海藻類の中でもだしをとるなど、和食に広く使われる昆布は、日本人の食生活に欠かせないものの1つです。ミネラルや食物繊維が豊富に含まれているため、健康食品としても人気があります。また、「よろこぶ」に通じるとして、昔から縁起物としても重宝されてきました。しかし、妊婦さんは昆布を食べ過ぎないよう注意する必要があります。その理由と対策についてまとめました。 妊娠中の昆布の摂取について。食べ過ぎに注意しなければいけない理由は?昆布、わかめ、ひじき、のりなどの海藻類には、ヨウ素がたくさん含まれています。ヨウ素は食品中に存在するミネラルで、体内で甲状腺ホルモンを合成するために欠かせないものです。甲状腺ホルモンには、体の発育や新陳代謝を促進させるという重要な役割があり、妊娠中は胎児の骨や脳の発育のためにも欠かせません。妊娠中にヨウ素が不足してしまうと、最悪の場合は流産や死産といった結果を招いてしまうこともあります。 しかし、日本人は日常的にヨウ素を摂取しているため、平均的な食生活をしていれば不足することはほとんどありません。妊婦さんが注意しなくてはいけないのは、栄養素が足りないことではなく摂り過ぎることなのです。妊娠中にヨウ素を過剰摂取すると、それが赤ちゃんの体内にたまり、胎児に甲状腺機能低下症を引き起こしてしまう可能性があります。 甲状腺機能低下症とは、脳神経などの発達に必要不可欠な甲状腺ホルモンの分泌量が、不足してしまう病気です。甲状腺機能低下症は適切な投薬によって治療することができますが、病気の発見が遅れてしまうと、赤ちゃんの体や精神の発達に支障をきたすおそれがあります。こういった病気のリスクを回避するために、ヨウ素の摂取量に注意する必要があるのです。 1日にどれだけの昆布を摂取できる? 厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準」(2015年版)には、必要なヨウ素の量が掲載されています。これによると、18歳以上の女性は1日で130μgを摂取することが推奨されています。この数値は、標準的な日本人の食生活をしていればめったに下回ることはありません。 ただし、妊婦の場合は1日あたりの摂取推奨量が240μgで、かつ上限量は2,000μgという基準が設けられています。昆布に含まれているヨウ素は、100gあたり230,000μgです。昆布に関していえば、1g摂取するだけで2,300μgのヨウ素を摂取することになるわけです。さらに、昆布はだしの材料としてもよく使われますが、ヨウ素はだしにも溶け出します。昆布に含まれているヨウ素のうち、約80%以上がだしに溶け出しているというデータもあります。 ヨウ素を摂り過ぎないために、まずヨウ素をたくさん含む食品について知っておきましょう。昆布のみを避けていればいいわけではありません。ヨウ素の多い代表的な食べ物は海藻類です。以下に示しているのはそれぞれ100gあたりに含まれるヨウ素の量です。 ・干しひじき45,000μg・カットわかめ8,500μg・焼きのり2,100μg ヨウ素を含む食品とその食べ方で気を付けたいことは?ヨウ素を含む食品はほかにもあります。まずは海産物です。たらやまぐろ、さば、いわしといった魚、かにやえびなどの甲殻類、アワビなどの貝類が挙げられます。肉類ではレバー、ホルモンなどの内臓部分にヨウ素が多く含まれているため注意が必要です。さらに、市販の複合調味料やインスタント食品などの加工食品にも、昆布だしや昆布エキスが使われているものが多いため、使う前に表示をよく確認する必要があります。 飲み物にも昆布エキスが入っているものがあります。食品以外で注意したいのは、マルチビタミンやミネラルのサプリメントです。こういったサプリメントには、ミネラルの1種としてヨウ素が含まれているものがたいへん多いので、飲む前に栄養素に関する表記を確認する必要があります。 ヨウ素を摂り過ぎないために気をつけたいのは、まず、昆布の佃煮や昆布巻き、とろろ昆布など、昆布そのものを食べる食品は、食べ過ぎに注意することです。多くの塩分を使用し調理するものも多いため、少量で抑えておきましょう。 さらに、だしをとる際には、昆布以外でもしいたけやかつおぶしなどを使うこともできます。どうしても昆布だしを使いたいときは、だしのみで、昆布そのものは摂取しないなどの工夫が必要になってきます。 また、大豆食品はヨウ素の過剰摂取による悪い影響を防ぐ働きがあるともいわれており、ヨウ素を多く含む食品を食べるときには同時に大豆食品も摂取するとよいでしょう。普段から昆布だしを使った和食が中心という人や、日常的に海藻を食べているという人は、食生活を変える必要を感じるかもしれません。しかし、日本人が1日に摂取するヨウ素は平均で1,500μgというデータもあります。少し注意することで、上限量を超えずにじょうずに摂取することができるのではないでしょうか。 まとめヨウ素は、人が体内で甲状腺ホルモンを合成するために欠かせないものであると同時に、過剰摂取することも防がなくてはいけないものです。とくに、胎児が影響を受けやすい妊娠12〜20週の時期には、摂取上限量に注意する必要があります。しかし、ヨウ素の過剰摂取に気をつかうあまり、必要な量を下回ってしまっては流産や死産のリスクが高まってしまいます。バランスのいい食事を心がけながら、摂り過ぎに注意をして、昆布やヨウ素ともじょうずにつきあっていきましょう。 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年07月28日そろそろ赤ちゃんが欲しいけれど、なんとなく自然の流れに任せているという人もいるのではないでしょうか。残念ながら、人間は妊娠しやすい生き物ではありません。若く健康な男女がタイミングを合わせても妊娠できる確率は1回で約3割と言われています。さらに男女共に年齢を重ねることで自然妊娠の確率は下がってきます。このコラムでは妊娠力を高めるための体づくりや食べものについて紹介します。 妊娠確定までの流れ性交渉をし、卵子と精子がうまく受精すると受精卵が、約1週間かけて子宮内に着床します。この状態で、妊娠が成立したといえます。このときはまだ妊娠の自覚症状はほとんどありません。妊娠4週以降になると生理の遅れなどに気づき始めます。体温が高めになり、だるさ、吐き気や胃もたれを感じる場合もあります。妊娠~5週では、超音波検査のときに胎嚢が確認できます。そして妊娠6週頃に心拍が確認できて、はじめて妊娠確定という状態になります。 ■受精から着床までの流れ↓↓↓ 妊娠しやすいタイミングはいつ?排卵されてから月経がはじまるまでの「黄体期」といわれる期間は、約14日間といわれています。月経周期は人それぞれ違いますが、次回の月経開始予定日から約14日前に排卵が起こることが予測できます。 また、女性の体温は月経から始まる低温期と、排卵以降の高温期の2つを繰り返します。基礎体温をはかっていると低温期から高温期に移る前に体温がぐっと下がる時期があり、この時期に排卵が起こる可能性が高いともいわれています。最も妊娠しやすいのは排卵日の1日前から排卵日です。続いて排卵日の3日前~排卵日翌日も妊娠の確立が高くなる時期です。 妊娠しやすい体づくりとは妊娠しやすい体づくりのためには、まず、女性ホルモンを整える必要があります。ホルモンは血液によって運ばれる物質です。そのために、「全身の血行をよくする」ことから始めてみましょう。日ごろから、適度な運動を取り入れることは大切です。足をあげて自転車こぎをしたり腹筋を鍛えたりといったエクササイズを行うことや、ウォーキングなどの適度な運動を行うことは、全身の血行がよくなり筋力も維持されるので、基礎体温も高まり代謝がよくなります。特に、骨盤内への血行が良くなると卵巣や子宮などの機能も高まります。また、妊娠にストレスは厳禁ですが、運動後、副交感神経が優位になることでリラックス効果が高まるために、運動が妊娠しやすい体に有効ともいわれています。 普段から良い姿勢を心がけ、できるだけ同じ姿勢を続けないようにしましょう。長時間の運転やパソコンでのデスクワークの際には、一時間ごとに立ってストレッチをするなど、体を動かすように気をつけてください。ぴったりしたジーンズやタイトスカートなど体を締めつけるような衣服も避けましょう。 「体を冷やさない」ことも大事です。クーラーのよく効いた部屋など寒いと感じる場所に長時間いると、下半身の血行障害が起こりやすくなります。足首などを温めたり、ストレッチをしたりと対策をとるようにしましょう。 逆に男性の場合は「温めすぎ」に注意してください。精巣の温度が上がりすぎると精子をつくる機能が低下します。冬場に長時間コタツにあたる、サウナに長居するなどは良くない例です。また、座ったまま同じ姿勢で長時間ゲームをする、テレビを視聴するのもよくありません。長時間精巣の血管が圧迫されることで活性酸素がたまり、精巣の温度も高くなるので精子の質を落としてしまいます。 妊活中のおすすめの食べ物妊娠しやすい体づくりのために、妊活中の食べものはとても大事です。きちんとバランスのとれた食事をとり、偏食を避けるようにしてください。野菜を中心に、肉、魚、卵などのたんぱく質を取り入れ、バランスよく食べることが大事です。その上で、妊娠力を高めるために女性に積極的にとってもらいたいものは、ビタミンです。 ビタミンB6、ビタミンEには女性ホルモンの分泌を促し、ホルモンバランスを整える働きがあります。また、月経前症候群のさまざまな症状を和らげる働きもあるといわれています。さらには血液循環を改善し、生理痛を和らげます。 そして、ビタミンB群の一種であるパントテン酸はストレス緩和作用のある副腎皮質ホルモンの合成・促進に関与しています。 ビタミンB6は、かつお・さんま・まぐろなどの魚類、ビタミンEはナッツ類、パントテン酸はアボカドや卵類に含まれています。 さらに、妊娠する前から「葉酸」を適度にとると、胎児異常を減らせることが最近分かってきました。妊娠を望むのであれば、日ごろから積極的に、野菜など葉酸を多く含む食品摂取を心がけましょう。また、妊活中はできるだけ禁煙し、お酒も控えめにしてください。 まとめ赤ちゃんがほしいと思って、すぐに授かれるのは幸運なケースです。赤ちゃんをのぞむ場合は早めに準備をするにこしたことはありません。バランスのよい食事や適度な運動を心がけ、夫婦ともに妊娠しやすい健康的な体づくりを始めましょう。一般に1年以上避妊せずに夫婦生活を送っても妊娠にいたらない場合は不妊の可能性があります。夫婦でよく相談して、必要であれば産婦人科へ相談・受診したり、不妊治療に進んだりすることも考えてみましょう。 参考・妊活のはじめてガイド5 | ロート製薬・葉酸について|エレビット (Elevit)|バイエル薬品 監修者:医師 医療法人 晧慈会 浅川産婦人科 理事長 浅川 恭行 先生1993年 東邦大学医学部卒業、1999年 東邦大学大学院医学研究科博士課程修了。浅川産婦人科の院長を務めるほか、日本産婦人科医会 幹事、東邦大学医療センター大橋病院 産婦人科学講座 客員講師、鶴見大学歯学部 産婦人科学講座 非常勤講師として活躍。
2019年07月26日待ち望んで妊娠したのに、流産をしてしまうことがあります。流産後は、いつから妊活を始めるべきか悩んでしまうものです。さらに、一度流産すると繰り返してしまうのではないかと心配になってしまう人もいるでしょう。ここでは、流産後の妊活の開始時期、流産を繰り返す可能性、そして妊活中の注意点についてお伝えします。 流産後、いつから妊活を再開すべき?流産には「自然流産」と「化学流産」があり、前者の自然流産はさらに「切迫流産」、「進行流産」、「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」の3つに分類されます。 まず1つ目の「切迫流産」は、流産はしていないが、流産の危険がある状態をいいます。主な切迫流産の症状は出血ですが、出血量や腹痛の程度によっては妊娠を継続できる場合もあります。2つ目は「進行流産」です。腹痛や出血を伴い、胎嚢などの子宮内容物が体から出かかっている状態であり、残念ながらこの状態から流産をくい止めることは難しいとされています。3つ目は「稽留流産」で、胎児が子宮内で死亡している状態をいいます。稽留流産には上記の切迫流産と進行流産にあるような、腹痛や出血などの自覚症状がほとんどないため、お母さんが気づかないうちに起こっている場合が多くなっています。こうした場合は、検診で心拍を確認できないことで流産が判明します。 自然流産の場合、子宮が流産前の状態まで戻るのに時間を要することがあります。いつから妊活を再開するかについては、流産した週数や母体の状態、病院の方針によって違うでしょうが、1~2回は生理を見送ってからの妊活再開が望ましいと考える医師が多いです。焦らず、担当医師のいうことを聞いて、ゆっくりと心と体を休ませましょう。 次に、後者の「化学流産」について説明します。妊娠超初期段階といわれる妊娠4週から妊娠6週までの間に妊娠検査薬で陽性が出たのに、数日後に生理が来てしまったり、産婦人科を受診しても胎嚢が発見されなかったりするケースです。主に受精卵の染色体異常によりうまく着床できない、または着床しても発育が止まってしまった場合に起こります。妊娠検査薬を使わなければ通常の生理との区別がつかないことがほとんどです。そのため、化学流産後の治療などはなく、ほとんどの人が次の生理もいつも通りにきます。化学流産の場合は、時期を気にせず妊活を再開してもよいでしょう。しかし、心配な人は医師に相談してみてください。 1度流産したら繰り返すこともある?1度流産すると、また流産してしまうのではないかと不安になる人も多いのではないでしょうか。残念ですが、実際に流産を繰り返してしまう人もいます。流産を2回以上繰り返した状態を「反復流産」、流産を3回以上繰り返した状態を「習慣流産」といいます。 初期流産の原因は赤ちゃんの染色体異常であることがほとんどです。しかし、反復流産と習慣流産のように流産を繰り返す場合は、他の原因も考えられます。夫婦どちらかの「染色体均衡型転座」がある場合、細胞分裂の過程で異常が起きてしまうため、妊娠を継続できません。また、「子宮形態異常」があると、その子宮の形によって着床障害や胎児や胎盤を圧迫してしまい、流産を起こしやすくなります。他にも、甲状腺機能異常、糖尿病などの「内分泌異常」や、抗リン脂質抗体症候群やプロテインS欠乏症などが代表的な病気である「血液凝固因子(血栓性素因)異常」も、流産の原因として挙げられます。原因がある場合は適切な治療をおこなうことで、妊娠・出産が可能です。 一方で、流産を繰り返してしまう人の半数以上は、原因不明という現実もあります。原因がわからないのでは前に進めないと思われるかもしれませんが、その後、妊娠出産したという女性はたくさんいますので諦めないでください。 流産後の妊活で大切なのは流産後の妊活では、妊娠を強く望みすぎて精神的にストレスを抱えてしまう女性が多いです。ストレスは自律神経を乱し、ホルモンバランスに悪影響を与えてしまいます。ストレスを溜めないこと、そして、じょうずに発散することを心がけてください。 また、妊活には規則正しい生活と、バランスのとれた食事が必要です。特に、体を温める食べものがおすすめです。流産後は、心と体を休ませる大切な時間だと考え、仕事や家事などは無理をせず、周りの人に頼りましょう。不妊症と診断された場合でも、不妊カウンセラー等の専門家に相談しながら、夫婦にとって必要な情報提供を受けたり、適した方法で妊活できるようサポートしてもらいましょう。 【参考】日本不妊カウンセリング学会 まとめ赤ちゃんを望む女性にとって、流産は心も体もつらく、なかなか立ち直れない人もいるでしょう。そんなときは無理に元気になる必要はありません。おなかにいた赤ちゃんを想って、思い切り泣くのもよいでしょう。パートナーと旅行にいくのもおすすめです。心と体が落ち着いたら、自然と「また妊活をしてみようかな」という気持ちになるかもしれません。そう思えるようになるまでは、ゆったりと過ごしてくださいね。 監修者:医師 医療法人 晧慈会 浅川産婦人科 理事長 浅川 恭行 先生1993年 東邦大学医学部卒業、1999年 東邦大学大学院医学研究科博士課程修了。浅川産婦人科の院長を務めるほか、日本産婦人科医会 幹事、東邦大学医療センター大橋病院 産婦人科学講座 客員講師、鶴見大学歯学部 産婦人科学講座 非常勤講師として活躍。
2019年07月24日ベビー用品を揃えるときに赤ちゃんの靴下は、事前に準備したほうがよいのか迷ってしまいますよね。赤ちゃんの靴下は、履かせたほうがよいのか、履かせないほうがよいのかいろいろな意見を聞いてしまい、どちらがよいのかわからなくなる方もいると思います。ここでは、赤ちゃんの靴下の必要性や履かせるときのポイントなどについてお話ししたいと思います。 赤ちゃんに靴下は必要?赤ちゃんは体温の調節機能が未熟なため、気温の高低に伴って体温も上下してしまいます。また、室温だけでなく、衣服や寝具によっても体温が変動します。冬場など気温が低いときに薄着で、重ね着していない場合、低体温になってしまう場合があります。 赤ちゃんは大人に比べて、体の大きさに対する体表面積が大きく、また皮下脂肪が少ないため、熱が逃げやすいという性質を持っています。特に小さく生まれた赤ちゃんは注意が必要になります。そのため、靴下は寒いときに足先を温めるのに適した衣服ですので、寒い時期に外出するときなどに重宝することになります。ただし、適正な温度を保っている室内の場合では、季節を問わず赤ちゃんに靴下を履かせる必要はありません。裸足で過ごすことで足裏からさまざまな刺激を得ることができ、暑い、寒い、冷たいなどの感覚を味わわせることもいい経験になります。また、寝るときに靴下を履いていることで熱がこもってしまい、汗をかきすぎて脱水症状になる可能性もあります。 赤ちゃんにいつから靴下を履かせればいい?赤ちゃんには、季節に応じた衣服を着せてあげる必要があります。月齢で靴下を着用する時期を決めるのではなく、季節に応じて履かせてあげましょう。靴下は主に寒い時期に外出する際に着用することが基本となります。赤ちゃんは、体重あたりの食事を食べる量が大人より多く、成長に伴って運動量も多くなってくるため、体がつくる熱の量が多くなり、熱がこもりやすいという特徴があります。そのため、衣服だけで寒さ対策をすると着せすぎで熱がこもる原因となってしまいます。室内での赤ちゃんの体温調節は、衣服でおこなうよりもエアコンなどで気温を調節してあげるのが望ましいです。寒さを感じるようになった時期から、外出の際に靴下を履かせてあげるようにしましょう。 赤ちゃんに靴下を履かせるときのポイント「赤ちゃんの手足が冷たいから靴下を履かせてあげないと」と思われる方もいらっしゃることでしょう。しかし、赤ちゃんの手足は冷たくても、意外に体は温かいことも多く、靴下は必要ない場合もあります。おなかや背中を触ってみて、ひんやりしている場合には室温を上げたり、衣服で調整してみましょう。背中に手を入れて、汗ばんでいるようなら着せすぎですので、室温を少し下げるか、衣服を薄手のものにし、靴下を履かせなくてもよいでしょう。 おすすめの靴下靴下は赤ちゃんの肌に直接触れるものですので、赤ちゃんの肌に合ったものを選ぶ必要があります。サイズもどんどん変わっていきますので、その子に合ったサイズのものを選びましょう。サイズが大きいとすぐに脱げてしまいますし、小さいと肌を締め付けてしまいます。素材は綿素材など、吸湿性に優れたものを履かせるのがよいでしょう。 まとめ靴下は、室内で気温が最適な温度に設定されている環境ではあまり必要はありません。冬場に外出する際には、靴下の着用で冷えを予防する効果が期待できますので、履かせてあげるようにしましょう。出産時期が冬ごろの場合、室内で過ごすことのほうが多いので、靴下を着用する機会がない場合もあります。冬生まれの赤ちゃんの服を買い揃える際、ベビー用の靴下は出産後に必要になった際に購入するか、最低限の枚数を購入するかにとどめておくのがおすすめです。赤ちゃんの靴下のかわいさに、何足も買ってしまいたい気持ちが出てくるかもしれませんが、サイズアウトしやすいアイテムであることも忘れないようにしましょう。 【参照】厚生労働省「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年07月22日子どもの成長は、親にとってかけがえのない喜びで、楽しみでもあります。生後間もない赤ちゃんの発育は体重で確認ができますが、自分の赤ちゃんの成長が順調なのかどうかわからないと言う声も聞かれます。ここでは、生まれて間もない赤ちゃんが順調に成長しているのかどうか、その目安となる体重について解説していきます。 出生時の体重の平均値は? 男女差はどれくらい?ここで、出生時の体重の平均と、最近の傾向を見てみましょう。厚生労働省が平成13年の出生時から1年6カ月ごとに、全国の男女の身長と体重の平均値を調べた調査結果があります。それによると、出生時の体重の平均値は、男児が3,076g、女児が2,990gとなっています。 