ホリデーライフを重視し湘南に移住夫の優樹さんがエンジニアで、妻の幸代さんが音楽家というT夫妻は5年前に都市部から湘南に越してきた。「最初は職場に近い場所で探していたのですが、普段から休みの日は散歩したり自然を楽しんだりしていたので、休日を楽しめる場所がいいねということで雰囲気が気に入った湘南を選びました」と幸代さん。しかし、湘南での住まい探しは難航したと優樹さんは話す。「最初は注文住宅を意識していなくて、建売や中古物件も視野に入れて探していました。でも私たちのこだわりが強くてなかなか決まらなくて。これだけ見て決まらないならずっと決まらないと不動産屋さんに言われることもありましたね」。こだわりの一つに、音楽家である幸代さんが仕事で使うグランドピアノの置き場所がある。レッスンやリハーサルをする際、来客が玄関からピアノのある部屋にすぐアクセスできる動線を作りたかったが条件の合う家はなかなか見つからない。そこで“作る”仕事に携わる夫婦が理想を求め選んだのが注文住宅だった。左側にある玄関から続く階段を上がると、家族が集まるようにと広く、光の集まるLDKがある。南側は玄関上に位置するはめ殺しや均等に配置された三連窓などを設け、前が公園という好立地を最大限に活かした。ウッドデッキへの床は一段高くなっており、ここで座ったり横になったりしてくつろぐこともできる。家族のつながりと開放感がある住まいを目指して良い物件が見つからず悩んでいた時に出会ったのが湘南隠れ家不動産だった。「気になる中古物件をウェブで紹介していたので見に行ったのがきっかけです。一緒に物件を探したり話しているうちに、それ程こだわりたいならと注文住宅を勧められました」と笑顔で振り返る優樹さん。施工会社と施主をつなげる湘南隠れ家不動産はT夫妻にZen建築事務所を紹介した。「お会いして、作り方もお人柄も誠実だと感じたので決めました。夫も職人のカンだと言って意見が一致して」と話す幸代さん。T夫妻が大事にしたのは、家族が集まり、お互いの顔が見えることと、開放感のある住まいにすること。「なるべく壁を少なくして、立つ所立つ所に窓があるようにするなど開放感や空間のつながりを作りました」と設計を担当したZen建築事務所の前場さん。屋根の形を三角にし、高さを演出することで開放感を与える。また上部に壁を作らないことで、天井に使われているベイスギの通直な木理を活かし上に抜けるような印象に。キッチンは“子供がぐるぐる回れるように”とアイランドキッチンに。背面やサイドにも窓を設け北向きでも採光が充分にできる。棚はZen建築事務所の造作。階段を挟んでLDKの反対側にあるワークスペース。「今は子供のスペースになっています。将来的には子供が宿題をする横で、親が作業して一緒にいられるようにと思っています」と幸代さん。光を届け開放感を与えるつくり南側が公園で視界が開けているというT邸の特徴を活かすため、南側にあるルーフバルコニーにつながる掃き出し窓や、はめ殺しを設置。家族が集まる2階のLDKに充分な採光と開放感を与えた。優樹さんもLDKが一番居心地がいいと言う。「リビングのソファに座って、外を見たり、スキップフロアで寝そべって窓からのお日様を楽しんだりします」。玄関は吹き抜けで、入って正面には2階に続く階段があり開放感を感じる。“お帰り”と“ただいま”を1階と2階で言いあえる玄関にしたいというT夫妻のこだわりの一つ。家族の帰宅だけでなく、家の中でどこにいるのか分かるようにと家族のつながりを感じる空間づくりを目指した。音楽家である幸代さんの仕事部屋である音楽室は南側の玄関横にある。窓が少なくなりがちな防音仕様の部屋だが、あえて窓を大きく取ったことで、仕事にも良い影響があるという。「ピアノに座った時に木々の緑や、パパと子供が公園で遊んでいる様子を見ることができて、閉ざされずにインスピレーションが得られる場所になっています」。ロフト。星や飛行機が見える天窓はお子さんたちもお気に入りで、毎日月の観察をしているそう。ウッドデッキは優樹さんの造作。この下に音楽室がある。元々は音楽室の前にウッドデッキをつくる予定だったがZen建築事務所の提案で上に設けた。2階にあるリビングを見た時に明るい印象にしたいという希望で作られた玄関。右側の部屋が優樹さんのワークスペース。小さくても自分のスペースが欲しかったと話す優樹さん。「2階からご飯できたよとか会話ができるように階段部分の壁を空けてもらいました」。想定外のアクセントカラーがシンプルな空間で映える湘南に移り住んでからT夫妻には大きな変化があった。お子さんが2人生まれ、4人家族に。お子さんがいることを想定して建てたと話す幸代さん。「子供はぐるぐる回るのが好きだと聞いたので、アイランドキッチンにしたり、構造を迷路っぽくしたり。子供部屋は、こもってほしくないので日当たりの悪いところにしたりして」。お子さんが加わったことで、LDKを階段で挟んだ所にあるワークスペースは、お絵かきをしたりする空間に。シンプルな作りだった階段の2階部分には転落防止用の柵を付けた。「ホワイトとウッドカラーがベースのシンプルな空間を目指していたのですが、今はカラフルな子供のオモチャや絵が部屋のアクセントカラーになっています。子供が産まれたことでコンセプトと変わったところもありますが、それも家族の物語として楽しんでいきたいです」と幸代さん。理想を求め建てたT邸だが、家族が増えたことで理想を超えるカラフルな物語が描かれ始めている。防音材と二重サッシ、換気扇も特殊なものを使用し作られた音楽室。ピアノから振り返ってパソコンを使えたり、キーボードを置いたり、レッスン時に使う造作の机がある。ここから公園の木々を楽しんだり、お子さんたちが遊んでいる様子を見ることができる。くつろぎ感のある寝室。大きくとった窓からはお隣の庭の借景が楽しめる。南向きで光があたる所に、家族が長い時間過ごすLDKと音楽室を置いた。設計Zen建築事務所有限会社所在地 神奈川県藤沢市構造 木造枠組壁工法規模 地上2階延床面積105.16㎡
2022年03月28日楽しくてワクワクする家設計はある程度自由にしてほしかったので、建築家に対して具体的なリクエストはあまり出さなかったという齋藤さん。とはいえ「楽しくてワクワクするような家をつくってほしい」、さらに「光や風など自然を感じることができるような家にしてほしい」とは伝えたという。建築が好きでインテリアコーディネーターの資格ももつ齋藤さんは、設計を依頼した篠原明理さんに、学生の頃からつくってきたスクラップブックを見てもらったという。好みのインテリア写真などを貼り付けたこのスクラップブックについて篠原さんは「お話をうかがうだけでなく、齋藤さんの好きなものをある程度共有することができたので、大まかなイメージのすり合わせはできていたと思います」と話す。それはRC造の無機質でミニマルなデザインとは方向的には真逆ともいえる、内部に多様な居場所があって、かつまた、植物などがところどころに置かれているような家、といったイメージだったようだ。ロフトレベルからリビングを見下ろす。ダイニング側から見る。大きく開けた南東側の開口からは隣のお兄さんの家の庭が見える。基礎が生活の場まで立ち上がる篠原さんが最初に提出したのはRCの基礎がそのまま立ち上がって生活空間の一部となることを表す模型だった。コンセプチャルな印象も与えるこの模型を見て驚いたという齋藤さん。しかし「とてもワクワクした」という。「料理をする場所やロフトなどへ上る場所、植物が植えられる場所などがつくられていて、設計をお願いしたかいがあったなと思いました。ただ同時にどうなるんだろうという不安もあって、ワクワクと不安がちょうど半々くらいの感じではありました」篠原さんはこの模型案について「基礎からそのまま立ち上げて居場所をつくるというイメージははじめからもっていた」という。そしてその上に載る木造の部分をどうつくりこんでいくかについては、「実際の生活の場面を考えながらここにはこういう場所があったほうがいいだろう」など、齋藤夫妻と打ち合わせを重ねていったという。基礎からそのまま立ち上げたRCの階段。「象徴的なオブジェのようなものにもなっている」と齋藤さんは話す。建築家の篠原さんは左のアーチについて、装飾というよりも「ひとつの強い建築の言語として」とらえているという。打ち合わせ時にはイタリア・ルネサンス期の画家、アントネッロ・ダ・メッシーナの絵画とも関連させて説明を行ったという。洗面所のコーナー部分も基礎からそのまま立ち上げてつくられたもの。このアーチのトンネルは手前側にくぐるとすぐ目の前に吹き抜け空間が現れ、場面を切り替える役割もになっている。スタディコーナーとよばれる場所から奥に洗面所を見る。浴室はその右側につくられている。寝室のコーナー部分にもRCでつくられた場所がある。この梯子からロフトに上がることができる。右がスタディコーナー。「コンセントを上につけてもらったのでわたしはパソコンを持って行って仕事をしたりします。上の子はあそこで宿題もしますが、よくあのコンクリートの上に乗ったりしていますね」(齋藤さん)コントラストのある空間RCの基礎をそのまま生活空間にまで立ち上げるというコンセプトはこの家を大きく特徴づけるものだが、実際にこの空間を体験してみると、南東側に大きな開口が多く取られて、それとは対照的に逆の北西側に濃色の壁がつくられていることが目を引く。南東側の開口部は採光に関するリクエストに応えるほかに、隣に立つ齋藤さんのお兄さんの家の庭を借景として取り込むという役割もになうものだ。篠原さんは逆サイドの壁に濃い目の色を採用する際に、明るい南東側とのコントラストも考慮したという。さらに「木のテクスチャーを使いたいこともあって、ラワン合板にオイルステイン仕上げにすることにした」(篠原さん)とも。壁の色については「色のパターンを7、8ぐらい出していただいて、実際に現場で色見本を見ながら相談しながら決めました」と齋藤さんは話す。ロフト下のキッチンスペースのコーナーも基礎からそのまま立ち上がったRCでつくられている。左の窓ではお隣のお兄さんの家族とカウンター越しに気軽にコミュニケーションを取ることができる。階段側からロフトとリビングを見る。ふだんは大きなハンモックをかけているというロフトスペース。いずれ子ども部屋にすることも考えているという。階段前からリビング、キッチン、ロフトを見る。子どもたちも大いに満喫もう少しでこの家での生活が1年になるという齋藤さん一家。齋藤さんは「やはり家のそこここに居場所ができていますね」と話す。そしてこの「多様な居場所」を大きく享受しているのはお子さんたちだという。「下の子はあのRCの階段のところが好きでよく遊ばせたりしていますし、上の子はテレビのある窓際の台のところに座ってのんびりしたりしていることもあります。奥の部屋に行く途中のスタディルームでは2人で遊んだり本を読んだりもしていますね。あと、上の子は暖かい日にはスタディルームの真上にあるバルコニーで長い時間過ごしています」階段の踊り場は下のお子さんのお気に入りの場所だという。奥さんもRCでつくられた居場所が大いに活用されているという。「寝室の上にあるロフトからバルコニーに出られて、階段を上がったところにあるドアから室内に入ってこられるんです。回遊できるつくりになっているので上の子はぐるぐると走り回ったりもしていて、大人だけではなくて子どももけっこうワクワクしたつくりになっていて、この家を大いに満喫しているのではと思います」と話す。そしてさらに最後にこんなことも話してくれた。「子どもは新しい遊び場所を見つけるのがほんとに上手で大人が思っても見なかった遊びを勝手に開発する。その楽しそうな姿を見るのがとてもうれしいし楽しくて。こういうのも“ワクワクする”ということなんだなと思っています」寝室の上のロフトからバルコニーに出ることができる。階段を上って右側にあるドアからバルコニーに出られるので、バルコニーを介してロフトに行くこともできる。道路側につくられた階段からバルコニーを見る。奥に見えるのが階段を上がった場所にあるドア。バルコニーから道路側を見る。手前左が倉庫のドアで奥がロフトスペースへと通じるドア。「篠原さんには外観はそんなに気にしなくていいですとお伝えしました。外よりも中のほうに重きを置いてもらって、それに付随して外の形がつくられていくというかたちでいいんじゃないですかと」(齋藤さん)「長いスパンで考えると、この土地の扱い方が大きく変わるかもしれない。そのときに今とはまったく異なる様相の空間をコンクリートの部分をベースにしてまた新たに創り出すこともできるのではないかと思います」(篠原さん)齋藤邸設計篠原明理建築設計事務所/office m-sa所在地東京都昭島市構造RC造+木造規模地上1階+ロフト延床面積110.05㎡
2022年03月07日辿り着いたのは「凸凸型」の家テトリスのピースを連想させる凸型の外観が印象的なS邸。Sさん夫妻と3歳の長男、1歳の長女の4人家族が暮らすこの家が完成したのは約2年半前のこと。「以前は賃貸アパートの2LDKに住んでいました。当時はまだ子どもが生まれていませんでしたが、いずれは戸建てでのびのびと暮らしたいと考えていました」と振り返るご主人。夫婦で建売住宅を見学していくうちに徐々に新たな住まいへの要望が定まっていき、自由設計の家づくりを決意したという。S邸の設計を担当したのは設計事務所「IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)」の井上亮さんと吉村明さん。「IYsさんと家づくりを行っていた職場の同僚からの紹介がきっかけで依頼することになりました。家づくりについては知らないことばかりだったので、土地探しからご相談させていただきました」とご主人。S邸が建つのは、三方を道路に囲まれた半島状の変形地。周囲を住宅に囲まれていることから、いかにして外からの視線を遮り、開放感のある心地よい空間をつくるかがポイントとなった。「いくつものプランを作成して検討を重ねた結果、この凸型の形状に決まりました。台形型の敷地形状に合わせて、凸型を二重にした「凸凸型」に雁行させることで南東・南西面に空地を作り、光や風を取り込むことができます。また、周囲からの視線が対面しないように角度をずらして配置しています」(井上さん)。S邸外観。左側の道路を基準線として凸型に雁行している。南西側からのS邸外観。家全体を覆う大屋根が描く稜線が美しい。二重の凸型形状がよくわかる裏側からの眺め。それぞれ大きさの違う三方向の開口がかわいらしい印象のバルコニー。中庭から光が差し込む明るい玄関スペース。利便性のよいシューズクロークの入り口は奥さまの要望によりアーチ状に仕上げた。光と風が通り抜ける、起伏のある大空間ロフトまで続く吹き抜けによって開放的な大空間となっている1階LDK。「家族の様子がわかるように」という奥さまの要望もあり、キッチンからは1階全体を見渡すことができる。また、水回りはキッチンの裏側にまとめ、キッチンとリビングの両方向から、ぐるりと回ることができる利便性のよい生活動線を確保した。意匠面では、「木の素材感を大事にしたい」という希望を持っていたご主人。存在感のある現しの柱や梁、窓枠など随所に木を使い、温もりのある空間を実現した。「柱や梁などは完成時、明るい色合いをしていたのですが、年月を経て、濃い色に変わってきています。床のオークの色合いともマッチして、統一感が出てきました」(井上さん)。明るい光と風が通り抜ける開放感たっぷりのS邸。設計の際には、採光の面も考慮し、慎重に調整を行ったという。「この敷地は、南側の方へ段々と土地の高さが上がっていくため、日当たりがとても心配でした。そのため、敷地や近隣の住宅の模型を作成し、実際にライトを当てて、日当たりを何度も検討しましたね」と井上さんは微笑む。天井の高い開放的なLDK。床はオークの無垢フローリング材を使用。右側の小上がりの畳スペースは子どもの遊び場として活用している。リビングと階段の間に小上がりを設けているのもポイントの一つ。「大きい空間をつくるときは、間延びしないように起伏のある空間を心がけています。段差を設けることで、ベンチのように腰掛けたり、横になったり、自由な使い方ができます。また階段下にも空間ができるので、収納棚を置いたり、子どもの遊び場としても活用できます」(井上さん)。リビングからはしごを掛けてロフトへ上がる。「私は書斎として、妻はヨガを行うスペースとして活用しています。秘密基地のような空間を楽しんでいます」とご主人。ロフトからLDKを見下ろす。「開放感のあるLDKは特に気に入っていますね。寝っ転がると、天井の高さをあらためて感じます」(ご主人)2階は子ども部屋と寝室を配置。上部のロフトには集熱器を設け、暖かい空気を循環。家全体が心地よい室温に保たれる。バリエーションが生み出す空間の広がりプライバシーを確保しながらも、開放感のある心地よい家を実現したIYsの井上さんと吉村さん。「三方向から光が入るため、どこにいても明るい空間が続き、まるで公園の中にいるような不思議な感覚がありました。平面の広さに加え、凸型の形状や段差、回遊性によって内部空間にもバリエーションが生まれ、実際の空間以上の体感的な広さにつながったのではないかと思います」と完成当時を振り返る井上さん。竣工から2年半の間に起きたコロナ禍においても、快適な毎日を過ごしているというSさん一家。「以前の住まいのまま、コロナ禍になっていたら大変だっただろうね、と妻ともよく話します。子ども達が家中を走り回って遊んでいるのを見ると、この家を建てて、本当に良かったなとつくづく思います」と語るご主人。これから先、家族の成長とともに変わりゆく暮らしにも、この住まいは寄り添っていくことだろう。造作のニッチを設えた使い勝手のよいキッチン。生活動線を考慮したオープンな洗面スペース。キッチン横からアーチ状の入り口を挟んだ先に浴室があり、左奥は洗面スペースへとつながる。リビングから見えない場所にある通路には、使い勝手のよいマグネットウォールを設置。子どものもらってきたプリントなどを貼っている。洗面スペースの対面には、造作の収納棚を設置。全開口サッシによって、リビングからウッドデッキまで一続きに連なる。施工株式会社坂牧工務店意匠設計Inoue Yoshimura studio Inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社) 構造設計川田知典構造設計 所在地神奈川県横浜市 構造木造 規模地上2階建 延床面積約129㎡
