国立西洋美術館の常設展示室で、小企画展「美術館の悪(わる)ものたち」が開かれています。本展では、国立西洋美術館が所蔵する膨大なコレクションのなかから、「悪ものたち」が登場する作品を展示。まがまがしい悪魔から、心惹かれる魅力的なキャラクターまで、さまざまな悪党が登場します。このユニークな展覧会を担当された研究員さんに、展示の見どころなどお聞きしてきました!西洋の「悪ものたち」が勢ぞろい!「美術館の悪ものたち」展示風景【女子的アートナビ】vol. 306「美術館の悪(わる)ものたち」では、国立西洋美術館が所蔵するコレクションからセレクトされた作品を49件展示。デューラーやルーベンス、クラーナハ、ドーミエ、ゴヤなど、ルネサンス期から20世紀までの名作版画のほか、油彩画も紹介されています。描かれている「悪もの」は、悪魔や怪物だけではありません。怠惰や大食い、嫉妬、貪欲、淫欲などもキリスト教会では「大罪(悪徳)」とされ、それらを描いた作品も展示。また、「死」をイメージ化した不気味な版画や、悪徳政治家を揶揄した風刺画もあり、多彩な西洋の悪ものたちが勢ぞろいしています。この楽しい展覧会を企画された国立西洋美術館 学芸課長の渡辺晋輔さんに、見どころや版画の楽しみ方をお聞きしてきました。悩みに悩んで「悪ものたち」に…――まず、本展開催の経緯について教えてください。渡辺さん国立西洋美術館の版画素描展示室では、大きい展覧会を開催するたびに、当館の所蔵作品を使った小さい展覧会をしています。今回、企画展示室では学術的なスペイン版画の展覧会をしているので、その裏番組として、この小企画展ではやわらかめのテーマで版画などを出すことにしました。――「美術館の悪ものたち」というタイトルにとても惹かれます。なぜ、「悪もの」をテーマにされたのですか?渡辺さん夏休みの期間とも重なるので、子どもが楽しめるものにしようと思いました。テーマは悩みに悩み、「悪魔と魔女」も考えましたが、それだけで作品を集めるのは難しく、もう少し広めのテーマとして出てきたのが「悪ものたち」でした。「悪い奴ら」にしようかとも思いましたが、最終的には「悪ものたち」となりました。「悪もの」は自由に描ける!――作品には、悪魔や怪物などキャラクターたちがたくさん登場しています。今のように簡単に情報が得られない当時の芸術家たちは、どんな風に個性的なキャラクターを生み出したのでしょうか?渡辺さん当時も、少ないながらも情報は得られました。その役割を果たしたのが版画です。ルネサンス期は、版画により情報の伝達が進み、各地で描かれている変わった怪物などを知ることができました。例えば、ユニークな怪物を描いたヒエロニムス・ボスの版画を見た画家が、それをもとに工夫を重ねて発展させて描いたりしています。また、16世紀はローマ時代の壁画などが発掘され、古代の変わった装飾模様が見つかった時期でもあるので、そのデザインを発達させたという可能性もあります。――西洋文化のなかで「悪ものたち」のイメージが受け継がれ、発展していったのですね。渡辺さん悪いものや醜いものは、「こう描かなければならない」という制約がありません。例えばキリストや聖人は、描き方が厳密に決まっています。また、美しい人の描き方もある程度決まっています。「悪ものたち」はそれらと正反対にあり自由なので、画家たちは創意工夫を発揮しやすく、自分の能力を示すきっかけにもしていました。不倫の濡れ衣を着せられた人妻の絵…スケッジャ(本名ジョヴァンニ・ディ・セル・ジョヴァンニ・グイーディ)《スザンナ伝》15世紀――本展の構成を教えていただけますか?渡辺さん会場では、セクションにわけながら、ルネサンス期から20世紀へと時代が下がるように展示していますが、時代の流れは厳密ではありません。また、本展では、当館コレクションのなかでもかなり良い版画を選んであります。テーマを設けていますが、名品展にもなっていて、基本的にどれを見ても良い作品です。――どれも名品とのことで、そこからセレクトするのは難しいと思いますが、各セクションのおすすめ作品を教えていただけますか?渡辺さん最初のセクション「罪深い人々」では、一番目に展示してあるテンペラ画が見どころです。描かれている「スザンナ伝」は、当時とてもメジャーな話です。旧約聖書に題材をとったもので、長老たちに言い寄られ、不倫の濡れ衣を着せられた人妻スザンナの様子などが描かれています。その長老たちが、典型的な悪人とわかるようになっているので、おもしろい作品です。――この絵は、部屋に飾って楽しむためにつくられたのですか?渡辺さん本作品は、もとは「カッソーネ」と呼ばれる、衣服などを入れる長持ちの前面を飾る装飾パネルでした。これは嫁入り道具です。スザンナは貞節を守った女性なので、花嫁のお手本のようなイメージとして、当時の花嫁道具に好んで描かれました。版画史に残る名品!アルブレヒト・デューラー《騎士と死と悪魔》1513年エングレーヴィング――次のセクション「悪魔と魔女」のおすすめ作品を教えていただけますか?渡辺さんデューラーの《騎士と死と悪魔》は、版画のなかで最高峰作品という位置づけで、版画史に残る重要な作品です。技法も優れていますし、「死」をデューラーが工夫して発展させ、あのような版画に仕上げた点もすばらしいです。右側に、ブタの鼻をもつ悪魔も描かれています。「美術館の悪ものたち」展示風景渡辺さんまた、このセクションでは、版画によってイメージがイタリアからドイツへ、そしてドイツからイタリアに伝わったことがわかる作品も3点展示しています。イタリアのマントヴァで制作されたマンテーニャの版画がドイツに運ばれ、それをデューラーが入手し、あるイメージを引用して「魔女」を描きます。その版画が、今度はローマに流通し、ヴェネツィアーノという画家が魔女の作品を描きました。会場では、パネルで詳しく解説してありますので、そちらもご覧ください。ずっと見ていて飽きないイチオシ版画ジョルジョ・ギージ《人生の寓意》1561年 エングレーヴィング――続いて、「魔物」のセクションについて、見どころを教えてください。渡辺さんギージの作品は、16世紀の版画のなかでは非常に有名で、とても魅力的だと思います。作者の空想がすごく発揮され、画面が謎めいていて、今でも何が描かれているのかよくわからない部分もあります。技術力も高く、細かなところまで描き込まれていて、見ていて飽きませんし、純粋に楽しいです。また、本作品は自分が購入を担当したものでもあり、ぜひ見ていただきたかったという思い入れもあります。――この作品は、大きなパネルにもされて、描かれている「生き物」を探すというクイズも出されていますね。渡辺さん動物や怪物だけでなく、よく見ると、「ラファエロ作」という文字も書いてあります。モチーフをラファエロから引用しているところもあり、いろいろな解釈が盛り込まれています。当館ホームページの作品検索ページでも本作品を拡大して見ることができますので、ゆっくり動物など探してみてください。男の醜さを際立たせた作品ウィレム・ファン・スワーネンブルフ、マールテン・ファン・ヘームスケルク の原画に基づく《『世俗財産の悪用についての寓意』より、男に矢を放とうとする死》1609年エングレーヴィング――「死」のセクションのおすすめ作品も教えてください。渡辺さんスワーネンブルフの作品は、世俗財産の悪用を寓意として表しているところがおもしろい作品です。「死」の訪れで財産が崩れ去り、結局死んでしまえば何も残らないという教訓がこめられています。――このような版画は、当時の人たちは飾って楽しんでいたのですか?渡辺さん版画は、本来は手元に置いて、見て楽しむものです。例えば、16世紀に入ると素描のコレクションをする人たちが出てきますが、これは一点ものでなかなか手に入らないので、その代わりに版画をコレクションしていました。今の切手帳みたいに帳面に版画を貼って、鑑賞するというやり方です。裕福な人の趣味ですが、安い物もありました。フェリシアン・ロップス《ポルノクラテスあるいは豚を連れた女》1881年エッチング、アクアティント――最後のセクション「近代都市の悪ものたち」の見どころを教えてください。渡辺さんロップスの作品はインパクトがあります。裸の女性が目隠しをしてブタを連れて歩いている版画です。「ポルノクラテス」とは「娼婦政治家」のことで、自分の利益しか見ていない政治家を風刺している作品です。近代都市の堕落したところを見せつけているように思います。左:フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《『ロス・カプリーチョス』より、何たる犠牲か》1799年エッチング、アクアティント(一部掻き落とし)、ドライポイント右:オノレ・ドーミエ《『表情のクロッキー』より、(39)なあ、いいだろう…ご主人様に接吻しておくれ…今すぐに…》1838年リトグラフ渡辺さんゴヤやドーミエが描いた、中年男性が若い女性を口説く作品もおもしろいです。「不釣り合いなカップル」という主題は歴史が長く、ルネサンスのころからあります。年寄りの男性と若い女性、醜い男性と美しい女性など、いろいろなところが対比となっています。醜い男性を描くとき、いかにして醜さを際立たせるかが画家に求められていました。ゴヤもドーミエも、その部分をうまく表現していると思います。深く考えずに楽しんで!――最後に、版画の鑑賞法について教えてください。版画は、木版やエングレーヴィング、エッチングなどさまざまな技法があり、少し難しいイメージがあります。初心者は、どんなふうに見ればよいのでしょうか?渡辺さんあまり深く考えずに見ていいと思います。技法がわからないと作品がわからない、ということではないと思います。見ていると、素描とは違うというのはわかると思いますので、何か違うなという感じを楽しんでいただければ、それで十分だと思います。例えばデューラーの版画は、純粋に画像が醸し出す雰囲気がすごいと思います。風格があり、見ていると圧倒されます。その魅力を、会場で見て感じていただけたらうれしいです。――詳しく解説していただき、ありがとうございました。クビーンのポスターも見てください!渡辺さんのお話、いかがでしたか。モノトーンの版画は、一見すると地味ですが、描かれているテーマやストーリーを知ると、大変おもしろいアートだと思いました。本展は、タイトルもユニークですが、ポスターも非常にインパクトがあります。アルフレート・クビーンという画家が制作した、不敵な笑みを浮かべた骸骨の版画がデザインされているのですが、残念ながら本作品は著作権の関係で、ポスターも含めて写真を掲載できません。クビーンの作品はネットでも話題になっていて、「あの版画のグッズが欲しい」というコメントもちらほら。間違いなく、本展で一番キャラ立ちのスゴい「悪もの」です。会場で、クビーンの版画は最後に登場するので、ぜひ直接美術館でご覧になってみてください。「美術館の悪ものたち」は9月3日まで開催。Information会期:~9月3日(日)休館日:月曜日※8月14日(月)は開館会場:国立西洋美術館新館2階版画素描展示室時間:9:30~17:30※毎週金・土曜日:9:30~20:00※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般¥500大学生¥250※本展は常設展の観覧券または企画展「スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた」(7月4日(火)~9月3日(日))観覧当日に限り、同展観覧券でご覧いただけます。
2023年07月30日国立新美術館で、「テート美術館展光— ターナー、印象派から現代へ」が開かれています。本展のアンバサダーは、俳優の板垣李光人(いたがきりひと)さん。ご自身でもデジタルアートを手がけるなど、アートが大好きな板垣さんに、展覧会の感想や楽しみ方について、語っていただきました!板垣李光人さんがアンバサダー!板垣李光人さん【女子的アートナビ】vol. 305「テート美術館展光— ターナー、印象派から現代へ」では、英国・テート美術館から「光」をテーマにセレクトされた作品が来日。イギリスが誇る風景画家のターナーやコンスタブル、印象派のモネ、室内の淡い光を描いたハマスホイなどの油彩画や、近代の写真作品、現代アートのインスタレーションなど多彩な作品をとおして、光とアートをめぐる200年の流れを体感することができます。今回、テート美術館から来日する約120点の作品のうち、およそ100点が日本初出品です。本展は、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドをめぐってきた世界巡回展。最終会場の日本では、大人気のロスコやリヒターの作品も特別に出品されます。そんな注目の展覧会でアンバサダーと音声ガイドを務めるのが、NHK大河ドラマ『どうする家康』でモテモテの井伊直政役を演じている俳優の板垣李光人さん。ドイツ語で「光」を意味する「Licht(リヒト)」という名をもつご縁でアンバサダーに選ばれた板垣さんが、プレス内覧会に登場。その後、インタビューも実施しましたので、まとめてご紹介します。すごく不思議な感じ――展覧会のアンバサダーになられて、いかがでしたか?板垣さんすごく不思議な感じです。アートが好きなので、美術館はプライベートでもよく来ている場所です。そこでこうしてお仕事をさせてもらってるというのが不思議な感じですし、本当に光栄で嬉しいです。国立新美術館もよく来ていて、展示室で作品を見たあとは、余韻に浸りながら館内のカフェでお茶しています。そこでケーキを食べたりもしています(笑)。――音声ガイドも担当されています。特に、収録で心がけたことなどありましたか?板垣さん音声ガイドは、作品を鑑賞するための手助けで、作品が主役という意識はありました。また、自分で美術館に来たときにもいつも聴いていたので、どういうテンポがいいのか、どんな感じがいいのか、ある程度はわかっているつもりでいましたので、割とスムーズにできました。完成したものはまだ聴いていないので、また来て聴いてみたいです。――音声ガイドの収録で、特に印象に残った作品解説はありましたか?板垣さん原稿を読んでいて興味深かったのは、草間彌生さんの鏡の作品《去ってゆく冬》です。草間さんの作品は、有名な水玉の絵や立体かぼちゃのイメージでしたが、今回の作品ははじめて知りました。無限を表している作品で、彼女が水玉を描く理由も原稿で触れられいて、興味深かったです。――その作品を実際にご覧になってみて、いかがでしたか?板垣さん会場で作品を見てみると、鏡の奥に続く水玉が、直線で続くのではなく曲線を描くことで、その先が円になるように想像できました。それにより、輪廻というか循環を連想できて、おもしろかったです。あの作品は、写真で見るよりも、やはり実際に本物を見ないとわからないと思いました。解脱したような感じ…――展覧会の全体をご覧になって、いかがでしたか?板垣さんとにかく幅が広いな、と思いました。時代の幅もそうですけど、油絵から現代アートまであり、いろいろな世代の方に楽しんでいただけるのではないかと思います。――お気に入りの作品を教えていただけますか?板垣さんいろいろあるのですが、まずジェームズ・タレルの《レイマー、ブルー》という作品はよかったです。見る人によって解釈や感じ方が全然違うと思うのですけど、ぼくはすごく高尚なもののように感じました。白い無垢な空間に青い光が映し出されるのですが、それがあの世への入り口のような感じで……。安らかで清らかで、煩悩がなくなり、解脱したというか、解脱の入り口にいるような感じがしました。――解脱できるような作品というのはすごいですね。ほかには、どんな作品がよかったですか。板垣さんジョン・ブレットの《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》も好きでした。海に光が降り注ぐ絵で、画家自身が航海に出て見た海の風景を描いたそうで、陸や港から見る海の景色とはまた違う力強さがありました。海の美しさだけでなく、航海に出ているからこそ海の恐ろしさ、厳しさ、力強さみたいなものがわかり、そのうえで描いている絵なので印象的です。波の質感や、光が降り注いで光が波に反射している様子など、ディテールを近くで見るのもいいし、少し離れて全体の力強さを楽しむのもいいです。――鑑賞方法が本格的ですね!板垣さん自分も絵を描いたりするので、ディテールとか見てしまいます。――絵を描かれる立場からご覧になって、すごいと思った作品はありましたか?板垣さんゲルハルト・リヒターの《アブストラクト・ペインティング(726)》はおもしろいと思いました。キャンバスを2個つなげている作品で、アナログで描いているので筆の跡もあるのですが、その筆の動きがデジタルな電子的なものにも思えました。解説を聴いたら、専用のスキージーで描いているそうで、機械的な動きによりその質感が出ているとのこと。油彩的なアプローチによるインクの飛び方とか筆の運び方とかのバランスがおもしろいと感じました。画家自身で自分の色も確立されていますよね。――本展をご覧になり、ご自身のアート制作などでトライしてみたいことなど出てきましたか?板垣さんぼくはデジタルアートを描いているのですが、キャンバスに描きたいなと思いました。リヒターを見たらいいな、と(笑)。専用の部屋を借りてアトリエみたいにして、壁をブルーシートで覆って汚れてもいいようにして、そんな環境が欲しいな、と思いました。衝撃を受けたアートは…――板垣さんは、デジタルアートで現代仏画をお描きになってNFTでリリースされていました。なぜ仏画というジャンルにされたのですか?板垣さんもともと仏教だけでなく宗教画が好きなんです。キリスト教絵画は、印象派などと違う質感があり、おもしろいと感じます。例えば、人物のバランスが、概念的な偉大さや存在の大きさにより描かれるサイズが決まったりして、そのめちゃくちゃ大胆な感じがおもしろいです。色の使い方も、絵の具の発達により変わってきますが、古いものは、その描かれた当時の独特の色の出し方があり、そんな色使いも好きです。ヨーロッパだけでなく、アジアの曼荼羅などもおもしろいですね。だから、もともと宗教画に興味があり、デジタルでイラストを描いていて、さらにファッションも好きなので、その自分の好きなものを組み合わせて紹介したいと思い、たどりついたのが現代仏画でした。――では、お寺などにも行かれたりするのですか?板垣さんお寺も仏像も好きです。お寺や神社にもいろいろ様式があり、例えば仏像でも攻めている感じのものもあったりして、見ていておもしろいです。――アートは、描くのも見るのも好きとのことですが、いつからアートに興味があったのですか?板垣さん絵は、覚えていないくらいのころから描いていました。アーティスティックなものが好きだと自覚したのは、ティム・バートンの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を見てから。この映画がとても好きでした。小さいころからティム・バートンの作品が好きで、それが今にも通じてくるのかなと思いました。――これまでに見た展覧会で、印象に残っているものはありますか?板垣さん以前、森美術館で開催されていた「塩田千春展:魂がふるえる」。あれは衝撃的でした。今回のテート美術館展でも、大きな卵のような作品《イシーの光》(アニッシュ・カプーア作)がありましたが、あのような生命とかエロティシズムを感じるような作品もすごく好きで、塩田さんの作品も血のような肉体的なものを感じ、そんな作品が好きで強烈だったので覚えています。――たくさん美術展に行かれていますが、アートの楽しみ方を教えていただけますか?板垣さん例えば今回のターナーの作品など、百数十年以上も前に描かれたものです。その時代に生きていた人たちが感じていたもの、考えていたこと、におい、五感などすべて表現されているのが絵なので、その時代にタイムスリップできる感覚を味わえるのが美術だと思います。来たことがない方は、とにかく一回来てみると、自分なりの楽しみ方が絶対に見つかると思います。――では、最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。板垣さんこの展覧会には、はじめて日本にくる作品もたくさんあり、絵だけでなく立体作品もあります。ふだん絵や美術に興味がない方や、美術館に来る機会がない方でも、すごく楽しみやすいと思います。いろいろな時代のものがあり、何か自分のなかにビビッとくる、心惹かれる作品が絶対にあると思うので、いろいろなテートの光を感じに来ていただけたらと思います。――ありがとうございました!取材を終えて…アートについて、非常に造詣の深い板垣さん。作品についての感想も、ひとつひとつがとても深く、でもわかりやすい言葉で話してくださり、聴き惚れてしまいました。容姿だけでなくお声も優しく美しいので、音声ガイドも心地よく聴くことができます。ぜひ、板垣さんのガイドを聴きながら、作品をご覧になってみてください。Information会期:〜10月2日(月)休館日:毎週火曜日会場:国立新美術館企画展示室2E時間:10:00〜18:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで観覧料:一般¥2,200大学生¥1,400高校生¥1,000
