましいです。 厚生労働省が2006年に策定した「妊産婦のための食事バランスガイド」で示されているようにビタミンやミネラルが不足しがちなため、副菜でしっかりと緑黄色野菜を食べることが大事です。緑黄色野菜に多く含まれる葉酸は、子どもの神経系の先天異常を予防することに関係しています。また、肉・魚・卵・大豆などのタンパク質の豊富な料理をバランス良く摂ることがポイントです。特に、赤身の魚や肉をじょうずに取り入れると、貧血を防げます。牛乳や乳製品などさまざまな食品を組み合わせてカルシウムをたっぷり摂ることが必要です。 ・運動について運動も重要です。多くの人が自分の車や電車で移動し、掃除はロボット、衣類の洗濯も皿洗いも自動、買い物はネット通販という今、昭和や明治時代の人の生活を想像すると、体を動かす必要のあることが格段に少なくなっています。妊娠中も仕事をしていて一定の運動量がある人は別として、昔の人の生活と比べて便利なライフスタイルに変わっているので知らない間に人は運動不足になっています。 ガイドラインでも示されているように転倒したり外傷を受けやすいスポーツは避けたほうがいいのはもちろんですが、肥満を予防し、食事の摂取カロリーを上げることも可能になりますので、妊娠中のエクササイズ(=運動)はウォーキング、水泳、エアロビクスなどを選んでおこなうと良いでしょう。運動量の増加により適正体重を維持でき気分転換にもなります。 まとめ母子ともに健康な体で出産するには、妊娠前から食生活に気を付けて体重管理をおこなうことが大切です。 ■参考・一般社団法人日本肥満学会「肥満の判定と肥満症の診断基準について」 ・産婦人科診療ガイドライン-産科編2017・厚生労働省「妊産婦のための食生活指針」 監修者:医師 あんずクリニック産婦人科院長 川島 正久 先生静岡県磐田市生まれ。平成5年神戸大学医学部卒業、神戸市立中央市民病院/淀川キリスト教病院、磐田市立病院に勤務の後2011年にあんずクリニック産婦人科を開業「お産を通して人々に喜びを与える」をモットーに地域の人々のお役に立てるよう励んでいます。
2019年10月12日妊娠を希望しているけれど、生理不順で妊娠のタイミングをとるのが難しいと感じている人は、もしかすると多嚢胞性卵巣症候群かもしれません。あまり聞きなれない病名かもしれませんが、妊娠をすることと深い関わりがある疾患です。今回は、多嚢胞性卵巣症候群による妊娠への影響や治療法などについてお話ししていきたいと思います。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、20〜30人に1人の女性に見られ、排卵障害を起こす疾患です。排卵が起こらないのは、排卵に関連のある2つの女性ホルモンのアンバランスや卵巣内の男性ホルモンが多いことが原因とされています。 通常、排卵には脳から出される黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)という2つのホルモンが関わっています。しかし、PCOSでは、この2つのホルモンのバランスが崩れて、黄体化ホルモンばかりが過剰に分泌されるため、排卵がうまくおこなわれません。また、血糖値を下げる作用のあるインスリンも多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に関連しており、血液の中にインスリンが多く含まれている状態ですと男性ホルモンが増加します。男性ホルモンが過剰に作られると、卵胞の成長を妨げたり、卵巣の外の膜を厚くして、排卵の起こりにくい状態にします。身体的には体毛が濃い、ニキビがよくできるといった症状が特徴です。その他に、順調だった生理が不順になった場合や生理周期が35日以上と長い人、肥満などの症状がある人は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を疑います。 こうした症状はいくつか複合的に見られる人もいれば、排卵障害以外の症状があきらかでない人もいます。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の確定診断をするときには、血液検査と卵巣の超音波検査が必要です。超音波で卵巣を見ると、卵巣の外側に10mm程度の卵胞がぐるりと一周並んでネックレスのようになっています。卵子が十分に成長できないので、排卵されずに卵巣の中で卵胞が連なっているのです。血液検査では、血液中の男性ホルモンが基準値よりも高く、黄体化ホルモンの値が卵胞刺激ホルモンよりも高いことで診断することができます。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の妊娠への影響は?多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵の起こりにくい状態なので、妊娠には大きな影響があります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は早ければ10代のうちから発症している可能性あります。発症して間もないうちは排卵障害もそれほど進んでいないので、自然妊娠も可能ですが、年数重ねるごとに排卵障害が進んでいくので自然妊娠は難しくなります。症状に気づいて早めに治療を受けることができれば、妊娠の可能性は高くなります。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、排卵に問題があることが多いため、排卵を誘発させていく治療をしていきます。その他には、体外受精が行われます。 1)排卵誘発剤を使うクロミフェンという排卵誘発剤を内服することで、約50%に排卵の効果が現れます。排卵誘発剤の内服による効果がない場合は、注射によるゴナドトロピン療法という排卵誘発剤を使います。 卵巣には成長できずにいる卵胞がたくさん待機しているので、排卵誘発剤の注射によってたくさんの卵胞が1度に成長することがあります。そのため、1度に複数の卵子が排卵される可能性があり、多胎妊娠のリスクが高くなります。 また、たくさんの卵胞が大きくなると、卵巣が大きく腫れておなかに水が溜まる卵巣過剰刺激症候群を引き起こしてしまう恐れがあります。そのため、内服や注射による治療で排卵がうまくいかないときには、手術や体外受精をすすめられることがあります。 2)卵巣に小さな穴をいくつか開ける手術をする卵巣に穴を開けることで、自然な排卵を促すことになり、排卵誘発剤の効果も得られやすくなります。手術となると恐怖感がありますが、腹腔鏡を使った手術なので、傷は小さいです。さらに手術がうまくいけば自然な排卵が復活するので、排卵誘発剤のデメリットである卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠のリスクもありません。ただし効果は、半年~1年程度で、手術前の状態に戻ってしまうデメリットがあります。 3)糖尿病の薬を使うインスリン分泌に異常がある人には、糖尿病の治療薬のメトフォルミン(メルビン、グリコラン)が排卵しにくい状態を改善することが期待できます。インスリンの分泌量を抑えることで、卵巣内の男性ホルモンの分泌も減少し、排卵しやすくなるのです。 4)体外受精をおこなう排卵誘発剤や手術の効果があまりない場合には、医師から体外受精の話があるかもしれません。体外受精であれば、排卵誘発剤を使っても、多胎妊娠などのリスクを減らすことができます。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は予防できる?多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は初潮からずっと生理不順である人が多く、体質や環境などが原因であると指摘されていますが、はっきりとした原因は不明です。一般的な遺伝性のある疾患とも異なるため、予防策はありません。しかし、肥満である場合は、減量することにより月経不順の改善が認められているので、適度な運動やバランスの良い食事などに気をつけていくと良いでしょう。 まとめ生理不順など多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状が当てはまるのであれば、早めに産婦人科で検査をしてもらいましょう。妊娠を希望している場合はもちろん治療が必要ですが、治療せずに長期間放置すると、まれに子宮内膜にがん化のような異常が起こることがあります。生理不順を軽く見ずに、しっかりと治療しましょう。 監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
2019年10月10日絵本の読み聞かせは、赤ちゃんとのコミュニケーションやスキンシップなど大切な役割を果たします。でも、赤ちゃんが低月齢のころは絵本を読んであげても意味がわからないので、効果がないと思っている人もいるかもしれません。そこで今回は読み聞かせを開始する時期やコツについて解説します。 赤ちゃんに絵本を読み聞かせするのはいつから?個人差はあるものの、赤ちゃんが言葉を覚え出すのは1歳前後とされています。このころから、赤ちゃんは短い単語を使って感情表現をするようになり、1歳半ごろから赤ちゃんは語彙を増やしていき、短い文章を作って話し始めるのが一般的です。そうなると簡単な絵本の内容も理解できるようになります。「言葉を覚えさせる」「お話を楽しんでもらう」という意味では、1歳半を目安にして読み聞かせをするのが効果的です。 ただし、「1歳半にならないと読み聞かせは無意味」というわけではありません。読み聞かせには学習以外の効果も多くあります。たとえば、読み聞かせは赤ちゃんと親のコミュニケーションの場です。親からやさしく語りかけることで赤ちゃんは安らぎを覚えます。また、親も赤ちゃんへの愛情を確認できる時間となります。また、本を身近な存在として認識させることで、将来的な読書への抵抗感を少なくすることもできます。言葉がわかるようになっても、絵本そのものを嫌いでは読み聞かせはおこなえません。赤ちゃんが絵本の内容をわからない時期でも、読み聞かせは積極的におこないましょう。 読み聞かせを始める時期には特に「いつから」という制限はありません。0歳児に対しても、簡単な内容の絵本を読み聞かせる意味はあります。また、0歳児は言葉や物語は追えなくても絵の印象だけなら楽しむことができます。絵本にはユニークな表現もたくさんあるので、音で絵本を記憶していく赤ちゃんも少なくありません。親と一緒にいろいろな絵が移り変わる時間を過ごすのは、大切なスキンシップになります。まずは図書館や本屋に一緒に行って、赤ちゃんが好きそうなものを探してみると良いでしょう。 赤ちゃんに絵本を読み聞かせする効果は?絵本の読み聞かせのメリットとしてはまず、「情緒の安定」が挙げられます。赤ちゃんは絵本の内容がわかっていなくても親が読む声をずっと聞いていて、感覚的に気持ちのいい時間を過ごせます。優れた絵本は優れた文章で書かれているため、親の読む声も耳触りがよくなります。安心感のある時間をたくさん持つことで赤ちゃんの情緒は安定していきます。また、成長したときに感情表現が豊かで、他者への共感能力が高くなりやすいでしょう。 次に、「好奇心の芽生え」も重要なポイントです。家族に囲まれた日常ではなく、まったく知らない世界を赤ちゃんは絵本でのぞきます。その結果、赤ちゃんは好奇心が刺激され、キャラクターや世界観などを「もっと知りたい」と思うようになります。こうした感情は、成長したときの学習意欲や向上心へとつながり、芸術的な視点を養ううえでも大切な機会となります。 そして、「親子のきずなの再確認」も読み聞かせでできます。絵本は親から子に物語を読み聞かせることで、テレビではできないコミュニケーションが生まれます。同じ物語でも、親が工夫して読み上げれば、そのたびに赤ちゃんは違う感想をもつはずです。赤ちゃんは絵本の内容こそ覚えていなくても親から愛情を注がれた記憶は残っていくので、良好な親子関係を築く礎ができていきます。 赤ちゃんの絵本の読み聞かせ方のポイント読み聞かせするうえでのポイントは、赤ちゃんに「感想を求めない」ことです。赤ちゃんは絵本を読んでいる間、素直に楽しんでくれているはずです。しかし、感想を聞くのは意見の強要になってしまう恐れがあり、赤ちゃんはストレスを覚えてしまいがちです。場合によっては、絵本そのものへの嫌悪感につながりかねません。 読み聞かせが終わったら、「おもしろかったね」と声をかける程度で十分です。もしも赤ちゃんが気に入ってくれたなら、感想を求めなくても笑顔になったり、繰り返し読んでほしがったりといった反応があるでしょう。 「赤ちゃんと触れ合いながら読む」ことも大切です。読み聞かせはスキンシップの時間でもあるので、ひざに乗せたり、隣に寝たりしておこなうのが理想的です。こうした習慣を続けると、赤ちゃんは絵本の内容がわかっていなくても「お母さんやお父さんと触れ合える時間」だと思ってくれるようになります。そして、読み聞かせの時間が好きになり、将来的には本そのものに興味を持ってくれます。また、親子が仲良くなるためにも欠かせない時間になるでしょう。 月齢別のおすすめ絵本生後10カ月ほどで、赤ちゃんは絵本を玩具のように捉えて楽しむことができるようになります。しかし、この時点ではまだ物語までは追えません。赤ちゃんにとって身近なものをモチーフにしたシンプルな絵本を読み聞かせるのがぴったりです。 たとえば、野菜や果物などの「食べ物」の絵本は、赤ちゃんが見たことがある絵が多く、親しみをもって見ることができます。また、乗り物の絵本も愛されやすいジャンルです。電車や車を絵本で知った赤ちゃんは、実際に自分が乗る立場になったときに感動を覚えてくれます。知的好奇心を育むうえでも、適した絵本といえるでしょう。 1歳を超えたあたりから、赤ちゃんは簡単な物語にも反応できるようになっていきます。身近なテーマを好むのは変わらないものの、リズム感やユーモアをともなったフレーズが載っている絵本をおもしろがってくれるでしょう。さらに、音が流れる仕様になっていたり、歌が出てきたりする絵本も人気です。これらの絵本はリラックス効果があるだけではなく、音感を養うこともできます。そして、1歳半ごろからは知育絵本を取り入れるのも効果的です。ごはんや着替えといった生活習慣を楽しみながら学べる絵本によってマナーを教えてあげるのもいいですね。 注意点としては、絵本選びが親の自己満足にならないことです。優先するべきは赤ちゃんの好みであり、苦手な本を無理に読まされても赤ちゃんは心から楽しめず、読み聞かせという行為そのものが苦痛に変わっていくかもしれません。赤ちゃんの好きなジャンルを意識して本を選びましょう。 まとめスキンシップとしても、教育としても絵本の読み聞かせには効果があります。10カ月経ったころから赤ちゃんは言葉を習得し始めるので、そのあたりを目安に読み聞かせを始めてみましょう。また、赤ちゃんが読んでいて共感できる内容は時期によって変わっていきます。最初は身近なモチーフの絵本から入り、徐々に物語のある絵本に変えていくといいでしょう。 ■参考・厚生労働省「お母さんと子どものコミュニケーションのために」・文部科学省「絵本で子育てを楽しく」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年10月08日今回は、卵アレルギーについての説明と離乳食を進める過程で卵を与えるときの注意点についてお話しします。 離乳食を進める過程に卵アレルギー=卵白アレルギーは起こりやすい人間の体には、体内の異物を追い出そうとする仕組みがあります。口から食べたものはこの仕組みが働きにくくなっていますが、特定の食品にはうまく働かないことがあります。これを食物アレルギーといいます。 原因となる食品を食べてすぐに湿疹やかゆみが現れるため即時型アレルギーとも呼ばれます。ときに重症のアナフィラキシーを起こすこともあります。乳幼児では、年齢とともに耐性が出てきますが、与え方や調理方法に工夫が必要です。 即時型アレルギー:食物アレルギーの典型。原因食物の摂取後2時間以内にアレルギー反応による症状(湿疹や蕁麻疹、かゆみ、鼻水、くしゃみ、目の充血など)を示す。 アナフィラキシー:原因食物の摂取後、数分~数時間以内にアレルギー反応による症状(全身に湿疹や蕁麻疹が出現、かゆみ、息苦しい、喘鳴、嘔吐、ときに意識レベルの低下) 離乳食を進める段階で、食物アレルギーを起こすことが多い食品は鶏卵です。卵黄と卵白ではタンパク質の種類が違い、卵白のタンパク質がアレルギーの原因であることが多いため、卵アレルギー=卵白アレルギーと考えます。 食物アレルギーだからといって離乳食を遅らせる必要はありません。かゆみなどの症状があれば、医師と相談し離乳食を進めます。 卵を開始するときは、20分ぐらい加熱しごはん粒1/10サイズから卵アレルギーの原因となる卵のタンパク質は加熱することでアレルギー源としての働きは弱まります。卵黄は大丈夫でも、生卵や半熟卵、加熱時間の短い卵白ではアレルギー症状が出ることがあります。 卵を初めて食べさせるときは離乳食を開始して1カ月以上経過してから(およそ生後6~7カ月ごろから)、赤ちゃんの体調が良いときに新鮮な卵を20分間加熱して固ゆでした卵黄、もしくは炒り卵をごはん粒の10分の1程度にしましょう。 初めて卵を食べさせるときや量を増やすときは、アレルギー症状が出てもすぐに受診できるように小児科が開院している時間帯(平日の昼間など)に与えるようにしましょう。 ※参考:日本小児アレルギー学会鶏卵アレルギー発症予防に関する提言2017年 卵を開始するときは卵黄から卵アレルギーの原因となるタンパク質は、加熱することでアレルギー源としての働きは弱まります。卵黄は大丈夫でも、生卵や半熟卵、加熱時間の短い卵白ではアレルギー症状が出ることがあります。初めて卵を食べさせるときは離乳食を生後5~6カ月ごろに開始して、つぶしたおかゆから与え、慣れてきたら野菜、果物を、さらに慣れてきたら固ゆでした卵黄を与えます。卵は新鮮なものを選び、かたゆでした卵黄をすりつぶして多めの水分でのばしたものを耳かき1杯程度にして与え、少しずつ増やしていきます。初めて卵を与えるときや量を増やすときは、アレルギー症状が出てもすぐに受診できるように小児科が開院している時間帯(平日の昼間など)で、赤ちゃんの体調が良いときに与えるようにしましょう。 生後7~8カ月ごろは卵黄1個~全卵1/3個、9~11カ月ごろは全卵1/2個、1歳~1歳6カ月ごろは全卵1/2~2/3個を目安に与えます。 卵アレルギーかも? と思ったら卵の加熱時間や加熱温度によってアレルギー源が弱くならず、アレルギー症状が現れることがあります。例えば、おかゆやうどんを卵とじにする場合や卵焼きを焼く場合、茶碗蒸しやプリンを加熱する場合はしっかり中まで火を通すことが大切です。ただし、しっかり火を通したつもりでもアレルギー源が弱くなっておらず、アレルギー症状が出てしまうことがあります。症状が出た場合は、小児科医あるいはアレルギー専門医の診察を受けましょう。重症度によっては、卵を完全に除去する必要がない場合もあります。また、少しずつ卵が食べられるようになっても赤ちゃんの口の周囲だけが赤くなる場合は、卵のタンパク質が肌に付着して炎症を起こしている可能性があります。その場合は、医師の指示のもと、肌を守るために口の周りにワセリンを厚めに塗ってから食べるようにすることがあります。 卵を除去したほうがいいと医師が判断した場合は、卵の代わりに肉・魚・大豆でタンパク質を補うようにしましょう。卵と卵を含む加工食品、その他の鳥の卵(うずらの卵など)は離乳食で与えないように気をつけましょう。 ハンバーグなどのつなぎなどは、片栗粉などのでんぷん、すりおろしたじゃがいもやれんこんで代用します。離乳食の準備が負担にならないように卵不使用の肉や魚の加工食品、調味料、ホットケーキミックスなどをじょうずに使いましょう。なお、卵に含まれるタンパク質と、鶏肉や魚卵に含まれるタンパク質は異なるため、鶏肉や魚卵を除去する必要はありません。 授乳中の母親が卵を食べることを控える必要はありません赤ちゃんが卵アレルギーと診断されても、授乳中の母親が卵を食べるのを控えたり、食べないようにする必要はありません。両親や上のお子さんに食物アレルギーがあった場合でも、母親が卵を食べることを制限する必要はありません。赤ちゃんが重症な卵アレルギーだったとしても、母親は卵を含む菓子類やパン類は食べてもかまわないことが多いです。 今のところ、妊娠中や授乳中の母親が特定の飲食物やサプリメントを摂取することで赤ちゃんのアレルギーを予防できる確実な方法はありません。 食物アレルギーを確実に予防できる方法はありません卵に限らず、食物アレルギーを確実に予防できる方法はありません。乳幼児期に発症した卵・牛乳・小麦などのアレルギーは3歳までに約50%、5−6歳までに約60−70%が治ります。※参考:食物アレルギー研究会食物アレルギーの診療の手引き2017 食物アレルギーに限らずアレルギーは遺伝と環境によって発症すると考えられています。生まれて間もない時期から赤ちゃんの肌を清潔に保湿して健やかに保つことや、赤ちゃんの肌に食物アレルギーを起こす食品が触れないようにすることで、アレルギー性の湿疹を予防できることがわかっています。離乳食を開始するよりも前から湿疹がある場合は、湿疹の治療を優先しながら離乳食を進めたほうがいいこともあります。湿疹や離乳食の進め方については、小児科医やアレルギー専門医へ相談しましょう。 離乳食を開始して、食物アレルギーかもしれないと思ったときは、すぐに小児科あるいはアレルギー専門医に診てもらいましょう。何をどのくらい食べたのか、どのような症状が出たのかをメモや写真でもいいので持参して受診しましょう。 原因となる食品を除去した方がいいのかなど、どのように離乳食を進めていくかについては、医師の診断が重要です。