【参考】厚生労働省「子どもの生活の状況」 出生体重について! 1カ月健診までの体重の増減の目安もチェック出生時の平均値は男児が3,076g、女児が2,990gというものでしたが、出生時の赤ちゃんの体重の幅は広く、低体重の赤ちゃんもいれば、5kg近くの巨大児と呼ばれる赤ちゃんもいます。赤ちゃんの体重を、2,500g以上と2,500g未満と分けた場合の平均値も確認しましょう。 男児で2,500g以上の場合は3,146g、2,500g未満の場合は2,173gが平均値となります。女児では2,500g以上の場合は3,068g、2,500g未満の場合は2,222gという結果でした。 その後の成長の目安になる、1カ月健診までの体重増加についてはどうでしょうか。目安としては、男児の場合3.53~5.96kg、女児は3.39~5.54kgという幅で推移しているようです。男女や個人で差はありますが、出生時より、ほぼ1,000gほど体重が増えていることが多いようです。しかし、体重の増え方は赤ちゃんの授乳状況や成長の個人差がありますし、母乳栄養と人工栄養では増加率も違います。これらの数値はあくまでも目安であり、乳児身体発達曲線を参考に、平均値内で体重が増えていれば問題ないでしょう。 【参考】厚生労働省「子どもの生活の状況」 赤ちゃんの体重が増えない! その原因と対処法は自分の赤ちゃんの体重と平均値から、成長の度合いが確認できますが、気になるのは体重が増えない場合だと思います。平均値はあくまで目安であり、成長には個人差があるとはいえ、体重が増えないことについて、その原因や対処法を探ってみることは大切です。 赤ちゃんの体重が増えないことの原因の1つに、赤ちゃん自身がしっかり母乳やミルクを飲めていないことがあります。ミルクで育てている場合は、その時期に必要な量をきちんと計り与えることが重要です。ミルクの量等に関しては、母子健康手帳を参考に考えるとよいでしょう。 母乳の場合は計測することがあまりないので、どのくらい飲めているのかわからない場合がありますが、赤ちゃんが泣くたびに母乳を与え、排泄の回数や量も目安として観察します。1か月健診までは出産した医療機関で継続的にフォローしてもらい、アドバイスをもらいながら経過を見ていくことが必要です。また、赤ちゃんの発達具合を数値で見ることのできるカウプ指数というものもありますから、それを参考にしてもいいでしょう。 そのほか、赤ちゃんの病気が原因で体重が増えない場合もあります。まずは授乳の回数や量を確認しつつ、病院や地域での健診を受けながら、継続的なフォローを受けることが大切です。また、体が大きい子、小さい子は体質の可能性がありますので、乳児身体発達曲線に沿って成長していれば大丈夫です。 【参考】厚生労働省・生活習慣病予防のための健康情報サイト「肥満と健康」 体重が増えすぎている場合はどうすればいい? 逆に、体重が増えすぎて心配な場合もあると思います。基本的には、乳児身体発達曲線に照らし合わせて、その範囲内であれば心配する必要はありません。赤ちゃんの体重が増えすぎていることの原因には、母乳やミルクを必要以上に与えすぎている、母乳のカロリーが高い、あるいは遺伝要素も考えられます。母乳の場合はあまり気にしなくてよいといわれています。ミルクの場合は、与えすぎないように一回の授乳で必要な量を超えないようにすることが大切です。それでも泣く場合は、抱っこしたりあやしたりしながら次の授乳までの時間をあけるようにしましょう。 まとめ子育てをするなかで、子どもの成長が、順調なのかなど、何かと心配になるものです。体重や身長などの成長の度合いは、乳児身体発達曲線の範囲を目安に確認するとよいでしょう。また、医療機関や地域でおこなわれている定期的な健診には必ず参加し、成長を見てもらうこと、アドバイスをもらうことも重要です。数値はあくまでも目安であり、生まれてきた週数や体重、性別などによっても成長のペースには個人差があります。数値にとらわれすぎず、さまざまな専門家の目で見て判断してもらいながら、子どもの成長を見守っていきましょう。 【参考】厚生労働省「平成22年乳幼児身体発育調査の概況について」「乳幼児身体発育評価マニュアル」、日本小児科学会・日本小児科学会雑誌 114巻8号「新しい在胎期間別出生時体格標準値の導入について」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年07月20日妊娠したことがわかると、そのまま順調に出産ができるものと思いたくなるのも当然ですが、残念ながら統計的には15%ほどの確率で流産は起こります。流産は、誰にでも起こる可能性があり、決して珍しいことではありません。今回は自然流産の原因や症状、予防法などについてお話ししていきたいと思います。 流産とは妊娠22週未満で起こる妊娠の終了を「流産」と言います。流産は、妊娠12週未満に起こるものを早期流産、妊娠12週以降に起こるものを後期流産と言います。また、自然に妊娠が終わることを自然流産、人工的に妊娠を終わらせることを人工流産といいます。 自然流産は、経過や子宮の中の状況により、次のように分類されます。 切迫流産少量の性器出血や軽度の腹痛、腰痛などの症状があり、流産となる可能性があるものの、症状が治まれば妊娠の継続が期待できる状態のことです。この段階では、子宮内の袋(胎のう)や胎児には異常をみとめません。 進行流産切迫流産とはちがい、流産が進行してしまっている状態です。出血が多くなり、陣痛のようなお腹の痛みが出てきます。胎のうや胎児の一部または全部が出血とともに子宮の外に押し出されてきます。 完全流産進行流産のうち、胎のう・胎児などが完全に子宮から押し出されてしまった状態です。今まであった出血や腹痛は軽くなる、又はなくなります。 不全流産進行流産のうち、胎のうや胎児、あるいはそれを包んでいる子宮の組織が完全に押し出されず、子宮の中に一部が残っている状態です。出血や腹痛が続きます。 稽留(けいりゅう)流産出血や腹痛などの症状がないのに、胎児の成長が止まって心拍が確認できなくなっている状態です。ある程度時間がたつと出血が始まることもあります。 不全流産の場合は、胎のうや胎児などを子宮の中から出す、「子宮内容除去術」と呼ばれる手術が必要になることもあります。稽留流産の場合も、胎のうが大きい場合には大量出血の可能性があるので、出血が始まる前に同様の手術が必要となることがあります。 妊娠時期別の流産の割合と確率、原因とは?自然妊娠では、約15%の割合で流産が起こります。そのうち早期流産が13.3%で、後期流産が1.6%と妊娠初期に流産が起こりやすいです。 早期流産の原因としては、胎児の染色体異常が最も多いです。男女共に年齢が上がると精子や卵子が老化するため、受精卵に染色体異常が起こる確率が上がります。また、お母さんの年齢が上がるにつれて流産する確率は上がり、特に40歳以上では流産が起こる確率は40%になります。 妊娠初期に起こる流産は、胎児側に原因がある場合がほとんどですので、流産となってしまった場合でもお母さんは自分を責めないであげてください。 流産の症状、兆候は?性器出血や腹痛、腰痛、おなかが張る、基礎体温が下がる、つわりが突然なくなるなどの症状が見られることもありますが、稽留流産のように何も症状のない流産もあります。 また、妊娠初期には流産とは無関係に、着床出血や妊娠月経と呼ばれる性器からの出血がみられることがあります。またホルモンの状態が変化することで、腰痛や軽度の腹痛が起こりやすくなります。こうした症状があっても必ずしも流産とは限りませんので、取り越し苦労はしない方がよいですが、気になる場合はかかりつけの産婦人科で相談しましょう。まずは定期的に妊婦健診を受けることが大切です。 流産の予防法は?妊娠12週未満の流産は、染色体異常が原因で起こる可能性が高く、予防法は今のところありません。しかし、お母さんが気をつけられることもありますので、紹介していきたいと思います。 ●無理な運動をしないようにする下腹部に力が入る運動は、おなかが張りやすいので避けた方が良いです。日常生活では、階段の上り下りや重い荷物を持たない、車の運転や自転車に乗らないようにするなどの場面に注意しましょう。また仕事や家事をするときも無理をせず、周りの力を借りるようにしましょう。 ●体を冷やさない妊娠中は、体が冷えると子宮の筋肉が収縮し、おなかが張りやすくなります。そのため、温かい飲み物を飲んだり、おなかを温めるために使い捨てカイロや腹巻の活用、足首にレッグウォーマーや靴下を履くなどして体を温められると良いですね。 ●ストレスをためないようにする妊娠中はホルモンのバランスが崩れ、いつもよりストレスを感じやすくなります。ストレスが溜まると子宮の収縮を促すホルモンが出るため、おなかが張りやすくなります。ストレスを感じたら、好きな音楽を聴いたり、本を読んだりと体の負担がかからないようなストレス発散をしていくといいでしょう。 ●性生活について性交についてですが、切迫流産の兆候がない方も妊娠初期には控えたほうが良いとされています。性交は、子宮の収縮などを促しやすいため、回数が多いと流産の原因となることもあります。早産の兆候がある方や、以前早産の経験がある方も控えるべきです。とくに気をつけるべき点は、不潔な性行為は、炎症や流早産の原因となる細菌感染を起こす可能性があるということです。 その他にも妊娠中期での流産の原因として、子宮の入り口が開きやすい子宮頸管無力症や子宮筋腫などがあり、妊娠を希望する方は早めに産婦人科に受診して相談すると良いでしょう。 まとめ流産は、誰にでも起こる可能性があります。流産された方は、気分が落ち込んだり、次の妊娠をするときも心配になる方が多いと思いますが、不安に思いすぎず、穏やかな気持ちで次の妊娠を過ごせるとことを祈っております。 参考文献・杉浦真弓;【産婦人科救急治療ガイド】産科救急疾患とその初期治療母体流産(解説/特集)・岡庭 豊;産婦人科治療(0558-471X)84巻増刊Page738-740(2002.05)・病気が見えるvol10産科第2版メディックメディアPage80-83(2009.09) 監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
2019年07月18日妊娠によりママの体はさまざまな変化が生じます。そのなかのひとつに、ママは赤ちゃんに優先的に糖分を供給できる仕組みを作るようになり、代謝動態が変化します。しかし、このような変化が起きていることも知らずに食欲にまかせてついつい食べ過ぎてしまうと「妊娠糖尿病」になってしまうことも。そこで今回は、妊娠糖尿病の症状や治療方法、母体や赤ちゃんへの影響などについて解説します。 妊娠糖尿病とは妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見、または糖尿病にいたっていない軽い糖代謝異常のことを言います。妊娠中に診断された明らかな糖尿病は含まれません。妊娠糖尿病は世界共通の診断基準が提唱され、妊娠糖尿病の診断基準が2010年に改定されました。日本産婦人科学会によると、妊婦の7~9%は妊娠糖尿病と診断されるといわれています。 妊娠糖尿病の原因と妊娠糖尿病になりやすい人特に妊娠20週以降になると、胎盤から出るホルモンによって、血糖値(血液に含まれるブドウ糖の量)を下げるインスリンというホルモンが効きにくくなります。そのためママの血糖値が普段より高くなり、高くなった分のブドウ糖が赤ちゃんに供給されるようになります。そのため甘い物や炭水化物などを食べ過ぎると、血糖値が上昇しやすくなってしまいます。 さまざまな要因によって、通常の妊娠時よりもインスリンの働きが抑制されてしまうと、ママの血糖値が常に高い状態となり「妊娠糖尿病」を発症してしまいます。妊娠糖尿病は、妊娠が終了し、胎盤からのホルモンの影響がなくなると症状が消失していきます。 妊娠糖尿病になりやすい人の特徴を紹介します。 ◆妊娠糖尿病になりやすい人・家族に糖尿病にかかっている人がいる・肥満・35才以上・過去に4,000グラム以上の赤ちゃんを出産したことがある・尿検査で尿糖が陽性になったことがある、または反復して陽性になる 妊娠糖尿病の症状や診断、母体や胎児への影響妊娠糖尿病は、妊婦健診でおこなわれる尿検査や血液検査で発見されることがあります。妊娠糖尿病の症状、母体やおなかの赤ちゃんへの影響を紹介します。 症状喉が渇く、頻尿、倦怠感、体重の急激な変化などの症状があります。初期は自覚症状はほとんどなく、妊婦健診で血糖値の異常を指摘されて気づくことが多いようです。 診断妊婦健診でおこなわれる血液検査で、血糖値を測定し、基準値を超えた場合、75ℊ経口ブドウ糖負荷試験をおこないます。 経口ブドウ糖負荷試験というのは、空腹時にブドウ糖75ℊを溶かした液体を飲み、1時間後・2時間後に血糖値を測定します。75 g経口ブドウ糖負荷試験において、①空腹時血糖値≧92mg/dL②1時間値≧180mg/dl③2時間値≧153mg/dLのいずれかひとつを満たした場合、妊娠糖尿病と診断されます。 妊娠糖尿病による母体と赤ちゃんへの影響妊娠糖尿病になると、ママだけでなく、おなかの中の赤ちゃんにも健康リスクを与える可能性があります。◆母体への影響・流・早産・妊娠高血圧症候群・羊水過多症・巨大児出産の時に、産道裂傷、帝王切開率上昇など・将来、糖尿病を発症するおそれ ◆赤ちゃんへの影響・巨大児(生まれるときに肩甲難産、腕神経麻痺、骨折のおそれ)・胎児発育不全・胎児機能不全・子宮内胎児死亡・新生児低血糖・呼吸窮迫症候群(肺サーファクタントの欠乏により、多呼吸・陥没呼吸・呻吟・チアノーゼなどをきたす呼吸器疾患。早産児に多い)・低カルシウム血症、高ビリルビン血症・多血症(血液中の血球(主に赤血球)の割合が多い状態)など 妊娠糖尿病の治療方法妊娠糖尿病になった場合、早期の治療をおこなう必要があります。また、予防方法について解説します。妊娠糖尿病の治療には、血糖コントロールが必須です。そのため定期的に血糖値を測定する必要があります。そのため、自己測定をすすめられることが多くあります。その結果をみながら、治療方針が決定されます。 治療方法●食事療法治療の基本は食事療法ですが、栄養バランスのとれた食事内容でカロリーコントロールが必要になります。 ≪食事療法のポイント≫・甘い物や糖質の多い物を控える・ご飯やパン、麺類などの炭水化物を減らす・ささみや豚、脂身の少ない肉を摂取・魚、大豆製品、卵などの良質なタンパク質を摂取・食物繊維が多いキノコ類や野菜などを積極的に摂取 ●インスリン療法血糖コントロールが不良の場合におこなわれます。インスリンを定期的(毎食前、寝る前など)に注射し、血糖コントロールをおこないます。インスリン注射も、血糖測定同様、自己注射がすすめられます。その際は、インスリンの量や注射の方法など間違わないよう、きちんと指導を受けておこなうことが大切です。 妊娠糖尿病の治療中、低血糖になる可能性もあります。低血糖を放置すると母児ともに悪影響を及ぼす恐れもあります。低血糖症状(気分が悪くなる、吐き気、冷や汗など)がある場合は、すぐに血糖測定をして糖分を補給するようにしましょう。 治療方法妊娠糖尿病を予防するためには体重コントロールが重要です。妊娠中の体重増加目標は、妊娠前の肥満度によって異なります。バランスのよい食生活、散歩やウォーキング、掃除など、適度な運動をおこないましょう。ただし、妊娠中の運動は無理せずに体調をみながらおこなってください。 【適切な体重増加の範囲】BMI指標=実際の体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}・やせの人(BMI 18.5未満):+9~12kg・肥満度が標準な人(BMI 18.5~25未満):+7~10kg・妊娠前に肥満な人(BMI 25以上):+5kg以下 まとめ妊娠糖尿病は多くの人が出産後に血糖値が正常に戻りますが、糖尿病やメタボリック症候群など、将来のママや赤ちゃんの健康にも関係するといわれています。日頃からの生活習慣を気をつけて妊娠糖尿病を予防することが大切です。また、妊娠糖尿病になった方は糖尿病になる確率が高くなるため、産後もバランスのよい食事内容を工夫し、運動や生活習慣の改善をおこないましょう。 参考:・日本産科婦人科学会「妊娠糖尿病」・日本糖尿病・妊娠学会「糖尿病と妊娠に関するQ&A」 監修者:医師 三鷹レディースクリニック院長 天神尚子 先生日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。
2019年07月16日妊娠中に下腹部痛を訴えるケースが多く、不安を感じる妊婦さんが多いといわれています。何が原因で、どのような症状を感じやすいのかを対処法と合わせてご紹介します。注意が必要な下腹部痛の特徴についても一緒にお話ししたいと思います。 妊娠中に起こる下腹部痛の原因多くの妊婦さんが妊娠中に経験する下腹部痛は、さまざまな原因が考えられるため、下腹部痛が起こるタイミングもさまざまですが、妊娠初期に下腹部痛を感じる人が多いといわれています。器質的疾患がない妊婦さんが妊娠初期に下腹部痛を感じやすい原因としては、次の3つがあげられます。 1.ホルモンバランスの乱れによる便秘や下痢女性の子宮では妊娠成立のために、子宮内膜を増殖させて受精卵を着床しやすくさせる働きのあるエストロゲンや、妊娠が継続しやすい環境に整える働きのあるプロゲステロンが持続的に分泌されるようになります。 また、妊娠が成立すると、胎盤からhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)やhPL(ヒト胎盤性ラクトゲン)も分泌されるようになり、ホルモンバランスが大きく変化します。ホルモンバランスが乱れると、腸の機能低下を引き起こすケースが多く、つわりによる食生活の乱れと重なって便秘や下痢を起こし、それにともなう症状として下腹部痛を感じやすい傾向があります。 2.子宮の成長非妊娠時の子宮は、鶏卵大程度の大きさです。しかし、妊娠すると、妊娠11週にはこぶし大程度になり、妊娠20週になるころには子どもの頭くらいの大きさに急成長するため、人によっては、子宮の大きさの変化による違和感や痛みを覚えることがあります。 3.靱帯のつれ妊娠をすると、赤ちゃんが産まれやすくなるように骨盤が広がります。子宮は、円靱帯(えんじんたい)で骨盤とつながっていますが、妊娠によって靱帯がゆるみ、骨盤が広がることで、体をひねったときに靱帯が引っ張られて下腹部に痛みを感じることがあります。 妊娠中の下腹部痛はどんな痛み?いつまで続く?妊娠中に起こる下腹部痛は、妊娠初期から起こりやすいといわれていますが、いつごろまで感じるものなのか、心配される方も少なくありません。妊娠中の下腹部の痛みの特徴とともに見ていきましょう。 【妊娠中に感じやすい3つの下腹部痛】下腹部痛の症状は、人によって感じ方が違いますが、痛みを表現すると、概ね次のような痛みを感じやすい傾向があります。・針などでつつかれているようなチクチクした痛み・締め付けられるような痛み・おなかが引っ張られるような痛み 妊娠中に起こる下腹部痛は、妊娠初期にみられることが多く、痛みを感じてから1カ月ほどで痛みに慣れて気にならなくなるといわれています。ただ、子宮の成長にともなって子宮周辺の臓器や筋肉が圧迫されたり、刺激を受けたりするため、妊娠中期や後期になっても下腹部の不快感や痛みが続く人もいます。 下腹部痛の対処法妊娠中の下腹部痛の主な対処法としては、次の2つがあります。 ・体を冷やさないようにして安静にする妊娠すると胎児の血液も確保する必要があり、循環血液量がアップしますが、体が冷えていると血液循環がスムーズにおこなえません。体が冷えないように対策しながら安静にすることも大切です。 ・ストレスをため込まない人間の体は、自律神経系や内分泌系などの絶妙なバランスによって、心と体の健康を維持していると考えられています。しかし、妊娠中は、これまでのような生活ができず、制限されることも多くなってストレスを感じてしまう人が多い傾向があります。ストレスは、心と体のバランスを崩して、下腹部痛を招く可能性があるため、妊娠中でも楽しめる趣味などでうまくストレスを発散することも大事です。 注意が必要な下腹部痛とは妊娠中の下腹部痛には、注意が必要なケースがあります。それは、流産や早産、子宮や卵巣などの病気が関連した下腹部痛です。 流産や早産が関連した下腹部痛妊娠22週未満で妊娠が中断してしまう「流産」や、妊娠22週以降から37週未満の出産の「早産」の症状として下腹部痛が起こっている可能性があります。流産の場合、少量の性器出血を伴うことが多く、早産では、周期的な陣痛や分娩を一気に進行させる破水が起こりやすいです。また、切迫流産や切迫早産の場合、下腹部に触れたとき、子宮が固く収縮していることが多いため、下腹部痛以外に気になる症状がある場合は、かかりつけの病院へ連絡して、すぐに病院へ向かうようにしましょう。 