2022年02月28日丘の上の家黒田邸が位置するのは鎌倉でも山と谷間の連なる起伏の激しい地域で、西側には谷をはさんだ向かい側の山に素晴らしい景色が広がる。滅多にお目にかかれないだろうこの景観を見渡せる敷地は丸2年、200件以上の土地を実見したうえで購入を決めたという。「平坦な住宅地はいっさい探さずに、傾斜があってダイナミックな景観が広がるような土地をずっと探しました。それと住宅地から少し離れた奥まったところで静かな場所ということにもこだわりました」(貴彦さん)。東側の少し離れた場所にまた別の山々を望み南側には小さな崖が迫るという変化のあるロケーションもポイントだったそうだ。家の裏(西)側は谷になっている。鎌倉は岩盤が1m程度下にあるため岩盤まで掘って基礎をつくろうと計画したが岩盤までの深さが想定していたほどはなかったため家全体が想定よりも高いレベルにつくられている。ギャラリーのような非日常的な空間設計を依頼したMDSの森さんと川村さんには家づくりのコンセプトをまとめた文章とともにインテリア雑誌の切り抜きからつくったスクラップブックを渡したという。このスクラップブックはよく整理されている上にそれぞれの写真にコメントが付けられていてお2人の目指す世界観がすごく伝わるものだったと森さんはいう。2階リビング側の開口は北側に隣家があるため空に向けて開けられている。床はネコがいるため掃除のしやすいタイルに。幸代さんが選んだものという。方形屋根の下の2階は無柱空間になっている。窓台をつくったのはネコのため。右の収納から移動できる。2階の隅部は吹き抜けになっているが人が立てない高さのため近寄れないうえ、家具が手すりの役目を果たしているので転落の危険はない。2階東側のキッチンを見る。幸代さんは開放感のある明るいキッチンをリクエストしたという。「大きなコンセプトとしては、ホテルかギャラリーのような非日常的な空間をつくってくださいと。とにかく家に帰って気分が上がるような空間をつくってくださいともお伝えしました。居心地が良くて、かつ、生活感の感じられない空間ですね。なので、水回りも全部1階中央の箱の中におさめてもらってベランダもつくりませんでした」(幸代さん)視線が空へと向かうように角度のつけられた開口。ソファの前に置かれたテーブルはアフリカのもの。現地の人がベッドとして使っていたものという。テーブルの下部に見える模様のようなものは人の顔の形に彫られたもの。実はこのお宅、竣工時に一度拝見しているのだが、その際に感じたのはまさしく「居心地が良くて、かつ、生活感の希薄な非日常的な空間」ということだった。そしてこの非日常感は、お2人が集めた骨とう品や美術品が置かれることでさらに増すことになった。建築家には、以前住んでいたマンションでは蒐集したものをディスプレイする空間がなかったためそれらが映えるような空間設計をお願いしたという。階段部分を見下ろす。ソファ側から見る。右の小上がりは今はベッドが置かれているが当初は貴彦さんが使うスペースとして想定されていた。階段途中から見る。蔵書が多いため本は階段部分と1階のライブラリースペースにわけて収めた。北西コーナーにつくられたライブラリー。幅が絞られたこの場所は読書に適した落ち着きのあるスペースになっている。発想を転換してそしてこの「骨とう品などが映えるギャラリー的空間」は2カ月前に本物のギャラリー空間へと模様替えされた。「2人とも美術品が好きで少しずつ古いものを集めていて、この家はそれらを自分たちで楽しもうということで建てた家でもあるんですが、一方で、わたしはギャラリーを経営したいとも思っていて店舗物件を探していたんです。でもタイミング的な問題もあって2年くらい過ぎてしまいどうしようかと思っていた時に、遊びに来る知人が皆さんこの家が“まるで美術館みたいだね”とおっしゃってくださるので“それなら下を開放してギャラリーにすればいい“と発想の転換をして、思い切って1階を予約制のギャラリーにしてみたんです」(幸代さん)。玄関を入ると風除室があるが、これは飼いネコの逃走防止のためのもの。メインのギャラリー側から見る。右が玄関。店名はラテン語で「Quadrivium Ostium」。「十字路の入り口」という意味という。「さまざまな時代のさまざまな場所から縁があって集まってきたものを、また次へと引き継いでいく場所」という思いを込めて名付けたもので、それぞれがもつ「ストーリー性を大切にしていきたい」という。古代のギリシャの壺や後漢の時代の犬を象った像から鎌倉時代の阿弥陀像など幅広い古美術品がしっくりと空間に収まっている。いわゆるギャラリー空間の敷居の高さを感じられないのは「非日常的」とはいえ元々が住空間としてつくられたからだろう。奥の左手の木床の部分がメインのギャラリースペース。このスペースを以前は寝室として使っていた。メインのギャラリースペースの壁にはジョルジュ・ルオーのリトグラフがかけられている。古代ギリシアで紀元前7世紀頃につくられた壺。寝室として使われていたようにはまったく見えない。メインのギャラリースペースに置かれた銅鏡や鎌倉彫の香合など。ユーモラスにも感じられるこの「加彩犬俑」は後漢時代のものという。2階からギャラリースペースを見下ろす。玄関正面のキャビネットには室町時代の獅子・狛犬が置かれ来客を迎える。奥のスペースは南西のコーナーにつくられたアトリエ。幸代さんの希望でつくられたこのスペースも適度な狭さでしっとりと落ち着く。ネコと共生できる家「ギャラリーのような非日常的な空間」とともに大きかったのが、「ネコと共生できる家」というテーマで、黒田邸では実は2匹いるネコのために考えられた仕掛けが随所につくられている。とはいえ、見てそれとすぐわかるネコ用につくられたステップや棚の類はいっさいない。しいていえば1階のトイレの壁に開けられたネコ用の出入り口くらい。幸代さんは「いかにもネコのためにつくりましたとわかるようなものはやめてほしい」と森さんと川村さんに伝えたという。しかしネコも住みやすい空間にしてほしいという、高度なリクエストだ。森さんたちによると家具の間の隙間はネコ用に開けたものだし、家具間の段差もネコのために考えたものという。言われてみてはじめてああそうなのかと気づくようなものばかりだが、これらがネコたちにとってはとっても快適につくられているようで、以前の家よりは明らかにのびのびと暮らしているし、「運動会タイム」になるとぴょんぴょんと家じゅうを走り回って遊び出すという。2階からアトリエ部分を見下ろす。1階は2.1mと天井高が押さえられているが吹き抜けがあるため圧迫感はない。2階からライブラリースペースを見下ろす。説明を受けないとわからないが家具のレベル差はネコのためのもの。右の収納の上にも左の棚からジャンプして移動できる。アトリエから見上げる。2階右隅にネコのために開けた隙間がある。2階の壁・天井も色を付ける希望があったが、白ならきれいに影が映るとの森さんの意見から白にすることに。浴室の壁は細かいタイルが幸代さんの希望で張られている。床は滑って危険なため現状のもので代替した。洗面所の奥にウォークインクローゼットがある。住み始めて2年半が過ぎて・・・「ネコのために家具の高さを変えて段状にしたほかにも、開口や吹き抜けの形の違いとかの2重3重にさまざまな要素が絡み合ったつくりこみ方がすごいなとじわじわと来ています。しかもそれがナチュラルに感じられているので違和感がない」と貴彦さん。「1階をギャラリーにして“自分たちが楽しむ”空間から“人様に楽しんでいただく”空間に切り替わったんですが、その変化にちゃんと耐えられるものだったというところも素晴らしいと感じています」メインのギャラリースペースから見る。左の箱にトイレが、右の箱に浴室・洗面所などが入っている。ともに入口上部がアーチ状になっている。美術展でのカラーリングを参考にして色を付けた壁は黒田夫妻がすべて自分たちで塗ったという。「最初はわからなかったんですが、わたしもこの2年半住んでようやくじわじわと感じはじめてきました」と幸代さん。「主人と同じような話になりますが、ディテールの細やかさ、繊細さをすごく感じるようになりました。2階の天井も光が入るとちょっとした角度の違いによってとてもきれいに見えるんです。そのあたりの美意識のようなものが森さんたちとわたしたちとちょうどマッチして実現できた家なんじゃないかなとも思っています。あと、ギャラリーに変えたように、いかようにも自由に変化できる可能性を秘めた空間、“じゃあ今回はこの部分を引き出そう”とか引き出しがたくさんある空間だなとも感じています」お2人が惚れ込んでいる内部から外へと目を転じると素晴らしい景色を見ることができるが、こちらでも貴彦さんは感嘆する。「家のなかにいても景色がピクチュアウインドウ的に切り取られていて、素敵な景色が家の随所で見られる。切り取り方の巧みさをとても感じています」1階のアトリエからも緑がよく見える。開口の格子はネコの網戸引っ掻き防止のためにつくられている。小上がり部分の開口からはダイナミックな景観が望める。この付近を撮ったカットが先月発売のMDS著『Life &Architecture』の表紙に使われている。黒田邸設計森清敏+川村奈津子/MDS所在地神奈川県鎌倉市構造木造規模地上2階延床面積86.31㎡
2022年01月10日公園の緑を借景にした北向きリビング川沿いの緑豊かな公園に面した敷地に家を構えた林さん夫妻。3歳になる娘さんの誕生を機に、手狭になったアパート暮らしから引っ越しを決意。土地探しから、一級建築士事務所のアオイデザインに依頼した。「最初はマンションのリノベーションも視野に入れ、雑誌などをチェックしていました。その中でもアオイデザインさんが手掛けた、シンプルで品があり、長く住んでも飽きの来ない住宅に惹かれ、コンタクトを取りました」(ご主人)。出会った土地は、ご主人の職場から徒歩10分の好立地。「会社から近い場所がいいとは思っていましたが、ここまで近いとはラッキーでした」と笑う。「緑を感じながら暮らしたかった」と話すのは奥さま。公園の緑を活かしつつ、生活のしやすさを考慮して、1階リビングを希望した。川沿いで開放感のある北側に大きな窓を設け、そこから広めのデッキテラスが続く。「テラスにはカブトムシやクワガタ、カエルまで現れるので、子どもが喜びます」と目を細めるご夫妻。自然に囲まれた生活を満喫している。2層分の高い吹き抜けを有したのびやかなリビング。北側の公園に向けて設けた大きな開口により、緑あふれるダイナミックな景観が楽しめる。幅を広めに設定したデッキテラスはリビングの延長として使用可能。塀を設え、プライベート空間を確保した。「デッキテラスは娘のお気に入りの場所です。おままごとしたり、おやつを食べたり。安心して遊ばせられますね」と奥さま。設計段階から探していたというセンターテーブル。「この秋やっと、これだ!と思えるものに出会えました」とご主人。東京・品川の『DEMODEMIX』で購入したアンティークで、店で脚をカットしてもらい、ちょうどよい高さに調整した。ウッド素材のアームや脚部が上質な印象をもたらすお揃いのチェアは座り心地も抜群。サイドテーブルとともにヨーロッパのアンティークで、目黒の家具屋で出会った。木製建具は建具職人の父親が作製「視界の広がる北側とは対照的に、ほかの3方は隣家と密接しています。そのため、個室や水回りは東西に、階段は南側に配し、中央のリビングには南側のハイサイド窓から光を取り込みながら、北側の公園に向けて開くプランを提案しました」とはアオイデザインさん。リビングは2層の高さをもつ大きな吹き抜け空間。吹き抜けを介して1階のリビングを見下ろすように2階のデスクスペースを設けた。南側のハイサイド窓に向けて折り上げた天井の視覚効果も手伝い、1階のリビングから南側の空までつながる開放感が心地いい。「冬場は、南側から入る光が吹き抜けを介してデッキテラスの塀まで届きます」とご主人。季節や時間による光の移ろいが楽しめる。また、経年変化が楽しめる、木をふんだんに使用した空間も林邸の特徴。米栂を使用した天井やフローリング、美しい木製の建具が印象的である。実は、随所に施された木製の建具は、建具職人の奥さまのお父様が作製したもの。リビングの框戸や2階の引き戸もすべて特注で、お父様が手掛けた。「色や材料、デザインを父と相談しながら作ってもらいました。ちょっと贅沢ですが、ありがたかったですね」と奥さま。お父様の熟練の技と心のこもった木製建具が、ぬくもりのある上質な空間づくりに一役買っている。群馬県渋川市で『佐藤建具店』を営む奥さまのお父様が作製した框戸(正面)。アンティークの家具たちとも相性が良い。開けると玄関につながる。窓側からリビングを見る。季節の植物などを飾ったディスプレイ棚も上手に活用。階段脇の扉もお父様が手掛けた。2階のデスクスペースは、奥さまがミシンがけをしたり、洗濯物を畳んだりするのにも重宝。引き戸を開け放てばワンルーム感覚で使用できる。以前の住まいから使用しているという『無印良品』の棚が、木の床や天井、建具とマッチ。2階のデスクスペースからの眺め。吹き抜け上部に設けた大胆なハイサイド窓が、まるで四角く切り取られた額縁のよう。隣家を気にせず、自然光と通風を確保した南側のハイサイド窓。たっぷりの光を1階まで届ける。1階から2階のデスクスペースを見る。蹴込部分に角度をつけた美しいフォルムの階段がリビングのアクセントにもなっている。既製品を利用してコストダウン共働きの林さん夫妻にとって、効率よく家事ができることも家づくりのテーマのひとつであった。「日中は仕事でいないため、室内干しができるサンルーム的な場所が欲しいとリクエストしました」(奥さま)。2階のバスルームの横に洗濯機を置き、その隣に室内干しスペースを確保。南側の大きな開口からたっぷりの日差しが入るようにした。隣接するデスクスペースは洗濯物を畳むときにも便利。脱ぐ洗う干す畳むの洗濯動線をコンパクトにまとめた。また、生活感の出やすいキッチンは独立型を希望。リビングから死角の位置には収納力を優先して『IKEA』のハイキャビネットを採用した。リビングから見えるシステムキッチンの扉だけを木製扉に変更。既製品を上手に利用しながらコストダウンを考えた。住み始めて9か月。「ずっと探していたリビングのセンターテーブルも入り、やっと家具が揃って落ち着いた感じです。次は、リビングの白い壁に絵や布を飾りたいと考えているところです」(ご主人)。心に響いたものだけをひとつずつ加えながら、家とともに経年変化を味わう、そんな丁寧な暮らし方を楽しんでいかれることだろう。独立型のキッチンは、カウンターによってリビングとつながりをもたせた。「1本脚のすっきりしたデザインが気に入っています」とご主人。『トクラス』のシステムキッチンを扉のみ木製扉に変更し、高級感をプラス。奥のドアを開けると気持ちの良い風が入る。ゴミ捨てなどにも便利。リビングから見えない場所には、収納力の高い『IKEA』のハイキャビネットを採用。ハイキャビネットのサイズに合わせて壁の位置を決めた。ゴミ箱もすっぽり収まる収納力。使い勝手の良さに奥さまも大満足。「花粉症もあり、室内干しスペースは必須でした」と奥さま。洗濯機からすぐに干せて便利とのこと。洗濯機の奥がバスルーム。南側に大きな開口を取り、陽光と通風を取り込んだ室内干しスペース。扉を閉めて目隠しすることも可能。玄関脇に設けたクローゼット。家族全員分をひとまとめにして収納。「アウトドアグッズも収納しているので、車に積むときなども便利です」と奥さま。奥が北側で、塀の向こう側には川沿いの公園が広がっている。2台分の駐車スペースを希望し、手前に停められるようになっている。林邸設計アオイデザイン/aoydesign所在地東京都八王子市構造木造規模地上2階延床面積105㎡
2021年12月20日工房と稽古場がほしい「つくりものがあるのでレーザーカッターなどの機械や道具類をちゃんと置けるような工房と稽古場のスペースがほしいというのをまずお願いしました」と話すのは翔さん。劇場などの施設計画のコンサルタントをしている翔さんは、休日にはパフォーマンス活動をしているという。工房と稽古場はそのためのものだ。奥さんの千尋さんは「前に住んでいたマンションではそういった道具類が生活スペースを侵食していたので家を建てるならきれいに片づけられる家にしたかった」という。3階。階段が天井に突き当たっている。右がキッチンで左がリビングダイニング。各階、階段の左右でフロアのレベルが異なる。階段を真ん中に土地が狭く建築面積もそう大きくは取れない敷地での設計を担当したのは千尋さんがメンバーの一員として勤務するアーキペラゴアーキテクツスタジオの畠山さんと吉野さん。この家の最大の特徴は家の中央部分につくられた階段だが、階段を端に寄せず中央に配するアイデアは敷地条件から生まれたものだった。「建てられるボリュームもだいたい決まっているなかで、パフォーマンスのための稽古場や工房がほしいというご要望を最初にいただいていたので、床を積層させてつくる必要がありました」と畠山さん。しかしそのときに縦動線である階段を上下の移動のためだけのものにしてしまうと、限られたスペースのなかにそれ以外の用途には使えない場所ができてしまってもったいない。そこで家の真ん中にゆるやかな階段を配置して、階段ではあるけれども、居場所にもなるし物を置ける家具にもなるというものにしたという。そしてまた、この階段が実はこの家ではなくてはならない重要な構造要素になっていて、中に入っている鉄骨ブレースが建物の横幅いっぱいに架け渡されている——どの階段も壁や天井に突き当たって行き止まりになっているのはそのためだ。東西両面とも長手方向いっぱいに窓が連続している。これだけの空間に壁がないのは階段の鉄骨がブレースとして効いているため。ダイニング、キッチンとも床と階段の1段の踏み面のレベルが揃えられている。北側から見る。スペースが限られているため、建て方が終わったところで段ボールを使って家具の大きさを確認した。南側からキッチンを見る。下の階段は壁に突き当たっている。模型で確認最上階のスペースは広く感じられるが、翔さんは「図面ではかなり狭く見えた」という。しかし家具も入った20分の1という大きめの模型とパースで確認した上で階段を中央にすえる案をスタートさせることに。「自分では階段を真ん中にするというのは思いつかなかった」という千尋さん。空間のなかで中心的な存在ともなるため実寸で確認したという。スケールだけでなく踏み面の幅や奥行き、蹴上げの高さを段ボールでつくった階段に実際に座ったり上り下りしてみて確認を行った。階段越しにダイニング部分を見る。この家のために製作されたオリジナル家具はすべて窓台の高さにそろえられている。特製レシピの仕上げ出来上がった階段は空間のなかで存在感を発揮しているが、それはたぶんそのスケールだけではなく、グリーン系の表面の仕上げも大きく作用しているのだろう。「この階段は構造でもあるし家具でも居場所でもあるのですが、たとえばこの階段を木でつくってしまうとキッチンや収納も木でつくる予定だったので家具としての印象が強くなってしまう。あるいはブレースとして鉄骨が中に2本入っていますが鉄骨現しの階段にすると構造として使っている印象が強くなる。このどちらにも偏らないように、仕上げには木でも鉄でもない素材を使うことにしました」(畠山さん)。緑青仕上げと呼ぶその仕上げは、事務所で開発したオリジナルのもので、木と石と金属、樹脂を混ぜ合わせたものという。北側から見る。階段の途中に置いてあるプロジェクターで奥の壁に映画などを投影して見ることができる。緑青仕上げは材料の配合がオリジナルなだけでなく、工程も特殊なため塗装は事務所で行ったという。床を極力薄く最上階は東西の両面とも長手方向いっぱいに窓が連続して光がふんだんに入るがその下階のスペースは小さな窓が3つあるのみ。しかし、暗く感じることはないという。これには建築的な工夫があって、マッシブホルツという工法を採用し45㎜の角材を1本1本つないでつくることで床を限りなく薄くしているのだという。「通常であれば床が倍以上厚くなって光がなかなか下まで届かないのですが、この工法でつくることで階段の吹抜けを通して光が下にも広がっていくのです」(吉野さん)。空間が明るくなるだけでなく上下階の遮断感も感じにくくなっているという。左右の柱は40mmの無垢の鉄骨。これだけ細くできたのは階段が柱の座屈止めの役目を果たしているため。床は45㎜の角材を1歩1本つないでつくっている。通常よりも2分の1以下の厚さのため、光が階段を通じて下階に広がる。リビングダイニングの下に水回りスペースが続く。水回りスペースの前から見る。上がキッチンで下が寝室。寝室側から見る。洗面スペースの下に本棚が置かれている。1階を見下ろす。階段が壁に突き当たっている。1階から階段を上ると壁に突き当たる。右が寝室。4カ月暮らしてみての感想をうかがった。まずは翔さん。「以前よりも生活の質がとても上がって早く家に帰りたいと思うようになりました」。千尋さんは「毎日楽しく暮らしている」と話す。「今までだと一日家に引きこもっていると気がめいるようなこともあったのですが、この家は上は開放感があるし下はちょっと落ち着いた感じで切り替えられるのでそういうことがほとんどなくなりました」最後に隣家のお話がでた。この敷地はもとはお隣りの家の庭だった土地だが、緑青仕上げを施した家が建ち上がってから隣家の方が「老後は今の家を売ってどこかのマンションに引っ越すことも考えていたけれども、この家が建ったことによってわたしは死ぬまでここに住まう」という話をされて、グリーン系の外壁に合わせてリビングのカーテンも変えたのだという。隣人にとっても素敵な風景になり庭の一部になっているということなのだろう。こうしたお話をうかがうのははじめての経験。こういうこともあるのだなと感じ入った。玄関から見る。本棚の上に洗面スペースがある。右が玄関、中央に見える扉から翔さんの稽古場兼工房に入ることができる。周囲は住宅が建て込んでいるため、頭だけ少し飛び出るようなボリュームにして開口を大きく開けた。取材時には稽古場のスペースがパフォーマンスのための大道具の製作スペースになっていた。「パーティをやったときにこの階段に料理を載せたお皿が並んでひな壇みたいになって面白かったですね」(翔さん)。河童の家設計アーキペラゴアーキテクツスタジオ所在地神奈川県川崎市構造木造規模地上2階、一部ロフト延床面積49.30㎡施工床面積73.95㎡
