【おとな向け映画ガイド】妄想少女が辛口音楽ライターに!90年代UK音楽シーンが舞台の『ビルド・ア・ガール』ぴあ編集部 坂口英明21/10/10(日)イラストレーション:高松啓二今週末(10/15~16)に公開される映画は23本。全国100館以上で拡大公開される作品が『劇場版 ルパンの娘』『燃えよ剣』『最後の決闘裁判』『キャンディマン』『DUNE/デューン 砂の惑星』『劇場版オトッペパパ・ドント・クライ』の6本。中規模公開、ミニシアター系の作品が17本です。今回は10/22公開の『ビルド・ア・ガール』をご紹介します。女子の本音が炸裂するイギリス青春コメディ『ビルド・ア・ガール』面白い映画をみつけました!観る人のトシは関係なく、主人公のエネルギーに元気をもらえる映画です。『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズの製作陣が手掛けているときいて、納得です。ぽっちゃりなヒロインが、悩みながら、挫折を繰り返し、大胆な自分探しをしていくドラマ。主人公は10代ですが、モテたい、エッチしてみたい、成功もしたい、といった女性の本音がポップに炸裂し、「おお、がんばれよ」と声をかけたくなります。日本でも出版され、世界的ベストセラーとなったエッセイ集『女になる方法-ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記-』の著者、キャトリン・モラン。彼女の半自伝的小説「How to Build a Girl」が原作です。脚本も自身が手がけています。1990年代初頭のイギリスが舞台。音楽ジャーナリズムの世界に10代でデビューしたころの彼女がモデルです。監督はコーキー・ギェドロイツ。ジョアンナは16歳の高校生。元売れないドラマーで今は犬の闇ブリーダーを細々とをやっている父、双子が産まれたばかりで育児ノイローゼの母、そして4人の兄弟と、ウォルヴァーハンプトンという郊外の街で暮らしています。友達はいなく、放課後は図書館にこもり、読書と猛烈な妄想の日々。将来の夢は作家になることです。優しい兄のアドバイスで、音楽誌に『アニー』のレビューを投稿してみます。すると、なんとロンドンの編集部から、一度編集部へ来てみませんかとの返事。勇んで出かけたのですが…。ジョアンナ役は『レディ・バード』などに出演したアメリカの女優、ビーニー・フェルドスタイン。渡辺直美ちゃん系といいますか、一見、エネルギッシュで元気がいいキャラクターです。封切られたばかりの『ディナー・イン・アメリカ』も直美ちゃん系。トレンドです。外目の元気とは対照的に、実はひとりになった時は自信のない十代の女の子。心の拠り所は自分の部屋の壁一面に貼った切り抜き写真との対話です。この内面の葛藤の描き方がいかにも映画的です。デヴィッド・ボウイから、『嵐が丘』のブロンテ姉妹、アメリカの詩人シルヴィア・プラス、マルクス、フロイト、フリーダ・カーロ、エリザベス・テイラーまで、図書館の本は読破したと豪語するジョアンナの独特で個性的な”アイドル”たちの写真が動き出し、相談にのってくれますこれは、プロダクション・デザイナー、アマンダ・マッカーサーのアイデアで、彼女が「GODWALL(神の壁)」とよぶセットを使った撮影です。動き出す壁の有名人はリリー・アレンなどのカメオ出演です。意を決して訪問した音楽誌の編集部で冷遇されたときに、泣きに入ったトイレでも、同じように壁に貼られたビョークのポスターが彼女を励ましてくれます。その後、ジョアンナが辛口音楽ライター「ドリー・ワイルド」としてデビューする雑誌「D&ME」のモデルは、イギリスを代表する音楽誌「メロディ・メーカー」。当時の編集部の様子が再現され、少しぶっとんでいてカッコいい編集者たちの仕事のスタイルも描かれています。モリッシーやマニック・ストリート・プリーチャーズなどのミュージシャン名がとびかい、90年代初頭のUK音楽シーンが好きな人にはたまりません。キャメロン・クロウ監督の『あの頃、ペニーレインと』なんて映画も思い出しました。あの作品の主人公は雑誌「ローリングストーン」の10代記者でした。ジョアンナが最初に取材するカリスマ的なロックスター、ジョン・カイト役は『ゲーム・オブ・スローンズ』のアルフィー・アレン。90年代風のライブ再現シーンでは実際に歌い、いかにもカリスマ的な雰囲気をだして魅力的です。彼女の運命を変える女性編集者役でエマ・トンプソンもかなりいい感じで出演しています。はじめの一歩を踏み出すことの大切さ、踏み出したときの緊張感、そんなことを思い出させてくれる映画です。元気がでます!(C)MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019
2021年10月10日【おとな向け映画ガイド】大満足! クレイグ最後のジェームズ・ボンド『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ぴあ編集部 坂口英明21/10/3(日)中川右介さんの水先案内をもっと見る()堀晃和さん(ライター、編集者)「……『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞に輝く撮影監督リヌス・サンドグレンの映像を意識してほしい。端正な構図、鮮やかな色彩を通じてボンドの雄姿が網膜に焼き付けられる……」堀晃和さんの水先案内をもっと見る()(C) 2019 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVE
2021年10月03日【おとな向け映画ガイド】不可解で残虐な連続殺人の背後に大震災の傷痕ー『護られなかった者たちへ』ぴあ編集部 坂口英明21/9/26(日)中川右介さんの水先案内をもっと見る()(C)2021映画『護られなかった者たちへ』製作委員会
2021年09月26日【おとな向け映画ガイド】ムーミン原作者の意外な半生!『TOVE/トーベ』ぴあ編集部 坂口英明21/9/19(日)池上彰さんの水先案内をもっと見る()藤原えりみさん(美術ジャーナリスト)「……アトリエに響く蓄音機によるエディット・ピアフの他、ショパンやベニー・グッドマン、ジョゼフィン・ベーカー等々。音楽に託された心情の深さ……」藤原えりみさんの水先案内をもっと見る()植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)「……おぼろげながら北欧的美少女を想像していたので、トーベの半生を描いた本作『TOVE/トーベ』を観て、腰が抜けるほど驚かされた。……」植草信和さんの水先案内をもっと見る()高松啓二さん(イラストレーター)「……ファンタジー作なのに半径3メートル以内で着想を得ているのは面白いね。」高松啓二さんの水先案内をもっと見る()(C)2020 Helsinki-filmi, all rights reserved
2021年09月19日【おとな向け映画ガイド】アメリカの選挙戦はクレイジーなエンタテインメント!『スイング・ステート』ぴあ編集部 坂口英明21/9/12(日)イラストレーション:高松啓二今週末(9/17〜18)に公開される映画は19本。全国100スクリーン以上で拡大公開される作品が『マスカレード・ナイト』『レミニセンス』の2本。中規模公開、ミニシアター系の作品が17本です。今回はその中から『スイング・ステート』をご紹介します。トランプに負けた民主党選挙参謀のとんでもない挽回策『スイング・ステート』衆議院議員小川淳也さんの奮闘を描き、話題となった大島新監督のドキュメンタリー、『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編が作られるそうです。タイトルは、小川さんの選挙区そのものずばり、『香川1区』です。彼を追い、この秋の総選挙での戦いぶりを描きます。どんな映画になるのか、楽しみです。選挙戦が始まると、俄然浮足立つ人がいます。誤解を恐れずに言うと、選挙は競技。競技者だけでなくその応援者、観戦者も興奮します。わかる気がします。フィクション作品なら、その戦いをもっとドラマチックに演出して、さらに盛り上がるんじゃないかと思いますが、残念ながら日本映画の中に記憶に残るものがありません。コメディータッチな作りなのに、どこか嘘っぽくて笑えなかったり。そもそも、政界を扱ったフィクション映画で、政党やメディア名が実名で扱われることは、まずなくて、そのあたりでも気がそがれます。その点、アメリカの作品は。実名がバシバシ出てきます。平気で茶化します。だからリアリティを感じて心底笑えます。この作品も、アメリカ特有の選挙戦を大胆にからかいまくっています。実際にあった選挙戦にヒントを得て、かなり誇張はありますが、選挙のプロが観ても、あってもおかしくない、という評価を受けたリアルさが、この映画のすごみです。主人公は、民主党の選挙参謀ジマー(スティーヴ・カレル)。名前もキャラクターもオリジナルですが、立場ははっきりしています。民主党や共和党の名前はそのまま。CNNやFOXニュースなどメディアも実名のまま登場します。舞台となる町だけは架空です。2016年の大統領選挙、彼が指揮をとり、クリントン圧勝という下馬評が一転、トランプに敗北した、あの選挙の後から、ドラマが始まります。ジマーは、選挙の敗因は、2大政党の支持率が拮抗する「スイング・ステート(激戦区)」での戦いに敗れたためと痛感。4年後に向けて、早速準備を始めている、という設定です。中西部ウィスコンシン州の小さな町の町長選挙に目をつけ、ここでの民主党勝利から好調な滑り出しを切ろうと目論みます。現役の町長は共和党。彼の町政に意見をいうために町議会にのりこんだ、退役軍人ジャック(クリス・クーパー)の映像をyoutubeで見て、彼こそが希望の星と定めます。ここから始まる大騒動。ホテルにWi-Fiもない田舎町に、民主党の選挙のプロたちが集められます。一方の共和党も負けてはいられません。なんとジマーの宿敵、トランプの選挙参謀フェイス(ローズ・バーン)という超やり手の女性を送り込んできます。金と頭とノウハウのぶつかりあい、地元の民意なんてそっちのけ、狂乱の選挙戦です。ジマー役のスティーヴ・カレルは、パロディ・ニュース番組『ザ・デイリー・ショー』や『サタデー・ナイト・ライブ』などで人気者になったコメディアン。フェイスを演じるローズ・バーンは「世界で最も美しい顔ランキング」の1位になったことのある美人コメディエンヌです。このふたりの、やりすぎ以外何物でもない戦いが笑えます。特に勝つために口からでまかせ嘘も平気という、チャーミングなやり手、フェイスの存在がいかにもアメリカっぽい。敵でありながら、おたがいのことが気になって仕方がない、ラブコメのようでもあります。監督・脚本・プロデュースは、テレビの政治風刺番組の歴史を変えたといわれるジョン・スチュワート。『バイス』など、数々のヒット作を手掛けたブラッド・ピット率いる「プランB」が製作。ピットも製作総指揮に名を連ねています。(C)2021 Focus Features, LLC. All Rights Reserved