子宮や卵巣などの病気が関連した下腹部痛妊娠中に下腹部痛を引き起こす可能性がある病気は、以下のようなものがあります。・子宮筋腫・子宮腺筋腫(子宮内膜症)・卵巣腫瘍・胃腸炎・膀胱炎・尿路結石安静にしていてもよくならないケースは、病気が原因の可能性が考えられるため、一度病院で診てもらうとよいでしょう。 まとめ下腹部痛を感じると不安に思う妊婦さんが多いですが、下腹部痛の原因や対処法、注意が必要な下腹部痛のポイントを押さえておけば、いざというときに冷静な判断ができ、不安から来るストレスの軽減も期待できます。ただ、知識を過信しすぎないことも大切です。下腹部痛以外にも気になる症状がある場合は、迷わずかかりつけの病院を受診するようにしましょう。 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年07月14日今回は、新生児期から始める正しいスキンケアについてお話しします。 赤ちゃんの皮膚の特徴皮膚は表皮、真皮、皮下組織で構成されています。皮膚表面は皮脂で覆われて、十分に水分が保持されている状態が正常な皮膚です。赤ちゃんの皮膚の構造は、大人とほぼ同じですが、全体的に皮膚は薄く表皮の厚みは大人の1/2~1/3の薄さしかありません。そのため、こすったりせっけんで洗いすぎるなどの刺激に弱く、皮膚のバリア機能が弱いという特徴があります。 新生児期(生後0~28日目)~生後2カ月ごろまでは、一時的に性ホルモンが増加し皮脂の分泌が盛んになるため、頭や顔が脂っぽくなり、新生児痤瘡(しんせいじざそう)や脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)が起こりやすい時期です。 生後3カ月を過ぎると急激に皮脂の分泌量が減り、最も乾燥しやすいカサカサの肌になります。この時期にアトピー性皮膚炎になる子も多く、あせもやよだれ、おむつによってかぶれやすくなります。この時期は皮脂だけでなく、皮膚を保湿するアミノ酸やセラミド(角質層細胞間物質)も少ないため、水分の保持量が少なく、十分な保湿機能やバリア機能が弱まっている状態です。 汗を分泌する汗腺は、赤ちゃんも大人もほぼ同じです。大人より体の小さい赤ちゃんは、皮膚の面積に対する汗腺の密度が高いため、汗をかきやすいという特徴もあります。 保湿が必要な理由月齢や年齢によって皮膚は変化していきます。皮膚が乾燥して皮膚のバリア機能が低下すると乳児湿疹やアトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。また、湿疹ができた部位や傷ついた部位からアレルゲンが体内に侵入すると食物アレルギーや気管支喘息などのアレルギー疾患を発症する場合があります。 生後間もない時期から保湿をすることは肌のうるおいを保ってバリア機能を補い、湿疹やアトピー性皮膚炎の予防または症状の軽減になります。 洗い方の基本正常な皮膚を保つために皮膚を清潔に保つことが大切です。 ①泡でやさしく、素手で洗う固形せっけんや液体せっけんを使用するときは、そのまま直接体につけるのではなく泡立てて、泡でやさしく汚れを浮かせながら素手で洗うと良いです。泡タイプのボディソープを使用しても良いです。ガーゼやタオルは繊維が荒いため、皮膚を摩擦して刺激することで皮膚のバリア機能が低下する可能性があります。湿疹がある部位も泡でやさしく洗いましょう。 皮脂の分泌が多い部位(頭、おでこ、鼻)を泡でやさしく、手指の腹でなでるように洗いましょう。顔を洗うときは、目・鼻・口・耳にせっけん成分が入らないように頭を起こしながらすすぎます。首から足までは皮膚の重なっている部分やくびれた部分も泡でやさしく洗いましょう。 ②洗い流した後は、押し拭きする。洗い終わったら、シャワーなどでお湯をかけてすすぎ、乾いたタオルで包み込むように押し当て水分を拭き取りましょう。 ③沐浴や入浴の後に保湿する押し拭きのあとに皮膚が乾燥しないうちに保湿をしましょう。 保湿の基本入浴後に保湿しないと、入浴前よりも皮膚は乾燥します。沐浴や入浴した後5分以内を目安に保湿剤を塗ると効果的です。保湿剤はたっぷりと皮膚にのせるように塗りましょう。 保湿剤の使用量の目安保湿に適した量は大人の手のひら2枚分の面積に対して約0.5gです。適切な量を清潔な手に出し、塗る部位に点在させ、手のひら全体で広げるように塗ります。保湿剤を塗布した部位がテカっと光りティッシュペーパーが付着する程度が適量です。 ・チューブ大人の人差し指の先端からひとつ目の関節までの長さを絞り出した量が約0.5g ・ローション1円玉くらいの大きさに出した量が約0.5g ・瓶大人の人差し指の先端からひとつ目の関節の1/2まで長さをすくった量が約0.5g 保湿剤の種類保湿剤は季節や塗る部位、時間帯などに応じて塗布し続けることが大切です。夏はベタつきの少ないローションタイプ、春や秋は水分が多く伸びのよいクリームタイプ、冬は油分の多い軟膏やクリームがおすすめです。 【軟膏】油脂性軟膏は、皮膚を保護して柔らかくする作用があります。刺激性が低いので皮膚の状態を問わず使用できますが、ベタつきがあり洗い流しにくいです。しっかり保湿したい場合に時間に余裕があるときや、沐浴や入浴後に使用するといいでしょう。 【クリーム】油分が多いタイプと水分が多いタイプがあります。ベタつきが少なく洗い流しやすいです。油分が多いタイプは空気が乾燥する冬に適しています。水分が多いタイプはどの季節でも使用可能です。しっかり保湿したい場合に、時間に余裕があるときや、沐浴や入浴後に使用するといいでしょう。 【ローション】頭皮や背中など広範囲を保湿する場合によく伸びるタイプのローションはおすすめです。蒸し暑い夏は使用感がさっぱりしているタイプのローションが適しています。 【ワセリン】皮膚の表面をしっかりと保護してくれます。硬くて塗りづらいため、沐浴や入浴後の体が温かく、皮膚表面に水分が残っているうちに塗りましょう。 保湿を続けても湿疹などの症状がひどい場合は?保湿剤を1日2~3回塗る習慣を続けると、しっとりとした正常な皮膚になります。保湿をしても湿疹がひどい、かぶれて皮膚が赤くなっている、ジュクジュクしている、黄白色のかさぶたがある、赤いブツブツができているなどの症状が続く場合は小児科もしくは皮膚科へ受診しましょう。病院で処方される医療用の保湿剤やステロイドを適切に使用することで早く治すことができます。 「ステロイドは危険」「ブツブツ・ジュクジュクしているのはデトックスの証拠」「アトピー性皮膚炎は自然治癒力や免疫力を高めれば治る」などの情報がwebやSNS上に出回っていますが、医学的に正しい情報ではないので気をつけましょう。 まとめ清潔と保湿を続けることで赤ちゃんの皮膚のうるおいを保ってバリア機能を補い、湿疹やアトピー性皮膚炎、その他のアレルギー疾患の症状を軽減することができます。清潔と保湿を毎日の習慣にしましょう。 ■参考文献一般社団法人日本アレルギー学会アトピー性皮膚炎ガイドライン専門部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2015.協和企画、2015公益社団法人日本助産師会発行冊子「助産師、保健師、看護師のための大切な新生児期からのスキンケア」監修大矢幸弘(国立成育医療研究センター生体防御系内科部アレルギー科医長医学博士)初版2017年 ■参考URL日本アレルギー学会HP日本皮膚科学会HP環境保全再生機構HP パンフレット「知っておきたい乳児のスキンケア」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年07月12日赤ちゃんのけがで多いものの一つがやけどです。やけどをしたとき医療機関に行く前に家庭でできることがあります。やけどをしたときにはどうすればよいか、応急処置を知っておくと良いです。ここでは赤ちゃんがやけどをする状況と応急処置、ステロイド軟膏を使ったホームケアについて説明します。 やけどとは?やけどは医学用語では「火傷」と呼ばれ、熱による皮膚や粘膜症状をいいます。日常生活で経験する可能性の高い外傷の一つです。高温に触れることで起きることが多いものの40~55度ぐらいでも、長い時間触れているとやけどになります。乳幼児は皮膚がうすく低温やけどになりやすいです。 重傷度は1~3度に分類されます。軽症のやけどが1度で皮膚が赤くなったりむくんだりします。痛みはありますが症状が何日も続くことはありません。数日で傷跡が残ることなく回復します。赤みやむくみに加え水ぶくれもできるのが2度のやけどです。2度のやけどは症状により浅いタイプと深いタイプに分類されます。浅いやけどは鋭い痛みがありますが1~2週間あれば傷を残すことなく回復します。より重症なのが、深いやけどです。痛みはさらに強く傷は体毛や汗腺に及びます。治癒に3~4週間ほどかかり多くは傷が残ります。 2度の深いやけどよりも重症なのが3度です。水ぶくれはできませんが血管に障害がおよぶため、皮膚は白色または黒色になります。知覚神経がやられるため痛みはほとんど感じません。治癒に1カ月以上を要します。 【参考】日本皮膚科学会HP 注意しよう! 赤ちゃんがやけどをする状況家でも気をつけていないとやけどをしてしまうことがあります。乳幼児はいろいろなものに興味を持ち、ほんの少し目を離したすきに手を伸ばしたり口の中に入れたりします。赤ちゃんがやけどをする状況をまとめてみました。 炊飯器や電気ポット、加熱式の加湿器など蒸気の出る家電製品は注意が必要です。炊飯器や電気ポットなどから蒸気がモクモクと出ていると興味を示して触ろうとします。蒸気は熱湯よりも高温なので深いやけどを引き起こしやすいです。手の届く低いところに炊飯器や電気ポットを置かないように気をつけます。つかまり立ちができるようになると、手の届く範囲が広がり気配りが必要です。子どもの手の届かない場所に家電製品を置いていても、コードを引っかけてしまうこともあります。赤ちゃんがずりばいやハイハイをするようになると、電気ケトルなどのコードが引っかかり本体が倒れてきて中の熱湯を浴びてしまったりします。 アイロンも注意が必要です。熱いアイロンに触ってしまいやけどをした事例はたくさんあります。使用中はもちろんのこと使用後に冷ますためにしばらく置いておくときにも近づかないように気をつけましょう。冬場はホットカーペットや使い捨てカイロによるやけどもあります。大人にとっては心地良い温度でも皮膚が薄い赤ちゃんには温度が高すぎることがあるのです。熱いと感じてもうまく向きを変えたり移動できないこともあります。低温でもやけどの範囲が広いと重症化してしまいことがあります。 コーヒーや紅茶などをテーブルクロスに置いておくとテーブルクロス引っ張ってコーヒーや紅茶が倒れてやけどをすることもあります。魚を焼くグリルコンロも手が届きやすいので注意します。このように家庭のさまざまなところに危険があります。こまめに大人が気をつけることで事故を防ぎましょう。 【参考】政府広報オンライン「家の中の思わぬ危険。乳幼児のやけど事故にご注意を!」 やけどの応急処置やけどをしたときは、まず自分を落ち着かせます。慌てるとさらに大きな事故となります。応急処置の基本はずばり冷やすことです。手足のやけどには流水で冷やします。20分ほど冷やすことで痛みをやわらげ、症状の進行をおさえます。顔や頭など水をかけにくい場所は濡れタオル、保冷ジェルを使って冷やします。冷たさがなくなったら新しいものに替えます。氷を使う場合は直接患部に当てることは避け、氷をビニール袋に入れタオルでくるんで冷やします。服の上からやけどをした場合は服を脱がせる必要はありません。服が皮膚にはりついているのに無理に脱がせると皮膚を傷つけてしまうことがあるからです。服は着たままで冷やしましょう。 症状が軽ければ自宅で冷やして経過観察するだけで良くなることもあります。すぐに外科や小児科、形成外科、皮膚科、総合病院等の医療機関を受診できないときは冷やした後にステロイド軟膏を使うと効果的です。しかし、手や足の指の場合は皮膚がくっついてしまうことがあるので医療機関を受診しましょう。病院へ行く移動中も患部を冷やし続けます。移動中は流水は使えないので濡れタオル、保冷ジェルを使います。陰部のやけど、水ぶくれを伴うやけども医療機関で診てもらいましょう。全身のやけどや顔面のやけどの場合は救急車を呼びます。 応急処置で気をつけたいことは低体温です。赤ちゃんは体を冷やすと低体温になりやすいので冷やしている間は様子を観察しましょう。全身にやけどをした場合は濡れたバスタオルで体を包み、さらにその上から乾いたタオルで包むと適度に体を保温できます。 受診後のホームケアはどうする?医療機関で治療を受けた後はホームケアが大切です。病院でやけどの範囲や程度に合わせてステロイド外用剤などの塗り薬や飲み薬が処方されます。薬の目的は細菌の感染を防いだりやけどの回復を早めたり、傷ついた部分をきれいにしたりすることです。ステロイド外用剤は長期間漠然と使用するとかえって治りが遅くなるなどのリスクがありますが、やけどをした直後に短期間使用する分には効果的です。家庭では、処方された薬を指示通りに使用しましょう。ステロイド外用剤など塗り薬を塗るときは、手を洗ってから薬塗ります。指定の用量で塗ります。また、医師に入浴してもいいか、軟膏を塗るときに患部を水で洗ってもいいかについて確認しておきましょう。 自宅では、しっかり経過観察をすることも大切です。やけどは表面に出ずに、皮膚の下で進行するケースもあるからです。やけどをしたときは赤くなっていただけだったのに、翌日になって水ぶくれになることもあります。赤ちゃんは症状を口に出して訴えることができないので、やけどをした部分に変化はないか、数日間は注意深く観察してあげましょう。 まとめ赤ちゃんがやけどをしてしまったときは、まず自分を落ち着かせます。それから患部を冷やす処置をして、その後病院で診察を受けましょう。処方されるステロイド外用剤で治療をおこないます。やけどは予防第一です。時々家の中を見渡して発達段階に応じた事故防止を工夫しましょう。 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年07月08日妊娠中は便秘になりがちです。なかなかスッキリ出ない日が続くと、おなかが痛くなったり、張りやすくなったりと、困る方も多いと思います。妊娠中に便秘になりやすい原因とはなんでしょうか?今回は、妊娠と便秘の関連性、そして自分でできる解消法、妊娠中に便秘薬(下剤)を使用について解説します。 妊娠すると便秘になりやすい?その原因とは妊娠中に便秘になる方も少なからずいます。妊娠前は便秘になったことがないという人でも、スッキリしない日が続き、イライラしてしまうことがあるかもしれません。ここでは、まずは妊娠中に便秘になりやすい原因をご説明します。 便秘の原因1:黄体ホルモンの影響で腸の運動が鈍くなる妊娠するとママの体内では黄体ホルモンの分泌量が増えます。黄体ホルモンには妊娠を維持する役割がある一方で、消化管の筋肉を弛緩させる作用があります。これによって消化管の運動が低下し、便が体内に長時間とどまってしまう原因になるといわれています。便が大腸内にとどまると、その間、便の水分が奪われてしまい、固い便になってしまいます。 便秘の原因2:子宮が大きくなり腸を圧迫する妊娠中は子宮が大きくなることも便秘の原因とされています。妊娠中期以後は大きくなった子宮が周辺の消化管を圧迫し、便秘をもたらします。このため、週数が増えるにつれ、便秘が悪化する人が少なくありません。 便秘の原因3:生活習慣の変化妊娠をきっかけに生活が変わることも便秘をもたらす要因のひとつです。つわりによって食事の栄養バランスが崩れたり水分が不足したり、運動不足になったりすることで、便秘につながると考えられています。 便秘の原因4:過度のストレス精神的なストレスも腸管の機能低下につながり、便秘をもたらす要因といわれています。 便秘の原因5:便意を我慢する習慣なかなかトイレに行けず、便意を我慢してしまうと、便通を悪化させる原因になります。接客業など、職業上の理由でトイレに行くのを我慢している人は、便秘になりやすいです。 妊娠中に便秘になったときの解消法・予防法便秘の解消・予防には食事や運動不足の改善が重要です。健康的な生活を過ごし、ストレスを溜めないようにすることも大切です。ここでは、自分でできる対処法をまとめました。 便秘解消法・予防法1:食事厚生労働省によると便秘対策として、次の栄養素を積極的に摂りいれることが望ましいとされています。(※1) ・食物繊維ごぼうなどに多く含まれる食物繊維には、排便リズムを回復させる作用があるといわれています。食物繊維を豊富に含むその他の食材としては大豆や緑黄色野菜、さつまいもなどが挙げられます。 ・脂質・糖分適度な脂質は脂肪酸が大腸を刺激し、糖分は腸管内で醗酵しやすく大腸運動を高めるため便秘対策に効果が期待できます。ただし、脂質や糖分は摂りすぎると肥満につながる恐れがありますので摂り過ぎには注意をしましょう。 ・豆類・いも類・かぼちゃ・くりいも類、栗、かぼちゃなども便秘対策としておすすめです。これらの食材は腸管内で発酵してガスを発生させる作用があります。 ・玄米・胚芽米精米される前のお米には食物繊維と同じ働きをする難消化性でんぷんが含まれています。便秘対策としては精米後の白米より玄米、胚芽米を積極的にとりましょう。 便秘解消法・予防法2:水分をしっかり補給する便が固くなるのを予防するためには水分補給も大切です。一般的に、1日あたりの水分摂取量は、飲む分と食事から摂る分をあわせて2ℓ程度必要ですが、妊娠中はより多めに摂ることが望ましいです。ただし、便秘になったからといって、一度に大量の水を飲むことはすすめられません。一度に大量の水を飲みつづけると、急激な体重増加やむくみの原因になることがありますので気をつけましょう。十分な水分を摂取することも大切ですが、飲みやすい量をこまめに飲むことが重要です。 便秘解消法・予防法3:適度な運動をおこなう習慣的に体を動かすことも便秘の予防に効果的だといわれています。医師の指導のもと、マタニティヨガや水泳、ウォーキングなど、妊娠中でも実践できるものを選んで、生活に取りいれましょう。 便秘解消法・予防法4:ストレス解消妊娠中は体のこと、仕事や家のことなど、ストレスがつきものですが、過度なストレスが溜まると便秘だけでなくさまざまな症状を引き起こす恐れがあります。周囲の協力を得ながら、忙しい毎日の中でも息抜きの時間を確保しましょう。 便秘解消法・予防法5:食事は規則正しくとり、食後はゆっくり過ごす規則正しい食事は腸のリズムを整えます。夜遅い時間や寝る前の食事は避けましょう。 また、便秘解消には、便意を我慢しないことが重要だといわれています。個人差がありますが、食後に便意を感じる人が多いため、食後はトイレの時間を確保しておくことがおすすめです。 妊娠中に便秘薬(下剤)を使用しても大丈夫?日頃から注意していても、便秘を繰り返してしまうときは、薬の助けが必要なときもあると思います。では、妊娠中に便秘薬(下剤)を使用してもよいのでしょうか? 妊娠中でも使用できる便秘薬もありますが、妊娠経過や時期によっては注意が必要です。普段から使っている薬であっても安易には使用せず、医師に相談しましょう。強い下剤や浣腸などの使用は、子宮の収縮を誘発して流・早産の原因となることがあります。とくに妊娠初期には注意が必要で、便秘と下痢を繰り返すことも多く、下剤の使用により腹痛や下痢が起こりやすいので、基本的に服用はすすめられません。 安定期に入ってからは、比較的安全に下剤が使えるようになりますが、慢性的な便秘は腹痛の原因となることがあります。また、長時間トイレでいきみ続けると、子宮が収縮したり、外陰部が腫れたりする原因になることがあります。何日も便秘が続くときは、このようなことが起こらないうちに、医師に相談してみて下さい。 まとめママの体にさまざまな変化が起きる妊娠中、便秘に悩まされるのは辛いものです。妊娠中は便秘にならないよう、日頃から食事に気を遣い、適度に体を動かしましょう。症状が重い場合は、早めに医師に相談してください。 参考※1厚生労働省e-ヘルスネット「便秘と食事」 監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