2023年07月30日東京駅周辺の便利なエリアには、ステキな美術館がいくつか集まっています。今回は、そのなかから夏のおでかけにおすすめしたい「ゾクゾクする」アートが見られる展覧会を2つご紹介!あやしい絵にゾクゾク!「甲斐荘楠音の全貌」東京ステーションギャラリー【女子的アートナビ】vol. 303まずは、東京駅直結の美術館、東京ステーションギャラリーで開催中の「甲斐荘楠音の全貌」。大正から昭和にかけて活躍した日本画家、甲斐荘楠音(かいのしょうただおと/1894-1978)の代表作が集まる過去最大規模の展覧会です。甲斐荘は、京都生まれ。御所近くの裕福な家庭で育ち、幼少のころから歌舞伎好きで劇場に通うような子どもでした。その後、京都市立絵画専門学校(現:京都市立芸術大学)に進学。ルネサンス美術にも関心をもち、《モナリザ》の模写などもしていました。卒業後は、革新的な日本画を次々と発表し、注目を集めます。《幻覚(踊る女)》1920年頃、京都国立近代美術館彼が描く「あやしい」雰囲気の作品は、おもに大正時代に制作されました。女性の姿が独特な色彩やタッチで表現され、かなりのインパクト。ちょっと官能的でもあり、ゾクゾク鳥肌が立ちます。《春宵(花びら)》1921年頃、京都国立近代美術館ゾクゾクを通り越して、ギョッとする作品もあります。白粉をたっぷり塗った顔がやや不気味にも思える《春宵(花びら)》は、花魁を描いた作品。描きかけの部分もあるので、未完作といわれています。この花魁と似たような姿をした画家自身の写真も、参考資料として展示されています。太夫に扮する楠音、京都国立近代美術館芝居好きの甲斐荘は、ときどき女形として素人歌舞伎の舞台に出ることもありました。さらに、異性装で「女性」として振る舞うこともあり、彼が遊女や女形に扮した写真も多く残っています。《春》1929年、メトロポリタン美術館、ニューヨークPurchase, Brooke Russell Astor Bequest and Mary Livingston Griggs and Mary Griggs Burke Foundation Fund, 2019 / 2019.366また、本展には海外からの出品作もあります。展覧会のメインヴィジュアルにも使われている《春》は、アメリカのメトロポリタン美術館から来日。本作品は、甲斐荘が所属した絵画団体「新樹社」の第1回に出品された作品です。描かれている女性の顔は、以前の画風にあったあやしい雰囲気が薄まり、優しく微笑んでいます。本作は、新しい画風を切り拓いたといわれる作品で、2019年にメトロポリタン美術館所蔵となりました。映画衣裳の世界でも活躍!『旗本退屈男 謎の南蛮太鼓』衣裳、東映京都撮影所 ©東映(映画公開:1959年、監督:佐々木康、製作・配給元:東映株式会社、衣裳着用者:市川右太衛門)あやしい絵のイメージが強い画家ですが、本展では知られざる後半生についても紹介しています。甲斐荘は、風俗の考証家として、時代劇映画の衣裳制作にも携わっていました。会場では、「旗本退屈男」シリーズの豪華衣裳を多数展示。甲斐荘が映画『雨月物語』(溝口健二監督)のために考案した衣裳は、アカデミー賞衣裳デザイン賞にもノミネートされました。世界も認めたデザインセンスをもつ甲斐荘の着物は必見です。《虹のかけ橋(七妍)》1915-76年、京都国立近代美術館最終章では、画家が60年もかけて描き続けた大作《虹のかけ橋》を展示。21歳のときに構想した作品で、少しずつ手を入れたり、顔を描き直したりしながら、最後まで女性の美を追求していたようです。まさに、甲斐荘の「全貌」を見ることができる展覧会は、8月27日まで開催。クールな絵にゾクゾク!「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」アーティゾン美術館外観続いてご紹介するのは、東京駅から徒歩圏内にあるアーティゾン美術館で開催中の「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」。本展では、印象派から1960年代ごろまでのアート作品をとおして抽象絵画の歴史を紹介しています。展示されている作品は、ヨーロッパやアメリカ、アジアの作家など多岐にわたります。各作品は、ポンピドゥー・センターやフィリップス・コレクションなど、海外の美術館や個人コレクションから30点も来日。国内からも、国公立、私立美術館、個人コレクションもあわせて約70点が出品されています。さらに、アーティゾン美術館が新収蔵した作品95点を一挙に公開。あわせて約250点ものクールな抽象絵画を楽しめる大規模展覧会です。ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年頃石橋財団アーティゾン美術館展示構成は、12のセクションに分かれています。最初のセクション「抽象芸術の源泉」では、マネ、ゴッホ、モネなどの印象派作品を展示。まず1作品目は、セザンヌの作品が紹介されています。セザンヌは印象派を代表する画家のひとりですが、やがて印象派の仲間から離れて独自の革新的な絵画を制作します。彼の作品は、その後キュビスムやフォービスム、抽象絵画へと影響を与えることになりました。抽象絵画の創始者は…フランティセック・クプカ《赤い背景のエチュード》1919年頃石橋財団アーティゾン美術館【新収蔵作品】セクション3「抽象絵画の覚醒」では、抽象絵画の世界を切り拓いた代表的な画家カンディンスキーやモンドリアン、ドローネーなど、巨匠たちの作品が多数登場。なかでも必見作は、展覧会のメインビジュアルにも使われているクプカの作品です。抽象絵画の創始者のひとりといわれるクプカは、当初、挿絵画家として生計を立てながら絵画のスタイルを模索。構図を単純化してしき、やがて作品は抽象絵画へと変化していきました。ほかにも、古賀春江や岡本太郎、ミロ、デュシャン、草間彌生、白髪一雄、瀧口修造など、巨匠たちの作品や、現在活躍している作家の絵画も展示されています。なお、各フロアへの入り口にもぜひ注目してみてください。ポロックやアルトゥングの作品が大きくデザインされ、展示への期待感がグッと高まります。抽象絵画を心ゆくまで楽しめる展覧会は、8月20日まで開催。Information展覧会名:甲斐荘楠音の全貌絵画、演劇、映画を越境する個性会期:~8月27日(日) ※会期中、展示替え有[前期7/1~7/30、後期8/1~8/27]休館日:月曜日[7/17,8/14,8/21は開館]、7/18(火)会場:東京ステーションギャラリー時間:10:00~18:00(金曜日~20:00) *入館は閉館30分前まで観覧料:一般¥1,400高校・大学生¥1,200中学生以下無料展覧会名:「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」会期:~ 8月20日(日)休館日:月曜日、7月18日(火)※ただし、7月17日(月・祝)は開館会場:アーティゾン美術館時間:10:00~18:00(8月11日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで観覧料:日時指定予約制ウェブ予約チケット ¥1,800 、窓口販売チケット¥ 2,000 、学生無料(要ウェブ予約)*予約枠に空きがあれば、美術館窓口でもチケットを購入可能*中学生以下の方はウェブ予約不要
2023年07月30日渋谷区立松濤美術館で、「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」が開かれています。本展では、平安時代から現代までの日本のさまざまな人形を紹介。なじみのあるお雛さまやマネキン、リアルな生人形、さらに性を扱う人形など多彩な造形物が展示されています。会場の様子や学芸員さんのお話など、詳しくレポートします!ボーダーラインを飛び越えた人形が集結!「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」会場入り口【女子的アートナビ】vol. 304「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」では、民俗や考古、玩具、芸術など各ジャンルのボーダーラインを飛び越えた日本のさまざまな人形を展示。多様性をもつ人形をとおして、日本の立体造形表現の変遷を知ることができる展覧会です。本展を担当された松濤美術館学芸員の野城今日子さんは、本展の趣旨について次のように解説。野城さん人形にはさまざまな分野があり、表現方法も役割もすべて違います。ふだん、美術や芸術という枠組みで私たちは考えていますが、美術館に人形を並べてみると、「何が芸術なのか」と概念が揺さぶられるのではないでしょうか。人形の造形表現をとおして、カテゴライズできないところにも日本のモノづくり精神が宿るということをお伝えできればと思います。衝撃的な呪詛人形からスタート!《人形代[男・女]》平安京跡出土平安時代前期京都市指定文化財京都市蔵本展は10章構成。いくつか見どころをピックアップして、ご紹介していきます。第1会場(2階展示室)にある第1章では、考古や民俗資料としての人形を中心に展示。平安時代につくられた《人形代(ひとかたしろ)[男・女]》は、京都で出土したもので、人を呪い殺すためにつくられた人形です。本展のポスターにも使われています。野城さん人形代は、薄い木に顔を描いたシンプルなものが京都などでたくさんつくられ、儀式などで使われていました。約10年前に平安京跡の井戸から出土した人形代は、立体的で肉感もあり、精巧につくられ体に名前も書かれています。リアルにつくることにより、より強く呪いをかけられると当時の人は思っていたようです。大きなお雛さま!末吉石舟《古今雛》文政10(1827)年東京国立博物館蔵続く第2章では、おなじみの雛人形や五月人形を展示。雛人形は、貴族や公家社会の行事で、子どもの健康を願うため、また社会の規範を子どもに教えるためにも使われました。野城さんお雛さまは、小さなものや、子どもの健康を願うものなど、いろいろな種類があります。例えば、「古式立雛」は、今のドールハウスのように、子どもたちがお雛さまで遊んでいたルーツもあるようです。「古今雛」のような大きなお雛さまなどのバリエーションもあり、サイズや表現を変化させながら人々の生活に根づいていきました。彫刻と人形の違いは…小島与一 《三人舞妓》 1924年アトリエ一隻眼蔵前章は江戸時代までの人形でしたが、第3章からは明治に入り、西洋化を推し進める日本でつくられた人形が展示されています。野城さん江戸時代まで、彫刻的なものであった人形は、近代に西洋から彫刻の概念が入ると変化が生じていきます。例えば、展示されている博多人形はどこから見ても破綻のない形で、彩色も美しく、彫刻といっても人形といってもいい存在です。彫刻と人形の差はどう区別するのか、と感じていただきたいです。ギョッとする生人形「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」展示風景第2会場(地下1階展示室)に入ると、生人形(いきにんぎょう)が登場。生人形とは、幕末から明治にかけて流行したリアルな人形で、ギョッとするほど精巧につくられています。野城さん生人形は、見世物として架空の物語や歴史の物語のひとつの場面を表したりしているエンタメのひとつでした。お祭りなどのためにつくられた生人形もあれば、地域伝承に使われるものもあります。例えば、《生人形松江の処刑》は、松山市三津浜地区に伝わるものです。松江さんという女性が地域の乱暴な男に襲われそうになり、男性を殺めてしまいます。それで自分も処刑してほしいと父親に頼み、首を切られる場面を生人形で表しています。松江さんのお墓の横にこの人形を置き、供養のためにみなで踊ったりしていました。マネキンや現代アートも!「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」展示風景第8章では、商業で活躍した「人形」としてマネキンを紹介。さらに、最後の10章では、現代美術家、村上隆さんのアート作品とフィギュアが展示されています。野城さん初期の洋装マネキンは、実は彫刻家がつくっていました。向井良吉は彫刻家で、七彩というマネキンをつくる会社の創業者でもあります。会場では、彼のつくったマネキンと彫刻を並べて展示しています。また、最後の章では、村上隆さんのアート作品とフィギュアを展示。人形に対する思いは、いろいろな分野に分散しながら日本の根底に流れていき、今は現代アートとして世界に発信されています。大人の展示コーナー「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」展示風景第9章は、1階の特別エリアに作品が展示され、大人だけが入場できます。この展示室では、多くの人の心身に寄り添ってきたラブドールなど、性愛を対象にした人形が紹介されています。(18歳未満の方は、ご覧になれません)野城さんラブドールは、性行為をする相手としてつくられた人形で、生きているような血色、肉感がわかり、どこかリアルな感じがあります。生人形から流れている「人をつくりたい」という気持ちが現代にも受け継がれています。役割も表現の仕方も分野もすべて違いますが、人形は私たちと近い距離にあります。美術や芸術という枠組みでカテゴライズできないところにも造形精神が宿る、というのをこの展覧会で感じていただければうれしいです。展覧会は8月27日まで!本展は、前期と後期にわかれ、一部展示替えがあります。また、担当学芸員さんによるトークイベントなども予定されています。ぜひ、多様な人形の世界を楽しんでみてください。Information会期:~8月27日(日) ※前期:7月1日(土)~7月30日(日)後期:8月1日(火)~8月27日(日)※会期中、一部展示替えがあります休館日:月曜日[7/17は開館]、7/18(火)会場:渋谷区立松濤美術館時間:10:00~18:00(金曜日~20:00) *入館は閉館30分前まで観覧料:一般¥1,000大学生¥800高校生・60歳以上¥500※土・日曜日、祝休日及び夏休み期間は小中学生無料※毎週金曜日は渋谷区民無料
2023年07月23日静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、「サムライのおしゃれ―印籠・刀装具・風俗画―」が開かれています。昔のサムライたちが身につけていた装身具は、実は日本を代表する美術品のひとつ。世界の愛好家たちも憧れた、クールなサムライアイテムをご紹介します!世界でも高評価!サムライアイテムが勢ぞろい「サムライのおしゃれ―印籠・刀装具・風俗画―」会場入り口【女子的アートナビ】vol. 302「サムライのおしゃれ―印籠・刀装具・風俗画―」では、静嘉堂文庫美術館が所蔵するコレクションのなかから、サムライたちの装身具である印籠や刀装具などのアイテムを展示。江戸時代の美術工芸品は、浮世絵と同じように海外でも高く評価され、世界の愛好家たちに蒐集されてきました。印籠などは小さな作品ですが、そのなかに花鳥風月や故事などが金銀漆で美しく表現され、世界のコレクターからも愛されています。本展では、そんなサムライアイテムのほか、おしゃれな江戸の人々を描いた風俗画も紹介。武士や遊女たちが華やかに着飾るようすも楽しむことができます。※本記事の写真はプレス内覧会で許可を得て撮影しています。サムライのおしゃれとは?《黒蝋色塗鞘桐紋金具打刀拵》江戸時代(17世紀)では、会場の展示作品とともに見どころをご紹介。まず1章は「サムライのおしゃれ」として鎌倉武士たちの華やかな鎧兜姿を描いた絵巻や、江戸の武士が登城するときに身につけた礼装の拵(こしらえ)などが展示されています。サムライや展示作品について、展覧会を担当した静嘉堂文庫美術館学芸員の山田正樹さんは、次のように解説してくれました。山田さんサムライの誕生については諸説ありますが、一説には京都の平安貴族に上級貴族と下級貴族がいて、下級貴族が軍事専門化した家系がのちの平氏や源氏のサムライといわれています。その平安鎌倉の武士たちが身につけていた戦の装束から「サムライのおしゃれ」を解いていくのが第1章です。江戸時代の武士は、腰に大小の刀を二本差していますが、長い刀を収めた打刀拵(うちがたなごしらえ)と、短い刀を入れた脇差拵の二点セットになっています。江戸時代初期、徳川幕府が制定した武士の礼装は裃、袴をつけて二本差しにして、殿中では脇差のみで、右側が空くので印籠を提げる。この三点セットが武士の礼装の基本でした。《蒙古襲来絵巻摸本巻二》明治2年(1869)山田さん《蒙古襲来絵巻》のオリジナルは鎌倉時代・13世紀に描かれたもの。静嘉堂の展示品はその摸本で、明治2年に描かれたものです。鎌倉時代の元寇がテーマの作品で、13世紀後半の武士たちの装束を知ることができます。この絵巻は、元寇の戦に参加して戦功をあげた竹崎季長自身が絵師に依頼したもので、細かく注文をつけて描かせたので武家風俗の考証が的確といわれています。人気のコレクターズアイテムが勢ぞろい!「サムライのおしゃれ―印籠・刀装具・風俗画―」会場風景続く2章「将軍・大名が好んだ印籠」では、静嘉堂が所蔵する276点の印籠コレクションから、40点を精選して紹介。将軍家や大名家につかえた蒔絵師ごとに、作品が展示されています。将軍や大名たちは、印籠を注文製作し、季節ごとに取りかえておしゃれを楽しんだり、贈答に使ったりしていたそうです。趣味で印籠を集めるお殿様もいて、コレクターズアイテムとなっていました。職人たちも技術やデザインを磨き、全国のサムライが集まる大都市・江戸には、腕の良い印籠蒔絵師たちが集まりました。数ある印籠のなかでも山田さんが注目する逸品は、尾張徳川家の御用蒔絵師、吉村寸斎の作品。山田さん作例が少なく、幻の蒔絵師と呼ばれています。木目のように見える背景は、実は黒漆地に金の研ぎ出し蒔絵で木目を繊細に表しています。そこに墨絵で描いた馬の図をそのままに螺鈿の輝く貝に置き換えて表しています。明治になると超絶技巧がはやりますが、寸斎の印籠はその走りとなるような作品です。海外が憧れた黒いモノとは?「サムライのおしゃれ―印籠・刀装具・風俗画―」会場風景3章「江戸の風俗画にみる武士のよそおい」では、江戸時代の江戸や京都の街のにぎわいなどを描いた屏風や、サムライのおしゃれアイテムである刀剣の拵(外装)や装飾金具などを展示。重要文化財の《四条河原遊楽図屏風》では、当時のファッションリーダーだった「かぶき者」や遊女、若衆たちが生き生きと描かれています。川之辺一朝ほか《藤丸写合口拵(長船兼光脇指付属)》明治時代(19世紀)また、江戸から明治にかけてつくられた刀剣の拵は、黒漆塗が大変美しく、海外の人たちも憧れました。ピアノの黒塗は、日本刀の鞘塗りに触発されたといわれているそうです。最後の4章「貴人のおしゃれ」では、重要文化財で世界的にも貴重な「密陀絵」の屏風と国宝の曜変天目(「稲葉天目」)を楽しめます。新発見のサーベルも必見!C.SMITH&SON《サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領》(1868)本展では、NHKテレビでも報道された新発見のサーベルも展示されています。このサーベルは、後藤象二郎が英国ヴィクトリア女王から拝領したもので、長い間行方不明とされていましたが、世田谷の静嘉堂で発見されました。なぜ後藤にサーベルが贈られたのかというと、幕末に英国公使パークスを襲撃した刺客を、後藤象二郎と中井弘が撃退。その感謝の印として、サーベルが英国から下賜されました。その後、静嘉堂文庫創設者の岩﨑彌之助と、後藤の長女が結婚したことで、サーベルが岩﨑家に継承されたそうです。このサーベルは最初の展示室に展示されています。大変貴重な歴史的資料なので、ぜひこちらもお見逃しなく!Information会期:~7月30日(日)休館日:月曜日、7月18日(火)※ただし、7月17日(月・祝)は開館会場:静嘉堂@丸の内 (明治生命館1階)開館時間:10:00 – 17:00 (入館は16:30まで)※金曜日は18:00 (入館は17:30)まで。観覧料:一般¥1,500、大高生¥1,000、中学生以下無料
2023年07月11日東京国立博物館で、特別展「古代メキシコ -マヤ、アステカ、テオティワカン」が開かれています。本展のナビゲーターは、俳優の上白石萌音さん。メキシコで暮らしたことのある上白石さんが、展覧会の感想やメキシコの思い出などを語ってくれました!上白石萌音さんがナビゲーター!上白石萌音さん【女子的アートナビ】vol. 301特別展「古代メキシコ -マヤ、アステカ、テオティワカン」では、メキシコにある古代都市の遺跡群から、代表的な3つの文明「マヤ」「アステカ」「テオティワカン」に関する至宝を展示。土偶や土器、石彫、首飾りや壁画など、さまざまな出土品約140件が紹介されています。メキシコは、16世紀初頭にスペインが侵略するまで、3千年以上も高度な文明が栄えていました。前1500年頃にオルメカ文明が興り、野生の動植物で暮らしを支え、暦を生み出し、さらに神への祈りなど捧げる儀礼の場やピラミッド、居住地などもつくられるようになりました。現在、メキシコの古代遺跡や歴史地区の多くは、世界遺産にも登録されています。そんなメキシコに3年間暮らしたことのある俳優の上白石萌音さんが、本展のプレス内覧会に登壇。展覧会の感想やメキシコの魅力を語ってくれました。ふわっと頬がゆるみました特別展「古代メキシコ -マヤ、アステカ、テオティワカン」会場風景――展示全体をご覧になって、いかがでしたか?上白石さん本当にいろいろな気持ちになりました。ワクワクしたり、おそれの気持ちを抱いたり、ふわっと頬がゆるむ瞬間があったり、精密な技術に驚いたり。すごく充実した楽しい時間でした。大昔の文明の品々なのに、その向こうに暮らしや作った人の存在、現代とのつながりを感じる瞬間もあり、フシギな気持ちになりました。また、私はメキシコで暮らしたこともあるので、すごく懐かしさも感じながら堪能させていただきました。――頬がゆるんだ作品とは、どのようなものですか?上白石さんふわっとした気持ちになる作品は、たくさんありました。出土品に描かれている生き物や人などの表情が、とても愛らしいのです。また、造形が絶妙でシュールなものもあり、そんなところにもメキシコの愛嬌を感じる瞬間がありました。小さい装飾品から大きい像まで、とても丁寧に装飾が施されていて、神や自然へのおそれ、祈りの切実さがにじみ出ているような気がしました。一番圧倒されたのは、「赤の女王」のマスクです。その展示室に差し掛かったときは、なんともいえない気持ちになりました。学芸員さんのお話によると、これを逃したら今後見ることができないかもしれないくらい貴重なモノということでしたので、ぜひこの機会を逃さずに見て、感じていただきたいと思います。ある者を憑依させて…《赤の女王のマスク・冠・首飾り》展示風景――音声ガイドの収録は、いかがでしたか?難しいところなどありましたか?上白石さん私は、音声ガイドを録るのが大好きなので、とても楽しみながらやらせていただきました。メキシコは住んでいましたが知らないことがたくさんあって、本当に勉強になることばかりでした。いろいろ学んだので、友だちに知識をひけらかしているところです(笑)。収録では、ある者を憑依させて読むところが台本にあり、そこが難しく感じました。ある者、というのは、展示されている「赤の女王」で、その女王を憑依させて読む場面があり、難しかったのですが、がんばりました。この部分は、ぜひ聴いてほしいです。――今回のお話がきたときは、いかがでしたか?上白石さん本当にうれしかったです。絶対にやりたいと思いました。メキシコへの恩返しになればいいな、と思い、日本とメキシコをちょっとでもつなぐことができたらと思いました。心をいっぱい動かした――メキシコでは、どんな思い出がありますか?上白石さん最初に思い出すのは、テオティワカンというメキシコシティにあるピラミッドです。住んでいたところからも車で少し行けば着くような場所にある大きな遺跡で、この展覧会でもフォーカスされています。そこに何度も父に連れられて行きました。当時は、まだピラミッドに登ることもできたので、汗をかきながら頂上まで登ったり、その大きさに驚いたり、幼いながらも心をいっぱい動かしながら歴史に触れたことを思い出します。父は社会科の教師なので、歴史のこともいろいろ教えてもらったりしました。――古代メキシコでは、豊穣を願って、生贄や食べ物をお供えしていました。今、上白石さんが祈りをささげて叶えてほしい願い事はありますか?上白石さん長年の念願は、両親と妹と四人でメキシコに里帰りすることです。なので、長期の休みがほしいです(笑)。まだ、一度も里帰りができていないのです。せっかく行くなら家族みんなで行って、長めに滞在したいので、いろいろなところにお願いをして、お祈りをしようかと思います。この展覧会を見て、さらにメキシコ里帰りのモチベーションが上がりました。――最後に、メッセージをお願いします。上白石さん本当に貴重な品がたくさんあるので、お子さんから大人まで、みなさん楽しんでいただけると思います。夏休みもきますし、ぜひ壮大な歴史に触れて、ワクワクしていただきたいです。そして興味が出たら、ぜひメキシコも訪れていただきたいです。もしよければ、音声ガイドもレンタルしてほしいです。よろしくお願いいたします。9月3日まで開催!音声ガイドは、上白石さんのほか、声優・杉田智和さんも担当されています。「赤の女王」や「雨の神」も出てきたり、クイズもあったりして、楽しみながら作品解説を聴くことができます。会場レンタルは¥650。アプリ配信版は¥700でダウンロード可能です。展覧会は9月3日まで開催。その後、福岡と大阪に巡回予定です。Information会期:~9月3日(日)※休館日は月曜日、7月18日(火)※ただし、7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館会場:東京国立博物館平成館開場時間:9時30分~17時00分※入館は各閉館時間の30分前まで※土曜日は19時00分まで開館※6月30日(金)~7月2日(日)、7月7日(金)~9日(日)は20時00分まで開館※いずれも総合文化展は17時00分閉館観覧料:一般¥2,200、大学生¥1,400、高校生 ¥1,000