2021年09月12日【おとな向け映画ガイド】これはホラー? コメディ!? 黒木華・柄本佑の『先生、私の隣に座っていただけませんか?』ぴあ編集部 坂口英明21/9/5(日)中川 右介さんの水先案内をもっと見る()平辻哲也さん(映画ジャーナリスト)「……創作世界と現実のはざまがあいまいになるといった手法は少なくないが、夫婦というミニマムな世界で展開され、身近に感じられる。しかも、演者が達者……」平辻哲也さんの水先案内をもっと見る()(C)2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
2021年09月05日【おとな向け映画ガイド】酒で人生急展開!?マッツ・ミケルセン主演『アナザーラウンド』、観たらきっと元気をもらえる『テーラー 人生の仕立て屋』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/8/29(日)植草信和さんの水先案内をもっと見る()(C)2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.人生、メジャーでは測れない!『テーラー人生の仕立て屋』アルチザンの矜持、そんな言葉が頭に浮かびました。ギリシャのテーラー、仕立て屋さんのお話です。紳士服仕立て、テーラード・スーツというのは、どの国でもそろそろ下火の商売。父の代からこの家業を営む主人公ですが、客足は落ち、店の家賃が払えません。気位の高い父は病に倒れ、にっちもさっちもいかなくなって、彼は商売道具を荷車にまとめ、街頭で、露店の“移動仕立て屋”を始めます。でも、そんなところでスーツを買う人はいません。シャイな彼の前を通りかかるのは魚や野菜を買う女性ばかり。ウェディングドレスを作ってくれない?お金はないけれど娘に贈ってあげたい。ある日そんな注文を受けます。背に腹はかえられない。恐る恐る、近所の裁縫上手な奥さんに教わりながら、女性の洋服、それも結婚衣装にチャレンジします。14歳から縫製の修行をしてきた彼、腕はいいのです。広場の、生魚を売る店の隣だろうと、きちんと三揃いのスーツを着て、ていねいなお客様対応もします。ちゃんとした仕事をすれば理解してくれる人はいる。お天道様は見ているのです!やがて……。髪の毛をきちんと整え、磨き上げた革靴を履き、寡黙だけれど、凛として。まさに紳士です。この時代に、決して生き方がうまいとはいえず、かえってコミカルな印象さえありますが、なにか、共鳴してしまいます。演じているのは。ギリシャのベテラン俳優、ディミトリス・イメロス。監督と脚本は、この作品が長編初となるソニア・リザ・ケンターマン。本国の映画祭で国営放送協会賞など三冠を獲得。世界各国の映画祭でも絶賛されています。太陽の国ギリシャ。エーゲ海沿いの町を、荷台に乗せた美しいドレスをはためかせ、オートバイでひた走る、三つ揃いを着たテーラーの姿は微笑ましく、きっと元気をもらえると思います。【ぴあ水先案内から】恩田泰子さん(読売新聞記者)「……監督は、視覚的な魅力に富んだキートンやタチの映画を参照したというが、さもありなん。古き良きものの中にある普遍的な魅力を主人公の存在を通して、きっちり描き出している。そしてそれが、そのまま今の世の中からはみ出した者への賛歌にもなっている。……」恩田泰子さんの水先案内をもっと見る()(C)2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.
2021年08月29日【おとな向け映画ガイド】韓国3大男優によるパニック・アクション『白頭山大噴火』、平和国家ノルウェーの汚点『ホロコーストの罪人』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/8/22(日)夏目深雪さんの水先案内をもっと見る()堀晃和さん(ライター&エディター)「……世界から注目を浴びるVFXスタジオ「デクスタースタジオ」の迫力の映像が見所だ。……」堀晃和さんの水先案内をもっと見る()紀平重成さん(コラムニスト、元毎日新聞記者)「……大噴火までのタイムリミットは75時間。そこに家族愛や国への忠誠心、さらにミッションを通じて育まれた友情まで盛り込まれ、見ごたえは十分……」紀平重成さんの水先案内をもっと見る()(C)2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED真実が明るみにでるのは70年後『ホロコーストの罪人』ノルウェーは、ノーベル平和賞の選考役をつとめ、イスラエルとパレスチナ解放機構の和平合意(オスロ合意)に尽力するなど、世界の平和に貢献する「平和推進国」のイメージがあります。そのノルウェーに、実は、汚点のような歴史がありました。第二次世界大戦中、ナチスのユダヤ人虐殺に国家機関が関与していたのです。「我々は“ホロコーストの罪人“です」という、まるで懺悔のようなテーマを持った、ノルウェー制作の映画です。オスロの町で商売を営むユダヤ人のブラウデ一家。長男は国際マッチでも活躍するボクサーです。彼はノルウェー人女性と結婚したばかり。平穏で幸せな日々を送っていました。しかし、その一家に不幸が押し寄せます。ナチスの指揮下にあったノルウェー秘密国家警察によるユダヤ人狩りです。最初は青年男子だけが国内の収容所で強制労働をさせられ、やがてそれがエスカレートしていきます。ある朝、突然、老いも若きも拘束され、オスロの港に集めらます。港に横付けされた船の行き先はポーランド。あのアウシュヴィッツ収容所です。ノルウェーに住むユダヤ人の多くがホロコーストの犠牲者となったのです。映画は、ブラウデ一家を中心にこの理不尽な悲劇を描いていきます。事件が明るみにでて、政府も公式に事実を認め、ノルウェー首相が謝罪したのは、70年後の2012年。この隠蔽は、“最大の罪”(映画の原題)といわれました。映画は、事実を元にしたマルテ・ミシュレの小説を原作に、1983年生まれのエイリーク・スヴェンソン監督(前作は、日本のアニメやコスプレ大好きの少女を主人公にした『HARAJUKU』)が映画化。2020年のクリスマスにノルウェー国内で公開され、大ヒットしています。【ぴあ水先案内から】池上彰さん(ジャーナリスト)「……、現代のノルウェー国民に対し、「あのとき、あなたの親たちは何をしていたのか」と問いかける映画……」池上彰さんの水先案内をもっと見る()中川右介さん(作家、編集者)「……物語が終わった後の、エンドロールの前に、後日談が字幕で出る。ここでの情報量が多く、そして重い。何度も衝撃を受けた。中川右介さんの水先案内をもっと見る()(C)2020 FANTEFILM FIKSJON AS. ALL RIGHTS RESERVED.
2021年08月22日【おとな向け映画ガイド】松坂桃李の孤高なマル暴刑事VS鈴木亮平の非道な極悪ヤクザ『孤狼の血 LEVEL2』、コロナ禍にぴったりの台湾ラブコメ『恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/8/15(日)笠井信輔さんの水先案内をもっと見る()よしひろまさみちさん(オネエ系映画ライター)「……本作はオリジナル脚本で挑戦してるんだけど、狂気がマシマシで最高。とめどない暴力の連続……」よしひろまさみちさんの水先案内をもっと見る()(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会IPhoneで撮影『恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~』潔癖症の若いカップルをめぐる台湾の恋物語は、このコロナ禍、妙にリアリティがあります。主人公のボーチン(リン・ボーホン)は重度の潔癖症。外出を避けて、仕事も極力家でこなせる翻訳業です。でも生活のためには、買い物にいかなくてはならないので。そのときは防塵服に防塵マスク、恐る恐る出かけます。パソコンのタイピングが不得意。全般的にぶきっちょさん。そんな彼が、たまの外出で、同じような防塵服を着た、同じように神経質そうな、やけにカワイイ、ジン(ニッキー・シエ)に、地下鉄のなかで出会います。同じスーパーに行き、様子を遠巻きにみると、どうも気が合いそう。ふたりのつきあいが始まるのですが、彼女はタイピングが早い! 補い合える関係であることがわかります。ひとつだけ難点は、趣味の万引き……。ふたりが付き合い始める映画の前半が、小物、ファッション、テンポのよさ、色の使い方、どこをとってもポップで、おしゃれです。『あの頃、君を追いかけた』など台湾の青春映画に、執行監督(日本でいえばチーフ助監督に近い)としてで関わってきたリャオ・ミンイーの監督デビュー作。全編iPhoneを使って撮影しています。機動的で、ロケ映像など、かなりフットワークが軽い感じです。ライフスタイルがよく似たカップル。一緒に暮らしはじめるのですが、あることがきっかけで関係がギクシャクしはじめます。ボタンの掛け違いというか、意見の食い違い……。後半はややほろにがさもある秀逸なラブストーリーです。【ぴあ水先案内から】紀平重成さん(コラムニスト、元毎日新聞記者)「……、いつの間にか「普通なんてつまらない。“偏人”でいいじゃないか」と互いの潔癖症に共感して同棲を始めた主人公ふたりを応援するモードになっています……」紀平重成さんの水先案内をもっと見る()春日太一さん(映画史、時代劇研究家)「……状況が変わってもなお相手を慮り続けること、差異を受け入れ続けること、その難しさが前後半の極端なギャップにより残酷なまでに突き刺さる……」春日太一さんの水先案内をもっと見る()(C)2020 牽猴子整合行銷股フン有限公司 滿滿額娯樂股フン有限公司 台灣大哥大股フン有限公司