2019年07月06日毎日3食、きちんと食べていますか? 妊婦さんの体はさまざまな栄養を必要としています。おなかの赤ちゃんを健やかに育むために、栄養バランスを考えた食事を摂りましょう。今回は朝食に着目し、妊婦さんにおすすめの朝食例や、栄養バランスのポイントをご説明します。朝は食欲があまりない人にも、対処法をご紹介しますので、ぜひチェックしてみてくださいね。 妊娠中の食事で気を付けること妊婦さんの体は、赤ちゃんを育てるためにさまざまな栄養を必要としています。とはいっても体調の変化や食欲の変化などで、つい食事を疎かにしてしまう妊婦さんも多いのではないでしょうか。まずは妊娠中の食事について、心がけるべきポイントをご説明します。 妊娠中は必要なエネルギー量がアップ厚生労働省では妊娠中の女性に必要なエネルギー量を公開しています。それによると、妊娠中は非妊娠時に比べて、必要なエネルギー量がアップしていることが分かります。 ・妊娠初期(~妊娠15週)+50kcal・妊娠中期(妊娠16週~27週)+250kcal・妊娠末期(妊娠28週~)+500kcal 妊娠中の栄養不足は危険!妊娠中といえば体重増加を気にして、“食べ過ぎてはいけない”というイメージがありますよね。確かに妊娠中に体重が増えすぎると妊娠高血圧症候群や巨大児、分娩時の出血多量などを引き起こす恐れがあります。しかし、体重増加が少なすぎてもリスクがあることをご存知ですか? 妊娠前のBMIでやせ型~標準体格であった女性に関しては、妊娠中の体重増加が7kg未満の場合、低出生体重児を出産するリスクが高いと指摘されています。また、貧血や早産のリスクも高まるため、妊婦さんと赤ちゃんの健康のためには、栄養バランスをきちんと考えた食事をし、適正体重まで増やしていくことが大切なのです。 1日の基本は3食+間食で「1日3食きちんと摂る」ことは生涯にわたり大切にしたい食生活の基本です。時間がないから、太りたくないからと食事を抜くと栄養不足になってしまいます。妊娠中は赤ちゃんの発育にも影響を及ぼす恐れがありますので、3食しっかり摂るようにしましょう。 献立の基本は主食・主菜・副菜「主食」に「主菜」「副菜」そして汁物を組み合わせると、バランスの良い食事になります。 ・「主食」はご飯を中心にご飯は味が淡白で、いろいろなおかずともよく調和し、主菜、副菜が揃えやすくなります。また、満腹感がある割に、エネルギーとして消費されやすいので、体の脂肪になりにくく、塩分を含まないので、食事全体の塩分量も控えることができます。 ・「主菜」は脂質を控えて適量を肉料理は脂肪の少ない赤身の肉を選びます。魚介類には良質なたんぱく質に加え、EPAやDHAなどの必須脂肪酸が含まれているので、妊娠中の方や授乳中の方におすすめです。 ・「副菜」は野菜などをたっぷりときのこや海藻類は低エネルギーで食物繊維が豊富。切り干し大根や高野豆腐などの乾物も利用し、副菜のレパートリーを増やしましょう。 妊婦さんにおすすめ! 朝食メニュー例次に朝食に着目してみましょう。しっかり栄養を摂りたい朝食。どのようなメニューを取り入れればよいのでしょうか? 妊娠中に必要な食品の種類と量の目安、おすすめの献立をご紹介します。 ●定番の和食は栄養バランスもいい・メニュー例ごはん、目玉焼き、味噌汁、きのこソテー、牛乳、りんご・ポイント和食は作るのに手間がかかるイメージですが、朝食ならさほど難しくはありません。味噌汁を作っている間に卵ときのこを調理すれば、ものの10分でできてしまいます。味噌汁に使用されている味噌は、大豆を発酵させて作られており、アミノ酸やビタミンが豊富。野菜、わかめなど、具をたくさん入れれば食物繊維やミネラルをたっぷり摂ることができます。 ●パン派の人もタンパク質と野菜を採り入れて・メニュー例食パン、オムレツ、サラダ、チーズ、みかん・ポイント朝はパン派という人におすすめなのが、オムレツを組み合わせた献立です。オムレツは炒めたにんじんやマッシュルームなどを具にして作れば、食べ応えも十分。パンを食べる際はジャムやシロップをかけるのは控え、オムレツやチーズを挟んで食べるなど、甘味料に頼らないようにしましょう。 ●休日はカフェ風パンケーキ朝食で贅沢に・メニュー例パンケーキ、ブルーベリー、バナナ、温野菜サラダ・ポイントたまには特別なメニューで気分転換を。そんなときは、パンケーキを使った朝食メニューにチャレンジしてみましょう。パンケーキには小麦、卵、牛乳が使用されているため、野菜と果物を組み合わせましょう。サラダを作る際は温野菜サラダがおすすめです。加熱によってかさが減るため、一度にたっぷりの野菜を食べることができます。彩り豊かな温野菜サラダに、ブルーベリーとスライスしたバナナを添えれば、見た目も華やか。パンケーキは市販の粉を使えば手軽にできますが、米粉を使って自家製のものを作ってもいいですね。 朝が弱い妊婦さんにおすすめの対処法朝食をしっかり食べたいとは思っていても、朝は眠いし食欲もない……。そんな妊婦さんも多いことでしょう。朝が弱い妊婦さんは、ぜひ次の2つの対処法を実践してみましょう。 ●習慣作りが大切! まずは2品からそもそも朝食を摂る習慣がない、という人の場合、いきなり栄養満点な朝食を摂るのは大変です。まずは2品からスタートして、朝食の習慣作りを始めましょう。 <朝が苦手な人におすすめのスタート食品>・パンと果物・おにぎりとゆで卵ポイントは、できるだけ主食を取り入れることです。たとえば、主食(ご飯・パン・麺など)と果物、あるいはタンパク質(卵や大豆製品)といった具合に。まずは自分にとって食べやすいものから始めて、少しずつ品数を増やしていきましょう。 ●朝食づくりのポイント・便利な調理器具を使う・前夜に準備する・冷凍ご飯の活用・常備菜を取り入れる・市販の便利な食品も利用する 忙しい朝は、できるだけ手間がかからず、すぐに食べられる食品を取り入れて、時短しましょう。洗い物が少なくて済むことなども、ポイントです。 まとめ朝ごはんはおなかの赤ちゃんを育むために、そして妊婦さん自身が元気でいるために、大切な食事です。朝が苦手な人も、市販品を上手に活用して、少しでも多くの栄養を摂る工夫をしましょう。少しずつ朝食の改善や、習慣作りに取り組み、栄養バランスのいい朝食を摂れるようになるといいですね。 ◆関連動画出産ドキュメンタリー(通常分娩) 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年07月04日普段は元気な赤ちゃんでも、突然熱を出してしまうということはよくあります。そのため、「熱の原因がわからない間はとても心配」という人も多いでしょう。赤ちゃんの発熱の原因と対処法を知っておき、焦らずに対処しましょう。この記事では赤ちゃんの高熱が続く原因や適切な対処法について紹介していきます。 大人よりも高い? 赤ちゃんの体温について赤ちゃんを抱っこしたとき、「ポカポカして温かい」と感じたことがある人は多いでしょう。赤ちゃんの体温は大人よりも高いため、赤ちゃんの平熱と発熱の境目を見極めることは難しいことがあります。 一般に赤ちゃんが風邪やインフルエンザなどの感染症にかかると熱を出します。37.5度以上を発熱と考え、38度以上の熱は高熱としています。そのため赤ちゃんの場合でも「発熱は〇度までは安心」ということは、一概にはいえないのです。38度以上の発熱があればかかりつけ医を受診すると良いでしょう。 赤ちゃんは体温調整が未熟で赤ちゃんの体温にも個人差があるので、普段から体温を測って平熱を把握しておくと、突然の発熱も見つけやすくなります。授乳をした後や泣いた後は体温は上がります。平熱を知りたいときは、起床時・昼ごろ(食前や食間)・夕方・夜の1日4回、安静時に検温してみるのがポイントです。健康なときに3日ほど続けて検温してみると、おおよそ平熱がわかります。平熱が把握できたら、時間帯ごとの平熱を母子手帳に記入しておくと参考になるでしょう。 発熱すると体温計の数値にばかり目が行きがちですが、健康状態にも目を向けてみると良いでしょう。「顔色は悪くない?」「機嫌はよい?」などをチェックしてみましょう。発熱がなくても機嫌が悪かったり、便がゆるかったり、いつもと違うと感じたときは、何らかの病気が疑われます。このように体温だけで判断するのではなく、お母さん、お父さんの勘も役立つことがあります。 【参考】熊本市 健康福祉局 保健衛生部 感染症対策課「感染症法に基づく医師の届出基準・様式集(医療機関向け)」 赤ちゃんの高熱の原因で考えられること赤ちゃんの高熱は、さまざまな原因が考えられます。まず、突発性発疹です。突発性発疹は、高熱が3~4日程度続き、高熱以外の症状が見られないことから風邪と区別がつきにくい点が特徴です。ただし、突発性発疹の場合は、解熱後におなかや背中に発疹が出てきます。感染経路は唾液といわれており、ヒトヘルペスウイルス6型・7型が感染することが原因です。突発性発疹については特別な治療法はありません。発熱時には脱水を防ぐために、こまめに水分補給をおこなって赤ちゃんの様子を見るようにしましょう。 次に、RSウイルス感染症も、1歳半までに半数以上の赤ちゃんが感染する病気です。RSウイルスに感染すると、鼻水やせきなどの比較的軽い症状で済むケースもありますが、なかには38度以上の高熱が出たり、場合によっては肺炎などを引き起こしたり恐れがあります。生後数カ月以内の赤ちゃんの場合は、RSウイルスに感染すると重症化することもあるため、家族間などでうつさないように注意することが大切です。 また、夏風邪の一種とされているヘルパンギーナも、発症すると38度以上の高熱が出ます。ヘルパンギーナは6~8月ごろに流行するケースが多く、高熱だけでなくのどの痛みなどの症状が見られます。ヘルパンギーナを発症しても鼻水やせきはあまり出ません。しかし、のどの奥が赤く腫れ、口の中に水疱ができる場合があります。のどの痛みがあることから、ヘルパンギーナを発症すると食欲が落ちる赤ちゃんも多くいます。 加えて、熱性けいれんは急激に熱が上がるときに起こるもので、生後6カ月~3歳くらいまでの乳幼児が発症しやすい病気です。熱性けいれんでは、発熱とともにけいれんが起こります。熱性けいれんになる原因に関してはいまだにはっきりとしたことはわかっていませんが、両親やきょうだいなどで熱性けいれんの経験者がいる場合には、発症する確率が高まります。さらに、赤ちゃんの脳は未熟であることから、高熱によるストレスが脳内で何らかのトラブルを起こしており、その症状が熱性けいれんとなってあらわれているという指摘もあるため、落ち着いて対処するようにしましょう。 ほかにも、赤ちゃんの高熱については手足口病やインフルエンザ、水ぼうそう、マイコプラズマ感染症など、さまざまな病気の可能性も考えられます。そのため、38度以上の高熱が出たときは自己判断せずに、専門医を受診するように心がけましょう。 【参考】日本小児神経学会「熱性けいれん診療ガイドライン2015」 知っておこう! 高熱が赤ちゃんに与える影響とは?赤ちゃんに高熱が出ると、「脳に影響が出るのではないか」という点を心配する人がいます。しかし、40度台の熱の場合は、赤ちゃんの脳に影響を与える恐れはほぼないといえるでしょう。 ただし、髄膜炎や急性脳症などのような、脳に影響を与える病気でも高熱が出ます。そのため、重篤な状態にならないようにするためにも、専門医を受診しましょう。また、41度以上の高熱が出た場合は、脳だけでなく、全身に影響を与える可能性があります。したがって、41度以上の高熱では早急に受診する必要があります。 要チェック! 赤ちゃんが発熱したときの対処法赤ちゃんが発熱した場合、家庭で簡単にできる対処法を試してみましょう。まず、クーリングです。赤ちゃんの熱が高く、体がほてっているようなら、クーリングをして気持ち良く休めるようにしてあげましょう。保冷剤をタオルで包んだもの(または冷やしタオル)を用意します。これを、赤ちゃんの首やわきの下、足のつけねなどにあてて冷してあげます。クーリングをおこなうと血の巡りが良くなり、結果として症状を和らげることにもつながるでしょう。 次に、高熱がある場合は座薬が処方されるケースも多く見られます。座薬を入れるときには、処方された量を守ることが欠かせません。ハサミやカッターナイフなどで座薬をカットして、必要な量だけ準備します。座薬が室温程度になったら赤ちゃんをあお向けにして、おしりに入れていきましょう。座薬の先端に潤滑油や水をつけておくと、肛門から入れやすくなります。座薬を指の第一関節くらいのところまで押し入れたら、肛門をティッシュペーパーで1分程度押さえておくことがポイントです。高熱が出たら座薬を使用しなければならないというわけではないため、医師の診察を受けて座薬が処方された場合に使用するようにしましょう。 また、赤ちゃんに熱性けいれんの症状が見られたときには、パニックになって赤ちゃんの名前を大きな声で呼んだり、揺さぶったりしないように注意することが大切です。状態を観察しながら赤ちゃんの衣服をゆるめて横向きに寝かせます。嘔吐した場合は、吐しゃ物がのどに詰まらないように取り除いてあげましょう。けいれんを起こしたときの発症時間や体温、けいれんの持続時間などをわかる範囲でメモしておき、受診するときに持参することがポイントです。 さらに、汗をかいたらこまめにタオルで拭いたり、水分補給をおこなったりすることも重要です。赤ちゃんの熱が高いと焦ってしまいがちですが、まずは落ち着いて赤ちゃんが気持ちよく休めるような環境を整えてあげましょう。 まとめ赤ちゃんの高熱が続く場合、なかには重篤な病気である可能性もあります。そのため、38度以上の熱がある場合には、専門医を受診するようにしましょう。また、赤ちゃんは体温調節が未熟であることから、環境によって体温が変化しやすいという特性があります。赤ちゃんの熱が下がらないときには、クーリングや水分補給をおこなうなどして、赤ちゃんが気持ちよく休めるような環境を作ってあげることが大切です。 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年07月02日妊娠すると食べ物に気を使うようになる人は多いものです。あれは食べていいの? これは食べてはいけないの? と、敏感になってしまうこともあり、その中で香辛料をつかった辛いものの摂取も悩みの1つかもしれません。この記事では、妊娠中に香辛料を摂っても大丈夫なのか、母体への影響やメリットについて詳しく説明していきます。 辛いものに使われる香辛料の妊婦への影響は?妊娠中は行動だけではなく、食事も気にしなければならなくなります。香辛料を使った辛いものの摂取は、妊娠前から食べている場合は特に問題ありません。しかし、妊娠中は妊娠前とは体調も違うので注意が必要です。 激辛料理は消化器への刺激が強いため、胃痛や胃もたれ、下痢などを引き起こす可能性があります。また、香辛料が入っている料理には、塩分も多く含まれていることが多いです。塩分を多く含む食べ物を摂ることによって、塩分の過剰摂取にもつながりますし、ご飯などの主食も多く摂ることになり、カロリーオーバーになってしまう可能性もあります。 辛いものを食べると胎児には影響はある?妊娠初期に辛いものを食べると流産のおそれがあるという話もあるようですが、妊娠初期の流産の原因の多くは胎児の先天異常によるものです。また、辛いものと流産との関連を裏付ける医学的根拠は今のところありません。 しかし、ママが辛いものを食べすぎることで、塩分の過剰摂取や体重増加につながり、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を引き起こす可能性があります。そうすると、母体だけでなく胎児にも影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。 辛くはないけど、注意が必要なのが「ハーブ」香辛料というとスパイスをイメージする方も多いかと思いますが、スパイスと同じような使い方をするのがハーブです。 国立健康・栄養研究所では、妊娠中の自己判断によるハーブ製品摂取に対する注意喚起をおこなっており、妊娠中に摂取することを避けるべき、あるいは慎重に利用すべきハーブ素材について提示しています。 たとえば、カキドウシ、セイヨウネズ、パセリ、ペニーロイヤル、セージ、エゾヨモギギク、セイヨウノコギリソウなどに含まれる成分には流産を誘発する作用があることが知られています。そして、ゴボウ、コロハ、フェネグリーク、ゴールデンシール、サンザシ、ジャマイカハナミズキ、マザーワート、イラクサ、ラズベリー、バーベナなどは、子宮筋への作用が報告されています。また、センナ、フラングラ、カスカラなどは下痢を引き起こすことがあり、妊娠中の摂取はすすめられません。 辛いものにはメリットも!香辛料やハーブはじょうずにつかえば母体に対してたくさんの良い影響があります。ここでは香辛料が母体にもたらすメリットをご紹介します。 ●食欲増進香辛料には食欲増進の効果があります。香辛料の入った料理は食べるだけではなく、香りを嗅ぐだけでも食欲は高められます。つわりや夏の暑い時期など、食欲がないときに香辛料を取り入れてみてもよいのではないでしょうか。 ●消化を良くしてくれる妊娠中は、ホルモンや大きくなった子宮の影響で便秘傾向になることがあります。香辛料には、消化を促す効果があり、便秘解消にも効果的です。たとえば、キムチには、香辛料と乳酸菌が含まれており、便秘解消にも美容にも効果が期待できます。 ●減塩効果さきほど、香辛料が入っている料理には、塩分も多く含まれていることが多いといいましたが、じょうずに使えば減塩効果も期待できます。香辛料の風味で食材の味を引き出すように工夫してみましょう。 ●冷え性対策妊娠中は体の冷えを感じやすくなります。今流行りの「温活」という言葉がある通り、体温を上げることで体には良いことがたくさんあります。香辛料をうまく取り入れて、冷え対策をおこなうものいいかもしれません。 まとめ妊娠中に辛いものを摂取すること自体は、必ずしも母体に悪影響を及ぼすという訳ではありません。しかし、多量に摂取することによってリスクとなる可能性があり、バランス良く摂取する必要があります。香辛料には、メリットもたくさんあり健康にも良いとされてるものもあります。妊娠中に食欲や冷えなどの対策のために工夫してじょうずに香辛料を摂っていきましょう。 ◆関連動画出産ドキュメンタリー(通常分娩) 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年06月30日夏になると乳幼児を中心に流行する病気のひとつである手足口病ですが、今年、2019年は6月3日~9日の間に全国の医療機関から報告された発生件数が、全国で西日本を中心に8823件。これは過去5年間の同時期と比較してかなり多く、都道府県によってはすでに警報が発令された地域もあるそうです。妊婦さんや赤ちゃんのいる家庭は気になるところですね。さて、妊婦さん本人が手足口病にかかってしまった場合は、どうなるのでしょうか。今回は手足口病が妊婦さんに与える影響があるのか、予防法や治療法などについてを解説します。 手足口病とは?手足口病は、ウイルスに感染して「手」「足」「口」に米粒大の赤い発疹や水疱(水ぶくれ)が発生する感染症のひとつです。日本国内では、5歳以下の子どもを中心に、夏に流行のピークを迎えますが、秋から冬に発生することもあります。 手足口病の原因は?手足口病の原因となるウイルスは、主にコクサッキーウイルスA6、A16、エンテロウイルス71と言われるウイルスです。これらのウイルスに感染して3~5日後に、発疹や水疱が発生しますが、通常は数日間のうちに治ります。 エンテロウイルスはいわゆる“夏かぜ”の原因となるウイルスであり、夏かぜの代表的な病態のひとつが手足口病です。比較的軽い症状のみで3~7日間のうちに治ることから、日常的に流行しやすく、かかってはいけない特殊な感染症ではありませんが、時に髄膜炎などを引き起こして重症化するケースがあります。 また、原因となるウイルスが1種類ではないため、一度手足口病を経験しても、別のウイルスが原因となって再び手足口病を発症することがあります。しかし、一度感染したウイルスに対しては免疫ができるため、同じ種類のウイルスによって再び発症することはありません。ほとんどは症状の有無に関わらず、子どものときに感染して免疫をつけてきた感染症ですが、今までに感染したことのないウイルスが原因の場合は、大人も感染して手足口病を発症することがあります。 手足口病の原因となるウイルスは、感染した人の咳やくしゃみ、会話中のつばに含まれるウイルスを、別の人が口や鼻から吸い込んで体内へ入り込む飛沫感染、感染した人の皮膚や粘膜に直接触れてウイルスをもらう接触感染、感染した人の便の中に排泄されたウイルスが何かしらの経路で口の中に入る糞口感染で、人から人へ感染します。 手足口病の症状は?発疹や水疱は、口腔粘膜、手指や手のひら、足の甲や足の裏などの四肢の末端に発生しやすいですが、肘や膝、おしりなどに発生することもあります。 発疹にかゆみや痛みがあることは稀です。ただし、口の中に水疱が発生して破れた場合、びらんや潰瘍(粘膜が荒れてただれた状態)となって痛みを感じることがあります。子どもの場合、発熱を伴うのは2~3人に1人で、通常は38℃以上の高熱が続くことはありません。大人の場合は40℃以上の高熱が出ることがあります。 妊婦さんが手足口病になった場合、おなかの赤ちゃんへの影響は?日本産婦人科医会によると、妊婦さんが手足口病を発症するケースは少なく、まれに流産や死産、胎児水腫などの報告はありますが、現段階では、手足口病と胎児異常を結びつける因果関係を証明する報告はありません。 ですが、母親が出産直前に感染した場合は、生まれた赤ちゃんに感染する可能性はあります。通常、感染しても無症状あるいは軽い症状のみと考えられていますが、重篤な状況を引き起こすケースもあります。