2023年07月09日上野の森美術館で、特別展『恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造』が開かれています。本展のナビゲーターは、俳優の南沙良さん。恐竜が大好きという南さんに、展覧会の見どころや恐竜の推しポイントについて、お聞きしてきました!南沙良さんがナビゲート南沙良さん【女子的アートナビ】vol. 300特別展『恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造』では、恐竜や古代生物を描いた「パレオアート(古生物美術)」にフォーカスし、19世紀から現代までに制作された復元図や漫画、フィギュア、ファインアートなど、世界各国から集められた約150点の作品を展示。失われた古代世界を、アートで巡ることができる展覧会です。本展を企画された神戸芸術工科大学の岡本弘毅教授によると、恐竜が知られるようになったのは、19世紀前半。イギリスで巨大な爬虫類の化石が見つかり、未知の生物と判明したそうです。恐竜の「発見」から200年たち、その姿や形がどんなふうに変化していったのか、作家と研究者のイマジネーションによってつくられた古生物の姿を楽しめる展示になっています。プレス内覧会では、展覧会ナビゲーターで無料音声ガイドのナレーションも務めた俳優の南沙良さんが登壇。その後、インタビューも実施しましたので、まとめてご紹介します。巨大な生物が好き――まず、なぜ恐竜がお好きなのですか?南さん昔から、巨大生物が大好きなんです。恐竜やゴジラなど、大きいものに憧れていました。映画『ジュラシック・パーク』は全作品見ていますし、図鑑も昔からすごく好きで、飛び出す図鑑などもよく見ていました。恐竜のなかでは、肉食恐竜が好きです。強くて大きくて、自分がいかに小さいか、想像できるのがいいですね。――巨大生物ですと、例えばキングコングのようなものもお好きなのですか?南さん好きですね(笑)。大きくて凶暴なものが好きです。だから、恐竜も肉食がよくて。音声ガイドに「よし来た!」――音声ガイドのナレーションも初挑戦されています。恐竜好きなので、このお仕事は「よし来た!」という感じでしたか?南さんはい(笑)。恐竜に関わる仕事ははじめてなので、「よし来た!」と思いました。私は博物館や美術館も好きなので、うれしい気持ちになりましたね。――音声ガイドのナレーションはいかがでしたか。南さんふだん使わない難しい言葉やカタカナが多く、特に恐竜の名前が難しかったです。事前にいただいた資料を読み込んでから行き、私なりに一生懸命がんばったので、心地よく聴いていただけたらうれしいです。――音声ガイドには、恐竜の解説だけが吹き込まれているのですか?おもしろい聴きどころはありますか?南さん恐竜の解説だけでなく、画家や作品の解説もあります。解説があると、より深く楽しく見られるのではないかなと思います。私が印象に残ったのは、ウォーターハウス・ホーキンズの《イグアノドン晩餐会へのオリジナル招待状、1853年12月31日》についての解説。ホーキンズがロンドンの公園に製作した実物大のイグアノドンの模型の中で晩餐会が開かれたそうなのですが、私も、この晩餐会に参加したいと思いながら読みました。夢があっていいですよね。恐竜同士の戦いに惹かれる…――恐竜の博物館に行くのがお好きとのことですが、本展は美術館で開かれていて、恐竜や古生物を描いた絵画、パレオアートが見どころになっています。この点はいかがですか?南さん確かに、博物館の恐竜展は化石展示が多いですが、本展はパレオアートなので、珍しいと思いました。恐竜の絵には200年の歴史があり、昔はこんなふうに描かれていたとか、進化の過程を見られるのは楽しいです。また、画家によって作風に違いがあり、ポップなものがあったり、精緻なものであったり、いろいろありましたね。個人的には、恐竜の皮膚などが細やかに描写されている部分が好きです。――お気に入りの作品は?南さんチャールズ・R・ナイトの《白亜紀―モンタナ》です。ティラノサウルスとトリケラトプスの対決シーンを淡い色彩で描いた作品で、夢の中に出てきそうな幻想的なところがお気に入りです。私がイメージする通りの太古の恐竜です。恐竜同士の戦いにも惹かれますね。実際に見てみたいですし、想像するとすごく楽しいです。――恐竜にお詳しい南さんが、この展覧会で新たに知ったことはありましたか?南さん200年前にはイグアノドンの角だと考えられていたものが、実は鋭くとがった前足の親指だったというのはすごく驚きましたね。おもしろいなと思いました。フィギュアは何十体も!――コレクター気質があるそうで、恐竜グッズも集めているそうですね。南さんはい、たくさんもっています。パジャマやスリッパ、洋服などいろいろあり、家の中は恐竜グッズであふれかえっています。今日の私服も、ティラノサウルスのニットでした。――リアルにつくられた恐竜のフィギュアも集められているそうですが、どんなふうに楽しむのですか?南さん棚に飾って、眺めて楽しんでいます。恐竜を見て、ロマンを感じながらお酒を飲んだり(笑)。フィギュアは、家のインテリアにはあまり合わず浮いていますが、すごくお気に入りです。――フィギュアはどのくらいお持ちですか?南さん何十体かはありますね。高校生ぐらいから、ちょこちょこ集めて、だんだん増えていきました。――本展でも、コレクターの方が集めたリアルなフィギュアが展示されていましたね。南さんあれは、すごくよかったですね。欲しいです(笑)――最後に、あまり恐竜のことを知らないお友だちをこの展覧会に誘う場合、どんなふうに声をかけますか?南さん150作品もあるから、お互いの好きなものを探しに行こうという感じで誘いたいです。――お話を聞かせていただき、ありがとうございました。取材を終えて…恐竜の話を楽しそうに語ってくれた南さん。小さいころから、アート好きのご両親に連れられ、原美術館などの美術館や上野の博物館にも通っていたそうで、想像力や感受性が豊かな方でした。恐竜愛にあふれる南さんが語る音声ガイドは、ご自身のスマートフォンがあれば無料で利用できます。ぜひ、ガイドを聴きながら恐竜アートの世界を楽しんでみてください。Information会期:~7月22日(土)会期中無休会場:上野の森美術館開場時間:10:00 ~ 17:00(土日祝は 9:30 ~ 17:00)※入場は閉館の 30 分前まで観覧料:一般¥2,300、大学・専門学校生¥1,600、高校生・中学生・小学生 ¥1,000
2023年06月14日東京都美術館で、『マティス展』が開かれています。本展では、20世紀を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス(1869-1954年)の代表的な作品が集結。日本で約20年ぶりとなる大規模回顧展の会場風景や、音声ガイドナビゲーターを務める上白石萌歌さんのコメント、キュレーターの方のお話などをご紹介します。上白石萌歌さんが音声ガイドナビゲーター!『マティス展』音声ガイドナビゲーターの上白石萌歌さん【女子的アートナビ】vol. 299『マティス展』では、世界最大規模のマティスコレクションを所蔵するパリのポンピドゥー・センターから、名品が約150点も来日。絵画を中心に、彫刻や素描、版画、切り紙絵、さらには晩年の傑作であるロザリオ礼拝堂に関する資料や映像など、代表的な作品が紹介されています。パリのポンピドゥー・センターに行っても、常にマティスの作品がたくさん展示されているわけではないので、これほど多くの作品を見られる機会はかなり貴重。しかも、本展は世界各都市でも巡回されています。そんな注目の展覧会で音声ガイドナビゲーターを担当されるのは、俳優の上白石萌歌さん。本展に寄せた上白石さんのコメントをご紹介します。この度、マティス展の音声ガイドナビゲーターを務めさせていただくことになりました、上白石萌歌です。これまで、好きな画家をたずねられた時、マティスです!と即答していた私。お話をいただいた時、こんな夢のようなことがあっていいのだろうかと震えました。マティスだけに描ける、艶やかで大胆な曲線、そして鮮烈な色彩。強くも柔らかい彼の絵は、いつもわたしを朗らかな気持ちにさせてくれます。今から展示が心から楽しみです!いちファンとして嬉しさを噛み締めながら、足を運ぶみなさまの気持ちに寄り添えるよう、精一杯努めます。なお、アプリ版の音声ガイドを購入すると、アプリ限定の話を聴くことができます。大学で芸術論なども学んでいた上白石さんが語る「わたしとマティス」や、東京都美術館学芸員の藪前知子さんとの対談など、アプリでしか聴けない話が収録されています。キュレーターも絶賛!『マティス展』会場風景開幕前日に行われたプレス内覧会では、ポンピドゥー・センターのチーフキュレーターであるオレリー・ヴェルディエさんが登壇。今回の展覧会について、次のように語りました。ヴェルディエさんこの展覧会は、本当に例外的です。まず、画家マティスのキャリア全体、人生全体を見ることができます。マティスは、ギュスターヴ・モローのアトリエで学んでいましたが、その学生時代の作品もあれば、死の直前に手がけていたロザリオ礼拝堂の資料もあります。また、絵画や彫刻、デッサン、彼がデザインした書籍、切り紙絵まで、彼の持つすべての技術も見られます。さらに、もうひとつの例外は、マティスの傑作が含まれている点です。彼の転機となった初期のすばらしい傑作《豪奢、静寂、逸楽》が公開されていますし、晩年の大作《赤の大きな室内》もご覧いただけます。マティスは鑑賞者に、心を動かす色彩の持つエネルギーを感じてほしいと願っていました。日本初公開の貴重な傑作!アンリ・マティス《豪奢、静寂、逸楽》1904年秋~冬オルセー美術館寄託では、いくつか作品をピックアップしてご紹介します。まずは、ヴェルディエさんが、「マティス初期の傑作」と絶賛されていた《豪奢、静寂、逸楽》。日本初公開の作品です。1904年、マティスは点描画で知られる新印象派の画家、ポール・シニャックに招かれて南仏を訪れ、その後、本作品を仕上げました。この絵を仕上げたすぐ後に、彼はフォービズム(野獣派)と後に呼ばれる斬新な様式で描いた作品を発表し、アート界にスキャンダルを巻き起こしました。『マティス展』会場風景《豪奢、静寂、逸楽》の3年後に描かれたのが《豪奢Ⅰ》。この作品も、発表されたあとに、抽象や未完成とみなされ、批評家たちを混乱させたそうです。マティスの生み出したフォービズムは、絵画の革新を進め、やがてモダン・アートの誕生に大きな役割を果たします。『マティス展』会場風景彫刻も見どころのひとつ。色彩の画家、というイメージのあるマティスですが、彫刻作品も多く残しています。本展の図録解説によると、マティスは「感覚を整理し、自身の絵画に役立つ方法を発見するために彫刻を用いた」とのこと。会場では、小さなものから大きなサイズまで、多彩な彫刻を楽しめます。マティスは世界をひっくり返した左:藪前知子さん、右:オレリー・ヴェルディエさん 『マティス展』《赤の大きな室内》の前にて撮影もうひとつの傑作は、展覧会のキーヴィジュアルにも使われている《赤の大きな室内》。この作品について、東京都美術館学芸員の藪前知子さんが解説してくれました。藪前さん本作品はマティスが79歳のときに描いたものです。彼の人生は、ことさら大きな事件があったわけではなく、彼の実験はすべてアトリエで作品を制作するなかで、「世界をひっくり返す大きな冒険」が行われました。マティスにとって、初期から晩年まで、アトリエは重要なモチーフです。アンリ・マティス《黄色と青の室内》1946年藪前さんマティスは、晩年に過ごしたランスで最後の連作を描きました。そのうち、最初の作品は、黄色と青が基調の作品《黄色と青の室内》。最後は、《赤の大きな室内》です。同時並行で、切り紙絵も制作していました。マティスにとって、世界は調和に満ちていて、その世界で彼が受けた感覚を絵画のなかで表現しています。《赤の大きな室内》にはいろいろな世界、要素が調和を持って存在しています。マティスは初期から晩年まで、一貫した営みのなかにいて、最後まで画家としての歩みを止めませんでした。《赤の大きな室内》は、マティスを象徴する作品ともいえます。ここでしか買えないグッズも!また、ミュージアムショップでは、マティスの切り紙絵などをモチーフにしたオリジナルグッズが勢ぞろい。おしゃれなデザインのトートバッグやアクセサリー、スカーフなど、ここでしか手に入らないものも多く集められています。本展は8月20日まで開催。日時指定予約制です。Information会期:~8月20日(日)日時指定予約制休館日:月曜日、7月18日(火)※ただし、7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開室会場:東京都美術館開室時間:9:30~17:30※金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)観覧料:一般¥2,200、大学・専門学校生¥1,300、65歳以上 ¥1,500、高校生以下無料
2023年06月11日渋谷区立松濤美術館で、『エドワード・ゴーリーを巡る旅』が開かれています。『うろんな客』や『不幸な子供』などの絵本で大人気の作家、エドワード・ゴーリー(1925‒2000)。クールでミステリアス、そして残酷な彼の作品をご紹介します!ゴーリーって?『エドワード・ゴーリーを巡る旅』会場風景【女子的アートナビ】vol. 298本展では、アメリカのボストン近郊にあるゴーリーの終の棲家につくられた記念館、ゴーリーハウスで開催された企画展から、「子ども」や「不思議な生き物」などをテーマに約250点の作品が展示されています。エドワード・ゴーリーは、アメリカ・シカゴ生まれの絵本作家です。1歳半から絵を描きはじめ、早熟な少年時代を過ごしたあと、ハーバード大学でフランス文学を専攻。その後、出版社に就職してブックデザインを担当しながら、自作の絵本を刊行します。1962年に自分で出版社を立ち上げたあと専業作家となり、独特の世界観をもつ絵本を次々と出版していきます。絵本のほか、本の挿絵や演劇のポスター、舞台美術も手がけ、トニー賞などを受賞。個展も年に何度も開かれていました。日本では、ゴーリーが亡くなった2000年から絵本が刊行され、今でも若い世代を中心に人気を集めています。子ども時代の絵がうますぎ!『エドワード・ゴーリーを巡る旅』会場風景では、会場写真とともに、いくつか見どころをピックアップしてご紹介します。最初の展示室、第Ⅰ章「ゴーリーと子ども」では、まだ日本で翻訳書が出ていない初期作品や、作家が幼少期に描いた貴重な作品などを見ることができます。ゴーリーは、幼いころから知能が高く、飛び級も2回しているような子どもでした。緻密な絵を描き、すでに10代で絵にテキストを添えた「本」のような形の作品も生み出しています。展示されている絵は、子どもが描いたものとは思えない、完成度が高い作品です。ゴーリーの神童ぶりが伝わります。ブレイクした残酷絵本の原画『エドワード・ゴーリーを巡る旅』会場風景より、『不幸な子供』の原画同じ展示室で、大人気絵本『不幸な子供』の原画も見ることができます。救いようのない結末が待っている残酷なストーリーが展開する絵本ですが、日本をはじめ多くの人々の心をとらえています。本展を担当した渋谷区立松濤美術館学芸員の平泉千枝さんは、ゴーリー作品について次のように教えてくれました。平泉さんゴーリーにとって、子どもは大切なテーマです。作品では、子どもたちがさまざまな不条理に出会う様子が、非常に優雅に洒脱に描かれています。『不幸な子供』では、何不自由なく暮らしていたかわいらしい女の子が、孤児になり、どんどん悲惨な目に遭っていきます。昔の児童書『小公女』であればハッピーエンドになりますが、ゴーリーはそんな期待を裏切り、悲惨なまま終わります。でも、多くの人の心をとらえているのです。また、『不幸な子供』は、背景がかなり緻密に描かれています。あまりに細かく描きすぎて疲れたため、彼は数年間制作を中断していました。ゴーリーの絵本は、文字も彼が自分で書いています。うろん君が登場!『エドワード・ゴーリーを巡る旅』会場風景続く第Ⅱ章「ゴーリーが描く不思議な生き物」では、『うろんな客』の原画をはじめ、不思議でユーモラスな生き物が登場する作品原画が展示されています。ゴーリー作品でも人気の高い『うろんな客』は、長い鼻をもつ黒い生き物が、ある日突然家の中に入り込み、困ったことをしながら居座り続けるストーリーです。この生き物は、日本でも「うろん君」などと呼ばれ、キャラクターとしても大人気。公式図録によると、アメリカでは『うろんな客』をテーマにしたアニメーション製作も企画されているそうです。ユーモラスな生き物は、『音叉』にも出てきます。少女が海の底で出会った怪物は、彼女を守ってくれるような存在ですが、そのために彼女の家族を不可思議な手段で消してしまうという恐ろしいこともします。『ドラキュラ』でトニー賞!『エドワード・ゴーリーを巡る旅』会場風景2階の展示室では、ゴーリーが手がけた舞台美術や書籍、また晩年に住んだゴーリーハウスでの暮らしなどが紹介されています。ゴーリーは、バレエや映画の大ファンで、特にニューヨーク・シティバレエの公演に通いつめ、ほぼすべての公演を観たといわれています。バレエの絵本や舞台美術も手がけ、ミュージカル劇『ドラキュラ』では総合的デザインを担当。そこでトニー賞の衣装デザイン賞を受賞します。また、ゴーリーの作品は多くの人にインスピレーションを与え、日本のファッションブランドやアーティストにも影響を与えています。会場では、アパレルブランドUNDERCOVERによるドラキュラ・モチーフのセットアップも展示されています。本展は、4月8日からスタートしていますが、会場では連日若い人たちがつめかけ、熱心に展示を見ています。ゴーリーの人気について、平泉さんは次のように語っています。平泉さんゴーリーは、さまざまな古典文学を吸収して作品に反映させていますが、日本の『源氏物語』も大好きで、暗記できるほど読み込んでいます。そもそも、グリム童話などのおとぎ話は、人間の歴史や不条理を描き、残酷な部分もあります。それを盛り込んでいるゴーリーの作品は、今若い人の心をとらえています。なぜ惹かれるのか、ぜひ本展でご覧になって、考える機会していただけたらうれしいです。グッズも大人気!1階のミュージアムショップでは、ゴーリーのキャラクターがデザインされたグッズがたくさん並んでいます。こちらも、土日に行くと混雑しているので、できれば平日に行くのがおすすめです。本展は6月11日まで。Information会期:~6月11日(日)休館日:月曜日会場: 渋谷区立松濤美術館開場時間:10:00〜18:00※金曜日は~20:00(最終入館は閉館30分前まで)観覧料:一般¥1,000、大学生¥800、高校生・65歳以上¥500、小中学生¥100、※土・日曜日、祝休日は小中学生無料※毎週金曜日は渋谷区民無料