2021年08月15日【おとな向け映画ガイド】村上春樹原作、カンヌ映画祭脚本賞受賞『ドライブ・マイ・カー』、R15+指定の“カイジュウ”映画『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/8/8(日)平辻哲也さんの水先案内をもっと見る()伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……登場人物たちが徐々につながり合い、刺激し合って変化していく光景が美しくさえ感じる。……」伊藤さとりさんの水先案内をもっと見る()(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会悪のドリームチーム!『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』えっ?これがおとな向き? と思われるかもしれません。もう全編荒唐無稽、ブラックだし、ばんばん人も殺されます。まじめにバカやってます。はじけるようにポップでわくわくします。やんちゃな心を失っていないおとなの人向けの映画、なのです。R15+、子どもは観られません。大ヒットした前作『スーサイド・スクワッド』の続編作りを依頼されたのはジェームズ・ガン。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』という、銀河のけったいなはみだし者たちが大暴れする、マーベル映画でもカルト的な人気作品を手がけた鬼才の起用です。今回は初のDC映画ですが、さすが、といいますか、期待に応え、いやそれ以上の破天荒ぶりです。世界を揺るがす悪に対抗するため、全員終身刑の身という「”極”悪党」たちが、米政府により、超法規的処置で集められます。うまくいけば減刑、そむけば頭に埋め込められた爆発物が作動して……お約束は今回も同じ。彼らのミッションは、その名も「カイジュウ計画」、謎の巨大怪獣に立ち向かいます。その怪獣のなんとおぞましいこと。日本の怪獣映画好きのジェームズ・ガンらしい内容です。集められたのは、おなじみのハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)や、スーパーマンを半殺しにしたブラッドスポート(イドリス・エルバ)ほか。それぞれのキャラクターと得意技は笑っちゃいます。ネズミをあやつるラットキャッチャー2、水玉模様のキャラのポルカドットマン、そして極めつきはサメ男キング・シャーク。声を担当しているのは、あのシルヴェスター・スタローンです。アメコミ選抜、悪のドリームチームを組織する政府の司令塔はアマンダ(ヴィオラ・デイヴィス)。彼女とそのスタッフの動きは相変わらずサスペンスフルですが、コミカルな味つけがされていて、これもノリがいいんです。前作よりもパワーアップ。全く新しい”スースク”です。とにかく「面白かったあ!」という言葉が口をついてでて来ること必至。後で頭をかかえちゃうなんてことは決してない、痛快無双の1本です。(C)2021 WBEI TM & (C)DC
2021年08月08日【おとな向け映画ガイド】志村けんから沢田研二へ『キネマの神様』、金と夢を取り戻せ!『明日に向かって笑え!』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/8/1(日)植草信和さんの水先案内をもっと見る()平辻哲也さん(映画ジャーナリスト)「……沢田研二は、そのバトンを受け取り、志村さんの思いをまといながらの演技を見せる。……沢田なしに、この映画は成立しなかった。その決断には拍手を送りたい。……」平辻哲也さんの水先案内をもっと見る()笠井信輔さん(フリーアナウンサー)「……涙なしには観られないクライマックスに、これは山田監督の今は亡き奥様に対するラブレターなのではないかと強く感じた。」笠井信輔さんの水先案内をもっと見る()(C)2020「キネマの神様」製作委員会正直者たちがリベンジ!『明日に向かって笑え!』「アルゼンチン版“オーシャンズ11”」と紹介されることもありますが、そんなにカッコよくありません。ごく普通のおじさんおばさんによる金庫強盗です。でも、だからこそ痛快! 本国アルゼンチンで公開年1位の大ヒットとなった、実に楽しいエンタテインメント映画なのです。2001年。元サッカー選手、いまは細々とガソリンスタンドを経営する主人公フェルミンが、友人たちと農業協同組合を作ろうと、なけなしの金をかき集め、銀行に預けるのですが、国が金融危機に陥り口座が凍結してしまいます。ところが、事態に便乗した銀行の支店長と悪徳弁護士がその預金を奪い取ったことを知り、リベンジ大作戦を企てるのです。脚本を担当したエドゥアルド・サチェリの原作小説を映画化。監督はセバスティアン・ボレンステインです。主人公のフェルミン役はアルゼンチンを代表する名優でプロデューサーでもあるリカルド・ダリン。彼をはじめ、ほとんどのキャストが60〜70代の実力派です。それぞれの積み重ねてきた“知恵”や“技術”がこの大作戦に結集します。あんがい陽気に、まるでサッカーのゲームのように、金庫奪還に挑む、というコメディタッチの展開が、確かに、ちょっと荒削りな『オーシャンズ11』を観ているようです。【ぴあ水先案内から】野村正昭さん(映画評論家)「……アテにならない政府や悪徳エリートを叩きのめす、ストレス解消に最適」野村正昭さんの水先案内をもっと見る()(C)2019 CAPITAL INTELECTUAL S.A./KENYA FILMS/MOD Pictures S.L.
2021年08月01日【おとな向け映画ガイド】待望の映画化、ブロードウェイミュージカル『イン・ザ・ハイツ』と、台湾の大ヒットホラー『返校言葉が消えた日』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/7/25(日)渡辺祥子さんの水先案内をもっと見る()(C)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved台湾のホラーゲームが原作『返校言葉が消えた日』このところ台湾映画に傑作が多く、目が離せません。2019年、台湾最大のヒットになったこの『返校』も、サイコホラーなのですが、盛り込まれた内容がとても奥深く、怖いだけにとどまりません。他の国ではなかなか真似できない独特の世界を作りだしています。台湾で流行ったホラーゲームが原作だそうです。時は1962年、’’白色テロ時代"と呼ばれ、まだ台湾が言論の自由を制限されていたころ。国民党政権の統制下で、反抗する者は次々と逮捕され、処刑も行われていました。密告の奨励など、人間不信が極限に達していた暗い時代が舞台です。学校にも国民党の軍服をきた教官が常駐し、生徒や教師に反政府分子がいないか目を光らせています。そんな中で、自由を求め、禁制本を読む"読書会"を開くグループがいました。主人公の女学生ファン・レイシン(ワン・ジン)もそのひとり。ある放課後、読書をしたまま眠り込んでしまった彼女が目を覚ますと、あたりは暗く、空気がいつもと違う。なぜか廊下にでても出口が見えない。彼女は学校に閉じ込められてしまったのです。校内をさまよううちに、荒らされた読書会の残骸や、会を開いて逮捕された教師たちの悪夢のような姿に遭遇し……。ホウ・シャオシェンの『悲情城市』、エドワード・ヤンの『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』という台湾ニューウェイブを代表する作品で描かれたのが、まさにこの白色テロの時代。時を経て、ジョン・スー監督がふたたびテーマとしてとりあげました。その背景には、やはり、昨今の中国による台湾への圧力など、嫌な時代に向かうのではという警戒心もあるのでしょう。【ぴあ水先案内から】立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター)「……かなりスタイリッシュでシュールな映像で描いた衝撃的なダーク・ミステリー……」立川直樹さんの水先案内をもっと見る()佐々木俊尚さん(フリー・ジャーナリスト)「……その結末のあまりのものがなしさに言葉を失う。台湾映画にまた傑作が登場した。」佐々木俊尚さんの水先案内をもっと見る()高橋諭治さん(映画ライター)「……怪奇幻想が渦巻く異次元的な世界観は台湾版『サイレントヒル』と言うべきか。フラッシュバックを多用し、パズルのように哀しい真実を浮かび上がらせていく展開はドラマ性も高い。……」高橋諭治さんの水先案内をもっと見る()春日太一さん(映画史・時代劇研究家)「……時代と権力に翻弄された人間模様を追った重厚な社会派ドラマなので、ホラーが苦手な人も堪能できるはず……」春日太一さんの水先案内をもっと見る()(C)1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.
