理化学研究所(理研)は10月30日、光スイッチ機能が注目されているジアリールエテン分子を銅表面上に均一膜として形成することに成功し、膜の形成メカニズムを解明したと発表した。同成果は、同所 Kim表面界面科学研究室の清水智子元研究員(現 物質・材料研究機構 主任研究員)、鄭載勲国際特別研究員、今田裕特別研究員、金有洙准主任研究員らによるもの。詳細は、ドイツの科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に掲載された。有機物質を用いたデバイスには、すでに実用化されている有機ELの他、有機FET(電界効果トランジスタ)や有機太陽電池などがある。また、有機物質を用いたメモリは研究段階にあるが、無機物質では超えられないとされている1平方インチ当たり1Tビット(1Tbit/1in2)以上の高密度メモリが作れる可能性を秘めている。有機メモリを実現するためには、スイッチング機能を持った有機分子を、銅表面などの固体基板に均一かつ密に並べる必要がある。しかし、有機分子の構造は複雑なため、分子同士の相互作用だけで自己組織化現象により分子を整列させ、基盤の表面上に均一膜を形成することは困難な場合がほとんどである。研究グループは、光スイッチ機能を持つ有機分子のジアリールエテン分子を、銅表面に均一かつ密に整列しようと試みた。しかし、ジアリールエテン分子だけでは分子同士の相互作用がうまく働かず、銅表面に整列させることはできなかった。そこで、ジアリールエテン分子が電子を引っ張りやすい性質を持つフッ素を含むことに着目し、塩化ナトリウムを蒸着させた銅基板にジアリールエテン分子を蒸着し加熱した。これにより、ナトリウム陽イオンが糊の役割を果たすことで、銅表面に列構造を持つジアリールエテン分子の単分子膜が形成できたという。さらに、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用い原子レベルで観測した膜の構造と電子状態の詳細なデータについて、分子や結晶の性質をシミュレーションによって明らかにできる第一原理計算で解析して、分子吸着構造や性質を明らかにし、膜の形成メカニズムを解明したとしている。今後、有機メモリの実用化に向け、さまざまな分子や固体基板で試行錯誤が行われると予想されるが、今回の膜形成の鍵となった、イオンと分子双極子の相互作用を利用できるよう分子を合成したり、塩化ナトリウムを蒸着させたりするという簡便な方法は、表面構造の製作技術の応用範囲を拡げるものになると期待できるとコメントしている。
2014年10月31日理化学研究所(理研)と農業生物資源研究所(生物研)は、日本で栽培されているイネ175品種の二次代謝産物に注目したメタボローム(代謝物の総体)のゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、89種類の二次代謝産物の含有量の品種間差に関係する143箇所の遺伝子多型を検出することに成功したと発表した。同成果は理研環境資源科学研究センター統合メタボロミクス研究グループの斉藤和季 グループディレクター、松田史生 客員研究員(現 大阪大学大学院情報科学研究科 准教授)と、生物研農業生物先端ゲノム研究センターの矢野昌裕 センター長(現 農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所 所長)らによるもの。9月29日付け(現地時間)の「The Plant Journal」オンライン版に掲載された。イネには多くの品種が存在し、それぞれを比較すると、風味や耐病性の違いに関係する二次代謝産物の含有量に違いが見られ、その違いはゲノム中の遺伝子多型に由来すると考えられている。しかし、二次代謝産物の組成が品種間でどのくらい異なるのか、またその原因となる遺伝子多型との関連性などについてはわかっていなかった。同研究グループは、日本で栽培されているイネ175品種の葉からメタボロームデータを測定して、342種類の代謝物(一次代謝産物と二次代謝産物)を検出、そのうち91種類の構造を解明。イネの葉には、健康機能成分であるフラボノイドなどの二次代謝産物が多種類含まれており、その含有量は品種間で大きく異なることを突き止めた。さらに、このメタボロームデータと、生物研が整備した遺伝子多型のデータを組み合わせたゲノムワイド関連解析を行い、89種類の二次代謝産物の含有量の品種間差に関係する143箇所の遺伝子多型の検出に成功したという。今後この遺伝子多型情報とイネゲノム情報を併せて活用することで、遺伝子組換え技術を利用せずに、短期間で有用代謝成分を強化した品種改良技術や、健康機能性の高いイネの開発につながることが期待される。
2014年10月29日産業技術総合研究所(産総研)は10月27日、反強磁性体と呼ばれる外部に磁力を出さない磁性材料を用いて、圧力により磁性を制御して室温で吸熱・放熱を制御する技術を開発し、さらに、反強磁性に固有の性質が熱変化を増大することを発見したと発表した。同成果は、同所 グリーン磁性材料研究センター 材料解析・開発チームの藤田麻哉研究チーム長によるもの。東北大学 工学研究科の松波大地大学院生、狩野みか博士研究員、名古屋大学 工学研究科の竹中康司教授らと共同で行われた。詳細は、英国科学誌「Nature Materials」オンライン版に掲載された。磁気による熱変化(磁気熱量効果)を用いたノンフロン・省エネルギーの磁気冷凍技術が期待されていたが、磁気の乱れ(エントロピー)の変化による吸熱・放熱を利用するので、これまではNS極をもつ強磁性体という材料に磁場をかける方式に限られていた。今回、磁場の替わりに圧力を使って、磁極のない反磁性体から熱変化が得られた。具体的には、反強磁性状態のMn3GaN(窒化マンガン・ガリウム)に小型油圧機器で発生可能な100MPa程度の圧力をかけたところ、常磁性体に変化し大きな吸熱、すなわち冷熱の発生が確認された。また、Mn3GaNでは、反強磁性体の特徴である磁気構造と原子構造の不整合(フラストレーション)が生じるが、これが相転移に伴う吸熱・放熱の発生量を増幅していることを発見したという。今後は、圧力熱量効果を効果的に利用できるデバイスのデザインを構築していく。特に、環境にやさしい磁気冷凍へ応用する際、精密電子機器に隣接した用途など磁場以外の利用が好ましい場合に対応できるように、強磁性磁気冷凍と相補的な利用を検討していく予定とコメントしている。
2014年10月28日(この画像はプレスリリースより)生活習慣病に対するケール青汁の効果を発表キューサイ株式会社は、2014年10月18日(土)に実施された「第37回日本高血圧学会総会」で、血圧、血糖値、脂質代謝などの生活習慣病に、ケール青汁(粉末タイプ)が有効であると発表した。ケール青汁の効果は、臨床試験で確認されたもので、キューサイは、九州大学大学院医学研究院循環器内科学の井手友美講師と、ヒュービットジェノミクス株式会社とともに、今回の発表をおこなった。ほとんどの項目において効果を発揮ケール青汁の効果について調査した研究は、健診結果が定められた項目の規定に一つでも当てはまる、30歳から74歳までの男女を対象に実施された。試験期間は、摂取前4週間と摂取期間8週間の全12週間。この期間中、血圧(検査時血圧、家庭血圧)、血中脂質(中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール)、空腹時血糖値、HbA1c(糖化ヘモグロビン)、胸囲、BMIの変化について調べられた。その結果、検査時血圧、家庭血圧ともに、ケール青汁摂取により有意に降下。さらに、その他の項目においては、中性脂肪とBMIは改善が見られなかったものの、空腹時血糖値、LDLコレステロール、胸囲に関しては、改善が見られる結果となった。井手友美講師による研究の考察今回の研修結果をもとに、九州大学大学院医学研究院循環器内科学の井手友美講師は、以下のように考察している。「キューサイのケール青汁(粉末タイプ)は試験対象者に対し、血圧、血糖値、脂質代謝のいずれにおいても有効であることを確認した。このため、生活習慣病に関して有効な食事療法の一手段として考えられる。」(プレスリリースより)【参考】キューサイ株式会社によるプレスリリース(PR TIMES)
2014年10月27日奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は、水素分子の分解反応や水素分子をつくりだす合成反応を可逆的に触媒する酵素であるニッケル-鉄ヒドロゲナーゼについて、この酵素に含まれる鉄硫黄クラスタといわれる部分がスイッチ役になって、この酵素の触媒反応を制御するメカニズムを明らかにしたと発表した。同成果は、同大 物質創成科学研究科 超分子集合体科学研究室の廣田俊教授、太虎林特任助教、兵庫県立大学 生命理学研究科の樋口芳樹教授、科学技術振興機構 CRESTらによるもの。詳細は、「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。ヒドロゲナーゼは、微生物が有する酵素で水素分子の分解・合成を行う。また、ヒドロゲナーゼは、その活性部位の金属錯体の構成金属の違いから3種類に分類され、それぞれニッケル-鉄ヒドロゲナーゼ、鉄-鉄ヒドロゲナーゼ、鉄ヒドロゲナーゼと呼ばれる。このうち、ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼは、最もよく研究されてきた酵素で、大小2つのタンパク質(サブユニット)からなり、ニッケル-鉄活性部位は大きなサブユニット中にある。触媒反応が起こる時、水素分子の分解・合成により、このニッケル-鉄活性部位の配位構造は3つの状態をとる。さらに、触媒反応に関わる電子は小さなサブユニットにある3つの鉄硫黄クラスタを通って外部のタンパク質分子とやりとりされる。この酵素に光を照射すると、ニッケル-鉄活性部位は3つの状態とは異なる新たな状態になることがわかっていたが、その状態が触媒反応において意味を持つのかは不明だった。研究グループは、フーリエ変換赤外吸収分光法という分子構造を調べる方法を用い、光照射で生じる状態が触媒反応の中間体であることを突き止めた。そして、3つの鉄硫黄クラスタのうちニッケル-鉄活性部位に最も近いクラスタの電子状態を調べた結果、そのクラスタが還元されている時は触媒反応が進まず、酸化されている時だけ進むことを見出した。つまり、活性部位に最も近い鉄硫黄クラスタがスイッチ役になってヒドロゲナーゼの反応を制御していることを明らかにした。この酵素による水素分子の分解・合成反応は、現在燃料電池などに利用されている白金などの希少金属触媒と比べて高効率で行われており、今回の成果は、新規の燃料電池や水素合成触媒の開発につながることが期待されているとコメントしている。
