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2025年2月26日、新国立劇場にて2025/2026シーズン演劇ラインアップ説明会が行われ、同劇場の小川絵梨子演劇芸術監督が上演作品を紹介、上演への思いを述べた。2018年9月に芸術監督に就任した小川にとって、これが二期8年間の任期の最終シーズンとなる。新国立劇場でたびたび再演を重ねてきた名作から海外招聘公演、小川が長く温めていたテーマを掲げたシリーズなど、引き続き充実のラインアップが実現。小川は一つひとつの作品について、丁寧に、たっぷりの思いを込めて語った。■2025年10月(小劇場)日韓国交正常化60周年記念公演[日韓合同公演]『焼肉ドラゴン』『焼肉ドラゴン』2011年上演舞台写真(撮影:谷古宇正彦)作・演出:鄭義信出演:千葉哲也、村川絵梨、智順、櫻井章喜、朴 勝哲、 崔 在哲、石原由宇、北野秀気、松永玲子イ・ヨンソク、コ・スヒ、パク・スヨン、キム・ムンシク ほか2025年上演『焼肉ドラゴン』出演者2008年、新国立劇場と韓国の芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター)とのコラボレーション企画として実現した、鄭義信による書き下ろし作品。2011年、2016年の再演に続く四度目の上演となる。「日韓の俳優さんたちによる今回の2025年の上演は、これまでと同じくこの作品の魅力と、いまの時代ならではの新しい視点をもたらしてくれると思います。登場人物の1人は公募オーディションし、キャストはすでに決まっています。また、韓国の若手劇作家によるリーディング公演も行う予定です」と語る小川。彼女が「新国立劇場の財産」ともいう本作の、パワーアップ・ヴァージョンの公演となる。■2025年11月(小劇場)[海外招聘公演]『鼻血-The Nosebleed-』“The Nosebleed” ワシントンD.C.公演©DJ Corey Photography作・演出:アヤ・オガワ字幕翻訳:広田敦郎出演:ドレイ・キャンベル、アシル・リー、クリス・マンリー、アヤ・オガワ、塚田さおり、カイリー・Y・ターナー日本をルーツに持ち、米国・ブルックリンを拠点に活動する劇作家、演出家、パフォーマーのアヤ・オガワによる作品。2023年にオビー賞を受賞した。「ご自身の半生と歴史をもとに、異文化の中で、異文化とともに生きる喜びや難しさ、また家族の愛、そこでの葛藤が描かれています」と小川。彼女自身、とても胸を打たれた作品だというが、「後悔や傷み、それを乗り越えて彼女が得たものが描かれ、ある種私小説的ですが、非常に普遍的な物語。ぜひシェアしたいなと思いました」。■2025年12月(中劇場)『スリー・キングダムス Three Kingdoms』(日本初演)作:サイモン・スティーヴンス翻訳:小田島創志演出:上村聡史「現在、日本の演劇の世界でも大変な人気を誇るイギリスの劇作家サイモン・スティーヴンスによる日本初演の作品。演出は現在、新国立劇場演劇芸術参与である上村聡史さんです。サスペンスミステリーの体を取りながら、資本主義の裏にひそむ影、現在の闇を探求していく物語。サイモン・スティーヴンスらしいリアリズムの枠を超えた、詩情性あふれる作品となっています」(小川)。英国初演時の劇評は賛否が分かれたというが、過去に二度、スティーヴンス作品を手がけた上村がどのように描き出すのか、注目される。ノゾエ征爾の新作、小川絵梨子が初めて演出を手がけるフルオーディション企画も以下3作品は、ひとつのテーマのもとで上演されるシリーズものとしての上演となるという。■2026年4月(小劇場)『ガールズ&ボーイズ』(日本初演)作:デニス・ケリー翻訳:小田島創志演出:稲葉賀恵「2020年に上演を予定していましたが、コロナ禍で中止、今回新たなチームに結集いただきます。2018年に英国ロイヤルコート劇場でキャリー・マリガン主演により初演された、比較的新しい作品で、女性の一人芝居です。ある女性の視点から、人生における愛と仕事、人生の喜びと、そこに突如現れた喪失が語られていく物語で、現代社会の歪みを、女性の視点から描きます。今回の日本初演ではその女性の役を、年代の異なるふたりの女性のWキャストで上演します。いまの女性のより広い視野を描くことができれば」。演出は、小川の芸術監督就任後の第1作となった『誤解』、ロイヤルコート劇場の劇作ワークショップから生まれた、須貝英の『私の一ヶ月』を演出した稲葉賀恵が担う。■2026年5月(小劇場)フルオーディションVol.8『エンドゲーム』作:サミュエル・ベケット翻訳:岡室美奈子演出:小川絵梨子小川の芸術監督就任当初から実施してきた、フルオーディション企画の第8弾。「ベケットの中でも、『ゴドーを持ちながら』と比較されることが多い作品ですが、『ゴドー』よりも、より荒廃して見える世界、人間同士の繋がりもより希薄に見え、鬱々とした空気が漂う、一見すると世界の終わりを描いているようにも見えます。しかし私は、実は私は“終わり”を描いているのではなく、“終わらないため”に私たちはどう生きるかを考えるための作品だと捉えています。私たちがより良い世界、より良い未来を考えることこそが希望のひとつなのである、ということを描ければと願っております」と語る小川。自身でフルオーディション企画の演出を手がけるのは初めてとのこと。「オーディションに参加することは実はとても大変なこと。興味をもって参加してくださる俳優さんの皆さんに期待するとともに、感謝申し上げたいと思います」。■2026年6月(小劇場)ノゾエ征爾 新作作:ノゾエ征爾演出:金澤菜乃英「現在の我々の一人ひとりが日常で抱える痛みや苦しさ、そして人に言えない不安や弱み、それに寄り添ったような作品になっていくと思います。強くあること、間違えないこと、それを求められる現代社会で実は一人ひとりが一人ぼっちで抱えてきたある種の生き辛さを、ノゾエさんらしい温かな視点で描き出していきます」。演出を手がける青年座の金澤菜乃英は、新国立劇場初登場。「できる限り若手の、また女性の演出家につくっていただきたいと考えてまいりました。今回、金澤さんを演出にお迎えできることを、大変嬉しく思っております」。以上2作品のシリーズのテーマは、「生きる意味を見出し続けること」というが、シリーズのタイトルは未定。「ノゾエさんの新作のタイトルが決まってからつけようと思っています」と小川はいう。それは、彼女が最後にやりたいとずっと温めていたというテーマであり、「分断化が進み、どんどん悪いほうへ、終わりのほうに向かっているのではないかという中で、個人が痛みを抱えながら、それでも未来に向かってどう考え続ければいいのかということをテーマにしています。痛みとか弱さを否定的に書くのではなく、それとともにどうあるか、よりよい未来に対して考え続けるということこそが、ひとつの我々の希望なのではないということを描きたい」と明かした。■2026年7月(小劇場)『11の物語-短編・中編(仮)』演出:鵜山仁、大澤遊、小山ゆうな、須貝英、鈴木アツト、西沢栄治、宮田慶子、山田由梨、小川絵梨子ほか「古今東西の中編、短編の戯曲を集めて、作品集として上演します。“11”というのは仮の数字で、上演作品の数に合わせて変わってゆく予定です」と小川。「日本でも世界でも、実はたくさん、たくさん短編、中編のいい作品がありますが、上演の機会はわりと少ない。それを、演劇が初めての方にも気軽に楽しんでいただける作品、またお子さん向けの作品と、楽しくいろんな作品に出会っていただきたいと、中編短編のフェスティバルを行うことにしました」。蓬莱竜太、岩井秀人の作品も登場予定とのこと。また特別編として、新国立劇場で16年以上にわたりシェイクスピアの歴史劇シリーズを手がけた鵜山仁と俳優のチームが、新しいシェイクスピア作品のリーディング公演を行うという。このほか、トークセッションやワークショップなどを展開してきた「ギャラリープロジェクト」、プレビュー公演、聴覚障がいを持つ人を対象としたサポート公演、現場でのハラスメント講習、また公演映像のデジタル配信なども引き続き実施。もちろん、小川の強い希望で取り組みが始まったプロジェクト──上演を前提とせずに、時間をかけて稽古に取り組み、試演会を重ねる「こつこつプロジェクト」も、引き続き試演会を予定しているという。「ここでしかできないこと」を考えた8年間8年の間にいくつもの新たな取り組みに挑戦した小川。「参加してくださったすべての作り手の皆さま、そして何より本劇場に興味を持ってくださった皆さま、作品を観てくださった皆さまに、心より、本当に御礼を申し上げたいと思います。8年間本当にありがとうございました」と述べ、感極まって声を詰まらせる場面も。質疑応答でも記者からの質問一つひとつに、きめ細やかに答える。8年間の手応えを問われると、「できたこと、できなかったこと、反省したこと、嬉しかったこともたくさんあります。私の力不足、申し訳ないと思うこともたくさん。芸術監督になって1年目からコロナ禍が始まり、その影響は2、3年続きました。世界は戦争、震災も続いた。時代が変遷、激変していく中で、演劇に何ができるかな、その時代に沿った作品として何ができるかなと考え、その中で、精一杯やったと思っています」と振り返った。その後会場を移して行われた小川を囲んでの記者懇談会では、より近い距離で、記者たちの様々な質問にこたえた。会場には、小川芸術監督時代の公演の全チラシが掲示されていたが、どの作品もすべて、小川にとって大切なものに違いない。が、「思い入れのある作品は?」と問われると、「そうですね、『誤解』(2018年10月)は、最初の最初でしたから──」と、愛おしそうにチラシに目を向ける。「実は、私が芸術監督になってからチラシのあり方を変えさせていただき、デザインを重視したいと、表から俳優さんの名前を外すことに。お客さまが、パッとビジュアルを見たときに、何かワクワクする、手に取りたくなるものにしたくて、文字情報を制限したんです。新しい試みで四苦八苦しました。それから『願いがかなうぐつぐつカクテル』(2020年7月)は、コロナ禍の中で最初に上演できた作品。こどもも大人も楽しめるシリーズのひとつでしたが、すごく嬉しかったのは作品の中にマスクを組み込んでくださって、小山ゆうなさんの演出に、すごく敬意を抱きました。このシリーズでは、『モグラが三千あつまって』(2023年7月)も、セットの上にお子さんがいっぱい乗ってくださって、すごく嬉しかったな……」と、回想は止まらない。その後の話題は、国立の劇場の芸術監督としての役割について、演劇の未来についてなど多岐にわたった。「『ここでしかできないこととは何か』ということをすごく考えました。こつこつプロジェクトは、理解していただくのにものすごく時間がかかりましたが、いろんな人たちが関わる芸術は、一人の作り手のためのものでなく、全員での芸術。このように時間をかけていくことで、作品の強度を上げ、たくさんのお客さまに楽しんでいただける可能性に満ちた作品ができるのではないかと考え、始めました。このプロジェクトをやりたいがために、この職を引き受けさせていただいたというのが正直な気持ちです。他のものを否定するのではなく、オプションが増えることで、新国として、豊かになるためのお手伝いとして何ができるのかとずっと考えていました」任期終了を見据えての話題が中心となったが、今シーズンの公演も、まだ4作品もの注目作が控えている。小川の芸術監督としての挑戦は、まだまだ終わらない。取材・文:加藤智子
2025年03月06日3月4日(火)より東京国立近代美術館で開幕した『ヒルマ・アフ・クリント展』。同展の特設ショップで見つけたミュージアムグッズをご紹介します!色鮮やかで神秘的な10点組の大作〈10の最大物〉など、アフ・クリントの作品をモチーフにしたアイテムが揃っています。●PCタブレットケース5280円PCタブレットケース5280円《10の最大物、グループIV、No.3、青年期》のビビッドなオレンジが目を引くタブレットケース。仕事や勉強にパワーをもらえること間違いなし!●刺繍サテントート5280円刺繍サテントート5280円《10の最大物、グループIV、No.5、成人期》をあしらったサテンの光沢が美しいトートバッグ。曲線にほどこされている刺繡がポイントになっている。●ソックス2200円ソックス2200円こちらも〈10の最大物〉から3つの作品をモチーフにしたソックス。春らしい色合いでお出かけするのが楽しくなりそう。●Tシャツ5940円Tシャツ5940円Tシャツ5940円《10の最大物、グループIV、No.7、成人期》をはじめ、代表作があしらわれたTシャツ。サイズはMとLで展開。●トートバッグ2750円トートバッグ2750円サブバックに使いやすそうなトートバッグも用意。カラフルな色合いの作品が地色に映える。●クリアファイル660円クリアファイル660円定番のA4サイズのクリアファイル。モチーフには色のきれいな作品が選ばれていて、気持ちも明るくなりそう。●アクリルマグネット990円アクリルマグネット990円デスクまわりなどにペタっと貼り付ければ、それだけで気持ちがうきうきするはず。5種類あり。●ぷっくりアクリルキーホルダー1650円ぷっくりアクリルキーホルダー1650円ぷくっと厚みのあるキーホルダー。いつでもどこへでもヒルマ・アフ・クリントの作品世界を持ち歩けます。※商品の価格は全て税込み<開催概要>『ヒルマ・アフ・クリント展』2025年3月4日(火)~6月15日(日)、東京国立近代美術館にて開催公式サイト:
2025年03月06日新国立劇場バレエ団プリンシパルの渡邊峻郁、Co.山田うんで活躍する吉﨑裕哉という、異色の組み合わせによる対談が実現した。ともに、2025年3月に新国立劇場で上演される舞台に出演するダンサーだ。渡邊は、20世紀のバレエの3つの名作を上演する「バレエ・コフレ」で、鬼才ウィリアム・フォーサイスによる傑作『精確さによる目眩くスリル』に挑戦、吉﨑は『オバケッタ』再演での登場だ。実はふたりとも同い年、お互い密かにリスペクトし合っていることも発覚したこの対談。ふたりは、劇場のはからいでお互いの稽古場を見学、大いに刺激を受けた様子だ。──先日、お互いにリハーサルを見学し合われたとのことですが、実は、おふたりは元々お知り合いだったそうですね。渡邊ふたりとも4年前の新国立劇場のダンス公演『舞姫と牧神たちの午後 2021』に出演していて、僕はそこで吉﨑さんの踊り(『極地の空』)を観ているんです。すごくしなやかで、全然力みがなく、カッコよかったです。吉﨑渡邊さんの踊りは本当に美しいですね。リハーサルでも自分を美しく見せる哲学みたいなのが見えてきて、それが背中から伝わってきました。興味があります。渡邊え……僕は吉﨑さんに対して全く同じことを思っていたんですよ。自分の踊りの見せ方、この角度、この入り方が一番カッコよく見えるというのを、よく研究されていると感じました。僕は『オバケッタ』の初演を拝見しているのですが、そのときからすごくクールだなと思って注目していました。吉﨑僕も、新国立劇場のバレエ公演のキャストが発表されたら、絶対にチェックします。あ、渡邊さんがいる!って。渡邊ええっ!?吉﨑バレエをやらずにダンスの世界に入ったので、憧れがすごく強いんです。美しいライン、基礎がある人を羨ましく思います。渡邊さんの舞台は『夏の夜の夢』(2023年)を拝見しました。渡邊わあ、ありがとうございます。先日見ていただいた『精確さによる目眩くスリル』のリハーサルは、始まってまだ1週間くらいの時点でしたから、全然まだまだの状態でしたが。吉﨑『精確さによる目眩くスリル』は、フォーサイス作品の中でもバレエダンサーに向けてつくられた、バレエの徹底した基礎がないとできない作品ですよね。その中でオフバランスだったり抜いたりといった要素が入ってきて、すごくチャレンジされていた。本番の舞台でどんなふうに現れてくるのか、興味深いです。──ダンサーの皆さんにとって、フォーサイスとはどのような振付家なのでしょうか。吉﨑裕哉吉﨑僕は新潟のNoismというカンパニーでクラシックバレエをベースとしたコンテンポラリーダンスを踊っていたので、フォーサイス、キリアン、ベジャールを、現代のダンスを築いてきた偉大な先人たちと捉えています。そのフォーサイスの作品を日本で観ることができるなら、絶対観なきゃ駄目でしょ!と(笑)。しかも新国の、確かな技術があるダンサーたちが踊るのですから。渡邊ヨーロッパのカンパニーにいたとき、この作品を上演する機会があり、僕は別の振付家の作品を踊っていたのですが、こんな大変な作品があるんだと興味を抱きました。まさか日本に帰ってきて踊ることになると思っていなかったので、出演が決まってすごく嬉しく思いました。従来のバレエだけでは表現できない挑戦があり、だからといってすべてが自由ではなく、厳密な決まりごとの中で自由に踊る、という感覚ですね。吉﨑思ったよりずっと細かく指導されていましたね。首のつけ方とかアームスの出し方も、「こう」じゃなくて、「こう!」と。渡邊しっかり見てくださって(笑)。吉﨑僕も振付をするのですが、振付は言語、つまり文章みたいなもので、そこに句読点が入るか入らないか、「私は」なのか「私が」なのか、そういう違い、一言一句にこだわった作品だと思い、僕は嬉しくなりました。渡邊今日は女性と一緒に踊る場面を稽古してきたのですが、女性と並走して踊りつつ、視線は合っているけどお互いに全然違う動きを別のカウントでやる、という感覚です。とにかくカウントがすごく厳密で、1カ所でもズレると全てが崩れるし、ここだけは絶対にふたりがぴたりと合う、というところもある。渡邊峻郁吉﨑超絶技巧、ですね。それをあのレベルで踊っているのを見せつけられたので、同じダンサーとしてすごいなと思います。フォーサイスの振付は、従来のバレエとは違う筋肉を使ったり、疲れる場所が違っていたりするのですか。渡邊それはありますね。意外とオフバランスが多用されていて、外どちらかの足に乗ってないと次に行けない、ということが多い。しかも比較的深い位置が多く、プリエをすごく大事にされています。『オバケッタ』前半はワクワク、後半は────渡邊さんは『オバケッタ』の初演(2021年)をご覧になられたそうですね。渡邊すごく引き込まれました。前半と後半とかなり雰囲気が違っていたのが印象的でした。前半はキャラクターが次々と現れて、キャラクターソングみたいのがあって──。吉﨑僕が踊るのは電気男という、家のインテリアのライトを擬人化したキャラクターで、黄色い手袋つけてピカピカしています(笑)。歌は、あれは、自分で歌っているんですよ。録音ではありますが。『オバケッタ』稽古より『オバケッタ』稽古より渡邊吉﨑さんの記事を読ませていただいたのですが、ミュージカルの学校に行かれていたそうですね。吉﨑いまもミュージカルに出ていますが、自分の声の録音で踊るのは不思議な感じです。歌い方によって踊りは変わりますから、録音もちょっとした大仕事。今回も再録音をして、本番に向けて、自分が一番テンション上がりやすい歌い方を心がけました。全体の構成としては、1部が賑やかなのと比べて、2部は打って変わって死後の世界、お化けたちの世界で、群舞が多い。ゆめたという主人公が亡くなったおばあちゃんに会うという話で、割と抽象的な感じになります。渡邊スタジオでの皆さんの集中力、すごかったですね。もちろんとても和やかな雰囲気なのですが、音が流れた瞬間の切り替えは、本当にすごくて、僕たちのリハーサルも、改めて気を引き締めなければと思いました。吉﨑基本的に皆、ふざけているので、切り替えがはっきり見えただけかもしれません (笑)。──『オバケッタ』初演の際はどのように作品づくりを進められたのでしょうか。