2021年07月25日【おとな向け映画ガイド】捨てられた犬猫の命を救う『犬部!』と、ユダヤ人がナチスにリベンジ『復讐者たち』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/7/18(日)「犬部!」製作委員会ドイツ人600万人暗殺計画『復讐者たち』第二次世界大戦中、ナチスが強制収容所で600万人におよぶユダヤ人を大量虐殺した、いわゆるホロコーストの惨劇は知っています。けれども、この映画で描かれた、被害者のユダヤ人に、その復讐でドイツ人を大量殺戮する計画があった、ということは知りませんでした。「プランA」と名付けられたこの計画を、真正面からテーマにし、映画化したのは初めてです。戦後80年近くになるというのに、まだ「驚きの実話」が映画で登場するとは…。強制収容所から解放された主人公マックスは、難民キャンプで、離れ離れになった妻と息子を捜します。ふたりが虐殺されたことを知り、ナチスへの復讐を誓います。彼はパレスチナのユダヤ人によって編成された過激派「ユダヤ旅団」に接触し、さらに“ドイツ人を600万人殺す”計画をもつ「復讐(ナカム)」の活動にも加わっていきます。映画は、秘密組織にマックスが加わっていく過程と、着々と進められる恐怖の復讐計画、彼らを阻止しようとするユダヤ人軍事組織「ハガナー」の動きなどが、サスペンスフルに同時進行していきます。監督と脚本はイスラエル出身のドロン・パズ、ヨアヴ・パズ兄弟。スリラー、ホラー作品の経験はありますが、ここまでの大作は初めて。マックス役は、昨年公開された『名もなき生涯』で、ナチスへの忠誠を拒み続ける農夫の役を演じたドイツの名優、アウグスト・ディールです。ナカムの女性メンバー役に、『蜘蛛の巣を払う女』のシルヴィア・フークスも出演しています。この映画制作のきっかけとなったのは、監督の友人からきいた祖父の実話だそうです。「祖父が収容所からなんとか解放され、我が家にもどったところ、隣人が我が物顔に住んでいた。その隣人こそ、祖父一家が隠れていた場所をナチス兵に密告した本人だった。家族が惨殺されひとり残った祖父はその隣人を復讐のため殺した。この秘密を、祖父は亡くなる数年前まで家族に話さなかった。」このエピソードは映画にも描かれています。【ぴあ水先案内から】池上彰さん(ジャーナリスト)「……妻子をナチスに殺され、復讐を誓いながらも両者の間にあって揺れ動く男の目から戦後ドイツの知られざるユダヤ人たちの姿を描きます。……」佐々木俊尚さん(フリー・ジャーナリスト)「……ある登場人物が「いい人生を送ることこそが復讐だ」というセリフを吐く。この言葉が、わたしにはいちばん刺さった。……」植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)「……“憎しみの連鎖は断てるのか”という人類の永遠のテーマに挑んだ……」 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cineplus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE
2021年07月18日【おとな向け映画ガイド】リーアム・ニーソンがまたキレる『ファイナル・プラン』、米アカデミー賞候補になった中国の純愛映画『少年の君』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/7/11(日)高松啓ニさん(イラストレーター)「……普通に自首しないでアニーと結婚すればいいのにという疑問も残るが、そこは原題となる“正直泥棒”たる所以かな? 触らぬリーアムに祟りナシだね。」 Honest Thief Productions, LLCガリ勉女子高生と街のチンピラの愛『少年の君』純愛映画です。ガリ勉の女子高生と街のチンピラ、およそ関係を持ちそうもないふたりが主人公。とくれば、許されぬ階級違いの恋でまわりの無理解に苦しむ…という涙、涙の悲恋ものか、と思いますが、そうではありません。不器用だけど、精一杯、自分たちが信じた愛に誠実にあろうとする恋人たちの「純愛映画」なのです。ガリ勉と書きましたが、中国の受験戦争は生半可ではありません。6月に行われる「高考(全国統一大学入試)」に人生の全てがかかっています。この得点で大学の合否が決まります。主人公のチェン・ニェンがめざすのは中国でもトップの北京大学、清華大学クラス。描かれる受験校の姿は、日本の我々でも信じられない風景です。高度成長の裏にある壮絶な競争社会、それが現代の中国です。そんななかで、陰湿ないじめがはびこり、チェン・ニェンはある優しい行動をしたためにグループの標的となります。彼女の母はシングルマザーで、娘の学費稼ぎのためにあやしげな美容商品のセールスで出稼ぎにでています。それもいじめの材料です。誰も味方にはなってくれません。そんなとき、下校の途中の街なかでチンピラ同士の小競り合いに遭遇し、シャオベイと出逢います。彼はストリートでその日ぐらしをする不良少年ですが、ふたりは惹かれあいます。しかし、事件が起き……。チェン・ニェンを演じているのはチョウ・ドンユィ。チャン・イーモウの『サンザシの樹の下で』(2010)がデビュー作ですが、女子高生役でも全然不自然ではありません。さすが「13億人の妹」です。シャオベイ役はトップアイドルグループ、TFBOYSのイー・ヤンチェンシーです。香港の名優エリック・ツァンを父に持つデレク・ツァンの監督第2作目。中国本土での公開は大した宣伝もされなかったにもかかわらず日本円にして興収280億円を超える大ヒット。香港アカデミー賞(香港電影金像奨)で作品賞ほか8部門を受賞するという最大級の評価を受けたうえ、米アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされました。受験の直前から始まり、息詰まる展開が続きます。が、ミア・ファローの名作『フォロー・ミー』のようなこころ和むシーンもあり、とてもよい後味。青春映画の名作と思います。【ぴあ水先案内から】佐々木俊尚さん(フリー・ジャーナリスト)「……すべてのシーン、すべてのセリフ、すべての映像が鮮烈で胸に突き刺さってくる。終盤、笑顔が交わされるシーンにはただただ万感胸に迫る。」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……キャスティングも絶妙で、一番見て欲しい思春期の若者に「人を傷つけないで」と伝える為に作られた気がしてならないです。大傑作!」高崎俊夫さん(フリー編集者、映画評論家)「……今の中国が抱える、容易に解消するのは不可能な、根深い格差や暴力、貧困の問題を、初々しくも鮮烈な青春映画というフォームを使って、見事に浮かび上がらせているのだ。」紀平重成さん(コラムニスト、元毎日新聞記者)「……中国の進学校に通う優等生の少女チェン・ニェンと不良シャオベイとの純愛物語ともいえるし、二人が巻き込まれる殺人事件の謎を解いていくサスペンスとしても堪能できる第1級の娯楽作……」 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd. ALL Rights reserved.
2021年07月11日【おとな向け映画ガイド】気分が晴れる2本。韓国OL奮闘劇『サムジンカンパニー 1995』、世界大会に挑むゲイの水球チーム『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/7/4(日)植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)「……爆笑、苦笑、失笑の渦のなかから、恐怖と怒りがせり上がる。…観る者を慄然とさせるシリアスなコメディ映画だ。……」夏目深雪さん(著述業、編集業)「……このうえない感動を呼ぶだけでなく、韓国の近現代史を肌で感じることのできる作品となっている。」紀平重成さん(コラムニスト、元毎日新聞記者)「……(最近の韓国映画は)どちらかと言えばシリアスな作品が目立ちます。そんな中で本作はエンタメ色を意識して90年代を回顧する作品なのかもしれません。」高松啓ニさん(イラストレーター)「……舞台となる1990年代の肩パットの入ったスーツやバカでかいPCなど時代のムードを出しており……」 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.これも実在の水球チームのお話『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』ゲイの弱小水球チームが世界大会をめざす、という最近ありがちなパターンの映画、ではあるのですが、これがケッサク!50メートル自由形の銀メダリストが、同性愛差別発言で世界水泳の出場資格を失ってしまいます。フランスの水連(のような組織)が彼に提示した挽回策は、世界大会をめざす水球チーム「シャイニー・シュリンプス」のコーチ役をつとめること、でした。世界大会といっても「ゲイゲームズ」というLGBTQ+スポーツの祭典。水連がゲイの水球チームに力を貸すという設定が、すごいというか、日本ではありえない。しかも、このチーム、実在するんです。刈り上げた頭、タトゥーありのいかついゲイ嫌いのコーチが、ゲイに何の偏見もない現代的な娘の後押しもあって、次第にチームのみんなと心を交わしていき、クロアチアで行われるゲイゲームズの大会まで遠征、という展開になるのですが……。それにしてもチームのメンバーがそれぞれ個性的で、ユーモアセンスも抜群。みんな悩みを抱えながらも、愉しむことを忘れません。強豪レズビアンチームと予選で戦ったり、水球リーグのことや、ゲイゲームズの仕組みについては、観ていてもよくわかりませんが、まぁ、固いことはいいっこなし。2019年、フランスでの公開時は初週動員NO1のヒットだったといいます。「シャイニー・シュリンプス」に7年間所属したことのある、セドリック・ル・ギャロが、体験したこと、見聞きしたエピソードをもとに脚本化し、マキシム・ゴヴァールと共同監督しています。性的結合手術をしてチームに帰ってきた、つまり女性の体になったメンバーの役は、リアリティを追求する監督の執念で、パリの歓楽街ピガールのキャバレー「マダム・アーサー」の踊り子だったロマン・ブローを探し出したそうです。ゲイであることへの世の中の偏見にもちらっとふれますが、全体を通して、とても明るく、あけっ広げで、人生ってこれだから楽しいじゃない!という気分になれる映画です。【ぴあ水先案内から】伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……当事者だからこそリアリティある感情の揺れを演技で見せ、観客の私たちにも伝わった……」野村正昭さん(映画評論家)「……メンバーそれぞれが抱える苦悩を繊細に描き、笑って泣かせる好篇……」 LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS
2021年07月04日【おとな向け映画ガイド】ゲイカップルの旅路の先に-『スーパーノヴァ』、津軽・メイドカフェの青春『いとみち』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/6/27(日) British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.けっぱれ!三味線少女『いとみち』全編、津軽弁が飛び交い、字幕があれば助かると思うのですが、展開が理解できないわけでなく、観ているうちに、そのフランス語のような語感がかえって魅力的に聞こえてきます。横浜聡子監督は、安田顕が主演した『俳優 亀岡拓次』を観て、注目するようになりました。テレビドラマの『バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』の演出も担当。次回作を楽しみにしていました。青森出身。『ウルトラミラクルラブストーリー』(松山ケンイチ主演)などを含め、これが4度目のオール青森ロケ作品です。いと、という名の女子高生が主人公。津軽方言を研究する学者で東京出身の父と、津軽三味線の名手でもあるおばあちゃんと三人暮らし。青森は早くに亡くなった母の郷里です。このおばあちゃんの影響で、いとは三味線の腕も確かですが、津軽弁もこてこて。「ご飯だよ、食べなさい」を「まま、けーっ」と言うのですから。クラスのみんなからあきれられるほど。そのいとが、なんと、人見知り解消とでも思ったのか、青森市のメイドカフェでアルバイトを始めるという、ある夏のドラマです。いと役の駒井蓮を見ているだけで、幸せな気持ちになれる映画です。彼女も青森出身。発音は確かです。おばあちゃん役の西川洋子は、『竹山ひとり旅』などで知られる津軽三味線の巨星、高橋竹山の最初の弟子とのこと。この人のセリフがまたすごい。よくわからないのだが、ハートにびんびん響きます。父親役は豊川悦司。宇野祥平、古坂大魔王といったくせの強い役者さんも活躍します。「め」という一文字、その意味を、映画を観た翌日に調べました。娘のことを心配して店を訪れた父親が、帰りしなに書いて残したメッセージです。わたしの映画の感想も、こんな感じ。【ぴあ水先案内から】野村正昭さん(映画評論家)「……『竹山ひとり旅』(77) や『夢の祭り』(89)『オーバードライヴ』(04) などの系譜に連なる津軽三味線の映画でもある。……」『いとみち』製作委員会
2021年06月27日【おとな向け映画ガイド】時空を超えるファンタジー2本、あの世界的SF小説を初映画化『夏への扉』、消えたバレンタインデー『1秒先の彼女』をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/6/20(日)波多野健さん(TVプロデューサー)「……山下達郎さんのために吉田美奈子さんが書いた『夏への扉』の中に出てくる「そしてピートと永遠の夏への扉開け放とう」というところではいつもグッと来てしまう。その映画化なのだが、これがいいのだ。……」目覚めたら昨日が消えていた!『1秒先の彼女』交番に飛び込んできた若い女性と警察官の会話。「どうしました?」「なくし物を」「何をなくしました?」「1日を。今朝起きたら昨日の記憶がないんです。昨日1日が私の中から消えてしまったんです」シュールなコントのような始まりです。映画の原題は「消失的情人節」、訳すと“消えたバレンタイン・デー“。大ヒットし、台湾アカデミー賞(金馬奨)で最優秀作品賞など5部門を受賞した作品です。台湾では、2月14日と七夕7月7日の両日をバレンタインデーと言います。その7月7日に起きた珍事。時にまつわる、ファンタジックなラブコメです。丸1日をなくしたという主人公、シャオチーさんのキャラクターが笑えます。子どものころからせっかちというか、ダンスも水泳も、映画を観て笑うタイミングも、人よりワンテンポ早い。記念写真は目をつむったものしかありません。職場は郵便局の窓口。30歳を前にした彼女のまわりはセクハラでいっぱいです。郵便局にやってくるお客もさまざま。なかには、毎日のようにやってきて、切手を1枚だけ買い、彼女の目の前で封筒に貼って差し出す風変りな青年とか。そんな客のなかで、バレンタインデーを前に彼女をデートに誘う男性が現れますが……。シャオチーを演じているリー・ペイユーがなんとも魅力的です。物語が進むうちにどんどん素敵にみえてくる女優さん。役柄もそれが活きています。明るいキャラクターでMCとしても人気だそうです。ストーリーは台湾 チェン・ユーシュン監督のオリジナル。金馬奨では、作品賞の他に、監督、脚本、編集、視覚効果賞も獲得しています。多くは説明しませんが、「視覚効果賞」はものすごく納得できます。『TENET テネット』とか、いくつかのファンタジックな映像を思い出します。ホントどうやって撮ったのでしょう。【ぴあ水先案内から】笠井信輔さん(フリーアナウンサー)「……前半は女性の視点から、後半は男性の視点から描かれるのがミソ。謎がだんだん紐解かれる過程、これが実に面白い。……」春日太一さん(映画史・時代劇研究家)「……ヒロインを演じるリー・ベイユーの一挙一動、細かい表情に至るまで全てが実にキュート。作品全体を包む優しい空気とあいまって、彼女自身の奮闘と、彼女に惹かれ続ける男性と、その双方を温かく見守りたくなる……」紀平重成さん(コラムニスト、元毎日新聞記者)「……終わりに向けさまざまな伏線を回収していく展開により、楽しさも倍増です……」
2021年06月20日【おとな向け映画ガイド】強欲で傲慢で悪趣味『グリード ファストファッション王国の真実』、アクションスター岡田准一が光る『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』の2本をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/6/13(日)超ネコ舌のヒットマン『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』このアクション、日本映画の枠を超えている!と大興奮させてくれる作品です。コミック原作の大ヒットシリーズ2作目。肉弾合い撃つバトルだけでなく、建物をつかった大掛かりな追走シーンなどで、ハラハラドキドキ具合は前作以上といえます。パワーアップの「首謀者」は、ファイトコレオグラファーをも務めた俳優、岡田准一です。どんな相手も6秒で仕留めるという、天才的な”技術”を持つ、殺人マシーン、通称ファブル(寓話)が岡田の役。師と仰ぐボス(佐藤浩市)から1年間殺人を禁じられ、いまは「殺さない殺し屋」です。彼の生い立ち、ボスとの関係などは第一作で描かれていますが、相棒のヨウコ(木村文乃)と兄妹を装って、大阪の下町でひっそりと暮らしているという設定。殺し屋といえば、ストイックで寄るべない存在、がふつうですが、このファブルが面白いのは、なんか、この男、人づきあいがよく、実に愛すべきキャラの持ち主で、どこか浮世ばなれしたところがあることです。極端なネコ舌、変なコメディアンに夢中で、しかもワンテンポおくれてバカウケする。妙にかわいいイラストを描いたり……。今回の悪役は、表の顔は子どもを守るNPO団体の代表、裏の顔は犯罪組織の親玉・堤真一。彼の腹心の部下が安藤政信です。車椅子の少女ヒナコ(平手友梨奈)との再会がこの悪役たちとのバトルを呼ぶことになり……。ファブルが務めるデザイン会社のスタッフはおとぼけ担当・佐藤二朗以下前作と同じで、これが相変わらずおかしい。大阪でのファブルの協力者・安田顕はカメオ出演。登場すると「おお!」と声がでてしまうくらいのインパクト。相棒・木村文乃は岡田指導によるアクションシーンもあり、さらに存在感増してます。そんなふうに、前作を観た方たちへのめくばせもしつつ、観ていなくても十分に楽しめるように作られています。きっと配信などで前作を後追いしたくなるはず。【ぴあ水先案内から】野村正昭さん(映画評論家)「……彼が駆けぬけるシーンは、全盛期のジャッキー・チェン作品を彷彿とさせる……」
2021年06月13日【おとな向け映画ガイド】ダメ親父が突然変異!『Mr.ノーバディ』、オーダーメイドの時間旅行『ベル・エポックでもう一度』の2本をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/6/6(日)高松啓二さん(イラストレーター)「……ボブ・オデンカークの特徴の無い顔が本作にピッタリで、後の派手なアクションのギャップにも効果的に作用している……」h あの日に帰りたい!『ベル・エポックでもう一度』タイムトラベル、といってもSFの世界ではありません。なるほどこれは実現不可能ではない……、と思える「時間旅行」のお話です。思い出の、あの場所、あの日に帰りたい、誰もがふと考えますよね。“時の旅人社”が経営する「タイムトラベルサービス」は、行きたい時代と場所を再現する、いわば究極の体験型エンタテインメント。広大な敷地に映画の撮影所のような巨大セットを作り、当時の衣装を身にまとったエキストラや、希望する人物を用意してくれます。もちろん、時代考証や記憶のインタビューも念入りに、その場にいる人物のセリフ、行動など、すべてを再現するのです。デジタル化時代の流れに乗れず、仕事も妻も失いつつある初老のイラストレーター、ヴィクトルは、配信ビジネスで羽振りのいい息子にそのトラベルサービスをプレゼントされ、利用することになりました。オファーしたのは、「日時:1974年5月16日、場所:フランス・リヨンの街のカフェ」です。その日そこで、彼は人生を変える運命の女性と出会ったのです。時の旅人社の社長で旅の演出家でもあるアントワーヌは、息子の友人。ヴィクトルのため、出会う運命の女性役に自分の恋人で一番魅力的な女優マルゴをキャスティング、こころをこめて過去の“ひとコマ”を再現します。舞台となるカフェの名は、「ラ・ベル・エポック」。あの日は帰ってくるでしょうか、あの熱い感情は戻ってくるでしょうか……。この映画、「時間旅行」という仕掛けの魅力もさることながら、フランス映画界の至宝と言われるダニエル・オートゥイユ(ヴィクトル役)とファニー・アルダン(妻マリアンヌ役)が演じる、珠玉のラブコメディ。フランス本国でも大ヒットした作品です。観終わっていろいろ話題はつきません。しゃれたエンディングのこと、どの時代どの場所に行きたいか、とか、日本でやるとしたらこのサービス、いったいいくらかかるんだろう?とか。【ぴあ水先案内から】波多野健さん(TVプロデューサー)「……仕掛けがなかなかよくできていて、舞台裏からインカムで監督が指示を出したりと、あたかも『スパイ大作戦』を観ているような気分になり楽しい……」夏目深雪さん(著述・編集業)「…リアリティある展開で、70年代のレトロな美術も豪華、懐メロも気が利いているとなれば、2019年の仏の興行収入1位を『ジョーカー』から奪ったというのも頷ける……」首都圏は、6/12(土) からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、6/12(土)から伏見ミリオン座で公開。関西は、6/25(金)からシネ・リーブル梅田で公開。