医師は卵の調理方法によるアレルギー症状の現れやすさを参考に、食べられる範囲を決めていきます。親の判断で除去はせず、赤ちゃんがアレルギー症状に悩まされることのないように医師と相談しながら離乳食を進めていきましょう。 まとめ親同士の口コミやインターネット上の情報には、食物アレルギーについて医学的根拠のない内容や体験談が含まれていて、正しい知識や必要な情報にたどり着くまで時間がかかることがあります。離乳食の進め方について相談したい場合は、居住地の保健所や保健センターの保健師・栄養士・助産師へ相談しましょう。食物アレルギーかな? と思ったら小児科医やアレルギー専門医のいる医療機関を受診しましょう。 参考:厚生労働省授乳・離乳の支援ガイド2019年改訂版日本アレルギー学会日本小児アレルギー学会鶏卵アレルギー発症予防に関する提言 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年09月30日妊娠をきっかけに、食べ物や飲み物について「これは大丈夫?」と気にされる妊婦さんがいらっしゃると思います。今回は、紅茶についてお話しします。 妊婦さんは紅茶を飲んでも大丈夫なの?紅茶にはカフェインが含まれています。カフェインには、程よい量を摂取すると交感神経を刺激して、眠気覚ましなどの覚醒作用、尿の排泄を促す利尿作用があります。ただし、妊娠中はカフェインの分解や排泄をする機能が低下すること、カフェインは胎盤を通過して胎児へ移行すること、カフェインが胎盤を流れる血流を低下させることから胎児の発育を妨げる可能性があること、また、流産や早産、低出生体重児の原因となる可能性があります。そのため、カフェインは妊娠中に大量に摂取することを控えたほうがよい成分です。 妊娠中のカフェインの摂取量の目安は、1日あたり合計200mg未満です。カフェインは紅茶だけでなく、コーヒーやお茶などにも含まれるので、下記を参考に1日の合計を200mg未満に抑えれば、妊娠中に紅茶を飲んでも大丈夫です。【カフェイン含有量の目安(100mlあたり)】玉露160mgコーヒー60mg紅茶30mg煎茶20mgほうじ茶20mgウーロン茶20mg麦茶0mg 参考:文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂) 紅茶の場合、1日にティーカップ1杯(130~150ml)程度、国内で市販されているペットボトルや缶・紙パックで市販されている紅茶飲料は、1日1本程度(内容量200~500ml)であれば飲んでも大丈夫な量です。ただし、市販されている製品によってカフェインの含有量に幅がありますので、製品の成分表示を確認しましょう。 妊婦さんが紅茶を飲むときの注意点紅茶や緑茶に含まれるタンニンの作用によって、吐き気や気分不快を起こす原因となることがあります。妊娠中につわりがある時期や胃腸の調子がすぐれないときは、紅茶や緑茶を飲む量を控えましょう。 以前は貧血と診断されて処方される鉄剤を内服する際に、お茶類に含まれるタンニンが鉄の吸収を妨げるため、お茶で飲んではいけないといわれていましたが、妊娠中に起こりやすい鉄欠乏性貧血の場合は、体内で鉄分を取り込む機能がパワーアップしているためにタンニンの影響は少ないという報告に基づいて、現在では絶対禁止にする必要性はなくなりました。ただし、つわりがある時期や胃腸の調子がすぐれないときに鉄剤を内服する際には、胃腸への負担を少なくするために紅茶や緑茶で内服することは避けたほうがいいです。 妊娠すると、書籍や雑誌、web上の情報の影響を受けて、過剰に体の冷えを気にして、紅茶などの飲み物も毎回ホットもしくは常温で飲まないといけない、冷たい飲み物は避けたほうが良いと思っている妊婦さんもいらっしゃると思います。人間は気温が変化しても体温を一定に保つ恒温動物です。寒さや暑さを感じたら、血液の流れる量を変化させたり、寒さを感じたら筋肉を震わせて体温を上げたり、暑さを感じたら汗をかいたりして、体温を一定に保つように調整しています。飲んだ飲み物の温度だけで、体温が変動するわけではありません。そのため、冷たい飲み物をまったく飲んではいけないということではなく、季節や妊娠中の時期に応じて口当たりの良い温度の飲み物を選び、リフレッシュしたり飲み物で楽しんだりする時間も取り入れていくようにしましょう。 紅茶以外の妊婦さんにおすすめの飲み物最近は、カフェインレスの紅茶飲料や茶葉が市販されています。紅茶を楽しみたいけれど、カフェインの摂取量が気になる場合には、カフェインレスの紅茶を選びましょう。カフェインを含まない代表的なお茶は、麦茶とルイボスティーです。これらは、妊娠中に安心して飲めるお茶としておすすめです。 カフェインを含まないことが特徴のハーブティーを好む妊婦さんも増えていますが、ハーブもカフェインと同じように、大量に、あるいは濃縮されたものを摂取し続けることで妊婦や赤ちゃんへ思わぬ影響(子宮筋への刺激作用、流産誘発作用など)を及ぼす可能性は否定できません。ハーブティーを飲む場合は、ハーブの効用に注意し、1日2杯程度を限度にしましょう。 まとめ妊娠中に紅茶を飲めることはわかりましたか。摂取する場合は、1日あたりのカフェインの摂取量を守って、紅茶の味や風味を楽しみながら飲みましょう。 参考:・産婦人科診療ガイドライン産科編2017・厚生労働省食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A・文部科学省食品データベース 監修者:医師 三鷹レディースクリニック院長 天神尚子 先生日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年09月28日基礎体温を記録し始めてみたけれど、基礎体温が高温期になかなか上がらない、全体的に低いような気がするなど妊娠ができるのだろうかと不安を感じたことのある方もいるのではないでしょうか。今回は、基礎体温が低いと妊娠に影響があるのか、基礎体温が上がらない原因や改善方法についてお話しします。 基礎体温とは?人間が生きるために必要最低限のエネルギーを使っているときの体温を、基礎体温といいます。食事や運動、精神状態(緊張)など体温を変動させるような条件がないときに測定される体温です。通常の生活でこの条件を満たし、必要最低限のエネルギーを使っているときは睡眠中ですが、眠っている間に体温を測ることができないため、寝起き直後で起き上がる前に測定します。基礎体温は、発熱時にわきにはさむなど皮膚温を測るタイプの体温計ではなく、口の中(舌の下)で測るタイプの体温計で測定します。女性が基礎体温を測定するために使う婦人科用体温計は、小数点以下2桁まで測定できるため、わずかな体温の変化も知ることができます。 「基礎体温が低い」とは?基礎体温は、体調や測定する時間帯、測定方法によって異なるため、たまたま測定した体温が低い、あるいは一時的に体温が低いだけでは「基礎体温が低い」とは判断できません。女性の基礎体温は月経周期に合わせて変化します。 そのため、規則的な月経周期で排卵が起きている場合は、月経開始時~排卵までの時期を低温相、排卵~次回の月経が開始する前までは高温相となります。卵巣や子宮などの機能は正常に働き、ホルモンの正常な働きかけで排卵している状態であれば、基礎体温は1回の月経周期のうちに低温相と高温相の二相性となります。低温相と高温相を通して約36~37度の間で推移して、低温相と高温相に約0.3~0.5度の体温差があります。月経周期は25~38日が正常の範囲で個人差もあります。また、年齢(思春期、性成熟期、更年期)によっても異なるため、医学的に何度以下なら低いとする定義はありません。低温相と高温相の全期間を通して低めの体温で推移している場合など、何らかの理由で基礎体温が低いと思われるときには、生活習慣の改善や治療を必要となることがあります。ちなみに、平熱が低いからといって基礎体温も低いとは限りません。体温の測り方が悪くて、測定値が低いということもあります。基礎体温が低いかどうかについては、毎日測定して記録しないと判断はできません。 基礎体温が低いと妊娠に影響する?基礎体温が低いから妊娠を妨げるのではなく、妊娠を妨げる何らかの原因があるために基礎体温は低いパターンを示します。基礎体温が低めに推移していても、低温相と高温相の二相性を示していて、排卵していれば妊娠することはできます。基礎体温の示すパターンと妊娠を妨げる原因は、以下の通りです。①低温相が続く場合は、排卵していない可能性がある。月経開始から次の月経が始まるまでの期間、ずっと低温相が続く場合は、排卵していない可能性があります。月経があっても、無排卵月経かもしれません。また、女性ホルモンの分泌が低下していることも考えられます。②高温相が短い場合は、黄体機能不全の可能性がある。高温相が10日未満で短い場合や、高温相に入っても一時的に基礎体温が下がる場合は、卵巣の働きが低下している黄体機能不全の可能性があります。排卵があって妊娠しても、受精卵がうまく育たないなど、不妊症や不育症の原因となります。低温相と高温相の温度差が0.3度未満の場合、低温相から高温相への移行が4日以上かかる場合も、黄体機能不全の可能性があります。③基礎体温が低い場合は、もともと基礎代謝が低い可能性がある。基礎代謝とは、人間が生きるために必要最低限に使われるエネルギーです。基礎代謝が低いと体に熱を作れないため、基礎体温そのものが低くなります。人間の体の深部温度は37度程度、皮膚温は周囲の環境にも左右されますが36度程度に保つことで、体の機能は正常に働きます。体温が低い状態が続くことで、内臓の働きが鈍くなる、ホルモンのバランスが崩れるなどの生理的な変化が、排卵や子宮への血流へ影響する可能性があります。この他にも、血液中の甲状腺ホルモンが低下する甲状腺機能低下症や排卵を抑えたり、生理を止めてしまう高プロラクチン血症は、疾患の治療をすることが必要です。これらの疾患は超音波検査や血液検査など詳しい検査をしないと判断できませんので、基礎体温の記録をもって産婦人科あるいは婦人科を受診しましょう。 基礎体温が上がらない場合はどうしたらいい?基礎体温を1~3カ月測定し続けて、低温相が続く場合や低温相と高温相の全期間を通して低めの体温で推移している場合は、産婦人科や婦人科へ記録を持参して受診しましょう。排卵の有無に関わらず、卵巣の機能低下によって基礎体温が低いパターンを示す場合には、まず食事、睡眠や運動など生活習慣を見直しましょう。栄養バランスのとれた適度な量の食事と、適度な時間と質の睡眠は、自律神経やホルモンのバランスを整えるために大切です。また、基礎代謝が低いために基礎体温が低いと予想する場合は、無理のない範囲で継続できる運動を日常に取り入れましょう。運動によって筋肉量を増やすことで基礎代謝量が増え、結果的に基礎体温を上げる効果が期待できます。体の冷えを改善するために、常温や温かい飲み物を飲むこと、腹巻きやレッグウォーマー、靴下を履いて体を温めると良いでしょう。また、漢方薬を使うことや鍼灸治療による効果は期待できますが、必ず国家資格をもつ専門家のもとで治療を受けましょう。基礎体温が上がらない原因は、病院で詳しい検査を受けないとはっきりとわからないこともあります。冷えの改善に役立つといわれる特定の食材やサプリメントの効果に期待したり、医学的な診断のないまま科学的根拠のない民間療法だけに頼ることは避けましょう。 まとめ妊娠を希望している方は、基礎体温が低いと妊娠できるのだろうかと心配になりますよね。基礎体温について気になることがあれば、3カ月分の記録を持参して産婦人科あるいは婦人科を受診しましょう。また、食事や運動、生活スタイルの変更をストレスに感じない程度に取り入れられると良いですね。 参考:・産婦人科診療ガイドライン産科編2017・婦人科乳腺外科疾患ビジュアルブック学研・日本産婦人科医会4.排卵の予測 監修者:医師 三鷹レディースクリニック院長 天神尚子 先生日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年09月26日今回は、0~2歳ころまでの赤ちゃんに起こりやすいアレルギーについてお話しします。 赤ちゃんに起こりやすいアレルギーの原因とは?アレルギーとは人の体には、自分と異物を区別して異物を追い出す仕組みがあり、細菌やウイルスなどの病原体から体を守る免疫システムが備わっています。ところが、花粉や食べ物など病原体ではないものに対しても免疫反応を起こしてしまうことがあります。これがアレルギーです。 アレルギーを起こす物質(アレルゲン)に対してIgE(アイジーイー)という抗体(免疫が使う武器のようなもの)が作られることが、アレルギー反応の始まりです。 初めてアレルゲンが体内に入ったときに、免疫細胞がIgE抗体を作り、次にアレルゲンが体内に入ってきたときに備えます。次にアレルゲンが入ったとき、体内の細胞はヒスタミンなど化学伝達物質などを出して攻撃します。この攻撃が過剰になるとアレルギー症状が起こります。 赤ちゃん(0~2歳)に起こりやすいアレルギー症状0~2歳の赤ちゃんに起こりやすいアレルギー症状は以下の通りです。 ・皮膚や目の周囲の症状皮膚の赤み・湿疹・かゆみ・じんましん目の赤み・かゆみ・充血・目がゴロゴロする・消化管症状気持ちが悪い・吐く腹痛・下痢、血便 ・呼吸器症状水っぽい鼻水・くしゃみ・鼻づまりせき・ゼーゼーやヒューヒューという呼吸(喘鳴)息苦しい 赤ちゃんに起こりやすいアレルギー0~2歳の赤ちゃんに起こりやすいアレルギーは、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎です。 ・食物アレルギー赤ちゃんに起こる食物アレルギーの原因は、鶏卵・牛乳・小麦の割合が高いです。離乳食で初めての食材を与えるときに、食物アレルギーを起こすのではないかと心配する親御さんもいるでしょう。食物アレルギーは成長すると多くは治ることが多いので、アレルギーがある食物を与える時期や方法は小児科医へ相談してください。 生後間もない時期から湿疹がある、アトピー性皮膚炎と診断されている、深刻な食物アレルギーをもつご家族がいる場合は、離乳食開始前や新たに与える食品を増やす前にかかりつけの小児科医に相談しましょう。 赤ちゃんの口の周囲だけが赤くなる場合は、食品の成分が肌に付着して炎症を起こしている可能性があります。その場合は口の周りにワセリンを厚めに塗ってから食べるようにすると、肌を守ることができます。 もし、食物アレルギーが起きたら、食べた後2時間以内にアレルギー反応による皮膚症状(湿疹やじんましん、かゆみ、鼻水、くしゃみ、目の充血など)を示すことが多いです。自然に症状が落ち着かず、嘔気や嘔吐、下痢、血便、機嫌が悪い、息苦しさ、ぐったりしているなどの症状があれば、速やかに受診しましょう。 ・アトピー性皮膚炎生後間もない時期は乳児湿疹が起こりやすいため、月齢が小さいうちにアトピーかどうか気にされる親御さんもいると思います。赤ちゃんの皮膚トラブルは清潔と保湿を継続することで改善されるので、日常的にスキンケアに励みましょう。基本的な沐浴や入浴の方法、保湿方法がわからない場合は、保健所や保健センターにいる保健師や助産師へ相談しましょう。 もし、スキンケアを続けているのに湿疹がなかなか治らない、赤ちゃんの皮膚に合う保湿剤がわからないなど気になる症状などで相談したい場合は、小児科あるいは皮膚科を受診しましょう。 赤ちゃんのアレルギーを予防するためにできること生まれて間もない時期から肌を清潔に保つスキンケアを続けることで、アレルギーの発症を予防できないかという研究が世界中で進められています。乳児期から幼児期に、アレルギーの原因物質が食べ物からハウスダストやダニに変化していくとされているので、生活環境を清潔に保つこともアレルギーを予防するために大切です。 皮膚を健康的に保つことで、皮膚から体内にアレルギーの原因物質が侵入するのを防ぎ、喘息の発症を予防できる可能性があります。 赤ちゃんに起こりやすい食物アレルギーやアトピー性皮膚炎について、医療に頼らないで治ると謳う健康法や健康食品などの情報が世間に出回っていますが、科学的根拠のないものも多いです。離乳食の開始を遅らせる、特定の食品だけを食べるあるいは除去する、妊娠中や授乳中の母親が食事制限をするなどの方法はどれも科学的根拠はなく、赤ちゃんのアレルギー症状に対して治療効果があるものではありません。適切な医療から遠ざける情報を鵜呑みにしないように気をつけましょう。 赤ちゃんにアレルギーの検査は必要ありません症状がなければ赤ちゃんにアレルギー検査は必要ありません。どのような食材でもアレルギー症状を起こす可能性があります。保険診療内で調べられる食材といっても何十種類もありますが、アレルギー検査でアレルギーがあるとわかっても、なんの症状も起こらず食べられることもあります。0~2歳児の場合、アレルギー検査の結果と症状が一致しないことがあります。また、多少のアレルギー症状があっても、食べ続けることで症状が出にくくなることもわかっています。 深刻な食物アレルギーをもつご家族がいてアレルギーについて心配な場合は、小児科医あるいは皮膚科医へ相談しましょう。 食物アレルギーの有無を診断するという目的でIgG(アイジージー)抗体を調べることをすすめる医療機関や検査機関がありますが、この検査は日本小児アレルギー学会では推奨していません。海外のアレルギー学会でも、意味のない検査として公式に否定されています。 IgG抗体はアレルギーのない健常な人にも存在します。アレルギーを起こす物質に対して作られるIgE(アイジーイー)抗体とは異なりますので、検査項目や説明に惑わされないように注意してください。 まとめ2歳ごろまでの赤ちゃんに起こりやすいアレルギーは食物アレルギーとアトピー性皮膚炎です。アレルギーを予防するために、生後間もない時期からスキンケアを続けて、皮膚を健やかに保ちましょう。気になる症状があれば、小児科あるいは皮膚科を受診して相談しましょう。 参考:・厚生労働省授乳・離乳の支援ガイド2019年改訂版・日本小児アレルギー学会・日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会作成 食物アレルギー診療ガイドライン2016ダイジェスト版・公益財団法人日本アレルギー協会 原稿監修/松井 潔先生(小児科医・ 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長) 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー。大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年09月20日妊娠中に、なんだか胃の調子が良くない、胃がムカムカする、胃が痛いなどの症状が起きたことのある妊婦さんも多いのではないでしょうか。妊娠中は、胃の調子が悪くなりやすいです。そのため、今回は妊娠中に起こりやすい胃の不調の原因や胃薬の服用、注意したい胃の不調についてお話しします。 妊娠中に胃の調子が悪くなるのはなぜ?妊娠中の生理的な変化によって胃の調子が悪くなりやすい理由は、以下の5点が挙げられます。 ①妊娠を維持するホルモンの作用妊娠すると、妊娠を維持する作用をもつプロゲステロン(黄体ホルモン)とリラキシンいうホルモンがお母さんの体の中で増加します。このホルモンは、消化器系の筋肉の運動を緩めさせて、腸の動き(蠕動運動)を抑制する作用があります。これは、食べ物を胃や腸内をゆっくりと時間をかけて移動させることで、効率よく栄養の吸収をするためですが、時に消化不良を招くこともあります。食道と胃の境界にある筋肉が緩むと、食べ物が胃液と共に胃から食道へ逆流して胸やけが起こることもあります。妊娠週数が進むと大きくなる子宮が胃を押し上げるため、なんだか胃の調子が悪い、胃がムカムカする、胃が痛いなどの症状が起こりやすいです。 ②食生活の変化妊娠初期はつわりがあるときに、水分を多く含む食品や冷たい飲み物を大量に摂取することで、胃腸が刺激され消化不良になり調子が悪くなることがあります。妊娠中期以降は、食べる量の変化や、胎児の成長と共に子宮が胃腸を圧迫することで、消化不良を起こしやすく、なんだか胃の調子が悪い、胃がムカムカする、胃が痛いなどの症状が起こることがあります。胃の調子が悪いときは、できるだけ脂肪の少ない食品をやわらかく調理した食事を摂るように心がけましょう。酸味や辛味の強い料理、水分の多い食品、乳製品、炭酸飲料は、胃腸に対する刺激が強いので控えめが良いでしょう。 ③つわりで何度も嘔吐を繰り返す、嘔吐物に血液が混じるつわりで何度も吐くことで、胃の調子が安定しないことがあります。何度も繰り返し吐くことで、食道と胃の境界付近の粘膜が傷つき、血を吐くことがあります。この状態をマロリーワイス症候群といいます。妊婦さんが繰り返し吐いてマロリーワイス症候群となった場合、血を吐くといっても実際に交じっている血液は少量で、直ちに赤ちゃんの生命や母親の健康に危険が及ぶというわけではありません。しかし、胃の不調があって血液混じりの嘔吐をする場合は、つわりが重症で最低限の体の中のバランスが崩れていることが多いので、早めに産婦人科を受診しましょう。 ④鉄剤の内服による副作用妊娠中は貧血になりやすいですが、病院で処方された鉄剤を内服し始めたばかりの時期に、なんだか胃の調子が悪い、胃がムカムカする、胃が痛いなどの副作用が起こることがあります。共に処方された鉄分の吸収を促すビタミンCを含むビタミン剤を内服することで、消化不良が助長されるケースもあります。鉄剤は胃酸の影響を受けるため、胃薬(胃粘膜保護剤)と共に内服する、あるいは内服のタイミングを工夫する(例:食後ではなく、食間や睡眠前に内服する)ことで、副作用である胃のムカつきや胃痛などの消化器症状を抑えることもできます。鉄剤を内服し始めてから胃の調子が悪いと感じる場合には、次回の妊婦健診を待たずに医師や助産師へ相談しましょう。 ⑤精神的なストレス妊娠に伴う緊張感や生活環境から受けるストレスによって自律神経が乱れ、胃の調節機能が働かなくなることがあります。本来食物を消化するときに分泌される胃酸が、食物がないときにたくさん分泌されることで、自分の胃粘膜を攻撃して胃痛が起きたり、胃もたれや胸やけなどが起きる原因となります。 妊娠中に胃の不調…胃薬を飲んでも大丈夫?妊娠中は生理的な変化によって胃の調子が悪くなりやすいですが、自己判断で市販の胃薬を内服したり、自然治癒を期待して受診せず症状を長引かせたりすることはやめましょう。 なぜ胃の不調が起きているか原因は診察しないとわかりません。胃薬には、胃酸の分泌を抑えるタイプ、胃酸を中和するタイプ、胃粘膜を保護するタイプなど数種類あります。医師が診察をして原因に合わせた処方をしますので、市販の胃薬や過去に処方された胃薬を自分の判断で内服しないようにしましょう。 妊娠中に一般的に処方される胃薬の主成分の一般名と代表的な商品名は以下の通りです。 ・制酸剤一般名:乾燥水酸化アルミニウムゲル水酸化マグネシウム(商品名:マーロックス)・防御因子増強剤一般名:スクラルファート(商品名:アルサルミン)一般名:テプレノン(商品名:セルベックス)一般名:アズレン L- グルタミン(マーズレン S)一般名:レバミピド(ムコスタ) 以下のH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬は、胃酸分泌を抑える効果が高く、胃酸過多の状態にはとても有効な薬剤です。妊娠中でも、必要性があれば使用しても良い薬剤(一般的に有益性投与と呼ばれています)に分類されていますし、FDA(米国食品薬品局)の安全性カテゴリー分類でもほぼ安全とされていますが、担当の医師と相談し慎重に使用するのが良いでしょう。 ・H2受容体拮抗薬一般名:ファモチジン(商品名:ガスター)一般名:シメチジン(商品名:タガメット)・プロトンポンプ阻害薬一般名:ランソプラゾール(商品名:タケプロン) つわりや胃部の不快感などに、漢方薬も広く使用されています。小半夏加茯苓湯、五苓散、六君子湯などが用いられていますが、漫然と使い続けるのは避けましょう。 妊娠中の禁忌薬についてプロスタグランデイン製剤(商品名:サイトテック)や制吐剤(商品名・ナウゼリン)などのように妊娠中には、使用禁忌の薬剤もありますから、いずれのお薬を使用するにしても、勝手に使うのではなく、担当の先生ときちんと相談してから使うようにしましょう。※参考:薬物治療コンサルテーション妊娠と授乳第2版南山堂 有益性投与について胃薬を含めて多くの薬剤は、製薬メーカーの説明書では、妊娠または妊娠の可能性のある婦人は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとあります。このような表示ではそれら薬剤の使用はほとんど問題ないのですが、医師や薬剤師に相談しましょう。 胃痛以外に症状があったら要注意!妊娠中に胃が不調となることは珍しいことではありませんが、妊娠経過に影響することもあるため見過ごしてはいけない症状でもあります。下記のようなケースは早期発見と治療が大切です。 ・細菌やウィルスなどの感染の可能性がある。妊娠中は抵抗力が弱まり、妊娠していない状態よりも細菌やウィルスなどに感染しやすいため、食中毒や胃腸炎を起こすことがあります。胃やおなかが痛いだけでなく、嘔吐や発熱を伴う場合は、早めに産婦人科へ受診しましょう。やむを得ず、内科や消化器内科など他の診療科や医療機関を受診する場合は、妊娠していることを伝えて診察を受けましょう。・HELLP(ヘルプ)症候群の可能性がある。HELLP(ヘルプ)症候群とは、赤血球が壊されること、肝機能の悪化、血小板の減少を特徴とした母子の生命が急激に危険な状態になる疾患です。HELLPは、Hemolysis(溶血:血液中にある赤血球が破壊されること)Elevated Liver enzyme(肝酵素上昇:肝臓の機能が悪くなること)Low Platelet(血小板減少)の頭文字に由来しています。 多くは妊娠高血圧症候群に合併して起こりますが、合併がなく突如発症することもあります。明らかな原因は不明ですが、症状を放っておくと臓器にダメージを与え母親の命にも関わる病気なので、妊娠を終了させること=出産することが唯一の治療方法です。 HELLP症候群は、主に妊娠後期(妊娠28週以降)~出産後48時間以内に起こることが多く、突然胃痛(心窩部痛)に襲われ、疲労感や吐き気・嘔吐、下痢の症状を伴います。妊娠中に起こりやすい症状と似ているため、単なる体調不良や風邪と思ってしまう妊婦さんもいますが、母子の生命を守るためには早期発見と治療が大切です。突然胃痛が起きて身動きがとれない、吐き気や嘔吐など症状がある場合は、直ちに産婦人科へ受診しましょう。 まとめ妊娠中は、胃の不調が起きやすいですが、自己判断で市販の胃薬を飲んだりせずに調子が悪いときは医師の診察を受けて適切な治療を受けましょう。対策を取ることで、症状は軽減できますので、無理をしないようにしましょう。 参考:・産婦人科診療ガイドライン産科編2017・薬物治療コンサルテーション妊娠と授乳第2版南山堂・医薬品情報データベース 監修者:医師 医療法人至誠会 梅田病院院長 北川 博之 先生昭和56年愛媛大学医学部卒業。その後愛媛大学付属病院にて産婦人科講師、助教授として勤務。愛媛県立医療技術大学教授を経て、平成20年より現職の梅田病院に院長として就任。現在も愛媛大学、広島大学などで非常勤講師として教育にも従事。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年09月18日だんだんおなかが大きくなってくると、どの妊婦さんにも仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)が起こる可能性があります。今回は、仰臥位低血圧症候群についてお話しします。 仰臥位低血圧症候群とは?(病態・生理・原因など)仰臥位とは、あお向けの姿勢という意味です。妊娠中期以降、母体が仰臥位になると、大きくなった子宮が下大静脈を圧迫して、急激に血圧の低下を引き起こすことがあります。そのことを仰臥位低血圧症候群といいます。 大きくなった子宮が下大静脈を圧迫し、心臓へ戻る血液が不足すると、心臓から全身へ送りだす血液の量が減るため、低血圧になります。血液によって運搬される酸素が不足して、母体に下記のような症状があらわれます。 ・顔面蒼白・めまい・気分不快・意識が薄れていくように感じる・胃がムカムカする・嘔吐・冷や汗・呼吸がしづらい 下大静脈は、下半身から心臓へ戻る血液が通る大血管で、母体の脊柱の右側を走行しています。意識が薄れていくなど不快症状が起きたら、すぐ左側臥位(母体の左側を下にして横向きになる)の姿勢にして、下大静脈の圧迫を取り除くことで、直ちに症状が回復します。姿勢を変えることで、不快な症状が消失すれば、普段通りに過ごして良いです。 赤ちゃんの胎動を感じられる週数であれば、その日はいつも通り胎動があるかを気にかけるようにしましょう。もし、いつもより胎動が少ないように感じる場合は、かかりつけの産婦人科へ電話相談、あるいは受診しましょう。左側臥位になっても症状が改善しない場合は、低血圧が理由とは限りません。早めにかかりつけの産婦人科へ電話相談、あるいは受診しましょう。 仰臥位低血圧症候群が重症化した場合、呼吸ができなくなる、意識を消失する、脈拍が触れにくい、けいれんが起こるなどのショック症状を引き起こします。その場合は、直ちに医療的な処置が必要です。ここでいう「ショック」とは、血圧低下によって生命の危機が起こるという意味の医学的用語です。日常会話で用いる「ショック=精神的に衝撃を受ける」という意味とは異なりますのでご注意ください。 仰臥位低血圧症候群による母子への影響仰臥位低血圧症候群になると、母体だけでなく胎児への酸素供給も不足します。胎児は一時的に酸素不足になっても、生命維持に大切な脳や心臓への酸素供給を優先させることができるので、母体が直ちに左側臥位になることで症状が消失すれば、胎児もいつも通りの状態に戻ります。胎児の酸素不足が重症化すると、胎児機能不全が起こる可能性があります。胎児機能不全とは、子宮の中で過ごす胎児が元気とはいえない状態のことです。 仰臥位低血圧症候群はどの妊婦さんにも起こり得ますが、母体だけでなく胎児の健康状態にも影響するため、予防的に過ごすことが大切です。 仰臥位低血圧症候群が起こりやすい状況と対応【自宅】自宅で寝転んでくつろぐときは、抱き枕や大きめのクッション、丸めた布団などを利用して仰臥位以外の楽な姿勢で過ごしましょう。あお向けに近い姿勢で過ごすときは、母体腹部の右側にタオルやクッションを置くなどの工夫をしましょう。 【病院】妊婦健診の際に、平らなベッド上に仰臥位のまま腹部エコーをおこなうことがありますが、診察中に気分が悪くなったら、すぐに医師へ伝えましょう。また、胎児心拍や陣痛を測定するモニター中に仰臥位低血圧症候群を予防するため、セミリクライニング(頭部側を30度程挙上した状態)でモニターをおこなうところや、母体腹部の右側にタオルやクッションを置くなどの工夫をするところがありますが、体勢や胎動の影響で予防しきれないこともあります。モニター中に気分不快があれば、すぐにナースコールなどで助産師や看護師へ知らせましょう。 【歯科医院】妊娠中の歯科検診や歯科治療は、早産や低出生体重児予防に大事だといわれています。妊婦を対象とした治療に慣れている歯科医院であれば、仰臥位は避けて、背もたれの角度を調整し、こまめに休憩をとれるように対応してくれるでしょう。受診の際には、妊娠中であることを伝え、途中で気分不快などが起きた場合には、遠慮なく歯科医師や歯科衛生士へ伝えましょう。 【美容院】利用する際に妊娠中であることを伝えましょう。シャンプー中などに途中で気分不快などが起きた場合には、遠慮なく担当の美容師へ伝えましょう。あお向けの姿勢で気分不快などが起きたら、直ちに左側臥位になれるよう、事前に伝えておくのもいいでしょう。 【その他、サロンや運動施設など】妊婦を対象にしたリラクゼーションサロンや運動施設では、仰臥位低血圧症候群について予備知識がないこともしばしばあります。施設情報や口コミなどで事前に情報収集し、予防的に対応する体制が整っていない、あるいは仰臥位低血圧症候群について伝えても理解を示してくれない場合は、母子のためにそのサロンや施設は利用しないという判断も大切です。 まとめ仰臥位低血圧症候群は、おなかの膨らみが大きくなってきたら、どの妊婦さんにも起こり得ます。日常生活の中で予防的に過ごすことで、また、もしも症状が起きたときの対応の仕方を知っていれば、特に大きな影響を与えることはありません。ただし、仰臥位低血圧症候群の悪化は、母体だけでなく胎児の健康状態にも影響しますので、仰臥位低血圧症候群の予防法や対策をしっかり知ったうえで、妊娠生活を送ってください。おなかが大きくなることで、自然と自分にとって楽な姿勢を取るようになってきますが、背中の右側を圧迫する姿勢は、普段から避けるようにするといいですね。 参考:・産婦人科診療ガイドライン産科編2017・妊婦スポーツの安全管理基準日本臨床スポーツ医学会誌 Vol. 13 Suppl., 2005・最新産科学正常編著:荒木勤文光堂・最新産科学異常編著:荒木勤文光堂・日本救急医学会・日本自己血輸血学会 監修者:医師 三鷹レディースクリニック院長 天神尚子 先生日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年09月16日妊娠をきっかけに、くしゃみ、鼻水、鼻づまりが起きた妊婦さんのために、今回は妊娠中に起こりやすい鼻炎についてお話しします。 妊娠中に鼻炎が起こりやすい理由妊娠すると、妊娠を維持するためのホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の濃度が高くなり、妊娠16週以降は母体の循環血液量が増加するため、鼻の粘膜への血流が増えます。その結果、粘膜自体がうっ血して、くしゃみや鼻水、鼻づまりの症状が出やすい状態になります。鼻の粘膜がやわらかく腫れるため鼻血が出やすくなったり、鼻をかむ回数が増えることで中耳炎にかかったりする妊婦さんもいます。 妊娠をきっかけに起こる鼻炎を、妊娠性鼻炎といいます。妊娠性鼻炎は、出産後数週間で治ります。妊娠性鼻炎の主な症状は鼻づまりで、風邪などの感染症やアレルギー性鼻炎とは区別して治療します。しかし、妊娠性鼻炎が起きる妊婦さんには、妊娠前からアレルギー性鼻炎があることも多く、その場合は鼻づまりだけでなく、くしゃみや鼻水の症状も伴います。 妊娠してから、くしゃみや鼻水が止まらない、鼻づまりで息苦しいと感じたら、次回の妊婦健診を待たずに早めに産婦人科を受診しましょう。アレルギー性鼻炎がある妊婦さんは、かかりつけの耳鼻科へ受診する際に、必ず妊娠中であることを伝えましょう。また、妊娠前に処方された内服薬や点鼻薬を、自己判断では使用せずに受診しましょう。そして妊娠中は、胎児に与える影響を考えた治療が必要です。医師の診断を受けずに、自己判断で市販薬を使用することや、民間療法だけに頼ることはやめましょう。 妊娠中の鼻炎 治療方法は?妊娠週数や鼻炎の症状に合わせた治療をします。 妊娠12週未満は、赤ちゃんが人間のかたちに発育していく重要な時期のため、医師の判断で点鼻薬や内服薬の使用は控えることがあります。胎盤が完成する妊娠16週以降から出産までの間に鼻炎の症状が日常生活に影響する場合は、胎児に影響の少ない鼻噴霧用ケミカルメディエーター遊離抑制薬や鼻噴霧用ステロイド薬などが処方されます。鼻噴霧用の薬の使用量はごく少なく、全身への影響は少ないため、妊娠中でも安心して使用できます。処方される薬について心配なことがあれば担当医へ質問しましょう。 妊娠中の鼻炎 症状を和らげるためのセルフケアくしゃみは、外界から侵入した異物を排出するために起こります。妊娠中にくしゃみを繰り返すと、おなかが張りやすくなったり、尿漏れが起きたりすることがあります。また、空気が乾燥していると、鼻の粘膜から水分が奪われやすいため、鼻づまりが起こりやすくなります。蒸しタオルを鼻部分に当てると蒸気で鼻づまりを和らげるので、妊婦さんにはおすすめです。アレルギー性鼻炎であれば、アレルギーを引き起こす物質が鼻の中に入る量を減らしましょう。 鼻炎の症状を和らげるために、自分でできることは以下の通りです。・室内の温度20~25℃、湿度50~60%に保つ・鼻炎の症状があるときは、なるべく人混みを避ける・外出するときは、マスクやメガネを着用する・室内を掃除するときやホコリが舞う場所では、マスクを着用する・ハウスダストやダニを避けるために、布張りのソファー、カーペット、畳の使用をやめる・花粉情報や気象情報を活用しながら、部屋の換気や掃除をして、室内や寝具の清潔を保つ・花粉の飛散が多い時期は、窓や戸を開ける回数を減らす・ペットを飼っている場合は、ペットとペットの飼育環境を清潔に保つ・寝室にペットは入れない まとめ妊娠中は、鼻炎を起こしやすい状態になります。くしゃみや鼻水、鼻づまりに悩むときは、早めに産婦人科もしくは耳鼻科に受診しましょう。 参考:・産婦人科診療ガイドライン産科編2017・耳鼻咽喉科学会診療ガイドライン/手引き・マニュアル・妊娠とアレルギー性鼻炎(XV. 妊娠とアレルギー疾患,専門医のためのアレルギー学講座)米倉 修二, 岡本 美孝・鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会編『鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症―2016年版』 ◆関連動画出産ドキュメンタリー 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年09月12日ほとんどの妊婦さんは、妊娠中になるべく薬を飲まないほうがいい、薬に頼りたくないと考えていることでしょう。今回は、妊娠中に使用する咳止めの薬についてお話します。 妊婦さんの咳の原因人は妊娠すると、抵抗力が落ちてしまいます。季節の変わり目や風邪の流行期、職場や同居する家族から妊婦へ感染しやすくなり、その一つとして咳症状が起こることがあります。妊娠中に咳が出る原因として、下記が挙げられます。 ■乾いた咳:乾性咳嗽(空咳)、痰がからまない・上気道炎(いわゆる風邪):気道の充血や浮腫がきっかけとなり咳がでる。・温度の刺激によるもの:室内と室外の温度差をきっかけに咳がでる。・匂いの刺激によるもの:タバコや香水、食べ物などの匂いをきっかけに咳がでる。・胃酸の逆流によるもの:胃液が食道まで逆流して咳がでる。胸やけなどの症状を伴う。・緊張による意識的な咳:緊張などの精神的興奮が咳を起こす。 ■湿った咳:湿性咳嗽、痰がからむ・急性気管支炎(いわゆる風邪が悪化した状態):ウィルスの感染によるもの。・インフルエンザ:流行期に感染して起こる。 その他、気管支喘息、咳喘息、鼻炎や副鼻腔炎、花粉症などによって、咳の症状が長引くケースがあります。 妊娠中に咳が出る場合はどうしたらいい?妊娠中に咳が続くことで、肋骨の痛みや全身筋肉痛が出現したり、腹圧がかかることで尿漏れやお腹の張りを引き起こしたりすることがあります。咳が出始めて2~3日間経過しても症状が治らない時、咳の症状が日常生活や睡眠を妨げる時は、次の妊婦健診を待たずに、早めにかかりつけの産婦人科へ相談・受診しましょう。もともと喘息があり、症状が出た場合は、早めにかかりつけの医療機関へ受診する必要があります。周囲でインフルエンザなど感染症が流行っている場合は、他の妊婦さんへの感染を防ぐために、受診前に産婦人科へ電話してから受診するようにしましょう。やむを得ず、他の医療機関を受診する時には、必ず妊娠中であることを伝えてから診察を受けましょう。診断や治療方法を決めるために、必要に応じて微量の放射線を照射する胸部のエックス線検査(レントゲン検査)が行われることもありますが、母親の胸部に限定して撮影するため、赤ちゃんの健康状態への影響はほとんどありません。 妊娠中は咳止めの薬を飲んでもいいの?医療機関で診察を受けて、妊娠中に使用可能な咳止め薬を処方してもらったのであれば、内服していいです。妊娠経過を把握している産婦人科へ受診して、咳の症状に合わせた薬を処方してもらいましょう。 妊娠中に使用する薬が妊娠経過やお腹の中の赤ちゃんに影響するかどうかは、使用する妊娠週数によって異なります。妊娠中に使用した薬が、母親と赤ちゃんに対してどの程度影響するのか、障害を与えるのかについては、薬の成分の大きさ(分子量)や血液への混ざりやすさ、体内の移動方法、化学的あるいは物理的な特徴、胎盤を通過して赤ちゃんまで届くのかなど多くの細かい条件が関係しています。妊娠経過は個々によって異なるため、自己判断で対処すると、母体や胎児の成長発達に影響を与えてしまう可能性があります。薬局やドラッグストアなどで市販されている咳止め薬を自己判断で使用するのはやめましょう。 一般的に咳止めのために処方される薬は、鎮咳薬といいます。鎮咳薬には、咳の起きる反射そのものを抑える中枢性鎮咳薬と、痰を抑えたり、のどの炎症を鎮めたりと、咳の起こるきっかけを和らげるための末梢性鎮咳薬があります。咳の症状に合わせて処方されますので、薬の効果や副作用について心配なことがあれば医師と相談しながら使用しましょう。妊娠中に使用可能な薬は下記のとおりです。※下記の薬の名前は一般名といわれるものですので、処方された薬の製品名と異なる場合があります。 【妊娠中に使用可能な薬】鎮咳薬:デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物ジメモルファンリン酸塩去痰薬:ブロムヘキシン塩酸塩アンブロキソール塩酸塩漢方薬:麦門冬湯小青竜湯(麻黄含有※長期不可) また、日頃から風邪対策のために、あるいは咳予防のために、うがい薬を使用する妊婦さんがいますが、実際は水で十分です。うがい薬には、ポピドンヨードというヨウ素を含むものがあり、普段の食事で摂取できる量よりも多いヨウ素を母体が吸収するきっかけとなってしまいます。ヨウ素の大量摂取は、胎児の甲状腺機能の低下を招くことがあるため、うがい薬の使用は避けましょう。 薬に頼らない咳止めの方法はあるの?咳の症状に悩まされている状況で、薬に頼らない方法を模索する妊婦さんは多いかもしれません。しかし、咳が出ている原因を特定しない限り、咳そのものを止めるのに時間がかかることがあります。咳を止める方法とはいえませんが、咳の症状を和らげるために、気道の粘膜を刺激する物質や匂いはさける、室内の温度や湿度を調整する、飴をなめたり、こまめに水分補給したりは効果的です。 また、咳を抑えるために、意識的に咳をこらえることはやめましょう。体外に出せなかった痰などの分泌物が気道内に溜まることで、呼吸しづらくなったり、呼吸するためのエネルギーが必要になったりするため、更なる体力の消耗を招きます。妊娠中に起こる病気は、母体のみならず胎児にも影響します。薬の使用を避けるために受診を拒んだり、なにも対処せず時間の経過と共に自然に治ることを期待したり、医療機関を受診しないでも症状が治るかのように説明する民間療法だけに頼ることは避けましょう。 まとめ妊娠中は抵抗力が弱るため、風邪などを引きやすい状況にあります。その中でも妊娠中の咳症状に対してお話してきました。妊娠中に使用できる薬はあります。咳の症状が2~3日間様子をみても治まらない場合は、次の妊婦健診を待たずに、早めにかかりつけの産婦人科へ相談しましょう。何事も、早めの対応が必要です。 参考:・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」・日本呼吸器学会「咳嗽に関するガイドライン第2版」 監修者:医師 三鷹レディースクリニック院長 天神尚子 先生日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。