吉﨑うんさんはわりと、僕らに委ねてくれるんです。たとえば、壁男というキャラクターと電気男の、3人で踊るシーンがありますが、そこはブルース調の音楽を出して、「これでこういう感じのニュアンスでつくってみて」と。結構ざっくりなので(笑)、めちゃめちゃ迷走、苦労した記憶があります。ほかにもメデューサとかカッパとかいろんなキャラクターが出てくるので、それぞれで振付を考える。うんさんも細かいところはわからないままつくっていて、僕らから出てきたアイデアをさらに膨らませ、相互作用みたいな感じでつくっていき、結局何がどちらのアイデアでどうなっていったかわからないながら、「できた!」となる(笑)。間違いなくうんさんにヴィジョンはあるけれど、皆でつくったものでもあるんですね。新国立劇場でコンテンポラリーを上演できるなんて、とても光栄なこと。だから中途半端なことはできないし、意気込みはかなり強いです。『オバケッタ』稽古より渡邊踊ってみたいですよね、『オバケッタ』。……いや、無理!こんな素晴らしい方たちの中に入ったら恥ずかしすぎます(笑)。実は、初演を観たあと、山田うんさんの映像をいろいろ探して見ていたんですよね。地域密着の活動もされている方と知りましたが、ダンサーのエネルギーが作品の中ですごく放出されているように思います。吉﨑Co.山田うんに入ろうと思ったきっかけは、作品を観て、山田うんって何を考えているんだろう、何を思ってこんなに面白いことをやっているんだろうと興味を持ったからなんです。加入して5、6年経ちますが、やっぱりいまだにわからない(笑)。理にかなっていない動きもあるけれど、でもだんだん、かなってくる。そこにはうんさんなりの哲学があって、人前で踊ったときに、面白くつながる。ダンサーの熱量を引き出すのも、肉体を躍動させるのもうまい。すごいなって思います。『オバケッタ』稽古より渡邊『オバケッタ』は小さな子も大人も楽しめる要素がたっぷり盛り込まれていますし、ダンスをよくご覧になる方にとっても見応えのある素晴らしい舞台です。装置も絵本の中の、夢の世界。絵本作家の方が美術を手がけられていて、カラフルできれいですよね。こういう夢って、皆、きっと見たことがあると思います。おばあちゃんに会う夢は僕も経験したことがある。前半はワクワク、後半は、心の奥にちょっと響くものがあって、死について感覚的に受け取ることで、「楽しかった」だけではない、何かちょっと考えさせるものが残る。公演を観たあと、散歩しながら家に帰る間は放心状態。個人的な経験も思い出されたりして、いろいろ考えちゃいました。劇場に足を運んで、ワクワク楽しむもよし、胸をキュッとさせてもよしで、多分、それぞれの楽しみ方がある──今日はこれを言うことができてとても嬉しい!実は今日、吉﨑さんに会えるのを本当に楽しみにしていたんです。観たらきっと世界が広がるフォーサイス作品──「バレエ・コフレ」の見どころについてもぜひ聞かせてください。渡邊そうでした(笑)。「コフレ」はフランス語で宝石箱という意味で、3つの異なる魅力をもつ作品を楽しめる公演です。僕らが取り組むフォーサイス作品では、『精確さによる目眩くスリル』のタイトルどおり、ダンサーの精密なテクニックと、そこからちょっと抜け出るような挑戦的な部分を感じていただけたら。『火の鳥』は20世紀初頭からいまに残る名作です。また『エチュード』は、バーレッスンから始まりますが、バレエ団の実力が問われる作品。ダンサーそれぞれの美しさ、コール・ド・バレエの美しさをたっぷり味わえて、新国立劇場バレエ団にぴったりな作品だと思います。吉﨑熱く語ってくださったので、『オバケッタ』について僕から話すことはもうないのですが(笑)、誰しも生と死というものからは逃れられないですし、そこをテーマにしながら、子どもも、昔子どもだった人にも観ていただける。何か必ず、引っかかるところがあると思います。気軽に劇場に来ていただけたら嬉しいです。渡邊これは絶対観たいですね。吉﨑フォーサイス作品は、バレエを習っている中高生、若い世代の方が観たら、きっと世界が広がりますね。バレエに対する固定観念が覆るというか、コンテンポラリーダンスがバレエから派生していったという、その流れを感じることもできる。そうしたことを気にしないダンサーも多いけれど、僕は、いろんな先人たちが紡いできた流れを大事にしたいなって思っているんです。渡邊なるほど!!だから吉﨑さんの動きは綺麗なんですね。『極地の空』を拝見したとき、こう、このポジション(と、立ち上がってポーズ)の、ここをこうしたときのここ!ここ!!ここの手の先がすごく綺麗で、それで、きっとクラシックを踊られてきた方なんだなと思っていました。吉﨑いや、ダンスを始めたのは19歳と遅く、ちゃんとバレエを習うようになったのもNoismに入ってからの22歳。基礎がないとずっと言われ続け、悔しい思いをしました。遅く始めたけれど、でも、近づくことはきっとできる。5番ポジションがきれいに入らなくても、美しい筋肉の使い方とか、指先の表現を大事にしたい。クラシックバレエへの憧れが、僕をそうさせているんだと思います。渡邊吉﨑さんのこだわりの一端を知ることができました──って、純粋な一ファンの発言になっちゃいました(笑)。渡邊が出演する新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」は、2025年3月14日(金) ~3月16日(日)新国立劇場 オペラパレスにて上演、また吉﨑が出演する『オバケッタ』は、2025年3月29日(土) ~3月30日(日)に新国立劇場 小劇場で公演ののち、4月5日(土)には大分、4月12日(土)に松本での上演も予定されている。チケットは発売中。取材・文:加藤智子撮影:阿部章仁<公演情報>新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」『火の鳥』振付:ミハイル・フォーキン音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー美術:ディック・バード衣裳:ナターリヤ・ゴンチャローワ照明:沢田祐二『精確さによる目眩くスリル』振付:ウィリアム・フォーサイス音楽:フランツ・シューベルト美術・照明:ウィリアム・フォーサイス衣裳:ステファン・ギャロウェイ『エチュード』振付:ハラルド・ランダー音楽:カール・チェルニー/クヌドーゲ・リーサゲル編曲ステージング:ジョニー・エリアセンアーティスティック・アドヴァイザー:リズ・ランダー照明:ハラルド・ランダー芸術監督:吉田都出演:新国立劇場バレエ団指揮:マーティン・イェーツ管弦楽:東京交響楽団日程:2025年3月14日(金) 〜16日(日)会場:東京・新国立劇場 オペラパレスチケット情報:()公式サイト:『オバケッタ』演出・振付・作詞:山田うん音楽:ヲノサトル美術:ザ・キャビンカンパニー照明:櫛田晃代衣裳:池田木綿子音響:黒野尚日程:2025年3月29日(土)~3月30日(日)会場:東京・新国立劇場 小劇場チケット情報:()公式サイト:
2025年03月04日2月下旬、新国立劇場オペラ公演の2025/26シーズン・ラインアップ発表会見が行なわれ、オペラ芸術監督の指揮者・大野和士が演目について語った。新国立劇場オペラの2025/26シーズンは今年10月から来年7月まで。全10演目(46公演)が上演される。大野はまず新制作の演目を紹介した。来季の新制作は11月のアルバン・ベルク《ヴォツェック》と来年6~7月のリヒャルト・シュトラウス 《エレクトラ》。指揮はどちらも芸術監督の大野自身。ベルク《ヴォツェック》 全3幕(ドイツ語上演/日本語&英語字幕付き)11月15日(土)、18日(火)、20日(木)、22日(土)、24日(月・休)全5回公演[指揮]大野和士[演出]リチャード・ジョーンズ[美術・衣裳]アントニー・マクドナルド[照明]ルーシー・カーター[出演]ヴォツェック:トーマス・ヨハネス・マイヤー(バリトン)鼓手長:ジョン・ダザック(テノール)アンドレス:伊藤達人(テノール)大尉:アーノルド・ベズイエン(テノール)医者:妻屋秀和(バス)第一の徒弟職人:大塚博章(バス)第二の徒弟職人:萩原潤(バリトン)白痴:青地英幸(テノール)マリー:ジェニファー・デイヴィス(ソプラノ)マルグレート:郷家暁子(メゾ・ソプラノ)[合唱]新国立劇場合唱団[児童合唱]TOKYO FM 少年合唱団[管弦楽]東京都交響楽団新国立劇場の《ヴォツェック》は、2009年に制作されたアンドレアス・クリーゲンブルク演出の舞台に代わる、ふたつ目のプロダクション。1925年に初演された、無調手法で書かれたオペラのうちで最も重要と言われる作品だ。しかし大野は、「無調という言葉に怯えないで」と力説した。「まず、全3幕がそれぞれ30分程度。ということは1時間30分ほどで終わってしまいますから、楽に考えていただくと、《ヴォツェック》の垣根は越えやすくなると思います。そして無調の中にも、ワルツやアリア、フーガ、ポルカなどが出てきて、耳に喜びをもたらす部分になっています。(聴きやすい)メロディがそこかしこに聴こえてまいりますので、それをもって《ヴォツェック》に向き合っていただくといいんじゃないかと思います」(大野和士・オペラ芸術監督)じっさい、無調ではあっても無機的ではない。無調や十二音技法の中に叙情的で調的な響きが絶妙に組み込まれているのはベルクの音楽の特色だ。しかも《ヴォツェック》は、音楽的構成と劇的構成が緊密に結びついたオペラの成功例として音楽史に刻まれている名作。ぜひ大野監督の言葉を信じて、食わず嫌いせずに耳を傾けてみてほしい。題名役ヴォツェックにはトーマス・ヨハネス・マイヤー(バリトン)。2月の《フィレンツェの悲劇》(ツェムリンスキー)でも圧巻の存在感を見せつけた、新国立劇場ではもはやおなじみの名バリトンだ。大野によると、2021年の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》のカーテンコールの舞台上で、指揮者・大野とハンス・ザックス役を歌ったマイヤーが、「次は何をやりたい?」(大野)「ヴォツェック!」(マイヤー)と会話していたそうで、今回の上演はそこで決まったのだとか。拍手を受けながら、そんなことも話しているとは、面白い!ヴォツェック役:トーマス・ヨハネス・マイヤー Photo by Simon Paulyリヒャルト・シュトラウス《エレクトラ》 全1幕(ドイツ語上演/日本語&英語字幕付き)2026年6月29日(月)、7月2日(木)、5日(日)、8日(水)、12日(日)全5回公演[指揮]大野和士[演出]ヨハネス・エラート[出演]クリテムネストラ:藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)エレクトラ:アイレ・アッソーニ(ソプラノ)クリソテミス:ヘドヴィグ・ハウゲルド(ソプラノ)エギスト:工藤和真(テノール)オレスト:エギルス・シリンス(バス・バリトン)監視の女:森谷真理(ソプラノ)ほか[合唱]新国立劇場合唱団[管弦楽]東京フィルハーモニー交響楽団《エレクトラ》も新国立劇場で新制作されるのは2度目(先代は2004年11月に上演されたハンス・ペーター・レーマン演出のプロダクション)。「演出のヨハネス・エラートさんとは、フランクフルトのオペラで現代オペラを一緒にやって、現代作品の、ひと筋縄ではいかないような複雑な箇所をうまく舞台化してくれた。流れの雅やかな、素敵な舞台を作っていたのを覚えています」(大野)1915年初演。こちらも20世紀の作品だ。オペラ中に繰り返し出現する3音のモティーフを何度も“熱唱”して作品の魅力を伝える大野。《エレクトラ》は“緋色”のオペラだという。「《ヴォツェック》との対比ですが、たいへん暗い筋書きの《ヴォツェック》が黒だとしたら、エレクトラは緋色。激しく燃えたぎるような色です。最初から最後まで手に汗を握るオペラです」(大野)ギリシャ悲劇を題材にした物語。夫であるアガメムノン王を殺した妻クリテムネストラに、日本が誇るメゾ・ソプラノの藤村実穂子、その娘の題名役エレクトラにエストニアのドラマティック・ソプラノのアイレ・アッソーニ。休憩なし約1時間45分の1幕もの。この2演目以外のレパートリー公演の演目は下記の一覧のとおり。新国立劇場初登場の海外勢に注目。開幕の《ラ・ボエーム》のミミ役のソプラノ、マリーナ・コスタ=ジャクソン、勅使川原三郎演出の《オルフェオとエウリディーチェ》のジュリア・セメンツァート(エウリディーチェ/ソプラノ)、サラ・ミンガルド(オルフェオ/アルト)、《愛の妙薬》でアディーナを歌う新星ソプラノ、フランチェスカ・ピア・ヴィターレ、《ウェルテル》の題名役に起用される世界的スター・テノール、チャールズ・カストロノーヴォらが、世界レベルの旬の歌声を聴かせる。日本勢ではとくに女声陣に期待したい。今シーズン、《夢遊病の女》のリーザと《カルメン》のミカエラを歌った伊藤晴が、《ラ・ボエーム》では艶やかなムゼッタを歌う。《リゴレット》のジルダは現在の日本を代表するソプラノの中村恵理。《ウェルテル》では、昨年センセーショナルな日本デビューを飾った砂田愛梨が、今年2月の《ジャンニ・スキッキ》に続いてソフィー役で新国立劇場の舞台に登場し、ひと足先に世界で活躍する脇園彩(メゾ・ソプラノ)とともに、女声ベルカントの逸材の揃い踏みとなるのもうれしい。取材・文:宮本明【新国立劇場2025/2026シーズン・オペラ・ラインアップ】10月1日(水)初日(全5回公演)プッチーニ《ラ・ボエーム》[指揮]パオロ・オルミ[演出]粟國淳[出演]ミミ:マリーナ・コスタ=ジャクソン(ソプラノ)、ロドルフォ:ルチアーノ・ガンチ(テノール)、マルチェッロ:マッシモ・カヴァレッティ(バリトン)、ムゼッタ:伊藤晴(ソプラノ)ほか11月15日(土)初日(全5回公演)ベルク《ヴォツェック》 ☆新制作上記参照12月4日(木)初日(全3回公演)グルック《オルフェオとエウリディーチェ》[指揮]園田隆一郎[演出]勅使川原三郎[出演]エウリディーチェ:ジュリア・セメンツァート(ソプラノ)、オルフェオ:サラ・ミンガルド(アルト)ほか2026年1月22日(木)初日(全5回公演)ヨハン・シュトラウスII世《こうもり》[指揮]ダニエル・コーエン[演出]ハインツ・ツェドニク[出演]アイゼンシュタイン:トーマス・ブロンデル(テノール)、ロザリンデ:サビーナ・ツヴィラク(ソプラノ)、ファルケ:ラファエル・フィンガーロス(バリトン)、オルロフスキー:藤木大地(カウンターテナー)ほか2026年2月18日(水)初日(全5回公演)ヴェルディ《リゴレット》[指揮]ダニエレ・カッレガーリ[演出]エミリオ・サージ[出演]リゴレット:ウラディーミル・ストヤノフ(バリトン)、ジルダ:中村恵理(ソプラノ)、マントヴァ公爵:ローレンス・ブラウンリー(テノール)、スパラフチーレ:斉木健詞(バス)、マッダレーナ:清水華澄(メゾ・ソプラノ)ほか2026年3月5日(木)初日(全5回公演)モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》[指揮]飯森範親[演出]グリシャ・アサガロフ[出演]ドン・ジョヴァンニ:ヴィート・プリアンテ(バリトン)、レポレッロ:ダニエル・ジュリアニーニ(バス)、ドンナ・アンナ:イリーナ・ルング(ソプラノ)、ドン・オッターヴィオ:デイヴ・モナコ(テノール)ほか2026年4月2日(木)初日(全5回公演)ヴェルディ《椿姫》[指揮]レオ・フセイン[演出]ヴァンサン・ブサール[出演]ヴィオレッタ:カロリーナ・ロペス・モレノ(ソプラノ)、アルフレード:アントニオ・コリアーノ(テノール)、ジェルモン:ロベルト・フロンターリ(バリトン)ほか2026年5月16日(土)初日(全4回公演)ドニゼッティ《愛の妙薬》[指揮]マルコ・ギダリーニ[演出]チェーザレ・リエヴィ[出演]アディーナ:フランチェスカ・ピア・ヴィターレ(ソプラノ)、ネモリーノ:マッテオ・デソーレ(テノール)、ドゥルカマーラ:マルコ・フィリッポ・ロマーノ(バリトン)ほか2026年5月24日(日)初日(全4回公演)マスネ《ウェルテル》[指揮]アンドリー・ユルケヴィチ[演出]ニコラ・ジョエル[出演]ウェルテル:チャールズ・カストロノーヴォ(テノール)、シャルロット:脇園彩(メゾ・ソプラノ)、アルベール:須藤慎吾(バリトン)、ソフィー:砂田愛梨(ソプラノ)ほか2026年6月29日(月)初日(全5回公演)リヒャルト・シュトラウス《エレクトラ》 ☆新制作上記参照
2025年03月04日新国立劇場でアレックス・オリエ演出『カルメン』が開幕し、演出を務めたアレックス・オリエ、新国立劇場オペラ芸術監督を務める大野和士のコメントが発表された。本公演は2021年7月にプレミエ(初演)を迎えたもの。当時はコロナ禍で、出演者間の距離の確保などの厳しい感染防止対策を講じて上演された。今回は新たに演出を練り直した完全上演。公演は3月8日(土)まで開催される。撮影:堀田力丸提供:新国立劇場【『カルメン』演出アレックス・オリエ コメント】1875年の初演からちょうど150年、『カルメン』はなぜ今日まで人々の心を捉えるのか。私は、カルメンの「自由を求める」人物像が一番の魅力ではないかと考えました。カルメンは強く、明るく、人生を楽しむ女性、勇気をもって問題に立ち向かう知的な女性、そして自由の象徴です。そんな女性でも、間違った相手を選び、恋してしまうこともあります。ドン・ホセのような、独占欲が強く嫉妬深く、拒絶を受け入れられないマチスタ(男性優位主義の思想の持主)。『カルメン』の物語はマチスモなのです。私は『カルメン』の裏にあるメッセージを考えました。この物語は、今どこで起こってもおかしくありません。世界では一日に170人の女性がドメスティック・バイオレンスで亡くなっているというニュースもあるのです。舞台は東京。カルメンはバンドのボーカリストで、警備にあたるホセと出会う。そんな物語にしました。私が目指しているのは、できるだけ沢山の若者にオペラを観てもらうことです。ワーグナーが言ったように、オペラというのは総合芸術で、音楽もあり合唱もあり助演として演じる俳優もいる、ライブの演奏があってドラマがある。「うわあ面白かった」と感じさせる圧倒的な力があります。私はさらに、面白かったと思って帰るだけでなく、色々な物語、色々なメッセージを感じ取ったなと思わせるくらいにやりたい。若い人たちに、物事には多様な見方、多様な考え方があるということを感じて欲しいと思っています。撮影:堀田力丸提供:新国立劇場【新国立劇場オペラ芸術監督大野和士コメント】アレックス・オリエは非常に挑戦的、大胆な解釈をします。オペラという、過去に生まれ現在まで命をつなぐ芸術に、まさにふさわしいアプローチだと思います。『カルメン』の演出のためオリエ氏を新国立劇場に招いた2021年は、コロナによって人と人との空間がおびやかされる時代でした。オペラの上演では、向かい合えない、正面を向いてしか歌えない、距離を取らなければならないという時代で、ドラマの礎たる人間と人間が交わる空間を作れない状況でした。カルメンとホセはキスもできない。「ラ・フーラ・デルス・バウスのアレックス・オリエここにあり」という大群衆のシーンを作ることは不可能でした。オリエ氏にとっては腕の振るいどころも、極端に言えば居場所もないような環境での創作だったのです。しかしオリエ氏はやはり大胆で挑発的で、今までにないドラマを作りました。彼は才気煥発で情熱的、爆発的な人物で、いつも我々からエネルギーを引き出してくれます。彼がここで『カルメン』という作品から解きほぐしたのは、「束縛からの自由」ということです。『カルメン』は人間を自由へ解放することを描いたドラマだという解釈を見せたのです。古典的な名作『カルメン』がオリエ氏からもう一度新しい命をもらって、別の面を見せます。違った角度から情熱といぶきがあふれ躍動するのです。この『カルメン』の演出では、美術家のアルフォンス・フローレスが、舞台全体を覆う、あたかも鉄骨の巨大な牢獄のような、一度入ったら誰も出られない迷宮のような大建築を構築しました。まず舞台の大建造物から感じる、逃れられない、囚われた感じ。それに対し、人間という存在の証明としてビゼーが書いた「自由」のいぶき。オリエ氏がこの『カルメン』で見せたのは、それだと思います。完全上演となった『カルメン』をぜひ皆さんの目で見届けてください。・2021年公演よりジョルジュ・ビゼーカルメン■チケット情報()(終了分は割愛)3月4日(火)14:003月6日(木)14:003月8日(土)14:00新国立劇場オペラパレス