2021年06月06日【おとな向け映画ガイド】ロバート・デ・ニーロはじめ、レジェンド三俳優による爆笑コメディ『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』と、難民から五輪へ『戦火のランナー』の2本をご紹介。ぴあ編集部 坂口英明21/5/30(日)春日太一さん(映画史・時代劇研究家)「……既に確固たる地位を築いたレジェンド級のベテランが過去の名声に胡座をかくことなく、“現役”として奮闘して新たな魅力を見せてくれる姿に出会うのは至極の喜びだ。」植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)「……ドタバタ騒動の中に、出資者、製作者、主演者三人三様の屈折した“映画愛”をにじませて映画ファンの心をくすぐる。……」高松啓二さん(イラストレーター)「……メル・ブルックスの『プロデューサーズ』に似ているが、本作の最大のギャグはキャスティングにある。……」ひたすら走って、生き延びる『戦火のランナー』本来なら、公開はドンピシャのタイミングなのですが、今やビミューな雰囲気です。内戦を生き延び、マラソンランナーとして東京オリンピックを目指している、グオル・マリアルという青年を追ったドキュメンタリー。監督はアメリカのビル・ギャラガーです。彼の母国は、北アフリカの南スーダン共和国。2011年に、23年に及ぶ内戦を経てスーダンから独立した「世界で最も新しい国」。国はできたものの、2016年には再び紛争が勃発しています。その紛争に、日本の自衛隊が国連平和維持活動、いわゆるPKOに参加したこともあり、日本では比較的聞いたことのある国でしょう。想像を絶する半生です。内戦の戦禍を避けるため、両親は8歳のグオル君をたった一人で村から逃がしました。頼る人はいません。途中で武装勢力に捕らえられてしまうのですが、なんとか逃げ延び、難民としてアメリカに渡ります。高校はアメリカ。ここで陸上選手、マラソンランナーとしての天分に気づきます。少年にとって戦場の攻撃から生き延びる手段は“ひたすら走って逃げる”しかなく、彼は皮肉にも辛い戦場でランナーとしての基礎を築いていたのです。目指すはオリンピック、です。となると気になるのは、兄弟をはじめ多くの犠牲の上で独立した母国のこと。彼がランナーとして活躍をはじめたころ、南スーダンが独立します。国のために走る…、我々にとっては、今や、やや時代遅れのように感じますが、母国が大変な苦難のうえ誕生したばかりとなれば、その気持ち、わからなくはありません。建国1年後の2012年に行われたロンドン五輪や2016年のリオ五輪で、彼の参加が実現するまでの騒ぎと結末、同郷人たちの応援、映画で語られるすべてがドラマチックです。が、ドラマはまだ終わりとはなりません。さて、グオル君は東京五輪の舞台に立てる、のでしょうか?【ぴあ水先案内から】池上彰さん(ジャーナリスト)「……「南スーダンの選手たちは東京オリンピックを目指して走り続けます」という最後の字幕を見ると、開催が危ぶまれているだけに涙腺が緩みます。」村山匡一郎さん(映画評論家、大学講師)「……内戦下で彼は敵側の兵士に捕らえられるが、走って逃げることで生き延びる。その思い出は、マリアル選手にとって、走ることが生きることにつながるまさに象徴といえる。……」堀晃和さん(ライター、エディター)「……独立後も貧しく紛争が絶えない祖国の環境を少しでも変えようと、走り続けるグオルの姿が胸を打つ。」首都圏は、6/5(土) から渋谷 シアター・イメージフォーラムで公開。中部は、6/19(土)から名古屋シネマテークで公開。関西は、6/11(金)からアップリンク京都で公開。
2021年05月30日【おとな向け映画ガイド】女性の生きづらさを描いた2作品。コロナ禍の『女たち』、北マケドニアの『ペトルーニャに祝福を』。ぴあ編集部 坂口英明21/5/16(日)平辻哲也さん(映画ジャーナリスト)「……コロナ禍前にあった企画をブラッシュアップし、コロナ禍の日常を盛り込むことで、ヒロインのギリギリ感が、より切実になった。……」野村正昭さん(映画評論家)「……内田伸輝監督は、余分な贅肉を削りとり、ひたすら登場人物の心理を注視し、美しい自然との対比の中で、それはさらに浮き彫りにされる。……」首都圏は、6/1(火)からTOHOシネマズシャンテで公開。中部は、伏見ミリオン座他で近日公開。関西は、大阪ステーションシティシネマ他で近日公開。私は幸せになりたい!『ペトルーニャに祝福を』同調圧力、女性蔑視…、こめられたテーマはシリアスなものですが、独特の東欧的ユーモアと言いますか、のんびりとしている割には皮肉も効いている、まさにおとな向きの映画です。マケドニア、といえば世界史で習ったアレクサンドロス大王の大帝国をイメージしますが、あれは2300年も前の話。いまは、ユーゴスラビアから独立した人口200万人くらいの小国です。ギリシャとの国名本家争いがあり、2019年に「北マケドニア」を名乗ることで落ち着いた国。映画制作はそんなに活発ではなく、日本で公開されるマケドニア作品は20年ぶりだそうです。主人公のペトルーニャは32歳の女性。大学をオールAで卒業したものの、職はなく、その日も縫製工場の面接に出かけたのですが、年齢を誤魔化して「20歳です」といったら「42歳に見えるよ」と完全セクハラのイヤミを言われ、腐りながらの帰り道。偶然ある宗教行事に出くわして、彼女の人生が一変します。北マケドニアの主な宗教はキリスト教系の東方正教会。1月の「神現祭」では、司祭が十字架を川に投げ込み、それを男だけが競って奪い合うという行事があります。最初に掴み取ったものは、幸せになれる。目の前に飛んできたので、ペトルーニャは川に飛び込み、なんと十字架を手にしてしまいます…。大騒ぎとなり、彼女は警察に拘束されます。その様子を地元のテレビが報じ、話は社会問題化していくのです。監督のテオナ・ストゥルガル・ミテフスカは北マケドニアの出身。実際に2014年に起きた事件を下敷きにして映画化しています。幸せを求める人に向けて、投げ込まれた十字架。「幸せになる権利は私にもあるはず」、ペトルーニャの言葉は全く正しいと思えます。【ぴあ水先案内から】池上彰さん(ジャーナリスト)「……そういえば日本の相撲の土俵も女人禁制だったと思い出すのですが、きっとペトルーニャのような女性によって、『伝統』の名の下の女性差別は消えていくことになるのでしょう。」春日太一さん(映画史・時代劇研究家)「……寒々しく荒涼としたマケドニアの景色がヒロインを取り巻く過酷な状況にマッチ、その理不尽さを際立たせていた。」首都圏は、5/22(土)から岩波ホールで公開。中部は、6/12(土)から名演小劇場で公開。関西は、6/11(金)からテアトル梅田他で公開。
2021年05月16日【おとな向け映画ガイド】コロナなんかに負けてたまるか!『茜色に焼かれる』にこめた、石井裕也監督の力強いメッセージ。ぴあ編集部 坂口英明21/5/9(日)平辻哲也さん(映画ジャーナリスト)「……何より素晴らしいのは、尾野真千子だ。苦境に立たされても、決して生き方を曲げない肝っ玉母ちゃんぶりにしびれた。劇中、何度も出てくる「まぁ頑張りましょう」という言葉もいい。……」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……辛い話ほど人にできない、自分の話なんて面白くもない、だから笑って取り繕って、そうすると一気に重圧がかかるのに、それでも人に負担をかけない存在を選んでいく主人公……」
2021年05月09日【おとな向け映画ガイド】圧倒的な演技、米アカデミー賞主演男優賞アンソニー・ホプキンスの『ファーザー』をおすすめ。ぴあ編集部 坂口英明21/5/2(日)紀平重成さん(コラムニスト、元毎日新聞記者)「……過去の記憶は失われても怒りや悲しみといった感情は豊かに持ち続けることができるという病気の基本をしっかり押さえました。……」高松啓二さん(イラストレーター)「……まるでサスペンスホラーのようだ。特に頻繁に映るドアとシンメトリーの室内が、恐怖を演出する。……」
2021年05月02日【おとな向け映画ガイド】今週は、ぶっとび人生!『ビーチ・バム』、恋のリブート?『ラブ・セカンド・サイト』をおすすめ。ぴあ編集部 坂口英明21/4/25(日)岡田秀則さん(国立映画アーカイブ主任研究員)「……ブノワ・デビエという撮影監督を引っぱってきたことで、ハーモニー・コリンの映画は「蛍光する映画」になった。時に毒々しい人工色で覆われるその世界は、この世の風景ではないようにも見え、それでいて人物たちの虚無もくっきり映し出している。……」細谷美香さん(映画ライター)「……彼に寄り添う白猫ちゃんが危険な目にあわないかちょっと心配になりますが、いつも超然としていてめちゃくちゃかわいいです。」恩田泰子さん(讀賣新聞記者)「……途中までは全然納得いかないが、だんだん愉快になってくるのは、私たちを縛る「常識」をラストの大花火に至るまで、徹頭徹尾ひっくり返してくれるから。たった一つ、「愛」だけは揺るがないけれど……」妻ともう一度『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』妻と喧嘩して、一夜明けたら別の人生になっていたー。昨日までは、人気SF作家だったはず。ところが、何かがちがう。妻はいないし、自分はどうやら普通の中学校教師のようだ。状況が飲み込めないまま、街にでると、バスの広告に妻の華々しい写真が。どうなっているのだ!最初の15分で、カップルのなれそめから危機までを実にコンパクトに描きます。高校時代にピアニスト志望だった妻と出会い、恋におち、やがて結婚。妻はしがないピアノの教師、勉強そっちのけでSFを書いていた自分は売れっ子小説家になった。ふたりの関係には亀裂が入りはじめ…。そして、パリが吹雪に見舞われた夜、アクシデントがおきます。迷い込んだ別の世界では、妻は自分を知らない、しかもスターになっている、この試練のなかで、彼は愛をとりもどせる?フランスで大ヒットとなった『あしたは最高のはじまり』のユーゴ・ジェラン監督によるオリジナル・ストーリー。映画サイトでは、2010年代公開のロマコメ映画ランキングで1位に選ばれた作品です。主人公ラファエル役はカンヌ国際映画祭でショパール・トロフィーを受賞し、フランスでいま注目されるひとり、フランソワ・シビル。妻オリヴィアを演じるジョセフィーヌ・ジャピがチャーミングです。ノートルダム大聖堂やエッフェル塔、オデオン座、と舞台となるパリの美しさも絶品。役者、シチュエーション、使われるクラシックの名曲、ロマンティック・コメディはこうでなくちゃ、夢見ごこちになれる映画です。【ぴあ水先案内から】春日太一さん(映画史・時代劇研究家)「……何より、新たな世界で再び二人が出会い、関係を築いていく姿にはハラハラさせられるのと同時に、その多幸感には尊さすら感じた。……」波多野健さん(TVプロデューサー)「……主人公ラファエルの親友フェリックス役のバンジャマン・ラヴェルネがすごくうまくて笑わせてくれた。この人のおかげでこの映画の楽しさが2段階くらいアップした感じ……」中川右介さん(作家、編集者)「……タイトルバックの数分で主人公夫婦の10年間を描いてしまう。これだけで一本の映画になりそうな密度で、見事だ。惹き込まれた……伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……フランソワ・シビルとジョセフィーヌ・ジャピはずっと見ていたいと思えるほど魅力的で、彼らの表情に一喜一憂しながら自分の人生と照らし合わせてしまう摩訶不思議な説得力は、ふたりが共演をきっかけに交際をスタートさせた互いへの吸引力のせいかもしれない……」