いずれにしても、出産前後の母親や生まれた赤ちゃんに対しては、症状に合わせた治療と慎重な経過観察がおこなわれます。 妊婦の手足口病の治療方法手足口病を予防するワクチンも、特別な治療も今のところありません。妊娠中や出産直前に感染した可能性がある場合は、次の健診日を待たずに、すぐにかかりつけの産婦人科へ相談、受診しましょう。 発熱や頭痛などの症状を伴う場合は、受診前に自己判断で市販薬は内服せず、必ず医師へ相談してください。発疹や水疱への対処方法も、医師の指示に従いましょう。もし、やむを得ず産婦人科以外を受診する場合は、妊娠中であることを必ず医師へ伝えて治療を受けましょう。 その際、ほかの妊婦さんや産後の女性、赤ちゃんへの感染を防ぐため、受診前に病院へ電話連絡してから行くと、病院側も対応がスムーズでしょう。また、上のお子さんが発症している場合は、産婦人科のなかで感染を広げないために、付き添いや面会の際に連れて行かないようにしましょう。 妊娠中に手足口病にかからないための予防策手足口病の原因となるウイルスは、感染していても無症状なことがあります。発症した後に症状が消えて元気になってからも、約1カ月は便の中に排泄されるため、ウイルスをまき散らすことを完全に防ぐことは困難です。 手足口病に限らず、妊娠中に感染症にかかることを予防するために、・外から帰宅したらうがいや手洗いをする・電車などの人混みではマスク着用・上のお子さんのおむつ交換や排泄介助の後は必ず手洗いをする・トイレ掃除後には手洗いをする・外出先ではタオルは共用しない・家庭内で感染者がいる場合もタオルを共用しないなど、対策をして感染を防ぎましょう。 まとめ妊娠中に手足口病を起こさないために、他者との接触を避けることや集団生活をやめることは現実的な対策とはいえません。日頃から清潔を保つこと、こまめな手洗いを心がけて感染予防していきましょう。 ※参考:日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」厚生労働省・国立感染症研究所「感染症発生動向調査・感染症週報/2019年第23週(6月3日〜 6月9日):通巻第21巻第23号」 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年06月26日だんだん夏が近づいてきて、手足口病やヘルパンギーナといった夏風邪にも流行の兆しがみられてきました。この2つはエンテロウイルス属というグループが原因となっており、症状には似たところもいくつかあります。それぞれどのような病気でしょうか。■手足口病「症状、診断、合併症、治療」【症状】まず手足口病はその名のとおり、手、足、口に水ほうができる病気です。数mmくらいの小さな発疹が手の先、足の先にでき口の中には口内炎ができます。発熱を認める場合もありますが、平熱~微熱程度のこともあります。【診断】発疹は、ときに太ももやおしりにもできますが、手足口に発疹が分布することでおおよそ診断がつきます。何か特別な検査をするわけではなく、流行状況や症状の判断です。同じように小さな水ほうを認める病気として、水痘(みずぼうそう)がありますが、2つの主な見分け方は次の3点です。1.水痘はランダムに発疹が出る手足口病は分布が偏っていますが、水痘は頭皮や陰部を含め全身に発疹が出るところが異なります。2.水痘は急に広がる水痘は1日、または数時間で一気に発疹の数が増えます。数個あるなと思っていたら数時間後に数十個になっていることもざらです。手足口病はここまでスピードは早くありません。3.水痘ワクチンを2回接種していたら水痘の可能性は低い水痘はワクチンで防げる病気です。ただし1回だけの接種の場合、水痘の症状が軽くなるため、手足口病との区別が難しい時もあります。【合併症】合併症として髄膜炎を起こします。髄膜炎は激しい頭痛と繰り返すおう吐を認めて脱水を起こすので入院が必要となることが多いですが、後遺症を残すことはまれです。ときに足や手の爪が変形することがありますが、これは一過性のものですので様子見でOKです。【治療】発熱も発疹もとくに治療は必要なく数日で改善していきますが、口内炎がひどい場合、水分がとれず脱水をおこします。手足口病そのもので入院することはほぼありませんが、脱水により入院が必要となることがあります。柑橘(かんきつ)類や塩辛いものなど口にしみるものは避けて、イオン飲料などでこまめに水分摂取して脱水を予防してください。クリニックでは口内炎に対しての塗り薬を処方することもできます。■手足口病「いつから登校(登園)してもいい?」いわゆる学校感染症における登校(登園)停止基準は「○○日」と日数が決められているわけではありません。もちろん、熱があったり脱水があれば登園すべきではありませんので、全身の状態がどうかが目安になります。熱がなく元気があり、手足の発疹のみであれば、登園しても構わないということになります。登園許可証が必要かどうかは園に確認してください(地域により対応が異なります)。このとき「発疹があるのに登園したら、ほかの人にうつすのでは?」と心配になると思います。手足口病は発疹がなくなっても、便からウイルスが約1カ月くらい排出されるので、残念ながらしばらく感染力は残ってしまいます。感染力があるからといって元気な子どもを1カ月間、登校(登園)させないのは現実的ではないですし、感染してもあまり症状が出ない子どももいます。隔離をしたとしても流行を防げないというのが現実です。■ヘルパンギーナ「症状、診断、治療、登校(登園)基準は?」【症状】ヘルパンギーナは突然の高熱で発症し、口の中に水ほうができます。のどちんこのやや上の場所にプツプツとできるのが特徴で、のどの痛みのために食事や水分がとれなくなります。【診断】水ほうがのどちんこのところにできるという特徴や、発熱、周囲の流行状況などから総合的に診断します。同じくのどがはれて熱が出る病気として 溶連菌 、アデノウイルス感染症(プール熱)がありますが、これらはのどの綿棒検査で調べることが可能です。【治療】発熱はとくに治療なく自然に改善し、抗菌薬は不要です。のどが痛くて水分がとれないので、入院になる理由は手足口病と同じく脱水です。イオン飲料などでこまめに水分摂取をしましょう。食事が全くとれない場合は、体重1kgあたり30~50ml/日を目安に摂取させてください(例:10kgの子どもなら1日500ml)。また発熱やのどの痛みを緩和させるために、解熱鎮痛剤も使っていきましょう。【合併症】ヘルパンギーナも手足口病と同様に、ときに髄膜炎を起こしますので、頭痛やおう吐の症状に注意してください。【登校(登園)の基準は?】手足口病と同じで登校(登園)停止の日数は決められていません。熱が下がり水分がとれて元気になれば登園OKです。見える場所に発疹が出ないので手足口病ほど登園が問題視されることはないのですが、元気になってもウイルスは排出されているのでこちらも流行を防ぐことは難しいです。以上、いわゆる夏風邪と呼ばれる、手足口病、ヘルパンギーナについての解説をしました。いずれの夏風邪も流行を防ぐことは難しいため、感染することを前提に脱水の対策をして夏を乗り切ってください。
2019年06月21日赤ちゃんが使う哺乳瓶は、きれいに洗浄して消毒しておく必要があります。しかし、育児や家事に忙しく追われていると、毎回哺乳瓶を消毒するのを面倒に感じることがあるかもしれません。哺乳瓶は、どうして消毒しなければならないのでしょうか。今回は、哺乳瓶の消毒が必要な理由や消毒の方法などをお話ししていきたいと思います。 哺乳瓶の消毒が必要な理由生まれたばかりの赤ちゃんは、おなかの中にいたときにお母さんから受け継いだ免疫があるので、雑菌などに対してある程度の抵抗力があります。しかし、時間が経つと同時にその免疫も徐々に失われてしまいます。 そのため、生後しばらく経った赤ちゃんは、哺乳瓶に繁殖するウイルスや雑菌から自分を守ることができません。免疫力が弱い赤ちゃんを、食中毒や口内炎などのさまざまな病気から守るために、哺乳瓶を消毒してきれいにしておく必要があるのです。 哺乳瓶の消毒はいつまで続けるの?哺乳瓶の消毒をいつまで続けたらよいかについて、明確な基準は定められていません。なぜなら、赤ちゃんの発達状況は一人ひとり異なるからです。新生児から生後3カ月ごろまではきちんと消毒したほうが良いですが、それ以降は赤ちゃんの発達速度や状況によります。 一つの目安となるのは、赤ちゃんが口に物を入れたり出したりする動作です。さまざまな物を口に入れるようになると、哺乳瓶だけを消毒しても意味がなくなってしまうため、哺乳瓶の消毒が必要なのはこの動作が始まるまでと考える人がいます。一方、免疫力の弱い赤ちゃんのことを考えて、もっと長く、生後7カ月ごろまで消毒を続ける人もいます。赤ちゃんの発達速度や様子、動作などを考慮し、いつまで消毒を続けるかを決めると良いでしょう。 哺乳瓶を消毒する3つの方法哺乳瓶を消毒するには、主に3つの方法があります。 まず、哺乳瓶を煮沸消毒する方法です。大きめの鍋にお湯を沸かし、その中に哺乳瓶一式を入れます。このとき、哺乳瓶の中に空気が入ってしまうとその部分はきちんと消毒できないので、空気が入らないように気をつけましょう。哺乳瓶一式を煮沸し、乳首部分は3分ほど、哺乳瓶やキャップは5分ほどしたら取り出します。専用の道具などが不要で、普段から自宅にあるものを使ってできる方法です。哺乳瓶が数本あるなら、大きな鍋を使って一度に消毒することもできるでしょう。 次に、電子レンジを使った消毒の方法です。電子レンジ消毒専用の容器に哺乳瓶と水を入れて、電子レンジで加熱するだけで消毒できます。加熱する時間やワット数は専用容器によって異なるので、説明書を読んでから使うようにしましょう。また、哺乳瓶が耐熱性かどうかも確認する必要があります。電子レンジ消毒の専用容器をそろえる必要がありますが、短時間で手軽に消毒できる方法です。加熱後は専用容器がかなり熱くなっているので、やけどをしないように注意する必要があります。ある程度冷めるまで庫内に置いておき、電子レンジから取り出すのは冷めてからにしましょう。 3つ目の方法として、消毒液を使って消毒する方法もあります。次亜塩素酸ナトリウムという薬液に、一定時間哺乳瓶をつけて消毒します。火も電子レンジも不要で、やけどの心配がありません。消毒後は、そのまま水気を切れば哺乳瓶を使うことが可能です。専用容器に入れたまま哺乳瓶を保管しておくこともできます。しかし、専用の容器や薬剤を購入しなければならないことや、つけ置きに時間がかかることはデメリットといえるでしょう。また、塩素系のにおいが気になる人もいるかもしれません。 このように、哺乳瓶を消毒する方法は1つではないので、消毒にかかる手間や時間などを考えて、自分に合った方法でやってみましょう。 哺乳瓶を消毒するときに気をつけたいこと哺乳瓶を消毒するときには、まず哺乳瓶の素材をチェックしましょう。煮沸、電子レンジ、薬剤など自分の消毒したい方法が使える素材かどうかを調べます。乳首部分と哺乳瓶本体は違う素材でできているので、それぞれのパーツの確認が必要です。 また、どの方法で消毒するときにも、その前に哺乳瓶は洗っておきましょう。水洗いだけで済ませるのではなく、洗剤を使ってきちんと洗います。乳首部分や哺乳瓶の底は洗いにくい形状ですが、細長いブラシなどを使うときれいに洗うことができます。このとき、ゴシゴシと力を入れて洗ってしまうと、乳首の穴の部分などから裂けてしまうかもしれません。やわらかいブラシやスポンジなどで、やさしく洗い上げることを心がけましょう。 また、哺乳瓶についているミルクの成分が小さなダマになって、菌やカビがついて繁殖してしまうこともあるため、消毒だけではなく普段からしっかり洗うことも大切です。煮沸消毒や電子レンジ消毒をする場合、やけどをしないようにも注意が必要です。容器を触るのは冷めてからにする、トングや菜箸を使って哺乳瓶を取り出すなどして、やけどをしないように気をつけましょう。 まとめ哺乳瓶の消毒がなぜ必要なのか、いつまで続ける必要があるのかについて、しっかりした知識を身につけて実践しましょう。哺乳瓶の消毒は毎日のことなので、続けやすいように自分に合った方法を選ぶのも大切なことです。 【参考】厚生労働省「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドラインについて」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年06月20日今回は、妊娠中に気軽に始められる散歩やウォーキングについてお話しします。 妊婦さんにおすすめの運動は?妊娠中に適度な運動をおこなうことは、心肺機能や筋力、体力の維持ができるため、妊娠中を快適に過ごすことに役立てることができます。また、妊娠中から体力を養うことで、出産を乗り越え、産後の赤ちゃんのいる生活に疲れにくい体を準備することができます。 妊娠12週以降で正常な妊娠経過であること、妊婦健診で医師、助産師から運動を禁止されていなければ、運動をしても大丈夫です。妊娠中の運動については、医師や助産師、運動指導をするトレーナーから専門的な指導と助言を受けましょう。特に高血圧、糖尿病、肥満などの妊娠中の合併症の予防と治療を目的とする運動については、自己判断で進めず、主治医と相談して十分に注意しておこないましょう。 妊娠中におこなう運動は、母子にとって安全で、全身運動かつ有酸素運動で楽しく継続できるものが適しています。有酸素運動とは、酸素を使い、筋肉を動かすエネルギー源である脂肪を燃焼させる運動で、過剰な体重増加の予防を期待できます。妊婦さんに適している有酸素運動は、ウォーキング、水泳、エアロビクス(マタニティービクス)ですが、妊娠中に運動する時間を確保できない、妊娠前から運動習慣がない、運動が苦手という妊婦さんもいることでしょう。 そこで、おすすめの運動は歩くことです。妊娠中のライフスタイルの変化に合わせて取り入れやすい運動ですので、散歩やウォーキングなど歩くことを意識しましょう。 妊娠中の運動には散歩やウォーキングなど歩くことがおすすめ!歩いて移動するときや散歩に出かけるときに、歩くことをウォーキングとして意識するだけでも、妊婦さんに適した運動になります。ウォーキングするときは以下の点を参考にしてください。 ・ウォーキング開始前の確認妊婦さん本人の体調が優れない、あるいはおなかが張っていると感じたら無理に歩くことはやめましょう。天候や季節によっては、屋外にこだわらず、ショッピングモール内など屋内を歩いても良いでしょう。 ・ウォーキングのための準備歩きやすい服装や靴を着用しましょう。妊娠中は足がむくみやすいので、多少サイズを調整できるタイプの靴が良いでしょう。転んだときに両手が使えるように、母子健康手帳、保険証、タオル、水分補給用の飲み物などはリュックに入れて持ち歩きましょう。 ・ウォーキング前後のストレッチ運動効果を上げてけがを防ぐために、ウォーキング前にストレッチをして体を慣らしましょう。ウォーキング中は急な動きはしないで、ペースを上げるときも、落とすときも、徐々におこないましょう。ウォーキング後にもストレッチをして、筋肉をほぐしましょう。①ふくらはぎのストレッチ:手を壁や椅子などにおいて体を支える。足を前後に開いて、後ろ足のかかとは床につけたまま、体重を前にかけて、後ろ足のふくらはぎを伸ばす。②太もも(後面)のストレッチ:足を前後に開き、両膝を軽く曲げて、腰を後ろに引いて、前側の足の太ももの後面を伸ばす。③太もも(前面)のストレッチ:手を壁や椅子などにおいて体を支える。片足に体重をのせてバランスをとり、反対側のつま先をもって、おしりの方へ引き寄せ、太もも前面を伸ばす。 ・ウォーキングは楽しみながら続ける運動は楽しく継続することが大切です。妊娠前から運動習慣がない、運動が苦手という妊婦さんの場合は、週1回のペースから開始して、週2~3回を限度にしても良いです。もともと運動習慣があった妊婦さんは、妊娠経過が順調であれば毎日ウォーキングしてもかまいません。 1回の運動時間は心地よいと思える範囲から開始して、無理のない程度に徐々に増やしましょう。有酸素運動として効果が表れるのは20~30分間続けることが必要ですが、妊娠中の運動は長くても60分以内を目安にすることが望ましいです。普段の歩き方よりも速めに、歩幅は大きめを心がけましょう。歩き始めは人と会話できる程度からスタートして、最後の5~10分はクールダウンするつもりで徐々にスピードを落として終了しましょう。慣れてきたら1日数回おこなうのも良いでしょう。 ・ウォーキング中の事故に要注意音楽などを聴きたい、通話しながら歩きたいという妊婦さんもいるかと思いますが、音楽や通話、端末機器の操作に気をとられると、周囲への注意力が低下します。妊娠中は体型の変化によってバランスが不安定になり、瞬発的な動きが鈍くなることから、他の歩行者や自転車と接触しそうになっても避けられず、転倒したり、おなかをぶつけたりする可能性があります。 自分と赤ちゃんを思わぬケガや事故から守るために、ウォーキング中はイヤホンやヘッドホンの装着やスマートフォンなどの端末機器の操作はやめましょう。 妊娠中にたくさん歩かないと安産できないの?時に、「たくさん歩かないと安産できない」「安産のために1日1万歩は歩きましょう」という助言する医師や助産師がいます。また、書籍や雑誌、webの情報に「毎日〇万歩歩いたおかげで安産だった」「毎日〇時間散歩したら安産だった」というような個人的な体験が綴られていることもあります。このような助言や情報を見聞きすると、歩けば歩くほど安産に近づくと受け取ってしまいますが、歩いた距離や歩数が安産と必ず関連しているという科学的根拠は今のところありません。 そもそも、安産や難産という言葉は医学用語ではなく、明確な定義がありません。医師や助産師も、出産を前向きにイメージしてほしいという気持ちから安産という言葉を用いることはありますが、安産か難産かについては、出産を終えたママの気持ち次第で決まることです。「安産のために!」と1日何時間も、何万歩も歩くことだけに時間を費やして、体力を消耗したら意味がありません。しかし、出産には体力が必要ですので、満足のいくお産のために、妊娠中に運動をして、筋力や体力を維持することはとても大切です。 妊娠中の散歩やウォーキングは、歩数や距離を稼ぐことにこだわらず、1回当たりの時間や1週間に行うペースに気をつけて、楽しみながら続けましょう。 まとめ妊娠中は、切迫早産などの診断を受けず、体調が万全な状態であれば、体力づくりと気分転換を兼ねて、日常生活に無理のない程度に歩くことを習慣にしましょう。ただし、妊婦であることを自覚し、安全面にも注意する必要があります。散歩やウォーキングをした後、体調に変化が起きたとき、胎動がいつもより少ないとき、転倒したときなどは、自己判断で経過をみず、必ずかかりつけの産婦人科へ相談・受診するようにしましょう。 ■参考文献・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」・日本臨床スポーツ医学会「妊婦スポーツの安全管理基準(日本臨床スポーツ医学会誌 Vol. 13 Suppl., 2005)」・『マタニティ・エクササイズ・マニュアル(2010年初版)』(監修:進 純郎/発行:社団法人全国保健センター連合会)・『マタニティ・エクササイズ・マニュアル』(監修:藤田麻里/発行:社団法人全国保健センター連合会) 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年06月18日生まれてきた赤ちゃんはあまり目が見えません。このままならどうしようと不安に感じる両親もいるでしょう。赤ちゃんの視力はだんだん上がっていきます。この記事では、赤ちゃんの視力の発達や、目の健康についてまとめました。 胎児から生後まで! 赤ちゃんの目の発達はどうなっている?胎児は最初から目があるわけではありません。目は複雑な構造を持っているため、時間をかけてできあがります。妊娠3週目に顔にくぼみが出現し、目の位置がはっきりしてきます。妊娠4週目あたりから目の組織が作られていき、妊娠8週目からまぶたが現、目の形がエコーで確認できます。 目の形ができても視覚機能はまだありません。胎児はまぶたができても目を閉じたままです。目の構造がほぼ完成するのは妊娠13週ごろです。妊娠20週目にはまぶたが開くようになります。光に対して瞬目(まばたき)することができるようになります。 出産予定日あたりには赤ちゃんの目はほぼ完成していますが、目がどれぐらい見えているかはわかりにくいです。物の大きさや動きを認識できる程度でしょう。赤ちゃんは曖昧にしか視界を確保できていないといえます。新生児の視力は「0.01~0.02」ほどです。時間とともに赤ちゃんの目は「眼球を動かすこと」「色を見分けること」などを覚えていきます。ある程度の視力が身につくには生後12カ月ほど、大人と同じくらいの視力になるには3歳前後を待たなくてはいけません。 赤ちゃんは正常に視力が発達している? 視力を確認する方法とは生まれたばかりの赤ちゃんはほとんど物の形や色の区別がついていない状態です。