2025年03月03日上野・国立西洋美術館では、2025年3月11日(火)より、『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館』を開催する。アメリカ、カリフォルニア州のサンディエゴ美術館と国立西洋美術館のコレクションを「作品をどのように見ると楽しめるか」という観点から紹介する美術展だ。ルネサンスから19世紀末まで、600年にわたる美術の歴史を網羅する作品数は、全88点。同展では、それらを、ペア、あるいは小さなグループにわけ、様々な角度から比較しながら、各々の絵画が持つストーリーを深掘りする。たとえば西洋美術館のマリー=ガブリエル・カペとサンディエゴ美術館のマリー=ギユミーヌ・ブノワという女性画家が描いた自画像を並べて、ロココと新古典、それぞれの時代の女性の装いを比較。また、同じイタリア・ルネサンスの画家でも、15世紀後半、ヴェネツィアで学んだクリヴェッリと、16世紀前半、フィレンツェで活躍したアンドレア・デル・サルトによる聖母子像を比べ、その表現の違いや 、そこから受ける印象などを検証。マリー=ギユミーヌ・ブノワ 《婦人の肖像》 1799年頃、 油彩/カンヴァス、 サンディエゴ美術館 Ⓒ The San Diego Museum of Artその昔、サンディエゴの街は、スペインからの入植者によって築かれたこともあり、この地を代表するサンディエゴ美術館はスペイン絵画の宝庫である。同展でもエル・グレコ、ムリーリョ、スルバラン、ソローリャとスペインのオールドマスターの作品を堪能できるが、中でも「ボデゴン」には注目したい。これは、強烈な明暗のコントラストと共に対象を克明に描く、17世紀初頭にスペインで花開いた特有の静物画のことを言う。その様式の始祖とされながらも、現存する静物画は世界に6点しか無いというフアン・サンチェス・コターンの傑作《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》や、スルバランの「神聖なるボデゴン」《神の仔羊》など、対象の本質に迫るスペイン絵画の真髄を見ることができるに違いない。フランシスコ・デ・スルバラン 《神の仔羊》 1635–40年頃、 油彩/カンヴァス、 サンディエゴ美術館 ⒸThe San Diego Museum of Art<開催概要>『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派までサンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館』会期:2025年3月11日(火)~6月8日(日)会場:国立西洋美術館時間:9:30~17:30、金土は20:00まで(入館は閉館30分前まで)休館日:月曜(3月24日、5月5日は開館)、5月7日(水)料金:一般2,300円、大学1,400円、高校1,000円チケット情報:()公式サイト:
2025年03月03日良質な鶏肉をカジュアルに楽しめる鶏焼肉の店希少部位を少しずつ食べられる『囲箱』と、飲める『地鶏の親子丼』は必食『囲箱』も堪能できる、春の新コースを実食良質な鶏肉をカジュアルに楽しめる鶏焼肉の店お店のシグネチャーである『囲箱』の看板が目印南麻布にある【鳥匠いし井ひな】に続き、大阪の名店【鳥匠いし井】の石井吉智氏と見冨右衛門氏が再びタッグを組んだ鶏専門の焼肉店【鶏焼き肉 囲】がオープンしました。高級化が進む焼鳥業界において、串打ちの工程を省き、客自身が鶏肉を焼く“鶏焼肉”という新しいスタイルで注目を集めています。どこか懐かしさの漂う古民家風の店内。桜並木に面しており、お店はビルの2階に位置しているため、桜のシーズンにはお花見を楽しむこともできます(※予約必須)座席はすべて掘りこたつ風のテーブル席。全11卓46席前菜・鶏肉6種&野菜の盛り合わせが楽しめる『囲箱』3,300円~(予約必須)などのアラカルトメニューをはじめ、会食や宴会向きの「飲み放題2時間付 季節の囲コース」(10品 / 1万円)、土日のみ・17時までの早割「飲み放題2時間付 季節の囲コース」(10品 / 8,000円)とコースも多彩。さらに、30人超えの大人数の貸し切り宴会にも対応可能と、さまざまなシチュエーションで利用できます。希少部位を少しずつ食べられる『囲箱』と、飲める『地鶏の親子丼』は必食シグネチャーメニュー『囲箱』『囲箱』3,300円~(予約必須)。単品としてだけでなく、コースの一品としても提供されます【鶏焼き肉 囲】でぜひ食べていただきたいのが、お店のシグネチャーメニュー『囲箱』です。美しい見た目とインパクトのあるプレゼンテーションはもちろんのこと、お店のオリジナル地鶏「きさ輝地鶏」のさまざまな部位を少しずつ楽しめると人気のメニューです。〆のメニュー『地鶏の親子丼』『地鶏の親子丼』1,380円※アラカルトのみさらに、〆の一品としてオススメしたいのが、この『地鶏の親子丼』です。火入れを抑え、卵がゆるめに仕上げられており、絶妙にとろけた卵と柔らかくてジューシーな鶏肉は、お腹がいっぱいでもついつい食べてしまう“飲める親子丼”と言われています。コースには含まれていませんが、追加注文が可能なので、ぜひ食べてほしい一品です。『囲箱』も堪能できる、春の新コースを実食では、この日いただいた「きさ輝地鶏」が楽しめる春の限定コースをご紹介します。「季節の囲コース」メニュー・『せりのおひたし』・『空豆と蕪餡の茶わん蒸し』・『梅しそむね肉』・『囲箱』・『鶏つくね』・『鶏モモの揚げ出し』・『地鶏の蒸し団子 生姜と青ねぎ餡』・『鶏油そば』・『鶏白湯スープ』・『デザート』※ドリンクは2時間飲み放題+・アラカルトから追加『地鶏の親子丼』『ガリサワー』この日にいただいたのは、お店でも人気の『ガリサワー』です。ガリの味がしっかりと感じられ、ガリ好きにはたまらない一杯でした。私も思わずおかわりをしてしまいました。『せりのおひたし』春の新メニューということで、一皿目は『せりのおひたし』から。春を感じる爽やかな香りと、ほんのりとした苦みが特徴です。『空豆と蕪餡の茶碗蒸し』こちらも春の食材、空豆を使った『空豆と蕪餡の茶碗蒸し』。鶏白湯をベースにつくられており、鶏の旨みをしっかりと感じられます。『梅しそむね肉』キメが細かく歯ざわりが良いと評判の「京紅地鶏」の胸肉を使用。この胸肉を薄くスライスし、牛タンのように焼いて楽しむ一品です。梅肉のソースと大葉が添えられており、とてもさっぱりとした味わいが特徴です。『囲箱』※写真は4人前「きさ輝地鶏」のももと胸肉と野菜が入った『囲箱』(※鶏肉は仕入れ状況により京紅地鶏を使用)。上段左から「もも」、「すなずり」、「燻製させた胸肉」、下段左から「手羽中」、「ふりそで」、「手羽元」が含まれています。野菜は季節によって異なります。「燻製させた胸肉」と「すなずり」は約2分、それ以外の食材は約4分焼きますにんにくがガッツリと入った醤油ベース「自家製醤油ダレ」この「きさ輝地鶏」は、鹿児島・霧島の肥沃な大地でのびのびと育ち、力強い旨みを持つオリジナルの地鶏。さっそくいただいてみると、皮目がパリパリで、鶏の上質な脂がジュワッと染み出してきます。肉は適度な弾力がありながら、噛み応えは柔らかな印象です。全体的に淡白な味わいですが、爽やかな旨みが感じられ、脂もくどくなく、ヘルシーなおいしさです。「すなずり」はごま油で味付けされているため、ほんのりとしたごま油の風味が漂います。コリコリとした食感も魅力です。「すずなり」以外は「自家製醤油ダレ」につけていただきます。この「自家製醤油ダレ」はガツンと効いたニンニクが特徴で、どうしても淡白になりがちな鶏肉に良いアクセントを加えてくれます。中毒性のある味わいです。『とりつくね』荒めにカットされている分、焼く際に崩れやすいのでご注意を。ご自身で焼く際は、網目部分ではなく、網の端でじっくり片面4分ほどかけて焼きます。軟骨をはじめ、様々な部位をミンチしてつくられている『とりつくね』。食感が出るようにあえて粗めにカットされているため、その食感のアクセントが心地よい。『鶏モモの揚げ出し』揚げ出し豆腐の鶏肉版である『鶏モモの揚げ出し』。外側がサクッと揚げられており、中はしっとり柔らか。一口食べると、ジューシーな旨みが口いっぱいに広がります。濃いめのおだしがアクセントとなり、お酒との相性も抜群です。『蒸し団子』生姜の香りが漂う『蒸し団子』は、お肉をたくさん食べた後にぴったり。生姜のさっぱりとした味わいが、口の中をリフレッシュしてくれます。『鶏油そば』心地よい満腹感で迎えた〆のメニューは『鶏油そば』。鶏肉のコースは淡白な味が続くため、少しジャンキーな味わいを求めて誕生したそうです。細麺に鶏油が満遍なく絡み、しっかりとした味わいを感じられますが、濃すぎず、ずっと食べ続けられます。角切りの玉ねぎのシャキシャキとした食感や適度な辛みもアクセント。途中でブラックペッパーを加えるとスパイシーな味わいに、さらにお酢を加えるとまろやかな味わいに変化し、何通りもの味わいを楽しめる一品です。『鶏白湯スープ』ここにきて、再び鶏のうまさを体感させられる『鶏白湯スープ』。『地鶏の親子丼』アラカルトメニューから、人気の『地鶏の親子丼』を追加でオーダーしました。“飲める親子丼”と謳われるだけあって、とろとろの食感が特徴です。そのとろとろの卵とプリプリとした鶏肉が絶妙に組み合わさり、満足度の高い一品です。デザートこの日は『いちごのシャーベット』※季節によって変わります桜の咲く季節には、六本木の星条旗通りに面した大きな窓の先に聳え立つ桜の木が満開になり、店内からお花見をしながら食事を楽しめます高級店が仕入れるブランド鶏の希少部位を、自分で焼くことでリーズナブルに味わえる【鶏焼き肉 囲】。春には和菓子も含めた「花見コース」も検討中とのことです。“鶏焼肉”という焼鳥とは異なるスタイルで、ぜひ鶏肉を堪能してみてください。鶏焼き肉 囲【エリア】六本木【ジャンル】和食【ランチ平均予算】-【ディナー平均予算】8,000円 ~ 9,999円
2025年02月28日東京国立近代美術館は、「美術館の春まつり」を、2025年3月13日(木)から4月6日(日)まで開催する。春をテーマにした美術作品が集結「美術館の春まつり」は、桜の開花時期に合わせて開催される東京近代美術館の春イベント。期間中は、19世紀末から今日までの日本近代美術の流れをたどることができる所蔵作品展「MOMAT コレクション」で桜を描いた作品を鑑賞できるほか、花見をしながらひと休みできるお休み処などを用意している。「MOMAT コレクション」会場内には、13,000点を超える所蔵作品の中から厳選した約200点を、12の展示室ごとにテーマを設けて様々な切り口で紹介する。年に1度春の時期にだけ公開する、水面に散る長瀞の桜を描いた川合玉堂による重要文化財《行く春》をはじめ、雨に濡れる吉野の桜が視直的な菊池芳文による《小雨ふる吉野》、鮮やかなピンクの花が鮮やかな船田玉樹の《花の夕》などが一堂に会する。企画展も開催なお同時期には、スウェーデン出身の画家ヒルマ・アフ・クリントの、すべて初来日となる作品約140点が並ぶ企画展「ヒルマ・アフ・クリント展」や、フェミニズムが大衆的な運動となる1970年代から現代までの映像表現を紹介する小企画「フェミニズムと映像表現」も開催する。花見しながら飲食も可能このほか、桜が見える前庭にはお休み処を設置。レストラン「ラー・エ・ミクニ」のキッチンカーでは、特製お花見弁当やドリンクといったテイクアウト可能なメニューを揃えている。美術鑑賞の合間に、花見をしながらゆったりと飲食を楽しむことができる。【詳細】「美術館の春まつり」期間:2025年3月13日(木)~4月6日(日)会場:東京国立近代美術館住所:東京都千代田区北の丸公園3-1開館時間:10:00~17:00(金・土曜は20:00まで)※入館はいずれも閉館30分前まで■所蔵作品展「MOMAT コレクション」会期:2025年2月11日(火・祝)~6月15日(日)会場:4-2階 所蔵品ギャラリー観覧料:一般 500円、大学生 250円※金・土曜日の17:00以降は一般 300円、大学生 150円※高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳の所持者と付添者は無料※期間中展示替えあり。春まつりの特集展示は2月11日(火・祝)~4月13日(日)予定。■同時開催・企画展「ヒルマ・アフ・クリント展」会期:2025年3月4日(火)~6月15日(日)会場:1階 企画展ギャラリー観覧料:一般 2,300円、大学生 1,200円、高校生 700円※中学生以下および15歳未満、障害者手帳の所持者と付添者は無料※企画展入館当日に限り、所蔵作品展「MOMAT コレクション」、コレクションによる小企画「フェミニズムと映像表現」も鑑賞可・コレクションによる小企画「フェミニズムと映像表現」会期:2025年2月11日(火・祝)~6月15日(日)会場:会場:2階 ギャラリー 4※企画展「ヒルマ・アフ・クリント展」、所蔵作品展「MOMAT コレクション」の観覧料で鑑賞可【問い合わせ先】TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
2025年02月22日新国立劇場で5月に上演されるプッチーニ《蝶々夫人》は、同劇場で最も多く上演されている人気演目。題名役を、"理想の蝶々さん"と評判の小林厚子(ソプラノ)が演じる。現代を代表する蝶々さんが、新国立劇場のシーズン公演にいよいよ登場する。「2008年の《アイーダ》でアイーダ役のカヴァーをさせていただいたのが、この劇場でいただいた最初のお仕事でした。私は、新国立劇場に育てていただいたという気持ちがあるんです。その劇場の本公演で歌わせていただけることは、本当に感慨深く、とても光栄なのですが、それは私個人の気持ち。舞台には持ち込まずに、蝶々さんとして作品を届けたいなと思っています」舞台に立っているのは蝶々さんという役であって、小林厚子自身ではないという。そうあるべきなのだろう。それは実際の演じ方、歌い方でも同じこと。「もちろん稽古が始まればマエストロや演出家からのご指示やリクエストはありますが、私自身の準備段階ではプロダクションによって歌い方を変えようとは考えていません。現場で蝶々さんとして感じるままにと思っていますが、同じ演出でも、共演者が違えば、感じ方も毎回違ってきます」新国立劇場《蝶々夫人》の現役プロダクションは栗山民也の演出。2005年の初演から繰り返し上演されている定評ある舞台だ。「あの舞台で演じる時はいつも、あたたかさに包まれているのを感じるんです」同劇場の「高校生のための鑑賞教室」でもこのプロダクションで演じて、その世界観を熟知する彼女。舞台装置(美術:島次郎)はとてもシンプルだ。障子と一本の柱だけで表現された蝶々さんの家の背後に、星条旗に向かって伸びる階段。蝶々さんが生きている小さな世界をアメリカが見下ろしているようなイメージ。どちらかといえばクールな印象を受けるが、実際に舞台に立つ人の感覚は「あたたかさ」なのだ。「以前、共演者ともすごくあたたかい感じがするよねと話したことがあるのですが、あの舞台は“胎内”をイメージしていると伺い、なるほどと思いました。装置からも光からも、何かに抱かれている中でドラマが進行している感じを受けます」演出の栗山民也はこのプロダクション初演時のインタビューで、女の運命、女の物語という意味から、舞台を「胎内」と考えたことを述べている。生命を包み込むもの。それゆえに舞台は丸みを帯びており、その円形を切り裂いた果てに星条旗が見えるという構造だ(会報誌『The Atre』2005年2月号)。そしてその胎内の中では、ふたりの「愛」も守られている。栗山はこう述べる。「……たしかにピンカートンは欲望の対象として蝶々さんをおもちゃだと思ったかもしれない。でもあの一瞬でも、彼女に美を発見し、愛し、至福の瞬間が絶対あったはずだと思う。それがまた一瞬にしてどす黒いものに堕ちてゆく。人間のドラマというものはそういうものではないかと思うのです」(公演プログラム「Production Note」より)蝶々さんはもちろん、ピンカートンも、刹那的にかもしれないが、日本の少女をたしかに愛したはずだ、と。直に言葉で説明することがなくても、そんな意図を敏感に嗅ぎ取った演者たちが、「あたたかい」と感じるのだろう。舞台って面白い。新国立劇場「蝶々夫人」高校生のためのオペラ鑑賞教室公演より撮影:寺司正彦しばしば話題にされるように、オペラの中の蝶々さんは15~18歳。まだ少女と言える年齢だが、演じるソプラノ歌手に要求されるのはドラマティックなリリコ・スピントだ。そのギャップを、どうバランスをとって演じるかが難しいと言われる。「蝶々さんは18歳で自ら死を選んでしまうわけですが、“生ききった”人であると思うんです。歳は若くとも、蝶々さんは自分の人生をしっかりと全うした女性。大変なパッセージやドラマティックな表現、それは生ききった人の音楽、言葉なのだと思います。だから15歳の時は子供っぽい声を出そうとか、18歳になったら大人っぽくなどとは考えていません。そう思わなくても、音楽がそのように作られています。自然に音楽と向き合っていけば、プッチーニがちゃんとそういう道筋に連れて行ってくれるのです。近年は特にそう感じるようになりました。ただ、本当に大変な役です。出ずっぱり、歌いっぱなし、体力も精神力も相当必要です。オーケストラも厚く、心底大変な役ではありますが、ほとんどは言葉をしゃべっているんです。ドラマを細やかに届けられるようにと思っています」2007年に藤原歌劇団の《蝶々夫人》で主役デビュー。しかしスター街道まっしぐらというのではなく、そこから10年間もほぼ毎年新国立劇場でカヴァー・キャストを務めるなどして経験を積み、一歩一歩着実に歩みを進めてきた。「振り返ってみると、あの10年は私にとってとても大切だったと思います。私はたぶん、声帯が小さいほうではないのですけれども、そうすると出来上がるのにやっぱり時間がかかるんですね。レッジェーロで声帯の短い人は出来上がるのが早いと言われていますが、私の大学時代は、オペラのような大きなものを歌うことはなく、先生がくださるヘンデルやヴィヴァルディなどの古典やイタリア歌曲を勉強する毎日でした。ですからようやく少しずつオペラを歌えるようになっても、頂くどの役も『初めまして』でしたが、この劇場でたくさんの役を勉強させていただきました。のんびり屋なので、ゆっくりゆっくり。これからも勉強が終わることはありませんが、先生方、劇場、そして周りの皆さまが導いてくださっていると感謝しています」先述のように、《蝶々夫人》は新国立劇場で最も多く上演されている演目。現在創立28年目のシーズンを迎えている同劇場で、昨季までに53公演の上演実績があり、ここに今季4公演が加わることになる(ちなみに第2位は《カルメン》で、51公演+今季5公演)。さらに、毎夏に行われている「高校生のためのオペラ鑑賞教室」は実にその約4割(59公演)が《蝶々夫人》なので、合計すると断トツ。累計約20万人が鑑賞している、まさに劇場を代表するオペラが《蝶々夫人》なのだ。小林以外の主要キャストは、ピンカートン:ホセ・シメリーリャ・ロメロ(テノール)、シャープレス:ブルーノ・タッディア、スズキ:山下牧子(メゾ・ソプラノ)ほか。指揮はイタリアのオペラ指揮者エンリケ・マッツォーラ。管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団。5月14日(水)、17日(土)、21日(水)、24日(土)の全4公演。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。取材・文:宮本明ジャコモ・プッチーニ蝶々夫人■チケット情報()5月14日(水)18:305月17日(土)14:005月21日(水)14:005月24日(土)14:00新国立劇場オペラパレス