2019年09月04日妊娠をしてから無性に氷を食べたくなる症状に悩んだことのある妊婦さんもいるのではないでしょうか。今回は、氷を食べずにいられない氷食症の原因や妊娠経過、赤ちゃんに影響があるのかについてお話しします。 妊婦さんが氷を食べずにいられない氷食症とは?氷食症とは、氷や凍らせたものを食べずにいられない異食症の1つです。異食症とは、栄養にならないものを毎日持続して1カ月以上食べる病気です。通常、異食症は子どもに多いですが、思春期以降の成人や妊娠中に見られることもあり、医学的に危険なほど栄養にならないものを摂取する場合にのみ異食症と診断します。 妊娠中の異食症として代表的なものが氷食症です。食べる氷の量に個人差はありますが、製氷皿1皿以上を毎日食べ続ける場合を氷食症と診断します。これは、暑い季節に毎日かき氷やアイスを食べている場合や、つわりで水分を摂れないために氷の欠片だけを食べているという場合には、妊娠経過が順調で医学的に危険でなければ氷食症と診断しません。 妊娠中に氷食症の起こる最も多い原因は、体内の鉄分が不足する鉄欠乏性貧血と関係しています。妊娠によって起こる主な貧血は鉄欠乏性貧血ですが、なぜ、鉄欠乏性貧血が氷食症を引き起こすのかは十分に解明されていません。脳神経細胞内の鉄含有酵素の鉄分不足が体温調節をコントロールできず、口の中の熱感を取り除くために氷を食べる説や、妊娠によって口腔粘膜や味蕾の変化が起こり氷を食べる説があります。 妊娠中や授乳期の鉄欠乏性貧血の起こりやすい女性に、一時的に食事や味覚のパターンの変化として氷食症は出現するため、まれなものではありませんが不明な部分も多い病気です。 妊娠中の貧血と氷食症 いつわかる?貧血とは、血液中の赤血球や赤血球中にあるヘモグロビンが正常値より少ない状態をいいます。急に立ち上がったり、立ち続けることでめまいや立ちくらみが起こるのは、一時的な起立性低血圧によるもので、貧血とは異なります。めまいや立ちくらみなど似た症状が起きるため一般的に間違えられやすいですが、貧血と起立性低血圧は全く違う病気です。貧血の有無は血液検査をすればわかります。 妊婦健診では、一般的に妊娠初期(目安:妊娠12週未満)、中期(目安:妊娠24~30週ごろ)、後期(目安:妊娠36週前後)の計3回、血液検査をおこないます。妊婦さんの場合、ヘモグロビン濃度11.0g/dl以下、ヘマトクリット値33.0%以下のときに貧血と診断し、食事療法や鉄剤の投与などの必要な治療をおこないます。 妊娠初期(妊娠16週ごろまで)は、つわりによって十分な食事を摂れないことで、鉄分が不足して貧血が起こりやすい時期です。妊娠前の月経時の血液量が多い(過多月経)ために日常的に鉄分不足があった女性が妊娠した場合は、妊娠初期から鉄欠乏性貧血が起こることがあります。 妊娠中期以降(特に妊娠20週以降~)は、お母さんの体の循環血液量が増加することにより血液が薄まった状態で、赤血球を作るために必要な鉄分や葉酸の必要量も増すために、生理的に貧血が起こりやすい時期となります。 妊婦健診へ定期的に通い血液検査を受けて、鉄欠乏性貧血と診断された場合に適切な治療を受けていれば、氷食症になることは防ぐことができますが、貧血の重症度と氷食症の程度は必ずしも関係しているわけではありません。 鉄欠乏性貧血が原因で氷食症となっている場合は、鉄剤を内服して1〜2カ月経過すると氷を食べずにいられない生活から抜け出せます。貧血の改善をしても氷を食べずにいられない生活が続く、あるいは鉄欠乏性貧血がないにも関わらず氷を食べずにいられないという場合は、家庭や職場などの日常生活に何らかの強いストレスを感じて、妊婦さん本人が自分の食事のコントロールができなくなっている可能性があります。 もし、毎日氷を食べずにいられない状況であれば、妊婦健診のときに医師や助産師に相談しましょう。血液検査の結果で貧血でなかったとしても「毎日氷を食べずにいられない」「自分で氷を食べるのを止められない」という症状に隠れた理由を見つけられるかもしれません。 氷食症は妊娠経過や赤ちゃんに影響する?氷食症そのものが、妊娠経過や赤ちゃんに直接影響するとはいえませんが、氷食症を起こすきっかけとなる貧血に対する治療は必要です。また、氷食症を長引かせることで起こるお母さんの体への影響に対しても治療は必要です。 妊娠中の貧血が赤ちゃんに与える影響として、胎児発育不全(胎児の発育が標準より遅いあるいは停止する状態)や低出生体重児(出生時の体重が2,500g未満)、早産(妊娠22週0日~36週6日までの出産)の頻度が高いと報告があるため、妊婦の貧血に対しては適切な対応と治療を受けましょう。 妊娠中の貧血は、お母さんの体の生理的な変化のため、鉄を多く含む食材をたくさん摂ることで予防できる十分な根拠は今のところありません。また、貧血のない妊婦さんが鉄分を含むサプリメントを摂取しても生理的な変化を打ち消すような予防にはなりません。サプリメントはお薬ではなく食品ですが、鉄分を摂りすぎることで胃腸の刺激となることもあります。鉄分を含むサプリメントを利用したい場合は、自己判断せずに担当医に相談しましょう。 妊娠中の食生活を豊かにすることや処方された鉄剤を内服することは、結果的に赤ちゃんの成長へとつながります。助産師や栄養士など専門職へ相談することで、貧血を改善することは可能ですので、まずは普段の食事内容を見直すことから始めましょう。 氷食症を長引かせることで、偏食や過食によって他の食品を摂る量が減り、さらに鉄分不足となることがあります。また、氷ばかり食べることで胃腸の機能が低下したり、体温の調節にエネルギーを使うあまり妊婦さん本人の体力を消耗する可能性もあります。 大量の氷を食べることによって、歯が欠けたり、顎関節症に悩むケースもあります。妊婦健診で貧血と診断されなくても、氷を食べずにいられないという状況であれば、妊婦健診のときに医師や助産師へ相談しましょう。 まとめ氷食症、異食症という聞き慣れない言葉に不安を感じるかもしれませんが、妊娠中に氷食症は起こる可能性のあるものです。妊婦さんが氷を食べずにいられない状況になってしまったら、妊婦健診のときに医師や助産師に相談しましょう。 ■参考文献・産婦人科診療ガイドライン産科編2017日本産婦人科学会/日本産婦人科医会・エビデンスに基づく助産ガイドライン妊娠・分娩期2016日本助産学会・精神疾患の分類と診断の手引き第5版(DSM-5)河上智美ら鉄欠乏と異食症の関係―第1報思春期の鉄欠乏性貧血における異食症の実態―.小児保健研究70:472―478,2011・氷食症に関する文献的考察 Pagophagia: The Literature Review・日本産婦人科・新生児血液学会 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年08月31日今回は、抱っこと抱き癖、そして泣き止ませについてお話しします。 「抱っこ」は、ごく自然な行動です親が赤ちゃんの欲求に応じて触れ合うことは、赤ちゃんの体の発育、知能や精神的な発達、心の安定、人格の形成に大きな影響を及ぼすことが、多くの研究によって明らかになっています。親やお世話をしてくれる人との触れ合いが少ないと、赤ちゃんの情緒面に影響するという研究もあるので親子の触れ合いを大切にしていきましょう。赤ちゃんの欲求に応じて触れ合うには「抱っこ」が基本です。遥か昔から、安全のために母親が赤ちゃんを「抱っこ」してきました。赤ちゃんの脳には親に抱っこされたいという欲求があり、母親は赤ちゃんの泣き声に反応するように進化してきました。人間の暮らす環境は変化していますが「抱っこ」することは人間の本能的行動です。 「抱っこ」は自然な行いですが、親には負担になることもあります。生まれて間もないころや赤ちゃんが自分で動き回れるようになるまでは、泣き止ませるために「抱っこ」以外の方法を親が見つけ出すのに苦労することもあります。赤ちゃんの成長と共に、話しかけたり、絵本を読み聞かせたり、おもちゃで遊ぶなど「抱っこ」以外の方法で泣き止むように成長していきます。 赤ちゃんの欲求に応じるには、親やお世話をする人の心身に余裕が必要です。母親だけが悩んだり、家族の誰か一人に無理強いするものでもありません。抱っこひも・スリング・ベビーラップなどを活用する、おすわりできるようになったら抱っこからおんぶへ切り替えるなど赤ちゃんの成長に合わせて方法を変えてみるのも良いでしょう。 抱き癖って何?妊娠・出産・子育てをテーマにした書籍や雑誌、webサイトには、抱き癖に関する情報が数多くあります。「抱き癖がつくのはいつから?」「抱き癖を治す方法は?」という見出しがあふれ、日常的に抱っこすることが悪いことのように印象を与える情報が目につきやすいでしょう。しかしながら、「抱き癖」には医学的根拠はなく、言葉自体も医学用語ではありません。「抱き癖」という言葉は、1946年にアメリカで出版された「スポックマン博士の育児書」に書いてある理論をもとに使われるようになった時代的背景があります。この育児書では、子どもの自立を促すために、泣いても抱っこせずに泣かせたほうがいいとする理論を推奨していました。世界的なベストセラーになりましたが、この育児書にある多くの理論に医学的根拠はなく、子どもの成長発達にとって有害であることが近年の研究でわかっています。 この育児書が和訳され、日本国内で出版された1960年代以降、子どもの自立を促すための育児論が正しい育児方法かつ一般的な育児方法として、子育て世代へ広がりました。そのため、当時の子育て世代から現代の子育て世代へ、抱き癖は悪いものという認識が引き継がれているところがあります。抱っこに奮闘する子育て中の親に対して、祖父母世代から「抱き癖がついたら大変だよ」と言われることもあるかもしれませんが、やさしいおせっかいとして受け取って聞き流しましょう。 抱き癖とサイレントベビーは関係ある?時代は移り変わり、1990年代に入ってから、親子の触れ合いや絆は大切で抱き癖は悪いものではないと認識されるようになりましたが、今度は「赤ちゃんが泣いているのに応じないとサイレントベビーになる」という育児論が国内で浸透し始めました。 しかしながら「サイレントべビー」も「抱き癖」と同様に医学用語ではなく、医学的根拠のない育児論のなかで作られた言葉です。抱き癖やサイレントベビーの責任が母親だけに押し付けられる理論も間違っています。「抱き癖」が子どもの自立が妨げるわけではありませんし、「サイレントベビー」になることを防ぐために「抱き癖」をつける必要があるわけでもありません。 赤ちゃんの抱っこや泣きについて悩んだときは?抱っこしないと泣き止まなくて困っている、泣き止まないことが病気ではないかと感じる、あまり泣いたり笑ったりしないから心配など、赤ちゃんの抱っこや泣きについて思い悩むときは、小児科、居住地の保健所や保健センターの保健師や助産師、子ども家庭支援センターなどの相談窓口へ相談しましょう。 まとめ過去の育児論や医学的根拠のない育児方法を持ち出して、子育ての不安を煽る情報に振り回されないように気をつけましょう。抱っこや赤ちゃんの泣きに関する困りごとや悩みごとは、小児科、居住地の保健所や保健センターの保健師や助産師、子ども家庭支援センターなどの相談窓口へ相談しましょう。 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年08月27日妊娠すると、今までと違う皮膚トラブルが起こることがあります。それは蕁麻疹かもしれません。しかし、素人ではかゆみや発疹を、蕁麻疹かどうか判断することは難しいものです。今回は、妊娠中に起こる蕁麻疹と他の皮膚トラブルとの見分け方や原因、それぞれの治療法ついて解説します。 妊娠中に蕁麻疹が出る原因と症状とは?妊娠中は免疫系、内分泌系、代謝、血管系などに大きな変化が起こり、妊娠前に比べると肌も敏感になっている状態です。このように皮膚が敏感な妊娠中は、皮膚を掻くことや、食べ物や運動、薬や感染などの「刺激」によって蕁麻疹が起こりやすくなります。蕁麻疹は、ヒスタミンというかゆみの原因になる化学伝達物質が肥満細胞から放出されることで発症します。ヒスタミンが神経を刺激するとかゆみが起き、血管に作用すると発疹となって現れます。蕁麻疹の特徴は次のようなものです。・発疹と強いかゆみを伴う・皮膚を掻くとみみず腫れが出る・2~3mmの発疹や地図状の発疹が出る・発疹は24時間以内に、体のあちこちで出たり引いたりする すべての蕁麻疹の原因がはっきりと分かっているわけではありませんが、特定の原因ができれば、それを除去することで症状を改善することができます。治療はステロイドなどの薬を使用することがありますが、妊娠継続中は積極的な治療が難しいので、蕁麻疹とじょうずに付き合うことが主な対処法となります。 蕁麻疹が出る原因には直接的なものだけではなく、温度や睡眠不足、疲労、ストレスなどもあります。特に妊娠中は体調の変化に加えて精神的にも不安定な状態なので、蕁麻疹の症状が出やすく、悪化することもあります。 妊娠中の蕁麻疹の対処法や治療法は?妊娠初期は、ただでさえ体調が優れない時期です。かゆみが長期にわたって続くと、睡眠が十分にとれないので疲れやすく、ストレスがたまるようにもなります。非妊娠時の通常は、蕁麻疹の治療は抗ヒスタミン剤を内服して、蕁麻疹の原因物質であるヒスタミンの量を抑えるようにしますが、妊娠中は胎児への影響を考え、使用できる内服薬が限られます。基本的に妊娠初期(妊娠4カ月ごろ)は抗ヒスタミン剤は積極的には推奨されません。皮膚の保湿などで経過を見ることが多いですが、よほどひどい状態であれば、胎児や妊婦への影響がないと考えられている種類の薬を使用します。 他にはステロイド外用剤で皮膚の発疹を抑える治療があります。蕁麻疹に限らず、掻き続けて湿疹になってしまった部分や引っ掻き傷についても、ステロイド外用剤を使うことがあります。ステロイドと聞くと胎児への影響を考えて、薬を使うことに抵抗がある妊婦さんも多いかもしれません。しかし、蕁麻疹が長期的になると症状も悪化してしまい、治療自体も長期に及ぶことになります。ステロイド外用剤がどうしても気になるという場合は、抗ヒスタミン外用剤も選択肢のひとつです。医師としっかり相談して、納得した上で治療を受けましょう。すでに使用している内服薬や塗り薬があれば、お薬手帳などを持参して受診してください。 蕁麻疹は強いかゆみを伴うので、寝ている間もかゆくて目が覚めたり、無意識に体のあちこちを掻いていたりしてしまいます。掻く状況が長期間続くと皮膚が炎症を起こし、色素沈着(しきそちんちゃく)といって皮膚が茶色く変色してしまい、跡を治すのに時間がかかってしまいます。跡を残さないためにも早めに対処をして、しっかり治しきることが大切です。 妊娠が原因の蕁麻疹は、出産すると蕁麻疹は出なくなり、症状が改善することが多いのが特徴です。なかなか症状が良くならなければ、授乳中でも使える内服薬はあります。産後は治療薬の選択肢が広がって、蕁麻疹を治しやすくなるので安心してください。 その他の妊娠中の皮膚のトラブルとは蕁麻疹と間違えやすいものとして、「妊娠性痒疹(にんしんせいようしん)」があります。 蕁麻疹と似て、強いかゆみがあるので区別がつきにくく、妊娠によって発症する皮膚疾患のひとつです。妊娠性痒疹は、出産後には症状が自然に改善されます。妊娠性痒疹は、妊娠初期から中期に発症することが多く、地図状に広がる蕁麻疹とは異なり、体や腕、足などにポツポツとかゆみを伴う発疹が出てきます。痒疹は赤くなっていたり、水ぶくれになっていたりと見た目にもさまざまですが、引っ掻くことによってしばしば表面が傷ついている状態になります。 この妊娠性痒疹は、約20%の人が家族や妊婦自身にアトピーの体質があるという報告(※1)もあります。痒疹になってしまうと、治すのもかなり時間がかかってしまいます。まずは掻かないことが大切です。必要があればかゆみ止めの内服薬を使うことがありますが、主にはステロイド外用剤で治療することになります。 参考※1 日本アレルギー学会「3.妊娠とアトピー性皮膚炎(和文誌『アレルギー 63巻 2号』より)」 まとめ妊娠による免疫力の変化やストレスなどによって、蕁麻疹などの皮膚疾患が出やすくなります。胎児への影響を心配するあまり治療せず我慢していると、症状が悪化して治すにも時間がかかってしまいます。早めに対処して、少しでも快適なマタニティライフを送りましょう。 参考※ 日本皮膚科学会「慢性痒疹診療ガイドライン(『日本皮膚科学会雑誌 2012年 122巻 1号』より)」 監修者:医師 三鷹レディースクリニック院長 天神尚子 先生日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。
2019年08月21日病院によって異なりますが、生まれた赤ちゃんに音が聞こえるか検査することを新生児聴覚スクリーニング(聴力検査)と言います。新生児聴覚スクリーニングは、早期に難聴を診断することで、難聴の原因や治療、リハビリテーション(補聴器等)をスムーズに導入することができるようになります。今回は、妊娠中のママが知っておきたい新生児聴覚スクリーニングについてお話ししていきます。 新生児聴覚スクリーニングとは先天性疾患の中でも聴覚障害である難聴の発症頻度は高く、患者数は1,000人に1~2人とされています。新生児におこなう聴力検査の「新生児聴覚スクリーニング」は、聴覚障害を早期に診断できます。日本では、先天難聴児の約半数が家族歴や胎児期の感染症等が原因で発症することから、これまでは難聴の家族がいる新生児や子宮内感染などの影響で聴覚障害を合併する可能性の高い新生児を対象に新生児聴覚スクリーニングをおこなうのが一般的でした。しかし、新生児聴覚スクリーニングの対象を限定してしまうと、全例の聴覚障害診断できません。診断が遅れると、言葉の発達の重要な時期を逃したり、早期に適切な援助を受けたりできないケースが増える可能性があるため、近年は全ての新生児に検査をおこなうことがよいとされています。ただ、新生児聴覚スクリーニングは任意の検査のため、費用がかかるので検査を受けない赤ちゃんもいます。日本産婦人科医会がおこなった平成28年度の実態調査によると、新生児聴覚スクリーニングを受けているのは約87%となっています。 新生児聴覚スクリーニングの内容、検査のタイミング、費用新生児聴覚スクリーニングは、ささやき声ぐらいの大きさの音を赤ちゃんに聞かせ、左右の耳の反応を見て聴力が正常かを診断する検査です。ただ、病院で新生児聴覚スクリーニングをおこなうには保護者の同意が必要です。保護者がスクリーニング検査に同意すると、自動聴性脳幹反応(自動ABR)もしくはスクリーニング用耳音響放射(OAE)のいずれかの方法で検査がおこなわれます。<自動聴性脳幹反応(自動ABR)>ABRは、左右の耳から音を聞かせ、脳における電気的な反応の有無をみる方法です。これまでは赤ちゃんが眠っているタイミングに防音室でおこなう必要がありましたが、自動ABRであればベッドサイドでも検査ができ、ささやき声くらいの小さな音の刺激に対する反応が見れるので、軽度の難聴でも早期に発見できます。<スクリーニング用耳音響放射(OAE)>耳音響放射とは、内耳に音が伝わった経路とは逆の経路を通って外耳道に音が返ってくることです。スクリーニング用OAEは、耳音響放射の音が返ってくる仕組みを利用した検査方法で、刺激音を聞かせたあとに反応音が認められるかどうかを見て、赤ちゃんの聴力を判断します。●検査をおこなうタイミング初回の新生児聴覚スクリーニング検査は、生後2~4日くらいに実施されるのが一般的です。これは生後24時間以内では、耳あかや中耳にたまった羊水によって正しい結果を得られないケースがあるためです。●検査結果の見方「pass(パス)」であれば、少なくとも検査時点では音に対しての反応が見られ、正常な聴力と考えられます。しかし、検査の結果が「refer(要再検)」だった場合、検査時点では音に対する反応がみられなかったことになります。ただ、referは再検査するとパスすることも多く、要再検となったから難聴と診断するわけではありません。両側がreferの場合はもちろん、片側がreferの場合でも要検査という判断になり、再検査が必要です。片側性難聴は言葉の発達には影響がありませんが、ウイルス感染による進行性難聴の可能性もあるので再検査をしておくほうがよいと思います。●検査費用費用は自己負担となるケースが多く、平均で5,000円程度。自治体によっては公的補助のもとで新生児聴覚スクリーニングを受けられる地域もありますが、検査にかかる費用の全額を公費補助としている地域は少なく、費用の一部を補助してくれるところがほとんどです。新生児聴覚スクリーニング検査そのものは、約94%の分娩施設で実施可能となっていますが、自己負担になることから、約13%の保護者が検査に同意せず、聴力検査を受けていないという現状です。 新生児聴覚スクリーニング後の再検査についてママにとって気になるのが、スクリーニング検査で両耳もしくは片側の耳でreferとなる割合と再検査ではないでしょうか。自動ABRの場合は、聴力検査を受けた赤ちゃんの約1%がreferの結果になるとされています。OAEという方法の場合、referは自動ABRよりもやや高めの傾向があります。 病院や地域によっても異なりますが、両耳もしくは片側の耳がreferとなると、音による刺激を強めるなどをして、退院までにもう一度検査をおこなうのが一般的です。再検査でもreferとなる場合、耳鼻科で精密検査を受けることになります。ただ、精密検査は、日本耳鼻咽喉科学会によって指定された施設でしか受けられないので注意しましょう。 再検査は、医師の診察後にABR や聴性定常反応 (ASSR)といった他覚的検査に加え、乳幼児聴覚検査(BOA、COR)などの自覚的な検査をおこなった後に、総合的に聴覚障害であるかどうかが判断されます。 