目の発達が気になるときは光をあててみるといいでしょう。光に対して「明るい」「まぶしい」といった感覚は持っています。顔を背けたり、目をつぶったりするなどの反応があるときは、正常です。 生後1、2カ月で、近くのものなら認識できます。目の前に顔を近づけると反応します。じっと顔を見つめ返してくれるのは興味を示してくれているサインです。また、色を見分けられるようにもなります。白黒だった視界が赤などの鮮やかな色から順に反応を示しだします。 3、4カ月ほどで「追視」をするようになるでしょう。止まっているものを見つめるだけでなく、動いているものを目で追います。首は十分に動かせないので最初は左右の動きしか追えません。ぬいぐるみなどを赤ちゃんの前で左右に動かしてあげると、追視をしているかどうかがわかります。そして、眼球が発達していくにつれて上下の動きにもついてこられるように変わります。1歳ごろには、遠近感覚をつかめるでしょう。少し離れたところから手を振るなどの仕草を示してみましょう。赤ちゃんが反応してくれるなら、目の発達は健全に進んでいるといえます。 赤ちゃんが目の病気にかかることも! どんな危険があるの?繊細で成長過程にある赤ちゃんの目は、病気への免疫が備わっていません。そのため、目の病気にかかりやすいといえます。あらかじめ病気の症状を知っておくと、いざ赤ちゃんが病気にかかったとしても早急に対処できるでしょう。 まず、赤ちゃんは目やにをうまく取ることができず、結膜炎を起こすことがあります。次に、逆さまつげも赤ちゃんによく見られる症状です。まつげが内側に向かって生えてしまうため、眼球を傷つけがちです。成長とともに治る場合もあるものの、症状がひどいときは手術をしてもらうのが賢明でしょう。 赤ちゃんは目の筋肉が未発達なので、両目の位置がずれる斜視になることもあります。斜視になると片方の目だけ視力が弱まる可能性があるため、必要であれば手術によって治療をします。また、目の血管ができあがっていない時期には、未熟児網膜症にかかる恐れもあります。網膜の異常で失明することもある病気であり、光凝固などによる早急な治療が望まれます。 乳児期になると、先天白内障や先天緑内障を発症することもあります。水晶体がにごったり黒目が大きくなりすぎたりする病気であり、原因不明のまま突然発症するケースも少なくありません。治療が遅れれば失明のリスクも生じるので、赤ちゃんの目に違和感を覚えたらすぐ病院に連れていきましょう。さらに、網膜芽細胞腫や先天鼻涙管通過不全も危険な病気です。いずれも目の発達を妨げ、悪化すれば視力を奪いかねません。これらの病気では痛みもともなうため、赤ちゃんの様子で発症がわかるでしょう。 赤ちゃんの視力を守ろう! 親が注意すべき赤ちゃんの目の症状とは斜視や逆さまつげといった症状は見た目の異常でですが、見つけられないことも多いです。赤ちゃんの目の病気では、発症してもなかなか目立った症状が現れないことは珍しくありません。赤ちゃんの視力を守るには、親が些細な変化を読み取れるかが大切です。たとえば、赤ちゃんの涙目が続いているときは注意が必要です。通常、赤ちゃんは大人よりも目の組織が繊細なので涙が出やすい性質を持っています。しかし、涙と一緒に不快感を示す反応があるようなら、痛みを感じている可能性が大です。病気にかかっている恐れがあるため、医師に診てもらいましょう。 また、結膜炎は見てわかります。目やにが濃い黄色、もしくは緑色になっているなら、雑菌が大量に含まれていることがあります。それに加えて白目が充血したり大量の涙が出たりするのは典型的な結膜炎の症状です。また、白内障にかかっているときも白目に変化があります。本来ならきれいな白が、にごった色になっているときは水晶体が病気に感染している印です。 病気に限らず、赤ちゃんの視力が正常に発達しているかどうかも親が注意したいところです。生まれたての赤ちゃんでも、普通はなんとなく周囲に物があることを認識しているはずです。顔を近づけてもリアクションがなかったり、一向に視線が合わなかったりするなら、目がしっかり見えていない可能性があります。そのほか、絵本やDVDなどを見せているときの赤ちゃんからも視力の発達をうかがえます。赤ちゃんが顔をおかしな向きにして対象を見るようなら、視界をまっすぐ確保できていないサインです。 まとめ胎児から3歳までの赤ちゃんの視覚の発達をまとめました。赤ちゃんの病気はすぐに治療できるものも少なくありません。赤ちゃんの目に関心を持ち、発達を見守り、気になることがあればかかりつけ医に相談しましょう。 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
2019年06月16日今回は、赤ちゃんの飲み込みの発達とスプーン、コップ飲みの練習から始めてストロー飲みの練習をする方法についてお話しします。 ストローでじょうずに飲めるのはコップで飲めるようになってから妊娠・出産・子育てをテーマにした書籍や雑誌、webサイトに「ストローマグの選び方とおすすめのマグ」「ストローマグでの練習方法は?」という情報が出回っています。そのため離乳食を開始して間もない時期からストローマグを使うことが一般的という風潮がありますが、これは間違った情報です。しかしながらストローマグが昔に比べて普及したこともあり、赤ちゃんがストローで飲める時期が早くなっています。 市販されているストローマグの対象年齢が生後6~8カ月からと表示されていることや、おっぱいや哺乳瓶以外に慣れるための製品としてスパウトが販売されているので、誤解される方も多いかと思います。 しかしながら、赤ちゃんの正常な発達からみると、スプーン→コップ→ストローの順番に飲み込みができるようになります。離乳食を進める過程でストロー飲みができなくても、コップ飲みが上達するのは自然なことで、1歳半~3歳ごろまでストローでじょうずに飲めないことも少なくありません。 離乳食についての教室や講座などがあるものの、母乳やミルク以外を飲むことについて教えてもらう機会がないと感じているママやパパもいるかもしれません。医学的には間違っている一般論や体験談を参考にして、早い月齢からストローでじょうずに飲むことを期待したり、ストローで飲めないとコップで飲めなくなるなど焦る必要はありません。 コップでじょうずに飲めるのは生後9~11カ月ごろからなので、赤ちゃんの飲み込みの発達に合わせて、ストローで飲む練習よりもスプーンやコップから飲む練習を優先しましょう。そのうえで、赤ちゃんがストローで飲めるようであれば、月齢を気にせずに飲ませてみてもいいでしょう。 赤ちゃんの飲み込みの発達に合わせて練習しよう赤ちゃんがおっぱいや哺乳瓶の乳首を「吸う」こと、コップから水分を「飲む」こと、ストローで水分を「吸う」ことはすべて異なる動きです。 生まれて間もない赤ちゃんには、口にくわえたものを反射的にチュッチュッと吸い取る吸啜反射があります。生後9カ月ごろまでに吸啜反射が弱くなると同時に、少しずつ自分の意思で口唇や舌を動かせるようになり、スプーンからすするように飲めたり、親がコップを支えてあげると上手に飲めるようになってきます。水分をじょうずに飲み取るには、下唇にスプーンやコップが当たっている状態で、上唇が閉じて飲み込む量を調節できるという一連の動きが必要です。この動きを最初からできる子もいれば、多少練習が必要な子もいます。 一方、ストローで水分を「吸う」動きは、口唇を閉じてストローをくわえて、強く圧をかけて吸い込むという一連の動きが必要です。そのため、吸啜反射が残っている月齢や口唇の動きが未熟な段階でストローを嫌がったり、むせたりするのは当然のことでしょう。また、早期からストローマグに使い慣れてしまうと、コップでじょうずに飲めるようになるまで時間がかかるという研究報告があります。 【参考】日本歯科医学会『小児の口腔機能発達評価マニュアル第1版(2018.2.28.作成)』『小児歯科学雑誌 48巻 2号(乳幼児の水分摂取機能発達に関する研究 第3報 発達的観点からの適切な食具選択の検証)』 スパウトやストローマグはじょうずに利用しようスパウトやストローマグは、赤ちゃんの飲み込みの発達から考えると、おっぱいや哺乳瓶を卒業してコップで飲めるようになるまでの間に、必ず使わないといけないアイテムではありません。コップでじょうずに飲むためのステップとして、スパウトやストローマグでトレーニングする必要はありません。 しかし、フタ付きで水分をこぼさない・持ち運びに便利・赤ちゃんが両手で持てるようになれば親の手を借りずに飲めるという利便性はあるので、子育て中の便利アイテムとしてじょうずに利用しましょう。ストロー飲みをおこなう場合でも、スプーンやコップで飲む機会を作って、赤ちゃんの飲み込みの発達を促しましょう。 まとめ赤ちゃんがストローでじょうずに飲めるのはコップで飲めるようになってからです。赤ちゃんの飲み込みの発達に合わせて練習しましょう。飲み込みの発達について心配なことなどがあれば、困りごとや悩みごとは、小児科、小児歯科、居住地の保健所や保健センターの保健師・歯科衛生士・助産師へ相談しましょう。 【参考】日本小児歯科学会「子どもたちの口と歯の質問箱産まれてから2歳頃まで」厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年06月14日赤ちゃんがハイハイを始める時期を過ぎてもしないことを心配しているママやパパのために、今回はシャフリングベビーについてお話しします。 赤ちゃんの成長・発達赤ちゃんの成長は、首がすわる(生後3~5カ月ごろ)→寝返りをする(生後5~6カ月ごろ)→おすわりが安定する(生後8カ月ごろ)→ハイハイをする(生後7~9カ月ごろ)→つかまり立ちをする(生後8~11カ月ごろ)→つたい歩きをする(1歳ごろ)→ひとりでじょうずに歩く(1歳~1歳6カ月ごろ)という順に発達することが一般的です。 早産で生まれた赤ちゃんは、明らかな障害や疾患がなくても運動や言葉の発達が遅く、後から追いつくパターンもあるので、出産予定日を出生日として計算した修正月齢と照らし合わせて発達を評価します。 シャフリングベビーとは?ハイハイを始める時期を過ぎても、おすわりの姿勢のまま、おしりを浮かせて、両足でこぐように前進する赤ちゃんのことを言います。シャッフラー(shuffler)と呼ぶこともあります。日本では、医療者が親へわかりやすく説明するため、医学的な専門用語ではありませんが「いざり児」「いざりっ子」という言葉を使うことも多いです。ここからは、「シャフリングベビー」に表現を統一してお話しします。 シャフリングベビーは、非常に軽度の下肢の筋緊張低下があり、おすわりや歩行開始が遅いことがあります。寝返りやうつぶせの姿勢を嫌い、うつぶせにしてもすぐにあお向けやおすわりの姿勢になります。足の裏を床につけるのを嫌がるため、ハイハイをしないまま、つかまり立ちの時期が遅くなり、結果的に歩き始める時期が1歳半~2歳ごろに遅れることが多いです。シャフリングベビーの場合、ひとりでじょうずに歩けるようになれば、その後の運動発達は問題ないことが多いです。 しかし、一見シャフリングベビーと思える赤ちゃんの中にも神経の病気が隠れていることもありますので、足をつっぱらないだけでなく、(1)ミルクの飲みが悪く、泣き方も弱い、(2)首のすわりが悪く抱っこするとぐらぐらする、(3)表情の発達が乏しく、言葉の理解も遅い、(4)手指の発達が遅い、などが見られる場合は、念のため小児科医に相談されると良いでしょう。 シャフリングベビーの原因は?なぜハイハイをせず、おすわりの姿勢のまま前進するのか原因はわかっていません。ハイハイが歩くために必要と思いがちですが、イギリスの小児科医ロブソンをはじめとする国内外の調査によると、ハイハイをしないシャフリングベビーは歩行開始が遅くなること、大きくなるまで見守ると運動能力などに問題のない子どもに育っていくこと、親や兄弟姉妹が似たような運動発達をしている傾向にあること、多くの赤ちゃんとは異なる運動発達の経過があっても異常ではないことがわかっています。 ゆっくり運動発達する赤ちゃんの診断と治療は?10カ月健診の時点でハイハイをしない、1歳6カ月健診の時点でじょうずに歩行できるかを医師がチェックします。それぞれの健診で運動発達に遅れがある場合は、専門機関へ紹介されます。専門機関へ紹介されると、ママやパパは不安と心配で落ち込むことがあるかもしれませんが、ハイハイや歩行開始が遅くても、将来的に何も問題のないこともあります。しかし、ゆっくりと運動発達をする赤ちゃんに、筋疾患、脳性麻痺などの中枢神経疾患、運動失調、骨・関節疾患が見つかるケースもあります。専門機関できちんと発達の評価をしてもらうことで、赤ちゃんの発達に合わせた治療や遊び方のアドバイス、リハビリなどのサポートを受けられますので、親だけで悩まず、赤ちゃんの発達に詳しい専門家に頼ってみたりしましょう。 まとめ月齢の近い赤ちゃんと一緒に過ごしたときや、保育園などで集団生活を始めたときに運動発達が遅いと親が気づくケースもあります。 もし、わが子を「シャフリングベビーかな?」と思ったら、保育園の通っている時期であれば保育士へ相談してみましょう。自宅保育の場合は、居住地の保健所や保健センターの保健師へ相談したり、子ども家庭支援センターや児童館の相談窓口を利用したりすることもできます。小児科を受診するのも一つです。子どもの発達について親だけで悩まず、早めに専門家に相談することをおすすめします。 【参考】国立成育医療研究センター「乳幼児健康診査 身体診察マニュアル(平成30年3月)」『乳幼児健診マニュアル 第5版』(福岡地区小児科医会・乳幼児保健委員会 編/医学書院)楢崎修・楢崎明珠「1歳6カ月児健診におけるshufflingbabyの疫学的調査」(『脳と発達』1986年18巻 p484-489)CHILD RESEARCH NET「【子どものからだと健康】第1回 ハイハイしない子ども」一般社団法人大阪小児科医会「いざりっ子(シャフリングベビー)」 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年06月12日妊娠高血圧症候群と診断された人に起こる子癇(しかん)について、あまりよく知らない人も多いのではないでしょうか。子癇は妊娠中や出産の際に、お母さんや赤ちゃんの健康状態に深く関わりがあります。今回は、子癇がお母さんと赤ちゃんにどのような影響を及ぼすのか、子癇の治療や出産について解説します。 子癇(しかん)とは?子癇は妊娠高血圧症候群を発症した妊婦さんに多く起こる全身痙攣(けいれん)です。てんかんや過呼吸、脳出血と症状が似ていますが、妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こしたものをいいます。妊娠中や出産時、出産直後に発症することが多く、1万人のうち4人程度が発症します。子癇が起こる理由として、血圧が高いと脳の血流が増え、脳がむくんで痙攣発作を起こすと考えられていますが、ハッキリとしたことは分かっていません。子癇が発症するリスクが上がる要因としては、妊娠高血圧症候群以外に10代の妊娠、初産婦、双胎(ふたご)、極端な体重増加、以前の分娩で子癇を起こしたことがある、などがあります。当てはまる条件が多いほど発症のリスクも高くなります。子癇の痙攣発作の直接的な誘因となるのは、分娩室のライトによる光刺激や浣腸、尿を管で出す時、手足の冷えなどです。身体的刺激が多いですが、精神的ストレスも子癇を誘発します。 子癇がお母さんと赤ちゃんへに与える影響子癇の痙攣発作が起こると、お母さんは体のいろいろな場所で血液が固まり、固まるべき場所では出血が止まらなくなったり、脳出血、臓器不全を起こしやすくなるなど、命にも関わる状態となります。また、痙攣発作がおさまらない場合には、意識が戻らず亡くなってしまうこともあります。 おなかの赤ちゃんも非常に危険な状態となります。もともと子癇のほとんどの人が発症している妊娠高血圧症候群では、おなかの赤ちゃんへ十分な量の血液が届かないことがあります。成長発達や生きるために必要な酸素や栄養が足りないと、低体重児の出産やおなかの赤ちゃんの心拍に異常をきたすことがあります。子癇発作が起こると、おなかの赤ちゃんにはさらに血液や酸素が送られにくい状態となるため、すぐに子宮から出してあげないといけない、命の危険を伴う状態(胎児機能不全)に陥る可能性が高くなります。 子癇になったらどうすればいいのか分娩中には血圧測定などの検査が適宜行われます。血圧が上昇して160/110mmHg以上になったり、子癇の前兆がおきた場合には、子癇が起こる可能性が高いです。子癇になったら、痙攣で分娩台から落ちる危険があるので、手や足を固定されます。また、できるだけ刺激が少なくなるように、ライトを暗くした環境で出産となります。痙攣発作が起きないように、点滴によって血圧を下げる薬や痙攣を予防する薬が持続的に注入されます。もしも、痙攣発作が起きたときには、酸素吸入や唾液の吸引が必要です。発症してもお母さんの状態が安定すれば、速やかに出産できるよう最適な方法が考慮されます。子宮口の広がり方が十分でないときは、緊急帝王切開となることもあります。 子癇の前兆症状子癇を起こす方の多くは、妊娠中からもしくは出産の時に血圧が上昇し、同時に尿蛋白や浮腫もみられます。妊婦健診の際に血圧測定や尿検査をするので、出産までに子癇のリスクである妊娠高血圧症候群は発見されているはずです。子癇の痙攣発作が起こる前には、目のカスミやチカチカと光が見えたり、みぞおちのあたりが痛くなったり、強い頭痛が続いたりといった症状が多くみられます。そのため、出産の時や出産直後に、子癇の前兆症状があったら医師もしくは助産師さんに必ず伝えてください。 子癇は予防できる?子癇を起こさないようにするには、妊娠期間中に高血圧にならないことです。食生活や1日の過ごし方など、血圧が高くならないように気をつけることで、子癇を予防できる可能性があります。急激に体重が増えると血圧が高くなるので、体重管理が必要になります。過剰なカロリー摂取だけではなく、必要以上の塩分も摂らないように食事には注意しましょう。また、睡眠不足や疲労、ストレスも自立神経のバランスを崩すため、血圧が高くなる可能性があります。昼寝などで睡眠時間を確保して、疲れを残さないように心がけることも大切です。好きな音楽を聞くことや適度な運動、趣味を行える時間をつくって、リラックスして楽しい時間を過ごすのもよいでしょう。 まとめ妊娠中に妊娠高血圧症候群と指摘されたことがある方は、子癇を起こすリスクがあります。子癇が起きた場合は、お母さんと赤ちゃん共に危険を伴う可能性があるため、高血圧にならないように予防方法を試してみると良いでしょう。 監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