2021年12月06日2つのゾーンにわける家づくりに際してのいちばんのリクエストは仕事場と住むゾーンを完全にわけることだったという野中さん。「家でカウンセリングの仕事をしているので、息抜きというか、ストレスがたまらないよう気持ちの切り替え、オン/オフの切り替えが完全にできるようにしたいというのがありました」加えて、狭小地で四方を囲まれた立地のため、いかに開放感をつくるかということも設計上大きなテーマになった。仕切りを極力なくし2階の床を一部抜いて1階と連続する部分をつくったほか、大開口と中庭を設けるなどできる限りオープンなつくりにしているが、野中さんはこの中でメインのスペースとしてバスルームを考えたという。入口側から奥を見る。専用通路の幅が足りず敷地分割ができなかったことから、実家の増築というかたちとなった。また、実家が古く耐震基準を満たしていなかったことから実家の面積の2分の1以下に収める必要があり結果的に狭小増築となった。1階を全面モルタルに「『ファイトクラブ』という映画でブラッド・ピットがコンクリートの上に置いたバスタブに入っていたのを観て、ああいうのにずっとあこがれていたんです」バスルームの床をモルタルとしたことでそこと連続するダイニングキッチンなど1階のすべてのスペースの床をモルタルにすることに。設計を担当した建築家の加藤さんは「リビングバスにしたいというお話はいちばん最初の打ち合わせの時から出ていて、前庭からそのまま連続して浴室までをモルタルにして、さらに中庭と仕事場があるという構成をほとんどその場でスケッチを描きました」バスルームは野中さんの希望で他のスペースとまったく仕切っていない。奥に見えるのが中庭と仕事場として使っている離れ。玄関となっている開口部分。周囲との目隠しにつくった壁のところまでモルタルが続いているので、開放感とともに外部との連続性が生まれている。上部のエキスパンドメタルの床がさらに開放感をアップしている。汚れても大丈夫な家加藤さんには、過去の作品の、汚れても大丈夫な家、経年変化を楽しむ家という設計のコンセプトに魅かれて依頼したというが、この野中邸の設計でも生活感や汚れ、傷といった暮らしていくなかで当たり前に生じることがネガティブに働くのではなくむしろプラス方向に働くように配慮された。「この家ではラーチ合板を使っています。真っ白の空間だと汚れがついたら目立ってしまいますが、ラーチ合板は木目や節が目に付くので汚れがついたり傷がついても気になりません」(加藤さん)設計では当初IHで考えていたが奥さんの希望からガスコンロに変更。防火上の必要からコンロ周りにはモルタルを塗った。天井の梁部分もラスモルタル仕上げに。このモルタル部分がデザイン的にも効いている。上のアスレチックネットは大人が載ってもまったく問題ないという。バスとクローゼットの間から玄関方向を見る。室内にはいろんな種類のモノが数多く置かれているがそれが設計的な配慮によってまったく気にならない。床のモルタルのクラックや塗りムラなどにも同じ効果がある。さらにブレースなども隠さずに見せることで、生活にかかわるモノたちが増えてももともと目に入る要素が多いから気にならないという。ミニマル方向に振ったデザインであればモノを増やしにくいし生活感が出てくるとそれがストレスにもなりかねないが、こうしたデザイン的な仕掛けによって、無理をせずに暮らせる上に「生活したときの要素とあいまっていい空間の質になるようなところがある」(加藤さん)という。2階から階段を見下ろす。2階にはアスレチックネットを張って開放性をさらにアップ。「遊び心がほしい」というリクエストがあった2階にはアスレチックネットが張られブランコが吊り下がる。奥の上部にはロフトがつくられている。奥に見えるのが寝室。2階南側の大開口にはビル用のサッシを使っている。2階につくられたロフトは出入口が2つあるので間を仕切って子ども部屋を2つつくることもできる。2階南側大開口のもとで。エキスパンドメタルにはフラット加工が施されている。オンになる空間をつくる仕事場については「とにかく音が漏れないように防音室みたいなかたちにしてほしい。独居房みたいな感じで小窓をすごく小っちゃくしてほしい」というリクエストを出したという野中さん。この離れにつくったスペースについて、加藤さんは「上から神々しい光が下りてくるような感じがほしい」とも言われたという。そうしてつくった仕事のスペースを最近DIYで内装をやり替えたという。「1年3か月ここに住んでみて住むスペースだけじゃなくこちらでも落ち着いた感じになるとオン/オフの切り替えがうまくできないのに気が付いてこれは変えないといけないかなと」それで仕事場のほうは「緊張感がもてるというか住むゾーンとは真逆なゾーンにしてみよう」と思い、あえて下品にして差をつけることにしたという。コンセプトは“センスのいい下品”、「趣味は良くないけどセンスがいいみたいな微妙なところ」を狙ったという。2階奥にある寝室。窓から離れの仕事場が見える。中庭の奥につくられた仕事場。リクエストからあえて窓は建築基準法をぎりぎり満たす大きさのもののみに。“ダサかっこいい”の集合体この野中さんの話を聞いて加藤さんは「自分が住宅でやっていることとあまりずれていない」と話す。「僕は“ダサかっこいい”の集合体と言っているんですけど、世の中には単純にダサいのではなくてダサくてチープだからこそかっこいいというものがありますが、そういうものの集合体にしようということですね。だからラーチ合板も単体で見たら上品なものではないけれども、その使い方、見せ方、組み合わせの仕方とかでダサさかっこいいものにしようと。そのあたりちょっと似ている気がしますね」離れの仕事場。独特の雰囲気を持つこの空間は単なるオカルト趣味ではなく“センスのいい下品”をコンセプトに内装がやり直された。左の赤いフレームはキン肉マン消しゴムを数十個貼り付けてつくったもの(野中さん曰く“断捨離アート”)、その右側にいくつか取り付けられていのはメデューサの頭で、石粉粘土でつくられたもの。いずれも野中さんの自作だ。癒されつくしてカウンセリングの内容は恋愛と仕事の悩みが主で結局は人間関係という。「お客さんの悩みって真面目に生き過ぎているというのがほとんどの原因で、僕が先陣を切ってふざけてやろう、ふざけ倒してやろう」ということで仕事場の内装を自らやり直したが、一方で住居スペースのほうは「癒されつくしてストレスのことを忘れるくらい」な感じで日々の暮らしを楽しんでいるという。中でも気に入っているのがやはりこの家のメインとして考えたバススペース。「この風呂場はつくって本当に良かったなと思いますね。休日は温まってから冷たいシャワーを浴びて中庭で休むというのを何回も繰り返しています」。オン/オフのバランスもうまく取れてこの家での生活を心底満喫している、そのように見えた。法規的な制約から単体で建てることができなかったため増築のかたちをとり、奥の部分で野中さんの実家とつながっている。湿気が心配だったが、仕切りのない開放的なつくりのため梁に水滴がついて垂れることもなくまったく問題がないという。左の道を進んで右に折れると実家がある。手前の部分は簀の子にしたいとのリクエストがあったが、透過性などを考慮しエキスパンドメタルに。光量があるためいまはグリーンの「栽培コーナー」になっている。HOUSE-NN(野中邸)設計N.A.O|ナオ所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積約70㎡
2021年11月01日解体しながら設計を進める多くの文豪を輩出し、大小の出版社が軒を連ねる東京・文京区。建築家の間田真矢さんが夫の央(あきら)さんとともに2度目の家づくりに選んだのは、古くから印刷・製本業が盛んなこの地に建つ、築33年、地上3階、地下1階の鉄筋コンクリート造の元印刷工場。今回は、既存の造りを活かしたリノベーションに挑戦した。「10年ほど前に新築した最初の家は、子育てをするには居住スペースが狭かったため、子どもが生まれたことを機に転居を考えました。自然豊かで子どもの教育にも適した場所を探し、出会ったのがこの物件です。最初は暗くて住みづらそうかなと思いましたが、アレンジ次第で面白いものになるのではないかと思ったのです」。仕事でリノベーションを手掛けていた経験から、解体してみなければわからない点が多いことを知っていた真矢さん。「まずは壊してから考えようと思いました」と。ラーメン構造だったため、間仕切り壁を取りはらい、天井板や壁紙などをはがし、解体を進めながら、設計を行っていったという。3階のLDKは、壁を撤去してワンルームにした明るい空間。大きな開口部(正面)の下には鏡を設置し、より広く見える仕掛けも。出窓を活かした造作のソファに合わせて、ダイニングテーブルをオーダー。天井のコンクリートを一部カットし、トップライトを設置。アンティークのハシゴを上って屋上へ。キッチンには、パーテイションの役割も兼ねたオープンな食器棚を造作。外壁のシルバーのタイルとグリーンのコントラストが美しい。「既存の左官仕上げを取ってみると、新築当初の光沢のあるタイルが現れて、これは使えると思い、磨いて使用しています」と真矢さん。主に模型づくりなど作業場として使用する1階のアトリエ。躯体現しの天井は、配管を整理した“見せる配管”がアクセント。RC階段の鉄筋を活かした“緑の階段”間田邸は、地階と1階が真矢さんと央さんが主宰する設計事務所のアトリエ、2階、3階が住居スペースとなっている。住宅密集地に建つため、向かい側の住人と視線が合わないよう、家族が集まるLDKは3階に配置。現在は、光に包まれた明るい空間に仕上がっているが、当初は、隣家が迫っているため、どこから光を取り入れるかが大きなテーマだったという。「採光のために、階段室を解体して吹き抜けを造ることが効率的と考えました。はじめは、RCの階段をすべて撤去する予定でしたが、解体している途中で階段内部の鉄筋だけが残っている状態を偶然に見たのです。こんなにきれいに残っているなら、これを活かさない手はないと思いました。緑を取り入れたかったので、もともと興味のあった遺跡をイメージして鉄筋に植物を絡ませていき、“緑の階段”を作り上げました」。偶然の遭遇と斬新な発想から生まれた“緑の階段”。光をもたらすだけでなく、オブジェのような存在感も放っている。地階から塔屋までの5層を貫く吹き抜けの上部に、新たにトップライトを設置。たっぷりの陽光が入り、空気も循環するため、植物もよく育つという。「どんどん伸びる植物を見るのは楽しいですね。家の中で季節を感じられるのがよいです」。3階のキッチン。“緑の階段”を間近で見られる特等席。塔屋の上部につけたトップライトからたっぷりの日差しが入り、とても明るい。コンクリートの躯体を現しにしたLDK。木製の窓枠や家具、グリーンが程よく温かみをプラスしている。元は階段室だった場所を取り壊し、鉄筋のみ残した。「昔の建物の痕跡を残したかったこともあります」と真矢さん。塔屋までの吹き抜けを地下1階から見上げる。上部にトップライトを設置。キッチンに置かれたアイランドカウンターは、使い勝手を考えて真矢さんが設計したもの。キャスターを付けて移動自在にしたため重宝。コンパクトですっきりとしたキッチンは『SieMatic』。洗濯機(右奥)も一緒に設置し、水回りを集中させた。2階は寝室とサニタリールーム。『DURAVIT』の洗面の奥にトイレ、バスルームを配置。上部はロフトになっていて、娘さん(6歳)の遊び場としても活用。子ども部屋から“緑の階段”を見る。窓の奥に外が広がっているような錯覚も。新設した階段を3階から見下ろす。間田邸には、ケニアや北欧などを旅した際に購入した動物のオブジェがアクセントに使われている。木製のキリンは望月勤氏の作品。ワンルームを素材でゾーニングコンクリートの躯体を現しにした天井や壁、開口が印象的な間田邸。「あえてコンクリートのギザギザしたところを残し、きれいにしすぎないようにしました」と真矢さん。現場に通いつめ、職人さんに細かく指示を出して削っていったと話す。“緑の階段”に加え、コンクリートの天井をカットして造ったトップライトからもたっぷりの光が降り注ぐ。下に置かれたエバーフレッシュの葉が青々と育ち、まるで屋外のよう。新設した階段側の壁には漆喰を塗り、床にはレンガタイルを採用して屋外の雰囲気を盛り上げている。一方、LDKや寝室が配置された側は、フローリングの床に、ヒノキ合板を使用した壁など木をふんだんに使い、ゆったりとくつろげることを意識した。床材と同素材の大きなプランターに植えたグリーンもゾーニングに一役買っている。住まいながら、光の加減を見て、隅々まで光が入るよう床を削ったり、最近では、地下のアトリエから1階に上がる階段を作製したりと、今もなお続くリノベーション。「必要なものをその都度手を加えられる自由さが楽しいですね」とリノベーションの魅力を語る真矢さん。荒々しさと繊細さが同居した家は、真矢さんの自由な発想でまだまだ進化しそうだ。階段側はレンガタイルの床、リビング側はフローリングにし、ゆるやかにゾーニング。現在は、屋上に続く階段を考え中とのこと。2階の床も素材を替えることで、室内と半屋外空間との異なる雰囲気を演出。ヒノキ合板の壁でぬくもり感を演出。各階のベランダにもグリーンを添えて。設計を中心に行う地下のアトリエ。印刷物の搬出入用の穴を利用して設置した階段は、真矢さんが研究中の“デジタルファブリケーション”技術を用いて作製した。右奥にも階段があり、1階と地階の行き来には回遊性ができ、便利になったとのこと。地階から3階まで吹き抜けでつながっているため、声がよく通り、安心感もある。1階と2階をつなぐ既設の階段は、黒いモルタルを流し込んだ。ここで靴を脱ぎ、2階、3階の住居スペースへ。間田邸設計MAMM DESIGN一級建築士事務所所在地東京都文京区構造RC造規模地上3階、地下1階延床面積143.15㎡
2021年10月18日建坪7.5坪の変形敷地夫婦そろって一級建築士の青柳創さんと綾夏さん。2019年に竣工した自邸は、高低差4m以上の変形敷地に建ち、建坪はわずか7.5坪。土地を探し始めて2年が経過した頃この土地に出会い、「即決でした」と話す。「予算が限られていたので、相場より安くなる特殊な土地を探していました。道路側と奥に2m強の擁壁があり、さらに斜線規制などの厳しい条件もありましたが、前面道路を挟んだ向かい側が学校の校庭で視界が開けていることが魅力でした。建築家の自分たちなら、この難しい土地も何とかなるのではないかと思ったのです」(創さん)。土地を購入後、近くに住み、さまざまな時間帯に訪れてはいろいろな高さから眺め、太陽の動きや周辺環境、場所の空気感をつかんでいったという。設計に要した期間は2年半。限られたスペースならではの工夫やアイデアが詰まった心地の良い家が完成した。地下2階、地上2階の浮遊感のある外観。突き出たテラスが1階に位置する。テラスからダイニングを見る。ダイニングの床は、ホワイトオーク材を白く塗装してふき取り、白っぽく仕上げた。天井や壁とともに光の陰影が楽しめる。ダイニングからテラスを見る。大きな引き込み窓で全開可能。1階とはいえ、地上3mの高さで開放感があり、道路からの視線も気にならない。光と影のコントラストを意識「床面積が欲しかったので地下2階を掘ることを決断しました」と話すお2人。敷地の高低差を逆手に取り、地下2階、地上2階の4層のボリュームを確保した。建蔽率や容積率、斜線規制などの条件に合わせて、ミリ単位で考えていったという。「階段の高さは、自分たちサイズで決めているので、背の高い人が来ると頭をぶつけます(笑)」(創さん)。「限られた開口をいかに活用するかということも大きなテーマでした」とは綾夏さん。各フロアはまわり階段や部屋の隅に設けた吹き抜けにより、ゆるやかにつながっている。光や空気を通し、人の気配をも感じられる空間となっている。「時間帯によって光の射し方が変わるように設計しています。明るいところと暗いところのコントラストをつけることで、狭いながらも空間に奥行をもたせています」(創さん)。道路から見ると、宙に浮いたように見えるせり出したテラスは1階に位置する。テラスから大きな開口を通して奥のダイニングキッチンへと光が導かれる。ダイニング奥の南西の隅に設けた吹き抜けからは、カーブを描いた天井に沿って、美しい光が拡散される。テラスや吹き抜けから入る光の動きや、交差して生まれる光と影のグラデーションを意識したという。「壁や天井はすべて珪藻土にし、光が優しくまわるようにしました。もとは白っぽい壁ですが、日中や夕方で色味が違って見えるんですよ」(綾夏さん)。1階のダイニングキッチンは16畳ほど。テラスまで一続きでさらに広く感じられる。天井と壁はすべて珪藻土を採用。南西(右側)の隅に設けた吹き抜けは、曲線を描く天井により幻想的な雰囲気。『カール・ハンセン&サン』の丸いダイニングテーブルとYチェアがシンプルな空間を引き立てる。生活感やスケール感の出るテレビは引き戸を閉めて隠して収納。幻想的な空間を盛り上げているのが現代アーティスト・永原トミヒロ氏の絵画で、創さんのお気に入り。青柳邸のインテリアには欠かせない存在。地下2階から地下1階へと続く吹き抜けと本棚。地下1階の高窓から光を取り込んでいる。地下1階のシアタールーム。東側(左)が吹き抜けで、地上に出ている高窓から光が降り注ぐ。壁面の本棚に加え、テレビの裏側も収納になっている。大きなキッチンをあえて造作コンパクトな家の中であえて大きく造作したというのが、5.5mに及ぶ壁付けのキッチン。継ぎ目のない一枚板のステンレスのワークトップが美しい。「狭い家で小さなキッチンではこじんまりしてしまうので、この空間にこの大きさのキッチンをあえてもってくることで、空間の狭さを感じさせないのではないかという狙いです。ギャップを楽しんでいますね」(綾夏さん)。キッチンはまわり階段の上まで続く。キッチン下の収納は、階段途中から取り出すというアイデアだ。「階段にあたる部分にオーブンも収納していますが、腰をかがめることなく使用できて、むしろ便利ですよ(笑)」と綾夏さん。壁一面を使用した5.5mのキッチン。料理好きの綾夏さんが使い勝手を考えて図面を描き、家具屋にオーダー。「『GAGGENAU』の食洗器は絶対に入れたかった」と綾夏さん。コンロはIHを採用し、レンジフードを壁付けにしたためすっきり。コンロ下の収納内にスイッチ等を隠し、表に出さない工夫も。一石二鳥の“兼ねる”アイデア青柳邸では、1か所で2つの用途として利用する“兼ねる”アイデアが随所に採用されている。まず、玄関の扉を開けると、そこは階段の踊り場でもある。地下1階に位置する玄関ホールと地下2階のアトリエへ向かう階段の踊り場と玄関を兼ねているのだ。また、広々とした玄関ホールの奥に見える手洗い場は、扉内にあるトイレの手洗い場であり、玄関の明かり取りの役割も持たせている。ほかにも、2階のバスルームは、屋上へと続く階段を洗い場として使用するなど、至る所にスペースの有効活用が施されている。「冷蔵庫やテレビなどスケール感が出るものは隠し、相対的なバランスで部屋が狭く感じないようにしています。また、窓や吹き抜け、カーブで視線の先に行き止まりをつくらないことも大事ですね。壁になる場合は絵を飾ったり、動きのあるものを置いたりして、流れるように続くことを意識し、奥へと期待が高まるように工夫しています」(創さん)。立地の難点を見事にクリアし、建築家夫妻が生み出した創意工夫により、7.5坪とは感じさせない空間の広がりを実現した。「狭いながらも、家族3人、思い思いに過ごせる場所が作れたことがよかったですね。ひととおりの断捨離を終えたので、住まいながらまた変化を楽しんでいきたいです」(創さん)。地下1階に位置する玄関ホール。キッチンと同様に、コンパクトな家に対してあえて広々とした玄関スペースに。くもりガラスの玄関の扉からやわらかな光が射す。玄関を入ると階段の踊り場に。玄関ホールの奥の扉内は、靴のまま使用できるトイレ。右側の手洗い場は明り取りの役目も。玄関から階段を下りると、綾夏さんが主宰する設計事務所のアトリエへ。コンクリート打ちっぱなしの無機質な空間は、「仕事に集中できます」と綾夏さん。2階の寝室。奥の吹き抜けから光が入る。布団等を入れた収納の上には、古道具屋で出会った“糸巻き機”をディスプレイ。「動きのあるものを置き、空間の流動感を演出しています」と創さん。各階をつなぐまわり階段は、光のまわり込みとカーブによる奥行き感を演出。階段上には無駄なく収納を設置。1階から続く吹き抜けを介して、2階のトイレと左奥の寝室へと光が届く。隣家が迫っているため、窓はくもりガラスを採用。2階トイレの洗面所の鏡は、スライド式で出し入れ自在。開けると、奥の吹き抜けから光が射し込む。FRPを使用したバスルームは階段まで防水になっていて、洗い場として使用可能。階段を上がると屋上へ。屋上では綾夏さんと娘の未詠(みよ)ちゃん(6歳)が野菜を栽培中。植木鉢には、軽量のルーツポーチ(不織布製)を使用。青柳邸設計aoyagi design所在地東京都杉並区構造木造、RC造規模地上2階、地下2階延床面積92.99㎡