まとめ聴覚障害を早めに発見して適切なサポートをすることを目的とした聴力検査(新生児聴覚スクリーニング)は、赤ちゃんの難聴を客観的に診断できる大事な検査のひとつです。 新生児聴覚スクリーニングは、任意の検査で費用が自己負担となるケースが多いですが、どのような目的で、どのような検査がおこなわれるのか、保護者としてしっかりと理解したうえで検査をおこなうかどうかを判断するとよいでしょう。 参考:・日本耳鼻咽喉科学会「新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関リスト」・日本産婦人科医会「新生児聴覚スクリーニングマニュアル」・日本産婦人科医会母子保健部会「新生児聴覚スクリーニング検査に関するアンケート調査報告」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年08月13日排卵のあと妊娠が成立しなかった場合は月経が起こりますが、月経周期が規則的ではなかったり、出血が多かったりなどの症状に悩まされている方も少なくありません。その場合はもしかしたら「無排卵月経(無排卵周期症)」かもしれません。今回は、無排卵月経について解説したいと思います。 正常な月経周期について自分の月経周期を把握するときは、生理が始まった日から次の生理が始まる前日までの日数を数えてみましょう。正常な月経周期とは、この日数が25~38日の範囲にある場合とされています。 正常な月経周期の変動正常な月経周期において、卵巣では卵胞期→排卵期→黄体期と呼ばれる形態の変化が起こります。それに伴い、ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の分泌パターンが変化するため、子宮内膜はその影響を受けて、増殖期→分泌期→月経期へと周期的に変化します。こうしたホルモンの周期的変化は子宮のみならず、乳腺など体の他の組織の機能や全身の代謝、精神状態などにも影響を与えます。 ●増殖期(卵胞期)卵巣の中にある卵胞が成長して大きくなっていくとともに、卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌され、そのエストロゲンの刺激で子宮内膜が増殖して厚くなっていく時期です。↓排卵(卵胞が破れて卵子が外に押し出される現象)がおこります。↓●分泌期(黄体期)排卵後の卵胞は黄体と呼ばれる組織に変わり、主に黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。プロゲステロンは子宮内膜を着床に適した状態にしていきます。↓●月経期(黄体~卵胞期)受精が起こらなかった場合、あるいは受精が起こっても受精卵が子宮に着床しなかった場合、黄体は退縮して白体になり、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が減少します。すると子宮内膜が剥がれ排出されます。これが月経です。月経は、排卵が起こってから約14日で起こります。卵胞期の長さはさまざまであっても、排卵から月経までの日数はほぼ一定です。そして、ふたたびエストロゲンの分泌が増えてくると子宮内膜が再生し、出血が止まります。↓●増殖期へ・・・ 無排卵月経(無排卵周期症)とは?無排卵周期症は、無排卵月経とも呼ばれています。正常な月経周期では、排卵が起こり妊娠が成立しなかった場合、月経となります。これに対して無排卵月経では、排卵が起きていないのに、月経のような出血がみられることが特徴です。 正常な基礎体温のパターンは、月経周期前半の低温相と後半(排卵後)の高温相に分かれる「二相性」ですが、無排卵月経の場合、低温期だけの「一相性」となります。無排卵周期症においては、月経周期の長さが一定ではないことが多く、月経期間(日数)も短かったり長かったりしますが、正常な月経と区別できない場合もあります。また、無排卵月経は不妊の原因にもなります。 無排卵月経(無排卵周期症)の原因は?正常な月経周期では、脳(視床下部・下垂体)から分泌されるホルモンが卵巣に働きかけ、卵胞を発育させ、排卵させます。一方、無排卵月経の場合は、脳から分泌されるホルモンがうまく分泌されないため、卵胞が十分には育たず、排卵が起こりません。排卵が起こらないと、排卵後に増加するプロゲステロンの分泌が欠如するため、子宮内膜が維持できず、剥がれ落ちてしまいます。ただし、無排卵月経の場合は、排卵は起こらないものの卵胞は発育してエストロゲンが分泌されるため、その程度に応じて子宮内膜は厚くなり、その剥離による出血がみられます。 これに対し、エストロゲンの分泌がより悪くなった場合には子宮内膜は薄いままで、したがって月経も起こらない「無月経」という状態になります。脳からのホルモンがうまく分泌されない原因はさまざまあり、ストレス、体重の変化、内分泌疾患、加齢などがあります。 無排卵月経(無排卵周期症)の症状は?無排卵月経の主な症状は月経不順、不正出血、不妊です。月経不順は、そのパターンにより以下のように分類されます。 ・頻発月経:24日以内で月経が来る・希発月経:39日以上3カ月未満で月経が来る・過多月経:出血量が異常に多い・過少月経:出血量が異常に少ない・過長月経:出血日数が8日以上・過短月経:出血日数が2日以内不正出血については、いろいろなパターンでの出血が起こりえます。ただし、ここで気をつけないといけないのは、長期にわたり無排卵周期が続く場合、黄体ホルモン分泌を伴わないエストロゲン単独分泌が持続することにより、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんが発症する可能性があるということです。特に更年期において不正出血がみられた場合、無排卵月経と子宮内膜の腫瘍との鑑別診断は大切です。いずれにしても、不正出血があった場合、自分で無排卵月経と決めつけずに、診察を受けるようにしましょう。ちなみに無排卵月経の人が、無排卵であることを自覚することはあまりありませんが、元々黄体期(月経前)特有の症状(眠気や食欲の増加、精神的不安定など)が強かった人は、そうした症状がなくなっていることに気づくかもしれません。 無排卵月経(無排卵周期症)の治療法は?無排卵月経の治療は、年齢や妊娠の希望があるかどうかによって異なります。 ●妊娠の希望がある場合排卵誘発剤を内服または注射し、排卵を促します。無排卵月経の場合は無月経の場合と比較して、内服薬など比較的マイルドな排卵誘発剤で排卵が起こりやすい傾向にありますが、排卵誘発の副作用として、多胎(双子以上)妊娠やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を発症する可能性があります。●妊娠の希望がない場合無排卵月経は、卵巣機能が未熟な思春期、卵巣機能が低下しつつある更年期には頻繁にみとめられる現象です。妊娠・出産が可能な性成熟期(20代~40代前半)でも妊娠の希望がない場合、経過観察とする場合も多く、月経不順などで日常生活に支障をきたしている場合に治療の対象となります。その際にはホルモン療法やピルの内服がおこなわれます。 ●漢方薬などによる体質改善漢方薬は、生薬の組み合わせであり、種類は数えきれないほどあります。それだけ症状や体質にあった漢方薬が処方されます。最近では漢方外来がある病院も増えており、漢方の専門知識を持った医師が治療をおこなってくれます。 まとめ妊娠可能な時期にあり、妊娠を希望している女性が無排卵月経では、妊娠することができません。妊娠を望んでいる場合は、パートナーや医師と相談したうえで、自分に合った治療法を見つけていきましょう。妊娠を望んでいない場合でも、子宮や卵巣機能に何らかの異常がある可能性があるため、早めに受診することをおすすめします。 参考:『病気が見えるVol.9婦人科・乳腺外科』(メディックメディア) 監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
2019年08月11日妊娠すると、味の好みや味の感じ方が変わることがあります。実際、多くの妊婦さんが妊娠中に何らかの嗜好の変化を経験したと言います。それによって、これまで食べられていたものが食べられなくなったり、特定のものばかり食べたくなったりします。また、そうした嗜好の変化だけではなく、味を感じにくくなって、つい濃い味付けを求めるようになるなどの味覚の異常がみられることもあります。このような味覚の変化はどのような原因で起こり、いつごろまで続くのでしょうか。 妊娠中に味覚変化が起こりやすい理由妊娠中に味覚が変わりやすい理由については、以下のようにいくつかの説がありますが、はっきりした原因は明らかになっていないというのが現状です。・妊娠によるホルモン分泌の変動や体の急激な変化多くのママが経験する「むかつき(つわり)」は、早ければ妊娠5~6週ごろから始まり、遅くても妊娠12~16週ごろにはおさまります。味覚の変化はこの「つわり」と同時期に起こる傾向があるようです。 つわりについても詳しい原因は明らかになっていませんが、妊娠初期に起こるホルモンバランスの急激な変化、環境の変化などにママの体が付いていけなくなることが原因ではないかと考えられています。なかでもプロゲステロン(黄体ホルモン)は、月経前や妊娠初期に増えるホルモンで、つわりと深い関係があると考えられている物質のひとつですが、これが味覚の変化(味がわかりにくくなる)にも影響している可能性があります。・口の渇き妊娠中はホルモンバランスの変化によって、口の中が渇きやすくなります。この口の渇きが味覚の変化に関係しているという考えがあります。 ・口内炎、舌炎口の中や舌の炎症が起こって、舌の表面にある乳頭という部分が萎縮したり消失したりすることにより、乳頭の中にある味蕾(みらい)と呼ばれる味を感じる部分に影響が及び、味覚に異常が起こることがあります。つわりで食事がとれなくなることで、ビタミンB2やB6が不足すると、このような炎症が起こることがあります。そのほかに、ビタミンB12や葉酸が不足する貧血や鉄欠乏性貧血でも、重症になると同様の炎症が起こることがあります。・亜鉛不足亜鉛は血液中に存在する血清微量元素で、タンパク質やDNAの合成などに必要な栄養素として、人間の体を維持するためには欠かせない必須ミネラルのひとつです。また、味覚のセンサーとして働く味蕾の味細胞をつくるときにも必要になるので、亜鉛が不足すると味覚に変化が起こる可能性があります。さらに、日本人は「亜鉛が不足しがち」といった指摘もあり、特に妊娠中は胎児に亜鉛を供給するため必要量が増え、亜鉛不足になりやすいです。 ・塩分の必要量が増える妊娠中は、ママの体を循環する血しょう(血液から血球などを取り除いて残った成分)の量が増えていきます。とくに妊娠中期ごろから加速的に増え、妊娠32週ごろにピークになります。この血しょうの増加にともない塩分の必要量も増加し、それが妊娠中の塩味に関する味覚機能に影響を及ぼしている可能性があるという考えがあります。ただし、その影響は主に妊娠の中期以後が中心で、妊娠初期の味覚異常の原因としては考えにくいと思われます。 妊娠中の味覚の変化は時期によっても変わる?同じ妊婦さんの味覚の変化について、妊娠初期から後期まで継続して調査した研究があります。その結果は以下のようなものでした。 1)酸味の強いものや、塩味を好むようになる人が多かった2)濃い味を好むようになった人も1/3ほどいた3)ほとんどの場合、1)や2)のような変化が起こるのは妊娠前期(初期)で、中期以後に始まることはまれであった4)味覚機能検査を実施した結果、妊娠前期には明らかに味覚機能が低下していたが、妊娠中期以降は、さほど低下していなかった5)味覚異常と亜鉛不足の関係に注目し、妊婦さんの血液中の亜鉛を測ってみたところ、妊娠中期以後には亜鉛が不足する傾向がみられたものの、妊娠初期は正常範囲であったまた、味覚障害の程度と亜鉛の濃度には相関がみられなかった6)「口の中が乾きやすくなった」と訴える妊婦さんは多かったが、実際に診察してみると、口内乾燥の症状が認められた人は1人もいなかった 妊婦さんにみられる味覚の変化や異常の原因は、いろいろな要素が関係している可能性があるものの、はっきりわかっていません。しかし、妊娠の初期に始まって5カ月ごろまでには明らかでなくなる場合がほとんどであることから、妊娠したことによってホルモンが急激に変動し、その結果体にさまざまな変化をもたらす…。そうした反応のひとつと考えられます。それに加えて、つわりが続くことによるビタミンや栄養素の不足なども関係している可能性があります。 まとめ妊娠中の味覚機能の低下はごくありふれた変化で、とくに心配することはありませんが、もし味覚の異常が強く出たり、長く続くようであれば、口腔内の異常や栄養素の不足などが起こっている可能性もありますので、産科ドクターや専門医に一度相談してみたほうがよいかもしれません。 また、妊娠初期から濃い味付けに慣れてしまうと、妊娠中期以後も塩分の多い食生活が続いてしまうことがあります。そうなると、むくみが出てきたり、妊娠高血圧症候群を発症しやすくなる可能性がありますので、気を付けましょう。 参考:久我むつみ 「妊娠による味覚機能の変化に関する検討」日本耳鼻咽喉科学会雑誌 99巻 (1996) 監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
2019年08月09日今回は、赤ちゃんの鼻水が出やすい理由と家庭でできるケアについてお話しします。 赤ちゃんの鼻水が出やすい理由呼吸をすると、気道と呼ばれる空気の通り道(鼻・のど・口・気管など)にはさまざな異物が入ってきます。鼻は、鼻毛によって異物の侵入を防ぎ、粘液などによって異物を外に出すという仕組みが備わっています。ウイルスや細菌がその仕組みをすり抜けて侵入すると鼻の粘膜が刺激され、炎症が起きたり腫れたりします。すると鼻づまりや鼻水が垂れるなどの症状が起こります。鼻水にはウイルスや細菌を外に追い出す役目があります。ホコリ、ハウスダスト、ダニ、ペットの毛などが鼻に入って鼻の粘膜が刺激されるとアレルギー反応を起こして鼻水が垂れることもあります。 赤ちゃんの鼻の中は狭く、鼻と耳をつなぐ耳管が大人に比べると短く太く水平のため、ウイルスや細菌が入りやすい構造になっています。赤ちゃんは鼻毛が生え揃っていないために異物の侵入を防ぎきれず、温度や室温、環境の変化によって鼻水が出やすい特徴があります。 鼻水の性状からわかること・透明でサラサラした水っぽい鼻水水溶性鼻汁(すいようせいびじゅう)というもので、風邪の引き始めに出やすいです。 ・黄色や緑色でドロドロした鼻水ウイルスや細菌と戦うために血液中から出てきた白血球などの成分とウイルスや細菌の死骸を含んだものです。薄い黄色の鼻水は鼻水が出始めてから数日間経過したころに出てきたり、濃い黄色や緑色で粘り気が強い鼻水は膿性鼻汁(のうせいびじゅう)と呼び、においがすることもあります。風邪をひくと大なり小なり副鼻腔炎を起こしているものです。 鼻水が詰まることで生じる症状と病気鼻水が詰まると呼吸がしづらいだけでなく、哺乳がしにくくなったり、他の病気を引き起こします。鼻水が出ていて発熱(37.5度以上)している、鼻水が出ていて母乳やミルクを普段のように飲めない、黄色や緑色の鼻水が1週間以上出ている場合は、小児科や耳鼻科を受診しましょう。 ・じょうずに母乳やミルクを飲めなくなる鼻詰まりが起こると呼吸しづらいため、呼吸しながら哺乳する赤ちゃんにとっては哺乳しにくくなります。赤ちゃんが横たわることで鼻詰まりが起こる場合は、横抱きではなく縦抱きで授乳すると呼吸が楽になることもあります。鼻詰まりが続くと苦しくて泣き、泣き続けることで鼻が詰まり、さらに不機嫌になることもあります。鼻詰まりや鼻水の症状が起きて、普段のように哺乳ができないときは、小児科や地域の助産師へ相談しましょう。 ・目やにが出たり、まぶたが腫れる鼻と目の空間は、鼻涙管(びるいかん)という管でつながっていますが、鼻が詰まると鼻水や涙が逆流して目やにが多くでたり、まぶたが腫れることがあります。 ・中耳炎を起こしやすい鼻と耳の空間は、耳管(じかん)という管でつながっていますがウイルスや細菌を含む鼻水が耳管を通って中耳にたどり着くと、中耳で炎症を起こすことがあります。 ・副鼻腔炎(蓄膿症)鼻の穴の中を鼻腔(びくう)といいます。鼻腔の周りには、鼻腔につながる左右対称の骨で囲まれた空洞があり、この空洞部分を副鼻腔(ふくびくう)と呼びます。副鼻腔炎(蓄膿症)とは、副鼻腔の粘膜に細菌やウイルスが感染することで炎症が起こり、鼻詰まりや鼻水、痰、咳という呼吸器症状と、発熱、頭痛、顔面の痛みなどを伴う病気です。通常は2週間以内に治りますが、3カ月以上続く場合は慢性副鼻腔炎といいます。 ・後鼻漏(こうびろう)鼻水が鼻の穴の方向ではなく、のどのほうへ流れることを後鼻漏といいます。後鼻漏が起きると息苦しいために哺乳量が減ったり、寝ているときに呼吸が苦しくなったり咳が出たりします。赤ちゃんの鼻水がのどへ流れて痰がからんだような咳をしている場合は後鼻漏です。後鼻漏は中耳炎の原因になることもあります。 家庭でできる鼻水へのケア鼻詰まりや鼻水の症状を和らげるために、赤ちゃんは自分で鼻水をかめないので大人が取り除いてあげることが大切です。 ・部屋を加湿して、綿棒やティッシュ、ガーゼなどでやさしく拭き取りましょう。空気の乾燥を防ぐことで鼻の通りがよくなり、呼吸をしやすくなります。鼻の粘膜を傷つけないように、やさしく拭き取りましょう。自力で鼻がかめない月齢や年齢の間は、大人が鼻の下にティッシュを押し当てて下方向へ引っ張るだけでも、鼻水を取り除くことができます。沐浴やお風呂のときにでてくる鼻水をこまめにふき取るだけでも効果的です。鼻水がネバネバしている場合は、沐浴やお風呂のときに鼻に蒸しタオルを当てた後のほうが取りやすくなります。 ・家庭内での感染を防ぎましょう。家庭内での感染を完全に防ぐことはなかなか難しいですが、以下のことに気を付けるとよいでしょう。 鼻水にはウイルスや細菌などが含まれているので、上のお子さんなど同居する家族への感染を防ぐために鼻水の付着した綿棒やティッシュ、ガーゼをそのまま放置しないように気を付けましょう。ゴミ箱に捨てる、外出先であればビニール袋に入れるなど、取り除いた鼻水に再度触れることがないように工夫しましょう。逆に、上のお子さんや同居する家族が鼻をかんだ後のティッシュなどに赤ちゃんが触れないようにも気をつけましょう。親は鼻水を取り除いたらせっけんと流水で手を洗いましょう。 鼻水専用の吸引器を使用するときのポイント必ず購入しなければならないものではありませんが、鼻詰まりや鼻水の症状を繰り返す場合には、鼻水専用の吸引器を購入して使用してもよいでしょう。 赤ちゃんの鼻水を取り除く吸引器には、スポイト式、ストロー式、電動式など多くの種類があります。どのタイプが優れているというものではないので使いやすいものを使いましょう。 ・吸引の圧は弱めに、吸引器の先端は顔の面に垂直方向に挿入する赤ちゃんの鼻の中は狭くて、デコボコの入り組んだ構造です。ネバネバした鼻水は鼻の穴とほぼ水平方向の一番奥にたまっています。吸引器の先端は、鼻の穴に対して下から上へ突っ込むのではなく顔の面の垂直に挿入しましょう。挿入しながら少しずつ角度を変えると、鼻水を吸引しやすいポイントが見つかるので、ゆっくり少しずつ吸引しましょう。吸引するときの圧は弱めに設定して、鼻の粘膜を傷つけたり、強く圧迫しないように気をつけましょう。強い圧で一気に吸い取らないでください。もし、鼻血が出た場合は、その日は吸引を控えて、翌日以降におこないましょう。・吸引するときは赤ちゃんの頭を固定して、安心と安全を心がけましょう。吸引するときに、赤ちゃんの頭を固定しないと、吸引器の先端の動きが安定せず、鼻の粘膜を傷つけてしまう可能性があります。寝かせたままでも、抱っこしたままでも、頭が固定できればどのような姿勢でもかまいません。赤ちゃんが鼻水の吸引に苦痛を感じさせないように、「鼻水取るとスッキリするよ」などやさしく声をかけながらおこないましょう。 まとめ鼻水はこまめに取り除くことが大切です。鼻水が出ていて発熱(37.5度以上)している、鼻水が出ていて母乳やミルクを普段のように飲まない、黄色や緑色の鼻水が1週間以上出ている場合は、小児科あるいは耳鼻科を受診しましょう。 【参考】日本小児科学会「こどもの救急」日本耳鼻咽喉科学会HP「子どものみみ・はな・のどの病気 Q&A」日本アレルギー学会HP 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年08月05日海藻類の中でもだしをとるなど、和食に広く使われる昆布は、日本人の食生活に欠かせないものの1つです。ミネラルや食物繊維が豊富に含まれているため、健康食品としても人気があります。また、「よろこぶ」に通じるとして、昔から縁起物としても重宝されてきました。しかし、妊婦さんは昆布を食べ過ぎないよう注意する必要があります。その理由と対策についてまとめました。 妊娠中の昆布の摂取について。食べ過ぎに注意しなければいけない理由は?昆布、わかめ、ひじき、のりなどの海藻類には、ヨウ素がたくさん含まれています。ヨウ素は食品中に存在するミネラルで、体内で甲状腺ホルモンを合成するために欠かせないものです。甲状腺ホルモンには、体の発育や新陳代謝を促進させるという重要な役割があり、妊娠中は胎児の骨や脳の発育のためにも欠かせません。妊娠中にヨウ素が不足してしまうと、最悪の場合は流産や死産といった結果を招いてしまうこともあります。 しかし、日本人は日常的にヨウ素を摂取しているため、平均的な食生活をしていれば不足することはほとんどありません。妊婦さんが注意しなくてはいけないのは、栄養素が足りないことではなく摂り過ぎることなのです。妊娠中にヨウ素を過剰摂取すると、それが赤ちゃんの体内にたまり、胎児に甲状腺機能低下症を引き起こしてしまう可能性があります。 