2021年04月25日【おとな向け映画ガイド】本好きにはたまらない『ブックセラーズ』、ネット性犯罪の実態『SNS-少女たちの10日間-』、やばすぎるシリアルキラー『スプリー』の3本をおすすめ!ぴあ編集部 坂口英明21/4/18(日)渡辺祥子さん(映画評論家)「……本の素晴らしさを語る書店の主人やコレクター、書評家を見せる、本好きの人のためのドキュメンタリー……」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……ブックセラーとは探検家。映画的に言うならインディアナ・ジョーンズってとこ。そしてその本の魅力を引き出す工夫もブックセラーのセンス次第…」植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)「……登場する書店主いわく「本に正しい家を見つけてやるのは医者が患者を治すのに似ている」。そんな彼ら彼女らの本への愛情……」高松啓二さん(イラストレーター)「……。やっぱ古本屋はいいなあ!」村山匡一郎さん(映画評論家、大学講師)「……書籍の取引や書店をめぐる裏話や歴史的エピソードが次々と描かれ、本好きならワクワクするほど堪らない世界である。……」禁断のリアリティショー『SNS-少女たちの10日間-』おとり捜査風ドキュメンタリーというか、これはまた、すさまじい内容の映画です。10代の若者が、SNSにより、どれほど性犯罪の危険にさらされているかを告発しているのですが、その手法は大胆で、少女にむらがる大人たちの性欲も尋常なものではありません。2017年、チェコ。撮影スタッフは、12、13歳想定で少女3人の偽アカウントを巧妙に作り、接触してくる男性とのやりとりをカメラに収めていきます。少女役を演じるのは3人の女優(18歳以上)。らしく見えそうな女性をオーディションで選びます。さらにスタジオに、ディテールに気を使った3人の部屋をセットとして用意します。登録後たった5時間で、83名の成人男性がコンタクトしてきます。それから10日間。なんと2458人の男たちが、10代と知りながらアプローチ、その多くが性犯罪に近い行為に及んだのです。撮影には、精神科医、生化学者、弁護士など、バックアップスタッフを用意、興味本位でないことはわかります。映像にはぼかしが入っていますが、これを生で見せられたらと思うとぞっとします。【ぴあ水先案内から】池上彰さん(ジャーナリスト)「……この映画は、幼い娘を持つ親に対し、子どもがネットでどんなやりとりをしているかに無関心だと、どんな危険が待ち構えているかを警告しています……」村山匡一郎さん(映画評論家、大学講師)「……SNSが常態化した今日の子供たちの危機を訴える効果はあるとはいえ、その作為性は、隠し撮り手法の延長にある盗撮に似て、倫理的な問題を改めて浮上させないだろうか。……」ライドシェア・アプリ連続殺人鬼!?『スプリー』これはフィクションですが、SNS時代ならではの設定と内容、毒気のきいたアクション・スリラーです。「スプリー」というのはライドシェア(相乗り)アプリのこと。アプリで申し込むと近くを走る契約者がそれに応えて車に乗せてあげるというサービスです。そのスプリーのドライバー、名前はカート。みためは普通ですが、SNSにどハマりしていて、フォロワーを増やしたいがために、乗客の殺害現場をライブストリーミングで実況中継しようと思いつき、決行する、そんな内容です。狂っています。ドライバーもおかしいし、乗ってくるお客もへんなのばかり。映像は、カートがライブ中継用にセッティングした車載カメラのものから、客のスマホで撮った映像、SNS画面など入り乱れます。みんながみんな、どうしたらバズるかにいのちをかけていて、笑えます。アメリカ・インデペンデント映画シーンの晴れ舞台、サンダンス映画祭でのプレミアでバカウケ。小規模公開から始まり、バスりに成功したというやんちゃな作品です。監督はウクライナ出身のユージーン・コトリャレンコ。これまでもビデオチャットを使った野心的な作品で知られています。彼の作品が日本で上映されるのはこれが初めてです。カートを演じたジョー・キーリーはInstagramのフォロワー数が700万を超える人気者、次回作はディズニーの『フリー・ガイ』という注目の俳優です。首都圏は、4/23(金)からヒューマントラストシネマ渋谷他で公開。中部は、4/23(金)からセンチュリーシネマで公開。関西は、5/7(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。【ぴあ水先案内から】佐々木俊尚さん(ジャーナリスト)「……「ああこういう人、日本のSNSにも確かにいるなあ」と思わせる妙な説得力がすごい。……」相馬 学(フリーライター)「SNSの普及により承認欲求なる言葉が、しばし聞かれるようになったが、本作が描くのはその暴走だ。……」
2021年04月18日【おとな向け映画ガイド】シングルマザーの挑戦と葛藤『約束の宇宙』、演劇とライブと恋の街・下北沢の『街の上で』、今週はこの2本をおすすめ。ぴあ編集部 坂口英明21/4/11(日)高松啓二さん(イラストレーター)「……見所は、彼女の強靭ながんばりではなく、挫けそうな弱さを感じながらも働くリアルな女性の姿……」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……女の子に生まれたって、子供を産んだって、夢を叶えられる。『約束の宇宙』は、子供たちへ向けた未来へのメッセージなのだ。」シモキタのあそこもここも『街の上で』男子と女子がめぐりあい、会話をして、お互い、いろいろジャブいれながら、この人とひょっとして……と空想をめぐらす。『愛がなんだ』もそうだったのですが、そんなやりとりのシーンって、今泉力哉監督はうまいですよね。どこかにいそうな主人公、いつかおきそうなできごと。場所は下北沢の、ありそうなところ。古着屋の店員をしている青(あお)くんが、店番をしながらひまそうに本を読んでいるところが絵になると、自主映画の女性監督に気にいられ、出演依頼が舞い込みます。台本読んで、自分なりに稽古していったのですが、何テイクとってもうまくいかず、結局すべてカット、使われないことに。つきあわされた打ち上げの居酒屋で、隣りに座ったスタッフの女性と意気投合し、彼女の家へ。それでデキちゃうのかというと、ふたりはグダグダ話し続けるだけ。話題は青くんが最近フラれた彼女の話や相手の恋愛遍歴、たわいのないものです。古書ビビビ、古着のhickory、町中華・珉亭、ライブハウスTHREE、スズナリ、トリウッド……。シモキタの実在の場所を絶妙にとりこみながら、少しコミカルに進むラブストーリーは、あえていうなら初期のウディ・アレン作品の味わい。主人公はアレンのように神経質ではないし、のんびりしていて、好感がもてます。シモキタはマンハッタンみたいにリッチじゃないけど。青役は『愛がなんだ』にもでていた若葉竜也。同じく『愛が…』の成田凌が朝ドラにもでている役者という役どころで特別出演しています。この作品はコロナ禍で公開が1年ほど延期になりました。その間に、若葉君も『おちょやん』に抜てきされ、なんと、朝ドラのふたりが出演、という豪華キャストの映画になっちゃいました。【ぴあ水先案内から】笠井信輔さん(フリーアナウンサー)「……長回しのダラダラとした会話の中に、様々な人生のおかしみが含まれていて、セリフなのかアドリブなのかもわからなくなる魅力。ところがこのダラダラとした点描がクライマックスで一気に集約され大変な興奮を生み出すマジック。やっぱり今泉監督はノッている。」
2021年04月11日【おとな向け映画ガイド】女優たちの圧巻の演技、凛とした富司純子『椿の庭』、熱情を秘めたケイト・ウィンスレット『アンモナイトの目覚め』、今週はこの2本をおすすめ。ぴあ編集部 坂口英明21/4/4(日)植草信和さん(編集者・元キネマ旬報編集長)「……3世代の女性のそれぞれの屈託が、家と庭の映像を通してほのかに浮きあがってくる。……」首都圏は、4/9(金)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、4/17(土)から名演小劇場で公開。関西は、4/23(金)からテアトル梅田他で公開。不遇な女性古生物学者の秘めた恋『アンモナイトの目覚め』1840年代、女性の社会進出がまだ認められていなかったビクトリア朝のイギリス。独学で古生物を研究し、大英博物館に残るほどの化石を発見したものの、不遇な生活を送る古生物学者メアリーに訪れた転機、それはある女性との出会いでした…。メアリーは実在した人物です。死後に認められ、王立協会が「科学の歴史に最も影響を与えた英国女性10人」に選んだのは2010年。同時代の人が彼女について書いた書物はほとんどないそうです。そんなメアリーを主人公にして描くのにあたり、同性と関係を持っていたかもしれない、と想像をめぐらせたのは『ゴッズ・オウン・カントリー』のフランシス・リー。21世紀ゲイ映画の旗手、とよばれる監督です。監督が主演に起用したのはイギリスの名女優ケイト・ウィンスレット。ウディ・アレンの前作『女と男の観覧車』とはだいぶイメージが異なりますが、最初はうつうつとし、やがて内に秘めた熱情を爆発させる女性像を見事に演じています。彼女の心を開かせるシャーロット役には、今年で27歳、すでにアカデミー賞4度のノミネート、1度の受賞という演技派、シアーシャ・ローナン。超豪華な組み合わせです。【ぴあ水先案内から】春日太一さん(映画史・時代劇研究家)「……二人の女性が徐々に距離を縮めていく様が、壊れそうなまでに繊細なタッチで綴られる。……」波多野健さん(プロデューサー)「……この映画で一番感銘を受けたのは“音”だった。……ものすごく迫ってきて、ストーリーを一層奥深いものに見せてくれた。こんな経験は初めてだった。」植草信和さん(編集者・元キネマ旬報編集長)「……地の果てを彷徨するふたりの女性の魂と肉体が結ばれて昇華する描写が、素晴らしい。性愛描写の極致。……」