2021年09月20日玄関を開けると焼き菓子店「玄関先にお店をつくるという条件を先に決めて設計に取りかかりました」と話すのは村上譲さん。村上さんは建築家で、お店というのは妻の祥子さんが切り盛りする焼き菓子のお店だ。「妻が焼き菓子をつくって自然食品屋さんに卸したりしていたんですが、お菓子をつくって売る場所がほしいということでまずはそれをつくることが最初に決まりました」。旗竿地で、東側には広い駐車場があって開けているけれどもいつ建物が建つかわからない。この敷地条件のもと、お店をつくるほかには、外に開いていく設計ではなく、家の中でいかに快適に過ごせるかかがまずは設計のテーマになったという。村上邸は旗竿地に立つ。右の玄関戸の正面に焼き菓子のお店を設けた。半地下の大空間家の中に入ってすぐ正面につくられた焼き菓子のお店の前を進むと住宅には珍しいといっていい大きな空間が現れる。将来的に焼き菓子店の延長で客席を設けカフェのような空間にすることも考えてつくったというこの半地下の空間は「セミパブリックのような感じで人が入って来られるような状況をつくりたかった」という。天井までの高さが3.5mで面積は32㎡ほど。気積の大きな空間にしたかったが、ふつうにつくったら家自体のボリュームが周囲より大きくなってしまうので、そうならないよう80cmほどフロアレベルを下げて半地下空間にしたのだという。「敷地が旗竿地ということもあり、できるだけ窓を取りたかったのですが、周囲と同じレベルで窓を開けると外部からの視線が気になるので、半地下にすることで視線をずらし居心地を損なわないことを意図しました」手前のフロアよりも80㎝低い半地下空間。現在は村上家のLDKとして使われているが、将来的には外部に開放してセミパブリックな空間にすることも考えているという。壁は漆喰仕上げ。漆喰には川砂とすさをまぜている。半地下の空間から見る。左奥に玄関と焼き菓子店、中央奥が水回り関係、キッチン奥にはパントリーがある。落ち着き感と安心感この半地下空間は「フロアレベルを少し下げることで洞窟にこもっている感じをつくろう」とも意図したというが、これがまた空間に落ち着き感をもたらしている。この空気感をつくり出すのにはさらに木を多用しつつ材のスケールに少し余裕をもたせていることも作用しているようだ。「この家では設計で線を細くしてくような作業はしていません。家具や開口の枠周りなどもスギの無垢材で30㎜程度であえて太めにつくっています」。さらに「材をぎりぎりまで細くして緊張感をつくるというよりは安心感をつくりたかったというのはあったかもしれない」とも。天井のスギ板は厚さが36㎜で梁せいは240㎜あるという。こうした設計上の選択も無意識の裡に安心感のようなものを空間にいる人間にもたらすのだろう。開口部は東側に設けた。トップライトから落ちる光が大きな壁面を照らしている。キッチンの横幅は4.3mと広め。娘さんたちとともに料理をするためのほか、いずれ料理教室を開くことなども想定してのものという。天板と壁はモールテックス。ロフト部分は昔の民家を思わせるような懐かしさを感じる。スケルトンにして家のつくりを見せる2階の柱梁のグリッド構成をもとにしたシンプルなつくりは家族の成長の具合に応じられるよう可変性を考えてのものという。仕切りには障子を採用したが「この昔からの日本の様式はすごくいいなと思っていたので、あえて壁を立てずに障子だけで仕切ることで、空間を大きくしたり小さくしたり調整しながら生活ができる」という。「それとこれは家全体の話になりますが、成り立ちというか、どうやって家が出来ているかをこの家を訪れてくれた方に、ぱっと目で見てわかりかつ容易に説明ができるようにしたいという思いもあって、できるだけ木造のスケルトンのような状態にしています。また、この家をつくってくれた棟梁は飯能で修業時代を過ごし西川材に縁があるため、スギの無垢材はすべて飯能の西川材を使用しています。そういった“ものづくり”のストーリーも大切にしたいと考えています」東側に設けた階段部分が吹き抜けになっている。トップライトから落ちる光が壁にさまざまな表情をつくり出す。2階はシンプルなグリッド構成でつくられている。左の障子の奥が書斎で右が寝室。左の大きなスピーカーは実家のご両親がマンション住まいになる際に引き取ったタンノイというイギリスのメーカーのもの。寝室の横に設けられた書斎的スペース。東側の壁をトップライトからの光が明るく照らす。お菓子の陳列に一工夫祥子さんが切り盛りしているのはmalcoと名付けた焼き菓子店。扱っているのはスコーンやクッキーなどの日持ちのする焼き菓子がメインで、卵、乳製品や白い砂糖を使わずアレルギーにも対応したもの。今では全国から注文が来ているという。スペースが限られていて平棚などにお菓子を並べて置くことが難しいため、譲さんには「本屋さんで本を立てかけて陳列させているような感じでお菓子を並べていきたい」とリクエストしたという。玄関のガラス戸を開けると正面が焼き菓子店のスペース。場所をコンパクトにおさめるため商品の焼き菓子は桟の上に本のように立てかけて並べている。景色がいいこの家に移り住んでから2年ほど。祥子さんは半地下の空間の東側に設けられた窓が気に入っているという。「わたしはこの窓が一番好きで、床に座ると視線が気持ちよく空まで抜けていくんです。電線も目に入らないし大きい建物もなくて隣の駐車場のところに人がいても視線が合わないのでカーテンがなくてもそんなに外が気にならない。あと家の中にいながら天気や明るさの変化が感じられるというのもすごくいいなと思っています」祥子さんはこの開口部から外を眺めるのが好きという。譲さんは階段を上がりながら1階の景色が変わっていく感じが気に入っているという。譲さんは半地下のダイニングテーブルに座っていることが多いという。「最近は家で仕事をすることが多くて、2階の書斎で子どもと並んで作業をしたりすることもあるんですが、夜、家族が寝てからはこちらのほうが落ち着くのでこの場所にいる時間が長いですね」さらに「この場所の景色がいい」「目のやり場がたくさんある」とも。住宅ながら空間を“見渡せる”ようにゆったりとしたスペースは天井も高く上を向いてもすぐに視線がぶつかることもない。こうしたことが落ち着くだけでなく、飽きることなく長い時間過ごすことを可能にしているのではないか――そう思えた。村上家は夫婦と娘さん3人の5人家族。床は当初モルタル仕上げだったが、お子さんが生まれた際にカーペットを敷いたという。大きな空間を半地下につくったため、周囲の2階建ての住宅と比べても屋根は高くない。グレーの部分がトップライトになっていて吹き抜けから半地下空間へと光を供給する。村上邸設計Buttondesign所在地東京都中野区構造木造規模地上2階延床面積99.2㎡
2021年09月06日土地いっぱいの建物に広がる開放的な作り透明水彩画家のかとうくみさんが家族4人で茅ヶ崎に越してきたのは19年前。「繁華街の近くに住んでいたのですが、2人目の子どもがお腹にできた時に、子育てにいい環境への引っ越しを考えました。それで縁あって茅ヶ崎に越してきたんです」とかとうさん。およそ250㎡の土地に延床面積175㎡の2階建ての新築を建てたが、当初は土地の大半は庭に使う予定だった。「上物はしっかりしたものを建てたほうがいいと図面を見た父が言いまして。そのあと父が他界して遺言のようになったので、土地いっぱいに建物を建てました」。“アメリカかぶれ”を自称するかとうさんが目指したのは、アメリカ風の住宅だったが、施工を依頼したのは和風建築を得意とする企業。「夫が野球好きで、好きな選手がCMに起用されているという理由で決めました。アメリカ風にしたいと言ったら、わざわざ外部から設計士を連れてきてくれたんですよ」。何冊もの洋書を設計士に見せ、すり合わせをし、理想に近づけていった。玄関から視界を遮る仕切りがなく開放感ある1階スペース。元々カウンターキッチンがあった西側の空間。キッチンがなくなり本来ある広さが活きる。西側から見たリビング。ご夫婦は大がつくほどのアメリカ好きで、アメリカ国旗が飾られている。風と光を遮らない空間設計玄関を入ってすぐ、1階のリビングとキッチンには仕切りがなく開放的な空間が広がる。天井は吹き抜けで南側にははめ殺しの窓を設置した。「私も夫も天井が高い家が大好きだったのでリクエストしました。窓のお陰で雨の日でも明るいですし、夕方まで電気はつけません。暖房の効きが悪くなるのが心配でしたが、床暖房をいれたら問題ないですね」。リビングの南側に設置された庭に繋がる観音開きの窓はアメリカを意識したもの。「最初は引き戸を考えていたんですが、設計士さんがアメリカ風にするならということで勧めてくれました。とても気に入っています」。東西南3面に窓があり、壁がないため心地よい風が室内を抜ける。冬は、ほぼ全面に敷かれた床暖房で足りなければ、吹き抜けに設置されたファンを使って暖気を回す。風も光も充分に入るリビング。家族4人ほとんどの時間をここで過ごす。庭は元々芝生だったが、当時飼っていた愛犬が土を掘って虫を捕まえてきてしまうのが嫌で、オールデッキに。玄関とリビングの間に両開きの引き戸を設置し断熱効果を高めた。リノベーションで理想により近づける19年前、ほぼ理想の家が出来上がったが想定外のことがあった。夫の母親が泊まる部屋として、東側に設けた和室に地窓しかなかったことだ。「図面上は窓があると思っていたので、地窓で驚きました。お話はしてもらっていたんですが、理解不足だったんです。座った時に、当時あった庭を窓から見られるのは良かったのですが、陽が昇る東から光を取り込めないのが難点でしたね」。転機は8年前。西側に設置していたキッチンの電気系統の故障で床と壁を全面張り替えすることになった。「これを機に、よりアメリカンにしたいと思い、一番陽の当たる東側にある和室を無くして、キッチンにすることにしました。お母さんも床布団よりベッドの方が楽ということだったので」。空間を仕切っていた襖、押入れを無くしたことで、広い空間と東側からの光を室内に取り込めるようになった。さらに真っ白だった壁は、濃い色が好みというご夫婦の希望でブルーとイエローの2色をベースカラーに。床は複合材から無垢材に張り替え、より理想的なアメリカンな空間にしていった。「いちからキッチンを作るならアメリカンなものにしたかった」とかとうさん。和室だった場所を、2面たっぷり使った贅沢なキッチン空間に。窓を設置したことによって、東側からも採光できるようになった。1階は端から端まで視界が届き、のびやかさがある。右に見える壁はコルクボードにしてメモなどを貼れるようにした。外壁をサイディングにすることは夫婦で一致。建てた際はブルーだったが、リノベーションの際にえんじ色に塗り替えた。自宅にある自分だけの創作空間2階南側にはかとうさんのアトリエがある。2階の廊下から1段下がって入るという入室経路と、雲のイラスト入りの壁紙を採用し差別化することで、日常空間との切り替えを演出。「家を建てる時に、私が一番家にいるから一番いい場所にアトリエを作って欲しいとお願いをしました。子どもが小さい時は、ご飯作らなきゃなど考えましたが、今は手がかからないので一日中いることもありますね。ここにいると時間を忘れます」。頻繁にニューヨークに行き、絵の素材探しをするほどアメリカ好きだが、絵を始めたきっかけもアメリカが関係している。「アメリカ西海岸を舞台にした漫画を読んだのがキッカケでアメリカと絵に興味を持ちました」。19年目を迎えた自宅は、壁紙や床など変化してきたが、アトリエは変わることがなかった。それは13歳から変わらず絵が好きで、アメリカが好きだというかとうさんのブレない想いの現れかも知れない。1階の床はキッチンを除き無垢材に統一。ほぼ全面に床暖房が敷かれている。2階廊下。はめ殺しの窓から室内に光が入る。左奥がかとうさんのアトリエ。2階廊下の天井には、屋根裏部屋に続く階段が収納されている。物置として使っていた屋根裏だが、愛犬の死をきっかけに次女が3週間かけ模様替えをした。今はお子さんの友人が泊まりに来るなど交流スペースになっている。アトリエ。左側にある天井いっぱいの造作棚には資料が並ぶ。壁紙はアメリカの有名なアニメ作品をイメージして選んだ。透明水彩の絵具には白がない。そのため白で表現する所は、何も塗らず画材の色を活かす。9月には兵庫県で、来年8月には東京での個展開催が決まっている。詳細はかとうさんのホームページで確認できる。
2021年08月30日銀座エリア最大の商業施設「GINZA SIX」にて2021年4月12日(月)~2022年4月(予定)までの期間、施設中央に位置する吹き抜け空間において、彫刻家・名和晃平によるインスタレーション「Metamorphosis Garden(変容の庭)」が展示されることが決定した。GINZA SIXは、開業4周年を迎える今春、開業以来初の大規模リニューアルを実施。GINZA SIXの象徴とも言える中央吹き抜け空間では、開業時に話題となった草間彌生をはじめとする、世界で活躍するアーティストの作品を展示し、クリエイティブなエネルギーと驚きの要素に満ちた、感性を刺激するアートプログラムを展開してきた。新たなGINZA SIXの顔となる新作アートを手がけるのは、先見性と創造性をあわせもつ、日本を代表する彫刻家の名和だ。「Metamorphosis Garden(変容の庭)」は、生命と物質、その境界にある曖昧な存在が共存する世界をテーマにしたインスタレーション。不定形の島々と雫、そこに立ち上がる生命の象徴としての「Ether」と「Trans-Deer」。アルミナとマイクロビーズの粒で覆われた彫刻群が吹き抜け空間に浮かぶ。そこに振付家ダミアン・ジャレとの共作によるARのパフォーマンスが展開。絶えず変容する世界がリアルな物体とARのイメージとして重なり合う。GINZA SIXがアートを通じて提供する、新たな価値の創出に注目してほしい。【インスタレーション概要】「Metamorphosis Garden(変容の庭)」アーティスト名:名和晃平展示場所:GINZA SIX 2F 中央吹き抜け展示期間:2021年4月12日(月)~2022年4月(予定)※ARは4月末以降展開開始
2021年03月02日Houzzのマガジン欄に【まついハウス】が掲載されました。【自然を感じられる快適な暮らし。東京都下の住まい】に掲載されました都心部へのアクセスが快適でありながら、郊外の豊かな自然環境も楽しめる東京都下エリア。ここに建つ住まいの特徴について専門家の方々にお話を伺ってみると、以下のような特徴がみえてきました。・都心部よりも敷地が広いため、庭付きの住まいが多い・周辺環境の自然や緑を取り込んで活用している・隣家との関係を考慮し、プライバシーが確保できるようにしている・都心に比べ車移動が多いため、しっかりとした駐車スペースがある家が多い実例について、みていきましょう。Houzzのマガジン欄に 【まついハウス】が掲載されました。『プライム一級建築士事務所が手がけたのは、三鷹市に建つこちらの住まい。オーナーはパントマイムを演じるパントマイミストであり、住まいと事務所、そしてミニ公演ができる場所を求めていたといいます。くつろぎと集中という心の切り替えを実現するために、西島さんは各部屋の色合いを強く意識したといいます。建物全体は赤系の暖色ですが、仕事場では、赤とは補色の関係にある緑系の色が合わせられています。また、豊かな緑に心が癒やされるよう、既存の庭はそのまま残され、庭に面して全面ガラスの窓が取り付けられています。リビングの南に庭が広がることで、自然の世界へと心が開かれるような構成となっています。吹抜空間には上部2面にステンドグラスが組み込まれており、鮮やかな光が空間全体を包みます。パントマイムの客席ともなる階段は、軽やかに吹抜を上昇する形にしています』と紹介されています。東京都下の16の住まいが紹介されています。よろしかったら、ご覧下さい。(【まついハウス】は1ページ目の一番下に登場します。)