甲状腺機能低下症とは、脳神経などの発達に必要不可欠な甲状腺ホルモンの分泌量が、不足してしまう病気です。甲状腺機能低下症は適切な投薬によって治療することができますが、病気の発見が遅れてしまうと、赤ちゃんの体や精神の発達に支障をきたすおそれがあります。こういった病気のリスクを回避するために、ヨウ素の摂取量に注意する必要があるのです。 1日にどれだけの昆布を摂取できる? 厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準」(2015年版)には、必要なヨウ素の量が掲載されています。これによると、18歳以上の女性は1日で130μgを摂取することが推奨されています。この数値は、標準的な日本人の食生活をしていればめったに下回ることはありません。 ただし、妊婦の場合は1日あたりの摂取推奨量が240μgで、かつ上限量は2,000μgという基準が設けられています。昆布に含まれているヨウ素は、100gあたり230,000μgです。昆布に関していえば、1g摂取するだけで2,300μgのヨウ素を摂取することになるわけです。さらに、昆布はだしの材料としてもよく使われますが、ヨウ素はだしにも溶け出します。昆布に含まれているヨウ素のうち、約80%以上がだしに溶け出しているというデータもあります。 ヨウ素を摂り過ぎないために、まずヨウ素をたくさん含む食品について知っておきましょう。昆布のみを避けていればいいわけではありません。ヨウ素の多い代表的な食べ物は海藻類です。以下に示しているのはそれぞれ100gあたりに含まれるヨウ素の量です。 ・干しひじき45,000μg・カットわかめ8,500μg・焼きのり2,100μg ヨウ素を含む食品とその食べ方で気を付けたいことは?ヨウ素を含む食品はほかにもあります。まずは海産物です。たらやまぐろ、さば、いわしといった魚、かにやえびなどの甲殻類、アワビなどの貝類が挙げられます。肉類ではレバー、ホルモンなどの内臓部分にヨウ素が多く含まれているため注意が必要です。さらに、市販の複合調味料やインスタント食品などの加工食品にも、昆布だしや昆布エキスが使われているものが多いため、使う前に表示をよく確認する必要があります。 飲み物にも昆布エキスが入っているものがあります。食品以外で注意したいのは、マルチビタミンやミネラルのサプリメントです。こういったサプリメントには、ミネラルの1種としてヨウ素が含まれているものがたいへん多いので、飲む前に栄養素に関する表記を確認する必要があります。 ヨウ素を摂り過ぎないために気をつけたいのは、まず、昆布の佃煮や昆布巻き、とろろ昆布など、昆布そのものを食べる食品は、食べ過ぎに注意することです。多くの塩分を使用し調理するものも多いため、少量で抑えておきましょう。 さらに、だしをとる際には、昆布以外でもしいたけやかつおぶしなどを使うこともできます。どうしても昆布だしを使いたいときは、だしのみで、昆布そのものは摂取しないなどの工夫が必要になってきます。 また、大豆食品はヨウ素の過剰摂取による悪い影響を防ぐ働きがあるともいわれており、ヨウ素を多く含む食品を食べるときには同時に大豆食品も摂取するとよいでしょう。普段から昆布だしを使った和食が中心という人や、日常的に海藻を食べているという人は、食生活を変える必要を感じるかもしれません。しかし、日本人が1日に摂取するヨウ素は平均で1,500μgというデータもあります。少し注意することで、上限量を超えずにじょうずに摂取することができるのではないでしょうか。 まとめヨウ素は、人が体内で甲状腺ホルモンを合成するために欠かせないものであると同時に、過剰摂取することも防がなくてはいけないものです。とくに、胎児が影響を受けやすい妊娠12〜20週の時期には、摂取上限量に注意する必要があります。しかし、ヨウ素の過剰摂取に気をつかうあまり、必要な量を下回ってしまっては流産や死産のリスクが高まってしまいます。バランスのいい食事を心がけながら、摂り過ぎに注意をして、昆布やヨウ素ともじょうずにつきあっていきましょう。 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年07月28日待ち望んで妊娠したのに、流産をしてしまうことがあります。流産後は、いつから妊活を始めるべきか悩んでしまうものです。さらに、一度流産すると繰り返してしまうのではないかと心配になってしまう人もいるでしょう。ここでは、流産後の妊活の開始時期、流産を繰り返す可能性、そして妊活中の注意点についてお伝えします。 流産後、いつから妊活を再開すべき?流産には「自然流産」と「化学流産」があり、前者の自然流産はさらに「切迫流産」、「進行流産」、「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」の3つに分類されます。 まず1つ目の「切迫流産」は、流産はしていないが、流産の危険がある状態をいいます。主な切迫流産の症状は出血ですが、出血量や腹痛の程度によっては妊娠を継続できる場合もあります。2つ目は「進行流産」です。腹痛や出血を伴い、胎嚢などの子宮内容物が体から出かかっている状態であり、残念ながらこの状態から流産をくい止めることは難しいとされています。3つ目は「稽留流産」で、胎児が子宮内で死亡している状態をいいます。稽留流産には上記の切迫流産と進行流産にあるような、腹痛や出血などの自覚症状がほとんどないため、お母さんが気づかないうちに起こっている場合が多くなっています。こうした場合は、検診で心拍を確認できないことで流産が判明します。 自然流産の場合、子宮が流産前の状態まで戻るのに時間を要することがあります。いつから妊活を再開するかについては、流産した週数や母体の状態、病院の方針によって違うでしょうが、1~2回は生理を見送ってからの妊活再開が望ましいと考える医師が多いです。焦らず、担当医師のいうことを聞いて、ゆっくりと心と体を休ませましょう。 次に、後者の「化学流産」について説明します。妊娠超初期段階といわれる妊娠4週から妊娠6週までの間に妊娠検査薬で陽性が出たのに、数日後に生理が来てしまったり、産婦人科を受診しても胎嚢が発見されなかったりするケースです。主に受精卵の染色体異常によりうまく着床できない、または着床しても発育が止まってしまった場合に起こります。妊娠検査薬を使わなければ通常の生理との区別がつかないことがほとんどです。そのため、化学流産後の治療などはなく、ほとんどの人が次の生理もいつも通りにきます。化学流産の場合は、時期を気にせず妊活を再開してもよいでしょう。しかし、心配な人は医師に相談してみてください。 1度流産したら繰り返すこともある?1度流産すると、また流産してしまうのではないかと不安になる人も多いのではないでしょうか。残念ですが、実際に流産を繰り返してしまう人もいます。流産を2回以上繰り返した状態を「反復流産」、流産を3回以上繰り返した状態を「習慣流産」といいます。 初期流産の原因は赤ちゃんの染色体異常であることがほとんどです。しかし、反復流産と習慣流産のように流産を繰り返す場合は、他の原因も考えられます。夫婦どちらかの「染色体均衡型転座」がある場合、細胞分裂の過程で異常が起きてしまうため、妊娠を継続できません。また、「子宮形態異常」があると、その子宮の形によって着床障害や胎児や胎盤を圧迫してしまい、流産を起こしやすくなります。他にも、甲状腺機能異常、糖尿病などの「内分泌異常」や、抗リン脂質抗体症候群やプロテインS欠乏症などが代表的な病気である「血液凝固因子(血栓性素因)異常」も、流産の原因として挙げられます。原因がある場合は適切な治療をおこなうことで、妊娠・出産が可能です。 一方で、流産を繰り返してしまう人の半数以上は、原因不明という現実もあります。原因がわからないのでは前に進めないと思われるかもしれませんが、その後、妊娠出産したという女性はたくさんいますので諦めないでください。 流産後の妊活で大切なのは流産後の妊活では、妊娠を強く望みすぎて精神的にストレスを抱えてしまう女性が多いです。ストレスは自律神経を乱し、ホルモンバランスに悪影響を与えてしまいます。ストレスを溜めないこと、そして、じょうずに発散することを心がけてください。 また、妊活には規則正しい生活と、バランスのとれた食事が必要です。特に、体を温める食べものがおすすめです。流産後は、心と体を休ませる大切な時間だと考え、仕事や家事などは無理をせず、周りの人に頼りましょう。不妊症と診断された場合でも、不妊カウンセラー等の専門家に相談しながら、夫婦にとって必要な情報提供を受けたり、適した方法で妊活できるようサポートしてもらいましょう。 【参考】日本不妊カウンセリング学会 まとめ赤ちゃんを望む女性にとって、流産は心も体もつらく、なかなか立ち直れない人もいるでしょう。そんなときは無理に元気になる必要はありません。おなかにいた赤ちゃんを想って、思い切り泣くのもよいでしょう。パートナーと旅行にいくのもおすすめです。心と体が落ち着いたら、自然と「また妊活をしてみようかな」という気持ちになるかもしれません。そう思えるようになるまでは、ゆったりと過ごしてくださいね。 監修者:医師 医療法人 晧慈会 浅川産婦人科 理事長 浅川 恭行 先生1993年 東邦大学医学部卒業、1999年 東邦大学大学院医学研究科博士課程修了。浅川産婦人科の院長を務めるほか、日本産婦人科医会 幹事、東邦大学医療センター大橋病院 産婦人科学講座 客員講師、鶴見大学歯学部 産婦人科学講座 非常勤講師として活躍。
2019年07月24日ベビー用品を揃えるときに赤ちゃんの靴下は、事前に準備したほうがよいのか迷ってしまいますよね。赤ちゃんの靴下は、履かせたほうがよいのか、履かせないほうがよいのかいろいろな意見を聞いてしまい、どちらがよいのかわからなくなる方もいると思います。ここでは、赤ちゃんの靴下の必要性や履かせるときのポイントなどについてお話ししたいと思います。 赤ちゃんに靴下は必要?赤ちゃんは体温の調節機能が未熟なため、気温の高低に伴って体温も上下してしまいます。また、室温だけでなく、衣服や寝具によっても体温が変動します。冬場など気温が低いときに薄着で、重ね着していない場合、低体温になってしまう場合があります。 赤ちゃんは大人に比べて、体の大きさに対する体表面積が大きく、また皮下脂肪が少ないため、熱が逃げやすいという性質を持っています。特に小さく生まれた赤ちゃんは注意が必要になります。そのため、靴下は寒いときに足先を温めるのに適した衣服ですので、寒い時期に外出するときなどに重宝することになります。ただし、適正な温度を保っている室内の場合では、季節を問わず赤ちゃんに靴下を履かせる必要はありません。裸足で過ごすことで足裏からさまざまな刺激を得ることができ、暑い、寒い、冷たいなどの感覚を味わわせることもいい経験になります。また、寝るときに靴下を履いていることで熱がこもってしまい、汗をかきすぎて脱水症状になる可能性もあります。 赤ちゃんにいつから靴下を履かせればいい?赤ちゃんには、季節に応じた衣服を着せてあげる必要があります。月齢で靴下を着用する時期を決めるのではなく、季節に応じて履かせてあげましょう。靴下は主に寒い時期に外出する際に着用することが基本となります。赤ちゃんは、体重あたりの食事を食べる量が大人より多く、成長に伴って運動量も多くなってくるため、体がつくる熱の量が多くなり、熱がこもりやすいという特徴があります。そのため、衣服だけで寒さ対策をすると着せすぎで熱がこもる原因となってしまいます。室内での赤ちゃんの体温調節は、衣服でおこなうよりもエアコンなどで気温を調節してあげるのが望ましいです。寒さを感じるようになった時期から、外出の際に靴下を履かせてあげるようにしましょう。 赤ちゃんに靴下を履かせるときのポイント「赤ちゃんの手足が冷たいから靴下を履かせてあげないと」と思われる方もいらっしゃることでしょう。しかし、赤ちゃんの手足は冷たくても、意外に体は温かいことも多く、靴下は必要ない場合もあります。おなかや背中を触ってみて、ひんやりしている場合には室温を上げたり、衣服で調整してみましょう。背中に手を入れて、汗ばんでいるようなら着せすぎですので、室温を少し下げるか、衣服を薄手のものにし、靴下を履かせなくてもよいでしょう。 おすすめの靴下靴下は赤ちゃんの肌に直接触れるものですので、赤ちゃんの肌に合ったものを選ぶ必要があります。サイズもどんどん変わっていきますので、その子に合ったサイズのものを選びましょう。サイズが大きいとすぐに脱げてしまいますし、小さいと肌を締め付けてしまいます。素材は綿素材など、吸湿性に優れたものを履かせるのがよいでしょう。 まとめ靴下は、室内で気温が最適な温度に設定されている環境ではあまり必要はありません。冬場に外出する際には、靴下の着用で冷えを予防する効果が期待できますので、履かせてあげるようにしましょう。出産時期が冬ごろの場合、室内で過ごすことのほうが多いので、靴下を着用する機会がない場合もあります。冬生まれの赤ちゃんの服を買い揃える際、ベビー用の靴下は出産後に必要になった際に購入するか、最低限の枚数を購入するかにとどめておくのがおすすめです。赤ちゃんの靴下のかわいさに、何足も買ってしまいたい気持ちが出てくるかもしれませんが、サイズアウトしやすいアイテムであることも忘れないようにしましょう。 【参照】厚生労働省「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年07月22日子どもの成長は、親にとってかけがえのない喜びで、楽しみでもあります。生後間もない赤ちゃんの発育は体重で確認ができますが、自分の赤ちゃんの成長が順調なのかどうかわからないと言う声も聞かれます。ここでは、生まれて間もない赤ちゃんが順調に成長しているのかどうか、その目安となる体重について解説していきます。 出生時の体重の平均値は? 男女差はどれくらい?ここで、出生時の体重の平均と、最近の傾向を見てみましょう。厚生労働省が平成13年の出生時から1年6カ月ごとに、全国の男女の身長と体重の平均値を調べた調査結果があります。それによると、出生時の体重の平均値は、男児が3,076g、女児が2,990gとなっています。 【参考】厚生労働省「子どもの生活の状況」 出生体重について! 1カ月健診までの体重の増減の目安もチェック出生時の平均値は男児が3,076g、女児が2,990gというものでしたが、出生時の赤ちゃんの体重の幅は広く、低体重の赤ちゃんもいれば、5kg近くの巨大児と呼ばれる赤ちゃんもいます。赤ちゃんの体重を、2,500g以上と2,500g未満と分けた場合の平均値も確認しましょう。 男児で2,500g以上の場合は3,146g、2,500g未満の場合は2,173gが平均値となります。女児では2,500g以上の場合は3,068g、2,500g未満の場合は2,222gという結果でした。 その後の成長の目安になる、1カ月健診までの体重増加についてはどうでしょうか。目安としては、男児の場合3.53~5.96kg、女児は3.39~5.54kgという幅で推移しているようです。男女や個人で差はありますが、出生時より、ほぼ1,000gほど体重が増えていることが多いようです。しかし、体重の増え方は赤ちゃんの授乳状況や成長の個人差がありますし、母乳栄養と人工栄養では増加率も違います。これらの数値はあくまでも目安であり、乳児身体発達曲線を参考に、平均値内で体重が増えていれば問題ないでしょう。 【参考】厚生労働省「子どもの生活の状況」 赤ちゃんの体重が増えない! その原因と対処法は自分の赤ちゃんの体重と平均値から、成長の度合いが確認できますが、気になるのは体重が増えない場合だと思います。平均値はあくまで目安であり、成長には個人差があるとはいえ、体重が増えないことについて、その原因や対処法を探ってみることは大切です。 赤ちゃんの体重が増えないことの原因の1つに、赤ちゃん自身がしっかり母乳やミルクを飲めていないことがあります。ミルクで育てている場合は、その時期に必要な量をきちんと計り与えることが重要です。ミルクの量等に関しては、母子健康手帳を参考に考えるとよいでしょう。 母乳の場合は計測することがあまりないので、どのくらい飲めているのかわからない場合がありますが、赤ちゃんが泣くたびに母乳を与え、排泄の回数や量も目安として観察します。1か月健診までは出産した医療機関で継続的にフォローしてもらい、アドバイスをもらいながら経過を見ていくことが必要です。また、赤ちゃんの発達具合を数値で見ることのできるカウプ指数というものもありますから、それを参考にしてもいいでしょう。 そのほか、赤ちゃんの病気が原因で体重が増えない場合もあります。まずは授乳の回数や量を確認しつつ、病院や地域での健診を受けながら、継続的なフォローを受けることが大切です。また、体が大きい子、小さい子は体質の可能性がありますので、乳児身体発達曲線に沿って成長していれば大丈夫です。 【参考】厚生労働省・生活習慣病予防のための健康情報サイト「肥満と健康」 体重が増えすぎている場合はどうすればいい? 逆に、体重が増えすぎて心配な場合もあると思います。基本的には、乳児身体発達曲線に照らし合わせて、その範囲内であれば心配する必要はありません。赤ちゃんの体重が増えすぎていることの原因には、母乳やミルクを必要以上に与えすぎている、母乳のカロリーが高い、あるいは遺伝要素も考えられます。母乳の場合はあまり気にしなくてよいといわれています。ミルクの場合は、与えすぎないように一回の授乳で必要な量を超えないようにすることが大切です。それでも泣く場合は、抱っこしたりあやしたりしながら次の授乳までの時間をあけるようにしましょう。 まとめ子育てをするなかで、子どもの成長が、順調なのかなど、何かと心配になるものです。体重や身長などの成長の度合いは、乳児身体発達曲線の範囲を目安に確認するとよいでしょう。また、医療機関や地域でおこなわれている定期的な健診には必ず参加し、成長を見てもらうこと、アドバイスをもらうことも重要です。数値はあくまでも目安であり、生まれてきた週数や体重、性別などによっても成長のペースには個人差があります。数値にとらわれすぎず、さまざまな専門家の目で見て判断してもらいながら、子どもの成長を見守っていきましょう。 【参考】厚生労働省「平成22年乳幼児身体発育調査の概況について」「乳幼児身体発育評価マニュアル」、日本小児科学会・日本小児科学会雑誌 114巻8号「新しい在胎期間別出生時体格標準値の導入について」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年07月20日妊娠によりママの体はさまざまな変化が生じます。そのなかのひとつに、ママは赤ちゃんに優先的に糖分を供給できる仕組みを作るようになり、代謝動態が変化します。しかし、このような変化が起きていることも知らずに食欲にまかせてついつい食べ過ぎてしまうと「妊娠糖尿病」になってしまうことも。そこで今回は、妊娠糖尿病の症状や治療方法、母体や赤ちゃんへの影響などについて解説します。 妊娠糖尿病とは妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見、または糖尿病にいたっていない軽い糖代謝異常のことを言います。妊娠中に診断された明らかな糖尿病は含まれません。妊娠糖尿病は世界共通の診断基準が提唱され、妊娠糖尿病の診断基準が2010年に改定されました。日本産婦人科学会によると、妊婦の7~9%は妊娠糖尿病と診断されるといわれています。 妊娠糖尿病の原因と妊娠糖尿病になりやすい人特に妊娠20週以降になると、胎盤から出るホルモンによって、血糖値(血液に含まれるブドウ糖の量)を下げるインスリンというホルモンが効きにくくなります。そのためママの血糖値が普段より高くなり、高くなった分のブドウ糖が赤ちゃんに供給されるようになります。そのため甘い物や炭水化物などを食べ過ぎると、血糖値が上昇しやすくなってしまいます。 さまざまな要因によって、通常の妊娠時よりもインスリンの働きが抑制されてしまうと、ママの血糖値が常に高い状態となり「妊娠糖尿病」を発症してしまいます。妊娠糖尿病は、妊娠が終了し、胎盤からのホルモンの影響がなくなると症状が消失していきます。 妊娠糖尿病になりやすい人の特徴を紹介します。 ◆妊娠糖尿病になりやすい人・家族に糖尿病にかかっている人がいる・肥満・35才以上・過去に4,000グラム以上の赤ちゃんを出産したことがある・尿検査で尿糖が陽性になったことがある、または反復して陽性になる 妊娠糖尿病の症状や診断、母体や胎児への影響妊娠糖尿病は、妊婦健診でおこなわれる尿検査や血液検査で発見されることがあります。妊娠糖尿病の症状、母体やおなかの赤ちゃんへの影響を紹介します。 症状喉が渇く、頻尿、倦怠感、体重の急激な変化などの症状があります。初期は自覚症状はほとんどなく、妊婦健診で血糖値の異常を指摘されて気づくことが多いようです。 診断妊婦健診でおこなわれる血液検査で、血糖値を測定し、基準値を超えた場合、75ℊ経口ブドウ糖負荷試験をおこないます。 経口ブドウ糖負荷試験というのは、空腹時にブドウ糖75ℊを溶かした液体を飲み、1時間後・2時間後に血糖値を測定します。75 g経口ブドウ糖負荷試験において、①空腹時血糖値≧92mg/dL②1時間値≧180mg/dl③2時間値≧153mg/dLのいずれかひとつを満たした場合、妊娠糖尿病と診断されます。 妊娠糖尿病による母体と赤ちゃんへの影響妊娠糖尿病になると、ママだけでなく、おなかの中の赤ちゃんにも健康リスクを与える可能性があります。◆母体への影響・流・早産・妊娠高血圧症候群・羊水過多症・巨大児出産の時に、産道裂傷、帝王切開率上昇など・将来、糖尿病を発症するおそれ ◆赤ちゃんへの影響・巨大児(生まれるときに肩甲難産、腕神経麻痺、骨折のおそれ)・胎児発育不全・胎児機能不全・子宮内胎児死亡・新生児低血糖・呼吸窮迫症候群(肺サーファクタントの欠乏により、多呼吸・陥没呼吸・呻吟・チアノーゼなどをきたす呼吸器疾患。早産児に多い)・低カルシウム血症、高ビリルビン血症・多血症(血液中の血球(主に赤血球)の割合が多い状態)など 妊娠糖尿病の治療方法妊娠糖尿病になった場合、早期の治療をおこなう必要があります。また、予防方法について解説します。妊娠糖尿病の治療には、血糖コントロールが必須です。そのため定期的に血糖値を測定する必要があります。そのため、自己測定をすすめられることが多くあります。その結果をみながら、治療方針が決定されます。 治療方法●食事療法治療の基本は食事療法ですが、栄養バランスのとれた食事内容でカロリーコントロールが必要になります。 ≪食事療法のポイント≫・甘い物や糖質の多い物を控える・ご飯やパン、麺類などの炭水化物を減らす・ささみや豚、脂身の少ない肉を摂取・魚、大豆製品、卵などの良質なタンパク質を摂取・食物繊維が多いキノコ類や野菜などを積極的に摂取 ●インスリン療法血糖コントロールが不良の場合におこなわれます。インスリンを定期的(毎食前、寝る前など)に注射し、血糖コントロールをおこないます。インスリン注射も、血糖測定同様、自己注射がすすめられます。その際は、インスリンの量や注射の方法など間違わないよう、きちんと指導を受けておこなうことが大切です。 妊娠糖尿病の治療中、低血糖になる可能性もあります。低血糖を放置すると母児ともに悪影響を及ぼす恐れもあります。低血糖症状(気分が悪くなる、吐き気、冷や汗など)がある場合は、すぐに血糖測定をして糖分を補給するようにしましょう。 治療方法妊娠糖尿病を予防するためには体重コントロールが重要です。妊娠中の体重増加目標は、妊娠前の肥満度によって異なります。バランスのよい食生活、散歩やウォーキング、掃除など、適度な運動をおこないましょう。ただし、妊娠中の運動は無理せずに体調をみながらおこなってください。 【適切な体重増加の範囲】BMI指標=実際の体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}・やせの人(BMI 18.5未満):+9~12kg・肥満度が標準な人(BMI 18.5~25未満):+7~10kg・妊娠前に肥満な人(BMI 25以上):+5kg以下 まとめ妊娠糖尿病は多くの人が出産後に血糖値が正常に戻りますが、糖尿病やメタボリック症候群など、将来のママや赤ちゃんの健康にも関係するといわれています。日頃からの生活習慣を気をつけて妊娠糖尿病を予防することが大切です。また、妊娠糖尿病になった方は糖尿病になる確率が高くなるため、産後もバランスのよい食事内容を工夫し、運動や生活習慣の改善をおこないましょう。 参考:・日本産科婦人科学会「妊娠糖尿病」・日本糖尿病・妊娠学会「糖尿病と妊娠に関するQ&A」 監修者:医師 三鷹レディースクリニック院長 天神尚子 先生日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。