2021年04月04日【おとな向け映画ガイド】『天国と地獄』に似てる!? 連続殺人鬼が女子高生に『ザ・スイッチ』と、幸せの国『ブータン 山の教室』。今週はこの2本をオススメ。ぴあ編集部 坂口英明21/3/28(日)野村正昭さん(映画評論家)「……クリストファー・ランドン監督が手がけただけあって、さすがの出来栄え!……」世界で一番幸せな国で…『ブータン 山の教室』ブータン王国は10年ほど前、若き国王夫妻が来日し、ちょっとしたブームになったことがありました。GDPよりGNH(Gross National Happiness/国民総幸福量)の方が重要だという国です。そのブータンで作られた、まさに心洗われる映画です。首都のティンプーに暮らす、ipodを手放さない音楽好きな若い教師ウゲンが、上司の命令で僻地の学校に赴任します。学校は春から秋までの季節開校。冬までの約束です。ティンプーは標高2300メートル前後、赴任地のルナナ村は4800メートル。途中のガサまではバス、そこからはトレッキング、つまり山登りしか手段がなく、しかも8日もかかるのです。村に到着するやいなや「僕にはできません」と弱音をはいたウゲンですが、純朴そのものの生徒たちとの暮らしのなかで、何かが変わっていきます……。プロの俳優はウゲン役の新人シェラップ・ドルジと若い数人のみ。村人や生徒たちは実際にルナナに暮らす人々が自身を演じています。特に、クラス委員役を演じるペム・ザムは奇跡ともいえるかわいさ。観ているだけでなごみます。監督はパオ・チョニン・ドルジ。この作品が長篇デビュー作です。写真家でもある監督、ブータンの大自然をとらえた映像美は、やはり映画館のスクリーンで観てこそ、と思います。【ぴあ水先案内から】立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター)「……ブータンから“幸せとは何なのだろうか”と考えさせてくれる映画が登場した。……」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……ゆっくりと心が広がる感覚を映画で味わい、主人公の青年に自分をシンクロさせながら気づくもっとも大切なこと。」紀平重成さん(コラムニスト)「……最初は村の暮らしや人々の語らいがあまりにも純朴過ぎて少々居心地は悪かったのですが、突然理由もなく涙がこぼれ出し慌てました。」夏目深雪さん(著述、編集業)「……田舎の学校で子供たちを教えるという物語には想像以上のものはない気がするが、これが筆舌に尽くしがたい素晴らしさ。……」首都圏は、4/3(土)から神保町・岩波ホールで公開。中部は、4/24(土)から名演小劇場で公開。関西は、4/30(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。
2021年03月28日【おとな向け映画ガイド】米アカデミー賞主要6部門ノミネート!『ノマドランド』など、ぴあ水先案内人がすすめる4本をご紹介ぴあ編集部 坂口英明21/3/21(日)笠井信輔さん(フリーアナウンサー)「……様々な人間模様が美しい大自然の中で描かれる本作。劇場の大画面で見てこそ、その良さがわかる作品だ。……」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……老いた彼らの表情には人間関係からの苦しみだとか家族への愛よりも、もっと深い人類愛のようなシワが刻まれている。」佐々木俊尚さん(フリージャーナリスト)「……リアルにアメリカ人の苦境とそこで培われてるたくましさを描き出している。……」佐藤久理子さん(文化ジャーナリスト、パリ在住)「……主人公の旅路に瞠目するうちに、自分も彼女とともに新しい世界を発見していることに気付かされる傑作。」相馬学さん(フリーライター)「……混迷の2021年を生きる現代人にとって、ひとつの指針になるだろう。……」高松啓二さん(イラストレーター)「……圧倒されるのは、ノマドキャンプや国立公園のアメリカの大自然描写……」堀晃和さん(ライター、編集者)「……アメリカの新たな一面を見せられた気分になった。」渡辺祥子さん(映画評論家)「……雄大な景色の中で生きている孤独な自分。でも行きたい道を自分で選べる人生だ。……」大泉洋に「あてがき」したベストセラー小説を映画化『騙し絵の牙』大手老舗出版社を舞台にした業界内幕ドラマも、大泉洋主演だとこんなに軽快でスリリングなエンタテインメントになるのですね。『罪の声』の著者・塩田武士が大泉洋主演を想定し「あてがき」した評判の小説を映画化。一族経営の出版社にありがちな跡目争いに端を発した派閥抗争まっただなかに、外部から招かれた大泉扮する新編集長の活躍を描きます。現社長の息子・中村倫也の後見人である常務に佐野史郎。彼は会社の看板を背負う小説誌を配下に持ちます。一方、次期社長と目される専務の佐藤浩市は“スキャンダラスな話題だろうと売れれば正義”のカルチャーマガジン担当、この2誌の社内ヘゲモニー争い。そこへ社長が逝去。がたつく社内の混乱に油をそそいだのは大泉編集長がうちだした新手です。炎上覚悟のその秘策とは……。個性派の俳優たちが豪華に並びます。編集者役で松岡茉優、木村佳乃、小説家に國村隼、宮沢氷魚、文芸評論家に小林聡美、謎の男のリリー・フランキー、人気モデルの池田エライザなど。監督は『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八です。【ぴあ水先案内から】笠井信輔さん(フリーアナウンサー)「大満足! ほんと痛快。……ほんとに『出版業界の半沢直樹』だった。……」相田冬二さん(ライター、ノベライザー)「……大泉洋のダンディズムを、意外なかたちで炙り出した……」中川右介さん(作家、編集者)「……陰謀と裏切りの二転三転は、小説以上。……」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……登場人物全員がしっかりと個性を輝かす場を与えられ、皆がワクワクしながら演じているのが伝わってくるから楽しいのなんの。」堀晃和さん(ライター、編集者)「……ぜひ『牙』に込められた意味も見逃さないでほしい。」“水の精・ウンディーネ”の神話が現代に『水を抱く女』「愛する男に裏切られたとき、その男を殺して、水に還らなければならない」という、水の精(ウンディーネ/オンディーヌ)の神話を現代によみがえらせた幻想的なラブストーリーです。ミステリアスでしかも妖艶なヒロイン、ウンディーネを演じているのはパウラ・ベーア。本作品で、ヨーロッパ映画賞女優賞やベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞しています。ウンディーネは歴史研究者。ベルリンにある都市開発模型を展示する博物館でガイドをしています。展示物や彼女が語るベルリンの歴史も興味をそそります。繰り返し使われる音楽はバッハの協奏曲ニ短調。細部にこだわりが感じられる、ヨーロッパ映画です。監督は名匠クリスティアン・ペッツォルト。【ぴあ水先案内から】佐藤久理子さん(文化ジャーナリスト、パリ在住)「……情熱的なラブストーリーとヒッチコック風のサスペンスが融合し、先の読めない面白さに引きずられる。」伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)「……驚きの連続が待ち受ける究極の愛情表現……」野村正昭さん(映画評論家)「……博物館にあるベルリン全体の模型や、大きな水槽などがミステリアスに絡みあい、やがて現実とも幻想ともつかない結末になだれ込む……」首都圏は、3/26(金)から新宿武蔵野館他で公開。中部は、4/16(金)から伏見ミリオン座で公開。関西は、4/16(金)からテアトル梅田他で公開。親子の逃避行、そして父の決意『旅立つ息子へ』自閉症スペクトラムを抱える息子と田舎町で暮らす父親。このまま自分が面倒をみられればよいのですが、定収入もなく、裁判所からは養育不適合と判断されてしまいます。このままだと全寮制の特別支援施設に預けることになります。入所の当日、いやがる息子をみて父は決意します。この場から逃げ、ふたりで旅に出ようと…。東京国際映画祭で『ブロークン・ウィング』『僕の心の奥の文法』と2度グランプリを受賞したイスラエルのニル・ベルグマン監督作品。実話を基にした映画です。息子がとても個性的。例えば、チャップリンの『キッド』が好きという設定なんて、とても好感が持てます。【ぴあ水先案内から】佐々木俊尚さん(フリージャーナリスト)「……単純な美しい物語にしておらず、地に足ついた現実を見据えながらつくられている……」渡辺祥子さん(映画評論家)「……いつの間にか愛する息子の世話をすることが生きる目的になっている父親の姿を描くドラマだ。しかし、そんな日々に新たな扉が開く時がくる。……」野村正昭さん(映画評論家)「……イスラエル出身のニル・ベルグマン監督は、文化や言葉の壁を越えて我々に率直に心情を伝えてくる……」
2021年03月21日【おとな向け映画ガイド】米アカデミー賞有力候補『ミナリ』など、ぴあ水先案内人おすすめの4本をご紹介ぴあ編集部 坂口英明21/3/14(日)佐々木俊尚さん(フリージャーナリスト)「……おばあちゃん役の人の演技が絶品。ちょっと毒舌で過激で、でも憎めなくて、好人物っていうキャラクターって昔の日本映画にはよく登場してた。そういう懐かしさも含めて、日本人的な情緒でも共感できる物語。……」渡辺祥子さん(映画評論家)「……最悪の事態になってもきっと乗り越えられる、と思える温かみがあって胸をなでおろす。」紀平重成さん(コラムニスト/元毎日新聞記者)「……複数のルーツを持つカマラ・ハリスさんがアメリカ副大統領になったことも、語られるべき移民の歴史が無視できないほどに大きな潮流となっている」植草信和さん(編集者/元キネマ旬報編集長)「……主題歌が我が国のテレビドラマの名作『北の国から』に類似していることもあって、親子の情愛に感動させられる。」会話のテンポが抜群に楽しい!『まともじゃないのは君も一緒』数学一筋の予備校教師(成田凌)に、恋愛経験ゼロの教え子(清原果耶)が、いかにして女の子と付き合うか、をコーチする、そんなラブコメですが、傑作です。ちょっと小生意気な女子高生、とんちんかんでどこかまともじゃない独身男、ふたりの会話のやりとりは、おしゃれなハリウッド・スクリューボール・コメディのようです。いや、おおげさじゃなく。【水先案内人のコメントから】笠井信輔さん(フリーアナウンサー)「……またも清原果耶にやられてしまった。この人はどうしてこうも芝居がうまいのだろう。……」ダメサッカーチームを救ったのは?『クイーンズ・オブ・フィールド』フランスで90年の歴史を誇るサッカーのクラブチーム。試合中にまさかの大乱闘騒ぎを起こし、メンバー全員が出場停止になってしまいます。控えはなし。このまま行くとチーム存続の危機です。そこでたちあがったのは、選手の妻たち。ある奇策を思いつきますが……。肩のこらない、遊び心満載のコメディ作品です。【水先案内人のコメントから】夏目深雪さん(著述・編集業)「……女たちの疾走と反撃が加速しこのうえない爽快感を生む。……笑って感動できる大人のための作品。」ライブビューイング『メリー・ウィドウ』NYメトロポリタン・オペラの舞台を収録し、映画館で上映するMETライブビューイング。コロナ禍で公演がなく、新作はありませんが、過去の名作を集めた「プレミアム・コレクション2021」の連続上映が始まっています。2月の『椿姫』に続いて、19日からはレハールの『メリー・ウィドウ』を公開。古き良きパリを舞台にリッチで陽気な未亡人をめぐるロマンチック・コメディ。当代随一といわれるソプラノ、ルネ・フレミングが主演の舞台です。【水先案内人のコメントから】朝岡聡さん(コンサートソムリエ/フリーアナウンサー)「……歌も芝居も衣装もセットもMETならではの贅沢さいっぱいで届けられる。これぞ、究極のオペレッタの楽しみ!」
2021年03月14日