2020年11月30日開放的な角地を活かす起伏に富んだ、東京・大田区の閑静な住宅街。近くには富士山を望めるスポットもある高台の一角に、Hさん夫妻と5歳になる娘さんは暮らす。偶然出会ったというこの土地は、幅員約6mの広めの道路に面した角地。開放感があり、交通量も少ない静かな環境が気に入ったという。「兵庫県出身で、静かで落ち着いた住宅地で育ったため、東京によくある狭小3階建てや家に囲まれている環境が苦手だったんです。ここは最寄りの駅から静かな街並みが続き、家と家の距離もゆったり取られています。道路幅と街の雰囲気で決めました」(ご主人)。“リビングに家族が自然に集うような家”を求めたHさん夫妻。角地で開放的な土地の特性を活かしつつ、その要望に見事に応えたのが建築家の山本浩三さん。敷地面積に対する建築面積や床面積の割合から熟慮し、1階にLDKを配置し、その上部に大きな吹き抜けを設けるプランを提案した。「この敷地は、建ぺい率50%ですが、角地のため10%加算され、合計60%になります。容積率は100%なので、1階に敷地面積の60%を確保すると、2階は残りの40%になる。これ以上の床は無理でも、20%の吹き抜け空間なら作れるのです。そのため、住空間としては120%を確保できるというわけです」(山本さん)。敷地のほぼ中央に大きな吹き抜けを設け、それを囲むように玄関や駐車スペース、バルコニー、各居室など生活のあらゆるパーツを配置した。玄関から一続きのLDK、さらにリビング階段にすることで、家を出入りする家族がリビングに自然と集まってくる。また、吹き抜けを介して、どこにいても家族の気配を感じられる家となった。玄関を入るとすぐに大きな吹き抜けをもつ開放的なLDKにつながる。現在、左上の壁にかける絵画を探しているそう。リビングに座るとバルコニーの開口を通して空が見える。シーリングファンで空気を循環。2階のワークスペースからLDKを見下ろす。1階と2階での会話も自然に生まれる。幅員約6mの道路に面した角地にゆったりと建つ。「真新しいものより古くて味のあるものが好き」というご主人の愛車は、32年前のランドクルーザー。どこにいても家族を感じられる安心感「1階のリビングは明るさが十分取れるのか心配でしたが、採光も通風もしっかり考えて造っていただきました」(ご主人)。南側のバルコニーの大きな開口をはじめ、プライバシーを守りながらも光と風を導くよう計算して窓が配置されているため、リビングはもちろんどこにいても明るく心地よい空間となった。「道路幅があり、建ぺい率も低いため、家と家との間に距離ができることで、自然光や風がたっぷり入ってくるのです」(山本さん)。1階は広々としたワンルームにこだわったご主人。柱を立てず、華奢な手すりの片持ち階段にし、抜け感を意識した。すっきりとしたステンレスキッチンは奥さまの希望で対面式に。「料理をしながらこの広い空間を見渡せたら気持ちいいと思いまして。娘が遊んでいるのも見えるし、2階で仕事をしている夫にも気軽に声をかけられますね」。バルコニーで洗濯物を干していてもリビングの様子が見え、リビングにいる娘さんからはママの姿が見えるため、安心感もある。小さな子どもへ配慮した造りになっている。抜け感にこだわったご主人の強い希望で、約22畳のLDKには柱を設けなかった。その分、天井や床下に太い梁を通し、強度を保っている。リビング階段は片持ちタイプに最低限の手すりを付け、軽やかに仕上げた。ダイニングの真鍮の照明は『ニューライトポタリー』。「経年変化を感じられるものが好き」というご主人が最初から決めていたそう。シャープなステンレスキッチンは『サンワカンパニー』。奥の窓から光と風が入る。「コロナの外出自粛期間中は娘とよくお菓子を作っていました」と奥さま。花やグリーンを娘さんと一緒に活けることもあるそう。レッドシダーの天井が窓の外まで延び、広さを強調。「寝室の窓からバルコニーの上、右側の窓下のラインと一直線につながっているのが美しくて好きです」と奥さま。この夏はバルコニーが活躍。「初夏にはバーベキュー、真夏には子どものプールを出して遊びました」。道路からの視線を気にせず楽しめる。ワークスペースの奥に位置する子ども部屋。カラフルなディスプレイが可愛らしい。ウォーキングクローゼットには寝室からとワークスペース側の2か所から出入り可能。夜遅くなったときなど、寝室を通らず着替えができる。寝室の上には、勾配天井を活かした大型収納がある。寝室と同じスペースほどあり、「なんでも詰め込めて便利です」とご主人。幸せに満ちた“新しい生活”Hさん一家がここで暮らし始めたのは昨年の12月。新型コロナウィルスが話題にもなっていないときである。外資系広告代理店でクリエイティブディレクターとして活躍するご主人は、以前は毎晩のように帰宅が遅かったそうだが、現在はほぼ毎日在宅勤務に。2階のワークスペースで1日のほとんどを過ごすという。「家の設計を考えているときは、こんなにこのワークスペースを使うとは思っていませんでした。ここからは1階が見渡せて、目の前のバルコニーで遊ぶ娘の姿も見えます。家族を常に感じられ、毎日気持ちよく仕事をしています」。コロナ禍において家族で一緒に過ごす時間が増えたHさん一家。「くしくも娘との時間が持てるようになりました。家族とつながりながらも仕事には集中できるため、結果的に良いワークライフバランスになっていると感じますね」と話すご主人。その充実した表情から、“新しい生活”がより豊かな時間をもたらしてくれたことが伝わってくる。これからも一層家族の絆を深めていかれることだろう。機能満載の『ハーマンミラー』のアーロンチェアに座り、仕事に集中。お絵描きをしている娘さんと並んで仕事をするのが、嬉しいひととき。ワークスペースの天板は約2.7m。ラックにはご主人のお気に入りのものをお洒落にディスプレイ。『リバーゲート』のソファやダイニングテーブルですっきりまとめたLDK。「広々としたワンルームで天井が高いため、トランポリンや風船遊びなど体を使った遊びもできます」(奥さま)。玄関脇(右奥)のシューズクローゼットの正面に鏡(左側)を設置。コートや靴を合わせたトータルコーディネートの最終チェックができる。ホテルライクな洗面&バスルーム。「洗面ボウルは絶対2つ欲しかった」とご主人。朝のバタバタとした時間もスムーズに。細かいタイルが個性的で一目惚れしたというご主人。「好きな椅子と同じデザイナーのもので運命を感じた」と話す。独身時代に椅子を集めていたご主人が、今も大切にしているロッキングチェア。デザイナーは、洗面のタイルと同じジャン・マリー・マッソー。「現在は、娘が気に入って使っています」。H邸設計PANDA : 株式会社 山本浩三建築設計事務所所在地東京都大田区構造木造規模地上2階延床面積98.11㎡
2020年10月19日【天遥かな家】が完成しました。天井高6mのリビングが生み出す、空へと気持ちが広がる空間が特徴です。【天遥かな家】完成【天遥かな家】が完成しました。【天遥かな家】プライムサイトへ天井高6mのリビングが生み出す、空へと気持ちが広がる空間が特徴です。敷地は、南に下がる丘の中腹の住宅密集地です。家々に囲まれた中、土地の勾配を利用して、南の家より少し高い建物にすることで、隣家の屋根越しに、家の中から遠くまで見通せるようにしました。建物の高さをそのまま室内に生かし、天井高6mのリビングを中心に、空へと気持ちが広がる空間を形づくりました。また、変形の敷地になじませて、無駄なく平面を展開することで、庭との一体の感じられる住空間を実現しました。
2020年10月13日南に開けた大きな高窓から光を取り込む奥様が育った目黒区内の土地に新築した3階建てのお宅。建て替えにあたり、いかに光を家全体に取り込むかが一番のポイントだったそう。「南側にお隣の建物が迫って建っているので、以前の家は特に1階が暗かったです」と奥様。南側の高い位置に大きな窓を作り、そこからの光を家全体に回すことにした。この家を設計した稲山貴則さんと、施主は、同じ大学の建築学科の同級生。「私が勤める会社では、病院や学校、工場、事務所などの建物の設計が中心です。住宅の設計は専門性が高いので、住まいの設計は気心の知れた住宅の専門家、稲山くんにお願いしたいと思っていました」2階から3階を見上げる。大きな白い吹き抜けの大空間に、四角いバーチ合板の箱がポッカリと浮かび、白い階段がふたつの箱をつなぐ。左右の箱の高さや長さが違うのも楽しい。左側の箱の上部にはロフトもある。南側の高い窓から、建物全体に明るい光が届く。ぽっかりと箱が空間に浮くユニークな設計。ロフトから2階を見下ろす。真下中央に見えるのが1階へと続く階段と、子どもが使っている勉強机。反対側(写真上)にもデスクがあり、ご主人がテレワークの際に使っている。階段とダイニング床下のスリットが1階とつながり、光が建物全体に行き渡る。鉄骨造で実現した大胆なプラン柱の必要な木造ではできない、鉄骨造だからこそ可能な気持ちの良い大空間が実現した。「地盤の強度にも不安があったこと、そして鉄骨造は木造にはできない思い切ったことができる楽しみもありました。箱を吊り下げて3階を作る、私の想像を超えるプランを考えてくれました」とご主人。奥様は、子どもたちがリビングを通って子ども部屋に行く動線にしてほしいとリクエスト。「親が泊まっていくこともありますし、また将来的に同居ができるように、1階に客間を作っていただきました」「奥まった場所が心地よいのか、よくここで勉強してくれます」家事をしながら勉強中の子どもと話ができる。「ここの勉強机からはリビングのTVが見えないので集中できるようです」トイレの手洗いを外側に。「2階に手洗いがあると、食事の前後など、子どもがこまめに手を洗えます」リビングとダイニングキッチンの天井の高さを変え、段差もつけている。「家具は以前使っていたものが多いですが、ブルーのL字型のソファはソファ専門店NOYESで購入しました」居場所がたくさんある家「大きな吹き抜けは、家に居ながら開放感があります。1階から2階へ上がる階段、そして3階からロフトへ上がる浮遊感のある階段と、視線が移り変わり、ひとつの家で様々な風景を楽しめます。コロナで外出できない期間がありましたが、ストレスなく過ごすことができました」そして、家族が家の中で別々のことをしていても、一体感が感じられるのだそう。「奥の勉強机で長男が勉強し、手前のデスクでリモートワーク、キッチンで食事の準備をし、長女はリビングのソファで遊ぶなど、2階だけでもそれぞれの居場所がたくさんあるのも良かったと思います」3階の寝室。奥のサンルームは洗濯物の乾燥にも。「子どもが小さいのでまだ使っていませんが、3階には子ども部屋として2室準備しています」子ども部屋とロフトへと続く鉄骨階段は、蹴り込み板にエキスパンドメタルを使うことで抜け感と安全性を両立。玄関を入ると視線の先に明るいグリーンの扉が出迎える。階段下は収納になっている。白を基調とした明るいバスルームは1階に。角地の2面道路。南側に隣家が迫り、北側と西側は斜線規制という条件の中、3階建ての豊かな空間を作った。K邸設計稲山貴則建築設計事務所所在地東京都目黒区構造鉄骨造規模地上3階延床面積103.89㎡
2020年08月11日吹き抜けを住まいにも取り入れて、明るく開放的な室内にしたいという方も多いと思います。しかし、どんなかたちでもいいからあればいいというわけではありませんし、無理にスペースを割くと、あまり効果的でなかったり、他の部屋が無駄に小さくなってしまうことにもなりかねません。そこで今回は、吹き抜けを上手に取り入れるためのポイントを紹介していきたいと思います。homifyのマガジン欄に【光を抱く家】が掲載されました。「吹き抜けを上手に取り入れるための6つのポイント」がテーマの特集です。光を抱く家】は『吹き抜けを上手に取り入れるためにまず考えたいことはその大きさでしょう。これはどれくらいの大きさがあれば十分と言えるわけではなく、部屋の大きさにも関係してきます。また、幅が十分に確保できても奥行きが狭くては吹き抜けの魅力も発揮されません。吹き抜けを大きく取ることで上の階の床面積が減ってしまうことを心配するかもしれませんが、出来るだけ部屋に対して吹き抜けは大きく取っていくことが大切になると思います。』と紹介されています。homify【吹き抜けを上手に取り入れるための6つのポイント】つの吹抜けを取り入れるポイントが紹介されています。よろしかったら、ご覧下さい。(【光を抱く家】は1つめに登場します。)【光を抱く家】詳しくはこちらをどうぞ【西島正樹/プライム】詳しくはこちらをどうぞ
2020年06月27日辿り着いたのは「箱の家」15年程前、表参道の裏通りに初めて建てたコンクリート打ち放しの住居から、2年前に現在の住まいへ。写真家・柳原久子さんにとってここは2軒目の家だ。「前の家は断熱がなく夏は暑くて冬は寒くて。まわりも段々と開発が進み、落ち着いた街じゃなくなってきて、ふと“何でここに住んでるの?”という気持ちになったんです(笑)」。土地探しから始めた今の住居は、インテリアショップも多い都心の高感度なエリアにあって、緑豊かな公園が間近に迫る立地。「2軒目なので夫は家を建てられるくらい詳しくなっていて、模型を造ったりしたほどなんです。だからプランは自分たちで構成できると思っていたのですが、たまたま縁のあった建築家の難波和彦さんに工法について尋ねてみたところ、さすがプロだなと感心してしまい…」。シンプルなデザインと高性能でサスティナブルな都市住宅。建築家・難波和彦さんの「箱の家」は、柳原さん夫妻の理想にぴったりだった。白い空間に自然光が差し込む3階の撮影スタジオ。連窓の向こうには公園の緑が広がる。オンオフの動線を分けて「南面から採光を取り、スタジオに最大限の広さを確保することが希望でした。後は住居、夫と私のワークスペースといったスペックをうまくはめ込んでいければいいと」。3階建ての白い箱は、1、2階が吹き抜けでつながった住居、3階のワンフロアが大きな開口のあるスタジオ。玄関からスタジオにつながる階段とは別に、住居部分にはプライベート専用の階段があり、オンとオフの動線を分けている。1階にデザイナーの夫、2階に柳原さんのワークスペースも。「どこかにガーデンが欲しいと思っていて、屋上には菜園を設けました。土は家が完成してから夫とふたりで入れたんですよ。前の家からガーデニングは行っていて、環境に合う植物なども分かってきたんです」。眼前には都心のビル群と広大な公園の緑が広がっている。グレーチングの階段が3階まで連なる。シューズラックはキャスターをつけて動かしやすく。階段の踊り場などにもグリーンを欠かさない。白い空間に木箱とグリーンが彩りを与えている。グラフィックデザイナーである夫のワークスペースは1階の玄関脇に。柳原さんのワークスペースは2階に。アンティークのテーブルに布のカーテンが温かみを添える。屋上のガーデンで。「ウォーター・フィッシュ」柳原久子さん。観賞用のネイティブプランツやハーブ、野菜など多種類を育てている。熱効率を考えた居住性「1カ所吹き抜けがあると気持ちいいことを知っていたんです」。1階のLDKと2階の寝室は、大きな吹き抜けでつながっている。リビングにはダイニングより1段高く、小上がりを設置。「夫はソファーが嫌いで(笑)。小上がりにすればキッチンに立つ人と目線を合わせることができるし、居場所を限定されず自由にゴロゴロできるのがいいと思うんです」。高さのある開口からは光が差し込み、外構の緑が目にまばゆい。「難波さんの建築物の特徴なのですが、庇が絶妙に計算されているんです。夏はほとんど日が入らないので涼しく、冬は逆に部屋の奥の方まで入って暖かいですね」。ダイニングフロアに敷かれたフレキシブルボードの下には、外断熱で囲んで蓄熱量の多いコンクリートの基礎があり、エアコンをその床下に向けて設置。壁近くのスリットから吹き出す涼風、温風と輻射熱で2フロア分の空間を心地よくする。「構造には鉄骨を用い、他はシナ材などを使っていますが、木の素材には白っぽい空間に合わせて、後からふたりで“バトン”という塗料を塗りました。無垢の風合いを活かしながら白っぽく仕上げてくれるので、全体になじんでいると思います」。階段下の収納ボックスなどもDIYで。収納は小上がり下のほか、床下のスペースも利用できるようハッチを数カ所につけ、スーツケースなど大きなものをたっぷり収められるようにした。鉄板の天井からマグネットで吊り下げたイサム・ノグチの和紙の照明など、工業的ソリッドの中に和モダンな雰囲気がミックスされて居心地がいい。小上がりの上が開放的な吹き抜けになっている。計算された庇を介して光が差し込む。当初、階段下は仕切り板のみが設置されていた。収納ボックスをDIYで後から作成。小上がりには畳ではなく、クッション性の高いジョイントマットを敷き、その上にラグをかけている。「ラグなら洗濯もできるし、気分に合わせて変えられるのが便利です」。両側に収納のあるペニンシュラキッチンはサンワカンパニーで。夫が料理を担当して柳原さんがサポート。2人で作業するので、両側から使えて便利なのだそう。床上の収納はリンゴ箱でDIYしたもの。壁にかけたスパイスなどの収納棚は、海産物を入れるトロ箱を活かしてDIY。床下に設置されたエアコン。夏は床のフレキシブルボードが素足に冷んやりと感じられる。小上がり下には食材なども収納。柳原さんが結婚時に持参した和ダンス。上のガラス鉢ではメダカを飼育。無垢の素材がシンプルな空間になじむ洗面台。壁づけの棚はワイン箱で。仕事もはかどる開放的な住まい「前は地下にスタジオを設けていたので、自然光が欲しくて。日当たりがいいのは本当に嬉しいですね」。南側に窓が連なった3階のスタジオでそう語る柳原さん。白い空間に、モールテックスの天板で造作した移動式キッチンや木製の雑貨、グリーンが調和する。今は休止中だが、ここにヨガの先生を呼んでグループレッスンを行う日も楽しみにしているそう。「スタジオありきで土地を探しプランニングしましたが、ガーデニングなどプライベートも楽しめて充実しています」。屋上や外構の緑も成育中。快適に過ごすためのスペックをはめ込んだ「箱」が、緑豊かな街に向けて開かれている。3階のスタジオの床下には水袋を温める床暖房が設置されていて蓄熱効果を保つ。「3階の床下は2階の天井でもあるので、2階まで暖かいんです。熱効率の高さを、住んでみて実感しました」。モールテックス、タイル、木の素材の組み合わせが絵になる移動式キッチン。玄関も屋上ガーデンで育てたグリーンがお出迎え。窓枠の木も“バトン”で仕上げている。Y邸設計難波和彦+界工作舎所在地東京都目黒区構造鉄骨造規模地上3階延床面積146.50㎡
2020年06月24日高台がいい土地は「高台でいいところがないか探していた」という髙橋さん。見晴らしの良いところに住みたいと思っていたという。購入したのは小田急線沿線の高台で、駅から徒歩で7、8分の敷地。「見晴らしのほかにも土地の形や値段的にも見た中ではいちばん条件が良かった」と話す。南側に向けて大きな開口をつくった髙橋邸。高台にあるため遠くまで視線が気持ちよく抜ける。設計は建築家の小長谷亘さんに依頼。作品を見てデザインのテイストが気に入っていたので基本的にはあまり要望は出さずにお任せして最初の案を出してもらうことに。小長谷さんに伝えた数少ない要望のなかには「ドカンとシンプルに大きな空間があったほうがいい」そして「家の中にカーブしているところがほしい」というのがあったという。「建築のプロが考えたベストプランをまず見てみたいというがありました」と話す髙橋さん。「大空間やカーブのことだけ伝えればあとの細かいところは設計を進めていく間に話し合って決めていけばいい」と思ったという。奥さんは「小長谷さんの施工例を見させてもらって、実際にお話もしてみて、こちらの希望通りに叶えてくれるだろう、希望をくみ取ってくれそうだよねって話を2人でしていました」と話す。大きな開口側(南側)から1階の室内を見る。大きな一室空間のなかに3つのレベルのフロアがつくられている。建具や家具はすべてラワン材で製作されている。大きな空間に大きな白い壁がつくられている1階は美術館のような空気感も。壁に掛けられた作品が映える。グラフィックデザイナーの髙橋さんの師匠にあたる方の作品という。カーブと大空間とスキップ建築家のほうではカーブに関しては「壁に少しカーブがあるとかいいなあというような感じで絶対条件ではない」と受け取ったという。「デザインのヒントのようなものとしてとらえました」。髙橋邸は見晴らしのいい南側に向けて大空間をカーブさせて、その中の3つのレベルをスキップでつなぐという構成になっているが、小長谷さんには次のような建築的な判断があったという。「これからお子さんが大きくなると家族も変化していくのであまりつくりこむよりも空間にお金を使うほうがいいだろうと。景色の良いほうに大きな窓をつくりそれを最大限に生かすためにトンネル状の空間をカーブさせる案を提案しました」。さらに「部屋を大人と子どもで大きく分けるというぐらいのおおらかさのある設計にしました。あとお子さんが小さいので家族が上下にわかれていても気配を感じられるほうがいいいかなと」階段から見下ろす。右側の壁面と左の開口部近くを見るとわかるように壁が一部カーブを描いている。ダイニングから見上げる。右のキッチン上の天井の高さが2.7m、左が3.3m、吹き抜けた部分が6.0mある。左側が子ども3人のための空間で右が大人の空間。3段の階段でつながっている。子どものための空間から見る。大人2人のための空間は壁のカーブに合わせて角度が振られている。時間をかけて何案も検討したのが1階のキッチン。「道路側にも景色が抜けるので対面型にするともったいない。側面に寄せると、流れはあるけれどもダイニング側にキッチンが入り過ぎてしまうとかいろいろとあって、現在の半分囲うような形にしました。収納は冷蔵庫などの大きなボリュームを背の高い収納にまとめてキッチン側は食器棚、反対側を生活のためのものなどを仕舞う収納にしました」(小長谷さん)キッチンの開口からも視線が抜ける。ダイニング側に向けた対面側だとそちらに背を向けるかたちになりもったいないため、検討した末にこの形に。右の食器棚の裏側は生活のための細々としたものや子どもたちの服などが収められている。玄関とトイレの扉を開けたところ。浴室は天井が高いうえに南側の開口から視線が遠くまで抜ける。シンプル空間をカスタマイズこの家に髙橋一家が越してきたのが昨年の6月。もう少しで1年経つがこれまでに自ら表札をつくったり外構を手掛けたりといろいろと手を加えてきた髙橋さんは、今は階段の下のスペースに棚をつくろうと計画しているという。「階段の踏み板に面合わせで同じ集成材で厚さも同じくらいでできればいいんですけど」。壁側から出っ張るようにカーブを付けようかと考えているという。「空間にまだいろいろと設置する余地があるのでそこはとても楽しいですね、自分でつくり上げていく楽しみというか」大きくてシンプルな空間は自分の手で「カスタマイズ」のしがいがあるだろう。大空間のシンプルなつくりは髙橋さんが自分で手を加えるための素材のような気もしてくる。奥さんは「そういう作業を見ているのが楽しい」という。「この前とはなんか違う音がしている、またなんかやってると思って何をしているか見に行くんです」2階の子ども部屋はクローゼット兼納戸につながっている。クローゼット近くから見る。奥にはパソコンが置かれ髙橋さんの仕事スペースになっている。洗濯物を干すことがあるという2階テラスも見晴らし抜群。2階からダイニング部分を見下ろす。吊り下がっている真鍮製の照明はflameの商品。左の浴室の扉は高さ2.7mで合板の最大サイズでつくられている。その上の扉の中には空調機が仕込まれている。外の緑は芝も含め髙橋さんが植えたもの。照明の計画・デザインは小長谷さんの奥さんで、照明デザイナーの内藤真理子さんが手がけた。道路側外観大きな開口の近くは奥さんのお気に入りの場所。髙橋邸(月見坂の家)設計小長谷亘建築設計事務所所在地東京都町田市構造木造規模地上2階延床面積98.53㎡プロデュースザ・ハウス