2019年06月08日子どもの気になるしぐさやクセを「チックかな?」と心配されるママやパパのために、今回はチックについてお話しします。 チックとは?自分の意思とは関係なく、突発的に不規則な動きや発声を繰り返してしまうことをチックといいます。チックの症状には、運動チックと音声チックがあります。症状の始まりは2歳ごろ~高校生ごろまでの年齢とされていますが、小学校へ入学する前後が多いようです。2~3カ月で症状が消えるケースや、チックのパターンを変えながら数年続くケースがあります。完全に消えなかったとしても、大人になるとチックで困ることがなくなったり、軽くなったりする人がほとんどです。下記のような動きを繰り返してしまうことを、「運動チック」といいます。運動チックには、1つの動きが起こる「単純運動チック」と体のいろいろな部分が一緒に動く「複雑運動チック」があります。 【単純運動チック】・目をパチパチさせる(まばたき)・口を開けたり曲げたりする(口をゆがめる)・まぶたをギュッと閉じる・鼻をヒクヒクさせる・目を細める・白目をむく・肩をすくめる・顔をしかめる・首を振る 【複雑運動チック】・人や物に触る・においをかぐ・たたく 下記のような声を繰り返してしまうことを、「音声チック」といいます。音声チックにも、「単純音声チック」と「複雑音声チック」があります。 【単純音声チック】・咳や咳払いをする・鼻をクンクン鳴らす・「ア」「ウ」「オ」「ワ」など大きな声を出す・ほえる、うなるなど 【複雑音声チック】・他者の言ったことを繰り返して発声する・人前や公の場で言うことをはばかれるような汚い言葉を言ってしまう・自分の発した音声や単語を繰り返す 【参考】『「チック」や「くせ」をよく知ってうまくつきあっていけるように』(東大病院こころの発達診療部)『わかって私のハンディキャップ② トゥレット症候群 チックはわざとじゃないんだ』(大月書店) チックの原因は?チックになるのは、子どものせいでも親のしつけや育て方のせいでもありません。チックになるのは遺伝も1つの要因として挙げられますが、親子で顔や体格が似るのと同じように脳の体質が似るというもので、おおげさにとらえる必要はありません。チックがなぜ起こるのかは、まだ完全にはわかっていませんが、脳のドーパミンという神経伝達物質のアンバランスが関係していると言われています。そのことが土台にあって心の状態によってチック症状が引き出されます。 チックには、起こる前に動いたり声を出したりしないといられないムズムズする感じがあり、チックを起こすことですっきりする、落ち着くという特徴的な流れがあります。大人になっていくと、前頭葉が成長してチックが起こる前のムズムズする感じが起きてもチックを抑えられるようになると考えられています。 【参考】東大病院こころの発達診療部HP チックの診断と治療は?チックは小児科などチックに詳しい医師が症状を観察して診断します。子ども本人がチックに困っている、チックだけでなくこだわりや落ち着きのなさに悩んでいる、子ども本人はチックに困っていなくても親が心配している場合は、受診して相談しましょう。 チックと診断がついた場合の基本的な治療は、本人と親、家族、その他日常的に関わる周囲の大人がチックについて正しい認識を持ち、チックの症状が起きても気にせず自然に消えていくのを待つことです。 チックは時期や日によって異なります。緊張する学校行事やイベントの前や、疲れや睡眠不足によって一時的にチックの出る頻度が増えることもあり、周囲が心配することもあるかもしれませんが、普段通り自然に見守ってあげましょう。チックが起こったときは指摘したり、注意したりしないようにすることが大切です。 チックが日常生活に支障を来して困る場合には、チックが落ち着くように作用する薬を使った治療をおこなうこともあります。 チックについて知ることで、子ども本人が自分のせいじゃないと安心でき、お薬を飲まなくてもチックが目立たないようにコツをつかむこともあるので、病院では、それぞれの子どもに合わせた治療を子ども本人や親と相談しながら決めていきます。 トゥレット症候群とは?チック症状があり、運動チックと音声チックの両方が1年以上続く場合を「トゥレット症候群」といいます。トゥレットとは、1885年フランスの神経科医ジル・ド・ラ・トゥレットが報告したことに由来しています。 トゥレット症候群によくみられる合併症(併発症)には、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害があります。また、こだわりや不安が強くなり日常生活に支障を来たす強迫性障害(OCD)、昼夜の区別に一致した生活リズムがとれない、睡眠障害などがみられます。トゥレット症候群の場合は、合併症に対する治療もおこなうことでチックを抑えられることもありますが、2つ以上の障害があると互いに症状を悪くすることがあります。 チックはチックの種類や経過期間によって分類されますが、原因が完全に解明されていないため、すべての患者さんに有効な治療方法が確立していません。チックはトゥレット症候群のように、発達障害や強迫性障害を合併していることもあるため、親がたくさんの情報を集めることもあると思いますが、病院で受ける治療から遠ざけるような助言や、「完治する」と断言する民間療法には惑わされないように気をつけましょう。 「チックかな?」と心配になったらもし、わが子が「チックかな?」と思ったら、かかりつけの小児科へ受診して相談しましょう。病院に行くほどではないけれど相談したい場合は、居住地の保健所や保健センターの保健師へ相談することや、子ども家庭支援センターや児童館の相談窓口を利用することをおすすめします。 チックに対してあまり良いイメージが持てず、受診することや医師の診断を受けることをためらう保護者もいますが、子ども本人がチックに困っているのであれば、適切な治療を受けることでチックが良くなることもありますので、自分に自信を持てる環境を整えるためにも早めに専門家へ相談することをおすすめします。くれぐれもチックの症状が出たときに注意しないことが大切です。 まとめチックは脳内での神経発達の異常が原因であり、子どものせいでも、親のせいでもありません。ましてや子どもの「悪い性格(クセ)」でもありません。チックかもしれないと思ったら、症状自体にこだわらず、生活に緊張感や不安なことがないかを見てあげてください。それでもチックで悩むことや子ども自身が困っていることがあれば、小児科の医師や居住地の保健師、子ども家庭支援センターや児童館の相談窓口に相談してみましょう。そして、本人と親、家族、その他日常的に関わる周囲の大人がチックについて正しい認識をもち、チックの症状が起きても気にせず自然に消えていくのを待つことが大切です。 【参考】国立成育医療研究センター「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」『乳幼児健診マニュアル 第5版』(医学書院)一般社団法人日本小児神経学会HP東大病院こころの発達診療部HPNPO法人日本トゥレット協会HP公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センターHPトゥレット症候群心をはぐくむ子育てQ&A全国情緒障害児短期治療施設協議会(P.24チック)『わかって私のハンディキャップ② トゥレット症候群 チックはわざとじゃないんだ』(大月書店)監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年06月06日「妊娠中につい走ってしまった」「運動不足だから走りたい」という妊婦さんのために、妊娠中に走ることを控えたほうがいい理由と妊娠中によくあるケースをお話しします。 妊娠中に走ることを控えたほうが良い理由妊娠中に走ることを控えたほうが良い理由は以下のようなものがあります。 転倒しやすく、頭やおなかをぶつける可能性がある。母体には、妊娠前に経験したことのない体重や体型の変化、体の重心の変化が起こります。妊娠後期(妊娠28週以降)には、立ったときに自分の足元が見えづらいほどにおなかが大きくなります。 また、妊娠中は骨格を支える靭帯が緩むため、体全体のバランスが不安定になりやすいです。靭帯が緩むことは、大きくなる子宮のサイズに合わせて骨盤がクッション性のある動きをするため、妊娠中や出産時に役立ちます。しかし、足の裏の靭帯も緩むため、妊娠前よりも偏平足に近づくことで、体重を支える足のバランスも悪くなります。そして、妊娠中の生理的な体の変化によって、体全体のバランスが不安定になり、瞬発的な動きが鈍くなることから転倒しやすく、思わぬケガをする可能性があります。特に、おなかを強くぶつけた場合、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)を起こすことがあります。常位胎盤早期剥離は、胎児に栄養や酸素を供給している胎盤が剥がれることで、胎児の脳性麻痺を引き起こしてしまうことや、死亡に至ることもあります。また、子宮内に大量出血することで、母体の生命も危険な状態となることがあります。もし、走って転んでおなかをぶつけた場合は、必ず産婦人科を受診しましょう。振動による腹部への刺激で子宮収縮の増加が起こる可能性がある。妊婦さん本人は、子宮収縮をおなかの張り(おなかが固くなる)やおなかや腰の痛みとして感じます。子宮収縮に伴い、性器出血や破水が起こることもあり、流産や早産を引き起こす可能性があります。もし、走ってしまった後におなかの張りや性器出血、破水があれば、早めに産婦人科へ受診しましょう。子宮への血流量が低下して、結果的に胎児が酸素不足になる可能性がある。息が上がるほどに走り続けると、全身の筋肉への血流量が増加するために、子宮への血流量が低下して、結果的に胎児への酸素供給が滞る可能性があります。 胎動が感じられる週数に入っていれば、妊婦さん本人は走り終えた後に、胎動が減少したことで気づくかもしれません。走った後の30分間で1~2回以上の胎動が出現すれば正常と判断してよいでしょう。もし、胎動が少ない気がするときは、早めに産婦人科へ受診しましょう。 妊娠前から走る習慣がなかった方は、自身の体への負担も大きくなるため、妊娠中の運動不足の解消を目的として走ることを取り入れるのはやめましょう。 妊婦さんがうっかり走ってしまったときは?【ケース1】妊娠に気づかず走ってしまったけど大丈夫?妊娠していることに気づかず、うっかり走ってしまったことを思い出して妊娠への影響を心配される妊婦さんもいますが、正式に妊娠していると判明した後の経過が順調であれば、特に気にする必要はありません。 産婦人科診療を専門としない人が作成した書籍や雑誌、webの情報のなかには、「妊娠初期に走ると流産の原因となる」と書かれていることがありますが、このような情報も気にする必要はありません。妊娠初期(妊娠0~15週)に起こる流産の最も多い原因は、受精卵の染色体異常です。妊娠初期の流産は、走ったことが直接の原因ではありません。 【ケース2】体重コントロールのためのジョギングやランニングは大丈夫?妊娠中の万が一の事故やケガを未然に防ぐため、腹部に振動が加わるもの、転びやすく外傷を受けやすい運動は避けたほうが良いため、大丈夫とは断言できません。 妊娠中に運動したい場合は、まず担当の医師や助産師へ相談しましょう。妊娠中に運動して良い条件は、妊娠12週以降で正常な妊娠経過であること、妊婦健診で医師や助産師から運動を禁止されていないことです。 妊娠前から運動習慣がある場合は、基本的には中止する必要はありませんが、妊娠前よりも運動量の制限は必要です。また、運動習慣のない妊婦さんが、体重管理のために突如負荷のかかる運動をし始める必要もありません。 全身運動として、走るのと同じような効果がある歩行がおすすめです。走ることが得意な妊婦さんは、走るよりもペースダウンしてウォーキングを。運動習慣がない妊婦さんは、少しずつ散歩程度から始め、歩く習慣を続けるだけでも十分な運動になります。妊娠中の運動については、医師や助産師、運動指導をするトレーナーから専門的な指導と助言を受けましょう。特に高血圧、糖尿病、肥満などの妊娠中の合併症の予防と治療を目的とする運動については、主治医と相談して十分に注意しておこないましょう。 【ケース3】上の子どもを追いかけるのに、つい走ってしまうけど大丈夫?走ることで思わぬ転倒やケガをする可能性があります。「つい走ってしまう」状況をなるべく減らしましょう。「つい走ってしまった」直後は、おなかの張りや胎動が普段と変わりないかを確認しましょう。 まとめ走ることが妊娠へ影響するかどうかは、走った前後の妊娠経過や走った状況、運動能力などによって異なります。走った後、体調に変化が起きたとき、胎動がいつもより少ないとき、転倒したときは必ず受診しましょう。そして運動したいという方は、全身運動としては効果が同じである歩行で、スピードを調整しつつ対応していきましょう。 【参考】日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」日本臨床スポーツ医学会『日本臨床スポーツ医学会誌 Vol. 13 Suppl., 2005』日本医療機能評価機構・再発防止委員会リーフレット ◆関連動画出産ドキュメンタリー(通常分娩) 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年06月04日出産してしばらくは、育児が大変なことやお母さんの体が回復しておらず、性生活について考える余裕がないかもしれません。しかし、しばらくすると次の子を考えている方は、パートナーと今後の家族計画を話すことも増えてくると思います。そこで今回は、産後の性生活や次の妊娠期間はどれくらい空けた方が良いのかについてお話しします。 産後、性行為を再開できるのはいつから?産後の1カ月健診で経過が順調であることが確認できれば、性行為をおこなうことができます。経腟分娩で出産した場合は会陰部に痛みを感じなければ、産後4~6週ごろから性行為を再開できます。 しかし、女性の体が回復していても、子育てが始まると疲労や寝不足などで、性行為を受け入れられないこともありますが、それはごく自然な感情です。妊娠中と同じように、性欲には個人差、男女差があることをお互いに理解して、まずは自分たちにとって心地よいコミュニケーションの方法を話し合いましょう。 産後の性行為で気をつけること産後の性行為では以下のことに気をつけましょう。 ■夫婦で、産後の体の回復を理解しましょう。出産時に生じた腟のゆるみは一時的なもので、徐々に回復します。気になる方は、産褥体操や骨盤底筋を鍛えるエクササイズをすると良いでしょう。会陰部の傷や帝王切開後のおなかの切開部分は、時間の経過と共に回復して、痛みを感じることはなくなりますが、ちょっとした違和感や痛みが恐怖心に変わり、性行為を避ける原因にもなります。また、ホルモンバランスの変化から腟が乾燥することで性交痛が生じることもあります。そのときは、うるおいを補うためにドラッグストアなどで購入できる潤滑ゼリーを使うと良いでしょう。 ■夫婦で、家族計画について話し合いましょう。妊娠や出産をきっかけに、セックスレスになる夫婦は少なくありません。「産んだばかりの赤ちゃんのことで頭がいっぱい」「日々の家事と育児で性行為どころではない」「もうこれ以上子どもを作る予定はないから」など、理由はさまざまです。 必ずしも計画通りに授かるとはいえませんが、もし次の妊娠を望む場合は、今の住環境で子どもが増えても大丈夫か、子どもが増えても家族や周囲のサポートを得られるかなど、具体的にシミュレーションすることが大切です。 また、性行為は子どもを作るためだけの行為と考えている方もいらっしゃいますが、性行為はお互いの愛情を感じたり、精神的な結びつきを深めるための行為でもあります。夫婦間で感情のズレが生じることを避けるために、夫婦で話し合い、お互いの気持ちを確かめることが大切です。 ■予期せぬ妊娠を防ぐために、避妊をしましょう。月経が再開したら、次の妊娠ができる状態に戻っているサインです。母乳のみで授乳を続けている場合には、産後1年ほど月経が再開しない女性もいますが、月経の再開には個人差があり、産後2~3カ月で月経が再開するケースもあります。 排卵は月経の前に起こるため、月経を見ないまま妊娠する方もいます。お母さんの体は産後6カ月以上経過すると、体の機能はほぼ通常のレベルに戻るため、月経が再開していないとしても妊娠可能な状態に回復しています。予期せぬ妊娠を防ぐために、避妊を怠らないようにしましょう。 産後すぐの避妊方法としてはコンドームの使用が適しています。ピルの服用は、母乳育児をしていない場合は産後3週から、母乳育児をしている場合は卒乳後が適しています。また、産後6週をすぎれば、IUD(子宮内避妊具)を使うことで、受精卵が着床するのを防ぎ、妊娠を防ぐことができます。産後に長期間の避妊を希望する場合は、IUD(子宮内避妊具)を使うことを考えても良いでしょう。ピルやIUDについては、産婦人科あるいは婦人科の医師による診察が必要となりますので、相談したい場合は受診しましょう。 次の妊娠までどのくらい期間を空けたほうがいいの?WHO(世界保健機関)ガイドラインには「次回妊娠するまでの期間が18カ月以下の場合は、新生児死亡率や乳児死亡率、低出生体重児、胎児発育遅延、早産の危険性が有意に高くなる。特に、6カ月以下の場合は妊産婦死亡率のリスクも高くなる」とあり、次の妊娠まで、少なくとも24カ月、流産後は6カ月空けることを推奨しています。 日本では、出産年齢が高年齢化していることから、次の妊娠を急ぐカップルも少なくありません。しかし、お母さんの身体機能さえ回復すれば妊娠して良いというわけではありません。体力や精神的な負担、子育てそのものの負担、生まれた赤ちゃんへの影響など、いろいろな視点をふまえて、次の妊娠までどのくらいの期間を空けるか、夫婦できちんと話し合い、自分たちに合った避妊方法と家族計画をしましょう。 また、帝王切開術で産んだ方は、次の妊娠で子宮破裂や胎盤が癒着してしまうことなどのリスクもありますので、次の妊娠を考えている方はかかりつけの産婦人科医に相談すると良いでしょう。 産後は妊娠しやすいと聞いたことがある方もいるかもしれませんが、産後は授乳をすることによりプロラクチンというホルモンが増えています。そして、このプロラクチンは、排卵を抑える役割をしており、出産してすぐの時期は妊娠しづらい状態です。しかし、母乳育児をしていても生理が来る時期は早い方もいれば卒乳・断乳後に来る方もいるので、個人差があります。そのため、妊娠しやすいかどうかは、お母さんの体や生殖機能の回復、母乳育児をしているかどうかなど個人差が大きいです。 まとめ夫婦共に年齢を重ねると、妊娠をしづらいこともあります。そのため、夫婦で今後の家族計画について話し合い、必要な場合は避妊などをおこないましょう。次の妊娠がなかなかできない場合は、産婦人科や不妊治療の専門医へ相談しましょう。 【参考】日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」埼玉医科大学保健医療学部看護学科「わが国の妊娠・分娩・産褥期における性生活・性機能 に関する文献検討」WHO「Postpartum Family Planning」一般社団法人 日本家族計画協会「産後の性生活Q&A」 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年06月02日生後間もない赤ちゃんの頭にこぶのようなものができることがあり、不安になるママも多いのではないでしょうか? その症状は産瘤(さんりゅう)・頭血腫(ずけっしゅ)・帽状腱膜下血腫(ぼうじょうけんまくかけっしゅ)と、大きく3つに分けられます。今回は、頭血腫について解説します。 頭血腫とは?経腟分娩の場合、赤ちゃんは陣痛(子宮が収縮する力)に押し出されるように、頭で産道や子宮口を押し広げながら生まれてきます。このとき、赤ちゃんは頭を一時的に変形させることで、スムーズに産道を通ることができるようになっています。とはいえ、狭い道を通って出てくるので、産道や子宮口での圧迫によって体液の流れが滞り、むくみやコブができたり、出血したりすることがあります。 生まれてきたばかりの赤ちゃんのコブには種類があります。その1つである頭血腫は、産道を通るときに頭が圧迫されたり、吸引分娩や鉗子分娩など強い圧力が一時的に加わったりした際に、頭の骨と頭の骨を覆っている骨膜が剥がれて出血し、骨膜の下に血液が溜まった状態のことをいいます。帝王切開や逆子での出産でも発生することもあります。 頭血腫の特徴頭血腫は、手で触るとプヨプヨした柔らかさを感じるコブのようなものです。産瘤とは違って、触った後の跡形は残りません。頭の骨と骨膜の間で、ある程度出血した後に、自然と出血は止まり、血液が溜まります。 赤ちゃんの頭蓋骨は数枚の骨がパズルのように組み合わさって作られているため、頭血腫は一カ所だけでなく、別々の骨の上に同時に発生することもあります。ただし、骨の継ぎ目を超えてコブができることはありません。 頭血腫は生後1~2日目から目立ち始め、生後数週間経つとコブの周辺部から硬くなり、触るとピンポン玉のようにペコペコ凹むようになって、やがて吸収されて消えます。小さいものでは生後1~2カ月で自然と消えますが、大きいものでは1歳ごろまで硬いコブのように触れることもあります。 赤ちゃんの頭蓋骨は、脳の成長に合わせて自然と少しずつ丸い形になっていきます。頭血腫のない赤ちゃんと頭の形を見比べてしまうこともあるかもしれませんが、焦らず見守りましょう。 頭血腫による赤ちゃんへの影響頭血腫は頭の骨の外側での出血なので、脳への影響はありません。自然に吸収されるため、基本的に治療の必要はなく数カ月かけて目立たなくなり、ほとんどの場合、その後の頭の形には影響しません。 気を付けなければならないのが黄疸です。黄疸とは、ビリルビンと言う物質が皮膚や白目の部分に溜まり、全身が黄色っぽくみえることをいいます。 頭血腫がある赤ちゃんは、頭の骨と骨膜との間で出血を伴った状態であるため、出血した際に壊された赤血球がビリルビンという黄色い色素を作ります。ビリルビンは肝臓で処理されて、便と共に排泄されます。おなかの中にいたときは、赤ちゃんのビリルビンはお母さんの肝臓で処理をしていましたが、生まれてからは自分の小さく未熟な肝臓で処理するため、処理が間に合わず黄疸が強く出る傾向にあるのです。 生後1週間は、外見でわかる黄疸が起きることは生理的な黄疸なので問題はありません。入院中は生理的な黄疸の程度を毎日診察していますので、治療が必要となれば医師から説明があります。基本的に黄疸の程度が強くなるピークは過ぎたころに退院となります。出産した施設を退院した後に、赤ちゃんの見た目が黄色くなったような気がする、おっぱいやミルクをなかなか飲まないなど赤ちゃんに気になる様子があれば、出産した施設へ連絡して相談しましょう。 頭血腫のある赤ちゃんのお世話について頭血腫の部分を強く圧迫することだけは避けましょう。頭血腫を触ると痛みを感じるのでやさしく触れるようにしましょう。授乳や沐浴(入浴)など、赤ちゃんの日常生活については通常通りで大丈夫です。