2014年10月21日分子科学研究所(IMS)は10月14日、大型放射光施設SPring-8で硬X線を用いる雰囲気制御型光電子分光装置を開発し、固体高分子形燃料電池における燃料電池動作中の触媒電極の硬X線光電子分光その場観測に成功したと発表した。同成果は、IMSの高木康多助教、横山利彦教授らによるもの。電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センターの岩澤康裕教授の研究グループ、名古屋大学 物質科学国際研究センターの唯美津木教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の宇留賀朋哉研究員らの研究グループと共同で行われた。詳細は、米国物理学協会の応用物理学誌「Applied Physics Letters」のオンライン版に掲載された。燃料電池は、次世代のエネルギー源として自動車などへの実用化が進められているが、発電性能の向上や、カソード(正極)における高価な白金触媒の使用量の低減など、解決すべき課題が山積している。その解決の手がかりとして、燃料電池動作中の電極内にある白金の電子状態を知ることは重要なことだが、その測定は難しく限られた手法でしか測定できなかった。その中で、X線を試料に当てて出てきた光電子のエネルギーを測定する光電子分光法は強力な手法だが、従来の光電子分光測定では試料を高真空に保つ必要があり、反応ガスが存在する動作中の燃料電池電極の測定は困難だった。そこで、研究グループは3000Paの雰囲気ガス圧下でも光電子分光測定が可能な「雰囲気制御型硬X線光電子分光装置」を開発し、SPring-8の電通大/NEDO「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」(BL36XU)内に設置した。さらに、同装置用に燃料電池として動作する固体高分子形燃料電池型の測定セルを開発し、燃料電池として動作中の電極触媒の硬X線光電子分光測定に成功した。この測定により、燃料電池の電極間に印加された電圧に対応して、電極中の白金ナノ粒子の電子状態が変化する様子を観測することができたという。研究グループは、今回の結果が燃料電池動作中の電極の電子状態を測定することが可能になったことを示している。また今後、同装置により、様々な燃料電池電極の動作中の状態が観測され、その結果が電池電極や触媒材料の開発に役立つことが期待されるとコメントしている。
2014年10月17日恋愛科学研究所所長で医療アナリストの荒牧佳代先生による映画コラム。生物学的観点や、女性ならではのクリエイティブな感性から、作品に込められたメッセージを解説していただきます。映画『グレース・オブ・モナコ公妃の切り札』は、「結婚する」とはこういうことを意味するのだ、といった点をしっかりと代弁してくださっている作品だと感じました。よく結婚して仕事をやめたら社会から孤立してしまうのではないか?と心配する女性の方がいらっしゃいますが、それは誤解です。「結婚する」とは、社会的契約を交わしたということです。子どもでもできれば、さらに地域や福祉、教育現場に身を置くことになり、ますます社会への関わりが深くなっていきます。両家のご両親や親族とのお付き合いも、代々受け継がれる人間社会に身を置くことを意味します。仕事をしている人だけが社会に密着するわけでもありません。グレースのように国の王妃ともなれば、人間社会も国と国とのつながりが絡まってきますので、社会性はもっと高まります。王妃などという国としての立場は通常では考えにくい立場ですが、一般の結婚での共働きなどの場合は、互いの立場があやふやで、かじ取りもどちらがとるか?などがはっきりしてないことも多く、互いにまだ独身気分で自己主張をして結婚したという実感が湧きづらくなったりします。そして、魅力レベルが似通っている者同士は主導権の奪い合いでケンカが絶えなくなります。グレースもストーリーの前半、愛する夫の生まれ育った国で、感じたことを発言したり良かれと思って行動を起こしたりしました。そのため、夫や周りの国民と考え方・意見が合わずぶつかるシーンがあります。グレースにとってそれらの発言や行動は、己の心に忠実であり、とても自然なこと。自分の言動が夫の政治活動に悪影響を及ぼすなんて、結婚当初はわからなかったのでしょう。結婚後のグレースは、日々の生活や夫への淡い期待が崩れ、女優への未練も残っています。結婚したこと自体に疑問を持ち、心揺れるシーンが何度も登場しました。そんな「ひとりの女としての幸せを考える自分」と、王妃としての立場から見た「自分だけではない、国王である夫や国民の幸せを考える自分」との間で葛藤する様は、独身から結婚へ意識がシフトできずにいる、多くの女性の共感を呼ぶのではないでしょうか。結婚して悩むくらいなら、結婚しないほうがましと思っている女性も多く見受けられます。ですが、結婚から意識を遠ざければ遠ざけるほど苦悩や問題は大きくなっていきます。心揺れているグレースは、最終的に夫や国を支える「覚悟」をします。その「覚悟」が歴史的に残るスピーチとして姿を現しました。現代は、家庭内での力配分も均等にすることを意識する夫婦が多いので、どちらかが相手を支えるという考え方は弱まり、互いに協力するという概念のほうが強まっています。でも、男女という性の視点から見つめた場合は、やはり女性が男性を支えるというスタンスが一番しっくりくるんですね。それは、どちらかがどちらかを支配するというのではなく、未来永劫不変(普遍)的な性別に沿った「役割分担」がはっきりとあるということなんです。女性は攻めや支配より「受け入れる」というのが性の特徴です。男性を受け入れるからには、男性の世界観をまるごと受け入れる「覚悟」が必要です。覚悟といってもそんなに難しいことではありません。もともと本能的に持っている心の器(包容力)をほんの少し大きくするだけでいいのです。女性の心の器は、経験で学べば大きく広げることができます。広げる力は恋ではなく“愛”の力です。そう簡単に壊れることはないでしょう。男性には本能的な包容力はもともとなく、意識的に自分のスキルとして女性を受け入れる心の器をつくらなければ、受け入れることはできません。また、繊細で脆いので場合によっては壊れてしまいます。ですから、男性は潜在的にも女性から受け入れられることを求め、女性の心の器にはまることを望んでいます。その男性の思いを受け入れることこそが、この上ない女性のフェロモンであり、癒しであり、母性です。母性は女性の心の器の源です。包容力は対人スキルとして重要なコミュニケーション能力のひとつです。包容力があるからこそ女性は恋愛にタフになれるのです。覚悟をした女性は強いです。愛する人のためなら何でもするし、できるのでしょう。グレースのように。あなたも「覚悟」を決めてみませんか?男性を受け入れる覚悟を決めれば、独身時代には見えなかった“愛”の世界が見えてくるかもしれません。【STORY】女優を引退しモナコ大公レーニエ3世(ティム・ロス)と結婚した公妃グレース(ニコール・キッドマン)は、アルフレッド・ヒッチコック監督からの新作オファーに心が揺れていた。そんな折、夫の推し進めていた政策が当時のフランス大統領シャルル・ド・ゴールを激怒させ、武力衝突に発展する可能性もある危機に直面。彼女はスクリーン復帰か、家族そして国家のために全てをささげるかの選択に直面し……。10月18日(土)TOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー監督:オリヴィエ・ダアン出演:ニコール・キッドマン/ティム・ロス/フランク・ランジェラ/パス・ベガ原題:Grace of Monaco /2014年/フランス/カラー/103分/配給:ギャガ『グレース・オブ・モナコ公妃の切り札』(C)2014 STONE ANGELS SAS★オリジナルグッズプレゼント★『グレース・オブ・モナコ公妃の切り札』オリジナル一筆箋を3名様にプレゼントします!応募・詳細はこちらから♪※プレゼント応募にはcocoloni PROLOの会員登録が必要です。ご応募期限:11/4(火)荒牧佳代(あらまき かよ)恋愛科学研究所所長、恋愛科学カウンセラー。脳内ホルモンと個人の性格や行動を関連させたロジックでさまざまなテーマを分析する恋愛科学(行動科学)のプロフェッショナル。2013年、avex(エイベックス)×DocomoのBeeTV「声感☆ラブメッセージ」全12話監修。2014年、Yahoo女子向けニュースアプリ「ポストピ」にて業界通のタレントとして恋愛記事をチョイス!コメント付きでピックアップ中。「Yahoo、ツヴァイ、ブックビヨンド(学研)」3社の新メディアブランドプロジェクト【恋活サプリ】にて毎週金曜日コラム更新、当プロジェクトより電子書籍「モテに興味ある男、モテに興味ないフリする女」も出版。他、テレビ・ラジオ・ネットTVゲスト出演、Webサイトのコラム執筆、雑誌特集企画監修、恋愛&婚活セミナー講師、映画トークショーなど多方面で活躍中。ウェブサイト:恋愛科学研究所~LoveScience~Facebook:荒牧佳代Twitter:荒牧佳代@yumacute読めば恋愛の達人になれるかも?荒牧先生の「今日の恋愛科学プチコラム」