2020年05月13日2階をリビングにするアイデアからスタート川崎市の高台の住宅地に建つ南原さん邸。今年の3月に竣工したこの家に、貴宏さん、友香さん、萌々香(ももか)ちゃん、壮佑(そうすけ)くんの4人家族が暮らしている。「以前は2LDKのマンション住まいでしたが、30歳を節目に周りも家の話が増えてきていたので、自然と自分たちの家を持とうと考えるようになりました。一生に一度の大きな買い物なので、理想を叶えられる注文住宅にしようと夫婦で話していました」(貴宏さん)。家づくりにあたり、まずは土地を探そうとご夫妻が不動産屋さんに相談したところ、紹介されたのが、設計事務所「IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)」の井上亮さんだった。「井上さんが、土地とともに提案してくださったのは、リビングを2階にするというアイデアでした。それを見て、こんなこともできるのか、とイメージが広がりました。他の土地も紹介していただいていたのですが、もうここしかない!という気持ちになりました」とご夫妻は振り返る。「周囲が密集地だったため、1階をリビングにすると窓の外にあまり良い環境をつくることができないので、開放感のある2階をリビングにする案を勧めました」という井上さん。この提案が決定打となり、ご夫妻はIYs inc.に設計を依頼。本格的な家づくりが始まった。「温かさだけではない、バリエーションのある空間を意識しました」という井上さん。特に1階と2階の雰囲気の切り替わりのバランスにこだわったという。1階は、中国の伝統的な洞穴式住居「ヤオトン」をイメージして、地下のような雰囲気を木材の温もりで表現した。1階の個室から玄関ホールを見る。こちらも、白いクロスのシンプルな個室から温かみのある玄関ホールへの切り替わりで、自然と気持ちも切り替わるようにした。玄関に入るとすぐに広がるのは、吹き抜けの開放的なホール。フリースペースのような使い方もできるように考えたという。玄関の左側に設けたウォークインシューズクローク。使い勝手も良く、玄関周りもスッキリとした印象に。家のつながりと快適な居心地南原さんご夫妻が家づくりにおいて、何よりも希望したのは、リビングを経由して子どもの部屋にアクセスできること、家族のつながりを感じられることだった。また、友人の多い南原さんご夫妻は「いろんな人が集まれる家にしたい」という想いもあった。これを受けた井上さんは、いくつかのプランを考案。「2階をリビングとしながらも、いかに下の階と断絶せずに、家族の一体感を高められるか」という課題に対し、井上さんが導き出したプランは「家の中央に大きな吹き抜けを設けることによって、リビングと下階の個室群をつなげる」というもの。1階部分に広さをつくるために設ける一般的な「吹き抜け」とは違い、この場合の「吹き抜け」は2階に設けるため、吹き抜けというよりも「大きな穴」というニュアンスに近い。この「大きな穴」を設けることで、玄関から広がる開放的なホールが生まれ、各空間をつなぎ、家族のつながりを損ねることのない居心地の良い空間を実現させた。当初、南原さんご夫婦が選んだのは、吹き抜けのホールがなく、2階はフラットなLDKとロフトというシンプルな構成のプランだったという。「部屋が分断されてしまうのでは、と思いLDKの中央に大きな穴があるイメージがつかなかったのですが、ワンルームの中でも、子どもが遊べるスペースと大人がゆっくりと話せるスペースを分けられるほうが良いと井上さんからご提案いただいて、最終的には現在のプランを選びました。今は井上さんがおっしゃっていた通り、吹き抜けのホールを境にして、リビングで子どもが遊んでいるときも、ダイニングでは子どもの様子を見ながら落ち着いて話すことができています」と声を揃える南原さんご夫妻。「個々の居場所をゆるやかに分けながらも、各空間、家族がつながる住まい」という快適な居場所感と家のつながり感の同居を追求した井上さん。こだわったポイントのひとつには、「回遊性」があるという。「見た目の美しさも大事ですが、いろんな場所に楽しさがあり、動きたくなるような家を最重視しています。今回は、大黒柱を中心とした同心円状の広がりをイメージした設計にしたことで、家の回遊性が生まれました」(井上さん)。吹き抜けのホールを挟んだリビングの反対側にあるダイニングスペース。外からの視線を考慮し、微調整を重ねて配置した窓。また壁や天井の辺に合わせて配置することで、壁に光が反射し、明かりがグラデーションに広がる。2階のリビング。3.4メートルの高い天井と4面に設けられた窓により、明るく開放感のある空間。友香さんの希望で、リビングまで見通せるオープンキッチンに。「調理スペースも広いので、この場所に椅子を持ってきて、子どもと一緒にクッキーやパン作りを楽しんでいます」(友香さん)。大黒柱一本で支える美しさを追求するため、あえて梁をかけず、力強く太い柱にこだわった。壁にはストライプ柄のLVL材を張った。「普通の壁紙ではためらってしまいますが、LVL材は画鋲を貼っても跡が気にならないので、これからは家族の写真や子どもの工作などを飾っていきたいなと考えています」(貴宏さん)。空間と日常風景の美しさが凝縮された家南原さんご一家がこの家に暮らし始めてから約1ヶ月。3歳になる萌々香ちゃんは、ホールの周りをぐるぐる回ったり、階段を昇り降りして、元気いっぱいに家中を走り回っているという。「コロナウィルスの影響で今は家にいなければなりませんが、開放感もあり居心地も良いので、大人も子どももストレスを感じずに楽しく過ごせています。人が集まりたくなるような家というのもテーマだったので、これからは家族や友人を定期的に呼べれば良いなと思っています」(貴宏さん)。「いまだに自分の家ではなく、ペンションに泊まりに来ているような気持ちで過ごしています」(友香さん)。笑顔で語るご夫妻の姿からも、この新たな住まいでの充実した暮らしぶりが伝わってくる。家の中央に大きな吹き抜けを設けるというアイデアによって、家族がつながる明るく開放的な住まいを実現したIYs inc.の井上さんは「LDKに吹き抜けのホールを作るという変わった案でしたが、自分としては理想の家に限りなく近いものだったので、提案を受け入れていただいて嬉しく思っています」と振り返る。「水面を挟んで地上や水中を覗くように1階から2階を、2階から1階を眺める感覚は普通の家にはありません。空間的な美しさとともに、日常風景の美しさや不思議な感覚が味わえ、今までにない魅力が凝縮された家が実現できました」(井上さん)。開放感のある住まいで心地良く家族団欒の時間を重ねる南原さんご一家。家族のつながりを感じられるこの家は、萌々香ちゃんと昨年生まれた壮佑くんの成長とともに、また新たな過ごし方や居場所を示してくれることだろう。家の中心にある天窓からは光がたっぷりと差し込む。「夜になると、月が見えることもあり子ども達が反応するんです。もともと天窓を設けるつもりはなかったのですが、今は天窓があって良かったと感じています」と貴宏さん。萌々香ちゃんもお気に入りのロフトは、現在はプレイルームとして活用している。ロフトの窓からは、富士山が望める。使い勝手や機能性を考えて「GRAFTEKT(グラフテクト)」のキッチン、「ミーレ」の食洗機を導入。「大幅に時短となって、子どもとの時間も長く持てるようになりました」と友香さん。青空に映えるシンプルな外観。窓には日光がたっぷりと差し込む。南原さん邸設計IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)施工株式会社坂牧工務店所在地神奈川県川崎市構造木造規模地上2階建延床面積101.73㎡(ロフト除く)
2020年05月11日どこにいても明るい暮らし「家中のどこにも、暗く、じめじめしたスペースがないんです。明るく開放的に暮らせるのが、何より家を建ててよかったと思うところですね」。そう語るのは、整理収納コンサルタントとして活動している須藤昌子さん。9年程前、家族3人で暮らす2階建の一戸建てを設けた。「3分割されて売っていた土地を見つけ、ネットで探した一級建築士事務所に相談しました。隣家に接した土地なので、ここにどんな家が建てられるのかと思いましたね」。須藤さんの希望は、光の入る細かい仕切りのない家、そして収納にも配慮した家にしたいということだった。「それ以外はあまりリクエストしませんでした。プロの先生にお任せしたほうが、いいものになるのではないかと思って」。光に満たされた家は、優秀建築物として「第20回千葉県建築文化賞」を受賞。リビングの吹き抜けを取り囲むように、仕切りをできるだけ排した空間がつながり、“ガラスのブリッジ”と名付けた2階のガラス床を通って、トップライトからの光が1階へと抜けている。2階の廊下から1階リビングを見下ろす。“ガラスのブリッジ”は、まるで空を渡るような感じからネーミング。トップライトやバルコニーからの光が1階まで届けられる。螺旋階段を採用して、階段を抜けのある空間に。開口の代わりにプロフィリットガラスで外からの視線を避けつつ、光を通している。ガラス張りの吹き抜けテラスでは、いずれガーデニングも行う予定。廊下突き当たりの扉の奥は、玄関からもつながっているシューズクローゼット。ガラスのブリッジを通って居室に。右手にバルコニーに上がる階段がある。吹き抜けを介して光が回遊。隣家から見える左手の一角にはルーバーを設置した。琉球畳を敷いた和室からリビング方向を見る。すっきりと暮らせる工夫を「正面にはアパートが建っているので、そちら側には窓など一切ないんです。左右に建つ隣家からの視線も避けながら、うまく開口を設けて、明かりをとっています」。玄関を入るとガラスに囲まれたウッドデッキのテラス。その向こうに大きな吹き抜けのあるリビングがある。「海外からお客さんがくることも多いし、いずれ両親を迎えることになるかもしれないので、畳の和室を設けました。今は引き戸を常に開放して、リビングの延長として使っています」。開放的な上にすっきりと美しいのは、「モノを出しっ放しにしない」という須藤さんのルールが生きているから。「家を建てる前に住んでいたところは、押し入れが狭くて。戸建てを建てたら何とかしたい、というのがありました。庭があって物置を置けるわけでもないので、掃除道具や工具、生活必需品などすべてを収められる“シューズクローゼット”をリクエストしました」。玄関からもリビングにつながった廊下からも入れるよう動線を考えたストレージが、特に役立っているそうだ。床材はサクラの無垢を採用。エアコンも見えないように目隠しされている。白い空間にインテリアでアクセントを。塗り壁に見えるよう極力薄い壁紙を選び、職人の技で施工。開口の位置に工夫が凝らされた和室。黒い壁紙が印象的。「モノを置かない」ことに徹したダイニング。テーブル上は常に最低限のモノのみ。外からの視線を遮りながら、明るさで包んでくれるリビング。キッチン奥に家事ルームを希望「お料理をしながら、家族とコミュニケーションがとれるので、キッチンは対面式を希望しました」。キッチン台の前にはカウンターを造作。毎日帰宅の遅い夫が夕飯をとるのに、サーブしやすくて便利なのだそう。また、キッチンまわりでの作業が多い須藤さんにとって、大事なのがキッチンの奥にある“家事ルーム”。「パントリーでもあるのですが、私の仕事部屋でもあるんです。棚だけでなく机も造作してもらって、ここで毎朝ブログを書くなど、仕事をしています」。仕切りの引き戸はツインカーボを使っていて、戸を閉めて中に籠っても、やはり光が抜けるようになっている。「お風呂はいろんなパターンを考える中で、ホテルっぽくすることに決めました。ガラス張りの真っ白な空間だけに、きれいにしておかないと汚れが目立ってしまいます。お掃除の手は抜けませんが、常に清潔に保てるので良かったと思っています」。対面式のキッチン。収納などは使いやすさを考えて造作した。掃除のしやすいステンレスのキッチン台。大きなシンクに付いているトレーの上では、パンをこねたりもでき、さらにそのまま洗えて便利。こだわりの家事ルーム。食材だけでなく、仕事や日常に必要な書類を保管。造り付けの机では執筆活動も行っている。清潔感いっぱいのバスルーム。床にはLIXILのサーモタイルを。築9年とは思えない美しさ。空とつながるトップライト2階の居室は、天空を渡るような“ガラスのブリッジ”がつなぐ。「娘の部屋は、真ん中に可動式のクローゼットを置いてシンメトリーに仕切っています。しっかり勉強してもらわないといけない時期なので(笑)、勉強するスペースと遊ぶスペースを分けているんです」。どちらのスペースも、上にはそれぞれロフトがつき、いずれはどちらかをベッドルームにする予定だそう。大きな開口の向こうには、青い空が抜けるように広がっている。「夜は星空が見られてきれいですよ。住宅地にあって明るく、自然も感じられる、開放感のある暮らしを楽しんでいます」。中央に可動式クローゼットを置くことで、シンメトリーになった子ども部屋。左右の階段からロフトにあがることができる。無駄なもののない主寝室。衣類などはウォークインクローゼットに一括に。子ども部屋のロフトの床にもガラスを採用。空からの光が降りてくる。ファサードに開口のない、白い箱のような潔い外観。ブログ「ROOM COZY」が大人気。整理収納コンサルタントの須藤昌子さん。著書に「死んでも床にモノを置かない」(すばる舎)なども。
2020年05月04日土地の記憶とつながる以前から近くに住んでいて街が気に入っていたという映画作家の北川さん。設計を依頼した吉田州一郎・あい夫妻と敷地の周辺を歩いて、街の良さ、気に入っている部分を紹介して回ったという。「いっしょに歩きながら、北川さんが “この踏切のこういった風景が面白いんです”と。それが街の風景を映画のシーンのように見ていて新鮮だった。わたしたちも路地に街の面白さが詰まっているのを感じました」と話すのはあいさん。周辺の路地ではブロック塀が入り組んで立ちそれぞれの家が好みで貼ったタイルが見え隠れするという。「ブロック塀のように構築的なものが密にある一方で、突然パンと空が抜ける場所があったりして心地がいいんです」(あいさん)。そこで「デザインでこの土地の記憶をつなぎとめこの街ならではの雰囲気を引き継ぐことができないかと考えた」(州一郎さん)という。3階のダイニング。正面の波板はあえて外部に使う素材を使った。素材のグレーが周囲の色とマッチしている。キッチンを階段近くから見る。天井の最高高さは3.6mある。継承しつつ開く建築家のお2人との打ち合わせのなかで北川さんは「道路とルーズにつながって暮らしたい」「街とシームレスにならないか」と伝えた。これがまたこの家の設計コンセプトに大きく反映して、街の風景を継承しつつ街に対してプライバシーを保ちながら開いたつくりになった。「街の塀の間を歩いてきてそのまま1階に滑り込むと、2階は対照的に閉じて囲まれたつくりになっていて、上に光を感じながらさらにのぼって行くと3階は周囲に視線が抜けて空が気持ちよく見える」(州一郎さん)という構成だ。ダイニング側から見る。壁を隔てて右にリビングがある。ダイニングとリビングの間に段差があり、1段20㎝×2で40㎝の高低差がある。開口からは視線が遠くまで抜ける。3階のテラスの一部は2階から吹き抜けている。キッチンから見る。ダイニングの奥は1階から吹き抜けていてそこに本棚がつくられている。ダイニングとキッチンの天井には登り梁が並ぶ。北川さんから「どこかに木がほしい」というリクエストが出ていた。家族とつながる街の記憶は壁の立て方や段差、タイルなどの組み合わせによって継承することを考えたという。そして「行き止まりがなくぐるぐると回れる」と北川さんが表現する回遊できるこの家のつくりは、家族の暮らし方から導かれたものでもあった。「家族の皆さんが家にいる時間が長いんです。そこで家族同士がつながりつつも距離を保つにはどうすればいいのか工夫しました。3階のダイニングとリビングは空間的には近いけれども間に壁があって気配は遠かったり、あるいは段差を介して居場所を少しずらすなどして回遊空間に変化を与え、滞在時間が長い家族がいかに距離感を保ちながら心地良く暮らせるのかを考えました」(あいさん)2階の子ども部屋から見る。戸を開けると2階全体が開放的に。右が主寝室。階段の向こう側に木の踏み板が延びていて北川さんの使う机になっている。2階の中庭から見上げる。浴室はリクエストで大き目のものにした。左のタイルはトイレ、キッチンに貼ったものと同様、奥さんがあいさんと話をしながら決めた。北川邸ではさらにリビングが1階・3階と2つあることも特徴になっている。これも「距離を保つ」ためのもうひとつの居場所として、北川夫妻のリクエストでもあった。「1階に近所の人を呼んでちょっと集まれる場所がほしい。子どもだけでなくパパも野球をやっているので、おやじの会みたいな、みんなで集まれる場所があったらいいなと。また大きなテレビを壁にかけて家族で甲子園大会とか観たいというのもお話しました」(奥さん)。2階から1階の玄関部分を見下ろす。本棚は3階まで続く。奥の扉は納戸のもの。路地がそのまま入り込んできたような空気感もある1階リビング。右のガレージの間のガラス戸を開けてキャッチボールをしたいというリクエストもあったという。「玄関までアプローチがほしかったけれども伝えてなかった」。しかし最初の案ですでにこのようにアプローチが取られていた。深さのある手洗い器がこの空間のなかでデザイン的にもおさまりがいい。開放的な1階リビング。外から来た人も気兼ねせずに入りやすいつくりだ。段差は統一されていてここの高低差も20cm。ワンシーン=ワンショットの家?奥さんは吉田夫妻から「設計のアイデアを聞くたびにいつもワクワクしていました」と話す。北川さんも「できるのが怖いくらいで、ずーっと設計してたらいいんじゃないかみたいな感じで」ワクワクし通しだったという。竣工して住んだ感想をうかがうと「どこにいても声が聞こえるというのがとてもいいなと思います」と奥さん。北川さんからは「僕の机が2階にあるんですが、2階にいても1階・3階にいる人を感じられるのがすごくいい。気配がつながっているので家族みんなで暮らすのにとてもいい家だと思っています」という答えが返ってきた。街や家族とのつながり感は北川さんがこの家にぜひほしかったものだが、これは空間のつながりと一体になって生まれた。「行き止まりがなくぐるぐると回れる」この家のつくりを映画的に表現すると、それぞれのシーンをうまくつなげてひとつのシークエンス(家)がつくられている、ということになろうか。あるいはワンシーン=ワンショットでつくられていると・・・。ダイニングに置かれたテーブルが波板の色とうまくマッチしている。鮮やかな赤色が特徴のライト。カンパリソーダの瓶を使ったもので既製品という。この羽のついたライトも既製品で、北川さんとあいさんとで選んだもの。タイルの色、形、レイアウトは奥さんとあいさんの2人で密に話し合いをして決めていったという。「路地感みたいなものを感じさせる」「圧迫感がでないようにボリューム感を崩す」などしてできた外観デザイン。1・3階に対して2階が閉じたつくりになっているのがわかる。北川邸設計アキチアーキテクツ所在地東京都目黒区構造木造規模地上3階延床面積118.83㎡