2023年05月28日ディズニー初の完全没入型イベント、「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」のプレス内覧会に、俳優の風間俊介さんが登場。見どころや楽しみ方など、風間さんにたっぷりお聞きしてきました!風間俊介さんがオフィシャルサポーター!風間俊介さん© 2023 Disney【女子的アートナビ】vol. 297「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」は、まるでディズニー映画の中に入ったかのような体験ができる、ディズニー初の完全没入型イベントです。2022年12月に北米でスタートし、日本は海外巡回1か国目となっています。本イベントでオフィシャルサポーターを務めるのは、ディズニーを深く愛する俳優の風間俊介さん。一般公開より一足早くイベントを体験した風間さんを囲んで取材会が行われ、その後にインタビューも実施。ディズニー愛あふれる風間さんのお話を、まとめてご紹介します。心がほわほわ…「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」会場風景 © 2023 Disney――まず、全体の感想を教えていただけますか?風間さんまったく新しい体験でした。スクリーンでアニメーションを見るときとも違いますし、ディズニーパークで体験するものともまったく違い、視界いっぱいにアニメーションがあるのです。アニメーションの中に入って、包まれて、キャラクターたちが見ているその世界と同じ世界に立たせていただけるのです。新しい体験ができて、心がほわほわしています。――いろいろな映画が組み合わさっているのが特殊ですよね。風間さん今年はウォルト・ディズニー・カンパニー100周年ですが、この100年でいろいろな作品が生まれていて、それが積み重ねられています。例えば、空というキーワードでは、ダンボやピーター・パン、アラジンとジャスミンが空を飛び、海ではアリエルが泳ぎ、モアナもいます。僕たちの世界にある空、海、風がキーワードになって、作品世界と僕らの世界が結ばれていて、おもしろくワクワクしました。――音楽はいかがでしたか?風間さんクオリティがすごいです。クリアサウンドで、曲も歌声もしっかり聞こえました。ディズニーの作品は、ディズニー・ミュージカル・アニメーションもあり、音楽は作品世界に没入できるキーになっていると思いますが、今回の音響設備はすばらしいものでした。グッときたシーンは…© 2023 Disney――本イベントは、2つのギャラリーで映像を見られますが、まずはギャラリーAで印象に残ったシーンを教えていただけますか?風間さんオープニングの『ライオン・キング』もよかったですし、“アラジンの空”から“ピーター・パンの空”へのつなぎは壮大で、たまらないなと思いました。ディズニー作品は、すべてにおいて、魅力的な壮大さがあります。視界の端までアニメーションがあるので、スクリーンで見たときよりもさらに壮大に感じられ、こんなに違う体験ができるのかと思いました。後半では、ラプンツェルのランタンが上がり「I See The Light(輝く未来)」という曲が流れるシーンがあります。目の前にラプンツェルとユージーンがいて、まずひとつランタンが上がり、空いっぱいにランタンが上がるまで、ゆっくりその光景を眺められるのです。実際にあの瞬間に立ち会ったら、こんな風に見えるのだろうな、というリアルな体験ができました。――今まであまり扱われなかったキャラクターが一瞬出てくるシーンもあるようですが、ファンとしていかがでしたか?風間さんディズニーを深く愛している人たちを喜ばせてくれるような、「ここでこれが出た!」と思わせてくれたシーンがありましたよ。アラジンとピーター・パン、ベイマックスが空を飛んだあと、そこに『ビアンカの大冒険~ゴールデン・イーグルを救え!』が入ってきたのです。あそこはグッときましたし、ワクワクしましたね。お腹いっぱい以上に見たい「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」会場風景 © 2023 Disney――ギャラリーBは、いかがでしたか?風間さんモアナやエルサもいいですが、ポカホンタスもよかったです。「カラー・オブ・ザ・ウィンド」では、曲がはじまる前に静寂があり、オールを水に入れるときのチャポンという音や、木々の揺らめきの音から曲に入っていくのです。今回のイベントは、テクノロジーの進化によって可能になった展示だと思うのですが、そのテクノロジーが歓迎されないであろう森や自然を、現代技術を使った映像で体感できるのは、おもしろい経験でした。――リピートして楽しみたいと思いましたか?風間さん二回、三回と見ていきたいですね。視界よりさらに広いところに映像で包み込んでくれるので、すべてを見切れていないです。また、この体験は、いつもできるわけではありません。今後、もしかしたら、また新たなプログラムであるかもしれませんが、単純に今の期間を逃したら、もう今の作品は見られませんよね。そう思うと、お腹いっぱい以上に見ておきたいです(笑)。「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」会場風景 © 2023 Disney――アニメーターズ デスクの展示などもありましたね。風間さん「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」を体験したうえで、最後にアニメーターズデスクが置いてあるんですよね。技術が進歩しても新しいことに挑戦しても、それは机から生まれるものだと思うし、アニメーターたちの線一本からスタートするのだと思う。すごいものを見せてもらったあと、あの机が置いてあることの意味に、胸が熱くなりました。きっといろいろなものが進歩したとしても、いつもスタートは人間のイマジネーションから、アニメーターの描く線一本からスタートするのだろうと思います。その届け方や過程は変わっても、原点は変わらないのだと思います。「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」特設ショップ © 2023 Disney――本イベントでは、グッズも盛りだくさんです。缶バッジから純金カードまでありますが、どんなグッズが気になりましたか?風間さんひとつ、見せてもらったなかで、アニメーションの背景だけ載っているグッズがあったのです。例えば、パークで購入するグッズはすごくかわいらしくて、パークを楽しむのに特化しています。また、ディズニーストアで売っているものは、ディズニーの世界観を存分に楽しめるものです。でも、展覧会などのグッズは、年齢を重ねた者たちにも日常使いできる、落ち着いたグッズが多々出てきます。ちょっと一歩引いたようなグッズが、最高に魅力的ですね。よく見ないとディズニーとわからない、そんなグッズにときめきを覚えます。今回、グッズのレシートは長めになるかと思います(笑)。自分ががんばる理由になっている© 2023 Disney――ディズニーは新しいものに挑戦し、多様性のある作品もあります。改めて、ディズニーの変わっていく勇気、変わらない核について、語っていただけますか。風間さん文化面では、むしろ一貫していて変わっていないと思います。昔からディズニーは、常にマイノリティのことを描いていると僕は思います。例えば、ダンボははるかに耳が大きくて、ほかの仲間とは違う身体的特徴があるがゆえに、はじかれていく。そんなダンボだからこその輝き方をしています。多様性やマイノリティに対する思いは、信念でやり続けてきたのだと思います。時代により見せ方は変わり、技術的な進化は取り入れて、時代の先頭に立ち、でも信念はぶれずに変わらない。その変わるものと変わらないもののバランスがすごいと思いますし、見習いたい。柔軟でありたいと思います。――風間さんにとって、ディズニー・アニメーションはどんな存在ですか?風間さん僕も、エンターテインメントの仕事をさせてもらっていますが、プロがやる仕事は、細部までこだわって届けるのだということを、いつも見せてもらい、感動しています。自分もこれくらいの熱量で届けないときっと届かないのだろうな、と思わせてくれる。自分ががんばる理由になっている、そんな存在です。――次、ディズニーに何をしてほしいと思いますか?風間さんディズニーは、よく王道といわれますが、いつも挑戦しつづけて、それが後に王道になったと思います。なので、この100年も挑戦しつづけ、たぶん100年の先も考えていると思う。ディズニーが150周年を迎えたとき、僕はたぶん90歳なのですけど、150周年一緒に祝わせてくださいって思っています(笑)。元気に過ごして、90歳のとき、世界中のディズニーパークを闊歩していたいですね(笑)。――最後に、このイベントをどんな風に楽しんでほしいと思いますか?風間さん見にくる、聞きにくる、のではなく体感するのが正解なのかなと思う。ウォルト・ディズニー・カンパニーのイマジネーションの根源は、アニメーションにあり、アニメーションからはじまり、ここまでの名作が生まれたという歴史を感じることができるイベントだと思います。ここにきて、終わった後、いろいろな作品をもう一度見たくなると思います。取材を終えて…芸能界きってのディズニーファンとして知られる風間さん。イベントを体験されたばかりの風間さんは、感動が全身からあふれ出ていて、本当に楽しそうに見どころやディズニーの魅力を語ってくれました。そんな風間さんが激推しする楽しいイベント「ディズニー・アニメーション・イマーシブ・エクスペリエンス」、ぜひ訪れてみてくださいね!©2023 DisneyInformation会期:~8月31日(木)※会期中、展示エリア拡大につき前期・後期に分かれています。前期:4⽉29日(土・祝)~6⽉27日(火)後期:6⽉28日(水)~8⽉31日(⽊)会場:前期:森アーツセンターギャラリー/後期:森アーツセンターギャラリー&スカイギャラリー開館時間:10:00~22:00(ただし、7/4、7/11 の火曜は17:00 まで)*入場は閉館の1時間30分前まで観覧料:【前期平日】一般/大学生・専門学校生¥3,000、高校生・中学生¥2,000、小学生¥1,000【前期土日祝】一般/大学生・専門学校生¥3,200、高校生・中学生¥2,200、小学生¥1,200【後期平日】一般/大学生・専門学校生¥3,600、高校生・中学生¥2,200、小学生¥1,200【後期土日祝】一般/大学生・専門学校生¥3,900、高校生・中学生¥2,500、小学生¥1,500※本イベントは入場開始時間に合わせた完全入れ替え制。(本イベント後期のスカイギャラリーを除く)※チケットは事前予約(日時指定)制。ご予約された入場開始時間までにご来館ください。
2023年05月27日東京・天王洲にあるWHAT MUSEUMで、高橋龍太郎コレクション『ART de チャチャチャ ―日本現代アートのDNAを探る―』展が開かれています。本展では、日本屈指のアートコレクター、高橋龍太郎さんが集めたコレクションのなかからセレクトされたアート作品を展示。音声ガイドを担当された柴咲コウさんのコメントや、コレクターである高橋さんのお話、会場風景やカフェなどもご紹介します!柴咲コウさんが音声ガイド!柴咲コウさん【女子的アートナビ】vol. 296高橋龍太郎コレクション『ART de チャチャチャ ―日本現代アートのDNAを探る―」展では、アートコレクターで精神科医の高橋龍太郎さんが集めた約3,000点を超える作品から、33作家の作品約40点を展示。横尾忠則や杉本博司、鴻池朋子、山口晃など、国内外のアートシーンで活躍する作家たちが手がけた見ごたえある多彩な作品が紹介されています。本展の音声ガイドを務めたのは、俳優・歌手・企業家など多方面で活躍されている柴咲コウさん。柴咲さんが展覧会に寄せたコメントもご紹介します。現代アートの振興、普及へ多大な貢献をされている精神科医・高橋龍太郎さんのコレクションから選ばれた作品が並ぶこの作品展はアートに触れるだけではないトキメキを感じます。来場された方の特別なひとときに、自身のナレーションが音声ガイドとしてお役にたてることをとても嬉しく思います。各作家さんが日本の伝統文化などを再解釈し新たに表現した作品から浮き出てくる情景やストーリー。文章を語りながら私自身も現代アートのDNAを探っていきたいと思います。なお、WHAT MUSEUMでは、公式アプリをダウンロードすれば、無料でガイドを聴くことができます。日本の現代アートはおしゃれ!高橋龍太郎さんプレス内覧会では、コレクターの高橋龍太郎さんが登壇。本展への思いを語ってくれました。高橋さん今回の展覧会では、日本に関係する和テイストの作品を集めています。日本の現代アートの作家たちは、本当にさまざまな意味でおしゃれです。「いき」という言葉につながります。哲学者の九鬼周造は、主著「いきの構造」で、日本の「いき」は媚態と意気地、諦めの3つの要素から成り立つとしました。その「いきの構造」があってこその現代アートだと私は思っています。日本の現代アートは、国際的にはガラパゴス文化扱いになっている部分もありますが、私は世界中の人たちに、日本の作家たちが生み出す多様性ある作品を理解してほしいと思っています。作家たちは、力量がありながら世界につながりにくい状況を、そのおもしろがりかたで生き抜いています。その「いきさ加減」を本展で発見していただきたいです。レントゲンを見ながら描いたドクロも登場!高橋龍太郎コレクション『ART de チャチャチャ ―日本現代アートのDNAを探る―』展 会場風景では、いくつか展示作品をピックアップしてご紹介します。1階の展示室は、本展のために壁が黒く塗られ、作品が浮かび上がるような形で展示されています。さまざまな作品がありますが、共通のテーマは生命と自然。例えば、杉本博司さんの作品《陰翳礼讃》は、谷崎潤一郎の小説と同じタイトル。この作品では、ろうそくの一生が表現されていて、その生命を感じることができます。鴻池朋子《無題》2010 ©Tomoko Konoikeまた、2階の展示室、SPACE3に入って目に飛び込んでくるのは、頭蓋骨が描かれた鴻池朋子さんの作品。かなり大きなドクロで、ドキッとします。この展示室のテーマは、日本の文化と風俗。鴻池さんの襖は、ご自身のレントゲンの頭蓋骨を見ながら描いたそうです。日本の伝統的な襖に大きなご自身の頭蓋骨、その周りに鹿がいて、後ろには山が描かれています。奇妙な組み合わせですが、黒いドクロがおしゃれな雰囲気にも見えます。山口晃《何かを造ル園》2001 ©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art GallerySPACE4では、山口晃さんの作品が3点登場。油彩画の《何かを造ル園》では、現代の日本人や昔の人が何かをつくっている様子が描かれています。その隣では、人が悩んでいる顔も描かれ、何かをつくるのに思い通りにいかないというシニカルな様子も伝わる作品です。ライブで作品制作を見られる!作品制作中の能條雅由さんまた、WHAT MUSEUMの1階SPACE2では、公開制作:能條雅由『うつろいに身をゆだねて』が同時開催されています。作家の能條さんによる新作が展示されているほか、この場に能條さんが滞在し、新たな作品を公開制作していきます。こちらで新しく生み出された作品は、空いている壁に次々と展示されていく予定。作品の生まれる瞬間を見たり、また作家とコミュニケーションをとったりすることもでき、さらに完成した作品のなかから気に入ったものを購入することも可能です。※新作の販売はwebにて行われます。※能條さんの滞在日程については、公式SNSでご確認ください。⾼橋龍太郎コレクション『ART de チャチャチャ ー⽇本現代アートのDNAを探るー』展と公開制作:能條雅由『うつろいに身をゆだねて』は、8月27日まで開催。見終わったあとは、おしゃれなカフェへ!WHAT CAFEの店内アート鑑賞を楽しんだら、ぜひWHAT CAFE(ワットカフェ)も訪れてみてください。運河に面した開放的でおしゃれな空間で食事やドリンクを楽しみながら、若手アーティストたちの作品を見ることができます。WHAT CAFEで展示されている日比谷泰一郎さんの作品例えば、こちらは日比谷泰一郎さん(1987年生まれ)の作品。日比谷さんは、天王洲のパブリックアートも手がけている方で、街中で彼の作品を楽しむこともできます。なお、ここに展示されている作品は無料で鑑賞でき、好きなアートがあれば買うこともできます。数万円台で買える作品もあるので、はじめてアートを買う方にもおすすめ。WHAT CAFEでは1か月ほどで展示の入れ替えがあります。現在の展示は5月21日まで。作家が参加するワークショップなどのイベントも開催されているので、最新情報は公式サイトでご確認ください。Information会期:~8月27日(日)会場:WHAT MUSEUM 1階SPACE1および2階開場時間:火~日 11時~18時(最終入場17時)月曜休館(祝日の場合、翌火曜休館)観覧料:一般¥1,500、大学生・専門学生¥800、高校生以下無料※オンラインチケット制※同時開催の展覧会観覧料を含む
2023年05月19日天王洲の寺田倉庫G1ビルで、『ウェス・アンダーソンすぎる風景展あなたのまわりは旅のヒントにあふれている』が開かれています。本展は、昨年韓国で開催され大ヒットを記録。話題の展覧会の見どころや会場の様子をご紹介します!ソウルで大ヒットした展覧会『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』会場風景【女子的アートナビ】vol. 295『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』は、2022年に韓国のソウルで開催され、25万人を動員した展覧会《Accidentally Wes Anderson(AWA)》の巡回展です。Accidentally Wes Andersonとは、アメリカで2017年に立ち上げられたInstagramのアカウント。ニューヨーク在住のコーヴァル夫妻が、自分たちで行ってみたい旅行先をネットで検索して、その場所の画像を投稿しはじめました。その後、夫妻が自分たちで撮った写真も投稿するようになり、その画像がいかにもウェス・アンダーソン監督風ということで人気を集め、書籍化もされてアメリカで大ヒット。さらに、展覧会も開催されることになりました。本展では、ウェス・アンダーソン監督自身も「僕が撮りそうな写真だ」とコメントしている美しい写真の数々を、カラフルに色分けされた展示室で楽しむことができます。ウェス・アンダーソン風とは?『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』会場風景そもそも、ウェス・アンダーソン風とはどんな写真なのでしょうか。展覧会を担当したBunkamuraザ・ミュージアム学芸員の岡田由里さんは、次のように解説してくれました。岡田さんウェス・アンダーソン監督の作品は、独創的なストーリー展開に加えてビジュアル的にも細かいところまで徹底的にこだわり、つくられていることで知られています。代表作は、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』や『グランド・ブダペスト・ホテル』。本展では、そんな監督作品の特徴から、特に、シンメトリー性、ピンクやターコイズなどパステルカラーを多用する点、デコラティブ性の3点に注目して写真作品を展示しています。監督の映画をご覧になったことがない方でも、この3点をおさえて見ていただければ、ウェス・アンダーソンすぎるというのはどういうことか、おわかりいただけると思います。旅に出たくなる写真がいっぱい!『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』会場風景本展の副題は、「あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」。会場では、北米やヨーロッパ、アジアなど世界の魅力的な場所をめぐる写真約300点を10のゾーンにわけて紹介され、旅に出たくなる雰囲気にあふれています。乗り物がテーマとなっている部屋では、トラムやケーブルカー、ミニバス、飛行機、気球など、さまざまな種類の写真があり、また乗り物の窓から見える景色の写真も多くあります。『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』より《ヴィッカース・ヴァイカウント》例えば、《ヴィッカース・ヴァイカウント》は、ロンドンのガトウィック空港で撮影された飛行機とタラップの写真。ペパーミントグリーンの色彩がポップで、とてもかわいいです。作品についての解説は、隣のキャプションに記載されているものもあれば、各展示室の入り口にQRコードがあり、それで読み取って解説を見られる作品もあります。歴史的、文化的背景についての解説もあるので、写真を見ながら知的好奇心も刺激されます。実際に行ってみたくなる写真も多く、旅心をくすぐられる展覧会です。かわいいグッズもいっぱい!『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』会場風景最後のミュージアムショップでは、カラフルでかわいいグッズがいっぱい揃っています。韓国で人気のあったグッズを直輸入したものや、東京展オリジナルのグッズもあり、目移りしそう。また、公式ブック『ウェス・アンダーソンの風景』もショップで購入可能です。本展は5月26日まで開催。Information会期:~5/26(金) ※休館日なし会場:寺田倉庫G1ビル(天王洲)開場時間:11:00~19:00(最終入館18:30)金・土は20:00まで(最終入館19:30) 5/22~25は 20:00 まで※状況により会期・開館時間等が変更となる場合がございます。観覧料:一般¥2,000、大学生¥1,500、高校・中学・小学生¥1,000※本展は予約不要。状況により【 オンラインによる事前予約 】が必要となる場合がございます。詳細は展覧会公式ホームページをご確認ください。
2023年05月14日東京・日本橋の三井記念美術館で、NHK大河ドラマ特別展『どうする家康』が開かれています。本展では、家康の生まれたときから亡くなるまでの人生を、美術品などで紹介。国宝や重要文化財も多数展示されています!120点の作品で『どうする家康』を体感!『どうする家康』ブース展示コーナー【女子的アートナビ】vol. 294この展覧会では、NHK大河ドラマ『どうする家康』と連動し、家康だけでなく織田信長や豊臣秀吉などに関連する美術品や歴史資料など、約120点の作品を展示。三井記念美術館からはじまり、岡崎市美術博物館と静岡市美術館に巡回する展覧会です。美術館のあるフロアには、大河ドラマのパネルや映像が楽しめる展示コーナーも設置され、撮影も可能。ドラマファンの気分を盛り上げてくれる、楽しいつくりになっています。意外に質素…家康の遺愛品重要文化財《青磁鉢附乳棒》明時代(15-16世紀)静岡・久能山東照宮博物館蔵最初の展示室1では、大御所時代の家康が、駿府城内で使っていた遺愛品が紹介されています。これらの遺愛品について、本展を担当された三井記念美術館学芸部長の清水実さんは次のように解説してくれました。清水さん家康の遺愛品は、割と質素な感じがします。もともと家康は、名品をたくさん所持していましたが、それらは「駿府御分物(すんぷおわけもの)」として、亡くなったあと、尾張と水戸、紀州の御三家に譲られ、今は徳川美術館などが所蔵しています。それらの名品に比べると、最後まで家康の手元にあったものは質素です。そのような質素なものを家康は好んで使っていたようです。また、家康は理系人間だったようで、漢方を調合する本や、マニアックな香木、薬剤や香木をすりつぶす乳棒や鉢なども最後まで手元に残していました。刀剣乱舞ONLINEのパネル展示も国宝《短刀無銘正宗》(名物 日向正宗) 鎌倉時代(14世紀)三井記念美術館蔵前期展示4/15-5/14続いての展示室2では、国宝の名刀が前期と後期にわけて紹介されています。前期は、国宝《短刀無銘正宗》が登場。鎌倉時代の刀工、正宗がつくった名刀です。あの石田三成が所持していたもので、その後、関ケ原の合戦で水野日向守勝成が手に入れ、「日向正宗」と呼ばれるようになりました。三井記念美術館では、昨年の改修工事で展示ケースの照明がLEDに変わったため、刀剣類の刃文(はもん:刀の焼き入れのときにできる模様)がとても鮮明に見えます。ちなみに、本展の1階入り口では、刀剣乱舞ONLINEのパネル展示コラボも見られます。こちらは、写真撮影可能。パネルとリアルな国宝の刀を一緒に楽しめる絶好のチャンスです。(パネルは7階に移動する可能性もあります)迫力の図屛風!『どうする家康』会場風景展示室4では、江戸から京都までの東海道・甲州街道・中山道を描いた迫力の図屛風《大日本五道中図屛風》が紹介されています。この屏風には、家康の没後30年頃の景色が描かれ、岡崎や浜松、駿府の城や関ケ原の布陣、甲斐や信濃などもあり、家康の足跡をたどることができます。同じ展示室では、家康の9男で、尾張藩初代藩主の徳川義直が描いた《徳川家康画像》も展示。教科書で見るような狸親父の顔ではなく、温和な表情でした。息子が描いた本作品の顔が、リアルな家康に近いといわれているそうです。本当に金ぴか!殿の甲冑『どうする家康』会場風景最後の展示室では、ドラマでも出てくる金ぴかの甲冑が登場!実際に、若き家康が着ていたもので、徳川家ではこの甲冑を江戸城内で代々大切に扱い、明治維新後は静岡に移し、最終的に久能山東照宮に奉納されたそうです。本展の愛用品や肖像画などを通して、リアルな家康の素顔を知ることができました。大河ドラマの世界を体感できる展覧会は6月11日まで開催。Information会期:~6月11日(日)※会期中、展示替えを行います。休館日:月曜日会場:三井記念美術館開場時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)観覧料:一般¥1,500、大学・高校生¥1,000、中学生以下無料