2014年10月16日アークレイは10月14日、京都大学と共同で、微小流路を用いた超小型細胞培養装置を設計・作製し、さらにこの装置の中でヒトiPS細胞を1細胞から増殖させることに成功し、増殖後も本来の性質を維持していることを確認したと発表した。同成果は、アークレイ、京都大学大学院 工学研究科の小寺秀俊教授、巽和也准教授、同大 再生医科学研究所の多田高准教授、同大 物質-細胞統合システム拠点のLiu Li助教らによるもの。詳細は、国際学術雑誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載された。同装置は、無色透明のシリコン樹脂素材で作製した直径0.5mmの流路と、小型ポンプを組み合わせたもので、顕微鏡のステージ上に設置可能なサイズのため、培養中の細胞を随時観察したいというニーズに応えている。また、同装置による培養手法は、培養皿を用いた従来の手法に比べて、細胞周囲の環境を精密に制御できる他、操作が簡便で自動化に向いている、密閉状態を維持できるため細菌などの混入リスクが低いなどの利点を有する。これらにより、細胞の品質管理が容易で、今後医療応用分野における標準的な手法になると期待されるとしている。さらに、医療応用のための製品化や品質管理が容易であり、装置の大規模化による大量培養装置や培養機能を検査装置に組み込んだ細胞診断機器の開発などに応用することで、再生医療の普及に貢献できるものと考えられるという。今後、先端医療を一般の臨床現場に普及させ、より多くの患者に提供するための再生医療支援機器の開発に役立てていくとコメントしている。
2014年10月15日コンピュータの頭脳は人間に勝てるのか。「記憶と脳科学」のテーマで今回紹介するのは、コンピュータ将棋だ。2013年に行われた第2回 電王戦でコンピュータは3勝1敗1分けで初めて現役プロに勝利した。将棋は盤面も広く、持ち駒を再利用するなど複雑なゲームだ。長らく人間に匹敵するような知識をコンピュータに持たせることは難しかったという。それなのになぜ、プロ棋士に勝つほど強くなったのか。佐藤佳州さん(パナソニック研究員)が第17回自然科学研究機構シンポジウム「記憶の脳科学~私たちはどのようにして覚え忘れていくのか」(9月23日開催)で行った講演では、コンピュータ将棋の歴史から、どのようにコンピュータ将棋が強くなったか、その理由や未来について、非常に興味深いお話しがあった。○2000年代中盤から急速に発達した理由コンピュータ将棋の歴史は1970年代に遡る。急速に発達したのは2000年代中頃からだ。理由は「現在のプログラムの強さを支える重要な技術が、急速に発達したから」と佐藤さんは説明する。具体的には評価関数の機械学習や全幅探索などがそれに当たる(図参照)。これらの技術を駆使し、コンピュータ将棋はアマチュアレベルから一気にプロレベルに達する強さに到達したという。コンピュータの計算性能が向上したから人間に勝てるようになった、と思うかもしれないが、それだけではない。1997年にコンピュータがチェスの人間のチャンピオンを上回ったが、チェスの複雑さが10の120乗であるのに対して将棋は10の220乗とかなり複雑。コンピュータの速度向上だけで人間に勝つことは無理であり、「ソフト面の進歩が非常に大きい」と佐藤さんは強調する。○読みと大局観に相当するのが「探索」と「評価関数」ではコンピュータは具体的にどのように将棋の指し手を決めているのだろうか。通常、人間が将棋をする場合、「読み」と「大局観(形勢判断)」で指し手を決めていく。コンピュータの場合、「読み」にあたるのが「探索」、「大局観」にあたるのが「評価関数」だ。コンピュータ将棋では、基本的に人間が考えないような手も含めてすべての手を探索する。一段ずつ探索を深めていくが、時間制限もあり終局までは探索できないので一定の深さで探索を打ち切る。打ち切ったときの局面の優劣を、評価関数で点数化する。評価関数とは、局面の優劣をコンピュータが判断できるよう数値化するための関数であり、コンピュータはもっとも評価の高い(つまり数値の高い)手順を選択して指す、という仕組みになっている。コンピュータ将棋の特徴であり問題点は、すべての手を探索するため「読み抜けが少ない反面、無駄が多い点」だという。「そのため1秒間に数百万局面も読むにもかかわらず、人間に読み負けることがある」(佐藤さん)。また、評価関数ではすべての局面を数値化するが、その数値化の作成は人間が行っていた。人間は通常、局面を点数化して考えたりしないのに関わらず、正確な評価関数を作るのは非常に困難だったという。○プロ棋士を破る原動力となった「機械学習」強いコンピュータ将棋を作る上での課題は、「無駄な手は探索せず、よさそうな手を深く探索すること」、また「局面の優劣を正確に数値化する評価関数を作ること」の2つに集約される。後者について、評価関数の数値化作業に大きく貢献したのが、2006年に登場した「BONANZA(ボナンザ)」というプログラムだ。従来人間が行っていた数値化作業を、「機械学習」によって自動的にパラメーターを調整させることに成功したのだ。この成功が将棋プログラムの飛躍的な性能向上につながったという。そして近年では、プロの棋譜を利用した機械学習が大きな成功をおさめている。といっても、棋譜をそのまま覚えるわけではない。単に記憶しただけでは、完全に一致する局面でしかその知識を活用できない。目指すのは「指し手の意味を獲得する」ことだ。具体的にはプロの指し手からどのような局面が良い局面であり、どのような指し手を深く探索するべきなのかという、知識を学習する。たとえば現在行われているのは、指し手の比較による学習だ。ある局面でプロが選択した指し手(正解手)と指さなかった手(不正解手)がある。正解手のほうが不正解手より点数が高くなるように評価関数を調整する。さらに、プロが指し手を選択する場合は、数手先まで「読み」が入っているのに対し、コンピュータは一手先までしか見えていない。この課題に対応するため学習課程に探索(読み)を導入し、数手先まで進めてから正解手と比較する。このようにして、プロが実際に思考した評価とコンピュータが実際に思考した評価を対応づけていく。○未来 - コンピュータから将棋を教わる?佐藤さんによると、「コンピュータ将棋が近いうちに人間のトッププレイヤーに勝つのはほぼ確実」。ただ、人間に勝つこと=人間の思考を上回る知識を獲得しているわけではないそうだ。現在のコンピュータ将棋はミスの少なさ、読みの深さで人間を上回るが「そもそも現在の機械学習は人間の差し手の真似であり、人間の大局観に達しているとは言い難い。さらなる改良の余地が大きい」という。改良点は色々あるが、たとえばどのような棋譜を学習すれば強いプログラムができるか、さらにどういった戦術を重視して学習すれば強いプログラムができるかという点がある。戦術については穴熊、銀冠、矢倉などしっかりとした囲いを作る戦術が上位にあがっているそうだ。実際に重要度を使って学習させたプログラムと、使わずに単純に学習したプログラムで対局を行い戦術の違いを比較すると、重要度を使って学習した方が、コンピュータにとって勝ちやすい戦術を選択し、結果的にかなり強いことがわかった。このように、コンピュータ将棋が人間に勝利するという目標が達成されようとしている今、コンピュータ将棋は大きな変換点を迎えているそうだ。佐藤さんは「さらに強さを追い求める方向性と、人間との関わりを重視する方向性」という2つの方向性があると説明する。強さを求める方向性では、人間の棋譜によらず強いプログラムを学習できないか。そして人間との関わりを求める方向性では、人間に将棋を教えたり、詰め将棋などの問題を作ったりすることも考えられるという。コンピュータ将棋は人間の真似をして強くなってきたというが、コンピュータに将棋を教えてもらって強くなるという時代がすぐそこまで来ているようだ。なお、第17回自然科学研究機構シンポジウム「記憶の脳科学~私たちはどのようにして覚え忘れていくのか」に参加した高校生記者によるシンポジウム取材記事が掲載されている。そちらもぜひご覧いただきたい。
2014年10月15日アークレイは10月14日、京都大学との共同研究で、ヒトiPS細胞を1個から培養可能な、超小型培養装置の開発に成功したと発表した。同研究成果は同社と同大学大学院工学研究科の小寺秀俊 教授、巽和也 准教授、同大学再生医科学研究所の多田高 准教授、同大学物質-細胞統合システム拠点のLiu Li 助教らによるもので、国際学術雑誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載された。再生医療をはじめ細胞培養を伴う医療応用分野において、細胞の品質(安全性・機能性)管理は非常に重要だが、一般的な培養皿を使用する手法では、培養皿の中の液体(培地)の対流により、細胞周囲の環境を精密に制御することが困難となる。また、老廃物の蓄積などにより、細胞周辺環境が影響を受けてしまうことや、作業時に外気へ接触することによって細菌やウイルスが混入する危険性がある。そのため同研究グループでは、簡単かつ安全にヒトiPS細胞を培養する方法を検討していた。今回の研究では、シリコン樹脂素材により作製した直径0.5mmの流路と、小型ポンプを組み合わせて超小型培養装置を設計・作製した。同装置は、顕微鏡のステージ上に設置可能なサイズであり、培養中の細胞を随時観察することもできる。従来に比べてこの装置を用いた培養手法は、細胞周囲の環境を精密に制御できる、操作が簡便で自動化に向いている、密閉状態を維持できるため細菌などの混入リスクが低い、などの利点がある。細胞の品質管理が容易であることから、今後医療応用分野における標準的な手法になり得るという。さらに、同研究では、ヒトiPS細胞の1細胞からの培養を実現し、増殖したiPS細胞が本来の性質を維持していることが確認された。同培養手法を応用することで、装置の大規模化による大量培養装置や培養機能を検査装置に組み込んだ細胞診断機器の開発につながることが期待される。