2025年02月19日東京・新国立劇場の小川絵梨子芸術監督就任時よりスタートした「こつこつプロジェクト」に参加した3作品の演出家が集い、小川芸術監督とともに、「こつこつプロジェクト」での創作を振り返るトークイベント『トークセッション 演劇噺Vol.19~演出家が語る“こつこつ つくる”!~』が、2025年4月17日(木) に東京・新国立劇場 小劇場で開催される。「こつこつプロジェクト」は、上演を前提とせず、1年間という期間の中で、参加者が話し合いや試演を重ねて作品理解を深めながら、より豊かな作品づくりを行っていく企画。トークイベントに登壇するのは、2021年に上演された『あーぶくたった、にいたった』の演出を担当した西沢栄治、2024年に上演された『テーバイ』の構成・上演台本・演出の船岩祐太、そして2025年4月に開幕するこつこつプロジェクトStudio公演『夜の道づれ』の演出を務める柳沼昭徳の3名だ。日本では日本では1カ月から1カ月半程度の稽古を経た後上演するというスパンでの創作が多い中、1年という長い期間をかけて、トライアンドエラーを繰り返して作品を育てていく創作手法を経験し、どのような手ごたえがあったのか、三者三様の創作過程を語り合う。参加料金は無料で、2025年2月21日(金) 正午より予約受付がスタートする。<イベント情報><ギャラリープロジェクト>トークセッション 演劇噺Vol.19~演出家が語る"こつこつ つくる"!~出演:西沢栄治(『あーぶくたった、にいたった』演出)船岩祐太(『テーバイ』構成・上演台本・演出)柳沼昭徳(『夜の道づれ』演出)小川絵梨子(新国立劇場演劇芸術監督)進行役:大堀久美子(編集者・ライター)2025年4月17日(木) 18:30開演 ※75分程度を予定会場:東京・新国立劇場 小劇場料金:無料・自由席(要予約)・先着順受付期間:2025年2月21日(金) 12:00~4月16日(水) 23:59詳細・お申し込みはこちら:
2025年02月19日2025年2月13日、新国立劇場が2025/2026シーズン舞踊ラインアップ説明会を実施、舞踊芸術監督の吉田都が登壇し、来シーズンの上演作品を紹介するとともに、今後の展望、意欲を述べた。2020年9月の新国立劇場舞踊芸術監督就任以来、新たなレパートリーの構築、環境の整備、ダンサーたちのレベルアップなどに意欲的に取り組んできた吉田。2025/2026シーズンも、古典全幕の『くるみ割り人形』新制作を含むバレエ6演目、日本初演を含むダンス3演目を上演、意欲的なプログラムが並んだ。この日発表されたラインアップの詳細は以下の通り。新国立劇場バレエ団『シンデレラ』2025年10月17日(金) 〜26日(日)オペラパレス 12回公演振付:フレデリック・アシュトン音楽:セルゲイ・プロコフィエフ『シンデレラ』より(撮影:瀬戸秀美)新国立劇場の代表的レパートリーのひとつとして上演を重ねている作品。「前回(2022年4月〜5月)のリハーサルはZoomで行いましたが、それでもいいところまでもっていけた。新しいメンバーにもアシュトン作品を経験してもらいたい」と吉田。華やかなオープニングとなるだろう。伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』(日本初演)日本初演、2025年12月5日(金) 〜7日(日)小劇場 4回公演演出・振付・テキスト:伊藤郁女振付協力:ガブリエル・ウォン造形美術協力:エアハルト・スティーフェルオロール・ティブー音楽:ジョセフ・カンボン出演:伊藤郁女伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』より(C)Laurent Paillier2023年1月よりストラスブール・グランテスト国立演劇センター「TJP」のディレクターを務める伊藤郁女が、新国立劇場に初登場。2018年にマルセイユのKLAP Maison pour la danseにて初演された本作は、彼女の自伝的な3部作の最後の作品として発表されたソロで、舞台上で彼女はロボットになり、人間としての振る舞いを一から学びなおすことで、人間とは何かを問い、今を生きるために模索する。新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』(新制作)新制作、2025年12月19日(金) 〜2026年1月4日(日)オペラパレス 18回公演振付:ウィル・タケット(レフ・イワーノフ原振付による)音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー美術・衣裳:コリン・リッチモンド『くるみ割り人形』コリン・リッチモンドによる美術模型クリスマスシーズンから年始にかけての上演が定着した新国立劇場の『くるみ割り人形』。2024/2025シーズンの『くるみ割り人形』の観客動員数は2万7,000人を超えたというが、来シーズンは、2年前に『マクベス』を創作した振付家ウィル・タケット、美術・衣裳のコリン・リッチモンドらによる新プロダクションが誕生する。すでに装置、衣裳デザインなどが進んでいるが、「ウィルさんには、家族皆で楽しめる、明るくカラフルなものにしてくださいとお願いしています」と吉田。「いいものを作り、長年親しまれる作品にしていきたい」と意気込んだ。恒例の「ぴあスペシャルデー」(ぴあ貸切公演)は2025年12月28日(日) に実施。新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ 2026」2026年2月6日(金) 〜8日(日) オペラパレス 4回公演フランス語で「宝石箱」を意味するコフレをタイトルに据え、20世紀の珠玉の3作品を集めて上演。『A Million Kisses to my Skin』は英国の振付家、デヴィッド・ドウソンによる2000年の作品。新国立劇場では2023年1月に上演、「デヴィッドさんに直接ご指導いただきましたが、振付家に直接教わることが、どれだけダンサーたちの成長につながるか実感した」(吉田)。ハンス・ファン・マーネンの代表作のひとつ『ファイヴ・タンゴ』は、世界各地で上演されている人気作。当初は2021年に上演予定だったが、コロナ禍でキャンセル、4年ぶりとなる待望の再チャレンジとなる。『テーマとヴァリエーション』は、アメリカ・バレエの父、バランシンが1947年にニューヨークで発表した作品。チャイコフスキーの管弦楽組曲第3番の第4楽章「主題と変奏曲」にのせて、古典バレエの美しさにあふれた踊りが次々と繰り広げられるさまは壮観だ。『A Million Kisses to my Skin』振付:デヴィッド・ドウソン音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ『A Million Kisses to my Skin』より(撮影:鹿摩隆司)『ファイヴ・タンゴ』(新制作)振付:ハンス・ファン・マーネン音楽:アストル・ピアソラ『テーマとヴァリエーション』振付:ジョージ・バランシン音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー『テーマとヴァリエーション』Theme and Variations, Choreography by George Balanchine, (C) The George Balanchine Trust.(撮影:鹿摩隆司)新国立劇場バレエ団『マノン』2026年3月19日(金) 〜22日(日) オペラパレス 6回公演振付:ケネス・マクミラン音楽:ジュール・マスネ『マノン』より(撮影:瀬戸秀美)英国バレエの巨匠、マクミランによる物語バレエの傑作。新国立劇場では2003年、2012年に上演し、コロナ禍の2020年2月に三度目の上演に取り組むも、一部の公演が中止に。「衣裳や装置はなかなか貸し出してもらえないものですが、今回はロイヤル・オペラハウス(英国ロイヤル・バレエ&オペラ)のプロダクションをお借りできることになり、とても嬉しく思います」(吉田)。新国立劇場出身の気鋭アーティストによる作品も登場『フレンズ・オブ・フォーサイス』(日本初演)日本初演、2026年3月25日(水) 〜29日(日) 小劇場 5回公演企画:ウィリアム・フォーサイスラフ・“ラバーレッグズ”・ヤシット振付:ウィリアム・フォーサイス、ラフ・“ラバーレッグズ”・ヤシット、レックス・イシモト、ライリー・ワッツ、ブリゲル・ジョカ、JA コレクティブ(エイダン・カーベリー、ジョーダン・ジョンソン)出演:ラフ・“ラバーレッグズ”・ヤシット、レックス・イシモト、ライリー・ワッツ、ブリゲル・ジョカ、エイダン・カーベリー、ジョーダン・ジョンソン『フレンズ・オブ・フォーサイス』より(C)Bernadette Fink鬼才、ウィリアム・フォーサイスと集った気鋭のアーティストたちが、ステージ上での身体的コミュニケーションを通じてダンスの多様性と可能性を提示する実験的なショーケース。2023年にドイツで初演さえた。ダンサーたちのバックグランドは、フォークダンス、ヒップホップ、バレエと多彩。刺激的なステージが期待される。新国立劇場バレエ団『ライモンダ』2026年4月25日(土) 〜5月3日(日・祝) オペラパレス 10回公演振付:マリウス・プティパ演出・改訂振付:牧阿佐美音楽:アレクサンドル・グラズノフ『ライモンダ』より(撮影:長谷川清徳)2004年、当時の芸術監督、牧阿佐美による演出・改訂振付で初演された、新国立劇場伝統のレパートリー。中世ヨーロッパ、十字軍の時代を舞台に繰り広げられる恋物語は、終幕のグラン・パ・ド・ドゥが有名だが、全幕上演の機会の少ない古典だけに、プティパ最後の傑作の世界をたっぷりと味わえるまたとない機会に。こどものためのバレエ劇場 2026エデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』2026年5月6日(水・休) オペラパレス 2回公演プロダクション原案:マリオン・テイト6月の『白鳥の湖』全幕に先立って上演。進行役によるマイムの解説、音楽や楽器の説明、ストーリー展開のナレーションなどを挟みながら、第3幕を中心に『白鳥の湖』の魅力を凝縮して届ける。新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』2026年6月5日(金) 〜14日(日) オペラパレス 10回公演振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ、ピーター・ライト演出:ピーター・ライト、ガリーナ・サムソワ音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー1981年に初演、古典バレエの美しさと、演劇的な要素を巧みに取り入れたドラマティックな展開で、多くの観客の心を掴んできた作品。2021/2022シーズンの開幕作品として上演、新国立劇場の新たな看板作品に。新国立劇場ならではのコール・ド・バレエの、圧巻の美しさを体感したい。『白鳥の湖』より(撮影:鹿摩隆司)新国立劇場バレエ団 ダブル・ビル2026年7月3日(金) 〜5日(日) 中劇場 4回公演新国立劇場オリジナル作品によるダブル・ビル。元新国立劇場バレエ団ダンサー、宝満直也による新作は、「いつか作品をお願いしたいと思っていた」と吉田も期待。ニューヨークを拠点に国際的に活躍する振付家ジェシカ・ラングによる『暗やみから解き放たれて』は、2014年に新国立劇場バレエ団のために振付けられた作品だ。『ストリング・サーガ(仮題)』(新国立劇場バレエ団委嘱作品、世界初演)振付:宝満直也音楽:久石譲『暗やみから解き放たれて』振付:ジェシカ・ラング音楽:オーラヴル・アルナルズ、ニルス・フラーム、ジョッシュ・クレイマー、ジョン・メトカーフ『暗やみから解き放たれて』より(撮影:鹿摩隆司)こどものためのバレエ劇場 2026『人魚姫〜ある少女の物語〜』2026年7月23日(木) 〜27日(月) オペラパレス 8回公演振付:貝川鐵夫音楽:C.ドビュッシー/J.マスネほか新国立劇場バレエ団出身の貝川鐵夫の振付により2024年7月に世界初演された全2幕のオリジナルバレエ。アンデルセンの童話「人魚姫」をモチーフとした、子どもも大人も一緒に楽しめる感動の舞台だ。「ダンサーたちの成長の機会となるキャスティングを」コロナ禍を乗り越え、2025/2026シーズンの公演数は従来のレベルにまで戻ったという。新国立劇場バレエ団による公演は76回と、開場以来もっとも多くなる。2024年に企業の協力を得て実施した、「新国立劇場こども観劇プログラム・バレエ『アラジン』」、『くるみ割り人形』上演時の「バレエみらいシート」、夏休み期間中の「京王アカデミープログラム新国立劇場でバレエを知ろう!」という社会貢献活動を振り返り、今後も未来ある子どもたちにむけての企画を、新国立劇場の使命として続けていきたいと明かした。また、3月まで実施中の 『アラジン』舞台映像の無料配信() については、「すでに63万回再生され、海外からの反響も大きい。カメラの台数が少なかったり、ついていけていない部分もあったりしますが、これからも続けていきたい」と前向きだ。ダンサーたちを導く指導者として実感すること、今後の課題についても熱く語った。「ダンサーたちはまだ眠っている状態。それを呼び覚ましたいと思っています。お客さまに楽しんでいただきつつ、ダンサーたちの成長の機会となるキャスティングを、ベストのタイミングで、ということを心がけたい。バレエ公演の入場率は90%を超え、とても良い方向に向かっていますが、まだまだ理想には遠い。現在、(2025年3月上演「バレエ・コフレ」で上演する)『エチュード』『精密さによる目眩くスリル』のリハーサルをしていますが、いずれも基礎ができたうえでその先に行くのですが、皆、基礎の部分で注意を受けている。でも、わくわくもしている。ここでまた基礎をやり直せるし、どれだけ基礎ができていないかと実感できる。次に繋がることですので、とても楽しみにしています」(吉田)(撮影:阿部章仁)その後の質疑応答では、新制作の『くるみ割り人形』について多くの質問が寄せられた。なぜこのタイミングでの新制作かと問われた吉田は、「これまでのウエイン・マクレガーの『くるみ割り人形』は振付がとても難しく、ダンサーたちはそれによって強くなり、スタミナがつき、パートナリングの勉強になった。でも、公演数が増えてきたいま、ダンサーたちの身体の負担のことも考える。私のなかではいまのタイミングでした」と思いを明かした。コロナ禍が明け、新国立劇場の客席では海外からの観客の姿も目立つようになったが、劇場サイドからは、劇場の公式webサイトの英語ページからのチケット購入状況も急激に伸びているとも。首都東京の、世界に開かれた劇場として、どのような取り組みをし、発信していくのか、引き続き注目していきたい。取材・文:加藤智子
2025年02月17日開幕まで約1カ月となった新国立劇場のバレエ公演「バレエ・コフレ」は、ふたつの新制作を含む意欲的なトリプル・ビルとして注目されている。「コフレ」とはフランス語で宝石箱という意味。色とりどりの宝石が放つ光が詰まった、魅力的なプログラムだ。今回上演される3作品はいずれも20世紀のヨーロッパで誕生した傑作だが、その趣、煌めきはそれぞれ相異なり、バレエの魅力、醍醐味はこれほどに多彩かと実感させてくれるだろう。『火の鳥』は、20世紀初頭にヨーロッパで一世を風靡したバレエ・リュス初期の代表作のひとつ。セルゲイ・ディアギレフが率いたバレエ・リュスは、1909年にパリで旗揚げ公演を行い、センセーションを巻き起こす。ロシアのスターダンサーたちが登場、またピカソやマティス、コクトー、シャネルなど気鋭のアーティストたちを次々と巻き込んで現代的で斬新な作品を次々と上演すると、パリの観客は熱狂。その活動は約20年という短い期間ながら、後のバレエ界、芸術に大きな影響を与えた。その2年目のパリ公演で初演された『火の鳥』は、『瀕死の白鳥』で知られる振付家ミハイル・フォーキンと、若き作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーによる作品。『火の鳥』は、『ペトルーシュカ』、『春の祭典』とともにストラヴィンスキーの三大バレエに数えられる傑作で、彼の出世作だ。『火の鳥』より(撮影:鹿摩隆司)色彩豊かで神秘的、勇壮で躍動感にあふれる彼独特の音楽とともに繰り広げられるのは、ロシアの民話に基づく物語。魔王カスチェイの庭に迷い込んだイワン王子が火の鳥と出会い、その魔力に助けられ、カスチェイの魔法で囚われの身となっていた王女と結ばれるという、不思議な力がたっぷり詰まったおとぎ話だ。パリの初演で伝説的バレリーナ、カルサヴィナが踊った火の鳥は、どれほど気高く美しかったか、パリの人々をどれだけ圧倒したか、思いを巡らせる。新国立劇場では12年ぶりの上演だが、火の鳥を踊る小野絢子とイワン王子の奥村康祐というプリンシパル組、ファースト・ソリスト池田理沙子とファースト・アーティスト渡邊拓朗のフレッシュなコンビの二組が回替わりで競演、ファンの期待を集めている。『精確さによる目眩くスリル』より(Photo by Mitsunori Shitara)新制作の『精確さによる目眩くスリル』は、20世紀も終わりが近づく1996年に初演された作品。鬼才ウィリアム・フォーサイスが、自身が率いていたフランクフルト・バレエで振付けた。その後パリ・オペラ座バレエ、英国ロイヤル・バレエをはじめ世界の名だたるカンパニーで上演されてきた人気作が、ついに新国立劇場に登場。当初は2022年2月の上演の予定だったが、コロナ禍で延期、ファン待望の新国立劇場バレエ団のダンサーによるフォーサイス作品が、ようやく実現する。『精確さによる目眩くスリル』より(Photo by Mitsunori Shitara)クラシック・バレエへのオマージュがこめられているというこの作品。伝統的なバレエの枠組みを軽々と飛び越え、拡張させていくウィリアム・フォーサイスの振付は、優雅で柔らかな伝統的なバレエの動きからは想像もつかないほどのスピード感、力強さ、鋭さに満ち、すこぶる刺激的だ。黄緑の真っ平なチュチュをまとった女性ダンサーの姿が目を引くこの作品も、核にあるのはバレエのステップだが、より鋭く、よりパワフルに、よりスピーディーに躍動するダンサーたちの姿が強い印象を残す。しばしばオフ・バランスが取り入れられたり、目を見張るような回転が登場したりで、瞬きするのも惜しくなるだろう。