2023年05月10日大人気キャラクター「おぱんちゅうさぎ」の期間限定コラボカフェ「おぱんちゅ食堂」が、ルミネエスト新宿ではじまりました!今回、オープン初日に行われたプレス取材に参加。みんな大好きな「おぱんちゅうさぎ」の世界観がたっぷり感じられるフードメニューや店内の様子など、詳細をレポートします!涙目がかわいすぎ!「おぱんちゅうさぎ」「おぱんちゅ食堂」会場風景【女子的アートナビ】vol. 292「おぱんちゅうさぎ」とは、人気クリエイター「可哀想に!」さんが描く、ピンク色のうさぎのキャラクター。今にも泣きそうな涙目の顔と頭の青いリボン、白いふわふわパンツがトレードマークです。いつも健気にひたむきに生きているのに、なかなか報われない可哀想な姿が共感を呼び、Twitterで大ブレイク。SNSの総フォロワー数は、75万人です。SNSのほかLINEスタンプも人気で、本誌『anan』でも、昨年末に「ネクストブレイクキャラクター」として登場しました。「おぱんちゅうさぎ」が切り盛り!4月20日にオープンした「おぱんちゅ食堂」は、おぱんちゅうさぎが切り盛りする食堂をイメージしてつくられています。まずは、店内の様子からご紹介。お店に入ると、おぱんちゅうさぎワールドが全開です!天井には、いろいろなイラストがデコレーションされ、店の中央では、名シーンを集めた映像も流れています。テーブルにも、さまざまなポーズをしたおぱんちゅがデザインされています。特にカワイイのは、パフェの中に閉じ込められている姿。可哀想だけど、めちゃくちゃキュートです!フォトジェニックなおぱんちゅフード続いて、食堂のメニューをご紹介。フードとデザート、ドリンクが4種類ずつ用意されています。こちらは、フードメニューの「おぱんちゅ定食」HANBAGU。ピンク色がたくさん使われたカワイイ定食で、(SHOGAYAKI、NIKUDANGO、HANBAGU、CHIKIN=NANBAN各税込¥1,760)から選べます。どの定食にも、おぱんちゅうさぎの顔がついたおにぎりがセットされ、また小鉢のフォルムがパンツ型になるなど、細部まで凝っています。デザートもフォトジェニックです。「おぱんちゅと落ちたアイス」(税込¥1,320)は、バニラアイスとチーズクリームがたっぷり入ったソフトクリーム風のデザート。こちらのアイス、試食させていただきました。「おぱんちゅうさぎ」はモナカの皮でできているので、食べられます!ボリューム満点のデザートですが、甘さ控えめでフルーツもたっぷり入っていて、かなりおいしかったです。こちらは、おぱんちゅの「友だちフロート」(税込¥1,089)。ストロベリー味のドリンクに、アイスのおぱんちゅが浮いています。アイスが溶けてくると、おぱんちゅの顔もどんどん崩れて悲しそうになるので、カワイイうちに食べてあげてくださいね。うれしい来店特典も!おぱんちゅ食堂では、事前予約をした上でカフェを利用してメニューを注文すると、「フォトフレーム風クリアカード」が特典でもらえます。6種類あり、ランダムで1枚プレゼントされるので、どれがもらえるかは当日のお楽しみ。このカードは、メニューが提供される前にもらえるので、食べるときにお店で使えます。試しに、スイーツの写真を撮ってみました。おぱんちゅ食堂のフレーム、かわいくて楽しいです!グッズコーナーも充実!また、カフェ店内には、グッズコーナーもあります。今回のオリジナルグッズは、本コラボカフェのために「可哀想に!」さんが描き下ろしたイラストを使用。アクリルキーホルダーやサテンステッカー、缶バッジ、タオルなど、今しか買えないグッズが販売されています。なお、グッズは数に限りがあり、会期中に品切れになるアイテムもあります。「可哀想に!」さんのECサイトやカフェ公式サイトでも販売しているので、気になる方は早めにチェックしてみてください。ルミネエスト新宿の「おぱんちゅ食堂」は6月18日 (日)まで。今後、大阪、愛知、宮城でも開催されます。Information会期:~6月18日 (日)会場:BOX cafe&space ルミネエスト新宿店開館時間:11:10~20:40※80分入れ替え制©KAWAISOUNI!
2023年05月04日国立西洋美術館の常設展示室で、小企画展『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』が開かれています。本展では、カルティエやブルガリなどの高級ブランドから、歯や髪の毛が入ったユニークなタイプまで、約200点の指輪が集結。今回、展覧会を担当された研究員さんに、展示の見どころなどをお聞きしてきました!圧巻の指輪が約200点!『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景【女子的アートナビ】vol. 291『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』では、国立西洋美術館が所蔵する約760点もの指輪コレクションからセレクトされた約200点の指輪を展示。ダイヤモンドやルビーなどの宝石を使ったゴージャスな指輪や、カルティエやブルガリ、ヴァン クリーフ&アーペルなどの高級ブランド、さらにユニークな素材を使ったものや、彫刻作品のような指輪も見ることができます。これらの指輪は、すべてコレクターの橋本貫志氏が集めたもの。橋本氏は、2012年に約870点もの宝飾品を同館に寄贈し、これらは「橋本コレクション」と呼ばれています。今回、本展を企画された国立西洋美術館の学芸課主任研究員、飯塚隆さんに、見どころや指輪の楽しみ方をお聞きしてきました。きれいな指輪ばかり、ではない!『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景――まずは、本展開催の経緯について、教えてください。飯塚さん国立西洋美術館の「橋本コレクション」は800点以上もあり、魅力的な作品があるのにもかかわらず、通常の常設展ではほとんど展示できていませんでした。2014年には、寄贈していただいた記念にお披露目の大規模展覧会を開きました。そのときは、300点ほど展示しましたが、その後なかなか指輪に特化した企画展が開けませんでした。そろそろ、きちんと紹介したいと思い、今回200点以上を版画素描展示室で展示しています。過去の展覧会で紹介できなかった作品も、半分以上含まれています。――展覧会のタイトルにある「よりどりみどり」には、どんな思いがこめられていますか?飯塚さん橋本コレクションには、一般的にジュエリーショップで買えるものと比べると、はるかに変化に富んだ、多種多様な指輪がそろっています。時代や素材、技法、様式もさまざま。紀元前2000年頃のものから、現代の作品まであります。世界随一といってもいいぐらい、いろいろな作品が集まっているコレクションなので、「よりどりみどり」。きれいなモノばかりではなく、おもしろい指輪、不思議な指輪、とても指輪には見えない指輪。さまざまな指輪があるのが橋本コレクションの魅力です。どこから見てもOK!『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景――展示の構成もユニークです。「ウェアラブルデバイス」や「素材なんでもかんでも」など、解説パネルを読むのも楽しく感じました。どのように構成されたのですか?飯塚さん展覧会というのは、たいがい学術的でお堅いものなので、あるテーマを定めて構成するのがふつうです。ただ、橋本コレクションの場合、時代や素材といった特定のテーマを立てると、取りこぼされる指輪も出てきて、かえって本来の魅力が伝わらなくなるおそれもあります。そこで、最初からテーマを立てるのはやめて、純粋に指輪を見たときの驚きや戸惑い、おもしろみなど、私が感じた着眼点を切り取り、トピックを立てていきました。例えば、「ゆびわ動物園」では、学術的あるいは動物学的な意味ではなく、単に動物をモチーフとした指輪を展示しています。各セクションは独立しているので、どこから見ても構わないような構成になっています。乳歯や髪の毛入り、ポイズン・リングも…!左《毛髪の納められた指輪》(18世紀後期)、右《アール・ヌーヴォーの指輪》(おそらく1900年頃)いずれも国立西洋美術館 橋本コレクション――乳歯や毛髪入りの指輪なども展示されています。なぜ、カラダの一部を入れる指輪が作られたのですか?飯塚さん基本的には、大切な人間への深い思いがあり、それに裏打ちされた作品だと思います。例えば現代なら、身近な人の写真を飾ったりしますよね。でも、時代を遡ると写真がない。肖像画はありますが、それを持てるのは一握りの人間だけです。大切な人を身近に感じたいとき、実際に人の髪の毛や歯など、カラダの一部を肌身離さず持ちたいと思い、その持ち運びに適していたのが指輪なのです。容器のついたタイプの指輪は、古くから作られているので、そこに髪の毛などを入れる作業は比較的簡単にできました。裕福な人だけが持つ高価なものではなく、一般の人でも作りやすかったのだと思います。《アメリカ陸軍空挺部隊のバッジが付いたポイズン・リング》1940年頃国立西洋美術館 橋本コレクション――毒を入れられるポイズン・リングや小型カメラつき指輪も飾られています。これらは、実際に使われていたのですか?飯塚さんポイズン・リングは実際に使われていた、という言い伝えがあります。モノを入れるタイプの指輪で、そこに毒を入れたり、薬や香水を入れたりすることもあります。今回展示されているポイズン・リングは、軍人が持っていたものなので、毒の可能性が高いと判断しています。また、ロシアのスパイが使っていたカメラ付きの指輪もあります。カメラで撮った写真もあるので、実際にカメラとして機能していたようです。「えっ!」「あれっ?」「オーッ」と楽しんで!《ダンサーの指輪》(現代) 国立西洋美術館 橋本コレクション――最後に、anan読者のみなさんにメッセージをお願いします。飯塚さん指輪は、非常に身近なものだからこそ、みなさんには一定のイメージがあると思います。でも、橋本コレクションの指輪を見ると、そのイメージをはるかに逸脱した指輪がごろごろあります。それを楽しむためにも、自分の指輪のイメージを忘れて、開かれた心で見ていただければと思います。「えっ!」「あれっ?」「オーッ」と、そんな風に感じることが、橋本コレクションの魅力を味わっていることにほかならないのです。自分の概念が揺さぶられているのを感じて、楽しんでいただきたいです。――貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。レプリカがミュージアムショップに!飯塚さんのお話、いかがでしたか?本記事ではご紹介しきれないほど、会場ではさまざまな指輪を楽しむことができます。また、ミュージアムショップでは、なんと橋本コレクションのレプリカが販売されています!デザインは4タイプ(1点は5月下旬ごろ販売予定)。橋本コレクションの感覚を自分の指で楽しめるなんて、うれしいですね。販売時期や購入方法などの詳細は、ミュージアムショップのInstagramをご覧ください。本展の開催は、6月11日まで。世界遺産に登録されている美術館で、ぜひユニークな指輪をご覧になってみてくださいね!Information会期:~6月11日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:国立西洋美術館新館2階版画素描展示室開館時間:9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※5月1日(月)、2日(火)、3日(水・祝)、4日(木・祝)は20:00まで開館※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般 ¥500、大学生 ¥250、高校生以下および18歳未満、65歳以上は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください)※本展は常設展の観覧券または「憧憬の地ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」展観覧当日に限り同展観覧券でご覧いただけます。※5月18日(木)は本展および常設展は観覧無料(国際博物館の日)
2023年05月02日東京・丸の内にある静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、特別展『明治美術狂想曲』が開かれています。本展では、明治時代をキーワードにした絵画や工芸品を展示。「腰巻事件」でセンセーションを巻き起こした話題作も登場します!国宝や重要文化財など約50点を展示!特別展『明治美術狂想曲』展示会場【女子的アートナビ】vol. 293日本の西洋化がはじまった明治時代、人々の生活だけでなく、美術の世界でも大きな変化がありました。油彩画が広まり、欧米好みの工芸品が生み出され、また古くからある日本の仏教美術が軽視され、排除されたのもこの時期です。そんな明治時代の社会の変化を軸に、本展では、油彩画や日本画、工芸品など静嘉堂所蔵のコレクションを約50点展示。国宝や重要文化財を含む貴重な作品が紹介されています。「美術」が生まれた!河鍋暁斎《地獄極楽めぐり図》明治2~5年(1869~1872)※前期と後期で場面替えがありますでは、本展の見どころをピックアップしてご紹介します。第一章は「『美術』誕生の時―江戸と明治のあわい―」。1868年にスタートした明治時代、欧米に追いつこうと日本社会の近代化が急激に進んでいきました。「美術」という言葉が生まれたのも、美術館ができたのもこの時代です。そんな時期に描かれたのが、河鍋暁斎の《地獄極楽めぐり図》。江戸と明治の文化がミックスされた作品です。暁斎は、江戸後期の狩野派の技法を身につけた絵師ですが、浮世絵や明治のモチーフも作品に取り入れ、本作には当時は珍しかった汽車も描かれています。(汽車の場面は5月7日まで展示)人気の国宝も展示!左:薩摩焼《色絵金彩麒麟鈕香炉》明治9年(1876)頃、右:薩摩焼《色絵金彩獅子鈕香炉》明治9年(1876)頃続く第二章「明治工芸の魅力―欧米好みか、考古利今か―」では、美しい工芸作品がずらり勢ぞろい。明治時代、日本では外貨獲得のため、欧米人に好まれる華やかなデザインの工芸品が数多く製作されました。「超絶技巧」と呼ばれる細やかな技術を使った作品も多く、海外でジャポニズムブームが盛り上がっていきます。1867年に開催された「パリ万国博覧会」で人気があったのは、薩摩焼。明治以降も人気が続き、欧米に輸出されました。本展で見られる薩摩焼も、とっても華やかです。国宝《曜変天目(稲葉天目)》南宋時代(12~13世紀)この章では、国宝の《曜変天目(稲葉天目)》も展示されています!本作品は、古美術が再評価されるきっかけとなった「第1回観古美術会」(1880年)に出品されました。重要文化財橋本雅邦《龍虎図屛風》明治28年(1895)前期展示次の第三章「博覧会と帝室技芸員」では、橋本雅邦の迫力ある作品《龍虎図屛風》を見ることができます(5月7日まで)。本作は、1895年に京都で開かれた博覧会に出品されたものです。当時の評価はあまりよくなかったそうですが、1955年、重要文化財に指定されました。渡辺省亭原画濤川惣助《七宝四季花卉図瓶》明治時代19~20世紀また、超絶技巧の七宝作品も、見どころのひとつ。《七宝四季花卉図瓶》は、色彩が華やかで、とても美しい作品です。こちらは、フロア中央部にある吹き抜けの空間「ホワイエ」に展示されています。下半身が「布」で隠された…!黒田清輝《裸体婦人像》明治34年(1901)最後の第四章「裸体画論争と高輪邸の室内装飾」では、黒田清輝の《裸体婦人像》が登場!本作品は、近代洋画の父と呼ばれた画家、黒田清輝が渡欧中、白人女性をモデルにして描いたものです。帰国後、1901年の白馬会にこの絵を出品したとき、警察が介入。公共の場で裸体画を展示することが認められず、下半身部分が布で覆われてしまいました。このセンセーションを巻き起こした出来事は、後に「腰巻事件」と呼ばれるようになりました。当時のメディアを賑わせた話題作は、その後、西洋文化を理解していた岩﨑家が購入。高輪にある屋敷に飾られていました。ミュージアムショップで販売中の公式図録も、センセーショナルなデザインです人気の「ぬいぐるみ」は先着で購入可能に!静嘉堂@丸の内ミュージアムショップで販売中。 税込価格¥5,800 ※ お一人様1個のみアートを楽しんだら、ぜひ静嘉堂のミュージアムショップにもお立ち寄りください。以前の記事でもご紹介した、国宝《曜変天目(稲葉天目)》の「ぬいぐるみ」。あまりに人気で、しばらく入手困難でしたが、現在は先着で購入できるようになりました!1日10個限定ですので、ご興味のある方は、10時の開館時間にあわせてお出かけになると、入手しやすいかもしれません。(※最新情報は、公式サイトでご確認ください)展覧会は6月4日まで開催。Information会期:~6月4日(日)[前期]4/8(土) ~ 5/7(日)[後期]5/10(水) ~ 6/4(日)※休館日は月曜日、5月9日(火)会場:静嘉堂@丸の内 (明治生命館1階)開館時間:10:00 – 17:00 (入館は16:30まで)。金曜日は18:00 (入館は17:30)まで。観覧料:一般 ¥1,500、大高生 ¥1,000、中学生以下無料
2023年04月30日上野の東京藝術大学大学美術館で、『買上展』が開催されています。「買上」とは、東京藝大が卒業・修了制作のなかで特に優秀な作品を買い上げる制度のこと。本展では、大学創立時から現代までに買い上げられたハイレベルな作品が紹介されています。今回、展覧会の見どころや買上の歴史などについて、企画を担当された先生にお聞きしてきました!買い上げ作品、約100件を展示!『買上展』展示風景【女子的アートナビ】vol. 290『買上展』では、大学が所蔵する「学生制作品」約1万件のなかから、厳選された約100件を展示。 東京美術学校卒業生の横山大観や菱田春草など、今では巨匠と呼ばれる画家たちのデビュー作から、現在活躍しているアーティストたちの卒業・修了制作まで、多彩な作品が集められています。本展は2部構成で、第1部「巨匠たちの学生制作」では、東京美術学校時代に集められた卒業制作を中心に展示。第2部「各科が選ぶ買上作品」では、東京藝術大学で「買上」を実施している12の学科と専攻(日本画、油画、彫刻、工芸、デザイン、建築、先端芸術表現、美術教育、文化財保存学、グローバルアートプラクティス、作曲、メディア映像)から各科の教員によって選ばれた作品を紹介しています。本展を企画された、東京藝術大学 大学美術館教授の古田亮先生に、展覧会の見どころなどお聞きしてきました。買上金額、最初期は3万円!『買上展』展示風景――まず、『買上展』というタイトルがユニークで、とても興味をひかれました。古田先生そう言っていただけると、うれしいです。「買上」というのは、学内でやっている制度で、大学では当たり前に行われてきました。今回、過去を含めて買上制度を振り返ることで、東京藝大を知っていただくきっかけにもなるかと思いました。――買上制度について、教えていただけますか?古田先生東京藝術大学が今の国立大学になったのが昭和24年ですが、その最初期から「買上制度」がはじまり、今でも続いています。買上となる優秀作品は、大学全体で決めるのではなく、各科がそれぞれ評価する形になっています。前身の東京美術学校時代から、教育の成果を蓄積していこうという意図があり、卒業制作を収集していました。現在では、多くの科が首席という位置づけで作品を買い上げ、社会に出てからもがんばってね、と学生たちを後押しする制度として機能していると思います。――買上制度の最初期と今の買上金額について、教えていただけますか?古田先生昭和20年代の最初期は3万円でした。その後どんどん上がり、最近は各科一律30万円です。物価指数との問題もありますが、金額はともかく、学生を励ます意味はあると思っています。巨匠のハイレベル卒業制作が見られる!横山大観《村童観猿翁》1893明治26年卒業買上――第1部の見どころについて、教えてください。古田先生今では「巨匠」と呼ばれている人でも、卒業以前はみな同じ学生だったわけです。その後、大変活躍した人たちを東京美術学校は大勢排出してきました。そんな巨匠たちの「最初期の出発点」となる作品を集めるのは、本学でしかできないことで、彼らの卒業制作を振り返れるのが見どころです。例えば、横山大観や菱田春草の卒業制作も、つい「巨匠の絵」と思って見てしまいますが、描いたときはみな学生でした。彼らは、卒業制作でかなりレベルの高い作品を残していたことがわかります。『買上展』展示風景より、グローバルアートプラクティスの買上作品――続いて、第2部の見どころを教えてください。古田先生各科が選んだ作品をまとめて見られる展覧会は、今回がはじめてです。今後も、なかなか実施できないかもしれないので、めったにないチャンスだと思います。日本画や油画などは、よく展覧会も開かれますが、例えばメディア映像や作曲科などの買上作品展示は珍しい試みです。東京藝大にさまざまな科がある、ということを知らない方も多いと思いますので、驚かれるかもしれません。各分野で専門を極めた学生たちによる、レベルの高い作品を楽しめる機会になっています。勢いのある作品が見られる!荒神明香《reflectwo》2006-2007平成18年度卒業買上――最後に、anan読者におすすめの作品を教えてください。古田先生たくさん作品があり、ジャンルもバラバラなので、おすすめ作品を選ぶのが難しいですけれど、先端芸術表現科の作品はいかがでしょう。4つの作品があり、そのうち3点は女性が作った作品です。それぞれの訴え方も、インスタレーションであったり映像であったりして、表現の幅がすごく広いというのがわかります。先端芸術表現という科が東京藝大にある、ということも知らない方が多いと思います。読者のみなさんと同じ世代の女性がつくり、作品が買い上げられ、その後アーティストとして活躍しています。勢いのある人たちが選ばれていますので、ぜひご覧になってみてください。――興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。連休中も開催!古田先生のお話、いかがでしたか?東京藝大に入ってくる学生さんは、浪人したり社会に出てから入学したりと、年齢もさまざまで、卒業・修了作品を制作する人たちは20代後半も多いそうです。anan読者のみなさんと同じ世代の人たちがつくったエネルギッシュな作品が集まる展覧会、ぜひご覧になってみてくださいね。本展は5月7日まで開催。連休中もオープンしています!Information会期:~5月7日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1、2、3、4開館時間:午前10時 - 午後5時(入館は午後4時30分まで)観覧料:一般 ¥1,200、大学生 ¥500、高校生以下無料