2014年10月15日岡山大学は9月30日、代表的ながん治療薬であるパクリタキセルを用いた研究で、副作用を抑えながらがんを効率的に標的にする新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)を開発したと発表した。同研究成果は同大学大学院自然科学研究科ナノバイオシステム分子設計学研究室の妹尾昌治 教授、岡山理科大学理学部の濱田博喜 教授と塩水港精糖の共同研究グループによるもので、米科学誌「PLOS ONE」に掲載された。パクリタキセルは広範囲ながんに有効ながら、副作用が強く、水にも溶けにくいためヒマシ油とエタノールを含む液に溶解させ、ブドウ糖液に分散させたものを点滴により投薬する方法がとられている。岡山理科大の濱田教授らは20年以上にわたりパクリタキセルに水溶性を持たせ、利用しやすいがん治療薬とする研究を行ってきたという。今回その研究に岡山大の妹尾教授が加わり、水溶性の高くなったパクリタキセルを用い、溶媒に対する溶解度の差を利用することで効率よくリソポーム(人工の小胞)に封入する技術の開発に成功した。さらに、リポソームの表面にがん細胞を認識する抗体を結合させる処理を行うことで、正常細胞には影響が少なく、がん細胞にのみ高い細胞毒性を発揮させることができたとのこと。同研究グループは「水溶性を高めたパクリタキセル誘導体を効率よくリポソームに封入し、がん細胞を特異的に認識する抗体を結合させるこの技術は、がん治療薬の副作用を抑制しつつ、がん細胞への集積効果を高めることのできる新たなDDSだ」とコメント。また、リポソームは肝臓を介して腸管へ排出されるが、パクリタキセルは腸管から吸収されないため、過剰投与しても副作用を起こすことが考えにくい安全な製剤が可能になるという。
2014年10月01日規格認証団体「Wi-SUNアライアンス」は9月30日、京都大学大学院情報学研究科と米・パデュー大学が同団体に加わったと発表した。「Wi-SUN」とは、通信・制御機能をもつ計測機器を活用することで、電力網内での需給バランスの最適化調整などを実現する「スマートグリッド」をはじめとする、IoT向けの国際無線通信規格。近年「スマートグリッド」技術の採用件数は急速に増加しており、次世代電力計「スマートメーター」は世界で3億台以上配備されているという。同団体は「Wi-SUN」の普及および標準仕様策定、規格認証を行っており、両大学は今後、コントリビューターメンバーとしてこれらに携わっていくこととなる。京都大学大学院情報学研究科の佐藤亨 教授は「当大学院はIoTやMtoM通信における教育、研究、開発に重点を置いており、Wi-SUNプログラムを開始する最初の大学の1つになれることをうれしく思う。IoTに関する研究成果をアライアンスに提案し、標準規格作成に関するワーキンググループの議論に参加する経験は、グローバルな人材育成強化の観点から極めて有益なことである」とコメントしている。
2014年09月30日25の大学・研究機関で構成される「大学研究力強化ネットワーク」は9月3日、参加大学などの研究担当理事などが集う全体会議を開催し、これまで進めてきた研究力向上に向けたタスクフォースの概況などを話し合った。また、併せて、研究大学の課題、ネットワークの意義や役割についての記者向け説明会が行われた。同ネットワークは、日本の大学の研究力の向上によるイノベーションの加速や地域への貢献を実現するためには、一部のトップレベルの大学ではなく、科学技術の基盤を支える30程度の大学の研究群による全体の研究力の強化が不可欠という趣旨のもと、自然科学研究機構が世話役となって設立されたもので、参加研究機関が研究基盤を強固にすることを踏まえ、力を合わせて日本の研究力を高めていくことを責務とし、2014年3月5日に第1回の全体会議が開催されて以降、全体会議の下に運営委員会ならびに複数のテーマごとにタスクフォースを作り、運営を行ってきた。こうしたネットワークが形成された背景には、日本の大学に向けた研究開発資金の投資が諸外国に比べて低いということが挙げられる。特に対GDP比で見た場合の研究予算の伸びは海外に比べて低く、比率としては横ばい、ないしは若干の下降気味だが、その一方でアジア・太平洋地域、特に中国が急速に伸びており、アジア諸国が猛烈な勢いで研究・開発力を強化している。また、もう1つの指標として、論文数のシェアを見ると、直近では日本は以前の3位から5位に落としている一方、中国が2位に入ってきていることがあげられる。特に論文誌の格ともいえるインパクトファクターの値が高い論文誌への掲載数が相対的に低下しているという。こうした状況と、日本における研究資金の各大学や研究機関への配分比率はどうなっているかというと、トップクラスの大学などの比率が高く、トップである東京大学を100%とした場合、10位でその15%、20位になると6%とかなり低い額となる。では諸外国はどうか、というと、米国と英国を例にとると、10位では米国が36%、英国でも35%、20位になっても米国が26%、英国17%と、日本と傾斜配分に差が生じていることがわかる。ちなみに、米国はトップ研究機関が1400億円、英国が180億円、そして日本は220億円という金額であり、米国はともかく、予算規模が似通った英国であっても、英国の方がはるかに中堅層に手厚く配分が行われていることがある。この結果として、各大学の論文数シェアを見ると、トップ4の累計シェアの比率はほぼ英国と同じだが、それに次ぐ1%以上を占める大学の割合は日本が13、英国が27と、明らかに状況が異なっていることがわかる。こうした事実を踏まえ、日本全体として研究力を高めていくためには、ある程度の数の大学や研究機関が相応の支援を受ける必要性があるというのがネットワークとしての基本的な考え方となる。また、こうした提言などを行う組織的なものとして、RU11(学術研究懇談会)やURA(リサーチアドミニストレーター)ネットワークがあるが、同ネットワークでは、そうした既存のネットワークとの連携も今後、積極的に行い、大学・研究機関として、本当にどの程度の資金が何に必要なのか、といったことの情報共有などを図っていくとする。しかし、当然、大学や研究機関への資金の大半は税金であり、それを必要だから言い値で欲しい、というのは無理だということえ、行うべきところは共同して行うなど、相互の連携を強化していき、それでも必要となるところを行政に働きかけを行っていくための組織が同ネットワークということになる。同ネットワークでは、「決して国に予算をくれ、という話をするわけではなく、研究力を強化するために、何をするべきかということを問題として話し合う場。例えば、基盤的な光熱水料や消費税の増税、円高に伴う影響、そうした大学や研究機関で共通した問題などをシェアして、政策課題として掲げていくほか、若手の人材育成をどのように行っていくべきか、研究設備を効率よく整備するためにはどうするべきか、これについては、大型の研究設備を例え作ったとしても、その維持・運用にもランニングコストがかかるといった問題もある。そして個々の大学固有の問題などもあり、それらを具体的に話し合うのがこのネットワークという場の意義」とする。現在、同ネットワークにて動いているタスクフォースは以下の4つだという。国際連携国際情報発信キャリアパスコンプライアンス同ネットワークは、決して決定事項に強制力があるわけではなく、あくまで全体的なスキームなどを話し合う場であり、その内容を各研究機関ごとに持ち帰り、独自の運用に生かしていくというものとなっている。また、決して、現在のメンバーだけで運営を行っていく、というわけではなく、ネットワークが有用である、ということが見えてくれば、参加を表明する大学も増えてくると思っているとのことで、ネットワークとしては、そうした大学が増えることを期待したいとしている。なお、同ネットワークの会合に参加していた日本学術振興会の理事である渡邉淳平氏は、今回のネットワークについて「学術振興会は国側の組織だが、大学を中心とした研究の支援を行っている。日本は頭脳で勝負していく科学技術立国でなければいけない。そうした中で、研究力の中心となる大学という現場を見ていると、このままで大丈夫か、という心配があり、こうしたネットワークができ、それが研究力の強化に少しでもつながることになれば」と歓迎していることを表明。現時点での参加大学が22校にとどまったのは、文部科学省の予算の問題なとの兼ね合いがあったためだろうとし、「RU11はトップの大学たちが先駆けて活動してきた組織。しかし、それらトップの11大学だけで、日本の先進的な科学技術を支えきれるということは難しく、それを支えるための組織として、このネットワークが活動していってもらえれば」とした。また、「将来的には30大学、40大学とどこまで参加大学が増加するかは不明だが、日本の科学技術を支えるという自負を持った大学たちが、新たな取り組みを開始させたことは、科学技術立国を標榜する日本が人材の面を含め、今後のテクノロジー・サイエンスの分野にとってプラスに作用するはずだ。特に現在の日本は、研究費用、人、そして研究設備、すべての問題が山積となっている。しかし、そうしたインプット部分がいかに成果物である論文というものにつながるか、というのを目で見えるようにすることは難しく、そこを根本的に見直しことを世に問うのであれば、今、現状、こういう状況で、これがこのまま進めば、こうなっていく、ということをわかりやすく、広く世間に示す必要があり、それがひいては政策にもつながってくる。同ネットワークはそうした大学の実情というところに突っ込んだエビデンスを実態を示していってもらいたい。このままでは本当に大学が駄目になるという危惧を学術振興会で仕事をしながら思っており、こうした組織で、そういった具体的な活動をしてもらうことには大きな意義があると思っている」とし、今後の活動にエールを送っていた。