生後間もない時期に頭血腫の皮膚表面が傷ついていたり、赤くなっていたりする場合のケアについては、医師や助産師から教えてもらいましょう。 まとめ生後間もない赤ちゃんの頭にコブのように頭血腫ができると、とても心配になると思います。入院中は医師や助産師に観察してもらいながら過ごすことができますが、不安であれば説明を聞いて、安心できることが重要です。頭血腫は時間の経過と共に、自然と消えてなくなります。赤ちゃんの発育にも影響しませんので、心配しすぎず育児を楽しみましょう。 【参考文献】『新生児学入門』(医学書院) 監修者:医師 神奈川県立こども医療センター総合診療科部長 松井 潔 先生愛媛大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センタージュニアレジデント、国立精神・神経センター小児神経科レジデント、神奈川県立こども医療センター周産期医療部・新生児科等を経て現在、同総合診療科部長。小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年05月31日妊婦さんが食べることを控えるべき食品はいくつかありますが、そのうちの1つに生のお肉があります。ユッケなどの生肉やレアな焼き加減が好きという妊婦さんにとっては、赤ちゃんを産むまでの約10カ月我慢しなければならないのはつらいものでしょう。それでは、妊婦さんがなぜ生肉を食べてはいけないのか、お肉を食べる時の注意点について解説します。 妊婦さんが生のお肉を食べてはいけない理由生のお肉には、寄生虫によるトキソプラズマ症や大腸菌のO-157などに感染する恐れがあります。妊娠中はホルモンバランスの乱れやつわりで食事が思うように摂れず栄養不足となる、睡眠不足になりやすい、ストレスがたまるなどさまざまな理由によって免疫力が低下する傾向にあり、感染症にかかりやすくなっています。特にトキソプラズマ症は、妊婦さんだけではなく、おなかの赤ちゃんにも影響がありますので、注意が必要です。 妊娠中に起こしやすい食中毒や感染症妊娠中に起こしやすい食中毒にはトキソプラズマとリステリアがあります。 トキソプラズマとは前述したように生肉など加熱が不十分なお肉を食べることで感染します。リステリアとは、リステリア菌によって感染する感染症で、加熱していないナチュラルチーズ、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモン等で感染します。 食中毒がおなかの赤ちゃんに与える影響トキソプラズマやリステリアに感染することで、共におなかの赤ちゃんに対して流産や早産の可能性が高まります。 トキソプラズマは、妊娠中に初めて感染すると先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があります。症状として、脳症やけいれん、水頭症、頭の中が石灰化することや視力の障害、黄疸、肝臓・脾臓の腫れなど脳や目、臓器に先天的な障害を残す場合があります。この感染症はお母さんが感染する時期によっておなかの赤ちゃんへの影響は異なります。 妊娠する6カ月以上前の感染ではおなかの赤ちゃんへの影響は及ぼしませんが、妊娠初期の場合はおなかの赤ちゃんへ感染するリスクは低いものの感染すると重症化します。 妊娠後期ではおなかの赤ちゃんへ感染する可能性は高いものの軽症で済むことが多いようですが、生まれたときに何の症状がなくても成長していく過程で症状が見られることもあります。 リステリアは、お母さんよりもおなかの赤ちゃんへの影響の方が大きく、感染することで早産や新生児の髄膜脳炎・敗血症などを起こすことがあります。 妊婦さんがお肉を食べるときの注意点妊娠中は、生のお肉の摂取を避け、十分に加熱されたお肉を食べるようにしましょう。特にリステリア菌は冷蔵庫の中であっても増殖する菌なので、冷蔵庫に保管しているから安全ではありません。 加熱の目安は、中心部分の温度が75℃以上で1分間とされています。また、家で調理をする際に電子レンジを活用する場合には全体的に火が通るようにすることも大切です。さらに、生のお肉を調理する場合には清潔な調理器具や調理環境を整え、使い終わったら洗剤で洗い、熱湯消毒をすると良いでしょう。 まとめ妊婦さんはストレスやホルモンバランスの乱れ、妊娠による免疫機能の変化などさまざまな要因によって免疫力が低下しているため、感染症にかかりやすくなっています。特に食中毒には注意が必要で、胎児に有害な食中毒としてトキソプラズマ、リステリアがあります。 トキソプラズマは十分加熱されていない肉を食べることによって感染しやすく、早産や流産の可能性が高まります。また食中毒はおなかの赤ちゃんへも影響を及ぼし、生まれた後にもさまざまなリスクがあります。そのため、お肉を食べる場合には十分に加熱したものを食べ、食中毒を予防していきましょう。 監修者:医師 医療法人至誠会 梅田病院院長 北川 博之 先生昭和56年愛媛大学医学部卒業。その後愛媛大学付属病院にて産婦人科講師、助教授として勤務。愛媛県立医療技術大学教授を経て、平成20年より現職の梅田病院に院長として就任。現在も愛媛大学、広島大学などで非常勤講師として教育にも従事。
2019年05月29日正常な月経周期において、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンバランスや卵巣、子宮内膜などが時期によって変化していきます。卵巣の変化に着目してみると、「卵胞期(らんぽうき)」→「排卵期」→「黄体期」という変化を繰り返しています。今回は黄体期にどのような変化が起きているのか、妊娠している場合の変化などについて解説します。 黄体期とは?妊娠しているとどうなる?月経が終わると、卵巣では再び妊娠の準備に向けて卵胞が成熟していきます。卵胞が完全に成熟すると、卵胞から卵子が出され(排卵)、残った卵胞は黄体になります。妊娠が成立しなかった場合、黄体はおよそ14日間程度で白体(はくたい)へと変わり老廃物となります。この一連の変化のうち、排卵の時期を排卵期といい、排卵期より前の時期を卵胞期、後の時期を黄体期といいます。黄体期の特徴としては、黄体から分泌されるプロゲステロンの効果によって体温が上がります。そのため、黄体期に入ると基礎体温のグラフは上がり、次の月経が始まる2日ほど前まで体温が高い状態が続きます。妊娠が成立すると黄体は妊娠黄体となり、胎盤ができるまでの間、プロゲステロンを分泌します。そのため、月経予定日を過ぎても基礎体温は下がらず、高温相がつづきます。妊娠をしていない場合には、月経予定日の前に基礎体温は下がり、月経が始まります。 黄体期にみられる症状卵胞期にはプロゲステロンよりもエストロゲンの方が多く分泌されていますが、黄体期では、エストロゲンよりもプロゲステロンの分泌量が多くなります。 プロゲステロンの分泌量が増えることで、基礎体温が上昇するほか、乳腺の発育・発達、子宮内膜が厚くなる、頸管粘液が透明から白色で少なくなるなどの変化が生じます。そのほか、月経前症候群(以下PMS)が現れる方がいます。 PMSは、月経予定日の3~10日に心や体にあらゆる症状が出るものです。原因はまだはっきりわかっていませんが、今のところ、PMSはエストロゲンとプロゲステロンのアンバランス、ホルモン異常、カルシウム不足や精神状態の影響など、さまざまな原因が考えられています。 【PMSの代表的な症状】・眠気または寝つきが悪い・頭痛・体のむくみ・乳房の張りや痛み・倦怠感・イライラする・やる気が起きない・集中力の低下 PMSの症状が出る方とそうでない方、症状として感じるものやその程度は個人差があります。PMS症状が重い方では学業や仕事を休まざるを得ないケースもあり、日常生活への影響も大きくなります。気になる症状がある方は、産婦人科に受診をするとよいでしょう。 基礎体温の変化からみる黄体期の異常正常な基礎体温の変化は低温相と高温相の二相性を示し、高温相が陥落することなく10日以上持続することなどがあげられます。しかし正常な基礎体温の変化が見られない場合、以下のような異常が生じていると考えられます。■高温相が不安定で10日以内の場合黄体機能不全が考えられます。本来、排卵後、卵胞は黄体に変化し、プロゲステロンを分泌し体温を上昇させますが、黄体機能不全の場合はプロゲステロンの分泌が不十分なため、高温相を維持できなくなり、不安定になってしまいます。黄体機能不全の原因は明らかになっていませんが、ホルモンの分泌異常や子宮内膜の異常などの要因が関連して起こると考えられています。■高温相がない無排卵性月経ということばで聞いたことがあるかもしれませんが、無排卵周期症が考えられます。無排卵周期症では、ホルモンの分泌異常により卵胞が発育せず、排卵が起こらないため、卵胞が黄体に変化せず、体温の上昇が起こりません。どちらの場合でも、月経様の出血が見られるため、基礎体温を習慣的に測っていない人は、異常に気付きにくいかもしれません。黄体機能不全や無排卵周期症は、不妊の原因にもなりえます。 まとめ黄体期は排卵期の後から次の月経が始まる前日までの期間のことをいい、基礎体温では高温相にあたります。妊娠していない場合には月経予定日の前日には基礎体温が下がり低温期に入って月経が始まりますが、妊娠している場合は月経予定日を過ぎても高温相が持続します。基礎体温を計測することで、自分の黄体期の有無を確認することができます。黄体期を示す高温相に異常がある場合は、黄体機能不全や無排卵周期症の可能性があり、不妊の原因にもなります。基礎体温は妊娠の可能性や体調の具合を表すひとつの指標になりますので、基礎体温計測が習慣化できるとよいですね。 監修者:医師 産科婦人科福岡医院院長 福岡 正恒 先生京都大学医学部卒。同大学院修了後、京都大学助手、講師を経て、平成11年より産科婦人科福岡医院院長。京都大学在職中は、婦人科病棟や産科病棟などを担当。またこの間、英国エジンバラ大学・生殖生物学研究所に留学。日本産科婦人科学会・産婦人科専門医,京都大学医学博士
2019年05月27日妊娠中に美容院の利用を検討している妊婦さんのために、美容院に行く前に知っておいてほしいことをお話しします。 妊娠中に美容院に行っても大丈夫?妊娠経過が順調で利用当日の体調が良ければ、美容院に行っても大丈夫ですが、妊娠中は、においや香りに敏感になる、長時間同じ体勢で過ごすことをきつく感じる、こまめにトイレに行きたくなるなど、妊婦さんならではの体の変化が起こります。つわり症状が落ち着かない時期や出産予定日近くは体調の変化をきたしやすいので美容院に行くのは避けたほうが無難です。 また施術が長時間になるとおなかに負担がかかったり、足元から冷えておなかが張ってくることがあります。利用当日の困りごとを減らすために、美容院の予約をするときや利用当日には、妊娠中であることをスタッフへ伝えましょう。 妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?美容院で使用する製品が赤ちゃんに何らかの影響を及ぼすのではないかと不安になる妊婦さんもいますが、ヘアケア製品は、医薬部外品あるいは化粧品に分類されていて、皮膚から吸収できるような成分は配合されていません。 妊娠経過が順調で利用当日の体調が良く、カラーリングやパーマをしてもかまいません。しかし、妊娠中は生理的な変化で皮膚が敏感になります。ヘアカラーリングやパーマに使用する薬剤が、頭皮や顔、首筋などに付着すると、赤みや痛みなど刺激性のかぶれが起こりやすい状態のため、どの妊婦さんにおいてもヘアカラーやパーマをしても大丈夫とは断言できません。そのため、美容院によって妊婦さんへのカラーリングやパーマはしないように自主規制している店舗があります。 また、先程お話ししたように施術が長時間になるような場合は、おすすめできません。パーマをかけたいときはカットは別の日にするなどの工夫が必要です。 カラーリングに使用する製品には、染毛剤と染毛料があります。・染毛剤:医薬部外品ヘアカラー白髪染めなど・染毛料:化粧品ヘアマニキュアカラートリートメントなど 毛髪の色を変える、白髪染めるという目的でおこなう一般的なヘアカラーリングは、染毛剤を使用します。染毛剤には、髪色を明るくするのに必要不可欠なパラフェニレンジアミン(以下ジアミン)という染料が含まれており、アレルギー性のかぶれを起こすことがあります。頭皮や顔、首筋などに薬剤による赤みやかゆみ、腫れなどの症状が起こります。アレルギーを起こした場合、妊娠中に使用できる治療薬はありますが、重症な場合は呼吸困難や意識障害などアナフィラキシーショックを引き起こし、母子ともに生命の危険が迫ることになります。 ジアミンに対するアレルギーは突然現れるため、妊娠前にカラーリング時にかぶれたり長期間カラーリングを繰り返している場合には、特に注意が必要です。 妊娠中に、毛髪の色を変えたいという場合には、ジアミンを含まない染毛料(ヘアマニキュア、カラートリートメント)を選んでくれる美容院もあります。また、事前にパッチテストをしたり、髪の根元や生え際を避けて薬剤を塗布するなどの対応をしてくれる美容院もあります。妊婦さんへの対応は美容院の方針によって異なりますので、まずは相談してみましょう。 市販のカラーリングに使用する製品にも同じようにジアミンは含まれていますので、妊娠中にカラーリングをしてくれる美容院がない、美容院へ行く時間がないという理由があっても市販の製品を使うことは避けたほうがいいでしょう。市販の製品を使用するときも、ジアミンが含まれていないヘアマニキュアやカラートリートメントを選びましょう。 【参考】日本ヘアカラー工業会HP日本パーマネントウェーブ液工業組合HP 妊娠中に美容院を利用するときに注意すること妊娠中期(妊娠16週以降)は、仰向けになったときに、大きくなった子宮が体の右側にある下大静脈を圧迫して、急激に低血圧を起こす仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)に注意が必要です。心臓に戻る血液が不足して、心臓から送り出す血液が不足することから、全身に血液によって運ばれる酸素が少なくなり、気分不快、意識が薄れるなどの症状を引き起こします。 美容院でシャンプーやトリートメントをおこなう際に、仰向けでこのような症状があらわれたら、直ちに母体の左側を下にして横向きになりましょう。症状を予防するために、右側の脇腹部分にタオルやクッションを置いて、子宮による下大静脈への圧迫をやわらげましょう。 妊娠後期(妊娠28週以降)は、長時間同じ姿勢でいると、おなかの張りや腰痛が生じやすくなります。「きつい」「つらい」となる前に、リクライニングチェアの角度を変えたり、施術の途中で立ち上がるなど、無理のない姿勢で過ごすために、ひと休憩入れるようにしましょう。可能であれば、タオルやクッション、フットレストを活用しましょう。座ったまま足首をぐるぐる回すなど可能な範囲でストレッチするのもいいでしょう。 妊婦さんの体調の変化は外見ではわかりにくいので、トイレまでの動線を確認したり、施術の途中で姿勢を変えたい、少しでも体調の変化があれば休憩したいなど、妊婦さんの気持ちを美容師さんへ伝えることも大切です。妊娠中は何が起こるかわかりません。必ず母子手帳と保険証を携帯するようにしましょう。 産後はいつ美容院に行ける?産後の心身の回復や、赤ちゃんへの授乳や睡眠などの生活リズム、パパや家族のサポートによって個々に異なりますが、産後3カ月を経過しても美容院へ行けないこともあります。産後、赤ちゃんとの生活に慣れてきたころに、授乳の合間の数時間を利用して美容院へ行くママも多いです。 美容院を利用する合間の赤ちゃんのお世話は、パパや家族がサポートしたり、自治体の一時保育や民間のベビーシッターを利用するママもいます。最近は託児付きの美容院もありますので、妊娠中から産後に利用できるサービスについて調べておくと安心です。 まとめ妊娠経過が順調で、利用当日に体調が良ければ美容院を利用してかまいませんが、利用する週数やメニューによって妊婦さんの心構えも必要です。利用する際に気になることは美容師へ相談しましょう。もし美容院の利用後に体調の変化があれば産婦人科へ、皮膚のかぶれが起きたら皮膚科へ早めに受診しましょう。 ◆関連動画出産ドキュメンタリー(通常分娩) 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。著者:助産師 古谷真紀一般社団法人産前産後ケア推進協会プロジェクトリーダー大学病院勤務を経て、2015年より現職。妊娠中や産後の女性のココロとカラダの相談、ママパパ&赤ちゃんのちょっと気になるコトに日々応えています。
2019年05月25日妊娠中は、お酒やたばこ、生ものやカフェインなど控えたほうが良いものがいろいろありますよね。卵かけご飯やすき焼きを食べるときに使う生卵は、妊娠中に食べて良いのか心配な妊婦さんもいると思います。ここでは、妊娠中に生卵を食べても大丈夫なのか、食べるときのリスクや注意点についてお話ししていきます。 妊婦さんは生卵を食べても大丈夫?卵は、完全栄養食品と称されるほどタンパク質、脂質が多く含まれているほか、リン、カルシウム、鉄分や各種ビタミンも摂取できます。妊娠中、特につわりの時期には食が進まず、さらっと食べられ、栄養価の高い卵かけご飯が食べたくなる方もいると思います。妊娠中に生卵を食べることは、禁止されているわけではありません。しかし、控えたほうがよい理由や食べるときの注意点などがありますので、次に説明していきます。 妊娠中に生卵を控えたほうがよい理由生卵を食べることを控えたほうがよい理由として、サルモネラ菌による食中毒の発症があります。この菌は、卵の殻に付着していることがあり、卵を割ったときに菌が中に入り、加熱せずに食べることで菌を体内に入れてしまうことになります。サルモネラ菌が増殖しやすい状態ですので、生卵の摂取を避けたほうがいいというのはこのためです。 妊娠中にサルモネラ菌に感染をすると直接おなかの赤ちゃんに影響があるわけではないですが、腹痛や下痢、嘔吐などの症状がでることがあります。そのときに薬が使えない場合がありますので、感染しないように注意しましょう。 卵を食べるときの注意点生卵の摂取は控えたほうがよいですが、十分加熱した卵でしたら問題なく食べることができます。サルモネラ菌は、75度以上の温度で1分以上加熱することで死滅します。必ず、中心部まで十分加熱し、できるだけ早めに食べるようにしましょう。お弁当に半熟状態の卵焼きを持っていくのは非常に危険ですので、しっかり焼くか、別のメニューにすることをおすすめします。 また、生卵の付いた調理器具は必ずきれいに洗ってから別の料理に使うようにしましょう。過去に生卵を割ったボウルを洗わずに、ポテトサラダを作るのに使用して食中毒を起こした事故が発生しています。生卵にはサルモネラ菌がいるかもしれないということを十分知って調理するようにしましょう。 その他控えたほうがよい生もの妊娠中は、卵を始め、加熱が不十分な肉類・乳製品は避けましょう。生肉はもちろん、レアステーキ、ユッケ、馬刺し、鶏刺し、生ハム、サラミ、スモークサーモン、生乳、加熱していないチーズなどに感染源となる菌やウイルスが含まれることがあります。 特に注意すべきなのが、トキソプラズマとリステリアです。トキソプラズマは、妊娠中にお母さんが初めて感染することで、おなかの赤ちゃんにも感染し、死産や流産、水頭症、精神運動機能障害などの先天性トキソプラズマ症を起こす可能性があります。リステリアは、妊娠中に感染することで、流産や早産の原因となることがわかっています。 また、食中毒を起こす菌やウイルスは数多く存在します。黄色ブドウ球菌、大腸菌、腸炎ビブリオ、ウェルシュ菌、カンピロバクター、ノロウイルスなど挙げればきりがありません。これらの菌やウイルスの感染を避けるには、手洗いをしっかりおこない、調理場所や調理器具は清潔な状態を保ち、調理の際に食品は十分加熱することが重要になります。特に夏場は、菌の繁殖が活発になりますので、こまめに調理場所や調理器具の消毒をおこなうようにしましょう。 まとめ妊娠中に生卵を控えることで、赤ちゃんの卵アレルギーの発症を予防できるわけではないことがわかっています。アレルギーに関する面では問題ありませんが、生卵にはサルモネラ菌が入っている可能性があるため、妊娠中の生卵の摂取は控えておくほうがよいでしょう。生卵以外にも、生の食材は控えておいたほうが安全です。特に、流産や早産、赤ちゃんにさまざまなリスクを残す可能性のあるトキソプラズマやリステリアは、生のお肉や生ハム、加熱されていないチーズなどにも含まれています。そういった食材は避け、十分加熱した食材やメニューにするようにしましょう。また、食中毒の原因となる菌やウイルスを避けるためにも、食品は十分加熱したものを摂取するようにしましょう。 監修者:医師 おおたレディースクリニック院長 太田 篤之 先生順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。
2019年05月23日