2019年07月16日今回は、新生児期から始める正しいスキンケアについてお話しします。 赤ちゃんの皮膚の特徴皮膚は表皮、真皮、皮下組織で構成されています。皮膚表面は皮脂で覆われて、十分に水分が保持されている状態が正常な皮膚です。赤ちゃんの皮膚の構造は、大人とほぼ同じですが、全体的に皮膚は薄く表皮の厚みは大人の1/2~1/3の薄さしかありません。そのため、こすったりせっけんで洗いすぎるなどの刺激に弱く、皮膚のバリア機能が弱いという特徴があります。 新生児期(生後0~28日目)~生後2カ月ごろまでは、一時的に性ホルモンが増加し皮脂の分泌が盛んになるため、頭や顔が脂っぽくなり、新生児痤瘡(しんせいじざそう)や脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)が起こりやすい時期です。 生後3カ月を過ぎると急激に皮脂の分泌量が減り、最も乾燥しやすいカサカサの肌になります。この時期にアトピー性皮膚炎になる子も多く、あせもやよだれ、おむつによってかぶれやすくなります。この時期は皮脂だけでなく、皮膚を保湿するアミノ酸やセラミド(角質層細胞間物質)も少ないため、水分の保持量が少なく、十分な保湿機能やバリア機能が弱まっている状態です。 汗を分泌する汗腺は、赤ちゃんも大人もほぼ同じです。大人より体の小さい赤ちゃんは、皮膚の面積に対する汗腺の密度が高いため、汗をかきやすいという特徴もあります。 保湿が必要な理由月齢や年齢によって皮膚は変化していきます。皮膚が乾燥して皮膚のバリア機能が低下すると乳児湿疹やアトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。また、湿疹ができた部位や傷ついた部位からアレルゲンが体内に侵入すると食物アレルギーや気管支喘息などのアレルギー疾患を発症する場合があります。 生後間もない時期から保湿をすることは肌のうるおいを保ってバリア機能を補い、湿疹やアトピー性皮膚炎の予防または症状の軽減になります。 洗い方の基本正常な皮膚を保つために皮膚を清潔に保つことが大切です。 ①泡でやさしく、素手で洗う固形せっけんや液体せっけんを使用するときは、そのまま直接体につけるのではなく泡立てて、泡でやさしく汚れを浮かせながら素手で洗うと良いです。泡タイプのボディソープを使用しても良いです。ガーゼやタオルは繊維が荒いため、皮膚を摩擦して刺激することで皮膚のバリア機能が低下する可能性があります。湿疹がある部位も泡でやさしく洗いましょう。 皮脂の分泌が多い部位(頭、おでこ、鼻)を泡でやさしく、手指の腹でなでるように洗いましょう。顔を洗うときは、目・鼻・口・耳にせっけん成分が入らないように頭を起こしながらすすぎます。首から足までは皮膚の重なっている部分やくびれた部分も泡でやさしく洗いましょう。 ②洗い流した後は、押し拭きする。洗い終わったら、シャワーなどでお湯をかけてすすぎ、乾いたタオルで包み込むように押し当て水分を拭き取りましょう。 ③沐浴や入浴の後に保湿する押し拭きのあとに皮膚が乾燥しないうちに保湿をしましょう。 保湿の基本入浴後に保湿しないと、入浴前よりも皮膚は乾燥します。沐浴や入浴した後5分以内を目安に保湿剤を塗ると効果的です。保湿剤はたっぷりと皮膚にのせるように塗りましょう。 保湿剤の使用量の目安保湿に適した量は大人の手のひら2枚分の面積に対して約0.5gです。適切な量を清潔な手に出し、塗る部位に点在させ、手のひら全体で広げるように塗ります。保湿剤を塗布した部位がテカっと光りティッシュペーパーが付着する程度が適量です。 ・チューブ大人の人差し指の先端からひとつ目の関節までの長さを絞り出した量が約0.5g ・ローション1円玉くらいの大きさに出した量が約0.5g ・瓶大人の人差し指の先端からひとつ目の関節の1/2まで長さをすくった量が約0.5g 保湿剤の種類保湿剤は季節や塗る部位、時間帯などに応じて塗布し続けることが大切です。夏はベタつきの少ないローションタイプ、春や秋は水分が多く伸びのよいクリームタイプ、冬は油分の多い軟膏やクリームがおすすめです。 【軟膏】油脂性軟膏は、皮膚を保護して柔らかくする作用があります。刺激性が低いので皮膚の状態を問わず使用できますが、ベタつきがあり洗い流しにくいです。しっかり保湿したい場合に時間に余裕があるときや、沐浴や入浴後に使用するといいでしょう。 【クリーム】油分が多いタイプと水分が多いタイプがあります。ベタつきが少なく洗い流しやすいです。油分が多いタイプは空気が乾燥する冬に適しています。水分が多いタイプはどの季節でも使用可能です。しっかり保湿したい場合に、時間に余裕があるときや、沐浴や入浴後に使用するといいでしょう。 【ローション】頭皮や背中など広範囲を保湿する場合によく伸びるタイプのローションはおすすめです。蒸し暑い夏は使用感がさっぱりしているタイプのローションが適しています。 【ワセリン】皮膚の表面をしっかりと保護してくれます。硬くて塗りづらいため、沐浴や入浴後の体が温かく、皮膚表面に水分が残っているうちに塗りましょう。 保湿を続けても湿疹などの症状がひどい場合は?保湿剤を1日2~3回塗る習慣を続けると、しっとりとした正常な皮膚になります。保湿をしても湿疹がひどい、かぶれて皮膚が赤くなっている、ジュクジュクしている、黄白色のかさぶたがある、赤いブツブツができているなどの症状が続く場合は小児科もしくは皮膚科へ受診しましょう。病院で処方される医療用の保湿剤やステロイドを適切に使用することで早く治すことができます。 「ステロイドは危険」「ブツブツ・ジュクジュクしているのはデトックスの証拠」「アトピー性皮膚炎は自然治癒力や免疫力を高めれば治る」などの情報がwebやSNS上に出回っていますが、医学的に正しい情報ではないので気をつけましょう。 まとめ清潔と保湿を続けることで赤ちゃんの皮膚のうるおいを保ってバリア機能を補い、湿疹やアトピー性皮膚炎、その他のアレルギー疾患の症状を軽減することができます。清潔と保湿を毎日の習慣にしましょう。 ■参考文献一般社団法人日本アレルギー学会アトピー性皮膚炎ガイドライン専門部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2015.協和企画、2015公益社団法人日本助産師会発行冊子「助産師、保健師、看護師のための大切な新生児期からのスキンケア」監修大矢幸弘(国立成育医療研究センター生体防御系内科部アレルギー科医長医学博士)初版2017年 ■参考URL日本アレルギー学会HP日本皮膚科学会HP環境保全再生機構HP パンフレット「知っておきたい乳児のスキンケア」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年07月12日毎日3食、きちんと食べていますか? 妊婦さんの体はさまざまな栄養を必要としています。おなかの赤ちゃんを健やかに育むために、栄養バランスを考えた食事を摂りましょう。今回は朝食に着目し、妊婦さんにおすすめの朝食例や、栄養バランスのポイントをご説明します。朝は食欲があまりない人にも、対処法をご紹介しますので、ぜひチェックしてみてくださいね。 妊娠中の食事で気を付けること妊婦さんの体は、赤ちゃんを育てるためにさまざまな栄養を必要としています。とはいっても体調の変化や食欲の変化などで、つい食事を疎かにしてしまう妊婦さんも多いのではないでしょうか。まずは妊娠中の食事について、心がけるべきポイントをご説明します。 妊娠中は必要なエネルギー量がアップ厚生労働省では妊娠中の女性に必要なエネルギー量を公開しています。それによると、妊娠中は非妊娠時に比べて、必要なエネルギー量がアップしていることが分かります。 ・妊娠初期(~妊娠15週)+50kcal・妊娠中期(妊娠16週~27週)+250kcal・妊娠末期(妊娠28週~)+500kcal 妊娠中の栄養不足は危険!妊娠中といえば体重増加を気にして、“食べ過ぎてはいけない”というイメージがありますよね。確かに妊娠中に体重が増えすぎると妊娠高血圧症候群や巨大児、分娩時の出血多量などを引き起こす恐れがあります。しかし、体重増加が少なすぎてもリスクがあることをご存知ですか? 妊娠前のBMIでやせ型~標準体格であった女性に関しては、妊娠中の体重増加が7kg未満の場合、低出生体重児を出産するリスクが高いと指摘されています。また、貧血や早産のリスクも高まるため、妊婦さんと赤ちゃんの健康のためには、栄養バランスをきちんと考えた食事をし、適正体重まで増やしていくことが大切なのです。 1日の基本は3食+間食で「1日3食きちんと摂る」ことは生涯にわたり大切にしたい食生活の基本です。時間がないから、太りたくないからと食事を抜くと栄養不足になってしまいます。妊娠中は赤ちゃんの発育にも影響を及ぼす恐れがありますので、3食しっかり摂るようにしましょう。 献立の基本は主食・主菜・副菜「主食」に「主菜」「副菜」そして汁物を組み合わせると、バランスの良い食事になります。 ・「主食」はご飯を中心にご飯は味が淡白で、いろいろなおかずともよく調和し、主菜、副菜が揃えやすくなります。また、満腹感がある割に、エネルギーとして消費されやすいので、体の脂肪になりにくく、塩分を含まないので、食事全体の塩分量も控えることができます。 ・「主菜」は脂質を控えて適量を肉料理は脂肪の少ない赤身の肉を選びます。魚介類には良質なたんぱく質に加え、EPAやDHAなどの必須脂肪酸が含まれているので、妊娠中の方や授乳中の方におすすめです。 ・「副菜」は野菜などをたっぷりときのこや海藻類は低エネルギーで食物繊維が豊富。切り干し大根や高野豆腐などの乾物も利用し、副菜のレパートリーを増やしましょう。 妊婦さんにおすすめ! 朝食メニュー例次に朝食に着目してみましょう。しっかり栄養を摂りたい朝食。どのようなメニューを取り入れればよいのでしょうか? 妊娠中に必要な食品の種類と量の目安、おすすめの献立をご紹介します。 ●定番の和食は栄養バランスもいい・メニュー例ごはん、目玉焼き、味噌汁、きのこソテー、牛乳、りんご・ポイント和食は作るのに手間がかかるイメージですが、朝食ならさほど難しくはありません。味噌汁を作っている間に卵ときのこを調理すれば、ものの10分でできてしまいます。味噌汁に使用されている味噌は、大豆を発酵させて作られており、アミノ酸やビタミンが豊富。野菜、わかめなど、具をたくさん入れれば食物繊維やミネラルをたっぷり摂ることができます。 ●パン派の人もタンパク質と野菜を採り入れて・メニュー例食パン、オムレツ、サラダ、チーズ、みかん・ポイント朝はパン派という人におすすめなのが、オムレツを組み合わせた献立です。オムレツは炒めたにんじんやマッシュルームなどを具にして作れば、食べ応えも十分。パンを食べる際はジャムやシロップをかけるのは控え、オムレツやチーズを挟んで食べるなど、甘味料に頼らないようにしましょう。 ●休日はカフェ風パンケーキ朝食で贅沢に・メニュー例パンケーキ、ブルーベリー、バナナ、温野菜サラダ・ポイントたまには特別なメニューで気分転換を。そんなときは、パンケーキを使った朝食メニューにチャレンジしてみましょう。パンケーキには小麦、卵、牛乳が使用されているため、野菜と果物を組み合わせましょう。サラダを作る際は温野菜サラダがおすすめです。加熱によってかさが減るため、一度にたっぷりの野菜を食べることができます。彩り豊かな温野菜サラダに、ブルーベリーとスライスしたバナナを添えれば、見た目も華やか。パンケーキは市販の粉を使えば手軽にできますが、米粉を使って自家製のものを作ってもいいですね。 朝が弱い妊婦さんにおすすめの対処法朝食をしっかり食べたいとは思っていても、朝は眠いし食欲もない……。そんな妊婦さんも多いことでしょう。朝が弱い妊婦さんは、ぜひ次の2つの対処法を実践してみましょう。 ●習慣作りが大切! まずは2品からそもそも朝食を摂る習慣がない、という人の場合、いきなり栄養満点な朝食を摂るのは大変です。まずは2品からスタートして、朝食の習慣作りを始めましょう。 <朝が苦手な人におすすめのスタート食品>・パンと果物・おにぎりとゆで卵ポイントは、できるだけ主食を取り入れることです。たとえば、主食(ご飯・パン・麺など)と果物、あるいはタンパク質(卵や大豆製品)といった具合に。まずは自分にとって食べやすいものから始めて、少しずつ品数を増やしていきましょう。 ●朝食づくりのポイント・便利な調理器具を使う・前夜に準備する・冷凍ご飯の活用・常備菜を取り入れる・市販の便利な食品も利用する 忙しい朝は、できるだけ手間がかからず、すぐに食べられる食品を取り入れて、時短しましょう。洗い物が少なくて済むことなども、ポイントです。 まとめ朝ごはんはおなかの赤ちゃんを育むために、そして妊婦さん自身が元気でいるために、大切な食事です。朝が苦手な人も、市販品を上手に活用して、少しでも多くの栄養を摂る工夫をしましょう。少しずつ朝食の改善や、習慣作りに取り組み、栄養バランスのいい朝食を摂れるようになるといいですね。 ◆関連動画出産ドキュメンタリー(通常分娩) 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年07月04日普段は元気な赤ちゃんでも、突然熱を出してしまうということはよくあります。そのため、「熱の原因がわからない間はとても心配」という人も多いでしょう。赤ちゃんの発熱の原因と対処法を知っておき、焦らずに対処しましょう。この記事では赤ちゃんの高熱が続く原因や適切な対処法について紹介していきます。 大人よりも高い? 赤ちゃんの体温について赤ちゃんを抱っこしたとき、「ポカポカして温かい」と感じたことがある人は多いでしょう。赤ちゃんの体温は大人よりも高いため、赤ちゃんの平熱と発熱の境目を見極めることは難しいことがあります。 一般に赤ちゃんが風邪やインフルエンザなどの感染症にかかると熱を出します。37.5度以上を発熱と考え、38度以上の熱は高熱としています。そのため赤ちゃんの場合でも「発熱は〇度までは安心」ということは、一概にはいえないのです。38度以上の発熱があればかかりつけ医を受診すると良いでしょう。 赤ちゃんは体温調整が未熟で赤ちゃんの体温にも個人差があるので、普段から体温を測って平熱を把握しておくと、突然の発熱も見つけやすくなります。授乳をした後や泣いた後は体温は上がります。平熱を知りたいときは、起床時・昼ごろ(食前や食間)・夕方・夜の1日4回、安静時に検温してみるのがポイントです。健康なときに3日ほど続けて検温してみると、おおよそ平熱がわかります。平熱が把握できたら、時間帯ごとの平熱を母子手帳に記入しておくと参考になるでしょう。 発熱すると体温計の数値にばかり目が行きがちですが、健康状態にも目を向けてみると良いでしょう。「顔色は悪くない?」「機嫌はよい?」などをチェックしてみましょう。発熱がなくても機嫌が悪かったり、便がゆるかったり、いつもと違うと感じたときは、何らかの病気が疑われます。このように体温だけで判断するのではなく、お母さん、お父さんの勘も役立つことがあります。 【参考】熊本市 健康福祉局 保健衛生部 感染症対策課「感染症法に基づく医師の届出基準・様式集(医療機関向け)」 赤ちゃんの高熱の原因で考えられること赤ちゃんの高熱は、さまざまな原因が考えられます。まず、突発性発疹です。突発性発疹は、高熱が3~4日程度続き、高熱以外の症状が見られないことから風邪と区別がつきにくい点が特徴です。ただし、突発性発疹の場合は、解熱後におなかや背中に発疹が出てきます。感染経路は唾液といわれており、ヒトヘルペスウイルス6型・7型が感染することが原因です。突発性発疹については特別な治療法はありません。発熱時には脱水を防ぐために、こまめに水分補給をおこなって赤ちゃんの様子を見るようにしましょう。 次に、RSウイルス感染症も、1歳半までに半数以上の赤ちゃんが感染する病気です。RSウイルスに感染すると、鼻水やせきなどの比較的軽い症状で済むケースもありますが、なかには38度以上の高熱が出たり、場合によっては肺炎などを引き起こしたり恐れがあります。生後数カ月以内の赤ちゃんの場合は、RSウイルスに感染すると重症化することもあるため、家族間などでうつさないように注意することが大切です。 また、夏風邪の一種とされているヘルパンギーナも、発症すると38度以上の高熱が出ます。ヘルパンギーナは6~8月ごろに流行するケースが多く、高熱だけでなくのどの痛みなどの症状が見られます。ヘルパンギーナを発症しても鼻水やせきはあまり出ません。しかし、のどの奥が赤く腫れ、口の中に水疱ができる場合があります。のどの痛みがあることから、ヘルパンギーナを発症すると食欲が落ちる赤ちゃんも多くいます。 加えて、熱性けいれんは急激に熱が上がるときに起こるもので、生後6カ月~3歳くらいまでの乳幼児が発症しやすい病気です。熱性けいれんでは、発熱とともにけいれんが起こります。熱性けいれんになる原因に関してはいまだにはっきりとしたことはわかっていませんが、両親やきょうだいなどで熱性けいれんの経験者がいる場合には、発症する確率が高まります。さらに、赤ちゃんの脳は未熟であることから、高熱によるストレスが脳内で何らかのトラブルを起こしており、その症状が熱性けいれんとなってあらわれているという指摘もあるため、落ち着いて対処するようにしましょう。 ほかにも、赤ちゃんの高熱については手足口病やインフルエンザ、水ぼうそう、マイコプラズマ感染症など、さまざまな病気の可能性も考えられます。そのため、38度以上の高熱が出たときは自己判断せずに、専門医を受診するように心がけましょう。 【参考】日本小児神経学会「熱性けいれん診療ガイドライン2015」 知っておこう! 高熱が赤ちゃんに与える影響とは?赤ちゃんに高熱が出ると、「脳に影響が出るのではないか」という点を心配する人がいます。しかし、40度台の熱の場合は、赤ちゃんの脳に影響を与える恐れはほぼないといえるでしょう。 ただし、髄膜炎や急性脳症などのような、脳に影響を与える病気でも高熱が出ます。そのため、重篤な状態にならないようにするためにも、専門医を受診しましょう。また、41度以上の高熱が出た場合は、脳だけでなく、全身に影響を与える可能性があります。したがって、41度以上の高熱では早急に受診する必要があります。 要チェック! 赤ちゃんが発熱したときの対処法赤ちゃんが発熱した場合、家庭で簡単にできる対処法を試してみましょう。まず、クーリングです。赤ちゃんの熱が高く、体がほてっているようなら、クーリングをして気持ち良く休めるようにしてあげましょう。保冷剤をタオルで包んだもの(または冷やしタオル)を用意します。これを、赤ちゃんの首やわきの下、足のつけねなどにあてて冷してあげます。クーリングをおこなうと血の巡りが良くなり、結果として症状を和らげることにもつながるでしょう。 次に、高熱がある場合は座薬が処方されるケースも多く見られます。座薬を入れるときには、処方された量を守ることが欠かせません。ハサミやカッターナイフなどで座薬をカットして、必要な量だけ準備します。座薬が室温程度になったら赤ちゃんをあお向けにして、おしりに入れていきましょう。