2020年04月15日この面積で暮らせるのか保坂邸は約19㎡。建築面積ではなく延床でだ。これはさすがにとてつもなく狭いのではないか、そう思って訪れたが、室内を拝見してまず最初に「意外と大きい」と感じた。たぶん、この印象は上に大きく抜けた吹き抜けから受けたものだろう。この吹き抜けがなかったら「大きい」という印象はなかったに違いない。建築家である保坂さんでさえ、この床面積ではたして住むことができるのかとの思いをずっと抱きつつ設計を進めていたくらいなのだ。「この大きさのものは設計したことがないので実績がない。不安でしょうがなかった」という保坂さん。実は当初、2階建てでの設計を考えていたという。通勤を考えて購入した土地は横浜に建てた前の家と敷地の大きさもプロポーションも似ていた。当然ながら同じ2階建てで考えていたが、ある日、要望を出してほしいと伝えていた妻のめぐみさんからの話で変更することに。グリーンが狭い空間に潤いをもたらす。椅子の下も収納スペースに使っている。道路から室内を見る。窓の部分も収納に活用。棚はコンクリートに付けた凹みに載せているだけ。平屋でつくる「そのときちょうど読んでいた江戸時代の生活の本の話をしたんです。当時は家族4人で4畳半でも決して狭くないという生活をしていて、それがここでは2部屋以上取れる。それくらいの広さだと考えたらまったく狭くないと思ったのでその話だけをしました。そしたら保坂に“わかった”って言われて、“えーっ、わかったの?”って思ったんですけれど、そのあとは何を聞かれるわけでもなく、しばらくして出てきたが平屋の案でした」平屋案に至ったのには横浜の家とは異なる敷地条件もかかわっていた。「決定的に違うのは南北に7階建てのマンションが立っている点で、2階建てにすると床と天井の高さが近くてトップライトを開けると空よりもマンションが見えている印象が強くなってしまうんです」(保坂さん)奥にベッドが置いてありそのまた奥の外部にバスタブがある。間にキッチンがあるため、手前のテーブルのところで夜遅くまで起きていても奥で寝ている人には気にならないという。左右の壁の間の寸法はいちばん広いところで2425mm。キッチン側から道路側を見る。キッチンと奥のスペースの間には段差が設けられている。キッチンに並ぶものには料理好きのめぐみさんのこだわりが感じられる。オーディオ関係は前の家の時よりも大きなものに取り替えた。レコードはちょうどその幅の分凹ませたコンクリートの壁に立てかけられている。ポジティブに考えるとはいえ床面積は横浜の家と比べほぼ半分。「前の家でもすごくコンパクトな生活だなと思っていたのにその半分になる。ふとんのサイズは半分にならないし椅子だって半分の大きさにはならない」。しかもめぐみさんからは大きなベッドがほしい、冷蔵庫を大きくしたいという要望も出ていた。自身もオーディオ関係を大きなものに取り替えたいと思っていた。いずれの要望も厳しい敷地条件とは逆方向を向くもの。さらに、トップライトからの採光のシミュレーションをしてみると11月から2月の半ばくらいまでまったく直射光が入らないことが分かったという。しかし狭さに関しては読んでいた本から、「“やってみればできるかもね”ってポジティブになれた」し、光に関しても「北欧でも直射日光がまったく当たらない季節があるので、ある意味冬は北欧のような生活ができる」というふうにポジティブな方向に頭を切り替えた。「冬は直射光が入らないんですが、トップライトから天空光が柔らかく入るのでそれを楽しむ空間にしようと。夏は燦燦と光が入るので北欧から南国までの光の変化を楽しめるというコンセプトで行こうということになりました」天井を見上げる。トップライトは2つの円弧からできている。ぶら下がっているコンクリートの壁は南からの光を反射させてベッド上の天井を照らす。トップライトからの光が時間ごとに違う場所に光の筋をつくり出す。ベッド側から天井を見る。狭くてもなんでもある内部の設計コンセプトも狭さゆえに向かう方向とは逆の方向で基本方針を立てた。「面積からするとヴィジュアル的にも生活的にもいろいろとそぎ落とす方向に行きかねないところで古代ローマのハドリアヌス帝などが大事にしていた〈学問、入浴、演劇、音楽、美食」という5つの要素を、こういう小さな家でも大事にできるようにしよう」と。こうして露天風呂も加わった保坂邸。保坂さんは冒頭にも書いたように実際に住み始めるまで不安でしょうがなかったというが、すべて杞憂に終わりお2人とも充実した日々を過ごしているようだ。「すべてがここにあるという感じがしています。前の家ではモノをなるべくもたない生活を楽しんでいたんですが、ここではほしいものはなんでもあってそれを楽しむ生活をしている感じがします」とめぐみさん。めぐみさんは「都会で露天風呂をつくっても入らないのでは」と思ったがとても快適で2人とも毎日入っているという。大きめのシャワールームが風呂の隣のスペースにつくられている。キッチン側から奥を見る。狭いためトイレとシャワールーム以外は扉をつくらないという方針のもと、コンクリートの仕切りの間のスペースをクローゼットとしている。保坂さんもこう話す。「日本でも戦前までは多くの人が狭くても豊かに住んでいましたが、現代はそうした生活とは完全に一回切れて住宅事情というのができていて脈々と受け継がれてきたものが途絶えている気がします。でも実際にこの狭いスペースで自分が生活をしてみると、このぐらいでも住めるというかむしろ楽しく暮らせる。そして、生活で大事にしているものをすべて入れ込んでいるから密度も濃い感じがしますね」住み始めて、狭くても楽しく豊かに過ごせるだけでなく、さらにまったく予想だにしなかった楽しみも生まれているという。「引っ越してガラス戸のすぐ向こうを人が通るなんてまったくイメージもできなかったし、想像すると少し怖い感覚すらあって窓を開けられないんじゃないかとも思っていました。でも今はふつうに窓も開けていて、そうすると話しかけてくる人がいたり中には“家の中を見せて”っていう人もいるんです」(めぐみさん)。そうしたコミュニケーションが楽しく近所の方ともつながりができたという。前の家とはまた異なる楽しみを何重にも感じながら暮らしているお2人の話の端々から暮らしの充実ぶりがうかがえた。窓の上には旅行先で購入した小物などが置かれていた。コーナー部分も本の収納スペースに。反対側のコーナーにも同様に本が置かれている。コンクリート壁にいくつかニッチをつくって収納スペースにしている。奥は保坂さんがよく使うペンのペン挿し。左のコンクリートの段差はハンコや付箋などの小物を置くためにつくられたもの。家の前の道路も保坂邸の敷地。ここを近所の人たちが通勤や買い物などで通り、室内のお2人に声をかけてくる人もいるという。玄関は右の側面につくられている。保坂邸設計保坂猛建築都市設計事務所所在地東京都文京区構造RC造規模地上1階延床面積18.84㎡
2020年03月23日壁は自分たちでペイントグラフィックデザイナーの吉本多一郎さんが暮らす家は、埼玉県入間市の平屋の米軍ハウスが並ぶ『ジョンソンタウン』と呼ばれる地区の中にある。吉本さんの家は米軍ハウスの作りはそのままに、新たに建て直された平成ハウスと呼ばれるロフト付きの平屋住宅だ。米軍ハウスと平成ハウス、外から見たところ違いはわからない。「見分けるポイントがあります。米軍ハウスは瓦屋根なのですが、平成ハウスは屋根の素材が軽量化されています。平成ハウスは床暖房など、設備が近代化されているのが魅力です」家を探していた時におもしろい物件があると教えてもらったのがジョンソンタウンに住むきっかけになったそう。「僕も妻もアメリカの匂いがする住まいが好みです。幸いここは妻の職場には近かったのですが、僕は家で仕事をすることが多いとはいえ、都内で打ち合わせや撮影等が週の半分以上ありますので、通えるかなと最初は不安でした。けれどもう約6年住んでます。慣れると平気なものですね(笑)」白い壁は友人にも手伝ってもらいながら自分たちで塗装したのだそう。「以前は集成材の合板そのままの色の、山小屋のような雰囲気の家でした。梁や階段はもともとの木の色を残し、バランスを考えながらペイントしていきました。柔らかな白にするため、白に少し黄色と赤を混ぜてオリジナルの色を作っています」もともとはモルタルの床だったが、まちちゃんが誕生してから、転んでも痛くないようにカーペットを敷いた。「玄関の部分だけカットして靴を脱ぐスペースを作りました」たっぷりとした天井高いっぱいまで伸びた存在感のあるグリーンは、ジョンソンタウン内にあったグリーンショップで購入。「ブラインドは以前の住人が残していってくれたものです。ありがたいです」アンティークのロッキングチェア。「僕は気に入ってるんですが、奥さんはあまり好きじゃないみたいです(笑)。後ろのシェルフは大塚家具。母が大塚家具のファンで引越し祝いにいただきました」吹き抜けからリビングを見下ろす。ダイニングテーブルは、足場板を使った多一郎さんのハンドメイド。左奥にあるのがアンティークの視力検査のセット。レザーのソファはACTUSで。このローテーブルも多一郎さんがDIYしたもの。仕事場はロフトにジョンソンタウンの家は、一軒づつ間取りが違うのだそう。「アメリカの住宅のように住人がDIYをしてもよいので、個性的な家が多いですね」吉本さんの住まいは、築10年の平屋。リビングに大きな吹き抜けがあり、ロフトの部屋を仕事場にしている。「今はネットがあるので、どこでも仕事ができます。都内から距離がある場所でも、住環境を優先できるのがありがたいです」1階から見上げると、ロフトに正方形の窓が……。窓の向こうが多一郎さんの仕事場だ。入り口にCAVE(洞窟)と書かれて部屋が多一郎さんの仕事場。低めのドアをくぐるようにして入る巣ごもり感がたまらない。中二階のCAVE内が吉本さんの仕事場。ソファは大正時代のアンティーク。抜群のコミュニティも魅力ジョンソンタウンの魅力は、緑豊かな美しい街並みにもある。「お隣との間の塀も物理的にありませんし、住人同士のお付き合いが親密で、とてもよいコミュニティが築けています。BBQをしたり一緒にキャンプに行ったり、DIYの手ほどきをしてもらったり。同業者も多く、世田谷に住んでいた時より、仕事の幅が広がっています」仕事の手を休めて、近くの公園に息抜きに行くこともおおいのだとか。「子どもと一緒にすぐに公園に行けるのも楽しいです。子育てには抜群の環境だと思います。近くの子どもたちがよく家の前の道で缶蹴りして遊んでます。うちに『缶ください〜』って突然来たり。最近、こういうおつきあい、なかなかないですよね。平屋の家に惹かれて住みはじめましたが、今はコミュニティがかけがえのないものになっています」キッチンの床はモルタルのままにして、カーペットを敷いた。裏口もある。「棚板は自分でつけました」ポーチでBBQを楽しむことも。お隣の家のと間に塀や仕切りはない。
2020年02月26日5人家族のための家「前はこの近所のマンションに住んでいたんですが、夫婦と子ども3人の5人家族だと分譲型マンションのつくりでは間取り的に住みづらい印象がものすごくあって」と話すのは田中さん。「でも戸建てであれば、狭い土地でも5人家族が住みやすい家ができるはず」と考えたという。設計は友人のつてで吉田州一郎・あい夫妻が主宰するアキチアーキテクツに依頼。彼らの自邸兼事務所のYY house・office・kitchenを訪れた時に「狭い敷地ながら空間を縦方向にうまく使っていて快適な感じ」を受けたという。妻のマミさんも「たまたまですが敷地がほぼ同じ規模でこんなに広く住めるのかと思った」とその時の印象を話す。ダイニングは家族の集まる場所。衣食住をそれぞれ別々の空間にするようにリクエスト。ここはもちろん食べる場所。衣(服類)は1階の主寝室の前のスペースにまとめた。個室をたくさんつくる「マンションのときは5人の行動範囲が一緒で窮屈に感じていた」とマミさん。田中さんは「そうした中で個別の部屋をたくさんつくりたいという思いが出てきました」と話す。吉田あいさんは「今は、空間を開いたつくりにするのが主流ですが、家族それぞれの性格も違うわけだし、そういう流れに反してやはり個室や自分の居場所がほしいというのもわかる。田中さんからのリクエストを聞いて、個室をたくさんつくるというのも面白いなと思いましたね」と話す。2階のダイニングとキッチン。左はキッチンの上の長女の部屋へつながる階段。長女の部屋からはライブラリーを通りテラスへ行くことができる。マミさんは回遊できる空間に憧れていたがこの家の面積からすると無理だろうとあきらめていたという。「役割をまず決めたうえで、各自が使い方を考えればいい」と話す田中さん。「この階段はみんな椅子みたいに使ってます」。キッチン側からダイニングを見る。右上の長男の部屋のトップライト越しに空を見通せる。キッチンの天板は料理好きのマミさんの希望で熱いままの鍋も直に置けるセラミックトップに。コンロ周りの壁は清潔に保てるよう黒目地に白のタイルにした。ループ状につなげる結果的に個室空間を6つ設けることになった田中邸。特徴となっているのは全体が回遊できるつくりになっていることだ。「個室をつくったときに5人家族がどういう距離感で過ごしていくのか、どういうふうにつながるかを考えていったら動線がどんどんループ状になっていった」と吉田州一郎さん。そして「家族が集まるメインの場所も大きなテーマになった」とも話す。そうして家族みんなが集まれるダイニングがループ状の動線で各個室につながるつくりになった。2階のダイニングから見上げる。長女の部屋から突き出した円形の場所が小さいながらも空間のアクセントとなっている。本が大量にあったためライブラリースペースを設けた。長女の部屋は外のテラスともつながる。長男の部屋より見る。テラスも階段状で続いていく。吹き抜けを長女の部屋から見る。ループ状の構成と同時に階段での上下動の移動もテーマになった。「5人家族の距離感みたいなものを立体化して断面で切るとどうなるのか、そのような感覚でつくっていった」と州一郎さん。あいさんはまたこう話す。「敷地面積が限られているので人と人との距離感はほぼ決まっていますが、そのなかで動線を長くしただけでも心理的には少し距離ができる。部屋同士は実は近いけれどちょっと遠くに感じさせることもできるわけですね。そうすることで家族が変化し、またいろんなものが変わってくる。そんな中でそれぞれが幸せというか心地良くなればいいなというのも田中さんたちとの打ち合わせの中で話題になりました」長男の部屋の床は畳にした。ねじれた位置関係にある階段が空間の回遊性を高めている。2階ダイニング側から見る。奥が次男のスペース。階段が造形的にも見ごたえのあるデザイン。半地下にある田中さんのスペース。机の天板が地面レベルにある。奥が玄関。1階は「お風呂とトイレと玄関とワードローブの動線がなるべく近くなるように」とリクエストした。ワードローブの奥には主寝室がある。体育館の床のようなビニールを貼った。水洗は子どもたちのサッカー靴も洗える深さのあるものに。この家に越してきてから2カ月経つ田中一家。4月には家の向かいに立つサクラが咲き、素晴らしい風景が窓に広がるだろう。それも楽しみにしているという田中さん。サクラの季節には特等席になるであろう2階道路側の階段についてこんなことを話してくれた。「この階段が思っていた以上にいろいろ使える階段だというのがわかってきました。前に進むごとに外の風景が変わるということもそうですが、家族との会話も階段のどこにいるかで変化するので、その都度自分に心地のいい距離感を選ぶことができるのがいいですね」。家族との距離感が大きなテーマだった田中邸。この階段もそれにうまく応えているように思われた。窓が通常よりも低く、地面が近く感じられる。上るにつれ地面から離れていくように感じられる階段は花見の特等席となる。電動で開け閉めできるブラインド。マミさんの実家が建築の板金業を営んでいたことからトタン張りを選択したという。「増築の結果こうなった」ような、あるいは「ブリコラージュでつくられた」ような面白い印象を与える外観だ。田中邸設計アキチアーキテクツ所在地東京都世田谷区構造木造規模地上3階延床面積89.23㎡
2020年02月24日公園の緑を見たい目の前に公園のある敷地をみつけて即、購入を決めたという林夫妻。「以前に住んでいたところが早大通りの並木道の緑が借景で見える場所だったので、同じように緑が見えたらいいなと思っていました」と話すのは夫の公太郎さん。設計は妻の宏美さんの友人だった山田紗子さんに依頼したが、山田さんへのリクエストのひとつは当然ながら公園の緑が見えることだった。50.6㎡とコンパクトな上に奥に細長い形状の敷地のため「家が広く見えるようにしてほしいというのもすごく言っていた気がします」と宏美さん。加えて道路側以外は隣家が迫る状況ながら「大きな開口がほしい」とも伝えたという。構造の関係で前面に大開口を設けられなかったため、インナーバルコニーをつくりその内側に大きな開口を設けた。リビングからインナーバルコニーを通して公園の緑を見る。木の素材感がほしいというのも夫妻からのリクエストだった。インナーバルコニーから公園を見る。螺旋階段の途中からリビング方向を見る。リビングの壁にはピクチャーレールが付けられている。家の真ん中の螺旋階段それらのリクエストを中心に家づくりが始められた林邸。出来上がった家には道路側の2階にインナーバルコニーが設けられて目の前の公園の緑を眺めることができる。中心部分には2階分ほどの高さのある大きな開口が設けられていて部屋の隅々にまで光を供給しているが、この開口の横につくられた螺旋階段がとても特徴的だ。ちょうどその頃同時並行的に進められていた山田さんの自邸の模型を見て「うちもこういう感じがいいかも」と伝えていたスキップフロアをこの螺旋階段がつなぎ、また壁を設けていないために階段を通して斜め方向へと視線が抜けていく。「山田さんからいちばん最初に提案をいただいたとき“ ウナギの寝床のように細長い敷地だから端に階段を置くとそのスペースが無駄になってしまう”と。さらに“この階段は廊下であり部屋であり庭でもある”という説明を聞いて、ああなるほどなと」(宏美さん)大開口から光がふんだんに注がれて明るく中庭的な存在ともなっているこの階段。宏美さんは「庭がほしかった」がこの敷地で庭をつくることは物理的に無理だと思っていたので、この“階段=庭” という考え方に思わず納得しての「なるほど」でもあったのだろう。リビングから下にDK、上に子ども部屋を見る。右の踏み板はリビングとレベルが揃い連続している。左が室内を明るく照らす大開口。子どもたちにはこの階段がテーブルにもなる。階段にはトップライトからもふんだんに光が注がれる。その下の小スペースはひとりでほっと一息つくためにつくられた場所。子ども部屋から見る。奥の上が寝室で下がリビング。階段での工夫この螺旋階段にはまた建築家の工夫がこめられている。「段をあまり細かく刻まず、踏み板の1枚1枚をなるべく広く取って各フロアの床となじませていきたかったんです。そうすると踏み板の数が減るので1段が少し高くなりますが、22cmという、ふつうにもあり得るような段差で納めています」(山田さん)ふつうの階段より1段が少し高めでまた踏み板が広いため、余裕で座ることができるし2人のお嬢さんはテーブルにするなどして子どもながらの活用もしているという。寝室には宏美さんの希望で扉を付けたが、このようにオープンにすることもできる。寝室側から子ども部屋側を見る。奥には小窓しかないがトップライトと大開口の光で十分に明るい。当初屋上をリクエストしていたが、インナーバルコニーの方が生活空間と連続していて使い勝手が良いという判断となった。家の最高レベルから子ども部屋を見下ろす。リビングが4、5畳程度と狭いがまったく狭さを感じさせないのは、階段を挟んで向こう側にある空間も一体として感じられるからだろう。この家に引っ越してきてから8カ月ほど。暮らしてみての感想を聞くと、夫妻ともに「広い」との答えが返ってきた。「リビングに座っていると上にも下にも視線が抜けるので、実際の畳数よりも広さを感じる。私の希望だった塗り壁の白い壁面が続いているので、DKまで含めてひとつの部屋のように感じられる。DKの奥の壁がリビングの壁のようにも感じられるんです」(公太郎さん)公太郎さんの希望で白の塗り壁にした。奥の広い壁面にアーティストに絵を描いてもらうことも考えているという。天井が高くて気持ちのいいDKにぶら下がっているのはトム・ディクソンがデザインした照明。リビング自体は狭いが視線が奥の壁まで抜ける上に、階段の1枚目の広い踏み板が同じレベルにあるため広く感じる。家のサイドに設けられた玄関を入ると左に水回り、右にDKがある。洗濯などの家事動線も設計では重要な課題だった。宏美さんは最後に「暮らしていて楽しい」と話してくれた。「山田さんがこの家の設計の途中で“生活をしている人たちのライフスタイルはいつまでも一定ではないので、建築家の仕事はつねにこういう生活はどうだろう、あるいは・・・と問い続ける仕事なんだ”と話したことがあって、それは私の議員という仕事とも似ている部分があって、社会が変われば当然必要なものも変わってくるので同じだなと思ったことがありました。家に関しても、子どもたちも成長していくし私たちもいろいろと変わっていく。この家はそれに合わせて変えられる余地があるようにも感じられるのがいいなあとも思っています」。「暮らしていて楽しい」という宏美さんの言葉には、そのように家族と家がともに成長変化するという将来への期待感も込められているのではないか、そのようにも感じられた。踏み板の面積があるので床が切り分けられ高さを変えて続いているようにも見える。リビングからは1階のDKの奥の壁までが同じ空間のように感じられるという。林邸設計山田紗子建築設計事務所所在地東京都新宿区構造木造規模地上3階延床面積54.8㎡