2014年09月26日(画像はイメージです。Tomomarusan)人工甘味料の歴史1950年代の砂糖不足の時代には、人々は甘みを得るため人工甘味料を使っていました。その頃使われていた、「チクロ」、「ズルチン」は発がん性が見つかり、使用できなくなりました。「サッカリン」は発がん性の有無について論争になりましたが、最終的には認可を受けました。その後毒性試験では問題のない、人工甘味料が作られて、世の中に広まりました。現在は甘みが不足している時代ではありませんが、カロリーを抑えるために砂糖の代用品としての需要が増えています。ワイツマン科学研究所の発表イスラエルのワイツマン科学研究所は人工甘味料は低カロリーであることが安全で使用価値があると思われているが、それを支持する科学的データは少なく議論の余地があることから、人工甘味料の研究を行いました。2014年9月17日にNatureに発表した文献で、ワイツマン科学研究所の研究者たちは、広く使われている人工甘味料は腸内細菌叢の組成と機能に影響を与えることで耐糖能異常を引き起こすことを示しました。人工甘味料による有害な代謝に与える影響は抗生物質によって抑えられることから、腸内細菌叢の変化によると推定しています。代謝病に結びつく可能性がある、腸内細菌叢の代謝経路を人工甘味料が影響を与えることと、天然甘味料が腸内毒素を発生させ耐糖能異常を引き起こすことを健常成人で確認しました。この研究結果より、天然甘味料の大量消費に関しては再検討が必要と警告しています。【参考】・Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota.(人工甘味料は腸内細菌叢に影響を与えて耐糖能異常を引き起こす)Nature (2014) doi:10.1038/nature13793 Published online 17 September 2014
2014年09月26日東北大学は9月24日、惑星大気観測専用望遠鏡T60観測施設をハワイ・ハレアカラ山頂に開所し、ハワイ大学天文学研究施設と科学協力合意書を締結したと発表した。同大学は1999年より福島県飯舘村において、国内唯一の惑星大気観測専用60cm望遠鏡を用いた観測・教育活動を実施してきた。しかし、2011年3月の原子力発電所事故により、空間放射線量が毎時6.5マイクロシーベルトに達し、長時間滞在を要する望遠鏡観測が困難となっていた。そのような背景から代替の観測地を検討し、観測条件が最適であったハワイに福島県にある望遠鏡を移設することとなり、2014年9月8日に、ハワイ・ハレアカラ山頂においてT60観測施設の開所式を行った。また、同日に科学協力合意書の署名式をハワイ大学・天文学研究施設・マウイ先端技術研究センターにて実施した。同施設はすでに観測を開始しており、ファーストライトデータを取得することができたとのこと。
2014年09月24日農業生物資源研究所(生物研)などの共同研究グループは9月12日、極度の乾燥条件に耐えうる能力を持つネムリユスリカのゲノム塩基配列を解読し、干からびても死なないネムリユスリカに極限的な乾燥耐性をもたらす遺伝子多重化領域と乾燥時特有の遺伝子発現調節機構を発見することに成功したと発表した。同成果は生物研、ロシア・カザン大学、沖縄科学技術大学院大学、基礎生物学研究所、金沢大学、ロシア・モスクワ大学、ロシア物理化学医学研究所、米国・ヴァンダービルト大学らの共同研究によるもので、英・科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。ナイジェリア北部に生息するネムリユスリカの幼虫は、半年以上続く乾季を生き延びるために、いったん乾燥状態になり、半永久的に代謝を停止させることが可能できる。しかも、水を吸収すると約1時間でこの状態から覚醒し、発育を再開する。さらに、乾燥状態にあるネムリユスリカの幼虫は、高温(90℃)、低温(-270℃)、放射線(10 kGy)、化学物質(アセトンやエタノール)などに曝しても完全な耐性を示す。宇宙空間に 2 年以上放置しても蘇生可能な状態を維持出来ていたという報告さえある。同研究チームはこの極限的な耐性の分子メカニズムを知るために、ネムリユスリカのゲノムを解析し、近縁種であるヤモンユスリカのゲノムと比較したという。その結果、ネムリユスリカのゲノムにしかない遺伝子が多重化した領域を発見。さらに、ネムリユスリカに特有な乾燥応答性の遺伝子発現調節機構の存在を確認した。多重化領域には抗酸化因子や老化タンパク質修復酵素、水と置き換わる効果をもつLEAタンパク質など、生体分子保護機能をもつ遺伝子が存在していたという。LEAタンパク質は今まで植物でしか発見しておらず、種の壁を越えてネムリユスリカのゲノムの中に入ったと考えられる。これらの事実から、ネムリユスリカはその進化の過程で遺伝子に「異常」がおきたことで極限乾燥耐性を獲得したと結論付けられた。同研究チームは「極限的な乾燥耐性をもたらす遺伝子を利用することで、ヒトのiPS細胞や家畜の受精卵及び血液などの常温乾燥保存法の開発促進が期待される」とコメントしている。
2014年09月16日理化学研究所(理研)は9月12日、ヒトの頭皮から採取した毛根の細胞に、ヒトの脳の細胞と共通する遺伝子が発現していることを発見し、これらの遺伝子の発現量の変化が、統合失調症や自閉症などの精神疾患の早期診断を補助する指標となる可能性を示したと発表した。この成果は理研脳科学総合研究センター 分子精神科学研究チームの前川素子 研究員、同 吉川武男 チームリーダー、東京都医学総合研究所、浜松医科大学、山口大学、慶応義塾大学からなる共同研究グループによるもので、米科学雑誌「Biological Psychiatry」のオンライン版に掲載された。統合失調症や自閉症などの精神疾患では、遺伝子の発現状態を含めて脳に何らかの変調が生じることが原因と考えられている。しかし、脳の一部を採取することはできないため、現在の診断は患者の行動や体験、家族の情報などに基づくところが大きく、客観的な「生物学的診断ツール」がないため、精神疾患の早期診断を補助する「バイオマーカー」の開発が待たれていた。同研究グループは、脳の細胞と同じ外胚葉由来であり、サンプルの採取が容易な頭皮の毛根細胞に着目。解析の結果、脳だけで発現していると考えられていた遺伝子の多くが、毛根細胞でも発現していることを見いだし、毛根細胞が脳内の遺伝子発現の状態を反映している可能性を突き止めた。さらに詳しく調査した結果、統合失調症の人では脂肪酸結合タンパク質(FABP)の1つであるFABP4をつくる「FABP4遺伝子」の発現量が対照群に比べ約40%低下し、自閉症の方の毛根細胞では神経系の細胞同士の結合に関与する「CNTNAP2遺伝子」の発現が低下していることが判明した。毛根細胞は血液と比べて外部からの刺激や体の状態に影響されにくく、採取も簡単なため、生きた脳の状態を反映している可能性のある、簡便なバイオマーカー診断法の基盤となる可能性が高い。同研究グループは、今後この方法で疾患の発症をどこまでさかのぼれるかを検証することにより、精神疾患の予防法開発や早期治療導入の判定、さらに新しい角度からの創薬のヒントを提供できる可能性があると考えているという。
2014年09月16日(画像はプレスリリースより)体の恒常性を司る脳-肥満とやせの不思議を探る2014年9月8日、自然科学研究機構は2014年10月4日(土)に一般公開を開催することを明らかにした。その一環で、生理学研究所の箕越 靖彦教授が「体の恒常性を司る脳-肥満とやせの不思議を探る」と題して講演を行う。場所は岡崎コンファレンスセンター、時間は午前10時~10時45分。入場は無料、予約は不要。講演概要現代では世界中で肥満が問題となっている。肥満は、暴飲暴食を行うことによりその分だけ太るという訳ではない。逆に食事がとれない場合も、痩せすぎないように体が調節しているのだ。この体の調整は脳が重要な役割を果たしていることが明確になってきており、生活習慣によって脳に変化が起こり、肥満することも分かってきている。箕越教授の講演「肥満とやせにかかわる体の不思議」では、このような脳と体の関係を分かりやすく話す。箕越 靖彦教授の研究箕越 靖彦教授は「脳におけるエネルギー感受機構と食餌嗜好性調節機構の解明」と「視床下部腹内側核を介した摂食調節ホルモンの摂食・代謝調節作用とその統合機構」と題した科学研究費助成事業の研究代表者である。両研究とも2015年3月31日まで継続する予定。この事業は順調に進行しており、すでに視床下部は、摂食と末梢組織の代謝を統合的に調節することを発見し、論文投稿を行っている。また、マウス室傍核神経細胞に活性型AMPKを発現させると炭水化物食への嗜好性が亢進して過食となり、肥満することを見出し、論文投稿を行っている。【参考】・自然科学研究機構 生理学研究所プレスリリース
2014年09月12日理化学研究所(理研)は8月28日、多金属のチタンヒドリド化合物を用いて、安定なベンゼンの炭素-炭素結合を室温で切断することに成功したと発表した。これにより、従来困難とされていた、芳香族化合物の炭素-炭素結合の切断を使った新しい物質変換反応の開発への寄与が期待できるという。同成果は、同所 環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループの侯召民グループディレクター、島隆則上級研究員、胡少偉特別研究員らによるもの。詳細は、科学雑誌「Nature」に掲載された。ベンゼン環を含んだ芳香族化合物は、石油やバイオマスなどの天然資源に豊富に含まれている。これら芳香族化合物の炭素-炭素結合の切断は、石油などの天然資源からガソリンや基礎化学品などを作る際に極めて重要な反応である。しかし、ベンゼン環は非常に安定で、その炭素-炭素結合を切断するには固体酸触媒を使って500℃程度の高温で行う必要があり、多くのエネルギーを消費する。さらに、反応プロセスは複雑で、目的外の化合物も複数生成する。また、生態系の中には温和な条件でベンゼン環の炭素-炭素結合を切断する微生物も知られているが、そのメカニズムについて不明なことが多いのが現状である。この他にも、これまで構造が明確なさまざまな分子性の金属化合物が開発され、これを用いて比較的温和な条件での炭素-炭素結合の切断反応が試みられてきたが、温和な条件でのベンゼン環の炭素-炭素結合の切断反応は成功していなかった。一方で、研究グループは2013年に、3つのチタン原子(Ti)からなる新しい多金属ヒドリド化合物(チタンヒドリド化合物)を開発し、これを用いて非常に安定な窒素分子の窒素-窒素結合の切断、および窒素-水素結合の形成に成功している。今回、このチタンヒドリド化合物とベンゼンの反応を試みたところ、室温という温和な条件で炭素-炭素結合が切断できることを発見した。この反応を検証した結果、まずベンゼン環が3つのチタン金属上に結合し、その後これら3つのチタン金属が互いに協力し合って炭素-炭素結合の切断に働いていることが明らかになった。分子レベルでベンゼン環が切断される様子を明らかにしたのは今回の研究が初めてであるという。また、ベンゼンだけでなく炭素が1つ増えたトルエンでも同様の炭素-炭素結合の切断反応が観察されたとしている。研究グループでは、今回の成果により、工業的な芳香族化合物の分解反応のメカニズム解明、温和な条件で反応が進行する新しい触媒の開発などに有用な知見を与えることが期待できるとコメントしている。