2023年04月30日上野の国立西洋美術館で『憧憬の地 ブルターニュ』が開催中です。本展では、フランス北西部にあるブルターニュ地方をテーマにした作品が集結。モネやゴーガンなど巨匠たちの極上アートを見ながら、フランス旅気分を楽しめる展覧会です。音声ガイドを担当する杏さんのコメントもご紹介!音声ガイドは杏さん!杏さん©Junko Tamaki(t.cube)【女子的アートナビ】vol. 289『憧憬の地 ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷』では、国内外の美術館から集められた、「ブルターニュ」をテーマにした作品約160点を紹介。絵画や版画だけでなく、当時の画家たちが旅先から送った絵ハガキや、旅行トランクなど関連資料も展示され、ブルターニュを旅した気分も味わえます。さらに、本展の音声ガイドナビゲーターは、フランス在住の女優、杏さん。SNSなどでパリの様子を発信され、フランスの雰囲気が漂う杏さんの声を聴きながら、巨匠たちの名画を堪能できます。展覧会に寄せられた杏さんのコメントは次のとおりです。もともと美術展が好きで、時間があるとよく美術館に行きます。今回フランスに渡ったタイミングで、フランスと日本を結ぶ展覧会のアンバサダーをやらせて頂けることをとても光栄に思います。フランスにいて伝えられること、感じられることがあるのかな、と思いますので、それを今回の作品を通じてみなさまと共有できたら嬉しいです。「ブルターニュ」というテーマの中で、同じ時代の同じ場所をさまざまな画家が、どのような視点を持って景色を見ていたのか、何を感じたのか…。当時の画家たちの声が聞こえてくるような作品ばかりなので、展覧会でブルターニュという場所をよく理解し、味わい、いつか私も旅をしてみたいなと思います。なぜブルターニュは人気?展示解説をされている袴田紘代さん19世紀後半から20世紀はじめにかけて、クロード・モネやポール・ゴーガンなど西洋の画家たちや、日本からパリに留学していた黒田清輝や藤田嗣治もブルターニュを訪れ、さまざまな作品を描いています。なぜ、画家たちは、ブルターニュに魅了されたのでしょう?本展を企画された国立西洋美術館主任研究員の袴田紘代さんによると、もともとブルターニュはケルト人が住み、公国として独立した地域だったので、文化的にも特徴がある、とのこと。また、各地に残る巨石遺構や海岸の断崖絶壁など自然の景観も独特なので、フランスのなかでも異郷として認識され、19世紀から画家たちが訪れるようになったそうです。必見!モネのブルターニュ左:クロード・モネ 《嵐のベリール》1886 年 油彩/カンヴァス オルセー美術館(パリ)、右:クロード・モネ 《ポール=ドモワの洞窟》1886 年 油彩/カンヴァス 茨城県近代美術館では、いくつか見どころをご紹介。第一章「見出されたブルターニュ:異郷への旅」での必見作は、モネの美しい絵画2点です。モネは、ブルターニュ地域にある断崖絶壁の島ベリールに滞在し、海岸沿いの風景画を40点近く制作。限られた視点から、同じような風景を何枚も描いていました。この2点について、袴田さんは次のように述べています。袴田さんベリールは荒天の日も多く、嵐の日にはカンバスを岩にくくりつけて描いていたそうです。同じ場所を穏やかな日にも描いていますが、嵐の海と穏やかな海では色彩もタッチも違います。穏やかな天気のときはタッチも穏やかで、嵐のときは荒々しく描かれています。極上のゴーガン10点以上!『憧憬の地 ブルターニュ』展より、ゴーガンの作品が集まる展示室続く第二章「風土にはぐくまれる感性:ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」では、日本でも人気の画家、ゴーガンの作品が10点以上も登場!見ごたえ抜群の展示室です。株式仲買人をしていたゴーガンは、1883年に仕事を辞めて画業に専念。しかし、生活苦に陥り、物価や滞在費の安いブルターニュに移住します。袴田さんブルターニュの民族衣装や素朴な生活、キリスト教の信仰心や人々の精神に関心を寄せたゴーガンは、自分の解釈を加えながら作品にブルターニュの魅力を反映させていきました。最初は印象派風の作品を描いていましたが、次第に精神的なものを表現するようになっていきます。日本の巨匠作品も!『憧憬の地 ブルターニュ』展会場写真第三章では、ブルターニュに別荘やアトリエを構え、土地に根を下ろした画家たちの作品を展示。モーリス・ドニの明るい作品や、シャルル・コッテが描いた重厚な絵画、日本美術を愛した版画家、アンリ・リヴィエールの木版画も見ることができます。最後の章では、黒田清輝や藤田嗣治など日本の巨匠たちが描いたブルターニュ作品も展示。画家が使った旅行トランクも展示され、ブルターニュの風景画とあわせて旅の雰囲気も味わえます。本展は、大型連休中も開催。ぜひ、世界遺産に登録されている美術館で、アートなブルターニュの旅を体験してみてください。Information会期:~6月11日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:国立西洋美術館開館時間:9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※5月1日(月)、2日(火)、3日(水・祝)、4日(木・祝)は20:00まで開館※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,500、高校生 ¥1,100、中学生以下無料※5月7日までは事前予約制
2023年04月23日上野の東京国立博物館(トーハク)で、特別展「東福寺」が開かれています。紅葉の名所として知られる京都・東福寺は、実は文化財の宝庫。国宝や重要文化財に指定されている作品を数多く所蔵しています。今回、本展で音声ガイドナビゲーターを務める俳優の木村多江さんに、展覧会の見どころなどお聞きしてきました!木村多江さんがナビゲーター!木村多江さん【女子的アートナビ】vol. 288特別展「東福寺」では、京都・東福寺が所蔵する膨大な寺宝のなかからセレクトされた国宝や重要文化財指定のお宝など、約150件をまとめて展示。鮮やかな仏画や巨大な仏像、書画など、日本文化の魅力をたっぷりと味わえます。(会期中、展示替えがあります)東福寺は、鎌倉時代前期に摂政・関白を務めた九条道家(くじょうみちいえ)が発願し、開山として円爾(えんに)を招いて創建された禅宗寺院です。応仁の乱などの戦火を免れた貴重な文化財を数多く所蔵。国宝7件、重要文化財98件、合計で105件もあり、まさに文化財の宝庫といえるお寺です。東福寺初となる大規模展覧会で音声ガイドを務めるのは、木村多江さん。今回、本展の見どころなどをお聞きしてきました。想像を超えた楽しい作品がいっぱい!――展示をご覧になって、いかがでしたか?木村さん禅宗の美術は硬いのかなと思っていたら、想像を超えて楽しいものがいっぱいありました。例えば、《五百羅漢図》のところには四コマ漫画があり、その漫画にタイトルまでついていて、ストーリーもわかりやすく、ポップで楽しくなりました。作品そのものも色彩が豊かで美しく、描かれている羅漢のお顔も近所にいる人のような雰囲気で、身近な感じがします。また、《虎一大字》という書の作品も、虎の絵のような文字のような、あるいはカメレオンにも見えます。禅宗の教えにある「人の心次第」を伝えようとしていたのかもしれないですね。いろいろ自由に解釈ができ、想像が膨らみました。すごく興奮しちゃいます(笑)――木村さんは長年、NHKBSプレミアム「美の壺」でナレーションをされ、日本の文化にも精通されています。日本の美術工芸の楽しみ方を教えていただけますか?木村さん 日本には、すばらしい作家や職人の方々がたくさんいて、世界に誇れる技術があります。今では再現できないような先人たちの技術もあり、そんな方々の技を発見できることが楽しいです。例えば、今回の展覧会で見られる鎌倉時代の《二天王立像》も、あんな大きな仏像を寄木でどうやってつくったのだろうか、とびっくりします。今のようにデジタル技術がない時代、全体像をどのように考えてつくっていくのか、想像するとすごく興奮しちゃいます(笑)。こんなにすごい作品が日本にあるんだよ、と私はみなさんに言いたいです(笑)。昔はどんなふうにつくったのか、どんな人がつくったのか、と想像しながら見ていただきたいですね。――木村さんご自身にとって、美術に触れることで何か影響はありますか?木村さんお芝居は、アウトプットのことが多いので、美術展に行っていろいろ拝見すると、作者の精神や魂に触れられる気がして、それがインプットになり、自分を鼓舞することにもなります。想像力が膨らむような感動を、見ている人に与えることができる美術作品に触れると、私もそうなりたいと目指すものができます。美しいものやびっくりする作品を見ると、刺激になり、活力にもなります。背負い投げされた気分です(笑)――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。木村さんこの展覧会は、今まで抱いていた禅宗美術のイメージを覆されて、背負い投げされた気分です(笑)。それくらい楽しかったです。圧倒的で、いろいろなことを想像して、思わず見ながらニヤニヤ笑いました。すごく楽しい気分にさせてくれる展覧会です。どの世代でも、楽しいことが好きと思う方は、ぜひ見に来ていただきたいです。インタビューを終えて…穏やかな優しい口調でお話をしてくださった木村さん。日本の美についてお聞きしたとき、作品や作り手について、とても愛おしそうな表情で話されているお姿が印象的でした。木村さんが優しく語りかけてくれる音声ガイドを聴きながら、ぜひ展示を楽しんでみてください。Information会期:~5月7日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:東京国立博物館平成館(上野公園)開館時間:9時30分~17時00分(入館は閉館の30分前まで)観覧料:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,300、高校生 ¥900、中学生以下無料京都会場:京都国立博物館 2023年10月7日(土)~12月3日(日)
2023年04月16日東京・竹橋で、東京国立近代美術館70周年記念展『重要文化財の秘密』が開かれています。本展では、重要文化財として指定された「明治以降」の美術作品をまとめて展示。価値あるアートを見られるだけでなく、名品に隠された意外な秘密など、アートの歴史も楽しむことができる展覧会です。オール重要文化財の貴重な展覧会!『重要文化財の秘密』会場入り口【女子的アートナビ】vol. 287『重要文化財の秘密』では、重要文化財として指定された明治以降の作品を展示。日本画や洋画、彫刻、さらに工芸も含めた51件を、会期中に展示替えをしながら紹介しています。そもそも重要文化財とは、なんでしょう?国宝とは、どう違うのでしょうか?重要文化財とは、日本にある有形文化財のうち、「製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの等について文部科学大臣が定めたもの」。そのうち、特に優れたものが「国宝」に指定されます。現在、日本にある重要文化財は10,872件。いっぽうの国宝は、906件。1万以上もあるなら、あまり貴重な感じがしない…と思ってしまいそうです。ですが、実は明治以降の近代美術で重要文化財に指定されているのは、わずか68件のみ。そのうちの51件が本展で見られるので、かなり貴重な展覧会だといえそうです。どうしてこの作品が重要文化財に…?萬鉄五郎《裸体美人》1912(明治45)年重要文化財東京国立近代美術館蔵(通期展示)本展を担当された東京国立近代美術館副館長の大谷省吾さんは、「重要文化財だからすばらしい、という受け身の視点ではなく、どうしてこれが重要文化財に指定されたのだろう?という視点から作品を見ていただきたい」とコメント。さらに、重要文化財の指定に関する「秘密」のひとつを教えてくれました。大谷さん萬鉄五郎の《裸体美人》は現代になってから評価された作品です。萬は東京美術学校時代、最初は優等生でしたが、卒業制作で本作品を描いて指導教官たちを驚かせ、成績も19人のうち16番目になったと伝わっています。当時は斬新すぎた作品でしたが、時代を経て「新しい時代を切り開いた作品」として認められ、2000年に重要文化財として指定されました。最短で44年!横山大観《生々流転》1923年(大正12年)重要文化財東京国立近代美術館蔵(通期展示)本展の作品はオール重要文化財なので、すべてが見どころですが、なかでも目を引くのが会場に入ってすぐの細長い展示室で紹介されている横山大観の《生々流転》。長さ40メートルもある大作です。本作品に隠された「秘密」は、明治以降に指定された全68件の重要文化財のうち、「最も制作から短期間で認定された」という点。本作品が描かれたのは、大正時代の1923年。重要文化財に指定されたのは、1967年。つまり、最短でも認定に「44年」もかかるのですから、いかに大変なことかわかります。ちなみに、明治以降に制作された絵画などの美術作品のうち、国宝に指定されたものはゼロ、とのこと。でも、本展で展示されているのは、いつか国宝になるかもしれない作品ばかり。まとめて見られるこの機会をどうぞお見逃しなく!春まつりも開催中!なお、東京国立近代美術館では、4月9日まで「美術館の春まつり」も開催中。鮮やかな花を描いた屛風や現代の日本画が並ぶ展示室が設けられ、また桜が見える前庭には床几台も置かれています。千鳥ヶ淵など近隣の桜と一緒に、ぜひ美しいアートも楽しんでみてください。Information会期:~5月14日(日)※休館日は月曜日(ただし3月27日、5月1日、8日は開館)会場:東京国立近代美術館開館時間:9:30-17:00(金曜・土曜は9:30-20:00)*入館は閉館30分前まで*本展会期中に限り9:30開館(ただし「MOMATコレクション」は10:00開場)*入館は閉館30分前まで観覧料:一般 ¥1,800、大学生 ¥1,200、高校生 ¥700、中学生以下無料
2023年03月26日三菱一号館美術館で『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』が開催中です。幕末から明治にかけて活躍した人気浮世絵師、落合芳幾(おちあいよしいく)と月岡芳年(つきおかよしとし)。「最後の浮世絵師」とも呼ばれた彼らのゾクゾクする作品をご紹介します!「最後の浮世絵師」たちのアートが集結!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景【女子的アートナビ】vol. 286本展では、歌川国芳(1797-1861)の門下で腕を磨いた浮世絵師、落合芳幾(1833-1904)と月岡芳年(1839-1892)の浮世絵を中心に、さまざまな作品を展示。幕末~明治の浮世絵を多く所蔵する「浅井コレクション」をはじめ、貴重な個人コレクションをもとに、彼らの画業が紹介されています。芳幾と芳年は、ともに江戸生まれ。ほぼ同じ時期にともに10代で、国芳に入門して教えを受けました。二人は、残酷な血みどろ絵を共作し人気を博しますが、30代で明治維新を迎え、それぞれの道を歩んでいきます。浮世絵が衰退をはじめた明治時代に、二人の絵師がどう生き残ったのか。本展では、人気浮世絵師たちの新たな活躍の場も紹介されています。血みどろ絵でブレイク!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景本展のプロローグで登場するのは、芳幾と芳年がブレイクするきっかけとなった共作の作品集《英名二十八衆句》。江戸後期の歌舞伎や講談で知られている殺戮シーンを集めた全28枚の作品で、会場ではそのうち8枚を展示しています。絵の上部には、戯作者による場面解説が記載され、芳幾と芳年がそれぞれ半数ずつ図版を手がけました。幕末の不穏な風潮も反映させ、血みどろの場面はかなりリアル。例えば、芳年の《英名二十八衆句高倉屋助七》は、歌舞伎『助六』の主人公「花川戸助六」を描いたもので、倒した駕籠に足を掛けて睨む姿の手足には生々しい血の跡が。血みどろ絵、無惨絵を代表する残酷な作品です。かっこいい!師匠、国芳の絵『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景続く第1章では、二人の師匠である国芳の作品を展示。彼らが入門したとき、国芳は50代前半で、武者絵や役者絵、美人画、風俗画などさまざまな作品を手がけていました。たびたび幕政批判を匂わす作品を描き、奉行所からにらまれていた国芳ですが、江戸の庶民たちからは大人気。また、面倒見もよかったため、弟子たちからも慕われていました。会場では、国芳の《甲越川中島大合戦》をはじめ、ダイナミックでかっこいい作品が並んでいます。ゾクゾクする肉筆画も!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景第3章では、芳幾と芳年らの貴重な肉筆画を紹介。浮世絵版画とはまた異なる趣があり、絵の巧さ、筆さばきなど技法のすばらしさもダイレクトに伝わります。例えば、芳幾の《幽霊図》は、格子の間から顔を出している幽霊の姿を描写。こけた頬やくぼんだ目など、おどろおどろしい雰囲気で、脚も描かれていません。薄暗い展示室で見ていると、ゾクゾクします。いっぽう、芳年の《幽霊図うぶめ》(3月14日~26日展示)は赤子を抱く母親の後ろ姿を描いたもの。うぶめとは、妊娠中に亡くなった女性の妖怪で、血だらけの赤ん坊を人に抱かせようとする……と伝えられています。しかし本作からは、怖さというより母親の切なさ、悲しさが伝わってきます。新聞錦絵で生き残る!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景第5章では、新聞錦絵を紹介。明治になると、さまざまな新聞が刊行されはじめ、芳幾は東京初の日刊紙「東京日日新聞」の発刊に携わります。さらに、庶民の好奇心を刺激するセンセーショナルな事件を錦絵にして刊行し、人気を獲得。需要がなくなりつつあった浮世絵師ですが、新聞や雑誌という新しいメディアに挿絵を描き、活躍を続けました。ライバルの芳年は、「郵便報知新聞」の新聞錦絵に起用され、こちらもブレイク。ただ、彼は浮世絵制作にもこだわり、晩年も版画を出版するなど最後まで浮世絵師として活動を続けました。休館前にぜひ!なお、三菱一号館美術館は、本展のあと設備入替および建物メンテナンスのため休館いたします。再開館は2024年秋頃を予定。休館前に、ぜひ足を運んでみてくださいね!Information会期:~4月9日(日)※展示替えあり※休館日は、3月20日(月)会場:三菱一号館美術館開館時間:10時~18時(金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は21時まで)※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般 ¥1,900、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