シューベルトのシンフォニーの美しい調べとの絶妙な調和も見逃せない。バレエの革命児と称されるフォーサイス、2024年第39回京都賞受賞のニュースも記憶に新しい。新国立劇場のダンサーたちが彼のスリリングな振付に果敢に挑み、自身の可能性をどこまでも追い求める姿を、しかと目に焼き付けたい。『エチュード』より© Yonathan KELLERMAN / OnPCourtesy of The Paris Opera Ballet『エチュード』は、デンマークの振付家ハラルド・ランダーの作品。20 世紀半ば、1948年にデンマーク王立バレエで初演された。まず目に飛び込んでくるのは、チュチュをまとったダンサーたちがバーにつかまり、バレエの基礎的な動きを繰り返す場面。照明の下で音楽に合わせ、一糸乱れずにステップを追っていく姿はそれだけでもう美しい。バレエのレッスンへのオマージュとして創作されたこの作品には、バレエの様々なステップ、表現が詰まっていて、ダンサーたちの日々の弛まぬ努力に思いを馳せる。『エチュード』よりGuillaume Diop, Valentine Colasante and Paul Marque in Etudes, by Harald Lander© Yonathan KELLERMAN / OnPCourtesy of The Paris Opera Balletごくシンプルな衣裳をまとったダンサーたちが次々と繰り出すのは、パ・ド・ドゥの細やかな身のこなしからダイナミックな連続ジャンプまでさまざま。息つく暇もないだろう。音楽は、ピアノを習った人であれば必ず通る道といってもいい、チェルニー。ひたすら地道に取り組むエチュード(練習曲)は挫折した身にとってはあまりいい思い出ではないけれど、リーサゲルによる編曲が施された楽曲は限りなく軽やかで流麗に響いて心地よい。とかく女性が主役になりがちなバレエだが、男性陣も大いに活躍、クライマックスに近づくにつれて、ダイナミックな跳躍をのびやかに決めていく姿も記憶にとどめたい。メインとなる三人のダンサーは、プリンシパルの木村優里、井澤駿、福岡雄大の組、プリンシパルの柴山紗帆と李明賢、山田悠貴ら今後がますます楽しみなダンサーたちの二組が競演。粒揃いの新国立劇場バレエ団のダンサーたちだからこその、精緻で濃密な『エチュード』に期待を。公演は3月14日(金)から16日(日)まで、東京、初台の新国立劇場 オペラパレスにて。文:加藤智子<公演情報>新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」『火の鳥』振付:ミハイル・フォーキン音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー美術:ディック・バード衣裳:ナターリヤ・ゴンチャローワ照明:沢田祐二『精確さによる目眩くスリル』振付:ウィリアム・フォーサイス音楽:フランツ・シューベルト美術・照明:ウィリアム・フォーサイス衣裳:ステファン・ギャロウェイ『エチュード』振付:ハラルド・ランダー音楽:カール・チェルニー/クヌドーゲ・リーサゲル編曲ステージング:ジョニー・エリアセンアーティスティック・アドヴァイザー:リズ・ランダー照明:ハラルド・ランダー芸術監督:吉田都出演:新国立劇場バレエ団指揮:マーティン・イェーツ管弦楽:東京交響楽団日程:2025年3月14日(金) 〜16日(日)会場:東京・新国立劇場 オペラパレスチケット情報:()公式サイト:
2025年02月11日抽象絵画の先駆者として、近年、大きな注目を浴びているスウェーデンの画家ヒルマ・アフ・クリント(1862-1944)。2013年にストックホルム近代美術館からスタートしたヨーロッパ巡回の回顧展や、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で2019年に同館史上最多の60万人を動員した回顧展などが大きな話題を呼んだこの画家のアジア初となる大回顧展が、3月4日(火)から6月15日(日)まで、竹橋の東京国立近代美術館で開催される。19 世紀後半のスウェーデンに生まれたアフ・クリントは、王立芸術アカデミーで正統的な美術教育を受けたのちに、画家としてのキャリアをスタートさせた。一方で神秘主義思想に傾倒した彼女は、交霊術の体験などを通して、アカデミックな絵画とはまったく異なる抽象表現を生み出していく。そして1906 年から1915 年にかけて、「神殿のための絵画」と名づけた全193点にも及ぶ抽象絵画を描き上げたのだった。その後も制作活動を展開した彼女は、後年にはまた、自身の思想や表現について記した過去のノートの編集や改訂の作業にも力を注いだ。不慮の事故が元で、81歳で生涯を閉じたときには、1,000点をはるかに超える作品やノート類が残されていたという。ヒルマ・アフ・クリント,ハムガータン(ストックホルム)のスタジオにて1902年頃ヒルマ・アフ・クリント財団By courtesy of The Hilma af Klint Foundation「神殿のための絵画」は、いくつかのシリーズやグループで構成されている。同展では、なかでも異例の巨大なサイズで描かれた高さ3メートルを超える10点組の絵画〈10の最大物〉をはじめ、多くの重要作が登場する。初来日となる作品、画家が残したスケッチやノートなどの資料や、同時代の神秘主義思想など制作の源となった事象の紹介もある同展は、アフ・クリントの画業の全容に迫る充実した展観となっている。圧巻の大作《10の最大物》は、作品の圧倒的なスケールや、画面からあふれ出てくるような瑞々しい色彩の明るさと豊かさ、多様な抽象的形態など、見どころが多い。それに加え、カンディンスキーらモダン・アートの先駆者たちに先行して抽象絵画を創造していたという、美術史を書き換えるような驚くべき事実も、同展の大きな見どころとなる。会場でその美しい作品と対面し、緻密な体系性を目指していたアフ・クリントの思想と世界観にふれてみたい。ヒルマ・アフ・クリント 《10の最大物,グループIV,No. 7,成人期》 1907年ヒルマ・アフ・クリント財団By courtesy of The Hilma af Klint Foundation<開催概要>『ヒルマ・アフ・クリント展』会期:2025年3月4日(火)~6月15日(日)会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー時間:10:00~17:00、金土は20:00まで(入館は閉館30分前まで)休館日:月曜(3月31日、5月5日は開館)、5月7日(水)料金:一般2,300円、大学1,200円、高校700円チケット情報は こちら()展覧会公式サイト:
2025年02月07日松岡美術館では、2025年2月25日(火)より、『1975 甦る 新橋 松岡美術館 ―大観・松園・東洋陶磁―』を開催する。今年開館50年となる同館では、三期にわたって様々なテーマで館のコレクションを紹介する。その第一弾となる本展は、1975年11月25日から1976年4月24日まで、新橋で開催された『開館記念展』を再現する展覧会だ。実業家・松岡清次郎が自ら収集し愛した作品を公開している松岡美術館。現在の所在地は、港区白金台だが、もともと美術館は、東京港区新橋の自社ビル内にもうけられていた。この「開館記念展」を振り返る同展の見どころは、開館時に満を持して御披露目された中国陶磁の世界的名品《青花龍唐草文天球瓶》と《青花双鳳草虫図八角瓶》の、3年ぶりの同時展示だ。《青花双鳳草虫図八角瓶》中国元時代またかつての展示ケースや手書きキャプションで、昭和レトロな雰囲気を再現するというのも興味深い。まだワープロもパソコンもなかった頃、同館の作品キャプションは、書道の心得のある館員が筆で書いていた。同展では、開館時に使用した木製ケースと筆文字のキャプションで、開館時の展示風景を甦らせる。さらに間仕切りのない吹き抜け2フロアに古今東西の美術品が並んでいた新橋時代を偲び、館内をあちこち見回って当時の気分が味わえるよう、ほぼ全館を使って開館記念展で展示された作品を紹介する。会期中、2月25日(火)~4月13日(日)には、1930(昭和5)年、イタリア政府主催で行われた大規模な日本美術展『ローマ開催日本美術展』に出品された約200点の中から、横山大観《梅花》、堂本印象《母子》、堅山南風《秋草》という、同館所蔵の出品作品全3点が同時に並ぶ。こちらは、2000年の白金台移転後初の3点同時展示となる。開館記念展の様子(新橋1975年)<開催概要>『1975 甦る 新橋 松岡美術館 ―大観・松園・東洋陶磁―』会期:2025年2月25日(火)〜2025年6月1日(日)※会期中展示替えあり会場:松岡美術館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)休館日:月曜(祝日の場合翌平日休)料金:一般1,400円、25歳以下700円公式サイト:
2025年02月04日新国立劇場が主催公演等の映像配信を行うプラットフォーム「新国デジタルシアター」では現在、新国立劇場バレエ公演『アラジン』の無料配信を実施中だが、これに続き、演劇公演『まほろば』とオペラ公演『チェネレントラ』が無料配信されることが決定した。演劇『まほろば』は、2008年当時、骨太な作風で男たちの群像劇を描き注目を浴びていた蓬莱竜太が演出家・栗山民也とタッグを組み、「女性のみ」の芝居に初挑戦した作品。新進作家と異世代の演出家のコラボレーション、シリーズ・同時代のなかの1作品として企画された本作は、第53回岸田國士戯曲賞を受賞し、2012年には再演も果たした。蓬莱竜太の『消えていくなら朝』が2025年7月に上演されるのに伴い、この『まほろば』の2008年初演舞台が「新国演劇アーカイブ名作選」として、2025年1月24日(金) 正午より配信される。また、ロッシーニのオペラ・ブッファの頂点とも称される『チェネレントラ』は、シンデレラの物語を軽妙な重唱や華麗なアリアで描いた傑作。演出は粟國淳が手がけ、アンジェリーナ役で脇園彩、ラミーロ役でルネ・バルベラが出演した。名ブッフォのアレッサンドロ・コルベッリら豪華キャストによる絶妙なアンサンブルを楽しむことができる。こちらは、2025年1月31日(金) 正午より配信がスタートする。オペラ ロッシーニ『チェネレントラ』より(撮影:寺司正彦)<配信情報>~新国演劇アーカイブ名作選~演劇『まほろば』作:蓬莱竜太演出:栗山民也収録日:2008年7月19日【出演】秋山菜津子中村たつ魏涼子前田亜季黒沢ともよ三田和代配信期間:2025年1月24日(金) 12:00~2月25日(火) 12:00【あらすじ】とある田舎町。祭りの夜。「本家」の居間。奉りの儀式のため男たちは出払っており、女たちが残って留守を預かっている。数日前に東京から久しぶりに帰郷したミドリ。都会での生活は順調だったが、気がつけば40代、婚約寸前で交際相手と別れ、傷心旅行のつもりだったのだが、実家の母は本家の血を絶やしたくないため、いまだ独身のミドリに小言が絶えない。本家の「大母様」と、村の娘・マオがふたりの間に入り、なだめてくれるが、功を奏さない。一方、妹のキョウコは、父親のわからない子を出産。ミドリの姪にあたるその娘は行方が何年もわからない。親戚の女たちが集まり、宴会の準備を進めているところに、長い間行方のわからなかったその姪が突然帰ってくる……。オペラ ロッシーニ『チェネレントラ』作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ指揮:城谷正博演出:粟國淳収録日:2021年10月3日【出演】ドン・ラミーロ:ルネ・バルベラダンディーニ:上江隼人ドン・マニフィコ:アレッサンドロ・コルベッリアンジェリーナ:脇園彩アリドーロ:ガブリエーレ・サゴーナクロリンダ:高橋薫子ティーズベ:齊藤純子管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団合唱:新国立劇場合唱団配信期間:2025年1月31日(金) 12:00~3月14日(金) 12:00【あらすじ】ドン・マニフィコの屋敷。マニフィコの今は亡き後妻の連れ子アンジェリーナは、チェネレントラ(灰かぶり)と呼ばれて使用人のように扱われ、意地悪でわがままなふたりの継姉の世話をする日々を送っている。ある日、王子ラミーロの家庭教師アリドーロが、王子の花嫁探しで物乞いの男に変装してマニフィコの屋敷に現れると、心優しいアンジェリーナは水と食べ物を与える。従者に扮した王子が屋敷に入り込み、アンジェリーナと一目で恋に落ちる。王子に化けた従者ダンディーニが娘たちを舞踏会に招待するが、マニフィコはチェネレントラの同行を拒む。王子はアリドーロがこっそり舞踏会に 連れてきた美しく心優しいアンジェリーナに求婚。アンジェリーナは王子に腕輪を残して立ち去るが、ふたりは再会し、めでたくハッピーエンドとなる。新国デジタルシアター 公式サイト:
2025年01月20日新国立劇場2024/2025シーズン 演劇 こつこつプロジェクトStudio公演『夜の道づれ』が、4月15日(火) より東京・新国立劇場 小劇場にて上演される。小川絵梨子演劇芸術監督が、その就任とともに打ち出した支柱のひとつ「演劇システムの実験と開拓」としてスタートした「こつこつプロジェクト」。時間に追われない稽古の中で、1年間をかけて試演を重ね、その都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議を重ね、上演作品がどの方向に育っていくのか、またその方向性が妥当なのか、そしてその先の展望にどのような可能性が待っているのかを見極めていくプロジェクトだ。『夜の道づれ』は、2021年からスタートした第2期からの参加作品。2022年2月に行われた最終試演会後、さらに作品を深めてはどうかという協議がなされ、演出家の柳沼昭徳は、引き続き第3期メンバーのひとりとして2024年にプロジェクトが再始動。今回は初めての試みである「Studio公演」として本プロジェクトの現時点の成果を公開する。『夜の道づれ』キャスト三好十郎によって書かれた『夜の道づれ』は1950年に文芸誌『群像』に初出、敗戦後の夜更けの甲州街道をとぼとぼと歩いている、男ふたりの一種のロードムービーのような戯曲。実際に夜の甲州街道で見聞きしたことをありのままに取り上げた、「いわばドキュメンタリイを志したもの」という三好の言葉通り、三好作品の中でもストーリー性は控えめで、とても演劇的実験性の高い作品となっている。本作に、約4年にわたり挑み続けているのは、京都を拠点に活躍する劇団烏丸ストロークロック主宰・柳沼昭徳。自身の創作のなかでも、「歩く」ことで人や事物と出会い、対話し、気づくことで過去を清算・懺悔するといった作品を作っていることもあり、本作に惹かれたとのこと。稽古では、実際に甲州街道を歩くフィールドワークを2回も行い、戯曲をフィジカル面でも検証。新宿を起点に徒歩移動した実距離と劇進行のタイムラインが重なる部分が多いことにも気づいたという。柳沼昭徳(C)松原豊試演会を重ねるにつれ、「発語」と「歩く」という行為が統合された俳優と、観客がまるで一緒に歩いている感覚に陥る不思議な作品へ変化をとげた。その時間と空間の関係を掘り下げ、さらなる深化を目指す。■演出 柳沼昭徳からのメッセージ敗戦を境に迎えた180度異なる新たな戦後日本の夜明け。人々が戦争の痛みを抱えながら、明日どうなるともわからないながら、復興する街を生きている。三好十郎は、このころの東京の街を歩きました。そこで見聞きしたことをありのままに取り上げたドキュメンタリーとして描いたのが本作です。ここでも多くの三好作品同様「いかに生きるか」という普遍的な問いと、孤独な人間同士が連帯することの絶望と希望が、三好節というべき言葉の質量で描かれています。しかしこの『夜の道づれ』が他の作品群のなかで異彩を放っているのは、台詞で語られる言語だけでなく、人が劇中ほとんどの時間を歩き続けている点にあります。歩くことで生じる体の変化と、連動して生じる心の変化を劇要素にすることで、身体を起点にあるカタルシスを得ようとする挑戦がなされています。歩く目的を「出離」と三好が表現するように、社会混乱のなか、迷いや不安を断つために世俗から離れ、真理に向かうこの物語ですが、いつの世であっても、七転八倒しながらも足を踏み出し続ける人間。その生き生きとした凄みを体感していただけると幸いです。<公演情報>こつこつプロジェクト Studio 公演『夜の道づれ』【スタッフ】作:三好十郎演出:柳沼昭徳【キャスト】石橋徹郎、金子岳憲、林田航平、峰一作、滝沢花野2025年4月15日(火)~20日(日)会場:東京・新国立劇場 小劇場※開場は開演の30分前【チケット】全席指定:2,750円Z席(当日):1,650円一般発売:2025年2月15日(土) 10:00~公式サイト:
2025年01月17日中学生・高校生を対象とした演劇ワークショップ『中高生のための“はじめての”演劇Days 2025』が、2025年3月1日(土)・2日(日) に東京・新国立劇場で開催される。新国立劇場では、演劇芸術監督・小川絵梨子の方針の下、中学生・高校生を対象とした演劇ワークショップを毎年開催。6回目となる今回は、これまで全く演劇には触れたことがない人から、観劇をしたことはあるが演技経験はない人など、初心者向けのワークショップとなり、講師として北尾亘、宮本宣子、伊藤和美、井上芳雄、大和田美帆、小川が参加する。さらに新国立劇場のバックステージ案内も予定されている。申し込み期間は2月5日(水) まで。<イベント情報>『中高生のための“はじめての”演劇Days 2025』【募集要項】人数:20名様 ※応募多数の場合は抽選となります。参加費:2,000円 ※事前振込【応募条件】・中学生・高校生およびその年齢に該当する方(個人参加に限ります)・2日間、全ての講座に参加できること・新国立劇場(初台)に通えること・演劇に興味のある方はどなたでもご参加可能です。経験を問いません。※演技や演劇の経験のある方もご応募可能ですが、講座の内容としては、初心者向けの内容となります。2025年3月1日(土)・2日(日)会場:新国立劇場【カリキュラム一覧/講師】■2025年3月1日(土)・「ご挨拶」小川絵梨子(演出家、新国立劇場演劇芸術監督)・「カラダを知る、ココロが踊る」北尾亘(振付家、ダンサー、俳優/Baobab主宰)・「お芝居ができるまで」三崎力(新国立劇場 制作部演劇)・「舞台衣裳を考えて、創ってみよう!」宮本宣子(衣裳家)■2025年3月2日(日)・「歌唱と演技」伊藤和美(歌唱指導)・「劇場ツアー」櫻井拓朗(新国立劇場 技術部舞台課)・「お話し」井上芳雄(俳優/歌手)・「セリフを心で言ってみよう」大和田美帆(俳優)申し込み期限:2025年2月5日(水) 23:59まで詳細はこちら:
2025年01月15日福岡アジア美術館は拡充スペースを新設予定。計画の候補地が、警固公園地下駐車場跡地に決定した。詳しい開業時期などは未定だ。アジアの近現代美術を収集する唯一の美術館福岡の博多リバレイン内に位置する福岡アジア美術館は、アジアの近現代美術を系統的に収集し、展示する世界に唯一の美術館として1999年に開館。近隣にはショッピングモールやホテルオークラ福岡、劇場「博多座」が位置するなど利便性の高い立地の都心型美術館だ。古代からアジア文化を受容する窓口として機能してきた福岡の地理的、歴史的な特質ともマッチした美術館であり、アジアの美術作家や研究者を招いて展覧会をはじめとする様々な美術交流を行ってきた。アジア各国での近現代美術に関する研究を継続的に行い、質の高い作品を収集・所蔵している福岡アジア美術館は、その先駆的な取組が国内外の美術関係者から高い評価を受けている。そんな福岡アジア美術館が、今回新たに拡充スペースの建設を予定。福岡アジア美術館独自の魅力や、貴重な所蔵品をより幅広い市民に紹介することを目的に計画されたものだ。「天神ビッグバン」エリア近く、警固公園に地下美術館を計画福岡アジア美術館の拡充スペースとして建設を計画している候補地は、「ワン・フクオカ・ビルディング」などが新たに誕生する再開発プロジェクト「天神ビッグバン」エリアの近隣に位置する警固公園地下駐車場。既存の駐車場の構造を転用した、地下美術館を新設する見通しだ。十分な面積が確保できることから、展示スペースはもちろん、ワークショップなど交流・創作拠点の新設も期待できると見込まれる。【詳細】福岡アジア美術館 拡充スペース 新設計画開業時期:未定計画地:福岡県福岡市中央区天神2-2 警固公園地下
2025年01月11日現在、東京・新国立劇場の中劇場で上演中の「令和7年初春歌舞伎公演」に出演する尾上菊五郎、尾上菊之助、坂東彦三郎、中村時蔵らが取材に応じ、本公演への意気込みと新年の抱負を語った。今年の「初春歌舞伎公演」は国立劇場の通し狂言「彦山権現誓助剣」。豊前国・彦山の麓に暮らす青年の毛谷村六助が、剣術の師である吉岡一味斎の娘のお園とともに、師の敵である京極内匠を討つまでを描いた仇討ち狂言の傑作だ。人間国宝の菊五郎を座頭に、人気と実力を兼ね備えた一座の豪華俳優陣が、長らく上演されなかった場面を加えて、仇討ち物語の全容を本格上演し、新しい年の歌舞伎を華々しく盛り上げる。御大将・真柴大領久吉を勤める菊五郎は、「皆様明けましておめでとうございます。お正月のお芝居は、初台の国立劇場から『彦山権現誓助剣』。お園と六助が艱難辛苦をして、京極内匠という大悪人を敵討ちいたします」と新年の挨拶。「どうぞ皆様、初台に足をお運びくださいませ」と呼びかけた。本公演には坂東楽善、中村又五郎らベテランから、中村萬太郎、市村竹松、市村光、上村吉太朗といった若手勢、尾上丑之助、尾上眞秀、中村梅枝、中村種太郎、中村秀乃介といった孫世代まで、多彩な出演陣が躍動。菊五郎は大詰に登場し、物語を締めくくる役どころで、「大詰めにはこの可愛らしい孫たちが一生懸命に立ち回りをいたします」と目を細めた。菊之助は、心優しく武術の力量に優れた青年の毛谷村六助を初役で勤めており、「仇討ちのお話ですけれども、人のことを思い、その思いによって自分の業が晴れていく。良いことをすれば、良いことが返ってくるというお正月にふさわしい演目」だと語り、「お客様にもお正月の気分を味わっていただき、気持ちを新たに楽しい気分でお帰りいただけるのでは」とアピールした。今年5月に八代目尾上菊五郎の襲名を控えており、現在の名跡で国立劇場公演に出演するのは今回が最後。「1日1日を大切に過ごしておりまして、(丑之助とともに)ふたりで一生懸命に稽古を積んでいるところでございます」と背筋を伸ばしていた。吉岡家と六助にとっての憎き敵・京極内匠を初役で勤める彦三郎は、「ひとりだけ敵役ということで、真に悪を背負いながら、一生懸命に嫌われる役を(笑)勤めております」と思わず苦笑い。同じく初役で、お園を演じる時蔵は「とても楽しい役ですし、鎖鎌を使った立ち回りをしておりますので、それが私の眼目でございまして、いかに刀に鎖を巻きつけるか」とチャレンジを語った。取材・文・撮影:内田涼<公演情報>「令和7年初春歌舞伎公演」梅野下風・近松保蔵=作国立劇場文芸研究会=補綴通し狂言「彦山権現誓助剣」四幕七場発端:豊前国彦山権現山中の場序幕:周防国太守郡家城外の場、長門国吉岡一味斎屋敷の場二幕目:山城国小栗栖瓢箪棚の場三幕目:豊前国彦山杉坂墓所の場、同毛谷村六助住家の場大詰:豊前国小倉真柴大領久吉本陣の場会場:新国立劇場中劇場(東京都)2025年1月5日(日) ~2025年1月27日(月)13:00開演(17:20終演予定)休演日:14日(火)・22日(水)チケット情報:()公式サイト:
2025年01月08日福岡県立美術館が移転リニューアル。新しい福岡県立美術館が、2029年度に大濠公園の南側にオープンする。福岡県立美術館が移転リニューアル、設計は隈研吾新福岡県立美術館の整備は、福岡の文化資産である美術品や美術活動を継承し、より発展させることを目的に推進される。福岡市天神地区に位置する現福岡県立美術館が建設から半世紀以上が経過していることを踏まえ、新福岡県立美術館は建物の広さ・機能面においてよりアップデートした文化芸術の新拠点となる見通しだ。設計は隈研吾が手掛ける。国内外アーティストの名作や九州・福岡ゆかりの美術を紹介国内外の芸術家たちが交流し活動できる場としてはもちろん、若手の文化活動支援、福岡県ゆかりの作家の作品や資料の収集・保存、九州の美術館と連携した取り組みを推進。より一層コレクションを拡充し、訪れた人が豊かな文化芸術や美術資産に触れることのできる場となることを目指す。特に、福岡を代表する作家の作品を集めた珠玉のコレクションはぜひチェックしたい。近代洋画の黎明期から活躍し、日本のロマン主義を代表する青木繁をはじめ、徹底的な写実的描写を特徴とする洋画家・髙島野十郎、2024年冬にかけて練馬区立美術館にて展覧会が開催された野見山暁治などの作品を揃える。また、有田や平戸、唐津、小代、矢代、薩摩など、大陸と地理的に近いことから独自の発展を見せた九州各地の古陶磁や、博多織、久留米絣など福岡を代表する伝統工芸も充実。福岡県立美術館ならではのコレクションだ。年に5回程度開催される特別展示では、福岡・九州の魅力を発見できる展示や世界・現代の芸術の可能性に触れられる展示など多彩な展覧会を計画。世界の名画や国宝など、国内外の名作を目にすることのできる展覧会をはじめ、最新テクノロジーを用いた新たな美術表現を紹介する現代美術の展覧会、福岡や九州の美術を紹介する展覧会、親子で楽しむ展覧会などを実施していく。大濠公園と美術館が一体となった“アート空間”に新福岡県立美術館が建設される計画地は、県営大濠公園の南側にあたり、現在は福岡武道館や日本庭園が所在している場所。大濠公園と美術館が一体となった広大なアート空間を創出し、エリアの新ランドマークとなる。日本庭園や能楽堂、さらには福岡市美術館とも連携し、多様な美術表現を叶える場となる。なお、新県立美術館の建設に伴い、福岡武道館は東公園に移転・改築される。館内は3フロア構成に、ミュージアムショップやレストランも新福岡県立美術館の館内は、東西を貫く開放的な吹き抜け空間「メディアヴォイド」を中心とした建築となり、展示室は3フロア構成となる。「メディアヴォイド」では、巨大な立体作品を展示したり、パフォーマンスを行ったりする予定だ。2階が常設展や特別展示を行うメインの展示空間となり、1階にはミュージアムショップやレストラン、キッズスペースなどを備える。また、ライブラリーカフェ、美術資料室のある3階には、大濠公園や日本庭園を見渡すことのできる屋上広場も整備する。【詳細】新福岡県立美術館開館時期:2029年度建設地:福岡県福岡市中央区大濠1-1-1 他主構造:鉄骨造、一部RC造敷地面積:20,666㎡建築面積:約7,100㎡延床面積:約20,900㎡規模:地下1階、地上4階主な施設:常設コレクション展示室、企画展示室、県民ギャラリー(貸し展示室)、多目的ルーム、ワークショップ室、美術図書室、メディアスペース、ミュージアムショップ、カフェ・レストラン、エントランスホール 他設計者:隈研吾建築都市設計事務所
2025年01月07日新国立劇場バレエ団 2024/2025 シーズン『くるみ割り人形』が、2024年12月21日に東京・新国立劇場 オペラパレスで初日を迎えた。今やホリデーシーズンの定番となった『くるみ割り人形』は、チャイコフスキー三大バレエのなかでもひときわ美しく親しみやすい音楽で、多くの人が楽しめるような作品。ウエイン・イーグリングによる本作はスピーディーな振付が特徴で、特に主役ダンサーには高度なパートナリングの技術が必要とされる。1幕のロマンティックなパ・ド・ドゥ、2幕の荘厳なグラン・パ・ド・ドゥといったハイライト以外にも、全幕を通して華麗なテクニックがふんだんに盛り込まれている。そのほか、新国立劇場バレエ団が誇る美しい雪の結晶や花のワルツなどの群舞、2幕のいろいろな国の踊りを取り入れたディヴェルティスマンなどが見どころだ。公演は2025年1月5日(日) まで。その後、長野・サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホールでも1月12日(日) に上演される。<公演情報>新国立劇場バレエ団 2024/2025 シーズン『くるみ割り人形』振付:ウエイン・イーグリング音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー美術:川口直次衣裳:前田文子照明:沢田祐二芸術監督:吉田都指揮:冨田実里 ほか管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団合唱:東京少年少女合唱隊出演:新国立劇場バレエ団【東京公演】2024年12月21日(土)~2025年1月5日(日)会場:新国立劇場 オペラパレスチケット情報:()【長野公演】2025年1月12日(日)会場:長野・サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホールチケット情報:()公式サイト:
2024年12月23日新国立劇場が2017年より上演しているウエイン・イーグリング振付による全幕バレエ『くるみ割り人形』。少女クララのクリスマスの夢の物語を、見応えある踊り、個性的なキャラクター、鮮やかな色彩をもって描き出す人気のプロダクションだ。近年ではクリスマス前からお正月まで公演を行い、年末年始の風物詩として多くの観客に親しまれている舞台。今年も間もなく開幕、リハーサルに取り組むダンサーたちに作品の魅力や役柄への思いを聞いた。集まったのはクララ/こんぺい糖の精を演じる木村優里、ドロッセルマイヤーの甥/くるみ割り人形/王子の渡邊峻郁、中国とルイーズ/蝶々を演じる五月女遥、ねずみの王様ほかを踊る渡邊拓朗。実の兄弟であるふたりの渡邊による“兄弟対決秘話”も明かされる、裏話たっぷりの座談会が実現した。毎年必ず取り組むからこその、進化──年間を通してさまざまな作品を踊り、しばしば新作にも挑戦される皆さんが、年に一度は必ず取り組まれているのが、この『くるみ割り人形』ですね。木村毎回が力試し、チャレンジだと感じています。昨年より良いものを、という気持ちですし、自分のスキルがどう上がってきたか実感する場でもあります。毎回、新たな発見もあります。たとえばパートナーリング。とても高度なテクニックが含まれるので、取り組むたびに新しい見せ方、工夫の仕方に気づかされる。回を重ねることで、より深みある舞台をお届けできるのではと思っています。渡邊(峻郁)毎年積み重ねているものを活かしつつ、毎回フレッシュな舞台をと心がけてもいます。五月女第2幕のスペイン、アラビア、中国、ロシアの踊りが続くディヴェルティスマンの場面はこの作品の大きな見せ場のひとつですが、私は2017年の初演時からずっと中国を踊っています。こうして毎年同じ役を踊ることができるのは本当にありがたいことです。毎年、通し稽古の初日に皆さんの踊りを見るとすごいエネルギーを感じ、たくさん刺激をもらっています。渡邊(拓朗)僕はこの作品が初演された2017年に入団して、実は新国立劇場での初舞台もこの『くるみ』でした。上段左から)木村優里、渡邊峻郁下段左から)五月女遥、渡邊拓朗──初めて配された大役がねずみの王様だったそうですね。当初の手応えはいかがでしたか。渡邊(拓朗)最初は本当に緊張しました。渡邊(峻郁)……と言うけれど、僕から見ると全然、落ち着いたものでした。僕も踊っていた役なので最初に振付を教えましたが、各々の個性が出やすいキャラクターです。彼のねずみの王様はすごくダイナミック!コンテンポラリーの経験がすごく活きているんじゃないかな。──では、それぞれの役柄についてですが、まずはクララ。本作では、第1幕の途中までは子役が演じ、彼女が眠って夢の世界に入ったところで大人のダンサーに入れ替わります。そこが、木村さんの登場シーンとなりますね。木村子供らしい少女クララと、彼女の理想の女性像としてクライマックスに登場するこんぺい糖の精との違いをどう表現したらよいのか、当初はプレッシャーに思っていました。でも、クララの中にドロッセルマイヤーの甥に対する恋心が芽生えたことで、彼女はすでに少し大人になっているんですよね。いまは全編を通して、クララの、「大きくなったらこんな女の人になりたい」というイメージを伝えることを大事にしています。子供たちに夢を与えるだけでなく、幼少期に年上のお兄さんや大人に憧れていた思い出を持つ方々にとっても、その頃の気持ちを思い出していただく時間になれば、という思いもあります。五月女私が演じるクララの姉ルイーズは、お転婆で慌てんぼうです(笑)。プロローグではお部屋のシーンで手袋を忘れてきてしまったり、ネックレスを忘れてしまいます(笑)。──パーティーでは人気者ですが。五月女友達が来ているのに、ダンスの誘いを受けて青年、老人、それから詩人の男性と一緒に踊り始めてしまって……。それで友達がどこかへ行ってしまう(笑)。ダンスの誘いを受けてフワッと行ってしまったり、自分よりも大人の女性に見える姉はクララにとって密かな憧れで、2幕での蝶々の姿に繋がるのかもしれません。壮絶な“兄弟対決”に隠された、絆ゆえの助け合い──さて、ドロッセルマイヤーの甥は、士官学校を卒業したばかりの青年という設定ですね。渡邊(峻郁)人間性についての描写が少ないのが難しいところです。親戚の集まりに来た、一緒に遊んでくれる優しいお兄さんといったところでしょうか。気にかけてくれるお兄さんが、そのままくるみ割り人形になって最後は王子に。最初から、少女の夢と憧れが詰まったキラキラな存在であることは確かです。木村そんなキラキラなお兄さんが大好きなクララちゃん(笑)。五月女「あのお兄さん優しくてカッコイイ…」と(笑)。木村渡邊さん演じるドロッセルマイヤーの甥は、包容力のあるお兄さん!ですね。パ・ド・ドゥでもたくさんリードしてくださり、本当に頼もしいです。──次は、このバージョンならではの大活躍を見せるねずみの王様について。渡邊(拓朗)他のバージョンより見た目が怖く、ちょっとグロいんです(笑)。だからこそ少しコミカルでお茶目なねずみにしたいなと心掛けています。ドロッセルマイヤーとともに魔法の国に旅立つクララたちが乗る気球にしがみついてまでついていくという、ものすごい執着心も!ずっと嫌がらせしたくてつけまわす、『トムとジェリー』のようにも感じられます。(C)長谷川清徳──くるみ割り人形とねずみの王様との戦い、その壮絶な“兄弟対決”はどのようなものでしたか。渡邊(峻郁)傍から見ると“兄弟対決”ですが、僕たちにとっては、助け合い(笑)。渡邊(拓朗)コンテの難しい踊りみたいに、ちょっと触れたりしながらタイミングを見計らう──。渡邊(峻郁)活きています、兄弟の絆が(笑)。今年は組み合わせが変わったので、別の王子と戦ってもらいますが。渡邊(拓朗)新たな対決相手は速水渉悟王子です(笑)。──気球の話が出ましたが、新国立劇場ならではの魅力的な仕掛けですね。渡邊(峻郁)とても大きいクリスマスツリーも魅力です。また第1幕の終盤の雪の場面、コール・ド・バレエ(群舞)の美しさにぜひ注目を。ものすごく細かいことですが、全員が一斉に片足を上げてトン、トン、トンと軽やかに回転する場面で、皆の衣裳が重なって擦れ合うとき、あちこちで木から雪がバサっと落ちたときのような音がする。それがとても美しいんです。(C)長谷川清徳五月女あの場面の衣裳には、チュチュの生地の上にまた別の素材がのっていて、それであのような音がするのかなと思います。このバージョンの雪のコール・ドは踊ったことがないのですが、大好きです。降ってくる雪も素敵です。積もった雪の上を皆が通っていくと、わだちのような跡が残されて、それもまた素敵です!1階席で観るのも迫力がありますが、フォーメーションの美しさは上の階から観るとさらによくわかります。──この作品ならではの魅力は、第2幕後半のディヴェルティスマンにもたくさん詰まっています。五月女さんは中国の他、蝶々を踊る日もありますが、この役をどのように捉えて踊られていますか。五月女このバージョンのオリジナルの踊りです。クララの夢の中で、ルイーズが蝶々の姿になってドロッセルマイヤーと踊ります。プロローグではお転婆で慌てんぼうな姉ですが、クララの思う姉のイメージは蝶々のようにふわっとしていて、大人の女性で憧れの女性なのかな……と思います。他のスペインや中国と違ってクララと直接つながりのある存在なので、1幕のルイーズと2幕の蝶々がどこかでリンクするよう心がけています。劇場で観ることの愉しさを体感して──これに続くのが、花のワルツ。新国立劇場ならではの鮮やかなポピーのイメージと、優美かつ力強いコール・ド・バレエで客席を魅了します。その後がいよいよ、主役のおふたりによるグラン・パ・ド・ドゥ。花のワルツの間はどのように過ごされていますか。木村着替えであっという間に時間が過ぎます(笑)。渡邊(峻郁)皆が花ワルで華やかに踊りつつ駆け回っているのを見ながら、「ぼちぼち来る」「よし、頑張るぞ!!!!」と準備を進めています。優雅な花ワルですが、皆、裏では全速力で走っているんです(笑)。渡邊(拓朗)まるで通勤ラッシュですね。木村私はもう、覚悟を決めて精神統一です。グランパ・ド・ドゥを見どころにできるよう、それはもう日々精進しているところですが、ひとつの音にふたつも3つも振りが入る踊りですから、より効果的に見せられるよう工夫を重ねてきています。以前にもお話ししたことがありますが、この作品はダンサーにとってトライアスロンのようなもの。最初は床をすべるような地上戦、その後はたくさんのリフトがある空中戦、最後には完全にアカデミックな踊りをお見せしなければいけない。体力的にもスキルも高いものを求められる、たくさんの準備が必要な踊りだと、改めて実感しています。疲労がピークに達した段階でどれだけの踊りをお見せできるか。ハードではありますが、あの美しい音楽をじっくりと味わっていただきたいので、しっかり踊れるよう頑張っています。(C)長谷川清徳渡邊(峻郁)最後の最後は、皆さんが期待されている“ザ・クラシック”をお届けする。そこで楽しんでいただけるよう、今年もまた頑張ります!木村家族皆さんで楽しんでいただきたいですね。渡邊(峻郁)幕間にはドリンク、軽食やスイーツの楽しみもありますし、『くるみ割り人形』ではクリスマスや年末年始ならではのメニューもあるんですよ。五月女チャイコフスキーの音楽は序曲を聴くだけでテンションが上がります。この舞台が、また新国立劇場バレエ団の公演に足を運んでいただくきっかけになれば嬉しいです。渡邊(拓朗)劇場では、あの時期独特のワクワクする雰囲気をたっぷり感じていただけると思います。しかも新国立劇場ではお正月も『くるみ』を上演していますから、年始にかけても気分をさらに上げていただけたら嬉しいです!渡邊(峻郁)劇場で観る愉しみを、ぜひ体感していただきたいですね。取材・文:加藤智子<公演情報>新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』振付:ウエイン・イーグリング音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー美術:川口直次衣裳:前田文子照明:沢田祐二2024年12月21日(土)~2025年1月5日(日)会場:東京・新国立劇場 オペラパレスチケット情報:()公式サイト:
2024年12月18日新国立劇場演劇研修所 第18期生修了公演『美しい日々』が、2025年2月11日(火・祝) から16日(日) まで東京・新国立劇場 小劇場で上演される。1997年に執筆された、劇作家・演出家の松田正隆の初期作品『美しい日々』は、不安感が色濃く漂う世紀末の東京と九州を舞台に展開する、自分自身の内面の葛藤と巨大な社会の両方に息苦しさを抱えて生きる若者の姿が描かれた戯曲。登場するのは私立高校の国語教師、その教え子、婚約者、同僚、アパートの隣に住む兄妹で、それぞれの本音と建前、理想と現実が絡み合い、うねるように主人公の置かれた境遇が変化していく。演劇研修所では、第4期生(2011年)、第11期生(2018年)に続き今回が3度目の上演となり、演出の宮田慶子演劇研修所長をはじめ、前回と同じスタッフ陣が続投する。2022年入所の第18期生は、R.ブリッグズ作の絵本をもとにした新作朗読劇『風が吹くとき』(演出:田中麻衣子)を2024年8月に上演。現在は、演出に岡本健一を迎えた『ロミオとジュリエット』を12月12日(木) まで上演中だ。基礎の習得から、第一線の演出家との作品作りまで、徹底してプロの舞台俳優に必要な力を養った3年間の研修生活を経て、いよいよ修了公演に臨む。チケットは現在一般発売中。<公演情報>新国立劇場演劇研修所 第18期生修了公演『美しい日々』作:松田正隆演出:宮田慶子出演:新国立劇場演劇研修所 第18期生飯田梨夏子石井瞭一石川愛友齋藤大雅髙岡志帆篁勇哉中村音心山本毬愛横田昂己萬家江美椎名一浩(第11期修了)日程:2025年2月11日(火・祝) ~16日(日)会場:東京・新国立劇場 小劇場チケット情報:()公式サイト:
2024年12月10日2024年12月3日(火)、新国立劇場 中劇場にて『白衛軍The White Guard』が開幕した。ウクライナ出身の作家ミハイル・ブルガーコフによる戯曲の、これが日本初演となる。初日前日に実施されたフォトコールおよび囲み取材に登場した村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、池岡亮介と演出の上村聡史が、舞台への熱い思いを明かした。戦争の中で、人は何を大事にして生きていけばいいのか幕開けは、がらんどうの舞台。奥行きのある新国立劇場 中劇場ならではの導入は、ダイナミックかつ胸に直接飛び込んでくるような仕掛けで、客席を一気に100年前、ロシア帝国崩壊後のウクライナへといざなう。描かれるのは、旧ロシア帝国軍の士官たち──白衛軍の人々、その家族の物語だ。撮影:宮川舞子撮影:宮川舞子囲み取材では、まず俳優陣がそれぞれの役どころを紹介。ニコライ役の村井良大が演じるのは、トゥルビン家の末っ子で、まだ18歳の兵隊だ。「伍長として務めています。明るいキャラクターで、ギターを弾いたり歌を歌ったりするシーンが多々ありますので、ぜひ観ていただけたら」。前田亜季演じるエレーナは、ニコライの姉で3兄弟の真ん中。「姉の優しさ、柔らかさ、ときには母の大きさ。いろんな面を見せる女性だと思って演じています」。トゥルビン家の長男で、父親的存在であるアレクセイを演じるのは大場泰正。「ロシア帝国下の生活、文化が深く刻み込まれている人間。若者たちの将来について、多分一番よく考えている人物だと思います」。池岡亮介演じるラリオンは、トゥルビン3兄弟のいとこ。「大学進学のために突然トゥルビン家にやってきて、賑やかし散らかします(笑)。愛されるキャラクターになれるよう頑張ります」。もしかして、これからトゥルビン家の人々と家族になるかもしれない?と紹介されたのはレオニード。「それは私でございます(笑)」と申し出た上山竜治は、「オペラを嗜む軍人です。戦時下ではあるけれども、甘い声で歌いながら人妻を口説く、エレーナに恋している人物。敗戦を経験しながらも、すごく先を見ながら突き進む、生命力のある役」と述べた。演出を手がけた上村聡史は、「戦争という状況の中で人は何を大事にして生きていけばいいのか、ということを丹念に、丁寧に見つめて作りました」と振り返る。「難しそうだなという印象はあるかもしれませんが、トゥルビン家の人たち、登場人物たちの生活を大事にしました。喜劇的な部分もありますし、悲劇的な部分もありますが、そのヴァリエーションを楽しんでいただければ」。ブルガーコフが未来に託していた願い、祈りを、丁寧に届けていきたい右から)上村聡史、上山竜治、村井良大、前田亜季、大場泰正、池岡亮介(撮影:宮川舞子)俳優陣も、自身の見せ場をはじめ作品の見どころについて、それぞれにアピール。村井は、「今回、初めて舞台上でギターを演奏したり歌ったりします!今年の9月下旬ぐらいから練習をしてきました。人前でギターを弾くのは初めて。ちょっと緊張しているけれど、楽しい時間、音楽が、いかに人々の心を救ってくれるか、皆さまと共有できたら」。前田は作者のブルガーコフに思いを馳せ、「彼が未来に託していた願い、祈りを、観てくださる方々に丁寧に届けていきたいなと思っています」。大場は「困難な時代に生きている人々の生きる様を生き生きと演じたい」。池岡は「舞台美術がすごいんです!」と前のめりだが、周りからけしかけられて一言、「詩を朗読します」と照れ笑い。上山は、「すごく緩急がある。コミカルなシーンも、歌うシーンもありますし、何しろ、新国立劇場のこの機構をフルに使った演出がすごい!セットがグワーっと出てきたり上がったり下がったり回ったりするんです!!見たことのない舞台です」と目を輝かせた。上山はさらに、「芸術とか歌が寄り添いながら、物語が紡がれてゆく。歌の威力ってすごいなと思いました」とも。これを受けて大場は、「少し真面目な話になるけれど──」と断りつつ、「帝政ロシアは、バレエ、文学といった“文化”が生み出された時代。家庭にもそうした文化がこのようにあふれている。けれど、実はそうではない階級の上に、その繁栄がある。私たちはこの生活を守りたいと思っているわけですが、そうではない動きとして、民衆が動き出したとき──私は彼らを“敵”と言う。そういう台詞があるのですが、本当は皆を巻き込んでいい国を作りたかったのに、彼らを支配し、その上に文化が成り立っている。アレクセイという役はそういうことを自覚している人間。帝政側の人間でも、思いは同じだった。そう思いながら取り組んでいます」。面白い台詞が詰まった作品に。クリスマスにちなんだシーンも上村は、2009年から1年間の英国留学時にこの作品に出会い、いつか取り組みたいと考えていたと聞く。並々ならぬ思いでクリエーションにのぞんだに違いないが、俳優たちと実際に稽古を重ねることで新たに気づいたこの作品の一面、魅力について尋ねた。「自分でも意外だったのは、すごくいい台詞がいっぱいある作品だなと気づいたこと。胸に迫る台詞もあれば、楽しくて笑える台詞、そしていまのこの時代に想像が及ぶ台詞、100年前のこの時代に真摯に生きた人たちの思いが伝わる台詞がたくさんあって、久しぶりに台詞で楽しめる芝居に、というのは大袈裟かもしれませんが、総勢19人の俳優が紡ぐその台詞の質感が──恐れずに言うなら、すごく、エンターテインメントになっている。台詞の聞き心地というか、面白い台詞がたくさん詰まった作品になりました」。また、劇場の機構を最大限に活かした舞台、装置へのこだわりについては、「冒頭の、何もない暗闇からある劇世界が現れて──という場面には、過去が現れて、それがいまにも繋がっているんだという思いをこめた。いま起きていることと100年前を短絡的に結び付けていいものではないということは重々わかってはいるのですが、先人たちが生きて培ってきたものがいまにも繋がっているということを、今回のコンセプトとして一番に置きました」と明かした。最後に「舞台装置を含め、ここまで立体感のある舞台は初めてです!」と断言したのは村井。「それがS席8,800円で観ることができる。正直お得過ぎる(笑)、と感じております。観て後悔しない、心に残る作品。クリスマスにちなんだシーンもあります。皆の生きる姿、懸命に戦う姿を見ていただければ幸いです」と、締めくくった。取材・文:加藤智子<公演情報>『白衛軍 The White Guard』作:ミハイル・ブルガーコフ英語台本:アンドリュー・アプトン翻訳:小田島創志演出:上村聡史出演:村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、大鷹明良/池岡亮介、石橋徹郎、内田健介、前田一世、小林大介/今國雅彦、山森大輔、西原やすあき、釆澤靖起、駒井健介/武田知久、草彅智文、笹原翔太、松尾諒日程:2024年12月3日(火)~12月22日(日)会場:東京・新国立劇場 中劇場チケット情報:()公式サイト:
2024年12月04日国立博物館や文化財研究所などで構成される、独立行政法人国立文化財機構文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、毎年12月に全国規模で行われる寄付啓発活動「寄付月間」に参加し、同機構への寄付促進キャンペーンを2024年12月2日(月)12:00から実施します。国立文化財機構 所属施設:東京国立博物館/京都国立博物館/奈良国立博物館/九州国立博物館/皇居三の丸尚蔵館/東京文化財研究所/奈良文化財研究所/アジア太平洋無形文化遺産研究センター/文化財活用センター/文化財防災センターオリジナルデザインのカードをプレゼントキャンペーン期間中、同機構または所属する各施設の対象事業に2,000円以上のご寄付をいただいた方全員に、感謝の気持ちを込めて、東京、京都、奈良、九州の国立博物館所蔵の名品をモチーフとした「動く!名品カード」(全6種・非売品)をプレゼントします。同カードはいずれも今回のキャンペーンのために製作したオリジナルデザイン。表面に「レンチキュラー」と呼ばれる加工が施されており、見る角度によって絵柄を変えたり、アニメーションのように動かしたりして、お楽しみいただけます。本カード、外袋の監修・デザインは、ブランドのロゴデザインをはじめ、さまざまなグラフィックデザインを手がけ、幅広い層に支持されているアートディレクター平林奈緒美さんおよびデザイナー星野久美子さんによるものです。博物館所蔵の名品によるユニークなカードを、ぜひご寄付の記念にお受け取りください。【キャンペーン概要】期間:2024年12月2日(月)12:00~12月26日(木)12:00配布条件:対象事業に2,000円以上のご寄付をいただいた方に寄付一口あたり1枚、「動く!名品カード」をプレゼントします。カードは全6種類。どのカードがもらえるかはお楽しみ!対象事業やご寄付の方法など、詳しい条件は「国立文化財機構 寄附ポータルサイト」を参照ください。(出典元の情報/画像より一部抜粋)(最新情報や詳細は公式サイトをご確認ください)※出典:プレスリリース
2024年11月30日国立博物館や文化財研究所などで構成される、独立行政法人国立文化財機構(本部:東京都台東区)文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、毎年12月に全国規模で行われる寄付啓発活動「寄付月間」に参加し、同機構への寄付促進キャンペーンを2024年12月2日(月)12:00から実施します。国立文化財機構 所属施設:東京国立博物館/京都国立博物館/奈良国立博物館/九州国立博物館/皇居三の丸尚蔵館/東京文化財研究所/奈良文化財研究所/アジア太平洋無形文化遺産研究センター/文化財活用センター/文化財防災センターキャンペーン期間中、同機構または所属する各施設の対象事業に2,000円以上のご寄付をいただいた方全員に、感謝の気持ちを込めて、東京、京都、奈良、九州の国立博物館所蔵の名品をモチーフとした「動く!名品カード」(全6種・非売品)をプレゼントします。同カードはいずれも今回のキャンペーンのために製作したオリジナルデザイン。表面に「レンチキュラー」と呼ばれる加工が施されており、見る角度によって絵柄を変えたり、アニメーションのように動かしたりして、お楽しみいただけます。カードデザイン例(1)※画像はイメージです。カードデザイン例(2)※画像はイメージです。風神雷神図屏風(東京国立博物館蔵、尾形光琳筆)をモチーフとしたもの。見る角度によって風神と雷神が見え隠れします。「動く!名品カード」(全6種・非売品)※画像はイメージです。本カード、外袋の監修・デザインは、ブランドのロゴデザインをはじめ、さまざまなグラフィックデザインを手がけ、幅広い層に支持されているアートディレクター平林奈緒美さんおよびデザイナー星野久美子さんによるものです。博物館所蔵の名品によるユニークなカードを、ぜひご寄付の記念にお受け取りください。【キャンペーン概要】期間 :2024年12月2日(月)12:00~12月26日(木)12:00配布条件:対象事業に2,000円以上のご寄付をいただいた方に寄付一口あたり1枚、「動く!名品カード」をプレゼントします。カードは全6種類。どのカードがもらえるかはお楽しみ!対象事業やご寄付の方法など、詳しい条件は「国立文化財機構 寄附ポータルサイト」を参照ください。国立文化財機構 寄附ポータルサイト 【国立文化財機構へのご寄付について】当機構の活動を支える大きな柱の一つがご寄付者の存在です。これまでも、賛助会(寄付会員制度)や募金箱、オンライン寄付、クラウドファンディングなどを通してご寄付をいただき、当機構の活動を力強く後押しいただいておりました。昨今の世界情勢の変化や光熱費・物価の高騰等の影響を受け、ご寄付の重要性はますます大きく、必要不可欠なものとなっております。いただいたご寄付は、すべて文化財のために使用されます。文化財の購入や修理、展示、教育普及事業等の幅広い分野で活用させていただきます。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2024年11月28日渡辺おさむアトリエは、2024年夏に開催された新見美術館(岡山県新見市)での展覧会「渡辺おさむかわいいお菓子の美術館」より、人気作品「Sweet Cat -Cream-」と「ULTRA SWEETS」が同美術館のコレクションに加わったことを発表しました。この収蔵により、渡辺おさむの作品が収蔵された美術館は10館目となり、2024年11月21日に新見市役所で記念セレモニーが開催されました。収蔵作品「Sweet Cat -Cream-」■新見美術館夏の個展で注目を集めた作品が収蔵決定。新見美術館は「Sweet Cat -Cream-」と「ULTRA SWEETS」の2作品を収蔵しました。「Sweet Cat -Cream-」は、可愛らしい猫を生クリームでデコレーションした彫刻作品で、展覧会中に最も注目を集めました。また、「ULTRA SWEETS」は、ポップカルチャーのキャラクターを甘美なデコレーションで仕上げた作品で、幅広い世代から支持を受けています。セレモニーでは、新見市教育長 正村政則氏をはじめとする関係者が出席し、地域とアートをつなぐ重要な一歩として紹介されました。この作品群は、今後の企画展を通じてさらなる価値が発揮される予定です。新見市教育長 正村政則氏■10館目コレクションの意義と次なる挑戦今回の収蔵は、新見美術館のコレクションの多様性を高めるだけでなく、地域文化への貢献も期待されています。渡辺おさむ作品は、見た目の華やかさだけでなく、その背後にある独創的なコンセプトで観る人を魅了します。同館は、これらの作品を活用した展示を企画することで、観客との新たな対話を目指しています。さらに、渡辺おさむアトリエでは、国内外の美術館と協力しながら、今後の展覧会を計画中です。これにより、現代美術の可能性と日本発のアートの発信力がますます高まるでしょう。夏に開催された展覧会写真(1)■新見美術館学芸員 徳山亜希子氏コメント春先に公表する今年一年分の展覧会案内から、渡辺先生の猫の作品を使わせていただいていました。夏休みに合わせて開催した展覧会「渡辺おさむ かわいいお菓子の美術館」は、初日には渡辺先生ご本人にお越しいただき、ドーナツのストラップを作るワークショップを開催するなど、地方の美術館にとって華やかなイベントとなりました。展示ではいろいろな動物の作品がありましたが、早くから目に馴染んでいたこの猫の作品はかわいさもひとしお。この度、当館の収蔵作品のひとつに加わることになり、美術館のコレクションに広がりができたという意味でも嬉しく思っています。本物そっくりのクリームで覆われたこの白猫が、来館者の皆様を驚かせ、そして長く愛されていくよう、新見美術館で大切にしていきたいです。■渡辺おさむについてスイーツデコの技術をアートに昇華させた第一人者として「東京カワイイTV」(NHK)や「徹子の部屋スペシャル」(テレビ朝日)等、多くのメディアに取り上げられています。その作品は、国内はもとより海外でも注目を集め、中国、インドネシア、イタリア、ベルギー、トルコ、アメリカ、韓国などでも個展が開催され、話題を呼んできました。また作品集や著書が出版されたほか、大原美術館や清須市はるひ美術館など国内10ヶ所の美術館に作品がコレクションされています。■渡辺おさむ作品収蔵美術館・大原美術館・清須市はるひ美術館・山ノ内町立志賀高原ロマン美術館・高崎市美術館・おかざき世界子ども美術博物館・平野美術館・大原こども美術館・笠間日動美術館・酒田市美術館・新見美術館渡辺おさむホームページ: ■新見美術館について新見美術館は、1983(昭和58)年に新見市出身で京都在住の横内正弘氏(現在故人)が個人コレクションを新見市に寄贈したいとの申し出があったことが設立の発端です。これをきっかけに、新見郷土美術館建設についての懇談会が設立され、長い間討議、検討の末「新見市にも文化の拠点を」という市民からの強い要望があったことも後押しとなり、平成元年に起工式、平成2年11月1日に開館の運びとなりました。現在では、1,300点余りの作品を収蔵しており、その中心となる富岡鉄斎作品77点は高い評価を受けております。その他、横山大観、竹内栖鳳などの近代日本画から平山郁夫、田渕俊夫、平松礼二、宮廻正明、小田野尚之らの現代日本画家、郷土ゆかりの画家や工芸家の作品などを収蔵しており、一年を通じてさまざまな展覧会を開催しています。新見美術館〒718-0017 岡山県新見市西方361TEL・FAX:0867-72-7851 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2024年11月25日新国立劇場のロッシーニ《ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)》(新制作)が11月20日に幕を開ける。オペラ・ファン注目の話題の公演だ。指揮は芸術監督の大野和士、演出・美術・衣裳は1944年生まれの巨匠ヤニス・コッコス。初日直前のゲネプロ(Generalprobe=最終の舞台総稽古)を取材した。物語の舞台は14世紀のスイス。題名役である弓の名手ギヨーム・テルをリーダーに、民衆が、オーストリアの圧政からの解放のために立ち上がる姿、そして、もうひとりの主役であるアルノルドと、統治する側のハプスブルク家の王女マティルデとの、いわば敵対勢力同士の禁断の愛、それゆえの葛藤を描く。この主要3役を演じるのは、ゲジム・ミシュケタ(バリトン/テル)、ルネ・バルベラ(テノール/アルノルド)、オルガ・ペレチャッコ(ソプラノ/マティルド)。現代を代表するベルカントの名手が揃った。