2014年09月01日理化学研究所(理研)は8月28日、マウスを対象に、記憶を司る海馬の神経細胞群を光で操作して「嫌な出来事の記憶」を「楽しい出来事の記憶」に書き換えることに成功し、その脳内での神経メカニズムを解明したと発表した。同成果は同研究所脳科学総合研究センターRIKEN-MIT神経回路遺伝学研究センター利根川研究室の利根川進 センター長、ロジャー・レドンド 研究員、ジョシュア・キム 大学院生らによるもので、8月27日付け(現地時間)米・科学雑誌「Nature」オンライン版に掲載された。例えば、それまで「嫌な出来事の記憶」と結びついていた場所で、楽しい出来事を体験すると、「嫌な出来事の記憶」が薄れて「楽しい出来事の記憶」に代わる場合がある。この記憶の書き換えが脳のどの領域でどのように行われるのか、そのメカニズムはこれまで明らかになっていなかった。記憶は、記憶痕跡(エングラム)と呼ばれる、神経細胞群とそれらのつながりに蓄えられると考えられており、同研究チームは、海馬と感情の記憶(嫌だ、楽しいなど)に関わる扁桃体という2つの脳領域とそのつながりに蓄えられた「嫌な出来事の記憶」のエングラムが「楽しい出来事の記憶」のエングラムに取って代わられるかどうかを調べたという。実験では、ある小部屋に入ると「この小部屋は怖いところだ」と感じるオスのマウスを作成し、怖さを感じる際に活性化する海馬の神経細胞群を、「嫌な出来事の記憶」のエングラムとして光感受性タンパク質で標識し、海馬に光を照射することで怖さを感じるようにした。しかし、このように処理したオスのマウスの海馬に光を照射しながら、メスのマウスを部屋の中に入れて1時間ほど一緒に遊ばせてやると、今度は「楽しい出来事の記憶」が作られた。この結果ついて同研究チームは、「嫌な出来事の記憶」に使われた海馬のエングラムをそのまま使って、「楽しい出来事の記憶」に置き換えることができるということが証明され、同様の方法で「楽しい出来事の記憶」を「嫌な出来事の記憶」に置き換えることも可能だということも示されたことになるとしている。一方、扁桃体のエングラムに同様の処理をしても、「嫌な出来事の記憶」と「楽しい出来事の記憶」を記憶それぞれ作り出すことはできても、置き換わる現象は起きず、単に後から経験する出来事の情緒的側面が、先行する経験のそれに置き換わるということではないことがわかった。同研究成果について利根川センター長は、「この研究の最も重要な結論は、海馬から扁桃体への脳細胞のつながりの可塑性が、体験する出来事の記憶の情緒面の制御に重要な働きをしているということだ」とコメント。今回の発見はうつ病患者の心理療法に科学的根拠を与え、将来の医学的療法の開発に寄与することが期待されるとしている。
2014年08月28日京都大学は8月22日、ヒトiPS細胞から肺胞上皮細胞を分化誘導し、単離する(取り出す)方法を世界で初めて確立したと発表した。同成果は同大学大学院医学研究科呼吸器内科学講座の三島理晃 教授、同 後藤慎平 研究生、同 伊藤功朗 助教(物質-細胞統合システム拠点連携 助教)、同 iPS細胞研究所増殖分化機構研究部門の長船健二 准教授、同 医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司 教授らの研究グループによるもの。8月21日(米国時間)に米科学誌「Stem Cell Reports」に掲載された。今回の研究では、肺胞上皮細胞の前段階にあたる肺胞前駆細胞を効率よくヒトiPS細胞から分化誘導するのに、CPMという酵素が有用であることを突き止めた。また、蛍光タンパク質(GFP)を注入することで、肺胞を作るのに不可欠な2型肺胞上皮細胞に分化すると光るヒトiPS細胞を作成したという。さらに、CPMを使って単離した肺胞前駆細胞を3次元培養して肺胞上皮細胞を分化誘導したところ、GFPが光り、2型肺胞上皮細胞の単離に成功したことが確認された。同研究グループはこの結果について「ヒトiPS細胞から2型肺胞上皮細胞の分化誘導と単離というプロセスが確立したことで、肺の再生研究だけでなく、さまざまな難治性疾患の研究に踏み込める大きなチャンスが到来した」とコメントしている。
2014年08月22日私たちの体は、毎日の食事によって成り立っている。すなわち、体に良いとされている食べ物を摂取することによって、健康でいられる確率は高まるということだ。では、「体に良い食べ物」とは、一体どのような物があてはまるのだろうか。大腸に生息する腸内細菌が体に及ぼす効果を研究している、理化学研究所の辨野義己特別招聘研究員に話を聞いた。○善玉菌のパワー腸内に棲(す)みついている600~1000兆個の腸内細菌は、実にさまざまな力を秘めている。腸内細菌には、乳酸菌やビフィズス菌といった「善玉菌」とウェルシュ菌などの「悪玉菌」、どちらにもなりうる可能性を秘めている「日和見菌」がある。辨野特別招聘研究員は「善玉菌優位の腸の状態を作ることが、健康には大切」とし、この善玉菌を増やす食材こそが「体に良い食べ物」としている。善玉菌の代表には乳酸菌がある。現在、乳酸菌と呼ばれる菌種数は見つかっているものだけで400種類以上あり、「乳酸菌」と名の付くものでその機能が特定されているのは、50菌株にも及ぶ。一方、人の腸内でも圧倒的な数を示すビフィズス菌の力が大きい。40種類ほどのビフィズス菌がおり、人の腸内に住むビフィズス菌は6~7種程度である。例えば、「ラクトバチルス・ブレイビス・ラブレ株」は免疫力を強化する力があるとされ、「ビフィドバクテリウム・ブルーベ・ヤクルト株」は皮膚の乾燥を抑えて美しい肌に導く作用が認められており、人体にさまざまなよい効果をもたらしてくれるのが乳酸菌やビフィズス菌なのだ。○「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」これらの特異な乳酸菌・ビフィズス菌は特定保健用食品(トクホ)に含まれていることが多い。辨野特別招聘研究員は、乳酸菌・ビフィズス菌のような善玉菌を腸内で元気に保ち続けるための活動を"菌活"と名付け、その活動を推奨している。"菌活"をする上で、知っておきたい概念が「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」だ。「プロバイオティクスとは、生きたまま腸に届いて人体に好影響を及ぼす生きた微生物やそれらを含む食品のことを指します。代表例で言うと、乳酸菌やビフィズス菌です。一方のプレバイオティクスは、ビフィズス菌のエサになるもので、食物繊維やオリゴ糖などがあてはまります」○善玉菌が喜ぶ、体によい食材プレバイオティクス、プロバイオティクスに該当し、辨野特別招聘研究員がお勧めする食材は以下の通り。プロバイオティクスヨーグルト、乳酸菌飲料プレバイオティクス穀類/玄米、ひえ、あわいも類/さつまいも、やまいも、里いも豆類/大豆、おから、枝豆、あずき、きなこ野菜/かぼちゃ、にんじん、ごぼう、大根、れんこんきのこ類/しいたけ、しめじ、えのきだけ海藻類/ひじき、わかめ、昆布、めかぶ果物/りんご、バナナ、ほしぶどう辨野特別招聘研究員はヨーグルトを摂取する際に、食物繊維とオリゴ糖を含むバナナ、オリゴ糖を含むはちみつ、さらに豆乳・乳酸菌飲料などをヨーグルトとミキサーにかけて飲んでいるという。プロバイオティクスとプレバイオティクスによる相乗効果で、"菌活"を効率よく行っているというわけだ。多くの"ミラクルパワー"を秘めている善玉菌を増やしてくれる食材を毎日摂取することで、手軽に健康的な体づくりに励んでみてはいかがだろうか。写真と本文は関係ありません○筆者プロフィール : 辨野 義己(べんの よしみ)理化学研究所イノベーション推進センター辨野特別研究室特別招聘研究員。専門領域は腸内環境学。腸内細菌のDNA解析によって新しい最近を多数発見。腸内細菌と病気との関係を掘り下げて研究するとともに、ビフィズス菌や乳酸菌の健康効果をメディアなどで発信している。著書「一生医者いらずの菌活のはじめ方」・定価: 1,320円(税別)・発行: 株式会社マイナビ・200ページ