2023年03月23日東京都現代美術館で、『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』が開かれています。フランスを代表するデザイナーのひとり、クリスチャン・ディオール(1905-1957)。日本を愛したデザイナーが手がけたドレスやスケッチなど、魅力的な作品と展示風景をご紹介します!ディオールと日本の絆が伝わる!『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)【女子的アートナビ】vol. 285『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』は、パリ、ロンドン、中国、ニューヨークなどで人気を博した世界巡回展。70年以上にわたるディオールの軌跡が、約1,100点以上もの作品とともに紹介されています。本展は、日本のために再考案されたもので、建築家の重松象平氏が会場をデザイン。キュレーションは、フロランス・ミュラー氏が手がけ、ディオールが影響を受けた芸術や、日本文化の魅力、庭園に対する愛などにもスポットがあてられています。さらに、東京都現代美術館が所蔵するアート作品や、日本人写真家・高木由利子氏の魅力的な写真作品もあわせて展示。ディオールと日本がコラボした夢のような空間になっています。子どものころから日本文化に憧れて…『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)ディオールは、フランス・ノルマンディー地方の裕福な家庭で誕生。両親が日本美術を愛好していたことから、家の中には北斎や歌麿などの絵が飾られ、子どものころから日本文化に憧れながら成長しました。芸術を愛する青年となったディオールは、2つのアートギャラリーを経営。ピカソやマティス、ダリ、ジャコメッティなどさまざまな芸術家たちの作品を展示していました。しかし、1929年からはじまった世界恐慌の影響を受けてディオールの実家が破産。また、彼自身も苦境に陥り、ギャラリーも閉鎖しました。その後、生活のために描いていたドレスのデザインが評判となり、デザイナーとしてデビュー。1946年に、パリのモンテーニュ通り30番地にメゾン「クリスチャン・ディオール」を創業しました。本展の会場を入ってすぐ、最初に見ることができる作品が、ムッシュ ディオールのデビュー作となった“Bar(バー)”ジャケットです。美智子さまのウエディングドレスも制作!『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)クリスチャン・ディオールは、日本で最初に進出した西洋のファッションブランドで、1953年には帝国ホテルでファッションショーを開催。そのとき発表された5着が、会場に展示されています。ドレスにつけられた名前にも、ぜひ注目してみてください。「サツマ-サン」や「コージ-サン」など日本を連想するような名前も見つけられます。また、「羅生門」と名づけられたコートには、京都の龍村美術織物の生地が用いられ、ディオールと日本の深い絆を感じることができます。ディオールは、1957年に心臓発作で急逝。まだ52歳という若さでした。しかし、その後もメゾンのクリエイティブ ディレクターたちは、引き続き日本の芸術や文化に関心を持ち続けました。1959年には、当時の明仁親王殿下(現・上皇陛下)と正田美智子さま(現・上皇后陛下)の結婚式用ドレス3着をメゾン・ディオールが制作。生前のディオールがデザインしたドレスを、弟子であるイヴ・サンローランが完成させました。会場デザインや写真にも注目!『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)また、本展では各展示室の空間演出や、写真やアートとのコラボも見どころのひとつ。例えば、歴代デザイナーのドレスが展示されている部屋の壁には、高木由利子氏の写真が一面にかかっています。ファッションの仕事に携わったあと写真家になった高木氏は、本展のためにディオールのドレスを撮影。園芸を愛したディオールに敬意を表し、花を手にしたモデルの姿なども見ることができます。『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)(右)牧野虎雄《朝顔》1945年頃東京都現代美術館蔵、(左)牧野虎雄《鹿の子百合》1925年頃東京都現代美術館蔵また、「ミス ディオールの庭」と題された展示室は、日本庭園をイメージした空間で、花や植物がデザインされたドレスが並んでいます。東京都現代美術館が所蔵する作品も一緒に展示され、ドレスとアートのコラボも大変美しいです。『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)(左奥3点)アンディ・ウォーホール《マリリン・モンロー》1967年東京都現代美術館蔵ちなみに、本展は撮影OK。どの展示室もため息が出るほど美しい雰囲気で、間違いなく映える写真が撮れます。ただ、大変人気のある展覧会のため、4月までの日時指定チケットはすべて完売。当日券も、販売枚数に制限があります。5月以降のチケットについては、4月上旬に美術館の公式サイトでアナウンスされますので、観覧ご希望の方はそちらをご確認ください。会期は5月28日まで。Information『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』ポスター(筆者撮影)会期:~5月28日(日)月曜休館会場:東京都現代美術館開場時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)観覧料:一般 ¥2,000、大学・専門学校生・65歳以上 ¥1,300、中高生以下無料
2023年03月19日六本木の国立新美術館で、『ルーヴル美術館展愛を描く』がはじまりました。本展のプレス内覧会と開会式に、展覧会の案内人を務める俳優の満島ひかりさんが登壇。開会式の模様を取材してきましたので、レポートします!満島ひかりさんが案内人!満島ひかりさんNTV【女子的アートナビ】vol. 284『ルーヴル美術館展愛を描く』では、フランスのルーヴル美術館が所蔵する絵画コレクションのなかから、「愛」をテーマにした名画73点を展示。西洋社会では、古代の神々やキリスト教の愛、恋人や家族、官能的な愛まで、さまざまな愛が表現されてきました。本展では、おもに16世紀から19世紀半ばに活躍したヨーロッパの巨匠たちによる傑作、名作の数々を堪能できます。プレス内覧会では、満島ひかりさんがフランソワ・ジェラールが描いた《アモルとプシュケ》の前に登場!春色のワンピース姿がとってもステキです!ロケでルーヴル美術館を体験!NTVまた、開会式では満島さんが本展の案内人として、ルーヴル美術館や作品の魅力について、語ってくれました。――本展のロケで、はじめてルーヴル美術館の中に入られたそうですが、いかがでしたか。満島さんとても良い絵を見る体験ができました。もともと王宮だった建物を補修しながら美しく保ち、そこにさまざまな時代の絵が並んでいました。特に感動したのは、ナポレオンの戴冠式を描いた作品です。絵の中に、私と同じぐらいの大きさの人間がたくさん描かれていて、思わず拍手をしてしまいました。自分もその戴冠式に参加しているかのような気分になれたので、驚きました。ルーヴルならではの鑑賞体験ができました。一枚の絵に30分以上は必要…?『ルーヴル美術館展愛を描く』展示風景――本展の展示はいかがでしたか。満島さん本展を担当された国立新美術館主任研究員の宮島綾子さんと一緒に、拝見させていただきました。解説を聴きながら見ていると、一枚の絵に対して、30分以上は必要ですね。絵の中に、「愛」にまつわるさまざまなヒントがあり、その絵が描かれた背景があり、知れば知るほど絵を鑑賞する時間が長くなります。別に宣伝ではないのですが、一度見るだけでは足りないですね(笑)。すごく良い展示です。――本展で音声ガイドの収録をされてみて、いかがでしたか。満島さんはじめて、音声ガイドを担当しました。先輩の森川智之さんと一緒に、愛にまつわる話や恥ずかしくなるような言葉、怒りなどをお芝居のようにして話してみたり、恥じらいをセリフにして話してみたり。森川さんと私だからこその音声ガイドになっていると思います。盟友である三浦大知くんと一緒に…NTV――本展のテーマソング『eden』も配信されました。満島さんが作詞をされたそうですね。満島さんありがたいことに、世界的なジャズバンドSOIL&“PIMP”SESSIONSのみなさんと、私の27年来の盟友である三浦大知くんと一緒に、今回のテーマソングをつくらせていただきました。美術の世界をあまり崩さないようにと思いながら、幻想的で神秘的な感じになればいいと思って詞を書きました。美術展とあわせて、聴いていただければうれしいです。――最後に、展覧会をご覧になる方にメッセージをお願いします。満島さんこの数年、たくさんの人がいろいろな環境になり、どんどん世界が変わるなかで、改めて見直したこと、愛を感じること、触れられないことのさみしさ、触れられるものへの愛おしさなど、日々感じている最中かと思います。「愛を描く」というこの展覧会にぜひ足を運んで、日常にもたくさん愛を描いてほしいなと思います。私も愛を描きたいです。音声ガイドで楽曲も聴けますなお、満島さんと森川さんが担当する音声ガイドは、650円で貸し出されています。作品解説のほか、テーマソング『eden』や、満島さんと森川さんの特別対談も収録。ぜひガイドを聴きながら、作品をご覧になってみてください。本展は、東京のあと京都に巡回予定です。Information会期:~6月12日(月)休館日:毎週火曜日※ただし3月21日(火・祝)・5月2日(火)は開館、3月22日(水)は休館会場:国立新美術館企画展示室1E開場時間:10:00-18:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで観覧料:一般¥2,100、大学生¥1,400、高校生¥1,000、中学生以下無料
2023年03月18日日本橋髙島屋S.C.の本館8階ホールで、北欧家具やインテリア、食器などを集めた展覧会『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』が開かれています。会場では、北欧の部屋をリアルに再現した美しい展示空間も登場。プレス内覧会と開会式を取材してきましたので、レポートします!北欧デザイン300点以上が集結!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』展示風景【女子的アートナビ】vol. 283日本橋髙島屋開店90年記念『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』では、椅子研究家の織田憲嗣さんが長年かけて収集・研究してきた、世界的にもかなり貴重な「織田コレクション」が集結。北欧デザインの椅子やテーブルなどの家具から、照明やインテリアアクセサリー、さらに食器などの日用品まで、総勢70名以上のデザイナーによる300点以上の作品が紹介されています。洗練された作品だけでなく、展示空間も見どころのひとつ。北欧の建材メーカーによる窓枠や床材を使い、リアルなリビングルームやダイニングルームが再現されています。照明も北欧のもので演出され、現行商品の名作椅子には座ることもできます。美が人生を豊かに…!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』日本だけでなく、世界でも北欧デザインは人気があります。なぜ、これほど魅力を感じるのでしょう?北欧家具やインテリアなどの有機的で美しいデザインには、日常の暮らしや思想が強く影響しているそうです。開会式に登壇された織田さんは、北欧デザインができた背景について、次のように語りました。織田さん北欧では、19世紀末にスウェーデンの社会思想家、エレン・ケイが「美が人生を豊かにする」という思想をとなえ、さらに美術史家のグレゴール・パウルソンが、「暮らしの中にもっと美しいものを取り入れていこう」と提唱し、今日の高い生活文化が築かれていきました。現在、日本はジェンダーや環境などさまざまな問題を抱えています。北欧では、1960年代からそれらの問題に取り組み、解決してきた実績があります。モノだけをご覧になるのではなく、美しいモノたちが生まれてきた背景や歴史にも思いをはせていただければうれしいです。人生の節目に椅子を買う!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』では、会場の見どころをいくつかご紹介していきます。まず、第1章「椅子と生きる」では、北欧各国の名作椅子を展示。北欧の人たちは、長い人生をともにする椅子の存在をとても大切にし、美しいフォルムだけでなく、座り心地も徹底的に追求しています。また、初任給をもらったときや結婚したときなど人生の節目に椅子を買うこともあるそうです。椅子が人生のパートナーって、ステキですね。『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』第2章「デザインの源泉」では、北欧を代表するデザイナー10名による多くの作品を展示。イッタラのデザイナーとして知られるフィンランドの巨匠、タピオ・ヴィルカラのガラス作品をはじめ、アルヴァ・アアルトやカイ・フランク、デンマークのフィン・ユールなどの作品とともに、デザイナーについても紹介されています。織田さんは、「北欧デザイナーの多くは、自然界からインスピレーションを受けてデザインに生かしている」と解説。例えば、タピオのガラス作品《ウルティマツーレ》は、最北のラップランドでのとけゆく氷をイメージしたデザインになっています。世界で唯一現存する椅子!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』また、第3章「心の居場所」では、北欧建材でつくられた部屋に家具や食器などを展示。照明も、北欧の光の変化を考えて演出されています。本展で展示されているダイニングセットは、ふだん織田さんが自宅で使っているものを運んできたそうです。「良いモノほど、よく使うべき」と語る織田さんは、現在北海道の森の中にある自宅で、美しいデザイン家具や日用品に囲まれて過ごされています。また、リビングルームに展示されているベント・ヴィンゲ《イージーチェア》は、スツールとセットになったもので、世界で唯一現存する貴重な作品。本展には、ほかにも「世界に2点しかない」ハンス J・ウェグナーの《ザ・チェアプロトタイプ》や、アルヴァ・アアルトの最初期モデルなど希少な作品があり、近代デザイン史に残る学術的にも重要な名作を見ることができます。織田さんが語った「美しい暮らしは人を幸せにする」という言葉を、まさに実感・体感できる展覧会です。ぜひ、現地でご覧になってみてください。本展はこの後、ジェイアール名古屋タカシマヤと大阪髙島屋に巡回予定です。Information会期:~3月21日(火・祝)会場:日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール入場時間:午前10時30分〜午後7時(午後7時30分閉場) ※最終日3月21日(火・祝)は午後5時30分まで(午後6時閉場)観覧料:一般 ¥1,000、大学・高校生 ¥800、中学生以下無料
2023年03月12日Bunkamura ザ・ミュージアムで、『マリー・ローランサンとモード』展が開催中です。本展で音声ガイドナビゲーターを務めるのは、俳優の浦井健治さん。内覧会で展示をご覧になった浦井さんに、本展の見どころやアートについてお聞きしてみました!浦井健治さんがナビゲート!『マリー・ローランサンとモード』展浦井健治さん【女子的アートナビ】vol. 282本展では、ともに1883年に生まれたマリー・ローランサンとココ・シャネル、そして時代を彩った人々に注目し、美術とファッションを軸に、1920年代のパリの芸術界を紹介。女性的な美を追求したローランサンの優美な絵画を中心に、活動的でモダンな女性服を創作したシャネルのファッションなども展示され、約90点の多彩な作品を楽しめます。本展で音声ガイドを担当した浦井健治さんは、ミュージカルや映像などで活躍。これまで、さまざまな王子や伯爵などの役を演じ、最近までミュージカル『キングアーサー』で主演のアーサー王役を務められ、注目を集めています。そんな貴公子の風格が漂う浦井さんに、展覧会の感想やお好きな作品などをお聞きしてみました。二人の女性に魅せられて…――はじめて音声ガイドを担当されて、いかがでしたか?浦井さん光栄でうれしかったです。美術館は、自分自身や当時の時代とも向き合えて、「学びのある場所」と個人的に思っています。ですから、見ている方の邪魔にならないよう、抑揚などを考えて、優しく包むようなイメージで収録しました。また、今回はナレーションをしながら、自分自身もローランサンとシャネルという二人の女性のすばらしい志や芸術、生きざまに魅せられていきました。こんな贅沢な経験をさせていただき、うれしいです。――二人の女性について、特にどんな点に魅力を感じられましたか?浦井さん社会的に新しい感じがお二人にはあると思います。ローランサンの絵画は、淡い色彩で描かれていて女性らしさがあり、ステキだと思います。彼女の絵には、犬や周りにいる大切な人たちが描かれていて、優しさに包まれています。絆や人間を大切にしていることが絵から伝わります。シャネルは、女性たちが活躍できるよう、いろいろなことにトライされています。今は当たり前のことですが、当時の女性が権利を勝ち取っていくのは大変だったと思います。風潮や常識にあらがい立ち向かう様子は、まるで騎士のように見えます。二人とも、美術やファッションという枠を超えて、これから女性がどうやったら活躍できるのかを呈示しているような方々。だからこそ、みなさんに支持されて、今の時代も憧れの存在になっているのだと思います。美への探究心を感じる――会場をご覧になって、特にどの作品に興味をもたれましたか?浦井さんローランサンの作品に、恋人とのツーショットを描いた絵画があるのですが、二人の色味がグレーと色鮮やかな色で対照的に表されていて、印象的でした。また、自画像もよかったです。身につけている装飾品も工夫されていて、こう見せたいという彼女の思い、美への探求心を感じました。また、シャネルの衣装も興味深く思いました。自分は役者なので、いつも衣装を着させていただくのですが、衣装担当の方が凝った素材をパリから選んで持ってきてくれたり、役者の動きに合わせて制作してくれたり、工夫してくださるのです。いつも衣装担当の方から聞く言葉が、そのまま今回の展示物にリンクしている部分もありました。例えば、お腹を圧迫しないけどスレンダーに見えるファッションなど、今は当たり前のことですが、まさに当時、本展で見たところが始まりだったというのがわかり、すごいなと思いました。――本展は、美術とファッションを一緒に見られますが、その点はいかがですか。浦井さんとても豊かな展示構成だと思いました。説明がひとつひとつ書かれていて、見やすくなっているので、二人の女性の生きた証がよくわかります。まるで進行形のように、今でも彼女たちが生きているような感触があるくらい、見ていて清々しく生命力がありました。何度見ても、きっと発見があると思います。アートは学びの連続――浦井さんにとって、アートはどんな存在ですか?浦井さん情報の宝庫で、学びの連続です。描かれた当時のことを知ることができ、例えば戦争や疫病、生活スタイルなど時代の移り変わりをアートで見て知ることができます。また、自分の職業にも生かされています。実在の人物を演じるとき、書物や写真集などで学ばせていただくのですが、そこに必ずアートが入っています。例えばパリが舞台のとき、パリには行けないけれど美術作品を見ると、そこから服装や装飾品、人々の距離感などアートで語られていて勉強になります。また、知識だけでなく、インスピレーションも得られます。演じるのは、その場で生きて反応していくこと。アートは視覚で見て体感できるので、例えば教会の中の空気感とかが作品から伝わると、演じるときの助けになります。――よく美術館に行かれるとのことですが、印象に残る展覧会や作品はありますか。浦井さんいろいろありますが、以前、一部屋すべてモネの作品が飾られているのを見たときはすごいと思いました。やはり、本物はすごいですね。本物に触れると、自分の感性も変わっていき、研ぎ澄まされたインスピレーションが得られます。その空間に身を置くことでリセットでき、自分自身とも向き合えます。こんな贅沢な時間をリーズナブルなお値段で買えるのですから、美術館はもっとみんな行っていい場所だと思います。どんな方でも楽しめます!――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。浦井さん二人の女性の心意気や志、生きた証に触れることができる展覧会で、見ると世界が広がります。男性も学ぶことが多く、渋谷の真ん中にあるのでカップルで来ていただいてもいいと思います。ぜひ、この贅沢な空間を体感していただきたいです。音声ガイドも、みなさんと一緒に街を歩いているような雰囲気になれるよう心がけました。どんな方が来ても楽しめるすごくステキな芸術空間で、心に潤いをもたらしてくれます。ぜひ一度といわず、何度も足を運んでいただければと思います。インタビューを終えて…終始穏やかなトーンで、とても丁寧にお話をしてくださった浦井さん。アートから知識やインスピレーションを得て、役作りにも生かされているなど、言葉の端々から演劇に対する真摯な思いが伝わってきました。ぜひ、浦井さんの優しく寄り添うような声で収録された音声ガイドを聴きながら、展覧会を楽しんでみてください。Information会期:~4月9日(日)休館日:3月7日(火)会場:Bunkamura ザ・ミュージアム開場時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)※金・土の夜間開館は、状況により変更になる場合があります。観覧料:一般¥1,900、大学・高校生¥1,000、中学生・小学生¥700撮影・松本理加