世界的なベルカント名手が顔を揃え、日本人歌手も含めて粒揃いのキャスト撮影:堀田力丸提供:新国立劇場この3人にフォーカスしてオペラの聴きどころを追ってみよう。まず第1幕には、テルとアルノルドが互いの真意を探り合う緊迫した二重唱〈どこへ行く?〉がある。バルベラが挨拶がわりにハイC(二点ハ音)を軽々と連発。第2幕は、まさにこの3人が軸となって進む。まず、マティルドが愛するアルノルドへの思いをひとり歌うアリア(ロマンス)〈暗い森〉。ソプラノ・リサイタルで、しばしば単独でも歌われる有名なアリアだ。今をときめくスター・ソプラノ、ペレチャッコの、可憐でやさしく、美しい歌声。そこに当のアルノルドが現れて、互いの気持ちを確認し合う二重唱〈そうです、あなたは私の目が洩らしてしまった秘密を〉になる。大野和士芸術監督が稽古初日の談話で、このふたりのラブシーンこそ、《ウィリアム・テル》がオペラたり得ている重要なポイントだと語っていた、作品全体の肝となる場面だ。祖国スイスへの愛や自由よりもマティルドへの愛を取ると、あらためて決心したアルノルド。しかしその決意は次のシーンですぐに揺らいでしまう。彼女が去ったところへテルがやってきて、ともに戦うようにアルノルドを説得する。アルノルドは、父親が敵に捕らわれ殺されたことを伝えられ、激しい怒りと絶望から復讐を決意。戦うこと、そのためにマティルドと別れる意志を示す三重唱〈なんだと?おお、人殺し!〉を歌う。第3幕ではおなじみの逸話が描かれる。息子の頭の上に乗せたリンゴを矢で射るという、あまりにも有名な例のエピソード。そのシーンにもちゃんとアリアが与えられている。的となる息子に向かって「神のご加護を祈るのだ」と言い含めるアリア〈じっと動かずに〉。チェロ独奏を伴って父親の威厳と不安が交錯する複雑な表情を、ミシュケタのヒロイックなバリトンが繊細に描き出した。第4幕はアルノルドのアリアから始まる。敵に殺された父と暮らしたわが家を訪れ、復讐の意を強くするアリア〈先祖から受け継いだ安らぎの家よ〉。バルベラの力強くも美しい歌唱。最後のハイCも、これみよがしに誇張したりせず、清潔。前幕で捕らえられたテルの代わりに、自らがリーダーとなって民衆を勝利に導くことを決意する。日本人キャストも実力派揃いで、テルの妻エドヴィージュに齊藤純子(メゾ・ソプラノ)、その息子ジェミに安井陽子(ソプラノ)、憎々しい敵の総督ジェスレルに妻屋秀和(バス)、他の面々。なかでも終幕でエドヴィージュが、夫と子供を失ったと思い込んで慟哭する場面の、齊藤の鬼気迫る表現は深く印象に残った。グランド・オペラならではの、合唱とダンスのスペクタクル撮影:堀田力丸提供:新国立劇場19世紀フランスで流行した「グランド・オペラ」の初期代表作に挙げられる《ウィリアム・テル》。「グランド・オペラ」様式の特徴のひとつとして大規模な合唱とバレエの要素は必須。第2幕前半以外はほぼ出ずっぱりと言っていいぐらいの合唱が、濃厚な声のエネルギーを浴び続ける快感を与えてくれる。新国立劇場合唱団(合唱指揮=冨平恭平)の高水準なコーラスは、精彩かつ壮麗。いっぽう、ダンスは第1&3幕に組み込まれている。オペラのバレエ・シーンによくある、取ってつけたようなバレエが唐突に挿し込まれるのではなく、物語の流れに沿った自然な使われ方。ただし今回は、13人のダンサーたちが、村人や兵士といった物語上の登場人物だけでないキャラクターも演じて楽しい。このダンス・シーンだけを切り出してもひとつの小品として成立しそう。ちょっと不思議なインパクトは見どころのひとつだ(振付=ナタリー・ヴァン・パリス)。オーケストラは、有名な序曲だけとっても、しょっぱなのチェロ独奏や、〈静けさ〉の部分のイングリッシュ・ホルンとフルートのソロの掛け合いなど聴きどころ満載。3時間半を超える長尺の音楽を、大野がゆるみなくまとめ上げた。静かに、しかし強く、自由の意味を訴えかける演出撮影:堀田力丸提供:新国立劇場舞台美術家としても活躍するヤニス・コッコスの演出は、派手ではないが美しい。頭上から繰り返し降りてくる矢じりは、(もちろんテルの使う弓矢に由来するわけだが)圧政・弾圧の象徴として民衆に突きつけられる。この逆三角形のモティーフは随所に使われていた。テルたち民衆が勝利するフィナーレでは、当然アルノルドとマティルドも結ばれてハッピーエンド……と思いがちだが、コッコスは、「自分が属していた集団を捨ててしまったマティルドは、すべてを失い、まったくの孤独になってしまう」と述べている。それを示すように、民衆が自由を獲得して歓喜するラスト・シーンで、マティルドも舞台上にはいるものの、後方に離れて立ち、喜びの輪に交わることはない。王女でありながら革命に加担した彼女には、もはやどちら側にも居場所がないのだろう。そして最後の最後。輝かしい自由と荘厳な自然を讃えるスケール大きな合唱の背景に、破壊された現代の建物が映し出される。ウクライナの映像だろうか。オペラの中で描かれてきたような対立が、時代を超えて現実世界でも繰り返されていること。あるいは、自由と正義のためであるとしても、戦いによって失われてゆく命があってよいのかという疑念。そんなことを訴えかけているように受け取れた。声高にではなく、静かに。《ウィリアム・テル》は1829年にパリ・オペラ座で初演されたロッシーニ最後のオペラ。76歳まで生きたロッシーニだが、まだ37歳の時に発表したこの作品を最後に、以後オペラは書かなかった。序曲(とくに最後の「スイス軍の行進」の部分)だけなら、知らない人がいないであろう超有名曲だが、全4幕、上演時間約4時間を要する大作ということもあって、オペラ全体の上演機会は限られてきた。原語フランス語による舞台上演は今回が日本初。それどころか国内での演出付きフル舞台上演自体、日本初演だった藤沢市民オペラの上演(1983年、福永陽一郎指揮、粟國安彦演出/日本語上演)以外の記録がない。今回の上演が日本のオペラ史の新たなページを開くことになる。新国立劇場のロッシーニ《ウィリアム・テル》は、11月20日に初日を迎えたあと、11月23日(土祝)、26日(火)、28日(木)、30日(土)の全5公演。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。上演時間は、第1幕と第2幕のあとの各30分の休憩を含めて約4時間35分。取材・文:宮本明ジョアキーノ・ロッシーニウィリアム・テル(新制作)■チケット情報()11月20日(水)~11月30日(土)新国立劇場オペラパレス
2024年11月21日船岩祐太が構成、上演台本、演出を務め、3本のギリシャ悲劇をひとつの作品に再構成した『テーバイ』が新国立劇場にて11月7日(木)に幕を開けた。新国立劇場が小川絵梨子芸術監督の就任以降、積極的に進めてきた新たな試みであり、1年間という期間の中で、参加者が話し合いや試演を重ねて作品理解を深めながら、より豊かな作品づくりをおこなっていく「こつこつプロジェクト」によって生まれた本作。知らぬ内に父親殺しと近親相姦に手を染めたテーバイ王・オイディプスの物語『オイディプス王』、オイディプスがテーバイ追放後に放浪の末に辿り着いた地で神々と和解し、その人生に幕を下ろす『コロノスのオイディプス』、そしてオイディプスの娘であるアンティゴネが、テーバイ王である叔父のクレオンが定めた法に背き、兄の亡骸を埋葬しようとする『アンティゴネ』。ソポクレスによる3本のギリシャ悲劇を船岩が1本の戯曲として再構成し、隆盛を誇った王国・テーバイが没落していくさまを描き出す。舞台上の床はまるで水が張っているかのような鏡面となっており、人々や美術が映り込むつくりになっており、荘厳な空気が漂う。後方には木でできた巨大な扉があり、舞台下手にはオイディプスのための玉座とテーブル、上手にはタイプライターや書類の山が置かれた机やイスが配置されており、古代ギリシャの王の居城というよりも、近代国家の政府の執務室を思わせるようなつくりとなっている。衣裳も、ギリシャ悲劇でおなじみのローブではなく、オイディプス(今井朋彦)らは白スーツ&白リボンタイを着用しており、衛兵たちの衣裳も近代国家の装いである。開演前から、壇上にはオイディプスの妻(そして、母親でもある)イオカステ(池田有希子)がおり、乳母車の赤ん坊をあやしている。第一幕『オイディプス王』はオイディプスと、テーバイの市民を代表してやってきた神官の会話から始まる。神官は疫病による国土の荒廃、市民の窮状を伝え、オイディプスに国を救ってくれと嘆願する。そこへ、神託を手にしたクレオン(植本純米)が戻ってくる。クレオンは「この国の穢れ(=先王ライオスを殺害した犯人)を追放せよ」という神々の言葉を伝え、ここから少しずつ、先王の死の真相、さらにはオイディプス自身の出生の秘密が明らかになっていく…。続く第二幕『コロノスのオイディプス』は、『オイディプス王』の頃からしばらく時を経た時代の物語。舞台中央に真っ赤なロープのようなものが垂れ下がっており、神々しさを感じさせる。そこはかつてオイディプスが神託で「生涯を終えることになる」と示された復讐の女神の森。近親相姦と父殺しの罪を背負い、盲目となってテーバイを追放されたオイディプスと彼の旅に付き添う娘のアンティゴネが森に辿り着いたところから物語は始まる。ちなみに、アンティゴネらの衣裳はより現代的な装いとなっており、オイディプスは車椅子に乗り、森を守る男たちは銃を携行している。オイディプスの元に、この地を含むアテナイの代表者・テセウス、祖国テーバイがオイディプスの2人の息子の諍いから戦火にあることを知らせる娘のイスメネ、さらにはオイディプスにテーバイ帰還を求めるクレオン、そして争いを続ける息子のひとりであるポリュネイケスなど次々と来訪者がやってくる。やがて、オイディプスはこの地で人生の終焉を迎えることになる…。最終の第三幕『アンティゴネ』では再びテーバイが物語の舞台に。舞台上には、戦争の原因となったオイディプスの2人の息子、ポリュネイケスとエテオクレスの死体を入れた袋が置かれているが、エテオクレスが埋葬される一方で、ポリュネイケスの遺体は荒野に打ち棄てられ、市民がその死を悼むことも禁止される…。そして舞台は第一幕と同じ部屋――いまはクレオンが王となったテーバイ王国の執務室へと移り、法律に背いて兄の亡骸を弔ったアンティゴネが罪に問われる様子が描かれる。執筆された時期も異なるソポクレスの3本の独立した戯曲をひとつにまとめ上げた本作だが、鑑賞して感じるのは物語の“強度”の高さ。そもそも、長く受け継がれてきたギリシャ悲劇そのものが揺るがない強さを持っているのはもちろん事実だが、それだけでなく、1年もの時間を費やして戯曲を育てていくという「こつこつプロジェクト」という企画による部分も大きい。期日の決まった上演に向けて拙速に都合よくまとめ上げるのではなく、時間をかけてじっくりと戯曲と向き合い、試行錯誤を重ねながら文字通りこつこつと断片を積み上げていくことで、物語が成熟し、深みを増していく。3本の戯曲の“継ぎ目”を感じさせず、ひとつの王国が、為政者たちの愚かな振る舞いによって衰退していくひとつの壮大な物語として描き出される。また、3つの物語が連なることで、浮き彫りになってくる登場人物たちの変化や人間の本性が見え隠れしてくるのも本作ならではの見どころ。第一幕『オイディプス王』では、近親相姦と父殺しという罪が明らかになっても、なおも王たる力強さを感じさせていたオイディプスだが、第二幕『コロノスのオイディプス』では、長い旅の果てに神によって定められた己の運命を静かに受け入れ、神々と和解するさまが描かれる。また、劇中で描かれない月日も含め、そんな父の長きにわたる放浪の旅に寄り添い続けてきたアンティゴネだからこそ、神ではなく人間が定めた法律に背き、血を分けた兄を弔うことを選んだのだということが深く納得させられる。そしてもう一人、この『テーバイ』において、いびつな存在感を発揮しているのがクレオンである。『オイディプス王』では、オイディプスの数奇な運命が解き明かされていくのを“脇役”として慌てふためきながら傍らで眺めているが(ある人物のセリフで「クレオンなど一介の脇役にすぎぬ」という言葉さえ出てくる)、オイディプスの息子たちの争いの果てに、『アンティゴネ』ではテーバイの王の座に就いている。中身が変わらぬまま立場が変わり、不相応な権力を握った男の小物ぶりが際立っており、『アンティゴネ』の物語が展開する王の間は、さながら政情の不安定に直面しつつも目先の支持率アップに奔走する総理大臣以下、閣僚たちが集う官邸のようにも映る。また、ギリシャ神話の英雄カドモスの子孫だけが国を治めることができるという、“血”によって継承されてきた王国のテーバイと、同じく英雄であるテセウスがトップに立つが、彼は王ではなく民主政の代表に過ぎないという市民国家・アテナイの対比も『コロノスのオイディプス』と『アンティゴネ』の中で浮き彫りとなっており興味深い。船岩のスタイリッシュな演出も相まって、二千年以上前のギリシャ悲劇であることを一瞬忘れ、疫病と戦争が世界中にはびこる現代の世界と重ね合わせながら「法とは?」「国家とは?」と考えさせられる2時間40分となっている。文:黒豆直樹舞台写真撮影:引地信彦<公演情報>『テーバイ』原作:ソポクレス 『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』(高津春繁 翻訳による)、『アンティゴネ』(呉茂一 翻訳による)構成・上演台本・演出:船岩祐太出演:植本純米 / 加藤理恵 / 今井朋彦久保酎吉 / 池田有希子 / 木戸邑弥高川裕也 / 藤波瞬平 / 國松卓 / 小山あずさ2024年11月7日(木)~11月24日(日)会場:東京・新国立劇場 小劇場チケット情報()公式サイト
2024年11月15日10月にベッリーニの《夢遊病の女》で開幕した新国立劇場のオペラ2024/25シーズン。今季ふたつ目の演目はロッシーニの大作《ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)》の新制作プロダクションだ。10月下旬に行なわれたその立ち稽古初日、冒頭の顔合わせと演出コンセプト説明会の様子が報道陣に公開された。「久しぶり!」「ご無沙汰してます」「よろしくお願いします」新国立劇場の地下にあるリハーサル室。歌手たちが入ってくるたびに、笑顔で挨拶を交わす光景があちこちで見られる。キャストが一堂に会するのはこの日が最初。いよいよ始まるという、いい緊張感も感じられる。撮影:堀田力丸定刻となり、指揮者、演出家、舞台スタッフ、音楽スタッフ、クリエイティブスタッフ、そして歌手たちが紹介されたあと、芸術監督であり、当公演の指揮者でもある大野和士からひとこと。歓迎の挨拶もそこそこに、大野の考える作品のポイントが英語で語られた。まず最初に挙げられたのが、この作品における合唱の重要さ。壮麗な、また動的な音楽を歌う合唱は非常に印象的。それだけでなく、合唱とソリストのコントラストも重要で、合唱は多くの役を演じ、さまざまな場面のベースを作ったあとにソリストが登場する。そして最も重要なのが、アルノルドとマティルドのラブシーン。このスタイルのオペラには欠かせないシーンだが、シラーの原作にはラブストーリーはない。ロッシーニはこの物語をオペラとして構築するために、ふたりに愛の二重唱を与え、このラブシーンがあるからこそ、《ウィリアム・テル》は「オペラ」になった。オペラ全体の基本となる重要な要素なのだと説く言葉に力が入る。撮影:堀田力丸続いて、今回の演出・美術・衣裳を手がけるヤニス・コッコスによるコンセプト説明が始まった。演出そのもののコンセプトというより、その背景となる、作品自体を彼がどのように解釈しているかという丁寧な内容。かいつまんでご紹介する。過去の作品を超越した、ロッシーニ最後のオペラ《ウィリアム・テル》は、ロッシーニ最後のオペラ作品。彼のそれまでの作品を超越して、さらに先に行くような作品なので、それ以上先に行けなくなった。ここで彼がオペラ創作の筆を折ったのは芸術的に興味深い決断だと思う。時代の先を行くモダンさに取り組むロッシーニらしい精神は、ダンス部分にも現れており、今回はナタリー・ヴァン・パリスの振付により、ストーリーに直結しない、異なる次元を語るものになる。作品のふたつの大きなテーマが、「自然」と「自由の希求」。それはロマン主義の基礎になる要素だ。自然はロッシーニの音楽そのものにもしっかりと描かれているし、物語の中でスイスの人々は、自然と強いつながりを持っている。そして徐々に圧政者から逃れて自由を求める。この状況は今日の私たちにも語りかける。世界には紛争が絶えない。対立は時代に関係なく存在している。その対立の図式から外れているのがアルノルドとマティルドだ。ふたりは愛に生きることによって社会的な現実の外に身を置くことになる。その葛藤が描かれる。私は、この作品の最後を次のように解釈している。アルノルドは自身の過去と決別し、マティルドとも決別することを決断する。マティルドも、自分が属していた集団を捨ててしまったがために、すべてを失って完全に孤独になるのだと。非常にロマン主義らしいテーマだ。ギヨーム・テルは革命の指導者。最初は必ずしも反乱に加わろうと思っていなかったスイスの農民たちも、彼によって少しずつ思いをつないでいく。ロマン主義では、まず指導的な立場の人物の動きがあって、そこから大きく動き始めるのだ。このオペラは、動きのあるオラトリオとも捉えることができる。その劇的な部分を大事にして取り組みたい。4時間を超える作品を、1時間ぐらいに感じてもらえるように、よく動く作品にしたい。オペラ転換期の重要な作品。この傑作を東京のお客様にお伝えしたい。登場人物の心情まで──丁寧で根気のいる演技指導撮影:堀田力丸休憩ののち、さっそく立ち稽古が始まった。まず序曲から。本来は音楽だけの序曲だが、今回はそこにも動きがつく。興味深かったのは、演技指導の手順。まず最初に、その登場人物がなぜそこにいるのか、どんな経緯があって、何を考えているのかという人物描写の背景から丁寧に説明していく。それを一人ひとりに行なっていくのだから根気のいる仕事だ。上演時間4時間を超えるオペラに、ひととおり演技をつけ終えるだけでも、いったいどれぐらいの時間がかかるのだろう。5回しか上演しないのが、とてももったいない気がした。稽古はピアノ伴奏で大野が指揮しながら進む。先述のように、全体の稽古はこの日が初日だが、すでに全員が暗譜で歌える状態なのは当然なのだろう。1時間ほどで休憩が入ったタイミングで稽古場をあとにした。長大な作品ということもあり、なかなか上演機会のない作品。1か月後の公演初日が楽しみだ。世界水準のベルカントの名手が顔を揃える公演。題名役テル(バリトン)には、当役で世界的にも名声を獲得しているゲジム・ミシュケタ。アルノルド(テノール)には、新国立劇場の《セビリアの理髪師》(2020年)や《チェネレントラ》(2021年)でも旋風を巻き起こしたルネ・バルベラ。そしてマティルド(ソプラノ)にはスター歌手として揺るぎない人気と実力を誇るオルガ・ペレチャッコ。さらに安井陽子(ソプラノ/ジェミ)、妻屋秀和(バス/ジェスレル)、齊藤純子(メゾソプラノ/エドヴィージュ)ら、日本人歌手たちも実力派が揃う豪華な陣容だ。新国立劇場のロッシーニ《ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)》は、11月20日(水)から30日(土)まで全5公演。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。取材・文:宮本明ジョアキーノ・ロッシーニウィリアム・テル■チケット情報()11月20日(水)~11月30日(土)新国立劇場オペラパレス
2024年11月06日