2014年08月15日東京大学は8月4日、物質中に生じるらせん型に配列した電子スピンが、光の進行する向きに依存して光吸収を大きく変化させる機能性を有していることを発見したと発表した。同成果は、同大大学院 工学系研究科の高橋陽太郎特任准教授、木林駿介大学院生(当時)、十倉好紀教授、および理化学研究所 創発物性科学研究センターの関真一郎ユニットリーダーらによるもの。詳細は、英国のオンライン科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。研究グループは、らせん型に電子スピンが配列したとき、ギガヘルツからテラヘルツの周波数帯にエレクトロマグノンと呼ばれるスピンの集団運動が現れることを発見した。さらに、らせん型のスピン配列が持つ"磁性"と"カイラリティ"という2つの性質によって、エレクトロマグノンが巨大な磁気カイラル効果を示すことを明らかにした。そして、磁気カイラル効果により、光の進行方向に依存して吸収係数を最大400%変化させることに成功したという。将来の大容量通信など、さまざまな応用が期待されている高周波のギガヘルツ帯からテラヘルツ帯では、光(電磁波)の制御のための技術開発が行われている。今回の結果は、アイソレータや、物質の光吸収を外部の電場や磁場で操作可能な光(電磁波)制御素子としての展開が期待できるとコメントしている。
2014年08月06日理化学研究所(理研)は7月14日、統合失調症や自閉症などの精神疾患の発症に、脂肪酸を運搬する「脂肪酸結合タンパク質(FABP)」が関与している可能性を見出したと発表した。同成果は、理研脳科学総合研究センター 分子精神科学研究チームの島本知英研修生(お茶の水女子大学大学院生)、同 大西哲生研究員、同 吉川武男チームリーダー、山口大学の大和田祐二 教授、浜松医科大学の森則夫 教授らによるもの。詳細は、英国の科学雑誌「Human Molecular Genetics」のオンライン版に近日中に掲載される予定だという。統合失調症は、幻覚や幻聴、妄想などさまざまな精神症状が現れる疾患で、自閉症は対人コミュニケーションの障害、限定的な行動や興味などの特徴がみられる疾患として知られているが、近年の研究から、「脂肪酸」がそうした疾患の発症に関与している可能性があるという説が注目されるようになってきた。脂肪酸は、脳の正常な発達に必須な物質だが、水分となじまない性質であるため、細胞内の働くべき場所で働くためには、その移動を補助する「脂肪酸結合タンパク質(FABP)」の役割が重要とされている。FABPは10種類以上の近縁タンパク質の総称であり、これまで研究グループは、死後脳の研究から、その内の1つで、主に脳で働く「FABP7」の発現量が統合失調症患者の方が上昇していること、ならびにFABP7を作る「FABP7遺伝子」が統合失調症の原因遺伝子の1つであることを報告していた。しかし、ヒトの脳ではFABP7だけでなく「FABP3」と「FABP5」も発現していることから、今回の研究では、FABP7、FABP3、FABP5の3つが、統合失調症や統合失調症と遺伝的・臨床的な関連性が報告されている自閉症とどのように関係しているのかを調査したという。FABP7と同様にFABP3とFABP5の発現量を正常対照群と統合失調症患者の死後脳とで比較したところ、統合失調症患者ではFABP5の発現量が上昇しているほか、生存している統合失調症患者の血液細胞ではFABP5の発現量が低下している、自閉症患者の死後脳ではFABP7の発現が上昇している、そしてFABP3はどの試料においても、正常対照群との差が見られない、ということが判明したという。また、2097人の統合失調症患者と316人の自閉症患者のサンプルを用いて、実際にFABPの機能異常を引き起こすような遺伝子変異があるのかを調べたところ、8種類の変異(2種類のフレームシフト変異と6種類のミスセンス変異)を発見。これらの変異がFABPにどのような機能的異常を引き起こすのかを調べたところ、2種類のフレームシフト変異タンパク質は、どちらも細胞内で異常な分布を示すと同時に壊れやすい性質を持つことが判明したほか、6種類のミスセンス変異タンパク質のうち2種類の変異では、いくつかの脂肪酸に対する結合特性が変化しており、変異を持つ患者の細胞中の脂肪酸の働き方に異常がある可能性が示唆されたとする。これらの結果を踏まえ、Fabp遺伝子が脳の働きにどのような役割を果たすのかの解明を目指し、3種類のFabpをそれぞれノックアウトさせたマウスを用いて、精神疾患に関連する行動試験も実施。その結果、Fabp3ノックアウトマウスは新しいものに対する興味が低下していること、Fabp7ノックアウトマウスは活動性が高い一方で不安を感じやすいことが観察され、これらの行動が統合失調症や自閉症で見られる特徴と一致していることが示されたという。なお、研究グループは今回の成果を踏まえ、FABP5の発現量と脂肪酸量の変動を組み合わせて検査することでより正確なバイオマーカーとして利用できる可能性が出てきたとする。また、一部の統合失調症患者や自閉症患者では脳の発達期に脂肪酸機能の不全があることが示唆されたことから、脳の発達期である妊娠期や乳児期・幼児期に適切な量と質の脂肪酸を摂取することや、遺伝的な要因によって引き起こされる脂肪酸機能不全であってもそれを補う適切な量と質の脂肪酸を摂取することで、そうした症状を予防できる可能性が示されたとするほか、発症後でも、脂肪酸の適切な摂取が症状の軽減に有効である可能性が考えられると説明しており、今後、どの脂肪酸をどの程度、どのぐらいの期間・時期に摂取すれば症状を軽減できるのかを明らかにすることで、新たな治療法の確立につながると期待できるとしている。
2014年07月14日東京工業大学(東工大)は6月19日、有機結晶が光で融解するメカニズムを放射光X線による結晶構造観察で突き止めたと発表した。同成果は、同大大学院 理工学研究科の星野学研究員、腰原伸也教授らによるもの。産業技術総合研究所(産総研)の則包恭央主任研究員、阿澄玲子グループ長、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の足立伸一教授と共同で行われた。詳細は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載された。今回、対象とした長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン誘導体が、"アゾベンゼンが整列した領域"と"長鎖アルキル基が結晶内で激しく運動している領域"の2領域が共存した特異な結晶構造をしていることを明らかにした。さらに、この結晶に紫外光を照射すると、アゾベンゼンが光異性化反応を起こして整列が壊れ、結晶中にもかかわらず液体のように激しく運動している長鎖アルキル基の領域と均一化されることで、融解が起こることを解明した。この結晶構造観察は、放射光X線を利用した単結晶X線構造解析であり、実験室系では得られないX線回折データを高精度に集めることによって実現したという。通常、結晶を融解させるには室温以上に加熱する必要があるが、光照射という簡便な手段で結晶融解を実現できる技術を利用すれば、有機材料の成形・加工の生産コストを大幅に削減できる。今回の研究は、光照射による融解技術を産業化するための分子材料設計方針を提供するものであると説明している。
2014年06月23日岡山大学は6月18日、昆虫「オオツノコクヌストモドキ」のメスが戦いに強い大きな大顎を持つオスよりも、脚を使ってメスの体をたたく求愛技術が高いオスを好むことを明らかにしたと発表した。同成果は、同大大学院環境生命科学研究科進化生態学分野の岡田賢祐 助教、筑波大学生命環境科学系共存生物学研究室の香月雅子 博士(日本学術振興会特別研究員)、英国エクセター大学生態学・保全学センターのデビッド・ホスケン教授らによるもの。詳細は5月7日付で英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B」電子版に掲載された。従来、生物のメスは強いオスを好むことが繁殖行動の定説として知られている。これは、オスが強いほど、外敵から身を守ってくれる確率が高くなることや、強いオスほど、良い餌場や縄張りを持てるといった直接的な利益のほか、遺伝的により強く、繁殖に有利な子孫を残す可能性を高めることが高まるといった遺伝的な利益などが背景にあると考えられてきた。今回、研究グループは1000体を越すオオツノコクヌストモドキを対象に遺伝解析を行ったところ、メスは強いオスを配偶相手にしても、直接的利益を得ることはないことを確認。また、強いオスの息子は繁殖に有利だが、娘は繁殖には、大顎の大きさに関係する遺伝子が産卵数の減少にも関与していること(対立関係)も知られており、結果としてメスは間接的利益を得ることができないことも判明した。そうした一方、求愛上手なオスを配偶者として選んだ場合、遺伝的に繁殖に有利な求愛上手な息子を産むことができるようになるため、間接的利益を得ることが可能となるほか、求愛上手なオスとメスの間には対立関係もないことを確認したとのことで、これらの結果、メスは強いオスではなく、求愛上手なオスを配偶者として選ぶ可能性が示されたとしている。なお、研究グループでは、今回の発見により有性生殖を行う生物の繁殖様式に関する概念を考え直す必要性が示されたとするほか、生物の繁殖に関する新たな理論を提示するものであり、人間を含めた生物全体の進化の理解につながることが期待されるとしている。
2014年06月20日(画像はプレスリリースより)「フィッテ」の8月号に登場した国仲涼子さん!女性に人気のある「フィッテ」の8月号の表紙に、女性らしいファッションで国仲涼子さんが登場した。「フィッテ」は、健康や美容、ダイエットをテーマにして女性を応援する、月刊の女性誌だ。また国仲涼子さんは、2014年7月スタートのテレビドラマ「ペテロの葬列」に出演することが決まっており、さらに映画やCMなどでも活躍している人気女優だ。国仲涼子さんはインタビューで「こうや豆腐が、とても良いと聞いたので、そぼろ豆腐を作ってサラダや、ご飯にかけています」(株式会社 学研パブリッシング プレスリリース PR TIMESより)と、美肌の秘訣を語った。「フィッテ」8月号の内容は?「フィッテ」8月号では、お腹を3タイプにわけて、即効でお腹やウエストを痩せさせるためのマッサージや、体のトレーニングの方法を知ることができる特集が組まれている。さらにほうれい線や、たるみを改善するためのマッサージ法など、お金をかけないで実践できる美容の方法が紹介されている。さらに水素水に着目した「若返る」「痩せる」や、トマトの栄養成分のリコピンによる、老化を防ぐためのアンチエイジング、楽に生きるための、イライラをなくすテクニック、そして納豆やヨーグルトなどの楽痩せレシピなど、女性の方が興味を持つだろう最新情報が満載だ。本格的な夏が到来する前に、ウエストを細くしたい、またダイエットが気になる方は、この雑誌を購入してみては。【参考】・株式会社 学研パブリッシング プレスリリース (PR TIMES)・株式会社 学研パブリッシング フィッテ ウェブ