2023年03月11日アーティゾン美術館で、国内外で活躍するアーティスト集団、ダムタイプの展覧会が開かれています。先日開かれたプレス内覧会では、4名のアーティストも参加。作家のコメントや会場の様子、さらに同時開催中の展覧会もあわせてご紹介します!かっこよすぎる展覧会!『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展ダムタイプ|2022: remap』展示風景【女子的アートナビ】vol. 281現在開催中のダムタイプの展覧会、とにかく会場の雰囲気がクールです。展示されているのは、視覚言語とサウンドを組み合わせてつくられたインスタレーション作品。暗い展示室の壁や天井方向、床にも映像が表れ、心地よいノイズのようなサウンドも響きわたり、とても不思議でかっこいい空間になっています。本展の正式タイトルは、『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展ダムタイプ|2022: remap』。ヴェネチア・ビエンナーレとは、2年に1度開催されている現代アートの国際美術展です。1895年から続く歴史ある美術展で、作品の展示会場となっている「日本館」は、石橋財団創設者の石橋正二郎氏が建設寄贈。そんな縁などもあり、アーティゾン美術館で帰国展が開催されています。ダムタイプって、どんなグループ?左から、濱哲史さん、古舘健さん、高谷史郎さん、南琢也さんそもそも、ダムタイプとはどんなアーティストグループなのでしょう?活動を開始したのは、1984年。ビジュアル・アートや映像、コンピューター・プログラム、音楽などさまざまなジャンルのアーティストによって構成されているグループです。国内外で活躍され、これまでメルボルン国際芸術フェスティバルやリヨン現代美術館、シカゴ現代美術館、アムステルダム市立劇場など、各地で上演や作品展示をされています。また、ダムタイプはプロジェクトごとにメンバーが変わり、今回の作品制作にはミュージシャンの坂本龍一さんも参加。プレス内覧会には、本プロジェクトメンバーの高谷史郎さん、古舘健さん、濱哲史さん、南琢也さんが登壇されました。作品にこめられたメッセージは…『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展ダムタイプ|2022: remap』展示風景展示作品について解説を求められた高谷史郎さんは、「最初に答えを言うことはできないし、作品の説明をするのは野暮なのですが…」と言いながらも、少し鑑賞のヒントを教えてくれました。高谷さん何をつくろうかと話し合いをしているなかで、時間と空間がメインテーマになりました。会場に入るとわかりますが、ジオグラフィカルな質問や地図などの情報が散りばめられている展示になっています。コロナや戦争で分断があったので、お互いつながり合って共存するような社会を創造しないといけない、と考え直す機会になればいいと思いました。我々は作品にメッセージを込めていますが、それが届くかどうかは本当にその人のタイミングによると思います。もしおもしろくないと思っても、また見に来てもらえれば、次に来たときに何か受け取れるかもしれない。時間を使ってゆっくりと滞在してもらい、体験してもらえるとありがたいです。同じチケットで見られる!2つの企画展『アートを楽しむ ―見る、感じる、学ぶ』展の入り口アーティゾン美術館では、ダムタイプの展覧会だけでなく、同時開催中の2つの企画展も同じチケットで見ることができます。5階の展示室では、アートにより深く親しめる企画展『アートを楽しむ ―見る、感じる、学ぶ』を開催。「肖像画のひとコマ ― 絵や彫刻の人になってみよう」、「風景画への旅 ― 描かれた景色に浸ってみよう」、「印象派の日常空間 ― 近代都市パリに行ってみよう」の3つのセクションにわけられ、ピカソやモネなどの名画が紹介されています。『アートを楽しむ ―見る、感じる、学ぶ』展示風景作品だけでなく、画家の再現アトリエや、フランス製エラール社の貴重なピアノなども置かれた楽しい展示構成になっています。さらに4階では、『石橋財団コレクション選特集コーナー展示|画家の手紙』を開催。石橋財団コレクションの中から、画家の手紙にまつわる作品などが展示されています。ダムタイプを含む3つの展覧会は、5月14日まで開催。見どころ満載ですので、ぜひゆっくり時間をとって訪れてみてください。Information会期:~5月14日(日)休館日:月曜日会場:アーティゾン美術館開場時間:10:00ー18:00(5月5日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで観覧料:日時指定予約制ウェブ予約チケット ¥1,200、当日チケット(窓口販売)¥1,500、大学・専門学校・高校生は無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)*当日チケット:ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ販売*この料金で同時開催の展覧会をすべてご覧いただけます
2023年03月04日日本橋の三井記念美術館で、『三井家のおひなさま』が開かれています。三井家の夫人や娘たちが大切にしてきたひな人形やひな道具を集めた本展について、レポートします!眼福の「おひなさま」が集結!『三井家のおひなさま』展示風景【女子的アートナビ】vol. 280本展では、三井家の4人の女性たちが所有していた豪華な「おひなさま」を一堂に展示。三井家の注文によってつくられた人形類をはじめ、嫁入り道具として実家から持参した由緒ある品々なども楽しむことができる眼福の展覧会です。「ひなまつり」が女性のおまつりとして盛んに行われるようになったのは、江戸時代初期。京都御所や幕府の大奥で開かれるようになり、次第に民間にも広がっていきました。18世紀になると、ひなまつりには人形だけでなく道具や調度品なども飾られるようになり、人形などを売る雛市も登場。どんどん豪華なものになっていきました。江戸時代から豪商として発展し、日本最大の財閥だった三井家の女性たちに愛された「おひなさま」は格別に豪華。本展では、江戸時代初期から昭和初期までの多彩な「おひなさま」を堪能できます。超高級な銀製ひな道具!『三井家のおひなさま』展示風景では、いくつか見どころをご紹介します。まずは、段飾りで展示されている《銀製ひな道具》。旧富山藩主前田家から三井家に嫁がれた三井苞子(もとこ)氏の旧蔵品です。ひな道具とは、おひなさまが生活するのに必要な化粧道具や茶道具、文房具などの道具一式のことで、婚礼調度のミニチュア版です。かわいいのはもちろん、近くで見ると線刻で細かな文様が入っていて、ひとつひとつがとても優美に仕上げられています。このような銀製のひな道具は大変高額で、ほかに所有しているのは徳川宗家や公家の近衛家、大名の鍋島家など錚々たる名家ばかり。そんな貴重な品を間近で見られるなんて、ありがたいことです。初期のおひなさまは…『三井家のおひなさま』展示風景続いての見どころは、《立雛》です。本作品について、三井記念美術館の学芸員、小林祐子さんは次のように解説しています。小林さん最初期のおひなさまは、立った姿で着物は紙や布でつくられた素朴な姿でした。雄雛のほうは、神社のおはらいのときに使われる形代(かたしろ)に似ています。本作品は江戸時代後期のもので、衣装に描かれているモチーフにも意味があります。松は男性、藤は女性、その下に描かれているナデシコは子どもを象徴し、子孫繫栄の願いが込められています。家一軒買える「超高額」おひなさま!『三井家のおひなさま』展示風景本展でもっとも目を引くのは、幅3メートルもある豪華なひな段飾りです。こちらは、北三井家(十一代)の長女、浅野久子氏の寄贈品。昭和8年、北三井家の一人娘として生まれた久子氏の初節句用のために、京都の老舗である丸平大木人形店・五世大木平藏(1885–1941)に注文してつくられたものです。当時の金額で家が一軒買えるほどのお値段だったそうで、さすが名門の三井家。ひな道具には、三井家の家紋が蒔絵で表され、細部にわたるまで豪華なつくりになっています。ほかにも、さまざまな人形や道具類がありますが、どれも当代一流の名職人がつくったものばかり。ひとつひとつ手が込んだ精巧なもので、見ていて飽きません。眼福のおひなさまを愛でられる展覧会は4月2日まで開催中。ぜひ本物をご覧になってみてください!Information会期:~4月2日(日)休館日:月曜日、2/26(日)会場:三井記念美術館開場時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)観覧料:一般¥1,000、大学・高校生¥500、中学生以下無料
2023年02月26日上野の東京都美術館で、『レオポルド美術館エゴン・シーレ展ウィーンが生んだ若き天才』が開かれています。19世紀末のウィーンを代表する画家、エゴン・シーレ(1890-1918)。28歳で亡くなった画家の貴重な作品が、ウィーンの美術館から多数来日しています。本展の見どころや画家の生涯について、ご紹介します!ウィーンから名画が来日!エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》1912年レオポルド美術館蔵【女子的アートナビ】vol. 279本展では、ウィーンのレオポルト美術館が所蔵する作品を中心に、シーレの油彩画やドローイングなどを多数展示。さらに、クリムトやココシュカなど同時代の画家たちの作品もあわせ、約120点の作品が紹介されています。ウィーンの中心地にあるレオポルト美術館は、ウィーン世紀末コレクションを中心に、オーストリアの美術作品約6000点を所蔵。なかでも、シーレ作品は約220点も収集し、「エゴン・シーレの殿堂」として知られています。そんな美術館から来日したシーレ作品を、本展では間近でたっぷり楽しむことができます。才能に恵まれすぎた天才画家!『エゴン・シーレ展』会場風景シーレが生まれたのは、オーストリアの古い町トゥルン。6歳ごろから絵の才能を発揮し、16歳のとき、学年最年少で名門のウィーン美術アカデミーに合格します。しかし才能に恵まれすぎたシーレは、伝統的なカリキュラムや厳格な教師の指導に満足できず、最終的にはアカデミーを退学。当時、ウィーン画壇の中心的な存在だったクリムトに才能を認められていたため、仲間と「新芸術集団」をつくり、独自の表現を追求していきます。会場では、シーレがアカデミー時代に描いた作品や、新しい表現を模索していく過程の作品も見ることができます。自画像の意味は…『エゴン・シーレ展』会場風景本展では、シーレの自画像が大きな見どころのひとつになっています。メインビジュアルとして使われている《ほおずきの実のある自画像》も、シーレの代表作となっている作品です。短い生涯で、約200点もの自画像を制作したシーレは、作品を描くことで自分のアイデンティティを探究し、自身の苦悩や葛藤も表現。特に裸体自画像では自分のカラダを徹底的にさらけ出し、挑発的で攻撃的にも思える視線をこちらに向けています。エゴン・シーレ《吹き荒れる風の中の秋の木(冬の木)》1912年レオポルド美術館蔵また、シーレは風景画も多く描いていますが、こちらも単なる写生ではありません。本展を担当された東京都美術館学芸員の小林明子さんによると、風景画にもシーレの内面や感情、そのときの心象が映し出され、象徴的な風景になっているそうです。わいせつ画と批判され…エゴン・シーレ《悲しみの女》1912年レオポルド美術館蔵若く才能あふれる画家は、性をテーマにした表現にも挑み、また制作スタイルも過激でした。先鋭的すぎて、批判されることもしばしば。戸外でヌードモデルを描き大問題となって街を追い出されたり、わいせつ画を制作して公にしたことで刑務所に留置されたりしたこともあります。また私生活では、当時16歳だった女性ワリーと同棲。4年も一緒に暮らし、彼女の姿を描いていました。ワリーは、刑務所にいたシーレのことも献身的に支えていました。本展で見られる《悲しみの女》もワリーがモデルです。献身的な彼女を捨て…エゴン・シーレ《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》1915年レオポルド美術館蔵刑務所から出た後、暮らしも困窮していたシーレですが、その後パトロンとなる支援者たちが表れて生活も一変。アトリエも構えて、創作活動も活発になります。ところが、社会的に認められはじめたシーレは、自分の妻としてワリーはふさわしくないと判断。アトリエの向かいに住むブルジョア階級の娘と結婚してしまいます。ただ、ワリーに対しても未練があったため「毎年休暇は一緒に過ごそう」と提案しますが、彼女から拒絶されました。その後、ワリーは従軍看護婦に志願し、1917年に病没します。会場では、妻のエーディトを描いた作品も見ることができます。28歳で生涯を閉じるエゴン・シーレ《横たわる女》1917年レオポルド美術館蔵25歳で結婚したシーレは、第一次世界大戦に召集されますが、戦時下でも作品が発表され、国際的な評価も高まっていきます。ウィーンに帰還した後も、素描集が出版されたり、展覧会で作品が多数売れたりと絶好調。また、私生活でも妻が妊娠し、幸せの頂点に立っていました。ところが、1918年、流行していたスペイン風邪により妊娠6か月の妻が死去。その3日後に同じ病でシーレも亡くなりました。28年の生涯でした。刺激的で心に刺さるアート不安や恐れ、絶望などを描く表現主義的な手法で、多くの刺激的な絵画を残したシーレ。今の時代に見ても結構きわどい絵もありますが、画家の内面にあるものを赤裸々に出したアートは心に深く突き刺さります。シーレの作品が日本に集まるのは約30年ぶり。しかも巡回展はありません。ぜひこの貴重な機会に、シーレ作品を間近でご覧になってみてください。Information会期:~4月9日(日)※日時指定予約が必要です休室日:月曜日会場:東京都美術館開室時間:9:30~17:30※金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)観覧料:一般¥2,200、大学・専門学校生¥1,300、65歳以上 ¥1,500
2023年02月23日東京ステーションギャラリーで、『佐伯祐三 自画像としての風景』が開かれています。パリや東京の街並みなどを描いた作品をはじめ、人物画や静物画なども高く評価されている画家、佐伯祐三(1898-1928)。東京では18年ぶりとなる本格的な回顧展の見どころについて、学芸員さんのお話も交えてレポートします!天才画家の代表作が集結!『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景【女子的アートナビ】vol. 278『佐伯祐三 自画像としての風景』では、約100年前に30歳の若さで亡くなった天才画家、佐伯祐三の代表作が一堂に集結。世界最大の佐伯コレクションを誇る大阪中之島美術館の所蔵作を中心に、日本各地の美術館やコレクターが所蔵する多彩な作品約100点が集まっています。東京ステーションギャラリー館長の冨田章さんは、プレス内覧会で「洋画界のスーパースターといってもいい佐伯祐三の展覧会は、ぜひ開催したいと思っていた」とコメント。「当館の建物は、佐伯と同時代に建てられた。石造りの壁を好んで描いたパリ時代の絵は、赤レンガ壁の展示室に合うと思う」と語りました。なお、本展は2022年にオープンしたばかりの大阪中之島美術館が企画した展覧会の巡回展です。同美術館学芸員の高柳有紀子さんによると、美術館開館のきっかけは佐伯祐三の作品にあるとのことで、次のように語りました。高柳さん大阪の実業家で美術コレクターの山本發次郎さんが、佐伯の才能に一目ぼれして最大150点ほどのコレクションを築きました。そのうち2/3ほどは空襲で燃えてしまったのですが、残った作品を大阪市にすべて寄贈。それがきっかけとなり、美術館をつくる構想ができました。佐伯祐三の展覧会を開くことは、私たちの大切なミッションでした。30歳で亡くなった伝説の画家…『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景佐伯祐三とは、どんな画家なのでしょう?まずは、彼の人生をご紹介します。佐伯は大阪の由緒あるお寺、光徳寺の次男として誕生。従兄の影響で絵を描きはじめ、東京美術学校(現・東京藝術大学)を卒業後、すでに結婚していた妻と生まれて間もない娘を連れてパリに渡ります。実家の支援で不自由なくパリで活動していた佐伯ですが、体があまり健康でなかったため、心配した親族から帰国を促されて留学を中断。日本に戻り、東京・新宿のアトリエで制作活動を続けます。その後、1927年に妻子を連れて再び渡仏。しかし、結核が悪化した佐伯は神経衰弱も進み、パリ郊外の精神病院に入院、1928年に30歳の若さで亡くなりました。その約2週間後、さらに一人娘も病没。娘さんは6歳でした。フランスの画家に罵声を浴びせられて…『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景佐伯は、悲劇的な生涯を送った画家のため、展覧会では画家のドラマチックな人生を作品とともに紹介するパターンが多いのですが、本展では作品そのものに注目して展示構成されています。まず、展覧会の前半では、日本で描かれた作品を中心に展示。アトリエのあった新宿・下落合の風景画や大阪で描いた船の絵、また自画像や家族の肖像画などを見ることができます。高柳さんの話によると、佐伯は画学生時代を中心にたくさんの自画像を制作。その後は、自画像のかわりに風景を描き、その中に自分を没入させていたそうです。『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景展示の後半では、パリ時代の作品をまとめて展示。渡仏した1924年、佐伯は当時フランスで活躍していた画家、ヴラマンクに自分の自信作を見せに行きますが、「このアカデミック!」と罵声を浴びます。これが転機となり、彼の作品は大きく変化。やがて、自分の画風を確立していきます。しびれるアートがいっぱい!『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景パリ時代の約4年間、佐伯は重厚なパリの街並みや、ポスターが貼られた建物の壁、カフェ、プラタナスの並木道などを描き、多くの傑作を生みだしていきます。冨田館長の話によると、佐伯はとても早く描く画家で、現場で見たままの景色をすごい勢いで画面に写し取っていたそうです。あまりに描くのが早いため、線が躍動し、特にパリ時代後半の作品は、生き生きした生命力のある線になっている、とのこと。実際、佐伯の作品は、実物を見ると本当に迫力がありますし、特にパリの街並みを描いた作品群は現地の空気も伝わってくるようで、しびれるほどかっこいいです。また、展示室の赤レンガ壁と作品の相性も抜群。最高に贅沢な空間で絵画鑑賞を楽しめます。本展は4月2日まで。大阪中之島美術館では4月15日から開催予定です。Information会期:~4月2日(日)、月曜休館(3/27は開館)会場:東京ステーションギャラリー開館時間:10:00〜18:00(入館は30分前まで)※金曜日は20時まで開館観覧料:一般¥1,400、大学・高校生¥1,200、中学生以下無料
2023年02月12日東京・日本橋の三井記念美術館で、『国宝 雪松図と吉祥づくし』が開かれています。本展では、きらびやかで華やかな国宝《雪松図屏風》をはじめ、七福神や子孫繁栄などおめでたいテーマの作品を展示。新年にぴったりの「縁起物づくし」の展覧会をご紹介します!ハッピー気分になれる!【女子的アートナビ】vol. 276『国宝 雪松図と吉祥づくし』では、三井記念美術館のコレクションを代表するお宝作品、国宝《雪松図屏風》を中心に、長寿や子孫繫栄など「吉祥」をテーマにした作品や、福の神にまつわる三井家ゆかりの品々など、新年を迎える時期にぴったりの美術工芸品を展示。作品を見るだけでハッピーな気分になれる、ありがたい展覧会です。プレス内覧会では、三井記念美術館の学芸員、藤原幹大さんが作品について解説。各作品の見どころや、テーマなども教えていただきました。藤原さんの解説をもとに、「吉祥モチーフ」の由来もご紹介していきます。吉祥クイズ1:なぜ「牡丹」はおめでたい?《青磁浮牡丹文不遊環耳付花入》南宋〜元時代・13〜14世紀 三井記念美術館本展の第1章では「富貴の華」と題して、牡丹が描かれた作品が展示されています。ここで、吉祥クイズ!なぜ牡丹は、おめでたいモチーフなのでしょう?牡丹の花は、唐の皇帝・玄宗と楊貴妃が愛した花で、中国の貴族たちにも好まれていました。その伝統が日本にも持ち込まれ、牡丹は縁起の良いおめでたい花として美術品にも多く描かれています。この展示室でひときわ目を引くのが、美しい青磁の花入れ。牡丹の図柄が大きくあしらわれています。本作品は、三井家の前には福井のお殿さまが持っていたもので、藤原さんは次のように解説しています。藤原さんこの花入れは、福井藩の重要な宝物として大切に保管されていた由緒ある品です。大坂城に伝わっていたもの、という言い伝えがあり、福井藩のご先祖が大坂の陣での働きにより得られたもので、栄光を象徴する品でもあります。牡丹という花は、栄光や権力の象徴として重要視されていたという歴史も垣間見えます。吉祥クイズ2:なぜ「猫」はおめでたい?『国宝 雪松図と吉祥づくし』展示風景第2章「長寿と多子」では、長寿や子宝、立身出世などの願いがこめられた作品を展示。長生きの象徴である鶴や亀などの縁起物が描かれた掛け軸などを見ることができます。ユニークなのが、猫の絵が描かれた掛け軸です。なぜ、猫がおめでたいのでしょう?藤原さんによると、中国語で長寿を意味する言葉と猫の発音が近いので、「猫は長寿を願う生き物」として捉えられていたそうです。吉祥クイズ3:なぜ「松」はおめでたい?国宝《雪松図屏風》 円山応挙筆18世紀 三井記念美術館同じく第2章に、本展のハイライト、円山応挙作の国宝《雪松図屏風》があります。この「松」もおめでたモチーフのひとつ。なぜ、縁起が良いのか、ご存じですか?松は、四季を通じて緑の葉が茂っていることから、永久で不変、つまり長生きの象徴として捉えられています。きらびやかな金が使われ、目にも鮮やかな本作品には、松が大きく描かれ、まさに「おめでたい」の極地。藤原さんは、この絵の作者である円山応挙が「空間そのものを縁起の良いものに変える、ということも意識して制作したのかもしれない」と話していました。吉祥クイズ4:なぜ「ライチ」はおめでたい?『国宝 雪松図と吉祥づくし』展示風景先ほどご紹介した「猫」のほかに、もうひとつ、中国由来のユニークな吉祥モチーフをピックアップ。それが、「ライチ」です。本展でも、ライチが描かれた掛け軸が展示されています。甘くてジューシーな白い果肉のライチ、なぜおめでたいのでしょう?ライチは、虫害を受けず、樹齢100年以上の老木も実を結ぶという言い伝えから、長寿のイメージがあるとのこと。また、ライチを意味する中国語「茘枝」が「立子」の発音と似ているため、子孫繁栄の意味も重なるそうです。吉祥クイズ5:なぜ「キジ」はおめでたい?『国宝 雪松図と吉祥づくし』展示風景第3章「瑞鳥(ずいちょう)のすがた」では、おめでたいイメージのある鳥をモチーフにした作品が登場。鶴や鳳凰などが表された美術工芸品が展示されています。では、最後の吉祥クイズです。瑞鳥のなかには、キジ(雉)も含まれています。なぜキジがおめでたいのか、わかりますか?キジは、古くは古事記や日本書紀、万葉集にも出てくる鳥で、別名は「妻恋鳥」。夫婦円満のイメージがあるため、縁起物となりました。ほかにも、キジには「焼け野の雉(きぎす)」という言葉もあります。親のキジは野を焼かれたとき、火の中にいるひな鳥を救い出そうとして、自分が焼かれても子どもを守るということから、「子思いの鳥」というイメージもあるそうです。ちなみに、キジは日本国産の鳥で、日本の「国鳥」にも指定されています。古くから日本とご縁の深い鳥なのですね。年内は25日まで、新年は1月4日からおめでたいモチーフづくしの展覧会、いかがでしたか。本展は、新年は1月4日からスタートです。ぜひ、ハッピーな気分になれる「縁起物づくし」の美術品をご覧になってみてくださいね!Information会期:2023/1/28(土)休館日:月曜日(ただし1/9は開館)、年末年始12/26(月)〜1/3(火)、1/10(火)会場:三井記念美術館開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)観覧料:一般¥1,000、大学・高校生¥500
2022年12月31日