2020年02月12日デレク・ジャーマンに憧れて東京の立川市で手仕事品を扱う店「H.works」を営む園部由貴さん。以前は駅近くのビルの一室で12年ほど店をしていたが、家を建てるのを機に、職住一体の暮らしに。駅からは遠くなったが、大きな通りから少し入り、畑などに囲まれた緑のある敷地に小さな家を建てゆったりとお客様を迎えている。「デレク・ジャーマンの家と庭がすごく大好きで、あんな家がいいなあというイメージがありました」。そう話す園部さん。デレク・ジャーマンとは、原子力発電所の近くの何も無いだだっぴろい土地に小屋を建て、庭造りをしながら暮らしていたイギリス人の映像作家だ。確かに、畑や大きな木が植わっている広い敷地にさりげなく建つ小さな家は、デレク・ジャーマンの家と通じるものがある。正面から見た1階の店部分。右奥がダイニングスペース。正面棚の裏がキッチンスペースに。店、ダイニング、キッチンを回遊できる動線となっている。吹き抜けからの見下ろし。奥のダイニングスペースは店ともキッチンともつながっている。扉をしめればプライベート空間に。限られた面積で使い勝手よく1階が店で、外から中が見えやすい木枠のガラスドアを開けて中に入る。建物は「家」だが、店としての入りにくさもなく、家と店の中間という絶妙な雰囲気を感じさせる。店には園部さん厳選の器や料理道具などが並べられている。決して広くはないが、見ごたえのある量とバラエティで展開されており、かゆいところに手が届くような品ばかり。奥にはキッチンとダイニングスペースが。ここは普段の食事にはもちろん作家さんを招いたり、出張カフェをしてもらったりするときにも使うという半プライベート空間。奥の階段前が玄関で、靴を脱いで2階へ。ここを扉で仕切り、将来的に小さな二世帯住宅としても使うことも考慮されているそう。2階はリビングと寝室のプライベートな空間。小さなキッチンもあるが、ここではお湯を沸かす程度だという。ご自身の使い方と器の寸法を熟知した園部さんが望んだコンパクトかつ収納力もあるキッチンスペース。道具類は見えるように扉などはつけなかった。ダイニングから見たキッチン。この小窓からお皿の出し入れもできる。キッチンは以前から愛用していたワゴンが収納できるよう大工さんにつくってもらった。ダイニング奥にある玄関スペース。食事の器、暮らしの器家の設計をお願いしたのは、国分寺の設計事務所「straight design lab」を営む建築家・東端桐子さん。「雑誌の狭小住宅特集で東端さんの手がけられた記事を見つけて、サイトを見たらすごく心にひっかかる部分があったんです。木も好きなんですが、素材によってはスチールのシャープな感じなんかも好きで。東端さんのご自宅の記事も拝見して色使いや使っている材質、細部のちょっとした工夫がまさに私が求めているイメージと重なったのでお願いしました」と園部さん。東端さん曰く、「色使いなどに関しては本当にスムーズに決めることができました。また、プランなどは園部さんが熟考されたスケッチをいただいたので、私は整える程度でしたね。特にキッチンまわりは完璧なスケッチでした」。「私の器選びの基準は、自分の心にぴたっとくるものかどうか。つくり手の思いや実際の使い勝手など、見た目以外のことも重要なので、作家さんとも対話を重ねています。家も器も似たようなところがあると思います。今の家はほんとうにちょうどいいもので、デザインも使い勝手も居心地もとても満足しています」。店へのアクセスは決してよくはないが、長居していく方も多いそう。少しずつ庭づくりも楽しんでいきたいと話す。2階のリビング。奥が寝室とクロゼット。寝室は屋根の形がそのまま現しの落ち着く空間。シンプルな白いタイル貼りの清潔感ある水周り。ところどころに使われているスチールのブラケットは、東端さんが家具製作をするご主人とつくる「SAT. PRODUCTS」のもの。
2020年02月10日ギンザ シックス(GINZA SIX)の中央吹き抜け空間では、日本人アーティストの吉岡徳仁による新作インスタレーション《Prismatic Cloud》を、2020年2月27日(木)から10月下旬まで展示する。ギンザ シックスの中央吹き抜け空間では、これまでに草間彌生、ダニエル・ビュレン、塩田千春をはじめ、世界で活躍するアーティストの作品を展示してきた。今回新たに起用されるのは、アート・デザイン・建築の領域にわたって、自然をテーマとした壮大な作品を手掛けるアーティスト、吉岡徳仁だ。展示されるのは、かたちを持たない“光”を表現した《Prismatic Cloud》。2017年にアメリカ・ヒューストンで発表したものを、ギンザ シックスのためにアレンジした、日本初上陸の“光の彫刻”作品となる。巨大な雲をイメージした全長10メートルの《Prismatic Cloud》は、約10,000本のプリズムロッドを重ねることで制作。光を透過する無数の層構造のために、鑑賞する位置により見え方が変化し、“光の雲”が織りなす多様な表情を楽しむことができる。【詳細】ギンザ シックス 中央吹き抜け新作アート吉岡徳仁《Prismatic Cloud》展示期間:2020年2月27日(木)~10月下旬(予定)展示場所:ギンザ シックス 2F 中央吹き抜け住所:東京都中央区銀座6 丁目10-1※画像はいずれもイメージ
2020年01月31日東海道沿いの三角の家「ニューヨークからの帰国後、妻に“すごくいいから”と言って自分の地元の藤沢で土地を探し始めたんです」と話を始めたのは画家の乙部遊さん。「でも最近人気が出てきたせいか街が変わりすぎてしまって、あと、土地自体もピンとくるものがなかった。それで二宮ぐらいまで広げてみようかということになって探してみたら3つほどあって、建築家にも相談して国道1号沿いのこの土地がいちばんいいのではということで購入しました」江戸時代までは東海道だった国道1号から数m退いた場所に立つ乙部邸。設計は遊さんの中学の時の同級生とその友人のお2人に依頼したという。「植物が好きなので、まずは窓が多くて家の中に光がいっぱい採り込めること。それと絵を描くので壁も広くしてほしいという相反するような依頼をしました」。「壁も広く」というのは制作した作品を飾れる壁がほしかったから。「さらに、作品をつくるのでインスパイア、刺激してくれるような環境がいい、ふつうの家にはない面白味のある空間にしてほしいというのも伝えましたね」こうしたリクエストから家づくりが始まった乙部邸は断面がほぼ三角形。入口部分が少し欠き取られた形になっているが、国道1号を車で走っていても思わず目を引く外観だ。乙部邸のデザインについて、建築家の齋藤さんは「まずは“東海道で一番カッコイイ家つくろう”という話がありました。またあの屋根の勾配にすると、北側の東海道にも日が落ちて、ふつうの建て方をするよりも道路が明るくなる。平面を対角線のプラン、断面も斜め天井とすることで、“高い”“低い”と“狭い”“広い”のたすき掛け、つまり4種類の空間性がひとつの単純な住宅プランで構成できると考えた」と話す。入口の部分が欠き取られてガラス張りになっている乙部邸。目の前の1号線を車で通っても目を引く。ニューヨーク生活からの影響この「たすき掛け」した空間が内部では要望であった「インスパイアしてくれる環境」をつくり出している。2階では三角形断面の斜線の部分が壁=天井となり「ふつうの家にはない」ダイナミックな空間を生んでいる。そして、南側に開口を広く取りまた北側の白壁を切り抜いて吹き抜けから入口まで視線が抜けるつくりにしたことから面積以上の開放感を体感することができる。白い壁の部分は奥さんの京子さんと塗ったのだという。「壁は最初から塗ろうと思ってました、費用が安くなるならというので。ニューヨークのギャラリーで展覧会をやったときに壁に絵を描いたりしたんですが、そのときにも自分で塗り直したりしていたので、壁を塗ることに関して抵抗がなかったんですね」ニューヨークでは家の壁をパテで粗く塗りかつなんども塗り直す。それですごくモコモコした壁が多いのだが、そうしたニューヨークで経験した空間の影響もあり塗りムラのあるほうが逆にしっくりとくるようだ。キッチンの壁をブリックタイルにしたのもそうだという。京子さんは「ニューヨークのカフェみたいな雰囲気にしてほしいということでタイルにしてもらいました」と話す。表面がフラットなものと凹凸のあるものの2種類をうまくばらけるように張ったのもリクエストだった。2階東側から奥のキッチンを見る。遊さんが好きだという緑がとてもセンス良く配置されて空間の雰囲気をさらにコージーなものにしている。キッチン部分の壁は京子さんの希望でブリックタイルを張った。右の木の壁は遊さんが明るい色を選びシナ合板にした。存在感のあるライトはブティックで使われていたのを譲り受けたものという。2階の壁が一部切り取られていて、そこから1階と道路を見下ろすことができる。遊さんの描いたドローイングが並ぶ。道路側の壁の角度が内側へと振られているのがわかる。キッチンから見る。東に向かって空間が徐々に狭まっている。階段上部から見下ろす。玄関部分がガラスのため道路側から壁に架かる作品を見ることができる。内部からは右前方の山の緑を眺めることができる。大きく取れたギャラリー「もっと狭くて小さくなるかなと思っていたんですが、妻の理解もあって想像以上に広く取れたしすごくいいものができてよかったと思っています」と遊さんが話すのは1階のギャラリースペース。外からも見られるように白壁には乙部さんの作品が並ぶ。「ニューヨークでは展示をいろいろとやらせてもらったんですが、日本に帰ったら細々と自分のペースで作品をつくっていければいいなと思っていました。つくったものを見せる場所があったらなおいいなということでギャラリーをつくらせてもらって、自給自足というか、これがすごい良かったなと思います」。吹き抜けになっているため、ギャラリーとして見ても特徴的な空間だ。展示の際にはプライベートの部分にまで拡張ができるつくりにしている。入口近くのコーナーは遊さんがアクリル画などの制作に使う場所にもなっている。1階奥から玄関方向を見る。遊さんがアクリル作品を制作するのはこのあたり。壁の棚には絵の具などが並ぶ。玄関から土間部分に入るとギャラリースペース。真ん中に架けられている作品はこの家のオープンハウスをした際に描かれたこの家をモチーフにしたドローイング。土間から見る。遊さんと京子さん、娘の生愉(きゆ)ちゃん。手前は主寝室。このように扉を開けるとギャラリーにすることもできる。いちばん右の作品はニューヨーク・クイーンズ地区で発行されている雑誌の表紙となり、また個展を開くきっかけにもなった。遊さんはNYのバスルームがタイル張りなのが好きだったので、「タイルにしたい」とリクエストした。洗面所の左手がトイレ、向かいが浴室で水回りがこの場所にまとまっている。「ふつうにはない、変わった家ですが、ほんとにいいものをつくってもらったという気がします」と遊さん。暮らし始めてまだ間もないが夫妻ともにリビングの開放感が気に入っているという。視線が2方向に視線が抜けるうえに天井も高い。「斜めのパースが効いている空間だからかそんなに狭い感じもしない」と画家らしいコメントをしてくれた。「プランを見たときは狭めに感じたのでパーティをやるときとか大丈夫かなと。でも住んでみると狭い感じがしないし、パーティをしたときも問題なかったしみんなが“空間がいいね”って言ってくれて」遊さんの好きな緑もとてもいい感じで配置された2階は、「ふつうの家にはない」空間ながらとてもコージーで快適な生活ができそうな印象を強く受けた。屋根・壁・床のすべてを105角のベイマツで構成することなどによりそれらの厚みを抑え、その分居住スペースを広く取った。乙部邸設計齋藤隆太郎/DOG+井手駿/日建ハウジングシステム(協働設計)所在地神奈川県中郡二宮町構造木造規模地上2階延床面積87.23㎡
2020年01月27日壁がぐるりと巡る「切妻屋根が好きではないので四角い家がいいと思っていました」。こう話すのはHさん。しかし道路レベルからはH邸の屋根の形を確認することはむずかしい。建物にぐるりと壁が巡っていて屋根の形どころか、そもそも住宅なのかどうかさえもわからないのである。このデザインは住宅密集地ながら三方が道路に開かれた角地にあり、かつ、隣にアパートが立つという敷地条件から導き出されたものだった。道路に面した3面には窓はなく壁が部分的に切り取られたところがある。下はガレージ、上はテラス部分の壁が切り抜かれている。左の壁面の真ん前にはアパートが立っている。「人の目線が気にならないように配慮してこのような形にしていただいた」と話すのはHさんの奥さん。設計を依頼したのは森清敏さんと川村奈津子さんが共同主宰するMDSだ。テレビ番組で見て気に入った住宅がMDSのデザインによるものだったという。周囲を同じく壁で囲んだその神楽坂に立つ住宅は「コーナーの部分が曲線でつくられているのが素敵でした」と奥さん。森さんは「あの家は周りがとても立て込んでいて窓をつくると内部が見えてしまうため3層を壁で囲いました」と話す。さらにこの住宅も「周囲に住宅が立て込んでいるうえに、隣にアパートがあって不特定多数の人が住んでいる。アパートは将来建て替わる可能性もあるし高さもどうなるのかわからない。こうしたことを考えるとある程度閉じていくことを考えざるを得ない状況でした」と説明する。左下の扉を開けると吹き抜けていて玄関ドアが右側にある。この扉はパンチングメタルを組み合わせてつくられたもの。壁を切り取るHさんからも「MDSが設計した神楽坂の家は囲われていていいな」という話を聞いていたというが、しかし、同じようにすべて囲ってしまうのではなくどう開くいてくのかも同時に検討していったという。壁で囲ってしまうと当然ながら採光の問題が出てくる。H邸の外壁を見ると、玄関やガレージの壁が部分的に切り取られているほか上部にも切り取られている部分があるが、そうすることで内部へと光を導き入れまた視線の抜けも確保している。そして内部では、同じく壁を切り取るという操作によって、内外に対して開口をつくり出している。手前が1階リビングで奥がダイニングとキッチン。オープンキッチンにするのは夫妻の強い希望だった。ダイニングの左手を奥に進むと玄関へと至る。この1階スペースにいることが多いという奥さんのお気に入りはキッチンで、パネルの色にこだわりブルーグレーにしたという。ダイニングキッチンからリビングを見る。ダイニングキッチンからも視線が外へと斜めに抜ける。開放感と視線の抜けそれとともに、天井も、これは切り取るのではなく、取り払ってしまうことで、外光をふんだんに内部に採り入れるとともに開放感と空に対しての視線の抜けを確保している。具体的には、リビング上部を吹き抜けにしたり、2階の寝室の隣にテラスをつくったりということだ。奥さんはこのようにデザインされた空間を模型で見て「かっこいいなと思った」とその時の感想を語る。Hさんは「想像していなかったような形が出てきました」。夫妻は内部でもいろいろと要望を伝えた。Hさんは「オープンキッチンや階段についての要望など」を伝えたという。階段は他のMDSの住宅の写真を見て気に入っていたもので「絶対譲れなかった」ものという。左手のキッチンの床は一段低くなっていてダイニングに座った人と目線の高さが近くなるようにしている。キッチン近くから見る。奥に浴室。浴室側からキッチンを見る。キッチンの開口はエントランス部分の吹き抜けに面している。Hさんの希望で浴室の扉と壁をガラスにした。扉と鏡のフレームを木にしたのは奥さんのリクエストだった。見せない収納2階にはテラスの近くに木のボックスがつくられているがこれもリクエストしたもので、実は中に洗濯機が入れられている。「洗面所に洗濯機があると生活感が出てしまう」ためそのようにしてもらったというHさん。「モノを見せない収納にしたかった」と、1階のキッチン部分でも冷蔵庫を収納の中に入れて隠している。これが雑多なデザインが混在しがちな住空間をすっきりとした印象にまとめて落ち着き感をもたらしている。落ち着き感をつくるのに寄与している要素としてその収納家具の色味も挙げるべきだろう。その濃い目の木の仕上げ色は、MDSから提案されたサンプルから選んだものという。森さんはその濃色の部分について「白い壁面以外はすべて家具扱いにしていて、白の部分とはっきりと差をつけるためにこのような色にしました」と説明する。過去のMDSの住宅で気に入った階段と同じものを希望したが、デザインは「微妙に変えて進化させている」(森さん)。天井から吊り下がるシーリングファンは森さんのリコメンドからこの製品に。「これは良かったです」とHさん。2階から1階のリビングとダイニングキッチンを見下ろす。左の木のボックスには洗濯機が入っている。テラスが隣にあるので洗濯したものをすぐ干すことができる。2階和室から見る。すぐ前の壁には間接照明が仕込んであり、下からの反射でほんわりと空間が明るくなるようにしている。日差しの強い時期には右のテラス上部にオーニングを取り付ける。ウォークインクローゼットの扉上部のアールのラインが空間の雰囲気を和らげている。奥は将来の子ども部屋。陰をつくるさらに室内空間の明暗のメリハリも落ち着きをもたらしている。全体を一様に明るくするのではなく陰を意図的につくり出しているのである。「明るいところをつくるということは同時に暗い部分をどうつくるか、陰をどうつくるかという話になる」と話す森さん。その結果生み出された明暗のメリハリが空間の高低のメリハリとあいまって歩くごとに風景が変わっていくような印象を与えることに。天井高がダイニング部分で2.1m、奥のリビングが4.6mと、明暗だけでなく高さのメリハリも効いている。この家に住み始めて2年。Hさんは「とても静かで、かつとても住みやすい」という。プライバシーへの配慮から壁で四囲を包むつくりにしたことで外部からのノイズが大きく取り除かれて都市部では珍しいほどの静けさがもたらされた。そして、この静けさが落ち着きのある家具の色と意図してつくり出された陰をほどよく抱え込んだ室内にマッチして心地良い空間をつくり出している、そのように思われた。H邸設計MDS所在地東京都構造木造規模地上2階延床面積113.83㎡
2019年12月11日