2014年06月19日(画像はイメージです)サントリー健康科学研究所がスペインの学会で発表サントリー健康科学研究所はオリーブとブドウ種子抽出物摂取が健常人の血管内皮細胞機能を改善することを欧州動脈硬化学会(スペイン)で発表した。試験方法クロスオーバー法にて試験食品(オリーブOPX(50mg/日)、ブドウ種子OPC(75mg/日)とビタミンC(100mg/日)を含む食品)とプラセボ食品を比較した。摂取期間は4週間、ウォッシュアウト期間は3週間。測定項目は摂取期間前後の血管内皮機能と酸化ストレスマーカー。試験結果血管内皮機能はFMD(血管の柔軟性の指標)、酸化ストレスマーカーは尿中8-OHdG(活性酸素の影響を鋭敏に反応する指標)で検討。FMDの投与前後の差(平均値)は食品群+0.52、プラセボ-0.09で有意(対応のあるt検定)に血管の柔軟性を改善。尿中尿中8-OHdGの投与前後の差(平均値)は食品群-1.50、プラセボ+2.12で有意(対応のあるt検定)に酸化ストレスマーカーを改善。以上の結果から、試験食品は健常者の血管内皮機能を改善することが明らかになった。これは血管の酸化ストレスから血管を守ることが、その理由と推定。心血管疾患のリスクとされている動脈硬化は血管内皮機能の低下によって発生率が上がるとされている。【参考】・サントリーウエルネスプレスリリース
2014年06月18日(画像はプレスリリースより)やせ活・歩活・筋活で理想のカラダを手に入れよう株式会社学研パブリッシング(東京都品川区)と株式会社ブックビヨンド(東京都品川区)は、電子書籍『今からでも始められるやせ活・歩活・筋活無料ダイジェスト版』を無料で2014年6月2日より配信開始した。同日発売の新刊『今からでも始められるやせ活』と併せて、既刊人気シリーズの『今からでも始められる歩活』『今からでも始められる筋活』から記事を選りすぐり、抜粋した合計60ページもの大ボリューム版ダイジェスト版だ。やせ活・歩活・筋活の内容を試し読み!今からでも始められるやせ活からは、体脂肪を落とすメニューを日常生活に取り入れやすく工夫をこらし筋肉をつけるのか脂肪を落とすのかなど、食と運動の両面で自分に最適のプログラムが見つかる。歩活からは、カラダを締めるだけでなく、様々な健康効果を最大限に得るため、なんとなく歩くから本当に効くウォーキングへと導く。筋活からは、30歳から減り続けた筋肉は、今手を打たないとさらに激減するため、今がカラダを締め直す最後のチャンスと、現在に最適で強度の筋トレプログラムを紹介している。無料ダウンロード先・Kindleストア・楽天Koboイーブックストア・Book Beyond有料版<好評配信中>『今からでも始められるやせ活』発行:学研パブリッシング販売価格:720円(税抜き)(PR TIMESプレスリリースより引用)【参考】・株式会社学研パブリッシングプレスリリース/PR TIMES・Book Beyond
2014年06月04日基礎生物学研究所(NIBB)と科学技術振興機構(JST)は6月2日、東京大学、玉川大学、日本医科大学(日医大)との共同研究により、マウスが道具を使って運動課題を学習する過程において、「2光子顕微鏡」を用いたカルシウムイメージング法により大脳皮質運動野の浅層から深層(脳表から約500μm)に至るまで、延べ8000個の神経細胞の活動を2週間にわたって計測することに成功し、その結果、学習期間において動物が運動課題に熟達する中期から後期にかけて、学習した運動の記憶が大脳皮質深層、特に大脳基底核へ信号を送る細胞の新たな活動パターンとして保持されることがわかったと共同で発表した。成果は、NIBB 光脳回路研究部門の正水芳人 研究員、同・田中康裕 研究員、同・松崎政紀 教授、東大大学院 医学系研究科の喜多村和郎 准教授、玉川大 脳科学研究所の礒村宜和 教授、日医大の岡田尚巳 教授らの共同研究チームによるもの。研究はJST戦略的創造研究推進事業(CREST)および文部科学省科学研究費助成事業によるもので、詳細な内容は日本時間6月2日付けで科学雑誌「Nature Neuroscience」電子速報版に掲載された。ヒトは練習を繰り返すことで、自転車乗り、ピアノ演奏、水泳などの難しいスキルを上達させることが可能だ。このような練習によって脳に蓄えられた情報は「手続き記憶」とも呼ばれる。近年、組織の中の細胞を生きたまま観察可能な2光子顕微鏡が開発され、生きたマウスの脳の中にある神経細胞内のカルシウムイオン濃度を光の強度として測定することで、複数の神経細胞の活動を一度に把握するという実験ができるようになった。脳内でどのような細胞の活動変化が起こって「手続き記憶」が形作られるのかが、確かめられるようになってきたのである。ただし、脳のあらゆる領域において観察が可能になったわけではない。大脳皮質は6層構造を持っており、これまでに「2光子カルシウムイメージング法」によって比較的容易に観察ができていたのは、浅い第2/3層においてで、この浅層における細胞活動変化はすでにいくつか報告されている。しかし、大脳皮質から外に信号を出力する深層の第5層の細胞活動が、道具を操作する難度の高い運動学習中にどのように変化するのかを、行動変化と対応づけながら定量的かつ長期的に計測することは技術的な困難さのため、これまではまったくできていない状況だった。そこで研究チームは2013年1月に、前足を使って一定時間レバーを引くと水がもらえるという、マウスにとっては難度の高い運動課題を行わせて、課題実行中のマウスにおける運動野の神経細胞の活動を安定に記録する方法を発表した。今回はさらに、顕微鏡や実験技術を革新させることで、訓練期間2週間にわたって、課題実行中の運動野第2/3層(脳表から約200μmの深さ)の神経細胞と脳表から約500μmの深さにある第5層の神経細胞の、延べ8000個の活動を計測することに成功したという(画像1・2)。そして、この神経細胞の活動パターンの中に、どのように「手続き記憶」が記録されていくのかを評価するために、神経細胞およびその集団の活動からレバーの動きをどの程度予測できるかを定量化し、その予測精度が訓練期間中にどのように変化するかが調べられた。学習によって細胞集団の活動からのレバー予測精度が高くなれば、その分だけ細胞がレバーの動きに関する情報をたくさん持つようになったことになる。すなわち、前足を使ったレバー引き運動が細胞集団の活動パターンとして保持(記憶)されたことを意味するというわけだ。予測精度の定量(予測精度情報量の算出)には、金融工学でリスク評価に使われてきた「コピュラ関数」を利用することで初めて成功したという(画像3)。第2/3層では、学習の2週間の期間に予測精度情報量が高くなる細胞と低くなる細胞の割合がほぼ同じ20%で、細胞集団全体の予測精度情報量はあまり変化しなかったという(画像4)。一方、第5層では予測精度情報量が低くなる細胞はほとんど存在せず、30%の細胞が予測精度情報量を高めるようになったとした。そして、第5層の細胞集団全体が持つ予測精度情報量は、レバー引き運動が上達するほど高くなることが確認されたのである(画像5)。第5層の細胞が予測精度情報量を高め始める時期は、レバー引き運動の成功率や成功数が一定になる時期である訓練1週間後だったという。この結果は、運動野第2/3層は学習期間を通して、ほかの脳部位からのさまざまな情報を統合してレバー引き運動を微調整しているのに対し、運動野第5層は運動学習がある程度進んだ後に、レバー引き運動を細胞活動パターンとして保持(記憶)することを強く示唆するとする。さらに、第5層の細胞活動変化が信号の出力先によって異なるか調べることを目的として、筋肉を制御する細胞が存在する脊髄へ信号を送る神経細胞と、運動の熟練化や自動化に関わる「大脳基底核」へ信号を送る神経細胞を別々に標識する方法も開発された。その結果、脊髄出力細胞に比べて大脳基底核出力細胞では、学習初期には予測精度情報量が低い細胞が学習後期により高くなることが確かめられたという。この結果は、大脳皮質運動野第5層が新しい記憶回路を大脳基底核と一緒に形成して、特定の筋肉の制御をより効果的に行い、運動を熟練化、自動化することを強く示唆するとした。これらの結果から、運動がある程度のレベルに達してからも、がんばって練習を続けると難しいスキルでも無意識にできるようになるのは、その運動を自動的に生み出すための新しい回路が大脳皮質深部に形成されたことによると考えられるという。画像6はそれを表した模式図で、新しい運動の練習を続けると、大脳皮質運動野第5層で、予測精度情報量を高める細胞(黒丸)が増え、より効果的に脊髄に信号を送る新しい神経回路(赤囲み)ができ、練習した運動が熟練化するというものである。今回の研究は、動物の運動学習の際に大脳皮質運動野において層や出力先に依存した細胞活動変化パターンを見出すことにより、大脳皮質運動野での手続き記憶の実体を細胞・回路レベルで解明したものだ。今回の研究で開発された方法をさらに発展させることで、運動学習の回路メカニズムの全容が解明されることが期待されるという。また、パーキンソン病などの運動障害をもたらす神経変成疾患では、大脳皮質運動野と大脳基底核を含めた回路再編成に異常があることが知られており、今回の研究の成果は、大脳回路活動と運動疾患の関連性を明らかにするための重要な1歩となるとした。さらに、層や出力先で記憶パターンが異なるという発見は、ネットワーク構造を持つ学習理論や人工知能、自律的に運動するロボットの新しい設計基盤となるとも述べている。
2014年06月02日