座薬の先端に潤滑油や水をつけておくと、肛門から入れやすくなります。座薬を指の第一関節くらいのところまで押し入れたら、肛門をティッシュペーパーで1分程度押さえておくことがポイントです。高熱が出たら座薬を使用しなければならないというわけではないため、医師の診察を受けて座薬が処方された場合に使用するようにしましょう。 また、赤ちゃんに熱性けいれんの症状が見られたときには、パニックになって赤ちゃんの名前を大きな声で呼んだり、揺さぶったりしないように注意することが大切です。状態を観察しながら赤ちゃんの衣服をゆるめて横向きに寝かせます。嘔吐した場合は、吐しゃ物がのどに詰まらないように取り除いてあげましょう。けいれんを起こしたときの発症時間や体温、けいれんの持続時間などをわかる範囲でメモしておき、受診するときに持参することがポイントです。 さらに、汗をかいたらこまめにタオルで拭いたり、水分補給をおこなったりすることも重要です。赤ちゃんの熱が高いと焦ってしまいがちですが、まずは落ち着いて赤ちゃんが気持ちよく休めるような環境を整えてあげましょう。 まとめ赤ちゃんの高熱が続く場合、なかには重篤な病気である可能性もあります。そのため、38度以上の熱がある場合には、専門医を受診するようにしましょう。また、赤ちゃんは体温調節が未熟であることから、環境によって体温が変化しやすいという特性があります。赤ちゃんの熱が下がらないときには、クーリングや水分補給をおこなうなどして、赤ちゃんが気持ちよく休めるような環境を作ってあげることが大切です。 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年07月02日妊娠すると食べ物に気を使うようになる人は多いものです。あれは食べていいの? これは食べてはいけないの? と、敏感になってしまうこともあり、その中で香辛料をつかった辛いものの摂取も悩みの1つかもしれません。この記事では、妊娠中に香辛料を摂っても大丈夫なのか、母体への影響やメリットについて詳しく説明していきます。 辛いものに使われる香辛料の妊婦への影響は?妊娠中は行動だけではなく、食事も気にしなければならなくなります。香辛料を使った辛いものの摂取は、妊娠前から食べている場合は特に問題ありません。しかし、妊娠中は妊娠前とは体調も違うので注意が必要です。 激辛料理は消化器への刺激が強いため、胃痛や胃もたれ、下痢などを引き起こす可能性があります。また、香辛料が入っている料理には、塩分も多く含まれていることが多いです。塩分を多く含む食べ物を摂ることによって、塩分の過剰摂取にもつながりますし、ご飯などの主食も多く摂ることになり、カロリーオーバーになってしまう可能性もあります。 辛いものを食べると胎児には影響はある?妊娠初期に辛いものを食べると流産のおそれがあるという話もあるようですが、妊娠初期の流産の原因の多くは胎児の先天異常によるものです。また、辛いものと流産との関連を裏付ける医学的根拠は今のところありません。 しかし、ママが辛いものを食べすぎることで、塩分の過剰摂取や体重増加につながり、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を引き起こす可能性があります。そうすると、母体だけでなく胎児にも影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。 辛くはないけど、注意が必要なのが「ハーブ」香辛料というとスパイスをイメージする方も多いかと思いますが、スパイスと同じような使い方をするのがハーブです。 国立健康・栄養研究所では、妊娠中の自己判断によるハーブ製品摂取に対する注意喚起をおこなっており、妊娠中に摂取することを避けるべき、あるいは慎重に利用すべきハーブ素材について提示しています。 たとえば、カキドウシ、セイヨウネズ、パセリ、ペニーロイヤル、セージ、エゾヨモギギク、セイヨウノコギリソウなどに含まれる成分には流産を誘発する作用があることが知られています。そして、ゴボウ、コロハ、フェネグリーク、ゴールデンシール、サンザシ、ジャマイカハナミズキ、マザーワート、イラクサ、ラズベリー、バーベナなどは、子宮筋への作用が報告されています。また、センナ、フラングラ、カスカラなどは下痢を引き起こすことがあり、妊娠中の摂取はすすめられません。 辛いものにはメリットも!香辛料やハーブはじょうずにつかえば母体に対してたくさんの良い影響があります。ここでは香辛料が母体にもたらすメリットをご紹介します。 ●食欲増進香辛料には食欲増進の効果があります。香辛料の入った料理は食べるだけではなく、香りを嗅ぐだけでも食欲は高められます。つわりや夏の暑い時期など、食欲がないときに香辛料を取り入れてみてもよいのではないでしょうか。 ●消化を良くしてくれる妊娠中は、ホルモンや大きくなった子宮の影響で便秘傾向になることがあります。香辛料には、消化を促す効果があり、便秘解消にも効果的です。たとえば、キムチには、香辛料と乳酸菌が含まれており、便秘解消にも美容にも効果が期待できます。 ●減塩効果さきほど、香辛料が入っている料理には、塩分も多く含まれていることが多いといいましたが、じょうずに使えば減塩効果も期待できます。香辛料の風味で食材の味を引き出すように工夫してみましょう。 ●冷え性対策妊娠中は体の冷えを感じやすくなります。今流行りの「温活」という言葉がある通り、体温を上げることで体には良いことがたくさんあります。香辛料をうまく取り入れて、冷え対策をおこなうものいいかもしれません。 まとめ妊娠中に辛いものを摂取すること自体は、必ずしも母体に悪影響を及ぼすという訳ではありません。しかし、多量に摂取することによってリスクとなる可能性があり、バランス良く摂取する必要があります。香辛料には、メリットもたくさんあり健康にも良いとされてるものもあります。妊娠中に食欲や冷えなどの対策のために工夫してじょうずに香辛料を摂っていきましょう。 ◆関連動画出産ドキュメンタリー(通常分娩) 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年06月30日夏になると乳幼児を中心に流行する病気のひとつである手足口病ですが、今年、2019年は6月3日~9日の間に全国の医療機関から報告された発生件数が、全国で西日本を中心に8823件。これは過去5年間の同時期と比較してかなり多く、都道府県によってはすでに警報が発令された地域もあるそうです。妊婦さんや赤ちゃんのいる家庭は気になるところですね。さて、妊婦さん本人が手足口病にかかってしまった場合は、どうなるのでしょうか。今回は手足口病が妊婦さんに与える影響があるのか、予防法や治療法などについてを解説します。 手足口病とは?手足口病は、ウイルスに感染して「手」「足」「口」に米粒大の赤い発疹や水疱(水ぶくれ)が発生する感染症のひとつです。日本国内では、5歳以下の子どもを中心に、夏に流行のピークを迎えますが、秋から冬に発生することもあります。 手足口病の原因は?手足口病の原因となるウイルスは、主にコクサッキーウイルスA6、A16、エンテロウイルス71と言われるウイルスです。これらのウイルスに感染して3~5日後に、発疹や水疱が発生しますが、通常は数日間のうちに治ります。 エンテロウイルスはいわゆる“夏かぜ”の原因となるウイルスであり、夏かぜの代表的な病態のひとつが手足口病です。比較的軽い症状のみで3~7日間のうちに治ることから、日常的に流行しやすく、かかってはいけない特殊な感染症ではありませんが、時に髄膜炎などを引き起こして重症化するケースがあります。 また、原因となるウイルスが1種類ではないため、一度手足口病を経験しても、別のウイルスが原因となって再び手足口病を発症することがあります。しかし、一度感染したウイルスに対しては免疫ができるため、同じ種類のウイルスによって再び発症することはありません。ほとんどは症状の有無に関わらず、子どものときに感染して免疫をつけてきた感染症ですが、今までに感染したことのないウイルスが原因の場合は、大人も感染して手足口病を発症することがあります。 手足口病の原因となるウイルスは、感染した人の咳やくしゃみ、会話中のつばに含まれるウイルスを、別の人が口や鼻から吸い込んで体内へ入り込む飛沫感染、感染した人の皮膚や粘膜に直接触れてウイルスをもらう接触感染、感染した人の便の中に排泄されたウイルスが何かしらの経路で口の中に入る糞口感染で、人から人へ感染します。 手足口病の症状は?発疹や水疱は、口腔粘膜、手指や手のひら、足の甲や足の裏などの四肢の末端に発生しやすいですが、肘や膝、おしりなどに発生することもあります。 発疹にかゆみや痛みがあることは稀です。ただし、口の中に水疱が発生して破れた場合、びらんや潰瘍(粘膜が荒れてただれた状態)となって痛みを感じることがあります。子どもの場合、発熱を伴うのは2~3人に1人で、通常は38℃以上の高熱が続くことはありません。大人の場合は40℃以上の高熱が出ることがあります。 妊婦さんが手足口病になった場合、おなかの赤ちゃんへの影響は?日本産婦人科医会によると、妊婦さんが手足口病を発症するケースは少なく、まれに流産や死産、胎児水腫などの報告はありますが、現段階では、手足口病と胎児異常を結びつける因果関係を証明する報告はありません。 ですが、母親が出産直前に感染した場合は、生まれた赤ちゃんに感染する可能性はあります。通常、感染しても無症状あるいは軽い症状のみと考えられていますが、重篤な状況を引き起こすケースもあります。いずれにしても、出産前後の母親や生まれた赤ちゃんに対しては、症状に合わせた治療と慎重な経過観察がおこなわれます。 妊婦の手足口病の治療方法手足口病を予防するワクチンも、特別な治療も今のところありません。妊娠中や出産直前に感染した可能性がある場合は、次の健診日を待たずに、すぐにかかりつけの産婦人科へ相談、受診しましょう。 発熱や頭痛などの症状を伴う場合は、受診前に自己判断で市販薬は内服せず、必ず医師へ相談してください。発疹や水疱への対処方法も、医師の指示に従いましょう。もし、やむを得ず産婦人科以外を受診する場合は、妊娠中であることを必ず医師へ伝えて治療を受けましょう。 その際、ほかの妊婦さんや産後の女性、赤ちゃんへの感染を防ぐため、受診前に病院へ電話連絡してから行くと、病院側も対応がスムーズでしょう。また、上のお子さんが発症している場合は、産婦人科のなかで感染を広げないために、付き添いや面会の際に連れて行かないようにしましょう。 妊娠中に手足口病にかからないための予防策手足口病の原因となるウイルスは、感染していても無症状なことがあります。発症した後に症状が消えて元気になってからも、約1カ月は便の中に排泄されるため、ウイルスをまき散らすことを完全に防ぐことは困難です。 手足口病に限らず、妊娠中に感染症にかかることを予防するために、・外から帰宅したらうがいや手洗いをする・電車などの人混みではマスク着用・上のお子さんのおむつ交換や排泄介助の後は必ず手洗いをする・トイレ掃除後には手洗いをする・外出先ではタオルは共用しない・家庭内で感染者がいる場合もタオルを共用しないなど、対策をして感染を防ぎましょう。 まとめ妊娠中に手足口病を起こさないために、他者との接触を避けることや集団生活をやめることは現実的な対策とはいえません。日頃から清潔を保つこと、こまめな手洗いを心がけて感染予防していきましょう。 ※参考:日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」厚生労働省・国立感染症研究所「感染症発生動向調査・感染症週報/2019年第23週(6月3日〜 6月9日):通巻第21巻第23号」 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年06月26日だんだん夏が近づいてきて、手足口病やヘルパンギーナといった夏風邪にも流行の兆しがみられてきました。この2つはエンテロウイルス属というグループが原因となっており、症状には似たところもいくつかあります。それぞれどのような病気でしょうか。■手足口病「症状、診断、合併症、治療」【症状】まず手足口病はその名のとおり、手、足、口に水ほうができる病気です。数mmくらいの小さな発疹が手の先、足の先にでき口の中には口内炎ができます。発熱を認める場合もありますが、平熱~微熱程度のこともあります。【診断】発疹は、ときに太ももやおしりにもできますが、手足口に発疹が分布することでおおよそ診断がつきます。何か特別な検査をするわけではなく、流行状況や症状の判断です。同じように小さな水ほうを認める病気として、水痘(みずぼうそう)がありますが、2つの主な見分け方は次の3点です。1.水痘はランダムに発疹が出る手足口病は分布が偏っていますが、水痘は頭皮や陰部を含め全身に発疹が出るところが異なります。2.水痘は急に広がる水痘は1日、または数時間で一気に発疹の数が増えます。数個あるなと思っていたら数時間後に数十個になっていることもざらです。手足口病はここまでスピードは早くありません。3.水痘ワクチンを2回接種していたら水痘の可能性は低い水痘はワクチンで防げる病気です。ただし1回だけの接種の場合、水痘の症状が軽くなるため、手足口病との区別が難しい時もあります。【合併症】合併症として髄膜炎を起こします。髄膜炎は激しい頭痛と繰り返すおう吐を認めて脱水を起こすので入院が必要となることが多いですが、後遺症を残すことはまれです。ときに足や手の爪が変形することがありますが、これは一過性のものですので様子見でOKです。【治療】発熱も発疹もとくに治療は必要なく数日で改善していきますが、口内炎がひどい場合、水分がとれず脱水をおこします。手足口病そのもので入院することはほぼありませんが、脱水により入院が必要となることがあります。柑橘(かんきつ)類や塩辛いものなど口にしみるものは避けて、イオン飲料などでこまめに水分摂取して脱水を予防してください。クリニックでは口内炎に対しての塗り薬を処方することもできます。■手足口病「いつから登校(登園)してもいい?」いわゆる学校感染症における登校(登園)停止基準は「○○日」と日数が決められているわけではありません。もちろん、熱があったり脱水があれば登園すべきではありませんので、全身の状態がどうかが目安になります。熱がなく元気があり、手足の発疹のみであれば、登園しても構わないということになります。登園許可証が必要かどうかは園に確認してください(地域により対応が異なります)。このとき「発疹があるのに登園したら、ほかの人にうつすのでは?」と心配になると思います。手足口病は発疹がなくなっても、便からウイルスが約1カ月くらい排出されるので、残念ながらしばらく感染力は残ってしまいます。感染力があるからといって元気な子どもを1カ月間、登校(登園)させないのは現実的ではないですし、感染してもあまり症状が出ない子どももいます。隔離をしたとしても流行を防げないというのが現実です。■ヘルパンギーナ「症状、診断、治療、登校(登園)基準は?」【症状】ヘルパンギーナは突然の高熱で発症し、口の中に水ほうができます。のどちんこのやや上の場所にプツプツとできるのが特徴で、のどの痛みのために食事や水分がとれなくなります。【診断】水ほうがのどちんこのところにできるという特徴や、発熱、周囲の流行状況などから総合的に診断します。同じくのどがはれて熱が出る病気として 溶連菌 、アデノウイルス感染症(プール熱)がありますが、これらはのどの綿棒検査で調べることが可能です。【治療】発熱はとくに治療なく自然に改善し、抗菌薬は不要です。のどが痛くて水分がとれないので、入院になる理由は手足口病と同じく脱水です。イオン飲料などでこまめに水分摂取をしましょう。食事が全くとれない場合は、体重1kgあたり30~50ml/日を目安に摂取させてください(例:10kgの子どもなら1日500ml)。また発熱やのどの痛みを緩和させるために、解熱鎮痛剤も使っていきましょう。【合併症】ヘルパンギーナも手足口病と同様に、ときに髄膜炎を起こしますので、頭痛やおう吐の症状に注意してください。【登校(登園)の基準は?】手足口病と同じで登校(登園)停止の日数は決められていません。熱が下がり水分がとれて元気になれば登園OKです。見える場所に発疹が出ないので手足口病ほど登園が問題視されることはないのですが、元気になってもウイルスは排出されているのでこちらも流行を防ぐことは難しいです。以上、いわゆる夏風邪と呼ばれる、手足口病、ヘルパンギーナについての解説をしました。いずれの夏風邪も流行を防ぐことは難しいため、感染することを前提に脱水の対策をして夏を乗り切ってください。
2019年06月21日赤ちゃんが使う哺乳瓶は、きれいに洗浄して消毒しておく必要があります。しかし、育児や家事に忙しく追われていると、毎回哺乳瓶を消毒するのを面倒に感じることがあるかもしれません。哺乳瓶は、どうして消毒しなければならないのでしょうか。今回は、哺乳瓶の消毒が必要な理由や消毒の方法などをお話ししていきたいと思います。 哺乳瓶の消毒が必要な理由生まれたばかりの赤ちゃんは、おなかの中にいたときにお母さんから受け継いだ免疫があるので、雑菌などに対してある程度の抵抗力があります。しかし、時間が経つと同時にその免疫も徐々に失われてしまいます。 そのため、生後しばらく経った赤ちゃんは、哺乳瓶に繁殖するウイルスや雑菌から自分を守ることができません。免疫力が弱い赤ちゃんを、食中毒や口内炎などのさまざまな病気から守るために、哺乳瓶を消毒してきれいにしておく必要があるのです。 哺乳瓶の消毒はいつまで続けるの?哺乳瓶の消毒をいつまで続けたらよいかについて、明確な基準は定められていません。なぜなら、赤ちゃんの発達状況は一人ひとり異なるからです。新生児から生後3カ月ごろまではきちんと消毒したほうが良いですが、それ以降は赤ちゃんの発達速度や状況によります。 一つの目安となるのは、赤ちゃんが口に物を入れたり出したりする動作です。さまざまな物を口に入れるようになると、哺乳瓶だけを消毒しても意味がなくなってしまうため、哺乳瓶の消毒が必要なのはこの動作が始まるまでと考える人がいます。一方、免疫力の弱い赤ちゃんのことを考えて、もっと長く、生後7カ月ごろまで消毒を続ける人もいます。赤ちゃんの発達速度や様子、動作などを考慮し、いつまで消毒を続けるかを決めると良いでしょう。 哺乳瓶を消毒する3つの方法哺乳瓶を消毒するには、主に3つの方法があります。 まず、哺乳瓶を煮沸消毒する方法です。大きめの鍋にお湯を沸かし、その中に哺乳瓶一式を入れます。このとき、哺乳瓶の中に空気が入ってしまうとその部分はきちんと消毒できないので、空気が入らないように気をつけましょう。哺乳瓶一式を煮沸し、乳首部分は3分ほど、哺乳瓶やキャップは5分ほどしたら取り出します。専用の道具などが不要で、普段から自宅にあるものを使ってできる方法です。哺乳瓶が数本あるなら、大きな鍋を使って一度に消毒することもできるでしょう。 次に、電子レンジを使った消毒の方法です。電子レンジ消毒専用の容器に哺乳瓶と水を入れて、電子レンジで加熱するだけで消毒できます。加熱する時間やワット数は専用容器によって異なるので、説明書を読んでから使うようにしましょう。また、哺乳瓶が耐熱性かどうかも確認する必要があります。電子レンジ消毒の専用容器をそろえる必要がありますが、短時間で手軽に消毒できる方法です。加熱後は専用容器がかなり熱くなっているので、やけどをしないように注意する必要があります。ある程度冷めるまで庫内に置いておき、電子レンジから取り出すのは冷めてからにしましょう。 3つ目の方法として、消毒液を使って消毒する方法もあります。次亜塩素酸ナトリウムという薬液に、一定時間哺乳瓶をつけて消毒します。火も電子レンジも不要で、やけどの心配がありません。消毒後は、そのまま水気を切れば哺乳瓶を使うことが可能です。専用容器に入れたまま哺乳瓶を保管しておくこともできます。しかし、専用の容器や薬剤を購入しなければならないことや、つけ置きに時間がかかることはデメリットといえるでしょう。また、塩素系のにおいが気になる人もいるかもしれません。 このように、哺乳瓶を消毒する方法は1つではないので、消毒にかかる手間や時間などを考えて、自分に合った方法でやってみましょう。 哺乳瓶を消毒するときに気をつけたいこと哺乳瓶を消毒するときには、まず哺乳瓶の素材をチェックしましょう。煮沸、電子レンジ、薬剤など自分の消毒したい方法が使える素材かどうかを調べます。乳首部分と哺乳瓶本体は違う素材でできているので、それぞれのパーツの確認が必要です。 また、どの方法で消毒するときにも、その前に哺乳瓶は洗っておきましょう。水洗いだけで済ませるのではなく、洗剤を使ってきちんと洗います。乳首部分や哺乳瓶の底は洗いにくい形状ですが、細長いブラシなどを使うときれいに洗うことができます。このとき、ゴシゴシと力を入れて洗ってしまうと、乳首の穴の部分などから裂けてしまうかもしれません。やわらかいブラシやスポンジなどで、やさしく洗い上げることを心がけましょう。 また、哺乳瓶についているミルクの成分が小さなダマになって、菌やカビがついて繁殖してしまうこともあるため、消毒だけではなく普段からしっかり洗うことも大切です。煮沸消毒や電子レンジ消毒をする場合、やけどをしないようにも注意が必要です。容器を触るのは冷めてからにする、トングや菜箸を使って哺乳瓶を取り出すなどして、やけどをしないように気をつけましょう。 まとめ哺乳瓶の消毒がなぜ必要なのか、いつまで続ける必要があるのかについて、しっかりした知識を身につけて実践しましょう。哺乳瓶の消毒は毎日のことなので、続けやすいように自分に合った方法を選ぶのも大切なことです。 【参考】厚生労働省「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドラインについて」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年06月20日